JP2004076056A - セミプロセス用無方向性電磁鋼板 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%にてC:0.005%以下、Si:0.4〜1.7%、Mn:0.65〜1.5%、sol.Al:0.3〜2.3%、P:0.03%以下で、残部がFeおよび不純物であり、Si、MnおよびAlの含有量が下記▲1▼および▲2▼式を満足し、平均結晶粒径が10〜35μmである鋼板、さらにこれに加えて750℃、2時間の歪取り焼鈍後、板面に平行な{222}結晶方位の積分強度が3.0未満であるセミプロセス無方向性電磁鋼板、および1160℃以下に加熱して熱間圧延し、焼鈍して冷間圧延後、700〜900℃にて仕上げ焼鈍を施す上記鋼板の製造方法。
2 ≦ Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ≦ 3 ・・・・・ ▲1▼
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼
【選択図】なし。
Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、モータなど電気機器の鉄心材料に適用される、打抜き等の成形加工後歪取り焼鈍をおこなって使用する無方向性電磁鋼板、すなわちセミプロセス無方向性電磁鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
地球温暖化防止や省エネルギーなどの観点から、各種電気機器の高効率化が進められており、回転機や変圧器などに使用される鉄心材の電磁鋼板にも、低コストであることとともに低鉄損かつ高磁束密度のすぐれた磁気特性を有することが要求されている。
【0003】
小形のモータや小形のトランスに対しては無方向性電磁鋼板が主として使用されるが、これら小形電気機器用では、上記のように低鉄損かつ高磁束密度であることに加えて、打抜き性にすぐれていることも要望される。
【0004】
無方向性電磁鋼板の鉄損値を低下させる手段としては、Si、AlおよびMnの含有量を増し、結晶粒径を大きくする方法が有効であることが知られている。しかしながら、Si、AlあるいはMnの含有量増加は磁束密度を低下させ、さらに、これらの元素の含有量増加は鋼を硬くし、打抜き性の劣化すなわち連続打抜き時の工具摩耗の増大をもたらす。また、複雑化する小形モータのコア形状に対し、結晶粒が大きいことは、ばりやかえりを増し打抜き品の加工精度を悪くする要因の一つとなっている。
【0005】
このように、無方向性電磁鋼板の特性を向上させるために取り得る手段には、一つの特性に着目して改善をおこなうと他の必要特性が劣化することが多く、鋼板のメーカーでは需要家の要望する各特性と製造コストとのバランスから、より性能のすぐれた電磁鋼板の製造が進められている。
【0006】
従来、小形モータ用鉄心に対し、米国では打抜き加工後需要家で焼鈍されることを前提として、軽度の圧延歪みを付加しておき、需要家での焼鈍にて結晶粒が粗大化し、磁気特性が向上するセミプロセス材といわれる電磁鋼板が多く使用されてきた。これに対し鉄鋼メーカー側で十分に焼鈍して所要の電磁特性を持たせ、需要家では焼鈍せずに使用できるようにしたものをフルプロセス材と称する。
【0007】
我が国では、小形モータを主対象とする無方向性電磁鋼板は、多くの場合フルプロセス材の形態を取ってきた。しかし、小形モータのメーカーなど需要家の側では、このフルプロセス材でもモータ用鉄心等の所要形状に打抜いた後、歪取り焼鈍をおこなうと、モータ性能が大きく向上することが知られていた。そして、モータの高性能化の要求が高まるにつれ、製造ラインにこの歪取り焼鈍工程を組込むことも一般的におこなわれるようになっている。
【0008】
需要家で、歪取り焼鈍をおこなうセミプロセス材のような処理方法が多く採用されるようになると、電磁鋼板も当然これに対応した製品が望まれるようになってくる。鉄鋼メーカーでは、通常、出荷時点で良好な特性を備えていることを目標に電磁鋼板を製造しているが、セミプロセス材では、出荷時に磁気特性は悪くても、歪取り焼鈍後には良好な特性が得られることが前提になる。
【0009】
このため、歪取り焼鈍時に容易に粒成長し、しかもそのときに形成される集合組織が、無方向性電磁鋼板の磁気特性に、より好ましいものとなることが要望される。フルプロセス材の場合、磁気特性の確保には結晶粒を大きくすることが望ましく、軟質の鋼板になりやすい。硬さが低下すると打抜き性に関しては、かえりやだれの増加による寸法精度の劣化が問題になるので、硬さを維持するための成分を含有させる必要がある。しかし、セミプロセス材では歪取り焼鈍後に軟質化しても、これは必要特性の対象にはならないので、打抜き性を配慮した成分限定は緩和される利点がある。
【0010】
無方向性電磁鋼板の磁気特性向上対策として、一般的にはCを0.01%以下にした極低炭素鋼をベースに、磁気特性を悪くする非金属介在物形成の原因となるSやOなどの不純物元素元素をできるだけ少なくし、これにSiやAlの電気抵抗を高め磁気特性を向上させ、そして硬さを増す元素を適宜含有させた組成の鋼が使用され、製造工程としては熱間圧延後の、冷間圧延の前に熱延板焼鈍を施すという手段が採用される。
【0011】
セミプロセス型の無方向性電磁鋼板に対しては、組成や製造方法に加え、とくに打抜き後歪取り焼鈍されることを前提に、さらに改良を加えたいくつかの発明が提案されている。たとえば、特開平8−3699号公報にはSiを1.0%以下、Alを0.2〜1.5%とし、Tiを15ppm以下そしてZrを80ppm以下に低くしてREMを2〜80ppm含有させた、歪取り焼鈍後の鉄損のすぐれた無方向性電磁鋼板発明が開示され、特開平8−325678号公報にはSiが1.0〜2.5%である以外は、REMを含有させた同様な組成の鋼板の発明が開示されている。
【0012】
また、特開平11−158589号公報に開示された発明は、とくに不純物のTiの量を0.0015〜0.0050%の範囲内に限定し、歪取り焼鈍後の磁気特性ばらつきを抑止しており、さらに特開2001−294997号公報には、SiとAlとの合計の含有量を1.6〜2.7%の範囲とし、歪取り焼鈍後の磁束密度の向上を図った無方向性電磁鋼板の発明が開示されている。
【0013】
これらの発明は、いずれも熱間圧延後冷間圧延までの間、あるいは熱間圧延後の冷間圧延途中において十分な焼鈍を施し、冷間圧延終了後仕上げ焼鈍した鋼板が、打抜きなどの加工後に歪取り焼鈍を受けたとき、良好な磁気特性が得られるようにしている。
【0014】
需要家における歪取り焼鈍を前提とするセミプロセス無方向性電磁鋼板に関し、上述のように種々開発はおこなわれているが、セミプロセス材の特徴である打抜き加工性にすぐれ、そして歪取り焼鈍後にとくに良好な磁気特性が得られ、かつ合理的に製造できるという観点からは、十分満足できる鋼板が得られているとは言い難い。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、打抜き性が良好で、歪取り焼鈍をおこなったとき、とくにすぐれた磁気特性を示すセミプロセス無方向性電磁鋼板の提供にある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、需要家にて歪取り焼鈍をおこなう、セミプロセス無方向性電磁鋼板の性能を向上すべく種々検討をおこなった。歪取り焼鈍は、現状、打抜き加工後750℃にて1〜2時間均熱する、という条件が需要家にて標準的に採用されており、この焼鈍が施されたときに、すぐれた磁気特性となるものでなければならない。ただし、打抜き加工は歪取り焼鈍前に実施されるので、工場から出荷するときは、打抜き性を向上させる表面絶縁コーティングが施されていることはいうまでもないが、打抜き品の寸法精度がよくかつ工具摩耗を少なくするため、硬さが適度の範囲にある必要がある。
【0017】
無方向性電磁鋼板には、通常Si,Al,MnおよびPなどが添加される。そこで、これら主要元素の効果を再確認すべく、含有量を種々変えた鋼を溶製し、電磁鋼板試料を作製して、その硬さおよび歪取り焼鈍後の磁気特性などへの影響を調査した。
【0018】
750℃にて1〜2時間均熱する歪取り焼鈍は、結晶粒が十分に成長できる条件であり、無方向性電磁鋼板の磁気特性は、一般的に結晶粒が大きいほどすぐれたものとなる。そこで、これらの鋼の溶製に際しては、結晶粒成長を阻害する析出物や介在物を形成するC、S、N、O、あるいはTiなどの不純物元素の含有をできるだけ低くした。
【0019】
鋼板試料の作製は、素材を1140℃に加熱後熱間圧延をおこない、得られた熱延鋼板は800℃、10時間の焼鈍後、圧延率78%として冷間圧延し厚さ0.5mmにした。冷間圧延後の鋼板は、800℃、30秒の仕上げ焼鈍をおこなった。これは工場出荷状態に対応するが、実際の製品では、表面に絶縁皮膜がコーティングされる。仕上げ焼鈍後の鋼板については、硬さおよび結晶粒径を測定した。
【0020】
仕上げ焼鈍した鋼板から、幅30mm、長さ100mmの試験片を打抜き、750℃、2時間の焼鈍をおこなった後、小形単板磁気測定器により鉄損W15/50および磁束密度B50を測定し、断面にて結晶粒径を調査した。なおこの磁気特性は、長さ方向が圧延に平行および直角の方向となる二種の試験片を採取して測定し、その平均値を求めた。
【0021】
このようにして得られた測定結果から、上記主要元素の含有量のおよぼす影響について整理したところ、いくつかの効果があきらかになってきた。まず、Siは、鉄損低下に効果があるが、仕上げ焼鈍後の硬さに大きく影響するので、多くは含有させられない。AlはSi同様鉄損を低下させるが、多く含有させると磁束密度が低下してくる。MnもAlと同様な効果があるがAlほど影響は大きくないようである。このような傾向からそれぞれの元素の含有限界範囲が大略定まってくる。
【0022】
これら3元素の影響について、さらに相互関係もあわせて調べてみると、
Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ・・・・・・ ▲3▼
の式の値で整理すれば、歪取り焼鈍後の鉄損および磁束密度とよい相関があることがわかった。
【0023】
上記▲3▼式の値が大きくなると鉄損が低下し、それとともに磁束密度も低下する。したがって鉄損の目標上限値と、磁束密度の目標下限値が決まれば、▲3▼式の上限値と下限値が設定できる。この式は鋼の電気抵抗とよい相関があり、電気抵抗の増加が鋼板の渦電流損を低下させ、鉄損値を低くするが、一方において、これらの元素の含有量増加は、単位体積あたりのFe量を減少させることになり、磁束密度が低下してくると推測される。
【0024】
しかしながら、各組成の鋼試料の鉄損および磁束密度について調べていくと、上記▲3▼式だけでは、整理できないものも多くあることがわかった。とくに、Mnの含有量の影響は、▲3▼式の関係で整理できるときもあるが、そうでない場合もある。そこで、Mnの影響についてさらに検討した結果、次のようなことがあきらかになってきた。
【0025】
Mn量を変えて鉄損など磁気特性を改善しようとするとき、多すぎる添加は好ましくないのである。その限界を調べてみると、
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼
を満足している必要があることがわかった。すなわち、Mnの含有量増加は、ある程度SiやAlが含有されていないと効果が得られない。Mn量がこの▲2▼式を満足しない値になると、▲3▼式で整理される鉄損や磁束密度と成分含有量との関係が成立しなくなり、予期する磁気特性を大きく下回る性能のものしか得られなくなってしまう。すなわち▲3▼式を使って目的の磁気特性を有する電磁鋼板得るための成分選定ができなくなる。
【0026】
この▲2▼式で示された条件は、主として歪取り焼鈍時の結晶粒成長性に関係しているようであり、Mn含有量が▲2▼式の値を満足しない場合、結晶粒が大きくなりにくい。SiおよびAlはフェライト相生成元素であるが、Mnはオーステナイト相生成元素である。このため、熱間圧延や熱延板焼鈍の過程で、変態温度低下により粒成長を阻害する微細析出物の分散状態に影響し、これが歪取り焼鈍時の結晶粒成長に影響しているのではないかと思われた。
【0027】
無方向性電磁鋼板の磁気特性向上には、前述のように電気抵抗を増すことが鉄損改善に効果があり、合金成分を必要以上に多くしないことが磁束密度確保に有効である。そして結晶粒径を大きくすることは、磁化によるヒシテリシス損を低減させるので、鉄損低減に効果がある。Mn量が不適当で▲2▼式が満足されない場合、結晶粒の成長が不十分となると推測されたが、結晶粒が大きくならないことはこのように磁気特性が改善されない結果となる。
【0028】
また、MnはPとの相互作用があり、P量が高くなるとMn量を増すことによる鉄損の低減効果が小さくなることがわかった。その上、P量が高ければ、Mn増加により磁束密度が低下するが、P量を少なくすると、Mnを増すことにより磁束密度が増加する傾向も見出された。したがって、Mn含有量を増加して鉄損低下など磁気特性を改善しようとするとき、P含有量はできるだけ少なくする方がよい。
【0029】
フルプロセス無方向性電磁鋼板の場合、Pは少量で鋼板の硬さを増加させ、しかも磁気特性にはほとんど影響しないので、打抜き性の改善に好んで添加される。これに対しセミプロセス無方向性電磁鋼板では、歪取り焼鈍の前に打抜きがおこなわれるので、仕上げ焼鈍条件を制御して結晶粒径を小さくしたり、歪みを導入したりして硬くできるので、Pを多く添加する必要はない。
【0030】
無方向性電磁鋼板の磁気特性向上には、前述のように合金元素をできるだけ増さないで電気抵抗を大きくすること、そして結晶粒径を大きくすることが鉄損改善に効果があるが、それに加えて、鋼板を構成する結晶の優先方位、すなわち集合組織が磁化に好ましい状態であるとき、ヒシテリシス損減少による鉄損低減が得られ、その上磁束密度が向上する。
【0031】
Mn含有量とP含有量がそれぞれ異なる歪取り焼鈍後の鋼板試料にて、板面に平行な{222}結晶方位についてのX線回折積分強度を調べてみると、Mn量が少なくP量が多い場合はこの{222}面の積分強度が強く、Mn量が多くP量が少ない場合はその強度が弱い。集合組織として板面に平行な{222}面の積分強度が強いということは、鋼板が磁化される板面方向において、鉄の結晶の容易磁化方位である<100>軸の存在量が少ないことを意味しており、それが磁化特性が劣る結果をもたらしたと考えられる。MnとPの存在が、何故このように集合組織に影響するのかその理由はよくわからないが、Mn量とP量とを制御することにより、歪取り焼鈍後の磁気特性を向上させ得ることはあきらかである。
【0032】
鋼の組成に関し、上述のようにして範囲を選定するとともに、鋼塊をセミプロセス無方向性電磁鋼板とするための、好ましい製造条件についても種々検討をおこなった。まず、熱間圧延をおこなう際の鋼片加熱温度は、できるだけ低くすることが、歪取り焼鈍時の結晶粒成長を促進するために必要である。しかし、過度に低くすると熱間圧延加工が困難になったり、熱延板の焼鈍時に結晶粒が十分成長しないこともあるので、加熱温度範囲は限定される。
【0033】
無方向性電磁鋼板の製造に一般的に用いられている熱間圧延後の熱延板の焼鈍は、このセミプロセス無方向性電磁鋼板においても磁気特性を向上させる。これは、冷間圧延前の鋼板の結晶粒を大きくしておくことにより、冷間圧延後の焼鈍で、鋼板の磁気特性に好ましい集合組織が形成されるためとされている。さらに微細析出物の分布や形態を変化させ、歪取り焼鈍の際の結晶粒成長を阻害しないようにする効果もあると考えられる。
【0034】
冷間圧延後の仕上げ焼鈍は、フルプロセス無方向性電磁鋼板の場合、十分に焼鈍して圧延の加工歪みを取り結晶粒を大きくしておく必要がある。しかし、セミプロセス無方向性電磁鋼板では、後で歪取り焼鈍が施されるので、打抜きに適した硬さとし、歪取り焼鈍時に結晶粒成長が容易になる適度の大きさの結晶粒になるよう、焼鈍温度は低く抑える。
【0035】
以上のような検討結果に基づき、セミプロセス電磁鋼板製品として良好な打抜き性を示す領域である、ビッカース硬さHV125〜145の範囲内にあること、そして750℃、2時間の歪取り焼鈍後の磁気特性が板厚が0.5mmに対し鉄損は3.0W/kg以下でかつ磁束密度は1.70以上であること、を目標とし、成分範囲および製造方法の限界条件をさらに検討した。本発明は、このような検討の結果によるものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0036】
(1) 質量%にてC:0.005%以下、Si:0.4〜1.7%、Mn:0.65〜1.5%、sol.Al:0.3〜2.3%、P:0.03%以下、S:0.004%以下、Ti:0.002%以下、N:0.005%以下で、残部がFeおよび不純物であり、Si、MnおよびAlの含有量が下記▲1▼および▲2▼式を満足し、かつ平均結晶粒径が10〜35μmであることを特徴とするセミプロセス無方向性電磁鋼板。
【0037】
2 ≦ Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ≦ 3 ・・・・・ ▲1▼
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼
(2) 質量%にてC:0.005%以下、Si:0.4〜1.7%、Mn:0.65〜1.5%、sol.Al:0.3〜2.3%、P:0.03%以下、S:0.004%以下、Ti:0.002%以下、N:0.005%以下で、残部がFeおよび不純物であり、Si、MnおよびAlの含有量が下記▲1▼および▲2▼式を満足し、平均結晶粒径が10〜35μmであって、かつ750℃、2時間の歪取り焼鈍後、板面に平行な{222}結晶方位の積分強度が3.0未満であることを特徴とするセミプロセス無方向性電磁鋼板。
【0038】
2 ≦ Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ≦ 3 ・・・・・ ▲1▼
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼
(3) 鋼片加熱温度を1000〜1160℃として熱間圧延し、得られた熱延板に750〜950℃で5〜50時間の箱焼鈍、または950〜1100℃の連続焼鈍を施し、冷間圧延後、700〜900℃にて仕上げ焼鈍をおこなうことを特徴とする上記(1)または(2)のセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0039】
【発明の実施の形態】
本発明の無方向性電磁鋼板において、成分範囲を限定した理由は次のとおりである。含有量はいずれも質量%で示す。
【0040】
C:0.005%以下
Cは鋼の磁気特性を低下させるので、その含有量は少なければ少ないほどよい。0.005%以下であればその影響はほとんど無視できるが、0.005%を超えると磁気時効を生じ使用中の磁気特性劣化をもたらすことがあるので、0.005%以下とする。なお0.0005%以上含有していると打抜き性が改善されることもある。
【0041】
Si:0.4〜1.7%
Siは鋼の電気抵抗を増し、硬さを上昇させる。このため鉄損低減および打抜き性確保のため含有させるが、0.4%未満ではこのような効果が十分得られない。しかし、1.7%を超えると硬くなりすぎ、打抜き工具の摩耗が増大する。したがって含有範囲を0.4〜1.7%とするが、好ましい磁気特性と硬さを得るには0.6〜1.4%とするのが望ましい。
【0042】
Mn:0.65〜1.5%
Mnは、電磁鋼板に対しては、鋼に不可避的に混入してくるSが微細析出物となって、結晶粒成長を阻害しないよう、0.2〜0.3%程度含有させるのが普通である。しかし、Mnは、鉄損の低減や磁気特性に好ましい集合組織をもたらす効果があり、本発明では通常よりは多く含有させる。このMnの効果を十分発揮させるにはSiおよびAlを多く含有させる必要があり、それによる硬さ上昇や磁束密度低下が著しくなるので、Mnの含有量は多くても1.5%までとする。
【0043】
sol.Al:0.3〜2.3%
sol.Al(酸可溶Al)はSiと同様、電気抵抗を増加させ、鉄損を低減させる効果がある。Alの添加はSiに比し鋼の硬さの上昇が少ないので、鉄損の低減に有効に利用できる。この鉄損低減の作用を効果的に活用するため0.3%以上を含有させる。また鋼中のNはAlと結合してAlNを形成し、AlNが微細に分散していると磁気特性に悪影響をもたらすが、sol.Alを0.3%以上含有させれば、AlN析出物が粗大になり無害化する効果もある。しかし、sol.Alは多くなると磁束密度が低下してくるので、2.3%までとする。上記のようなsol.Al含有の効果をより十分に発揮させるためには、その含有範囲を0.5〜1.5%とするのが望ましい。
【0044】
Si、MnおよびAlの個々の元素の含有範囲は上記のとおりであるが、これらの三元素を含有させたセミプロセス無方向性電磁鋼板とするときは、各元素の含有量は、次の▲1▼式および▲2▼式を満足していなければならない。
【0045】
2 ≦ Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ≦ 3 ・・・・・ ▲1▼
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼
▲1▼式中央のSi、MnおよびAlの合計量、すなわち前出▲3▼式の値は、2(%)を下回るときは歪取り焼鈍後の鉄損が高くなってしまい、3(%)を超えるときは磁束密度が低下し、いずれも磁気特性としては劣るものとなる。またMnの含有量は▲2▼式を満足する範囲でなければならず、この範囲を超えてMn含有量が高いときは、鉄損、磁束密度とも劣った特性になる。
【0046】
P:0.03%以下
Pは少量の含有で硬さを大きく上昇させる作用があり、打抜き性改善のために硬さを確保する場合、効果的に使用できる。しかしながら本発明においては、Pの含有量を0.03%以下に限定する。これはMn量が高い場合、0.03%を超えるPの含有は磁気特性を悪くするからである。
【0047】
前述の主要元素の歪取り焼鈍後の磁気特性におよぼす効果を調査した際の、Mn含有量の異なる材料にて、鉄損および磁束密度におよぼすP含有量の影響を調べた結果の例を図1および図2に示す。この場合、Siは1.0%、Alは1.0%の一定とし、圧延や焼鈍などの条件はすべて同じとしている。
【0048】
これらの図から、P含有量を低減すると鉄損は低下し、磁束密度が増加する傾向のあることがわかる。ところが、Mn含有量が0.7%の場合は、Mnが0.2%の場合に比較して、P含有量低減による鉄損の低下は大きく、そして磁束密度の向上ははるかに大きいのである。これからMnを多く含有させるとき、P含有量は低く、すなわち0.03%以下とするのが、磁気特性向上に有効であることがあきらかである。
【0049】
このようにPの含有量は0.03%以下とするが、少なければ少ないほど磁気特性は向上する。より望ましいのは、0.02%以下である。
【0050】
S:0.004%以下
Sは微細析出物を形成し、結晶粒成長を阻害するばかりでなく、磁気特性を悪くするので少なければ少ないほどよい。このような悪影響が現れない範囲として0.004%以下に限定する。
【0051】
Ti:0.002%以下
Tiは原料鉄鉱石等から混入してくるが、C、SおよびNなどと結合して微細な析出物を形成し、結晶粒の成長を著しく阻害する。したがって歪取り焼鈍にて結晶粒成長をさせるセミプロセス無方向性電磁鋼板においては、極力低減する必要がある。このような悪影響が顕著に現れない範囲として0.002%以下に限定する。
【0052】
N:0.005%以下
NはTiやAlと結合して微細な析出物を形成し結晶粒成長を阻害する。したがってこのような影響が現れないように、0.005%以下に限定するが、その含有量は少なければ少ないほどよい。
【0053】
セミプロセス無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径は10〜35μmであることとする。これは鋼板の硬さが打抜き性に好ましい硬さになっているためである。10μmを下回る場合、硬すぎて打抜き金型の摩耗が進みやすい。35μmを超えると柔らかすぎて、打抜き品の寸法精度低下を来したり、降伏点の低下により、スリットコイルにしたとき巻き癖を残すことがある。また、この歪取り焼鈍前の鋼板の結晶粒径は、小さすぎても大きすぎても、歪取り焼鈍時の粒成長がよくない結果を示すので、平均結晶粒径は10〜35μmとする。
【0054】
750℃、2時間の歪取り焼鈍をおこなった後の鋼板において、板面に平行な{222}面のX線回折積分強度が3.0未満であることが好ましい。{222}面の積分強度は鉄損および磁束密度とよい相関があり、この値が小さいほどすぐれた磁気特性を示す。歪取り焼鈍後に、よりすぐれた磁気特性を示す場合は、{222}面の積分強度が3.0以下になる。この積分強度は、全く集合組織を持たない鉄の結晶粉末試料における{222}のX線回折積分強度を1としたときの比で示した相対強度であり、0までの値を取り得る。この値は小さければ小さいほど相対的に板面方向の磁気特性に好ましい方位が増すと考えられるので、とくに下限値は定めないが、望ましいのは2.0以下である。
【0055】
なお、この積分強度の測定は、板厚方向の位置での平均値に近い値が得られるので、板面に平行な1/4厚さの位置とする。
【0056】
上述のセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造は、通常の無方向性電磁鋼板の製造方法に準じておこなえばよく、とくに目的とする特性を実現するために次のような点に配慮するとよい。
【0057】
熱間圧延の鋼片加熱温度を1000〜1160℃とする。1160℃を超える温度に加熱すると、結晶粒成長性が悪くなり、歪取り焼鈍後に十分な磁気特性が得られなくなる。これは、1160℃を超える加熱は、MnSなどの析出物相が再固溶してしまい、熱間圧延中に有害な微細析出物化するためである。しかし加熱温度を低くしすぎると、熱間圧延や冷間圧延での板厚精度低下の原因になることがあるので1000℃以上とする。
【0058】
熱間圧延後、熱延板の焼鈍をおこなう。この焼鈍は、歪取り焼鈍時の粒成長性をよくし、磁気特性を向上させる効果があり、コイル箱焼鈍法でも連続焼鈍法でもよい。箱焼鈍法の場合、750〜950℃で、5〜50時間均熱がよく、連続焼鈍法の場合は、950〜1100℃の加熱でよい。この焼鈍は、冷間圧延前の鋼板の結晶粒を大きくし、微細析出物を凝集させたり粗大化させ無害化する効果がある。焼鈍の温度または時間が上記の範囲を下回る場合は、このような効果が十分得られず、その限定範囲を超える場合は、それ以上の改善が得られず無駄な加熱となるばかりでなく、析出相の再固溶が生じ、粒成長性を悪くすることもある。
【0059】
焼鈍後の熱延板は、目的とする板厚にまで冷間圧延するが、冷間圧延率は60〜90%の範囲でおこなえばよく、要すれば中間で焼鈍してもよい。冷間圧延率がこの範囲であれば、目的とするセミプロセス無方向性電磁鋼板製品としての平均結晶粒にすることができる。
【0060】
冷間圧延後の仕上げ焼鈍は、通常の無方向性電磁鋼板の連続焼鈍処理設備でおこなうが、温度範囲は700〜900℃とすればよい。仕上げ焼鈍温度が700℃未満では、十分に軟化せず打抜きには硬すぎたり、結晶粒が小さすぎる結果になり、900℃を超える場合、打抜きには柔らかすぎたり、結晶粒が大きくなりすぎて、コイルにしたときの巻き癖が生じて打抜き後鉄心の積層不良を生じやすくする。焼鈍の均熱時間は、この温度に到達すればよく、とくには限定しないが、長すぎても生産性を低下させるだけなので、60秒以下とするのがよい。
【0061】
【実施例】
〔実施例1〕
表1に示す組成の鋳片を真空溶解にて溶製し、加熱温度を1150℃として熱間圧延して3mmに仕上げ、これら熱延鋼板を800℃にて10時間焼鈍後、表面の脱スケ−ルおよび研削をおこなって板厚2.3mmとし、冷間圧延して0.5mm厚とした。得られた鋼板は、800℃にて30秒間の仕上げ焼鈍をおこなった後、結晶粒径および表面硬さを測定した。仕上げ焼鈍後の鋼板から幅30mm、長さ100mmの試験片をプレス打抜きにより、試験片の長さ方向が圧延方向および圧延直角方向となるように取り、750℃、2時間の歪取り焼鈍焼鈍して、小形単板磁気測定器により平均の鉄損W15/50および磁束密度B50を測定し、断面にて結晶粒径の調査、1/4厚さ位置にてX線回折による{222}面の反射積分強度を測定した。
【0062】
結果を表2に示すが、試験番号2、3、6、7および8が、当初目標とした歪取り焼鈍後の磁気特性が鉄損W15/50が3.0W/kg以下、磁束密度B50が1.7以上という判定基準を満たす結果になっている。これに対し、試験番号4および10は鉄損が3.0W/kgを超えており、試験番号5および9は磁束密度が1.7を下回っている。試験番号4、5および9はいずれも式▲1▼にて規制したSi、MnおよびAl含有量の関係を逸脱するものであり、試験番号10はMn量が規制範囲を超えているばかりでなく、式▲2▼にて規制する範囲も満足していない。また、試験番号1は、歪取り焼鈍後磁気特性は目標値を超えているが、硬さが高く好ましくない。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
〔実施例2〕
転炉にて精錬し真空処理後連続鋳造して得た、厚さ230mmの表3に示す化学組成の鋼片を用い、加熱温度1140℃として熱間圧延をおこない厚さ2.3mmの熱延鋼板とした。熱延鋼板は水素雰囲気中にて800℃、10時間の焼鈍をおこなった後、冷間圧延して0.5mm厚とし、連続処理ラインにて仕上げ焼鈍を施し表面に絶縁皮膜を塗布した。このようにして得られた鋼板について、表面硬さおよび結晶粒径を測定した。これらの鋼板から幅30mm、長さ280mmの試験片を長さ方向が圧延方向または幅方向となるようにして二方向で採取し、窒素雰囲気中にて750℃、2時間の歪取り焼鈍をおこなった。歪取り焼鈍後の試験片はJIS−C−2550に準じてエプスタイン枠を用い鉄損W15/50および磁束密度B50を測定した。またこれらの試験片については、平均結晶粒径および1/4厚さ位置における{222}面積分強度も測定した。上述の各特性の測定結果を表4に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
表3にて鋼番号MおよびNは、化学成分が本発明で定める範囲に入っているが、他の番号の鋼はいずれも本発明範囲外である。これら二種の鋼から製造された電磁鋼板は、表4の特性測定結果の試験番号13および14と他の試験結果との比較からあきらかなように、歪取り焼鈍後の鉄損が低く、かつ磁束密度が高い結果を示している。また、{222}面積分強度も他の鋼の場合に比し低い値となっている。
【0069】
〔実施例3〕
表3にて、MおよびNとして示した化学組成の鋼片を用い、熱間圧延の加熱温度、熱延板の焼鈍条件、および冷間圧延後の仕上げ焼鈍温度を変え、得られた鋼板について、表面硬さおよび結晶粒径を測定し、さらに試験片を切り出して歪取り焼鈍のおこなった後、磁気特性および{222}面積分強度を測定した。これら鋼板の特性測定方法はいずれも実施例2と同じである。この場合、内径510mm幅80mmのスリットコイルの内径近くから長さ300mmを切り出し、定盤上においてそのそり高さを測定することにより、巻き癖の発生を調査した。これらの処理条件、および特性測定結果を合わせて表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
鋼番号MおよびNは、化学組成がいずれも本発明で規定する範囲内である。このため、表5の結果では、歪取り焼鈍後の磁気特性はほとんどの場合、W15/50が3.0W/kg以下、B50が1.70以上という当初の目標値が達成されている。そして、試験番号21、23、28および30の結果と、試験番号19、20、22、24、25、26、27、29、31および32の結果との対比から、本発明の組成範囲を有する鋼にて、鋼板製造工程の諸条件を限定することにより、さらに一層すぐれた歪取り焼鈍後磁気特性を有するセミプロセス無方向性電磁鋼板の得られることがわかる。
【0072】
ただし、仕上げ焼鈍の温度が低すぎる試験番号24および31では、結晶粒が小さく硬さの高い鋼板となっており、仕上げ焼鈍温度が高すぎる試験番号25および32では、結晶粒が大きくなりすぎて、コイルに巻き癖が残って切り出し試験片にそりが生じている。
【0073】
【発明の効果】
本発明のセミプロセス無方向性電磁鋼板は、打抜き性に好ましい硬さを有し、歪取り焼鈍後の磁気特性がすぐれている。したがって、小形のモータや変圧器など電気機器用の鉄心として、とくに歪取り焼鈍して使用する場合に、低損失かつ高効率な機器とすることができ、省エネルギーなど産業へ寄与が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】歪取り焼鈍後の鉄損W15/50におよぼす、Mn量が異なる場合のP含有量の影響を示す図である。
【図2】歪取り焼鈍後の磁束密度B50におよぼす、Mn量が異なる場合のP含有量の影響を示す図である。
Claims (3)
- 質量%にてC:0.005%以下、Si:0.4〜1.7%、Mn:0.65〜1.5%、sol.Al:0.3〜2.3%、P:0.03%以下、S:0.004%以下、Ti:0.002%以下、N:0.005%以下で、残部がFeおよび不純物であり、Si、MnおよびAlの含有量が下記▲1▼および▲2▼式を満足し、平均結晶粒径が10〜35μmであることを特徴とするセミプロセス無方向性電磁鋼板。
2 ≦ Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ≦ 3 ・・・・・ ▲1▼
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼ - 質量%にてC:0.005%以下、Si:0.4〜1.7%、Mn:0.65〜1.5%、sol.Al:0.3〜2.3%、P:0.03%以下、S:0.004%以下、Ti:0.002%以下、N:0.005%以下で、残部がFeおよび不純物であり、Si、MnおよびAlの含有量が下記▲1▼および▲2▼式を満足し、平均結晶粒径が10〜35μmであって、かつ750℃、2時間の歪取り焼鈍後、板面に平行な{222}結晶方位の積分強度が3.0未満であることを特徴とするセミプロセス無方向性電磁鋼板。
2 ≦ Si(%)+0.5Mn(%)+Al(%) ≦ 3 ・・・・・ ▲1▼
Mn(%) ≦ Si(%)+2Al(%)−0.5 ・・・・・ ▲2▼ - 鋼片加熱温度を1000〜1160℃として熱間圧延し、得られた熱延板に750〜950℃で5〜50時間の箱焼鈍、または950〜1100℃の連続焼鈍を施し、冷間圧延後、700〜900℃にて仕上げ焼鈍をおこなうことを特徴とする請求項1または2に記載のセミプロセス無方向性電磁鋼板の製造方法。
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