JP2004041373A - 気管支喘息の処置方法 - Google Patents

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Masatomo Mori
森 昌朋
Takeshi Ishizuka
石塚 全
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Abstract

【解決手段】気管支喘息患者の末梢血を、リンパ球に比し顆粒球・単球への親和性が高い担体と接触させ、かくして得られる顆粒球・単球が吸着除去された処理血液を当該患者に戻すことを特徴とする気管支喘息の処置方法。
【効果】ステロイド全身投与を行うことなく、気管支喘息患者、殊に重症持続型気管支喘息患者の症状をコントロールすることができる。
【選択図】   なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は気管支喘息患者、殊に重症持続型気管支喘息患者の症状をコントロールするための気管支喘息の処置方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
気管支喘息の治療に関しては、1992年に米国NIH喘息診断・管理ガイドラインが発表された後、吸入ステロイドを積極的に導入した治療法が開始された。これにより気管支喘息患者の治療管理は飛躍的に改善されたが、気管支喘息による死亡者数は減少せず、特に20代の男性では1998年までの約10年間で増加している。
【0003】
その後、1998年には厚生省免疫・アレルギー研究班により喘息予防・管理ガイドラインが作成され、喘息の長期管理における重症度対応段階的薬物療法が提唱された。このガイドラインでは、喘息を症状とピークフロー値に基づき4段階の重症度(ステップ1:軽症間欠型、ステップ2:軽症持続型、ステップ3:中等症持続型、ステップ4:重症持続型)に分類し、それぞれの重症度に応じた治療法、すなわちステップ2以上の重症度の患者に対しては吸入ステロイドを主体とする治療法が示されている(喘息予防・管理ガイドライン 1988、監修:牧野荘平、古庄巻史、宮本昭正 作成:厚生省 免疫・アレルギー研究班)。そして、斯かる吸入ステロイド療法は、これまでに一定の評価が得られている。
【0004】
しかしながら、重症持続型に分類される気管支喘息患者の中には、プロピオン酸ベクロメタゾン800μg/日以上(又はプロピオン酸フルチカゾン400μg/日以上)の吸入ステロイド療法と徐放性テオフィリン薬や経口長時間作用性β2刺激薬等の気管支拡張薬を併用しても症状がコントロールできない症例が存在し、経口ステロイド薬の連用を必要とする。症状増悪時には、中〜大量の経口ステロイド薬(例えばプレドニゾロン0.5mg/kg/日)の1週間以内投与により、症状のコントロールを図るのが一般的であるが、発作時にはさらに大量のステロイド薬の静脈内投与を必要とする。而して、吸入ステロイドのみでは症状がコントロールできない重症患者に対しては、現在のところ、骨塩量の低下、耐糖能異常、易感染性、消化性潰瘍等の重大な副作用を来す可能性が大きいステロイドの全身投与以外に確立された治療法がないのが現状である。
【0005】
従って、重症持続型気管支喘息患者に対する副作用の少ない新しい処置方法の提供が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、副作用の少ない気管支喘息の処置方法を提供するものであり、殊に重症持続型気管支喘息患者の症状をコントロールするのに有用な新しい処置方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、副作用の少ない気管支喘息の処置方法を検討したところ、気管支喘息患者の末梢血を特定の担体と接触させるアフェレーシス処置より、気管支喘息、殊に重症持続型気管支喘息患者の症状を有効にコントロールできることを見出し本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、気管支喘息患者の末梢血を、リンパ球に比し顆粒球・単球への親和性が高い担体と接触させ、かくして得られる顆粒球・単球が吸着除去された処理血液を当該患者に戻すことを特徴とする気管支喘息の処置方法を提供するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の気管支喘息の処置方法は、気管支喘息患者の末梢血を、リンパ球に比し顆粒球・単球への親和性が高い担体と接触させ、かくして得られる顆粒球・単球が吸着除去された処理血液を当該患者に戻す、いわゆるアフェレーシス処置を用いるものである。
【0010】
アフェレーシス(apheresis)は、種々の疾患を治療する目的で使用されることが最近報告され、例えばリンパ球に対するよりも顆粒球に対して親和性が高い吸着性担体を血液に接触させることにより、該血液から顆粒球を選択的に除去し、癌の処置ができること(欧州特許第319961号明細書)、患者からの血液を、リンパ球に対するよりも炎症性細胞(顆粒球及び単球)に対する親和性が高い吸着性担体と接触させることにより炎症性疾患、急性呼吸困難症候群(ARDS)、多臓器不全(MOF)、アレルギー疾患、慢性関節リウマチ、その他自己免疫疾患、心筋梗塞後の再灌流障害等の処置ができること(米国特許第5567443号明細書)、更には、HIVやHCV等に感染し、活性化され及び/又は欠陥のある白血球を含む血液を、未感染の活性化されてない及び/又は欠陥のない白血球に対するよりも、感染し、活性化され及び/又は欠陥のある白血球に対して親和性が高い吸着性担体と接触させることにより、該血液から感染白血球の除去できることが報告されている(WO 00/55621号公報)。
しかしながら、斯かるアフェレーシスが気管支喘息の治療に応用できることは全く報告されていない。
【0011】
本発明の処置方法において用いられる担体には、リンパ球に比し顆粒球・単球への親和性が高い吸着性素材が用いられるが、その材質としては、当該特性を有し且つ接触する血液に有害なものでなければ特に限定されるものではなく、例えば水に対する接触角が55°〜95°の範囲内にある材質からなるものが挙げられる。ここで接触角とは、静止液体の自由表面と固体表面とが、該自由表面が該固体表面と接触する点において形成する角度を意味し、液体の内側に位置する角度が使用される。主な吸着性担体の水に対する接触角度を表1に示す。
【0012】
【表1】
Figure 2004041373
【0013】
従って、本発明の担体としては、ポリスチレン、酢酸セルロース、ナイロン(6−ナイロン、11−ナイロン等)、ポリトリフルオロエチレン及びポリエチレンテレフタレート等の吸着性素材からなる担体が好適に例示され、酢酸セルロースが特に好ましい。
【0014】
また、本発明のリンパ球に比し顆粒球・単球への親和性が高い所望の担体は、各種担体の表面特性を調整することにより収得することもできる。斯かる表面特性としては、中心線平均粗さRa値が0.2〜10μmであり、でこぼこ平均間隔Sm値が5〜200μmの範囲にある表面粗さを好適に例示することができる。
このような表面特性を有する担体及びその製造法は、特許第2501500号公報に教示されている。
【0015】
また、担体の形状及び大きさ等は、任意であり特に限定されるものではないが、一般には血液細胞と区別し得る大きさを有し、接触する血液との接触面が大きい形状、すなわち効率的な接触を可能とする形状であるのが好ましい。例えば、径0.1〜10mm程度のビーズ状担体であることができる。当該ビーズは、0.2〜5.0mm、更に0.5〜4.0mm、特に1.0〜3.0mmの範囲の直径、例えば2mm程度の直径を有するものであるのが好ましい。
【0016】
本発明の処置方法は、気管支喘息患者の末梢血が上記担体との接触処理に付され、顆粒球・単球が吸着除去された処理血液が当該患者に戻される。
処置の対象となる患者は、気管支喘息患者であれば広く適用できるが、特に重症持続型気管支喘息患者、例えば高用量の吸入ステロイド(プロピオン酸ベクロメタゾン800〜1600μg/日又はプロピオン酸フルチカゾン400〜800μg/日)と十分量の気管支拡張薬を併用してもなお症状のコントロールが不十分で、しばしば経口ステロイド薬、ステロイド薬の血管内投与を要する患者及び/又は治療前のピークフロー値、1秒量(FEV1.0)が予測値/自己最高値の60%未満、ピークフロー値の日内変動が30%を超える重症の喘息患者が好適である。
【0017】
処理血液は、血液細胞成分として患者に戻すことができ、これによって所望の効果を奏するが、特に血漿成分を分離除去する必要はない。また、処理血液には必要に応じて血液成分を任意に補給することもできる。
【0018】
接触処理の手段は、担体への顆粒球・単球の吸着処理が有効に行われ、処理血液が患者に戻され得るように回収できる限りにおいて特に限定されず、また該処理血液を患者に戻す手段も何等限定はない。例えば、体外循環装置を介して連続的に或いはバッチ式にて接触処理した処理血液を常法に従い静脈内投与する手段等を適宜採用できる。
【0019】
前者手段によれば、担体を収容した顆粒球・単球吸着部と、患者末梢血を該吸着部に流入させるための血液流入部と、該吸着部内に流入された血液を該吸着部外に流入させて当該患者に戻すための血液流出部を備えている体外循環装置を介して、連続的に本発明の処置が可能である。
【0020】
かかる装置の一態様を、図1及び図2を参照して説明する。
顆粒球・単球吸着部(G−1カラム)の構造を図1に示し、その構成の材料を表2に記載する。また、血液流入部及び血液流出部を備えた斯かる顆粒球・単球吸着部を含む体外循環装置の概略を図2に示す。
【0021】
図1に示すように、G−1カラム(アダカラム:吸着型血液浄化器、日本抗体研究所製)は、ポリカーボネート製のカラム(8)に、滅菌された生理的食塩水(9)中に浸した酢酸セルロースビーズ(吸着性担体(7))が充填されている。カラムの内容物は内部キャップ(4)、外部キャップ(5)およびO−リング(6)で封止されている。血液供給ラインは、血液流入口(1)でノズルキャップ(2)およびパッキング(3)によりカラムに取り付けられる。吸着性担体は2mmの直径と220gの全重量を有する。カラムは長さ206mm、直径60mmであり、335mLの容量を有する。生理的食塩水の全容量は130mLである(カラム空隙容積に等しい)。
【0022】
G−1カラムの構成成分を表2に示す。
【0023】
【表2】
Figure 2004041373
【0024】
図2に示すように、体外循環装置は、G−1カラム(Adacolumn(26))、血液回路ライン、およびアダモニター〔(Adamonitor):吸着型血液浄化用装置、大塚電子製(23)、ポンプ(24)を含む〕からなる。患者(21)の前腕前部血管からの血液流出物はバブル検出器(22)を通過してポンプ(24)およびアダモニター(23)に行く。次に血液は、Adacolumn(26)に入る前に凝固防止剤投与口(25)を通過する。カラムからの流出後に、血液はドリップチェンバー(29)に入る。該ドリップチェンバーにはドリップチェンバー空気出口(27)および静脈圧力ゲージ(28)が取り付けられている。血液はバブル検出器(30)の通過後、前腕前部血管(31)を経て患者に返血される。
【0025】
【実施例】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。
【0026】
実施例1
アダカラムを生理食塩水800mL及びヘパリン添加生理食塩水500mL(2000単位/500mL)で洗浄及びプライミングを行う。患者の静脈2箇所(通常両側肘静脈)を血管確保し、脱血用及び返血用ブラッドアクセスとする。
体外循環を流速30mL/分で60分間行い、循環中ヘパリンを1800単位/時間で抗凝固剤注入ラインから持続注入し、循環終了後、生理食塩水を200mL程度流し、血液回路及びカラム内の血液を返血する。
以上を5名の重症持続型気管支喘息患者に、一回の体外循環として1週間に1回、計5回施行した。2週間の治療前観察期間、4週間の治療期間、治療後12週間の観察期間を通じて原則的に気管支喘息に対する治療薬の変更を行わず、朝、晩にピークフローメーター(ミニライト社製,ミニライト目盛)によるピークフロー値(PEF)のモニタリングを行った。結果を表3に示す。
【0027】
【表3】
Figure 2004041373
【0028】
5例中4例において、朝、晩のピークフロー値の増加を認めた。ピークフロー値の増加を認めた4例のピークフロー値のモニタリング結果を図3に示す。ピークフロー値は気管支喘息の基本的な病態である気管閉塞の程度に平行し、肺機能の1秒量(1秒間にどれだけ息が吐けるか)に相関する。気管支喘息がコントロールされているかどうかを客観的に評価するには最も優れた指標である。
尚、顆粒球、単球、リンパ球の担体への吸着率は下記表4の通りであった。
【0029】
【表4】
Figure 2004041373
【0030】
【発明の効果】
本発明の処置方法によれば、ステロイド全身投与を行うことなく、気管支喘息患者、殊に重症持続型気管支喘息患者の症状をコントロールすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一態様による白血球除去カラムの構成の概略を示す図である。
【図2】本発明の一態様による白血球除去装置の要素を示す図である。
【図3】本発明の処置前後のピークフロー値の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1:血液流入口
2:ノズルキャップ
3:パッキン
4:内部キャップ
5:外部キャップ
6:O−リング
7:吸着性担体
8:G−1カラム(アダカラム(Adacolumn))
9:生理的食塩水
10:穿孔ストッパー
11:血液流出口
21:患者
23:アダモニター(Adamonitor)
24:ポンプ
25:凝固防止剤投与口
26:G−1カラム(アダカラム(Adacolumn))
27:ドリップ室空気出口
28:静脈圧力ゲージ
29:ドリップ室
30:バブル検出器
31:前腕前部血管

Claims (4)

  1. 気管支喘息患者の末梢血を、リンパ球に比し顆粒球・単球への親和性が高い担体と接触させ、かくして得られる顆粒球・単球が吸着除去された処理血液を当該患者に戻すことを特徴とする気管支喘息の処置方法。
  2. 担体が酢酸セルロースからなる吸着性素材である請求項1記載の処置方法。
  3. 担体が径0.1〜10mmのビーズ状担体である請求項1又は2記載の処置方法。
  4. 重症持続型気管支喘息患者の症状をコントロールするための請求項1〜3のいずれか1項記載の処置方法。
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