JP2004044556A - ガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】遮熱コーティングにあたりガスタービン翼壁の冷却効率を高めて長い熱サイクル寿命を有する遮熱コーティングを施せるガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置を提供すること。
【解決手段】ガスタービンの動翼1の内部に、冷却通路を形成する。そして、この動翼を回転テーブル2上に設置する。次に、この回転テーブル2から動翼1の冷却通路に冷却媒体である空気を流し込み、ガスタービン翼壁1を内部から冷却しつつ、溶射ガン3を用いてガスタービン翼壁1の表面に溶射材料であるセラミックスを溶射して遮熱コーティングを施工する。
【選択図】 図1
【解決手段】ガスタービンの動翼1の内部に、冷却通路を形成する。そして、この動翼を回転テーブル2上に設置する。次に、この回転テーブル2から動翼1の冷却通路に冷却媒体である空気を流し込み、ガスタービン翼壁1を内部から冷却しつつ、溶射ガン3を用いてガスタービン翼壁1の表面に溶射材料であるセラミックスを溶射して遮熱コーティングを施工する。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ガスタービン翼壁の製造方法に関し、更に詳しくは、遮熱コーティングにあたりガスタービン翼壁の冷却効率を高めて長い熱サイクル寿命を有する遮熱コーティングを施せるガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高温条件下で使用されるガスタービンの動翼、静翼、分割環等には、遮熱コーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)が施工される。ここでは、ガスタービンの動翼をその一例として説明する。図6は、従来のガスタービン動翼の製造方法を示す斜視図である。動翼100の製造方法では、動翼100を回転テーブル101上に設置し、溶射ガン102により動翼100の表面に遮熱コーティングを施す。この遮熱コーティングの施工は、セラミックス粉末等の溶射材料を、溶射ガン102を用いて動翼100の表面にプラズマ溶射して行われる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、遮熱コーティングの施工中には、母材である動翼100がプラズマによって徐々に高温化するが、この施工中における母材温度をある臨界温度以下に管理することで、高い熱サイクル寿命が得られることが知られている。このため、従来の施工方法では母材温度を低く保つために、溶射ガン102の側方に冷却空気の吹出口(図示省略)を設け、冷却空気を動翼100表面に吹き付けて冷却しつつ溶射材料を溶射していた。しかしながら、かかる従来の施工方法では、溶射材料と冷却空気との両方を動翼100表面から吹き付けていたため、冷却空気の温度が上昇して動翼100を十分に冷却できないという問題点があった。
【0004】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遮熱コーティングにあたりガスタービン翼壁の冷却効率を高めて長い熱サイクル寿命を有する遮熱コーティングを施せるガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法は、ガスタービンの動翼、静翼、分割環その他のガスタービン翼壁の内部に形成した冷却通路に、空気、不活性ガスその他の冷却媒体を流して前記ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ、前記ガスタービン翼壁の表面にセラミックスその他の溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する。
【0006】
この発明では、ガスタービン翼壁の内部に冷却通路を形成して、この冷却通路に冷却媒体を流し、ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ遮熱コーティングを施す。これにより、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けつつ遮熱コーティングを施す従来技術と比較して、母材であるガスタービン翼壁を効果的に冷却できるので、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施せる。なお、冷却通路には、ガスタービン翼壁が有する既設の冷却溝を用いてもよいし、新たに設けた通路を用いてもよい。また、溶射材料には、YSZ、YbSZ等が含まれる。
【0007】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法は、上記ガスタービン翼壁の製造方法において、さらに、前記冷却通路にて前記ガスタービン翼壁を冷却した後の前記冷却媒体を、前記溶射材料の溶射にあたり、前記ガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴出させる。
【0008】
この発明では、溶射材料を溶射するときに、冷却媒体をガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴き出させる。これにより、溶射材料によるフィルム冷却孔の詰まりを抑止できるので、フィルム冷却孔のマスキング作業や、孔詰まりの手入れ作業を省略できる。
【0009】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法は、上記ガスタービン翼壁の製造方法において、前記ガスタービン翼壁を、前記遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、前記ガスタービン翼壁に前記溶射材料を溶射する。
【0010】
この発明では、ガスタービン翼壁を遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、ガスタービン翼壁に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する。これにより、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施工できる。なお、この発明において、臨界温度とは、施工した遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する温度をいう。発明者らの研究によれば、熱サイクル寿命は、母材(ガスタービン翼壁)の温度が一定の温度に達するまではほぼ横這い状態にあるが、この温度を越えたあたりから徐々に短くなってその後急激に低下するという特性を有する。そこで、この熱サイクル寿命が急低下する付近の温度を臨界温度として定め、母材温度のこの臨界温度以下に保持しつつ遮熱コーティングを施工することとした。ただし、この臨界温度は、溶射材料や母材の材質、溶射材料の温度、溶射コーティング層の厚さその他の溶射条件により変化するので、当業者自明の範囲内で適宜選択して変更することが好ましい。
【0011】
また、この発明にかかる溶射装置は、ガスタービンの動翼、静翼、分割環その他のガスタービン翼壁を設置できると共に、当該ガスタービン翼壁の内部に形成した冷却通路に、空気、不活性ガスその他の冷却媒体を流し込むテーブルと、前記ガスタービン翼壁の表面にセラミックスその他の溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する溶射ガンとを含む。
【0012】
この発明において、テーブルは、設置されたガスタービン翼壁内部の冷却通路に冷却媒体を流し込む。そして、溶射ガンは、このガスタービン翼壁の表面に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する。これにより、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けて冷却する従来の溶射装置と比較して、ガスタービン翼壁を効果的に冷却しつつ、遮熱コーティングを施工できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のものが含まれる。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態にかかるガスタービン翼壁の製造方法の一例を示す断面図である。図1において、動翼1は、回転テーブル2上に設置され、溶射ガン3を用いて表面に遮熱コーティングを施される。ここで、動翼1は、ガスタービン稼働時にて高温の燃焼ガスにさらされるため、内部に冷却空気を通す冷却溝(図示省略)を有し、また、この冷却溝から表面に引き出した多数のフィルム冷却孔(図示省略)を有する。なお、これらの冷却溝やフィルム冷却孔は、ガスタービン稼働時にて動翼1を冷却するために既設されたものである。また、回転テーブル2は、その上部に冷却空気を吹き出すノズル(図示省略)を備え、遮熱コーティングの施工時にてこのノズルから動翼1の冷却溝に冷却空気を供給する。また、溶射ガン3は、溶射材料であるセラミックスの粉末を溶射ガン3のプラズマにて溶融させ、動翼1の表面に吹き付けて薄い膜を形成する。これにより、動翼1の表面に遮熱コーティングが施され、動翼1の耐熱性が向上する。
【0015】
この実施の形態において、冷却空気は、回転テーブル2内の吹出口から動翼1の冷却溝に吹き込まれて動翼1を内部から冷却する。これにより、遮熱コーティングの施工中における動翼1の温度上昇が抑制されて、動翼1が低温に保持される。また、冷却空気は、フィルム冷却孔を通って冷却溝から動翼1の外部に噴き出し、溶射材料によるフィルム冷却孔の目詰まりを抑制する。
【0016】
ここで、発明者らの研究によれば、施工中における動翼1の温度(母材温度)と熱サイクル寿命との間には、一定の関係がある。図2は、これらの関係の一例を示すグラフである。同図に示すように、熱サイクル寿命は、母材温度が250度付近までは安定したほぼ横這い状態にあるが、250度から300度までの間に徐々に低下し始め、300度を超えたあたりから急激に低下する。したがって、この場合の遮熱コーティングは、母材温度を300度以下に保持しつつ施工することが好ましい。また、母材温度を250度以下に保持すれば、より熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施工できる利点がある。また、このように、施工中における母材温度は、熱サイクル寿命に対する臨界値(臨界温度)を有し、且つ、この臨界温度は実験等により測定が可能である。ただし、臨界温度は、溶射材料や母材の材質、溶射材料の温度、コーティング層の厚さその他の溶射条件、および必要な熱サイクル寿命と使用環境にもよるので、当業者自明の範囲内で適宜この臨界温度を計測して用いることが好ましい。なお、このグラフは、溶射材料にYSZ(イットリア・スタビライズド・ジルコニア)セラミックスを使ったときの実験結果である。
【0017】
この実施の形態によれば、母材である動翼1を内部から冷却するので、冷却空気を動翼1の表面から吹き付けつつ遮熱コーティングを施す従来技術と比較して、高温の溶射材料の影響を受けることなく母材1を効果的に冷却できる。これにより、母材温度を臨界温度以下に適切に管理して、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを効率的に施せる利点がある。また、母材1を効果的に冷却できる結果、遮熱コーティングに後述する柱状組織を効率的に形成できる利点もある。かかる遮熱コーティングは熱サイクル寿命が長く、耐熱性にも優れることが従来から知られている。以下、この柱状組織について説明する。
【0018】
図3(a)は、通常の遮熱コーティングを示す拡大側面断面図であり、図3(b)は、柱状組織を有する遮熱コーティングを示す拡大側面断面図である。遮熱コーティングは、母材である動翼1の表面10に、金属材料からなるアンダーコート11を施し、その上から溶射材料であるセラミックス粉末を溶射してセラミックス層12を形成する。なお、図中の符号13は、セラミックス層12に生じた気孔である。ここで、通常の遮熱コーティングでは、セラミックス層12が溶融して横方向に結合する(図3(a)参照)。しかし、セラミックス層12の熱膨張係数は、金属材料からなる動翼1やアンダーコート11よりも小さい。このため、ガスタービン稼働時にて動翼1が熱膨張したときに、セラミックス層12に横方向への大きな熱応力が生じ、セラミックス層12が歪んでその表面に亀裂や剥離が生じるという問題があった。一方、柱状組織を有する遮熱コーティングでは、セラミックス層14に生じた縦割れにより、動翼1の表面10に柱状の組織が形成される(図3(b)参照)。かかる柱状組織は、ガスタービン稼働時にて動翼1が熱膨張しても、セラミックス層14が横方向に割れ広がって歪みを柔軟に吸収する。このため、かかる柱状組織を有する動翼1は、熱サイクル寿命が非常に長いという特徴がある。
【0019】
この柱状組織は、母材(動翼1)に溶射された溶射材料が、母材1の表面温度にて急冷され、溶射材料に引っ張り応力が作用して縦割れが生ずることで形成される。このため、かかる柱状組織を形成するには溶射材料と母材1との間に大きな温度差をつくる必要があり、この温度差が大きいほど有効な柱状組織を効率的に形成できる。そこで、従来の施工方法では、溶射ガン102を母材1に近づけて高温の溶射材料を母材1に溶射すると共に、冷却空気を外部から近距離で母材1に吹き付け、これにより、母材1の冷却効率を高めていた。しかしながら、かかる従来の施工方法では、母材1の表面よりも、むしろセラミック層14の方が冷却され易い。そして、柱状組織を効率的に形成するには、セラミック層14の温度を高くして組織を緻密化し、ヤング率を大きくしてセラミック層14に引っ張り応力が生じ易い状態(縦割れが生じ易い状態)とすることが好ましい。したがって、従来の施工方法では、母材1を効果的に冷却できないばかりか、セラミックスの緻密化の阻害により、柱状組織の効率的な形成が困難であるという問題点があった。一方、冷却なしに縦割れ形成を行おうとすると、通常、溶射距離を極端に近づけるなどして母材表面温度の上昇を図る関係上、部品の所定膜厚分を施工している間に、表面だけでなく、部分全体を過熱することにつながる。すると、結果的に縦割れ施工は行えたものの、冷却後にセラミック層に生じた圧縮残留応力のために期待する耐久性が得られないこととなる。この点において、この実施の形態にかかる施工方法によれば、母材1を内部から冷却するので、従来の施工方法と比較して、セラミック層14を高い温度に維持しつつ、母材表面10を適切に冷却できるので、母材の過熱を避けながらセラミック層に柱状組織を効率的に形成できる利点がある。
【0020】
また、図4は、セラミック層の温度と、セラミック層に生ずる応力との関係を示すグラフであり、図5は、母材の温度に対するセラミック層の状態を示す側面断面図である。図4において、実線グラフ(▲1▼→▲2▼→▲3▼)は、母材の温度TMが遮熱コーティングの施工中にて変化しない場合におけるセラミック層14中の熱応力を示し、破線グラフ(▲1▼→▲2▼’→▲3▼’)は、母材1の表面温度が遮熱コーティングの施工中にて予熱温度TM1から温度TM2に上昇する場合におけるセラミック層14中の熱応力を示す。なお、この予熱温度TM1は、上記臨界温度(図2参照)以下の温度である。同図に示すように、遮熱コーティングの施工中にて母材1の表面温度を、母材内部からの冷却により適切に管理し、表面温度を予熱温度TM1に一定に保持した場合、母材1の表面10に吹き付けられた溶射材料は、初期温度TCから母材1の予熱温度TM1まで急速に冷却され(図4▲1▼および▲2▼参照)、縦割れを生じて柱状組織を有するセラミック層14となる(図5(a)▲1▼および▲2▼参照)。そして、遮熱コーティングの施工後は、母材1が室温まで冷却されて収縮するが、施工中における母材1の表面温度を所定の予熱温度TM1に維持しておけば、冷却後にてセラミック層14に生ずる応力は引張応力となる(図4▲3▼および図5▲3▼参照)。このように、冷却後の応力状態を引っ張り側に維持しておけば、セラミック層14に横亀裂15や剪断16(図5▲2▼’および▲3▼’参照)が生じることはない。
【0021】
一方、母材1の表面温度が予熱温度TM1から温度TM2に上昇する場合は、セラミック層14が初期温度TCから上昇後の温度TM2までしか冷却されず、溶射材料を急冷することができない。このため、セラミック層14に縦割れが発生し難くなり、効果的な柱状組織を形成できないという問題点がある。また、柱状組織が形成し得たとしても、この場合には、図4中の▲2▼’から▲3▼’に至る破線グラフが示すように、母材1の冷却後にてセラミック層14に圧縮応力が生じる。これにより、セラミック層14に横亀裂15や剪断16が生じて(図5▲2▼’および▲3▼’参照)、遮熱コーティングの耐熱寿命が低下するという問題点がある。また、母材1の延びによりセラミック層14に引張応力が作用し、母材1の平面方向に引っ張られて柱状組織が広がってしまう問題もある(図5▲2▼’参照)。また、柱状組織は、圧縮応力に対しては何ら機能しないため、その界面付近にて、座屈や剪断により横亀裂15やその要因となる剥離17が生ずるという問題点もある(図5▲3▼’参照)。したがって、これらの点において、この実施の形態にかかる施工方法によれば、母材1を内部から冷却する結果、その表面10を効率的に冷却できるので、母材1の表面温度TM1を所定の温度に適切に維持することが可能となる。これにより、セラミック層に縦割れ組織を形成しつつ、冷却後のセラミック層14における圧縮応力の発生を抑制し、セラミック層14の上記横亀裂15や剪断16の発生を効果的に抑制できる利点がある。
【0022】
また、従来の施工方法では、溶射部材によるフィルム冷却孔の目詰まりを解消するため、溶射材料を溶射する前にフィルム冷却孔をマスキングするか、若しくは溶射後にフィルム冷却孔に詰まった溶射材料を除去する作業が必要となる。しかしながら、これらの作業は一般に困難であり、作業効率の観点から大きな問題点があった。この点において、この実施の形態にかかる施工方法では、フィルム冷却孔から冷却空気を噴き出させつつ溶射材料を溶射するので、フィルム冷却孔の目詰まりが抑止されて、上記マスキング作業や孔詰まりの手入れ作業を省略できる利点がある。特に、噴出させる冷却媒体には、冷却溝にて動翼1を冷却した後の冷却媒体を再利用するので、冷却媒体の流量を減少させて経済的に遮熱コーティングを施工できる利点もある。
【0023】
なお、この実施の形態では、YSZから成る遮熱コーティング層を形成したが、これに限らず、YbSZ(イッテリビウム・スタビライズド・ジルコニア)、YB(イッテリビウム)その他のセラミックス材から成る遮熱コーティング層を形成してもよい。特に、YbSZにより形成された遮熱コーティング層は、長時間高温に曝されても、亀裂等の原因となる準安定正方晶相(t’相)から正方晶相(t相)への相変態が生じ難く、高温で優れた結晶安定性を有する(特願2001−359869号参照)。したがって、YSZによる遮熱コーティング層と比較して、より優れた熱耐久性を得られる利点がある。なお、YbSZには、▲1▼安定化材としてYb2O3を添加したZrO2、▲2▼安定化材としてYb2O3およびEr2O3を添加したZrO2が含まれる。また、YbSZから成る遮熱コーティング層は、▲1▼Yb2O3粉末と、ZrO2粉末とを混合し、または▲2▼Yb2O3粉末と、Er2O3粉末と、ZrO2粉末とを混合して溶射粉末を作成し、これを上記施工方法により母材1に溶射して形成される。
【0024】
また、この実施の形態では、母材1の冷却媒体として空気を用いたが、これは安価かつ簡易に利用できる点で好ましい。しかしこれに限らず、ヘリウム等の熱伝導性の高い不活性ガスを用いてもよい。これにより、容易かつ安全に母材1を冷却できる利点がある。
【0025】
また、この実施の形態では、母材を冷却する冷却空気の通路として、動翼1に既設された冷却溝を用いたが、これは、遮熱コーティングの施工にあたり新たに冷却空気用の通路を設けずに済む点で好ましい。しかし、これに限らず、母材の内部に新たに冷却空気の通路を設けてもよい。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法では、ガスタービン翼壁の内部に冷却通路を形成して、この冷却通路に冷却媒体を流し、ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ遮熱コーティングを施す。これにより、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けつつ遮熱コーティングを施す従来技術と比較して、母材であるガスタービン翼壁を効果的に冷却できるので、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施せる。
【0027】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法では、溶射材料を溶射するときに、冷却媒体をガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴き出させる。これにより、溶射材料によるフィルム冷却孔の詰まりを抑止できるので、フィルム冷却孔のマスキング作業や、孔詰まりの手入れ作業を省略できる。
【0028】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法によれば、ガスタービン翼壁を遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、ガスタービン翼壁に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工するので、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施工できる。
【0029】
また、この発明にかかる溶射装置によれば、テーブルがガスタービン翼壁内部の冷却通路に冷却媒体を流し込み、溶射ガンがガスタービン翼壁の表面に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工するので、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けて冷却する従来の溶射装置と比較して、ガスタービン翼壁を効果的に冷却しつつ、遮熱コーティングを施工できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態にかかるガスタービン翼壁の製造方法の一例を示す断面図である。
【図2】施工中における動翼1の温度(母材温度)と熱サイクル寿命との関係を示すグラフである。
【図3】(a)は、通常の遮熱コーティングを示す拡大側面断面図であり、(b)は、柱状組織を有する遮熱コーティングを示す拡大側面断面図である。
【図4】セラミック層の温度と、セラミック層に生ずる応力との関係を示すグラフである。
【図5】母材の温度に対するセラミック層の状態を示す側面断面図である。
【図6】従来のガスタービン翼壁の製造方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 動翼、母材
2 回転テーブル
3 溶射ガン
tc 臨界温度
【発明の属する技術分野】
この発明は、ガスタービン翼壁の製造方法に関し、更に詳しくは、遮熱コーティングにあたりガスタービン翼壁の冷却効率を高めて長い熱サイクル寿命を有する遮熱コーティングを施せるガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
高温条件下で使用されるガスタービンの動翼、静翼、分割環等には、遮熱コーティング(TBC:Thermal Barrier Coating)が施工される。ここでは、ガスタービンの動翼をその一例として説明する。図6は、従来のガスタービン動翼の製造方法を示す斜視図である。動翼100の製造方法では、動翼100を回転テーブル101上に設置し、溶射ガン102により動翼100の表面に遮熱コーティングを施す。この遮熱コーティングの施工は、セラミックス粉末等の溶射材料を、溶射ガン102を用いて動翼100の表面にプラズマ溶射して行われる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、遮熱コーティングの施工中には、母材である動翼100がプラズマによって徐々に高温化するが、この施工中における母材温度をある臨界温度以下に管理することで、高い熱サイクル寿命が得られることが知られている。このため、従来の施工方法では母材温度を低く保つために、溶射ガン102の側方に冷却空気の吹出口(図示省略)を設け、冷却空気を動翼100表面に吹き付けて冷却しつつ溶射材料を溶射していた。しかしながら、かかる従来の施工方法では、溶射材料と冷却空気との両方を動翼100表面から吹き付けていたため、冷却空気の温度が上昇して動翼100を十分に冷却できないという問題点があった。
【0004】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遮熱コーティングにあたりガスタービン翼壁の冷却効率を高めて長い熱サイクル寿命を有する遮熱コーティングを施せるガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法は、ガスタービンの動翼、静翼、分割環その他のガスタービン翼壁の内部に形成した冷却通路に、空気、不活性ガスその他の冷却媒体を流して前記ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ、前記ガスタービン翼壁の表面にセラミックスその他の溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する。
【0006】
この発明では、ガスタービン翼壁の内部に冷却通路を形成して、この冷却通路に冷却媒体を流し、ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ遮熱コーティングを施す。これにより、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けつつ遮熱コーティングを施す従来技術と比較して、母材であるガスタービン翼壁を効果的に冷却できるので、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施せる。なお、冷却通路には、ガスタービン翼壁が有する既設の冷却溝を用いてもよいし、新たに設けた通路を用いてもよい。また、溶射材料には、YSZ、YbSZ等が含まれる。
【0007】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法は、上記ガスタービン翼壁の製造方法において、さらに、前記冷却通路にて前記ガスタービン翼壁を冷却した後の前記冷却媒体を、前記溶射材料の溶射にあたり、前記ガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴出させる。
【0008】
この発明では、溶射材料を溶射するときに、冷却媒体をガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴き出させる。これにより、溶射材料によるフィルム冷却孔の詰まりを抑止できるので、フィルム冷却孔のマスキング作業や、孔詰まりの手入れ作業を省略できる。
【0009】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法は、上記ガスタービン翼壁の製造方法において、前記ガスタービン翼壁を、前記遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、前記ガスタービン翼壁に前記溶射材料を溶射する。
【0010】
この発明では、ガスタービン翼壁を遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、ガスタービン翼壁に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する。これにより、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施工できる。なお、この発明において、臨界温度とは、施工した遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する温度をいう。発明者らの研究によれば、熱サイクル寿命は、母材(ガスタービン翼壁)の温度が一定の温度に達するまではほぼ横這い状態にあるが、この温度を越えたあたりから徐々に短くなってその後急激に低下するという特性を有する。そこで、この熱サイクル寿命が急低下する付近の温度を臨界温度として定め、母材温度のこの臨界温度以下に保持しつつ遮熱コーティングを施工することとした。ただし、この臨界温度は、溶射材料や母材の材質、溶射材料の温度、溶射コーティング層の厚さその他の溶射条件により変化するので、当業者自明の範囲内で適宜選択して変更することが好ましい。
【0011】
また、この発明にかかる溶射装置は、ガスタービンの動翼、静翼、分割環その他のガスタービン翼壁を設置できると共に、当該ガスタービン翼壁の内部に形成した冷却通路に、空気、不活性ガスその他の冷却媒体を流し込むテーブルと、前記ガスタービン翼壁の表面にセラミックスその他の溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する溶射ガンとを含む。
【0012】
この発明において、テーブルは、設置されたガスタービン翼壁内部の冷却通路に冷却媒体を流し込む。そして、溶射ガンは、このガスタービン翼壁の表面に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する。これにより、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けて冷却する従来の溶射装置と比較して、ガスタービン翼壁を効果的に冷却しつつ、遮熱コーティングを施工できる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的同一のものが含まれる。
【0014】
図1は、この発明の実施の形態にかかるガスタービン翼壁の製造方法の一例を示す断面図である。図1において、動翼1は、回転テーブル2上に設置され、溶射ガン3を用いて表面に遮熱コーティングを施される。ここで、動翼1は、ガスタービン稼働時にて高温の燃焼ガスにさらされるため、内部に冷却空気を通す冷却溝(図示省略)を有し、また、この冷却溝から表面に引き出した多数のフィルム冷却孔(図示省略)を有する。なお、これらの冷却溝やフィルム冷却孔は、ガスタービン稼働時にて動翼1を冷却するために既設されたものである。また、回転テーブル2は、その上部に冷却空気を吹き出すノズル(図示省略)を備え、遮熱コーティングの施工時にてこのノズルから動翼1の冷却溝に冷却空気を供給する。また、溶射ガン3は、溶射材料であるセラミックスの粉末を溶射ガン3のプラズマにて溶融させ、動翼1の表面に吹き付けて薄い膜を形成する。これにより、動翼1の表面に遮熱コーティングが施され、動翼1の耐熱性が向上する。
【0015】
この実施の形態において、冷却空気は、回転テーブル2内の吹出口から動翼1の冷却溝に吹き込まれて動翼1を内部から冷却する。これにより、遮熱コーティングの施工中における動翼1の温度上昇が抑制されて、動翼1が低温に保持される。また、冷却空気は、フィルム冷却孔を通って冷却溝から動翼1の外部に噴き出し、溶射材料によるフィルム冷却孔の目詰まりを抑制する。
【0016】
ここで、発明者らの研究によれば、施工中における動翼1の温度(母材温度)と熱サイクル寿命との間には、一定の関係がある。図2は、これらの関係の一例を示すグラフである。同図に示すように、熱サイクル寿命は、母材温度が250度付近までは安定したほぼ横這い状態にあるが、250度から300度までの間に徐々に低下し始め、300度を超えたあたりから急激に低下する。したがって、この場合の遮熱コーティングは、母材温度を300度以下に保持しつつ施工することが好ましい。また、母材温度を250度以下に保持すれば、より熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施工できる利点がある。また、このように、施工中における母材温度は、熱サイクル寿命に対する臨界値(臨界温度)を有し、且つ、この臨界温度は実験等により測定が可能である。ただし、臨界温度は、溶射材料や母材の材質、溶射材料の温度、コーティング層の厚さその他の溶射条件、および必要な熱サイクル寿命と使用環境にもよるので、当業者自明の範囲内で適宜この臨界温度を計測して用いることが好ましい。なお、このグラフは、溶射材料にYSZ(イットリア・スタビライズド・ジルコニア)セラミックスを使ったときの実験結果である。
【0017】
この実施の形態によれば、母材である動翼1を内部から冷却するので、冷却空気を動翼1の表面から吹き付けつつ遮熱コーティングを施す従来技術と比較して、高温の溶射材料の影響を受けることなく母材1を効果的に冷却できる。これにより、母材温度を臨界温度以下に適切に管理して、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを効率的に施せる利点がある。また、母材1を効果的に冷却できる結果、遮熱コーティングに後述する柱状組織を効率的に形成できる利点もある。かかる遮熱コーティングは熱サイクル寿命が長く、耐熱性にも優れることが従来から知られている。以下、この柱状組織について説明する。
【0018】
図3(a)は、通常の遮熱コーティングを示す拡大側面断面図であり、図3(b)は、柱状組織を有する遮熱コーティングを示す拡大側面断面図である。遮熱コーティングは、母材である動翼1の表面10に、金属材料からなるアンダーコート11を施し、その上から溶射材料であるセラミックス粉末を溶射してセラミックス層12を形成する。なお、図中の符号13は、セラミックス層12に生じた気孔である。ここで、通常の遮熱コーティングでは、セラミックス層12が溶融して横方向に結合する(図3(a)参照)。しかし、セラミックス層12の熱膨張係数は、金属材料からなる動翼1やアンダーコート11よりも小さい。このため、ガスタービン稼働時にて動翼1が熱膨張したときに、セラミックス層12に横方向への大きな熱応力が生じ、セラミックス層12が歪んでその表面に亀裂や剥離が生じるという問題があった。一方、柱状組織を有する遮熱コーティングでは、セラミックス層14に生じた縦割れにより、動翼1の表面10に柱状の組織が形成される(図3(b)参照)。かかる柱状組織は、ガスタービン稼働時にて動翼1が熱膨張しても、セラミックス層14が横方向に割れ広がって歪みを柔軟に吸収する。このため、かかる柱状組織を有する動翼1は、熱サイクル寿命が非常に長いという特徴がある。
【0019】
この柱状組織は、母材(動翼1)に溶射された溶射材料が、母材1の表面温度にて急冷され、溶射材料に引っ張り応力が作用して縦割れが生ずることで形成される。このため、かかる柱状組織を形成するには溶射材料と母材1との間に大きな温度差をつくる必要があり、この温度差が大きいほど有効な柱状組織を効率的に形成できる。そこで、従来の施工方法では、溶射ガン102を母材1に近づけて高温の溶射材料を母材1に溶射すると共に、冷却空気を外部から近距離で母材1に吹き付け、これにより、母材1の冷却効率を高めていた。しかしながら、かかる従来の施工方法では、母材1の表面よりも、むしろセラミック層14の方が冷却され易い。そして、柱状組織を効率的に形成するには、セラミック層14の温度を高くして組織を緻密化し、ヤング率を大きくしてセラミック層14に引っ張り応力が生じ易い状態(縦割れが生じ易い状態)とすることが好ましい。したがって、従来の施工方法では、母材1を効果的に冷却できないばかりか、セラミックスの緻密化の阻害により、柱状組織の効率的な形成が困難であるという問題点があった。一方、冷却なしに縦割れ形成を行おうとすると、通常、溶射距離を極端に近づけるなどして母材表面温度の上昇を図る関係上、部品の所定膜厚分を施工している間に、表面だけでなく、部分全体を過熱することにつながる。すると、結果的に縦割れ施工は行えたものの、冷却後にセラミック層に生じた圧縮残留応力のために期待する耐久性が得られないこととなる。この点において、この実施の形態にかかる施工方法によれば、母材1を内部から冷却するので、従来の施工方法と比較して、セラミック層14を高い温度に維持しつつ、母材表面10を適切に冷却できるので、母材の過熱を避けながらセラミック層に柱状組織を効率的に形成できる利点がある。
【0020】
また、図4は、セラミック層の温度と、セラミック層に生ずる応力との関係を示すグラフであり、図5は、母材の温度に対するセラミック層の状態を示す側面断面図である。図4において、実線グラフ(▲1▼→▲2▼→▲3▼)は、母材の温度TMが遮熱コーティングの施工中にて変化しない場合におけるセラミック層14中の熱応力を示し、破線グラフ(▲1▼→▲2▼’→▲3▼’)は、母材1の表面温度が遮熱コーティングの施工中にて予熱温度TM1から温度TM2に上昇する場合におけるセラミック層14中の熱応力を示す。なお、この予熱温度TM1は、上記臨界温度(図2参照)以下の温度である。同図に示すように、遮熱コーティングの施工中にて母材1の表面温度を、母材内部からの冷却により適切に管理し、表面温度を予熱温度TM1に一定に保持した場合、母材1の表面10に吹き付けられた溶射材料は、初期温度TCから母材1の予熱温度TM1まで急速に冷却され(図4▲1▼および▲2▼参照)、縦割れを生じて柱状組織を有するセラミック層14となる(図5(a)▲1▼および▲2▼参照)。そして、遮熱コーティングの施工後は、母材1が室温まで冷却されて収縮するが、施工中における母材1の表面温度を所定の予熱温度TM1に維持しておけば、冷却後にてセラミック層14に生ずる応力は引張応力となる(図4▲3▼および図5▲3▼参照)。このように、冷却後の応力状態を引っ張り側に維持しておけば、セラミック層14に横亀裂15や剪断16(図5▲2▼’および▲3▼’参照)が生じることはない。
【0021】
一方、母材1の表面温度が予熱温度TM1から温度TM2に上昇する場合は、セラミック層14が初期温度TCから上昇後の温度TM2までしか冷却されず、溶射材料を急冷することができない。このため、セラミック層14に縦割れが発生し難くなり、効果的な柱状組織を形成できないという問題点がある。また、柱状組織が形成し得たとしても、この場合には、図4中の▲2▼’から▲3▼’に至る破線グラフが示すように、母材1の冷却後にてセラミック層14に圧縮応力が生じる。これにより、セラミック層14に横亀裂15や剪断16が生じて(図5▲2▼’および▲3▼’参照)、遮熱コーティングの耐熱寿命が低下するという問題点がある。また、母材1の延びによりセラミック層14に引張応力が作用し、母材1の平面方向に引っ張られて柱状組織が広がってしまう問題もある(図5▲2▼’参照)。また、柱状組織は、圧縮応力に対しては何ら機能しないため、その界面付近にて、座屈や剪断により横亀裂15やその要因となる剥離17が生ずるという問題点もある(図5▲3▼’参照)。したがって、これらの点において、この実施の形態にかかる施工方法によれば、母材1を内部から冷却する結果、その表面10を効率的に冷却できるので、母材1の表面温度TM1を所定の温度に適切に維持することが可能となる。これにより、セラミック層に縦割れ組織を形成しつつ、冷却後のセラミック層14における圧縮応力の発生を抑制し、セラミック層14の上記横亀裂15や剪断16の発生を効果的に抑制できる利点がある。
【0022】
また、従来の施工方法では、溶射部材によるフィルム冷却孔の目詰まりを解消するため、溶射材料を溶射する前にフィルム冷却孔をマスキングするか、若しくは溶射後にフィルム冷却孔に詰まった溶射材料を除去する作業が必要となる。しかしながら、これらの作業は一般に困難であり、作業効率の観点から大きな問題点があった。この点において、この実施の形態にかかる施工方法では、フィルム冷却孔から冷却空気を噴き出させつつ溶射材料を溶射するので、フィルム冷却孔の目詰まりが抑止されて、上記マスキング作業や孔詰まりの手入れ作業を省略できる利点がある。特に、噴出させる冷却媒体には、冷却溝にて動翼1を冷却した後の冷却媒体を再利用するので、冷却媒体の流量を減少させて経済的に遮熱コーティングを施工できる利点もある。
【0023】
なお、この実施の形態では、YSZから成る遮熱コーティング層を形成したが、これに限らず、YbSZ(イッテリビウム・スタビライズド・ジルコニア)、YB(イッテリビウム)その他のセラミックス材から成る遮熱コーティング層を形成してもよい。特に、YbSZにより形成された遮熱コーティング層は、長時間高温に曝されても、亀裂等の原因となる準安定正方晶相(t’相)から正方晶相(t相)への相変態が生じ難く、高温で優れた結晶安定性を有する(特願2001−359869号参照)。したがって、YSZによる遮熱コーティング層と比較して、より優れた熱耐久性を得られる利点がある。なお、YbSZには、▲1▼安定化材としてYb2O3を添加したZrO2、▲2▼安定化材としてYb2O3およびEr2O3を添加したZrO2が含まれる。また、YbSZから成る遮熱コーティング層は、▲1▼Yb2O3粉末と、ZrO2粉末とを混合し、または▲2▼Yb2O3粉末と、Er2O3粉末と、ZrO2粉末とを混合して溶射粉末を作成し、これを上記施工方法により母材1に溶射して形成される。
【0024】
また、この実施の形態では、母材1の冷却媒体として空気を用いたが、これは安価かつ簡易に利用できる点で好ましい。しかしこれに限らず、ヘリウム等の熱伝導性の高い不活性ガスを用いてもよい。これにより、容易かつ安全に母材1を冷却できる利点がある。
【0025】
また、この実施の形態では、母材を冷却する冷却空気の通路として、動翼1に既設された冷却溝を用いたが、これは、遮熱コーティングの施工にあたり新たに冷却空気用の通路を設けずに済む点で好ましい。しかし、これに限らず、母材の内部に新たに冷却空気の通路を設けてもよい。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法では、ガスタービン翼壁の内部に冷却通路を形成して、この冷却通路に冷却媒体を流し、ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ遮熱コーティングを施す。これにより、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けつつ遮熱コーティングを施す従来技術と比較して、母材であるガスタービン翼壁を効果的に冷却できるので、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施せる。
【0027】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法では、溶射材料を溶射するときに、冷却媒体をガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴き出させる。これにより、溶射材料によるフィルム冷却孔の詰まりを抑止できるので、フィルム冷却孔のマスキング作業や、孔詰まりの手入れ作業を省略できる。
【0028】
また、この発明にかかるガスタービン翼壁の製造方法によれば、ガスタービン翼壁を遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、ガスタービン翼壁に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工するので、熱サイクル寿命の長い遮熱コーティングを施工できる。
【0029】
また、この発明にかかる溶射装置によれば、テーブルがガスタービン翼壁内部の冷却通路に冷却媒体を流し込み、溶射ガンがガスタービン翼壁の表面に溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工するので、冷却媒体をガスタービン翼壁の表面から吹き付けて冷却する従来の溶射装置と比較して、ガスタービン翼壁を効果的に冷却しつつ、遮熱コーティングを施工できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施の形態にかかるガスタービン翼壁の製造方法の一例を示す断面図である。
【図2】施工中における動翼1の温度(母材温度)と熱サイクル寿命との関係を示すグラフである。
【図3】(a)は、通常の遮熱コーティングを示す拡大側面断面図であり、(b)は、柱状組織を有する遮熱コーティングを示す拡大側面断面図である。
【図4】セラミック層の温度と、セラミック層に生ずる応力との関係を示すグラフである。
【図5】母材の温度に対するセラミック層の状態を示す側面断面図である。
【図6】従来のガスタービン翼壁の製造方法を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 動翼、母材
2 回転テーブル
3 溶射ガン
tc 臨界温度
Claims (4)
- ガスタービンの動翼、静翼、分割環その他のガスタービン翼壁の内部に形成した冷却通路に、空気、不活性ガスその他の冷却媒体を流して前記ガスタービン翼壁を内部から冷却しつつ、前記ガスタービン翼壁の表面にセラミックスその他の溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工するガスタービン翼壁の製造方法。
- さらに、前記冷却通路にて前記ガスタービン翼壁を冷却した後の前記冷却媒体を、前記溶射材料の溶射にあたり、前記ガスタービン翼壁の内部からフィルム冷却孔を通して外部に噴出させる請求項1に記載のガスタービン翼壁の製造方法。
- 前記ガスタービン翼壁を、前記遮熱コーティングの熱サイクル寿命が急低下する臨界温度以下まで冷却しつつ、前記ガスタービン翼壁に前記溶射材料を溶射する請求項1または2に記載のガスタービン翼壁の製造方法。
- ガスタービンの動翼、静翼、分割環その他のガスタービン翼壁を設置できると共に、当該ガスタービン翼壁の内部に形成した冷却通路に、空気、不活性ガスその他の冷却媒体を流し込むテーブルと、
前記ガスタービン翼壁の表面にセラミックスその他の溶射材料を溶射して遮熱コーティングを施工する溶射ガンと、
を含む溶射装置。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2002206115A JP2004044556A (ja) | 2002-07-15 | 2002-07-15 | ガスタービン翼壁の製造方法および溶射装置 |
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Cited By (4)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2010237046A (ja) * | 2009-03-31 | 2010-10-21 | Mitsubishi Heavy Ind Ltd | 試験片製造方法及びコーティング層の物性値測定方法 |
CN103781588A (zh) * | 2011-08-10 | 2014-05-07 | 斯奈克玛 | 为叶片前缘制作保护加强件的方法 |
JP2015004132A (ja) * | 2014-08-04 | 2015-01-08 | 三菱日立パワーシステムズ株式会社 | 遮熱コーティングの施工方法、耐熱部材及びガスタービン |
JP2015145515A (ja) * | 2014-01-31 | 2015-08-13 | 三菱重工業株式会社 | 成膜装置、成膜方法、高温部品、及びガスタービン |
-
2002
- 2002-07-15 JP JP2002206115A patent/JP2004044556A/ja not_active Withdrawn
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