JP2004074502A - 印刷版材料、その包装方法及び印刷版 - Google Patents
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Abstract
【課題】印刷適性の向上、特に耐刷性に優れた親水性層を有する印刷版材料及びプロセスレス印刷版を提供すること。
【解決手段】支持体上に親水性層を有する印刷版材料であって、前記支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする印刷版材料。
【選択図】 なし
【解決手段】支持体上に親水性層を有する印刷版材料であって、前記支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする印刷版材料。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷版材料及び印刷版に関し、特に、コンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な印刷版材料及びCTP方式により画像形成する印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷データのデジタル化に伴い、安価で取扱いが容易でPS版と同等の印刷適性を有したCTPが求められている。特に近年、特別な薬剤による現像液処理が不要な、いわゆるプロセスレス印刷版への期待が高まっている。
【0003】
プロセスレス印刷版の構成としては、PS版と同じアルミ砂目を用いる場合も考えられるが、層構成の自由度やコストダウンの観点から、塗布形成された親水性層を有する種々の方式のプロセスレス印刷版が提案されている。
【0004】
プロセスレス印刷版の画像形成方式の一つとして有力であるのが、赤外線レーザー記録であり、大きく分けて、後述するアブレーションタイプと熱融着画像層機上現像タイプ及び熱溶融転写タイプの三種の記録方法が存在する。
【0005】
赤外線レーザー記録では、高解像度画像を短時間で記録することが可能となるが、露光系の装置価格が高いという問題を有している。
【0006】
アブレーションタイプとしては、例えば、特開平8−507727号、同6−186750号、同6−199064号、同7−314934号、同10−58636号、同10−244773号に記載されているものが挙げられる。これらは、例えば、支持体上に親水性層と親油性層とを有し、何れかの層を表層として積層したものである。表層が親水性層であれば、画像様に露光し、親水性層をアブレートさせて画像様に除去して親油性層を露出することで画像部を形成することができる。ただし、アブレートした表層の飛散物による露光装置内部の汚染が問題となるため、親水性層上に更に水溶性の保護層を設けて、アブレートした表層の飛散を防止し、印刷機上で保護層とともにアブレートした表層を除去する方式も提案されている。
【0007】
熱融着画像層機上現像タイプとしては、特許2,938,397号や特許2,938,397号に開示されているような、親水性層もしくはアルミ砂目上に、画像形成層に熱可塑性微粒子と水溶性の結合剤とを用いたものが挙げられる。しかし、親水性支持体としてアルミ砂目を用いた場合には、光熱変換素材(一般的には可視光にも着色している)を画像形成層に添加する必要があり、現像した際に印刷機を汚染する懸念があるため、層構成としては支持体上に光熱変換素材を含有した親水性層を形成したものを使用して、画像形成層からは光熱変換素材を除いたものの方が有利である。
【0008】
又、熱溶融転写方式としては、例えば、マンローランド社のDICOwebのような熱転写リボンを用いて、アルミ砂目ではなく、繰り返し使用可能な親水性表面を有する金属スリーブに熱溶融素材を画像様に転写した後、加熱して画像を定着させる方法が挙げられる。
【0009】
このように、赤外線レーザー記録用のプロセスレス印刷版としては、何れのタイプの記録原理ではあっても、印刷版非画像部の水受容表面として塗布形成された親水性層を用いるのがほとんどである。
【0010】
一方、プロセスレス印刷版の画像形成方法として、もう一つの有力な方法は、インクジェット記録方式であり、種々の記録方法や画像形成素材が提案されている。インクジェット記録方式は、現状では赤外線レーザー記録方式ほどの高解像度及び記録速度を得ることはできていないが、装置価格が比較的安価であるという利点も有している。
【0011】
インクジェット記録方式によるプロセスレス印刷版は、一般的には親水性表面を有する印刷版材料に、親油性の画像形成素材を画像様に付与し、その後、必要であれば画像定着もしくは画像強度向上のための処理を行って作製される印刷版である。画像形成素材を含む記録用インクとしては、例えば、特開平5−204138号に開示されているような光重合性インク組成物や、同9−58144号に開示されているようなホットメルトインク、同10−272753号に開示されているような油性インクなどが挙げられ、親水性表面を有する印刷版材料としては、アルミ砂目や親水性層を有する印刷版材料が挙げられるが、インクジェット記録の特徴として、滴下後のインクの広がり抑制やインクの定着性の観点から、被記録材料には適度なインク吸収性が要求され、印刷版材料としては多孔質な親水性層を有する印刷版材料である方が有利である。
【0012】
このように、プロセスレス印刷版の種々の画像記録方式には、アルミ砂目を用いた印刷版材料よりも、塗布形成した親水性層を有する印刷版材料が適していると言える。
【0013】
しかしながら、これらのプロセスレス印刷版は、印刷適性、特に耐刷性が不十分な性能であった。又印刷版の取り扱い時の耐傷性において十分な性能が得られていないという問題があった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は印刷適性の向上、特に耐刷性に優れた親水性層を有する印刷版材料及びプロセスレスに適応出来る印刷版を提供することである。又、第2の目的は得られた印刷版材料にカールの生じにくい包装方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記の目的は、以下の構成により達成された。
【0016】
1.支持体上に親水性層を有する印刷版材料であって、前記支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする印刷版材料。
【0017】
2.前記親水性層が多孔質構造であることを特徴とする前記1に記載の印刷版材料。
【0018】
3.支持体上に熱で画像形成可能な画像形成機能層を有し、かつ支持体上の何れか1層が光熱変換素材を含有することを特徴とする前記1又は2に記載の印刷版材料。
【0019】
4.支持体上に親水性層、熱で画像形成可能な画像形成機能層をこの順に有し、かつ前記画像形成機能層が熱溶融性又は熱融着性微粒子を含有することを特徴とする前記3に記載の印刷版材料。
【0020】
5.ロール状に巻かれていることを特徴とする前記1〜4の何れか1項に記載の印刷版材料。
【0021】
6.前記1〜5の何れか1項に記載の印刷版材料を湿度20〜60%RHで包装することを特徴とする印刷版材料の包装方法。
【0022】
7.前記1〜5の何れか1項に記載の印刷版材料の親水性層上に、画像形成素材を画像様に付与することにより画像が形成されたことを特徴とする印刷版。
【0023】
8.前記画像が、画像形成素材を含むインクをインクジェット方式により付与、形成されたものであることを特徴とする前記7に記載の印刷版。
【0024】
9.前記画像形成素材を含むインクが、放射線硬化性インクであることを特徴とする前記8に記載の印刷版。
【0025】
10.前記画像が、放射線硬化性インクをインクジェット方式により付与した後、光を照射して形成されたものであることを特徴とする前記8に記載の印刷版。
【0026】
本発明の印刷版材料は、支持体上に親水性層を有し、使用される支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする。
【0027】
本発明においては、立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることが特徴である。立ち上がりカールの測定は、試料を23℃・50%RHで2日間調湿した後、440×610mmに裁断し、外径3インチのボール芯に乳剤側をボール芯に接触するように巻付けバリア袋に封入し、40℃で2日間放置し、その後、23℃・20%RHの条件下で試料をボール芯から巻剥がし、平らな机の上に、ボール芯に接触していた側を上に置き、試料の4隅が机から浮き上がっている高さを測定する。
【0028】
本発明において支持体の「立ち上がりカール」とは、その4隅の浮き上がっているカールの高さの最大の値を示す高さを意味する。
【0029】
立ち上がりカールを本発明の範囲である0mm以上60mm以下にするには様々な手段を組み合わせることで達成できるが、下記の1〜6の手段を複数用いることが好ましい。
【0030】
1.支持体として、120℃での弾性率(E120)が100〜600kg/mm2であるプラスチックフィルムを使用すること
このような条件を満足するプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができるが、ハンドリング適性を得るために120℃での弾性率(E120)が100〜600kg/mm2であることが好ましく、より好ましくは120〜500kg/mm2である。具体的にはポリエチレンナフタレート(E120=410kg/mm2)、ポリエチレンテレフタレート(E120=150kg/mm2)、ポリブチレナフタレート(E120=160kg/mm2)、ポリカーボネイト(E120=170kg/mm2)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=220kg/mm2)、ポリエーテルイミド(E120=190kg/mm2)、ポリアリレート(E120=170kg/mm2)、ポリスルホン(E120=180kg/mm2)、ポリエーテルスルホン(E120=170kg/mm2)等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、積層又は混合して用いても良い。特に好ましいプラスチックフィルムとしてはポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートである。
【0031】
これらの支持体中にはハンドリング性向上のため0.01〜10μmの微粒子を1〜1000ppm添加するのも好ましい。
【0032】
2.支持体の平均厚みを50〜500μmとし、厚み分布を0〜10%とすること
本発明に使用出来る支持体の平均厚みは、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが好ましく、より好ましくは80〜350μmであり、更に好ましくは100〜300μmである。
【0033】
更に上記支持体の厚み分布(厚みの最大値と最小値の差を平均厚みで割り百分率で表した値)が0〜10%、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜6%である。
【0034】
支持体の厚み分布の測定方法は、一辺が60cmの正方形に切り出した支持体を縦、横10cm間隔で碁盤目状に線を引き、この36点の厚みを測定し平均値と最大値、最小値を求める。
【0035】
これらの支持体は次の手順で製膜される。熱可塑性樹脂を融点(Tm)〜Tm+50℃の間で溶融後、焼結フィルター等で濾過した後、T−ダイから押出し、ガラス転位温度(Tg)−50℃〜Tgに温調したキャスティングドラム上で未延伸シートを形成する。この時、厚み分布を上述した範囲にするには、静電印加法等を用いるのが好ましい。これをTg〜Tg+50℃の間で2〜4倍に縦延伸する。
【0036】
又この時、厚み分布を上述した範囲にするもう一つの方法としては、縦延伸を多段延伸するのが好ましい。この時前段延伸より後段延伸の温度を1〜30℃、より好ましくは2〜15℃高くして延伸するのが好ましい。更に前段延伸の倍率は後段延伸の倍率の0.25〜0.7倍、より好ましくは0.3〜0.5倍で行なうのが好ましい。この後、Tg−30℃〜Tgで5〜60秒、より好ましくは10〜40秒保持した後、横方向にTg〜Tg+50℃の間で2.5〜5倍に延伸する。この後、Tm−50℃〜Tm−5℃で5〜120秒、チャックで把持した状態で熱固定を行なう。この時、幅方向に0〜10%チャック間隔を狭めること(熱緩和)も好ましい。これを冷却後、端部に10〜100μmのナーリングを付けた後、巻取り多軸延伸フィルムを得る。
【0037】
本発明に使用出来るプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下引き層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。又、下引き層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。
【0038】
又、本発明においては、上記プラスチックフィルムと金属板(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムなど)やポリエチレンで被覆した紙などの材料を適宜貼り合わせた複合支持体を用いることもできる。これらの複合機剤は、塗布層を形成する前に貼り合わせても良く、又、塗布層を形成した後に貼り合わせても良く、印刷機に取り付ける直前に貼り合わせても良い。
【0039】
3.支持体の製膜カール値を10mm以下にすること
本発明においては、支持体の製膜カール値が10mm以下であることが好ましく、より好ましくは5mm以下である。本発明における「製膜カール値」とは以下の測定法により測定された値である。
【0040】
以下に製膜カール値の測定法について、図を用いて詳述する。
(1)サンプリング
サンプルフィルム(製膜後フィルム)を原版フィルムの中央、両端の3点において、縦方向(MD)に各3枚ずつサンプリングする。サンプルフィルムは2cm×30cmの長方形とし、30cmの片をMD方向に平行にサンプリングする。
(2)製膜カール値の測定
23℃、65%RH条件下に6時間以上調湿後、図1のようにサンプルフィルムをセットし、両端のカール変位量(X1、X2)を測定する。そして下記式に基づき製膜カール値を求める。
【0041】
製膜カール値=(X1+X2)/2
図1について説明する。図1はサンプルフィルムの製膜カール値の測定を示す概略図である。図1(a)は測定台にサンプルフィルムがセットされた状態を上面側から観察した際の図であり、同図(b)は測定台にサンプルフィルムがセットされた状態を側面側から観察した際の図である。図1中、1は測定台、2はサンプルフィルム、3は金属片、4は磁石を表し、サンプルフィルム2を金属片3と磁石4にて挟持しながらサンプルフィルム2の両端のカール変位量(X1、X2)を測定する。得られたカール変位量(X1、X2)から上記の式により製膜カール値が求められる。
【0042】
このような支持体の作製方法は、延伸工程で表裏の延伸温度を実質的に同一(差を持たせない)にするプラスチックフィルムの製造方法により達成される。
【0043】
ここで、「実質的に同一(差を持たせない)」とは表裏の延伸温度の温度差を10℃以下、好ましくは5℃以下、更に好ましくは3℃以下、より好ましくは1℃以下、特に好ましくは同一にすることである。
【0044】
具体的には、例えばキャスティング後に縦方向に特定倍率延伸する際、片面もしくは両面に赤外線ヒータ等の補助的加熱手段を設け、表裏の延伸温度を実質的に同一(差を持たせない)にすることにより、巻きぐせカールが回復した後に発現してくる製膜カールをコントロールする。
【0045】
図2は、本発明に使用出来るプラスチックフィルムの縦延伸ゾーンの概略側面図を示している。キャスティング後のプラスチックフィルム5が縦延伸ローラ6、6′で加熱された後、冷却ローラ7を通り、図示されていない横延伸ゾーンに送られる。縦延伸ローラ6′の直後に赤外ヒータ8、8′が設けられている。このような構成により、赤外ヒータ直後の延伸温度差を6℃以下、好ましくは4℃以下にすることで、有効に製膜カールをコントロールすることができる。
【0046】
本発明における製膜カールのコントロールメカニズムは、プラスチックフィルムの表裏での結晶化度及び配向度が異なると熱処理工程での体積収縮率に差を生ずることが考えられ、その差を押さえることがポイントとなる。
【0047】
製膜工程については特に限定するものではないが、本発明に好適な例としてキャスティング後に縦方向に特定倍率延伸し、更にテンターによって横方向に延伸する逐次二軸延伸の態様が挙げられる。以下、これについて説明する。
【0048】
工程的には結晶化はキャスティング時から縦横の延伸までの全工程に亘って起きるから、表裏の結晶化の差が生じるステップはキャスティング時、縦延伸時、及び横延伸時の何れか又は複数のステップに跨っている。
【0049】
キャスティング時は、プラスチックフィルムの厚みが最も厚く、表裏温度差が生じやすいが、生じた結晶の差が等温結晶結晶化度の差として現れるため後工程の延伸時に結晶が破壊され、カールのコントロールが不能になる。
【0050】
これに対して、延伸工程で生ずる結晶化度の差は、配向結晶化度の差として現れるため破壊されにくく、又通常延伸部には加熱、冷却の手段が設けられており補助的加熱手段を付加するため、立ち上がりカールを本発明の範囲にする手段として運用するのは延伸工程において好適である。
【0051】
更に、縦延伸工程と横延伸工程との比較では、後者の方がプラスチックフィルムの面積が数倍になっており、コントロールしにくい。従って、上記のような逐次二軸延伸の工程においては、縦延伸時に表裏の結晶化度の差を押さえることが最適である。
【0052】
4.支持体を製膜後、支持体のガラス転移点より30℃以上高い温度で加熱すること(支持体の熱処理)
支持体の熱処理とは、上記の支持体を製膜後、親水性層等の各塗工層が塗布されるまでの間に、支持体のガラス転移点より30℃以上高い温度、好ましくは35℃以上高い温度、更に好ましくは40℃以上高い温度で加熱することである。但し、支持体の融点を超えた温度で加熱しては本発明の効果は得られない。
【0053】
5.支持体上の両側に親水性層を設けること
支持体上の両側に親水性層を設けることによっても立ち上がりカールを0mm以上60mm以下にすることが可能となる。この親水性層については後述する。
【0054】
6.特定の条件下で包装すること
本発明の印刷版材料は塗布乾燥後、印刷版としての必要に応じて断裁包装加工される。その際にロール状の包製品形態に包装されることが、輸送及び取り扱い上好ましい。その製品形態にするのには湿度20〜60%RHで包装することが好ましい。60%RHを越える湿度で包装されると保管時にくっつきが起きやすく、又20%RH未満で包装された場合には、長期保存された時にひび割れ等の欠陥が生じることがあるので好ましくない。
【0055】
本発明の印刷版材料の態様の一つとして、前述の親水性層からなる構成或いは親水性層と下層とからなる構成の他に、支持体上に更に熱で画像形成可能な画像形成機能層を設け、かつ支持体上の何れかの層に光熱変換素材を含有する態様が挙げられる。この態様は赤外線レーザーによる画像記録に適した態様である。
【0056】
上記態様には、親水性層よりも支持体に近い側に光熱変換素材を含有した親油性のアブレーション層を設けたアブレーションタイプの印刷版材料も含まれる。アブレーションタイプの印刷版材料としても、本発明に係る支持体を採用することで優れた印刷性能と耐刷性とを得ることができる。
【0057】
本発明の印刷版材料において、赤外線レーザー記録の好ましい態様としては、親水性層上に画像形成機能層を有し、かつ、画像形成機能層が熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有するものである。この態様では、光熱変換素材は、親水性層にも画像形成機能層にも含有させることが可能であるが、光熱変換素材が可視光で着色している場合は、親水性層もしくは親水性層及び/又は下層に含有させることが好ましい。これは、この態様では未露光部の画像形成機能層は、印刷機上で湿し水やインクによって除去される場合に、印刷物の色濁りが懸念されるためである。
【0058】
この態様の画像形成機能層は、後述するような親油性の画像形成素材を含む熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する。粒子形態を有していることで、未露光部では親水性層上から除去されやすい状態となっているが、露光部では微粒子が溶融、融着し粒子同士が一体化して親水性層上に固定化されることで除去されにくくなり、画像として機能する。特に、溶融時の粘度の低い熱溶融性微粒子と多孔質な親水性層とを組合わせることにより、露光部では溶融した画像形成素材が多孔質な親水性層内部へと浸透し、より強固な画像を形成する。
【0059】
この態様の画像形成機能層の付量は0.1〜5g/m2であることが好ましく、0.2〜2g/m2であることがより好ましく、0.3〜1.0g/m2であることが更に好ましい。
【0060】
又、この態様の画像形成機能層は、未露光部及び露光部ともに親水性層及び/又は下層によって形成される有効突起により保護される。即ち、外力が直接作用しにくい形態であることが好ましく、画像形成機能層表面の大部分が有効突起頂点よりも低い位置にあることが好ましく、有効突起頂点よりも低い位置にあることで、印刷前の種々の取り扱いでの圧力や擦りの影響で熱溶融性又は熱融着性微粒子が押しつぶされたり擦り付けられたりして、親水性層上に固着し、汚れとなるような現象を抑制する効果が得られる。更に、印刷時においては、水ローラー、インクローラー、ブランケット胴との接触から画像部を保護し、耐刷性を大きく向上させる効果が得られる。
【0061】
本発明の印刷版は、上述の印刷版材料の親水性層上に画像形成素材を画像様に付与することにより画像を形成した印刷版である。
【0062】
画像形成は、前述の赤外線レーザーによる画像形成素材の熱溶融転写により行うことも可能であるが、インクジェット方式によって行うことがより好ましい態様である。この場合の親水性層は、インクの適度な浸透による強固な固定化を得るために多孔質であることが好ましい。
【0063】
インクジェット方式による画像形成素材を含有するインクの付与は、公知の方法によって行うことができる。又、画像形成素材を含有するインクとしては公知の種々のインクを用いることが可能であるが、後述する放射線硬化性インクであることがより好ましい態様である。画像形成素材として放射線硬化性インクを用いる場合には、親水性層上に放射線硬化性インクが付与された直後に、そのインクを硬化させることが可能な波長を含む光を照射することが好ましい。
【0064】
次に、本発明の印刷版材料を構成する主要な構成因子、画像形成方法、放射線硬化インク、インクジェット記録方法について説明する。
《親水性層》
本発明の印刷版材料の親水性層に用いられる素材は、下記のようなものが挙げられる。
(親水性層マトリクスを形成する素材)
親水性層マトリクスを形成する素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましく、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良く、平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0065】
上記金属酸化物微粒子は、その造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0066】
本発明では、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは、比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、良好な強度を得ることができる。本発明で用いることのできるコロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、更に、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0067】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは、一次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称である。本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは、一次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが、真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられ、製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0068】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、親水性層マトリクスの多孔質化材として好ましく使用できる。これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、又、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0069】
又、コロイダルシリカは、粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明では平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが、地汚れ発生を抑制する効果が高く特に好ましい。平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0070】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは、前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、形成する層の多孔質性を維持しながら、強度を更に向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0071】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0072】
本発明において、親水性層マトリクス構造の多孔質化材として、粒径が1μm未満の多孔質金属酸化物粒子を含有することができる。多孔質金属酸化物粒子としては、以下に記載の多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
〈多孔質シリカ多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子〉
多孔質シリカ粒子は、一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法では、ケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、もしくは中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では、四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により、多孔性や粒径を制御することが可能である。多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。
【0073】
多孔質アルミノシリケート粒子は、例えば、特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0074】
粒子の多孔性としては、細孔容積で0.5ml/g以上であることが好ましく、0.8ml/g以上であることがより好ましく、1.0〜2.5ml/gであることが更に好ましい。細孔容積は、塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。逆に、細孔容積が0.5ml/g未満の場合には、印刷性能がやや不十分となる場合がある。
〈ゼオライト粒子〉
ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0075】
(M1、(M2)0.5)m(AlmSinO2)(m+n)・xH2O
ここで、M1、M2は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)、C7H15N2+、C8H16N+等であり、M2はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、C8H18N2 2+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0076】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0077】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで、親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0078】
又、本発明の印刷版材料の親水性層マトリクス構造は、層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。特に、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0079】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0080】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が1μm未満であり、平均アスペクト比が50以上であることが好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。又、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲より大きくなると、塗膜に不均一性が生じて、局所的に強度が弱くなる場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、添加量に対する平板状の粒子数が少なくなり、増粘性が不充分となり、粒子物の沈降を抑制する効果が低減する。
【0081】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを調製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0082】
親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0083】
又、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば、「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0084】
又、本発明においては、水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂としては、例えば、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられるが、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、多糖類を用いることが好ましい。
【0085】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0086】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜20μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。このような凹凸構造は、親水性層マトリクスに適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷適性を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0087】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)は、アルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0088】
本発明において、親水性マトリクス構造部に添加される水溶性樹脂は、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが好ましい。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷適性を劣化させる懸念があるためである。又、更にカチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、例えば、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は、微粒子状の形態で添加しても良く、例えば、特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0089】
又、親水性層の塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができ、Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は、親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0090】
又、親水性層には、リン酸塩を含むことができる。本発明では、親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0091】
又、後述する光熱変換素材を含有することもできる。光熱変換素材としては、粒子状素材の場合は粒径が1μm未満であることが好ましい。
〈粒径が1μm以上の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子〉
本発明で用いることのできる無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど、公知の金属酸化物粒子を用いることができるが、塗布液中での沈降を抑制するために、多孔質な金属酸化物粒子を用いることが好ましい。多孔質な金属酸化物粒子としては、前述の多孔質シリカ粒子や多孔質アルミノシリケート粒子を好ましく用いることができる。
【0092】
又、無機素材で被覆された粒子としては、例えば、ポリメチルメタアクリレートやポリスチレンといった有機粒子を芯材とし、芯材粒子よりも粒径の小さな無機粒子で被覆した粒子が挙げられる。無機粒子の粒径としては、芯材粒子の1/10〜1/100程度であることが好ましい。又、無機粒子としては、同様にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど、公知の金属酸化物粒子を用いることができる。被覆方法としては、種々の公知の方法を用いることができるが、ハイブリダイザのような空気中で芯材粒子と被覆材粒子とを高速に衝突させて芯材粒子表面に被覆材粒子を食い込ませて固定、被覆する乾式の被覆方法を好ましく用いることができる。
【0093】
又、有機粒子の芯材を金属メッキした粒子も用いることができる。このような粒子としては、例えば、樹脂粒子に金メッキを施した積水化学工業社製の「ミクロパールAU」等が挙げられる。
【0094】
粒径は1μm以上でかつ、親水性マトリクス構造の平均膜厚に対して本発明で規定する式(1)の関係を満足することが必要であるが、1〜10μmが好ましく、1.5〜8μmがより好ましく、2〜6μmが更に好ましい。
【0095】
粒径が10μmを超えると、画像形成の解像度の低下や、ブランケット汚れの劣化が生じる懸念がある。本発明では、粒径が1μm以上の粒子の添加量としては、表面形態パラメータを満足するように適宜調整されるが、親水性層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。親水性層全体としては、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
《下層》
下層に用いる素材としては、親水性層と同様の素材を用いることができる。ただし、下層は多孔質であることの利点が少なく、又、より無孔質である方が塗膜強度が向上するといった観点から、親水性マトリクス構造を形成する多孔質化材の含有量は、親水性層よりも少ないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0096】
下層で用いる粒径が1μm以上の粒子の添加量としては、表面形態パラメータを満足するように適宜調整されるが、下層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0097】
下層全体としても親水性層と同様に、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
《光熱変換素材》
親水性層、下層及びその他に設けられる層には、光熱変換素材を含有することができる。
【0098】
光熱変換素材としては下記のような素材を添加することができる。
(赤外吸収色素)
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、同64−33547号、特開平1−160683号、同1−280750号、同1−293342号、同2−2074号、同3−26593号、同3−30991号、同3−34891号、同3−36093号、同3−36094号、同3−36095号、同3−42281号、同3−97589号、同3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
(顔料)
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては、特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
(グラファイト)
グラファイトとしては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
(金属)
金属としては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
(金属酸化物)
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、又は素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。前者としては、黒色酸化鉄(Fe3O4)や、前述の二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。後者とては、例えば、SbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0099】
これらの光熱変換素材のうち、二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられ、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号、同9−25126号、同9−237570号、同9−241529号、同10−231441号等に開示されている方法により製造することができる。
【0100】
複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系又はCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0101】
これらの複合金属酸化物は、平均一次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均一次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均一次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均一次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。従って、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均一次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0102】
これらの複合金属酸化物の添加量としては親水性層や下層に対して0.1〜50質量%であり、1〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましい。《熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層》
熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層には、以下のような素材を含有させることができる。
(熱溶融性微粒子)
熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0103】
使用可能な素材としては、例えば、パラフィン、ポリオレフィン、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10,000程度のものであり、又乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスに、例えば、ステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0104】
これらの中でも、ポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0105】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0106】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は、公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0107】
構成層中での熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
(熱融着性微粒子)
熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、該熱可塑性疎水性高分子重合体粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。又、高分子重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0108】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0109】
高分子重合体微粒子は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、熱溶融性微粒子、熱融着性微粒子は、何れの方法においても、必要に応じ重合或いは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。又、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等を含有させても良い。
【0110】
又、熱可塑性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0111】
又、熱可塑性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0112】
構成層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
(水溶性素材)
熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層には、更に水溶性素材を含有することができる。水溶性素材を含有することにより、印刷機上で湿し水やインクを用いて未露光部の画像形成機能層を除去する際に、その除去性を向上させることができる。
【0113】
水溶性素材としては、親水性層に含有可能な素材として挙げた水溶性樹脂を用いることもできるが、画像形成機能層としては、糖類を用いることが好ましく、特にオリゴ糖を用いることが好ましい。オリゴ糖は水に速やかに溶解するため、印刷装置上での未露光部の画像形成機能層の除去も非常に速やかとなり、特別な除去操作を意識することなく、通常のPS版の刷出し操作と同様の操作で刷出すことで除去可能であり、刷出しの損紙が増加することもない。又、オリゴ糖は親水性層の親水性を低下させる懸念もなく、親水性層の良好な印刷適性を維持することができる。オリゴ糖は水に可溶の一般に甘みを有する結晶性物質で、数個の単糖がグリコシド結合によって脱水縮合したものである。オリゴ糖は糖をアグリコンとする一種のo−グリコシドであるから、酸で容易に加水分解されて単糖を生じ、生成する単糖の分子数によって二糖、三糖、四糖、五糖などに分類される。本発明におけるオリゴ糖とは、二糖〜十糖までのものをいう。
【0114】
これらのオリゴ糖は、還元基の有無によって、還元性オリゴ糖と非還元性オリゴ糖とに大別され、又単一の単糖から構成されているホモオリゴ糖と、2種類以上の単糖から構成されているヘテロオリゴ糖にも分類される。オリゴ糖は、遊離状又は配糖類として天然に存在し、又多糖の酸又は酵素による部分加水分解によっても得られる。この他酵素によるグリコシル転移によっても種々のオリゴ糖が生成する。
【0115】
オリゴ糖は通常雰囲気中では水和物として存在することが多い。又、水和物と無水物とでは融点が異なり、例を挙げると表1に示す通りである。
【0116】
【表1】
【0117】
糖類を含有する層を水溶液で塗布形成することが好ましい。その際、層中に存在するオリゴ糖が水和物を形成するオリゴ糖である場合は、その融点は水和物の融点であると考えられる。このように、比較的低融点を有しているため、熱溶融微粒子が溶融する温度範囲や熱融着微粒子が融着する温度範囲でオリゴ糖も溶融し、熱溶融微粒子の多孔質親水性層への溶融浸透や熱融着微粒子の融着といった画像形成を妨げることがない。
【0118】
オリゴ糖の中でもトレハロースは、比較的純度の高い状態のものが工業的に安価に入手可能であり、水への溶解度が高いにもかかわらず、吸湿性は非常に低く、機上現像性及び保存性共に非常に良好である。
【0119】
又、オリゴ糖水和物を熱溶融させて水和水を除去した後に凝固させると(凝固後短時間のうちは)無水物の結晶となるが、トレハロースは水和物よりも無水物の融点が100℃以上も高いことが特徴的である。これは赤外線露光で熱溶融し、再凝固した直後は露光済部は高融点で溶融しにくい状態となることを意味し、バンディング等の露光時の画像欠陥を起こしにくくする効果がある。本発明の目的を達成するには、オリゴ糖の中でも特にトレハロースが好ましい。
【0120】
構成層中のオリゴ糖の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、10〜80質量%が更に好ましい。
《赤外線による画像形成》
本発明の一つの態様の印刷版材料の画像形成は、熱により行うことができるが、特に赤外線レーザーによる露光によって画像形成を行うことが好ましい。
【0121】
露光に関し、より具体的には、赤外及び/又は近赤外領域で発光する、即ち700〜1500nmの波長範囲で発光するレーザーを使用した走査露光が好ましい。レーザーとしてはガスレーザーを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザーを使用することが特に好ましい。
【0122】
走査露光に好適な装置としては、半導体レーザーを用いてコンピュータからの画像信号に応じて印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であればどのような方式の装置であってもよい。
【0123】
一般的には、
(1)平板状保持機構に保持された印刷版材料に一本もしくは複数本のレーザービームを用いて2次元的な走査を行って印刷版材料全面を露光する方式、
(2)固定された円筒状の保持機構の内側に、円筒面に沿って保持された印刷版材料に、円筒内部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、
(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された印刷版材料に、円筒外部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式が挙げられる。
【0124】
本発明に関しては、特に(3)項記載の走査露光方式が好ましく、特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)項記載の露光方式が用いられる。
《親油性素材を画像様に付与する方法》
又、本発明の印刷版材料においては、その親水性層表面に直接、親油性素材を画像様に付与することによっても画像形成が可能である。
【0125】
親油性素材を画像様に付与する方法の一つとして、公知の熱転写方式を用いる方法が挙げられる。具体的には熱転写方式のプリンタを用いて、サーマルヘッドにより熱溶融性インク層を有するインクリボンから熱溶融性インクを親水性層表面に画像様に転写させる方法が挙げられる。
【0126】
又、赤外線レーザー熱溶融転写方式のデジタルプルーフ装置を用いて、露光ドラム上に印刷版材料を親水性層を外側にして巻付け、その上に更に熱溶融性インク層を有したインクシートをインク面を親水性層に接して巻付け、画像様に赤外線レーザーで露光し、熱溶融性インクを親水性層表面に画像様に転写させる方法も挙げることができる。この場合、光熱変換素材は親水性層が含有していてもよいし、インクシート側が何れかの層に含有していてもよいし、両者ともに含有していてもよい。
【0127】
親水性層上に熱溶融性のインクで画像を形成した後に、印刷版材料を加熱して、親水性層と画像との接着をより強固なものとすることもできる。親水性層が光熱変換素材を含有している場合には、この加熱処理を赤外線レーザー照射や公知のキセノンランプ等によるフラッシュ露光を用いて行うこともできる。
【0128】
もう一つの方法としては、公知のインクジェット方式を用いる方法が挙げられる。用いるインクとしては、特許2,995,075号に開示されている油性インクや、特開平10−24550号に開示されているようなホットメルトインクや、同10−157053号に開示されているような常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子が分散された油性インク、或いは常温で固体かつ疎水性の熱可塑性樹脂粒子が分散された水性インク等を用いることができるが、本発明の態様としては、放射線硬化性インクを好ましく用いることができる。
《放射線硬化性インク》
用いることができる放射線硬化性インクは、少なくとも重合性化合物から構成される。又、可視画性を得る目的で色材を添加することもできる。
【0129】
色材としては、重合性化合物の主成分に溶解又は分散できる色材、つまりは種々の染料、顔料を使用することができ、顔料を添加する場合には、その分散性が着色度に大きな影響を与えるため、適宜分散を行う。顔料の分散には、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。又、顔料の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。分散剤は高分子分散剤を用いることが好ましい。高分子分散剤としてはZeneca社のSolsperseシリーズが挙げられる。又、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。これらの分散剤及び分散助剤は、顔料100質量%に対し、1〜50質量%添加することが好ましい。分散媒体は溶剤又は重合性化合物で行うが、本発明に用いる放射線硬化性インクは、インク着弾直後に反応・硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。溶剤が硬化画像に残ってしまうと、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の問題が生じる。よって、分散媒体は溶剤では無く重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが分散適性上好ましい。
【0130】
分散は、平均粒径を0.08〜0.5μmとすることが好ましく、最大粒径は0.3〜10μm、好ましくは0.3〜3μmとなるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性及び硬化感度を維持することができる。色材はインク全体の0.1質量%乃至10質量%の添加量が好ましい。
【0131】
放射線重合性化合物は、ラジカル重合性化合物、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、同10−863号等の各号公報に記載されている光重合性組成物を用いた光硬化型材料と、カチオン重合系の光硬化性樹脂が知られており、最近では可視光以上の長波長域に増感された光カチオン重合系の光硬化性樹脂として、例えば、特開平6−43633号、同8−324137号等に公開されている。
【0132】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどの様なものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、又目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。又、単官能化合物よりも官能基を2つ以上持つ多官能化合物の方がより好ましい。更に好ましくは多官能化合物を2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。
【0133】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エステル、ウレタン、アミドや無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル誘導体、その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられ、更に具体的には、山下晋三編,「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編,「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」,79頁,(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著,「ポリエステル樹脂ハンドブック」,(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品もしくは業界で公知のラジカル重合性乃至架橋性のモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。上記ラジカル重合性化合物の添加量は好ましくは1〜97質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0134】
カチオン重合系光硬化樹脂としては、カチオン重合により高分子化の起こるタイプのモノマー(主にエポキシタイプ)、エポキシタイプの紫外線硬化性プレポリマー、1分子内にエポキシ基を2個以上含有するプレポリマー等を挙げることができる。このようなプレポリマーとしては、例えば、脂環式ポリエポキシド類、多塩基酸のポリグリシジルエステル類、多価アルコールのポリグリシジルエーテル類、ポリオキシアルキレングリコールのポリグリシジルエーテル類、芳香族ポリオールのポリグリシジルエーテル類、芳香族ポリオールのポリグリシジルエーテル類の水素添加化合物類、ウレタンポリエポキシ化合物類及びエポキシ化ポリブタジエン類等を挙げることができる。これらのプレポリマーは、その一種を単独で使用することもできるし、又、その二種以上を混合して使用することもできる。
【0135】
本発明において重合性化合物は、(メタ)アクリル系モノマー或いはプレポリマー、エポキシ系モノマー或いはプレポリマー、ウレタン系モノマー或いはプレポリマー等が好ましく用いられるが、更に好ましくは下記化合物である。
【0136】
2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、変性グリセリントリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、変性ビスフェノールAジアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ラクトン変性可トウ性アクリレート、ブトキシエチルアクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレートを挙げることができる。
【0137】
これらのアクリレート化合物は、従来UV硬化型インクに用いられてきた重合性化合物より、皮膚刺激性や感作性(かぶれ)が小さく、比較的粘度を下げることが出来、安定したインク射出性が得られ、重合感度、記録媒体との密着性も良好である。上記化合物群を20〜95質量%、好ましくは50〜95質量%、更に好ましくは70〜95質量%用いる。
【0138】
上述した重合性化合物に列挙しているモノマーは低分子量であっても、感作性が小さいものであり、尚かつ反応性が高く、粘度が低く、親水性層への浸透性、密着性に優れる。
【0139】
更に感度、滲み、親水性層との密着性をより改善するためには、上述したモノアクリレートと、分子量400以上、好ましくは500以上の多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーを併用することが感度、密着性向上の点で好ましい。安全性を維持しつつ、更に、感度、滲み、記録媒体との密着性をより改善することができる。オリゴマーとしてはエポキシアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマーが特に好ましい。
【0140】
上記化合物群の中から選ばれるモノアクリレートと、多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーとを併用すると、膜に可撓性を持たせられ、密着性を高めつつ膜強度を高められるため好ましい。モノアクリレートとしてはステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミスチルアクリレート、イソステアリルアクリレートが感度も高く、低収縮性で画像部の内部応力による強度低下を抑制でき、更に、滲み防止、印刷物の臭気、照射装置のコストダウンの点で好ましい。
【0141】
尚、メタクリレートは皮膚刺激性がアクリレートより良好であるが、感作性は概してアクリレートと差が無く、アクリレートに比べて感度が下がるので適さないが、反応性が高く、感作性の良好なものであれば、好適に使用することができる。尚、上記化合物の中でもアルコキシアクリレートは、感度が低く、滲み、臭気、照射光源の問題が生じるため、その量を70質量%未満に留め、その他のアクリレートを併用することが好ましい。
【0142】
本発明に用いるインクには、必要に応じて、その他の成分を添加することができる。
【0143】
照射光として電子線、X線等を用いる場合、開始剤は不要であるが、線源としてUV光、可視光、赤外光を用いる場合は、それぞれの波長に応じたラジカル重合開始剤、開始助剤、増感色素を添加する。これらの量はインク全体の1〜10質量%が必要となる。開始剤は公知の様々な化合物を使用することができるが、上記重合性化合物に溶解するものから選択する。具体的な開始剤としては、キサントン又はチオオキサントン系、ベンゾフェノン系、キノン系、フォスフィンオキシド系が挙げられる。
【0144】
又、保存性を高めるために、重合禁止剤を200〜20,000ppm添加することができる。インクは40〜80℃の範囲で加熱、低粘度化して射出することが好ましいので、熱重合によるヘッド詰まりを防ぐためにも重合禁止剤を入れることが好ましい。
【0145】
この他に、必要に応じて界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を添加することができる。オレフィンやPET等の記録媒体への密着性を改善するためには、重合を阻害しないタッキファイヤーを含有させることが好ましい。具体的には、特開2001−49200号5〜6pに記載されている、高分子量の粘着性ポリマー((メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環族アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香族アルコールとのエステル、からなる共重合物)や、重合性不飽和結合を持つ低分子量粘着付与性樹脂などである。
【0146】
親水性層との密着性を改善するため、極微量の有機溶剤を添加することも有効である。この場合、耐溶剤性やVOCの問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量は0.1〜5%、好ましくは0.1〜3%である。
【0147】
又、インク色材による遮光効果による感度低下を防ぐ手段として、開始剤寿命の長いカチオン重合性モノマーと開始剤を組み合わせ、ラジカル・カチオンのハイブリッド型硬化インクとすることも可能である。
【0148】
インクは、射出性を考慮し射出時の温度で、好ましくは7〜30mPa・s、更に好ましくは7〜20mPa・sとなるよう、組成比を決める。尚、25℃でのインク粘度は、35〜500mPa・s、更に、35〜200mPa・sとすることが好ましい。室温での粘度を上げることにより、多孔質な記録媒体にもインクの浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となるし、着弾時のドット滲みを抑えることが出来、画質が改善される。35mPa・s未満では、滲み防止効果が小さい。500mPa・sより大きいと、インク液のデリバリーに問題が生じる。
【0149】
表面張力は好ましくは200〜300μN/cm、更に好ましくは230〜280μN/cmである。200μN/cm未満では滲み、浸透の点で懸念があり、又、300μN/cmを超えた場合には濡れ性の点で懸念がある。
《インクジェット記録方法》
本発明における記録方法としては、上記インクを40〜80℃に加熱し、インク粘度を下げて射出することが射出安定性の点で好ましい。放射線硬化性インクは、概して水性インクより粘度が高いため、温度変動による粘度変動幅が大きい。粘度変動はそのまま液滴サイズ、液滴射出速度に大きく影響を与え、画質劣化を起こすため、インク温度をできるだけ一定に保つことが必要である。インク温度の制御幅は設定温度±5℃、好ましくは設定温度±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃である。記録装置にはインク温度の安定化手段を備えるが、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0150】
温度コントロールのため、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。又、加熱するヘッドユニットは、装置本体、外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要する記録装置立上げ時間を短縮するため、又熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0151】
インクジェット記録後の光照射には、紫外線、電子線、X線、可視光、赤外光など、様々な線源を用いることが可能であるが、硬化性、線源のコスト等を考慮すると、紫外線が好ましい。紫外線線源は、水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーランプ、紫外線レーザー・LEDなどを用いることができる。
【0152】
基本的な照射方法は、特開昭60−132767号に開示されている。これによると、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間を置いて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。WO第9、954、415号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法や、コリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。記録方法においては、これらの照射方法を用いることが可能である。又ヘッドの背面から照射することが好ましい。
【0153】
ヘッド背面から露光する方式は、光ファイバーや、高価な光学系を用いることなく、着弾直後のインクに、速やかに照射することができる。又、ヘッド背面からの照射であるため、記録媒体からの反射線による、ノズル界面のインク硬化を防ぐ効果もある。線源は記録媒体へ投影形状を、走査一回分の記録幅を持つ帯状とさせることが好ましい。
【0154】
具体的には、帯状のメタルハライドランプ管、紫外線ランプ管が好ましい。線源は、実質的に記録装置に固定化し、可動部を無くすことで、安価な構成とすることが可能である。又、何れの露光方式でも線源は2種用意し、第2の線源によって、硬化を完了させることが好ましい形態の一つである。これは、2色目の着弾インクの濡れ性、インク間の接着性を得ることと、線源を安価に組むことに寄与する。
【0155】
尚、第1の線源と、第2の線源とは、露光波長又は露光照度を変えることが好ましい。第一照射エネルギーを第二の照射エネルギーより小さく、即ち第一の照射エネルギーを照射エネルギー総量の1〜20%、好ましくは1〜10%、更に好ましくは1〜5%とする。照度を変えた照射を行うことで、硬化後の分子量分布が好ましいものとなる。即ち、一度に高照度の照射を行ってしまうと、重合率は高められるものの、重合したポリマーの分子量は小さく、強度が得られない。インクジェットインクのように極端に粘度の低い組成では、顕著な効果が得られる。
【0156】
又、第一の照射は第二の照射より長波長とすることでインクの表層を硬化させてインクの滲みを抑えられ、第二の照射では照射線が届き難い記録媒体近傍のインクを硬化させ、密着性を改善することができる。インク内部の硬化促進のためにも、第二の照射線波長は長波長であることが好ましい。
【0157】
本発明における記録方法の特徴は、上記インクを用い、一定温度にインクを加温するとともに、着弾から照射までの時間を0.01〜0.5秒、好ましくは0.01〜0.3秒、更に好ましくは0.01〜0.15秒後に放射線を照射することにある。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止することが可能となる。又、多孔質な記録媒体に対しても光源の届かない深部までインクが浸透する前に露光することができる為、未反応モノマーの残留を抑えられ、臭気を低減できる。これは、インクを用いることで大きな相乗効果をもたらすことになる。特に、25℃におけるインク粘度が35〜500mPa・sのインクを用いると大きな効果を得ることができる。このような記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことが出来、画質が向上する。
【0158】
ヘッドユニットは、インクジェットノズルヘッド、インク液供給系、インク及びヘッドの温度制御機構、制御基板等から構成される。背面から光照射する場合、ヘッドユニットは、できるだけ記録媒体への投影面積が小さい方が好ましい。小さい方が、第一の照射がより有効に活用される。
【0159】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0160】
実施例1
(1)ポリエステルフィルムの作製
(ポリエチレンテレフタレート1;PET1;比較)
テレフタル酸とエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.66(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のPETを得た。これをペレット化した後130℃で4時間乾燥し、300℃で溶融後T型ダイから押し出し、50℃の冷却ドラム上で急冷し熱固定後の膜厚が175μmになるような厚みの未延伸フィルムを作製した。これを、延伸温度は前段延伸が95℃で1.0倍に、後段延伸は98℃で4.1倍に縦延伸した。ついでテンターで120℃で6倍に横延伸した。尚、前記縦延伸の際に、縦延伸ゾーンにおけるフィルム片面側に補助加熱源として赤外ヒータ(図2の8のみ)を設置した。その赤外ヒータの出力を30kWにした。この後、240℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。この後テンターのチャック部をスリットした後、両端にナール加工を行い、40℃に冷却後8.5kg/mで巻き取った。このようにして得たPETフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。前記の方法で製膜カールを測定したところ20mmであった。
(ポリエチレンテレフタレート2;PET2;本発明)
テレフタル酸とエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.66(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のPETを得た。これをペレット化した後130℃で4時間乾燥し、300℃で溶融後T型ダイから押し出し、50℃の冷却ドラム上で急冷し熱固定後の膜厚が175μmになるような厚みの未延伸フィルムを作製した。これを、延伸温度は前段延伸が85℃で1.3倍に、後段延伸は85℃で2.6倍に縦延伸した。ついでテンターで120℃で4.5倍に横延伸した。尚、前記縦延伸の際に、前記図2に示したように縦延伸ゾーンにおけるフィルム両面側に補助加熱源として赤外ヒータ(図2の8、8′)を設置した。その赤外ヒータの出力は何れも10kWにした。この後、240℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。この後テンターのチャック部をスリットした後、両端にナール加工を行い、40℃に冷却後4.8kg/mで巻き取った。このようにして得たPETフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。前記の方法で製膜カールを測定したところ0mmであった。
(ポリエチレン−2,6−ナフタレート;PEN;本発明)
2,6−ナフタレンジカルボン酸メチルとエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.55(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のPENを得た。これをペレット化した後150℃で4時間乾燥し、310℃で溶融後T型ダイから押し出し、80℃の冷却ドラム上で急冷し未延伸フィルムを作製した。これを、延伸温度を前段延伸が132℃で1.2倍に、後段延伸は132℃で2.7倍に縦延伸した。ついでテンターで145℃で4.0倍に横延伸した。尚、前記縦延伸の際に、前記図2に示したように縦延伸ゾーンにおけるフィルム両面側に補助加熱源として赤外ヒータ(図2の8、8′)を設置した。その赤外ヒータの出力は何れも10kWにした。この後、250℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。この後テンターのチャック部をスリットした後、両端にナール加工を行い、40℃に冷却後4.8kg/mで巻き取った。このようにして得たPENフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。前記の方法で製膜カールを測定したところ2mmであった。
(2)下引き層の作製
上記フィルムの両面に、8W/m2・分のコロナ放電処理を施し、次いで一方の面に下記下引き塗布液a−1を乾燥膜厚0.8μmになるように塗設した後、下引き塗布液bを塗布し、それぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面A)。又反対側の面に下記導電層と中間層を順次塗布し180℃、4分間で乾燥させ、これらの層の上に下記下引き塗布液c−1を乾燥膜厚0.8μmになるように塗設しそれぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面B)。塗布後の25℃・25%RHでの表面電気抵抗は109Ωであった。
《下引き塗布液a−1》;本発明
PVdCポリマーラテックス
コア部90質量%、シェル部10質量%のコアシェルタイプのラテックスで
コア部:塩化ビニリデン/メチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリロニトリル/アクリル酸=93/3/3/0.9/0.1(質量%)
シェル部:塩化ビニリデン/メチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリロニトリル/アクリル酸=88/3/3/3/3(質量%)
質量平均分子量38,000 3000質量%
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン 23質量%
マット剤(ポリスチレン,平均粒径2.4μm) 1.5質量%
《下引き塗布液b》
アルカリ処理ゼラチン(Ca2+含量30ppm、ゼリー強度230g)50mg/m2
《導電層》
ジュリマーET−410(日本純薬(株)製:Tg=52℃)38mg/m2
SnO2/Sb(9/1質量比、平均粒子径0.25μm)120mg/m2
マット剤(ポリメチルメタクリレート、平均粒子径5μm) 7mg/m2
デナコールEX−614B(ナガセ化成工業(株)製) 13mg/m2
《中間層》
ジュリマーET−410(日本純薬(株)製:Tg=52℃)38mg/m2
《下引き塗布液c−1》
SBRポリマーラテックス
スチレン/ブタジエン/ヒドロキシエチルメタクリレート/ジビニルベンゼ
ン=67/30/2.5/0.5(質量%) 160質量%
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン 4質量%
マット剤(ポリスチレン,平均粒径2.4μm) 3質量%
《プラズマ処理条件》
ついで、それぞれの下引き層表面に下記プラズマ処理条件でプラズマ処理を施した。
【0161】
バッチ式の大気圧プラズマ処理装置(イーシー化学(株)製、AP−I−H−340)を用いて、高周波出力が4.5kW、周波数が5kHz、処理時間が5秒及びガス条件としてアルゴン、窒素及び水素の体積比をそれぞれ90%及び5%でプラズマ処理を行った。
【0162】
スリット後の支持体のPET2及びPENに対し、張力0.008kg/mm2で180℃30秒間、低張力熱処理を実施した。
《赤外線レーザー露光用印刷版材料の作製》
(親水性層塗布液の調製)
下記の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、濾過して親水性層塗布液1を調製した。以下の数値は質量%を示す。
親水性層塗布液1組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−S 17.20
(日産化学社製、固形分30質量%)
ネックレス状コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−PSM
(日産化学社製、固形分20質量%) 38.70
Cu−Fe−Mn系金属酸化物黒色顔料:TM−3550ブラック粉体
(大日精化工業社製、粒径0.1μm程度) 5.00
の固形分40質量%(うち0.2質量%は分散材)水分散物
層状鉱物粒子 モンモリロナイト:ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製、平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンAMT08 2.40
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径0.6μm)
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−20 2.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径2μm)
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−50 1.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径5μm)
純水 20.70
親水性層塗布液1の固形分濃度20.00質量%
(下層塗布液の調製)
下記の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、混合、濾過して下層塗布液1を調製した。以下の数値は質量%を示す。
下層塗布液1組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−XS 69.50
(日産化学社製、固形分20質量%)
Cu−Fe−Mn系金属酸化物黒色顔料: TM−3550ブラック粉体
(大日精化工業社製、粒径0.1μm程度) 3.50
の固形分40質量%(うち0.2質量%は分散材)水分散物
層状鉱物粒子 モンモリロナイト: ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−40 4.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径4μm)
純水 9.00
下層塗布液の固形分濃度20.00質量%
(下層、親水性層の塗布)
上記の各塗布液を、各支持体の下引き面A上にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥して、親水性層まで塗布済みの試料を作製した。尚、下層の上に親水性層を同時に積層塗布し、親水性層まで塗布した段階で、60℃で24時間の加熱処理を施した。
【0163】
又、上記の各塗布液を、下引き済みPET2と下引き済みPEN支持体のB面上にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥して、親水性層まで塗布済みの試料を作製した。尚、下層の上に親水性層を同時に積層塗布し、親水性層まで塗布した段階で、60℃で24時間の加熱処理を施した。
(画像形成層の形成)
下記の画像形成層塗布液を、上記作製した親水性層塗布済みの試料上にワイヤーバーを用いて乾燥付量が0.6g/m2となるように塗布し、50℃で3分間乾燥して赤外線レーザー露光用印刷版材料試料1〜3(試料1〜3とする)を作製した。尚、PET1を用いた試料については、厚さ190μmのスムース表面を有するアルミ板表面に接着剤を塗布し、PET1の塗布層が設けられていない面と接着貼合して240μm厚の試料とした。上記作製した各試料は、画像形成層塗布液を塗布した後、40℃・24時間の加熱処理を施した。以下の数値は質量%を示す。
(画像形成層塗布液)
二糖類トレハロース粉体(林原商事社製商品名トレハオース、
融点97℃)の水溶液固形分5質量% 30
カルナバワックスエマルジョンA118(岐阜セラック社製、平均粒子径0.
3μm、軟化点65℃、融点80℃、140℃での溶融粘度8cps、固形分4
0質量%)を固形分5質量%に純水で希釈した分散液 70
《支持体の評価》
得られた試料1〜3の厚み分布、製膜カール値、立ち上がりカールについて、上述の通りに従って求め、結果を表2に示す。
《赤外線レーザー方式による画像形成》
得られた試料1は23℃・80%RHの条件で560mm幅にスリット加工し、3インチ径の紙コアに40m巻きつけたものを高密度ポリエチレンシート2重で巻き製品形態サンプルとした。
【0164】
又、試料2及び3は23℃・45%RHの条件で560mm幅にスリット加工し、3インチ径の紙コアに40m巻きつけたものを高密度ポリエチレンシート3重で巻き製品形態サンプルとした。
【0165】
これらのサンプルを保存性劣化試験として50℃・7日間サーモ処理をした後に、露光ドラムに巻付け固定した。露光には、波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを300mj/cm2とした条件で、2400dpi、175線で画像を形成した。尚、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
《印刷》
引き続き、印刷装置(三菱重工業社製のDAIYA1F−1)、コート紙、湿し水(アストロマーク3(日研化学研究所製)の2質量%溶液)、インク(東洋インク社製のトーヨーキングハイエコーM紅)を使用して印刷を行った。
《印刷性能の評価》
引き続き各試料について、印刷版としての各特性を評価した。得られた結果を表2に示す。
(インク着肉性)
1000枚印刷後に、インクの供給を止めて水のみ5分間供給した。その後インクの供給を再開しインクを着肉させて何枚目に正常なインク濃度になる印刷物が得られるかを評価した。枚数が少ないほどインク着肉性が優れている。
(寸法性)
印刷前に版面に50μm幅の傷を2カ所50cm離してつけた。100枚印刷後の印刷紙面と3000枚印刷後の印刷紙面で2カ所の傷の距離がどのくらい変化したかを寸法変化として測定した。変化が少ないほど優れている。
(耐刷性)
印刷した画像の3%の小点の欠落、又はベタ部の濃度低下の何れかが確認された段階で耐刷終点とし、その枚数を求めた。
【0166】
【表2】
【0167】
表2より明らかなように、本発明で規定する支持体の立ち上がりカール値を示す試料は、比較例に対し、インク着肉性、寸法性及び耐刷性に優れていることが分かる。
【0168】
実施例2
《インクジェット記録用印刷版材料の作製》
(親水性層塗布液の調製)
以下に記載の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、混合、濾過して親水性層塗布液2を調製した。以下の数値は質量%を示す。
親水性層塗布液2組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−S 19.87
(日産化学社製、固形分30質量%)
ネックレス状コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−PSM
(日産化学社製、固形分20質量%) 44.70
層状鉱物粒子 モンモリロナイト: ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンAMT08 2.40
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径0.6μm)
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−20 2.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径2μm)
純水 17.03
親水性層塗布液2の固形分濃度20.00質量%
(下層塗布液の調製)
以下に記載の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、混合、濾過して下層塗布液2を調製した。
下層塗布液2組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−XS 81.50
(日産化学社製、固形分20質量%)
層状鉱物粒子 モンモリロナイト:ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−50 3.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径5μm)
純水 1.50
下層塗布液2の固形分濃度20.00質量%
(下層、親水性層の塗布)
上記調製した各塗布液を、表3に記載の通り、実施例1で作製した支持体の下引き面A上にワイヤーバーを用いて、下層の上に親水性層を同時積層塗布した。次いで親水性層まで塗布した段階で、60℃・24時間の加熱処理を施して、インクジェット記録用印刷版材料試料(試料21〜23)を作製した。
《インクジェット方式による画像形成》
1)マゼンタ顔料分散物の調製
下記の組成を順次混合及び分散してマゼンタ顔料分散物を作製した。尚、分散は、マゼンタ顔料粒子の平均粒径として0.2〜0.3μmの範囲となるように分散条件を適宜調整した。以下の数値は質量%を示す。
【0169】
C.I.ピグメントレッド57:1 15
高分子分散剤(Zeneca社製 Solsperse) 5
ステアリルアクリレート 80
2)マゼンタインクの調製
次いで、下記の各組成物を混合し、絶対濾過精度2μmのフィルターで濾過してマゼンタインクを調製した。調製したマゼンタインクの25℃における粘度は120mPa・sであり、70℃における粘度は15mPa・s、25℃における表面張力は250μN/cmであった。
【0170】
マゼンタ顔料分散物 20
ステアリルアクリレート 60
2官能芳香族ウレタンアクリレート(分子量1500) 10
6官能脂肪族ウレタンアクリレート(分子量1000) 5
開始剤(Ciba製、イルガキュアー184) 5
《インクジェット画像の形成》
ピエゾ型インクジェットノズルを用いたインクジェット記録装置によって、印刷版材料試料21〜23へ画像記録を行った。インク供給系は、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、フィルター付き配管、ピエゾヘッドから構成され、前室インクタンクからヘッド部分まで断熱及び加温を行った。温度センサーは前室インクタンク及びピエゾヘッドのノズル付近にそれぞれ設け、ノズル部分が常に60℃±2℃となるように温度制御を行った。ピエゾヘッドは、ノズル径24μmで、8〜30plのマルチサイズドットを720×720dpiの解像度で射出できるよう駆動した。着弾後はUV−A光を露光面照度100mW/cm2に集光し、インク着弾後0.1秒後に照射が始まるよう露光系・主走査速度・射出周波数を調整した。露光時間を可変とし、照射露光エネルギーを調整可能にした。
【0171】
上記装置を用いて、環境温度25℃にて、上記調製したマゼンタインクを射出し、直後にUV光を照射した。照射した露光エネルギーは300mJ/cm2で行った。
《印刷特性の評価》
上記作製した各試料について、実施例1と同様にして印刷、評価を行った。尚、インクジェット記録用印刷版としての耐刷性を下記の方法に従って評価を行い、得られた結果を表3に示す。
(耐刷性)
印刷した画像のベタ部の濃度低下が確認された段階で耐刷終点とし、その枚数を求めた。
【0172】
【表3】
【0173】
表3より明らかなように、本発明で規定する支持体の立ち上がりカール値を示す試料は、比較例に対し、インクジェット方式による記録においても、インク着肉性、寸法性及び耐刷性に優れていることを確認することができた。
【0174】
【発明の効果】
本発明によれば、印刷適性、特に耐刷性に優れた親水性層を有する印刷版材料及び印刷版を提供することができるという顕著に優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】サンプルフィルムの製膜カール値の測定を示す概略図である。
【図2】プラスチックフィルムの縦延伸ゾーンの概略側面図である。
【符号の説明】
1 測定台
2 サンプルフィルム
3 金属片
4 磁石
5 フィルム
6、6′ 縦延伸ローラ
7 冷却ローラ
8、8′ 赤外ヒータ
【発明の属する技術分野】
本発明は、印刷版材料及び印刷版に関し、特に、コンピューター・トゥー・プレート(CTP)方式により画像形成が可能な印刷版材料及びCTP方式により画像形成する印刷版に関する。
【0002】
【従来の技術】
印刷データのデジタル化に伴い、安価で取扱いが容易でPS版と同等の印刷適性を有したCTPが求められている。特に近年、特別な薬剤による現像液処理が不要な、いわゆるプロセスレス印刷版への期待が高まっている。
【0003】
プロセスレス印刷版の構成としては、PS版と同じアルミ砂目を用いる場合も考えられるが、層構成の自由度やコストダウンの観点から、塗布形成された親水性層を有する種々の方式のプロセスレス印刷版が提案されている。
【0004】
プロセスレス印刷版の画像形成方式の一つとして有力であるのが、赤外線レーザー記録であり、大きく分けて、後述するアブレーションタイプと熱融着画像層機上現像タイプ及び熱溶融転写タイプの三種の記録方法が存在する。
【0005】
赤外線レーザー記録では、高解像度画像を短時間で記録することが可能となるが、露光系の装置価格が高いという問題を有している。
【0006】
アブレーションタイプとしては、例えば、特開平8−507727号、同6−186750号、同6−199064号、同7−314934号、同10−58636号、同10−244773号に記載されているものが挙げられる。これらは、例えば、支持体上に親水性層と親油性層とを有し、何れかの層を表層として積層したものである。表層が親水性層であれば、画像様に露光し、親水性層をアブレートさせて画像様に除去して親油性層を露出することで画像部を形成することができる。ただし、アブレートした表層の飛散物による露光装置内部の汚染が問題となるため、親水性層上に更に水溶性の保護層を設けて、アブレートした表層の飛散を防止し、印刷機上で保護層とともにアブレートした表層を除去する方式も提案されている。
【0007】
熱融着画像層機上現像タイプとしては、特許2,938,397号や特許2,938,397号に開示されているような、親水性層もしくはアルミ砂目上に、画像形成層に熱可塑性微粒子と水溶性の結合剤とを用いたものが挙げられる。しかし、親水性支持体としてアルミ砂目を用いた場合には、光熱変換素材(一般的には可視光にも着色している)を画像形成層に添加する必要があり、現像した際に印刷機を汚染する懸念があるため、層構成としては支持体上に光熱変換素材を含有した親水性層を形成したものを使用して、画像形成層からは光熱変換素材を除いたものの方が有利である。
【0008】
又、熱溶融転写方式としては、例えば、マンローランド社のDICOwebのような熱転写リボンを用いて、アルミ砂目ではなく、繰り返し使用可能な親水性表面を有する金属スリーブに熱溶融素材を画像様に転写した後、加熱して画像を定着させる方法が挙げられる。
【0009】
このように、赤外線レーザー記録用のプロセスレス印刷版としては、何れのタイプの記録原理ではあっても、印刷版非画像部の水受容表面として塗布形成された親水性層を用いるのがほとんどである。
【0010】
一方、プロセスレス印刷版の画像形成方法として、もう一つの有力な方法は、インクジェット記録方式であり、種々の記録方法や画像形成素材が提案されている。インクジェット記録方式は、現状では赤外線レーザー記録方式ほどの高解像度及び記録速度を得ることはできていないが、装置価格が比較的安価であるという利点も有している。
【0011】
インクジェット記録方式によるプロセスレス印刷版は、一般的には親水性表面を有する印刷版材料に、親油性の画像形成素材を画像様に付与し、その後、必要であれば画像定着もしくは画像強度向上のための処理を行って作製される印刷版である。画像形成素材を含む記録用インクとしては、例えば、特開平5−204138号に開示されているような光重合性インク組成物や、同9−58144号に開示されているようなホットメルトインク、同10−272753号に開示されているような油性インクなどが挙げられ、親水性表面を有する印刷版材料としては、アルミ砂目や親水性層を有する印刷版材料が挙げられるが、インクジェット記録の特徴として、滴下後のインクの広がり抑制やインクの定着性の観点から、被記録材料には適度なインク吸収性が要求され、印刷版材料としては多孔質な親水性層を有する印刷版材料である方が有利である。
【0012】
このように、プロセスレス印刷版の種々の画像記録方式には、アルミ砂目を用いた印刷版材料よりも、塗布形成した親水性層を有する印刷版材料が適していると言える。
【0013】
しかしながら、これらのプロセスレス印刷版は、印刷適性、特に耐刷性が不十分な性能であった。又印刷版の取り扱い時の耐傷性において十分な性能が得られていないという問題があった。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は印刷適性の向上、特に耐刷性に優れた親水性層を有する印刷版材料及びプロセスレスに適応出来る印刷版を提供することである。又、第2の目的は得られた印刷版材料にカールの生じにくい包装方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記の目的は、以下の構成により達成された。
【0016】
1.支持体上に親水性層を有する印刷版材料であって、前記支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする印刷版材料。
【0017】
2.前記親水性層が多孔質構造であることを特徴とする前記1に記載の印刷版材料。
【0018】
3.支持体上に熱で画像形成可能な画像形成機能層を有し、かつ支持体上の何れか1層が光熱変換素材を含有することを特徴とする前記1又は2に記載の印刷版材料。
【0019】
4.支持体上に親水性層、熱で画像形成可能な画像形成機能層をこの順に有し、かつ前記画像形成機能層が熱溶融性又は熱融着性微粒子を含有することを特徴とする前記3に記載の印刷版材料。
【0020】
5.ロール状に巻かれていることを特徴とする前記1〜4の何れか1項に記載の印刷版材料。
【0021】
6.前記1〜5の何れか1項に記載の印刷版材料を湿度20〜60%RHで包装することを特徴とする印刷版材料の包装方法。
【0022】
7.前記1〜5の何れか1項に記載の印刷版材料の親水性層上に、画像形成素材を画像様に付与することにより画像が形成されたことを特徴とする印刷版。
【0023】
8.前記画像が、画像形成素材を含むインクをインクジェット方式により付与、形成されたものであることを特徴とする前記7に記載の印刷版。
【0024】
9.前記画像形成素材を含むインクが、放射線硬化性インクであることを特徴とする前記8に記載の印刷版。
【0025】
10.前記画像が、放射線硬化性インクをインクジェット方式により付与した後、光を照射して形成されたものであることを特徴とする前記8に記載の印刷版。
【0026】
本発明の印刷版材料は、支持体上に親水性層を有し、使用される支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする。
【0027】
本発明においては、立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることが特徴である。立ち上がりカールの測定は、試料を23℃・50%RHで2日間調湿した後、440×610mmに裁断し、外径3インチのボール芯に乳剤側をボール芯に接触するように巻付けバリア袋に封入し、40℃で2日間放置し、その後、23℃・20%RHの条件下で試料をボール芯から巻剥がし、平らな机の上に、ボール芯に接触していた側を上に置き、試料の4隅が机から浮き上がっている高さを測定する。
【0028】
本発明において支持体の「立ち上がりカール」とは、その4隅の浮き上がっているカールの高さの最大の値を示す高さを意味する。
【0029】
立ち上がりカールを本発明の範囲である0mm以上60mm以下にするには様々な手段を組み合わせることで達成できるが、下記の1〜6の手段を複数用いることが好ましい。
【0030】
1.支持体として、120℃での弾性率(E120)が100〜600kg/mm2であるプラスチックフィルムを使用すること
このような条件を満足するプラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、セルロースエステル類等を挙げることができるが、ハンドリング適性を得るために120℃での弾性率(E120)が100〜600kg/mm2であることが好ましく、より好ましくは120〜500kg/mm2である。具体的にはポリエチレンナフタレート(E120=410kg/mm2)、ポリエチレンテレフタレート(E120=150kg/mm2)、ポリブチレナフタレート(E120=160kg/mm2)、ポリカーボネイト(E120=170kg/mm2)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=220kg/mm2)、ポリエーテルイミド(E120=190kg/mm2)、ポリアリレート(E120=170kg/mm2)、ポリスルホン(E120=180kg/mm2)、ポリエーテルスルホン(E120=170kg/mm2)等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、積層又は混合して用いても良い。特に好ましいプラスチックフィルムとしてはポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレートである。
【0031】
これらの支持体中にはハンドリング性向上のため0.01〜10μmの微粒子を1〜1000ppm添加するのも好ましい。
【0032】
2.支持体の平均厚みを50〜500μmとし、厚み分布を0〜10%とすること
本発明に使用出来る支持体の平均厚みは、印刷機に取り付け可能であれば特に制限されるものではないが、50〜500μmのものが好ましく、より好ましくは80〜350μmであり、更に好ましくは100〜300μmである。
【0033】
更に上記支持体の厚み分布(厚みの最大値と最小値の差を平均厚みで割り百分率で表した値)が0〜10%、より好ましくは0〜8%、更に好ましくは0〜6%である。
【0034】
支持体の厚み分布の測定方法は、一辺が60cmの正方形に切り出した支持体を縦、横10cm間隔で碁盤目状に線を引き、この36点の厚みを測定し平均値と最大値、最小値を求める。
【0035】
これらの支持体は次の手順で製膜される。熱可塑性樹脂を融点(Tm)〜Tm+50℃の間で溶融後、焼結フィルター等で濾過した後、T−ダイから押出し、ガラス転位温度(Tg)−50℃〜Tgに温調したキャスティングドラム上で未延伸シートを形成する。この時、厚み分布を上述した範囲にするには、静電印加法等を用いるのが好ましい。これをTg〜Tg+50℃の間で2〜4倍に縦延伸する。
【0036】
又この時、厚み分布を上述した範囲にするもう一つの方法としては、縦延伸を多段延伸するのが好ましい。この時前段延伸より後段延伸の温度を1〜30℃、より好ましくは2〜15℃高くして延伸するのが好ましい。更に前段延伸の倍率は後段延伸の倍率の0.25〜0.7倍、より好ましくは0.3〜0.5倍で行なうのが好ましい。この後、Tg−30℃〜Tgで5〜60秒、より好ましくは10〜40秒保持した後、横方向にTg〜Tg+50℃の間で2.5〜5倍に延伸する。この後、Tm−50℃〜Tm−5℃で5〜120秒、チャックで把持した状態で熱固定を行なう。この時、幅方向に0〜10%チャック間隔を狭めること(熱緩和)も好ましい。これを冷却後、端部に10〜100μmのナーリングを付けた後、巻取り多軸延伸フィルムを得る。
【0037】
本発明に使用出来るプラスチックフィルムは塗布層との接着性を向上させるために、塗布面に易接着処理や下引き層塗布を行うことが好ましい。易接着処理としては、コロナ放電処理や火炎処理、プラズマ処理、紫外線照射処理等が挙げられる。又、下引き層としては、ゼラチンやラテックスを含む層等が挙げられる。
【0038】
又、本発明においては、上記プラスチックフィルムと金属板(例えば、鉄、ステンレス、アルミニウムなど)やポリエチレンで被覆した紙などの材料を適宜貼り合わせた複合支持体を用いることもできる。これらの複合機剤は、塗布層を形成する前に貼り合わせても良く、又、塗布層を形成した後に貼り合わせても良く、印刷機に取り付ける直前に貼り合わせても良い。
【0039】
3.支持体の製膜カール値を10mm以下にすること
本発明においては、支持体の製膜カール値が10mm以下であることが好ましく、より好ましくは5mm以下である。本発明における「製膜カール値」とは以下の測定法により測定された値である。
【0040】
以下に製膜カール値の測定法について、図を用いて詳述する。
(1)サンプリング
サンプルフィルム(製膜後フィルム)を原版フィルムの中央、両端の3点において、縦方向(MD)に各3枚ずつサンプリングする。サンプルフィルムは2cm×30cmの長方形とし、30cmの片をMD方向に平行にサンプリングする。
(2)製膜カール値の測定
23℃、65%RH条件下に6時間以上調湿後、図1のようにサンプルフィルムをセットし、両端のカール変位量(X1、X2)を測定する。そして下記式に基づき製膜カール値を求める。
【0041】
製膜カール値=(X1+X2)/2
図1について説明する。図1はサンプルフィルムの製膜カール値の測定を示す概略図である。図1(a)は測定台にサンプルフィルムがセットされた状態を上面側から観察した際の図であり、同図(b)は測定台にサンプルフィルムがセットされた状態を側面側から観察した際の図である。図1中、1は測定台、2はサンプルフィルム、3は金属片、4は磁石を表し、サンプルフィルム2を金属片3と磁石4にて挟持しながらサンプルフィルム2の両端のカール変位量(X1、X2)を測定する。得られたカール変位量(X1、X2)から上記の式により製膜カール値が求められる。
【0042】
このような支持体の作製方法は、延伸工程で表裏の延伸温度を実質的に同一(差を持たせない)にするプラスチックフィルムの製造方法により達成される。
【0043】
ここで、「実質的に同一(差を持たせない)」とは表裏の延伸温度の温度差を10℃以下、好ましくは5℃以下、更に好ましくは3℃以下、より好ましくは1℃以下、特に好ましくは同一にすることである。
【0044】
具体的には、例えばキャスティング後に縦方向に特定倍率延伸する際、片面もしくは両面に赤外線ヒータ等の補助的加熱手段を設け、表裏の延伸温度を実質的に同一(差を持たせない)にすることにより、巻きぐせカールが回復した後に発現してくる製膜カールをコントロールする。
【0045】
図2は、本発明に使用出来るプラスチックフィルムの縦延伸ゾーンの概略側面図を示している。キャスティング後のプラスチックフィルム5が縦延伸ローラ6、6′で加熱された後、冷却ローラ7を通り、図示されていない横延伸ゾーンに送られる。縦延伸ローラ6′の直後に赤外ヒータ8、8′が設けられている。このような構成により、赤外ヒータ直後の延伸温度差を6℃以下、好ましくは4℃以下にすることで、有効に製膜カールをコントロールすることができる。
【0046】
本発明における製膜カールのコントロールメカニズムは、プラスチックフィルムの表裏での結晶化度及び配向度が異なると熱処理工程での体積収縮率に差を生ずることが考えられ、その差を押さえることがポイントとなる。
【0047】
製膜工程については特に限定するものではないが、本発明に好適な例としてキャスティング後に縦方向に特定倍率延伸し、更にテンターによって横方向に延伸する逐次二軸延伸の態様が挙げられる。以下、これについて説明する。
【0048】
工程的には結晶化はキャスティング時から縦横の延伸までの全工程に亘って起きるから、表裏の結晶化の差が生じるステップはキャスティング時、縦延伸時、及び横延伸時の何れか又は複数のステップに跨っている。
【0049】
キャスティング時は、プラスチックフィルムの厚みが最も厚く、表裏温度差が生じやすいが、生じた結晶の差が等温結晶結晶化度の差として現れるため後工程の延伸時に結晶が破壊され、カールのコントロールが不能になる。
【0050】
これに対して、延伸工程で生ずる結晶化度の差は、配向結晶化度の差として現れるため破壊されにくく、又通常延伸部には加熱、冷却の手段が設けられており補助的加熱手段を付加するため、立ち上がりカールを本発明の範囲にする手段として運用するのは延伸工程において好適である。
【0051】
更に、縦延伸工程と横延伸工程との比較では、後者の方がプラスチックフィルムの面積が数倍になっており、コントロールしにくい。従って、上記のような逐次二軸延伸の工程においては、縦延伸時に表裏の結晶化度の差を押さえることが最適である。
【0052】
4.支持体を製膜後、支持体のガラス転移点より30℃以上高い温度で加熱すること(支持体の熱処理)
支持体の熱処理とは、上記の支持体を製膜後、親水性層等の各塗工層が塗布されるまでの間に、支持体のガラス転移点より30℃以上高い温度、好ましくは35℃以上高い温度、更に好ましくは40℃以上高い温度で加熱することである。但し、支持体の融点を超えた温度で加熱しては本発明の効果は得られない。
【0053】
5.支持体上の両側に親水性層を設けること
支持体上の両側に親水性層を設けることによっても立ち上がりカールを0mm以上60mm以下にすることが可能となる。この親水性層については後述する。
【0054】
6.特定の条件下で包装すること
本発明の印刷版材料は塗布乾燥後、印刷版としての必要に応じて断裁包装加工される。その際にロール状の包製品形態に包装されることが、輸送及び取り扱い上好ましい。その製品形態にするのには湿度20〜60%RHで包装することが好ましい。60%RHを越える湿度で包装されると保管時にくっつきが起きやすく、又20%RH未満で包装された場合には、長期保存された時にひび割れ等の欠陥が生じることがあるので好ましくない。
【0055】
本発明の印刷版材料の態様の一つとして、前述の親水性層からなる構成或いは親水性層と下層とからなる構成の他に、支持体上に更に熱で画像形成可能な画像形成機能層を設け、かつ支持体上の何れかの層に光熱変換素材を含有する態様が挙げられる。この態様は赤外線レーザーによる画像記録に適した態様である。
【0056】
上記態様には、親水性層よりも支持体に近い側に光熱変換素材を含有した親油性のアブレーション層を設けたアブレーションタイプの印刷版材料も含まれる。アブレーションタイプの印刷版材料としても、本発明に係る支持体を採用することで優れた印刷性能と耐刷性とを得ることができる。
【0057】
本発明の印刷版材料において、赤外線レーザー記録の好ましい態様としては、親水性層上に画像形成機能層を有し、かつ、画像形成機能層が熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有するものである。この態様では、光熱変換素材は、親水性層にも画像形成機能層にも含有させることが可能であるが、光熱変換素材が可視光で着色している場合は、親水性層もしくは親水性層及び/又は下層に含有させることが好ましい。これは、この態様では未露光部の画像形成機能層は、印刷機上で湿し水やインクによって除去される場合に、印刷物の色濁りが懸念されるためである。
【0058】
この態様の画像形成機能層は、後述するような親油性の画像形成素材を含む熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する。粒子形態を有していることで、未露光部では親水性層上から除去されやすい状態となっているが、露光部では微粒子が溶融、融着し粒子同士が一体化して親水性層上に固定化されることで除去されにくくなり、画像として機能する。特に、溶融時の粘度の低い熱溶融性微粒子と多孔質な親水性層とを組合わせることにより、露光部では溶融した画像形成素材が多孔質な親水性層内部へと浸透し、より強固な画像を形成する。
【0059】
この態様の画像形成機能層の付量は0.1〜5g/m2であることが好ましく、0.2〜2g/m2であることがより好ましく、0.3〜1.0g/m2であることが更に好ましい。
【0060】
又、この態様の画像形成機能層は、未露光部及び露光部ともに親水性層及び/又は下層によって形成される有効突起により保護される。即ち、外力が直接作用しにくい形態であることが好ましく、画像形成機能層表面の大部分が有効突起頂点よりも低い位置にあることが好ましく、有効突起頂点よりも低い位置にあることで、印刷前の種々の取り扱いでの圧力や擦りの影響で熱溶融性又は熱融着性微粒子が押しつぶされたり擦り付けられたりして、親水性層上に固着し、汚れとなるような現象を抑制する効果が得られる。更に、印刷時においては、水ローラー、インクローラー、ブランケット胴との接触から画像部を保護し、耐刷性を大きく向上させる効果が得られる。
【0061】
本発明の印刷版は、上述の印刷版材料の親水性層上に画像形成素材を画像様に付与することにより画像を形成した印刷版である。
【0062】
画像形成は、前述の赤外線レーザーによる画像形成素材の熱溶融転写により行うことも可能であるが、インクジェット方式によって行うことがより好ましい態様である。この場合の親水性層は、インクの適度な浸透による強固な固定化を得るために多孔質であることが好ましい。
【0063】
インクジェット方式による画像形成素材を含有するインクの付与は、公知の方法によって行うことができる。又、画像形成素材を含有するインクとしては公知の種々のインクを用いることが可能であるが、後述する放射線硬化性インクであることがより好ましい態様である。画像形成素材として放射線硬化性インクを用いる場合には、親水性層上に放射線硬化性インクが付与された直後に、そのインクを硬化させることが可能な波長を含む光を照射することが好ましい。
【0064】
次に、本発明の印刷版材料を構成する主要な構成因子、画像形成方法、放射線硬化インク、インクジェット記録方法について説明する。
《親水性層》
本発明の印刷版材料の親水性層に用いられる素材は、下記のようなものが挙げられる。
(親水性層マトリクスを形成する素材)
親水性層マトリクスを形成する素材としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、金属酸化物微粒子を含むことが好ましく、例えば、コロイダルシリカ、アルミナゾル、チタニアゾル、その他の金属酸化物のゾルが挙げられる。該金属酸化物微粒子の形態としては、球状、針状、羽毛状、その他の何れの形態でも良く、平均粒径としては、3〜100nmであることが好ましく、平均粒径が異なる数種の金属酸化物微粒子を併用することもできる。又、粒子表面に表面処理がなされていても良い。
【0065】
上記金属酸化物微粒子は、その造膜性を利用して結合剤としての使用が可能である。有機の結合剤を用いるよりも親水性の低下が少なく、親水性層への使用に適している。
【0066】
本発明では、上記の中でも特にコロイダルシリカが好ましく使用できる。コロイダルシリカは、比較的低温の乾燥条件であっても造膜性が高いという利点があり、良好な強度を得ることができる。本発明で用いることのできるコロイダルシリカとしては、後述するネックレス状コロイダルシリカ、平均粒径20nm以下の微粒子コロイダルシリカを含むことが好ましく、更に、コロイダルシリカはコロイド溶液としてアルカリ性を呈することが好ましい。
【0067】
本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは、一次粒子径がnmのオーダーである球状シリカの水分散系の総称である。本発明に用いられるネックレス状コロイダルシリカとは、一次粒粒子径が10〜50nmの球状コロイダルシリカが50〜400nmの長さに結合した「パールネックレス状」のコロイダルシリカを意味する。パールネックレス状(即ち真珠ネックレス状)とは、コロイダルシリカのシリカ粒子が連なって結合した状態のイメージが、真珠ネックレスの様な形状をしていることを意味している。ネックレス状コロイダルシリカを構成するシリカ粒子同士の結合は、シリカ粒子表面に存在する−SiOH基が脱水結合した−Si−O−Si−と推定される。ネックレス状のコロイダルシリカとしては、具体的には日産化学工業(株)製の「スノーテックス−PS」シリーズなどが挙げられ、製品名としては「スノーテックス−PS−S(連結した状態の平均粒子径は110nm程度)」、「スノーテックス−PS−M(連結した状態の平均粒子径は120nm程度)」及び「スノーテックス−PS−L(連結した状態の平均粒子径は170nm程度)」があり、これらにそれぞれ対応する酸性の製品が「スノーテックス−PS−S−O」、「スノーテックス−PS−M−O」及び「スノーテックス−PS−L−O」である。
【0068】
ネックレス状コロイダルシリカを添加することにより、層の多孔性を確保しつつ、強度を維持することが可能となり、親水性層マトリクスの多孔質化材として好ましく使用できる。これらの中でも、アルカリ性である「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPS−L」を用いると、親水性層の強度が向上し、又、印刷枚数が多い場合でも地汚れの発生が抑制され、特に好ましい。
【0069】
又、コロイダルシリカは、粒子径が小さいほど結合力が強くなることが知られており、本発明では平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカを用いることが好ましく、3〜15nmであることが更に好ましい。又、前述のようにコロイダルシリカの中ではアルカリ性のものが、地汚れ発生を抑制する効果が高く特に好ましい。平均粒径がこの範囲にあるアルカリ性のコロイダルシリカとしては、例えば、日産化学社製の「スノーテックス−20(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−30(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−40(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−N(粒子径10〜20nm)」、「スノーテックス−S(粒子径8〜11nm)」、「スノーテックス−XS(粒子径4〜6nm)」が挙げられる。
【0070】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカは、前述のネックレス状コロイダルシリカと併用することで、形成する層の多孔質性を維持しながら、強度を更に向上させることが可能となり、特に好ましい。
【0071】
平均粒径が20nm以下であるコロイダルシリカ/ネックレス状コロイダルシリカの比率は95/5〜5/95が好ましく、70/30〜20/80がより好ましく、60/40〜30/70が更に好ましい。
【0072】
本発明において、親水性層マトリクス構造の多孔質化材として、粒径が1μm未満の多孔質金属酸化物粒子を含有することができる。多孔質金属酸化物粒子としては、以下に記載の多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子もしくはゼオライト粒子を好ましく用いることができる。
〈多孔質シリカ多孔質シリカ又は多孔質アルミノシリケート粒子〉
多孔質シリカ粒子は、一般に湿式法又は乾式法により製造される。湿式法では、ケイ酸塩水溶液を中和して得られるゲルを乾燥、粉砕するか、もしくは中和して析出した沈降物を粉砕することで得ることができる。乾式法では、四塩化珪素を水素と酸素と共に燃焼し、シリカを析出することで得られる。これらの粒子は製造条件の調整により、多孔性や粒径を制御することが可能である。多孔質シリカ粒子としては、湿式法のゲルから得られるものが特に好ましい。
【0073】
多孔質アルミノシリケート粒子は、例えば、特開平10−71764号に記載されている方法により製造される。即ち、アルミニウムアルコキシドと珪素アルコキシドを主成分として加水分解法により合成された非晶質な複合体粒子である。粒子中のアルミナとシリカの比率は1:4〜4:1の範囲で合成することが可能である。又、製造時にその他の金属のアルコキシドを添加して3成分以上の複合体粒子として製造したものも本発明に使用できる。これらの複合体粒子も製造条件の調整により多孔性や粒径を制御することが可能である。
【0074】
粒子の多孔性としては、細孔容積で0.5ml/g以上であることが好ましく、0.8ml/g以上であることがより好ましく、1.0〜2.5ml/gであることが更に好ましい。細孔容積は、塗膜の保水性と密接に関連しており、細孔容積が大きいほど保水性が良好となって印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなるが、2.5ml/gよりも大きくなると粒子自体が非常に脆くなるため塗膜の耐久性が低下する。逆に、細孔容積が0.5ml/g未満の場合には、印刷性能がやや不十分となる場合がある。
〈ゼオライト粒子〉
ゼオライトは、結晶性のアルミノケイ酸塩であり、細孔径が0.3〜1nmの規則正しい三次元網目構造の空隙を有する多孔質体である。天然及び合成ゼオライトを合わせた一般式は、次のように表される。
【0075】
(M1、(M2)0.5)m(AlmSinO2)(m+n)・xH2O
ここで、M1、M2は交換性のカチオンであって、M1はLi+、Na+、K+、Tl+、Me4N+(TMA)、Et4N+(TEA)、Pr4N+(TPA)、C7H15N2+、C8H16N+等であり、M2はCa2+、Mg2+、Ba2+、Sr2+、C8H18N2 2+等である。又、n≧mであり、m/nの値つまりはAl/Si比率は1以下となる。Al/Si比率が高いほど交換性カチオンの量が多く含まれるため極性が高く、従って親水性も高い。好ましいAl/Si比率は0.4〜1.0であり、更に好ましくは0.8〜1.0である。xは整数を表す。
【0076】
本発明で使用するゼオライト粒子としては、Al/Si比率が安定しており、又粒径分布も比較的シャープである合成ゼオライトが好ましく、例えばゼオライトA:Na12(Al12Si12O48)・27H2O;Al/Si比率1.0、ゼオライトX:Na86(Al86Si106O384)・264H2O;Al/Si比率0.811、ゼオライトY:Na56(Al56Si136O384)・250H2O;Al/Si比率0.412等が挙げられる。
【0077】
Al/Si比率が0.4〜1.0である親水性の高い多孔質粒子を含有することで、親水性層自体の親水性も大きく向上し、印刷時に汚れにくく、水量ラチチュードも広くなる。又、指紋跡の汚れも大きく改善される。Al/Si比率が0.4未満では親水性が不充分であり、上記性能の改善効果が小さくなる。
【0078】
又、本発明の印刷版材料の親水性層マトリクス構造は、層状粘土鉱物粒子を含有することができる。該層状鉱物粒子としては、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、タルク、スメクタイト(モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サボナイト等)、バーミキュライト、マイカ(雲母)、クロライトといった粘土鉱物及び、ハイドロタルサイト、層状ポリケイ酸塩(カネマイト、マカタイト、アイアライト、マガディアイト、ケニヤアイト等)等が挙げられる。特に、単位層(ユニットレイヤー)の電荷密度が高いほど極性が高く、親水性も高いと考えられる。好ましい電荷密度としては0.25以上、更に好ましくは0.6以上である。このような電荷密度を有する層状鉱物としては、スメクタイト(電荷密度0.25〜0.6;陰電荷)、バーミキュライト(電荷密度0.6〜0.9;陰電荷)等が挙げられる。特に、合成フッ素雲母は粒径等安定した品質のものを入手することができ好ましい。又、合成フッ素雲母の中でも、膨潤性であるものが好ましく、自由膨潤であるものが更に好ましい。
【0079】
又、上記の層状鉱物のインターカレーション化合物(ピラードクリスタル等)や、イオン交換処理を施したもの、表面処理(シランカップリング処理、有機バインダとの複合化処理等)を施したものも使用することができる。
【0080】
平板状層状鉱物粒子のサイズとしては、層中に含有されている状態で(膨潤工程、分散剥離工程を経た場合も含めて)、平均粒径(粒子の最大長)が1μm未満であり、平均アスペクト比が50以上であることが好ましい。粒子サイズが上記範囲にある場合、薄層状粒子の特徴である平面方向の連続性及び柔軟性が塗膜に付与され、クラックが入りにくく乾燥状態で強靭な塗膜とすることができる。又、粒子物を多く含有する塗布液においては、層状粘土鉱物の増粘効果によって、粒子物の沈降を抑制することができる。粒子径が上記範囲より大きくなると、塗膜に不均一性が生じて、局所的に強度が弱くなる場合がある。又、アスペクト比が上記範囲以下である場合、添加量に対する平板状の粒子数が少なくなり、増粘性が不充分となり、粒子物の沈降を抑制する効果が低減する。
【0081】
層状鉱物粒子の含有量としては、層全体の0.1〜30質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。特に膨潤性合成フッ素雲母やスメクタイトは少量の添加でも効果が見られるため好ましい。層状鉱物粒子は、塗布液に粉体で添加してもよいが、簡便な調液方法(メディア分散等の分散工程を必要としない)でも良好な分散度を得るために、層状鉱物粒子を単独で水に膨潤させたゲルを調製した後、塗布液に添加することが好ましい。
【0082】
親水性層マトリクスにはその他の添加素材として、ケイ酸塩水溶液も使用することができる。ケイ酸Na、ケイ酸K、ケイ酸Liといったアルカリ金属ケイ酸塩が好ましく、そのSiO2/M2O比率はケイ酸塩を添加した際の塗布液全体のpHが13を超えない範囲となるように選択することが無機粒子の溶解を防止する上で好ましい。
【0083】
又、金属アルコキシドを用いた、いわゆるゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーも使用することができる。ゾル−ゲル法による無機ポリマーもしくは有機−無機ハイブリッドポリマーの形成については、例えば、「ゾル−ゲル法の応用」(作花済夫著/アグネ承風社発行)に記載されているか、又は本書に引用されている文献に記載されている公知の方法を使用することができる。
【0084】
又、本発明においては、水溶性樹脂を含有してもよい。水溶性樹脂としては、例えば、多糖類、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルエーテル、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル系重合体ラテックス、ビニル系重合体ラテックス、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の樹脂が挙げられるが、本発明に用いられる水溶性樹脂としては、多糖類を用いることが好ましい。
【0085】
多糖類としては、デンプン類、セルロース類、ポリウロン酸、プルランなどが使用可能であるが、特にメチルセルロース塩、カルボキシメチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース塩等のセルロース誘導体が好ましく、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩やアンモニウム塩がより好ましい。これは、親水性層に多糖類を含有させることにより、親水性層の表面形状を好ましい状態形成する効果が得られるためである。
【0086】
親水性層の表面は、PS版のアルミ砂目のように0.1〜20μmピッチの凹凸構造を有することが好ましく、この凹凸により保水性や画像部の保持性が向上する。このような凹凸構造は、親水性層マトリクスに適切な粒径のフィラーを適切な量含有させて形成することも可能であるが、親水性層の塗布液に前述のアルカリ性コロイダルシリカと前述の水溶性多糖類とを含有させ、親水性層を塗布、乾燥させる際に相分離を生じさせて形成することがより良好な印刷適性を有する構造を得ることができ、好ましい。
【0087】
凹凸構造の形態(ピッチ及び表面粗さなど)は、アルカリ性コロイダルシリカの種類及び添加量、水溶性多糖類の種類及び添加量、その他添加材の種類及び添加量、塗布液の固形分濃度、ウエット膜厚、乾燥条件等で適宜コントロールすることが可能である。
【0088】
本発明において、親水性マトリクス構造部に添加される水溶性樹脂は、少なくともその一部が水溶性の状態のまま、水に溶出可能な状態で存在することが好ましい。水溶性の素材であっても、架橋剤等によって架橋し、水に不溶の状態になると、その親水性は低下して印刷適性を劣化させる懸念があるためである。又、更にカチオン性樹脂を含有しても良く、カチオン性樹脂としては、例えば、ポリエチレンアミン、ポリプロピレンポリアミン等のようなポリアルキレンポリアミン類又はその誘導体、第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル樹脂、ジアクリルアミン等が挙げられる。カチオン性樹脂は、微粒子状の形態で添加しても良く、例えば、特開平6−161101号に記載のカチオン性マイクロゲルが挙げられる。
【0089】
又、親水性層の塗布液には、塗布性改善等の目的で水溶性の界面活性剤を含有させることができ、Si系、又はF系等の界面活性剤を使用することができるが、特にSi元素を含む界面活性剤を使用することが印刷汚れを生じる懸念がなく、好ましい。該界面活性剤の含有量は、親水性層全体(塗布液としては固形分)の0.01〜3質量%が好ましく、0.03〜1質量%が更に好ましい。
【0090】
又、親水性層には、リン酸塩を含むことができる。本発明では、親水性層の塗布液がアルカリ性であることが好ましいため、リン酸塩としてはリン酸三ナトリウムやリン酸水素二ナトリウムとして添加することが好ましい。リン酸塩を添加することで、印刷時の網の目開きを改善する効果が得られる。リン酸塩の添加量としては、水和物を除いた有効量として、0.1〜5質量%が好ましく、0.5〜2質量%が更に好ましい。
【0091】
又、後述する光熱変換素材を含有することもできる。光熱変換素材としては、粒子状素材の場合は粒径が1μm未満であることが好ましい。
〈粒径が1μm以上の無機粒子もしくは無機素材で被覆された粒子〉
本発明で用いることのできる無機粒子としては、例えば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど、公知の金属酸化物粒子を用いることができるが、塗布液中での沈降を抑制するために、多孔質な金属酸化物粒子を用いることが好ましい。多孔質な金属酸化物粒子としては、前述の多孔質シリカ粒子や多孔質アルミノシリケート粒子を好ましく用いることができる。
【0092】
又、無機素材で被覆された粒子としては、例えば、ポリメチルメタアクリレートやポリスチレンといった有機粒子を芯材とし、芯材粒子よりも粒径の小さな無機粒子で被覆した粒子が挙げられる。無機粒子の粒径としては、芯材粒子の1/10〜1/100程度であることが好ましい。又、無機粒子としては、同様にシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアなど、公知の金属酸化物粒子を用いることができる。被覆方法としては、種々の公知の方法を用いることができるが、ハイブリダイザのような空気中で芯材粒子と被覆材粒子とを高速に衝突させて芯材粒子表面に被覆材粒子を食い込ませて固定、被覆する乾式の被覆方法を好ましく用いることができる。
【0093】
又、有機粒子の芯材を金属メッキした粒子も用いることができる。このような粒子としては、例えば、樹脂粒子に金メッキを施した積水化学工業社製の「ミクロパールAU」等が挙げられる。
【0094】
粒径は1μm以上でかつ、親水性マトリクス構造の平均膜厚に対して本発明で規定する式(1)の関係を満足することが必要であるが、1〜10μmが好ましく、1.5〜8μmがより好ましく、2〜6μmが更に好ましい。
【0095】
粒径が10μmを超えると、画像形成の解像度の低下や、ブランケット汚れの劣化が生じる懸念がある。本発明では、粒径が1μm以上の粒子の添加量としては、表面形態パラメータを満足するように適宜調整されるが、親水性層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。親水性層全体としては、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
《下層》
下層に用いる素材としては、親水性層と同様の素材を用いることができる。ただし、下層は多孔質であることの利点が少なく、又、より無孔質である方が塗膜強度が向上するといった観点から、親水性マトリクス構造を形成する多孔質化材の含有量は、親水性層よりも少ないことが好ましく、含有しないことがより好ましい。
【0096】
下層で用いる粒径が1μm以上の粒子の添加量としては、表面形態パラメータを満足するように適宜調整されるが、下層全体の1〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。
【0097】
下層全体としても親水性層と同様に、有機樹脂やカーボンブラック等の炭素を含有する素材の含有比率が低いことが親水性を向上させるために好ましく、これらの素材の合計が9質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましい。
《光熱変換素材》
親水性層、下層及びその他に設けられる層には、光熱変換素材を含有することができる。
【0098】
光熱変換素材としては下記のような素材を添加することができる。
(赤外吸収色素)
一般的な赤外吸収色素であるシアニン系色素、クロコニウム系色素、ポリメチン系色素、アズレニウム系色素、スクワリウム系色素、チオピリリウム系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素などの有機化合物、フタロシアニン系、ナフタロシアニン系、アゾ系、チオアミド系、ジチオール系、インドアニリン系の有機金属錯体などが挙げられる。具体的には、特開昭63−139191号、同64−33547号、特開平1−160683号、同1−280750号、同1−293342号、同2−2074号、同3−26593号、同3−30991号、同3−34891号、同3−36093号、同3−36094号、同3−36095号、同3−42281号、同3−97589号、同3−103476号等に記載の化合物が挙げられる。これらは一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
(顔料)
顔料としては、カーボン、グラファイト、金属、金属酸化物等が挙げられる。カーボンとしては、特にファーネスブラックやアセチレンブラックの使用が好ましい。粒度(d50)は100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることが更に好ましい。
(グラファイト)
グラファイトとしては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子を使用することができる。
(金属)
金属としては、粒径が0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下の微粒子であれば何れの金属であっても使用することができる。形状としては球状、片状、針状等何れの形状でも良い。特にコロイド状金属微粒子(Ag、Au等)が好ましい。
(金属酸化物)
金属酸化物としては、可視光域で黒色を呈している素材、又は素材自体が導電性を有するか、半導体であるような素材を使用することができる。前者としては、黒色酸化鉄(Fe3O4)や、前述の二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物が挙げられる。後者とては、例えば、SbをドープしたSnO2(ATO)、Snを添加したIn2O3(ITO)、TiO2、TiO2を還元したTiO(酸化窒化チタン、一般的にはチタンブラック)などが挙げられる。又、これらの金属酸化物で芯材(BaSO4、TiO2、9Al2O3・2B2O、K2O・nTiO2等)を被覆したものも使用することができる。これらの粒径は、0.5μm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下である。
【0099】
これらの光熱変換素材のうち、二種以上の金属を含有する黒色複合金属酸化物がより好ましい素材として挙げられ、具体的には、Al、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Sb、Baから選ばれる二種以上の金属からなる複合金属酸化物である。これらは、特開平8−27393号、同9−25126号、同9−237570号、同9−241529号、同10−231441号等に開示されている方法により製造することができる。
【0100】
複合金属酸化物としては、特にCu−Cr−Mn系又はCu−Fe−Mn系の複合金属酸化物であることが好ましい。Cu−Cr−Mn系の場合には、6価クロムの溶出を低減させるために、特開平8−27393号に開示されている処理を施すことが好ましい。これらの複合金属酸化物は添加量に対する着色、つまり、光熱変換効率が良好である。
【0101】
これらの複合金属酸化物は、平均一次粒子径が1μm以下であることが好ましく、平均一次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲にあることがより好ましい。平均一次粒子径が1μm以下とすることで、添加量に対する光熱変換能がより良好となり、平均一次粒子径が0.01〜0.5μmの範囲とすることで添加量に対する光熱変換能がより良好となる。ただし、添加量に対する光熱変換能は、粒子の分散度にも大きく影響を受け、分散が良好であるほど良好となる。従って、これらの複合金属酸化物粒子は、層の塗布液に添加する前に、別途公知の方法により分散して、分散液(ペースト)としておくことが好ましい。平均一次粒子径が0.01未満となると分散が困難となるため好ましくない。分散には適宜分散剤を使用することができる。分散剤の添加量は複合金属酸化物粒子に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%がより好ましい。
【0102】
これらの複合金属酸化物の添加量としては親水性層や下層に対して0.1〜50質量%であり、1〜30質量%が好ましく、3〜25質量%がより好ましい。《熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層》
熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層には、以下のような素材を含有させることができる。
(熱溶融性微粒子)
熱溶融性微粒子とは、熱可塑性素材の中でも特に溶融した際の粘度が低く、一般的にワックスとして分類される素材で形成された微粒子である。物性としては、軟化点40℃以上120℃以下、融点60℃以上150℃以下であることが好ましく、軟化点40℃以上100℃以下、融点60℃以上120℃以下であることが更に好ましい。融点が60℃未満では保存性が問題であり、融点が300℃よりも高い場合はインク着肉感度が低下する。
【0103】
使用可能な素材としては、例えば、パラフィン、ポリオレフィン、カルナバワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、脂肪酸系ワックス等が挙げられる。これらは分子量800から10,000程度のものであり、又乳化しやすくするためにこれらのワックスを酸化し、水酸基、エステル基、カルボキシル基、アルデヒド基、ペルオキシド基などの極性基を導入することもできる。更には、軟化点を下げたり作業性を向上させるためにこれらのワックスに、例えば、ステアロアミド、リノレンアミド、ラウリルアミド、ミリステルアミド、硬化牛脂肪酸アミド、パルミトアミド、オレイン酸アミド、米糖脂肪酸アミド、ヤシ脂肪酸アミド又はこれらの脂肪酸アミドのメチロール化物、メチレンビスステラロアミド、エチレンビスステラロアミドなどを添加することも可能である。又、クマロン−インデン樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、アクリル樹脂、アイオノマー、これらの樹脂の共重合体も使用することができる。
【0104】
これらの中でも、ポリエチレン、マイクロクリスタリン、脂肪酸エステル、脂肪酸の何れかを含有することが好ましい。これらの素材は融点が比較的低く、溶融粘度も低いため、高感度の画像形成を行うことができる。又、これらの素材は潤滑性を有するため、印刷版材料の表面に剪断力が加えられた際のダメージが低減し、擦りキズ等による印刷汚れ耐性が向上する。
【0105】
又、熱溶融性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0106】
又、熱溶融性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は、公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0107】
構成層中での熱溶融性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
(熱融着性微粒子)
熱融着性微粒子としては、熱可塑性疎水性高分子重合体微粒子が挙げられ、該熱可塑性疎水性高分子重合体粒子の軟化温度に特定の上限はないが、温度は高分子重合体微粒子の分解温度より低いことが好ましい。又、高分子重合体の重量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000の範囲であることが好ましい。
【0108】
高分子重合体微粒子を構成する高分子重合体の具体例としては、例えば、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−ブタジエン共重合体等のジエン(共)重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等の合成ゴム類、ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、メチルメタクリレート−メタクリル酸共重合体、メチルアクリレート−(N−メチロールアクリルアミド)共重合体、ポリアクリロニトリル等の(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体等のビニルエステル(共)重合体、酢酸ビニル−(2−エチルヘキシルアクリレート)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン等及びそれらの共重合体が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸(共)重合体、ビニルエステル(共)重合体、ポリスチレン、合成ゴム類が好ましく用いられる。
【0109】
高分子重合体微粒子は、乳化重合法、懸濁重合法、溶液重合法、気相重合法等、公知の何れの方法で重合された高分子重合体からなるものでもよい。溶液重合法又は気相重合法で重合された高分子重合体を微粒子化する方法としては、高分子重合体の有機溶媒に溶解液を不活性ガス中に噴霧、乾燥して微粒子化する方法、高分子重合体を水に非混和性の有機溶媒に溶解し、この溶液を水又は水性媒体に分散、有機溶媒を留去して微粒子化する方法等が挙げられる。又、熱溶融性微粒子、熱融着性微粒子は、何れの方法においても、必要に応じ重合或いは微粒子化の際に分散剤、安定剤として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール等の界面活性剤やポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を用いてもよい。又、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等を含有させても良い。
【0110】
又、熱可塑性微粒子は水に分散可能であることが好ましく、その平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜3μmである。平均粒径が0.01μmよりも小さい場合、熱溶融性微粒子を含有する層の塗布液を後述する多孔質な親水性層上に塗布した際に、熱溶融性微粒子が親水性層の細孔中に入り込んだり、親水性層表面の微細な凹凸の隙間に入り込んだりしやすくなり、機上現像が不十分になって、地汚れの懸念が生じる。熱溶融性微粒子の平均粒径が10μmよりも大きい場合には、解像度が低下する。
【0111】
又、熱可塑性微粒子は内部と表層との組成が連続的に変化していたり、もしくは異なる素材で被覆されていてもよい。被覆方法は公知のマイクロカプセル形成方法、ゾルゲル法等が使用できる。
【0112】
構成層中の熱可塑性微粒子の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、5〜80質量%が更に好ましい。
(水溶性素材)
熱溶融性及び/又は熱融着性微粒子を含有する画像形成機能層には、更に水溶性素材を含有することができる。水溶性素材を含有することにより、印刷機上で湿し水やインクを用いて未露光部の画像形成機能層を除去する際に、その除去性を向上させることができる。
【0113】
水溶性素材としては、親水性層に含有可能な素材として挙げた水溶性樹脂を用いることもできるが、画像形成機能層としては、糖類を用いることが好ましく、特にオリゴ糖を用いることが好ましい。オリゴ糖は水に速やかに溶解するため、印刷装置上での未露光部の画像形成機能層の除去も非常に速やかとなり、特別な除去操作を意識することなく、通常のPS版の刷出し操作と同様の操作で刷出すことで除去可能であり、刷出しの損紙が増加することもない。又、オリゴ糖は親水性層の親水性を低下させる懸念もなく、親水性層の良好な印刷適性を維持することができる。オリゴ糖は水に可溶の一般に甘みを有する結晶性物質で、数個の単糖がグリコシド結合によって脱水縮合したものである。オリゴ糖は糖をアグリコンとする一種のo−グリコシドであるから、酸で容易に加水分解されて単糖を生じ、生成する単糖の分子数によって二糖、三糖、四糖、五糖などに分類される。本発明におけるオリゴ糖とは、二糖〜十糖までのものをいう。
【0114】
これらのオリゴ糖は、還元基の有無によって、還元性オリゴ糖と非還元性オリゴ糖とに大別され、又単一の単糖から構成されているホモオリゴ糖と、2種類以上の単糖から構成されているヘテロオリゴ糖にも分類される。オリゴ糖は、遊離状又は配糖類として天然に存在し、又多糖の酸又は酵素による部分加水分解によっても得られる。この他酵素によるグリコシル転移によっても種々のオリゴ糖が生成する。
【0115】
オリゴ糖は通常雰囲気中では水和物として存在することが多い。又、水和物と無水物とでは融点が異なり、例を挙げると表1に示す通りである。
【0116】
【表1】
【0117】
糖類を含有する層を水溶液で塗布形成することが好ましい。その際、層中に存在するオリゴ糖が水和物を形成するオリゴ糖である場合は、その融点は水和物の融点であると考えられる。このように、比較的低融点を有しているため、熱溶融微粒子が溶融する温度範囲や熱融着微粒子が融着する温度範囲でオリゴ糖も溶融し、熱溶融微粒子の多孔質親水性層への溶融浸透や熱融着微粒子の融着といった画像形成を妨げることがない。
【0118】
オリゴ糖の中でもトレハロースは、比較的純度の高い状態のものが工業的に安価に入手可能であり、水への溶解度が高いにもかかわらず、吸湿性は非常に低く、機上現像性及び保存性共に非常に良好である。
【0119】
又、オリゴ糖水和物を熱溶融させて水和水を除去した後に凝固させると(凝固後短時間のうちは)無水物の結晶となるが、トレハロースは水和物よりも無水物の融点が100℃以上も高いことが特徴的である。これは赤外線露光で熱溶融し、再凝固した直後は露光済部は高融点で溶融しにくい状態となることを意味し、バンディング等の露光時の画像欠陥を起こしにくくする効果がある。本発明の目的を達成するには、オリゴ糖の中でも特にトレハロースが好ましい。
【0120】
構成層中のオリゴ糖の含有量としては、層全体の1〜90質量%が好ましく、10〜80質量%が更に好ましい。
《赤外線による画像形成》
本発明の一つの態様の印刷版材料の画像形成は、熱により行うことができるが、特に赤外線レーザーによる露光によって画像形成を行うことが好ましい。
【0121】
露光に関し、より具体的には、赤外及び/又は近赤外領域で発光する、即ち700〜1500nmの波長範囲で発光するレーザーを使用した走査露光が好ましい。レーザーとしてはガスレーザーを用いてもよいが、近赤外領域で発光する半導体レーザーを使用することが特に好ましい。
【0122】
走査露光に好適な装置としては、半導体レーザーを用いてコンピュータからの画像信号に応じて印刷版材料表面に画像を形成可能な装置であればどのような方式の装置であってもよい。
【0123】
一般的には、
(1)平板状保持機構に保持された印刷版材料に一本もしくは複数本のレーザービームを用いて2次元的な走査を行って印刷版材料全面を露光する方式、
(2)固定された円筒状の保持機構の内側に、円筒面に沿って保持された印刷版材料に、円筒内部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いて円筒の周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式、
(3)回転体としての軸を中心に回転する円筒状ドラム表面に保持された印刷版材料に、円筒外部から一本もしくは複数本のレーザービームを用いてドラムの回転によって周方向(主走査方向)に走査しつつ、周方向に直角な方向(副走査方向)に移動させて印刷版材料全面を露光する方式が挙げられる。
【0124】
本発明に関しては、特に(3)項記載の走査露光方式が好ましく、特に印刷装置上で露光を行う装置においては、(3)項記載の露光方式が用いられる。
《親油性素材を画像様に付与する方法》
又、本発明の印刷版材料においては、その親水性層表面に直接、親油性素材を画像様に付与することによっても画像形成が可能である。
【0125】
親油性素材を画像様に付与する方法の一つとして、公知の熱転写方式を用いる方法が挙げられる。具体的には熱転写方式のプリンタを用いて、サーマルヘッドにより熱溶融性インク層を有するインクリボンから熱溶融性インクを親水性層表面に画像様に転写させる方法が挙げられる。
【0126】
又、赤外線レーザー熱溶融転写方式のデジタルプルーフ装置を用いて、露光ドラム上に印刷版材料を親水性層を外側にして巻付け、その上に更に熱溶融性インク層を有したインクシートをインク面を親水性層に接して巻付け、画像様に赤外線レーザーで露光し、熱溶融性インクを親水性層表面に画像様に転写させる方法も挙げることができる。この場合、光熱変換素材は親水性層が含有していてもよいし、インクシート側が何れかの層に含有していてもよいし、両者ともに含有していてもよい。
【0127】
親水性層上に熱溶融性のインクで画像を形成した後に、印刷版材料を加熱して、親水性層と画像との接着をより強固なものとすることもできる。親水性層が光熱変換素材を含有している場合には、この加熱処理を赤外線レーザー照射や公知のキセノンランプ等によるフラッシュ露光を用いて行うこともできる。
【0128】
もう一つの方法としては、公知のインクジェット方式を用いる方法が挙げられる。用いるインクとしては、特許2,995,075号に開示されている油性インクや、特開平10−24550号に開示されているようなホットメルトインクや、同10−157053号に開示されているような常温で固体かつ疎水性の樹脂粒子が分散された油性インク、或いは常温で固体かつ疎水性の熱可塑性樹脂粒子が分散された水性インク等を用いることができるが、本発明の態様としては、放射線硬化性インクを好ましく用いることができる。
《放射線硬化性インク》
用いることができる放射線硬化性インクは、少なくとも重合性化合物から構成される。又、可視画性を得る目的で色材を添加することもできる。
【0129】
色材としては、重合性化合物の主成分に溶解又は分散できる色材、つまりは種々の染料、顔料を使用することができ、顔料を添加する場合には、その分散性が着色度に大きな影響を与えるため、適宜分散を行う。顔料の分散には、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、ペイントシェーカー等を用いることができる。又、顔料の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。分散剤は高分子分散剤を用いることが好ましい。高分子分散剤としてはZeneca社のSolsperseシリーズが挙げられる。又、分散助剤として、各種顔料に応じたシナージストを用いることも可能である。これらの分散剤及び分散助剤は、顔料100質量%に対し、1〜50質量%添加することが好ましい。分散媒体は溶剤又は重合性化合物で行うが、本発明に用いる放射線硬化性インクは、インク着弾直後に反応・硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。溶剤が硬化画像に残ってしまうと、耐溶剤性の劣化、残留する溶剤の揮発性有機化合物(Volatile Organic Compounds:VOC)の問題が生じる。よって、分散媒体は溶剤では無く重合性化合物、その中でも最も粘度の低いモノマーを選択することが分散適性上好ましい。
【0130】
分散は、平均粒径を0.08〜0.5μmとすることが好ましく、最大粒径は0.3〜10μm、好ましくは0.3〜3μmとなるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性及び硬化感度を維持することができる。色材はインク全体の0.1質量%乃至10質量%の添加量が好ましい。
【0131】
放射線重合性化合物は、ラジカル重合性化合物、例えば、特開平7−159983号、特公平7−31399号、特開平8−224982号、同10−863号等の各号公報に記載されている光重合性組成物を用いた光硬化型材料と、カチオン重合系の光硬化性樹脂が知られており、最近では可視光以上の長波長域に増感された光カチオン重合系の光硬化性樹脂として、例えば、特開平6−43633号、同8−324137号等に公開されている。
【0132】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であり、分子中にラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する化合物であればどの様なものでもよく、モノマー、オリゴマー、ポリマー等の化学形態を持つものが含まれる。ラジカル重合性化合物は1種のみ用いてもよく、又目的とする特性を向上するために任意の比率で2種以上を併用してもよい。又、単官能化合物よりも官能基を2つ以上持つ多官能化合物の方がより好ましい。更に好ましくは多官能化合物を2種以上併用して用いることが、反応性、物性などの性能を制御する上で好ましい。
【0133】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの塩、エステル、ウレタン、アミドや無水物、アクリロニトリル、スチレン、更に種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等のラジカル重合性化合物が挙げられる。具体的には、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、カルビトールアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、ビス(4−アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、エポキシアクリレート等のアクリル酸誘導体、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノメチルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン等のメタクリル誘導体、その他、アリルグリシジルエーテル、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテート等のアリル化合物の誘導体が挙げられ、更に具体的には、山下晋三編,「架橋剤ハンドブック」、(1981年大成社);加藤清視編,「UV・EB硬化ハンドブック(原料編)」(1985年、高分子刊行会);ラドテック研究会編、「UV・EB硬化技術の応用と市場」,79頁,(1989年、シーエムシー);滝山栄一郎著,「ポリエステル樹脂ハンドブック」,(1988年、日刊工業新聞社)等に記載の市販品もしくは業界で公知のラジカル重合性乃至架橋性のモノマー、オリゴマー及びポリマーを用いることができる。上記ラジカル重合性化合物の添加量は好ましくは1〜97質量%であり、より好ましくは30〜95質量%である。
【0134】
カチオン重合系光硬化樹脂としては、カチオン重合により高分子化の起こるタイプのモノマー(主にエポキシタイプ)、エポキシタイプの紫外線硬化性プレポリマー、1分子内にエポキシ基を2個以上含有するプレポリマー等を挙げることができる。このようなプレポリマーとしては、例えば、脂環式ポリエポキシド類、多塩基酸のポリグリシジルエステル類、多価アルコールのポリグリシジルエーテル類、ポリオキシアルキレングリコールのポリグリシジルエーテル類、芳香族ポリオールのポリグリシジルエーテル類、芳香族ポリオールのポリグリシジルエーテル類の水素添加化合物類、ウレタンポリエポキシ化合物類及びエポキシ化ポリブタジエン類等を挙げることができる。これらのプレポリマーは、その一種を単独で使用することもできるし、又、その二種以上を混合して使用することもできる。
【0135】
本発明において重合性化合物は、(メタ)アクリル系モノマー或いはプレポリマー、エポキシ系モノマー或いはプレポリマー、ウレタン系モノマー或いはプレポリマー等が好ましく用いられるが、更に好ましくは下記化合物である。
【0136】
2−エチルヘキシル−ジグリコールアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、メトキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、2−アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタル酸、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、ノニルフェノールEO付加物アクリレート、変性グリセリントリアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、変性ビスフェノールAジアクリレート、フェノキシ−ポリエチレングリコールアクリレート、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートトリレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ラクトン変性可トウ性アクリレート、ブトキシエチルアクリレート、プロピレングリコールジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、2−ヒドロキシエチルアクリレート、メトキシジプロピレングリコールアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミリスチルアクリレート、イソステアリルアクリレートを挙げることができる。
【0137】
これらのアクリレート化合物は、従来UV硬化型インクに用いられてきた重合性化合物より、皮膚刺激性や感作性(かぶれ)が小さく、比較的粘度を下げることが出来、安定したインク射出性が得られ、重合感度、記録媒体との密着性も良好である。上記化合物群を20〜95質量%、好ましくは50〜95質量%、更に好ましくは70〜95質量%用いる。
【0138】
上述した重合性化合物に列挙しているモノマーは低分子量であっても、感作性が小さいものであり、尚かつ反応性が高く、粘度が低く、親水性層への浸透性、密着性に優れる。
【0139】
更に感度、滲み、親水性層との密着性をより改善するためには、上述したモノアクリレートと、分子量400以上、好ましくは500以上の多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーを併用することが感度、密着性向上の点で好ましい。安全性を維持しつつ、更に、感度、滲み、記録媒体との密着性をより改善することができる。オリゴマーとしてはエポキシアクリレートオリゴマー、ウレタンアクリレートオリゴマーが特に好ましい。
【0140】
上記化合物群の中から選ばれるモノアクリレートと、多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマーとを併用すると、膜に可撓性を持たせられ、密着性を高めつつ膜強度を高められるため好ましい。モノアクリレートとしてはステアリルアクリレート、イソアミルアクリレート、イソミスチルアクリレート、イソステアリルアクリレートが感度も高く、低収縮性で画像部の内部応力による強度低下を抑制でき、更に、滲み防止、印刷物の臭気、照射装置のコストダウンの点で好ましい。
【0141】
尚、メタクリレートは皮膚刺激性がアクリレートより良好であるが、感作性は概してアクリレートと差が無く、アクリレートに比べて感度が下がるので適さないが、反応性が高く、感作性の良好なものであれば、好適に使用することができる。尚、上記化合物の中でもアルコキシアクリレートは、感度が低く、滲み、臭気、照射光源の問題が生じるため、その量を70質量%未満に留め、その他のアクリレートを併用することが好ましい。
【0142】
本発明に用いるインクには、必要に応じて、その他の成分を添加することができる。
【0143】
照射光として電子線、X線等を用いる場合、開始剤は不要であるが、線源としてUV光、可視光、赤外光を用いる場合は、それぞれの波長に応じたラジカル重合開始剤、開始助剤、増感色素を添加する。これらの量はインク全体の1〜10質量%が必要となる。開始剤は公知の様々な化合物を使用することができるが、上記重合性化合物に溶解するものから選択する。具体的な開始剤としては、キサントン又はチオオキサントン系、ベンゾフェノン系、キノン系、フォスフィンオキシド系が挙げられる。
【0144】
又、保存性を高めるために、重合禁止剤を200〜20,000ppm添加することができる。インクは40〜80℃の範囲で加熱、低粘度化して射出することが好ましいので、熱重合によるヘッド詰まりを防ぐためにも重合禁止剤を入れることが好ましい。
【0145】
この他に、必要に応じて界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類を添加することができる。オレフィンやPET等の記録媒体への密着性を改善するためには、重合を阻害しないタッキファイヤーを含有させることが好ましい。具体的には、特開2001−49200号5〜6pに記載されている、高分子量の粘着性ポリマー((メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環族アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香族アルコールとのエステル、からなる共重合物)や、重合性不飽和結合を持つ低分子量粘着付与性樹脂などである。
【0146】
親水性層との密着性を改善するため、極微量の有機溶剤を添加することも有効である。この場合、耐溶剤性やVOCの問題が起こらない範囲での添加が有効であり、その量は0.1〜5%、好ましくは0.1〜3%である。
【0147】
又、インク色材による遮光効果による感度低下を防ぐ手段として、開始剤寿命の長いカチオン重合性モノマーと開始剤を組み合わせ、ラジカル・カチオンのハイブリッド型硬化インクとすることも可能である。
【0148】
インクは、射出性を考慮し射出時の温度で、好ましくは7〜30mPa・s、更に好ましくは7〜20mPa・sとなるよう、組成比を決める。尚、25℃でのインク粘度は、35〜500mPa・s、更に、35〜200mPa・sとすることが好ましい。室温での粘度を上げることにより、多孔質な記録媒体にもインクの浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となるし、着弾時のドット滲みを抑えることが出来、画質が改善される。35mPa・s未満では、滲み防止効果が小さい。500mPa・sより大きいと、インク液のデリバリーに問題が生じる。
【0149】
表面張力は好ましくは200〜300μN/cm、更に好ましくは230〜280μN/cmである。200μN/cm未満では滲み、浸透の点で懸念があり、又、300μN/cmを超えた場合には濡れ性の点で懸念がある。
《インクジェット記録方法》
本発明における記録方法としては、上記インクを40〜80℃に加熱し、インク粘度を下げて射出することが射出安定性の点で好ましい。放射線硬化性インクは、概して水性インクより粘度が高いため、温度変動による粘度変動幅が大きい。粘度変動はそのまま液滴サイズ、液滴射出速度に大きく影響を与え、画質劣化を起こすため、インク温度をできるだけ一定に保つことが必要である。インク温度の制御幅は設定温度±5℃、好ましくは設定温度±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃である。記録装置にはインク温度の安定化手段を備えるが、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0150】
温度コントロールのため、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。又、加熱するヘッドユニットは、装置本体、外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要する記録装置立上げ時間を短縮するため、又熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0151】
インクジェット記録後の光照射には、紫外線、電子線、X線、可視光、赤外光など、様々な線源を用いることが可能であるが、硬化性、線源のコスト等を考慮すると、紫外線が好ましい。紫外線線源は、水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマーランプ、紫外線レーザー・LEDなどを用いることができる。
【0152】
基本的な照射方法は、特開昭60−132767号に開示されている。これによると、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間を置いて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。WO第9、954、415号では、照射方法として、光ファイバーを用いた方法や、コリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。記録方法においては、これらの照射方法を用いることが可能である。又ヘッドの背面から照射することが好ましい。
【0153】
ヘッド背面から露光する方式は、光ファイバーや、高価な光学系を用いることなく、着弾直後のインクに、速やかに照射することができる。又、ヘッド背面からの照射であるため、記録媒体からの反射線による、ノズル界面のインク硬化を防ぐ効果もある。線源は記録媒体へ投影形状を、走査一回分の記録幅を持つ帯状とさせることが好ましい。
【0154】
具体的には、帯状のメタルハライドランプ管、紫外線ランプ管が好ましい。線源は、実質的に記録装置に固定化し、可動部を無くすことで、安価な構成とすることが可能である。又、何れの露光方式でも線源は2種用意し、第2の線源によって、硬化を完了させることが好ましい形態の一つである。これは、2色目の着弾インクの濡れ性、インク間の接着性を得ることと、線源を安価に組むことに寄与する。
【0155】
尚、第1の線源と、第2の線源とは、露光波長又は露光照度を変えることが好ましい。第一照射エネルギーを第二の照射エネルギーより小さく、即ち第一の照射エネルギーを照射エネルギー総量の1〜20%、好ましくは1〜10%、更に好ましくは1〜5%とする。照度を変えた照射を行うことで、硬化後の分子量分布が好ましいものとなる。即ち、一度に高照度の照射を行ってしまうと、重合率は高められるものの、重合したポリマーの分子量は小さく、強度が得られない。インクジェットインクのように極端に粘度の低い組成では、顕著な効果が得られる。
【0156】
又、第一の照射は第二の照射より長波長とすることでインクの表層を硬化させてインクの滲みを抑えられ、第二の照射では照射線が届き難い記録媒体近傍のインクを硬化させ、密着性を改善することができる。インク内部の硬化促進のためにも、第二の照射線波長は長波長であることが好ましい。
【0157】
本発明における記録方法の特徴は、上記インクを用い、一定温度にインクを加温するとともに、着弾から照射までの時間を0.01〜0.5秒、好ましくは0.01〜0.3秒、更に好ましくは0.01〜0.15秒後に放射線を照射することにある。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止することが可能となる。又、多孔質な記録媒体に対しても光源の届かない深部までインクが浸透する前に露光することができる為、未反応モノマーの残留を抑えられ、臭気を低減できる。これは、インクを用いることで大きな相乗効果をもたらすことになる。特に、25℃におけるインク粘度が35〜500mPa・sのインクを用いると大きな効果を得ることができる。このような記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことが出来、画質が向上する。
【0158】
ヘッドユニットは、インクジェットノズルヘッド、インク液供給系、インク及びヘッドの温度制御機構、制御基板等から構成される。背面から光照射する場合、ヘッドユニットは、できるだけ記録媒体への投影面積が小さい方が好ましい。小さい方が、第一の照射がより有効に活用される。
【0159】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0160】
実施例1
(1)ポリエステルフィルムの作製
(ポリエチレンテレフタレート1;PET1;比較)
テレフタル酸とエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.66(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のPETを得た。これをペレット化した後130℃で4時間乾燥し、300℃で溶融後T型ダイから押し出し、50℃の冷却ドラム上で急冷し熱固定後の膜厚が175μmになるような厚みの未延伸フィルムを作製した。これを、延伸温度は前段延伸が95℃で1.0倍に、後段延伸は98℃で4.1倍に縦延伸した。ついでテンターで120℃で6倍に横延伸した。尚、前記縦延伸の際に、縦延伸ゾーンにおけるフィルム片面側に補助加熱源として赤外ヒータ(図2の8のみ)を設置した。その赤外ヒータの出力を30kWにした。この後、240℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。この後テンターのチャック部をスリットした後、両端にナール加工を行い、40℃に冷却後8.5kg/mで巻き取った。このようにして得たPETフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。前記の方法で製膜カールを測定したところ20mmであった。
(ポリエチレンテレフタレート2;PET2;本発明)
テレフタル酸とエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.66(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のPETを得た。これをペレット化した後130℃で4時間乾燥し、300℃で溶融後T型ダイから押し出し、50℃の冷却ドラム上で急冷し熱固定後の膜厚が175μmになるような厚みの未延伸フィルムを作製した。これを、延伸温度は前段延伸が85℃で1.3倍に、後段延伸は85℃で2.6倍に縦延伸した。ついでテンターで120℃で4.5倍に横延伸した。尚、前記縦延伸の際に、前記図2に示したように縦延伸ゾーンにおけるフィルム両面側に補助加熱源として赤外ヒータ(図2の8、8′)を設置した。その赤外ヒータの出力は何れも10kWにした。この後、240℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。この後テンターのチャック部をスリットした後、両端にナール加工を行い、40℃に冷却後4.8kg/mで巻き取った。このようにして得たPETフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。前記の方法で製膜カールを測定したところ0mmであった。
(ポリエチレン−2,6−ナフタレート;PEN;本発明)
2,6−ナフタレンジカルボン酸メチルとエチレングリコールを用い、常法に従いIV(固有粘度)=0.55(フェノール/テトラクロルエタン=6/4(質量比)中25℃で測定)のPENを得た。これをペレット化した後150℃で4時間乾燥し、310℃で溶融後T型ダイから押し出し、80℃の冷却ドラム上で急冷し未延伸フィルムを作製した。これを、延伸温度を前段延伸が132℃で1.2倍に、後段延伸は132℃で2.7倍に縦延伸した。ついでテンターで145℃で4.0倍に横延伸した。尚、前記縦延伸の際に、前記図2に示したように縦延伸ゾーンにおけるフィルム両面側に補助加熱源として赤外ヒータ(図2の8、8′)を設置した。その赤外ヒータの出力は何れも10kWにした。この後、250℃で20秒間熱固定後これと同じ温度で横方向に4%緩和した。この後テンターのチャック部をスリットした後、両端にナール加工を行い、40℃に冷却後4.8kg/mで巻き取った。このようにして得たPENフィルムの幅(製膜幅)は2.5mであった。前記の方法で製膜カールを測定したところ2mmであった。
(2)下引き層の作製
上記フィルムの両面に、8W/m2・分のコロナ放電処理を施し、次いで一方の面に下記下引き塗布液a−1を乾燥膜厚0.8μmになるように塗設した後、下引き塗布液bを塗布し、それぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面A)。又反対側の面に下記導電層と中間層を順次塗布し180℃、4分間で乾燥させ、これらの層の上に下記下引き塗布液c−1を乾燥膜厚0.8μmになるように塗設しそれぞれ180℃、4分間乾燥させた(下引き面B)。塗布後の25℃・25%RHでの表面電気抵抗は109Ωであった。
《下引き塗布液a−1》;本発明
PVdCポリマーラテックス
コア部90質量%、シェル部10質量%のコアシェルタイプのラテックスで
コア部:塩化ビニリデン/メチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリロニトリル/アクリル酸=93/3/3/0.9/0.1(質量%)
シェル部:塩化ビニリデン/メチルアクリレート/メチルメタクリレート/アクリロニトリル/アクリル酸=88/3/3/3/3(質量%)
質量平均分子量38,000 3000質量%
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン 23質量%
マット剤(ポリスチレン,平均粒径2.4μm) 1.5質量%
《下引き塗布液b》
アルカリ処理ゼラチン(Ca2+含量30ppm、ゼリー強度230g)50mg/m2
《導電層》
ジュリマーET−410(日本純薬(株)製:Tg=52℃)38mg/m2
SnO2/Sb(9/1質量比、平均粒子径0.25μm)120mg/m2
マット剤(ポリメチルメタクリレート、平均粒子径5μm) 7mg/m2
デナコールEX−614B(ナガセ化成工業(株)製) 13mg/m2
《中間層》
ジュリマーET−410(日本純薬(株)製:Tg=52℃)38mg/m2
《下引き塗布液c−1》
SBRポリマーラテックス
スチレン/ブタジエン/ヒドロキシエチルメタクリレート/ジビニルベンゼ
ン=67/30/2.5/0.5(質量%) 160質量%
2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン 4質量%
マット剤(ポリスチレン,平均粒径2.4μm) 3質量%
《プラズマ処理条件》
ついで、それぞれの下引き層表面に下記プラズマ処理条件でプラズマ処理を施した。
【0161】
バッチ式の大気圧プラズマ処理装置(イーシー化学(株)製、AP−I−H−340)を用いて、高周波出力が4.5kW、周波数が5kHz、処理時間が5秒及びガス条件としてアルゴン、窒素及び水素の体積比をそれぞれ90%及び5%でプラズマ処理を行った。
【0162】
スリット後の支持体のPET2及びPENに対し、張力0.008kg/mm2で180℃30秒間、低張力熱処理を実施した。
《赤外線レーザー露光用印刷版材料の作製》
(親水性層塗布液の調製)
下記の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、濾過して親水性層塗布液1を調製した。以下の数値は質量%を示す。
親水性層塗布液1組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−S 17.20
(日産化学社製、固形分30質量%)
ネックレス状コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−PSM
(日産化学社製、固形分20質量%) 38.70
Cu−Fe−Mn系金属酸化物黒色顔料:TM−3550ブラック粉体
(大日精化工業社製、粒径0.1μm程度) 5.00
の固形分40質量%(うち0.2質量%は分散材)水分散物
層状鉱物粒子 モンモリロナイト:ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製、平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンAMT08 2.40
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径0.6μm)
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−20 2.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径2μm)
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−50 1.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径5μm)
純水 20.70
親水性層塗布液1の固形分濃度20.00質量%
(下層塗布液の調製)
下記の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、混合、濾過して下層塗布液1を調製した。以下の数値は質量%を示す。
下層塗布液1組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−XS 69.50
(日産化学社製、固形分20質量%)
Cu−Fe−Mn系金属酸化物黒色顔料: TM−3550ブラック粉体
(大日精化工業社製、粒径0.1μm程度) 3.50
の固形分40質量%(うち0.2質量%は分散材)水分散物
層状鉱物粒子 モンモリロナイト: ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−40 4.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径4μm)
純水 9.00
下層塗布液の固形分濃度20.00質量%
(下層、親水性層の塗布)
上記の各塗布液を、各支持体の下引き面A上にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥して、親水性層まで塗布済みの試料を作製した。尚、下層の上に親水性層を同時に積層塗布し、親水性層まで塗布した段階で、60℃で24時間の加熱処理を施した。
【0163】
又、上記の各塗布液を、下引き済みPET2と下引き済みPEN支持体のB面上にワイヤーバーを用いて塗布し、100℃で3分間乾燥して、親水性層まで塗布済みの試料を作製した。尚、下層の上に親水性層を同時に積層塗布し、親水性層まで塗布した段階で、60℃で24時間の加熱処理を施した。
(画像形成層の形成)
下記の画像形成層塗布液を、上記作製した親水性層塗布済みの試料上にワイヤーバーを用いて乾燥付量が0.6g/m2となるように塗布し、50℃で3分間乾燥して赤外線レーザー露光用印刷版材料試料1〜3(試料1〜3とする)を作製した。尚、PET1を用いた試料については、厚さ190μmのスムース表面を有するアルミ板表面に接着剤を塗布し、PET1の塗布層が設けられていない面と接着貼合して240μm厚の試料とした。上記作製した各試料は、画像形成層塗布液を塗布した後、40℃・24時間の加熱処理を施した。以下の数値は質量%を示す。
(画像形成層塗布液)
二糖類トレハロース粉体(林原商事社製商品名トレハオース、
融点97℃)の水溶液固形分5質量% 30
カルナバワックスエマルジョンA118(岐阜セラック社製、平均粒子径0.
3μm、軟化点65℃、融点80℃、140℃での溶融粘度8cps、固形分4
0質量%)を固形分5質量%に純水で希釈した分散液 70
《支持体の評価》
得られた試料1〜3の厚み分布、製膜カール値、立ち上がりカールについて、上述の通りに従って求め、結果を表2に示す。
《赤外線レーザー方式による画像形成》
得られた試料1は23℃・80%RHの条件で560mm幅にスリット加工し、3インチ径の紙コアに40m巻きつけたものを高密度ポリエチレンシート2重で巻き製品形態サンプルとした。
【0164】
又、試料2及び3は23℃・45%RHの条件で560mm幅にスリット加工し、3インチ径の紙コアに40m巻きつけたものを高密度ポリエチレンシート3重で巻き製品形態サンプルとした。
【0165】
これらのサンプルを保存性劣化試験として50℃・7日間サーモ処理をした後に、露光ドラムに巻付け固定した。露光には、波長830nm、スポット径約18μmのレーザービームを用い、露光エネルギーを300mj/cm2とした条件で、2400dpi、175線で画像を形成した。尚、本発明でいうdpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
《印刷》
引き続き、印刷装置(三菱重工業社製のDAIYA1F−1)、コート紙、湿し水(アストロマーク3(日研化学研究所製)の2質量%溶液)、インク(東洋インク社製のトーヨーキングハイエコーM紅)を使用して印刷を行った。
《印刷性能の評価》
引き続き各試料について、印刷版としての各特性を評価した。得られた結果を表2に示す。
(インク着肉性)
1000枚印刷後に、インクの供給を止めて水のみ5分間供給した。その後インクの供給を再開しインクを着肉させて何枚目に正常なインク濃度になる印刷物が得られるかを評価した。枚数が少ないほどインク着肉性が優れている。
(寸法性)
印刷前に版面に50μm幅の傷を2カ所50cm離してつけた。100枚印刷後の印刷紙面と3000枚印刷後の印刷紙面で2カ所の傷の距離がどのくらい変化したかを寸法変化として測定した。変化が少ないほど優れている。
(耐刷性)
印刷した画像の3%の小点の欠落、又はベタ部の濃度低下の何れかが確認された段階で耐刷終点とし、その枚数を求めた。
【0166】
【表2】
【0167】
表2より明らかなように、本発明で規定する支持体の立ち上がりカール値を示す試料は、比較例に対し、インク着肉性、寸法性及び耐刷性に優れていることが分かる。
【0168】
実施例2
《インクジェット記録用印刷版材料の作製》
(親水性層塗布液の調製)
以下に記載の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、混合、濾過して親水性層塗布液2を調製した。以下の数値は質量%を示す。
親水性層塗布液2組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−S 19.87
(日産化学社製、固形分30質量%)
ネックレス状コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−PSM
(日産化学社製、固形分20質量%) 44.70
層状鉱物粒子 モンモリロナイト: ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンAMT08 2.40
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径0.6μm)
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−20 2.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径2μm)
純水 17.03
親水性層塗布液2の固形分濃度20.00質量%
(下層塗布液の調製)
以下に記載の各素材を、ホモジナイザを用いて十分に攪拌混合した後、混合、濾過して下層塗布液2を調製した。
下層塗布液2組成
コロイダルシリカ(アルカリ系):スノーテックス−XS 81.50
(日産化学社製、固形分20質量%)
層状鉱物粒子 モンモリロナイト:ミネラルコロイドMO 8.00
(Southern Clay Products社製,平均粒径0.1μm程度)をホモジナイザで強攪拌して5質量%の水膨潤ゲルとしたもの
カルボキシメチルセルロースナトリウム 5.00
(関東化学社製試薬)の4質量%の水溶液
リン酸三ナトリウム・12水 1.00
(関東化学社製試薬)の10質量%の水溶液
多孔質金属酸化物粒子 シルトンJC−50 3.00
(水澤化学社製、多孔質アルミノシリケート粒子、平均粒径5μm)
純水 1.50
下層塗布液2の固形分濃度20.00質量%
(下層、親水性層の塗布)
上記調製した各塗布液を、表3に記載の通り、実施例1で作製した支持体の下引き面A上にワイヤーバーを用いて、下層の上に親水性層を同時積層塗布した。次いで親水性層まで塗布した段階で、60℃・24時間の加熱処理を施して、インクジェット記録用印刷版材料試料(試料21〜23)を作製した。
《インクジェット方式による画像形成》
1)マゼンタ顔料分散物の調製
下記の組成を順次混合及び分散してマゼンタ顔料分散物を作製した。尚、分散は、マゼンタ顔料粒子の平均粒径として0.2〜0.3μmの範囲となるように分散条件を適宜調整した。以下の数値は質量%を示す。
【0169】
C.I.ピグメントレッド57:1 15
高分子分散剤(Zeneca社製 Solsperse) 5
ステアリルアクリレート 80
2)マゼンタインクの調製
次いで、下記の各組成物を混合し、絶対濾過精度2μmのフィルターで濾過してマゼンタインクを調製した。調製したマゼンタインクの25℃における粘度は120mPa・sであり、70℃における粘度は15mPa・s、25℃における表面張力は250μN/cmであった。
【0170】
マゼンタ顔料分散物 20
ステアリルアクリレート 60
2官能芳香族ウレタンアクリレート(分子量1500) 10
6官能脂肪族ウレタンアクリレート(分子量1000) 5
開始剤(Ciba製、イルガキュアー184) 5
《インクジェット画像の形成》
ピエゾ型インクジェットノズルを用いたインクジェット記録装置によって、印刷版材料試料21〜23へ画像記録を行った。インク供給系は、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、フィルター付き配管、ピエゾヘッドから構成され、前室インクタンクからヘッド部分まで断熱及び加温を行った。温度センサーは前室インクタンク及びピエゾヘッドのノズル付近にそれぞれ設け、ノズル部分が常に60℃±2℃となるように温度制御を行った。ピエゾヘッドは、ノズル径24μmで、8〜30plのマルチサイズドットを720×720dpiの解像度で射出できるよう駆動した。着弾後はUV−A光を露光面照度100mW/cm2に集光し、インク着弾後0.1秒後に照射が始まるよう露光系・主走査速度・射出周波数を調整した。露光時間を可変とし、照射露光エネルギーを調整可能にした。
【0171】
上記装置を用いて、環境温度25℃にて、上記調製したマゼンタインクを射出し、直後にUV光を照射した。照射した露光エネルギーは300mJ/cm2で行った。
《印刷特性の評価》
上記作製した各試料について、実施例1と同様にして印刷、評価を行った。尚、インクジェット記録用印刷版としての耐刷性を下記の方法に従って評価を行い、得られた結果を表3に示す。
(耐刷性)
印刷した画像のベタ部の濃度低下が確認された段階で耐刷終点とし、その枚数を求めた。
【0172】
【表3】
【0173】
表3より明らかなように、本発明で規定する支持体の立ち上がりカール値を示す試料は、比較例に対し、インクジェット方式による記録においても、インク着肉性、寸法性及び耐刷性に優れていることを確認することができた。
【0174】
【発明の効果】
本発明によれば、印刷適性、特に耐刷性に優れた親水性層を有する印刷版材料及び印刷版を提供することができるという顕著に優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】サンプルフィルムの製膜カール値の測定を示す概略図である。
【図2】プラスチックフィルムの縦延伸ゾーンの概略側面図である。
【符号の説明】
1 測定台
2 サンプルフィルム
3 金属片
4 磁石
5 フィルム
6、6′ 縦延伸ローラ
7 冷却ローラ
8、8′ 赤外ヒータ
Claims (10)
- 支持体上に親水性層を有する印刷版材料であって、前記支持体がプラスチックフィルムからなり、かつ立ち上がりカールが0mm以上60mm以下であることを特徴とする印刷版材料。
- 前記親水性層が多孔質構造であることを特徴とする請求項1に記載の印刷版材料。
- 支持体上に熱で画像形成可能な画像形成機能層を有し、かつ支持体上の何れか1層が光熱変換素材を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷版材料。
- 支持体上に親水性層、熱で画像形成可能な画像形成機能層をこの順に有し、かつ前記画像形成機能層が熱溶融性又は熱融着性微粒子を含有することを特徴とする請求項3に記載の印刷版材料。
- ロール状に巻かれていることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の印刷版材料。
- 請求項1〜5の何れか1項に記載の印刷版材料を湿度20〜60%RHで包装することを特徴とする印刷版材料の包装方法。
- 請求項1〜5の何れか1項に記載の印刷版材料の親水性層上に、画像形成素材を画像様に付与することにより画像が形成されたことを特徴とする印刷版。
- 前記画像が、画像形成素材を含むインクをインクジェット方式により付与、形成されたものであることを特徴とする請求項7に記載の印刷版。
- 前記画像形成素材を含むインクが、放射線硬化性インクであることを特徴とする請求項8に記載の印刷版。
- 前記画像が、放射線硬化性インクをインクジェット方式により付与した後、光を照射して形成されたものであることを特徴とする請求項8に記載の印刷版。
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