JP2004090828A - 車両の車体前部構造 - Google Patents
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Abstract
【課題】車体重量を抑制しつつ、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースを十分に確保する。
【解決手段】車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレーム21と、フロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部22と、フレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレーム23とを備えた車体フレーム20を有する車両10である。ダッシュボード12よりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフト44が後方へ移動したときに当たる左右の当接部50を設けた。当接部の当り面51を、後上方へ傾斜した傾斜面とした。ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成した。
【選択図】 図2
【解決手段】車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレーム21と、フロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部22と、フレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレーム23とを備えた車体フレーム20を有する車両10である。ダッシュボード12よりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフト44が後方へ移動したときに当たる左右の当接部50を設けた。当接部の当り面51を、後上方へ傾斜した傾斜面とした。ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成した。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は車両の車体前部構造の改良技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車などの車両には、車体前部に搭載したエンジンにて前輪を駆動する駆動方式を採用するとともに、前面衝突時の衝突エネルギーを車体前部で吸収できるようにしたものがある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−2527公報(第3頁、図1−図4)
【特許文献2】
特開2002−2528公報(第3−4頁、図1−図4)
【0004】
上記従来の技術のうち、上記特許文献1の技術を代表例として、その概要を以下に説明する。
図27(a),(b)は従来の車両の車体前部構造の概要図であり、特開2002−2527公報の図2及び図4を再掲する。なお、符号は振り直した。(a)は従来の車体前部構造の模式的構成を表し、(b)はその作用を表す。
【0005】
(a)は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドメンバ101,101(この図では左のみ示す。以下同じ。)と、これらのフロントサイドメンバ101,101の後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部102,102と、これらのフレーム延長部102,102の下端から後方へ延びた左右のサイドシル103,103と、を備えた車体フレーム104を有する車両100を示す。
【0006】
車体フレーム104は、左右のサイドシル103,103とほぼ同一高さに配置したシャシクロスメンバ105を、左右のフロントサイドメンバ101,101の後部間に掛け渡すことで、剛性を確保することができる。具体的には、シャシクロスメンバ105の左右両端から上方へ左右のアーム部106,106を延ばし、その上端を左右のフロントサイドメンバ101,101に接合することで、左右のフロントサイドメンバ101,101間にシャシクロスメンバ105を掛けることができる。
【0007】
車両100は、エンジンルーム111内で左右のフロントサイドメンバ101,101にパワープラント112を取付け、このパワープラント112に前輪を連結するドライブシャフト113,113を、左右のフロントサイドメンバ101,101の下方に且つ左右のアーム部106,106の前方に配置したものである。
【0008】
車両100が前面衝突したときに、(b)に示すように、左右のフロントサイドメンバ101,101の前半部101A,101Aは塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する。このとき、フロントサイドメンバ101,101に取付けられたパワープラント112は後退する。パワープラント112に前輪を連結する左右のドライブシャフト113,113は、突起114,114を有する。パワープラント112と共に後退した突起114,114がアーム部106,106に当たることで、アーム部106,106は破断又は塑性変形する。この結果、フロントサイドメンバ101,101の後半部101B,101Bも塑性変形することが可能になり、衝突エネルギーを吸収することができる。このようにして、衝突エネルギーを吸収することにより、客室115側(車室側)の変形を抑制することができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1の技術は、サイドシル103,103よりも高位にフロントサイドメンバ101,101を配置したものである。このため、車両100が前面衝突したときに、フロントサイドメンバ101,101にはサイドシル103,103の前端を基端として、図時計回りの曲げモーメントが生じる。この結果、フロントサイドメンバ101,101は客室115側に曲げ変形し得る。客室115のスペースを常に確保するには、このような曲げ変形量をできるだけ抑制できることが好ましい。
【0010】
これに対し、車体フレーム104の関連するメンバを補強することで、各メンバの剛性を高めることができる。しかし、関連する各メンバの剛性を単に補強するのでは、車体フレーム104の構成が複雑になるとともに、重量が増すので、得策ではない。
【0011】
そこで本発明の目的は、車体重量を抑制しつつ、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる技術を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部と、これらのフレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレームとを備えた車体フレームを有する車両であって、車体前部をダッシュボードにて前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切り、エンジンルーム内で左右のフロントサイドフレームにエンジンを取付け、このエンジンに前輪を連結するドライブシャフトを、左右のフロントサイドフレームの下方に且つ左右のフレーム延長部の前方に配置した車両の車体前部構造において、
ダッシュボードよりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0013】
ダッシュボードよりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面としたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0014】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0015】
請求項2は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部と、これらのフレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレームと、これら左右のフロントサイドフレームの前下部から左右のセンタサイドフレームの前部まで延して接合したサブフレームとを備えた車体フレームを有する車両であって、
車体前部をダッシュボードにて前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切り、エンジンルーム内で左右のフロントサイドフレームにエンジンを取付け、このエンジンに前輪を連結するドライブシャフトを、左右のフロントサイドフレームの下方に且つ左右のフレーム延長部の前方に配置した車両の車体前部構造において、
ダッシュボードよりも前で、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、左右のサブフレームから上方へ延ばし、左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、左右の当接部が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0016】
ダッシュボードよりも前で、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、左右のサブフレームから上方へ延ばし、左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、左右の当接部が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面ととしたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0017】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は運転者から見た方向に従い、Frは前側、Rrは後側、Lは左側、Rは右側、CLは車幅中心(車体中心)を示す。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【0019】
先ず、車両の車体前部構造の第1実施例について、図1〜図12に基づき説明する。
図1は本発明に係る車両前部(第1実施例)の斜視図であり、車両10は、車体11の前部をダッシュボード12にて前部のエンジンルーム13と後部の車室14とに仕切り、エンジンルーム13内で車体フレーム20にエンジン41を取付け、このエンジン41にてトランスミッション42を介して左右の前輪駆動用ドライブシャフト44,44(この図では左のみ示す。以下同じ。)を連結することで、エンジン41にて図示せぬ前輪を駆動する駆動方式の、フロントエンジン・フロントドライブ車と称する乗用車である。
なお、車両10はエンジン41にて図示せぬ前輪並びに後輪を駆動する駆動方式の、4輪駆動車と称するものであってもよい。
【0020】
車体フレーム20は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレーム21,21と、これらのフロントサイドフレーム21,21の後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部22,22と、これらのフレーム延長部22,22の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレーム23,23と、左右のフロントサイドフレーム21,21の前端間に掛け渡したフロントバンパビーム24と、左右のフロントサイドフレーム21,21の前下部から左右のセンタサイドフレーム23,23の前部まで延して接合した左右のサブフレーム25,25と、を一体に備えたモノコックボディである。
【0021】
フレーム延長部22は、センタサイドフレーム23の前端部とフロントサイドフレーム21の後端部とを一体に繋ぐ部材である。
センタサイドフレーム23は、車室14内でフロアパネル26の下を前後に通る部材であり、フロアサイドフレームとも呼ばれている。
【0022】
なお、サブフレーム25の前部は、左右のフロントサイドフレーム21,21の前下部間に掛け渡したクロスメンバ27を介して、フロントサイドフレーム21,21の前下部に取付けることになる。
サブフレーム25は、フロントサイドフレーム21及びセンタサイドフレーム23に、ボルト止めにて着脱可能に取付けてもよい。
【0023】
左右のフロントサイドフレーム21,21に、エンジン41並びにエンジン41に一体的に組込まれたトランスミッション42を取付けることで、車体フレーム20にエンジン41やトランスミッション42を取付けることができる。
ドライブシャフト44は、フロントサイドフレーム21とサブフレーム25との間から車幅外方へ突き出る。
【0024】
図中、31,31はフロントピラー、32,32はフロントダンパハウジング、33,33はアッパメンバである。
【0025】
図2は本発明に係る車両前部(第1実施例)の左側面図であり、エンジンルーム13内で左右のフロントサイドフレーム21,21(この図では左のみ示す。以下同じ。)にエンジン41を取付け、このエンジン41に前輪を連結するドライブシャフト44,44を、左右のフロントサイドフレーム21,21の下方に且つ左右のフレーム延長部22,22の前方に配置したことを示す。
【0026】
第1実施例は、ダッシュボード12よりも前で、左右のフレーム延長部22,22に、左右のドライブシャフト44,44が後方へ移動したときに当たる左右の当接部50,50を設け、これらの当接部50,50の当り面51,51を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフト44,44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44,44を当り面(傾斜面)51,51にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44,44が後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0027】
当り面51,51の前後方向の位置は、ドライブシャフト44,44が前後方向のスイング範囲に一定の余裕代(空きスペース)を考慮して、設定することになる。
当り面51の傾斜角θは、車両10の基準水平線Lh、すなわち車体フレーム20を水平に配置したときの車体フレーム20の基準となる水平線Lhに対して、35°〜45°である。
【0028】
図3は本発明に係る車両前部(第1実施例)の底面図であり、エンジン41に左右のドライブシャフト44,44を介して左右の前輪46,46を連結したことを示す。
さらにこの図は、左右のセンタサイドフレーム23,23の側方にセンタサイドフレーム23,23に沿わせて左右のサイドシル35,35を延し、これらのサイドシル35,35の前部をサイドアウトリガー36,36を介してセンタサイドフレーム23,23に接合したことを示す。サイドシル35,35の前端は前輪46,46に臨む。
【0029】
左右の当接部50,50の大きさや配置については、(1)タイヤチェーンを装着した前輪46が最大転舵角だけ転舵した場合に、タイヤチェーンや前輪46との間隙を十分に保つことができること、及び、(2)トランスミッション42にドライブシャフト44を連結するインボードジョイント(図示せず)や、ドライブシャフト44との、間隙を十分に保つことができることを考慮して決定する。
図中、37はクロスメンバ、47,47はフロントサスペンションである。
【0030】
図4は本発明に係るドライブシャフト及び前輪の関係を示す模式図(第1実施例)であり、トランスミッション42と左のドライブシャフト44と左の前輪46との関係を正面から見たものである。
【0031】
この図は、トランスミッション42の出力側にカップ状のインボードジョイント43を連結し、インボードジョイント43にドライブシャフト44の一端をスイング可能に且つ動力伝達可能に連結し、ドライブシャフト44の他端にカップ状のアウトボードジョイント45をスイング可能に且つ動力伝達可能に連結し、アウトボードジョイント45に前輪46のアクスルハブ(図示せず)を連結したことを示す。インボード・アウトボードジョイント43,45は等速ジョイントである。
なお、実際には、インボードジョイント43に対してドライブシャフト44の一端は、車幅方向へ多少スライド可能に連結された構成である。しかし、理解を容易にするために、スライドする点については無視して考えることにする。
【0032】
図5は本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部斜視図であり、左のフレーム延長部22の前端から、前方の左のドライブシャフト44へ向って、当接部50を延したことを示す。なお、右の当接部50についても同様である。
【0033】
図6は本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部平面図であり、左の当接部50を、左のフロントサイドフレーム21の外側面21aに沿わせて延すとともに、左のフロントサイドフレーム21の幅wd内に収まるように配置したことを示す。
より詳しくは、ドライブシャフト44が上下スイングしていない通常の静止位置(初期位置)にあるときに、ドライブシャフト44がフロントサイドフレーム21の外側面21aに交差する点を基準として、フロントサイドフレーム21の幅wd内に当接部50を配置した。
【0034】
当接部50を、フロントサイドフレーム21よりも車幅方向内方、すなわち車幅中心CL寄りに配置した場合には、車両10が前面衝突したときにエンジン41(図1参照)やトランスミッション42が車幅方向にずれて、当接部50に干渉する心配がある。
一方、当接部50を、フロントサイドフレーム21よりも車幅方向外方に配置した場合には、前輪46(図4参照)が当接部50に干渉する心配がある。
【0035】
これに対して第1実施例は、当接部50を、左のフロントサイドフレーム21の外側面21aに沿わせて延すとともに、左のフロントサイドフレーム21の幅wd内に収まるように配置したので、エンジン41、トランスミッション42及び前輪46に干渉する心配がない。しかも、前面衝突時の衝突エネルギーを、ドライブシャフト44から当接部50を介してフレーム延長部22へ十分に伝えることができる。
なお、右の当接部50についても同様である。
【0036】
図7は図5の7−7線断面図であり、左の当接部50を「平等強さのはり」としたことを示す。「平等強さのはり」とは、どの断面にも一様の応力が生じる梁(はり)のことである。
片持ばりである当接部50には、フレーム延長部22に固定する固定端52に最大曲げ応力が生じるとともに、自由端53へ近づくにしたがって曲げ応力も小さくなる。この点を考慮して当接部50は、自由端53に近づくにつれて断面積が小さくなる、いわゆる先細り形状に形成したものである(上記図5、図6も参照)。
【0037】
このようにすることで、材料の節減や重量の低減を図ることができ、材料力学上、合理的な当接部50とすることができる。しかも、エンジン41やトランスミッション42等に干渉するする心配もない。
なお、右の当接部50についても同様である。
【0038】
図8(a),(b)は本発明に係る当接部(第1実施例)の取付例図である。
(a)は、フレーム延長部22に当接部50を、スポット溶接やMIG溶接などの溶接にて取付ける取付例を示す。(b)は、フレーム延長部22に当接部50を、ボルトやリベット等の締結部材54にて取付ける取付例を示す。
【0039】
図9(a)〜(c)は本発明に係る車両前部(第1実施例)の作用図である。
(a)は、車両10が前面衝突することで、車体フレーム20の前部に衝突エネルギーが作用したことを示す。
【0040】
(b)は、車体フレーム20の前部、すなわちフロントサイドフレーム21が塑性変形して衝突エネルギーを吸収する途中を示す。フロントサイドフレーム21に取付けられたエンジン41や、ドライブシャフト44並びに前輪(図示せず)は、後方へ移動する。この結果、ドライブシャフト44が当接部50の当り面(傾斜面)51に当たる。当接部50は当り面51にて、ドライブシャフト44を後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力を下向きの力に変換する。
【0041】
(c)は、車体フレーム20の前部、すなわちフロントサイドフレーム21が更に塑性変形したことを示す。エンジン41は更に後方へ移動する。この結果、フロントサイドフレーム21の後半部も塑性変形することが可能になり、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0042】
図10(a),(b)は本発明に係る車両前部(第1実施例)の原理図であり、(a)は左側方から見た車両前部を模式的に表し、(b)は(a)の当接部50周りを拡大したものである。
【0043】
(a)に示すように車体フレーム20は、前部のフロントサイドフレーム21を後部のセンタサイドフレーム23よりも高位に配置したものである。車両10が前面衝突したとき、フロントサイドフレーム21にはほぼ水平な後向きの力Wが作用する。このため、車体フレーム20には、センタサイドフレーム23の前部の基点Q(仮想の点)を中心とした、図時計回り方向の第1の曲げモーメントM1が生じる。すなわち、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする第1の曲げモーメントM1が生じることになる。
力Wの作用方向での、基点Qから力Wの作用点までの変位量をL1としたときに、第1の曲げモーメントM1は、次式(1)で求めることができる。
M1=W×L1 (1)
第1の曲げモーメントM1は図時計回りのモーメントであるから、正のモーメントとする。
【0044】
ところで、通常時におけるドライブシャフト44は、(a)の最も左の想像線にて示す位置44Aにある。その後、前面衝突時の衝突エネルギーによりフロントサイドフレーム21が塑性変形したときに、エンジン41(図9参照)が後方へ移動することで、ドライブシャフト44は実線にて示すように後方へ移動して当接部50の当り面51に当たる。
【0045】
当り面51は、後上方へ傾斜角θで傾斜した傾斜面である。ドライブシャフト44は後方へ移動したときに、当り面51をスライドしながら(滑りながら)後上方へ移動し、想像線にて示す位置44Bに至る。このことを詳しく表したのが(b)である。
【0046】
ドライブシャフト44から当り面51に作用する、ほぼ水平な後向きの力をP1とする。力P1の分力は、当り面51に直角な分力P2と当り面51に平行な分力P3とであり、次式(2)、(3)で求めることができる。
P2=P1×sinθ (2)
P3=P1×cosθ (3)
分力P2は、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力P1を当り面51によって変換した、下向きの力である。
【0047】
当接部50及びフレーム延長部22には、基点Qを中心とした図反時計回り方向の第2の曲げモーメントM2が生じる。すなわち、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図反時計回り方向に曲げようとする第2の曲げモーメントM2が生じることになる。
分力P2の作用方向での、基点Qから分力P2作用点までの変位量をL2としたときに、第2の曲げモーメントM2は、次式(4)で求めることができる。
M2=P2×L2 (4)
第2の曲げモーメントM2は図反時計回りのモーメントであるから、負のモーメントとする。
【0048】
一方、ドライブシャフト44と当り面51との間の最大摩擦力をP4としたとき、最大摩擦力P4の大きさは分力P2に比例する。これを次式(5)で表すことができる。但し、μはドライブシャフト44と当り面51との間の摩擦係数(動摩擦係数)である。
P4=μ×P2 (5)
最大摩擦力P4は、ドライブシャフト44が当り面51を滑って後上方へ移動するときの力である。
【0049】
当接部50及びフレーム延長部22には、基点Qを中心とした図時計回り方向の第3の曲げモーメントM3が生じる。すなわち、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする第3の曲げモーメントM3が生じることになる。
力P4の作用方向での、基点Qから分力P4作用点までの変位量をL3としたときに、第3の曲げモーメントM3は、次式(6)で求めることができる。
M3=P4×L3 (6)
第3の曲げモーメントM3は図時計回りのモーメントであるから、正のモーメントとする。
【0050】
第2の曲げモーメントM2と第3の曲げモーメントM3との差を第4の曲げモーメントM4としたとき、第4の曲げモーメントM4を次式(7)で求めることができる。
M4=−M2+M3 (7)
上記第1の曲げモーメントM1と第4の曲げモーメントM4との総和を複合曲げモーメントM0としたとき、複合曲げモーメントM0を次式(8)で求めることができる。
M0=M1+M4=M1−M2+M3 (8)
【0051】
以上の説明から明らかなように、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする、すなわち、車室側へ曲げようとする複合曲げモーメントM0は、第1の曲げモーメントM1の一部を第4の曲げモーメントM4で打ち消して補正した値になる。
従って、第1の曲げモーメントM1は第4の曲げモーメントM4(補正曲げモーメントM4)で補正した分だけ、有利になる。このことを次の図11及び図12に示す。
【0052】
図11は本発明に係る当接部(第1実施例)の補正曲げモーメント特性図であり、横軸に当接部の当り面の傾斜角θを示し、縦軸に補正曲げモーメントM4(kgf・m)を示す。但し、μはドライブシャフトと当り面との間の摩擦係数(動摩擦係数)である。
この図によれば、摩擦係数μが小さいほど、補正曲げモーメントM4の最大値が大きいということが判る。摩擦係数μが0.1〜0.5の範囲においては、当り面の傾斜角θが25°〜40°のときに、補正曲げモーメントM4が最大になる傾向にある。例えば、摩擦係数μが0.1では、当り面の傾斜角θが約35°のときに、補正曲げモーメントM4が最大になる。
【0053】
実際には、摩擦係数μのばらつきがあり得るので、摩擦係数μを小さくすることがより好ましい。さらには、車体フレームの設計の容易性を考えると、当り面の傾斜角θは大きいほうがよい。例えば、傾斜角θを35°〜45°に設定することがより好ましい。
【0054】
図12は本発明に係る車体フレーム前部(第1実施例)の曲げモーメント特性図であり、横軸に前面衝突後の経過時間(msec)を示し、縦軸にフロントサイドフレーム及びフレーム延長部を車室側へ曲げようとする複合曲げモーメントM0(kgf・m)を示す。
なお、Shは当接部の当り面にドライブシャフトが当った時点を示す。Tsは、ドライブシャフトが当り面を後上方へスライドしている時間を示す。時点Shから時間Tsにわたって、ドライブシャフトがスライドしていることになる。
【0055】
破線にて示す曲線Mnは、当接部を設けていない場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。実線にて示す曲線Meは、当接部を設けた場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。
曲げモーメント特性曲線Meに示すように、当接部を設けている場合には、設けない場合に比べて複合曲げモーメントM0の最大値を約30%低減できる効果がある。
【0056】
実験の結果、当接部を設けていない場合には、フロントサイドフレーム及びフレーム延長部が塑性変形して、車室内へ突出する突出量は145mmであった。
これに対し、当接部を設けた場合の複合曲げモーメントM0の最大値を低減することにより、フロントサイドフレーム及びフレーム延長部が塑性変形して、車室内へ突出する突出量は123mmであり、突出量を22mm低減することができた。
【0057】
一方、上述のように突出量を22mm低減するのに、当接部を設けずに、ダッシュボードの板厚を大きくした場合には、ダッシュボードの元の重量1kgf当り1.5kgfの重量を増す結果になった。
【0058】
以上の第1実施例の説明を要約すると、上記図2、図9及び図10に示すように、ダッシュボード12よりも前に当接部50を設けたので、車両10の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレーム21が塑性変形し、これに伴ってドライブシャフト44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44を当接部50の傾斜面51にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力P1を下向きの力P2に変換することができる。ドライブシャフト44が傾斜面51を後上方にスライドするのであるから、後上方への力P4は摩擦力だけであり、下向きの力P2に比べて極めて小さい。
【0059】
下向きの力P2が作用したフロントサイドフレーム21には、下向きの曲げモーメントM2が生じる。この下向きの曲げモーメントM2は、フロントサイドフレーム21に生じている車室14側へ曲げようとする曲げモーメントM1の一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレーム21が曲げモーメントM1によって車室14側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両10が前面衝突したときに、ダッシュボード12の変形をより抑制して、車室14内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボード12の変形を抑制するのに、ダッシュボード12の板厚を大きくする、又は、車体フレーム20の関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0060】
次に、車両の車体前部構造の第2実施例について、図13〜図18に基づき説明する。なお、上記図1〜図12に示す第1実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
図13は本発明に係る車両前部(第2実施例)の左側面図である。
第2実施例は、ダッシュボード12よりも前で、ドライブシャフト44,44(この図では左のみ示す。以下同じ。)が後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部60,60を、左右のサブフレーム25,25から上方へ延ばし、左右の当接部60,60の長さを、左右の当接部60,60が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部22,22に当たる大きさに設定し、左右の当接部60,60が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフト44,44が当たる当り面61,61を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフト44,44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44,44を当り面(傾斜面)61,61にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44,44が後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0062】
サブフレーム25は、剛性が小さい前半部25Aと剛性が大きい後半部25Bとを、一体に形成した部材である。当接部60を支持する剛性をより確保するためである。後半部25Bの剛性を高めるには、例えば次の構成がある。
【0063】
(1)前半部25Aと後半部25Bとをハイドロフォーム成型法等で一体に成形するとともに、後半部25Bを補強材にて補強することで、後半部25Bの剛性を高めた構成。
(2)前半部25Aの板厚よりも大きい板材を組合わせてレーザ溶接やプラズマ溶接等によって接合することにより、後半部25Bを形成し、この後半部25Bと前半部25Aとをハイドロフォーム成型法等で一体に成形することで、後半部25Bの剛性を高めた構成。
(3)上記(1)や(2)において、更に後半部25Bの外形寸法をより大きくすることで、後半部25Bの剛性をより高めた構成。
【0064】
当り面61の前後方向の位置は、ドライブシャフト44が前後方向のスイング範囲に一定の余裕代(空きスペース)を考慮して、設定することになる。
【0065】
図14は本発明に係るフロントサスペンション周りの模式図であり、正面から見た左のフロントサスペンション47を表す。
車体フレーム10は、フロントサイドフレーム21に上部ブラケット71を設けるとともに、サブフレーム25に下部ブラケット73を設けたものである。
【0066】
フロントサスペンション47は、上部ブラケット71にスイング可能に取付けたアッパアーム72と、下部ブラケット73にスイング可能に取付けたロアアーム74と、ロアアーム74とフロントダンパハウジング32との間に取付けたダンパ75並びにコイルばね76と、アッパアーム72並びにロアアーム74に連結したナックル77とからなる、ダブルウィッシュボーン式サスペンションである。右のフロントサスペンション47も同様である。
【0067】
図15は本発明に係る車体前部(第2実施例)の要部斜視図であり、左のサブフレーム25のうち、後半部25Bの前端部から上方へ左の当接部60を延ばし、左の当接部60の当り面61と前半部25Aの上面との間に下部ブラケット73を掛け渡したことを示す。
前半部25Aは上部コーナのうち、下部ブラケット73の前後に脆弱部81・・・(・・・は複数を示す。以下同じ。)を形成したものである。脆弱部81・・・は、例えばビード又は切欠きから成る。脆弱部81・・・を設けることにより、前半部25Aのうち、下部ブラケット73を取付ける部分の剛性をより確保することができる。
【0068】
左の当接部60は、当り面61を前に向けるとともに左右にフランジ62,62を有するチャンネル状断面体であり、後方へ倒れることが可能なように基端部63を後半部25Bの上面に接合したものである。
なお、右の当接部60及び右の下部ブラケット73ついても同様である。
【0069】
図16は本発明に係る車体前部(第2実施例)の模式図であり、左のフレーム延長部22に対する左の当接部60の関係を表したものであり、上記図13に対応する。
当接部60が後方へ倒れるときの基点をT1とする。基点T1を中心として当接部60が後方へ倒れるときに、当接部60の先端64の旋回軌跡T2は円弧である。当接部60の先端64がフレーム延長部22の前面に接する点をT3とする。点T3における旋回軌跡T2の接線をT4とする。フレーム延長部22のうち、点T3よりも下の部分22aを、接線T4に対して前方へ角度αだけ突き出すことにより、当接部60が後方へ倒れたときの、当り面61の傾斜角θが決定する。
【0070】
傾斜角θは、基点T1と点T3とを通る直線T5の角度であり、車両10の基準水平線Lh、すなわち車体フレーム20を水平に配置したときの車体フレーム20の基準となる水平線Lhに対して、35°〜45°である。
以上の説明から明らかなように当接部60の長さ、すなわち、基点T1から先端64までの長さは、当接部60が後方へ傾斜した状態で、フレーム延長部22に点T3で当たる大きさである。
なお、右の当接部60についても同様である。
【0071】
図17は本発明に係る車両前部(第2実施例)の作用図であり、車両10が前面衝突することで、車体フレーム20の前部に作用した衝突エネルギーを、フロントサイドフレーム21が塑性変形して吸収している途中を示す。
車両10が前面衝突したとき、フロントサイドフレーム21にはほぼ水平な後向きの力Wが作用する。このため、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする曲げモーメントが生じる。
【0072】
フロントサイドフレーム21の変形に応じて、ドライブシャフト44は後方へ移動して、当接部60の当り面(傾斜面)61を後方へ押し出す。この結果、当接部60は後方へ倒れ、その先端64がフレーム延長部22に当たる。このときの当り面61の傾斜角はθである。このようにして、フレーム延長部22とサブフレーム25の後半部25Bと当接部60とで、側面視略三角形状の閉構造を構成することができる。
【0073】
当接部60は当り面61にて、ドライブシャフト44を後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力を下向きの力P2に変換する。
具体的には、ドライブシャフト44から当り面61に作用する、ほぼ水平な後向きの力をP1とする。力P1は、当り面61に直角な分力P2、すなわち下向きの力P2に変換される。さらには、ドライブシャフト44が当り面61を滑って後上方へ移動するときの摩擦力が、当接部60に伝わる。
これらの力は当接部60の両端から、サブフレーム25の後半部25B及びフレーム延長部22に伝わり、ほぼ水平な後向きの力P5,P6としてセンタサイドフレーム23に伝わる。従って、ドライブシャフト44からの力をセンタサイドフレーム23で効率良く受けることができる。
【0074】
しかも、下向きの力P2により、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図反時計回り方向に曲げようとする曲げモーメントによって、上記図時計回り方向の曲げモーメントの一部を打ち消して緩和させることができる。このように打ち消されて補正された最終的な曲げモーメントのことを、複合曲げモーメントM0と言うことにする。
【0075】
車体フレーム20の前部、すなわちフロントサイドフレーム21は更に塑性変形する。エンジン41は更に後方へ移動する。この結果、フロントサイドフレーム21の後半部も塑性変形することが可能になり、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0076】
次に、第2実施例の複合曲げモーメントM0について、図18で説明する。
図18は本発明に係る車体フレーム前部(第2実施例)の曲げモーメント特性図であり、横軸に前面衝突後の経過時間(msec)を示し、縦軸にフロントサイドフレーム及びフレーム延長部を車室側へ曲げようとする複合曲げモーメントM0(kgf・m)を示す。なお、Shは当接部の当り面にドライブシャフトが当った時点を示す。
【0077】
破線にて示す曲線Mnは、当接部を設けていない場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。実線にて示す曲線Meは、当接部を設けた場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。
曲げモーメント特性曲線Meに示すように、当接部を設けている場合には、設けない場合に比べて複合曲げモーメントM0の最大値を約30%低減できる効果がある。
【0078】
以上の第2実施例の説明を要約すると、上記図13、図17及び図18に示すように、ダッシュボード12よりも前に当接部60を設けたので、車両10の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレーム21が塑性変形し、これに伴ってドライブシャフト44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44を当接部60の傾斜面61にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力P1を下向きの力P2に変換することができる。ドライブシャフト44が傾斜面61を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力P2に比べて極めて小さい。
【0079】
下向きの力P2が作用したフロントサイドフレーム21には、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレーム21に生じている車室14側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレーム21が曲げモーメントによって車室14側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両10が前面衝突したときに、ダッシュボード12の変形をより抑制して、車室14内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボード12の変形を抑制するのに、ダッシュボード12の板厚を大きくする、又は、車体フレーム20の関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0080】
図19は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第1変形例図である。第1変形例は、上記図16及び図17に示す当接部60が後方へ傾斜したときに、傾斜状態を保持する保持部材82を設けたことを特徴とする。フレーム延長部22の前部に設けた保持部材82にて、当接部60の先端部分を受けることができる。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0081】
図20は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第2変形例図である。第2変形例は、上記図15に示す当接部60のフランジ62,62に脆弱部62a,62aを設けたことを特徴とする。詳しくは、当接部60のうち、下部ブラケット73の上端部を接合した点よりも若干高位に、切欠きから成る脆弱部62a,62aを形成したものである。
【0082】
この場合には、当接部60が後方へ倒れるときの基点は、脆弱部62a,62aの位置である。下部ブラケット73よりも高位で当接部60が後方へ倒れることになるので、下部ブラケット73の剛性をより確保することができる。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
図21は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例図である。第3変形例は、上記図15に示す前半部25Aに設けた脆弱部81・・・の位置を、更に特定したことを特徴とする。
具体的には、前半部25Aのうち、下部ブラケット73の縦板73aを取付ける部分の前後で上部コーナの位置、及び、縦板73aを取付ける部分の後で下部コーナの2箇所の位置に、脆弱部81・・・を設けた。
【0084】
図22は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例の作用図であり、上記図21の構成にすることにより、前面衝突時の衝突エネルギーでサブフレーム25が折れ曲がる位置を、より確実に設定することができることを示す。このため、当接部60が後方へ倒れたときに、フレーム延長部22とサブフレーム25の後半部25Bと当接部60とで構成する、側面視略三角形状の閉構造を、より安定させることができる。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0085】
図23(a),(b)は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第4変形例図である。第4変形例は、(a)に示すように、当接部60の先端64と前半部25Aの上面とに下部ブラケット73を掛け渡したことを特徴とする。具体的には、当接部60と下部ブラケット73とを一体に形成した。下部ブラケット73は、縦板73aと、その上端から当接部60の先端64へ延びた横板73bとからなる。
【0086】
(b)に示すように、後退したドライブシャフト44が当たる当り面は、下部ブラケット73における縦板73aの前面又は横板73bの前面である。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0087】
図24は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第5変形例図である。第5変形例は、上記図23に示す第4変形例を更に変形したものであり、下部ブラケット73の横板73bを、後上方へ傾斜した傾斜板としたことを特徴とする。この傾斜板は、後退したドライブシャフト44が当たる当り面の役割を果たす。
なお、上記図23に示す第4実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0088】
図25は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第6変形例図である。第6変形例は、上記図13に示す第2実施例の当接部60を、当接部91に変形したものである。当接部91は、車体フレーム20が変形する前の通常状態において、後上方へ傾斜した当り面91aを有したことを特徴とする。
【0089】
衝突エネルギーによってサブビーム25が塑性変形することで、当接部91が図時計回りに変位し、この結果、当接部91の先端91bがフレーム延長部22の前面に当たったときに、当り面91aは想像線にて示す位置に変位する。このときの当り面91aの傾斜角がθである。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
図26(a)〜(c)は本発明に係る車体前部(第1実施例)の変形例図である。この変形例は、上記図2に示す第1実施例の当接部50を、(b)に示す当接部92に変形したものである。この当接部92は、当り面92aが後上方へ傾斜した曲面にしたことを特徴とする。
【0091】
当り面92aとしては、例えば(a)に示す三角関数の正弦(y=sinθ)のグラフY1のうち範囲Z、すなわち、θ=3π/2〜2πの範囲の曲線に相当する曲面とする。
当り面92aの他の例としては、(c)に示す2次曲線Y2,Y3,Y4の曲線に相当する曲面とする。2次曲線Y2,Y3,Y4は、式(11)、(12)、(13)で表すことができる。
y2=a2−x2 (11)
a2−x2=(x/y)2 (12)
a2−x2=(x+x2)2/y2 (13)
【0092】
このように当り面92aを、後上方へ徐々に湾曲しつつ傾斜した曲面としたことにより、次のような作用、効果を有する。すなわち、後退したドライブシャフト44が当り面92aに当たった瞬間には、当り面92aの傾斜角が小さい方が、車体フレーム20に対して加速度の変化が小さくてすむ。さらには、当り面92aが連続的な角度変化を有するので、ドライブシャフト44の後退を、より滑らかにすることができる。
【0093】
なお、当り面92aのように、後上方へ徐々に湾曲しつつ傾斜した曲面とすることは、上記図13〜図25に示す第2実施例やそれの各変形例の当り面にも適用することができる。
【0094】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1は、ダッシュボードよりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面としたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0095】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0096】
請求項2は、ダッシュボードよりも前で、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、左右のサブフレームから上方へ延ばし、左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、左右の当接部が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面ととしたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0097】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両前部(第1実施例)の斜視図
【図2】本発明に係る車両前部(第1実施例)の左側面図
【図3】本発明に係る車両前部(第1実施例)の底面図
【図4】本発明に係るドライブシャフト及び前輪の関係を示す模式図(第1実施例)
【図5】本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部斜視図
【図6】本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部平面図
【図7】図5の7−7線断面図
【図8】本発明に係る当接部(第1実施例)の取付例図
【図9】本発明に係る車両前部(第1実施例)の作用図
【図10】本発明に係る車両前部(第1実施例)の原理図
【図11】本発明に係る当接部(第1実施例)の補正曲げモーメント特性図
【図12】本発明に係る車体フレーム前部(第1実施例)の曲げモーメント特性図
【図13】本発明に係る車両前部(第2実施例)の左側面図
【図14】本発明に係るフロントサスペンション周りの模式図
【図15】本発明に係る車体前部(第2実施例)の要部斜視図
【図16】本発明に係る車体前部(第2実施例)の模式図
【図17】本発明に係る車両前部(第2実施例)の作用図
【図18】本発明に係る車体フレーム前部(第2実施例)の曲げモーメント特性図
【図19】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第1変形例図
【図20】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第2変形例図
【図21】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例図
【図22】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例の作用図
【図23】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第4変形例図
【図24】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第5変形例図
【図25】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第6変形例図
【図26】本発明に係る車体前部(第1実施例)の変形例図
【図27】従来の車両の車体前部構造の概要図
【符号の説明】
10…車両、11…車体、12…ダッシュボード、13…エンジンルーム、14…車室、20…車体フレーム、21…フロントサイドフレーム、22…フレーム延長部、23…センタサイドフレーム、25…サブフレーム、41…エンジン、44…ドライブシャフト、46…前輪、50,60,91,92…当接部、51,61,91a,92a…当り面。
【発明の属する技術分野】
本発明は車両の車体前部構造の改良技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車などの車両には、車体前部に搭載したエンジンにて前輪を駆動する駆動方式を採用するとともに、前面衝突時の衝突エネルギーを車体前部で吸収できるようにしたものがある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−2527公報(第3頁、図1−図4)
【特許文献2】
特開2002−2528公報(第3−4頁、図1−図4)
【0004】
上記従来の技術のうち、上記特許文献1の技術を代表例として、その概要を以下に説明する。
図27(a),(b)は従来の車両の車体前部構造の概要図であり、特開2002−2527公報の図2及び図4を再掲する。なお、符号は振り直した。(a)は従来の車体前部構造の模式的構成を表し、(b)はその作用を表す。
【0005】
(a)は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドメンバ101,101(この図では左のみ示す。以下同じ。)と、これらのフロントサイドメンバ101,101の後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部102,102と、これらのフレーム延長部102,102の下端から後方へ延びた左右のサイドシル103,103と、を備えた車体フレーム104を有する車両100を示す。
【0006】
車体フレーム104は、左右のサイドシル103,103とほぼ同一高さに配置したシャシクロスメンバ105を、左右のフロントサイドメンバ101,101の後部間に掛け渡すことで、剛性を確保することができる。具体的には、シャシクロスメンバ105の左右両端から上方へ左右のアーム部106,106を延ばし、その上端を左右のフロントサイドメンバ101,101に接合することで、左右のフロントサイドメンバ101,101間にシャシクロスメンバ105を掛けることができる。
【0007】
車両100は、エンジンルーム111内で左右のフロントサイドメンバ101,101にパワープラント112を取付け、このパワープラント112に前輪を連結するドライブシャフト113,113を、左右のフロントサイドメンバ101,101の下方に且つ左右のアーム部106,106の前方に配置したものである。
【0008】
車両100が前面衝突したときに、(b)に示すように、左右のフロントサイドメンバ101,101の前半部101A,101Aは塑性変形して、衝突エネルギーを吸収する。このとき、フロントサイドメンバ101,101に取付けられたパワープラント112は後退する。パワープラント112に前輪を連結する左右のドライブシャフト113,113は、突起114,114を有する。パワープラント112と共に後退した突起114,114がアーム部106,106に当たることで、アーム部106,106は破断又は塑性変形する。この結果、フロントサイドメンバ101,101の後半部101B,101Bも塑性変形することが可能になり、衝突エネルギーを吸収することができる。このようにして、衝突エネルギーを吸収することにより、客室115側(車室側)の変形を抑制することができる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記特許文献1の技術は、サイドシル103,103よりも高位にフロントサイドメンバ101,101を配置したものである。このため、車両100が前面衝突したときに、フロントサイドメンバ101,101にはサイドシル103,103の前端を基端として、図時計回りの曲げモーメントが生じる。この結果、フロントサイドメンバ101,101は客室115側に曲げ変形し得る。客室115のスペースを常に確保するには、このような曲げ変形量をできるだけ抑制できることが好ましい。
【0010】
これに対し、車体フレーム104の関連するメンバを補強することで、各メンバの剛性を高めることができる。しかし、関連する各メンバの剛性を単に補強するのでは、車体フレーム104の構成が複雑になるとともに、重量が増すので、得策ではない。
【0011】
そこで本発明の目的は、車体重量を抑制しつつ、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる技術を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために請求項1は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部と、これらのフレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレームとを備えた車体フレームを有する車両であって、車体前部をダッシュボードにて前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切り、エンジンルーム内で左右のフロントサイドフレームにエンジンを取付け、このエンジンに前輪を連結するドライブシャフトを、左右のフロントサイドフレームの下方に且つ左右のフレーム延長部の前方に配置した車両の車体前部構造において、
ダッシュボードよりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0013】
ダッシュボードよりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面としたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0014】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0015】
請求項2は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部と、これらのフレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレームと、これら左右のフロントサイドフレームの前下部から左右のセンタサイドフレームの前部まで延して接合したサブフレームとを備えた車体フレームを有する車両であって、
車体前部をダッシュボードにて前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切り、エンジンルーム内で左右のフロントサイドフレームにエンジンを取付け、このエンジンに前輪を連結するドライブシャフトを、左右のフロントサイドフレームの下方に且つ左右のフレーム延長部の前方に配置した車両の車体前部構造において、
ダッシュボードよりも前で、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、左右のサブフレームから上方へ延ばし、左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、左右の当接部が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0016】
ダッシュボードよりも前で、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、左右のサブフレームから上方へ延ばし、左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、左右の当接部が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面ととしたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0017】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を添付図面に基づいて以下に説明する。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は運転者から見た方向に従い、Frは前側、Rrは後側、Lは左側、Rは右側、CLは車幅中心(車体中心)を示す。また、図面は符号の向きに見るものとする。
【0019】
先ず、車両の車体前部構造の第1実施例について、図1〜図12に基づき説明する。
図1は本発明に係る車両前部(第1実施例)の斜視図であり、車両10は、車体11の前部をダッシュボード12にて前部のエンジンルーム13と後部の車室14とに仕切り、エンジンルーム13内で車体フレーム20にエンジン41を取付け、このエンジン41にてトランスミッション42を介して左右の前輪駆動用ドライブシャフト44,44(この図では左のみ示す。以下同じ。)を連結することで、エンジン41にて図示せぬ前輪を駆動する駆動方式の、フロントエンジン・フロントドライブ車と称する乗用車である。
なお、車両10はエンジン41にて図示せぬ前輪並びに後輪を駆動する駆動方式の、4輪駆動車と称するものであってもよい。
【0020】
車体フレーム20は、車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレーム21,21と、これらのフロントサイドフレーム21,21の後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部22,22と、これらのフレーム延長部22,22の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレーム23,23と、左右のフロントサイドフレーム21,21の前端間に掛け渡したフロントバンパビーム24と、左右のフロントサイドフレーム21,21の前下部から左右のセンタサイドフレーム23,23の前部まで延して接合した左右のサブフレーム25,25と、を一体に備えたモノコックボディである。
【0021】
フレーム延長部22は、センタサイドフレーム23の前端部とフロントサイドフレーム21の後端部とを一体に繋ぐ部材である。
センタサイドフレーム23は、車室14内でフロアパネル26の下を前後に通る部材であり、フロアサイドフレームとも呼ばれている。
【0022】
なお、サブフレーム25の前部は、左右のフロントサイドフレーム21,21の前下部間に掛け渡したクロスメンバ27を介して、フロントサイドフレーム21,21の前下部に取付けることになる。
サブフレーム25は、フロントサイドフレーム21及びセンタサイドフレーム23に、ボルト止めにて着脱可能に取付けてもよい。
【0023】
左右のフロントサイドフレーム21,21に、エンジン41並びにエンジン41に一体的に組込まれたトランスミッション42を取付けることで、車体フレーム20にエンジン41やトランスミッション42を取付けることができる。
ドライブシャフト44は、フロントサイドフレーム21とサブフレーム25との間から車幅外方へ突き出る。
【0024】
図中、31,31はフロントピラー、32,32はフロントダンパハウジング、33,33はアッパメンバである。
【0025】
図2は本発明に係る車両前部(第1実施例)の左側面図であり、エンジンルーム13内で左右のフロントサイドフレーム21,21(この図では左のみ示す。以下同じ。)にエンジン41を取付け、このエンジン41に前輪を連結するドライブシャフト44,44を、左右のフロントサイドフレーム21,21の下方に且つ左右のフレーム延長部22,22の前方に配置したことを示す。
【0026】
第1実施例は、ダッシュボード12よりも前で、左右のフレーム延長部22,22に、左右のドライブシャフト44,44が後方へ移動したときに当たる左右の当接部50,50を設け、これらの当接部50,50の当り面51,51を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフト44,44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44,44を当り面(傾斜面)51,51にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44,44が後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0027】
当り面51,51の前後方向の位置は、ドライブシャフト44,44が前後方向のスイング範囲に一定の余裕代(空きスペース)を考慮して、設定することになる。
当り面51の傾斜角θは、車両10の基準水平線Lh、すなわち車体フレーム20を水平に配置したときの車体フレーム20の基準となる水平線Lhに対して、35°〜45°である。
【0028】
図3は本発明に係る車両前部(第1実施例)の底面図であり、エンジン41に左右のドライブシャフト44,44を介して左右の前輪46,46を連結したことを示す。
さらにこの図は、左右のセンタサイドフレーム23,23の側方にセンタサイドフレーム23,23に沿わせて左右のサイドシル35,35を延し、これらのサイドシル35,35の前部をサイドアウトリガー36,36を介してセンタサイドフレーム23,23に接合したことを示す。サイドシル35,35の前端は前輪46,46に臨む。
【0029】
左右の当接部50,50の大きさや配置については、(1)タイヤチェーンを装着した前輪46が最大転舵角だけ転舵した場合に、タイヤチェーンや前輪46との間隙を十分に保つことができること、及び、(2)トランスミッション42にドライブシャフト44を連結するインボードジョイント(図示せず)や、ドライブシャフト44との、間隙を十分に保つことができることを考慮して決定する。
図中、37はクロスメンバ、47,47はフロントサスペンションである。
【0030】
図4は本発明に係るドライブシャフト及び前輪の関係を示す模式図(第1実施例)であり、トランスミッション42と左のドライブシャフト44と左の前輪46との関係を正面から見たものである。
【0031】
この図は、トランスミッション42の出力側にカップ状のインボードジョイント43を連結し、インボードジョイント43にドライブシャフト44の一端をスイング可能に且つ動力伝達可能に連結し、ドライブシャフト44の他端にカップ状のアウトボードジョイント45をスイング可能に且つ動力伝達可能に連結し、アウトボードジョイント45に前輪46のアクスルハブ(図示せず)を連結したことを示す。インボード・アウトボードジョイント43,45は等速ジョイントである。
なお、実際には、インボードジョイント43に対してドライブシャフト44の一端は、車幅方向へ多少スライド可能に連結された構成である。しかし、理解を容易にするために、スライドする点については無視して考えることにする。
【0032】
図5は本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部斜視図であり、左のフレーム延長部22の前端から、前方の左のドライブシャフト44へ向って、当接部50を延したことを示す。なお、右の当接部50についても同様である。
【0033】
図6は本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部平面図であり、左の当接部50を、左のフロントサイドフレーム21の外側面21aに沿わせて延すとともに、左のフロントサイドフレーム21の幅wd内に収まるように配置したことを示す。
より詳しくは、ドライブシャフト44が上下スイングしていない通常の静止位置(初期位置)にあるときに、ドライブシャフト44がフロントサイドフレーム21の外側面21aに交差する点を基準として、フロントサイドフレーム21の幅wd内に当接部50を配置した。
【0034】
当接部50を、フロントサイドフレーム21よりも車幅方向内方、すなわち車幅中心CL寄りに配置した場合には、車両10が前面衝突したときにエンジン41(図1参照)やトランスミッション42が車幅方向にずれて、当接部50に干渉する心配がある。
一方、当接部50を、フロントサイドフレーム21よりも車幅方向外方に配置した場合には、前輪46(図4参照)が当接部50に干渉する心配がある。
【0035】
これに対して第1実施例は、当接部50を、左のフロントサイドフレーム21の外側面21aに沿わせて延すとともに、左のフロントサイドフレーム21の幅wd内に収まるように配置したので、エンジン41、トランスミッション42及び前輪46に干渉する心配がない。しかも、前面衝突時の衝突エネルギーを、ドライブシャフト44から当接部50を介してフレーム延長部22へ十分に伝えることができる。
なお、右の当接部50についても同様である。
【0036】
図7は図5の7−7線断面図であり、左の当接部50を「平等強さのはり」としたことを示す。「平等強さのはり」とは、どの断面にも一様の応力が生じる梁(はり)のことである。
片持ばりである当接部50には、フレーム延長部22に固定する固定端52に最大曲げ応力が生じるとともに、自由端53へ近づくにしたがって曲げ応力も小さくなる。この点を考慮して当接部50は、自由端53に近づくにつれて断面積が小さくなる、いわゆる先細り形状に形成したものである(上記図5、図6も参照)。
【0037】
このようにすることで、材料の節減や重量の低減を図ることができ、材料力学上、合理的な当接部50とすることができる。しかも、エンジン41やトランスミッション42等に干渉するする心配もない。
なお、右の当接部50についても同様である。
【0038】
図8(a),(b)は本発明に係る当接部(第1実施例)の取付例図である。
(a)は、フレーム延長部22に当接部50を、スポット溶接やMIG溶接などの溶接にて取付ける取付例を示す。(b)は、フレーム延長部22に当接部50を、ボルトやリベット等の締結部材54にて取付ける取付例を示す。
【0039】
図9(a)〜(c)は本発明に係る車両前部(第1実施例)の作用図である。
(a)は、車両10が前面衝突することで、車体フレーム20の前部に衝突エネルギーが作用したことを示す。
【0040】
(b)は、車体フレーム20の前部、すなわちフロントサイドフレーム21が塑性変形して衝突エネルギーを吸収する途中を示す。フロントサイドフレーム21に取付けられたエンジン41や、ドライブシャフト44並びに前輪(図示せず)は、後方へ移動する。この結果、ドライブシャフト44が当接部50の当り面(傾斜面)51に当たる。当接部50は当り面51にて、ドライブシャフト44を後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力を下向きの力に変換する。
【0041】
(c)は、車体フレーム20の前部、すなわちフロントサイドフレーム21が更に塑性変形したことを示す。エンジン41は更に後方へ移動する。この結果、フロントサイドフレーム21の後半部も塑性変形することが可能になり、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0042】
図10(a),(b)は本発明に係る車両前部(第1実施例)の原理図であり、(a)は左側方から見た車両前部を模式的に表し、(b)は(a)の当接部50周りを拡大したものである。
【0043】
(a)に示すように車体フレーム20は、前部のフロントサイドフレーム21を後部のセンタサイドフレーム23よりも高位に配置したものである。車両10が前面衝突したとき、フロントサイドフレーム21にはほぼ水平な後向きの力Wが作用する。このため、車体フレーム20には、センタサイドフレーム23の前部の基点Q(仮想の点)を中心とした、図時計回り方向の第1の曲げモーメントM1が生じる。すなわち、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする第1の曲げモーメントM1が生じることになる。
力Wの作用方向での、基点Qから力Wの作用点までの変位量をL1としたときに、第1の曲げモーメントM1は、次式(1)で求めることができる。
M1=W×L1 (1)
第1の曲げモーメントM1は図時計回りのモーメントであるから、正のモーメントとする。
【0044】
ところで、通常時におけるドライブシャフト44は、(a)の最も左の想像線にて示す位置44Aにある。その後、前面衝突時の衝突エネルギーによりフロントサイドフレーム21が塑性変形したときに、エンジン41(図9参照)が後方へ移動することで、ドライブシャフト44は実線にて示すように後方へ移動して当接部50の当り面51に当たる。
【0045】
当り面51は、後上方へ傾斜角θで傾斜した傾斜面である。ドライブシャフト44は後方へ移動したときに、当り面51をスライドしながら(滑りながら)後上方へ移動し、想像線にて示す位置44Bに至る。このことを詳しく表したのが(b)である。
【0046】
ドライブシャフト44から当り面51に作用する、ほぼ水平な後向きの力をP1とする。力P1の分力は、当り面51に直角な分力P2と当り面51に平行な分力P3とであり、次式(2)、(3)で求めることができる。
P2=P1×sinθ (2)
P3=P1×cosθ (3)
分力P2は、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力P1を当り面51によって変換した、下向きの力である。
【0047】
当接部50及びフレーム延長部22には、基点Qを中心とした図反時計回り方向の第2の曲げモーメントM2が生じる。すなわち、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図反時計回り方向に曲げようとする第2の曲げモーメントM2が生じることになる。
分力P2の作用方向での、基点Qから分力P2作用点までの変位量をL2としたときに、第2の曲げモーメントM2は、次式(4)で求めることができる。
M2=P2×L2 (4)
第2の曲げモーメントM2は図反時計回りのモーメントであるから、負のモーメントとする。
【0048】
一方、ドライブシャフト44と当り面51との間の最大摩擦力をP4としたとき、最大摩擦力P4の大きさは分力P2に比例する。これを次式(5)で表すことができる。但し、μはドライブシャフト44と当り面51との間の摩擦係数(動摩擦係数)である。
P4=μ×P2 (5)
最大摩擦力P4は、ドライブシャフト44が当り面51を滑って後上方へ移動するときの力である。
【0049】
当接部50及びフレーム延長部22には、基点Qを中心とした図時計回り方向の第3の曲げモーメントM3が生じる。すなわち、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする第3の曲げモーメントM3が生じることになる。
力P4の作用方向での、基点Qから分力P4作用点までの変位量をL3としたときに、第3の曲げモーメントM3は、次式(6)で求めることができる。
M3=P4×L3 (6)
第3の曲げモーメントM3は図時計回りのモーメントであるから、正のモーメントとする。
【0050】
第2の曲げモーメントM2と第3の曲げモーメントM3との差を第4の曲げモーメントM4としたとき、第4の曲げモーメントM4を次式(7)で求めることができる。
M4=−M2+M3 (7)
上記第1の曲げモーメントM1と第4の曲げモーメントM4との総和を複合曲げモーメントM0としたとき、複合曲げモーメントM0を次式(8)で求めることができる。
M0=M1+M4=M1−M2+M3 (8)
【0051】
以上の説明から明らかなように、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする、すなわち、車室側へ曲げようとする複合曲げモーメントM0は、第1の曲げモーメントM1の一部を第4の曲げモーメントM4で打ち消して補正した値になる。
従って、第1の曲げモーメントM1は第4の曲げモーメントM4(補正曲げモーメントM4)で補正した分だけ、有利になる。このことを次の図11及び図12に示す。
【0052】
図11は本発明に係る当接部(第1実施例)の補正曲げモーメント特性図であり、横軸に当接部の当り面の傾斜角θを示し、縦軸に補正曲げモーメントM4(kgf・m)を示す。但し、μはドライブシャフトと当り面との間の摩擦係数(動摩擦係数)である。
この図によれば、摩擦係数μが小さいほど、補正曲げモーメントM4の最大値が大きいということが判る。摩擦係数μが0.1〜0.5の範囲においては、当り面の傾斜角θが25°〜40°のときに、補正曲げモーメントM4が最大になる傾向にある。例えば、摩擦係数μが0.1では、当り面の傾斜角θが約35°のときに、補正曲げモーメントM4が最大になる。
【0053】
実際には、摩擦係数μのばらつきがあり得るので、摩擦係数μを小さくすることがより好ましい。さらには、車体フレームの設計の容易性を考えると、当り面の傾斜角θは大きいほうがよい。例えば、傾斜角θを35°〜45°に設定することがより好ましい。
【0054】
図12は本発明に係る車体フレーム前部(第1実施例)の曲げモーメント特性図であり、横軸に前面衝突後の経過時間(msec)を示し、縦軸にフロントサイドフレーム及びフレーム延長部を車室側へ曲げようとする複合曲げモーメントM0(kgf・m)を示す。
なお、Shは当接部の当り面にドライブシャフトが当った時点を示す。Tsは、ドライブシャフトが当り面を後上方へスライドしている時間を示す。時点Shから時間Tsにわたって、ドライブシャフトがスライドしていることになる。
【0055】
破線にて示す曲線Mnは、当接部を設けていない場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。実線にて示す曲線Meは、当接部を設けた場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。
曲げモーメント特性曲線Meに示すように、当接部を設けている場合には、設けない場合に比べて複合曲げモーメントM0の最大値を約30%低減できる効果がある。
【0056】
実験の結果、当接部を設けていない場合には、フロントサイドフレーム及びフレーム延長部が塑性変形して、車室内へ突出する突出量は145mmであった。
これに対し、当接部を設けた場合の複合曲げモーメントM0の最大値を低減することにより、フロントサイドフレーム及びフレーム延長部が塑性変形して、車室内へ突出する突出量は123mmであり、突出量を22mm低減することができた。
【0057】
一方、上述のように突出量を22mm低減するのに、当接部を設けずに、ダッシュボードの板厚を大きくした場合には、ダッシュボードの元の重量1kgf当り1.5kgfの重量を増す結果になった。
【0058】
以上の第1実施例の説明を要約すると、上記図2、図9及び図10に示すように、ダッシュボード12よりも前に当接部50を設けたので、車両10の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレーム21が塑性変形し、これに伴ってドライブシャフト44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44を当接部50の傾斜面51にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力P1を下向きの力P2に変換することができる。ドライブシャフト44が傾斜面51を後上方にスライドするのであるから、後上方への力P4は摩擦力だけであり、下向きの力P2に比べて極めて小さい。
【0059】
下向きの力P2が作用したフロントサイドフレーム21には、下向きの曲げモーメントM2が生じる。この下向きの曲げモーメントM2は、フロントサイドフレーム21に生じている車室14側へ曲げようとする曲げモーメントM1の一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレーム21が曲げモーメントM1によって車室14側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両10が前面衝突したときに、ダッシュボード12の変形をより抑制して、車室14内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボード12の変形を抑制するのに、ダッシュボード12の板厚を大きくする、又は、車体フレーム20の関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0060】
次に、車両の車体前部構造の第2実施例について、図13〜図18に基づき説明する。なお、上記図1〜図12に示す第1実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0061】
図13は本発明に係る車両前部(第2実施例)の左側面図である。
第2実施例は、ダッシュボード12よりも前で、ドライブシャフト44,44(この図では左のみ示す。以下同じ。)が後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部60,60を、左右のサブフレーム25,25から上方へ延ばし、左右の当接部60,60の長さを、左右の当接部60,60が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部22,22に当たる大きさに設定し、左右の当接部60,60が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフト44,44が当たる当り面61,61を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフト44,44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44,44を当り面(傾斜面)61,61にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44,44が後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする。
【0062】
サブフレーム25は、剛性が小さい前半部25Aと剛性が大きい後半部25Bとを、一体に形成した部材である。当接部60を支持する剛性をより確保するためである。後半部25Bの剛性を高めるには、例えば次の構成がある。
【0063】
(1)前半部25Aと後半部25Bとをハイドロフォーム成型法等で一体に成形するとともに、後半部25Bを補強材にて補強することで、後半部25Bの剛性を高めた構成。
(2)前半部25Aの板厚よりも大きい板材を組合わせてレーザ溶接やプラズマ溶接等によって接合することにより、後半部25Bを形成し、この後半部25Bと前半部25Aとをハイドロフォーム成型法等で一体に成形することで、後半部25Bの剛性を高めた構成。
(3)上記(1)や(2)において、更に後半部25Bの外形寸法をより大きくすることで、後半部25Bの剛性をより高めた構成。
【0064】
当り面61の前後方向の位置は、ドライブシャフト44が前後方向のスイング範囲に一定の余裕代(空きスペース)を考慮して、設定することになる。
【0065】
図14は本発明に係るフロントサスペンション周りの模式図であり、正面から見た左のフロントサスペンション47を表す。
車体フレーム10は、フロントサイドフレーム21に上部ブラケット71を設けるとともに、サブフレーム25に下部ブラケット73を設けたものである。
【0066】
フロントサスペンション47は、上部ブラケット71にスイング可能に取付けたアッパアーム72と、下部ブラケット73にスイング可能に取付けたロアアーム74と、ロアアーム74とフロントダンパハウジング32との間に取付けたダンパ75並びにコイルばね76と、アッパアーム72並びにロアアーム74に連結したナックル77とからなる、ダブルウィッシュボーン式サスペンションである。右のフロントサスペンション47も同様である。
【0067】
図15は本発明に係る車体前部(第2実施例)の要部斜視図であり、左のサブフレーム25のうち、後半部25Bの前端部から上方へ左の当接部60を延ばし、左の当接部60の当り面61と前半部25Aの上面との間に下部ブラケット73を掛け渡したことを示す。
前半部25Aは上部コーナのうち、下部ブラケット73の前後に脆弱部81・・・(・・・は複数を示す。以下同じ。)を形成したものである。脆弱部81・・・は、例えばビード又は切欠きから成る。脆弱部81・・・を設けることにより、前半部25Aのうち、下部ブラケット73を取付ける部分の剛性をより確保することができる。
【0068】
左の当接部60は、当り面61を前に向けるとともに左右にフランジ62,62を有するチャンネル状断面体であり、後方へ倒れることが可能なように基端部63を後半部25Bの上面に接合したものである。
なお、右の当接部60及び右の下部ブラケット73ついても同様である。
【0069】
図16は本発明に係る車体前部(第2実施例)の模式図であり、左のフレーム延長部22に対する左の当接部60の関係を表したものであり、上記図13に対応する。
当接部60が後方へ倒れるときの基点をT1とする。基点T1を中心として当接部60が後方へ倒れるときに、当接部60の先端64の旋回軌跡T2は円弧である。当接部60の先端64がフレーム延長部22の前面に接する点をT3とする。点T3における旋回軌跡T2の接線をT4とする。フレーム延長部22のうち、点T3よりも下の部分22aを、接線T4に対して前方へ角度αだけ突き出すことにより、当接部60が後方へ倒れたときの、当り面61の傾斜角θが決定する。
【0070】
傾斜角θは、基点T1と点T3とを通る直線T5の角度であり、車両10の基準水平線Lh、すなわち車体フレーム20を水平に配置したときの車体フレーム20の基準となる水平線Lhに対して、35°〜45°である。
以上の説明から明らかなように当接部60の長さ、すなわち、基点T1から先端64までの長さは、当接部60が後方へ傾斜した状態で、フレーム延長部22に点T3で当たる大きさである。
なお、右の当接部60についても同様である。
【0071】
図17は本発明に係る車両前部(第2実施例)の作用図であり、車両10が前面衝突することで、車体フレーム20の前部に作用した衝突エネルギーを、フロントサイドフレーム21が塑性変形して吸収している途中を示す。
車両10が前面衝突したとき、フロントサイドフレーム21にはほぼ水平な後向きの力Wが作用する。このため、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図時計回り方向に曲げようとする曲げモーメントが生じる。
【0072】
フロントサイドフレーム21の変形に応じて、ドライブシャフト44は後方へ移動して、当接部60の当り面(傾斜面)61を後方へ押し出す。この結果、当接部60は後方へ倒れ、その先端64がフレーム延長部22に当たる。このときの当り面61の傾斜角はθである。このようにして、フレーム延長部22とサブフレーム25の後半部25Bと当接部60とで、側面視略三角形状の閉構造を構成することができる。
【0073】
当接部60は当り面61にて、ドライブシャフト44を後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力を下向きの力P2に変換する。
具体的には、ドライブシャフト44から当り面61に作用する、ほぼ水平な後向きの力をP1とする。力P1は、当り面61に直角な分力P2、すなわち下向きの力P2に変換される。さらには、ドライブシャフト44が当り面61を滑って後上方へ移動するときの摩擦力が、当接部60に伝わる。
これらの力は当接部60の両端から、サブフレーム25の後半部25B及びフレーム延長部22に伝わり、ほぼ水平な後向きの力P5,P6としてセンタサイドフレーム23に伝わる。従って、ドライブシャフト44からの力をセンタサイドフレーム23で効率良く受けることができる。
【0074】
しかも、下向きの力P2により、フロントサイドフレーム21及びフレーム延長部22を図反時計回り方向に曲げようとする曲げモーメントによって、上記図時計回り方向の曲げモーメントの一部を打ち消して緩和させることができる。このように打ち消されて補正された最終的な曲げモーメントのことを、複合曲げモーメントM0と言うことにする。
【0075】
車体フレーム20の前部、すなわちフロントサイドフレーム21は更に塑性変形する。エンジン41は更に後方へ移動する。この結果、フロントサイドフレーム21の後半部も塑性変形することが可能になり、衝突エネルギーを吸収することができる。
【0076】
次に、第2実施例の複合曲げモーメントM0について、図18で説明する。
図18は本発明に係る車体フレーム前部(第2実施例)の曲げモーメント特性図であり、横軸に前面衝突後の経過時間(msec)を示し、縦軸にフロントサイドフレーム及びフレーム延長部を車室側へ曲げようとする複合曲げモーメントM0(kgf・m)を示す。なお、Shは当接部の当り面にドライブシャフトが当った時点を示す。
【0077】
破線にて示す曲線Mnは、当接部を設けていない場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。実線にて示す曲線Meは、当接部を設けた場合のフロントサイドフレーム及びフレーム延長部に生じる曲げモーメント特性曲線である。
曲げモーメント特性曲線Meに示すように、当接部を設けている場合には、設けない場合に比べて複合曲げモーメントM0の最大値を約30%低減できる効果がある。
【0078】
以上の第2実施例の説明を要約すると、上記図13、図17及び図18に示すように、ダッシュボード12よりも前に当接部60を設けたので、車両10の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレーム21が塑性変形し、これに伴ってドライブシャフト44が後方へ移動したときに、ドライブシャフト44を当接部60の傾斜面61にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフト44が後方へ移動するときの力P1を下向きの力P2に変換することができる。ドライブシャフト44が傾斜面61を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力P2に比べて極めて小さい。
【0079】
下向きの力P2が作用したフロントサイドフレーム21には、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレーム21に生じている車室14側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレーム21が曲げモーメントによって車室14側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両10が前面衝突したときに、ダッシュボード12の変形をより抑制して、車室14内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボード12の変形を抑制するのに、ダッシュボード12の板厚を大きくする、又は、車体フレーム20の関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0080】
図19は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第1変形例図である。第1変形例は、上記図16及び図17に示す当接部60が後方へ傾斜したときに、傾斜状態を保持する保持部材82を設けたことを特徴とする。フレーム延長部22の前部に設けた保持部材82にて、当接部60の先端部分を受けることができる。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0081】
図20は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第2変形例図である。第2変形例は、上記図15に示す当接部60のフランジ62,62に脆弱部62a,62aを設けたことを特徴とする。詳しくは、当接部60のうち、下部ブラケット73の上端部を接合した点よりも若干高位に、切欠きから成る脆弱部62a,62aを形成したものである。
【0082】
この場合には、当接部60が後方へ倒れるときの基点は、脆弱部62a,62aの位置である。下部ブラケット73よりも高位で当接部60が後方へ倒れることになるので、下部ブラケット73の剛性をより確保することができる。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0083】
図21は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例図である。第3変形例は、上記図15に示す前半部25Aに設けた脆弱部81・・・の位置を、更に特定したことを特徴とする。
具体的には、前半部25Aのうち、下部ブラケット73の縦板73aを取付ける部分の前後で上部コーナの位置、及び、縦板73aを取付ける部分の後で下部コーナの2箇所の位置に、脆弱部81・・・を設けた。
【0084】
図22は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例の作用図であり、上記図21の構成にすることにより、前面衝突時の衝突エネルギーでサブフレーム25が折れ曲がる位置を、より確実に設定することができることを示す。このため、当接部60が後方へ倒れたときに、フレーム延長部22とサブフレーム25の後半部25Bと当接部60とで構成する、側面視略三角形状の閉構造を、より安定させることができる。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0085】
図23(a),(b)は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第4変形例図である。第4変形例は、(a)に示すように、当接部60の先端64と前半部25Aの上面とに下部ブラケット73を掛け渡したことを特徴とする。具体的には、当接部60と下部ブラケット73とを一体に形成した。下部ブラケット73は、縦板73aと、その上端から当接部60の先端64へ延びた横板73bとからなる。
【0086】
(b)に示すように、後退したドライブシャフト44が当たる当り面は、下部ブラケット73における縦板73aの前面又は横板73bの前面である。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0087】
図24は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第5変形例図である。第5変形例は、上記図23に示す第4変形例を更に変形したものであり、下部ブラケット73の横板73bを、後上方へ傾斜した傾斜板としたことを特徴とする。この傾斜板は、後退したドライブシャフト44が当たる当り面の役割を果たす。
なお、上記図23に示す第4実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0088】
図25は本発明に係る車体前部(第2実施例)の第6変形例図である。第6変形例は、上記図13に示す第2実施例の当接部60を、当接部91に変形したものである。当接部91は、車体フレーム20が変形する前の通常状態において、後上方へ傾斜した当り面91aを有したことを特徴とする。
【0089】
衝突エネルギーによってサブビーム25が塑性変形することで、当接部91が図時計回りに変位し、この結果、当接部91の先端91bがフレーム延長部22の前面に当たったときに、当り面91aは想像線にて示す位置に変位する。このときの当り面91aの傾斜角がθである。
なお、上記図13〜図18に示す第2実施例と同様の構成については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0090】
図26(a)〜(c)は本発明に係る車体前部(第1実施例)の変形例図である。この変形例は、上記図2に示す第1実施例の当接部50を、(b)に示す当接部92に変形したものである。この当接部92は、当り面92aが後上方へ傾斜した曲面にしたことを特徴とする。
【0091】
当り面92aとしては、例えば(a)に示す三角関数の正弦(y=sinθ)のグラフY1のうち範囲Z、すなわち、θ=3π/2〜2πの範囲の曲線に相当する曲面とする。
当り面92aの他の例としては、(c)に示す2次曲線Y2,Y3,Y4の曲線に相当する曲面とする。2次曲線Y2,Y3,Y4は、式(11)、(12)、(13)で表すことができる。
y2=a2−x2 (11)
a2−x2=(x/y)2 (12)
a2−x2=(x+x2)2/y2 (13)
【0092】
このように当り面92aを、後上方へ徐々に湾曲しつつ傾斜した曲面としたことにより、次のような作用、効果を有する。すなわち、後退したドライブシャフト44が当り面92aに当たった瞬間には、当り面92aの傾斜角が小さい方が、車体フレーム20に対して加速度の変化が小さくてすむ。さらには、当り面92aが連続的な角度変化を有するので、ドライブシャフト44の後退を、より滑らかにすることができる。
【0093】
なお、当り面92aのように、後上方へ徐々に湾曲しつつ傾斜した曲面とすることは、上記図13〜図25に示す第2実施例やそれの各変形例の当り面にも適用することができる。
【0094】
【発明の効果】
本発明は上記構成により次の効果を発揮する。
請求項1は、ダッシュボードよりも前で、左右のフレーム延長部に、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面としたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0095】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【0096】
請求項2は、ダッシュボードよりも前で、ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、左右のサブフレームから上方へ延ばし、左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、左右の当接部が後方へ傾斜したときに、ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面ととしたので、車両の前面衝突時にその衝突エネルギーによってフロントサイドフレームが塑性変形し、これに伴ってドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換することができる。ドライブシャフトが傾斜面を後上方にスライドするのであるから、後上方への力は摩擦力だけであり、下向きの力に比べて極めて小さい。
【0097】
下向きの力が作用したフロントサイドフレームには、下向きの曲げモーメントが生じる。この下向きの曲げモーメントは、フロントサイドフレームに生じている車室側へ曲げようとする曲げモーメントの一部を打ち消す作用をする。この結果、フロントサイドフレームが曲げモーメントによって車室側に塑性変形する変形量を、極力抑制することができる。従って、車両が前面衝突したときに、ダッシュボードの変形をより抑制して、車室内のスペースをより十分に確保することができる。
しかも、ダッシュボードの変形を抑制するのに、ダッシュボードの板厚を大きくする、又は、車体フレームの関連するメンバを補強する必要はない。このため、車体重量を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る車両前部(第1実施例)の斜視図
【図2】本発明に係る車両前部(第1実施例)の左側面図
【図3】本発明に係る車両前部(第1実施例)の底面図
【図4】本発明に係るドライブシャフト及び前輪の関係を示す模式図(第1実施例)
【図5】本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部斜視図
【図6】本発明に係る車体前部(第1実施例)の要部平面図
【図7】図5の7−7線断面図
【図8】本発明に係る当接部(第1実施例)の取付例図
【図9】本発明に係る車両前部(第1実施例)の作用図
【図10】本発明に係る車両前部(第1実施例)の原理図
【図11】本発明に係る当接部(第1実施例)の補正曲げモーメント特性図
【図12】本発明に係る車体フレーム前部(第1実施例)の曲げモーメント特性図
【図13】本発明に係る車両前部(第2実施例)の左側面図
【図14】本発明に係るフロントサスペンション周りの模式図
【図15】本発明に係る車体前部(第2実施例)の要部斜視図
【図16】本発明に係る車体前部(第2実施例)の模式図
【図17】本発明に係る車両前部(第2実施例)の作用図
【図18】本発明に係る車体フレーム前部(第2実施例)の曲げモーメント特性図
【図19】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第1変形例図
【図20】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第2変形例図
【図21】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例図
【図22】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第3変形例の作用図
【図23】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第4変形例図
【図24】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第5変形例図
【図25】本発明に係る車体前部(第2実施例)の第6変形例図
【図26】本発明に係る車体前部(第1実施例)の変形例図
【図27】従来の車両の車体前部構造の概要図
【符号の説明】
10…車両、11…車体、12…ダッシュボード、13…エンジンルーム、14…車室、20…車体フレーム、21…フロントサイドフレーム、22…フレーム延長部、23…センタサイドフレーム、25…サブフレーム、41…エンジン、44…ドライブシャフト、46…前輪、50,60,91,92…当接部、51,61,91a,92a…当り面。
Claims (2)
- 車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部と、これらのフレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレームとを備えた車体フレームを有する車両であって、
前記車体前部をダッシュボードにて前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切り、エンジンルーム内で前記左右のフロントサイドフレームにエンジンを取付け、このエンジンに前輪を連結する前記ドライブシャフトを、前記左右のフロントサイドフレームの下方に且つ前記左右のフレーム延長部の前方に配置した車両の車体前部構造において、
前記ダッシュボードよりも前で、前記左右のフレーム延長部に、前記ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たる左右の当接部を設け、これらの当接部の当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする車両の車体前部構造。 - 車体前部の両側で前後に延びた左右のフロントサイドフレームと、これらのフロントサイドフレームの後端から下方へ延びた左右のフレーム延長部と、これらのフレーム延長部の下端から後方へ延びた左右のセンタサイドフレームと、これら左右のフロントサイドフレームの前下部から左右のセンタサイドフレームの前部まで延して接合したサブフレームとを備えた車体フレームを有する車両であって、
前記車体前部をダッシュボードにて前部のエンジンルームと後部の車室とに仕切り、エンジンルーム内で前記左右のフロントサイドフレームにエンジンを取付け、このエンジンに前輪を連結する前記ドライブシャフトを、前記左右のフロントサイドフレームの下方に且つ前記左右のフレーム延長部の前方に配置した車両の車体前部構造において、
前記ダッシュボードよりも前で、前記ドライブシャフトが後方へ移動したときに当たって後方へ倒れる左右の当接部を、前記左右のサブフレームから上方へ延ばし、前記左右の当接部の長さを、左右の当接部が後方へ傾斜した状態で左右のフレーム延長部に当たる大きさに設定し、前記左右の当接部が後方へ傾斜したときに、前記ドライブシャフトが当たる当り面を、後上方へ傾斜した傾斜面とすることで、ドライブシャフトが後方へ移動したときに、ドライブシャフトを傾斜面にて後上方へスライドさせつつ案内するとともに、ドライブシャフトが後方へ移動するときの力を下向きの力に変換するように構成したことを特徴とする車両の車体前部構造。
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