JP2004049121A - 臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法、および、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法 - Google Patents

臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法、および、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法 Download PDF

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Abstract

【課題】臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法、および、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法を提供することを課題とする。
【解決手段】38例の肺癌由来細胞株および3例の正常繊維芽細胞株と43例の肺癌臨床検体および6例の正常肺組織よりRNAを調製、蛍光標識後7685種の遺伝子断片を固定化したスライドに対してハイブリダイゼーションを行った。通常行われる階層的クラスタリングを実施した結果、全ての細胞株と臨床検体とはそれぞれ異なるクラスターに分離された。培養細胞株あるいは臨床検体でそれぞれ共通して高発現あるいは発現低下している遺伝子を解析から除外する事により、各病型を反映した遺伝子発現プロファイルが得られるものと考え、これを可能とするフィルタリング法を新たに考え実施した。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法、および、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
肺癌は全世界的に見て男女を問わず癌による死亡原因の第1位の位置を占めており、その数は増加の一途にある。また日本だけを見ても年間に50,000人の命が肺癌により失われている。肺癌は病理学的にはその形態から小細胞性肺癌(small cell lung carcinoma:SCLC)と非小細胞性肺癌(non−small cell lung carcinoma:NSCLC)に分類され、後者はさらに扁平上皮癌(squamous cell carcinoma:SCC)、腺癌(adenocarcinoma:AC)、大細胞性癌(large cell carcinoma:LCC)に分類されている。抗癌剤のスクリーニングには各種癌細胞株が利用されているが、これらの癌細胞株が実際に臨床で薬物療法の対象となる癌の形質をどれだけ忠実に反映しているかは疑問がある。免疫不全動物に移植されたヒト癌細胞はその癌が患者で示していた形質を比較的よく反映している事が形態学的に明らかとされており抗癌剤の開発に幅広く利用されているが、初期段階のHigh Throughputスクリーニングでの利用には患者での癌細胞の形質をよく反映した培養細胞株が望ましい。癌細胞は既に不死化している事から比較的容易に培養細胞株を得る事が可能であるが、一般に培養株化する事によりその形質は大きく変化する事が知られている。これは患者あるいは免疫不全動物への移植継代株での腫瘍の3次元構造が培養系では失われる事、血管内皮細胞、ストローマ細胞等、宿主由来の正常細胞との相互作用が失われる事、逆に培養系での高い酸素分圧(20%)、豊富な栄養(血清とアミノ酸、ビタミン等培地成分)条件等が主たる原因と考えられる。多くの場合に、培養細胞株と腫瘍臨床検体との間の形質の違いについてはあまり注意を払われる事なく利用されており、一般にはNIH等の主導的な研究機関によって選ばれた細胞株パネルを用いたスクリーニングが実施されている。これは初期の他種動物由来細胞株を利用したスクリーニングからすれば格段の進歩であり、特に異なる施設で得られた実験結果を標準化する意味において重要で、実際新薬許認可申請の際には標準化された細胞株を用いた試験結果が求められている。
【0003】
p53やINK4aをはじめとした各種癌抑制遺伝子の変異が腫瘍の原因としてクローズアップされているが、これらの癌抑制遺伝子産物が関与する経路のうち細胞周期のG1期からS期への移行制御の部分はRBとE2Fにより説明されている。これらの癌抑制遺伝子の変異が高頻度に認められるにも関わらず、これらの変異を有する癌細胞と野生型の癌細胞あるいは正常細胞とは通常行われるウシ胎児血清由来増殖因子を含んだ培養系ではその増殖動態において顕著な差を示さない。この事はその変異が高頻度に認められる癌遺伝子Rasの場合にも同様に認められる。これは培養細胞株が常にウシ胎児血清に由来する増殖因子の刺激を受けている事で維持されている事に起因しており、上記癌抑制遺伝子あるいは癌遺伝子の変異の結果活性化される経路がウシ胎児血清により同様に活性化されている為に差を見出す事が困難な為と考えられる。一方で、正常細胞株と腫瘍細胞株との違いに焦点を当てた、足場非依存性増殖、血清要求性、接触阻止(フォーカス形成)、等を指標にした試験も行われているが、操作の煩雑性や結果の定量性の問題から1次スクリーニングとしては不向きである。
【0004】
種々の薬物に対する感受性は細胞株毎に異なる事が経験的に知られており、この為通常既存薬剤に対する反応性が異なる複数種の細胞株が1次スクリーニングに用いられる事が多い。この場合、同じ作用機序の薬剤は類似した感受性パターンを示す事から、この事を利用して未知薬剤の作用機序を類推する方法が提唱されている(COMPARE法:Cancer Res. 1999 Aug 15;59(16):4004−11)。薬剤に対する反応性の違いが個々の細胞株で異なる経路が活性化されている事を反映しているのか、あるいは単に薬物の取り込み、代謝動態の違いを反映して同じ作用機序の薬剤が類似した物理化学的性状から同じ動態を示した結果であるのかは定かではない。COMPARE法で用いられる癌細胞株も前記NIH癌細胞パネルに準ずるものであり、臨床検体腫瘍組織が示す形質を反映したものではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法、および、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは遺伝子発現プロファイルを指標とした各種病型肺癌臨床検体と各種病型肺癌由来細胞株との直接比較を試みた。実際には38例の肺癌由来細胞株および3例の正常繊維芽細胞株と43例の肺癌臨床検体および6例の正常肺組織よりRNAを調製、蛍光標識後7685種の遺伝子断片を固定化したスライドに対してハイブリダイゼーションを行った。通常行われるhierarchical (階層的)クラスタリングを実施した結果、全ての細胞株と臨床検体とはそれぞれ異なるクラスターに分離された。細胞株のクラスターは先に述べた培養系に特有の要因により細胞株に共通した遺伝子発現により形成されたものと考えられ、一方臨床検体クラスターでは腫瘍検体に混在する正常組織の影響を強く受けているものと考えられた。そこで、これら培養細胞株あるいは臨床検体でそれぞれ共通して高発現あるいは発現低下している遺伝子を解析から除外する事により、各病型を反映した遺伝子発現プロファイルが得られるものと考え、これを可能とするフィルタリング法(Binary String Search)を新たに考えた。Binary String Searchにより1919の遺伝子を除去して最終的に4240の遺伝子についてクラスタリングを実施した結果、小細胞性肺癌、扁平上皮癌、腺癌はそれぞれ独立したクラスターに分離された。さらに、小細胞性肺癌由来細胞株の大部分(12/14)と扁平上皮癌由来細胞株の一部(4/8)は夫々の細胞株が由来する病型の臨床検体クラスターに帰属された事からこれらの細胞株はもとの腫瘍の形質をよく保持していると考えられた。
【0007】
次に個々のクラスターで発現上昇している遺伝子について機能別分類を行った結果、以下の事が明らかとなった。1)一般に癌で発現が亢進していると考えられる細胞周期調節、DNA複製に関わる遺伝子の殆どは細胞株あるいは正常肺組織を除く全ての臨床検体で共通して高発現していると考えられ、病型特異的な遺伝子としては選択されなかった。2)小細胞性肺癌のクラスターには多くのneuroendocrineマーカー遺伝子が含まれていた。3)扁平上皮癌のクラスターには種々のケラチン及び細胞障害性化合物(抗腫瘍剤あるいは脂質過酸化物等)の解毒に関与する酵素やトランスポーター類が数多く含まれており、薬剤抵抗性の賦与に寄与していると考えられた。4)腺癌のクラスター中正常肺組織と比べて明らかに発現が亢進しているのは2種の癌胎児抗原関連細胞接着分子(CEACAM:Carcinoembryonic Antigen−related Cell Adhesion Molecule)のみであった。これらの遺伝子のうち、neuroendocrineマーカー、ケラチン、癌胎児抗原関連細胞接着分子はそれぞれ、小細胞性肺癌、扁平上皮癌、腺癌の代表的マーカーとして知られており今回実施したクラスター解析の精度を保証するものと考えられた。
以上の結果から、臨床検体の形質を反映した培養細胞株、および、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子を選別することが可能になった。
【0008】
即ち、本発明は、
〔1〕以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む、臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法、
(a)複数の臨床検体および複数の培養細胞株において、遺伝子の発現レベルを測定する工程
(b)多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する工程
(c)同定された遺伝子を除外した残りの遺伝子について、階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と同一のクラスターに帰属する培養細胞株を同定する工程
〔2〕以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法、
(a)複数の臨床検体および複数の培養細胞株において、遺伝子の発現レベルを測定する工程
(b)多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する工程
(c)同定された遺伝子を除外した残りの遺伝子について、階層的クラスタリングすることにより、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子を同定する工程
〔3〕以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む方法により、多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する、〔1〕または〔2〕に記載の方法、
(a)〔1〕または〔2〕に記載の工程(a)で測定された個々の遺伝子の発現レベルを2進法数値で表現した列からなる比較列(comparison string:CS)を作成する工程
(b)個々の遺伝子について、全ての臨床検体における発現レベルが、全ての培養細胞株における発現レベルに比べて、亢進または低下している状態を2進法数値で表現した列(search string:SS)を作成する工程
(c)CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定する工程
〔4〕以下の(a)〜(d)に記載の工程を含む方法により、CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定する、〔3〕に記載の方法、
(a)個々の遺伝子について、CSとSSの数値が一致する場合と一致しない場合を2進法数値で表現した列(consensus score:CONS)を作成する工程
(b)CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、種々のcut−off値以上である遺伝子を同定し、該遺伝子を除外した残りの遺伝子について階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度を判定する工程
(c)臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となるcut−off値を決定する工程
(d)CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、決定されたcut−off値以上である遺伝子を同定する工程
〔5〕以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む方法により、複数の臨床検体および複数の培養細胞株において遺伝子の発現レベルを測定する、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の方法、
(a)(i)複数の臨床検体および複数の培養細胞株から調製したcRNA試料またはcDNA試料試料、および
(ii)複数の臨床検体が由来する疾患に関連する遺伝子を含む事が期待される多数の遺伝子とハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する工程
(b)工程(a)(i)のcRNA試料またはcDNA試料試料と工程(a)(ii)の基板を接触させる工程
(c)該cRNA試料またはcDNA試料試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する工程
を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法を提供する。該方法においては、まず、複数の臨床検体および複数の培養細胞株において、遺伝子の発現レベルを測定する。次いで、多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する。次いで、同定された遺伝子を除外した残りの遺伝子について、階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と同一のクラスターに帰属する培養細胞株を同定する。
【0010】
ここで、「多くの」とは、全ての臨床検体あるいは全ての培養細胞株のうち、50%〜100%の臨床検体あるいは培養細胞株を意味する。
【0011】
本発明において、「複数の臨床検体および複数の培養細胞株」には、特定の疾患由来の複数個の臨床検体や培養細胞株だけでなく、複数の疾患由来の複数個の臨床検体や培養細胞株も含まれる。特定の疾患由来の複数個の臨床検体や培養細胞株に対し、本発明の方法を適用する場合、複数個の培養細胞株は該疾患のサブタイプ(病型)に応じて分類される。また、複数の疾患由来の複数個の臨床検体や培養細胞株に対し、本発明の方法を適用する場合、複数個の培養細胞株は該疾患のタイプおよびサブタイプに応じて分類される。
【0012】
本発明における遺伝子の発現レベルを測定する方法の一例を以下に述べるが、本発明はその方法に限定されるものではない。本発明における遺伝子の発現レベルを測定するには、まず、複数の臨床検体および複数の培養細胞株から調製したcRNA試料またはcDNA試料、および、複数の臨床検体が由来する疾患に関連する遺伝子を含む事が期待される多数の遺伝子とハイブリダイズするヌクレオチドプローブがが固定された基板を提供する。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料と該基板を接触させる。次いで、該cRNA試料またはcDNA試料試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する。このような方法としては、マイクロアレイ法(SNP遺伝子多型の戦略、松原謙一・榊佳之、中山書店、p128−135)が例示できる。
【0013】
被検者からのcRNA試料やcDNA試料の調製は、当業者に周知の方法で行うことができる。例えば臨床検体および培養細胞株から、mRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294−5299) 、AGPC法 (Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156−159) 等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia社) 等を使用して全RNAからmRNAを精製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia社) を用いることによりmRNAを直接調製することもできる。得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit (生化学工業社)等を用いて行うこともできる。また、cRNAの合成は、実施例に記載の方法で行うことができる。調製したcRNA試料やcDNA試料には、必要に応じて、当業者に周知の方法によって検出のための標識を施すことができる。
【0014】
本発明において「基板」とは、ヌクレオチドを固定することが可能な板状の材料を意味する。本発明においてヌクレオチドには、オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。本発明の基板は、ヌクレオチドを固定することが可能であれば特に制限はないが、一般にDNAアレイ技術で使用される基板を好適に用いることができる。
【0015】
一般にDNAアレイは、高密度に基板にプリントされた何千ものヌクレオチドで構成されている。通常これらのDNAは非透過性(non− porous)の基板の表層にプリントされる。基板の表層は、一般的にはガラスであるが、透過性(porous)の膜、例えばニトロセルロースメンブレムを使用することができる。
【0016】
本発明において、ヌクレオチドの固定(アレイ)方法として、Affymetrix社開発によるオリゴヌクレオチドを基本としたアレイが例示できる。オリゴヌクレオチドのアレイにおいて、オリゴヌクレオチドは通常インサイチュ(in situ)で合成される。例えば、photolithographicの技術(Affymetrix社)等によるオリゴヌクレオチドのインサイチュ合成法が既に知られており、このような技術を本発明の基板の作製に利用することもできる。
【0017】
基板に固定するヌクレオチドプローブは、複数の臨床検体が由来する疾患に関連する遺伝子を含む事が期待される多数の遺伝子と特異的にハイブリダイズするものであれば特に制限されない。ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら,Molecular Cloning,Cold Spring Harbour Laboratory Press,New York,USA,第2版1989に記載の条件)において、複数の臨床検体が由来する疾患に関連する遺伝子を含む事が期待される多数の遺伝子以外の遺伝子とクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。特異的なハイブリダイズが可能であれば、検出するDNAの塩基配列に対し、完全に相補的である必要はない。
【0018】
本発明においては、複数の臨床検体が由来する疾患に関連する遺伝子を含む事が期待される多数の遺伝子には、該疾患に関連することが知られている遺伝子だけでなく、該疾患に関与することが想定される遺伝子、該疾患の細胞で発現している遺伝子、該疾患において特異的な変異が知られている遺伝子などが含まれる。
【0019】
また、本発明のヌクレオチドには、cDNAやオリゴヌクレオチドなどが含まれる。基板に結合するヌクレオチドプローブの長さは、cDNAを固定する場合、通常100〜4000ベースであり、好ましくは200〜4000ベースであり、さらに好ましくは500〜4000ベースである。オリゴヌクレオチドを固定する場合は、通常15〜500ベースであり、好ましくは30〜200ベースであり、さらに好ましくは50〜200ベースである。
【0020】
本発明において、該cRNA試料やcDNA試料と基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの有無または強度を検出する方法としては、例えば、蛍光シグナルをスキャナー等によって読み取ることによって行うことができる。ハイブリダイズの有無または強度を検出することで、該cRNA試料またはcDNA試料に含まれる疾患に関連する遺伝子の発現量を測定する。
【0021】
本発明において、多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する方法としては、特に制限はないが、好ましくはBinary Search Algorithmを利用したBinary String Searchが挙げられる。
【0022】
本発明においてBinary Search Algorithmとは、2進法数値列に変換された多数の検体と遺伝子からなるデータ(CS)と、同様に2進法数値列に変換された理想状態(SS)との相同性の検定を可能とするアルゴリズムを意味する。また、Binary String Searchとは、該Binary Search Algorithmに則った検索を意味する。
【0023】
Binary String Searchでは、まず、個々の遺伝子の発現レベルを2進法数値で表現した列(Binary String)からなる比較列(comparison string:CS)を作成する。本発明において、2進法数値は特定の数値に限られるものではないが、通常、0と1を使用する。
【0024】
個々の遺伝子の発現レベルをBinary StringからなるCSを作成する具体的な方法としては、例えば、個々の遺伝子について全ての検体での発現レベルの平均値を求め、個々の検体における個々の遺伝子の発現レベルが該平均値よりも高い場合に「1」、低い場合に「0」の値を与える事により、決まった検体の順序に従ったBinary StringからなるCSを作成する。
【0025】
上記平均値を求める方法としては、個々の遺伝子についてシグナル強度の平均値を1.0に標準化して行う変法、および、同一検体を複数回測定した後にt−検定により複数回の測定の平均値が有意に全ての検体の平均値1.0と異なるかの判定を行うことによっても実施できる。この場合「1」あるいは「0」の値は有意に異なる場合にのみ与えられ、有意差を示さないものには、例えば「N」を与える。Nで表現された遺伝子については、下記クラスタリングの対象とすることができる。
【0026】
Binary String Searchでは、次いで、個々の遺伝子について、全ての臨床検体における発現レベルが、全ての培養細胞株における発現レベルに比べて、亢進または低下している状態(理想状態)を2進法数値で表現した列(search string:SS)を作成する。より詳細には、例えば、個々の遺伝子について、全ての臨床検体における発現レベルが、全ての培養細胞株における発現レベルに比べて、亢進している場合に「1」、低下している場合に「0」の値を与える。Binary String Searchでは、次いで、CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定する。
【0027】
以下に、CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定する方法の一例を述べるが、この方法に限定されるものではない。
【0028】
該方法においては、まず、個々の遺伝子について、CSとSSの数値が一致する場合と一致しない場合を2進法数値で表現した列(consensus score:CONS)を作成する。例えば、一致する場合に「1」、一致しない場合に「0」の値を与える。次いで、CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、種々のcut−off値以上である遺伝子を同定し、該遺伝子を除外した残りの遺伝子について階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度を判定する。
【0029】
階層的クラスタリングにおいては、一般に2次元クラスタリング法が用いられ、多数サンプルに対する個々の遺伝子の発現プロファイルが順序付けられる (Iyer et al., 1999; Golub et al 1999; Hughes et al 2000)。これらクラスタリングの方法は階層的であり、結果として最も類似した遺伝子発現プロファイルを持つサンプル同士は1つの軸に整列化され、また最も類似したサンプル発現プロファイルをもつ遺伝子は他方の軸上に整列化されることになる。このような方法は、例えばGeneSpring(Silicon Genetics社)を使用して実施することができるが、これに限定されるものではない。
【0030】
また、本発明において、cut−off値とは、CSとSSの相同性を検定する際のstringencyを規定する変数を指す。該cut−off値はarbitraryな値であり、0から1(0%から100%)の間の値を示す。cut−off値を1とした場合にはCSとSSが完全に一致する遺伝子のみが選択され、0とした場合には全ての遺伝子が選択される。
【0031】
また、本発明において、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度とは、特定疾患由来の培養細胞株がその由来する疾患の臨床検体により形成されるクラスターに帰属する度合いを意味する。その判定は、例えば特定疾患由来とされる培養細胞株のうち特定疾患クラスターに帰属する培養細胞株の数を目視により求める事で行うことができる。
【0032】
CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定するには、次いで、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となるcut−off値を決定する。ここで、除外される遺伝子の数とは、CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、cut−off値以上である遺伝子の数を意味する。次いで、CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、決定されたcut−off値以上である遺伝子を同定する。
【0033】
本発明においては、さらに以下の操作を行ってもよい。例えば、決定されたcut−off値を利用することにより同定された遺伝子について、階層的クラスタリングを実施して、全ての臨床検体に共通した発現レベルを示すクラスターまたは全ての培養細胞株に共通した発現レベルを示すクラスターから分離されたクラスターを形成する遺伝子を同定する。本発明においては、このような遺伝子は、多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子には該当しないものと判定し、決定されたcut−off値を利用することにより同定された遺伝子から、該遺伝子以外の遺伝子を選択する。
【0034】
本発明の方法においては、発現レベルを測定した遺伝子から、多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を除外した残りの遺伝子について、階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と同一のクラスターに帰属する培養細胞株を同定する。
【0035】
本発明の方法を使用することにより、培養細胞株の該培養細胞株が由来する疾患分類への正確な帰属が可能となる。また、本法を用いて選別した培養細胞株は新規薬剤のスクリーニングや既存薬剤の組み合わせによる効果の判定等に有効に用いる事ができる。
【0036】
また、本発明の方法においては、臨床検体と同一のクラスターに帰属する培養細胞株が同定されると共に、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子(各疾患のクラスターに特異的な発現変化を示す遺伝子)もまた同定される。本発明は、このような遺伝子の選別方法もまた提供するものである。
【0037】
本発明において、各疾患のクラスターに特異的な発現変化を示す遺伝子の同定は、目視によって行うことも可能であるが、Binary Search Algorithmの応用によっても可能である。例えば特定の疾患に由来する検体(臨床検体および培養細胞株)で「1」、該疾患以外の疾患に由来する検体で「0」のstringを理想状態として、この理想状態と相同なパターンを示す遺伝子を種々のcut−off値を用いて検索することが可能である。
【0038】
該方法により選別される遺伝子の中には疾患に直接関与している可能性が示唆されるものも含まれる。そのような遺伝子については、遺伝子導入やノックアウト、アンチセンス、リボザイム、RNAiさらにはドミナントネガティブ体の強制発現等の手法を用いて、疾患への関与を調査することができる。さらに選択された遺伝子を利用することで疾患に対する治療剤のスクリーニングが可能になるものと考えられる。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例により、さらに具体的に説明するが本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
[実施例1] アレイスライドの作成
スライドグラスに貼り付ける7685遺伝子のうち6734はResearch Genetics社より購入したIMAGEクローン、699は癌への関与が知られた、あるいは想定される中外所有のクローンに由来し、残る252は陰性コントロールとして加えた(Alu配列、ルシフェラーゼ等)ものでデータ解析からは除外した。スライド作成はHegde,P.等の方法(Cancer Res. (2001) 61: 7792−7797)に準じて行い、Microgrid II (BioRobotics社製)を用いて1枚のスライドに7685遺伝子をduplicateで貼り付けた。
【0040】
[実施例2] プローブの調製、ハイブリダイゼーション及び測定
38株のヒト肺癌由来細胞株、3株の正常ヒト繊維芽細胞株(表1)、43例の各種病型肺癌臨床検体および6例の正常肺組織(表2)を材料とした。
【0041】
【表1】
Figure 2004049121
【0042】
【表2】
Figure 2004049121
【0043】
臨床検体は(財)癌研究会癌研究所にて患者のinformed consentおよび倫理委員会の承認のもとで外科的摘除時に採取したものである。レファレンスサンプルとしては可能な限り多くの遺伝子について情報が得られる事を考慮して、20%の正常肺組織にNCI−H226、NCI−H522、EKVX、NCI−H460、Lu−134A、MRC5、SQ5、H23、PC14、MS1の10種の細胞株を夫々8%ずつ加えたものを用いた。全ての細胞株はRNAlater (Ambion社製)を用いて細胞浮遊液とした。臨床検体はRNAの分解を最小限にすべく採取後液体窒素にて瞬時に凍結せしめた。Isogen(ニッポンジーン社製)を用いてRNAを抽出後、Luo, L.等の方法(Nat. Med. (1999) 5 : 117−122)に従ってcRNA合成を行った。プローブ合成はHughes, TR等の方法(Nat. Biotechnol.(2001) 19 : 342−347)に従って2ugのcRNAを鋳型として行った。レファレンスサンプルはCy3にてテストサンプルはCy5にて蛍光標識した。ハイブリダイゼーションとその後の洗浄はHegde, P.等の方法(前出)に従った。ハイブリダイズしたシグナルの測定と定量はScannarray 4000スキャナーとQuantarray (何れもPackard Bioscience社製)を用いて行った。
【0044】
[実施例3] データ解析
全てのcRNAサンプルはduplicateにて蛍光標識を行った。標識後のプローブを7685個のDNAスポットがduplicateで貼り付けてあるスライドにハイブリダイズさせる事により、個々の遺伝子について4回の独立した測定を行った。スポットした7685 element中252はcontrolとして加えたもの(Luciferase、Alu等)で残る7433のうち6384は5622個のUniGeneクラスターに相当し、1049はUniGeneクラスターに一致しない事から全体で6671個のユニークな遺伝子がスポットされている事になる。さらに初期の検討結果から、このうち285は全ての臨床検体・細胞株を含めた異なる検体間で同様な発現パターンを示した事から以後の解析から除外した。この初期フィルタリングの結果、6386のユニークな遺伝子が以下の解析の対象として残った(図1)。1回のアレイ実験内でのデータの標準化はlowess normalization法(Nucleic Acid Res. (2002), 30 : e15)に準拠し、標準化されたシグナル強度をレファレンスサンプルのシグナル強度で割る事により値を得た後に、Tseng等のプログラム(Nucleic Acid Res.(2001), 29 : 2549−2557)を用いてCV値が96%信頼区間から外れるデータをoutlierとして以後の解析から除外した。得られたデータセットはGeneSpring(Silicon Genetics社製)を用いてクラスター解析、視覚化を行った(図2)。腫瘍臨床検体と細胞株のデータの直接比較をした場合に異なる病型に関わらず臨床検体に共通して高い発現を示す遺伝子、逆に細胞株に共通して高い発現を示す遺伝子が認められた。これらの遺伝子を選別する目的でBinary Search Algorithmを新たに考えた。すなはち、個々の遺伝子について全てのサンプルでのシグナルの平均値を求めこれより高い値を示すものに”1”、低い値を示すものに”0”の値を与える事により個々のサンプルのプロファイルをBinary Stringsとして表現した。これをideal state(臨床検体で全て”1”/細胞株で全て”0”あるいはその逆)のstringと比較して66%以上のサンプルで”1”の場合、”overexpressed”、66%以上のサンプルで”0”の場合、”underexpressed”とした。この処理により6386のユニークな遺伝子中2218が臨床検体で細胞株と比較して発現が高い(1313)あるいは低い(905)ものとして選別された(図3)。さらにこれら2218遺伝子のクラスタリングの結果を目で見て確認した結果、299の遺伝子は臨床検体と細胞株間で際立った発現の差を認めなかった事から残る1919を以下の検討からは除去する事とした(図4)。全てのフィルタリングの結果最終的に4240の遺伝子が解析の対象として残った。Hierarchical clusteringの結果(図5、図6)、90の検体(肺癌臨床検体43、正常肺臨床検体6、肺癌細胞株38、正常胎児繊維芽細胞株3)は4つの大きなbranchに分かれた(表3)。
【0045】
【表3】
Figure 2004049121
SCLCは小細胞性肺癌、SCCは扁平上皮癌、NSCLCは非小細胞性肺癌、ACは腺癌、LCCは大細胞性癌を示す。また、*は、非小細胞性肺癌由来細胞株(病型分類不明)を示す。
【0046】
Branch 1は殆ど全ての小細胞性肺癌由来細胞株と全ての小細胞性肺癌とカルチノイドの臨床検体を含む。Branch 2には扁平上皮癌の臨床検体と細胞株が多く含まれ、Branch 3は細胞株のbranchで胎児由来正常繊維芽細胞株は全てこのbranchに含まれる。Branch 4には全ての腺癌、大細胞癌と正常肺の臨床検体が含まれる。2株の非小細胞性肺癌由来細胞株(病型分類不明)は上記4つのbranchからは独立したbranchを形成している。Binary Search Algorithmを適用して、細胞株全般に固有の遺伝子発現プロファイルおよび臨床検体全般に固有の遺伝子発現プロファイルを除去する事により、それまで困難であった臨床検体と細胞株を直接比較する事が可能となった。特に小細胞性肺癌由来細胞株の大部分(11/13)と扁平上皮癌由来細胞株の一部(4/8)は夫々の細胞株が由来する病型の臨床検体クラスターに帰属された事からこれらの細胞株はもとの腫瘍の形質をよく保持していると考えられた。腺癌については今回実施したフィルタリング・クラスタリングでは正常肺組織との分離が不充分でかつ腺癌由来細胞株の帰属は得られなかった(0/11)。この理由として、腺癌臨床検体が異なる分化度の症例からなっており、正常肺組織の混入度が高い為正常肺組織とのクラスター分離が不充分であったと考えられる一方、腺癌由来細胞株は由来する癌組織中の最も未分化な細胞が株化の過程で選択された事によると考えられた。
【0047】
以下に、各種病型肺癌で病型特異的に発現変化を示す遺伝子一覧を示す。
(1)正常肺組織で高発現していて癌化で低下するもの(表4)
【表4】
Figure 2004049121
【0048】
(2)小細胞性肺癌で高発現を示すもの(表5)
【表5】
Figure 2004049121
【0049】
(3)扁平上皮癌で高発現を示すもの(表6)
【表6】
Figure 2004049121
【0050】
(4)カルチノイドで高発現を示すもの(表7)
【表7】
Figure 2004049121
【0051】
(5)腺癌および正常肺組織で高発現を示すもの(表8)
【表8】
Figure 2004049121
【0052】
[実施例4] 個々のクラスターで発現上昇している遺伝子についての機能別分類
次に個々のクラスターで発現上昇している遺伝子について機能別分類を行った結果、以下の事が明らかとなった。1)一般に癌で発現が亢進していると考えられる細胞周期調節、DNA複製に関わる遺伝子の殆どは細胞株あるいは正常肺組織を除く全ての臨床検体で共通して高発現していると考えられ、病型特異的な遺伝子としては選択されなかった。2)小細胞性肺癌のクラスターには多くのneuroendocrineマーカー遺伝子が含まれていた。3)扁平上皮癌のクラスターには種々のケラチン及び細胞障害性化合物(抗腫瘍剤あるいは脂質過酸化物等)の解毒に関与する酵素やトランスポーター類が数多く含まれており、薬剤抵抗性の賦与に寄与していると考えられた。4)腺癌のクラスター中正常肺組織と比べて明らかに発現が亢進しているのは2種の癌胎児抗原関連細胞接着分子(CEACAM:Carcinoembryonic Antigen−related Cell Adhesion Molecule)のみであった。これらの遺伝子のうち、neuroendocrineマーカー、ケラチン、癌胎児抗原関連細胞接着分子はそれぞれ、小細胞性肺癌、扁平上皮癌、腺癌の代表的マーカーとして知られており今回実施したクラスター解析の精度を保証するものと考えられた。
【0053】
以上の結果から、今回開発したフィルタリング法を採用する事によりこれまで困難であった肺癌由来培養細胞株のその細胞株が由来する病型分類への正確な帰属が可能となった。本法を用いて選別した細胞株は新規抗癌剤のスクリーニングや既存薬剤の組み合わせによる効果の判定等に有効に用いる事ができる。効果判定の指標としては通常行われる放射性チミジンの取り込みやMTTアッセイ等によりハイスループットスクリーニングの実施が可能である一方、被検薬剤を作用させた時の遺伝子発現プロファイルの変化を解析する事により、より詳細な薬効の予測が可能であり、場合によっては被検薬剤の効果の指標として利用可能なsurrogate markerを見出す事も可能と考える。また得られたクラスターで特異的に発現が変化している遺伝子の中には癌化に直接関与している可能性が示唆されるものも含まれる。これらの遺伝子の癌化への関与は遺伝子導入やノックアウト、アンチセンス、リボザイム、RNAiさらにはドミナントネガティブ体の強制発現等の手法を選別された細胞株に対して実施する事により検討することができる。さらに得られたクラスターで特異的に発現が変化している遺伝子の中には低分子化合物の利用に関わる蛋白質をコードするものがある。一例として小細胞性肺癌のクラスターで発現上昇しているDeoxycitidine Kinase(dCK)はdeoxycitidineをリン酸化してdCTPの合成に関わる酵素であるが、cytosine arabinoside (Ara−C)感受性はdCKの発現に依存している事が知られている。実際deoxycitidineのdi−fluoro誘導体であるgemcitabine (dFdC)が小細胞性肺癌に有効である事が報告されている(Biochemical Pharmacology, 61, 2001 : 1401−1408)。選別された細胞株はこれら低分子化合物の効果を判定するうえで有用である。
【0054】
【発明の効果】
本発明の方法を使用することにより、培養細胞株の該培養細胞株が由来する疾患分類への正確な帰属が可能となる。また、本発明の方法を用いて選別した培養細胞株は新規薬剤のスクリーニングや既存薬剤の組み合わせによる効果の判定等に有効に用いる事ができる。また、本発明の方法を用いて選別した遺伝子を利用することで疾患に対する治療剤のスクリーニングが可能になるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】6386の遺伝子の2次元階層的クラスター化の樹状図を示す写真である。タイプに応じて着色された標本が、左側に示され、赤はAC、緑はSCC、紫は正常、青はSCLC、黒はLCC; オレンジ色はカルチノイド、茶色は線維芽細胞、ピンクはNSLCを表わしている。各欄は、特定の遺伝子を表わす。正方形は、4つの複製にわたる対数平均発現比率に従って着色されている。基準標本との関係において、赤は1より大きい発現比率(過剰発現)、緑は1未満(過小発現)、黒はほぼ1に等しい比率(発現変化無し)を表わしている。
【図2】本文中に記述されているように統計的にろ過することによって得られた細胞系統中の5255の遺伝子の2次元階層的クラスター化の樹状図を示す写真である。タイプに応じて着色された標本が左側に示され、赤はAC、緑はSCC、青はSCLC、茶色は線維芽細胞、ピンクはNSLCを表わしている。各欄は、特定の遺伝子を表わす。正方形は4つの複製にわたる対数平均発現比率に従って着色されている。基準標本との関係において、赤は1より大きい発現比率(過剰発現)、緑は1未満(過小発現)、黒はほぼ1に等しい比率(発現変化無し)を表わしている。
【図3】腫瘍及び細胞系統の間で示差的に調節された遺伝子の同定を示す図および写真である。(A)新鮮な標本に比べ細胞系統標本内で一般に過剰発現された905の遺伝子及び(B)新鮮な標本に比べて細胞系統標本中で一般に過小発現された1313の遺伝子についての全ての標本にわたる発現変化。(C)新鮮な標本と細胞系統標本の間で示差的に調節されている1919の遺伝子の2次元階層的クラスター化。左側の樹状図は、細胞系統標本と新鮮な標本のクラスター化を示す。分岐色は、図1に示されたとおりである。上部樹状図は、遺伝子のクラスター化を示している。
【図4】新鮮な標本と細胞系統標本の間で示差的に調節されるBinary Search Algorithmによって選択され2218の遺伝子の2次元階層的クラスター化の樹状図を示す写真である。左側の樹状図は、細胞系統標本と新鮮な標本のクラスター化を示す。上部樹状図は、遺伝子のクラスター化を示す。新鮮な標本中でアップレギュレートされた遺伝子は右に向かってクラスター化している状態で示され、細胞系統標本中でアップレギュレートされた遺伝子は、左に向かってクラスター化している状態で示されている。主要データセットに内含させるのに、新鮮な標本と細胞系統標本の間で著しい対比を示さない遺伝子分岐(合計299)が選定された。
【図5】新鮮な標本又は細胞系統標本内の一般的に調節された遺伝子についてろ過した後の4240の遺伝子の削減されたデータセットの樹状図を示す写真である。標本は、図1の場合と同様に着色されている。左側に示されたグループは、特定の癌腫タイプの全く異なるクラスターを表わす。cl:細胞系統標本; fr:新鮮な腫瘍標本。
【図6】全く異なる発現パターンを示す、図5からの8つの選択された遺伝子クラスターの全ての標本にわたる発現プロファイルを示す写真である。図5からの樹状図及び強調されたクラスターは、参考として底部に沿って及び個々の遺伝子クラスターの間に示されている。(A)カルチノイド内でアップレギュレートされた遺伝子。(B)正常組織内でアップレギュレートされた遺伝子。(C)AC及びLCC内でアップレギュレートされた遺伝子。(D〜E)SCC内でアップレギュレートされた遺伝子。(F〜H)SCLC内でアップレギュレートされた遺伝子。

Claims (5)

  1. 以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む、臨床検体の形質を反映した培養細胞株の選別方法。
    (a)複数の臨床検体および複数の培養細胞株において、遺伝子の発現レベルを測定する工程
    (b)多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する工程
    (c)同定された遺伝子を除外した残りの遺伝子について、階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と同一のクラスターに帰属する培養細胞株を同定する工程
  2. 以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子の選別方法。
    (a)複数の臨床検体および複数の培養細胞株において、遺伝子の発現レベルを測定する工程
    (b)多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する工程
    (c)同定された遺伝子を除外した残りの遺伝子について、階層的クラスタリングすることにより、臨床検体が由来する疾患に特異的な遺伝子を同定する工程
  3. 以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む方法により、多くの臨床検体あるいは多くの培養細胞株に共通して発現レベルが亢進または低下している遺伝子を同定する、請求項1または2に記載の方法。
    (a)請求項1または2に記載の工程(a)で測定された個々の遺伝子の発現レベルを2進法数値で表現した列からなる比較列(comparison string:CS)を作成する工程
    (b)個々の遺伝子について、全ての臨床検体における発現レベルが、全ての培養細胞株における発現レベルに比べて、亢進または低下している状態を2進法数値で表現した列(search string:SS)を作成する工程
    (c)CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定する工程
  4. 以下の(a)〜(d)に記載の工程を含む方法により、CSとSSの数値が一致する割合が、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となる値以上を示す遺伝子を同定する、請求項3に記載の方法。
    (a)個々の遺伝子について、CSとSSの数値が一致する場合と一致しない場合を2進法数値で表現した列(consensus score:CONS)を作成する工程
    (b)CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、種々のcut−off値以上である遺伝子を同定し、該遺伝子を除外した残りの遺伝子について階層的クラスタリングすることにより、臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度を判定する工程
    (c)臨床検体と培養細胞株の同一クラスターへの帰属度が最大でかつ除外される遺伝子の数が最小となるcut−off値を決定する工程
    (d)CONSにおける数値のうち、CSとSSの数値が一致することを示した数値の割合が、決定されたcut−off値以上である遺伝子を同定する工程
  5. 以下の(a)〜(c)に記載の工程を含む方法により、複数の臨床検体および複数の培養細胞株において遺伝子の発現レベルを測定する、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
    (a)(i)複数の臨床検体および複数の培養細胞株から調製したcRNA試料またはcDNA試料試料、および
    (ii)複数の臨床検体が由来する疾患に関連する遺伝子を含む事が期待される多数の遺伝子とハイブリダイズするヌクレオチドプローブが固定された基板、を提供する工程
    (b)工程(a)(i)のcRNA試料またはcDNA試料試料と工程(a)(ii)の基板を接触させる工程
    (c)該cRNA試料またはcDNA試料試料と該基板に固定されたヌクレオチドプローブとのハイブリダイズの強度を検出する工程
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