JP2004073193A - 核酸分離方法および核酸抽出試薬 - Google Patents

核酸分離方法および核酸抽出試薬 Download PDF

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Abstract

【課題】 固液分離し、目的核酸を分離する核酸精製する方法およびその方法を実施するためのキットを得る。
【解決手段】 有核細胞を含む試料から核酸を分離精製する方法であって、
 1)有核細胞を含む試料と、少なくとも細胞成分分解酵素および界面活性剤を含むライシス溶液とを接触させる工程、
 2)水溶性有機溶媒の存在下、有核細胞を含む試料と、平均粒径が0.01〜1000μmの水不溶性固相担体とを接触させて、有核細胞より遊離させた核酸を該固相担体表面に吸着結合させる工程、ならびに
 3) 該固相担体を試料から分離する工程
を含むことを特徴とする核酸分離方法。
【選択図】     なし

Description

 本発明は、核酸を含む試料から、核酸を分離する方法およびその方法の実施に用いられる試薬に関する。さらに詳しくは、有核細胞などを含有する試料から細胞ライシス液の酵素処理を経て、核酸を固相担体へ沈着させることにより、固液分離し、目的核酸を分離する核酸精製する方法およびその方法を実施するためのキットに関する。
 近年、核酸分析の用途は、科学研究、医療、産業界など様々な分野に広がりつつあり、多様な試料から高純度核酸を効率的な操作で大量に抽出、精製できる方法が求められている。
 核酸を含有する試料から核酸を得る方法としてはフェノール・クロロホルム抽出法が古くから利用されてきた。この方法はフェノール・クロロホルムを用いてタンパク質、脂質などの水難溶性の検体成分を変性、溶解または沈殿させる。極めて高い荷電を持ち、親水性の強い核酸を水相に溶解するという溶解度の違いを利用する。この方法は高純度核酸が抽出できるが、フェノール・クロロホルムが有毒のため、作業環境等の制限から、大量検体からの核酸抽出には、不向きである。
 かかる有毒な溶媒を使用しない代替方法として、カオトロピック溶液を利用してタンパク質、脂質等の夾雑物を水相に可溶化し、核酸をシリカビーズに吸着させて固相で回収後、核酸を再び水相に溶解するBoom法(Boom et al. J. Clin. Microbiol. 28:495-503 (1990))などがある。この方法では、抽出された核酸が短くて、断片化されているものが多い。特に、サザンプロットのようなDNA解析法に不向きである。
 これら以外にも、カチオン性高分子を利用して、DNAと共沈する試薬も開発されているが、DNAの分離に、試薬の微調整が伴い、かつ、液液分離のため、遠心操作が終始欠かせず、多数検体のルーチン処理に効率が低いので、産業界への利用は進展しない。
 また、カオトロピック溶液とシリカ担体を使用する方法では、処理できる検体量が1mL未満であり、検体容量が増えると回収される核酸純度が著しく低下する傾向にある。このことは、使用するシリカ担体の吸着能に起因するものである。シリカ担体の使用量を増やせば、固液分離におけるカオトロピック塩の残存量も使用担体量に比例したデッドボリュームにより増えることとなる。これには洗浄回数を増やすことによって対処できるが、結果的には操作時間の増大、操作工程の複雑化となるため有効な解決策とはならない。
 一方、核酸含有溶液をエタノール溶液で沈殿し、ガラス棒で巻き取る方法も古くから知られている(たとえば、阿南功一編「基礎生化学実験法2」丸善、1974)。この手法はガラスと核酸との親和性に基づく因子もあるが、核酸以外の高分子の混入も見られ、回収核酸の純度が低いので、実用的な応用は限られている。
 このように、生物起源の様々な核酸含有試料から、有毒溶媒または腐食性試薬を使用することなく、簡便かつ迅速に核酸を高純度に抽出精製でき、しかも自動化の途も開けている方法が切望されている。このような事情に鑑み、本発明者らは、鋭意研究を進めた結果、試料中の核酸を、有核細胞をライシスし、酵素等で一定の処理を施した状態で、水溶性有機溶媒を加えることで、微小粒子と共に共沈状態が形成されることを利用することで、簡便な固液分離が実現し、上記従来法の問題点を一気に解決し、本発明を完成するに至った。本発明による方法に基づいて、血液検体から核酸を高純度に分離する操作を自動処理化することも可能となる。
 本発明は、従来のフェノール、クロロホルムのような有毒溶媒を使用せず、また、カオトロピック物質のような腐食性試薬も使用せず、酵素処理で核酸以外の生体高分子を低分子化し、核酸のみを迅速に抽出する新しい手段を提供することを目的とする。
 本発明は、有核細胞を含む試料から核酸を分離精製する方法、及びそのための試薬を提供することに関する。具体的に 1)有核細胞を含む試料と、少なくとも細胞成分分解酵素および界面活性剤を含むライシス溶液とを接触させる工程、
 2)水溶性有機溶媒の存在下、有核細胞を含む試料と、平均粒径が0.01〜1000μmの水不溶性固相担体とを接触させて、有核細胞より遊離させた核酸を該固相担体表面に吸着結合させる工程、ならびに
 3) 該固相担体を試料から分離する工程
からなる核酸分離方法に関する。
 本発明は、有核細胞を含む試料から核酸を分離精製する試薬であって、少なくとも前記細胞成分分解酵素、水不溶性固相担体、水溶性有機溶媒を含む核酸抽出試薬を提供する。
以下、本方法を、実施するための手段とともに説明する。
 なお、本明細書において「核酸」とは、二本鎖(ds)、一本鎖(ss)、またはその組み合わせ(部分的なdsまたはss)としてのDNAおよび/またはRNA、を意味する。
 本発明の対象である有核細胞は、自然界に広く存在するものであり、動物種類の限定を受けない。具体的に、血液、骨髄、臍帯血、組織、培養細胞、尿、唾液等が本発明の対象検体である。これらの検体の種類によって、本発明を適用する前に、有核成分が遊離しやいように物理的な操作を加えても構わない。例えば、器官、組織から採取した検体に関して、組織構造をミキサー等で潰してから本発明に適用することができる。
 また、本発明に適用できる検体の形状、検体量等に特に制限を受けない。前記組織を潰したものであれば、ペレット状のものであってもよいし、水溶液に溶かした形、または分散した形のものであってもよい。
 本発明の対象検体に含まれる核酸の分解を最小限に抑える意味で、採取した検体はなるべく放置せず、新鮮な状態で適用することが望ましいが、やむ得ず保存しなければならないときに、冷蔵または冷凍保存をしてもよい。例えば、血液検体の場合、1週間程度の冷蔵保存をしたものでも、本発明に適用することができる。
 本発明は特に血液検体からの核酸抽出に適しており、血液検体は、通常の末梢血、動脈血、静脈血またはこれらに遠心処理等を施してから採取した有形(血球)成分、バフィコート(血液の炎症性痂皮、白血球フラクション)であってもよい。全血、血液の有形成分を対象とする場合、以下に示す溶血操作、続いて白血球分離操作の工程が必要となる。本発明において採血管の種類には特にこだわるものではなく、ヘパリン採血管、EDTA採血管、クエン酸採血管などのいずれを使用してもよい。さらに本発明において処理できる血液量に関しては特に限定する要因はなく、数μL〜数百mLと極めて広範囲の血液量に対応することができる。
 なお、細胞溶解、核酸吸着(および溶出)の操作において、温度および時間などは、無用な副反応、白血球または核酸の傷害を防止する観点から所定の条件に従うことが望ましい。以下本発明の各工程について説明する。
・溶血および白血球分離の工程
 血液の核酸量は、白血球細胞数により依存する。溶血操作は、核を有しないが血液中に多量に存在する赤血球を破壊することにより(すなわち、溶血)、遠心分離で白血球と分離することができる。溶血方法は特に限定されず、等張、低張等の浸透圧を利用する方法あるし、物理的な破壊方法、または、急激な加熱による熱ショック方法等が挙げられる。本発明において、特に熱ショック法を組み合わせた方法が好適である。
 溶血剤を血液試料に作用させることによる方法が好ましい。公知の溶血剤には、塩化アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、サポニンなどが挙げられる。このうちで温和な条件で著しい溶血効果を発揮する溶血剤として、少なくとも0.01〜0.5M塩化アンモニウムを含むものが好適である。さらに必要に応じてトリス緩衝液、リン酸緩衝液のようなpHをコントロールするための緩衝液、浸透圧を調節するための塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの塩、白血球の破壊を防止するためのマグネシウム塩、DNA分解を阻止するためのEDTAなどのキレート剤あるいはサッカロースなどの糖類などを添加してもよい。なお、緩衝液を併用する場合、その濃度は数mMから数百mMの範囲で適宜選択できる。
 上記溶血剤は、通常、全血の場合には遠心分離により血球と血漿もしくは血清とを分離された血液検体1容量に対して好ましくは0.1〜30倍容量分、より好ましくは2〜10倍容量分を使用する。0.1容量未満の使用量では、溶血効果が希薄となるため実効性に乏しい。逆に30倍容量を超えると、操作容量が大量となり遠心分離操作の効率も含め、全体の処理効率は著しく低下する。効果的な赤血球の溶解のために、30〜85℃、好ましくは40〜70℃に加温してある0.01〜0.5M塩化アンモニウムを含む溶血剤を使用することが望ましい。30℃未満では、溶血効果が低く、85℃を超える加温では、血液中の変性タンパク質量が急増し、遠心分離の際に目的の白血球とともに沈殿してくるため白血球の純度が低下する傾向が顕著となる。上記の条件で溶血操作を行うと赤血球のみを完全に破壊し、白血球が損傷を受けることなく回収できる。
 溶血した上記試料から白血球を分離するには、通常使用されている遠心分離が好適である。回転数、時間、温度などの遠心分離の条件は、試料の状態などに応じて適宜選択すればよい。
・細胞溶解の工程
 白血球の溶解操作は、細胞膜、核膜、タンパク質などを分解して、細胞核内から溶解液中へ核酸を遊離させるために公知の方法を用いることができる。
 そのための方法として、たとえば浸透圧、ずり応力、凍結破砕、摩砕剤による機械的な力などを利用する細胞膜の破壊方法、物理的なエネルギーを利用する超音波法、各種の界面活性剤、変性剤もしくは酵素類を利用する化学、生化学的方法あるいはこれらを組み合わせた方式などが挙げられる。
 本発明の方法において好ましい操作は、分離した白血球から目的の核酸を含む細胞内容物を得るために、白血球を酵素消化するものである。その酵素消化は、白血球を含む試料に細胞成分分解酵素と界面活性剤を含んでなるライシス溶液を加えて行う。
ライシス溶液
 細胞溶解溶液、すなわちライシス(lysis solution)溶液は、少なくとも細胞成分分解酵素1種類以上を含み、かつ、各酵素濃度が0.01〜50 mg/mlであることが好ましい。ここでいう酵素濃度は酵素純度が80%以上である試薬を使用する場合の濃度である。
 本発明において細胞成分分解酵素とは、アミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼ、ヌクレアーゼよりなる群から選択される少なくとも1つ以上のものである。また酵素濃度が0.01mg/ml以下の濃度になると、細胞内に含まれる核酸以外成分の分解に効率が極端に低くなるので好ましくない。50mg/ml以上になると、酵素自体が回収核酸に混在される可能性が高くなるので好ましくない。
 ここでいうアミラーゼとは、酵素分類法に従って3.2に属するグリコシル化合物を分解する酵素である。具体的には、αアミラーゼ、βアミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼなどが例示される。これらは、単独であるいは組み合わせて使用してもよい。リパーゼは酵素分類法に従って3.1に属するエステル分解酵素である。
 プロテアーゼは酵素分類法に従って3.4に属し、ペプチド結合を特異的に加水分解する酵素の総称であり、通常プロテナーゼ、ペプチドヒドロナーゼ、ペプチダーゼ、プロナーゼなどがある。このようなタンパク質分解酵素を含めることにより、核酸とタンパク質との分離度を上げることができる。プロテアーゼの具体例として、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン、プロテアーゼK、プロナーゼ、パパインおよびこれらの類似型、サブ系などが挙げられる。これらは、単独であるいは組み合わせて使用してもよい。
 ヌクレアーゼは酵素分類法に従って3.1に分類され、DNA、RNAのポリヌクレオチド鎖を加水分解する酵素群の総称である。本発明による方法では、DNAおよびRNAのいずれも抽出することができる。回収する核酸がDNAの場合、RNAヌクレアーゼを使用し、RNAを回収する場合にはDNAヌクレアーゼを使用すれば、これらの核酸の抽出分離が促進される。
 これらの細胞成分分解酵素は生物体から抽出したものであってもよいし、遺伝子組み換え技術により調製される酵素であってもよい。また、これらの多くの酵素は、市場入手が可能である。
 これらの細胞成分分解酵素を加えることで、目的の核酸以外の成分を酵素反応により分解することができるので、高純度核酸の分離が可能である。核酸以外の成分の断片化により、有機溶媒への溶解性が増幅される。また、有機溶媒添加で、核酸以外の成分が沈殿を起こしても巨大分子である目的核酸とは異なり、微小な塊になるので、本発明の固相担体への付着、沈着、吸着することなく、固液分離洗浄で簡単に除去することができる。
 一方、添加した酵素量は細胞成分に比べて極わずかのため、固相表面が細胞成分によってブロッキングされているので、添加した酵素成分が固相表面に強く吸着されることがない。通常の固液分離洗浄で簡単に除去され、核酸溶液中に遊離し、目的核酸に混ぜって抽出されることはない。
 上記ライシス溶液に使用する界面活性剤として、アニオン、カチオン、ノニオン性界面活性剤などが挙げられる。これらのうち白血球膜の破壊効率および後続の酵素反応効率を促進する観点から、アニオン性界面活性剤を用いることが望ましい。具体的には、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどが好ましい。これらは、単独であるいは組み合わせて使用してもよい。ライシス溶液における界面活性剤濃度は、好ましくは、0.01〜15%(w/v)、より好ましくは0.25〜10%(w/v)である。
 さらに必要に応じてトリス緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液のようなpHをコントロールするための緩衝液(pH5〜9)、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、酢酸ナトリウムなどの塩などを添加してもよい。なお、緩衝液を併用する場合、その濃度は数mMから数百mMの範囲で適宜選択できる。
酵素消化による細胞の溶解操作
 本発明において、前記の複数種類の酵素をライシス溶液に共存させ、同時に添加して白血球を処理してもよく、あるいは前後に順序をつけて酵素を添加して処理してもよい。複数の酵素を使用するとき、それぞれの酵素濃度を0.01〜50mg/ml、好ましくは0.1〜10mg/mlの範囲で調整することが好ましい。これらの酵素を使用する際、酵素活性を最大に引き上げるために使用する酵素の種類に応じて、緩衝液、塩、イオン種、界面活性剤などを適宜調整することはいうまでもない。
 本発明において、酵素処理の条件は、30〜85℃、好ましくは40〜60℃で0.1〜10時間攪拌しながら加温すればよい。特に白血球の多い検体に対しては、反応系の粘度を低下させるため、より強い攪拌が好ましい。本発明において、固相担体を反応系に加えたことにより、通常のボルテックスよりも、強い攪拌効果が得られるので、好ましい。また、酵素処理の温度は30℃未満になると処理時間が徒に長くなるため不都合である。85℃を超えると酵素自体の変性が起こりやすくなるため好ましくない。
・固相担体への吸着工程
 通常は、上記細胞溶解処理を終えた細胞内容物を含む試料から核酸を、以下に開示する固相担体を含む水溶性有機溶媒を含有する溶液に接触させることにより該固相担体に吸着させて他の高分子夾雑物と分離する。
固相担体
 本発明の固相担体の組成は特に限定されるものではない。一般的に市販されている有機系、無機系、有機無機の複合系で構成される微粒子であってもよいし、ガラス、セラミックス、金属または金属酸化物、またはこれらの複合体より構成される微粒子であってもよい。
本発明の固相担体の形状は特に限定されるものではない。通常は粒子であることが望ましい。粒子の形状としては、たとえば球形、楕円体形、錐体、立方形、直方体形などが挙げられる。このうち球形粒子の担体は製造がしやすく、使用時に、固相担体の回転攪拌がしやすいことからも好ましい。球状以外の形状の担体について、そのストークス直径は0.01〜1000μmの範囲であることが好ましく、0.1〜100μmの範囲であることがより好ましい。該直径が0.01μm未満になると、粒子回収に時間がかかるので好ましくない。また該直径が1000μmを超えると、粒径以外の因子、例えば、粒子表面状況等の影響を受けやすくなる。
なお、本発明にいう「ストークス直径」とは、固相担体が粒子の場合の有効径であり、球状以外の形状を有する固相担体のサイズは、ストークス法則に従って求められた直径を、同一ストークス直径を有する球状担体の直径とみなすものとする。具体的には、球状以外の形状を有する担体を水溶液に分散させて遠心分離するストークス式から沈降速度を求める。同一素材からできた球状粒子についても、同様に沈降速度を求め、沈降速度の等しい球状担体の粒径をその球状以外の形状の担体のストークス粒径とする。
 上記固相担体は、その表面も含めた担体全体が同一の材料から構成されている場合のほかに、必要に応じて複数の素材から構成されるハイブリット体であってもよい。この場合、固相担体の表面を構成する素材は合成高分子、無機物質、ガラスよりなる群から選択されるものであることが望ましい。より具体的には、自動化機器に対応することができるために、粒子に酸化鉄、または酸化クロムのような磁気応答性材料を導入してもよい。
 具体的にこれらの固相担体は有機合成反応で調製することができる。例えば、芳香族ビニル化合物、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステルよりなる群から選ばれる一種のモノマーの重合体(以下、「特定重合体」という)であり、必要に応じてα,β−不飽和カルボン酸モノマーを共重合することにより有機高分子粒子表面にカルボン酸基を導入することができる。
 上記水不溶性固相担体を形成する材料は水に不溶であればよい。ここでいう水不溶性とは、具体的に水、他のいかなる水可溶性組成を含む水溶液に溶解しない固相を意味する。具体的に無機化合物、金属、金属酸化物、有機化合物またはこれらを組み合わせた複合材料を含む。
 具体的に固相担体として使用される材料は、特に限定されるものではないが、一般にポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリアミドなどのような合成有機高分子、ガラス、シリカ、二酸化珪素、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化ナトリウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などの無機物またはステンレスなどの金属であってもよい。
これらの複合体より形成される固相担体は、様々な特異的な性質も持たせることができるので、本発明に好適である。例えば、酸化鉄を含浸させることにより、固相担体に磁気応答性をもたらすことができ、固液分離をより簡便に実現させることができる。また、有機固相担体の表面にセラミックス層を導入することにより、固相硬さが極端に向上し、ボルテックス操作で簡単に細胞の物理破壊を実現し、後続する酵素反応の反応効率アップ、均一性の実現に有用である。
水溶性有機溶媒
 本発明に使用する水溶性有機溶媒として、水酸基を含む水に可溶な溶媒が挙げられ、特にアルコールが好ましい。具体的には、そのアルコールとして、ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、2−ペンタノール、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールよりなる群より少なくとも1つ以上選択される。水溶性有機溶媒は1種の溶媒を単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。これらのうちで、特にエタノール、イソプロパノールが好ましい。
 これらの水溶性有機溶媒を用いる場合の核酸抽出時の水溶性有機溶媒の濃度は、25〜100容量%、好ましくは40〜100容量%である。通常細胞や宿主から遊離された核酸は上記有機溶媒の濃度で、核酸のみが固相担体表面に析出、吸着される。
 必要に応じて上記水溶性有機溶媒を添加する前、または添加すると同時に塩、水溶性ポリマー、多糖類、界面活性剤を添加してもよい。たとえばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、ポリビニルアルコール、アガロース、デキストラン、デキストラン硫酸、またはドデシルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの添加物を加えることにより、核酸をより高効率に固相担体に捕獲され、かつ、容易に再溶解されることが多い。
 添加する塩の該溶媒液での濃度は、好ましくは0.1〜50mM、さらに好ましくは0.5〜10mMである。塩濃度が0.1mM未満では添加する塩による核酸析出効果が小さいため好ましくない。逆に50mMを超える塩濃度では、核酸以外の親水性タンパク質などの析出も引き起こすようになるため、核酸のみの塩析効果が減殺される。同様に、該溶媒液中の水溶性ポリマー、多糖類濃度は、0.0001-10%(w/v)、界面活性剤の濃度は、0.01〜15%(w/v)が好ましく、特に0.05〜0.5%(w/v)が好ましい。当該界面活性剤の濃度が0.01 w/v%未満では疎水性タンパク質のミセル効果が弱く、15 w/v%を超えると界面活性剤の析出を招くためいずれも好ましくない。
吸着操作
 本発明では水溶性有機溶媒の存在下、核酸を含む試料と固相担体とを接触させることにより、核酸が固相担体の固体相に吸着される。
ここで、ライシス溶液、固相担体および水溶性有機溶媒の接触順については限定されない。
すなわち、(a)細胞の溶解処理に際して、予め固相担体を同時に添加する方法、(b)細胞の溶解処理後に固相単体を添加する方法、あるいは(c)固相担体と試料とを最初に直接接触させた後に細胞の溶解処理を行う方法のいずれでもよい。
ただし、(c)固相担体と試料を最初に接触させる場合には、固相担体と試料を接触させた後すぐにライシス溶液を添加するのがよい。
これらの方法の中では、特に(b)溶解処理後に固相担体を添加する方法が好ましいが、この場合、固相担体は水溶性有機溶媒と一緒に加えてもあるいは別個に加えてもよい。
 本発明において、固相担体はその粒径によって異なるが、一般に検体試料1mlにつき粒子重量を乾燥体に換算して0.01〜100mg程度使用することが好ましい。
 核酸の固相担体への吸着に要する時間は、水溶性有機溶媒、核酸含有試料および固相担体を混合後、通常0.1〜20分、好ましくは3〜15分である。特にゲノムDNAのような長い核酸を抽出する場合、吸着工程時間を長くすることが好ましい。また吸着温度は0〜60℃、好ましくは4〜25℃である。
 吸着工程において反応液を攪拌する場合には、通常0.5〜20回転/分、好ましくは1〜5回転/分の速度である。
・洗浄および溶出工程
 固体担体への核酸の吸着工程が終了後、反応液から固相担体を分離して分離した固相担体を洗浄する。また、必要に応じて核酸を液洗浄する前に、グアニジン塩酸塩、グラニジンチオシアネート、尿素のような蛋白質溶解液に浸し、残留蛋白成分を溶解させて除去してもよい。洗浄液としては、固体担体に結合した核酸を溶離させないものであれば、吸着工程で使用した水溶性有機溶媒と同じ溶媒であっても、その他の水溶性溶媒であってもよい。また核酸の固相担体への吸着が維持できるならば必要に応じて水溶性有機溶媒の濃度を低くしてもよい。
 固相担体に吸着した核酸は前記洗浄後、乾燥して次のステップに用いてもよい。乾燥方法は限定されず、減圧乾燥、加熱乾燥、通風乾燥などが用いられる。特に乾燥としては風乾が望しい。乾燥温度は通常室温ないし60℃が好ましく、乾燥時間は5〜20分間であることが好ましい。
 こうして得られる核酸が吸着された固相担体は使用目的により、そのまま次の操作、たとえばPCR法による増幅や制限酵素処理など各種の核酸分析に供することができる。あるいは乾燥した固相担体に滅菌蒸留水、トリス塩酸/EDTA緩衝液(TE)を加えて攪拌することにより固相担体に吸着した核酸を液層に溶出してもよい。
 固相担体から核酸を溶出するには、低イオン強度の溶媒、緩衝液を固相担体に作用させ、必要なら加温する。核酸溶出のための温度は、好ましくは50〜90℃、より好ましくは70〜80℃である。このような溶離液としては、水、トリス塩酸緩衝液、リン酸緩衝液などが例示される。溶出された核酸は、遠心分離、ろ過、デカンテーションなどの操作により担体を除去して回収される。
・核酸分離方法の実施態様
 本発明による方法の実施については、特に限定されるものはなく、試料および目的に応じた多様な実施の形態をとることができる。 
 本発明は、被験者から極めて容易に採取できる血液試料より核酸を抽出精製するため、核酸に関するデータを臨床分野で利用する目的には特に好ましく適用できる。本発明の方法により、DNAおよびRNAのいずれも分離でき、しかも得られる核酸はさらに精製する必要はなく、そのままPCR法、各種分析に供することができるためである。
 本発明の核酸分離方法は、全手順を単一の反応容器中で実施することも可能であり、これは以下の利点をもたらす。
 (1)方法の一段階で、核酸含有試料から遊離した核酸が後続の精製過程において少なくとも固相の大部分に結合するため、汚染の危険を極めて低くすることができる。病原菌への汚染は、ウィルスまたは細菌などの病原菌に感染している可能性のある検体の処理に伴う人体への危険は、サンプルを反応容器に入れる分離段階の第1段階にほぼ限定される。初期の処理においてウィルスまたは細菌は有効に不活性化される。もう一つの汚染として、多数の検体を同時的に処理する場合の、相互汚染の問題である。単一の反応容器で行うことによって、コンタミリスクを最小限に回避もしくは減少できる。
 (2)処理の自動化を実現するのに好都合であることである。
核酸の抽出および調製の自動化は、操作の熟練、高度の知識を必要とせずに、迅速に大量の検体を処理することも可能とする。したがって、核酸調製の自動化は遺伝子工学、遺伝学的診断をはじめとして核酸分析を必要とする各分野において広範な利用、用途を有するため、極めて重要な意義をもつ。
 本発明の方法は、上述したその特質から、多数のサンプルより機械的に核酸を迅速に分離する目的、すなわち自動処理化にも極めて好適である。本発明の方法が水/フェノールの二相抽出を必要とせず、遠心分離の操作も白血球を分離する段階を除けば、基本的には不要であることから機械化の障害は特にないからである。
核酸分離キット
本発明は、有核細胞を含む検体試料から核酸を分離精製するための試薬キットも提供する。本発明の試薬は、少なくとも、溶血液、ライシス溶液、酵素液、水不溶性固相担体、水溶性有機溶媒を含む。
 本発明の核酸抽出方法及びその試薬を用いることにより、血液から短時間、簡便、低コストで核酸を高純度、大量に精製することができる。かつ、有毒溶媒、腐食性溶媒を使用せず、作業環境、作業者にとっても優しい方法の確立により、遺伝子工学、遺伝子診断、遺伝子治療、ゲノム化学、ゲノム創薬等の分野に広く応用ができる。また処理の自動化も可能な方法である。
 これらのキットを構成する各成分は、別個に用意されてもよく、あるいは、支障がない限り一緒にしてもよい。
 さらに必要に応じて、本キットは洗浄液、溶離液、補助剤、専用容器、その他の必要なアクセサリーなどを含んでもよい。
 「ライシス溶液」、「水不溶性の固相担体」、「水溶性有機溶媒」については上記に説明したものがいずれも好適に用いられる。
 「洗浄液」、「溶離液」については、吸着工程で使用した水溶性有機溶媒と同じ溶媒、またはその他の水溶性溶媒、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液などを例示することができる。両者は同一系の緩衝液であってもよく、緩衝液の液性を変更する、具体的にはイオン強度、pH、含有する塩類の種類を変化させることにより、洗浄用および溶離の作用を実現させることができる。
 以下、実施例を挙げて具体的に本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
 12ml容量の試験管にあるヘパリン抗凝固剤入りの全血1mlに70℃に加温した溶血剤、すなわち50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.6)中に0.15M NH4Cl、20mM MgCl2および20mM CaCl2を含有する溶液、4mlを加えて上下攪拌後、静置5分後、遠心分離(3000rpmX5分間)して、上清を除去した。
 試験管底のペレットにトリプシン(5 mg/ml)、RNAヌクレアーゼ(2 mg/ml)、リパーゼ(2 mg/ml)、アミラーゼ(1 mg/ml)、0.5%(w/v)ラウリン酸ナトリウムを含む200mM塩化カリウム溶液0.1mlを加え、50℃で10分加熱した。反応終了後、平均直径20μmで、表面がポリスチレン、内部は酸化鉄とポリスチレンで構成される磁性粒子分散液(10重量%) を10μl を加え、ボルテックスした。続いて、50容量% IPA / 50容量%エタノール混合液2mlを加え、ボルテックスミキサーで攪拌し、DNAを粒子に吸着させた。次いで、磁石を試験管の横に寄せ、粒子を固定し、上澄みを除去した。この洗浄操作を2回繰り返した。続いて、20mMトリス緩衝液(pH7.6)1mlで2回洗浄後、TE、0.5mlを加えて60℃、10分間攪拌しながら加熱した後、上記ポリスチレン磁性ビーズを磁気分離し、液層部分を回収した。
 回収された上記上澄み液中に含まれるDNAを吸光度測定により定量した。回収されたDNA量を260nmの紫外吸光度(A260)から算出し、その純度は吸光度の比A260/A280、A260/A230)で確認し、共に1.9以上であることを確認した。また、DNA長さは1重量%アガロースゲルでのパルス電気泳動で調べた。その結果、100K〜200K領域に分布していることが分かった。回収したDNA、1μgを0.2unitの制限酵素、HindIII, EcoRIによる酵素処理を施した後の消化結果を電気泳動で確認し、その結果、フェノール・クロロホルムで回収したDNAと同一レベルにあることを確認した。さらに1fgDNAを鋳型にグロブリン遺伝子の増幅も行い、PCR反応が支障なく行えることを確認した。
 なお、本実験を試薬調製の時間を除いて10本同時進行で実施したときの所要時間は約1時間を要した。
実施例1に使用した酵素トリプシンの代わりに、トリプシンと同濃度のペプシンを使用した以外は実施例1と同様な操作を行った。
 実施例1に使用した酵素トリプシンの代わりに、プロテーナーゼKを同濃度で使用した以外は実施例1と同様な操作を行った。
 実施例1に使用した酵素トリプシンの代わりに、トリプシンと同濃度のペプチターゼを使用した以外は実施例1と同様な操作を行った。
 実施例1に使用したポリスチレン/酸化鉄より構成された固相担体の代わりに、粒径が30μmのポリスチレン架橋粒子を使用した以外は実施例1と同様な操作を行った。
実施例1同様に酵素処理終えた細胞ライシス液に同容量の5Mグアニジン塩酸塩を加え、振動攪拌後、室温で5分間静置した。その後、実施例1同様に平均直径20μmで、表面がポリスチレン、内部は酸化鉄とポリスチレンで構成される磁性粒子分散液(10重量%) を10μl を加え、ボルテックスした。続く操作も実施例1と同様であった。
実施例1の細胞成分であるペレットのトリプシン(5 mg/ml)、RNAヌクレアーゼ(2 mg/ml)、リパーゼ(2 mg/ml)、アミラーゼ(1 mg/ml)処理時に、0.5%(w/v)ラウリル酸ナトリウムを含む200mM塩化カリウム溶液0.1ml、0.3%デキストラン(分子量5万)を20μl加え、50℃で10分加熱した。以降の操作は実施例1と同様であった。
 EDTA採血管より採取した血液10mlに、40℃に加熱した0.15M NH4Cl、 60mlを加え、上下攪拌後、3000回転x5分で遠心し、上澄みを除去した。ペレットにペプチターゼ(5mg/ml)、リパーゼ(2mg/ml)、0.5%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウムを含有する200mMKCl溶液0.5mlを加え、50℃で0.5時間加熱した。反応終了後、粒径5μmのポリアクリレートレジン粒子分散液(粒子固定分5%)を5μl加え、ボルテックス後、1mlエタノールを加え、試験管を上下3回攪拌後、磁気分離で粒子を試験管壁に固定し、液層部分を除去した。次いで、50%イソプロピルアルコール水溶液で2回洗浄し、最終的に磁気分離した粒子ペレットを20mM トリス緩衝液(pH7.6) 1mlで1回洗浄後、0.5mlのTEに加え、70℃で30分攪拌しながら加熱した。最終的に粒子分散液を磁石で固液分離し、上澄みを回収した。
比較例1
 参照実験として実施例1で得た白血球沈殿をフェノール・クロロホルム法で抽出した。抽出法は、「分子クローニング」(J.Sambrook、1982、 CSH出版)に従った。なお、本参考実験での所要時間は試薬調製を除いて10本平行して実施したとき、約3時間が要した。
実施例及び比較例の結果を、下記の表1に示す。
Figure 2004073193



Claims (7)

  1. 有核細胞を含む試料から核酸を分離精製する方法であって、
     1)有核細胞を含む試料と、少なくとも細胞成分分解酵素および界面活性剤を含むライシス溶液とを接触させる工程、
     2)水溶性有機溶媒の存在下、有核細胞を含む試料と、平均粒径が0.01〜1000μmの水不溶性固相担体とを接触させて、有核細胞より遊離させた核酸を該固相担体表面に吸着結合させる工程、ならびに
     3) 該固相担体を試料から分離する工程
    を含むことを特徴とする核酸分離方法。
  2. 細胞成分分解酵素が、アミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼおよびヌクレアーゼからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の核酸分離方法。
  3. 界面活性剤がアニオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1記載の核酸分離方法。
  4. 水不溶性固相担体がポリスチレン、ポリプロピレン、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリアミド、ガラス、シリカ、二酸化珪素、窒化珪素、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1記載の核酸分離方法。
  5. さらに4)分離した固相担体を洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項1記載の核酸分離方法。
  6. さらに5)固相担体に吸着した核酸を溶出させる工程を含むことを特徴とする請求項1記載の核酸分離方法。
  7. 有核細胞を含む試料から核酸を分離精製する試薬であって、少なくとも前記細胞成分分解酵素、水不溶性固相担体、水溶性有機溶媒を含む核酸抽出試薬キット。
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