JP2004041191A - 核酸同定方法 - Google Patents

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大島 譲二
Takeshi Nemoto
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Abstract

【課題】新規な核酸同定方法を提供する。
【解決手段】被検核酸の異なる領域に相補的な塩基配列を含む複数の核酸を合成し、合成された核酸の混合物の解離曲線を比較することによって、被検核酸が同定される。核酸混合物の解離曲線は、被検核酸に固有の波形パターンを有する。簡便な反応によって、多種類の核酸を効率的に同定することができる。解析に必要な複数種の核酸は、被検核酸の複数の領域に対してアニールするプライマー集合体を利用して、容易に合成することができる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、核酸の同定方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
核酸を増幅する方法として、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)が広く用いられている。PCR法は、DNAポリメラーゼの作用によって、プライマーの3’末端から相補鎖を合成する反応を繰り返すことによって、指数的に核酸を増幅する。プライマーは、増幅すべき核酸の、3’末端の塩基配列に相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドである。センス鎖とアンチセンス鎖のそれぞれに対してプライマーを用意することによって、新たに合成された核酸が次の反応工程で新たな鋳型として機能する。その結果、指数的な増幅が達成される。
【0003】
PCR法では、プライマーの鋳型DNAに対する特異性を高め、全DNA中の特定の部位のみを認識するために、1種類のPCR産物のみが増幅される。PCR法については、特公平4−67957号公報等に詳細に記載されている。
【0004】
特公平4−67957号公報には、遺伝性疾患、癌性疾患あるいは伝染性疾患等の遺伝子診断の用途で核酸中の特定配列の存在を検出するために、標的核酸の塩基配列に相補的プライマーを用いて、僅かしか含まれていない核酸配列を増幅して検出する技術が記載されている。
【0005】
PCR法による核酸の検出あるいは同定方法は、PCR法の増幅産物の生成量を指標としている。たとえば、PCR法による所定の長さを有する核酸の増幅は、検出対象の存在を意味している。増幅産物は電気泳動などの手法によって容易に検出することができる。しかし電気泳動分離は、時間と手間を要する手法なので、大量のサンプルについて迅速な分析を行う場合には不利である。そこで、PCR法の増幅産物を迅速に検出するためのいくつかの方法が実用化されている。
【0006】
たとえば、インターカレーターを使用して、2本鎖核酸の生成を光学的に検出する方法が公知である。インターカレーターは、2本鎖核酸に特異的に結合し、蛍光を発する色素である。PCR法の増幅産物は2本鎖を形成するので、反応系にインターカレーターを加えておけば、増幅産物の生成量を蛍光強度の変化として検出することができる。インターカレーターとしては、エチジウムブロマイドあるいはサイバーグリーンなどを用いることができる。インターカレーターを利用してTm値の変化を比較し、核酸の変異を検出するための装置も公知である(特開平7−31500)。
【0007】
インターカレーターを利用すれば、PCR法の反応の進行をモニタリングすることができる。この方法は、反応中のモニタリングを可能とするので、リアルタイムPCR(real−time PCR)法と呼ばれている。しかしインターカレーターによる検出方法は、2本鎖の形成を指標としているため、たとえば、鋳型核酸における微妙な塩基配列の相違を識別することはできない場合がある。言い換えれば、インターカレーターを使った核酸の検出方法の特異性は、PCR法の特異性に依存していると言うことができる。
【0008】
PCR法を利用して鋳型となる核酸における特定の塩基を同定することができる。PCR法を構成する鋳型依存性の相補鎖合成反応には、プライマーが必要である。プライマーは、鋳型核酸に相補的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。鋳型核酸にアニールしたプライマーの3’末端から5’−>3’方向に相補鎖合成反応が進行する。プライマーの3’末端を構成する塩基は、相補鎖合成における重要な条件の一つである。すなわち、プライマーの3’末端付近における鋳型核酸との相補性は、相補鎖合成反応の反応効率を大きく左右する。
【0009】
そのため、プライマーの3’末端が鋳型核酸に相補的でない場合には、相補鎖合成反応が著しく阻害される。この特徴を利用して、鋳型核酸における特定の塩基の同定が行われる。つまり、プライマーの3’末端が、鋳型核酸における同定すべき塩基に相補的な位置に相当するようにデザインされる。このプライマーによって増幅産物が生成された場合には、同定すべき塩基はプライマーの3’末端に相補的であったことがわかる。しかしこの方法では、プライマーがアニールする場所以外における鋳型核酸の塩基を同定することはできない。
【0010】
PCR法を利用して、増幅産物における未知の塩基の相違を検出するための方法が知られている。たとえばPCR−SSCPは、PCR法の増幅産物の立体構造の相違が電気泳動によって検出される。同じプライマーセットで増幅されたDNAであっても、立体構造の違いが見られる場合には、両者を構成する塩基配列には相違があると予測することができる。
【0011】
同様に、PCR法の増幅産物の制限酵素による切断パターンを比較して、鋳型核酸の塩基の相違を見出す方法も知られている。この方法は、PCR−RFLPと呼ばれている。PCR−SSCPにしろPCR−RFLPにしろ、PCRの増幅産物の電気泳動分離が必要である。
【0012】
一方、本出願人は、PCR法における増幅産物の塩基配列の識別を可能とする方法として、解離曲線を指標とする方法を完成し特許出願している(特開2002−325581)。PCR法の増幅産物は、温度の上昇にともない、やがて1本鎖に解離する。1本鎖核酸への解離は、特定の温度で急激に起こることが知られている。2本鎖が急激に解離する温度は、融解温度(Melting Temperature;Tm)と呼ばれている。Tmは、当該核酸を構成する塩基と、反応液に含まれる成分によって決定される。したがって同じ組成の反応液中においては、Tmは、核酸を構成する塩基配列によって支配されるといってよい。この特徴に着目して、PCRの増幅産物の構成塩基配列の違いをTmの差として検出するのが、特開2002−325581の原理である。Tmは、インターカレーターを利用して容易に測定することができる。すなわち、特開2002−325581によって、電気泳動のような煩雑な手法に頼ることなく、PCR法における増幅産物の塩基配列の相違を見出すことができる。
【0013】
ところが、特開2002−325581においては、核酸の合成をPCR法に頼ったため、その増幅産物には多様性が無い。1セットのプライマーによって増幅されるのは、原則として1種類のみである。この特徴は、PCR法の特異性の高さを示している反面、構造が良く似ている複数の核酸の、相互識別が難しいことを意味している。
たとえば構造の良く似た3つの核酸A、B、およびCを識別するとする。1セットのプライマーで相互を識別するためには、同じプライマーセットで増幅される領域に、それぞれの核酸にユニークな塩基が含まれるようにデザインしなければならない。核酸の種類が多くなるほど、1セットのプライマーのみで全ての核酸のユニークな領域を増幅することは困難になる。
複数のプライマーセットを使って、複数の領域について同様の解析を実施すれば、多種類の核酸を識別できる可能性は高まる。しかし、複数セットのプライマーを使うことは、反応回数の増加につながる。つまり、解析の迅速性や経済性を犠牲にする可能性がある。また反応回数の増加にともなって、消費する試料の量も増加する。
【0014】
【特許文献1】特公平4−67957号公報
【特許文献2】特開平7−31500号公報
【特許文献3】特開2002−325581号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、核酸の塩基配列の相違を容易に見出すことができる方法と、そのためのプライマーの提供を課題とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】
PCR法では、複数のプライマーの使用は、迅速性や経済性を犠牲にする可能性が伴う。そこで本発明者らは、PCR法に頼らず、鋳型核酸の塩基配列の相違を明らかにすることができる方法について研究を重ねた。その結果、同定すべき核酸の複数の領域について相補鎖を合成し、合成された相補鎖の混合物の解離曲線についてその波形パターンを比較することにより、核酸間の相違を検出しうることを明らかにし、本発明を完成した。更に本発明者らは、同定すべき核酸の複数の領域を合成するたに有用なプライマーの提供に成功した。本発明者らが見出したプライマーによって、本発明の同定方法に必要な相補鎖合成産物の混合物を容易に得ることができる。すなわち本発明は、以下の核酸の同定方法、ならびに核酸の合成に有用なプライマーに関する。
〔1〕次の工程を含む核酸の同定方法。
(1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程
(2)(1)で合成された核酸の混合物の解離曲線を得る工程、および
(3)解離曲線の波形パターンを比較し、同じ波形パターンを有する核酸が同一の塩基配列を有していると同定する工程
〔2〕(1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程が、被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーをアニールさせ、相補鎖を合成する工程を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕変性剤および/または塩類の存在下でプライマーをアニールさせ、相補鎖を合成する工程を含む、〔2〕に記載の方法。
〔4〕変性剤が、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、および洗浄剤からなる群から選択される〔3〕に記載の方法。
〔5〕非イオン系界面活性剤が、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、およびソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択されるいずれかの非イオン系界面活性剤である〔4〕に記載の方法。
〔6〕洗浄剤が、ドデシル硫酸塩、ラウロイルサルコシン塩、ラウリル酸塩、およびメルカプト酢酸塩からなる群から選択されるいずれかの化合物である〔4〕に記載の方法。
〔7〕塩類が、NaSO、NaSO、NaHPO、NaHCOからなる群から選択されるいずれかの化合物である〔3〕に記載の方法。
〔8〕プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる1種類のオリゴヌクレオチドからなる〔2〕に記載の方法。
〔9〕プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる2種類以上のオリゴヌクレオチドからなる〔2〕に記載の方法。
〔10〕前記複数の部位の塩基配列の一部が共通である〔9〕に記載の方法。
〔11〕プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の任意の場所である〔10〕に記載の方法。
〔12〕プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の5’側に局在している〔10〕に記載の方法。
〔13〕プライマーが、次の特異プライマーおよび多義プライマーを含む波形生成用プライマー集合体である〔12〕に記載の方法。
特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
特異領域:オリゴヌクレオチドの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
〔14〕鋳型核酸における標的領域として複数の領域を選択し、1つの被験核酸について、前記複数の標的領域を対象として〔13〕に記載の同定方法を行う核酸の同定方法。
〔15〕特異プライマーの融解温度よりも20〜40℃低い温度でプライマー集合体を鋳型核酸にアニールさせる工程を含む、〔13〕に記載の方法。
〔16〕プライマー集合体のアニールと相補鎖合成反応を複数回行う〔13〕に記載の方法。
〔17〕被検核酸が1本鎖または2本鎖である〔1〕に記載の方法。
〔18〕被検核酸がDNAまたはRNAである〔1〕に記載の方法。
〔19〕被検核酸がゲノムDNAであり、工程(1)において同定すべき細胞と他の細胞の間で塩基配列が相違する少なくとも1つの領域を合成する〔1〕に記載の方法。
〔20〕複数の領域を合成するためのプライマーが、プライマーを構成する塩基配列の少なくとも一部が共通である〔19〕に記載の方法。
〔21〕被検核酸が微生物のゲノムDNAであり、工程(1)において同定すべき微生物と他の微生物の間で塩基配列が相違する少なくとも1つの領域を合成する〔19〕に記載の方法。
〔22〕被検核酸が真核細胞のゲノムDNAであり、工程(1)において保存された塩基配列で構成された遺伝子群を構成する領域を合成する〔19〕に記載の方法。
〔23〕遺伝子間で保存された塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるプライマーによって複数の領域を合成する〔22〕に記載の方法。
〔24〕次の工程を含む、核酸を同定するための参照用の解離曲線の波形パターンを生成する方法。
(1)被検核酸としての核酸標品の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程、および
(2)(1)で合成された核酸の混合物の解離曲線を得る工程
〔25〕〔24〕に記載の方法によって複数種の核酸標品について参照用の解離曲線の波形パターンを生成する方法。
〔26〕複数種の核酸標品について、共通のプライマー集合体によって合成された核酸の解離曲線を得る工程を含む〔25〕に記載の方法。
〔27〕〔24〕に記載の方法によって得られた複数の参照用の解離曲線の波形パターンを含む参照用の解離曲線波形パターンデータベース。
〔28〕被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーの混合物を含む波形生成用プライマー集合体。
〔29〕プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる1種類のオリゴヌクレオチドである〔28〕に記載のプライマー集合体。
〔30〕プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる2種類以上のオリゴヌクレオチドである〔28〕に記載のプライマー集合体。
〔31〕前記複数の部位の塩基配列の一部が共通である〔30〕に記載のプライマー集合体。
〔32〕プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の任意の場所である〔30〕に記載のプライマー集合体。
〔33〕プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の5’側に局在している〔30〕に記載のプライマー集合体。
〔34〕次の特異プライマーおよび多義プライマーを含む〔33〕に記載のプライマー集合体。
特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
特異領域:プライマーの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
〔35〕各プライマーの特異領域におけるgc含量が50%以上である〔34〕に記載のプライマー集合体。
〔36〕多義プライマーの多義領域に含まれる置換された塩基の種類が3’側から5’側にかけて増えることを特徴とする〔34〕に記載の波形生成用プライマー集合体。
〔37〕多義領域の塩基配列が次の3つの領域からなり、それぞれの領域を構成する置換塩基配列の全ての組み合わせを含む多義プライマーの集合体を含む〔34〕に記載のプライマー集合体。
(1)N領域:多義領域の5’末端を構成し、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の3種類のすべての塩基で置換された塩基である
(2)3多義領域:N領域の3’側に配置され、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の2種類の塩基のすべてで置換された塩基である
(3)2多義領域:3多義領域の3’側に配置され、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の1種類の塩基で置換された塩基である
〔38〕プライマーを構成するN領域の塩基数が2〜4塩基である〔37〕に記載のプライマー集合体。
〔39〕プライマーを構成するN領域:3多義領域:2多義領域の構成塩基数の比が、1:2:1である〔37〕に記載のプライマー集合体。
〔40〕プライマー集合体を構成する多義プライマーの多義領域の長さが、プライマーを構成する塩基数の10%〜80%である〔34〕に記載のプライマー集合体。
〔41〕プライマー集合体を構成する多義プライマーの特異領域および多義領域の長さの合計が10〜30塩基である〔34〕に記載のプライマー集合体。
〔42〕以下の工程を含む、次の特異プライマーおよび多義プライマーを含む波形生成用プライマー集合体の製造方法。
特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
特異領域:プライマーの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
a)特異領域を合成する工程、および
b)前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基、およびアデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の塩基の混合物を結合して多義領域を合成する工程
〔43〕前記任意の塩基の数を、前記多義領域の3’側から5’側にかけて1〜3に増加させる〔42〕に記載の方法。
〔44〕次の要素を含む、核酸の同定用キット。
(1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーの混合物を含む波形生成用プライマー集合体
(2)鋳型特異的な相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
(3)相補鎖合成用基質
〔45〕プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる1種類のオリゴヌクレオチドである〔44〕に記載のキット。
〔46〕プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる2種類以上のオリゴヌクレオチドである〔44〕に記載のキット。
〔47〕前記複数の部位の塩基配列の一部が共通である〔46〕に記載のキット。
〔48〕プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の任意の場所である〔47〕に記載のキット。
〔49〕プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の5’側に局在している〔47〕に記載のキット。
〔50〕プライマー集合体が、次の特異プライマーおよび少なくとも1種類の多義プライマーの集合体を含む、〔49〕に記載のキット。
特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
特異領域:プライマーの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
〔51〕前記標的領域が複数である〔49〕に記載のキット。
〔52〕複数の領域に対する波形生成用プライマー集合体が予め別々の反応容器に充填されている〔50〕に記載のキット。
〔53〕陽性対照および/または同定すべき核酸の解離曲線の波形パターンを付加的に含む〔49〕に記載のキット。
〔54〕変性剤、および/または塩類を付加的に含む〔44〕に記載のキット。
〔55〕変性剤が、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、および洗浄剤からなる群から選択される〔54〕に記載のキット。
〔56〕非イオン系界面活性剤が、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、およびソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択されるいずれかの非イオン系界面活性剤である〔55〕に記載のキット。
〔57〕洗浄剤が、ドデシル硫酸塩、ラウロイルサルコシン塩、ラウリル酸塩、およびメルカプト酢酸塩からなる群から選択されるいずれかの化合物である〔55〕に記載のキット。
〔58〕塩類が、NaSO、NaSO、NaHPO、NaHCOからなる群から選択されるいずれかの化合物である〔54〕に記載のキット。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明は、次の工程(1)−(3)を含む核酸の同定方法を提供する。
(1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程
(2)(1)で合成された核酸の混合物の解離曲線を得る工程、および
(3)解離曲線の波形パターンを比較し、同じ波形パターンを有する核酸が同一の塩基配列を有していると同定する工程
【0018】
本発明は、あらゆる核酸を被検核酸として同定することができる。核酸には、DNA、RNA、およびその誘導体が含まれる。DNAあるいはRNAの由来は限定されない。通常、核酸試料は生物学的材料から得ることができる。具体的には、各種の細胞、血液や体液、動植物の組織などを、生物学的材料として示すことができる。さらにそれらの材料から各種の人為的手法によりその核酸の一部または全部を合成することによって得ることができる核酸や、RNA材料を逆転写することにより得られるDNAを材料とすることもできる。ウイルスやベクターもDNAあるいはRNAの材料とすることができる。また、情報媒体あるいは演算素子として人為的に合成された核酸を対象としてもよい。
【0019】
一方、DNAあるいはRNAの誘導体とは、たとえば次のようなものを示すことができる。
− ヌクレオチド誘導体を構成単位として合成されたDNAあるいはRNAなど
− 他の分子によって修飾されたDNAあるはRNAなど
【0020】
本発明においては、上記の同定すべき核酸の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸が合成される、複数の部位とは、同定すべき核酸を構成する塩基配列の、複数の部位から選択される。動植物の細胞においては、1セットのゲノムが複数の染色体に保存されている。このような細胞においては、1セットのゲノムを構成する複数の核酸の全体を対象として、複数の部位が選択される。すなわち、一部の染色体から複数の部位を選択することもできる。あるいは、1セットを構成する複数の染色体上から、複数の部位を選択することもできる。本発明において、複数とは、少なくとも2つ以上、たとえば2〜150箇所、好ましくは5〜80箇所の領域を言う。合成箇所が多いほど、本発明の同定方法の感度を向上させることができる。本発明において、感度の向上とは、同定に必要な核酸の量をより少なくできることを意味する。合成される領域は、通常、重複しないようにデザインされる。しかし、相補鎖合成反応に干渉しない場合には、各領域間の重複は許容できる。
【0021】
複数の領域は、比較すべき核酸の間で塩基配列の相違があることが期待できる領域を含むことが望ましい。比較の対象とする核酸が多種類である場合、各核酸の合成対象領域の塩基配列は、少なくともいずれかの領域で他の核酸との相違が含まれるようにデザインするのが好ましい。塩基配列の相違は、複数の領域の全てにおいて含まれなくても良い。たとえば、3つの核酸X、Y、およびZについてa−cの3つの領域について合成するとする。各領域の塩基配列に相違が含まれることを‘で示す。以下の例では、核酸Yが他の核酸と異なる塩基配列からなるb’を、また核酸Zがc’を有している。これらの領域を合成することにより、3者の識別が可能となる。
核酸X:[a ]−[b ]−[c ]
核酸Y:[a ]−[b’]−[c ]
核酸Z:[a ]−[b ]−[c’]
【0022】
本発明の核酸の同定方法において、前記複数の領域は、被検核酸からできるだけ多様な塩基配列情報を特異的に取り出すことが望まれる。つまり、被検核酸の間で、できるだけ塩基配列の相違している部分が多く合成される方が好ましい。したがって、たとえば前記核酸X−Zの例においては、a−cのできるだけ多くの領域において、相互に塩基配列が異なっている方が、好ましい。
【0023】
たとえば微生物やウイルスのようなゲノムサイズが限られている生物種では、ゲノムの塩基配列情報が既に明らかにされているものも少なくない。これらの生物種については、予め、比較の対象となる生物種の間で、他の種との間で、塩基配列が相違する領域を選択することができる。また、ゲノムの塩基配列情報が不十分な場合であっても、既に明らかにされているゲノムや、遺伝子の情報に基づいて、塩基配列の相違する領域を選択することは可能である。
【0024】
なお複数の領域は、再現性を有する方法で合成されることが好ましい。本発明において、相補鎖合成の再現性とは、同じ領域が相補鎖合成の鋳型として利用されることを言う。相補鎖合成反応の原理によっては、合成産物の長さの均一性を保障できない場合があるかもしれない。本発明においては、鋳型として同じ領域が利用されていれば、合成産物の長さの変動は許容できる。本発明における再現性を有する相補鎖合成反応とは、あるプライマーが特異的に相補鎖合成を開始することであると言うこともできる。したがって本発明の相補鎖合成反応は、ランダムプライマーによる相補鎖合成反応とは区別される。
【0025】
複数の核酸について複数の領域を合成する以上、各核酸が同じ条件で合成されるべきであることは言うまでも無い。したがってプライマーとDNAポリメラーゼを用いた相補鎖合成反応によって複数領域を合成する場合には、プライマーのハイブリダイゼーションの特異性は維持されることが望まれる。
【0026】
核酸の合成方法は、鋳型依存性の合成方法であれば、特に限定されない。被検核酸が2本鎖からなる場合には、前記複数の領域は、センス鎖、あるいはアンチセンス鎖を鋳型として合成することができる。複数の領域の全てが、センス鎖あるいはアンチセンス鎖を鋳型として合成されても良いし、両者を鋳型として合成することもできる。
【0027】
続いて、本発明のための伸長産物を得る方法について説明する。伸長産物を得るための代表的な方法として、DNAポリメラーゼを利用した相補鎖合成反応を利用することができることは既に述べた。本発明においては、被検核酸の複数の領域を合成するために、被検核酸の複数の領域にアニールすることができるプライマーを利用する。本発明において、被検核酸の複数の領域にアニールすることができるプライマーから、相補鎖合成反応によって合成された伸長生成物を伸長産物という。伸長産物は、被検核酸の複数の領域を鋳型として合成された、ポリヌクレオチドの集合体である。したがって伸長産物を構成する各ポリヌクレオチド鎖の塩基配列は相互に異なる。ただし、相補鎖合成反応が繰り返されたときには、同じ塩基配列を含むポリヌクレオチド鎖が複数分子生成される。
【0028】
また、異なる領域に同じ塩基配列を有する被検核酸を鋳型として場合には、同じ塩基配列を含む伸長産物が生成される可能性もある。しかし本発明においては、解離曲線の多用な波形パターンを得ることが望ましいため、伸長産物の塩基配列はできるだけ相違を含むようにデザインすることが望ましい。
【0029】
被検核酸の複数の領域にアニールし、複数の領域の相補鎖合成を可能とするプライマーを、本発明では波形生成用プライマーという。本発明の波形生成用プライマーは、被検核酸の複数の領域の相補鎖合成に利用されるとともに、相補鎖合成の結果として、異なる塩基配列からなる伸長産物の混合物を与える。本発明における異なる伸長産物の混合物とは、好ましくは解離曲線を解析したときに複数のTmを与えるポリヌクレオチドの混合物を言う。
【0030】
本発明における波形生成用プライマーは、次のように定義することもできる。すなわち本発明の波形生成用プライマーは、被検核酸上の複数箇所に出現する特定の塩基配列領域に相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであって、同一の条件下で被検核酸上の複数の領域において、鋳型依存性のDNAポリメーラーゼによる相補鎖合成を開始することができる。波形生成用プライマーの塩基配列の少なくとも一部は、前記特定の領域に対して相補的な塩基配列からなる。前記特定の領域に対して相補的な塩基配列は、オリゴヌクレオチドの任意の領域に配置することができる。すなわち、たとえばオリゴヌクレオチドの3’末端を含む領域、末端を含まない中間の領域、そして5’末端を含む領域に配置することができる。
【0031】
被検核酸の複数の領域にアニールすることができるプライマーのデザイン方法として、たとえば次のような方法を示すことができる。以下のような考え方に基づいてプライマーをデザインすれば、単純に複数の領域の相補鎖合成に必要なプライマーを混合するよりも、プライマーを容易に合成することができる。
【0032】
複数の領域にアニールする1種類のプライマー:
単一のプライマーであっても、適当な塩基配列を選択すれば、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる。通常、配列特異的なアニーリングのためには、20−50塩基のオリゴヌクレオチドがプライマーとして用いられる。このような長さのオリゴヌクレオチドは、ストリンジェントな条件下では、複数の部位にアニールする可能性はきわめて低い。
【0033】
ところが、より少ない塩基数のオリゴヌクレオチドを用いれば、複数の位置にアニールする可能性が高まる。たとえば3〜8塩基からなるオリゴヌクレオチドがアニールしうる領域は、計算上は、1/64(4)〜1/65536(4)の確率で存在することになる。つまり、短いプライマーは、単一で用いても複数領域の相補鎖合成を可能とする。このような短いオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いるためには、プライマー濃度を上げる、アニーリング温度を下げるなどの条件を与えるのが望ましい。
【0034】
このような複数領域にアニール可能な1種類のプライマーの設計は、対象とするゲノムの塩基配列情報より、対象ゲノム中に出現頻度の高い3から十数塩基よりなる短い塩基配列を検索し、出現頻度の高い順に上位候補とすることにより可能となる。出現頻度をカウントするゲノム領域は、すべての塩基配列情報を対象としてもよいし、特定の関心領域に対象を絞ってもよい。
【0035】
複数の領域にアニールする2種類以上のプライマー:
鋳型となる核酸の塩基配列が明らかであれば、複数の領域を合成するために各々の箇所にアニールする複数のプライマーをデザインすることは容易である。しかし本発明においては、より多くの領域について相補鎖合成が必要な場合もある。合成すべき領域の増加に伴って、必要なプライマーの数も増えてしまう。一方で、反応系に添加することができるオリゴヌクレオチドの量には上限がある。また多様なオリゴヌクレオチドを合成するのは経済的にも不利である。そこで本発明者らは、多くの領域の相補鎖合成をできるだけ少ない種類のプライマーで合成できる方法について、検討した。その結果、以下に示すようなプライマーのデザインが有効であることを見出した。
【0036】
まず、できるだけプライマー間の塩基配列が共通となるように、合成すべき領域を選択する。たとえば以下の例においては、プライマーをアニールさせるための2つの領域が選択されている。これらの塩基配列は、2種類の抗酸菌A(Mycobacterium bovis)およびB(Mycobacterium kannsasii)のゲノムから選択された。いずれも、ゲノム上の異なる位置にありながら、互いに塩基配列の類似性が高い(一致している塩基を大文字で示した)。
抗酸菌A:AGcTcGTAAa(配列番号:1)
抗酸菌A:AGtTcGTAAt(配列番号:2)
抗酸菌B:AGgTtGTAAa(配列番号:3)
抗酸菌B:AGtTcGTAAa(配列番号:4)
【0037】
この例では、3、5、および10塩基目の塩基が相違し、それ以外の塩基は一致している。これらの相違している塩基を多義コード(ambiguity code)で表現すれば、agBtYgtaaW(配列番号:5)となる。本発明において、多義コードとは、ある位置に複数種の塩基を割り当てるための記号である。本発明において、多義コードで表現されたオリゴヌクレオチドは、当該多義コードの位置において、多義コードによって表される全ての塩基の組み合わせを含む混合物であることを意味している。ここで用いた多義コードはそれぞれ次の塩基に対応している。
B=c.g.t      Y=c,t      W=a,t
【0038】
すなわち、共通性の高い塩基配列(agBtYgtaaW)の選択によって、この例では1菌種当たり2箇所の相補鎖合成を可能とできた。本発明において、多義コードで表現された塩基配列を有するプライマーを多義プライマーという。
【0039】
通常、4つの領域の相補鎖合成のためには、各領域にアニールする4種類のプライマーが必要である。ところがここに示した例においては、1種類の多義プライマーによって4つの領域の相補鎖合成が可能となった。多義プライマーは、異なる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの集合体である。しかし操作上は、単一のオリゴヌクレオチドと同様の操作によって合成され、相補鎖合成においても単一のオリゴヌクレオチドとして利用することができる。
【0040】
更にこのような考え方に基づいて、ゲノム内の複数の特定の関心領域に対し、共通の1種類からなる多義プライマーの設計を行うことも可能である。上記の抗酸菌A,Bにおける事例を例に採れば、A,Bの種間差をもっとも顕著に示す塩基配列を選択することにより、菌種同定という目的を達成したのに対し、本発明は更にまったく別の関心領域、例えば薬剤耐性に関わる情報を、同時に取得するための手段を提供する。すなわち、複数の関心領域に対し各々出現頻度の高い塩基配列候補を選択し、次にそれら上位候補間の塩基配列の中から更に共通性の高い塩基配列を選択することにより、複数のまったく独立した情報を同時に得ることが可能な、1種類の多義プライマーの設計を可能とする。
【0041】
さて、一般に、鋳型となる核酸の塩基配列の一部が不明なときに、しばしば縮重プライマー(degenerate primer)が利用される。縮重プライマーの塩基配列も本発明における多義プライマーと同じように表記される。しかし多義プライマーは異なる塩基配列を有する複数領域の合成を目的としている。他方、PCRクローニングなどに用いられる縮重プライマーは、通常、1種類の鋳型に対して1種類の核酸の合成を目的としている。クローニング(すなわち遺伝子の単離)を目的とする場合には、多様な合成産物を生成するプライマーは望ましくない。このように多義プライマーと縮重プライマーとでは、そのデザインの目的がまったく異なっている。他方、縮重プライマーを本発明における波形生成プライマーとして利用することは可能である。
【0042】
以上の例では、被検核酸の塩基配列から、できるだけプライマーの種類を少なくすることが可能な領域を選び出した。言い換えれば、被検核酸に依存したデザイン方法である。したがって、被検核酸および比較対象となる核酸の塩基配列によっては、適用が難しい場合もあるかもしれない。これに対して、以下に述べる方法は、被検核酸および比較対象となる核酸の塩基配列の影響を受けず、比較的容易に複数のプライマーをデザインしうる方法である。
【0043】
前記の多義プライマーは、鋳型となる核酸の塩基配列に合わせて多義コードを配置した。これに対して、プライマーの5’側に多義コードを配置して、被検核酸の複数の領域にアニールすることができる波形生成用プライマー集合体を得ることもできる。すなわち本発明は、下記の特異プライマーおよび多義プライマーを含む波形生成用プライマー集合体に関する。
特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
【0044】
特異領域:オリゴヌクレオチドの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
【0045】
本発明における特異プライマーは、鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドまたはその誘導体からなる。誘導体とは、付加的な塩基配列を有するオリゴヌクレオチド、あるいは修飾されたオリゴヌクレオチドが含まれる。オリゴヌクレオチドは、蛍光物質、放射活性物質、あるいは結合性リガンドなどで修飾することができる。
【0046】
本発明における標的領域は、鋳型核酸に相補鎖合成のためのプライマーがアニールするべき領域を言う。つまり標的領域は、鋳型核酸の合成すべき領域の3’側に位置する領域である。鋳型核酸の合成すべき領域は、先に述べたように、本発明による核酸の同定方法において、被検核酸に固有の波形パターンを生じることが期待できる領域として選択された領域であることが望ましい。このような領域は、比較対象である核酸との、塩基配列の相違を含む領域を中心として、選択することができる。一方で、できるだけ少ない種類のプライマーで複数の領域を合成するためには、たとえば異なる位置に見出される相同性の高い塩基配列を標的領域として選択することができる。しかしながら、本発明に基づく波形生成用プライマー集合体の利用によって、標的領域との相同性が低い領域に対してアニールすることが可能なプライマーを提供することもできる。その結果、単一の標的領域を選択した場合であっても、鋳型核酸の複数の領域の相補鎖合成が可能な波形生成用プライマー集合体を得ることができる。
【0047】
一方、以下に述べる多義プライマーにおいて、3’側の多義コードを含まない領域を特異領域、5’側の多義コードを配置した領域を多義領域という。特異領域は、特異プライマーの3’末端を含む領域を構成する塩基配列と同一の塩基配列で構成される。すなわち、多義プライマーと特異プライマーの3’末端を含む塩基配列は共通である。特異領域を構成する塩基の数は制限されない。特異領域の長さは、多義領域の条件に応じて適宜設定することができる。たとえば、多義プライマー全体の長さの20〜90%の範囲で、特異領域の長さを選択することができる。
【0048】
多義領域を構成する多義コードは、たとえば4塩基多義(N)の連続とすることもできるし、被検核酸の塩基配列に合わせて、抗酸菌の例で述べたように適宜必要な多義コードを配置することもできる。更に、以下に述べるように、プライマーの3’側から5’側にかけて多義領域のバリエーションを段階的に増やすこともできる。
【0049】
このようにしてデザインされた多義プライマーは、被検核酸の多くの領域に対して、高い再現性でアニールし、複数領域の相補鎖合成産物を与える。多義領域のバリエーションを段階的に変化させることにより、相補鎖合成において、反応特異性を左右する3’側の多義性を小さくする一方で、比較的特異性に対して影響を与えにくい5’側においてプライマーの塩基配列に多様性を与えることができる。このような構造的な特長により、多様な塩基配列に対して安定にアニールすることができるプライマーの集合体とすることができる。
【0050】
一方、プライマー集合体を構成する個々のオリゴヌクレオチドは、3’側の多様性が低くなるようにデザインされている。その結果、各オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して相補的な塩基配列に選択的にアニールし相補鎖合成を開始する。つまり、幅広い塩基配列について、それぞれ特異的に、かつ安定に相補鎖合成を開始することができるのである。
【0051】
多義領域における多義性を段階的に変化させた多義プライマーとして、次の構造を示すことができる。すなわち本発明は、多義領域の塩基配列が次の3つの領域からなり、それぞれの領域を構成する置換塩基配列の全ての組み合わせを含む多義プライマーの集合体を含む波形形成用プライマー集合体に関する。
(1)N領域:多義領域の5’末端を構成し、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の3種類のすべての塩基で置換された塩基である
(2)3多義領域:N領域の3’側に配置され、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の2種類の塩基のすべてで置換された塩基である
(3)2多義領域:3多義領域の3’側に配置され、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の1種類の塩基で置換された塩基である
【0052】
図4に示す多義プライマー(NNVHDBSS)において、多義領域は、5’末端側から3’側にかけて段階的に多義性が高まるようにデザインされている。すなわち、5’末端側には、A(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、およびT(チミン)の何れかを示すAmbiguity CodeであるNで構成されるN領域が存在する。N領域は、標的領域に対して相補的な塩基をそれ以外の3種類のいずれかの塩基に置換した領域と言うこともできる。
【0053】
N領域に続いて、標的領域に対して相補的な塩基をそれ以外の2種類の塩基で置換した3多義領域(3 ambiguity region; 3AR)が配置されている。更に3ARの3’側に、標的領域に対して相補的な塩基をそれ以外の1種類の塩基で置換した2多義領域(2 ambiguity region; 2AR)が配置されている。図4の例では、5’末端側の2つのNがN領域を構成し、続くV,H,D,Bの4塩基分が3ARを構成する。そして、3’側の2つのSが2ARを構成する。このような多義領域の構造により、3’側から5’末端にかけて多義性を高めることができる。言い換えれば、このような構造によって、5’側から3’末端にかけて特異性を高めることができる。本発明に用いる多義コードと実際の塩基の対応は表1にまとめた。
【0054】
本発明の多義プライマーにおいて、N領域の長さは2〜4塩基が好ましい。N領域の塩基数が5塩基以上になると、ダイマー、ループ等のプライマー相互干渉が出現しやすくなる可能性が高まる。また、3ARの配列は、DHVB、HDVB、VHDB、HVDBの順に安定性が高い。このように、3’側におけるG又はCの割合を高めた方が安定性が高くなる。
次に2ARの配列も、標的領域の塩基配列を考慮して設計する必要がある。なお、N領域、3AR、2ARの長さの比は、1:2:1が好ましいがこれに限定されない。
【0055】
プライマー集合体を構成する多義プライマーの多義領域の長さは、プライマーを構成する塩基数の10%〜80%であることが好ましい。またプライマー集合体を構成する多義プライマーの特異領域および多義領域の長さの合計は、10〜30塩基であることが好ましい。
【0056】
多義プライマーを含む本発明の波形生成用プライマー集合体は、前記標的領域として、少なくとも1つの領域を設定し、当該領域の塩基配列に基づいてデザインすることができる。標的領域を複数選択することもできる。この場合、特異プライマーの種類が増え、それに応じて多義プライマーの種類も増えることになる。標的領域として複数の領域を選択した場合、波形生成用プライマー集合体は、同時にまたは個別に相補鎖合成に用いることができる。波形生成用プライマー集合体を用いることによって、波形の多様性を高めることができる。すなわち、本発明の方法の核酸の識別能力を高めることができる。
【0057】
たとえば図12に示した4種類の波形生成用プライマー集合体sPGBUP65、sPGBUPUPR、sPGBUPFX、およびsPGBUPRXは、それぞれ異なる標的領域についてデザインされている。仮に各波形生成用プライマー集合体によって各々15種の異なる波形パターンが得られるとすると、理論上は、50,625種類(15×15×15×15)の波形パターンが得られることを意味する。このことは、15種類の波形パターンを生成することができる4とおりの波形生成用プライマー集合体の利用によって、本発明の核酸の同定方法が、5万種類以上の核酸の識別できることを示している。
【0058】
複数の領域に対してデザインされた複数種類の波形生成用プライマー集合体は、集合体同士の混合物として、あるいは集合体毎に独立して相補鎖合成に利用することができる。独立して相補鎖合成に用いることによって、波形パターンとプライマー集合体の関係を、明確に知ることができる。すなわち、ある領域Aに基づいてデザインされた波形生成用プライマー集合体Aと別の領域Bに基づいてデザインされた波形生成用プライマー集合体Bとは、混合しないで個別に相補鎖合成に用いるのが好ましい。
【0059】
上記のような、複数の領域において相補鎖合成を開始することができるいずれかのプライマーを、相補鎖合成が可能な条件下で鋳型核酸とインキュベートすることにより、相補鎖合成が開始される。相補鎖合成が可能な条件とは、次の条件が満たされることを言う。
鋳型核酸に前記プライマーがアニールすることができる、
鋳型依存性のDNAポリメラーゼの触媒活性が維持される、および
相補鎖合成のための基質が供給される、
【0060】
プライマーが鋳型核酸にアニールすることができる条件は、プライマーの塩基配列に応じて当業者が適宜設定することができる。たとえば実施例に記載したように、2(A+T)+4(G+C)法(Wallace法 )によってDNAのTmを計算することができる。Tmの計算方法として、その他には、GC%法 、あるいは最近接塩基対法(NearestNeighbor method) などが公知である。またホルムアミドあるいはジメチルスルホキシド(DMSO)などの添加によってTm値が低下することも公知である。一方、反応液の塩濃度が高まると、一般的にはTmが上昇することが知られている。
【0061】
これに対し本発明者は、ある種の添加剤により、プライマーの被検核酸への対合を安定化させ、共存する核酸伸張産物の被検核酸への競合的・非特異的な結合による相補鎖合成反応の阻害を抑制しうることを見出した。本発明において、プライマーの被検核酸へのアニールを安定化させるために用いる添加剤を、スタビライザーと言う。スタビライザーとしては、各種の変性剤、あるいは塩類などを用いることができる。本発明において、短い塩基配列からなるプライマー、あるいは多義領域を含むプライマーを用いた相補鎖合成反応は、低い温度条件が望ましい場合がある。より具体的には、20塩基未満のプライマーを用いた場合には、たとえば25℃〜50℃の反応温度が望ましい。本発明において、このような低温での相補鎖合成反応には、スタビライザーの添加が有効である。本発明におけるスタビライザーとして利用できる変性剤として、界面活性剤を示すことができる。
【0062】
たとえば、非イオン系界面活性剤あるいは陰イオン系界面活性剤をスタビライザーとして用いることができる。非イオン系界面活性剤は、エーテル型、エーテルエステル型、エステル型、および含窒素型に分類される。これらの非イオン型界面活性剤の中では、エーテルエステル型の非イオン系界面活性剤が好ましい。より具体的には、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、およびソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテルをエーテルエステル型の非イオン系界面活性剤として示すことができる。エーテルエステル型の非イオン系界面活性剤には、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ヒマシ油、ポリキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド硫酸塩などが含まれる。本発明において、特に好ましいエーテルエステル型の非イオン系界面活性剤は、ポリキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである。以下に本発明におけるスタビライザーとして利用することができる市販の非イオン系界面活性剤を例示する。
【0063】
ポリオキシエチレンアルキルエーテル:
NIKKOL BL−9EX (Polyoxyethylene(9) Lauryl Ether)
Brj35 (Polyoxyethylene(23) Lauryl Ether)
【0064】
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル:
TRITON X−114 (Polyoxyethylene(8) Octylphenyl Ether)
TRITON X−100 (Polyoxyethylene(8) Octylphenyl Ether)
NP−40 (Polyoxyethylene(9) Octylphenyl Ether)
【0065】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル:
TWEEN 20 (Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monolaurate)
TWEEN 80 (Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monooleate)
TWEEN 40 (Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monopalmitate)
TWEEN 60 (Polyoxyethylene(20) Sorbitan Monostearate)
TWEEN 85 (Polyoxyethylene(20) Sorbitan Trioleate)
【0066】
一方本発明に利用可能な陰イオン系界面活性剤としては、スルホン酸塩、カルボン酸塩、硫酸エステル塩、あるいはリン酸エステル塩などの界面活性剤を示すことができる。更に以下に示す洗浄剤もスタビライザーとして利用することができる。これらの洗浄剤は、ナトリウム塩以外の塩を利用することもできる。
ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate;SDS)
ラウロイルサルコシンナトリウム(Sodium N−Lauroyl Sarcosinate)
ラウリル酸ナトリウム(Sodium Laurate)
メルカプト酢酸ナトリウム (Sodium Mercaptoacetate)
【0067】
変性剤の反応液における濃度は、波形生成用プライマー集合体を構成する塩基配列や、相補鎖合成反応の温度に応じて、適宜調節することができる。一般的には0.01%W/V〜10%W/V、例えば0.5%W/V〜5%W/V、より具体的には1%W/V〜3%W/Vとなるように添加することができる。
【0068】
更に本発明者は、本発明における波形生成用プライマー集合体が比較的短い塩基配列からなる場合であっても、安定に被検核酸へのアニールと相補鎖合成を可能とするために、ある種の塩類の添加が有効であることを明らかにした。反応液に添加される塩類としては、たとえばNaSO、NaSO、NaHPO、NaHCOを示すことができる。これらの塩類の反応液における濃度は、波形生成用プライマー集合体を構成する塩基配列や、相補鎖合成反応の温度に応じて、適宜調節することができる。一般的には、反応液に0.005〜0.5M、たとえば0.01〜0.1M、より具体的には0.03〜0.05Mとなるように添加することができる。
【0069】
スタビライザーとして例示した変性剤、あるいは塩類は、単独で用いても良いし、複数の化合物を混合して利用することもできる。各化合物はいずれも異なる機序でプライマーのアニールの安定化、あるいは特異性の向上をもたらしていると考えられる。したがって、界面活性剤、洗浄剤、および塩類の各成分を添加することによって、スタビライザーの作用は増強される。
【0070】
なおプライマーのアニールには、鋳型となる核酸が少なくともプライマーがアニールすべき領域において、塩基対結合が可能な状態にある必要がある。たとえば鋳型とする核酸が2本鎖の核酸であれば、いったん変性条件でインキュベートして1本鎖とすることによって、プライマーをアニールさせることができる。鋳型とする核酸が1本鎖として存在している場合には、そのままプライマーをアニールさせることができる。たとえば、各種のRNAなどは、そのまま鋳型として利用することができる場合がある。
【0071】
また本発明における鋳型依存性のDNAポリメラーゼとしては、鋳型となる核酸にアニールしたプライマーから、鋳型の核酸の塩基配列に相補的な塩基配列を合成する機能を有する任意のDNAポリメラーゼを利用することができる。以下に現在入手可能なDNAポリメラーゼの例を示す。
タカラ社製 ExTaq 、Taq 、Z Taq、Pyrobest DNA polymerase、
ファルマシア社製 Taq DNA Polymease,Cloned for PCR、
QIAGEN社製 Hot Star Taq、
TOYOBO社製 KOD DNA Polymerase
【0072】
これらのDNAポリメラーゼの中でも、Taq DNA polymerase (TaKaRa Ex Taq TM R−PCR Versionなどの耐熱性DNAポリメラーゼは、温度の昇降を利用したDNA合成制御を行う反応系を使用する場合に、熱負荷に対する安定性が高いため好ましい。
【0073】
これらの酵素は、その触媒作用が維持される条件の下で利用される。各酵素の至適条件は公知である。酵素活性に影響を与える要因として、温度、塩濃度、pH、変性剤や保護剤の存在、あるいはその他に各酵素が要求する各種の補因子などを示すことができる。これらの諸条件は、当業者が適宜設定することができる。
【0074】
これらの条件が酵素活性の維持に必要な範囲に設定されれば、相補鎖合成に必要な基質を利用して、相補鎖が合成される。相補鎖合成のための基質としては、通常、4種類のデオキシヌクレオチド(dNTP)が利用される。デオキシヌクレオチドの誘導体を利用して、DNAの誘導体を合成させることもできる。この種の誘導体として、蛍光色素や結合性リガンドで修飾したデオキシヌクレオチド誘導体が利用される場合がある。
【0075】
DNAポリメラーゼによる核酸の合成反応においては、目的としない反応の防止、あるいは各反応成分や鋳型核酸の保護を目的として、氷上での操作が奨励されている。本発明においても、これらのDNAポリメラーゼを用いる場合には、試薬成分と試料とは、相補鎖合成反応を開始するまで、冷却条件下に置くことは好ましい。冷却条件とは、具体的には4℃以下、あるいは氷上での操作を言う。更に、目的としない反応を防ぐためには、いったん高温条件に曝露した後にDNAポリメラーゼ活性を獲得するようにデザインされたDNAポリメラーゼが有用である。このようなDNAポリメラーゼとしては、Hot Star Taqを挙げることができる。
【0076】
本発明において、相補鎖を合成する工程は、必要に応じて複数回繰り返すことができる。鋳型とする核酸が十分量で存在している場合には、1回の相補鎖合成によって、解離曲線の解析が可能な量の伸長産物を生成することができる。もしも鋳型とする核酸の量が少ない場合には、同様の相補鎖合成反応を繰り返すことによって、解析に必要な量の相補鎖を得ることができる。本発明において、相補鎖を前記の各種のプライマーを利用した相補鎖合成反応によって合成する場合、各プライマーが先に合成された相補鎖に対してアニールしないようにデザインすることが望ましい。本発明においては、多様な塩基配列からなる伸長産物の混合物を得ることが、好ましい条件となる。ところがもしも先に合成された相補鎖に対して別のプライマーがアニールすると、PCR法様の相補鎖合成反応が開始される恐れがある。その結果、相補鎖合成反応の繰り返しによって、特定の塩基配列からなる2本鎖核酸のみが反応性生物として多量に蓄積されることになる。このような反応性生物の存在は、本発明においては、波形の単純化を招き複数箇所からの多様な産物の合成を妨げることで解析の性能を低下させる可能性がある。
【0077】
なお相補鎖合成の工程において同一の反応条件の繰り返しによって伸長産物を得る場合には、各合成反応の条件を均一に保つことが望ましい。反応条件を均一に保つことによって、伸長産物のサイズを一定の範囲に維持することができる。その結果、本発明の同定方法の再現性の向上に貢献する。
【0078】
上記工程(1)において合成される核酸も、被検核酸と同様にDNA、RNA、あるいはその誘導体であってよい。配列依存性の核酸の合成反応として最も一般的な方法は、プライマーとDNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応である。この場合、合成される核酸はDNAまたはその誘導体である。プライマーには、被検核酸の複数の領域にアニールすることができるオリゴヌクレオチドが使用される。本発明において波形生成用プライマーとして利用することができるオリゴヌクレオチドのバリエーションについては、上記のとおりである。
【0079】
RNAポリメラーゼを利用した、鋳型依存性の転写反応を本発明に利用することもできる。まず、鋳型となる核酸の複数の領域の塩基配列に、RNAポリメラーゼが認識するプロモーターを構成する塩基配列を付加したDNAを合成する。具体的には、鋳型に相補的な塩基配列からなるプライマーの5’側にプロモーターの塩基配列を付加したオリゴヌクレオチドを利用して、相補鎖合成を行えばよい。合成されたDNAを2本鎖とすれば、RNAポリメラーゼによる転写反応に利用することができる。プロモーターを含むDNAにRNAポリメラーゼを作用させると、一定の温度条件下で、鋳型依存性の転写反応が進行し、多量のRNAが転写される。この場合、合成される核酸はRNAまたはその誘導体である。
【0080】
本発明において、前記工程(1)で合成された被検核酸の複数の領域の相補鎖合成産物を、特に伸長産物(elongation product)と言う。本発明は、前記伸長産物の混合物の解離曲線を得る工程を含む。
【0081】
塩基対結合によって形成されている2本鎖の核酸は、温度の上昇にともない、やがて1本鎖に解離する。1本鎖核酸への解離は、特定の温度で急激に起こることが知られている。2本鎖が急激に解離する温度は、融解温度(Melting Temperature; Tm)と呼ばれている。Tmは、当該核酸を構成する塩基と、反応液に含まれる成分によって決定される。したがって同じ組成の反応液中においては、Tmは、核酸を構成する塩基配列によって支配されるといってよい。
【0082】
PCR法の反応産物のようにシンプルな2本鎖構造の核酸が高純度で存在するとき、Tmは一義的に決定することができる。ところが伸長産物の混合物のように多様なポリヌクレオチドの集合体は、複雑な解離曲線を与える。本発明は、伸長産物の混合物によってもたらされる解離曲線の比較によって、鋳型とした核酸を同定することができるという知見に基づいて完成された。
【0083】
解離曲線を得る方法は任意である。たとえば、インターカレーターを利用して、2本鎖核酸の1本鎖への解離を検出することができる。本発明において、2本鎖の核酸に結合してシグナルを生成する化合物を、インターカレーターという。インターカレーターとしては、エチジウムブロマイド(臭化エチジウム)、あるいは入手可能な商品としてサイバーグリーン(Molecular Probe社製)が知られている。
これらの化合物は、いずれも本発明の解離曲線の解析に用いることができる。たとえばサイバーグリーンを2本鎖DNAに添加すると、2本鎖構造の解離を蛍光強度の低下によって検出することができる。
【0084】
あるいは、2本鎖構造の解離状況を電気的信号や吸光度測定などの光学的手法により観察することによって解離曲線を得ることも可能である。
【0085】
解離曲線は、伸長産物によって構成される2本鎖核酸構造が1本鎖核酸に解離する条件を段階的に変化させることによって得ることができる。2本鎖核酸構造を1本鎖核酸に解離させる条件は任意である。具体的には、温度、水素イオン濃度、変性剤などの条件を変化させることによって、1本鎖核酸に解離させることができる。これらの条件の中でも、温度条件の変化は、制御が容易であり、解離状態を観察しやすいため有利である。
【0086】
伸長産物の解離曲線の解析により、解離曲線の波形パターンを得ることができる。解離曲線の波形パターンとは、複数のTmについての情報を含む解離曲線を言う。Tmについての情報には、Tmの数値と、そのTmにおけるシグナル強度の情報が含まれる。ある核酸について得られた解離曲線の波形パターンと、共通の波形パターンを与える核酸は、同じ核酸であると決定することができる。逆に、もしもTmの組み合わせが異なる場合、あるいは各Tmのシグナル強度の組み合わせが異なる場合、両者は異なる核酸である可能性が高い。このように本発明による同定方法において、被検核酸の複数の領域の合成産物の混合物によって与えられる解離曲線の波形パターンは、被検核酸に固有のパターンを有する。このような波形パターンを、本発明においてジェノパターンと言う。
【0087】
1種類の2本鎖核酸は、通常、単一のTmを示すのみである。たとえば、PCR法によって得られる増幅産物は、多くの場合、単一のTmを示す。このため、比較検討したい被検核酸と対照核酸の間に一部塩基配列の相違が存在しても、PCR法による増幅産物の解離曲線の比較によってその差を検出するには、反応条件等に特殊な構成が必要である(特開2002−325581)。これに対して本発明においては、鋳型核酸の複数の領域について合成された伸張産物である1本鎖核酸の混合物の解離曲線を解析する。
【0088】
伸長産物の混合物は、多様な塩基配列からなるポリヌクレオチドの集合体(complex)である。このような集合体は、PCR法による産物と異なり、全長にわたって完全に相補的に対合可能なヌクレオチド鎖が存在しないため、塩基配列に依存した独自の高次構造形成、あるいは産物間の部分的な対合による種々の相互干渉を起こすものと予測される。その結果、伸長産物の加熱による解離、変性によって、多様で複雑な解離曲線の波形パターンが得られる。鋳型となる核酸の種類によって種々の波形パターンが得られるため、波形パターンを解析することで核酸を同定することができる。
【0089】
波形パターンの比較同定は、グラフとして描かれたパターン間での肉眼による比較観察により行うことが可能である。さらにコンピュータ可読式の電子媒体上に記録された波形パターン間での、パターン認識プログラムによる客観的な比較及び一致率の定量的測定も可能である。比較対象とする波形パターンの特徴として取り上げるものは、全体の一致率として各温度における蛍光強度変化率のほか、パターンのピークの高さ(蛍光強度変化率)、ピークの位置(解離温度)、ピークの数、ピークの幅、複数ピーク間での高さの順序、谷の深さ、谷の位置、数、幅、順序、傾斜角度など、比較する波形パターンの形状に応じて複数設定することができる。さらに、各特長ごとの比較結果をその重要度に応じて重み付けすることにより認識の精度を向上できる。
【0090】
本発明の核酸の同定方法において、被検核酸から得られた解離曲線の波形パターンは、参照用の解離曲線の波形パターンと比較することによって、被検核酸が同定される。参照用の波形パターンは、核酸標品を試料として、本発明の同定方法と同様の操作を行うことによって得ることができる。
【0091】
本発明において、核酸標品とは、同定すべき核酸であることが明らかな核酸を含む試料を言う。たとえば、全塩基配列が明らかにされている核酸は、核酸標品とすることができる。あるいは塩基配列が決定されていなくても、微生物細胞株から得られた核酸は、核酸標品に含まれる。株化された微生物細胞株は、純化された細胞と見なすことができる。微生物細胞株と同様に株化されたウイルスや、各種培養細胞株も、核酸標品として有用である。
【0092】
更に、相補鎖合成すべき領域の構造が明らかにされている核酸を核酸標品とすることもできる。たとえば真核細胞のゲノムのようなサイズの大きい核酸であっても、用いるプライマーによって合成される領域の構造が明らかであれば、核酸標品として利用することができる。言い換えれば、ある核酸の構造が明らかな部分を合成することができるプライマーをデザインすることによって、当該核酸を標品として本発明の同定方法を実施することができる。
【0093】
参照用の波形パターンは、被検核酸の同定時に生成することもできるし、予め参照用の波形パターンを用意しておくこともできる。予め波形パターンを用意しておけば、実際の同定時には被検核酸の解析のみを行えばよいので便利である。本発明は、次の工程を含む、核酸を同定するための参照用の解離曲線波形パターンを生成する方法を提供する。
(1)被検核酸としての核酸標品の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程、および
(2)(1)で合成された核酸の混合物の解離曲線を得る工程
【0094】
複数種の核酸標品について参照用の解離曲線波形パターンを生成することによって、より多様な核酸についての同定手段を提供することができる。これらの波形パターンは、共通のプライマー集合体を利用して生成するのが好ましい。共通のプライマー集合体を利用し、同様の条件で生成された参照用波形パターンは、同様の条件で解析された被検核酸の波形パターンに対して幅広く参照用波形パターンとして応用することができる。
【0095】
これらの参照用波形パターンは、コンピューター可読式の媒体に記録することによって、参照用の解離曲線の波形パターンデータベースとすることができる。本発明においてデータベースとは、コンピューター可読式の媒体に記録された情報の集合体を言う。コンピューター可読式の媒体には、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、あるいはメモリ回路が含まれる。更にインターネットなどのネットワークを介して接続されたデータ記録装置も、コンピューター可読式媒体に含まれる。
【0096】
本発明のデータベースを利用すれば、利用者が本発明の核酸の同定方法を実施するために、ネットワークを介して参照用の波形パターンを入手することができる。あるいは逆に利用者が生成した被検核酸の解離曲線の波形パターンをサーバーに送信し、データベースとの照合の後にその結果をサーバーから利用者に提供することもできる。
【0097】
更に本発明は、波形生成用プライマー集合体の製造方法に関する。本発明者らは、本発明の核酸の同定方法に用いることができる各種の波形生成用プライマー集合体をデザインすることに成功した。波形生成用プライマー集合体は、特異プライマーと多義プライマーの混合物である。本発明者らがデザインしたいくつかの多義プライマーは、鋳型核酸の複数の領域について同時に相補鎖を合成可能とする新規な波形生成用プライマー集合体に有用である。これらの多義プライマーの中でも、5’側に多義性が段階的に変化する構造を与えた多義プライマーは、構造的にも新規なプライマーであると言うことができる。このような多義プライマーを含む波形生成用プライマー集合体は、次の工程を含む、鋳型ポリヌクレオチドの標的領域に相補的な塩基配列を含む特異プライマーに加えて、下記の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマーの集合体からからなる、波形生成用プライマー集合体の製造方法によって得ることができる。
【0098】
特異領域:オリゴヌクレオチドの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
a)特異領域を合成する工程、および
b)前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基、およびアデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の塩基の混合物を結合して多義領域を合成する工程
【0099】
本発明の多義プライマーは、縮重プライマーと同様の合成反応を利用して合成することができる。たとえば、リン酸トリエステル法、ホスホロアミダイト法、あるいはホスホン酸エステル法などの核酸の合成方法が報告されている。中でもホスホロアミダイト法は、DNA合成装置による自動合成を可能とする原理として広く利用されている。DNA合成装置によるDNAの合成には、一般に固相合成法が利用される。すなわち、3’位において樹脂に結合したヌクレオシドに対して、目的とする塩基配列を構成するモノヌクレオシドを3’−>5’方向に1塩基ずつ、化学的に結合させることによって、DNAが合成される。このとき、モノヌクレオシドとして、複数の塩基の混合物を与えれば、当該位置において異なる塩基が結合される。DNAの化学合成反応において、各塩基の濃度が等しい場合には、結合反応は等しい確率で起きるとされている。したがって、たとえば、aとgを等しい濃度で含む混合物を与えた場合には、ある位置においてaとgの2通りの塩基配列を有するDNAが合成される。すなわち2種類の塩基の混合物の利用によって、本発明における2多義領域を合成することができる。同様に、4種類の塩基の混合によってN領域が、3種類の塩基の混合によって3多義領域が、それぞれ合成される。
【0100】
本発明においては、特異プライマーを構成する塩基配列を基本として、各位置における多義コードを構成する塩基の混合物を順次反応させることによって、多義プライマーが合成される。このようにして、特異プライマーと多義プライマーとは、同時に集合体として合成することができる。合成された集合体は、必要に応じてHPLCなどによって精製し、相補鎖合成反応に利用することができる。
【0101】
多義プライマーを構成する各領域は、順次合成することもできるし、別々に合成した領域を連結することによって多義プライマーの全体を得ることもできる。たとえば本発明の多義プライマーが特異領域(3’末端を含む)と、多義領域(5’末端を含む)とで構成される場合には、両者を別々に合成した後に連結することによって多義プライマーを得ることもできる。オリゴヌクレオチドを、T4リガーゼなどの酵素を利用して連結する方法が公知である。
【0102】
更に、多義領域が多義性の異なる複数の領域で構成されるときには、各領域ごとに別々に合成しておくこともできる。別々に合成された多義性の異なる領域は、多義プライマーのデザインに応じて、連結することにより目的とする塩基配列を有する多義プライマーとして構築される。たとえばN領域は、特異プライマーの塩基配列にかかわらず共通である。したがって、鋳型の塩基配列にかかわらず、必要な長さのN領域を予め合成しておくことができる。また3多義領域についても、塩基配列の組み合わせの数は限定されるので、予めオリゴヌクレオチドとして合成することに意義がある。
【0103】
本発明の核酸の同定方法に必要な各種の要素を組み合わせることによって、核酸同定用のキットとすることができる。すなわち本発明は、次の要素を含む、核酸の同定用キットに関する。
(1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーの混合物を含む波形生成用プライマー集合体
(2)鋳型特異的な相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
(3)相補鎖合成用基質
【0104】
本発明のキットには、先に述べたようなプライマー集合体を利用することができる。同様にして、本発明に利用可能なDNAポリメラーゼ、および相補鎖合成用の基質を本発明のキットとすることができる。本発明のキットは、陽性対照および/または同定すべき核酸の解離曲線の波形パターンを付加的に含むことができる。更に本発明のキットは、解離曲線を解析するために利用することができるインターカレーターを含むことができる。インターカレーターとしては、サイバーグリーンなどを示すことができる。
【0105】
本発明のキットを構成する各要素は、予め反応容器に充填して供給することができる。すなわち、相補鎖合成のための波形生成用プライマー集合体、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド基質、反応液を構成する緩衝剤、インターカレーター等を反応容器に充填しておくことができる。各要素の量は、反応液中の最終濃度に応じて設定することができる。各要素は乾燥状態であっても、液状であっても良い。一般に、酵素などの蛋白質は、乾燥状態とすることにより保存中の活性を維持しやすいとされている。このような反応容器に核酸を含む試料溶液を加えた後に、必要な温度条件でインキュベートするだけで、本発明の方法を実施することができる。本発明のキットに用いる反応容器として、複数の独立した反応空間を有する容器を利用することができる。たとえば、96(12×8)のウエルを有するマイクロプレートのような反応容器は、本発明のキットに有用である。
【0106】
たとえば、同一の波形生成用プライマー集合体を、複数の反応空間に充填して、多数の核酸試料の同定を同時に実施するためのキットとすることができる(図13)。あるいは複数種類の波形生成用プライマー集合体のそれぞれを別の反応空間に充填し、同一の核酸試料について、複数の波形パターンを得るためのキットとすることもできる(図11)。より具体的には、前記マイクロプレートのように96のウエルを有する反応容器において8種類の波形生成用プライマー集合体を用いる場合には、12検体分の同定を実施するためのキットとすることができる。
【0107】
本発明の核酸の同定方法は、同定が必要なあらゆる核酸に対して適用することができる。以下に、本発明の核酸の同定方法の応用によって、種々の利点が期待できる具体的な核酸の例について説明する。
【0108】
本発明は、遺伝的に均一性の高い微生物集団の識別に有用である。本発明の核酸の同定方法は、核酸の複数の領域におけるわずかな相違を総合的に識別することを可能とする。たとえば複数の領域について得られた伸長産物について解離曲線を解析することにより、ゲノム全体にわたって相同性の高い塩基配列を有する微生物集団であっても、相互に固有の波形パターンを得ることができる。その結果、各菌種に固有の波形パターンを容易に識別することができる。
【0109】
たとえば、結核菌に代表される抗酸菌は、鑑別の必要な代表的な微生物集団である。PCR法によって抗酸菌を同定するためには、多くの領域についてプライマーをデザインし、増幅反応を繰り返す必要がある。一方、本発明を利用すれば、複数の領域について伸長産物を得ることができるプライマー集合体の利用によって、1つの反応容器で同定に必要な全ての情報を得ることができる。あるいは、1つの被検試料に対して、2つの反応容器を利用して異なるプライマー集合体を適用することによって、同定結果の信頼性を高めることもできる。
【0110】
同様の利点が、癌などの遺伝子の異常に起因する疾患の検査においても期待できる。p53などの特定の遺伝子の異常が癌の原因となりうることが指摘されている。しかし癌の原因となる遺伝子の異常は、その全容が明らかにされたとはいえない。PCR法によって未知の遺伝子の異常を知ることは、その原理上、不可能といってよい。ところが本発明を利用すれば、たとえ原因遺伝子が特定されていなくても、癌細胞に固有の波形パターンを生成する条件を容易に見出すことができる。
【0111】
また本発明は、多型の解析に利用することもできる。多型には、たとえばSNPsのような1塩基多型や、サテライトマーカーのような繰り返し配列の多型が知られている。これらの多型と、さまざまな遺伝形質の関係が次々と明らかにされ、多くの情報が蓄積されている。多型の検出技術にはさまざまな方法が知られている。しかしその多くは、特定の多型を検出することはできても、複数の多型を同時に検出することは困難な場合が多い。たとえばさまざまなDNAプローブを高密度に蓄積したDNAアレイは、複数の多型を同時に解析するための有効なツールの1つである。しかしたとえDNAアレイを用いても、プローブのハイブリダイゼーションに依存する限り、プローブとして搭載していない塩基配列についての情報を得ることはできない。また少なくとも現状においては、DNAアレイは高価な分析デバイスである。研究用のツールとしては広く普及しているが、日常的な核酸の同定方法に利用するためには、より安価に実施可能な解析ツールであることが望まれる。
【0112】
一方本発明の方法は、多型を含む領域を伸長産物として生成すれば、当該伸長産物に含まれる多くの多型を総合的に比較することができる。このことは、公知の方法に比べて、多型に基づく遺伝子診断技術を飛躍的に効率的に行いうることを意味している。また、本発明の核酸の同定方法を利用すれば、多型そのものが未知であっても、その多型によって波形パターンに変化をもたらす場合には、核酸の識別が可能となる。更に、本発明の方法は、一般的な核酸の合成方法に利用されている試薬成分を利用して安価に実施することができる。
【0113】
一般に核酸の同定とは、ある被検核酸と他の核酸との同一性を確認することを言う。通常、異なる種類の細胞は、異なる核酸を含むことから、本発明によって細胞の種類を識別することができる。更に、たとえば同じ種類の細胞であっても、細胞の状態によって核酸が異質な状態となる場合には、本発明を細胞の状態の同一性の確認に応用することができる。たとえば、細胞の死滅によって核酸の分解が起きることが知られている。この現象を利用して、本発明に基づいて細胞の生死を判定することができる。より具体的には、生細胞で得られた波形パターンの消失を確認することによって、細胞が死んでいることを確認することができる。たとえばPCR法などでは、増幅対象領域が存在している限り、細胞の生死とは無関係な同定結果がもたらされる。しかし本発明では、核酸の状態をより多面的に捉えることができるため、細胞の死を波形の変化として捉えることができる。
【0114】
本発明の核酸の同定用キットの構成例を、図11に示す。図11のキットは、複数のウエルを備えた反応容器を利用した本発明のキットを示す。この例では、4種類の波形生成用プライマー集合体sPGBUP65、sPGBUPUPR、sPGBUPFX、およびsPGBUPRXがそれぞれ別のウエルに予め充填されている。また各ウエルには、DNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応に必要なその他の試薬成分についても、予め充填されている。したがって被検核酸を添加して所定の反応条件を与えるだけで、本発明の同定方法を実施することができる。この例に示した4種類の波形生成用プライマー集合体sPGBUP65、sPGBUPUPR、sPGBUPFX、およびsPGBUPRXは、それぞれ異なる領域に対してデザインされたものであることができる。すなわち、図12に示すように被検核酸の複数の領域を標的領域として、4種類の波形生成用プライマー集合体をデザインすることができる。このような組み合わせにより、波形パターンの種類をより多く得ることができる。すなわち、本発明によって同定することができる核酸の種類を増加させることができる。
【0115】
あるいは本発明は、保存された塩基配列で構成された遺伝子群を対象として、該遺伝子群を構成する各遺伝子の塩基配列の相違を、総合的に識別するための方法を提供する。PCR法では、高度に保存された塩基配列を含む各遺伝子に対して、個別に特異的なプライマーをデザインすることが困難である。したがって、PCR法を利用してこのような遺伝子群を解析することは難しい。一方本発明は、複数の領域について相補鎖合成を行うことを条件としているため、複数の領域が少ない種類のプライマーで合成されることは、むしろ好ましい条件であると言うことができる。つまり保存された塩基配列で構成された遺伝子群は、本発明の同定方法の対象として好ましい。本発明において保存された塩基配列で構成された遺伝子群とは、複数の遺伝子が類似した塩基配列を含んでいる状態にあることを言う。このような遺伝子群は、遺伝子ファミリーと呼ばれることもある。
【0116】
たとえば薬物代謝酵素チトクロームP450の遺伝子ファミリーの同定に、本発明を応用することができる。チトクロームP450の遺伝子ファミリーは、構造的に相同性の高い多くの遺伝子で構成された遺伝子群である。更にこの遺伝子群には、非常に多くの多型が存在する。各多型をPCR法を利用して幅広く同定するためには、原則として解析すべき多型の種類の数だけ、相補鎖合成反応を実施する必要がある。つまり、PCR法によるチトクロームP450の遺伝子ファミリーの同定方法は、解析効率が悪いと言える。しかも各遺伝子の構造的な類似性が高いため、PCR法のための特異的なプライマーをデザインすることが困難である。これに対して本発明の方法においては、各遺伝子ファミリーの多型部位を含む領域を伸長産物として合成すれば、一度の反応で数多くの多型部位の同定が可能である。
【0117】
一方、図13には、複数のウエルに同じ種類の波形生成用プライマー集合体(sPGBUP65)を充填した本発明のキットを示した。このような構成のキットは、多数の被検核酸を同時に同定する場合に有用である。
【0118】
本発明の波形生成用プライマーとそれを用いた核酸同定方法は、以下の態様を含む。
(1)核酸上の任意の特定あるいは不特定領域に相補的な、各塩基鎖に1塩基を配置したヌクレオチド鎖を3’末端に有し、該領域に相補性を有す可能性のある、各塩基鎖に複数塩基を配置したヌクレオチド鎖を5’末端に有して、該ヌクレオチド鎖は5’末端側から3’側にかけて段階的に相補性が高まると共に、段階的に安定性が低くなるような配列とされていることを特徴とする波形生成用プライマー。
(2)上記プライマーのヌクレオチド鎖は、5’末端側から順に、アデニン,シトシン,グアニン,チミンを含む塩基の何れか4つを示すコードで構成される第1の領域、上記塩基の何れか3つを示すコードで構成される第2の領域、及び上記塩基の何れか2つを示すコードで構成される第3の領域を有し、それぞれ第1、第2及び第3領域の塩基の長さは任意に設定されることを特徴とする(1)記載の波形生成用プライマー。
(3)上記プライマーは、10乃至30塩基からなり、プライマー全鎖長に対する相補可能性を有するヌクレオチド鎖の割合は、0.12乃至0.88であることを特徴とする(1)記載の波形生成用プライマー。
(4)核酸の一部塩基配列を増幅する核酸増幅方法であって、
上記核酸上の任意の特定あるいは不特定領域を選択する工程と、
上記領域に相補的なヌクレオチド鎖と相補可能性を有するヌクレオチド鎖とからなる(1)に記載の波形生成用プライマーと、
上記核酸上の少なくとも該領域を含む複数の領域に上記プライマーをアニールさせる工程と、
上記プライマー及びポリメラーゼの存在下、上記複数の領域を鋳型としてヌクレオチド鎖合成反応を行う工程と、
を有することを特徴とする核酸増幅方法。
(5)核酸上の任意の特定あるいは不特定領域に上記波形生成用プライマーをアニールさせる工程において、アニーリング温度を49℃以下に設定してアニールを行うことを特徴とする(4)に記載の核酸増幅方法。
(6)核酸上の任意の特定あるいは不特定領域に上記波形生成用プライマーを用いて核酸増幅を行う工程において、1種類のセンスプライマーあるいはアンチセンスプライマーのみを用いて、核酸のセンス鎖あるいはアンチセンス鎖のどちらか1本鎖のみを増幅し、同時に増幅した核酸を以後の増幅工程における鋳型として再利用しないことを特徴とする(4)に記載の核酸増幅方法。
(7)核酸の一部塩基配列を増幅して核酸を同定する核酸同定方法であって、
上記核酸上の任意の特定あるいは不特定領域を選択する工程と、
上記領域に相補的なヌクレオチド鎖と相補可能性を有するヌクレオチド鎖とからなる(1)に記載の波形生成用プライマーと、
上記核酸上の少なくとも該領域を含む複数の領域に上記プライマーをアニールさせる工程と、
上記プライマー及びポリメラーゼの存在下、上記複数の領域を鋳型としてヌクレオチド鎖合成反応を行う工程と、
得られる複数の核酸増幅産物に高次構造形成及び夾雑物形成などを含む種々の相互干渉を形成させる工程と、
上記相互干渉形成性核酸増幅産物を加熱し、該核酸増幅産物の解離、変性に際して得られる解離曲線の波形パターンに基づいて核酸を同定する工程と、
を有することを特徴とする核酸同定方法。
【0119】
加えて本発明の波形生成用プライマーとそれを用いた核酸同定方法は、以下の態様を含む。
(1)核酸を増幅および同定する方法であって、複数の独立した液体反応系で、各々異種のプライマーを用いて同時に対象2本鎖核酸の異なる領域を各々増幅し、その増幅産物を加熱して1本鎖核酸に解離または変性する際に得られる解離温度あるいは解離パターンの組み合わせから、対象2本鎖核酸の性状を識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
(2)核酸を増幅および同定する方法であって、複数の独立した液体反応系で、各々同種のプライマーを用いて同時に複数の異なる対象2本鎖核酸の同等の領域を各々増幅し、その増幅産物を加熱して1本鎖核酸に解離または変性する際に得られる解離温度あるいは解離パターンから、複数の異なる対象2本鎖核酸の性状を同時に識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
(3)核酸を同定する方法であって、複数の独立した液体反応系で、別途に核酸増幅を行った増幅産物を加熱して1本鎖核酸に解離または変性する際に得られる解離温度あるいは解離パターンから、複数の異なる対象2本鎖核酸の性状を同時に識別することを特徴とする核酸増幅法及び核酸同定法。
(4)上記液体反応系が液相DNAチップであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の核酸増幅法および核酸同定法。
(5)上記(1)または(2)または(3)において、標的核酸に対して1つ以上の特異的あるいは非特異的プライマーを用いて対象2本鎖核酸の性状を識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
(6)上記(1)または(2)または(3)において、TaqDNAポリメラーゼ(耐熱性DNA合成酵素)を含むDNAポリメラーゼ(DNA合成酵素)を用いて核酸増幅を行い、対象2本鎖核酸の性状を識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
(7)上記(1)または(2)または(3)において、核酸のセンス鎖あるいはアンチセンス鎖のどちらか1本鎖のみを増幅し、かつ増幅核酸を以後の増幅サイクルに鋳型として再利用しない核酸増幅法を用いて対象2本鎖核酸の性状を識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
(8)上記(1)または(2)または(3)において、核酸増幅過程、特にプライマーのアニーリング過程において、49℃以下のアニーリング温度で反応を行い、対象2本鎖核酸の性状を識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
(9)上記(1)または(2)または(3)において、1本鎖核酸に解離または変性する際に得られる解離温度あるいは解離パターンの検出にインカレーター物質を用いて対象2本鎖核酸の性状を識別することを特徴とする核酸増幅法および核酸同定法。
【0120】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1.多義プライマーのデザイン
上述したように、本発明は特異領域と多義領域とを有する多義プライマーを提供する。図2にその概念図を示した。図2の多義プライマーは、5’末端側に多義領域を有することにより、特定塩基配列のみならず、これに類似するような相似性のある配列にもアニールすることができる。なお、実際にこのような構造の波形生成用プライマー集合体を用いる際には、目的に応じて、以下の(a)〜(e)に示す条件を調整することが望ましい。
【0121】
(a)プライマー長
(b)特異領域の配列
(c)多義領域の配列
(d)プライマー量
(e)アニーリング温度
【0122】
そこで、以下では、この波形生成用プライマー集合体を構成する多義プライマーの構造及び反応条件の一例として、上述した(a)〜(e)の項目を順に検討した。
(a)プライマー長の調整
先ず、プライマー全長が合成効率に与える影響を検討するため、特異領域と多義領域とが1:1であるプライマーについて、98℃/2秒、40℃/20秒、72℃/20秒のプロトコルを50サイクル実施して相補鎖合成反応を行った。相補鎖合成によって得られた伸長産物について、解離曲線の波形を解析し、多義プライマーの構造が結果に与える影響を比較した。多義プライマーは、特異性と安定性の2つの指標に基づいて評価した。
【0123】
ここで「特異性が高い」とは、標的領域として選択した部分以外の領域に対してアニールしにくいことを言う。本発明においては、多義プライマーの特異性が高いことは、伸長産物の多様性が低くなる原因となる。その結果、波形の多様性は失われる。つまり、特異性をある程度低下させた多義プライマーが、本発明における望ましい多義プライマーであると言うことができる。
【0124】
一方、安定性とは、多義プライマーを構成する各プライマーのアニールの再現性を言う。多義プライマーが異なる塩基配列のオリゴヌクレオチドからなる集合体であることは既に述べた。しかし集合体を構成している個々のオリゴヌクレオチドは、それぞれの塩基配列に相補的な塩基配列に対してアニールするはずである。ところが、たとえば多義領域の長さが長すぎる場合には、結果的に目的とする塩基配列に対応するオリゴヌクレオチドの量が少なくなる。つまり、十分な相補鎖合成が起きなくなる可能性が高まる。
【0125】
この検討の結果、プライマー全長が16〜24merの場合に、好ましいプライマーの特異性あるいは安定性が見られた。この条件で、伸長産物の波形の多様性が最大となった。
【0126】
一方、プライマー全長が24〜30merでは、プライマーの特異性あるいは安定性が高くなる反面、得られる解離曲線の波形の多様性が低下した。特異性が高まることにより、標的領域として選択した領域以外の領域の相補鎖合成反応が十分に進まなかったと考えられた。プライマー全長が10〜16merでは、波形の多様性は高まる。しかし一方で、特異性と安定性は低下した。プライマー全長が9mer以下では、合成反応が起こらなかった。これらの結果から、本発明の多義プライマーのプライマー長としては、10〜30merの範囲を使用することができ、中でも好ましい長さは16〜24merであると結論した。
【0127】
次に、プライマー全長に占める特異領域と多義領域の割合を検討した。この結果、プライマー全長に占める多義領域の割合が0.33〜0.55の場合に、安定性と伸長産物の多様性が最大となった。塩基数に直すと、全長24merの多義プライマーでは、8〜13merの場合に望ましい結果が得られることになる。
【0128】
一方プライマー全長に占める多義領域の割合が0.55〜0.88の場合には、波形の多様性は高まるが安定性が低下した。このときの条件を塩基数で示せば、多義領域が14〜25mer、特異領域が4〜7merとなる。また、プライマー全長に占める多義領域の割合が0.12〜0.33の場合には、波形の多様性が失われた。このときの条件を塩基数で示せば、多義領域が4〜7mer、特異領域が14〜25merとなる。
【0129】
更に、プライマー全長に占める多義領域の割合が0.89以上では、いわゆるランダムプライマーとなり、正常な合成が起こらなかった。このときの条件を塩基数で示せば、例えば多義領域が25mer以上、かつ特異領域が3mer以下となる。また、プライマー全長に占める多義領域の割合が0.11以下では、通常のPCRプライマーと同じような合成反応が見られた。つまり、ほぼ1種類のみの相補鎖合成産物が見られた。このときの条件を塩基数で示せば、例えば多義領域が3mer以下、かつ特異領域が25mer以上となる。
なお、以下ではプライマー全長に占める多義領域の割合を0.33〜0.55とするものとして説明する。
【0130】
(b)特異領域の配列
特異領域は、被検核酸から選択された標的領域に相補的な塩基配列からなっている。特異領域の長さは、多義プライマーの全長が16〜24merであるときに8〜13merであることが好ましい。また、3’末端を含む5塩基中におけるG(グアニン)又はC(シトシン)が占める割合であるGC%は、50%以上であることが望ましい。さらに、3’末端の安定性は、−5.5〜−9.5kcal/mol以上が必要である。なお、3’末端側の3塩基以外において50%以内のミスマッチがある場合にもアニール可能である。この際、ミスマッチ部分の安定性が−12.0Kcal/mol以下であれば、合成効率の低下は無視し得る。
【0131】
(c)多義領域の配列
多義領域は、被検核酸から選択された標的領域以外の領域に対してもアニール可能なプライマーを増やすために配置される領域である。多義領域は、前記標的領域に対して相補的な塩基を、それ以外の塩基に置換した塩基配列からなっている。置換する塩基の種類は1〜3種類の任意の塩基である。本発明において、塩基の置換を表現するために、表1に示す多義コード(Ambiguity Code)を用いる。多義プライマーの構造は、例えば図4に示すような塩基配列によって示すことができる。図4に示した塩基配列を有する多義プライマーは、多義領域における多義性が5’〜3’側にかけて段階的に低下する構造を有している。多義領域の長さは、プライマー全長が16〜24merであるときに8〜13merであることが好ましい。
【0132】
【表1】
Figure 2004041191
【0133】
(d)プライマー量
上述した多義領域を含む多義プライマーの集合体は、実際には異なる塩基配列を有するオリゴヌクレオチドの集合体である。したがって、1つの2Ambiguity Codeが含まれることは、実際には異なる塩基配列からなる2種類のオリゴヌクレオチドが含まれることを意味している。そのため、鋳型核酸とアニールする有効率は1/2となる。
【0134】
例えば、2Ambiguity Code:S(CまたはGを示す)が含まれたSATTという塩基配列は、実際にはCATTおよびGATTの2種類の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むことを意味する。この場合、それぞれの有効プライマー量は1/2となる。同様に、1つの3Ambiguity Codeまたは4Ambiguity Codeによって有効プライマー量はそれぞれ1/3または1/4となる。つまり、3Ambiguity Code:B(C、GまたはTを示す)が含まれたBATTという配列では、CATT、GATT又はTATTの3種類の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを含むことを意味する。
【0135】
したがって、実際にプライマー量を計算する際には、この有効プライマー量を考慮する必要がある。具体的には、最低プライマー量に有効プライマー量の逆数を乗算し、これを多義領域の塩基数とミスマッチ率である4とで除算する。図4の例では、2つの4Ambiguity Code、4つの3Ambiguity Code、そして2つの2Ambiguity Codeを有するため、有効プライマー量は、1/5184(=(1/4)×(1/3)×(1/2))となる。また、多義領域の塩基数は8である。これにより、最低プライマー量を1(pmol/50μL)としたとき、実際に加えるべきプライマー量は、1×5184÷8÷4=162(pmol/50μL)程度となる。なお、このプライマー量の算出方法は一例であり、この方法に限定されるものではない。
【0136】
(e)アニーリング温度
アニーリング温度を検討するために、先ずプライマーのTm値を算出した。Tm値とは、互いに相補的な塩基配列を持つ核酸の50%が塩基対結合した状態となる温度をいう。具体的には、特異領域のTm値を2(A+T)+4(G+C)法で計算し、多義領域の平均2(A+T)+4(G+C)法で計算した。そして、これらを総合してプライマー全長のTm値を計算した。
【0137】
通常のPCR法におけるアニーリング温度は、Tm値マイナス5℃程度である。本発明におけるアニーリング温度は、波形パターンを多様化するために、Tm値マイナス20℃程度とすることが好ましい。低い温度を与えることで、短いプライマーもアニールしやすくなる。実験的には、40℃以下で解離曲線の波形多様性の向上が顕著となった。一方、15℃以下ではランダムプライミングのみとなり、殆ど合成反応を示さない。
【0138】
実施例2.細菌遺伝子の同定
(2−1)細菌遺伝子の合成及び同定
細菌遺伝子のみを合成し、且つ菌種間での解離曲線の波形パターンの差異を強調する波形生成用プライマー集合体であるBAUP65プライマー(nnvhdbssga tccaaccgc/配列番号:6)を作成し、相補鎖合成及び核酸同定に使用した。具体的には、細菌の16sリボソームRNA(rRNA)をコードするDNA配列のうち、約3000菌種で保存されている11塩基を特異領域の配列とし、これに8塩基長の多義領域を結合させてプライマーを設計した。これにより、図5に模式的に示すように、16s rRNAをコードする配列以外にも、23s rRNA、8s rRNA等の16s rRNAと相同性のある配列が同時に相補鎖合成されることが期待される。
【0139】
使用する細菌としては、カンピロバクタ(C.jejuni)、インフルエンザ菌(H.Influenzae)及びネズミチフス菌(S.typhimurium)を選択し、ISOGEN−LS(日本ジーン株式会社製)をマニュアルに従って使用してDNAを抽出した。この各検体DNAを鋳型とする相補鎖合成は、以下の表2に示す組成の反応液を準備し、そのうち25μLを用いて行った。
【0140】
【表2】
Figure 2004041191
【0141】
表2において、検体DNA溶液については、DNAを1μg含有する量が用いられ、xμL+yμL=9.5μLとなるように滅菌蒸留水(スタビライザー含有)を加えて調製した。
そして、98℃/2秒、25℃/40秒、72℃/10秒のプロトコルを70サイクル実施して相補鎖を合成し、Smart Cycler(宝酒造株式会社製)を用いて温度範囲70〜94℃、温度ステップ0.1℃の条件で各温度で1秒間観察することにより、相補鎖合成産物の解離曲線の波形を観察した。
【0142】
比較例として、BAUP65プライマー(配列番号:6)の代わりに、16s rRNAの一部をコードする配列を増幅させるセンスプライマー(cagcagccgc ggtaatac/配列番号:7)及びアンチセンスプライマー(acgacacgag ctgacgac/配列番号:8)を用いて、通常のPCR法に従って検体DNAを増幅させた。
【0143】
本発明とPCR法とによる解離曲線の波形パターンをそれぞれ図6(A)、(B)に示す。ここで、図6において(1)はカンピロバクタ、(2)はインフルエンザ菌、(3)はネズミチフス菌である。図6から分かるように、図6(B)に示す通常のPCR法では、センスプライマー(配列番号:7)及びアンチセンスプライマー(配列番号:8)で規定される配列のみが増幅されるため、菌種間で波形パターンの違いが殆ど観察されなかった。これに対して、図6(A)に示す本発明では、複数箇所の配列が合成されるため、菌種毎に多様な波形パターンが観察され、この波形パターンを調べることにより菌種の核酸同定が可能とされる。
【0144】
次に、相補鎖合成反応終了後のサンプル10μLに2μLのローディングバッファを添加し、1.2%アガロースゲルを使って、45分間、50Vで電気泳動後、ゲルをエチジウムブロマイドで染色してヌクレオチド鎖を確認した。なお、分子サイズマーカとして、200bp ladder markerを使用した。
【0145】
また、比較例として、BAUP65プライマー(配列番号:6)の代わりに上述したセンスプライマー(配列番号:7)及びアンチセンスプライマー(配列番号:8)を用いた核酸増幅反応終了後のサンプル10μLを使用して同様に電気泳動を行い、ゲルをエチジウムブロマイドで染色してヌクレオチド鎖を確認した。
【0146】
本発明とPCR法とによる反応産物の電気泳動結果をそれぞれ図7(A)、(B)に示す。ここで図7において、レーン1はカンピロバクタ、レーン2はインフルエンザ菌、レーン3はネズミチフス菌である。図7から分かるように、図7(B)に示す通常のPCR法では、センスプライマー(配列番号:7)及びアンチセンスプライマー(配列番号:8)で規定される配列のみが増幅されるため、同サイズのバンドのみが観察された。これに対して、図7(A)に示す本発明では、複数のバンドが観察された。このことから、本発明では、複数箇所の配列が合成されることが確認された。
【0147】
(2−2)アニーリング温度による解離曲線の比較
アニーリング温度の違いによる解離曲線の波形パターンの変化を確認するために、大腸菌(E.coli)と黄色ブドウ球菌(S.aureus)との2種の菌について、上述と同様の手法で55℃、40℃、25℃の3点で相補鎖合成反応を行い、解離曲線の波形を観察した。大腸菌と黄色ブドウ球菌とについて得られた波形パターンをそれぞれ図8、図9に示す。図8、図9から分かるように、どちらの菌についても、55℃、40℃、25℃とアニーリング温度が低くなるにつれて、より特徴的な波形が得られている。これは、アニーリングのための温度の低下に伴って、相補鎖合成を開始するプライマーの種類が増えることを裏付けている。
【0148】
(2−3)多義領域の有無による解離曲線の比較
多義領域の有無による解離曲線の波形パターンの変化を確認するために、黄色ブドウ球菌について、上述したBAUP65プライマー(配列番号:6)と多義領域を除いたプライマー(5’−GATCCAACCGC−3’/配列番号:9)とで相補鎖合成反応を行い、解離曲線の波形を観察した。BAUP65プライマー(配列番号:6)と多義領域を除いたプライマーとについて得られた波形パターンをそれぞれ図10(A)、(B)に示す。図10から分かるように、多義領域を有するBAUP65プライマー(配列番号:6)では、多義領域を除いたプライマーと比較して特徴的な波形が観察されている。このことから、多義領域を有することにより、より効果的に核酸同定が行えることが確認された。
【0149】
実施例3.異なる波形生成用プライマー集合体の利用
図11に示した本発明のキットを用いた同定方法をシミュレーションした。図11に記載のキットは、異なる領域に対してデザインされた複数種類の波形生成用プライマー集合体を利用して、より多様な波形パターンを得ることを目的としている。この実施例では、波形生成用プライマーとして、sPGBUP65、sPGBUPUPR、およびsPGBUPFXの3種類を用いた。これらの波形生成用プライマー集合体は、図12に示すようにそれぞれ異なる領域を標的領域として選択して、デザインされている。
【0150】
BUP65に代えて各波形生成用プライマー集合体を用いる他は、前記表2に示す反応液組成と同じ組成で相補鎖合成反応を実施した。相補鎖合成反応は、1に記載と同様の反応サイクルを70回繰り返した。被検核酸としてはE.coli、S.aureus、およびB.cereusから抽出したDNAを用いた。DNAは、ISOGEN−LS(日本ジーン株式会社製)を利用した。
【0151】
得られた解離曲線の波形パターンを図14に示す。被検核酸と使用されたプライマーに応じて異なる波形パターンが得られた。すなわち、異なる波形生成用プライマー集合体の利用によって、より多様な波形パターンを得られることが示された。各波形パターンを参照用の波形パターンと比較することによって検体のDNAを同定することができる。
【0152】
実施例4.25℃の低温アニーリングにおける「スタビライザー」の効果
以下、「スタビライザー」の効果について、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0153】
(1)方法
細菌DNAの特定塩基配列を複数箇所で認識するプライマー、BAUP65(配列番号:10)を作成し、本発明の方法に基づいて核酸を同定した。相補鎖合成工程において、スタビライザーを加えた場合と加えない場合の波形パターンを比較して、スタビライザーの効果を確認した。
【0154】
細菌DNAは大腸菌(E.coli)DNAを用いた。ISOGEN−LS(日本ジーン株式会社製)を用い、大腸菌約10個からマニュアルに従ってDNAを抽出した。抽出DNAは最終的に0.5μg/μL(HO)の濃度に調整した。「スタビライザー」の処方を表3に、相補鎖合成反応液の組成を表4および表5に示す。
【0155】
【表3】
Figure 2004041191
【0156】
【表4】
Figure 2004041191
【0157】
【表5】
Figure 2004041191
*1 SDS;Sodium Dodecyl Sulfate
*2 Brj35;Polyoxyethylene(23) Lauryl Ether
*3 SyGreen 溶液;原液1000倍希釈
*4 Taq DNA polymerase;TAKARA Ex TaqTM R−PCR
BAUP65;5’−GGAAGGTGGGG−3’
【0158】
「スタビライザー無し」および「スタビライザー有り」の組成を有する反応液について、各々1サンプル50μLを加え相補鎖合成反応を行った。反応は、デュプリケートで実施し計4サンプルの波形を観察した。iCycler(Biorad社製)を用いて98℃/2秒、25℃/40秒、72℃/10秒のプロトコールを50サイクル実施して相補鎖を合成した。反応後、温度範囲75〜95℃、温度ステップ0.1℃の条件で各温度で8秒間観察することにより、合成産物の解離曲線の波形を描画した。
【0159】
次に、核酸増幅反応終了後のサンプル10μLに2μLのローディングバッファーを添加し、1.2%アガロースゲルを使って、45分間、50Vで電気泳動後、ゲルをエチジウムブロマイドで染色して合成産物を確認した。なお、分子サイズマーカとして、200bp ladder markerを使用した。
【0160】
(2)結果
「スタビライザー」の効果を、図15(A)「スタビライザー無し」、図15(B)「スタビライザー有り」の波形の差異として示す。ここで図15(A)では、核酸の合成が不十分なため波形が不明瞭である。一方図15(B)では十分な核酸が合成されているため、大腸菌のDNAに特徴的な波形が正常に描画されている。「スタビライザー」の効果は、電気泳動分析の結果におよっても裏付けられた。すなわち、図16(A)「スタビライザー無し」では合成産物のバンドが見られない。一方図16(B)「スタビライザー有り」では合成産物のバンドを確認することができた。
【0161】
以上の結果から、「スタビライザー」の添加によって、25℃という低温条件下での相補鎖合成と波形の解析が可能となることが裏付けられた。スタビライザーは、たとえば次のような機序によって25℃におけるプライマーの特異的なアニーリングと相補鎖合成を成立させていると考えられた。
プライマーおよびDNAの直線化維持、あるいは高次構造形成抑制、
プライマー−鋳型DNA間の水素結合安定化、
したがって、低温条件下での相補鎖合成によって本発明を実施する場合には、「スタビライザー」の添加が有効であるといえる。
【0162】
【発明の効果】
本発明の核酸の同定方法は、構造の同一性が高い核酸の間のわずかな塩基配列の違いを、解離曲線の波形パターンの明瞭な差として検出することができる。本発明の同定方法においては、被検核酸の複数の領域の合成によって得られる伸長産物を解析対象とする。伸長産物の解離曲線の比較によって、核酸が同定される。複数の領域から得られた伸長産物の混合物は、多様な塩基配列からなるポリヌクレオチドの混合物である。本発明では、多様性のあるポリヌクレオチドの混合物を解析することによって、核酸の同定を達成している。予め構造が明らかな核酸について、本発明の核酸の同定方法と同じ条件で解離曲線の波形パターンを明らかにしておけば、被験核酸の解離曲線の波形パターンとの比較によって、容易に既知の核酸と比較することができる。
【0163】
本発明の核酸の同定方法は、伸長産物の混合物を直接解析し、解離曲線の波形パターンを得ることを特徴としている。そのため、伸長産物を得るための工程を簡便に実施することができる。具体的には、たとえプライマー集合体を被検核酸にアニールさせ、DNAポリメラーゼによる相補鎖合成反応を繰り返すことによって、1つの反応容器内で、本発明に必要な伸長産物の混合物を合成することができる。
【0164】
これに対して、公知の核酸合成方法に基づく核酸の同定方法は、均質性の高い合成産物を解析する工程からなっている。たとえばPCR法においては、通常、合成されるポリヌクレオチドは1種類であり、全長にわたり完全に相補的に対合した2本鎖を形成しているため、一部に配列の違いを含む被検核酸間であっても、全体の熱力学的安定性はほぼ同一となる。このような均質性の高いポリヌクレオチドは、互いに類似した単一のピークからなる解離曲線しか与えない。したがって、解離曲線の比較によって核酸を同定することは困難である。
【0165】
本発明は、本発明の核酸の同定方法のための伸長産物を得るためのいくつかの方法を提供した。これらの方法は、いずれも少ない種類のプライマーによって、解析に必要な複数の領域の相補鎖の合成を可能とする。これらの方法を利用することにより、反応に必要なプライマーの数を少なくすることができる。複数の領域の相補鎖合成を行うときに、プライマーの種類が少ないことは、各領域に対する十分量のプライマーを確実に供給することができることを意味している。また、プライマーの種類が少ないことは、経済的にも有利である。
【0166】
なおPCR法が指数的に核酸を増幅するのに対して、本発明の波形生成用プライマー集合体では、指数的な増幅は期待できない。しかし、複数領域を合成対象とすることから、比較的多量のポリヌクレオチドを容易に合成することができる。その結果、短時間の反応でも解離曲線の解析に必要なポリヌクレオチドを合成することができる。
【0167】
本発明の核酸の同定方法は、たとえば、遺伝子多型の同定に有用である。遺伝子多型のひとつであるSNPsについては、現在、多くの知見が蓄積されつつある。実際に医療現場においてSNPs解析の成果を生かすためには、疾患に関連すると考えられる複数のSNPsについて、個々のSNPsを同時に同定する必要がある。しかし現在実用化されているジェノタイピングの手法は、多数のSNPsを同時に解析するには、迅速性や経済性などの点でいくつかの解決すべき課題を有している。一方本発明の同定方法を利用すれば、複数のSNPs組み合わせを1種類の(あるいは少ない種類の)プライマー集合体で、同時に同定できる可能性がある。本発明の同定方法では、合成されたポリヌクレオチドのわずかな塩基配列の相違を、解離曲線の違いとして明瞭に捉えることができる。したがって、複数のSNPsの相違を、1度の解析によって見出すことができる。
なお本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【0168】
【配列表】
Figure 2004041191
Figure 2004041191
Figure 2004041191
Figure 2004041191
Figure 2004041191
Figure 2004041191

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における相補鎖合成方法を模式的に説明する図である。図(A)は、本発明によって被検核酸の複数の領域が合成される様子を示す。図(B)は、複数の伸長産物が種々の相互干渉構造を形成する様子を示す。
【図2】本発明に用いる多義プライマーの構造を示す図である。
【図3】多義プライマーの特異領域の配列の一例を示す図である。
【図4】多義プライマーの多義領域の配列の一例を示す図である。
【図5】本実施例における波形生成用プライマー集合体BAUP65による相補鎖合成反応を模式的に示す図である。
【図6】解離曲線の波形パターンを示す図である。図(A)は、本発明によって相補鎖合成した伸長産物の波形パターンを示し、図(B)は、PCR法によって増幅した増幅産物の波形パターンを示す。図中、縦軸は蛍光強度微分値を、横軸は温度(℃)を示す。
【図7】反応産物の電気泳動結果を示す写真である。図(A)は、本発明の多義プライマー集合体によって得られた伸長産物の電気泳動結果を示し、図(B)は、PCR法によって増幅した増幅産物の電気泳動結果を示す。Mは分子量マーカーを示す。また、(1)〜(3)の各レーンは、カンピロバクタ、インフルエンザ菌、ネズミチフス菌のDNAを鋳型とする反応産物の結果である。
【図8】アニーリング温度の違いによる解離曲線の波形パターンの変化を示す図である。図(A)、(B)、(C)は、大腸菌を用いてそれぞれ55℃、40℃、25℃でアニーリングした場合の波形パターンを示す。
【図9】アニーリング温度の違いによる解離曲線の波形パターンの変化を示す図である。図(A)、(B)、(C)は、黄色ブドウ球菌を用いてそれぞれ55℃、40℃、25℃でアニーリングした場合の波形パターンを示す。
【図10】多義領域の有無による解離曲線の波形パターンの変化を示す図である。図(A)は、多義領域を有する場合の波形パターンを示し、図(B)は、多義領域を有さない場合の波形パターンを示す。
【図11】本発明の核酸の同定用キットの構成例を示す。図中、sPGBUP65、sPGBUPUPR、sPGBUPFX、およびsPGBUPRXは、波形生成用プライマー集合体の名前である。
【図12】4種類の波形生成用プライマー集合体sPGBUP65、sPGBUPUPR、sPGBUPFX、およびsPGBUPRXのデザインのために設定した「標的領域」の、被検核酸上における位置関係を模式的に示している。
【図13】本発明の核酸の多数同時同定用キットの構成例を示す。
【図14】E.coli、S.aureus、およびB.cereusから抽出されたDNAを被検核酸として、3種類の波形生成用プライマーによって得られた波形パターンの相違を示す。図中、縦軸は蛍光強度微分値を、横軸は温度(℃)を示す。sPGBUP65、sPGBUPUPR、およびsPGBUPFXが波形生成用プライマーの名前である。
【図15】相補鎖合成におけるスタビライザーの添加が波形パターンに与える影響を示す。図15(A)がスタビライザー無し、図15(B)がスタビライザーを添加した場合の波形パターンである。図中、縦軸は蛍光強度微分値を、横軸は温度(℃)を示す。
【図16】相補鎖合成におけるスタビライザーの添加が相補鎖合成に与える影響を示す。図16(A)がスタビライザー無し、図16(B)がスタビライザーを添加した場合の、合成産物の電気泳動の結果を示す写真である。(A)および(B)の左端のレーンが200bpラダー、右側の2つのレーンがサンプル(デュプリケート)の泳動結果である。

Claims (58)

  1. 次の工程を含む核酸の同定方法。
    (1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程
    (2)(1)で合成された核酸の混合物の解離曲線を得る工程、および
    (3)解離曲線の波形パターンを比較し、同じ波形パターンを有する核酸が同一の塩基配列を有していると同定する工程
  2. (1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程が、被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーをアニールさせ、相補鎖を合成する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  3. 変性剤および/または塩類の存在下でプライマーをアニールさせ、相補鎖を合成する工程を含む、請求項2に記載の方法。
  4. 変性剤が、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、および洗浄剤からなる群から選択される請求項3に記載の方法。
  5. 非イオン系界面活性剤が、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、およびソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択されるいずれかの非イオン系界面活性剤である請求項4に記載の方法。
  6. 洗浄剤が、ドデシル硫酸塩、ラウロイルサルコシン塩、ラウリル酸塩、およびメルカプト酢酸塩からなる群から選択されるいずれかの化合物である請求項4に記載の方法。
  7. 塩類が、NaSO、NaSO、NaHPO、NaHCOからなる群から選択されるいずれかの化合物である請求項3に記載の方法。
  8. プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる1種類のオリゴヌクレオチドからなる請求項2に記載の方法。
  9. プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる2種類以上のオリゴヌクレオチドからなる請求項2に記載の方法。
  10. 前記複数の部位の塩基配列の一部が共通である請求項9に記載の方法。
  11. プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の任意の場所である請求項10に記載の方法。
  12. プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の5’側に局在している請求項10に記載の方法。
  13. プライマーが、次の特異プライマーおよび多義プライマーを含む波形生成用プライマー集合体である請求項12に記載の方法。
    特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
    多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
    特異領域:オリゴヌクレオチドの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
    多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
  14. 鋳型核酸における標的領域として複数の領域を選択し、1つの被験核酸について、前記複数の標的領域を対象として請求項13に記載の同定方法を行う核酸の同定方法。
  15. 特異プライマーの融解温度よりも20〜40℃低い温度でプライマー集合体を鋳型核酸にアニールさせる工程を含む、請求項13に記載の方法。
  16. プライマー集合体のアニールと相補鎖合成反応を複数回行う請求項13に記載の方法。
  17. 被検核酸が1本鎖または2本鎖である請求項1に記載の方法。
  18. 被検核酸がDNAまたはRNAである請求項1に記載の方法。
  19. 被検核酸がゲノムDNAであり、工程(1)において同定すべき細胞と他の細胞の間で塩基配列が相違する少なくとも1つの領域を合成する請求項1に記載の方法。
  20. 複数の領域を合成するためのプライマーが、プライマーを構成する塩基配列の少なくとも一部が共通である請求項19に記載の方法。
  21. 被検核酸が微生物のゲノムDNAであり、工程(1)において同定すべき微生物と他の微生物の間で塩基配列が相違する少なくとも1つの領域を合成する請求項19に記載の方法。
  22. 被検核酸が真核細胞のゲノムDNAであり、工程(1)において保存された塩基配列で構成された遺伝子群を構成する領域を合成する請求項19に記載の方法。
  23. 遺伝子間で保存された塩基配列に対して相補的な塩基配列からなるプライマーによって複数の領域を合成する請求項22に記載の方法。
  24. 次の工程を含む、核酸を同定するための参照用の解離曲線の波形パターンを生成する方法。
    (1)被検核酸としての核酸標品の複数の部位に相補的な塩基配列を含む核酸を合成する工程、および
    (2)(1)で合成された核酸の混合物の解離曲線を得る工程
  25. 請求項24に記載の方法によって複数種の核酸標品について参照用の解離曲線の波形パターンを生成する方法。
  26. 複数種の核酸標品について、共通のプライマー集合体によって合成された核酸の解離曲線を得る工程を含む請求項25に記載の方法。
  27. 請求項24に記載の方法によって得られた複数の参照用の解離曲線の波形パターンを含む参照用の解離曲線波形パターンデータベース。
  28. 被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーの混合物を含む波形生成用プライマー集合体。
  29. プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる1種類のオリゴヌクレオチドである請求項28に記載のプライマー集合体。
  30. プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる2種類以上のオリゴヌクレオチドである請求項28に記載のプライマー集合体。
  31. 前記複数の部位の塩基配列の一部が共通である請求項30に記載のプライマー集合体。
  32. プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の任意の場所である請求項30に記載のプライマー集合体。
  33. プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の5’側に局在している請求項30に記載のプライマー集合体。
  34. 次の特異プライマーおよび多義プライマーを含む請求項33に記載のプライマー集合体。
    特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
    多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
    特異領域:プライマーの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
    多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
  35. 各プライマーの特異領域におけるgc含量が50%以上である請求項34に記載のプライマー集合体。
  36. 多義プライマーの多義領域に含まれる置換された塩基の種類が3’側から5’側にかけて増えることを特徴とする請求項34に記載の波形生成用プライマー集合体。
  37. 多義領域の塩基配列が次の3つの領域からなり、それぞれの領域を構成する置換塩基配列の全ての組み合わせを含む多義プライマーの集合体を含む請求項34に記載のプライマー集合体。
    (1)N領域:多義領域の5’末端を構成し、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の3種類のすべての塩基で置換された塩基である
    (2)3多義領域:N領域の3’側に配置され、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の2種類の塩基のすべてで置換された塩基である
    (3)2多義領域:3多義領域の3’側に配置され、その塩基配列を構成する各塩基は前記標的領域の塩基配列に相補的な塩基に代えて、アデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の1種類の塩基で置換された塩基である
  38. プライマーを構成するN領域の塩基数が2〜4塩基である請求項37に記載のプライマー集合体。
  39. プライマーを構成するN領域:3多義領域:2多義領域の構成塩基数の比が、1:2:1である請求項37に記載のプライマー集合体。
  40. プライマー集合体を構成する多義プライマーの多義領域の長さが、プライマーを構成する塩基数の10%〜80%である請求項34に記載のプライマー集合体。
  41. プライマー集合体を構成する多義プライマーの特異領域および多義領域の長さの合計が10〜30塩基である請求項34に記載のプライマー集合体。
  42. 以下の工程を含む、次の特異プライマーおよび多義プライマーを含む波形生成用プライマー集合体の製造方法。
    特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
    多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
    特異領域:プライマーの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
    多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
    a)特異領域を合成する工程、および
    b)前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基、およびアデニン、シトシン、グアニン、およびチミンから選択される当該塩基以外の任意の塩基の混合物を結合して多義領域を合成する工程
  43. 前記任意の塩基の数を、前記多義領域の3’側から5’側にかけて1〜3に増加させる請求項42に記載の方法。
  44. 次の要素を含む、核酸の同定用キット。
    (1)被検核酸の複数の部位に相補的な塩基配列からなる、1種類以上のプライマーの混合物を含む波形生成用プライマー集合体
    (2)鋳型特異的な相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
    (3)相補鎖合成用基質
  45. プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる1種類のオリゴヌクレオチドである請求項44に記載のキット。
  46. プライマーが、被検核酸の複数の部位にアニールすることができる2種類以上のオリゴヌクレオチドである請求項44に記載のキット。
  47. 前記複数の部位の塩基配列の一部が共通である請求項46に記載のキット。
  48. プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の任意の場所である請求項47に記載のキット。
  49. プライマーを構成する塩基配列の一部が相違しており、かつ相違する塩基がプライマーを構成する塩基配列の5’側に局在している請求項47に記載のキット。
  50. プライマー集合体が、次の特異プライマーおよび少なくとも1種類の多義プライマーの集合体を含む、請求項49に記載のキット。
    特異プライマー:鋳型核酸の標的領域に相補的な塩基配列を含む
    多義プライマー:次の特異領域および多義領域を含む少なくとも1種類の多義プライマー
    特異領域:プライマーの3’末端を含み、前記標的領域に対して相補的な塩基配列で構成される
    多義領域:特異領域の5’側に配置され、前記標的領域に対して相補的な塩基配列を構成する塩基が当該塩基以外の塩基で置換された塩基配列を含む
  51. 前記標的領域が複数である請求項49に記載のキット。
  52. 複数の領域に対する波形生成用プライマー集合体が予め別々の反応容器に充填されている請求項50に記載のキット。
  53. 陽性対照および/または同定すべき核酸の解離曲線の波形パターンを付加的に含む請求項49に記載のキット。
  54. 変性剤、および/または塩類を付加的に含む請求項44に記載のキット。
  55. 変性剤が、非イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、および洗浄剤からなる群から選択される請求項54に記載のキット。
  56. 非イオン系界面活性剤が、グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンエステルのポリオキシエチレンエーテル、およびソルビトールエステルのポリオキシエチレンエーテルからなる群から選択されるいずれかの非イオン系界面活性剤である請求項55に記載のキット。
  57. 洗浄剤が、ドデシル硫酸塩、ラウロイルサルコシン塩、ラウリル酸塩、およびメルカプト酢酸塩からなる群から選択されるいずれかの化合物である請求項55に記載のキット。
  58. 塩類が、NaSO、NaSO、NaHPO、NaHCOからなる群から選択されるいずれかの化合物である請求項54に記載のキット。
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