JP2004071508A - 燃料電池用ガス拡散層の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】面内で均一な撥水性及びガス拡散性を有する撥水層を有する燃料電池用ガス拡散層を、亀裂を生じさせることなしに薄く製造するための方法を提供することを目的とする。
【解決手段】電気伝導性物質粒子とバインダーとを溶媒中に分散した撥水層形成用ペーストを多孔質基材に塗布する燃料電池用ガス拡散層の製造方法において、互いに対向して設けられたコーティングロールおよびバックアップロールと、前記コーティングロールに付勢された押し当て部材(スキージ)とを用い、前記コーティングロールおよびバックアップロールを、多孔質基材搬送方向と同一方向に回転させた状態で、前記多孔質基材を前記コーティングロールおよびバックアップロール間へと導き、前記コーティングロールとスキージの少なくともいずれか一方に形成されたペースト通流溝から前記ペーストを前記多孔質基材上に供給することにより撥水層を形成する。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、燃料ガスと酸化剤ガスとから電気化学反応によって直流電気を発生させる燃料電池のガス拡散層の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
周知のとおり、燃料電池は、反応ガスとしての燃料ガス(例えば、水素)および酸化剤ガス(例えば、空気)を燃料極および酸化剤極に連続的に供給して、燃料のもつエネルギーを電気化学的に電気エネルギーに変換するものである。
図5に、燃料電池単セル断面の概略構成を示す。図5において、電解質膜1の両主面に各々電極触媒層2、ガスセパレータ板4が対向配置されている。電極触媒層2は、触媒担体の表面に貴金属微粒子を担持した触媒粒子と電解質膜材料とにより形成されている。ガスセパレータ板4には、ガス通路5が形成されており、ガス通路5を経て供給される反応ガスと電解質膜材料、貴金属触媒粒子とが電極触媒層2内部で接触し電気化学反応が進行し、この電気化学反応の結果として水が生成される。
【0003】
電気化学反応を効率良く行わせるためには電気化学反応サイトへ反応ガスを電池面内で均一に充分に供給すること、及び生成水を効率よく排出することが必要である。そこで、反応ガスを電池面内に均一に充分に供給するために、電極触媒層2とガスセパレータ板5の間に多孔質のガス拡散層3を配置してガスセパレータ板4のガス通路5間の電極部分へも反応ガスを供給できるように構成されている。
【0004】
ガス拡散層3には、生成水によりガス拡散層3の細孔が塞がれて反応ガス供給性能が低下するのを防ぐ為に撥水性を付与する場合が多い。撥水性が付与されたガス拡散層の製作方法には、ガス拡散層自体をフッ素樹脂等で撥水処理する方法があるが、この場合、多孔質材からなるガス拡散層の細孔部にある程度の撥水性材料が充填されることになり、ガス拡散層自体のガス拡散性が低下する恐れがある。そこで、フッ素樹脂と電気伝導体粒子との混合物からなる撥水層を塗布法や濾過法によってガス拡散層上に形成することにより、ガス拡散性を確保しながら生成水を排出する方法が取られる。
【0005】
一般に燃料電池は必要な電圧を得るために複数の単電池を積層する場合が多いが、より小さな構成体でより大きな出力を得るために、各単電池をより薄くすることが必要となる。さらに単電池の構成体に厚さの面内分布がある場合には、電池面内で電流の分布を発生することになり局部的な電池材料の性能劣化などに結びつく場合がある。また、撥水層に亀裂などの欠陥がある場合には、その欠陥部に排出されるべき水分が凝縮してしまい、反応ガスの拡散を妨げ発電性能の低下を生じることとなる。これらのことから、燃料電池ガス拡散層はなるべく薄く均一な厚さで亀裂などなく安定に形成されている必要がある。
【0006】
ガス拡散層上に塗布により撥水層を形成する方法として、特開昭60−151968号公報に燃料電池用電極の製造方法として記載されたリバースロールコーターを用いることができる。この方法を説明するための概念図を図6に示す。図6に示す方法は、ペーストを塗布すべき電極基材10を挟んで、電極基材10の進行方向と回転方向が逆のコーティングロール11、および回転方向が同一のバックアップロール12を対向して設け、さらに、コーティングロール11と逆回転するドクターロール13を設けて、コーティングロール11の回転に伴って、ペーストを電極基材10上に転写する方法である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述のリバースロールコーターを用いる方法においては、基材がコーティングロールにより強い摩擦を受ける。また巻物状のシートの場合は送り出し側と巻き取り側で確実なシート送りが可能であるが、燃料電池用ガス拡散層の場合は搬送台に多孔質基材を1枚毎に完全に固定しないと、コーティングロールから受ける進行方向とは逆の力により多孔質基材がスリップしたり、場合によっては多孔質基材表面を損傷してしまうケースも見られた。
【0008】
さらに、リバースロールコーターはコーティングロールとドクターロールを有しているが、この2本のロール間でペーストが強い剪断力を受けることになり、その結果バインダーとして一般的に用いられるポリテトラフロロエチレン(PTFE)成分が繊維化してしまい、次第にペースト性状が変化してしまうため、連続して均質な撥水層の製造が困難になってしまう問題や、コーティングロールとドクターロールの間で摩擦熱が発生し、ペーストの状態が経時的に変化してしまう問題もあった。
【0009】
以上のことから、本発明は、面内で均一な撥水性及びガス拡散性を有する撥水層を備えた燃料電池用ガス拡散層を、亀裂を生じさせることなしに薄く製造するための方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、本願発明は、導電性材料の粉末とバインダーとを溶媒中に分散した撥水層形成用ペーストを多孔質基材に塗布する燃料電池用ガス拡散層の製造方法において、互いに対向して設けられたコーティングロールおよびバックアップロールと、前記コーティングロールに付勢された押し当て部材(スキージ)とを用いることとし、前記コーティングロールおよびバックアップロールを、多孔質基材搬送方向と同一方向に回転させた状態で、前記多孔質基材を前記コーティングロールおよびバックアップロール間へと導き、前記コーティングロールとスキージの少なくともいずれか一方に形成されたペースト通流溝から前記ペーストを前記多孔質基材上に供給することにより撥水層を形成することとした(請求項1の発明)。
【0011】
このような塗布方法を用いることにより、濾過法などによる撥水層形成に比べて面内での厚さ分布を小さくすることができるほか、製造工数をおよそ半分以下に低減できる。またリバースロールコート法と比較して、コーティングロール接触時に於ける多孔質基材のスリップや多孔質基材表面の損傷が生じる恐れがなくなる他、装置のコストも低く抑えられるメリットもある。
【0012】
ここで、押し当て部材としては、例えば、板状,棒状などのものが挙げられる。このような押し当て部材(スキージ)を使用し、これをスプリングや空気圧力などにより、所定の圧力でコーティングロールに押し当てる(付勢する)ことにより、ペーストが受ける剪断力は、コーティングロールとドクターロールを使用した従来方法に比べて大幅に減少する。
【0013】
この結果、マトリックスペースト中のPTFEの繊維化を防ぐことが可能となる。さらに、従来、コーティングロールとドクターロール間で発生していた摩擦熱の問題も、押し当て板に替えることにより大幅に滅少し、その結果ペースト性状の安定化が図れる。
さらに上記の方法では、コーティングロールとスキージとの間の押し付け圧力や、撥水層材料ペーストの粘度、コーティングロールの溝サイズなどを変えることで塗布圧をコントロールすることが容易であると同時に、リバースロールコーターに比べ塗布厚さを薄くすることができるので、よりコンパクトな燃料電池を製作することが可能となる。
【0014】
上記請求項1の発明の方法により多孔質基材面に前記ペーストを塗布した後、これを温度30〜90℃で所定時間乾燥し、その後不活性ガス雰囲気中において温度250〜300℃で所定時間熱処理することとした(請求項2の発明)。これにより、熱処理工程を適切な条件の乾燥工程と空焼き(溶媒除去)工程とに分けることで、クラックの発生を抑制することができる。
【0015】
請求項1または2に記載の製造方法において、前記ペースト通流溝は、前記コーティングロールの外周面の軸方向に複数個に設けられた断面V字状の切り込み溝であって、その切り込みピッチは200〜1000μmとする(請求項3の発明)。また、請求項3記載の製造方法において、前記V字状切り込み溝の切り込み角度は、50〜90度とする(請求項4の発明)。
【0016】
さらに、請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法において、前記コーティングロールの材質はゴムとし、その硬度(JIS−A)は、40〜80の範囲内とする(請求項5の発明)。
また、請求項1または2に記載の製造方法において、前記ペースト中の液体溶媒以外の固形分濃度は、40〜80重量%とする(請求項6の発明)。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施例を図に基づいて説明する。図1は、本発明の実施例の製造方法に関わる塗布装置の概略を示す図である。図1において20はコーティングロール(以下、Cロールともいう)、21はバックアップロール(以下、Bロールともいう)、22は押し当て部材としての押し当て板(以下、スキージともいう)、24は多孔質基材、25は搬送ロール、23は撥水層材料ペーストである。
【0018】
Cロールの概略斜視図を図2に、またCロールのV字型溝の部分拡大断面図(図2のA−Aに沿う断面図)を図3に示す。本実施例では溝ピッチ400μm間隔で、切り込み角度Θは60°のものを用いた。Bロールには溝の彫っていない平坦な面を有するロールを用いた。本実施例ではCロール、Bロールともに硬度約60(JIS−A)のEPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)製ゴムロールを用いた。
【0019】
撥水層の厚みは主に、スキージをCロールに押し当てる圧力(これによりCロール上に付着する撥水層形成用ペーストの厚みを調整可能)、およびCロールとBロール間の接触圧力(これによりCロール上に付着するペーストの基板への転写率を調整可能)で調整する。この実施例ではスキージを約0.1MPaの圧力でCロールに押し当てた。またCロールとBロール間の接触圧力の目安として、CロールとBロールの接触時の撓み量の合計が約1mmとなるように調整した。さらにはペーストの粘度、固形分濃度、基板搬送速度などによっても、撥水層の塗布厚さの微調整が可能である。
【0020】
撥水層形成用ペーストとして、例えば電気伝導性物質粒子としてのカーボン微粉末を濃度100%のジエチレングリコール中に分散させ、これにバインダーとしてのPTFEディスパージョンをカーボン重量の30〜60%混合したものを使用することができる。この実施例ではペースト中の固形分濃度は60%とした。
ガス拡散層に用いる多孔質基材としては、カーボンペーパーやカーボンフェルト等を用いることができる。
【0021】
Cロール20とスキージ22の間に適量の撥水層形成用ペースト23を投入しCロール20を回転すると、ペースト23はCロール20とスキージ22の隙間を通り、Cロール20上で適度な厚みのペースト層を形成する。この状態でC,Bロール間に多孔質基材24を送ると、多孔質基材24上に撥水層が形成される。この実施例では基板送り速度を2m/minとした。
【0022】
以上のような条件の下でペーストを塗布することにより、後述する熱処理後の厚さが約40μmの撥水層が得られた。塗布条件により更に薄い撥水層を得ることも可能である。
撥水層塗布後の熱処理は、この実施例では50℃の電気炉で15時間乾燥した。これによりPTFEディスパージョン中に含まれる水分や撥水層形成用ペーストに使用した有機溶媒成分の一部を除去した。
【0023】
続いて窒素雰囲気において270℃、20分間の熱処理工程を加えた。これにより有機溶媒成分を完全に除去すると共に、PTFEを部分的に溶解させ、バインダーとしての性質を発現させる。本実施例で使用したジエチレングリコールや、エチレングリコール、プロピレングリコールなどは沸点が凡そ250℃以下であり、ここに記した熱処理工程により完全に除去できることを確認している。さらに本発明に記した一連の工程を経た後も、これらの有機溶媒は電極の発電特性になんら悪影響を及ぼさないことを確認している。
【0024】
図4は本発明の製造方法で作成した撥水層付ガス拡散層を用いた燃料電池と、ガス拡散層自体をフッ素樹脂によりはっ水処理したガス拡散層を用いた燃料電池、及び撥水層を有しないガス拡散層を用いた燃料電池の出力電圧特性比較図である。本発明の製造方法により作成した撥水層付ガス拡散層を用いた電池では、その他の電池に比べて高電流時の電池電圧が高くなっている。これは、反応生成水量がより多くなる高電流時においても、本発明による燃料電池用ガス拡散層のガス拡散性が他の電池に比べて低下していないことを表している。
【0025】
【発明の効果】
上述のとおり、本発明の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、面内で均一かつ良好な撥水性及びガス拡散性を有する撥水層を備えた燃料電池用ガス拡散層を、亀裂を生じさせることなしに薄く製造することが可能となり、これにより反応生成水量がより多くなる高出力時においても、ガス拡散層のガス拡散性の低下を抑制し、燃料電池発電性能向上に大きく貢献する燃料電池用ガス拡散電極を製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施例の製造方法に関わる塗布装置の概略構成を示す図
【図2】図1におけるコーティングロールの斜視図
【図3】図2におけるコーティングロールに設けた溝の部分拡大断面図
【図4】燃料電池の出力電圧特性に関する本発明と他の製造方法との比較実験結果を示すグラフ
【図5】燃料電池の断面構成模式図
【図6】従来の製造方法に関わるリバースロールコーターを用いる方法の概念図
【符号の説明】
20:コーティングロール
21:バックアップロール
22:押し当て部材(スキージ)
23:撥水層形成用ペースト
24:多孔質基材
25:搬送ロール

Claims (6)

  1. 電気伝導性物質粒子とバインダーとを溶媒中に分散した撥水層形成用ペーストを多孔質基材に塗布する燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
    互いに対向して設けられたコーティングロールおよびバックアップロールと、前記コーティングロールに付勢された押し当て部材(スキージ)とを用い、
    前記コーティングロールおよびバックアップロールを、多孔質基材搬送方向と同一方向に回転させた状態で、前記多孔質基材を前記コーティングロールおよびバックアップロール間へと導き、前記コーティングロールとスキージの少なくともいずれか一方に形成されたペースト通流溝から前記ペーストを前記多孔質基材上に供給することにより撥水層を形成することを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
  2. 電気伝導性物質粒子とバインダーとを溶媒中に分散した撥水層形成用ペーストを多孔質基材に塗布する燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
    互いに対向して設けられたコーティングロールおよびバックアップロールと、前記コーティングロールに付勢された押し当て部材(スキージ)とを用い、
    前記コーティングロールおよびバックアップロールを、多孔質基材搬送方向と同一方向に回転させた状態で、前記多孔質基材を前記コーティングロールおよびバックアップロール間へと導き、前記コーティングロールとスキージの少なくともいずれか一方に形成されたペースト通流溝から前記ペーストを前記多孔質基材上に供給することにより多孔質基材面に前記ペーストを塗布した後、温度30〜90℃で所定時間乾燥し、その後不活性ガス雰囲気中において温度250〜300℃で所定時間熱処理することを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
  3. 請求項1または2に記載の製造方法において、前記ペースト通流溝は、前記コーティングロールの外周面の軸方向に複数個に設けられた断面V字状の切り込み溝であって、その切り込みピッチは200〜1000μmとすることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
  4. 請求項3記載の製造方法において、前記V字状切り込み溝の切り込み角度は、50〜90度とすることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
  5. 請求項1ないし4のいずれかに記載の製造方法において、前記コーティングロールの材質はゴムとし、その硬度(JIS−A)は、40〜80の範囲内とすることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
  6. 請求項1または2に記載の製造方法において、前記ペースト中の液体溶媒以外の固形分濃度は、40〜80重量%とすることを特徴とする燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
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