JP2004036866A - 流体圧シリンダ及び衝撃緩和調整方法 - Google Patents

流体圧シリンダ及び衝撃緩和調整方法 Download PDF

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望月 宣宏
Yukihiro Fukuzumi
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Abstract

【課題】衝撃吸収能力が作動流体に左右されることなく、構造が簡単で、小形であり、衝撃吸収能力の調整が簡便、かつ安価に緩衝材を用いてピストンとエンドカバーの衝突時の衝撃を効果的に緩和することができる流体圧シリンダ及び衝撃緩和調整方法を提供すること。
【解決手段】シリンダチューブと、該シリンダチューブの両端を閉塞するエンドカバーと、該シリンダチューブの内部に摺動可能に配設され内部の空間を区画するピストンと、該ピストンとエンドカバーの各対向面のいずれか一方に配設されピストンとエンドカバーの衝突時の衝撃を緩和する緩衝材を具備する流体圧シリンダであって、緩衝材1は、弾性体のリング10からなり、該リング10にピストンの移動方向に平行に複数の貫通穴11を設けた。
【選択図】   図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はピストンのストローク終端で発生する衝撃や騒音、振動を緩和する緩衝材を具備する流体圧シリンダに関し、特に簡単な構造の緩衝材により効果的に衝撃や騒音、振動を緩和することができる小形の流体圧シリンダ及び衝撃緩和調整方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
両端を閉塞されたシリンダチューブ内部に加圧された流体を供給してピストンを移動させる流体圧シリンダにおいては、シリンダチューブ内部を移動するピストンが、両端のエンドカバーに衝突するときに発生する振動や騒音がしばしば問題になる。従来、これら振動や騒音を低減する為の緩衝方法として、基本的に2種類の手段が用いられている。
【0003】
一方は、流体的な圧力バランスによる方法であり、シリンダチューブ内に供給される加圧流体の圧力により駆動されるピストンに対し、シリンダのストローク終端近傍で流体の排出に抵抗を設け、駆動方向の逆方向から圧力(背圧)を作用させることにより、ピストンに作用する駆動力を打ち消し、減速することで終端点での衝撃力を緩和する方法である。
【0004】
この流体的な圧力バランスによる方法では、背圧が作用する距離や背圧の大きさの調整によって、運動エネルギーと駆動力を低減することが可能であり、大きな衝撃吸収能力を得ることができるが、背圧を与えるためにシリンダの構造が複雑になり、シリンダの寸法(特に全長)が大きくなるという問題がある。
【0005】
他方は、弾性体を利用する方法であり、ピストンまたはエンドカバーの対向面にワッシャー状の弾性体を配置し、ピストンとエンドカバーが当接する際の衝撃を緩和する方法である。この弾性体には一般にゴム弾性体が用いられる。この弾性体による方法は、構造が簡単であり複雑な機構を要しないため、緩衝機構を追加してもシリンダの全長に大きな影響を与えないが、ゴム弾性体をわずかに圧縮変形させるだけであるため、充分な緩衝能力が得がたい、という問題があった。
【0006】
上記弾性体を利用する方法で充分な緩衝能力が得られ難い点を改善する為に、例えば実用新案登録第2531830号公報では、ゴム弾性体にリップを設け、該リップがピストンまたはカバーのいずれかに当接して形成される密閉空間に閉じ込められた空気の弾性(圧縮性)により、ゴム弾性体の緩衝能力を向上する方法が提案されている。
【0007】
また、特開2001−65511号公報では、ゴム弾性体の当接面に複数の高さが異なる突起を設け、弾性体の見かけの硬度を小さくして大きな変形量を確保すると同時に、段階的にエネルギーを吸収することで滑らかな減速を実現する方法が提案されている。
【0008】
上記実用新案登録第2531830号公報に提案されたシリンダの緩衝構造においては、流体(気体)の圧縮性を利用することで、簡単な構造で高い衝撃吸収能力を実現しているが、作動流体が圧縮性の小さい液体の場合には、衝撃吸収能力の改善が期待できない。また、薄肉のリップに繰り返し衝突が行われる為、疲労による亀裂やリップの摩耗が発生し、性能が低下する。このため高頻度の使用には充分な耐久性を有していないことが指摘されている。
【0009】
また、特開2001−65511号公報で提案されているシリンダの緩衝リングにおいては、衝撃吸収能力を弾性体に設けた突起の高さにより調整している為、作動流体の圧縮性による効果の相違はない。しかし、複数の高さの異なる突起を設けるために、形状が複雑になる上に、突起を設ける為に長手方向の寸法が若干大きくなるという問題がある。また、形状が複雑である為に製作には金型が必要であり、製造コストが高くなるという問題点もある。さらに、衝撃吸収能力を変える為には、突起の高さや大きさ、数などを変える必要があり、別の金型が必要になるため、衝撃吸収能力の調整が困難であるという問題もある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述の点に鑑みて成されたものであり、衝撃吸収能力が作動流体に左右されることなく、構造が簡単で、小形であり、衝撃吸収能力の調整が簡便、かつ安価に緩衝材を用いてピストンとエンドカバーの衝突時の衝撃を効果的に緩和することができる流体圧シリンダ及び衝撃緩和調整方法を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため請求項1に記載の発明は、シリンダチューブと、該シリンダチューブの両端を閉塞するエンドカバーと、該シリンダチューブの内部に摺動可能に配設され内部の空間を区画するピストンと、該ピストンとエンドカバーの各対向面のいずれか一方に配設されピストンとエンドカバーの衝突時の衝撃を緩和する緩衝材を具備する流体圧シリンダであって、緩衝材は、概環状の弾性体からなり、該弾性体にピストンの移動方向に平行に複数の窪み又は貫通穴を設けたことを特徴とする。
【0012】
本願発明者らは、上記弾性体による緩衝方法の検討において、弾性体の反発力(即ち圧縮時の内部応力)は、弾性体の素材特性のみならず、弾性体の拘束面積と自由面積の割合が影響する事を知見し、更に弾性体の変形を利用して拘束状態を変化させる事ができれば、弾性体の圧縮の過程で反発力を変化させることができ、段階的にエネルギーを吸収することが可能である事を知見し、上記構成を採用した。
【0013】
即ち、上記のように緩衝材を、概環状の弾性体とし、ピストンの移動方向に平行に複数の窪みもしくは貫通穴を設けることにより、衝突の当初には窪みや貫通穴の分だけ自由面積が増えて低い反発力になり、その後、弾性体が圧縮されるにつれて、窪みや貫通穴が閉塞されて反発力を増加するため、段階的に衝撃力を吸収することができるようになる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の流体圧シリンダにおいて、概環状の弾性体からなる緩衝材の膨大を拘束する拘束部材を設けたことを特徴とする。
【0015】
上記のように緩衝材の膨大を拘束する部材を取り付けたので、弾性体が変形によってはみ出して破損したり、概環状の緩衝材が引っ掛かって外れたりすることを防ぐと同時に適切な拘束面を形成する事ができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、シリンダチューブと、該シリンダチューブの両端を閉塞するエンドカバーと、該シリンダチューブの内部に摺動可能に配設され内部の空間を区画するピストンと、該ピストンと前記エンドカバーの各対向面のいずれか一方に配設されピストンとエンドカバーの衝突時の衝撃を緩和する緩衝材を具備する流体圧シリンダの衝撃緩和調整方法であって、緩衝材を概環状の弾性体で構成し、該弾性体にピストンの移動方向に平行に複数の窪み又は貫通穴を設け、該窪み又は貫通穴の口径、数、配置のいずれか又はその組み合わせにより、衝撃の緩和を調整することを特徴とする。
【0017】
上記のように緩衝材である弾性体に設けるピストンの移動方向に平行に複数の窪み又は貫通穴を設けることにより、段階的に衝撃力を吸収することができるから、窪み又は貫通穴の口径、数、配置のいずれか又はその組み合わせを調整することにより、該緩衝材の段階的に衝撃力を吸収する機能を調整(弾性体の拘束面積と自由面積の割合を調整)することができ、衝撃の緩和を調整することが可能となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る流体圧シリンダの実施の形態例を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る流体圧シリンダの構造を示す断面図である。本流体圧シリンダは、シリンダチューブ4と、該シリンダチューブ4の両端を閉塞するエンドカバー2a、2bと、該シリンダチューブ4の内部に摺動可能に配設され内部の空間を区画するピストン5とを具備する構成であり、緩衝リング1、1は、エンドカバー2a、2bに、取り付けられている。この緩衝リング1、1の取付方法は、係止部材によって固定しても、接着剤によって接着してもよい。
【0019】
ヘッド側のエンドカバー2aは取付ボルト3で、ロッド側のエンドカバー2bは螺合により、シリンダチューブ4の両端を閉塞するように取り付けられている。シリンダチューブ4の内部の二つに区画された空間に、図示しない流体圧供給源からポート6、6を介して作動流体が流入又は流出することにより、ピストン5はシリンダチューブ4の内部を摺動する。ピストン5には、シリンダチューブ4の内部の圧力室間の作動流体の漏れを防止する為に、ピストンシール7が設けられている。また、ピストン5の運動はピストン5に一体に嵌合されたロッド8によりシリンダチューブ4の外部に伝達される。
【0020】
ロッドシール9は、シリンダチューブ4の内部からの作動流体の外部への漏出を防止する為のシールである。緩衝リング1、1は、ピストン5がシリンダチューブ4の端部に達し、エンドカバー2a、2bと衝突する際の衝撃を緩衝リング1、1の圧縮変形によって低減する。
【0021】
図2は、緩衝リング1の基本的構造を示す拡大斜視図であり、合成ゴムからなるワッシャー状のリング10に、シリンダチューブ4内のピストン5の移動方向と平行に複数の貫通穴11が設けられている。ピストン5が作動流体の圧力によって移動し、緩衝リング1、1のいずれかと当接し、圧縮変形していく。
【0022】
先ず、ピストン5が緩衝リング1と当接した当初は、圧縮変形が生じていない図3(a)の状態となっている。その後、緩衝リング1の圧縮変形が進むと、合成ゴムのワッシャー状のリング10は貫通穴11に向かって膨大して(図3(a)→図3(b))変形し、遂には貫通穴11の内部でリング10が接触する(図3(b)→図3(c))。この圧縮変形の過程における、ゴム弾性体の反発力(即ち、硬度)の変化を以下に説明する。
【0023】
図4は弾性体の圧縮率と内部応力(即ち反発力)の関係を示したものである。図4の横軸は高さ方向の圧縮率(即ち元の高さに対する圧縮された割合)(%)、縦軸は弾性体の内部応力(MPa)である。図4中の実線は、弾性体の拘束された面積と拘束されていない面積の比(以下、拘束面積/自由面積を拘束面積比と呼ぶ)を一定のパラメータ(図では、0.25,0.5,1.0,2.0,4.0)として、圧縮率の変化に対する内部応力の変化を表している。拘束面積比が同じであれば、ゴム弾性体の場合、圧縮率と内部応力の関係は、概同じである事が知られている。図4から明らかなように拘束面積比が大きいほど、内部応力(即ち反発力)が大きくなり、弾性体の硬度は増す。
【0024】
図1の実施形態例の場合、ピストン5との当接の当初から緩衝リング1の外周と上下面は拘束されるが、複数の貫通穴11が開いているため、貫通穴が開いていない単なるワッシャー状のリングに比べて、貫通穴11の上下の面積分だけ拘束面積が減り、貫通穴11の側面分だけ自由面積が増えており、拘束面積比が小さくなるため、弾性体の硬度は相対的に低くなっている。次に、圧縮変形が進み、図3(c)の状態になると、貫通穴11による自由面積が減少するため、弾性体の内部応力が高まり、緩衝リング1の硬度は、貫通穴のないリングの硬度と概同じ程度に変化する。即ち、貫通穴11が圧縮変形の過程で閉塞されて、自由面積が減って拘束面積が増える事により、拘束面積比が大きくなり、緩衝リング1の硬度が増加する。
【0025】
例えば、当初の拘束面積比を1、図3(c)の状態での拘束面積比を4とし、圧縮率が10%近傍で両者の切換が生じるとすると、弾性体の内部応力(即ち緩衝リング1の硬度)は、図4の破線で示したような形で推移する。このように、拘束面積比を調整する事により、緩衝リング1の硬度を調整する事ができるため、緩衝リング1に設けられた貫通穴11の大きさと数を調整することにより、衝突開始当初の硬度や、圧縮変形が進行した時点での硬度を適切に調整できる。
【0026】
なお、上記の説明においては緩衝リング1に貫通穴11が設けられたとして説明をしたが、例えば図5のように緩衝リング1の圧縮変形の過程で拘束が発生するように窪み(有底穴)12を設けても、同様の効果を得ることができる。なお、図5(a)は緩衝リング1の平面図、図5(b)は緩衝リング1の横断面図である。
【0027】
このように衝突の過程における緩衝リング1の硬度を、緩衝リング1の圧縮変形の過程で段階的に増加させる点は、特開2001−65511号公報に提案されている緩衝リングと同様であるが、該公報に提案されている緩衝リングでは緩衝リングから部材を突出させ、当接する部材が次第に増える事により硬度変化を実現しているのに対して、本発明では、緩衝リング1に貫通穴11を空け、貫通穴11が緩衝リング1の変形に伴って閉塞し拘束されることにより硬度変化を実現しており、硬度変化を生じさせる具体的な構成とその発生機序が異なっている。
【0028】
従って、衝突時にピストン5に作用する力を段階的に変化させ、滑らかな減速が可能となるため、衝突時の衝撃力を低下させることができることは上記従来技術と同様である。また、緩衝リング1が圧縮されると硬度が増加するため、変形量が低下し、硬度変化がない(貫通穴がない)リングに比較すると、短いストロークでピストン5を停止させることができる。
【0029】
更に、本発明においては窪み12または貫通穴11が閉塞されることにより硬度の変化を得る構成とした為、上記特開2001−65511号公報に提案されている緩衝リングと比べて、硬度変化の調整が非常に容易である。ゴムは気泡が含まれていなければ圧縮しても体積は殆ど変わらないから、貫通穴11が閉塞し拘束が開始されるタイミングは貫通穴11の大きさと緩衝リング1の圧縮量によって決定される。従って、同じ見かけの硬度にした時にも、貫通穴11の大きさと数を調整する事により、硬度が変化するタイミングを調整する事ができる。
【0030】
例えば、図6に示すように、緩衝リング1を構成する弾性体のリング10に貫通穴11として直径の大きな貫通穴11aと直径の小さな貫通穴11bを設ければ、緩衝リング1の硬度を2段階に変化させる事ができる。また、リング10の内周と外周では変形の速度が異なり外周の方が早く圧縮するから、図7に示すごとく貫通穴11の配置をリング10の中央からずらし、内周側の貫通穴11cと外周側の貫通穴11dを設ければ、貫通穴の大きさが同じであっても、多段階の硬度変化を実現することができる。
【0031】
上述のように、本発明においては緩衝リング1の特性の調整は貫通穴11や窪み12を設けることだけで実現できる為、新たな金型が必要になる事はなく、極めて容易に特性を調整する事ができる。極端に言えば、合成ゴムのリング10を平板から打ち抜きで製作し、ドリルで貫通穴11をあける、という簡単な作業でも所望の特性の緩衝リング1を製作することが可能である。
【0032】
また、本発明によれば、貫通穴又は窪みにより弾性体の見かけの硬度を低くする事ができる為、緩衝リング1のリング10には硬度の高い素材を利用する事ができる。硬度が低いゴム弾性体は、基本的には弾性体内部の繊維間の架橋部分が少ないか、結合強度が弱い為、繰り返しの衝突、変形により、架橋が壊れ、更に硬度が低下したり、亀裂や永久変形が生じたりするが、本発明によれば、その可能性を低減する事ができる。
【0033】
更に、本発明によれば圧縮変形を行う部分が、ほぼリング全面に渡る為、実用新案登録第2531830号公報や特開2001−65511公報で提案されているものに比べ、応力集中部分が少なく、これら従来技術に比べて、より耐久性を向上させる事ができる。
【0034】
上記述べたように圧縮変形の途中で拘束面積比を変化させるように構成したことで優れた効果が得られるが、本発明では緩衝リング1に窪み12または貫通穴11を設けるように構成したので、別の効果も得ることができる。緩衝リング1がピストン5およびエンドカバー2a、2bと当接すると、窪み12または貫通穴11内の流体は、ピストン5、エンドカバー2a、2bと緩衝リング1、1の弾性体のリング10の間に閉塞される。緩衝リング1の圧縮変形に伴い、貫通穴11または窪み12の内容積は減少する。
【0035】
この減少した体積は、緩衝リング1とピストン5およびエンドカバー2a、2bとの当接面のわずかな隙間から流れ出る。閉塞された流体が圧縮されてわずかな隙間から流出するときには、圧力損失によるエネルギーの消散を生じるので、衝突時のエネルギーの一部を逃がす事ができる。このように、弾性体の反発力による衝撃力の緩和に加えて流体的なエネルギー吸収も成される為、更に良好な衝撃吸収能力が得られる。
【0036】
次に図8は請求項2に記載の発明に係る流体圧シリンダのロッド側の拡大断面図である。エンドカバー2bと緩衝リング1との間には、緩衝リング1の膨大を拘束する膨大拘束部材13aが取り付けられており、緩衝リング1の外周側には膨大を拘束すると同時に緩衝リング1をエンドカバー2bに係止する膨大拘束兼係止部材13bが取り付けられている。膨大拘束部材13aは、図9に示すように斜めにスリットの入ったワッシャー状の形状をしており、径方向には若干の自由度がある。なお、図9(a)は膨大拘束部材の平面図、図9(b)はその側面図である。
【0037】
今、膨大拘束部材13aが無い時を考えると、緩衝リング1が圧縮変形すると当接面の反対側のエンドカバー2bおよびロッド8との間隙14にまで入り込み、引っ掛かってしまったり、応力集中が生じて破損したりする。膨大拘束部材13aは、この緩衝リング1の圧縮変形による間隙14への侵入を防止し、破損や引っ掛かりによる外れを防止する。間隙14への緩衝リング1の侵入は、Oリングやシールに高圧が作用したときに生じる、いわゆる「はみ出し」と類似した現象であり、ここでの膨大拘束部材13aはバックアップリングに相当する役割を果たしている。
【0038】
この為、膨大拘束部材13aは、図9に示した形状で無くともよい。一方、膨大拘束と係止を兼ねる膨大拘束兼係止部材13bは、緩衝リング1をエンドカバー2bに係止し、膨大変形によるポート6へのはみ出しやシリンダチューブ4とピストン5との間のはみ出しを防ぐだけで無く、ピストン5が緩衝リング1に当接した際の拘束面をピストン5と共に形成する。この為、緩衝リング1の破損を防ぐと同時に、緩衝リング1が変形することで、貫通穴11が適切に閉塞して拘束状態を惹起するようにすることができる。ここで膨大拘束兼係止部材13bは膨大の拘束と係止をかねる必要はなく、例えば、膨大拘束のみの部材を設け、係止は接着によってもよい。
【0039】
図13は、膨大拘束部材13aが無い場合の緩衝リング1の圧縮変形状況を示す図である。図示するように、緩衝リング1の内周部1aがロッド8とエンドカバー2bの間隙にはみ出したり、緩衝リング1の外周部1bがポート6にはみ出したり、挟みこまれたりする。このような局所的な変形により、緩衝リング1のリング10が破損して、衝撃吸収能力が低下したり、破片がシリンダや制御弁などの故障の原因となる虞れがあるが、膨大拘束部材13aにより、この可能性を低減することができる。
【0040】
図10は膨大拘束部材の別の形態を示した図であり、これまでの例と異なり、緩衝リング1はピストン5に取り付けられている。膨大拘束部材13cはピストン5の外周側に、膨大拘束部材13dは、エンドカバー2bとの対向面に取り付けられている。
【0041】
膨大拘束部材13cは、緩衝リング1の圧縮変形の当初には作用しないが、緩衝リング1の圧縮変形が進行して外周が膨大拘束部材13cに達すると、緩衝リング1に対して拘束を加え、拘束面積比の変化を助長する。外周が膨大拘束部材13cに達する時点の圧縮率は、緩衝リング1の体積から計算できるので、貫通穴の数や大きさ、位置の調整に加え、膨大拘束部材による調整も可能である。
【0042】
また、膨大拘束部材13dは、図8の膨大拘束部材13aと同様に、ロッド8とエンドカバー2bとの間隙14へのはみ出しを防ぐ為に設けられているが、膨大拘束部材13aとは異なり、径方向への自由度は必要ないため、完全な環状の板材である。膨大拘束部材13dは、ピストン5とエンドカバー2bとの衝撃力を最初に受け、更に緩衝リング1にエネルギーを伝達する必要があるため、緩衝リング1に比べて硬度の高い樹脂で作られている。
【0043】
本実施形態では、膨大拘束部材13dは緩衝リング1の当接面上を全て覆う形状に作られているため、緩衝リング1に均等に力を作用させることができるが、この形態である必要は無い。例えば図11のように間隙14は隠すが、貫通穴11を隠さないような大きさとし、当接面が平らになるように、緩衝リング1の内周側に凹部13eを形成してへこませてもよい。
【0044】
図12は本発明にかかる緩衝リングの効果を示す実験結果を示す図である。図12の横軸は、シリンダが伸長し、ピストン5がロッド側のエンドカバー2bに衝突した際の、シリンダロッドに取り付けた慣性負荷の加速度(G)の測定値であり、縦軸は供試シリンダの周囲の騒音(dB)である。加速度はピストン5側の衝撃力を、騒音は緩衝リング1を介してシリンダ本体に伝播した衝撃力を代表しており、それぞれの値が小さい(即ちグラフの左下側)程、緩衝リング1の衝撃吸収能力が高いことを示している。
【0045】
図12中、白抜きの点は緩衝リングに貫通穴を有しないワッシャー状の弾性体のリングを用いて測定した結果で、○は硬度95のポリウレタン、□は硬度85のフッ素ゴム(FKM)、◇は硬度85のエチレンプロピレンゴム(EPDM)を用いた場合の測定値である。材質や硬度の違いにより、多少の差は有るが、充分な衝撃吸収能力を示していない。一方黒塗りの点は、硬度95のワッシャー状のポリウレタンのリング10に貫通穴11を開けた、本発明の緩衝リング1による測定結果であり、●は直径1.4mmの貫通穴を6個、■は直径1.2mmの貫通穴を8個、◆は直径1.0mmの貫通穴を12個あけた場合の結果である。
【0046】
貫通穴11の大きさと数は、緩衝リング1が圧縮変形を始めた時点の硬度が、およそ85となるような拘束面積比から定めたものである。いずれの結果も貫通穴11を有しないワッシャー状の弾性体のリングを用いた場合に比べて、明らかに衝撃吸収能力が向上しており、また、貫通穴11の大きさを変化させる事により、緩衝能力を調整する事ができることを示している。
【0047】
また、直径1.0mmの貫通穴を開けた緩衝リングにより300万回の耐久試験を行ったが、耐久試験後も、衝撃吸収能力に変化がないことを確認した。
【0048】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明によれば下記のような優れた効果が得られる。
【0049】
(1)概環状の弾性体にピストンの移動方向に平行に複数の窪みもしくは貫通穴が設けられているので、衝突の当初には窪みや貫通穴の分だけ自由面積が増えて低い反発力になり、その後、弾性体が圧縮されるにつれて、窪みや貫通穴が閉塞されて反発力を増加するため、段階的に衝撃力を吸収することができるようになる。このため、シリンダの滑らかな減速停止が可能になり、シリンダ本体やシリンダで駆動される機器へ伝達する衝撃力が低減する。従って、シリンダ本体やシリンダで駆動される機械、装置の振動・衝撃が低減されるため、これら機器・装置の破損の可能性を低減し、寿命を延ばすことができる。また、シリンダの発生音も低減する為、シリンダを用いた装置を使用する工場内の環境を改善できる。
【0050】
(2)使用する流体の種類に依存しない為、油圧、空気圧、水圧など様々な作動流体の流体圧シリンダに用いる事ができる。
【0051】
(3)緩衝リングに突出部を有しないため従来技術の緩衝リングに比べて、緩衝リングの長手方向の寸法を小さくする事ができ、シリンダ本体の長手方向も低減する事ができる。この為、シリンダ本体の製作費用を低減する事ができ、優れた緩衝機能を持つシリンダを安価に提供することができる。また、シリンダが小さくなる為、シリンダを用いた機械、装置全体の寸法も小さくする事ができ、シリンダを用いた機械、装置全体のコストも低減する事ができる。更に、従来技術では寸法制限により使用できなかった機械,、装置にもシリンダを用いる事ができるようになり、優れた機械、装置の開発に寄与する事ができる。
【0052】
(4)緩衝リングの構造が簡単であるため、特殊な金型を用いなくても製造する事が可能であり、多品種少量のシリンダを生産する際にも新たな金型製作のコストが不要となり、優れた性能のシリンダを安価に提供できる。
【0053】
(5)貫通穴や窪みの大きさや位置を変えることにより、容易に緩衝リングの性能を調整する事ができるので、同一の素材を用いて様様な性能の緩衝リングを製作でき、部品の共通化が図れる為、緩衝能力を有するシリンダを安価に提供する事ができる。また、共通の部品で様々な用途に対応できる為、シリンダを使用する機械、装置の改良、改善の際に、要求される緩衝能力が変わっても、シリンダを交換する必要がない(緩衝リングを変えるだけでよい)。また、改良、改善の為に発生する廃棄物を低減することができ、地球環境の悪化の抑制に寄与する。
【0054】
(6)緩衝リングの耐久性が高いため、シリンダを使用している間に緩衝リングが破損して、シリンダを使用する機械、装置に悪影響を与える可能性を低減する事ができる。また、メンテナンス間隔を長くする事ができるため、シリンダを使用した機械、装置の停止期間を低減する事ができ、生産性の向上に役立つ。
【0055】
(7)緩衝リングの膨大を拘束する膨大拘束部材が無い場合の緩衝リングの局所的な変形により、緩衝リングが破損して、衝撃吸収能力が低下したり、破片がシリンダや制御弁などの故障の原因となる虞れがあるが、請求項2に係る発明では膨大拘束部材を設けているので、この虞れを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る流体圧シリンダの構造例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る流体圧シリンダに用いる緩衝リングの構成例を示す図である。
【図3】本発明に係る流体圧シリンダに用いる緩衝リングの動作を説明するための図である。
【図4】弾性体の圧縮率と内部応力の関係を示す図である。
【図5】本発明に係る流体圧シリンダに用いる緩衝リングの構成例を示す図である。
【図6】本発明に係る流体圧シリンダに用いる緩衝リングの構成例を示す図である。
【図7】本発明に係る流体圧シリンダに用いる緩衝リングの構成例を示す図である。
【図8】本発明に係る流体圧シリンダのロッド側の構成例を示す拡大断面図である。
【図9】本発明に係る流体圧シリンダに用いる膨大拘束部材の構成を示す図である。
【図10】本発明に係る流体圧シリンダのロッド側の構成例を示す拡大断面図である。
【図11】本発明に係る流体圧シリンダのロッド側の構成例を示す拡大断面図である。
【図12】本発明に係る流体圧シリンダの緩衝リングの効果を示す実験結果を示す図である。
【図13】膨大拘束部材が無い場合の流体圧シリンダの緩衝リングの圧縮変形状況を示す図である。
【符号の説明】
1       緩衝リング
2a,b    エンドカバー
3       取付ボルト
4       シリンダチューブ
5       ピストン
6       ポート
7       ピストンシール
8       ロッド
9       ロッドシール
10      リング
11      貫通穴
11a,b   貫通穴
11c,d   貫通穴
12      窪み(有底穴)
13a     膨大拘束部材
13b     膨大拘束兼係止部材
13c     膨大拘束部材
13d     膨大拘束部材
13e     凹部
14      間隙

Claims (3)

  1. シリンダチューブと、該シリンダチューブの両端を閉塞するエンドカバーと、該シリンダチューブの内部に摺動可能に配設され内部の空間を区画するピストンと、該ピストンと前記エンドカバーの各対向面のいずれか一方に配設され前記ピストンと前記エンドカバーの衝突時の衝撃を緩和する緩衝材を具備する流体圧シリンダであって、
    前記緩衝材は、概環状の弾性体からなり、該弾性体に前記ピストンの移動方向に平行に複数の窪み又は貫通穴を設けたことを特徴とする流体圧シリンダ。
  2. 請求項1に記載の流体圧シリンダにおいて、
    前記概環状の弾性体からなる緩衝材の膨大を拘束する拘束部材を設けたことを特徴とする流体圧シリンダ。
  3. シリンダチューブと、該シリンダチューブの両端を閉塞するエンドカバーと、該シリンダチューブの内部に摺動可能に配設され内部の空間を区画するピストンと、該ピストンと前記エンドカバーの各対向面のいずれか一方に配設され前記ピストンと前記エンドカバーの衝突時の衝撃を緩和する緩衝材を具備する流体圧シリンダの衝撃緩和調整方法であって、
    前記緩衝材を概環状の弾性体で構成し、該弾性体に前記ピストンの移動方向に平行に複数の窪み又は貫通穴を設け、該窪み又は貫通穴の口径、数、配置のいずれか又はその組み合わせにより、衝撃の緩和を調整することを特徴とする流体圧シリンダの衝撃緩和調整方法。
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