JP2004026805A - 酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ5bに特異的なモノクローナル抗体およびその用途 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】ヒト破骨細胞から精製される酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5b(TRACP 5b)を抗原として細胞融合により、TRACP 5bに対する反応性が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5a(TRACP 5a)に対する反応性よりも高く、TRACP5bに対してより高い特異性を有するTRACP 5bに対するモノクローナル抗体が得られる。このモノクローナル抗体を用いることにより、検体中のTRACP 5bを高感度に且つ特異的に検出することができる。
【選択図】 なし
Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5b(TRACP 5b:別名、破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)に特異的なモノクローナル抗体、該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ、該モノクローナル抗体を用いたTRACP 5bの検出方法、並びにこれに用いるキットに関する。
本発明のモノクローナル抗体によれば、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5bの活性を特異的に測定することが可能であり、骨吸収のマーカーとして骨疾患の医学的治療や臨床検査の分野において極めて有効である。
【0002】
【従来の技術】
血清中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP:Tartrate Resistant acidPhosphatase EC3.1.3.2)はその大部分が破骨細胞由来の酸性ホスファターゼとされ、その測定は、破骨細胞の機能を評価する指標として有用とされており、骨吸収マーカーとして興味が持たれている(非特許文献1)。一方、血清中の酸性ホスファターゼは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、原点より0〜5の6つのバンドに分けられ、その中で5番目が酒石酸抵抗性であることから、Band 5酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP 5)と呼ばれている。これはさらに電気泳動により糖鎖へのシアル酸結合の多い5aと、ほとんどシアル酸結合のない5bに分けられる。そして、5aは血小板やその他からの酵素であって血中値が変動しないのに対して、5bのみが骨吸収に伴い変動するため、5bが破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼの本体であると考えられている(特許文献1)。
なお、Clinical Chemistry誌(非特許文献2)でも破骨細胞由来のACPを、TRACP 5bと略記することを勧めている。よって本明細書においても破骨細胞由来で骨吸収の指標となるACPを意味するものはTRACP 5bとして、破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼと酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5bを同義としてTRACP 5bと表記する。
【0003】
破骨細胞の活性を表す酸性ホスファターゼの指標としてTRACP活性を求める従来の活性測定法は、特異性、感度、測定の煩雑さおよび測定時間の点で問題を有している。
一般的に活性測定法によるTRACP 5bの測定は、酒石酸の存在下で合成基質としてリン酸エステルを用いて酵素反応により生ずる反応生成物(アルコールやフェノール類)を比色定量することにより酵素活性を求めている。その際、酒石酸が前立腺由来酸性ホスファターゼを阻害し、残存した酸性ホスファターゼ活性を基質で測定することにより、TRACP活性をTRACP 5b活性とみなして求めている。しかしながら、検体中に存在する破骨細胞由来以外の赤血球由来や血小板由来の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼも測定してしまうため、特異性の点で問題を有する。上記方法の改善法としては、血清を5倍に希釈した液を37℃で1時間インキュベートする前処理をした後、残りのTRACP活性を、酒石酸存在下、基質としてp−ニトロフェニルリン酸(pNPP)を用いて測定する方法が知られている(非特許文献3、非特許文献4)。この方法は赤血球由来酸性ホスファターゼの影響は回避できるが、血小板由来酸性ホスファターゼの影響は除くことは出来ない。さらにより特異的な活性測定法として、本発明者らは、TRACP 5bと赤血球や血小板由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性がフッ素に対する感受性に差のあることを利用したTRACP 5b測定法を報告した(特許文献2)。しかしながら、赤血球及び血小板由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼの影響はないものの、TRACP 5aの影響を除くことができず、またTRACP 5b活性を総酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性からフッ素存在下で阻害されなかった活性を差し引きすることにより求めており、精度の点でさらなる改良が求められている。さらに上記フッ素を利用した方法にTRACP 5aの阻害物質を組み合わせて用いることにより、より特異的にTRACP 5b活性を測定する方法が報告されている(特許文献3)。しかしながら、フッ素のみを用いる方法はより特異的ではあるものの、やはり差し引きで破骨細胞由来TRACP 5b活性を求めているため同様に、精度の点で問題を残している。
【0004】
一方、免疫学的測定法によるTRACP 5bの測定方法として、ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体を用いた免疫測定法も知られている(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10)。これらの方法は、TRACP 5aおよびTRACP 5bの両者を測定してしまうため、TRACP 5aの影響を無視できない。さらに、TRACP 5bをより特異的に測定する免疫学的測定法が報告されている(特許文献4、特許文献5)。この方法はよりTRACP 5b活性に特異的であるが、測定に用いる抗体がTRACP 5bに特異的ではなく、TRACP 5aとも反応するため、TRACP 5aとTRACP 5bの至適pHの差を利用して活性測定で測定値を算出している。そのため、末期腎疾患などのTRACP 5aが亢進している患者検体での影響が懸念され、また、健常者検体と骨吸収が亢進している患者検体での差が小さく、骨吸収マーカーとして感度は十分とは言えない(非特許文献11)。
【0005】
【特許文献1】
特表2002−510050号公報
【特許文献2】
特開平10−37198号公報
【特許文献3】
特開2001−231595号公報
【特許文献4】
WO99/50662号公報
【特許文献5】
特表2002−510050号公報
【非特許文献1】
骨代謝マーカー,福永仁夫,中村利孝,松本俊夫編,メディカルレビ
ュー社,1995
【非特許文献2】
Clin.Chem.47:1497.2001
【非特許文献3】
日大医誌.49:904−911.1990
【非特許文献4】
Clin.Chem.33:458−462.1987
【非特許文献5】
J Clin Endocrinol Metab.71:442−451.1990
【非特許文献6】
J Bone Miner Res.13:683−687.1998
【非特許文献7】
Immunol Lett.70:143−149.1999
【非特許文献8】
J Bone Miner Res.14:464−469.1999
【非特許文献9】
Clin Chem.45:2150−2157.1999
【非特許文献10】
Clin Chem.46:1751−1754.2000
【非特許文献11】
Clin. Chim. Acta 301:147−158, 2000
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
かかる問題に鑑み、本発明は、骨吸収マーカーである破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRACP 5b)に対して特異的なモノクローナル抗体、それを産生するハイブリドーマ、該モノクローナル抗体を用いたTRACP 5bの検出方法およびそれに使用するキットを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5b(TRACP 5b:別名、破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)に対する反応性が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5a(TRACP 5a)に対する反応性よりも高く、TRACP 5bに対してより高い特異性を有するTRACP 5bに対するモノクローナル抗体に関する。
更に本発明は、上記のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関する。
更に本発明は、上記のモノクローナル抗体を用いて検体中のTRACP 5bを検出するTRACP 5bの検出方法に関する。
更に本発明は、上記のモノクローナル抗体を構成成分として含む、TRACP 5bの検出に用いるためのキットに関する。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒト破骨細胞から精製されたTRACP 5bを免疫原として使用することにより得ることができる。本明細書の以後に記載する実施例では正常破骨細胞から精製されたTRACP 5bを抗原として用いて免疫を行ったが、これに限らず破骨細胞腫瘍などのTRACP 5bも抗原として用いることができる。本発明のモノクローナル抗体は、例えば精製ヒトTRACP 5bを免疫原として動物を免疫し、その動物が産生する抗ヒトTRACP 5b抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞とを融合させることによって得られるハイブリドーマによって産生される。
【0009】
上記ハイブリドーマは以下の方法によって得ることができる。即ち、上述のようにして得たヒトTRACP 5bを、フロイントの完全、不完全アジュバント、水酸化アルミニウムアジュバント、百日咳アジュバント等の既に公知のものを用いて共に混和し、感作用アジュバント液を作製して数回に分けてマウス、ラット等の動物に1〜3週間おきに腹腔内皮下、または尾静脈投与することによって免疫する。感作抗原量は1μg〜100mgの間とされているが、一般的には50μg程度が好ましい。免疫回数は2〜7回が一般的であるがさまざまな方法が知られている。次いで脾臓等に由来する抗体産生細胞と骨髄腫瘍細胞(ミエローマ細胞)等の試験管内で増殖能力を有する細胞とを融合する。抗体産生細胞はマウス、ヌードマウス、ラットなどの脾臓等より得ることができる。
上記融合法としては、既にそれ自体公知であるケーラーとミルスタインの定法(Nature.256,495.1975)によってポリエチレングリコール(PEG)を用いることで融合できる。センダイウィルス、電気融合法によっても融合を行うことができる。
【0010】
上記融合した細胞からヒトTRACP 5bを認識する抗体を産生するハイブリドーマを選択する方法としては以下のようにして行うことができる。即ち、上記融合した細胞から限界希釈法によってHAT培地およびHT培地で生存している細胞により作られるコロニーからハイブリドーマを選択する。96穴ウェルなどにまかれた融合細胞からできたコロニー培養上清中にヒトTRACP 5bに対する抗体が含まれている場合には、ヒトTRACP 5bをプレート上に固定化したアッセイプレート上に上清をのせ、反応後に抗マウスイムノグロブリン−HRP標識抗体等の2次標識抗体を反応させるELISA法により、ヒトTRACP 5bに対するモノクローナル抗体産生クローンを選択できる。標識抗体の標識物質にはHRPの他、アルカリ性ホスファターゼなどの酵素、蛍光物質、放射性物質等を用いることができる。またコントロールとしてブロッキング剤であるBSAのみを結合したアッセイプレートによるELISAを同時に行うことでヒトTRACP 5b特異的抗体のスクリーニングができる。つまりヒトTRACP 5bプレートで陽性であり、BSAによるELISAで陰性のクローンを選択できる。
【0011】
本発明のハイブリドーマとしては、ヒトTRACP 5bを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのうち、特にヒトTRACP 5bと反応し、かつ赤血球、血小板、好中球、前立腺由来の酸性ホスファターゼと交差反応しないモノクローナル抗体を産生するものが望ましい。たとえば本発明者が樹立したハイブリドーマTrk62が挙げられる。
特に本発明のモノクローナル抗体としては、臨床検査に用いた時その検査結果が骨吸収をより明確に反映するために、ヒトTRACP 5aよりもヒトTRACP 5bに親和性が高いモノクローナル抗体が好ましく、特にヒトTRACP 5aよりもヒトTRACP 5bに対して検出系中で2倍以上の反応性を示すものが望ましい。このようなハイブリドーマとしては例えば本発明者が確立したハイブリドーマTrk62が挙げられる。ハイブリドーマTrk62は、平成14年2月14日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託され、受託番号としてFERM BP−7890が付与されている。
【0012】
上記ハイブリドーマは通常細胞培養に用いられる培地、例えばα−MEM、RPMI1640、ASF、S−cloneなどで培養し、その培養上清よりモノクローナル抗体を回収することができる。またハイブリドーマが由来する動物、ヌードマウスをあらかじめプリスタン処理しておき、その動物に細胞を腹腔内注射することによって腹水を貯留させ、その腹水からモノクローナル抗体を回収することもできる。
上記の上清、腹水よりモノクローナル抗体を回収する方法としては、通常の方法を用いることができる。たとえば硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウムなどによる塩析法やクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインA、プロテインGなどによるアフィニティクロマトグラフィーなどが挙げられる。
【0013】
かくして得られる本発明のモノクローナル抗体は、TRACP 5bに対する反応性が、TRACP 5aに対する反応性よりも高く、TRACP 5bに対してより高い特異性を有するものである。具体的には、本発明のモノクローナル抗体は、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aに対する反応性の2倍以上であり、より具体的には、等量の活性を示すTRACP 5aおよび5bをそれぞれ反応させた時、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aに対する反応性の2倍以上であるものが好ましい。更に具体的には、以後の実施例1の(8)の特異性検定の項で明らかにされているように、酒石酸もしくは酒石酸塩の存在下でパラニトロフェニルリン酸(pNPP)を基質として用いてpH5.7(TRACP 5aとTRACP 5bが等しい酵素活性を示すpH)で反応させた時に10U/Lの酵素活性を示すTRACP 5aおよびTRACP 5bのそれぞれを、プレートに固定した本発明のモノクローナル抗体と反応させ、次いで該抗体に結合したそれぞれのTRACP 5aおよびTRACP 5bの酵素活性を、酒石酸もしくは酒石酸塩の存在下で上記基質pNPPを用いてpH6.1(TRACP 5bの至適pH)で測定した時に、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aの反応性の2倍以上、より具体的には3倍以上である、モノクローナル抗体が特に好ましい。
更に本発明のモノクローナル抗体は、同様に実施例1の(8)の特異性検定の項で明らかにされているように、赤血球、血小板、好中球および前立腺由来の酸性ホスファターゼに対しては実質的に交差反応性を示さないものである。また、実施例1の(7)のウエスタン・ブロッティングの項および実施例4で明らかにされているように、本発明のモノクローナル抗体は、TRACP 5bのネイティブな酵素としての立体構造を認識するものである。
【0014】
本発明のモノクローナル抗体を用いた免疫測定法によって検体中のTRACP 5bを高感度で且つ特異的に検出することができる。対象となる検体としては、血液、血清、血漿、骨などの組織等が挙げられる。
本発明のモノクローナル抗体を用いた免疫測定法による検出方法としては、TRACP 5bの酵素活性の測定を利用した免疫測定法、サンドイッチアッセイELISA法、組織免疫染色法等が挙げられる。
【0015】
TRACP5bの酵素活性の測定を利用した免疫測定法としては、例えば、検体、例えば血清中のTRACP 5bを、本発明のモノクローナル抗体に結合させ、結合したTRACP 5bに対して、TRACP 5bの酵素基質、例えばP‐ニトロフェニルリン酸またはその塩を酵素反応させて、その酵素活性を測定することにより検体中のTRACP 5bを免疫測定できる方法が挙げられる。その方法においては、具体的には、TRACP 5bを以下のようにして測定できる。まず、固相支持体に吸着している本発明のモノクローナル抗体に、測定すべき検体を加え、検体中のTRACP 5bと抗体とを抗原抗体反応させてTRACP 5bを抗体に結合させる。次いで、その固相支持体を洗浄液で洗浄して、抗体に吸着しなかった検体由来の成分を除去した後、反応系にTRACP 5bの酵素基質、例えばp−ニトロフェニルリン酸またはその塩を加え、抗体に結合しているTRACP 5bと基質とを反応させる。反応停止液で酵素反応を停止した後、反応により生成したフェノール類、例えば、p−ニトロフェノールを、通常390nm〜450nm、好ましくは400〜430nmの波長で吸光度を測定する。その吸光度の大きさは、TRACP 5b酵素活性を反映するので、その値から、検体中のTRACP 5bを測定できる。
本発明では、上記した測定法から明らかな通り、抗体は固相支持体に結合させて用いるのが好ましく、固相支持体としては、通常、ELISA法等の固相免疫測定法に用いる固相支持体が用いられるが、特に限定されない。例えば、固相支持体の材料として、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、ポリエチレン、ナイロン、メタアクリレートなどが挙げられる。固相支持体の形状としては、プレート、ビーズ等が挙げられる。
固相支持体に吸着している抗体を調製するには、直接または間接的に物理結合や化学結合、アフィニティーを利用して固相支持体にTRACP 5bに対する抗体を結合させる。感作抗体量は、1ng〜100mg/mlの範囲であることが多い。
【0016】
本発明の測定方法を実施するときは、TRACP 5bを免疫測定するためのキットであって、i)固相支持体、ii)本発明抗体、およびiii)TRACP 5b酵素基質を含むキットを用いて行える。
このキットにおいては、i)固相支持体、ii)本発明抗体に関しては、固相支持体と抗体溶液とを別々に作製しておき、TRACP 5bを測定する際、抗体を固相支持体に吸着させてもよく、あらかじめ、抗体を固相支持体に吸着させた状態で提供してもよい。このキットにおいては、検体中のTRACP 5bを抗体に結合させた後、固相支持体に吸着しなかった成分を除去するために、洗浄液を含むことが好ましい。洗浄液としては、例えば、界面活性剤を含むトリス緩衝液を使用することができる。
本発明において、このキットを使用するときは、酵素反応停止液を含むことが好ましい。酵素停止液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ水溶液を使用できる。
さらに、本発明のキットには、必要に応じ、検体希釈液を加えて含むこともできる。検体希釈液としては、例えば、トリス等の緩衝液を使用できる。その緩衝液には、必要に応じて、EDTA・2Na等のキレート剤、食塩等の無機塩を加えてもよい。
【0017】
本発明においては、本発明のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチアッセイELISA法により、TRACP 5bを測定することもできる。この場合、モノクローナル抗体として、本発明抗体以外に、他のTRACP 5bに対する別な抗体も用いて実施することができる。サンドイッチアッセイによるTRACP 5bを測定する方法の具体例は、以下の通りである。まず、一次抗体として本発明抗体を、固相支持体、例えば、プレートに吸着させ、検体、例えば、血清中のTRACP 5bと反応させ、固相支持体を洗浄し、次いで、吸着したTRACP 5bと、ビオチン化した2次抗体、例えばビオチン化した別なTRACP 5bに対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体とを反応させ、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンと反応させた後、ペルオキシダーゼ酵素反応、次いで、発色反応を行うことにより、TRACP 5bを検出することができる。また、2次抗体を直接ペルオキシダーゼやアルカリ性ホスファターゼ等により酵素標識したものを用いることにより、同様の測定をすることができる。また、2次標識抗体に結合させる物質は測定方法によって酵素に限られるものではなく、放射線同位元素、蛍光物質、磁性物質、コロイドなどでもよい。
【0018】
本発明において、本発明抗体を用いたサンドイッチアッセイELISAを行うときは、サンドイッチアッセイELISA用のキットを用いて実施することができる。
サンドイッチアッセイELISA法で本発明の測定方法を実施するときは、例えば、TRACP 5bを免疫測定するためのキットであって、i)固相支持体、ii)本発明抗体、iii)標識された、別なTRACP 5bに対する抗体、及びiv)標識を検出するための成分を含むキットを用いることによっても、TRACP 5bを測定することができる。
標識を検出するための成分とは、抗体が標識されたものを測定するための成分で、標識がビオチンの場合、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン、テトラメチルベンジジンのペルオキシダーゼ酵素基質、及び過酸化水素を含む試薬であり、標識がアルカリホスファターゼの場合、p−ニトロフェニルリン酸を含む試薬である。このキットには、必要に応じ、洗浄液を含んでいてもよい。
本発明において、このキットを使用するときは、検体中のTRACP 5bを抗体に結合させた後、固相支持体に吸着しなかった成分を除去するために、洗浄液を含むことが好ましい。洗浄液としては、例えば、界面活性剤を含むトリス緩衝液を使用することができる。さらに、本発明のキットには、必要に応じ、検体希釈液を加えて含むこともできる。検体希釈液としては、例えば、トリス等の緩衝液を使用できる。その緩衝液には、必要に応じて、EDTA・2Na等のキレート剤、食塩等の無機塩を加えてもよい。
【0019】
更に本発明においては、検体中のTRACP 5bの存在を、本発明のモノクローナル抗体を利用した組織免疫染色法によって検出することもできる。即ち、例えば、ヒトの破骨細胞組織などから通常の方法により、例えば凍結切片を調製し、これに本発明のモノクローナル抗体を反応させ、次いで例えば、ペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素で標識した二次抗体と反応させ、次いで発色させることにより、TRACP 5bの存在を特異的に検出することができる。
このような、組織免疫染色法による検出は、i)本発明のモノクローナル抗体、ii)標識された二次抗体およびiii)発色試薬を構成成分として含むキットを用いて実施できる。標識された二次抗体としては、例えばペルオキシダーゼやアルカリホスファターゼなどの酵素で標識した、動物由来の抗IgG抗血清、抗IgGポリクローナル抗体などが挙げられ、発色試薬としては、標識に用いた酵素を発色するための通常用いられる発色基質などの試薬が用いられる。
【0020】
【実施例】
以下に好ましい実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
実施例1
破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ( TRACP 5b )に対して特異性の高いモノクローナル抗体の作成およびその特性
(1)TRACP 5b の精製
インフォームド・コンセントを行った後、外科的手術により摘出されたヒト大腿骨骨頭部130gを液体窒素中で凍結させ、ハンマーで粉砕後、プロテアーゼインヒビター等を含む緩衝液(50mM Tris−HCl, 0.3M KCl pH7.5)200mL中に懸濁させ、超音波ホモジナイザーにてホモジナイズした。4℃一晩攪拌後、10,000rpm、20分遠心分離し、その上清を10mM トリス緩衝液 pH8.2に透析後CM−Sepharoseカラム[シグマ社]に付し、吸着したタンパク質をNaClを含む上記トリス緩衝液の直線濃度勾配で溶出した。酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性は、基質pNPPを用い測定し、活性の高いフラクションをプールした。それを濃縮後、0.7M NaClを含む20mM トリス緩衝液 pH7.2に透析し、Superdex 200カラム [アマシャムファルマシア社]に付し、同様に溶出したフラクションの酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ活性を測定し、活性フラクションをプールした。それをHiTrap Heparin HPカラム[アマシャムファルマシア社]に付し、吸着したタンパク質をNaClを含む上記20mMトリス緩衝液pH7.4の直線塩濃度勾配により溶出した。酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ高活性フラクションをプールし、濃縮することにより、精製TRACP 5bを0.4mg得た。なお、タンパク量はA280により確認し、純度はSDS−PAGE[TIFCO社]を行い銀染色の結果、分子量35,000付近でシングルバンドであることによりTRACP 5bであることを確認した(図1)。単一バンドになった酵素は精製TRACP 5bとして免疫抗原とした。
【0021】
(2)精製ヒト TRACP 5b によるマウスの免疫
精製ヒトTRACP 5bを250μg/mlとなるように50mMクエン酸緩衝液(pH5.5)で希釈し、25μg(100μl)をとってフロインド完全アジュバンド[和光純薬工業社]100μlと乳化するまでよく混和した。調製した懸濁液をBalb/c 6週齢 雌マウス[日本クレアー社]にジエチルエーテル麻酔下にて腹腔内投与した。2週間後には同量のTRACP 5b(25μg/ml)をフロインド不完全アジュバンド[和光純薬工業社]と混和してフロインド完全アジュバンドの時と全く同様の操作により乳化懸濁液とし、それぞれマウスに感作した。以降2週間後に同様の操作を行い、4回目には最終免疫としてTRACP 5bは25μg/mlを50mMクエン酸緩衝液(pH5.5)で調製しマウス尾静脈注射により投与した。
【0022】
(3)ハイブリドーマの確立
最終免疫より3日後にTRACP 5bにより感作済みのマウスよりジエチルエーテル麻酔下に外科的摘出された脾臓を無菌的に分散し脾臓細胞を調製した。融合はケーラーとミルスタインの方法(Nature.256,495.1975)に従って行われ、ポリエチレングリコール(PEG4000)[メルク社]を用いて脾細胞と骨髄腫細胞P3−X63−Ag8−U1(P3U1)を融合した。TRACP 5b融合時の融合比率は脾臓細胞数8×107個に対して骨髄腫細胞P3−X63−Ag8−U1(P3U1)2×107個で、約4:1であった。融合細胞は10%FCS [INVITROGEN社] α−MEM [IRVINE社] HAT[コスモバイオ社]培地に分散し96穴マイクロタイターカルチャープレート[住友ベークライト社]に分注して37℃、5%CO2条件にて培養した。
【0023】
(4)コロニーのスクリーニング
約2週間後にコロニーの生育を確認してスクリーニングを実施した。実施したスクリーニング方法を以下に述べる。
スクリーニング用プレートを作製するために上記(1)にて精製したTRACP 5bを50mMクエン酸緩衝液中に溶解し、0.5μg/100μl/wellとなるように96穴マイクロタイタープレート[Nunc社]に分注した。プレートを4℃で2晩静置した後に0.05% Tween 20[和光純薬社]を含むトリス緩衝液で3回洗浄し、非特異的反応を抑えるために1.5%BSA[SIGMA社]溶液を200μl分注して、更に4℃で1晩静置した。完成したプレートを0.05% Tween 20を含むトリス緩衝液で3回洗浄した後に、上記(3)で得られたハイブリドーマの培養上清100μlを反応させ、更に洗浄を行った後に2次抗体であるHRP標識抗マウスイムノグロブリン抗体[Zymed社]を加えて反応させた。洗浄後にHRPの発色基質である3mg/ml o−フェニレンジアミン(OPD)[ナカライ社]クエン酸発色溶液を100μl加えて一定時間の発色後、1N硫酸[和光純薬社]を停止液として更に100μl添加し、測定波長492nmにて吸光度を測定した。上記のようにして陽性になったクローンは限界希釈法によって再クローニングされ上清を再度チエックした。
【0024】
(5)抗体の確認
ELISAによって精製TRACP 5bとの反応性を確認すると、精製TRACP 5bのプレートと反応するクローンTrk62およびTrk49が得られた。クローンTrk62が産生するモノクローナル抗体Trk62は精製TRACP 5bと強い反応性を示していた。一方、モノクローナル抗体Trk49は、反応性が弱かった。本発明のモノクローナル抗体Trk62はコントロールのBSAプレートとは全く反応しなかった。上記の抗体をモノクローナル抗体タイピングキット[アマシャムファルマシア社]にて検定した結果、モノクローナル抗体Trk62およびTrk49は、以下のような特性を有していた。
クラス サブクラス 軽鎖
IgG IgG1 κ
【0025】
(6)モノクローナル抗体の作製及び精製
上記(4)で得られたハイブリドーマTrk62 1×107細胞個を、プリスタン[アルドリッチ社]0.5ml投与後2週間のBalb/cマウス[日本クレアー社](10週齢、雌性)に腹腔内投与し、約2週間後にマウス腹腔内に貯留した腹水をジエチルエーテル麻酔下にて外科的に採取した。上記(4)のコロニーのスクリーニングで行ったと同様のELISA法により、腹水をサンプルとして段階希釈して確認すると高濃度のモノクローナル抗体が含まれていた。この腹水を硫安40%で処理し、PBSに透析した後、プロテインGカラム[アマシャムファルマシア社]により精製してSDS−PAGEにより確認した。するとモノクローナル抗体Trk62は非還元では分子量約150,000に単一の、メルカプトエタノール還元では分子量約50,000のバンドと25,000の2本のバンドが確認された。精製されたモノクローナル抗体はマウス1匹あたり約15mgであって工業的利用を行うには十分量であった。同様にして、モノクローナル抗体Trk49も、ハイブリドーマTrk49から得た。ハイブリドーマTrk49は、平成14年11月27日に独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託され、受託番号としてFERM BP−8249が付与されている。
【0026】
(7)ウエスタン・ブロッティング
ウエスタン・ブロッティングの結果等からモノクローナル抗体Trk62は、SDS処理のTRACP 5は認識せず、ネイティブなTRACP 5を認識することが分かった。以下に詳述する。
ウエスタン・ブロッティング用サンプルとして既に公知の方法(Clin.Chem.24:7,1105−1108.1978)によりインフォームド・コンセプトを行なったヒトさい帯血よりTRACPを精製した。このときヒトTRACP はTRACP 5a及びTRACP 5bの2種類に分けられた。TRACP 5aおよびTRACP 5bはディスク電気泳動法(Clin.Chem.24:2,309−312.1978)(図2)およびフッ素阻害による活性測定法(Clin.Chem.46:4,469−473.2000)により確認した。また別に昆虫細胞を利用したヒト組換えTRACP(Baculoviral rhTRACP)を既に公知となっているハイマンらの方法(J.Biol.Chem.269,1294−1300.1994)を参考として作製し、精製した後に抗原の一種とした(図3に示したフラクション26、27および28を合わせたものを用いた)。上記3種の酵素蛋白質(ヒトTRACP 5a、TRACP 5b、 Baculoviral rhTRAC)を各2μgにあわせて非還元条件下にてSDS−PAGEを行い、ウエスタン・ブロッティング法により反応性を確認したところ、Trk62はヒトTRACP 5a、TRACP 5b、Baculoviral rhTRACPの全てに反応しなかった。しかしポジティブコントロールとして実験した抗TRACPモノクローナル抗体9C5[Zymed社](Hybridoma,16:175−182,1997;BioTec Histochem,73:316−324,1998)は33kDaヒトTRACP 5a、TRACP 5b、Baculoviral rhTRACP及び3種全てにみられた16kDaのスモールフラグメントと反応していた(図4)。抗TRACPモノクローナル抗体9C5は加熱変性処理などを行った変性16kDaスモールフラグメントと反応することが既に知られている(Hybridoma,16:175−182,1997;BioTec Histochem,73:316−324,1998)。
この結果はヒトTRACP 5a、TRACP 5b、Baculoviral rhTRACPが界面活性剤SDSによって立体構造を変化させ、本発明のモノクローナル抗体Trk62はTRACP 5a、TRACP 5b、Baculoviral rhTRACPの立体構造を認識するモノクローナル抗体であるため反応性を失ったことを示しており、モノクローナル抗体Trk62がTRACPのNativeな構造を認識していることを示している。
【0027】
(8)特異性検定
モノクローナル抗体Trk62の特異性を以下の通り検討した。測定方法は次の(i)から(v)のステップからなる。
(i)上記(4)のコロニーのスクリーニングで使用したマイクロタイタープレート[Nunc社]に1μg/100μl/wellになるように抗マウスイムノグロブリン[ダコ社]を分注し、プレートを4℃で2晩静置した。その後0.05% Tween 20を含むトリス[SIGMA社]緩衝液で3回洗浄し、非特異的反応を抑えるために1.5%BSA[SIGMA社]溶液を200μl分注して、更に4℃で1晩静置した。
(ii)完成したプレートを0.05% Tween 20を含むトリス緩衝液で3回洗浄した後に本発明のモノクローナル抗体Trk62、または比較例としてモノクローナル抗体O1A(Suomen Bioanalytiikka Oy社 BoneTRAP Assayキットに附属、WO99/50662号公報、特表2002−510050号公報に記載のモノクローナル抗体)を400ng/100μl/wellにあわせて室温、1時間反応させ、更に0.05% Tween 20を含むトリス緩衝液で3回洗浄を行った。
(iii)次にモノクローナル抗体Trk62、O1Aを反応させたプレートに各種酸性ホスファターゼを反応させた。使用した検体は上記(7)のウエスタン・ブロッティングで使用した精製ヒトTRACP 5a、Baculoviral rhTRACPの他に、感作に使用したTRACP 5b、赤血球抽出液、血小板抽出液、好中球抽出液、前立腺由来酸性ホスファターゼ(PAP)[SIGMA社]である。これらのACPアイソフォームを含む検体はTRACPの酵素活性を全て10U/L(基質溶液pNPP 8mM 酢酸ナトリウム0.1M 酒石酸ナトリウム40mM pH5.7で測定した活性値)に合わせ、その100μlを抗体結合プレート上に加えた。
(iv)室温、1時間反応させた後、0.05% Tween 20を含むトリス緩衝液で3回洗浄を行い、基質溶液(8mM pNPP、100mM 酢酸ナトリウム、40mM 酒石酸ナトリウム pH6.1)100μlを加えて37℃、1時間発色させた。405nmにおける吸光度を測定して、モノクローナル抗体Trk62およびO1Aのそれぞれに反応した各種ACPアイソフォームの量を求めた。測定値は、各検体の吸光度より生理食塩水を検体として用いたブランク吸光度を差し引き算出した。得られた測定値を表1に示した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1の結果から分かるように、モノクローナル抗体O1AおよびTrk62はヒトTRACP 5b 、TRACP 5aおよびBaculoviral rhTRACPとしか反応せず、他のACPアイソフォームと交差性を示さなかった。しかしその反応比率は異なっていた。即ち、TRACP 5bに対する反応性を100%とすると、Baculoviral rhTRACPに対する反応性は両抗体とも約70%の反応性であったが、TRACP 5aではモノクローナル抗体O1Aで65%であったのに対して、モノクローナル抗体Trk62では32%であった。このことは、モノクローナル抗体Trk62が特にTRACP 5bにアフィニティーが高いことを示している。即ち、TRACP 5bとTRACP 5aの反応性の比(TRACP 5b/TRACP 5a)を比べると、モノクローナル抗体O1Aが1.54に対しモノクローナル抗体Trk62が3.13であり、モノクローナル抗体Trk62がモノクローナル抗体O1Aに比して約2倍、TRACP
5bに対して特異性が高いことを示している。
更に以上の結果から、本発明のモノクローナル抗体Trk62は、以下のような特性を有している。
即ち、酒石酸ナトリウムの存在下でパラニトロフェニルリン酸(pNPP)を基質として用いてpH5.7で反応させた時に10U/Lの酵素活性を示すTRACP 5aおよびTRACP 5bのそれぞれを、プレートに固定した本発明のモノクローナル抗体と反応させ、次いでそれに結合したそれぞれのTRACP 5aおよびTRACP 5bの酵素活性を、酒石酸もしくは酒石酸ナトリウムの存在下で上記基質pNPPを用いてpH6.1で測定した時に、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aの反応性の3.13倍である。
【0030】
実施例2
モノクローナル抗体 Trk62 を用いた TRACP 5b の酵素活性の測定を利用した免疫測定法による臨床検体の測定
モノクローナル抗体Trk62の骨吸収関連疾患における臨床的意義を確認するためにホルモン補充療法(HRT)を施された患者血清を検体として検体中のTRACP 5bを測定した。
(1)方法
モノクローナル抗体Trk62を使用してのTRACP 5bの測定方法は、実施例1の(8)の特異性検定と全く同様の方法で行った。ただし、標準品としてBoneTRAP Assay(Suomen Bioanalytiikka Oy社)キット附属の組換えTRACPを測定し、その検量線より、吸光度をU/Lの酵素活性単位に変換して測定値を算出した。また、比較例として生化学法の総TRACP活性測定(Clin.Chem.,44:221−225,1998)及びTRACP 5bのELISA測定をBoneTRAP Assayをそのまま用いて測定を行った。検体はインフォームド・コンセントを行って集められ、測定まで−80℃で保管した。また、HRT前後の間隔は平均で7.4ヶ月であった。
(2)結果
得られた結果を表2に示した。
【0031】
【表2】
【0032】
理想的な臨床検査試薬はHRT後に治療前よりもダイナミックにその検査値が減少することで治療効果が的確に判断出来るものである。よって治療後の測定値が治療前よりもできるだけ小さくなればよいことになる。表2の結果を見ると実施例1で得られたモノクローナル抗体Trk62を使用したELISAでは治療効果判定のための治療後検査値は治療前測定値の平均33.6%であり、非常に大きな変化率を示していた。この結果は比較例であるTRACP測定例の生化学測定法による総TRACP測定77.0%及びTRACP 5b測定のBoneTRAP Assay 56.4%より有用であった。
【0033】
なお、従来の骨代謝マーカーで同一検体を測定すると、B−ALP(オステオリンク「BAP」:血清中骨型アルカリ性ホスファターゼ測定 ELISA法)80.5%、NTx(オステオマークNTx:尿中I型コラーゲン分解N−テロペプチド測定 ELISA法)57.5%、Pyr(尿中総ピリジノリン測定 HPLC法)68.6%、D−Pyr(尿中総デオキシピリジノリン測定 HPLC法)52.8%、D−Pyr(オステオリンク「DPD」:Free 尿中デオキシピリジノリン測定 ELISA法)77.8%であった。
この結果から本発明のモノクローナル抗体Trk62によるTRACP 5bの測定が、従来の骨代謝マーカーの測定よりもHRT前後の変化率が大きく、骨代謝マーカーとして、臨床的に有用性が高いことを示している。
【0034】
実施例3
モノクローナル抗体 Trk62 を用いた pH5.65 における成人および小児血清中の TRACP 5b の測定
本発明のモノクローナル抗体を用いた、骨吸収能の安定した成人血清と骨吸収の盛んな小児血清中のTRACP 5bの測定を行った。
(1)方法
測定は実施例2と同様に行い、基質試薬のpHのみをpH6.1からpH5.65に変更して測定した。また、比較例として、前記モノクローナル抗体O1Aを用いたBoneTRAP Assayでも測定した。検体はインフォームド・コンセントを行って得られた成人と小児血清、各2検体である。小児検体では盛んな骨代謝から骨吸収を表すTRACP 5bが成人よりも高値を示すと言われている。
(2)結果
得られた結果を表3に示した。
【0035】
【表3】
【0036】
表3から分かるように、結果的にモノクローナル抗体Trk62を用いた場合、成人と小児のTRACP測定値比率は4.44倍であり、BoneTRAP Assayキットの1.24倍より大きく、pH5.65の測定においてもTRACP 5bの最適pH付近の6.1で測定を行っている比較例のTRACP 5b測定に比して、骨吸収をはるかに感度よく表しているものと考えられた。なお、小児検体では盛んな骨代謝から骨吸収を表すTRACP 5bが成人よりも高値を示すと言われている。
【0037】
実施例4
成人健常人血清検体と正常小児血清検体中の TRACP 5b のサンドイッチアッセイ ELISA 法による測定
本発明以外のモノクローナル抗体Trk49、本発明のモノクローナル抗体Trk62を利用して活性としてではなく蛋白質量としてTRACP 5bを測定することができる。上記2種のモノクローナル抗体を利用して以下のような実験を行った。
(1)方法
はじめにTRACP 5b蛋白量測定キットの測定原理、方法を示す。測定方法は簡単には以下の(1)から(4)のステップである。(1)予め固層プレートに抗TRACP 5bモノクローナル抗体Trk62を1μg/100μLとなるように分注し、4℃、2日間反応させて抗体結合プレートを作り、(スクリーニング)と同様にブロッキングを行う。(2)使用時には0.05% Tween 20を含むトリス緩衝液で3回洗浄した後に、血清検体50μlとクエン酸緩衝液50μlを別にプレートに加えて室温、1時間、検体中のTRACP 5bをプレート上の抗体複合体に結合させる。(3)洗浄を行った後、抗体に結合して残ったTRACP 5bに対して西洋ワサビパーオキシダーゼを標識したTrk49希釈2次標識抗体液100μlを加えて室温、1時間反応させてサンドイッチ複合体を作製する。(4)3回洗浄後にHRPの発色基質である3mg/mL OPD[ナカライ社]溶液を加えて吸光度を測定する。測定は測光波長490nmで実行した。一定時間の後に1N硫酸反応停止液を加える。検体の発色値(OD)は精製TRACP 5bの標準曲線から計算することによって濃度換算ができる。上記のようにして血清中のTRACP 5bを測定した。
【0038】
(2)結果
実際に成人健常人血清6検体と正常小児血清6検体を測定すると表4のような結果であった。成人健常人血清6検体の平均値は9.92 ng/mLであったのに対して、骨吸収の活発な小児血清では平均値34.00 ng/mLであった。この結果は本測定系もまた活性測定法同様に骨吸収を反映するということを示している。
【0039】
【表4】
【0040】
実施例5
モノクローナル抗体 Trk62 を用いた組織免疫染色による TRACP 5b の測定
(1)方法
2μmに薄切された凍結ヒト破骨細胞腫瘍組織を−20℃アセトンで処理して組織固定し、洗浄後3%過酸化水素水処理を行い内因性ペルオキシダーゼ処理を施した。同一検体のパラフィン抱埋切片はミクロトームにて薄切し、キシレン各5分ずつ3回の処理で完全にパラフィンを除き、100%エチルアルコールから10%ずつ濃度を下げた50%までの6段階下降系列のアルコール溶液をくぐらせた後、50mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に浸潤させた。以降凍結切片、パラフィン切片を同様に反応させている。つまり5%BSAを含む50mMクエン酸緩衝液(pH6.0)でブロッキングし、洗浄後に腹水から精製されたモノクローナル抗体Trk62を5%BSAを含む50mMクエン酸緩衝液(pH6.0)で10μg/mlに希釈し組織と室温2時間反応させた。陽性コントロールとして(ウエスタン・ブロッティング)で使用した抗TRAP抗体9C5[ZYMED社]を反応させた。5回洗浄を行ってENVISIONキット[ダコ社]を室温で1時間反応させ、2次抗体反応後、更に5回洗浄を行ってDAB発色キット[ダコ社]により発色させた。洗浄後、顕微鏡観察した。
【0041】
(2)結果
顕微鏡観察の結果を図5に示した。
モノクローナル抗体Trk62は凍結切片の破骨細胞の細胞質のみが選択的に染まっていた。またパラフィン切片は全く反応が認められなかった。一方、抗TRAP抗体9C5は凍結切片では全く反応が認められず、パラフィン切片では破骨細胞が染色されていた。
この結果から、モノクローナル抗体Trk62は酵素の立体構造が保持された凍結切片のみと反応性を持つことからも、立体構造を保持したTRACP 5bを認識することが証明できた。また手術時に手術検体などを本発明のモノクローナル抗体によって素早く染色することによって組織学的判断を行う一助になり得る事も証明された。
【0042】
【発明の効果】
以上に詳細に説明したように、本発明のモノクローナル抗体は、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aに対する反応性よりも高く、TRACP 5bに対してより高い特異性を有するものである。従って、本発明のモノクローナル抗体により検体中のTRACP 5bを特異的に検出することができる。骨吸収マーカーとして検体中のTRACP 5bを本発明のモノクローナル抗体で高感度で且つ特異的に検出することができ、従って骨疾患の臨床検査等に本発明のモノクローナル抗体は極めて有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ヒト大腿骨骨頭部から単離精製されたTRACP 5bをSDS−PAGEにより分析した結果を示す。
【図2】図2は、ヒトさい帯血より精製されたTRACP 5aおよびTRACP 5bをディスク電気泳動法により分析した結果を示す。
【図3】図3は、昆虫細胞を宿主細胞として産生された組換えTRACPをSDS−PAGEで分析した結果を示す。
【図4】図4は、ポジティブコントロールとして用いた抗TRACPモノクローナル抗体9C5の、ヒトTRACP 5a、TRACP 5bおよび組換えTRACPに対する反応性をウエスタンブロッティングにより分析した結果を示す。
【図5】図5は、本発明のモノクローナル抗体Trk62をヒト破骨細胞腫瘍組織の凍結切片と反応させた後の顕微鏡観察の結果を表す。
Claims (17)
- 酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5b(TRACP 5b:別名、破骨細胞由来酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)に対する反応性が、酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ 5a(TRACP 5a)に対する反応性よりも高く、TRACP 5bに対してより高い特異性を有するTRACP 5bに対するモノクローナル抗体。
- TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aに対する反応性の2倍以上である、請求項1のモノクローナル抗体。
- 等量の活性を示すTRACP 5aおよび5bをそれぞれ反応させた時、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aに対する反応性の2倍以上である、請求項1または2のモノクローナル抗体。
- 酒石酸もしくは酒石酸塩の存在下でパラニトロフェニルリン酸(pNPP)を基質として用いてpH5.7で反応させた時に10U/Lの酵素活性を示すTRACP 5aおよびTRACP 5bのそれぞれを、当該モノクローナル抗体と反応させ、次いで該抗体に結合したそれぞれのTRACP 5aおよびTRACP 5bの酵素活性を、酒石酸もしくは酒石酸塩の存在下で基質pNPPを用いてpH6.1で測定した時に、TRACP 5bに対する反応性がTRACP 5aの反応性の2倍以上である、請求項1から3のいずれかのモノクローナル抗体。
- 赤血球、血小板、好中球および前立腺由来の酸性ホスファターゼに対しては実質的に交差反応性を示さない、請求項1から4のいずれかのモノクローナル抗体。
- TRACP 5bのネイティブな酵素としての立体構造を認識する、請求項1から5のいずれかのモノクローナル抗体。
- 請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
- 独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号 FERM BP−7890として寄託されている、請求項7のハイブリドーマ。
- 請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体を用いて免疫測定法により、検体中のTRACP 5bを検出するTRACP 5bの検出方法。
- 検体中のTRACP 5bを請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体に結合させ、次いで結合したTRACP 5bの酵素活性を測定して検体中のTRACP 5bを検出する、請求項9の検出方法。
- 請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体を用いたサンドイッチアッセイELISAにより、検体中のTRACP 5bを検出する、請求項9の検出方法。
- 検体中のTRACP 5bの存在を、請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体を用いた組織免疫染色法により検出する、請求項9の検出方法。
- 骨吸収のマーカーとして骨疾患の臨床検査に用いる、請求項9から12のいずれかの検出方法。
- 請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体を構成成分として含む、TRACP 5bの検出に用いるためのキット。
- 請求項10の検出方法に用いるためのキットであって、固相支持体、請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体およびTRACP 5bの酵素基質を構成成分として含む、請求項14のキット。
- 請求項11の検出方法に用いるためのキットであって、固相支持体、請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体、標識された他の別なTRACP 5bに対する抗体、および標識を検出するための成分を構成成分として含む、請求項14のキット。
- 請求項12の検出方法に用いるためのキットであって、請求項1から6のいずれかのモノクローナル抗体、標識された二次抗体、および発色試薬を構成成分として含む、請求項14のキット。
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