JP2004041208A - インスリン抵抗性改善効果の評価方法 - Google Patents

インスリン抵抗性改善効果の評価方法 Download PDF

Info

Publication number
JP2004041208A
JP2004041208A JP2003272781A JP2003272781A JP2004041208A JP 2004041208 A JP2004041208 A JP 2004041208A JP 2003272781 A JP2003272781 A JP 2003272781A JP 2003272781 A JP2003272781 A JP 2003272781A JP 2004041208 A JP2004041208 A JP 2004041208A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
adipsin
gene
administration
test substance
expression level
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Pending
Application number
JP2003272781A
Other languages
English (en)
Inventor
Manabu Abe
阿部 学
Ichiji Araki
荒木 一司
Jun Osumi
大隅 潤
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Sankyo Co Ltd
Original Assignee
Sankyo Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Sankyo Co Ltd filed Critical Sankyo Co Ltd
Priority to JP2003272781A priority Critical patent/JP2004041208A/ja
Publication of JP2004041208A publication Critical patent/JP2004041208A/ja
Pending legal-status Critical Current

Links

Images

Landscapes

  • Measuring Or Testing Involving Enzymes Or Micro-Organisms (AREA)
  • Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)

Abstract

【課題】 インスリン抵抗性改善剤の標的遺伝子を見出し、該遺伝子やその産物を利用することにより、インスリン抵抗性の治療や改善のための新規な方法を提供すること。
【解決手段】 被験物質の投与条件下における検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を指標として、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する方法、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価用キット、および、アディプシンまたはアディプシン遺伝子を含むインスリン抵抗性改善剤。

Description

 本発明は、アディプシンまたはアディプシン遺伝子を利用した被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価用キット、およびインスリン抵抗性改善剤に関する。
 糖尿病は近年その患者数が増加しており、成人病のひとつとして注目されている。糖尿病には、インスリン依存型の1型糖尿病と非依存型の2型糖尿病があるが、このうち2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病、NIDDM)は日本人に多い糖尿病のタイプであり、早期発見、早期治療がその予後の点から重要である。
 しかし、2型糖尿病は成因が多様であるため、予想される原因についての知見は乏しい。2型糖尿病におけるインスリン作用不足の原因としては、インスリン感受性機構の異常とインスリン分泌の低下が挙げられる。欧米では多くは前者、すなわちインスリン抵抗性が2型糖尿病の主な原因であるが、日本ではインスリン分泌不全が主な原因である場合も少なくない。
 経口糖尿病治療薬としては、スルホニル尿素系のインスリン分泌促進剤が古くから用いられているが、近年では、インスリン抵抗性改善剤も開発されている。「インスリン抵抗性改善剤」とは、インスリンレセプターの感受性を増強することによってインスリンの作用不足を補い、インスリン抵抗性を改善する薬剤である。そのようなインスリン抵抗性改善剤としては、例えば、トログリタゾン(例えば、特許文献1参照)、ピオグリタゾン(例えば、特許文献2〜4参照)、ロシグリタゾン(例えば、特許文献5〜7参照)、GI−262570(例えば、特許文献8参照)、JTT−501(例えば、特許文献9〜11参照)、AZ−242(例えば、特許文献12〜14参照)、MCC−555(例えば、特許文献15〜17参照)、YM−440(例えば、特許文献18〜20参照)、KRP−297(例えば、特許文献21および22参照)、T−174(例えば、特許文献23〜25参照)、NC−2100(例えば、特許文献26〜28参照)、NN−622(例えば、特許文献29および30参照)、BMS−298585(例えば、特許文献31参照)、5−[4−(6−メトキシ−1−メチルベンズイミダゾール−2−イルメトキシ)ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオンおよびその薬理学上許容される塩(例えば、特許文献32〜34参照)等のオキサゾール化合物、オキサジアゾリジン化合物、チアゾリジン化合物またはフェノキサジン化合物等を挙げることができる。
 これらのインスリン抵抗性改善剤のうち、ロジグリタゾンおよびピオグリタゾンのようなチアゾリジン誘導体は、既に臨床の場で用いられている(例えば、非特許文献1〜3、および特許文献35参照)。これらの薬剤は、基本構造としてチアゾリジン環骨格を有することを特徴とし、核内レセプターであるPPARγを標的分子として結合する。そして、肝臓、筋肉、および脂肪細胞における遺伝子発現を変化させることにより、2型糖尿病患者のインスリン抵抗性を改善すると考えられている。
 PPARγの主要な発現臓器である脂肪組織では、インスリン抵抗性改善剤はPPARγに直接作用し、脂肪組織のインスリン感受性を亢進する(例えば、非特許文献4参照)。一方、PPARγを標的分子とするインスリン抵抗性改善剤は、肝臓では糖利用を促進し、筋肉では糖放出を抑制する。しかし、筋肉や肝臓におけるインスリン抵抗性の改善が、筋肉や肝臓に発現しているPPARγに対する直接の作用であるかに関しては、今なお不明な点が多い(例えば、非特許文献5参照)。
 最近では、チアゾリジン誘導体に代表されるインスリン抵抗性改善剤が脂肪組織から分泌される因子の産生量を調節することが、生体のインスリン感受性を調節し、2型糖尿病を改善する一因ではないかと考えられている。脂肪組織は単なる脂肪の貯蔵器官ではなく、多数の因子を分泌する内分泌器官であり、これら分泌因子の中には、節食およびエネルギー代謝を調節するレプチン (leptin)(非特許文献6および7参照)、インスリン感受性を低下させる腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF-α(例えば、非特許文献8参照))やレジスチン(resistin(例えば、非特許文献9参照));インスリン感受性を亢進させるアディポネクチン(adiponectin(例えば、非特許文献10および11参照))等、肥満やインスリン抵抗性、2型糖尿病と関連する多数の因子が含まれている。
 例えばTNF-αは、肥満・糖尿病を呈するマウスの脂肪組織では発現が上昇しており、TNF-αを中和することによりインスリン抵抗性が改善する(例えば、非特許文献12参照)またピオグリタゾン投与によりインスリン抵抗性が改善した状態では、肥満・糖尿病モデルマウスで認められたTNF-αの発現亢進が抑制される(例えば、非特許文献13参照)。
 逆にアディポネクチンは、肥満・糖尿病を呈するマウスやヒトでは発現が低下しており(例えば、非特許文献14および15参照)、インスリン抵抗性改善剤投与時には、アディポネクチンの発現が上昇する(例えば、非特許文献16および17参照)。
 アディプシンは、アディポネクチン同様、脂肪細胞で大量に産生される分泌タンパク質である(例えば、非特許文献18参照)。しかし、アディプシンの臨床的意義はまだ明らかにされておらず、糖尿病やインスリン抵抗性との関連についても報告されてはいない。
特開昭60−051189公報 特開昭61−267580号公報 欧州特許第193,256号明細書 米国特許第4,687,777号明細書 特表平9−512249号公報 国際公開第95/21608号パンフレット 米国特許第5,002,953号明細書 国際公開第00/8002号パンフレット 国際公開第95/18125号パンフレット 欧州特許出願公開第684,242号明細書
米国特許第5,728,720号明細書 国際公開第99/62872号パンフレット 欧州特許出願公開第1,084,103号明細書 米国特許第6,258,850号明細書 特開平6−247945号公報 欧州特許出願公開第604,983号明細書 米国特許第5,594,016号明細書 国際公開第94/25448号パンフレット 欧州特許第696,585号明細書 米国特許第5,643,931号明細書
特開平10−87641号公報 米国特許第5,948,803号明細書 特開昭64−56675号公報 欧州特許第283,035号明細書 米国特許第4,897,393号明細書 特開平9−100280号公報 欧州特許出願公開第787,725号明細書 米国特許第5,693,651号明細書 国際公開第99/19313号パンフレット 米国特許第6,054,453号明細書
国際公開第01/21602号パンフレット 欧州特許出願公開第745,600号明細書 特開平9−295970号公報 米国特許第5,886,014号明細書 特開昭60−051189号公報
「ライフ・サイエンス (Life Science)」 2000;67:p2405-2416 「日本臨床」 2000;58:p389-404 「ファーマコセラピー (Pharmacotherapy)」 2001;21:p.1082-1099 「エンドクライノロジー (Endocrinology)」 1996;137:p.1984-1990 「エンドクライノロジー (Endocrinology)」 1998;139:p.5034-5041 「ネイチャー (Nature)」 1994;372:p.425-432 「ネイチャー (Nature)」 1998;395:p.763-770 「ネイチャー (Nature)」 1997;389:p.610-614 「ネイチャー (Nature)」 2001;409:p.307-312 「ネイチャー・メディスン (Nature Medicine)」 2001;7:p.941-946
「ネイチャー・メディスン (Nature Medicine)」 2001;7:p.947-953 「サイエンス (Science)」 1993;259:p.87-91 「エンドクライノロジー (Endocrinology)」 1994;134:p.264-270 「ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー (Journal of Biological Chemistry)」 1996;271:p.10697-10703 「バイオケミストリー・アンド・バイオフィジックス・リサーチ・コミュニケーション (Biochemistry and Biophysics Research Communication)」 1999;257:p.79-83 「ネイチャー・メディスン (Nature Medicine)」 2001;7:p.941-946 「ネイチャー・メディスン (Nature Medicine)」 2001;7:p.947-953 「ヌクレイックアシッドリサーチ(Nucleic Acids Research)」 1986;25;14(22):p.8879-8892
 本発明は、インスリン抵抗性改善剤の標的遺伝子を見出し、該遺伝子やその産物を利用することにより、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価用キット、およびインスリン抵抗性改善剤を提供することを目的とする。
 本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、インスリン抵抗性改善剤を投与した糖尿病モデルマウスで、アディプシンの発現が顕著に誘導されることを見出した。さらに、当該マウスの肝臓でアディプシンを過剰発現させると、血糖値および血中インスリン値が低下し、インスリン抵抗性改善の兆候が現れることを見出した。これらの結果から、本発明者らは、アディプシンはインスリン抵抗性やその改善の指標となることを見出し、本発明を完成するに至った。
 すなわち、本発明は、被験物質の投与条件下における検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を指標として、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する方法を提供する。
 前記方法において、評価は、被験物質の投与および非投与条件下における、検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量との比較することにより行ってもよい。
 一つの実施態様[I]において、本発明の方法は下記の工程を含む。
1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
2)上記動物の血液または細胞中におけるアディプシン遺伝子の発現量を検出する;
3)被験物質の投与または非投与条件下における、アディプシン遺伝子の発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
 ここで、前記工程2)は、さらに、血液または細胞中より全RNAを抽出する工程を含み、この全RNAよりアディプシン遺伝子の発現量を検出してもよい。
 前記アディプシン遺伝子の発現量は、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出することができ、特にRT-PCR法、リアルタイムPCR法が好ましい。
 また、別な実施態様[II]において、本発明の方法は下記の工程を含む。
1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する
2)上記動物の血液または細胞中におけるアディプシンの発現量を、該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する;
3)被験物質の投与または非投与条件下における、アディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
 ここで、前記アディプシンの発現量は、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出することができ、特にウェスタンブロット法が好ましい。
 前記態様[I]および態様[II]において、細胞は肝臓細胞を用いることが好ましい。また、動物は2型糖尿病モデル動物、特に2型糖尿病モデルマウスを用いることが好ましい。
 さらに、別な実施態様[III]において、本発明の方法は下記の工程を含む。
1)細胞を被検物質の投与または非投与条件下で培養する;
2)上記細胞中のアディプシン遺伝子の発現量を検出するか、または、アディプシンの発現量を該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する;
3)被検物質の投与または非投与条件下における、アディプシン遺伝子またはアディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
 本発明は、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価用キットを提供する。該キットは、下記のa)〜e)からなる群より選ばれる、少なくとも一つ以上を含む、
a)アディプシン遺伝子(配列番号1または配列番号12)を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
b)アディプシン遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
d)アディプシン(配列番号2または配列番号13)に特異的に結合し、該アディプシンを検出するための抗体
e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
 さらに、本発明は、ヒト・アディプシンまたはヒト・アディプシン遺伝子を含む、インスリン抵抗性改善剤を提供する。
 本発明により、アディプシンがインスリン抵抗性やその改善を評価するための新たな指標となりうることが示された。該アディプシンやアディプシン遺伝子の発現を指標とすれば、インスリン抵抗性改善剤の簡便なスクリーニングを行うことができる。また、該アディプシンやアディプシン遺伝子をインスリン抵抗性を有する患者に投与することにより、インスリン抵抗性の治療を行うこともできる。
 本発明は、検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を指標とした、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法およびインスリン抵抗性改善剤に関する。
1. アディプシン
1.1 アディプシンとインスリン抵抗性
 本発明にかかる「アディプシン」とは、主に哺乳類の脂肪細胞で大量に産生される分泌タンパクの1つであって、補体因子D(complement factor D)のホモログであることが報告されている(White RT et al, J. Biol. Chem. 1992, May 5, 267(13) 9210-9213)。
 本発明で用いられるアディプシンやアディプシン遺伝子の由来は特に限定されないが、哺乳動物由来のものが好ましく、霊長類、ゲッ歯動物由来のものがより好ましく、特にその機能やアミノ酸配列および塩基配列がよく研究されている、ヒト・アディプシンおよびマウス・アディプシンが最も好ましい。
 後述する実施例に示すように、本発明者らはインスリン抵抗性改善剤を投与した2型糖尿病モデル動物において、アディプシン遺伝子の発現が顕著に、しかも用量依存的に増加することを確認した。さらに、当該マウスでアディプシンを過剰発現させると、インスリン抵抗性の改善がみられることを確認した。これらの結果は、アディプシンやその遺伝子の発現量が、インスリン抵抗性やその改善を評価する指標となりうることを示すものである。
1.2 アディプシンタンパク
 アディプシンは、シグナルペプチドを含む前駆体として転写され、該シグナルペプチド部分が切り離された後、成熟タンパクとして分泌される。本発明にかかるアディプシンタンパクのうち、ヒト・アディプシンのアミノ酸配列(シグナルペプチド含む)を配列番号2に示すが、この配列に限定されず、該配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加された配列で示されるペプチドもヒト・アディプシンとしての機能を有する限り、本発明のヒト・アディプシンに含まれる。同様に、マウス・アディプシンのアミノ酸配列を配列番号13に示すが、この配列に限定されず、該配列において1または数個のアミノ酸が欠失、置換または付加された配列で示されるペプチドもマウス・アディプシンとしての機能を有する限り、本発明のマウス・アディプシンに含まれる。
 なお、本明細書中において、「アディプシン」という用語には、シグナルペプチドを有する前駆体とシグナルペプチドを有しない成熟タンパクのいずれをも含むものとする。
1.3 アディプシン遺伝子
 本発明にかかるアディプシン遺伝子のうち、ヒト・アディプシンをコードするmRNAの配列を配列番号1に示すが、この配列に限定されず、ヒト・アディプシンをコードする限り、その遺伝子は本発明のヒト・アディプシン遺伝子に含まれる。同様に、マウス・アディプシンをコードするmRNAの配列を配列番号12に示すが、マウス・アディプシンをコードする限り、その遺伝子は本発明のマウス・アディプシン遺伝子に含まれる。
 なお、本明細書中において、「遺伝子」という用語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNAおよびcRNAも含まれるものとする。したがって、本発明にかかる「アディプシン遺伝子」には、アディプシンのDNA、mRNA、cDNA、およびcRNAの全てが含まれる。
2 インスリン抵抗性改善効果を評価する方法
 本発明は、被験物質の投与条件下における検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を指標として、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する方法を提供する。
 前記方法は、1つの被験物質について、その投与および非投与条件下における、検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を比較して評価するものであってもよいし、2つ以上の被験物質についての同様な比較評価であってもよい。あるいは、アディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量とインスリン抵抗性改善効果の相関が経験的に確立されれば、その関係に基づき、被験物質のインスリン抵抗性改善効果を比較対照なしに絶対評価してもよい。
 本発明の評価方法において、インスリン抵抗性改善効果は、アディプシンの発現量を指標として評価してもよいし、アディプシン遺伝子の発現量を指標として評価しても良い。また、評価系は動物を用いたin vivo系であってもよいし、培養細胞を用いたin vitro系であってもよい。
 本発明の方法において、「検体」とは、培養細胞やその抽出物、あるいは動物から単離された血液、体液、組織、細胞、排泄物またはそれらの抽出物等、本発明のアディプシン遺伝子が含まれる試料を意味する。特に検体としては、血液またはアディプシンやその遺伝子が高発現している細胞が好ましく、脂肪細胞や肝臓細胞が最も好ましい。
 また、被験物質の「投与」とは、生物への投与や培養液への添加など、被験物質が検体中に存在する状態を作り出すことの全てを含むものとする。
 以下、アディプシン遺伝子を指標とした評価方法とアディプシン(タンパク)を指標とした評価方法のそれぞれについて、具体的に説明する。
2.1 アディプシン遺伝子を指標とした被験物質の評価方法(in vivo系)
 アディプシン遺伝子を指標としたin vivoにおける被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法は、下記の工程を含むことが好ましい。
工程1:動物を被験物質の投与または非投与の条件で飼育する。
工程2:上記動物の血液または細胞中におけるアディプシン遺伝子の発現量を検出する。
工程3:被験物質の投与または非投与条件下における、アディプシン遺伝子の発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
工程1:動物の飼育
 本発明の方法で用いられる「動物」は特に限定されないが、インスリン抵抗性を呈する2型糖尿病モデル動物が好ましい。そのような動物は市販のものであっても、公知の方法にしたがって作製されたものでもよい。市販の2型糖尿病モデル動物としては、例えば、KKマウス(例えば、KK/Taマウス、KK/Sanマウス等)、KK-Ayマウス(例えば、KK-Ay/Taマウス等)、C57BL/KsJ-db/dbマウス、C57BL/KsJ-db/+mマウス、C57BL/KsJ-+m/+m マウス、ob/obマウス等の2型糖尿病モデルマウス、およびGKラット等の2型糖尿病モデルラット等を挙げることができる。これらのマウスやラットは、例えば、日本クレア株式会社より購入することができる。
 前記動物は、被験物質の投与または非投与条件下で適当な期間飼育を行う。動物への被験物質の投与量は特に限定されず、被験物質の性状や動物の体重に合わせて、適宜用量を設定すればよい。また、動物への被験物質の投与方法および投与期間も特に限定されず、被験物質の性状に合わせて、適宜その投与経路と投与期間を設定すればよい。
工程2:アディプシン遺伝子の検出
 次に、被験物質の投与または非投与条件下で飼育された動物から血液または細胞を単離し、該血液または細胞中のアディプシン遺伝子の発現量を検出する。
 検出対象とする細胞としては、アディプシンやその遺伝子が高発現している細胞が好ましく、脂肪細胞や肝臓細胞が最も好ましい。
 アディプシン遺伝子の検出方法としては、例えば、単離された血液または細胞からまず全RNAを抽出し、該全RNA中におけるアディプシン遺伝子(mRNA)の発現量を検出する方法を挙げることができる。
(1)全RNAの抽出
 全RNAの抽出は、公知の方法にしたがい、単離された血液または細胞よりRNA抽出用溶媒を用いて抽出する。該抽出溶媒としては、例えば、フェノール等のリボヌクレアーゼを不活性化する作用を有する成分を含むもの(例えば、TRIzol試薬:ギブコ・ビーアールエル社製等)が好ましい。RNAの抽出方法は特に限定されず、例えば、チオシアン酸グアニジン・塩化セシウム超遠心法、チオシアン酸グアニジン・ホットフェノール法、グアニジン塩酸法、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法(Chomczynski, P. and Sacchi, N., (1987) Anal. Biochem., 162, 156-159)等を採用することができる。なかでも、酸性チオシアン酸グアニジン・フェノール・クロロホルム法が好適である。
 抽出された全RNAは、必要に応じてさらにmRNAのみに精製して用いてもよい。精製方法は特に限定されないが、真核細胞の細胞質に存在するmRNAの多くは、その3’末端にポリ(A)配列を持つため、この特徴を利用して、例えば、以下のように実施することができる。まず、抽出した全RNAにビオチン化オリゴ(dT)プローブを加えてポリ(A)+RNAを吸着させる。次に、ストレプトアビジンを固定化した常磁性粒子担体を加え、ビオチン/ストレプトアビジン間の結合を利用して、ポリ(A)+RNAを捕捉させる。洗浄操作の後、最後にオリゴ(dT)プローブからポリ(A)+RNAを溶出する。この方法のほか、オリゴ(dT)セルロースカラムを用いてポリ(A)+RNAを吸着させ、これを溶出して精製する方法も採用してもよい。溶出されたポリ(A)+RNAは、さらに、ショ糖密度勾配遠心法等により分画してもよい。
(2)アディプシン遺伝子の検出
 次に、被験物質の投与または非投与条件下における、全RNA中のアディプシン遺伝子の発現量を検出する。遺伝子の発現量は、得られた全RNAよりcRNAまたはcDNAを調製し、これを適当な標識化合物でラベルすることにより、そのシグナル強度として検出することができる。
 以下、遺伝子の発現量の検出方法について、i)固相化試料を用いた解析方法、ii)RT−PCR法(リアルタイムPCR法)、iii)その他の解析方法に分けて、具体的に説明する。
i)固相化試料を用いた解析方法
 公知の遺伝子を固定した固相化試料に、投与または非投与条件下における標識したcDNAまたはcRNA(以下、「標識プローブ」という。)を、同じ条件で別個に、あるいは混合して同時にハイブリダイズさせる(Brown, P. O. et al. (1999) Nature genet. 21, suppliment、33-37)。前記標識プローブは、アディプシンのmRNAクローンでも、発現している全てのmRNAを標識したものでもよい。プローブ作製のための出発材料としては、精製していないmRNAを用いてもよいが、前述の方法で精製したポリ(A)+RNAを用いることがより好ましい。以下、各種固相化試料を用いた解析方法について説明する。
a)遺伝子チップ:
 本発明で用いられる遺伝子チップは、検出対象であるアディプシン遺伝子が固相化されているものであれば、市販のものであっても、公知の方法(Lipshutz, R. J. et al. (1999) Nature genet. 21, suppliment、20-24)に基づき作製されたものであってもよい。例えば、マウス・アディプシン遺伝子が固定化されたものとしては、アフィメトリクス社製マウスMG-U74(U74A,U74B,U74C)等を挙げることができる。
 遺伝子チップによる検出は、常法にしたがって実施することができる。例えば、アフィメトリクス社製チップを用いる場合であれば、製品に添付されたプロトコールにしたがい、ビオチン標識したcRNAプローブを調製する。次いで、該プロトコールにしたがいハイブリダイゼーションを行い、アビジンによる発光を検出、解析すれば遺伝子の発現量を求めることができる。
b)アレイまたはメンブレンフィルター:
 本発明で用いられるアレイまたはメンブレンフィルターは、検出対象であるアディプシン遺伝子が固相化されているものであれば、市販のもの(例えば、インテリジーン:宝酒造社製、アトラスシステム:クローンテック社製等)であっても、公知の方法に基づいて作製されたものであってもよい。固相化される遺伝子は、GenBank等の配列情報をもとに作製されたプライマーで逆転写酵素反応やPCRを実施することによりクローン化されたcDNAまたはRT−PCR産物を用いる。
 アレイを用いた検出では、逆転写酵素反応でポリ(A)+RNAからcDNAを作製する際に、蛍光色素(例えば、Cy3、Cy5等)で標識されたd−UTP等を加えることにより標識プローブを調製する。このとき、被験物質の投与下におけるポリ(A)+RNAと被験物質の非投与下におけるポリ(A)+RNAをそれぞれ異なる色素で標識しておけば、後のハイブリダイゼーション時に両者を混合して用いることができる。蛍光シグナルは蛍光シグナル検出機を用いて検出する。例えば、宝酒造社の市販アレイであれば、同社のプロトコールにしたがい、ハイブリダイゼーションおよび洗浄を行い、蛍光シグナル検出機(例えば、GMS418アレイスキャナー:宝酒造社製等)で蛍光シグナルを検出、解析する。
 メンブレンフィルターを用いた検出では、逆転写酵素反応でポリ(A)+RNAからcDNAを作製する際に、放射性同位元素(例えば、32P、33P)で標識されたd−CTP等を加えることにより標識プローブを調製し、常法によりハイブリダイゼーションを行う。例えば、市販のフィルター製マイクロアレイである、アトラスシステム(クローンテック社製)を用いてハイブリダイゼーションおよび洗浄を行った後、解析装置(例えば、アトラスイメージ:クローンテック社製等)を用いて検出、解析を行う。
 いずれの固相化試料を用いる場合も、被験物質の投与または非投与条件下のプローブをそれぞれハイブリダイズさせ、その遺伝子発現量の相違を検出する。このとき、使用するプローブ以外のハイブリダイゼーション条件は同じにする。前述したように、蛍光標識プローブの場合は、それぞれのプローブを異なる蛍光色素で標識しておけば一つの固相化試料に両プローブの混合物を一度にハイブリダイズさせて蛍光強度を読み取ることで、遺伝子発現量の相違を検出することができる(Brown, P. O. et al. (1999) Nature genet. 21, suppliment、33-37)。
ii)RT−PCR法(リアルタイムPCR法)
 RT−PCR法やその1つであるリアルタイムPCR(TaqMan PCR)法は微量なDNAを高感度かつ定量的に検出できるという点で本発明の評価方法に好適である。リアルタイムPCR(TaqMan PCR)法では、5’端を蛍光色素(レポーター)で、3’端を蛍光色素(クエンチャー)で標識した、目的遺伝子の特定領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブが使用される。該プローブは、通常の状態ではクエンチャーによってレポーターの蛍光が抑制されている。この蛍光プローブを目的遺伝子に完全にハイブリダイズさせた状態で、その外側からTaq DNAポリメラーゼを用いてPCRを行う。Taq DNAポリメラーゼによる伸長反応が進むと、そのエキソヌクレアーゼ活性により蛍光プローブが5’端から加水分解され、レポーター色素が遊離し、蛍光を発する。リアルタイムPCR法は、この蛍光強度をリアルタイムでモニタリングすることにより、鋳型DNAの初期量を正確に定量することができる。
 例えば、本発明の場合であれば、マウス・アディプシン遺伝子(mRNA)を特異的に増幅するプライマー(例えば、配列番号4および配列番号5に示される塩基配列からなるプライマー)、およびマウス・アディプシン遺伝子を特異的に検出するためのプローブ(例えば、配列番号6に示される塩基配列からなるプローブ)を設計し、リアルタイムPCR(TaqMan PCR)を行う。被験物質の投与条件下でのアディプシン遺伝子の発現量が非投与条件下より著しく増加していれば、該被験物質はインスリン抵抗性改善効果を有すると評価できる。
iii)その他の解析方法
 上記以外に、遺伝子発現量を解析する方法としては、例えば、サブトラクション法(Sive, H. L. and John, T. St. (1988) Nucleic Acids Research 16, 10937、Wang, Z., and Brown, D. D. (1991) Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 88, 11505-11509)、ディファレンシャル・ディスプレイ法(Liang, P., and Pardee, A. B. (1992) Science 257, 967-971、Liang, P., Averboukh, L.,Keyomarsi, K., Sager, R., and Pardee, A. B. (1992) Cancer Research 52, 6966-6968)、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法(John, T. St., and Davis, R. W. Cell (1979) 16, 443-452)、また、適当なプローブを用いたクロスハイブリダイゼーション法("Molecular Cloning, A Laboratory Manual" Maniatis, T., Fritsch, E.F., Sambrook, J. (1982) Cold Spring Harbor Laboratory Press)等を挙げることができる。上記方法は、アディプシン遺伝子に加えて、被験物質の投与条件下で特異的に発現する他の遺伝子の発現プロファイルも併せて検討する場合に有用である。
a)サブトラクションクローニング法:
 特定の細胞に特異的に発現する遺伝子のcDNAを取得し、該cDNAをプローブとしてcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより遺伝子をクローニングする方法である。サブトラクションの方法としては、全RNAから一本鎖cDNAを作製し、これと別の細胞から得られた全RNAをハイブリダイズさせた後、ハイドロキシアパタイトカラムでハイブリダイズしなかった一本鎖DNAを単離し、このcDNAからcDNAライブラリーを作製する方法(バイオマニュアルシリーズ3、遺伝子クローニング実験法、羊土社 (1993)、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー)や、cDNAライブラリーをまず作製し、このライブラリーからヘルパーファージ等を用いて一本鎖DNAを調製し、この一本鎖DNAと別の細胞から得られた全RNAにビオチン標識したものとをハイブリダイズさせた後、アビジンを利用してハイブリダイズしなかった一本鎖DNAを単離し、DNAポリメラーゼによって二本鎖に戻してcDNAライブラリーを作製する方法(Tanaka, H., Yoshimura, Y., Nishina, Y., Nozaki, M., Nojima, H., and Nishimune, Y. (1994) FEBS Lett. 355, 4-10)等が挙げられる。
 具体的には、まず被験物質の投与または非投与条件下の検体それぞれについてmRNAまたは全RNAを精製し、投与条件下の検体から精製した全RNAを鋳型とし、逆転写酵素でcDNAを合成する。合成時に[α-32P]dNTPを加えることでcDNAを標識することもできる。標識されたcDNAと鋳型となった全RNAは安定な二本鎖DNA-RNAハイブリッドを形成しているが、アルカリ存在下で高温処理することによりRNAのみを分解し一本鎖cDNAを生成する。この一本鎖cDNAと、非投与条件下の検体から抽出したRNAとを混合し、適当な条件下で静置すると、ヌクレオチド配列の相補性より安定な二本鎖DNA-RNAハイブリッドを形成する。すなわち、非投与条件下でも発現している全RNAを鋳型とするcDNAはハイブリッドを形成するが、投与条件下でのみ特異的に発現しているRNAを鋳型としたcDNAは一本鎖のままである。次いで、ハイドロキシアパタイトカラムで二本鎖DNA-RNAハイブリッドと一本鎖cDNAとを分離し、一本鎖cDNAのみを精製する。このステップを繰り返すことで目的とした組織に特異的なcDNAを濃縮することができる。濃縮された特異的cDNAは放射性同位元素等で標識されている場合は、cDNAライブラリーをスクリーニングするプローブとして使用することができる。なお、この操作は市販のキット(例えば、PCRセレクトcDNAサブトラクションキット:クローンテック社製等)を利用して行うこともできる。
b)ディファレンシャル・ディスプレイ法:
 Liangらの方法(Science (1992) 257, 967-971)に準じ、例えば、以下のように実施できる。まず比較する2つの試料(本発明の場合は被験物質の投与または非投与条件下の検体)からmRNAまたは全RNAを抽出し、逆転写酵素を用いてこれを一本鎖cDNAに変換する。次いで、得られた一本鎖cDNAを鋳型として、適当なプライマーを用いてPCRを行う。プライマーとしては、例えば、ランダムプライマー(任意の配列からなる約10〜12merのプライマー)を用いることができる。あるいは、アンカードプライマー(anchored primer)およびアービトラリープライマー(arbitrary primer)各一種ずつを組み合わせて用いてもよい。アンカードプライマーとしては、オリゴd(T)nVX[n=11〜12;V=グアニン、アデニンまたはシトシン;X=グアニン、アデニン、チミンまたはシトシン]からなるプライマーを用いることができる。また、アービトラリープライマーとしては、任意の配列からなる約10merのランダムプライマーを用いることができる。このようなPCRを、種々のプライマーを組み合わせて行うことで、より広い範囲の遺伝子群をスクリーニングすることが可能となる。続いて、得られたPCR産物をゲル電気泳動し、ゲル上に展開(ディスプレイ)される全RNAの発現パターン(フィンガープリント)を比較解析することにより、いずれかの検体で特異的に発現している遺伝子(アディプシン遺伝子)を選択し、そのcDNA断片を単離することができる。なお、この方法は、市販されているキット(例えば、RNAイメージ・キット:ジェンハンター社製等)を用いて行うこともできる。
c)ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法:
 目的の組織から精製した全RNAから作製したcDNAライブラリーを、目的組織および対照組織の全RNAから合成した32P標識cDNAプローブでスクリーニングし、目的組織のプローブとのみハイブリダイズするクローンを選択する方法である。例えば、まず非投与条件下の検体から精製した全RNAから常法に従いcDNAライブラリーを作製し、そのライブラリーから2組のレプリカフィルターを作製する。次に、該非投与条件下の検体から精製した全RNAを鋳型として、逆転写酵素でcDNAを合成する。合成時に[α-32P]dNTPを加えることでcDNAを標識する。標識されたcDNAと鋳型となった全RNAは安定な二本鎖DNA-RNAハイブリッドを形成しているが、アルカリ存在下で高温処理することにより全RNAのみを分解し、一本鎖cDNAを精製する。同様に、被験物質投与条件下の検体から精製した全RNAを鋳型に32Pで標識された一本鎖cDNAを作製する。両標識cDNAをそれぞれプローブとして、非投与条件下の検体から作製したフィルターとハイブリダイゼーションを行う。X線フィルムのオートラジオグラフィー像を比較し、投与または非投与条件下のcDNAプローブの一方にのみハイブリダイズするクローンを選ぶことにより、被験物質の投与条件下で特異的に発現する遺伝子(アディプシン遺伝子)をクローニングすることができる。
d)クロスハイブリダイゼーション法:
 被験物質の投与または非投与条件下の検体のいずれかに由来するcDNAライブラリーに対して、適当なDNAをプローブとして、ストリンジェンシーの低い条件でハイブリダイゼーションを行い、陽性クローンを得る。得られた陽性クローンをプローブとして、それぞれの検体に由来する全RNAに対してノーザンハイブリダイゼーションを行い、一方にのみ発現しているクローンを選択する。
 こうして得られたcDNAをプローブとして、投与または非投与条件下の検体の全RNAに対してノーザンブロッティングを行い、選択した遺伝子(アディプシン遺伝子)の全RNAが、投与条件下で特異的に発現していることを確認できる。
工程3:インスリン抵抗性改善効果の評価
 最後に、被験物質の投与または非投与における、アディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
 すなわち、被験物質の投与条件下で非投与条件下よりもアディプシン遺伝子の発現量が有意に増加している場合、該被験物質はインスリン抵抗性改善効果を有すると評価できる。ここで、「有意に増加している」とは、例えば、被験物質の投与および非投与条件下でのアディプシン遺伝子の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
2.2 アディプシンを指標とした被験物質の評価方法(in vivo)
 アディプシンを指標としたin vivoにおける被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価は、下記の工程を含む方法であることが好ましい。
工程1:動物を被験物質の投与または非投与の条件下で飼育する。
工程2:上記動物の血液または細胞中におけるアディプシンの発現量を、該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する。
工程3:被験物質の投与または非投与における、アディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
工程1:動物の飼育
 動物は、前項2.1に記載した方法にしたがい、被験物質の投与または非投与の条件下で飼育する。
工程2:アディプシン発現量の検出
 次に、上記動物の血液または細胞中におけるアディプシンの発現量を、該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する。
 抗体を利用したアディプシンの検出方法は特に限定されないが、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか1の方法であることが好ましい。以下、これらの検出方法について、試料の調製から検出までを具体的に説明する。
(1)試料の調製
 検体としては、血液またはアディプシンやその遺伝子が高発現している細胞が好ましく、脂肪細胞や肝臓細胞が最も好ましい。これらの血液または細胞(細胞抽出液として使用する)は、必要に応じて高速遠心を行うことにより不溶性の物質を除去した後、以下のようにELISA/RIA用試料やウエスタンブロット用試料として調製する。
 ELISA/RIA用試料は、例えば、回収した血清をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカトルエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、または緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
(2)試料の固相化
 上記方法では、まず、アディプシンが含まれる試料中のポリペプチドをメンブレンあるいは96穴プレートのウェル内底面等に固相化する。
 メンブレンに固相化する方法としては、試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動を経てメンブレンにポリペプチドを転写する方法(ウエスタンブロット法)と、直接メンブレンに試料またはその希釈液を染み込ませる方法(ドットブロット法やスロットブロット法)を挙げることができる。用いられるメンブレンとしては、ニトロセルロースメンブレン(例えば、バイオラッド社製等)、ナイロンメンブレン(例えば、ハイボンド−ECL(アマシャム・ファルマシア社製)等)、コットンメンブレン(例えば、ブロットアブソーベントフィルター(バイオラッド社製)等)またはポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)メンブレン(例えば、バイオラッド社製等)等を挙げることができる。また、ブロッティング方法としては、ウエット式ブロッティング法(CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY volume 2 ed by J. E. Coligan, A. M. Kruisbeek, D. H. Margulies, E. M. Shevach, W. Strober)、セミドライ式ブロッティング法(上記CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY volume 2 参照)等を挙げることができる。
 一方、96穴プレートに固相化する方法としては、固相酵素免疫定量法(ELISA法)や放射性同位元素免疫定量法(RIA法)等を挙げることができる。固相化は、例えば、前記96穴プレート(例えば、イムノプレート・マキシソープ(ヌンク社製)等)に試料またはその希釈液(例えば、0.05% アジ化ナトリウムを含むリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」という)で希釈したもの)を入れて4℃〜室温で一晩、または37℃で1〜3時間静置して、ウエル底面にポリペプチドを吸着させればよい。
(3)アディプシンに特異的に結合する抗体(抗アディプシン抗体)
 本工程で用いられる「アディプシンに特異的に結合する抗体(以下、「抗アディプシン抗体」という。)」は、公知の方法にしたがって調製してもよいし、市販のもの(例えば、抗マウスアディプシン抗体p−16、サンタクルズ社製等)を用いてもよい。
 前記抗体は、常法により(例えば、新生化学実験講座1、タンパク質1、p.389-397、1992)、抗原となるアディプシン、あるいはそのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、本発明のアディプシンに対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得ることもできる。
 抗体作製用の抗原としては、本発明のアディプシンまたはその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体を挙げることができる。なかでも、本発明のアディプシンのN末端に、キーホールリンペットヘモシアニンを担体として結合させたものが好ましい。
 前記抗原ポリペプチドは、本発明のアディプシンを遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。具体的には、本発明のアディプシン遺伝子の発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させればよい。
 前記宿主細胞としては、原核細胞であれば、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)等が挙げられる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。該ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与しうる配列を有するものが好ましい。
 例えば、大腸菌であれば、K12株等がよく用いられ、ベクターとしては、一般にpBR322やpUC系のプラスミドが用いられるが、これらに限定されず、公知の各種菌株やベクターを使用できる。また、大腸菌で用いられるプロモーターとしては、例えば、トリプトファン(trp)プロモーター、ラクトース(lac)プロモーター、トリプトファン・ラクトース(tac)プロモーター、リポプロテイン(lpp)プロモーター、ポリペプチド鎖伸張因子Tu(tufB)プロモーター等を挙げることができ、いずれも好適に用いることができる。
 また、枯草菌であれば、207−25株が好ましく、ベクターとしてはpTUB228(Ohmura, K. et al. (1984) J. Biochem. 95, 87-93)等が用いられるが、これに限定されるものではない。なお、ベクターに枯草菌のα−アミラーゼのシグナルペプチド配列をコードするDNA配列を連結することにより、菌体外での分泌発現も可能となる。
 真核細胞の宿主細胞としては、脊椎動物、昆虫、酵母等の細胞が挙げられる。脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman, Y. (1981) Cell 23, 175-182、ATCC CRL−1650)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL−61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub, G. and Chasin, L. A. (1980) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77, 4126-4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
 脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現させようとする遺伝子の上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列等を有するものを使用できる。さらに、これは必要により複製起点を有してもよい。該発現ベクターの例としては、サイトメガロウイルス初期プロモーターを有するpCR3.1(Invitrogen社製)、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani, S. et al. (1981) Mol. Cell. Biol. 1, 854-864)等が挙げられるが、これらに限定されない。
 宿主細胞として、COS細胞を用いる場合を例に挙げると、発現ベクターとしては、SV40複製起点を有し、COS細胞において自立増殖が可能であり、さらに、転写プロモーター、転写終結シグナル、およびRNAスプライス部位を備えたものを好適に用いることができる。該発現ベクターは、ジエチルアミノエチル(DEAE)−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G. (1983) Nucleic Acids Res, 11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Eb, A. J. (1973) Virology 52, 456-457)、および電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al. (1982) EMBO J. 1, 841-845)等によりCOS細胞に取り込ませることができ、かくして所望の形質転換細胞を得ることができる。
 また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、発現ベクターと共に、抗生物質G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現し得るベクター、例えば、pRSVneo(Sambrook, J. et al. (1989) : "Molecular Cloning A Laboratory Manual" Cold Spring Harbor Laboratory, NY)やpSV2neo(Southern, P. J. and Berg, P. (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1, 327-341)等をコ・トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、目的のポリペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。
 昆虫細胞を宿主細胞として用いる場合には、鱗翅類ヤガ科のSpodoptera frugiperdaの卵巣細胞由来株化細胞(Sf−9またはSf−21)やTrichoplusia niの卵細胞由来High Five細胞(Wickham, T. J. et al, (1992) Biotechnol. Prog.i: 391-396)等が宿主細胞としてよく用いられ、バキュロウイルストランスファーベクターとしてはオートグラファ核多角体ウイルス(AcNPV)のポリヘドリンタンパクのプロモーターを利用したpVL1392/1393がよく用いられる(Kidd,i. M. and V.C. Emery (1993) The use of baculoviruses as expression vectors. Applied Biochemistry and Biotechnology 420, 137-159)。この他にも、バキュロウイルスのP10や同塩基性蛋白質のプロモーターを利用したベクターも使用できる。さらに、AcNPVのエンベロープ表面蛋白質GP67の分泌シグナル配列を目的蛋白質のN末端側に繋げることにより、組換え蛋白質を分泌蛋白質として発現させることも可能である(Zhe-mei Wang, et al. (1998) Biol. Chem., 379, 167-174)。
 真核微生物を宿主細胞とした発現系としては、酵母が一般によく知られており、その中でもサッカロミセス属酵母、例えば、パン酵母Saccharomyces cerevisiaeや石油酵母Pichia pastorisが好ましい。該酵母等の真核微生物の発現ベクターとしては、例えば、アルコール脱水素酵素遺伝子のプロモーター(Bennetzen, J. L. and Hall, B. D. (1982) J. Biol. Chem. 257, 3018-3025)や酸性フォスファターゼ遺伝子のプロモーター(Miyanohara, A. et al. (1983) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 1-5)等を好ましく利用できる。また、分泌型蛋白質として発現させる場合には、分泌シグナル配列と宿主細胞の持つ内在性プロテアーゼあるいは既知のプロテアーゼの切断部位をN末端側に持つ組換え体として発現させることも可能である。例えば、トリプシン型セリンプロテアーゼのヒトマスト細胞トリプターゼを石油酵母で発現させた系では、N末端側に酵母のαファクターの分泌シグナル配列と石油酵母の持つKEX2プロテアーゼの切断部位をつなぎ発現させることにより、活性型トリプターゼが培地中に分泌されることが知られている(Andrew, L. Niles,et al. (1998) Biotechnol.Appl. Biochem. 28, 125-131)。
 上記のようにして得られる形質転換体は、常法にしたがい培養することができ、該培養により細胞内、または細胞外に目的のポリペプチドが産生される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択できる。例えば、上記COS細胞であれば、RPMI1640培地やダルベッコ変法イーグル培地(以下「DMEM」という)等の培地に、必要に応じウシ胎児血清等の血清成分を添加したものを使用できる。
 上記培養により、形質転換体の細胞内または細胞外に産生される組換え蛋白質は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質等を利用した公知の分離操作法により、分離・精製することができる。該方法としては、例えば、タンパク沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等の各種液体クロマトグラフィー、透析法、を単独あるいは組合せて利用できる。また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンを繋げれば、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。目的とするアディプシンタンパクは、以上に記載した方法を適宜組み合わせることにより、容易に高収率、高純度で製造できる。
(4)検出
 上記(3)記載の方法で得られる抗アディプシン抗体は、それを直接標識するか、または該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
 前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)またはビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(または標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(またはストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
 これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原であるアディプシンの発現量が測定される。アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
 発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
 一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルムまたはイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
(5)測定操作
a)ウエスタンブロット、ドットブロットまたはスロットブロットの場合
 まず、抗体の非特異的吸着を阻止するため、予めメンブレンをそのような非特異的吸着を阻害する物質(スキムミルク、カゼイン、ウシ血清アルブミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン等)を含む緩衝液中に一定時間浸しておく操作(ブロッキング)を行う。ブロッキング溶液の組成は、例えば、5% スキムミルク、0.05〜0.1% ツイーン20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはトリス緩衝生理食塩水(TBS)が用いられる。スキムミルクの代わりに、ブロックエース(大日本製薬)、1〜10%のウシ血清アルブミン、0.5〜3%のゼラチンまたは1%のポリビニルピロリドン等を用いてもよい。ブロッキングの時間は、4℃で16〜24時間、または室温で1〜3時間である。
 次に、メンブレンを0.05〜0.1% ツイーン20を含むPBSまたはTBS(以下「洗浄液」という)で洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、ブロッキング溶液で適宜希釈した溶液中に抗アディプシン抗体を一定時間浸して、メンブレン上の抗原に該抗体を結合させる。このときの抗体の希釈倍率は、例えば、前記組換え抗原を段階希釈したものを試料とした予備的なウエスタンブロッティング実験を行って決定することができる。この抗体反応操作は、好ましくは室温で2時間行う。抗体反応操作終了後、メンブレンを洗浄液で洗浄する。ここで、用いた抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識の抗体を用いた場合には、引き続き二次抗体反応を行う。標識二次抗体は、例えば、市販のものを使用する場合はブロッキング溶液で2000〜20000倍に希釈して用いる(添付の指示書に好適な希釈倍率が記載されている場合は、その記載に従う)。一次抗体を洗浄除去した後のメンブレンを二次抗体溶液に室温で45分〜1時間浸し、洗浄液で洗浄してから、標識方法に合わせた検出操作を行う。洗浄操作は、例えば、まずメンブレンを洗浄液中で15分間振盪してから、洗浄液を新しいものに交換して5分間振盪した後、再度洗浄液を交換して5分間振盪することにより行う。必要に応じてさらに洗浄液を交換して洗浄してもよい。
b)ELISA/RIA
 まず、試料を固相化させたプレートのウェル内底面への抗体の非特異的吸着を阻止するため、ウエスタンブロットの場合と同様、予めブロッキングを行っておく。ブロッキングの条件については、ウエスタンブロットの項に記載した通りである。
 次に、ウェル内を0.05〜0.1% ツイーン20を含むPBSまたはTBS(以下「洗浄液」という)で洗浄して余分なブロッキング溶液を除去した後、洗浄液で適宜希釈した抗アディプシン抗体を分注して一定時間インキュベーションし、抗原に該抗体を結合させる。このときの抗体の希釈倍率は、例えば、上記組換え抗原を段階希釈したものを試料とした予備的なELISA実験を行って決定することができる。この抗体反応操作は、好ましくは室温で1時間程度行う。抗体反応操作終了後、ウェル内を洗浄液で洗浄する。ここで、用いた抗体が標識されたものである場合は、ただちに検出操作を行うことができる。未標識の抗体を用いた場合には、引き続き二次抗体反応を行う。標識二次抗体は、例えば、市販のものを使用する場合は洗浄液で2000〜20000倍に希釈して用いる(添付の指示書に好適な希釈倍率が記載されている場合は、その記載に従う)。一次抗体を洗浄除去した後のウェルに二次抗体溶液を分注して室温で1〜3時間インキュベーションし、洗浄液で洗浄してから、標識方法に合わせた検出操作を行う。洗浄操作は、例えば、まずウェル内に洗浄液を分注して5分間振盪してから、洗浄液を新しいものに交換して5分間振盪した後、再度洗浄液を交換して5分間振盪することにより行う。必要に応じてさらに洗浄液を交換して洗浄してもよい。
 例えば、本発明において、いわゆるサンドイッチ法のELISAは以下に記載する方法により実施することができる。まず、本発明のアディプシンタンパクの各アミノ酸配列より、親水性に富む領域をそれぞれ2箇所選択する。次に、各領域中のアミノ酸6残基以上からなる部分ペプチドを合成し、該部分ペプチドを抗原とした2種類の抗体を取得する。このうち一方の抗体を標識しておく。標識しなかった方の抗体は、96穴ELISA用プレートのウェル内底面に固相化する。ブロッキングの後、試料液をウェル内に入れて常温で1時間インキュベーションする。ウェル内を洗浄後、標識した方の抗体希釈液を各ウェルに分注してインキュベーションする。再びウェル内を洗浄後、標識方法に合わせた検出操作を行う。
工程3:インスリン抵抗性改善効果の評価
 最後に、被験物質の投与または非投与における、アディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
 すなわち、被験物質の投与条件下で非投与条件下よりもアディプシンの発現量が有意に増加している場合、該被験物質はインスリン抵抗性改善効果を有すると評価できる。ここで、「有意に増加している」とは、例えば、被験物質の投与および非投与条件下でのアディプシンの発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
2.3 アディプシンまたはアディプシン遺伝子を指標とした被験物質の評価方法(in vitro)
 アディプシンまたはアディプシン遺伝子を指標としたin vitroにおける被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法は、下記の工程を含むことが好ましい。
工程1:細胞を被検物質の投与または非投与条件下で培養する。
工程2:上記細胞中のアディプシン遺伝子の発現量を検出するか、または、アディプシンの発現量を該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する。
工程3:被検物質の投与または非投与条件下における、上記アディプシン遺伝子またはアディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
工程1:細胞の培養
 本発明の評価方法で用いられる細胞は、アディプシン遺伝子を発現する哺乳動物細胞であれば特に限定されない。好ましくは哺乳動物由来、特に哺乳動物の肝臓由来の培養細胞(好ましくは、初代培養肝細胞)が好ましい。前記哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラットまたはハムスター等が好ましく、ヒトまたはマウスがより好ましい。特に好適な例としては、2型糖尿病モデル動物(例えば、前述のKKマウス等)由来の初代培養肝細胞を挙げることができるが、これらに限定されない。
 また、アディプシン遺伝子をそのプロモーター領域とともに導入した細胞など、人為的に形質転換された細胞(例えば、CHO細胞)を使用してもよい。
 細胞は、被検物質を投与または非投与条件下で培養する。培養方法は特に限定されず、当該細胞に適した培養方法を適宜選択すればよい。培養細胞への被検物質の投与(添加)方法や投与量も特に限定されず、上記細胞の培養中、被検物質を培養培地に添加し一定期間培養すればよい。被検物質存在下で培養する期間も適宜設定すればよいが、好ましくは30分〜24時間である。
工程2:アディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量の検出
 次に、被検物質の投与または非投与条件下における、上記細胞中のアディプシン遺伝子の発現量の相違を検出するか、または、アディプシンの発現量の相違を該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する。
 アディプシン遺伝子の検出は、基本的に2.1に記載した方法にしたがって行えばよい。また、抗アディプシン抗体を用いたアディプシンの検出は、2.2に記載した方法にしたがって行えばよい。
 上記方法のほか、アディプシン遺伝子のプロモーター支配下に、該プロモーター活性の検出を可能にする遺伝子(以下「レポーター遺伝子」という。)を利用して、間接的にアディプシンやアディプシン遺伝子の発現を検出することもできる。以下、レポーター遺伝子を利用した検出方法について説明する。
(1)レポーター遺伝子
 レポーター遺伝子は、宿主細胞が本試験方法の一連の過程において産生し得る他のいかなるタンパク質とも特異的に区別可能な、レポーター蛋白質をコードするものであればよい。好ましくは、形質転換前の細胞が該レポーター蛋白質と同一または類似のタンパク質をコードする遺伝子を持たないようなものがよい。例えば、レポーター蛋白質が該細胞に対して毒性を有するようなものや、該細胞が感受性を有する抗生物質の耐性を付与するものであるような場合でも、レポーター遺伝子の発現の有無は細胞の生存率で判定することが可能である。しかしながら、本発明で用いられるレポーター遺伝子としてより好ましいものは、発現量を特異的かつ定量的に検出することができる(例えば、該レポーター遺伝子にコードされるタンパク質に対する特異的抗体が取得されているような)構造遺伝子である。より好ましくは、外来の基質と特異的に反応することにより定量的測定が容易な代謝産物を生じるような酵素等をコードする遺伝子である。そのようなレポーター遺伝子としては、例えば、以下のタンパク質をコードする遺伝子を例示することができるが、本発明はそれらに限定されない。
a)クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ:
 クロラムフェニコールにアセチル基を付加する酵素で、いわゆるCATアッセイ等で検出することができる。プロモーターを組み込むだけでレポーターアッセイ用のベクターを調製できるベクターとして、pCAT3−Basicベクター(プロメガ社製)が市販されている。
b)ホタルルシフェラーゼ:
 ルシフェリンを代謝した際に生じる生物発光を測定することにより定量できる。レポーターアッセイ用のベクターとしては、pGL3−Basicベクター(プロメガ社製)が市販されている。
c)β−ガラクトシダーゼ:
 呈色反応、蛍光または化学発光でそれぞれ測定可能な基質がある。レポーターアッセイ用のベクターとしては、pβgal−Basic(プロメガ社製)が市販されている。
d)分泌型アルカリホスファターゼ:
 呈色反応、生物発光または化学発光でそれぞれ測定可能な基質がある。レポーターアッセイ用のベクターとしては、pSEAP2−Basic(クロンテック社製)が市販されている。
e)緑色蛍光タンパク質(green-fluorescent protein):
 酵素ではないが、自らが蛍光を発するので直接定量できる。同じくレポーターアッセイ用のベクターとしてpEGFP−1(クロンテック社製)が市販されている。
(2)レポーター遺伝子の導入
 公知の方法に従い、レポーター遺伝子発現プラスミドと、本発明のアディプシン遺伝子を哺乳類細胞で発現可能にした組換えベクターを作製し、これらを細胞に同時トランスフェクションする。ベクターとしては、pCR3.1(インビトロジェン社製)、pCMV−Script(ストラタジーン社製)等を好適に用いることができるが、これらに限定されない。
 細胞に発現プラスミドを導入する方法としては、DEAE−デキストラン法(Luthman, H. and Magnusson, G. (1983) Nucleic Acids Res. 11, 1295-1308)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham, F. L. and van der Eb, A. J. (1973) Virology 52, 456-457)、電気パルス穿孔法(Neumann, E. et al. (1982) EMBO J. 1, 841-845)、リポフェクション法(Lopata et al. (1984) Nucl. Acids Res. 12, 5707-5717, Sussman and Milman (1984) Mol. Cell. Biol. 4, 1641-1643)等を挙げることができるが、これらに限定されず、本発明の属する技術分野において汎用される任意の方法を採用することができる。ただし、細胞がいわゆる浮遊細胞である場合は、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法以外の方法を用いることが好ましい。いずれの方法においても、用いる細胞に応じて、至適化されたトランスフェクション条件を用いることが必要である。
(3)評価
 かくして、本発明のアディプシン遺伝子の発現ベクターと、レポーター発現ベクターを同時トランスフェクションした細胞を培養すると、該アディプシン遺伝子の発現依存的にレポーター遺伝子の転写が促進される。したがって、レポーター遺伝子の発現が可能な条件下において、培地中に任意の被検物質を添加した場合と添加しない場合でのレポーター遺伝子の発現量変化をみれば、アディプシン遺伝子の発現量が評価できる。ここで、「レポーター遺伝子の発現が可能な条件」とは、レポーター発現ベクターによってトランスフェクトされた細胞が生存して、レポーター遺伝子の産物(レポーター蛋白質)の生産が可能な条件であればよい。好ましくは、使用される細胞株に適合した培地(ウシ胎児血清等の血清成分を添加してもよい)で、4〜6%(最も好適には5%)の炭酸ガスを含む空気存在下、36〜38℃(最も好適には37℃)で2〜3日間(最も好適には2日間)培養する。
(4)その他(形質転換細胞株の樹立)
 以上のような、一過的な遺伝子導入法を利用した試験方法とは別に、レポーター遺伝子、および本発明のアディプシン遺伝子の発現ベクターで、宿主細胞を二重に形質転換した細胞を利用した試験方法も採択可能である。この場合には、pIND(インビトロジェン社製)やpTet−On(クロンテック社製)等の発現ベクターを利用して、本発明のアディプシン遺伝子の発現を誘導する条件下で該レポーター遺伝子の発現が促進されるような細胞株を樹立することが必要となる。かかる形質転換細胞の作出においては、導入される遺伝子は、宿主細胞の染色体に組み込まれるなどして、宿主細胞の継代を重ねても安定的に保持されることが望ましい。そのように形質転換された細胞を選択するために、導入遺伝子に抗生物質耐性等の選択マーカー(例えば、ネオマイシン(またはG418)耐性遺伝子neo等)を連結してトランスフェクションしたり、もしくは別個に調製した該選択マーカーと導入遺伝子とを同時トランスフェクションすることが好ましい。その後は、該選択マーカーの特性を利用することにより、安定的に形質転換された細胞を選択することができる。
 こうして得られた細胞株を、本発明のアディプシン遺伝子の発現が誘導される条件下におくと、該アディプシン遺伝子の発現依存的にレポーター遺伝子の転写が促進される。したがって、レポーター遺伝子の発現が可能な条件下において、培地中に任意の被検物質を添加した場合と添加しない場合でのレポーター遺伝子の発現量変化をみれば、アディプシン遺伝子の発現量が評価できる。
工程3:インスリン抵抗性改善効果の評価
 最後に、被験物質の投与または非投与における、アディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
 すなわち、被験物質の投与条件下で非投与条件下よりもアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量が有意に増加している場合、該被験物質はインスリン抵抗性改善効果を有すると評価できる。ここで、「有意に増加している」とは、例えば、被験物質の投与および非投与条件下でのアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量に統計的有意差(p<0.05)があることを意味する。
3.インスリン抵抗性改善効果の評価用キット
 本発明は、また、本発明のアディプシン遺伝子またはアディプシンの発現量を指標とした、インスリン抵抗性改善効果の評価用キットを提供する。
 前記キットは、以下のa)〜e)からなる群より選ばれる少なくとも1以上を含む。
a)アディプシン遺伝子(配列番号1または配列番号12)を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
b)アディプシン遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
d)アディプシン(配列番号2または配列番号13)に特異的に結合し、該アディプシンを検出するための抗体
e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
 前記a)記載のプライマーは、本発明のアディプシン遺伝子の塩基配列(配列番号1または12)に基づき、市販のプライマー設計ソフトを用いる等、常法にしたがい容易に設計し、増幅することができる。このようなプライマーの例としては、例えば配列番号4、配列番号5、配列番号10、配列番号11に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
 また、前記b)記載のプローブは、本発明のアディプシン遺伝子に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、20〜1500塩基長程度のものが好ましい。具体的には、ノーザンハイブリダイゼーション法であれば、20塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドか2本鎖DNAが好適に用いられる。また、マイクロアレイであれば、100〜1500塩基長程度の2本鎖DNA、または20〜100塩基長程度の1本鎖オリゴヌクレオチドが好適に用いられる。一方、Affimetrix社のGene Chipシステムは25塩基長程度の1本鎖オリゴがよい。これらは、特に本発明のアディプシン遺伝子の3’非翻訳領域に存在する配列特異性が高い部分に特異的にハイブリダイズするプローブとして設計することが好ましい。これらのプライマーやプローブは、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよく、またビオチン、リン酸、アミン等により修飾されていてもよい。このようなプローブの例としては、配列番号6に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを挙げることができる。
 また、前記c)記載の固相化試料は、前記b)記載のプローブをガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ等の固相に固定することにより作製される。このような固相化試料とその作製方法については、既に2.1で説明したが、例えば、遺伝子チップ、cDNAアレイ、オリゴアレイ、メンブレンフィルター等を挙げることができる。
 前記d)およびe)記載の抗体は、2.2に記載した方法により作製することができる。該抗体は、適当な標識によりラベル(例えば、酵素標識、放射性標識、蛍光標識等)されていてもよいし、ビオチン等により適当に修飾されていてもよい。
 本発明のキットは上記した構成要素のほか、必要に応じて、ハイブリダイゼーション、プローブの標識、ラベル体の検出等、本発明にかかる被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法に必要な、その他の試薬等を適宜含んでいてもよい。
4.インスリン抵抗性改善剤
 本発明者らは2型糖尿病モデル動物において、アディプシン遺伝子を過剰発現させると、インスリン抵抗性改善の兆候がみられることを確認した。この結果は、アディプシンやアディプシン遺伝子が、インスリン抵抗性の治療に有用であることを示す。
 すなわち、本発明は、ヒト・アディプシンまたはヒト・アディプシン遺伝子を含む、インスリン抵抗性改善剤を提供する。
4.1 ヒト・アディプシン遺伝子を含むインスリン抵抗性改善剤
 2型糖尿病等のインスリン抵抗性を有する患者に、ヒト・アディプシン遺伝子の全オープンリーディングフレーム配列を含む組換えベクター(gene transfer vector)を投与し、該患者の細胞で発現させることにより、インスリン抵抗性を改善させることができる。
 ここで、使用されるベクター・プロモーター系は、ヒト細胞に対する遺伝子導入が可能であればよい。例えば、MoMLVベクター、ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、AAVベクター、HIVベクター、S1Vベクター、センダイウイルスベクタ一等のウイルスベクターが挙げられる。ウイルス以外のベクターとしてはリン醸カルシウムと核酸の複合体、リボソーム、カチオン脂質複合体、センダイウイルスリポソーム、ポリカチオンを主鎖とする高分子キャリアー等も使用可能である。さらに、エレクトロポレーション、遺伝子銃等の方法を用いてもよい。
 プロモーターは、ヒト細胞内で遺伝子を発現させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、シミアンウイルス40、ラウス肉腫ウイルス、単純ヘルペスウイルス、マウス白血病ウイルス、シンビスウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、パピローマウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、インフルエンザウイルス、日本脳炎ウイルス、JCウイルス、パルボウイルスB19、ポリオウイルス等のウイルス由来のプロモーター、アルブミン、SRα、熱ショック蛋白、エロンゲーション因子等の哺乳類由来のプロモーター、CAGプロモーター等のキメラ型プロモーター、テトラサイクリン、ステロイド等によって発現が誘導されるプロモーターが挙げられる。その他、シュードタイプのウィルスベクターを用いても良い。その一例としては、HIVの外皮蛋白質であるEnv蛋白質を、小水痘性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis Virus:VSV)の外皮蛋白質であるVSV−G蛋白質に置換したシュードタイプウイルスベクターが挙げられる(Naldini L等:Science 272 263(1996))。
4.2 ヒト・アディプシンを含むインスリン抵抗性改善剤
 2型糖尿病等のインスリン抵抗性を有する患者に、ヒト・アディプシンまたはヒト・アディプシンを含む組成物を投与することにより、インスリン抵抗性を改善させることができる。
 まず、アディプシン遺伝子の全オープンリーディングフレーム配列を適当なベクター・プロモーター系に連結し、宿主細胞系に導入して目的とするアディプシンタンパクを産生させ、抽出・精製して組換えアディプシンを生産する。
 前記ベクターとしては、前項のベクター・プロモーター系で列挙したものうち哺乳類、特にヒト細胞に遺伝子導入可能なベクターが挙げられる。同様に、使用可能なプロモータとしては、前項のベクター・プロモーター系で列挙したものうち哺乳類、特にヒト細胞で遺伝子発現が可能なプロモータが挙げられる。また、Lacプロモーター等大腸菌宿主内で発現可能なプロモーターも使用できる。
 前記宿主細胞系としては、例えば、動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、大腸菌、発育鶏卵等が挙げられる。さらに、遺伝子導入した宿主細胞系から産生された蛋白質を抽出する方法としては、例えば、細胞をホモジュナイズする方法、SDS等の界面活性剤や酵素を用いて細胞膜を溶解させる方法、超音波処理、凍結・融解を繰り返す方法等が挙げられる。いずれの方法で得られた組換えアディプシンタンパクも、常法により精製する。例えば、超遠心や密度勾配遠心を利用した遠心分離、イオン交換カラムやアフィニティーカラム(例えば、前述の特異的な抗体を用いる)、逆相カラム等を利用したカラム分離、ポリアクリルアミドゲル等を用いたゲル分離等、一般的な生化学的手法が精製に利用できる。
 上記のようにして製造、精製されたアディプシンは、公知の方法にしたがって、薬学的に許容される担体或いは希釈剤と混合され、薬学的に有用な組成物に製剤化することができる。前記薬学的組成物は、一または複数の治療的に有効な量の前記ポリペプチドを含んでいても良い。適当な担体、および希釈剤については、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences等に記載されている。
 前記蛋白質に関して、投与に適した剤型は特に限定はされないが、既に医薬として使用されている多くのヒト蛋白質を含む薬学的組成物と同様に注射剤として調製されることが好ましい。より具体的に言えば、アディプシンを、水、生理食塩水、等張化した緩衝液等の適当な溶媒に溶解することで注射剤とする。その際、ポリエチレングリコール、グルコース、各種アミノ酸、コラーゲン、アルブミン等を保護剤として添加して調製してもよい。また、リボソーム等の封入体にポリペプチドを包埋させて投与することも可能である。
6 その他
6.1 インスリン抵抗性(感受性)の予測
 本発明にかかるアディプシンやその遺伝子の発現量は、その動物のインスリン抵抗性(感受性)を反映する可能性が高い。したがって、例えば、被験者の血液や細胞におけるアディプシン遺伝子発現量を測定することによって、該被験者のインスリン抵抗性を予測することができる。こうした予測は、アディプシン遺伝子とともに、他のインスリン抵抗性(感受性)を反映する因子、例えば、TNF-αやアディポネクチン等の遺伝子の発現プロファイルを総体的に比較解析することにより、より正確に行うことが可能できる。
6.2 インスリン抵抗性を有するモデル動物の作製
 本発明にかかるアディプシンやアディプシン遺伝子の発現を人為的に低下させることにより、インスリン抵抗性を有する動物(例えば、マウス等)を作製することも可能である。例えば、アディプシン遺伝子に対するリボザイムやRNAiを動物に導入し、ヒト2型糖尿病に代表される、インスリン抵抗性病態に類似した表現的変化が現れれば、該動物を利用してインスリン抵抗性病態やその改善剤の研究を行うことができる。同様に、抗アディプシン抗体を直接動物に導入することによって、インスリン抵抗性を有するモデル動物を作製することができる。
 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1: GeneChip解析
 チップ解析は、アフィメトリクス社の発現解析技術マニュアル(Expression Analysis Technical Manual)にしたがい、以下に記載する方法により行った。
a)マウスの準備
 2型糖尿病モデルマウスとして、KK/Taマウス(日本クレア社製、N=2)を準備した。また、インスリン抵抗性改善剤として、EP公開第745600号公報に記載された5−[4−(6−メトキシ−1−メチルベンズイミダゾール−2−イルメトキシ)ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオンおよびその薬理上許容される塩(塩酸塩等)(ここで、5−[4−(6−メトキシ−1−メチルベンズイミダゾール−2−イルメトキシ)ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオンの塩酸塩を、以下、「化合物A」という。)を準備した。各マウスは、化合物Aを重量比0.0003%で、1日、3日、または8日間混餌投与した。コントロールとして、化合物Aを含まない飼料でマウス(N=2)を同様に飼育した。全てのマウスは、全RNAを調製するために投与終了後に肝臓の摘出を行った。
b)全RNAの調製
 摘出された肝臓は、全RNA抽出用試薬(TRIzol試薬:ギブコ・ビーアールエル社製)を用い、添付のプロトコールにしたがって全RNAの抽出を行った。次いで、得られた全RNAを再度TRIzol試薬に溶解し、フェノール、クロロホルム抽出を行った後、エタノール沈殿を行い、得られたペレットをRNA分解酵素(以下「RNase」という)を含まない純水に溶解して、全RNA溶液とした。
c)cDNAの合成
 得られた各10μgの全RNAを出発材料として、上記マニュアル記載にしたがってcDNAの合成および精製を行った。具体的には、全RNAを65℃で10分間保温し、急冷して変性させた後、逆転写酵素(SuperscriptII、ギブコ・ビーアールエル社製)およびT7プロモーター配列を含む下記の配列:
5'-ggccagtgaa ttgtaatacg actcactata gggaggcggt tttttttttt tttttttttt ttt-3'(配列番号3)
を有するオリゴ(dT)プライマー(OligoExpress、アマシャム・ファルマシア社製)を用いて一本鎖cDNAを合成した。合成の反応条件は、42℃、1時間とした。続いて、この反応系中にDNAポリメラーゼI(ギブコ・ビーアールエル社製)を加えてcDNAを二本鎖とした。反応条件は16℃、2時間とした。
d)cRNAの合成
 上記のようにして得られたcDNA全量を鋳型として、上記マニュアルの記載にしたがってcRNAの作製を行った。(反応条件は37℃、4.5時間とした)。この操作で得られた20μgのcRNAを断片化し、うち15μg相当をプローブ溶液に加えた。
e)プローブ溶液の作製
 プローブ溶液に加えるコントロールcRNA作製用のプラスミドDNAを保持する形質転換大腸菌は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)から購入した(pglks-bioB(ATCC87487)、pglks-bioC(ATCC87488)、pglks-bioD(ATCC87489)およびpglks-cre(ATCC87490))。これらの形質転換菌は、それぞれ200mlの100μg/mlのアンピシリンを含むTB培地(1リットルあたり12gのバクトトリプトン、24gのバクトイーストエキストラクト、2.3gのKH2PO4、12.5gのK2HPO4および4mlのグリセロールを含む)中で培養した後、アルカリ法にてプラスミドを回収した。これらプラスミドは、さらに塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製された。以下、コントロールcRNAの作製方法およびプローブ溶液の組成は、ともに上記マニュアル記載に従った。
f)ハイブリダイゼーション
 上記のようにして得られたプローブとハイブリダイズさせるチップとして、アフィメトリクス社製マウスMG-U74(U74A,U74B,U74C)を用いた。ハイブリダイゼーションとその後の洗浄操作は上記マニュアル記載にしたがって行った。なお、ハイブリダイゼーション条件は、45℃、18-22時間とした。
g)解析
 ハイブリダイゼーション操作を行ったチップのデータ解析を、上記マニュアル記載にしたがって行った。
 遺伝子の発現レベルは、各遺伝子の相対的発現量を表す「Fold Change値」で示した。この実施例では、Fold Change値は薬剤非投与群(コントロール)に対する薬剤投与群における各遺伝子の相対的発現量を表す。例えば、ある遺伝子のFold Change値が10のとき、その遺伝子は化合物A投与群において非投与群より10倍多く発現している。
 こうして、各遺伝子のFold Change値を解析した結果、投与群の肝臓において非投与群より高発現しているものとして、識別番号(probe set No.)99671_atの遺伝子が同定された。アフィメトリクス社の配列情報より、この配列はマウス・アディプシンをコードするヌクレオチド配列としてGenBankデータベースに登録されているもの(GenBank Accession No.:NM_013459)であることがわかった。
 表1に、KK/Taマウス投与群における識別番号:99671_at(マウス・アディプシン)のFold Change値を示した(U74Aチップのデータ)。この結果より、アディプシン遺伝子は、非投与群に対し投与群では、投与1日目で3.1倍、3日目で19倍、8日目で18.9倍高く発現していることが確認された。
Figure 2004041208
実施例2: アディプシン発現量の測定
a)cDNAの調製
 実施例1にしたがい、化合物Aを重量比0.0003%の用量で1日、3日、または7日間混餌投与したKK/Taマウス、および化合物Aを投与しないマウス(コントロール)から肝臓を摘出し、全RNA溶液を調製した。
 得られた全RNA6μgに純水を加えて全量を40μlとし、65℃、10分間保温した後、急激に4℃まで冷却して熱変性を行った。この全RNA溶液を20μlずつ2本のサーマルサイクラー用マイクロチューブに分注し、それぞれにcDNA合成キット(ファースト・ストランド cDNA合成キット、アマシャム・ファルマシア社製)のジチオスレイトール溶液1μl、RNaseを含まない純水で5倍に希釈したNotI−オリゴ−(dT)−プライマー1μl、バルク・ファースト・ストランド・ミックス 11μlを加え、サーマルサイクラー(DNAエンジンPTC−200、MJリサーチ社製)を使用して37℃で1時間保温し、一本鎖cDNAの合成を行った。
 反応終了後、1本のチューブには17μlのRNaseを含まない純水を加え、検量線作成用一本鎖cDNA溶液とした。もう一方のチューブには217μlのRNaseを含まない純水を加え、定量用一本鎖cDNA溶液とした。核酸精製スピンカラム(クロマ−スピン100、クロンテック社製)を添付のプロトコールにしたがって用いることによりこれら一本鎖cDNA溶液を精製し、TaqMan PCR用鋳型一本鎖cDNA溶液とした。
b)TaqMan PCR
 一方、TaqMan PCR用のマウス・アディプシンDNA増幅用プライマーとして、下記の配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した(OligoExpress、アマシャム・ファルマシア社)。
5'- gagtgtcaat catgaaccgg a -3'(配列番号4)
5'- tgttaatggt gactaccccg tc -3'(配列番号5)
 また、TaqMan PCR用のマウス・アディプシンDNA検出用プローブとして、下記の配列を有し、その5’末端にレポーター色素Famを、3’末端にレポーター消光体のTamaraを結合したオリゴヌクレオチドを合成した(TaqManフルオレセント・プローブ、アプライドバイオシステムズジャパン社製)。
5'- aacctgcaat ctgcgcacgt acca -3' (配列番号6)
 他方、マウス・アディプシンの発現量を標準化するため、リボソームタンパク質である36B4 mRNA発現量の測定を同時に行うこととし、TaqMan PCR用のマウス36B4増幅用プライマーとして、下記の配列を有するオリゴヌクレオチドを合成した(oligoExpress、アマシャム・ファルマシア社製)。
5'- gctccaagca gatgcagca -3'(配列番号7)
5'- ccggatgtga ggcagcag -3'(配列番号8)
 また、TaqMan PCR用のマウス36B4検出用プローブとして、下記の配列を有し、その5’末端にレポーター色素Famを、3’末端にレポーター消光体のTamaraを結合したオリゴヌクレオチドを合成した(TaqMan フルオレセント・プローブ、アプライドバイオシステムズジャパン社製)。
5'- caagaacacc atgatgcgca aggc -3' (配列番号9)
c)アディプシン発現量の定量
 上記のようにして調製した試料を用いて、TaqMan PCR法によるマウス・アディプシンの発現量の定量を行った。
 PCR反応溶液の組成は、1サンプルあたり、マウス肝臓由来鋳型一本鎖cDNA溶液5μl、プライマー(100pmol/μl)を正方向側、逆方向側ともに0.1μl(最終濃度200nM)、プローブ(6.5μM)1.5μl(最終濃度195nM)、PCR増幅用混合液(TaqManユニバーサルPCRマスター・ミックス、アプライドバイオシステムズジャパン社製)25μl、超純水18.3μlとした。なお、検量線作成用一本鎖cDNA溶液は、原液濃度の相対値を便宜的に「625」とし、以降5倍希釈を繰り返して濃度値「625」、「125」、「25」、「5」および「1」の5段階の希釈系列を作成し、一本鎖cDNA以外の組成を上記と同じにした反応液を調製した。
 これら反応液を96穴反応プレート(マイクロアンプ・オプチカル・96ウェル・リアクション・プレート、アプライドバイオシステムズジャパン社製)のウェルに入れ、TaqMan PCR専用サーマルサイクラー・検出器(ABI7700、アプライドバイオシステムズジャパン社製)を用いてPCRを行った。反応は、50℃で2分間、95℃で10分間保温の後、95℃で15秒間、60℃で1分間の反応を40サイクル繰り返し、1サイクル毎にレポーター色素の発光量を測定した。
d)解析
 各サイクル毎のレポーター色素の発光量から36B4およびアディプシンのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成した。検量線作成用一本鎖cDNA溶液の希釈系列の増幅曲線から横軸に濃度、縦軸にサイクル数をとった検量線を作成し、各発現定量用サンプルについてはその対数増幅期において任意に設定した一定の発光量を超えたサイクル数を検量線上にプロットし、相対的な発現量を算出した。アディプシンの発現量は、同一サンプルにおける36B4の発現量の値で補正を行った。
 図1に各マウスにおける、アディプシン遺伝子の相対的発現量を示した。この結果から、アディプシン遺伝子はインスリン抵抗性改善剤:化合物Aの投与により著しく発現が増加することが確認された。
実施例3:組換えアデノウイルスの作製
a)アディプシンcDNAの調製
 アデノウイルスベクターを用いた発現系を構築するため、マウス・アディプシンのアミノ酸をコードするcDNAをPCR法を利用して調製した。
 具体的には、実施例1と同様に化合物Aを重量比で0.0003%混入させた粉末餌を1週間投与したKK/Taマウスから肝臓を摘出し、全RNA溶液を調製した。得られた全RNA溶液 6μgに純水を加えて全量を40μlとし、65℃、10分間保温した後、急激に4℃まで冷却して熱変性を行った。この全RNA溶液を20μlずつ2本のサーマルサイクラー用マイクロチューブに分注し、それぞれに一本鎖相補DNA(以下「cDNA」という)合成キット(ファースト・ストランド cDNA合成キット、アマシャム・ファルマシア社製)のジチオスレイトール溶液1μl、RNaseを含まない純水で5倍に希釈したNotI−オリゴ−(dT)−プライマー1μl、バルク・ファースト・ストランド・ミックス 11μlを加え、サーマルサイクラー(DNAエンジンPTC−200、MJリサーチ社製)を使用して37℃で1時間保温し、一本鎖cDNAの合成を行った。
 反応終了後、チューブに217μlのRNaseを含まない純水を加え、一本鎖cDNA溶液とした。核酸精製スピンカラム(クロマ−スピン100、クロンテック社製)を添付のプロトコールにしたがって用いることにより、これら一本鎖cDNA溶液を精製し、PCR用鋳型一本鎖cDNA溶液とした。
 また、PCR増幅用のプライマーとして下記の配列を有するオリゴDNAを合成し(アマシャム・ファルマシア社)、アディプシン cDNAクローニング用プライマーとした。
5'-agg gaa ttc atg cac agc tcc gtg tac ttc gtg-3'(配列番号10)
5'-agg gga tcc tca gga tgt cat gtt acc att tgt-3'(配列番号11)
 上記鋳型一本鎖cDNA1μl、増幅用プライマー各10pmol、10mM dNTPs溶液(宝酒造社製)3μl、耐熱性DNAポリメラーゼとしてplatinum Pfx(ギブコ・ビーアールエル社製)0.5μlを専用緩衝液(ギブコ・ビーアールエル社製)に混合して計50μlとした。増幅反応は、サーマルサイクラー(DNAエンジンPTC−200、MJリサーチ社製)を用いて、94℃で30秒、X℃で30秒、72℃で2分間を1サイクルとし、Xを74→70→66→62→58と変化させて各3サイクル、その後94℃で30秒、54℃で30秒、72℃で2分間を1サイクルとして20サイクル行った。
 増幅産物は1%アガロースゲル中で電気泳動することにより展開し、目的産物として予想されるおよそ800bp付近のDNAをレコチップ(宝酒造社製)を用いて回収し、エタノール沈殿を行って精製した。得られたDNA沈殿をK緩衝液(宝酒造社製)に溶解し、EcoRI、BamHIを各2 Unitずつ添加して37℃、2時間処理し、再び1%アガロースで電気泳動を行って展開し、目的のDNAバンドを回収して10μlの超純水に溶解した。このDNA溶液4μl、EcoRIおよびBamHIで消化した後バクテリア由来アルカルフォスファターゼで処理したpSG5ベクター(ストラタジーン社製)100ngを混合し、DNAライゲーションキットバージョンI(宝酒造社製)のA液を20μl、B液を5μl加えて混合し、16℃で1時間反応させた後エタノール沈殿を行って精製した。沈殿したDNAを超純水に溶解し、JM109エレクトロセル(宝酒造社製)に加え、エレクトロポレーション法にて大腸菌にプラスミドを導入し、アンピシリンを100μg/mlの濃度で含む寒天培地上で37℃、一晩培養した。得られた形質転換株をLB培地中で培養した後プラスミドを抽出して、導入されたcDNAの配列をダイターミネーション法により決定した。
b)組換えアデノウィルスの調製
 得られたアディプシンcDNAを強制発現させるための組換えアデノウイルスは、市販のキット(アデノウイルス・エクスプレッション・ベクター・キット、宝酒造社製)を用いて作製した。すなわち、前項で得られたプラスミドDNAを、制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化し、得られた約800bpのDNA断片の末端を平滑化したものを挿入DNA断片として以下の操作に用いた。
 また、サイトメガロウイルスエンハンサーとニワトリβ−アクチンプロモーターにより発現されるように設計されているコスミドベクターpAxCAwt(アデノウイルス・エクスプレッション・ベクター・キットに添付)の制限酵素SwaI認識部位にインサートDNA断片を挿入したコスミドpAxCA−adipsinを作製した。pAxCA−adipsin DNA若しくは対照用のpAxCADNAおよび末端タンパク質結合ウイルスDNA(DNA−TPC、アデノウイルス・エクスプレッション・ベクター・キットに添付)をリン酸カルシウムトランスフェクションシステム(アマシャム・ファルマシア社製)を用いて293細胞(ATCC CRL1573)にコ・トランスフェクションして組換えアデノウイルスを単離し、さらに293細胞中で増幅させた。増幅させたウイルスの293細胞からの回収は、まずウイルス感染293細胞に30秒×4回の超音波処理(ブランソン社製B−1200を使用)を行い、次いで塩化セシウム密度勾配遠心による精製を2回繰り返すことによって行った。こうして、アディプシンDNAを含む組換えアデノウィルス(以下、「Ad/Adipsin」という。)、対照用のアディプシンDNAを含まない組換えアデノウィルス(以下、「Ad/empty」という。)が調製された。
 得られたウイルス液は、10%グリセロールを添加したPBSに対して4℃で2回透析した後、使用するまで-70℃以下で凍結保存した。
実施例4:アディプシンのin vivoでの発現
a)組換えアデノウィルスの接種
 実施例3で作製したAd/AdipsinまたはAd/emptyを、1×1010pfu/ml、2×109pfu/ml、5×108pfu/mlとなるように生理食塩水で希釈し、それぞれ3匹の20週齢の雄KK/Taマウスに200μlずつ尾静脈注射により接種した。
b)血中パラメーターの測定
 接種3、8、14日後に各マウスの尾静脈よりへパリン処理ヘマトクリット管を用いて採血して、卓上遠心機で5200rpmで15分、2回遠心して血漿を分離し、グルコース測定用キット(グルコースCII−テストワコー、和光純薬社製)を用いて血糖値を、中性脂肪測定用キット(トリグリセリドE−テストワコー、和光製薬社製)を用いて中性脂肪濃度を、インスリン測定キット(森永生化学研究所製)を用いて血中インスリン値をそれぞれ測定した。各種パラメーターの変化を図2(A〜E)に示す。
 その結果、Ad/empty接種マウス群では血中パラメーターに有意な差が認められなかったのに対し、Ad/Adipsin接種マウス群には血糖値、中性脂肪濃度、血中インスリン値に低下傾向が認められた。
c)ウェスタンブロッティング
 また、これら血中パラメーターに差が認められたアデノウイルス感染マウス群の血漿を、10-20%ポリアクリルアミド密度勾配ゲル(マルチゲル4/20、第一化学薬品社製)を用いて、還元条件下でSDS−PAGEにより展開した。
 電気泳動後、ポリアクリルアミドゲルからバンドを転写緩衝液(192mM グリシン、20%メタノール、2VmMトリス)中でゲルメンブレン転写装置(TRANS−BLOT SD、バイオラッド社製)を用いて45分、15Vの条件でニトロセルロースメンブレン(バイオラッド社製)に転写した。転写後のニトロセルロースメンブレンについて、抗マウスアディプシン抗体(p−16、サンタクルズ社製)を用いたウエスタンブロット解析を行った。すなわち、まずニトロセルロースメンブレンを0.1%のTween20を含むPBS(以下「PBST」という)で洗浄した(室温で15分間を1回、次いで5分間を2回)後、プラスチックバッグ(ハイブリバック、コスモバイオ(株)社製)に入れ、1%BSA(ピアス社製)を含む0.1% PBSTを20ml加え、4℃で一晩振とうした。その後メンブレンを取り出し、0.1%PBST中で、15分間×1回、次いで5分間×2回洗浄した。洗浄後、メンブレンを新しいプラスチックバッグに移し、抗アディプシン抗体(100倍希釈)、1%BSAを含む0.1%PBSTを5ml添加して室温で1時間振とうした。1時間後、メンブレンを取り出し0.1%PBSTで15分間×1回、5分間×2回洗浄した。その後、メンブレンを新しいプラスチックバッグに移し、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗ヤギIgG抗体(バイオラッド社製)を0.1%PBSTで1000倍に希釈した溶液5mlを入れ、室温で1時間振とうした。さらに1時間後、メンブレンを取り出し、0.1%PBSTで15分間×1回、次いで5分間×2回洗浄した。洗浄後、メンブレンをラップフィルム上に置き、ECLウエスタンブロッティング検出溶液(アマシャム・ファルマシア社製)を用いて、マウスアディプシンの検出を行った(メンブレンをラップフィルム上に置き、ECLウエスタンブロッティング検出溶液に1分間浸した後、X線フィルムを感光させた(3秒間))。その結果、Ad/Adipsinを感染させたKK/Taマウスの血漿中に特異的なバンドが検出された(図3)。
 以上の結果から、インスリン抵抗性改善剤を投与した糖尿病モデルマウスでは、アディプシン遺伝子の発現が顕著に誘導されること、また、当該マウスの肝臓でアディプシン遺伝子を過剰発現させると、インスリン抵抗性改善の兆候が現れることが確認された。すなわち、アディプシンやアディプシン遺伝子はインスリン抵抗性やその改善の指標となりうる。したがって、化合物Aの代わりに適当な被験化合物をマウスに投与し、上記と同様の手順で該マウスにおけるアディプシンやアディプシン遺伝子の発現量を調べれば、当該被験化合物のインスリン抵抗性改善効果を評価することができる。
参考例:5−[4−(6−メトキシ−1−メチルベンズイミダゾール−2−イルメトキシ)ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン塩酸塩の製造
 欧州特許出願公開第745600号に記載の方法によって合成した、5−[4−(6−メトキシ−1−メチルベンズイミダゾール−2−イルメトキシ)ベンジル]チアゾリジン−2,4−ジオン10.6gおよび4規定塩酸−1,4−ジオキサン100mlの混合物を濃縮後、酢酸エチルを加え、析出した成績体を濾取し、酢酸エチルで洗浄して、融点275−277℃を有する目的化合物11.0gを得た。
 1H−核磁気共鳴スペクトル:δ(ppm):重ジメチルスルホキシド中、内部標準にTMS(テトラメチルシラン)を使用して測定した1H−核磁気共鳴スペクトル(400MHz):δ(ppm)は次の通りである。
 3.11 (1H, dd, J=14Hzおよび9Hz), 3.34 (1H, dd, J=14Hzおよび4Hz),3.89 (3H, s), 3.98 (3H, s), 4.91 (1H, dd, J=9Hzおよび4Hz),5.64 (2H, s), 7.14 (2H, d, J=9Hz), 7.15 (1H, d, J=9Hz)7.25 (2H, d, J=9Hz), 7.50 (1H, s), 7.70 (1H, d, 9Hz),12.04 (1H, s, D2O添加により消失)。
 配列番号3−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
 配列番号4−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
 配列番号5−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
 配列番号6−人工配列の説明:合成DNA(プローブ)
 配列番号7−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
 配列番号8−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
 配列番号9−人工配列の説明:合成DNA(プローブ)
 配列番号10−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
 配列番号11−人工配列の説明:合成DNA(プライマー)
図1は、TaqMan PCRによるアディプシン遺伝子の相対的発現量を示す。 図2は、2型糖尿病モデルマウスにおけるアディプシン遺伝子の導入による各種パラメーターの変化を示す。(A:血中グルコース、B:血中インスリン、C:体重、D:血中トリグリセライド、E:摂餌量) 図3は、ウェスタンブロットの結果を示す。

Claims (15)

  1.  被験物質の投与条件下における検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を指標として、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する方法。
  2.  被験物質の投与および非投与条件下における、検体中のアディプシンまたはアディプシン遺伝子の発現量を比較することにより、該被験物質によるインスリン抵抗性改善効果を評価する方法。
  3.  下記の工程を含む、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法:
    1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
    2)上記動物の血液または細胞中におけるアディプシン遺伝子の発現量を検出する;
    3)被験物質の投与または非投与条件下における、アディプシン遺伝子の発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
  4.  前記方法において、さらに、血液または細胞中より全RNAを抽出する工程を含む、請求項3記載の方法。
  5.  遺伝子の発現量が、遺伝子チップ、cDNAアレイ、およびメンブレンフィルターから選ばれる固相化試料を用いた核酸ハイブリダイゼーション法、RT-PCR法、リアルタイムPCR法、サブトラクション法、ディファレンシャル・ディスプレイ法、ディファレンシャル・ハイブリダイゼーション法、ならびにクロスハイブリダイゼーション法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出されることを特徴とする、請求項3または4記載の方法。
  6.  遺伝子の発現量が、RT-PCR法、リアルタイムPCR法によって検出されることを特徴とする、請求項3または4記載の方法。
  7.  下記の工程を含む、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法:
    1)動物を被験物質の投与または非投与条件下で飼育する;
    2)上記動物の血液または細胞中におけるアディプシンの発現量を、該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する;
    3)被験物質の投与または非投与条件下における、アディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
  8.  アディプシンの発現量が、ウェスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、およびRIA法から選ばれるいずれか一つの方法によって検出されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
  9.  アディプシンの発現量が、ウェスタンブロット法によって検出されることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
  10.  細胞が肝臓細胞である、請求項3〜9のいずれか一項に記載の方法。
  11.  動物が2型糖尿病モデル動物である、請求項3〜10のいずれか一項に記載の方法。
  12.  動物がマウスである、請求項11に記載の方法。
  13.  下記の工程を含む、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価方法:
    1)細胞を被検物質の投与または非投与条件下で培養する;
    2)上記細胞中のアディプシン遺伝子の発現量を検出するか、または、アディプシンの発現量を該アディプシンに特異的に結合する抗体を用いて検出する;
    3)被検物質の投与または非投与条件下における、アディプシン遺伝子またはアディプシンの発現量の相違に基づき、該被験物質のインスリン抵抗性改善効果を評価する。
  14.  下記のa)〜e)からなる群より選ばれる、少なくとも一つ以上を含む、被験物質のインスリン抵抗性改善効果の評価用キット。
    a)アディプシン遺伝子(配列番号1または配列番号12)を特異的に増幅するための、15〜30塩基長の連続したオリゴヌクレオチドプライマー
    b)アディプシン遺伝子に特異的に結合し、該遺伝子を検出するための20〜1500塩基長の連続したポリヌクレオチドプローブ
    c)上記b)記載のポリヌクレオチドプローブが固定された固相化試料
    d)アディプシン(配列番号2または配列番号13)に特異的に結合し、該アディプシンを検出するための抗体
    e)上記d)記載の抗体に特異的に結合しうる二次抗体
  15.  ヒト・アディプシンまたはヒト・アディプシン遺伝子を含む、インスリン抵抗性改善剤。
JP2003272781A 2002-07-15 2003-07-10 インスリン抵抗性改善効果の評価方法 Pending JP2004041208A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2003272781A JP2004041208A (ja) 2002-07-15 2003-07-10 インスリン抵抗性改善効果の評価方法

Applications Claiming Priority (2)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2002205430 2002-07-15
JP2003272781A JP2004041208A (ja) 2002-07-15 2003-07-10 インスリン抵抗性改善効果の評価方法

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2004041208A true JP2004041208A (ja) 2004-02-12

Family

ID=31719827

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2003272781A Pending JP2004041208A (ja) 2002-07-15 2003-07-10 インスリン抵抗性改善効果の評価方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2004041208A (ja)

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006109742A (ja) * 2004-10-14 2006-04-27 Scimedia Ltd インスリン受容体自己リン酸化不全に関連する遺伝子の検出法
WO2013071703A1 (zh) * 2011-11-17 2013-05-23 成都创宜生物科技有限公司 以Adipsin为检测指标的子痫前期快速检测工具与检测盒及制作方法
JP2015044855A (ja) * 2009-04-29 2015-03-12 バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド 神経変性および神経炎症の治療

Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2006109742A (ja) * 2004-10-14 2006-04-27 Scimedia Ltd インスリン受容体自己リン酸化不全に関連する遺伝子の検出法
JP2015044855A (ja) * 2009-04-29 2015-03-12 バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド 神経変性および神経炎症の治療
WO2013071703A1 (zh) * 2011-11-17 2013-05-23 成都创宜生物科技有限公司 以Adipsin为检测指标的子痫前期快速检测工具与检测盒及制作方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP4112374B2 (ja) 血管新生マーカーとなるポリペプチドおよびそのdna
EP1403367A1 (en) Method of testing drug for treating or preventing diseases such as hyperlipemia
AU768034B2 (en) Method of testing remedy or preventive for hyperlipemia
JPWO2003082335A1 (ja) 新規血糖調節薬及びそのスクリーニング方法
JP2004041208A (ja) インスリン抵抗性改善効果の評価方法
JP2004154136A (ja) β細胞機能不全改善剤の評価方法
JP2005507651A (ja) ヒト平滑筋ミオシン重鎖
JP2003532430A (ja) ヒトにおける成長ホルモン異形の検出方法、上記異形及びそれらの使用
JP2002051782A (ja) 骨粗鬆症もしくは関節リウマチの治療または予防剤の試験方法
EP1484396B1 (en) Molecules associating to c-terminal domain in receptor cell
JPWO2006134960A1 (ja) 抗炎症剤のスクリーニング方法
WO2003072824A1 (en) Markers for predicting pathological conditions in haert failure and method of using the same
JP2004194534A (ja) 炎症性腸疾患疾患マーカーおよびその利用
JP2004000155A (ja) 心不全の病態予測用マーカーおよびその利用方法
CA2562881A1 (en) Novel monkey gpr103 and monkey qrfp and method of evaluating compound by using gpr103
JP3497501B1 (ja) 高脂血症等疾患の治療または予防剤の試験方法
JP2003334094A (ja) 骨代謝異常の治療または予防剤の試験方法
JP4334604B2 (ja) 糖代謝及び/又は脂質代謝に関係する遺伝子
CA2522552A1 (en) Insulin-induced gene as therapeutic target in diabetes
JP4334202B2 (ja) 糖代謝及び/又は脂質代謝に関係する遺伝子
WO2004035830A1 (ja) β細胞機能不全改善剤の評価方法
EP1489172A1 (en) Nuclear receptor err gamma 3
JP2003009871A (ja) 骨粗鬆症の治療または予防剤の試験方法
JP2005102623A (ja) 統合失調症関連タンパク質及びそれをコードする遺伝子
JP2002345490A (ja) 平滑筋細胞分化維持に関与する遺伝子