JP2004097020A - フェリクリシン合成経路新規遺伝子、およびそれを用いたフェリクリシン非産生麹菌の作出法 - Google Patents

フェリクリシン合成経路新規遺伝子、およびそれを用いたフェリクリシン非産生麹菌の作出法 Download PDF

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Hisanori Watanabe
渡辺 久敬
Toshiji Sato
佐藤 利次
Hitoshi Ei
江井 仁
Osamu Yamada
山田 修
Takeshi Akao
赤尾 健
Osamu Akita
秋田 修
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Abstract

【課題】麹菌アスペルギルス・オリゼー由来のフェリクリシン合成経路の新規遺伝子であるオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子を利用して、麹菌アスペルギルス・オリゼー RIB40に比べて少なくとも1/10倍以下にまでフェリクリシン分泌産生量を低下させた麹菌を提供する。該麹菌を利用して製造されるフェリクリシン含量が低減され、フェリクリシンに由来する着色が低減された食品および酒類もまた提供する。
【解決手段】麹菌よりオルニチン−N−オキシゲナーゼをコードする遺伝子をクローニングし、その塩基配列を決定する。また、該遺伝子の部分断片を含むDNAで麹菌を形質転換し、相同的組換えによる遺伝子破壊を起こした株を選抜し、フェリクリシン産生量が顕著に低下した麹菌を作出する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、麹菌より単離されたオルニチン−N−オキシゲナーゼをコードする遺伝子、当該遺伝子の部分断片またはオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を失わせるように当該遺伝子の塩基配列を置換・改変した遺伝子もしくはその部分断片を用いて形質転換を行うことにより相同的遺伝子組換えによりオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を失った形質転換麹菌、ならびに該形質転換麹菌を用いて製造される食用品、特に清酒に関する。
【0002】
【従来の技術】
麹菌は、子嚢菌類のこうじカビ属に属し、古くから現在に至るまで種々の食品の醸造および醗酵に用いられてきた食品産業上非常に有用な菌である。麹菌を利用して製造される食用品の例としては、清酒、焼酎、味噌、醤油、みりん、甘酒およびかつお節などが挙げられる。食品の製造の他にも、様々な有用酵素(例えば、ペクチナーゼ、セルラーゼ、アミラーゼなど)の工業生産にも麹菌が利用されてきた。また、これらの利用の目的に応じて、麹菌の機能および特性を増強または低減させた菌株を選抜して麹菌の特定の株を育種することにより、麹菌の有用性を向上させてきた。
【0003】
麹菌の育種は主に変異原処理により、対象とする麹菌の機能を増強又は低減させた株を選抜することで行われてきた。変異原処理としては、UVもしくはX線光の照射、またはEMSやNTG等の変異誘発剤での処理がある。
【0004】
変異原処理による麹菌の育種法は、麹菌にランダムに変異が導入されるために、対象とする形質以外の遺伝子にも変異が導入されやすいという性質を持つ。たとえば、変異原処理によって、麹菌が胞子形成能不全や生育不全となる場合が多いことが知られている。醸造や食品製造分野で利用される麹菌には、良好な胞子形成や菌糸成長が求められているため、変異原処理によってこれらの性質が損なわれると利用上で重大な障害となる。
【0005】
また、変異原処理による麹菌の育種方法では、変異原処理後に生育してきた株から対象とする形質が変化した株を選抜することが一般的に行われているが、ほとんどの場合、極めて多数の株から目的の株を選抜する必要があった。しかも、その選抜方法は対象とする形質の変化を指標としなければならないことが多く、スクリーニングに多大な労力がかかるという問題点があった。
【0006】
変異原処理によらない方法として、近年、麹菌由来の遺伝子の相同的組換えを利用して特定の遺伝子のみの機能を損なわせる方法、すなわち遺伝子破壊法あるいはジーンターゲッテイング法と呼ばれる方法による麹菌の育種例が報告されている。しかしながら、この方法には、改変しようとする対象遺伝子の単離が必要であるが、麹菌の遺伝子解析研究は発展途上であり、単離されている遺伝子の数は、食品の製造をはじめとする様々な麹菌の利用目的に応じた形質をもつ麹菌を得るために十分に対応できるほど多くはない。
清酒および焼酎の着色の原因となるフェリクリシンの合成に関する麹菌の遺伝子はこれまで単離されたという報告はない。
【0007】
フェリクリシンとは、側鎖が修飾されたアミノ酸を含む6個のアミノ酸からなる環状のペプチドであり、一般的にはシデロフォアと呼ばれる化合物の一種類である。微生物は一般に、外環境から鉄を効率よく取り込む目的で、このシデロフォアを分泌生産することが知られている。
【0008】
糸状菌由来のシデロフォア合成遺伝子としては、Ustilago maydisから単離されたオルニチン−N−オキシゲナーゼをコードするsid1遺伝子や、ペプチド合成酵素をコードするsid2遺伝子、またはUstilago maydis sid1と類似した配列を有するAureobasidium pullansから単離されたhyl遺伝子が知られている。しかしながら、麹菌を含めて子嚢菌類からシデロフォア合成経路の遺伝子の単離はこれまで報告されていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、麹菌を由来とするシデロフォア合成遺伝子を単離し、該遺伝子を用いて相同的組換えを利用した遺伝子破壊あるいは遺伝子改変により、対応する親株よりもフェリクリシン産生量を低下させた麹菌、およびその作出法を提供し、かかる麹菌を用いて製造されるフェリクリシンに由来する着色が低減された食品ならびに酒類製品、特に清酒および焼酎を提供することを課題とする。
【0010】
特に、清酒および焼酎は、無色透明に近いもの、即ち着色が少ないものが商業的に価値が高いが、フェリクリシンを活性炭などの吸着剤に吸着させて脱色することが困難であり、清酒および焼酎の製造には、フェリクリシンに由来する着色をもたらす鉄が混入しないための十分な設備管理および原材料の品質管理に多大な労力および経費がかかり、また製造工程およびその管理に従事する者の細心の管理および注意が必要とされる。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討した結果、麹菌からフェリクリシン合成経路の第一段階の反応を触媒するオルニチン−N−オキシゲナーゼをコードする遺伝子(dffA遺伝子と命名した)の単離に成功した。この遺伝子の一部からなる断片をベクターに連結させて、それで麹菌を形質転換することにより相同的組換えを利用した遺伝子破壊を行ったところ、フェリクリシンを主とするシデロフォア生産がほぼ完全に抑制された麹菌の作出に成功した。これらの知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の態様;
1. 以下の(a)または(b)の核酸、
(a)  配列番号1に示す塩基配列のうち第2605位から第4179位までの塩基配列を含有し、オルニチン−N−オキシゲナーゼをコードするDNAまたは上記配列に対応する配列を有するRNA、
(b)  配列番号1に示す塩基配列のうち第2605位から第4179位までの塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含有し、かつオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードし得るDNAまたは該DNAの塩基配列に対応する配列を有するRNA、
2. 上記1記載の核酸によりコードされる、オルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質、
3. 上記1記載の核酸を含有するベクター、
4. 上記1記載の核酸を、外来遺伝子として含有している細胞、
5. 上記3記載のベクターを含有する上記4記載の細胞、
6. 麹菌である、上記4または5記載の細胞、
7. 麹菌がアスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・タマリ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチからなる群より選択される、上記6記載の細胞、
8. 配列番号1に示す配列の一部である連続した19塩基以上からなる塩基配列、または該塩基配列内の1もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含有する核酸(DNAまたはRNA)またはその誘導体であって、該核酸またはその誘導体を核酸構造物に連結させて、該核酸またはその誘導体が連結した核酸構造物からなるベクターを宿主細胞に導入すると、相同組換えにより該宿主細胞の染色体上のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の発現機能または該遺伝子産物の活性が低下もしくは消失され得、該宿主細胞のオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を対応する親株細胞中の該活性に比べて低減させ得ることを特徴とする、上記核酸またはその誘導体、
9. 上記8記載のDNAまたはその誘導体を含有する、オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター、
10. 形質転換マーカー遺伝子をさらに含有する、上記9記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター、
11. 形質転換マーカー遺伝子が栄養要求性マーカーまたは薬剤耐性マーカーである、上記10記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター、
12. 形質転換マーカー遺伝子がamdS、niaD、oliC31、pyrG、sC、argB、ptrA遺伝子からなる群から選択される、上記11記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター、
13. 配列番号1に示す配列の一部である塩基配列が、配列番号1の第2775位〜第3774位の塩基配列であり、形質転換マーカー遺伝子がピリチアミン耐性遺伝子ptrAである、上記12記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター、
14. 遺伝子破壊法、アンチセンス法、共抑制法、およびRNA干渉法のいずれか1つの手法により細胞中のオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性が対応する親株細胞中の該活性に比べて低減されている麹菌、
15. 該細胞のフェリクリシン産生量が、対応する親株細胞の該産生量に比べて低減している、上記14記載の麹菌、
16. 該細胞のフェリクリシン産生量が、対応する親株の細胞の該産生量に比べて少なくとも1/10以下にまで低減している、上記15記載の麹菌、
17. 上記8記載のDNAもしくはその誘導体または上記9〜13のいずれかに記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクターで形質転換された遺伝子破壊形質転換麹菌である、上記14〜16のいずれかに記載の麹菌、
18. 対応する親株がアスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・タマリ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチからなる群より選択される種に属する菌株である、上記14〜17のいずれかに記載の麹菌、
19. アスペルギルス・オリゼーを上記13記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクターで形質転換して得られる、上記17記載の麹菌、
20. ΔdffA TF#2株である、上記19記載の麹菌、
21. 遺伝子破壊法、アンチセンス法、共抑制法およびRNA干渉法のいずれか1つの方法を用いる、対応する親株の麹菌に比べてフェリクリシン産生量が低減されている麹菌の作出方法、
22. 麹菌を上記8記載のDNAもしくはその誘導体または上記9〜13のいずれかに記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクターを用いて形質転換し、フェリクリシン産生量が低減している形質転換麹菌を選択することを含む、上記21記載の方法、
23. 上記14〜20のいずれかに記載の麹菌を用いて製造される、フェリクリシン含量が低減された食品または酒類製品、
24. 上記14〜20のいずれか1項記載の麹菌を用いて製造される、フェリクリシン含量が低減された清酒または焼酎、
25. フェリクリシンに由来する着色が、対応する親株である麹菌株を用いて製造された清酒または焼酎に比べて低減されていることを特徴とする、上記24記載の清酒または焼酎、
26. 上記19または20に記載の麹菌を用いて製造される清酒、
27. フェリクリシン含量が、対応する親株であるアスペルギルス・オリゼー株を用いて製造された清酒に比べて低減されていることを特徴とする、上記25記載の清酒、
28. フェリクリシンに由来する着色が、対応する親株であるアスペルギルス・オリゼー株を用いて製造された清酒に比べて低減されていることを特徴とする、上記24または25に記載の清酒、ならびに、
29. 上記14〜20のいずれかに記載の形質転換麹菌を使用することを含む、上記23記載の食品または酒類製品を製造する方法、
に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本明細書中で用いる「麹菌」とは、分類上、こうじカビ属に属していればいかなる菌株であってもよく、例えば、食品醸造に使用される菌株として具体的にはアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・タマリ(Aspergillus tamarii)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)等が挙げられるが、これらに限定はされない。さらに、上記麹菌株を親株として人為的に改変された株もしくは天然に存在する変異株なども包含する。
【0014】
本明細書中で用いる「オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子」とは、麹菌のオルニチン−N−オキシゲナーゼタンパク質をコードする遺伝子である。アスペルギルス・オリゼーから単離した該遺伝子の塩基配列を配列番号1に示している。本明細書中では、配列番号1の配列を含む核酸に相補的な配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードする核酸も本発明のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子に含まれる。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が10mM〜300mMであり、好ましくは37〜55℃、より好ましくは42℃である条件をいう。あるいは、このような条件は、ECLTM direct nucleic acid labeling and detection system (Amersham Pharmacia製)を用いて、添付されている説明書の記載に従うことにより達成することができる。さらに、配列番号1の塩基配列を含む核酸において1もしくは複数の塩基が欠失、置換もしくは付加された塩基配列を含み、かつオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードするものも含む。ここで、欠失、置換もしくは付加を受ける塩基の数は特に制限されないが、好ましくは1〜300個、より好ましくは1〜100個、さらに好ましくは1〜50個、最も好ましくは1〜10個である。このような核酸の塩基配列としては、配列番号1に表される塩基配列との相同性が、BLAST等を用いて計算したときに(例えば、BLASTのデフォルトすなわち初期条件のパラメーターを用いた場合)、70%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上である。
【0015】
さらに、これらのオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子のDNA配列に対応するRNA配列もまた、本発明の「オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子」という用語に包含される。
このような核酸は、配列番号1に示す塩基配列を有する核酸と実質的に同一である。
【0016】
これらの核酸を含むベクターおよび、これらの核酸を外来遺伝子として含有する細胞も本発明に包含される。ここで、「外来遺伝子」とは、内因性(endogenous)ではない遺伝子を意味し、細胞内または細胞の染色体上に遺伝子工学的手法により人為的に導入された遺伝子を指す。
【0017】
ジデロフォアには抗菌活性を示すものがあり、フェリクリシンも抗菌活性を有していることが考えられる。麹菌内でのオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性は、その活性の上昇がシデロフォアであるフェリクリシン産生量の増大につながるため、オルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質は有用であり得る。
【0018】
当業者には容易に実施可能な手法により、上記の核酸、ベクターまたは細胞を用いてオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質を生産することができる。このようにして生産されるオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質もまた本発明に包含される。
【0019】
本明細書中で用いる「オルニチン−N−オキシゲナーゼ活性」とは、オルニチンの5位のNを酸化する反応を触媒する活性を指すが、該反応がフェリクリシン合成経路の第一段階の反応であることから、麹菌のフェリクリシン産生量を指標に麹菌内の「オルニチン−N−オキシゲナーゼ活性」を推定することができる。フェリクリシン産生量の測定については後述する。
【0020】
オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の少なくとも一部、好ましくは連続した200塩基、より好ましくは連続した500塩基、さらに好ましくは連続した1000塩基以上からなる配列の一部を含有するDNAを、場合によっては核酸構築物に連結したベクターとして、細胞内に導入すると、相同的組換えにより内因性オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の相同的組換えが起こる。この際、導入する遺伝子断片として重大な変異、欠失あるいは挿入を加えたものを用いることで、麹菌の内在の該酵素の遺伝子の機能を破壊してその活性を低下させることができる。このようなDNAおよび該DNAが連結した核酸構築物の形状は限定されない。即ち、環状であっても線状であってもよい。このような相同的組換えを利用して麹菌の該酵素の遺伝子を破壊できる核酸としては、例えば、該オルニチン−N−オキシゲナーゼの構造遺伝子の部分断片をベクターに連結し、該オルニチン−N−オキシゲナーゼの構造遺伝子の部分断片内で切断し線状化したもの、あるいは配列番号1のDNAの全てあるいは2000塩基程度の一部分を含む断片内に適当なマーカー遺伝子を挿入したものが利用できる。さらに、該酵素自身の活性が低下するような変異を該構造遺伝子中に導入した変異型遺伝子、構造遺伝子の発現調節部位(プロモータ、ターミネーター、エンハンサー等)、該発現調節部位の変異体、異なる遺伝子の発現調節部位またはその変異体、あるいはこれらを複数個連結させた核酸も相同的組換えにより麹菌内に導入されることでオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を低下させ得る。また、核酸は天然由来のものでも合成物であってもよく、ゲノムDNA、cDNA、PCR法を用いて得られるPCR断片、化学合成・半合成DNA等が使用できる。さらに、これらの核酸は、その相同組換え効率を向上させる目的で、安定性を付与するためのさまざまな化学修飾を施した該核酸の誘導体であってもよい。
【0021】
さらに、当技術分野で公知のアンチセンス法、共抑制法、またはRNA干渉法によってもまた、細胞内のオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を低減させることができる。
【0022】
アンチセンス法は、内因性オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子(配列番号1)から転写されるmRNAのうち連続する300残基以上に対して相補的な配列を有する核酸(DNAまたはRNA)またはその修飾物(安定性等を向上させるために種々の修飾を施す方法が公知である)を合成等により得、これを麹菌内で機能する発現ベクター(麹菌で機能し得る発現ベクターは多種類が公知である)に発現しうる形態で連結し、そのベクターを細胞内に導入することにより達成できる。
【0023】
共抑制法は、内因性オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子(配列番号1)から転写されるmRNAのうち連続する300残基以上の配列を有する核酸(DNAまたはRNA)またはその修飾物を合成等により得、これを麹菌内で機能する発現ベクター(麹菌で機能し得る発現ベクターは多種類が公知である)に発現しうる形態で連結し、そのベクターを細胞内に導入することにより達成できる。
【0024】
さらに、RNA干渉法は、内因性オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子(配列番号1)から転写されるmRNAのうち連続する19残基以上の配列を有する核酸とその配列に相補的な配列を有する核酸のそれぞれを麹菌内で機能し得るプロモータ(麹菌で機能し得るプロモータは多種類のものが公知である)の下流に連結したベクターを構築し、このベクターを細胞内に導入することにより達成できる。RNA干渉法に用いるベクターの構造としては、上記二種類の核酸のそれぞれを発現させる発現カセットを一つのベクター上にタンデム型に連結したものでも、上記二種類の核酸のそれぞれを発現させる発現カセットを別々のベクター上に構築したものでもよい。後者の場合、これら二種類のベクターを同時に細胞内に導入することによりオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の発現抑制が達成できる。
【0025】
遺伝子破壊のために導入されるオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の種類・形状等については、相同的組換えにより導入された場合に、該遺伝子産物の機能が低下もしくは失活、あるいは該遺伝子発現が低下するものであればよい。
【0026】
オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子構造遺伝子としては、該遺伝子部位で相同的組換えを起こすものであれば、その由来等は特に限定されず、麹菌以外の生物種を由来とするものであってもよい。
【0027】
さらに、このような核酸を任意の塩基配列を有する核酸構造物に連結させた連結核酸構造物からなるベクターも、相同的組換えにより該オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の置換または該遺伝子への挿入により、麹菌の該酵素の活性を低下させることができる。本明細書中に用いる「核酸構造物」という用語は、任意の塩基配列を有する核酸を含有するものを指し、様々な化学的修飾を受けた核酸および核酸の誘導体を含む。上記の核酸を連結する核酸構造物としては、市販のプラスミド等のベクターを用いることもできる。上記核酸と該核酸構造物との連結は、酵素(制限エンドヌクレアーゼおよびDNAリガーゼなど)を用いて行うことができ、PCRまたは化学合成により連結に好ましい核酸断片を作製して用いることもできる。またさらに、上記ベクターには、形質転換マーカー遺伝子、即ち形質転換された麹菌においてのみ特定の検出可能な表現型を付与する遺伝子が含まれることが好ましい。このような形質転換マーカー遺伝子は、特に選択培地上で培養することにより選択可能なマーカー遺伝子が好ましい。例えば、抗生物質などの薬剤に対する耐性を付与し得るタンパク質をコードする遺伝子(薬剤耐性マーカー)または特定の栄養要求性を補完し得るタンパク質をコードする遺伝子(栄養要求性マーカー)が好ましい。このようなマーカー遺伝子は多数のものが公知であるが、数例挙げるならば、アセトアミダーゼをコードする遺伝子amdS、硝酸レダクターゼをコードするniaD、オリゴマイシン耐性遺伝子を付与するoliC31、ウリジン要求性を相補するpyrG、ATPスルフリラーゼをコードする遺伝子sC、アルギニン要求性を相補するargB、ピリチアミン耐性を付与するptrA遺伝子等が使用可能である。このようなマーカー遺伝子は、相同組換えの際にゲノム中に組込まれるような配置でベクター中に組込むこととする。
【0028】
したがって、該マーカーを含むベクターで形質転換された細胞は、各マーカーに対応する薬剤を含有する培地または栄養選択用培地上でも増殖し得るため、かかる培地で培養することにより形質転換された細胞のみを選択的に増殖させることができる。このような選択方法は当業者には公知である。
【0029】
本明細書中で用いる「親株」という用語は、形質転換した細胞に対して、該形質転換に用いた細胞株を指す。
親株として利用可能な麹菌の株種は限定されない。また、目的の形質転換体を選択するため、本発明の作出方法では、適当な形質転換マーカー遺伝子を使用することが好ましい。
【0030】
親株として用いる麹菌を実際に宿主株として用いるためには、使用する形質転換マーカー遺伝子の種類により、必要に応じて常法(例えばE.Shielaら、Molecular and general genetics、218、99−104(1989))を用いて該マーカーを使用するための変異を導入するか、あるいは薬剤耐性マーカーを利用する。使用する形質転換マーカー遺伝子は、親株やプラスミドの種類、培養条件等に応じて適宜選択すればよい。
【0031】
形質転換に用いる場合、適当な形質転換マーカー遺伝子を用いることが好ましい。またオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子、必要によりマーカー遺伝子は、それぞれの別の分子上に位置していてもよく、その場合は共形質転換法が採用できる。
なお、該遺伝子は直線状、環状のいずれの形態で用いてもかまわない。
【0032】
麹菌を形質転換する方法は特に限定されないが、例えば、E.Shielaら、Molecular and general genetics、218、99−104(1989)の方法が挙げられる。この方法は液体培養した麹菌を細胞壁溶解酵素で処理することにより細胞壁を除去したプロトプラストを調製し、塩化カルシウム、ポリエチレングリコール4000存在下でプロトプラストをDNAと共にインキュベートした後、使用したマーカー遺伝子に適した選択培地でプロトプラストを再生させるものである。
【0033】
得られた形質転換体はそれぞれのマーカー遺伝子に応じた選択培地上で生育させ、続いて、フェリクリシン産生量に基づいた選択を行う。
選抜された形質転換体は、多核体である麹菌の全ての核を遺伝子破壊が行われた状態である核で占められるようにするために、マーカー遺伝子に応じた選択培地上で単胞子分離操作を数回繰り返しおこない、変換された形質の固定を行う。上記のようにして得られた形質転換体が目的とする株であることは、遺伝子解析およびフェリクリシン産生量試験により確認できる。
【0034】
相同的遺伝子組換えにより該遺伝子が改変されたことを確認するための遺伝子解析方法としては、ゲノミックサザン解析法あるいはPCR法が挙げられる。また、相同的遺伝子組換えにより導入された遺伝子が1塩基置換等の点変異が加えられた遺伝子断片である場合には、形質転換体の相同的遺伝子組換えが行なわれた領域の塩基配列を解析することにより、遺伝子の改変を確認できる。
上述のようにして得られた形質転換体のフェリクリシン産生量が親株に比べて低下していることは、比色法、マイクロバイオアッセイ、あるいはクロマトグラフィーによる成分分析法により確認できる。いずれの方法でも、麹菌をフェリクリシン産生条件、すなわち鉄欠乏条件で培養し、その培養液の上清画分中のフェリクリシン量を測定するものである。比色法としては、佐藤らの方法(醸造協会雑誌 第62巻第8号pp.875−880)、過塩素酸条件下での鉄添加によるフェリクリシンの着色を利用した方法(ペイネMethods in enzymology vol.235 pp331)等がある。クロマトグラフィーによる成分分析法としては、コネツキーラップらの方法(Biol.Met.vol.1 pp.9−17)がある。
【0035】
また、マイクロバイオアッセイの方法としては、ペイネの報告する(Methods in enzymology vol.235 pp.335−336)、シデロフォア要求性変異株であるMicrobacterium flavescens ATCC25091株をインジケーターとして利用する方法等が挙げられる。マイクロバイオアッセイ法は、比色法に比べて検出感度が高く、しかも一度に多検体を処理できる点で、多数の形質転換体からフェリクリシン産生量の低い株を選択する方法として有効である。
【0036】
上記方法により、フェリクリシン産生量が対応する親株の細胞の該産生量に比べて低減している形質転換麹菌が得られる。得られた形質転換麹菌株を利用して様々な食品または酒類を製造することができる。ここで用いる形質転換麹菌株は、フェリクリシン産生量が対応する親株の細胞の該産生量に比べて少なくとも1/10以下に低減している形質転換麹菌が好ましい。さらに、フェリクリシン産生量が上記の検出方法での検出限界未満にまで低減されているか、または形質転換麹菌のフェリクリシン産生が全く認められない、形質転換麹菌がより好ましい。本発明において得られた、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に2002年9月3日に受託番号FERM P−18993として寄託されているアスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)ΔdffA TF#2株はフェリクリシン産生量が上記の検出方法での検出限界未満であることが、実施例において実証されており、該株は特に好ましい形質転換麹菌である。このような形質転換麹菌株を用いて製造された食品または酒類は、原材料中または製造工程において鉄が存在または混入していても、使用する麹菌のオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性が低減または消失されているために、フェリクリシンの産生が抑制され、フェリクリシンに由来する褐色の着色が抑制される。本明細書中で用いる「食品または酒類製品」という語は、動物(家畜、愛玩用または商業用のものを含む)およびヒトが経口的に摂取するあらゆる食品またはアルコール分を含有する飲料であって、その製造工程において麹菌を用いるものを指す。即ち、味噌、醤油、みりん、焼酎、清酒および甘酒などが含まれる。特に、清酒および焼酎の製造に、上記形質転換麹菌株を用いることが望ましい。上記形質転換麹菌株を用いると、フェリクリシンの産生が抑制されているため、鉄が混入していても着色が抑制される。この場合の着色の程度は、目視または比色法により確認できる。
したがって、鉄の混入を避けるための労力およびコストを省くことができる。
【0037】
【実施例】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
[実施例1] 麹菌を由来とする新規遺伝子の取得
本発明のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子は、麹菌に由来する新規遺伝子として取得した。
遺伝子資源としては、アスペルギルス・オリゼー(RIB40)株を用い、これから得た麹菌の菌糸を回収し、回収した菌糸からCathala法によって全RNAを抽出した。抽出された全RNAからoligotex法によりmRNAを精製した。このmRNAをもとにして、superscript cDNA plasmid system(Invitrogen社製)を用いて合成したcDNAを、同キットに付属のベクターpSPORT1のSalI−NotIサイトに5’→3’の向きに挿入し、cDNAライブラリーを構築した。
【0038】
上記のように構築したcDNAライブラリーからランダムにクローンをピックアップし、挿入された遺伝子の5’末端側方向から、Genetic analyzer model 310 (Applied biosystems社製)を用いて塩基配列を解析した。解析したクローンの総数は3484個であった。
【0039】
解析した塩基配列をもとにしてデータベース上を検索することで、Ustilago maydis sid1遺伝子と比較的高い相同性を有する1クローン(JK3874)を選抜した。このクローンのcDNA領域の塩基配列を解析したところ、502アミノ酸をコードすると推定される1575塩基からなる1つのオープンリーディングフレーム(配列番号1に示す配列中の、第2605位〜第4179位)が見出された。配列1の遺伝子産物と、既知のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子である、Ustilago maydisのsid1遺伝子およびPsudomonas aeruginosaのpvdA遺伝子の遺伝子産物のアミノ酸配列を比較したところ、保存的領域に特に高い類似性を示したことから、配列1はオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子であると判断した。
【0040】
オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子のプロモータおよびターミネーター領域を含む遺伝子断片は以下のようにして単離した。上述のようにして単離したオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子cDNA配列を元にして、それぞれ二種類のセンスプライマーとアンチセンスプライマーを作成した。これらのプライマー、麹菌から抽出したゲノムDNA、およびGenomeWalker(Clontech社製)を用いてPCRによりプロモータを含む5’側領域とターミネーターを含む3’側領域を単離し、塩基配列を決定した。
以上により、配列番号1に示す配列を有する麹菌由来のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子が単離された。
【0041】
[実施例2] オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊麹菌株の作出
本実施例では、実施例1で単離されたオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の部分断片を含むベクターを、相同組換えにより麹菌の該遺伝子に導入し、親株よりも顕著にフェリクリシン産生量が低下した株を作出した。
【0042】
親株としては麹菌Aspergillus oryzae RIB40株を用いた。また、遺伝子破壊用ベクターは以下のようにして構築した。配列1に示した遺伝子の部分断片(配列番号1に示す配列中第2775位〜第3774位)をプライマーsidA−1U(5’ TGCTCTTCACGATGCCTTGG 3’:配列番号2)およびsidA−1L(5’ GTAATGCTCAACTCGGGTAA 3’:配列番号3)を用いてPCRで増幅し、平滑末端処理、5’末端のリン酸化を行い、麹菌で薬剤耐性遺伝子として機能するマーカー遺伝子であるptrA遺伝子を含むベクターpPTRI(TAKARA社製)のSmaIサイトに挿入し、形質転換用ベクターpΔdff1を構築した(図1)。
【0043】
この形質転換用ベクターpΔdff1を、挿入したdffA部分断片内にあるStuIサイトで線状化したあと、プロトプラスト−PEG法により麹菌に導入した。
形質転換後、ピリチアミン0.1μg/mLおよび0.85M NaClを含むCzapek−Dox培地に重層することにより形質転換体を選択した。
【0044】
得られた形質転換体は80株であった。これらの形質転換体には、相同的遺伝子組換えによって遺伝子破壊が行われた株以外に、非相同的にランダムに遺伝子が導入された株も含んでいる。そこで、平板培地を用いたバイオアッセイ法により、これら80株の形質転換体から親株よりもフェリクリシン産生量が顕著に低下した株を選抜した。具体的には、インジケーターバクテリアであるMicrobacteriumflavescens ATCC 25091株を包埋した寒天平板培地(KHPO 0.2%、(NHHPO 0.05%、MgSO 0.01%、酵母エキス0.1%、vitamin−freeカザミノ酸0.1%、ショ糖0.1%、アガロース1%)上に、麹菌をフェリクリシン産生条件下、すなわち、鉄を含まないCzapek−Dox液体培地で液体培養を行った培養液の上清画分の少量(1〜10μl)をスポット接種し、30℃で数日培養した後、接種したスポットの周辺に出現するバクテリアコロニーの大きさを測定した。インジケータバクテリアのコロニーの大きさはスポット接種した麹菌培養液上清中に含まれるフェリクリシン量に依存するので、親株の培養液上清を接種した場合よりも顕著に小さいバクテリアコロニーしか形成させないものを選抜することで、目的とする該遺伝子破壊株を選抜した。このようにして、フェリクリシン産生量が低下した10株を選択し、さらに単胞子分離を行った。
【0045】
上述のようにして選抜された10株からゲノムDNAを抽出し、PCR法により麹菌の該遺伝子部分に、相同的組換えによりベクターが導入されている株を1株選抜した。さらに、この1株については、ゲノミックサザン解析によっても遺伝子破壊が起こったことを確認した(図2)。
【0046】
上述のようにして遺伝子破壊が確認された1株(ΔdffA TF#2株)と親株のフェリクリシン産生量を、再度マイクロバイオアッセイにより測定したところ、ΔdffA TF#2株では全くフェリクリシン産生は認められなかった(図3)。
以上により、フェリクリシン産生量が顕著に低下した株が作出できた。
【0047】
[実施例3] 麹菌におけるdffA遺伝子の高発現株の作出
本実施例では、実施例1で単離されたオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子のオープンリーディングフレームをα−アミラーゼ遺伝子プロモータ下で過剰発現させる発現ベクターpSA−dffA を構築し、麹菌 NS4株を形質転換した。発現ベクターpSA−dffAは以下のようにして構築した。dffAのオープンリーディングフレーを、Estクローンをテンプレートとして、また、プライマーとしてANOXY5(5’ GGAATTCATGGAGCCGGTGGAAAGGAA 3’:配列番号4)およびANOXY3(5’ GCTCAGATTAGAGCATAGCGCGGATGTG 3’:配列番号5)を用いてPCR法で増幅し、プラスミド pUSAのSmaI サイトに導入しpSA−dffAを構築した。得られたpSA−dffA形質転換体および非形質転換株RIB40株を、炭素源をマルトースおよびグルコースとするYPD培地で24時間、30 ℃で振とう培養し、培養菌体から可溶性タンパク質を抽出した。麹菌の可溶性タンパク質は、麹菌の培養菌糸を液体窒素で凍結しながら乳鉢で磨砕した後、0.1% protease inhibitor mixture for fungal and yeast extract(和光純薬社製)を含む10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で抽出し、遠心分離後の上清画分を粗酵素液として酵素活性測定に用いた。オルニチンオキシゲナーゼ活性測定はメイらの方法(Meiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.90, pp.903−907, 1993)に従って測定した。また、オルニチンオキシゲナーゼ活性は、酵素反応により生成するN−ヒドロキシルオルニチン量をCsaky試験法(Tomlinsonら, Anal. Biochem. vol.44, pp670−679, 1971)を用いて亜硝酸として定量した。
【0048】
選抜した形質転換体はグルコースを炭素源とした培養時に比べて、マルトースを炭素源とした培養時に高いオルニチンオキシゲナーゼ比活性を示すとともに、非形質転換株RIB40に対しても高い比活性を示した(図4)。これらの結果から、dffA遺伝子がオルニチンオキシゲナーゼをコードしている遺伝子であると断定された。
【0049】
【発明の効果】
親株よりもフェリクリシン産生量が顕著に低下している麹菌株とその作出法が提供された。ここで得られた麹菌株は、フェリクリシン含量が低減され、フェリクリシンに由来する着色が低減された食品または酒類製品等の製造に利用することができる。
【0050】
【配列表】
Figure 2004097020
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【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、dffA遺伝子破壊ベクターの模式図である。
【図2】図2は、dffA遺伝子破壊株のサザン解析の結果を示す図である。野生型株およびdffA遺伝子破壊株のゲノムDNAをPstIまたはHindIIIで消化し、dffA遺伝子部分cDNA断片をプローブにしてサザンハイブリダイゼーションを行った。
【図3】図3は、マイクロバイオアッセイによるフェリクリシン産生量の検討結果を示す図である。前培養としてCzapek−Dox液体培地で2日間振とう培養を行ったあと、菌体を回収・洗浄後、鉄濃度の異なるCzapek−Dox液体培地に菌体を移し、さらに2日間振とう培養を行った。その培養上清1μlをマイクロバイオアッセイ平板培地にスポット接種し、30℃で24時間培養後、生育してきたインジケーターバクテリアのコロニー直径を測定した。
【図4】図4は、麹菌における細胞内オルニチンオキシゲナーゼ比活性を比色法により検出した結果を示す図である。

Claims (29)

  1. 以下の(a)または(b)の核酸。
    (a)  配列番号1に示す塩基配列のうち第2605位〜第4179位までの塩基配列を含有し、オルニチン−N−オキシゲナーゼをコードするDNAまたは上記配列に対応する配列を有するRNA
    (b)  配列番号1に示す塩基配列のうち第2605位〜第4179位までの塩基配列において1もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含有し、かつオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質をコードし得るDNAまたは該DNAの塩基配列に対応する配列を有するRNA
  2. 請求項1記載の核酸によりコードされる、オルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を有するタンパク質。
  3. 請求項1記載の核酸を含有するベクター。
  4. 請求項1記載の核酸を、外来遺伝子として含有している細胞。
  5. 請求項3記載のベクターを含有する請求項4記載の細胞。
  6. 麹菌である、請求項4または5記載の細胞。
  7. 麹菌がアスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・タマリ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチからなる群より選択される、請求項6記載の細胞。
  8. 配列番号1に示す配列の一部である連続した19塩基以上からなる塩基配列、または該塩基配列内の1もしくは数個の塩基が欠失、置換または付加された塩基配列を含有する核酸またはその誘導体であって、該核酸またはその誘導体を核酸構造物に連結させて、該核酸またはその誘導体が連結した核酸構造物からなるベクターを宿主細胞に導入すると、相同組換えにより該宿主細胞の染色体上のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子の発現機能または該遺伝子産物の活性が低下もしくは消失され得、該宿主細胞のオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性を対応する親株細胞中の該活性に比べて低減させ得ることを特徴とする、上記核酸またはその誘導体。
  9. 請求項8記載のDNAまたはその誘導体を含有する、オルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター。
  10. 形質転換マーカー遺伝子をさらに含有する、請求項9記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター。
  11. 形質転換マーカー遺伝子が栄養要求性マーカーまたは薬剤耐性マーカーである、請求項10記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター。
  12. 形質転換マーカー遺伝子がamdS、niaD、oliC31、pyrG、sC、argB、ptrA遺伝子からなる群から選択される、請求項11記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター。
  13. 配列番号1に示す配列の一部である塩基配列が、配列番号1の第2775位〜第3774位の塩基配列であり、形質転換マーカー遺伝子がピリチアミン耐性遺伝子ptrAである、請求項12記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクター。
  14. 遺伝子破壊法、アンチセンス法、共抑制法、およびRNA干渉法のいずれか1つの手法により細胞中のオルニチン−N−オキシゲナーゼ活性が対応する親株細胞中の該活性に比べて低減されている麹菌。
  15. 該細胞のフェリクリシン産生量が、対応する親株細胞の該産生量に比べて低減している、請求項14記載の麹菌。
  16. 該細胞のフェリクリシン産生量が、対応する親株の細胞の該産生量に比べて少なくとも1/10以下にまで低減している、請求項15記載の麹菌。
  17. 請求項8記載のDNAもしくはその誘導体または請求項9〜13のいずれか1項に記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクターで形質転換された遺伝子破壊形質転換麹菌である、請求項14〜16のいずれか1項に記載の麹菌。
  18. 対応する親株がアスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・タマリ、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・カワチからなる群より選択される種に属する菌株である、請求項14〜17のいずれか1項に記載の麹菌。
  19. アスペルギルス・オリゼーを請求項13記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクターで形質転換して得られる、請求項17記載の麹菌。
  20. ΔdffA TF#2株である、請求項19記載の麹菌。
  21. 遺伝子破壊法、アンチセンス法、共抑制法およびRNA干渉法のいずれか1つの方法を用いる、対応する親株の麹菌に比べてフェリクリシン産生量が低減されている麹菌の作出方法。
  22. 麹菌を請求項8記載のDNAもしくはその誘導体または請求項9〜13のいずれか1項に記載のオルニチン−N−オキシゲナーゼ遺伝子破壊用ベクターを用いて形質転換し、フェリクリシン産生量が低減している形質転換麹菌を選択することを含む、請求項21記載の方法。
  23. 請求項14〜20のいずれか1項に記載の麹菌を用いて製造される、フェリクリシン含量が低減された食品または酒類製品。
  24. 請求項14〜20のいずれか1項記載の麹菌を用いて製造される、フェリクリシン含量が低減された清酒または焼酎。
  25. フェリクリシンに由来する着色が、対応する親株である麹菌株を用いて製造された清酒または焼酎に比べて低減されていることを特徴とする、請求項24記載の清酒または焼酎。
  26. 請求項19または20に記載の麹菌を用いて製造される清酒。
  27. フェリクリシン含量が、対応する親株であるアスペルギルス・オリゼー株を用いて製造された清酒に比べて低減されていることを特徴とする、請求項25記載の清酒。
  28. フェリクリシンに由来する着色が、対応する親株であるアスペルギルス・オリゼー株を用いて製造された清酒に比べて低減されていることを特徴とする、請求項24または25に記載の清酒。
  29. 請求項14〜20のいずれか1項に記載の形質転換麹菌を使用することを含む、請求項23記載の食品または酒類製品を製造する方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN115181675A (zh) * 2022-05-06 2022-10-14 南京思农生物有机肥研究院有限公司 一种贵州木霉菌促生伴侣溜曲霉及其应用

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