JP2004050228A - アークスポット溶接方法および装置 - Google Patents

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長尾 陽一
Masaji Takechi
武市 正次
Masaru Sedo
瀬渡 賢
Takeshi Koike
小池 健
Hisanori Nakamura
中村 尚範
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Abstract

【課題】溶接開始直後から電流密度の高いアークを安定して発生させるようにして、短時間で深い溶け込みを得ることを可能として溶接時間を短縮するとともに、強度および美観に優れた良質なビードの形成を可能とするアークスポット溶接方法および装置を提供する。
【解決手段】消耗電極式アーク溶接法において、応答性のよいワイヤ電極Bの送給機構20を有する溶接トーチ、例えばサーボトーチ1を備えたアークスポット溶接装置Aを用い、ワイヤ電極Bの送給速度Vの指令値Eを所定パターンに設定し、送給機構20を前記指令値Eにより駆動してワイヤ電極Bを送給しながらアークスポット溶接をなすものである。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アークスポット溶接方法および装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、金属板材を重ね合わせた状態で相互に溶接する溶接方法として、アークスポット溶接が行われている。アークスポット溶接は、母材を両側から挟み込んで加圧・通電する抵抗スポット溶接(例えば特開昭62−244582号公報参照)とは異なり、材料片側からの作業が可能であり作業自由度が高いため、溶接点が極めて多い製品の溶接作業を高速化・自動化するのに適した溶接方法として各種分野で利用されている。
【0003】
このようなアークスポット溶接方法として、融点が高く消耗しにくいタングステン(Tungsten)電極を用い、イナートガス(Inert−Gas:不活性ガス)雰囲気中で溶加材を補給しながら溶接を行うTIG溶接(例えば、特開昭58−38663号公報参照)、母材とほぼ同じ材質のワイヤ状の電極(以下、ワイヤ電極という)を用い、これを送給装置によってトーチに送り込みつつ不活性ガス雰囲気中、あるいは酸化性シールドガス雰囲気中で溶接を行うMIG(Metal−Inert−Gas)溶接およびMAG(Metal−Active−Gas)溶接、アークの熱的ピンチ効果を利用したプラズマアーク溶接(特開平7−144278号公報)がある。
【0004】
これら各溶接方法の中で、消耗式電極であるワイヤ電極を用いるMIG溶接およびMAG溶接においては、従来、ワイヤ電極をトーチに送り込むワイヤ送給装置には、制御性が良好であるといった理由でプリントモータ(DCモータ)が用いられている。
【0005】
ところが、プリントモータは立ち上がりの反応速度が遅いため、通常のアーク溶接に比して2〜3倍のワイヤ供給速度が要求されるアークスポット溶接においては、目標速度に達するまでに時間を要する。そのため、溶接開始時に速やかなアークスタートが得られずアーク状態が不安定となり、アーク状態が安定化するまでの間に溶着した溶接金属によって板厚が増すこととなって、所定時間内に深い溶け込みが得られないといった問題がある。
【0006】
なお、一般的なアーク溶接におけるアークスタートを確実なものとするものとして、特開平10ー34335号公報には、溶接装置がオンしてから溶接電流が流れるまでの間は、溶接用ワイヤの送給モータの回転数を第1のスローダウン速度とし、溶接電流が流れてから一定期間は、定常速度より高速の第2のスローダウン速度としてなるアーク溶接装置が提案されている。
【0007】
また、特開2002ー86270号公報には、溶接開始時にワイヤ送給速度を定常より低速で送給し、溶接開始時にワイヤと母材が短絡した後、溶接ワイヤの送給速度を加速し、予め設定されたワイヤ送給速度に到達後、予め設定された定常溶接におけるワイヤ送給速度より遅いワイヤ送給速度になるまで減速し、さらに定常溶接におけるワイヤ送給速度に加速する消耗電極式アーク溶接方法が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑みなされたものであって、溶接開始直後から電流密度の高いアークを安定して発生させるようにして、短時間で深い溶け込みを得ることを可能として溶接時間を短縮するとともに、強度および美観に優れた良質なビードの形成を可能とするアークスポット溶接方法および装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のアークスポット溶接方法は、消耗電極式アーク溶接法において、応答性のよいワイヤ電極の送給機構を有する溶接トーチを備えたアークスポット溶接装置によるアークスポット溶接方法であって、ワイヤ電極の送給速度の指令値を所定パターンに設定し、送給機構を前記指令値により駆動してワイヤ電極の送給をなすことを特徴とする。
【0010】
本発明のアークスポット溶接方法においては、送給速度の変化割合に上限値が設定されているのが好ましい。
【0011】
また、本発明のアークスポット溶接方法においては、溶接電流を溶接開始時には貫通孔形成電流とし、その後溶接電流をビード成形電流とするのが好ましい。その場合、例えば、送給速度を段階的に減少させたり、送給速度を漸減させたりするものとされる。
【0012】
一方、本発明のアークスポット溶接装置は、消耗電極式アーク溶接法において、応答性のよいワイヤ電極の送給機構を有する溶接トーチと、溶接電源部と、制御部とを備えたアークスポット溶接装置であって、制御部によりワイヤ電極の送給速度の指令値が所定パターンに設定され、前記指令値により送給機構が駆動されてワイヤ電極の送給がなされることを特徴とする。
【0013】
本発明のアークスポット溶接装置においては、送給速度の変化割合に上限値が設定されてなるのが好ましい。
【0014】
また、本発明のアークスポット溶接装置においては、溶接電流を溶接開始時には貫通孔形成電流とし、その後溶接電流をビード成形電流とするのが好ましい。その場合、送給速度を段階的に減少させるようされたり、送給速度を漸減させるようされたりする。
【0015】
【作用】
本発明は、前記の如く構成されているので、溶接開始直後から電流密度の高いアークを安定して発生させて、短時間で深い溶け込みを得ることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施形態に基づいて説明するが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではない。
【0017】
実施形態1
図1に、本発明の実施形態1に係るアークスポット溶接方法が適用される溶接装置の概略構成を模式的に示す。
【0018】
この溶接装置Aは、例えば多関節形、直交座標形、極座標形および円筒座標形の各種ロボットのロボットアームに装着可能に構成される応答性のよい溶接トーチ、例えばサーボトーチ(以下単にトーチという)1と、溶接電源部2と、制御部3と、を主要構成要素として備え、MIG(Metal−Inert−Gas)溶接およびMAG(Metal−Active−Gas)溶接などの消耗型電極方式のアークスポット溶接により複数の板材W1、W2を重ね合わせた状態で溶接するものとされる。
【0019】
トーチ1は、イナートガスまたは酸化性混合ガス(炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガス)を溶接部(weld zone)をシールドするように噴出させる、トーチ1の先端部分に配設されるノズル10と、ノズル10を通してワイヤ電極Bを送り出すように送給する送給機構20と、送給機構20の駆動源としてのサーボモータ30と、を一体化するようにして構成された送給機構内蔵トーチとされている。
【0020】
送給機構20は、サーボモータ30の出力軸と接続されるギア機構21と、ワイヤ電極Bを送るようワイヤ電極Bを間に挟んだ状態でギア機構21を介して伝達される回転駆動力により回転する1対のローラ22,22とから構成されている。
【0021】
サーボモータ30は、サーボ回路31を用いたフィードバック制御によって、送給機構20によるワイヤ電極Bの送給速度Vを制御部3からの指令値Eと一致させるよう回転数が制御されるものとされる。
【0022】
次に、溶接電源部2を説明する。溶接電源部2は、送給機構20によるワイヤ電極Bの送給速度V、制御部3が出力する指令値Eに応じた電流値のアークを発生させるようパルス周期が調整される矩形波パルス電流をワイヤ電極Bと板材W1、W2との間に通電する。
【0023】
制御部3は、所定の速度パターンでワイヤ電極Bが送給されるようにサーボモータ30の各時点における回転数を指示する指令値Eを生成し、サーボ回路31および溶接電源装置2に出力する。
【0024】
図2に、溶接装置Aにおけるワイヤ電極Bの送給速度パターンを示す。同図に示すように、溶接装置Aにおいては、破線L1で示す矩形波状の指令値Eが制御部3から出力され、これに僅少の遅れで追随するように実線L2で示す送給速度パターンで、サーボモータ30により駆動される送給機構20によってワイヤ電極Bが送給される。
【0025】
また、同図に点線L3により比較例として、従来のプリントモータによる送給機構を使用したアークスポット溶接装置における同様の指令値Eに対する応答を示す。
【0026】
このように、この実施形態1の溶接装置Aにおいては、送給機構20の駆動源としてサーボモータ30を使用するようにしたので、指令値Eに対する送給速度Vの高い応答性を得ることが可能となり、送給速度Vのスムーズで速い立ち上がりを実現することが可能となる。これによって、溶接開始直後から電流密度の高いアークを安定させて発生させることができ、従来装置におけるアークスタートの遅れを解消することができる。
【0027】
実施形態2
次に、図3を参照して本発明の実施形態2に係るアークスポット溶接方法が適用される溶接装置を説明する。実施形態2の溶接装置は、実施形態1の溶接装置Aにおける送給速度Vの制御態様を改変したものであって、その余の構成は溶接装置Aと同様とされる。以下、改変された部分のみを説明する。
【0028】
すなわち、実施形態2においては、サーボ回路31に、アーク不良が発生しないよう溶接機(トーチ1および溶接電源装置2)の応答性に応じて規定される、送給速度Vの変化割合に対する上限値(以下、単に上限値という)VRLが予め設定されるものとされる。例えば、送給速度Vを8m/分から28m/分に変化させる場合に0.2秒以上必要とすると、送給速度Vの変化割合の上限値は1.7m/秒とされる。
【0029】
サーボ回路31は、指令値Eに対応するサーボモータ30の回転数と図示しないエンコーダにより検出される回転数との差分を演算し、その差分を表す差分信号に基づいて送給速度Vの変化割合が上限値VRLを超えない範囲でサーボモータ30を増速および減速するものとされる。
【0030】
これにより、図3に示すように、実線L4で示すワイヤ電極Bの送給速度パターンは破線L5で示す送給速度Vの変化割合に上限値を設けない場合のパターンと比較して送給速度Vの立ち上がりおよび立ち下がりの傾斜が緩やかなものとなる。
【0031】
このように、実施形態2の溶接装置においては、溶接機の応答性に応じてアーク不良が発生しないようにワイヤ電極Bの送給速度Vの変化割合に上限値が設定されるので、アークスタート時ならびに溶接電流変更時のように送給速度Vが変更される際に、ワイヤ電極Bと溶接部分との接触の発生等を防止して、アーク状態を常に安定な状態に保つことが可能となる。これによって、アークの安定性を維持しつつ溶接施工時間の最小化を図ることができるので、作業効率向上の要求と溶接品質向上の要求とを両立させることが可能となる。
【0032】
実施形態3
次に、図4を参照して本発明の実施形態3に係るアークスポット溶接方法が適用される溶接装置を説明する。実施形態3の溶接装置は、実施形態1および実施形態2の溶接装置における溶接条件の設定態様を改変したものであって、その余の構成は実施形態1および実施形態2と同様とされる。以下、改変された部分のみを説明する。
【0033】
すなわち、図4に実線L6で示すように、実施形態3の溶接装置においては、制御部3によって、溶接開始時のアークスタート時に送給速度Vが水平部分P1で示すように高速(例えば、板材W1、W2の板厚:2.3ミリ・メートル、ワイヤ電極Bの径:1.0ミリ・メートル、である場合、28メートル毎秒)となるように指令値Eが設定されるとともに、溶接開始から所定時間経過後には送給速度Vが水平部分P2で示すように比較的低速(例えば17メートル毎秒)となるように指令値Eが設定される。
【0034】
すなわち、溶接開始直後は一方の板材(鉛直方向上側の板材)W1を貫通する深い溶け込みを短時間で得るよう溶接電流を高く設定し、つまり溶接電流を貫通孔形成電流とし、一方の板材W1が貫通した後はビード外観を整えつつ他方の板材(鉛直方向下側の板材)W2が貫通して溶け落ちが発生するのを防止するよう溶接電流を低く設定する、つまり溶接電流をビード成形電流とするというように溶接条件が溶接開始からの経過時間に応じて切り替えられるものとされる。図5にこのようにして得られたビード断面を模式図で示す。図5中、符号C1はビードを示す。
【0035】
この場合、溶接電流を単純に高電流化すると、図6に示すように、ビードのへこみ(同図(a)参照)やクレータ割れ(同図(b)参照)が発生し、溶接品質が低下するといった問題が生じたり、あるいは溶接される板材間にギャップがある場合には、アンダーフィル(同図(c)参照)やアンダーカット(同図(d)参照)などが発生するという問題が生ずる。図6中、符号W1’,W2’は板材を示し、符号C1’,C2’,C3’,C4’はビードを示す。
【0036】
このように、実施形態3の溶接装置においては、溶接条件が溶接開始からの経過時間に応じて切り替えられるので、1サイクルの溶接期間を例えば溶け込みの形成期間とビードの成形期間とに区分して実施することができ、各期間の役割分担を行うことで作業の高速化と溶接品質の向上との両立をさらに確実なものとすることができる。また、これによって、条件裕度を拡げることができるという効果も得られる。
【0037】
なお、溶接条件を溶接開始からの経過時間に応じて切り替える態様としては、図7に実線L7で示すように、1サイクルの溶接期間を水平部分P11により示される高速域と、水平部分P12により示される中速域と、水平部分P13により示される低速域とに区分するように、溶接条件を3段階に切り替えることも可能である。図8にこのようにして得られたビード断面を模式図で示す。図8中、符号C2はビードを示し、符号W3,W4,W5は板材を示す。
【0038】
また、図9に実線L8で示すように、送給速度Vを水平部分P21により示される高速域と、傾斜部分P22により示される漸減域と、水平部分P23により示される低速域とに区分することも可能である。また、同図に破線L9で示すように、送給速度Vを水平部分P31により示される高速域と傾斜部分P32により示される漸減域とに区分してもよい。このようにすることにより、実線L8に示す場合に比して、送給速度Vの減少に伴ってアークが穏やかに変化する。それにより、溶融池に与える振動が抑えられ溶け落ちが発生しにくいという効果が得られる。
【0039】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、本発明はかかる実施形態のみに限定されるものではなく、種々改変が可能である。例えば、各実施形態では溶接トーチはサーボトーチとされているが、溶接トーチはサーボトーチに限定されるものではなく、応答性のよい各種溶接トーチとすることができる。
【0040】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、溶接開始直後から電流密度の高いアークを安定して発生させて、短時間で深い溶け込みを得ることができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態1に係るアークスポット溶接方法が適用される溶接装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態1の溶接装置におけるワイヤ電極の送給速度パターンを示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施形態2に係る溶接装置におけるワイヤ電極の送給速度パターンを示すグラフ図である。
【図4】本発明の実施形態3に係る溶接装置におけるワイヤ電極の送給速度パターンを示すグラフ図である。
【図5】同実施形態により得られたビード断面の模式図である。
【図6】同実施形態においてワイヤ電極の送給速度を一定とした場合の問題点を示す模式図である。
【図7】同実施形態におけるワイヤ電極の送給速度パターンの他の例を示すグラフ図である。
【図8】図7に示すワイヤ電極の送給速度パターンにより得られたビード断面の模式図である。
【図9】実施形態3におけるワイヤ電極の送給速度パターンのさらに他の例を示すグラフ図である。
【符号の説明】
A    溶接装置
B    ワイヤ電極
C    ビード
E    指令値
L    送給速度パターン
W    板材
1    サーボトーチ
2    溶接電源装置
3    制御部
10   ノズル
20   ワイヤ送給装置
30   サーボモータ

Claims (10)

  1. 消耗電極式アーク溶接法において、応答性のよいワイヤ電極の送給機構を有する溶接トーチを備えたアークスポット溶接装置によるアークスポット溶接方法であって、
    ワイヤ電極の送給速度の指令値を所定パターンに設定し、送給機構を前記指令値により駆動してワイヤ電極の送給をなすことを特徴とするアークスポット溶接方法。
  2. 送給速度の変化割合に上限値が設定されていることを特徴とする請求項1記載のアークスポット溶接方法。
  3. 溶接電流を溶接開始時には貫通孔形成電流とし、その後溶接電流をビード成形電流とすることを特徴とする請求項1記載のアークスポット溶接方法。
  4. 送給速度を段階的に減少させることを特徴とする請求項3記載のアークスポット溶接方法。
  5. 送給速度を漸減させることを特徴とする請求項3記載のアークスポット溶接方法。
  6. 消耗電極式アーク溶接法において、応答性のよいワイヤ電極の送給機構を有する溶接トーチと、溶接電源部と、制御部とを備えたアークスポット溶接装置であって、
    制御部によりワイヤ電極の送給速度の指令値が所定パターンに設定され、前記指令値により送給機構が駆動されてワイヤ電極の送給がなされることを特徴とするアークスポット溶接装置。
  7. 送給速度の変化割合に上限値が設定されてなることを特徴とする請求項6記載のアークスポット溶接装置。
  8. 溶接電流を溶接開始時には貫通孔形成電流とし、その後溶接電流をビード成形電流とすることを特徴とする請求項6記載のアークスポット溶接装置。
  9. 送給速度を段階的に減少させるようされてなることを特徴とする請求項8記載のアークスポット溶接装置。
  10. 送給速度を漸減させるようされてなることを特徴とする請求項8記載のアークスポット溶接装置。
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