JP2004028228A - フローティングシール - Google Patents

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Abstract

【課題】組立てた時のシールリングの摺動抵抗トルク及びそのバラツキが小さく、安いコストでできるフローティングシールを提供する。
【解決手段】1対のシールリング(11,11)の少なくとも一方の摺動面(12)を、ダレ見越し角α1を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第1摺動面(12a)と、該第1摺動面(12a)の内縁側に隣接して、ダレ見越し角α2を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第2摺動面(12b)とで構成し、α2>α1なる関係とした。第1摺動面(12a)の幅は0.5〜1.1mmが好ましい。
【選択図】    図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フローティングシールに関する。
【0002】
【従来の技術】
例として建設機械の回転機構部の如く、泥水や土砂等が侵入し易い劣悪な環境下に置かれる回転機構部においては、回転機構部内への泥水や土砂等の侵入防止と、同回転機構部内からの潤滑油の漏洩防止とを同時に達成する手段として、一般的にフローティングシールが配設される。
【0003】
しかしながら、周知のとおり、フローティングシールは、通常のオイルシールの如き単独の組立体ではなく、回転機構部において相対的に回転する2つのボス部の対向するボス端部にそれぞれ配設されて、互いに対向して開口する1対のハウジングと、両ハウジングの略中間位置に配設されて側面部が互いに摺接する1対のシールリングと、同1対のシールリングのそれぞれのテーパ状外周面、および同各外周面に対向する前記1対のハウジングの内周面の間に挟着された1対のOリングとによって構成されている。
【0004】
このとき、回転機構部を組立てることによってフローティングシールも組立てられるから、フローティングシールが所要のシール機能を安定的に発揮する為には、フローティングシールの組立状態のバラツキを少なくしなければならない。
【0005】
この問題を解決する手段として、これまで構造上の各種工夫を施したフローティングシールが考えられており、例えば特開平11−51199号公報には、Oリングを挟着する際のバラツキが少なくなるように構成したフローティングシールが開示されている。
【0006】
図7〜図8により上記特開平11−51199号公報に開示された構造を例にして、従来技術に係るフローティングシールを説明する。
図7は従来技術に係るフローティングシールの部分断面側面図、図8は同フローティングシールの仮組み状態の説明図である。
【0007】
先ず図7において、フローティングシール51は、軸55上で相対的に回転する図示しない2つのボス部の対向するボス端部にそれぞれ配設されて互いに対向して開口する1対のハウジング60,62と、両ハウジング60,62の略中間位置にそれぞれ配設されて、対面する側面部の摺動面54,54で互いに摺接する1対のシールリング52,52と、同1対のシールリング52,52のそれぞれのテーパ状外周面53,53、および同各外周面53,53に対向する前記1対のハウジング60,62の内周面61,63の間にそれぞれ挟着された1対のOリング56,56とによって構成されている。
【0008】
また、両ハウジング60,62それぞれの内周面61,63の入口部にはそれぞれ第1突起部61a,63aが形成され、その奥側に所定距離L1離間した位置にはそれぞれ第2突起部61b,63bが形成されており、第1突起部61a,63a及び第2突起部61b,63bの内径D1は、シールリング52,52の各小径側端部に配設された突起部58,58に係合するように挿嵌された各Oリング56,56の自由状態(図7に2点鎖線で示す)の外径D3よりも小さく設定されている。
【0009】
この結果、図8において、ハウジング62にOリング56を介してシールリング52を仮組みした時に、Oリング56の軸方向位置が一定となるから、この状態からシールリング52を押し込んで図7に示す組立状態に移行する際のOリング56の転動による移動距離が一定となる。
【0010】
上記構成によって、シールリング52,52の摺動面54,54相互の当接力Fもバラツキが少なくなり、油洩れが発生しないとしている。
【0011】
しかしながら、図7〜図8における上記構成においては、当接力Fのバラツキが払拭されても、摺動面54,54相互の当接状態のバラツキによって油洩れが発生する可能性があるという問題が残されており、このことを図7を参照して、次に詳述する。
【0012】
図7において、シールリング52,52の摺動面54,54それぞれのラジアル方向位置は、それぞれ対向するハウジング内周面61,63と、各Oリング56,56と、各シールリング外周面53,53とによって調心されて決まるから、前記内周面61,63の偏心誤差、及び各シールリング外周面53,53と各摺動面54,54との偏心誤差の影響を受ける。
【0013】
他方、シールリング52,52の製造法は一般的に、耐焼付き性と耐磨耗性を得る為に、切削加工が困難な硬さの合金鋼を鋳造によって成形し、摺動面54,54を研削及び/又はラッピングによって形成している。このため、シールリング52,52の真円度や同心度等の形状精度は鋳造品としての精度であり、鋳造品の形状精度は周知のとおり切削加工品程に高くはない。
これらの結果によって、シールリング52,52の摺動面54,54が図示の如く互いにずれなく当接することは稀であり、通常はラジアル方向に互いにずれて当接し、それが油洩れの原因となるという問題がある。
【0014】
更に、摺動面54,54の外縁のエッジは泥水や土砂等に接して潤滑不足となるから、長期稼動によって、摺動面54,54は外縁から内径方向に向かって磨耗が進行するという問題がある。
【0015】
上記の問題を解決する手段として、1対のシールリングが相互にずれて当接しても相互の摺動面54,54で環状の当接面が形成されるように、また、摺動面54,54の外縁部の磨耗が進行しても所定の寿命が確保できるように、摺動面54,54の幅を広くしたフローティングシールが考えられている。
【0016】
図9は、上記の、摺動面の幅を広くしたフローティングシールに係るシールリングの部分断面側面図であり、以下、図9を参照して他の従来例を説明する。なお、本例のシールリングを適用するフローティングシールの構成は、図7と同じ構成とする。また、図7と同一の構成要素には同一の符号を付して以下での説明を省略する。
【0017】
図9において、先ず、シールリング52,52の摺動面54,54の幅Wを約2〜3mmと広く設定しており、対向する1対の摺動面54,54が互いにずれて当接した時にも、環状の当接面が形成されるようにしている。
【0018】
次に、幅Wを広く設定した摺動面54,54が全面で当接して、シールリング52,52相互の摺動抵抗トルクが過大になる(詳細説明は、図10〜図13により後で行なう)ことを避けるために、摺動面54,54を僅かの角度αを有する凹状の円錐面又は球面で形成している。
その場合に、摺動面54,54が、Oリング56,56から受ける当接力F,Fとの距離L2によるモーメントMによって同モーメント方向に弾性変形(以下、ダレと言う)することを見越して、ダレを僅かに上回るように前記角度α(以下、ダレ見越し角と言う)の値を設定している。
【0019】
図9における上記構成において、摺動面54,54の外縁部に、上記ダレによって幅Bの当接面が形成されるようにして、組立て直後からシールリング52,52相互の摺動抵抗トルクが適切になるようにしている。
【0020】
しかしながら図9における上記構成においては、当接面の幅(以下、当接幅と言う)Bは、ダレ見越し角αの僅かのバラツキによって大きく変動する。その結果、シールリング52,52相互の摺動抵抗トルクに大きなバラツキが生じるという問題が残る。
【0021】
次に図10〜図13を参照して、上記の摺動抵抗トルクに大きなバラツキが生じることと、それによって派生する問題を詳述する。
【0022】
先ず図10を参照して、摺動抵抗トルクのバラツキの要因を述べる。図10は、シールリングの摺動抵抗トルクと摺動面の当接幅との関係を測定した実験結果である。
図10の結果から、摺動抵抗トルクTは摺動面54の当接幅Bにほぼ比例することが実験的に得られている。なお、図中の数値と相関線TBは、シールリング52の外径が約110mmのときのデータである。
【0023】
上記において、摺動抵抗トルクTが当接力Fで一義的に決まらずに、当接幅Bにほぼ比例する理由としては、当接幅B内において内縁側から順に、流体潤滑帯、境界潤滑帯及び固体潤滑帯が並行して共存し、かつこれらの各潤滑帯の幅とその比率が当接幅Bの大小によって異なるからと推察されている。このことは、シールリング52の長期稼動において、摺動面54上の幅Bの環状当接面の外縁部が徐々に磨耗して、環状当接面が摺動面54上を内径方向に向って移行する事象とも一致している。
【0024】
更に図11を参照して、上記の推察に合致する事象を述べる。図11は、フローティングシールに係るシールリングの、全面当接した摺動面54の稼動初期における写真である。なお、図9と同一の構成要素には同一の符号を付して以下での説明を省略する。
【0025】
図11において、全面当接した摺動面54上の外縁寄りに、潤滑不足によると思われる微細な面荒れが多数点在している。このことからも、当接幅Bが大きい時は摺動抵抗トルクTも大きいことが推察される。なお、後述するような摺動抵抗トルク過大に起因する問題を除けば、上記外縁寄りの面荒れの部分は稼動によって磨耗して、適正な当接幅Bに収斂する。
【0026】
次に、図12を参照して、摺動抵抗トルクTのバラツキの元である当接幅Bのバラツキの要因について説明する。図12は、フローティングシールに係るシールリングの、摺動面の当接幅とダレ見越し角との関係を説明する概念図である。なお、図9〜図11と同一の構成要素には同一の符号を付す。
【0027】
図12において、Q部に示すように当接幅Bは、モーメントM(図9での説明参照)によるダレ量δによって形成されるから、図中注1に示すように、当接幅Bはダレ量δとダレ見越し角αとによって決まり、近似的にB≒δ/tan(α) となる。
【0028】
次に、図中注2〜注3に示すように、ダレ量δはシールリングの剛性によって決まる値で、見越し角αが小さい範囲においては略一定であり、例として、図10の数値に供されたシールリングでは、δ≒const.=0.00035mmであり、それらによって、相関曲線SはB≒0.00035/tan(α)の関数式となる。
【0029】
その結果、当接幅Bとダレ見越し角αとの相関曲線Sは略双曲線となり、当接幅Bはダレ見越し角αによって大きく変動することが分かる。それによって、ダレ見越し角αがゼロに近付くと当接幅Bは無限大となるが、現実には図中注2〜注3に示すように、当接幅Bの最大値は摺動面54の幅Wであり、図9に示す例では3〜4mmである。
【0030】
他方、当接幅Bは前述した通り摺動抵抗トルクTと略比例関係(図10参照)にあるから、図12中の注6〜注7に示すように、当接幅Bの縦軸に並行して近似的に摺動抵抗トルクTの縦軸を併記することができる。なお、摺動抵抗トルクTの目盛尺度は、図10に示す相関線TBの相関係数で補正している。
この結果、相関曲線Sは、摺動抵抗トルクTとダレ見越し角αとの相関曲線Sとすることができる。
【0031】
次に、図13を参照して、摺動抵抗トルクのバラツキの大きさと、それによって派生する問題を詳述する。図13は、シールリングの摺動抵抗トルクのバラツキを説明する概念図である。なお、図9〜図12と同一の構成要素には同一の符号を付す。
【0032】
図13において、ダレ見越し角αを図中RXの範囲に設定すると摺動抵抗トルクTを小さくすることができるが、それに伴って、当接幅Bが線接触に近くなって面圧が高くなり、その結果、面荒れが発生し易くなり、磨耗促進による寿命低下につながる。他方、ダレ見越し角αは微細な角度であるから製作誤差許容範囲が必要である。
これらの理由によって、ダレ見越し角αの製作誤差許容範囲を図中R1に示す範囲内に設定して、摺動抵抗トルクのバラツキを図中TR1の範囲内に得るのが妥当である。
【0033】
しかしながら、ダレ見越し角αを大き目に設定した場合には製造コストが高くなると言う問題があり、その理由は次のとおりである。
(1)シールリング52の製造法は前述のとおり、固い合金鋼を鋳造によって成形し、摺動面54を研削及び/又はラッピングによって形成している。この場合に、鋳造素材において摺動面54の微細なダレ見越し角αを管理することは非常に困難であり、従って鋳造素材における摺動面54は通常平面であり、研削及び/又はラッピングによってダレ見越し角αが形成される。
【0034】
(2)シールリング52は細いリング状の形状であるから、研削の際に加工反力によってたわみ易く、また加工熱によって温度上昇し易いから、摺動面54の精度を確保するためには、重研削を行うことができない。更に、研削目が粗いと、事後のラッピングにおいて仕上げ時間が増大する。これらの結果、摺動面54の研削及び/又はラッピングは、研削シロに比例して加工時間が極めて長くかかり、シールリング52の大きなコストアップ要因となっている。
【0035】
(3)上記(1)及び(2)から、ダレ見越し角αを大きくすると、研削シロの増大となり、それによってコストが上昇する。
(4)シールリング52の寿命を向上させる為に、シールリング52をより硬い合金鋼とする場合に、上記(2)〜(3)の問題は更に顕著となる。
【0036】
上記の問題を軽減する手段として、同じく図13において、ダレ見越し角αの製作誤差許容範囲を図中R2に示すように角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定した場合には、摺動抵抗トルクTのバラツキ範囲は図中TR2となる。即ち、ダレ見越し角αがゼロに近い場合に、摺動面54が全面で当接して摺動抵抗トルクTは摺動面54の幅Wの大きさによって図示のT4〜T5となり、最小トルクT1に対して最大トルクT5が約6倍の大きなバラツキとなる。
【0037】
このため、T4〜T5の如く大きな摺動抵抗トルクTのもとでは、本来ならば組立時の当接幅Bが、その後の稼動によって同当接幅Bの外縁部の潤滑不足部が磨耗して自律的に適正な当接幅Bに収斂するべきところを、それを待たずに稼動初期の段階で、次の問題が発生する。
【0038】
(1)発熱によって油膜が切れ易くなって、焼付きによる油洩れが発生する。
(2)Oリング56、56(図9参照)に部分的につれ回りが発生し、その繰返しでOリング56、56挟着部に土砂等が巻込まれてOリング56、56が損傷し、油洩れが発生する。
(3)Oリング56、56の部分的つれ回りによって同Oリング56、56の円周上の体積分布が不均一となり、それにより当接力Fの偏在が生じて油洩れが発生する。
【0039】
以上の結果、摺動抵抗トルクTの小さいバラツキTR1を得るには高いコストが必要であり、安いコストでは摺動抵抗トルクTの大きなバラツキTR2によって油洩れが発生し易いと言う二律背反の問題が残されている。
【0040】
本発明は、上記の問題点に着目してなされ、フローティングシールを組立てた時のシールリングの摺動抵抗トルク及びそのバラツキが小さく、安いコストでできるフローティングシールを提供することを目的としている。
【0041】
【課題を解決するための手段、作用及び効果】
上記の目的を達成するために、第1発明は、軸周りに相対的に回転する2つのボスの対向する端部にそれぞれ配設されて互いに対向して開口する1対のハウジングと、両ハウジングの略中間位置にそれぞれ配設されて、対面する側面部の摺動面で互いに摺接する1対のシールリングとを備えたフローティングシールにおいて、前記1対のシールリングの少なくとも一方の摺動面を、ダレ見越し角α1を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第1摺動面と、該第1摺動面の内縁側に隣接して、ダレ見越し角α2を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第2摺動面とで構成し、α2>α1なる関係としている。
【0042】
第1発明によると、次の作用及び効果を得ることができる。
(1)フローティングシールを組立てた時に、1対のシールリングは第1摺動面で当接するから、互いの摺動面が全面当接することを確実に防止できる。これにより、シールリングの摺動抵抗トルクのバラツキを抑制できるから、発熱やOリングのつれ回りによる油洩れの発生を防止できる。
【0043】
(2)上記(1)の理由によって、第1摺動面の全面当接の可能性を許容することが可能となり、これにより、第1摺動面のダレ見越し角α1の製作許容範囲を、角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定することができる。さらに、これに伴って、第2摺動面のダレ見越し角α2も小さい角度領域に設定することができる。これらの結果、ダレ見越し角α1,α2を形成する際の研削シロを少なくできるから、シールリングの製造コストを安くできる。
【0044】
(3)上記(1)と(2)によって、摺動抵抗トルクのバラツキの抑制と、安い製造コストとの両立が可能となる。
【0045】
(4)第1摺動面の内縁側に隣接して第2摺動面を配設しているから、フローティングシールを組立てた時に、前述の理由によって1対のシールリングが互いにラジアル方向にずれて当接しても、相互の摺動面は全周にわたって当接することができるので、油洩れの発生を防止できる。
(5)第1摺動面の内縁側に隣接して第2摺動面を配設しているから、摺動面外縁の磨耗が進行しても所定の寿命が確保できる。
【0046】
第2発明は、第1発明において、前記第1摺動面の幅を0.5〜1.1mmとしている。
【0047】
第2発明によると、次の作用及び効果を得ることができる。
(1)第1摺動面の幅を0.5〜1.1mmと小さく設定することによって、第1摺動面が全面当接した場合においても、1対のシールリングの摺動抵抗トルク最大値を抑制することができる。これによって、フローティングシールを組立てた時のシールリングの摺動抵抗トルク、およびその摺動抵抗トルクのバラツキを小さくすることができる。
【0048】
以上の結果、フローティングシールを組立てた時のシールリングの摺動抵抗トルク、およびそのバラツキが小さくなり、摺動抵抗トルク過大による油洩れ発生が防止でき、安いコストで構成できるフローティングシールが得られる。
【0049】
【発明の実施の形態】
以下に、本願発明に係るフローティングシールの第1実施形態〜第4実施形態について、図1〜図5を参照して詳述する。
【0050】
先ず図1〜図2により、第1実施形態を説明する。図1は本発明に係るフローティングシールの部分断面側面図である。なお、図9と同一の構成要素には同一の符号を付して以下での説明を省略し、以下同様とする。
【0051】
先ず図1において、フローティングシール1は、軸2周りに相対的に回転するボス3とボス4の互いに対向する端部にそれぞれ配設されて、互いに対向して開口する1対のハウジング3a,4aと、両ハウジング3a,4aの略中間位置に配設された、シールリング2個で1セットのシールリングセット10,20,30,40の内のいずれか1セットと、同シールリングセットの各シールリング外周テーパ状面と前記1対のハウジング3a,4aの内周面3b,4bとの間にそれぞれ挟着された1対のOリング5,5とを備えている。
【0052】
次に、図2は、第1実施形態のシールリングセットの部分断面側面図で、図1のP部詳細図である。図2において、シールリングセット10は、1対の同一構造のシールリング11,11を有している。なお、構造を判り易く表示する為に、同シールリング11,11を離して図示している。
また、各シールリング11の摺動面12を、ダレ見越し角α1を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第1摺動面12aと、同第1摺動面12aの内縁側に隣接して、ダレ見越し角α2を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第2摺動面12bとで構成しており、ここでα2>α1としている。
【0053】
さらに、各第1摺動面12aのダレ見越し角α1を0〜0.04度として、角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定しており、それによって、各第2摺動面12bのダレ見越し角α2を0.06〜0.20度として、小さい角度を含む領域に設定している。
さらにまた、各第1摺動面12aの幅W1を0.5〜1.1mmとしている。
【0054】
図1〜図2による構成において、先ず、フローティングシール1を組立てたときに、1対のシールリング11,11が互いに第1摺動面12a,12aで当接するようにし、それによって摺動面12,12が全面当接することが無いようにして、当接幅のバラツキを抑制している。
【0055】
次に、第1摺動面12aおよび第2摺動面12bのそれぞれのダレ見越し角α1,α2の製作許容範囲を小さい角度領域に設定してあり、それによって、同ダレ見越し角α1,α2を形成する際の研削シロを少なくしている。
更に、第1摺動面12aの幅W1を0.5〜1.1mmと狭く設定することによって、第1摺動面12aが全面当接した場合においても当接幅が1.1mmを越えないようにしている。
【0056】
次に図3により、第2実施形態の説明をする。図3は、第2実施形態のシールリングセットの部分断面側面図であり、図1のP部詳細図である。
【0057】
図3において、シールリングセット20はシールリング11とシールリング21とで1対とした構成としている。なお、構造を判り易く表示する為に、同シールリング11,21を離して図示している。一方のシールリング11には、前述のように、ダレ見越し角α1を有する第1摺動面12aおよびダレ見越し角α2を有する第2摺動面12bを形成している。
【0058】
他方のシールリング21は、ダレ見越し角αを有する凹状の円錐面又は球面の単一面で形成した摺動面22を備え、更に、ダレ見越し角αの製作許容範囲を0〜0.04度として、角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定している。それらによって、ダレ見越し角を形成する面を単一面とし、研削シロも少なくしている。
【0059】
第2実施形態の上記構成において、フローティングシール1を組立てたときに、1対のシールリング11,21はそれぞれ第1摺動面12aと摺動面22とで当接するから、当接幅は第1摺動面12aの幅W1より大きくなることはない。これによって、フローティングシールが2種類のシールリング11,21を有する代わりに、更に安いコストで、前記第1実施形態におけると同様の機能を実現し、同じ作用を有している。
【0060】
次に図4により、第3実施形態を説明する。図4は第3実施形態のシールリングセットの部分断面側面図であり、図1のP部詳細図である。
図4において、シールリングセット30は同一構造のシールリング31,31の2個で1対とした構成としている。なお、構造を判り易く表示する為に、同シールリング31,31を離して図示している。1対のシールリング31,31は、第1実施形態におけるシールリング11,11に対して、外径Dとダレ見越し角α1,α2のみが異なり、それ以外はシールリング11,11と同一である。
【0061】
即ち、各シールリング31の外径Dを160〜200mmとしてシールリング11の外径Dよりも大きくしており、それに伴ってシールリング31のダレに抗する剛性が減少することに対応して、第1摺動面32aのダレ見越し角α1を0〜0.06度に、第2摺動面32bのダレ見越し角α2を0.09〜0.30度にそれぞれ設定している。なお、α2>α1としていることに変わりはなく、また外側のダレ見越し角α1を角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定し、それによって内側のダレ見越し角α2を小さい角度を含む領域に設定していることにも変わりはない。
【0062】
図4による上記構成において、外径Dを大きくしたシールリング31,31で構成したシールリングセット30によっても、第1実施形態におけると同様の機能を実現している。
【0063】
次に図5により、第4実施形態の説明をする。図5は第4実施形態のシールリングセットの部分断面側面図であり、図1のP部詳細図である。
図5において、シールリングセット40はシールリング31とシールリング41とで1対とした構成としている。なお、構造を判り易く表示する為に、両シールリング31,41を離して図示している。一方のシールリング31は第3実施形態で述べたものと同じであり、その説明を省略する。
【0064】
他方のシールリング41はその摺動面42を、ダレ見越し角αを有する凹状の円錐面又は球面の単一面で形成し、更に、前記ダレ見越し角αの製作許容範囲を0〜0.06度として、角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定している。これらにより、ダレ見越し角を形成する面を単一面とし、研削シロも少なくしている。
【0065】
第4実施形態の構成において、外径Dを大きくしたシールリング31,41で構成したシールリングセット40においても、前記第2実施形態におけると同様の機能を実現している。
【0066】
なお、第1実施形態〜第4実施形態の構成において、外径Dとダレ見越し角α1,α2,αは上記にとらわれることなく、α2>α1,α2>αの条件のもとで自由に設定して良い。更に、外径Dをより一層大きくしたシールリングの場合には強度的理由等で断面形状も同時に大きくする場合があるが、その場合においても、シールリングのダレに抗する剛性に対応して、ダレ見越し角α1,α2,αをα2>α1,α2>αの条件のもとで自由に設定して良い。
【0067】
以上の第1実施形態〜第4実施形態の作用及び効果について、図6を参照して詳述する。図6は本発明によるフローティングシールに係るシールリングの摺動抵抗トルクのバラツキを説明する概念図である。
【0068】
図6において、先ず、第1実施形態〜第2実施形態のシールリングセット10,20の摺動抵抗トルクTは、それぞれダレ見越し角α1,α1又はダレ見越し角α1,αのバラツキによって、相関曲線Sに沿って変化する。なお、相関曲線Sは、図13〜図14において詳述した相関曲線Sと同じである。
【0069】
一方、同ダレ見越し角α1,α1又はα1,αの製作誤差許容を何れも0〜0.04度として、角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定して、ダレ見越し角の形成時の研削シロを少なくしている。
その結果、両ダレ見越し角α1,αがそれぞれ角度ゼロに近い場合に第1摺動面12aが全面当接するが、この第1摺動面12aの幅W1を0.5〜1.1mmに設定しているから、その時の摺動抵抗トルクTはT2〜T3の範囲内に限定される。従って、最小トルクT1に対して最大トルクT3は約2倍程度に限定されている。
【0070】
次に、第3実施形態〜第4実施形態のシールリングセット30,40の摺動抵抗トルクTは、それぞれダレ見越し角α1,α1又はダレ見越し角α1,αのバラツキによって、相関曲線S1(破線で示す。)に沿って変化する。なお、相関曲線S1と相関曲線Sとの相違は、シールリングセット30,40と10,20との外径Dの差異即ち、ダレに抗する剛性の相違によるものである。
【0071】
シールリングセット30,40の場合には、ダレ見越し角α1,α1又はα1,αの製作誤差許容を何れも0〜0.06度としており、それによって、ダレ見越し角α1,αが角度ゼロに近い場合は第1摺動面32aが全面当接するが、同第1摺動面32aの幅W1を0.5〜1.1mmに設定しているから、その時の摺動抵抗トルクTはT2〜T3に限定され、それによって、最小トルクT1に対して最大トルクT3は約2倍程度に限定されている。
【0072】
これらの結果、第1実施形態〜第4実施形態において次の作用及び効果が得られる。
(1)フローティングシール1を組立てた時に、シールリングセット10,20、またはシールリングセット30,40はそれぞれ第1摺動面12a又は第1摺動面32aで当接するから、互いの摺動面(12,12),(12,22),(32,32),(32,42)が全面当接することを確実に防止することができる。これによって、これらのシールリングセットの摺動抵抗トルクTのバラツキを抑制することができる。
【0073】
(2)更に、第1摺動面12a,32aの幅を0.5〜1.1mmとして小さく設定しているから、第1摺動面12a,32aが全面当接した場合でも、シールリングセット10,20,30,40の摺動抵抗トルクTの最大値T3を小さくすることができる。従って、フローティングシール1を組立てた時のシールリングセットの摺動抵抗トルクTのバラツキT1〜T3を小さく抑制することができる。この結果、発熱やOリングのつれ回りによる油洩れが発生することがない。
【0074】
(3)上記(1),(2)の理由によって、第1摺動面12a,32aの全面当接の可能性を許容することが可能となり、それによって、第1摺動面12a,32aと摺動面22,42のダレ見越し角の製作許容範囲を、角度ゼロ近傍の小さい角度領域に設定することができる。それに伴って、第2摺動面12b,32bのダレ見越し角α2も小さい角度領域に設定することができる。これらにより、ダレ見越し角α1,α2,αの形成時の研削シロが少なくなるから、シールリング11,21,31,41の製造コストを安くすることができる。これは、同シールリングの材質が硬い場合に顕著である。
(4)上記(1),(2),(3)により、摺動抵抗トルクTのバラツキの抑制と、安い製造コストとの両立が可能となる。
【0075】
(5)第1摺動面12a,32aの内縁側に隣接して第2摺動面12b,32bを配設しているから、フローティングシール1を組立てた時に、前述の理由によってシールリングセット10,20,30,40の各対のシールリングが互いにラジアル方向にずれて当接しても、相互の摺動面は全周にわたって当接することができる。これにより、油洩れは発生しない。
【0076】
(6)第1摺動面12a,32aの内縁側に隣接して、小さい角度の第2摺動面12b,32bを配設しているから、摺動面12,32外縁の磨耗が進行しても所定の寿命が確保できる。
【0077】
以上の結果、フローティングシールを組立てた時のシールリングの摺動抵抗トルク、およびこの摺動抵抗トルクのバラツキが小さくて、摺動抵抗トルク過大による油洩れの発生を防止でき、しかも安いコストで構成できるフローティングシールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るフローティングシールの部分断面側面図である。
【図2】第1実施形態のシールリングセットの部分断面側面図であり、図1のP部詳細図である。
【図3】第2実施形態のシールリングセットの部分断面側面図である。
【図4】第3実施形態のシールリングセットの部分断面側面図である。
【図5】第4実施形態のシールリングセットの部分断面側面図である。
【図6】本発明に係るシールリングの摺動抵抗トルクのバラツキの説明図である。
【図7】従来技術に係るフローティングシールの部分断面側面図である。
【図8】従来技術に係るフローティングシールの仮組み状態の説明図である。
【図9】他の従来例を示すシールリングの部分断面側面図である。
【図10】シールリングの摺動抵抗トルクと摺動面の当接幅との関係の測定結果である。
【図11】シールリングの全面当接した摺動面の稼動初期における写真である。
【図12】シールリングの摺動面当接幅とダレ見越し角との関係の説明概念図である。
【図13】シールリングの摺動抵抗トルクのバラツキを説明する概念図である。
【符号の説明】
1…フローティングシール、10…シールリングセット、11…シールリング、12…摺動面、12a…第1摺動面、12b…第2摺動面、20…シールリングセット、21…シールリング、22…摺動面、30…シールリングセット、31…シールリング、32…摺動面、32a…第1摺動面、32b…第2摺動面、40…シールリングセット、41…シールリング、42…摺動面。

Claims (2)

  1. 軸(2)周りに相対的に回転する2つのボス(3,4)の対向する端部にそれぞれ配設されて互いに対向して開口する1対のハウジング(3a,4a)と、両ハウジング(3a,4a)の略中間位置にそれぞれ配設されて、対面する側面部の摺動面(12)で互いに摺接する1対のシールリング(11,11)とを備えたフローティングシールにおいて、
    前記1対のシールリング(11,11)の少なくとも一方の摺動面(12)を、ダレ見越し角α1を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第1摺動面(12a)と、該第1摺動面(12a)の内縁側に隣接して、ダレ見越し角α2を有する凹状の円錐面又は球面で形成した第2摺動面(12b)とで構成し、
    α2>α1なる関係とした
    ことを特徴とするフローティングシール。
  2. 請求項1記載のフローティングシールにおいて、
    前記第1摺動面(12a)の幅を0.5〜1.1mmとした
    ことを特徴とするフローティングシール。
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