JP2004016133A - ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の安定化方法、安定化された合成酵素並びにその製造方法 - Google Patents

ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の安定化方法、安定化された合成酵素並びにその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明の第一の目的は、界面活性剤中でのポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法を提供することにある。本発明の第二の目的は、界面活性剤中での酵素活性が安定化されたポリヒドロキシアルカノエート合成酵素及びその製造方法を提供することにある。本発明の第三の目的は、前記のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素により3−ヒドロキシアシル補酵素Aを重合させてポリヒドロキシアルカノエートを合成する、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法を提供することにある。
【解決手段】ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼとを融合させることにより、界面活性剤中でのポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性が安定化される。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼとを融合させることを特徴とする、界面活性剤中でのポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法に関するものである。また、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼとを融合させることを特徴とする、界面活性剤中での酵素活性が安定化された修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素及びその製造方法に関するものである。さらに、本発明は、前記の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素により3−ヒドロキシアシル補酵素Aを重合させてポリヒドロキシアルカノエートを合成することを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高分子材料は現代の産業や生活に不可欠のものであり、安価軽量であること、成形性が良いことなどから、家電品の筐体をはじめ包装材や緩衝材、あるいは繊維材料など、多岐に渡って利用されている。一方、これら高分子材料の安定な性質を利用して、高分子の分子鎖に様々な機能を発現する置換基を配して、液晶材料やコート剤などの各種機能材料も得られている。
【0003】
これら機能材料は構造材料としての高分子よりも付加価値が高いため、少量生産でも大きな市場ニーズが期待できる。このような高分子機能材料は、これまで高分子の合成プロセスの中で、あるいは合成した高分子を置換基で修飾することにより、有機合成化学的手法により得られている。高分子機能材料の基本骨格となる高分子はほとんどの場合、石油系原料から有機合成化学的手法によって得られている。ポリエチレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリエステル,ポリスチレン,ポリ塩化ビニル,ポリアクリルアミドなどがその典型的な例である。
【0004】
一方、近年、生物工学的手法によって高分子化合物を製造する研究が活発に行われてきており、また、一部で実用化されている。例えば、微生物由来の高分子化合物として、ポリ−3−ヒドロキシ−n−酪酸(以下、PHBと略す場合もある)や3−ヒドロキシ−n−酪酸と3−ヒドロキシ−n−吉草酸との共重合体(以下、PHB/Vと略す場合もある)等のポリヒドロキシアルカノエート(以下、PHAと略す場合がある)、バクテリアセルロースやプルラン等の多糖類、ポリ−γ−グルタミン酸やポリリジン等のポリアミノ酸などが知られている。特にPHAは、従来のプラスチックと同様に、溶融加工等により各種製品に利用することができるうえ、生体適合性にも優れており、医療用軟質部材等としての応用も期待されている。
【0005】
これまで、多くの微生物がPHAを生産し菌体内に蓄積することが報告されてきた。例えば、アルカリゲネス・ユウトロファス・H16株(Alcaligenes eutropus H16、ATCC No.17699)、メチロバクテリウム属(Methylobacterium sp.)、パラコッカス属(Paracoccus sp.)、アルカリゲネス属(Alcaligenes sp.)、シュードモナス属(Pseudomonas sp.)の微生物によるPHB/Vの生産が報告されている(特開平5−74492号公報、特公平6−15604号公報、特公平7−14352号公報、特公平8−19227号公報など)。
【0006】
また、コマモナス・アシドボランス・IFO 13852株(Comamonas acidovorans IFO 13852)が、3−ヒドロキシ−n−酪酸と4−ヒドロキシ−n−酪酸とをモノマーユニットに持つPHAを生産することが開示されている(特開平9−191893号公報)。さらに、アエロモナス・キャビエ(Aeromonas caviae)により、3−ヒドロキシ−n−酪酸と3−ヒドロキシヘキサン酸との共重合体を生産することが開示されている(特開平5−93049号公報、特開平7−265065号公報)。
【0007】
これらPHBやPHB/Vの生合成は、種々の炭素源から、生体内の様々な代謝経路を経て生成された(R)−3−ヒドロキシブチリルCoAまたは(R)−3−ヒドロキシバレリルCoAを基質とした、酵素による重合反応によって行われる。この重合反応を触媒する酵素がPHB合成酵素である。なお、CoAとは補酵素A(coenzyme A)の略称であり、その化学構造は下記化学式の通りである。
【0008】
【化1】
Figure 2004016133
【0009】
また、近年、炭素数が3から12程度までの中鎖長(medium−chain−length)の3−ヒドロキシアルカン酸ユニットからなるポリヒドロキシアルカノエート(中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート、以下、mcl−PHAと略す場合がある)についての研究が精力的に行われている。
【0010】
例えば、特許公報第2642937号では、シュードモナス・オレオボランス・ATCC 29347株(Pseudomonas oleovorans ATCC 29347)に非環状脂肪族炭化水素を与えることにより、炭素数が6から12までの3−ヒドロキシアルカン酸のモノマーユニットを有するPHAが生産されることが開示されている。
【0011】
また、Appl.Environ.Microbiol.,58,746(1992)には、シュードモナス・レジノボランス(Pseudomonas resinovorans)が、オクタン酸を単一炭素源として、3−ヒドロキシ−n−酪酸,3−ヒドロキシヘキサン酸,3−ヒドロキシオクタン酸,3−ヒドロキシデカン酸をモノマーユニットとするPHAを生産し、また、ヘキサン酸を単一炭素源として、3−ヒドロキシ−n−酪酸,3−ヒドロキシヘキサン酸,3−ヒドロキシオクタン酸,3−ヒドロキシデカン酸をユニットとするPHAを生産することが報告されている。ここで、原料の脂肪酸よりも鎖長の長い3−ヒドロキシアルカン酸モノマーユニットの導入は、後述の脂肪酸合成経路を経由していると考えられる。
【0012】
Int.j.Biol.Macromol.,16(3),119(1994)には、シュードモナスsp.61−3株(Pseudomonas sp.strain 61−3)が、グルコン酸ナトリウムを単一炭素源として、3−ヒドロキシ−n−酪酸,3−ヒドロキシヘキサン酸,3−ヒドロキシオクタン酸,3−ヒドロキシデカン酸,3−ヒドロキシドデカン酸といった3−ヒドロキシアルカン酸、および、3−ヒドロキシ−5−cis−デセン酸,3−ヒドロキシ−5−cis−ドデセン酸といった3−ヒドロキシアルケン酸をユニットとするPHAを生産することが報告されている。
【0013】
上記のPHAは側鎖にアルキル基を有するモノマーユニットからなるPHA(以下、usual−PHAと略す場合がある)である。しかし、より広範囲な応用、例えば機能性ポリマーとしての応用を考慮した場合、アルキル基以外の置換基(例えば、フェニル基,不飽和炭化水素,エステル基,アリル基,シアノ基,ハロゲン化炭化水素,エポキシドなどなど)を側鎖に導入したPHA(以下、unusual−PHAと略す場合がある)が極めて有用である。
【0014】
フェニル基を有するunusual−PHAの生合成の例としては、例えば、Macromolecules,24,5256−5260(1991),Macromol.Chem.,191,1957−1965(1990),Chirality,3,492−494(1991)などで、シュードモナス・オレオボランスが、5−フェニル吉草酸から、3−ヒドロキシ−5−フェニル吉草酸ユニットを含むPHAを生産すると報告されている。
【0015】
また、Macromolecules,29,1762−1766(1996)で、シュードモナス・オレオボランスが、5−(4−トリル)吉草酸(5−(4−メチルフェニル)吉草酸)から、3−ヒドロキシ−5−(4−トリル)吉草酸ユニットを含むPHAを生産すると報告されている。さらに、Macromolecules,32,2889−2895(1999)には、シュードモナス・オレオボランスが、5−(2,4−ジニトロフェニル)吉草酸から、3−ヒドロキシ−5−(2,4−ジニトロフェニル)吉草酸ユニットおよび3−ヒドロキシ−5−(4−ニトロフェニル)吉草酸ユニットを含むPHAを生産すると報告されている。
【0016】
また、フェノキシ基を有するunusual−PHAの例としては、Macromol.Chem.Phys.,195,1665−1672(1994)で、シュードモナス・オレオボランスが、11−フェノキシウンデカン酸から3−ヒドロキシ−5−フェノキシ吉草酸ユニットおよび3−ヒドロキシ−9−フェノキシノナン酸ユニットを含むPHAを生産すると報告されている。
【0017】
また、Macromolecules,29,3432−3435(1996)には、シュードモナス・オレオボランスが、6−フェノキシヘキサン酸から3−ヒドロキシ−4−フェノキシ酪酸ユニットおよび3−ヒドロキシ−6−フェノキシヘキサン酸ユニットを含むPHAを、8−フェノキシオクタン酸から3−ヒドロキシ−4−フェノキシ酪酸ユニット,3−ヒドロキシ−6−フェノキシヘキサン酸ユニットおよび3−ヒドロキシ−8−フェノキシオクタン酸ユニットを含むPHAを、11−フェノキシウンデカン酸から3−ヒドロキシ−5−フェノキシ吉草酸ユニットおよび3−ヒドロキシ−7−フェノキシヘプタン酸ユニットを含むPHAを生産することが報告されている。
【0018】
さらに、Can.J.Microbiol.,41,32−43(1995)では、シュードモナス・オレオボランス・ATCC 29347株及びシュードモナス・プチダ・KT 2442株(Pseudomonas putida KT 2442)が、p−シアノフェノキシヘキサン酸またはp−ニトロフェノキシヘキサン酸から、3−ヒドロキシ−p−シアノフェノキシヘキサン酸ユニットまたは3−ヒドロキシ−p−ニトロフェノキシヘキサン酸ユニットを含むPHAを生産すると報告している。
【0019】
特許第2989175号公報には、3−ヒドロキシ−5−(モノフルオロフェノキシ)吉草酸ユニットあるいは3−ヒドロキシ−5−(ジフルオロフェノキシ)吉草酸ユニットからなるホモポリマー、少なくとも3−ヒドロキシ−5−(モノフルオロフェノキシ)ペンタノエートユニットあるいは3−ヒドロキシ−5−(ジフルオロフェノキシ)ペンタノエートユニットを含有するコポリマーとその製造方法が記載されており、その効果として、融点が高く良好な加工性を保ちつつ、立体規則性、撥水性を付与することができるとしている。
【0020】
また、シクロヘキシル基を有するunusual−PHAの例としては、Macromolecules,30,1611−1615(1997)に、シュードモナス・オレオボランスが、シクロヘキシル酪酸またはシクロヘキシル吉草酸から該PHAを生産するとの報告がある。
【0021】
これらmcl−PHAやunusual−PHAの生合成は、原料となる各種アルカン酸から、生体内の様々な代謝経路(例えば、β酸化系や脂肪酸合成経路)を経て生成された(R)−3−ヒドロキシアシルCoAを基質とした、酵素による重合反応によって行われる。この重合反応を触媒する酵素がmcl−PHA合成酵素である。以下に、β酸化系およびmcl−PHA合成酵素による重合反応を経て、アルカン酸がPHAとなるまでの反応を示す。
【0022】
【化2】
Figure 2004016133
【0023】
一方、脂肪酸合成経路を経る場合は、該経路中に生じた(R)−3−ヒドロキシアシル−ACP(ACPとはアシルキャリアプロテインのことである)から変換された(R)−3−ヒドロキシアシルCoAを基質として、同様にmcl−PHA合成酵素によりPHAが合成されると考えられる。
【0024】
近年、上記のPHB合成酵素やmcl−PHA合成酵素といったPHA合成酵素を菌体外に取り出して、無細胞系(in vitro)でPHAを合成しようとする試みが始まっている。
【0025】
例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,6279−6283(1995)では、アルカリゲネス・ユウトロファス(Alcaligenes eutrophus)由来のPHB合成酵素に3−ヒドロキシブチリルCoAを作用させることにより、3−ヒドロキシ−n−酪酸ユニットからなるPHBのグラニュール(微粒子)を合成することに成功している。また、Int.J.Biol.Macromol.,25,55−60(1999)では、アルカリゲネス・ユウトロファス由来のPHB合成酵素に、3−ヒドロキシブチリルCoAや3−ヒドロキシバレリルCoAを作用させることにより、3−ヒドロキシ−n−酪酸ユニットや3−ヒドロキシ−n−吉草酸ユニットからなるPHAの合成に成功している。さらにこの報告では、ラセミ体の3−ヒドロキシブチリルCoAを作用させたところ、酵素の立体選択性によって、R体の3−ヒドロキシ−n−酪酸ユニットのみからなるPHBが合成されたとしている。Macromol.Rapid Commun.,21,77−84(2000)においても、アルカリゲネス・ユウトロファス由来のPHB合成酵素を用いた細胞外でのPHBグラニュールの合成が報告されている。
【0026】
また、FEMS Microbiol.Lett.,168,319−324(1998)では、クロマチウム・ビノサム(Chromatium vinosum)由来のPHB合成酵素に3−ヒドロキシブチリルCoAを作用させることにより、3−ヒドロキシ−n−酪酸ユニットからなるPHBを合成することに成功している。
【0027】
Appl.Microbiol.Biotechnol.,54,37−43(2000)では、シュードモナス・アエルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)のmcl−PHA合成酵素に3−ヒドロキシデカノイルCoAを作用させることにより、3−ヒドロキシデカン酸ユニットからなるPHAのグラニュールを合成している。
【0028】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来より、酵素反応を行う際に、基質の溶解性の向上や酵素の反応性の増大などを目的として、反応液中に界面活性剤を添加して酵素反応を行う手法が、広く一般的に用いられている。PHB合成酵素やmcl−PHA合成酵素を用いたPHAの合成反応においても、界面活性剤を添加することにより、基質の溶解性を向上させ、反応を効率的に進め得ると考えられる。
【0029】
また、前記したPHAをグラニュールの状態のままで取得しようとする場合、該グラニュールの分散状態をより良好に保持する目的においても、界面活性剤の添加は有効と考えられる。
【0030】
さらに、PHA合成酵素の基質である3−ヒドロキシアシルCoAを合成する方法として、従来、アシルCoAシンセターゼ(E.C.6.2.1.3)を用いて3−ヒドロキシアルカン酸をCoA化する手法が多く用いられているが(例えば、Eur.J.Biochem.,250,432−439,1997、Appl.Microbiol.Biotechnol.,54,37−43,2000など)、前記反応系においては、Triton X−100(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)等の界面活性剤の添加によって、さらに高い反応効率を得られるとされている。従って、上記反応終了後に該界面活性剤を除去することなしに、該反応の生成物を、界面活性剤が残存したままでPHA合成酵素の反応に供することができれば、PHAの合成プロセスを大幅に簡略化することができると考えられる。
【0031】
しかしながら、PHA合成酵素の活性は、一部の界面活性剤により阻害されることが、いくつかの報告によって示されている。例えば、J.Microb.Meth.,41,1−8,2000では、シュードモナス・オレオボランス・Gpo1株(Pseudomonas oleovorans Gpo1)由来のPHA合成酵素の活性測定を、0.1%(v/v)Triton X−100、0.1%(v/v)Tween−20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)、0.1%(w/v)Hecameg(6−O−(N−ヘプチルカルバモイル)メチル−α−D−グルコピラノシド)または0.1%(w/v)CHAPS(3−[(3−コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート)の存在下で行ったところ、これら界面活性剤が存在しない場合と比較して、それぞれ、90%、60%、50%または 30%の酵素活性低下が認められたとしている。また、Biochem.J.,349,599−604,2000では、0.5%(v/v)Triton X−100の存在下で、シュードモナス・プチダ・GPp104 株(Pseudomonas putida GPp104)由来のPHA合成酵素の活性が100%阻害されたと報告されている。
【0032】
従って、本発明の第一の目的は、界面活性剤中でのPHA合成酵素活性の安定化方法を提供することにある。本発明の第二の目的は、界面活性剤中での酵素活性が安定化されたPHA合成酵素及びその製造方法を提供することにある。本発明の第三の目的は、前記のPHA合成酵素により3−ヒドロキシアシル補酵素Aを重合させてPHAを合成する、PHAの製造方法を提供することにある。
【0033】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、PHA合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼ(以下、GSTと略す場合がある)とを融合させることにより、界面活性剤中でのPHA合成酵素の活性低下を抑え、該酵素活性を安定化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
即ち本発明は、PHA合成酵素とGSTとを融合させることを特徴とする、界面活性剤中でのPHA合成酵素活性の安定化方法に関するものである。また、本発明は、PHA合成酵素とGSTとを融合させることを特徴とする、界面活性剤中での酵素活性が安定化された修飾PHA合成酵素及びその製造方法に関するものである。さらに、本発明は、前記の修飾PHA合成酵素により3−ヒドロキシアシルCoAを重合させてPHAを合成することを特徴とする、PHAの製造方法に関するものである。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
【0036】
<PHA>
本発明におけるPHAとしては、PHAの生合成反応に関わるPHA合成酵素によって合成され得るPHAであれば、特に限定はされない。
【0037】
前記の通り、PHA合成酵素は生物体内でのPHA合成反応系における最終段階を触媒する酵素である。従って、生物体内において合成され得ることが知られているPHAであれば、いずれも該酵素による触媒作用を受けて合成されていることになる。よって、所望のPHAに対応する3−ヒドロキシアシルCoAを、本発明における修飾PHA合成酵素に作用させることによって、生物体内において合成され得ることが知られているあらゆる種類のPHAを合成することが可能である。
【0038】
このようなPHAとして、具体的には、下記化学式[1]から[10]で表されるモノマーユニットを少なくとも含むPHAを例示することができる。
【0039】
【化3】
Figure 2004016133
【0040】
(ただし、該モノマーユニットは、式中R1およびaの組合せが下記のいずれかであるモノマーユニットからなる群より選択される少なくとも一つである。
【0041】
R1が水素原子(H)でありaが0から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1がハロゲン原子でありaが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が発色団でありaが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が カルボキシル基あるいはその塩でありaが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が、
【0042】
【化4】
Figure 2004016133
【0043】
でありaが1から7の整数のいずれかであるモノマーユニット。)
【0044】
【化5】
Figure 2004016133
【0045】
(ただし、式中bは0から7の整数のいずれかを表し、R2は水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0046】
【化6】
Figure 2004016133
【0047】
(ただし、式中cは1から8の整数のいずれかを表し、R3は水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0048】
【化7】
Figure 2004016133
【0049】
(ただし、式中dは0から7の整数のいずれかを表し、R4は水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0050】
【化8】
Figure 2004016133
【0051】
(ただし、式中eは1から8の整数のいずれかを表し、R5は水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−C,−CH,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0052】
【化9】
Figure 2004016133
【0053】
(ただし、式中fは0から7の整数のいずれかを表す。)
【0054】
【化10】
Figure 2004016133
【0055】
(ただし、式中gは1から8の整数のいずれかを表す。)
【0056】
【化11】
Figure 2004016133
【0057】
(ただし、式中hは1から7の整数のいずれかを表し、R6は水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−COOR’,−SOR”,−CH,−C,−C,−CH(CH,−C(CHからなる群から選ばれたいずれか1つを表し、ここでR’は水素原子(H),Na,K,−CH,−Cのいずれかであり、R”は−OH,−ONa,−OK,ハロゲン原子,−OCH,−OCのいずれかである。)
【0058】
【化12】
Figure 2004016133
【0059】
(ただし、式中iは1から7の整数のいずれかを表し、R7は水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−COOR’,−SOR”からなる群から選ばれたいずれか1つを表し、ここでR’は水素原子(H),Na,K,−CH,−Cのいずれかであり、R”は−OH,−ONa,−OK,ハロゲン原子,−OCH,−OCのいずれかである。)
【0060】
【化13】
Figure 2004016133
【0061】
(ただし、式中jは1から9の整数のいずれかを表す。)
なお、前記のハロゲン原子の具体例としては、フッ素,塩素,臭素などを挙げることができる。
【0062】
また、前記の発色団としては、その3−ヒドロキシアシルCoA 体がPHA合成酵素の触媒作用を受け得るものである限り特に限定はされないが、高分子合成時の立体障害などを考慮すると、3−ヒドロキシアシルCoA分子内において、CoAの結合したカルボキシル基と発色団との間に炭素数1から5のメチレン鎖があるほうが望ましい。また、発色団の光吸収波長が可視域にあれば着色した構造体が得られ、可視域以外に光吸収波長があっても種々の電子材料として利用することができる。
【0063】
このような発色団の例として、ニトロソ、ニトロ、アゾ、ジアリールメタン、トリアリールメタン、キサンテン、アクリジン、キノリン、メチン、チアゾール、インダミン、インドフェノール、ラクトン、アミノケトン、ヒドロキシケトン、スチルベン、アジン、オカサジン、チアジン、アントラキノン、フタロシアニン、インジゴイドなどを挙げることができる。
【0064】
本発明において用いられるPHAとしては上記モノマーユニットを複数含むランダム共重合体やブロック共重合体を用いることも可能であり、各モノマーユニットや含まれる官能基の特性を利用したPHAの物性制御や複数の機能の付与、官能基間の相互作用を利用した新たな機能の発現等が可能となる。
【0065】
なお、本発明の構造体に用いる、PHA合成酵素により合成されるPHAは、一般にR体のみから構成されるアイソタクチックなポリマーである。
【0066】
<3−ヒドロキシアシルCoA>
PHAの合成基質である3−ヒドロキシアシルCoAは、例えば、酵素を用いたin vitro合成法、微生物や植物などの生物体を用いたin vivo合成法、化学合成法等の中から適宜選択した方法で合成して用いることができる。特に、酵素合成法は該基質の合成に一般に用いられている方法であり、市販のアシルCoAシンセターゼを用いた下記反応、
【0067】
【化14】
Figure 2004016133
【0068】
を用いた方法などが知られている(Eur.J.Biochem.,250,432−439,1997、Appl.Microbiol.Biotechnol.,54,37−43,2000など)。酵素や生物体を用いた合成工程には、バッチ式の合成方法を用いても良く、また、固定化酵素や固定化細胞を用いて連続生産してもよい。
【0069】
本発明のPHA合成酵素の基質として用いる3−ヒドロキシアシルCoAとして、具体的には、下記化学式[11]から[20]で表される3−ヒドロキシアシルCoAを例示することができる。
【0070】
【化15】
Figure 2004016133
【0071】
(ただし、前記化学式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、式中R1およびaの組合せが下記のいずれかである群より選択される少なくとも一つであり、かつ、前記化学式[1]で表されるモノマーユニットにおけるR1およびaと対応する。
【0072】
R1が 水素原子(H)でありaが0から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が ハロゲン原子でありaが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が 発色団でありaが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が カルボキシル基あるいはその塩でありaが1から10の整数のいずれかであるモノマーユニット、R1が、
【0073】
【化16】
Figure 2004016133
【0074】
でありaが1から7の整数のいずれかであるモノマーユニット。)
【0075】
【化17】
Figure 2004016133
【0076】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、bは前記化学式[2]で表されるモノマーユニットにおけるbと対応する0から7の整数のいずれかを表し、R2は前記化学式[2]で表されるモノマーユニットにおけるR2と対応する、水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0077】
【化18】
Figure 2004016133
【0078】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、cは前記化学式[3]で表されるモノマーユニットにおけるcと対応する1から8の整数のいずれかを表し、R3は前記化学式[3]で表されるモノマーユニットにおけるR3と対応する、水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0079】
【化19】
Figure 2004016133
【0080】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、dは前記化学式[4]で表されるモノマーユニットにおけるdと対応する0から7の整数のいずれかを表し、R4は前記化学式[4]で表されるモノマーユニットにおけるR4と対応する、水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0081】
【化20】
Figure 2004016133
【0082】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、eは前記化学式[5]で表されるモノマーユニットにおけるeと対応する1から8の整数のいずれかを表し、R5は前記化学式[5]で表されるモノマーユニットにおけるR5と対応する、水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−CF,−C,−C,−CH,−C,−Cからなる群から選ばれたいずれか1つを表す。)
【0083】
【化21】
Figure 2004016133
【0084】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、fは前記化学式[6]で表されるモノマーユニットにおけるfと対応する0から7の整数のいずれかを表す。)
【0085】
【化22】
Figure 2004016133
【0086】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、gは前記化学式[7]で表されるモノマーユニットにおけるgと対応する1から8の整数のいずれかを表す。)
【0087】
【化23】
Figure 2004016133
【0088】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、hは前記化学式[8]で表されるモノマーユニットにおけるhと対応する1から7の整数のいずれかを表し、R6は前記化学式[8]で表されるモノマーユニットにおけるR6と対応する、水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−COOR’,−SOR”,−CH,−C,−C,−CH(CH,−C(CHからなる群から選ばれたいずれか1つを表し、
ここでR’は水素原子(H),Na,K,−CH,−Cのいずれかであり、R”は−OH,−ONa,−OK,ハロゲン原子,−OCH,−OCのいずれかである。)
【0089】
【化24】
Figure 2004016133
【0090】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、iは前記化学式[9]で表されるモノマーユニットにおけるiと対応する1から7の整数のいずれかを表し、R7は前記化学式[9]で表されるモノマーユニットにおけるR7と対応する、水素原子(H),ハロゲン原子,−CN,−NO,−COOR’,−SOR”からなる群から選ばれたいずれか1つを表し、
ここでR’は水素原子(H),Na,K,−CH,−Cのいずれかであり、R”は−OH,−ONa,−OK,ハロゲン原子,−OCH,−OCのいずれかである。)
【0091】
【化25】
Figure 2004016133
【0092】
(ただし、式中−SCoA はアルカン酸に結合した補酵素Aを表し、jは前記化学式[10]で表されるモノマーユニットにおけるjと対応する1から9の整数のいずれかを表す。)
<PHA合成酵素およびその生産菌>
本発明に用いるPHA合成酵素は、該酵素を生産する微生物から適宜選択された微生物、あるいは、それら微生物のPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体により生産されたものを用いることができる。
【0093】
PHA合成酵素を生産する微生物としては、例えば、炭素数が3から12程度までの中鎖長(medium−chain−length)の3−ヒドロキシアルカン酸ユニットからなるポリヒドロキシアルカノエート(中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート、mcl−PHA)やunusual−PHAの生産菌を用いることができ、このような微生物として、前述のシュードモナス・オレオボランス,シュードモナス・レジノボランス,シュードモナス属61−3株,シュードモナス・プチダ・KT 2442株,シュードモナス・アエルギノーサなどのほかに、本発明者らにより分離された、特開2001−288256号公報に記載のシュードモナス・プチダ・P91株(Pseudomonas putida P91、FERM BP−7373),シュードモナス・チコリアイ・H45株(Pseudomonas cichorii H45、FERM BP−7374),シュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2、FERM BP−7375),シュードモナス・ジェッセニイ・P161株(Pseudomonas jessenii P161、FERM BP−7376)等のシュードモナス属微生物や、特開2001−78753号公報に記載のバークホルデリア属・OK3株(Burkholderia sp.OK3、FERM P−17370),特開2001−69968号公報に記載のバークホルデリア属・OK4株(Burkholderia sp.OK4、FERM P−17371)などのバークホルデリア属微生物を用いることができる。
【0094】
また、これら微生物に加えて、アエロモナス属(Aeromonas sp.),コマモナス属(Comamonas sp.)などに属し、mcl−PHAやunusual−PHAを生産する微生物を用いることも可能である。
【0095】
本発明にかかるPHA合成酵素の生産に用いる微生物の通常の培養、例えば、保存菌株の作成、PHA合成酵素の生産に必要とされる菌数や活性状態を確保するための増殖などには、用いる微生物の増殖に必要な成分を含有する培地を適宜選択して用いる。例えば、微生物の生育や生存に悪影響を及ぼすものでない限り、一般的な天然培地(肉汁培地,酵母エキスなど)や、栄養源を添加した合成培地など、いかなる種類の培地をも用いることができる。
【0096】
培養は液体培養や固体培養等、該微生物が増殖する方法であればいかなる方法をも用いることができる。さらに、バッチ培養,フェドバッチ培養,半連続培養,連続培養等の種類も問わない。液体バッチ培養の形態としては、振とうフラスコによって振とうさせて酸素を供給する方法、ジャーファーメンターによる攪拌通気方式の酸素供給方法がある。また、これらの工程を複数段接続した多段方式を採用してもよい。
【0097】
培養温度としては上記の菌株が良好に増殖可能な温度であれば良く、例えば14℃から40℃、好ましくは20℃から35℃程度が適当である。
【0098】
(修飾PHA合成酵素の生産)
GSTが融合した修飾PHA合成酵素は、前述のPHA生産菌の持つPHA合成酵素遺伝子を導入した形質転換体を用いて生産することが可能である。PHA合成酵素遺伝子のクローニング、発現ベクターの作製、および、形質転換体の作製は、定法に従って行うことができる。
【0099】
大腸菌等の細菌を宿主として得られた形質転換体においては、培養に用いる培地として、天然培地あるいは合成培地、例えば、LB培地,M9培地等が挙げられる。また、培養温度は25℃から37℃の範囲で、好気的に8時間から27時間培養することにより、微生物の増殖を図る。その後集菌し、菌体内に蓄積された修飾PHA合成酵素の回収を行うことができる。
【0100】
培地には、必要に応じて、カナマイシン,アンピシリン,テトラサイクリン,クロラムフェニコール,ストレプトマイシン等の抗生物質を添加しても良い。また、発現ベクターにおいて、誘導性のプロモーターを用いている場合は、形質転換体を培養する際に、該プロモーターの対応する誘導物質を培地に添加して発現を促しても良い。例えば、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG),テトラサイクリン,インドールアクリル酸(IAA)等が誘導物質として挙げられる。
【0101】
修飾PHA合成酵素は、微生物の菌体破砕液や、硫酸アンモニウム等によりタンパク質成分を沈殿・回収した硫安塩析物などの粗酵素として用いても良く、また、各種方法で精製した精製酵素として用いても良い。該酵素には必要に応じて、金属塩,グリセリン,ジチオスレイトール,EDTA,ウシ血清アルブミンなどの安定化剤,付活剤を適宜添加して用いることができる。
【0102】
PHA合成酵素の分離・精製方法は、PHA合成酵素の酵素活性が保持される方法であればいかなる方法をも用いることができる。例えば、得られた微生物菌体を、フレンチプレス,超音波破砕機,リゾチームや各種界面活性剤等を用いて破砕したのち、遠心分離して得られた粗酵素液、またはここから調製した硫安塩析物について、アフィニティクロマトグラフィー,陽イオンまたは陰イオン交換クロマトグラフィー,ゲル濾過等の手段を単独または適宜組み合わせることによって精製酵素を得ることができる。
【0103】
特に、本発明の修飾酵素は、N末端やC末端にGSTの「タグ」を結合した融合タンパク質であるので、このタグを介してGST親和性レジンに結合させることによって、より簡便に精製することができる。
【0104】
無論、GST以外のタグを用いることもでき、例えば、アフィニティクロマトグラフィーによる精製を可能とする融合タンパク質としては、ヒスチジン,キチン結合ドメイン,マルトース結合タンパク,あるいはチオレドキシン等が公知である。これらの融合タンパク質から目的のタンパク質を分離するには、トロンビン,血液凝固因子Xa等のプロテアーゼで切断する、pHを低下せしめる、結合競合剤として高濃度のイミダゾールを添加する等の方法を用いると良い。あるいは、発現ベクターとしてpTYB1(New Englan Biolab社製)を用いた場合のようにタグがインテインを含む場合はdithiothreitolなどで還元条件として切断する。
【0105】
PHA合成酵素の活性測定は、既報の各種方法を用いることができるが、例えば、3−ヒドロキシアシルCoAがPHA合成酵素の触媒作用により重合してPHAになる過程で放出されるCoAを、5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)で発色させて測定することを測定原理とする、以下に示す方法によって測定することができる。
【0106】
試薬1:ウシ血清アルブミンを0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に3.0mg/mL溶解、
試薬2:3−ヒドロキシオクタノイルCoAを0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に3.0mmol/L溶解、
試薬3:トリクロロ酢酸を0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に10mg/mL溶解、
試薬4:5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)を0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に2.0mmol/L溶解。
【0107】
第1反応(PHA合成反応):試料(酵素)溶液100μLに試薬1を100μL添加して混合し、30℃で1分間プレインキュベートする。ここに、試薬2を100μL添加して混合し、30℃で1〜120分間インキュベートしたのち、試薬3を添加して反応を停止させる。
【0108】
第2反応(遊離CoAの発色反応):反応停止した第1反応液を遠心分離(147,000m/s(15,000G)、10分間)し、この上清550μLに試薬4を550μL添加し、30℃で3〜10分間インキュベートしたのち、412nmの吸光度を測定する。酵素活性の算出:1分間に1μmolのCoAを放出させる酵素量を1単位(U)とする。
【0109】
<PHAの製造>
前記のPHA合成酵素は所望のPHAの原料となる3−ヒドロキシアシルCoAを含む水系反応液中に投入され、PHAが合成される。上記水系反応液は、PHA合成酵素の活性を発揮させ得る条件に調整された反応系として構成されるべきであり、例えば通常、pH5.5〜9.0、好ましくはpH7.0〜8.5となるよう、緩衝液により調整する。ただし、使用するPHA合成酵素の至適pHやpH安定性によっては、上記範囲以外に条件を設定することも除外されない。
【0110】
緩衝液の種類は、使用するPHA合成酵素の活性を発揮させ得るものであれば、設定するpH領域等に応じて適宜選択して用いることができるが、例えば、一般の生化学反応に用いられる緩衝液、具体的には、酢酸バッファー,リン酸バッファー,リン酸カリウムバッファー,3−(N−モルフォリノ)プロパンスルフォン酸(MOPS)バッファー,N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルフォン酸(TAPS)バッファー,トリス塩酸バッファー,グリシンバッファー,2−(シクロヘキシルアミノ)エタンスルフォン酸(CHES)バッファーなどを用いると良い。
【0111】
緩衝液の濃度も、使用するPHA合成酵素の活性を発揮させ得るものであれば特に限定はされないが、通常5.0mmol/Lから1.0mol/L、好ましくは0.1mol/Lから0.2mol/Lの濃度のものを使用すると良い。反応温度は、使用するPHA合成酵素の特性に応じて適宜設定するものであるが、通常、4℃から50℃、好ましくは 20℃から 40℃に設定すると良い。ただし、使用するPHA合成酵素の至適温度や耐熱性によっては、上記範囲以外に条件を設定することも除外されない。
【0112】
本発明のPHA合成酵素は界面活性剤中での安定性が改善されているため、必要に応じて、界面活性剤を反応系中に添加して用いることができる。
【0113】
界面活性剤の例としては、オレイン酸ナトリウム,ドデシルスルホン酸ナトリウム,ドデシル硫酸ナトリウム,ドデシル−N−サルコシン酸ナトリウム,コール酸ナトリウム,デオキシコール酸ナトリウム,タウロデオキシコール酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド,ドデシルピリジニウムクロライド等の陽イオン界面活性剤、3−〔(コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−1−プロパンスルホン酸(CHAPS),3−〔(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ〕−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸(CHAPSO),パルミトイルリゾレシチン,ドデシル−β−アラニン等の両性イオン界面活性剤、オクチルグルコシド,オクチルチオグルコシド,ヘプチルチオグルコシド,デカノイル−N−メチルグルカミド(MEGA−10),ポリオキシエチレンドデシルエーテル(Brij、Lubrol),ポリオキシエチレン−i−オクチルフェニルエーテル(Triton X),ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(Nonidet P−40、Triton N),ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(Span),ポリオキシエチレンソリビトールエステル(Tween)等の非イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0114】
添加できる界面活性剤の濃度は、該界面活性剤と本発明のPHA合成酵素との関係において規定されるものであるが、例えば、前記したTriton X−100の場合は、反応液中濃度として0%(v/v)から1%(v/v)、好ましくは0%(v/v)から0.3%(v/v)の範囲内で添加することができる。
【0115】
酵素反応時間は、使用するPHA合成酵素の安定性等にもよるが、通常、1分間から 24時間、好ましくは 30分間から3時間の範囲内で適宜選択して設定する。反応液中の3−ヒドロキシアシルCoA濃度は、使用するPHA合成酵素の活性を発揮させ得る範囲内で適宜設定するものであるが、通常、0.1mmol/Lから1.0mol/L、好ましくは0.2mmol/Lから0.2mol/Lの範囲内で設定すると良い。なお、反応液中における3−ヒドロキシアシルCoA濃度が高い場合、一般に、反応系のpHが低下する傾向にあるため、3−ヒドロキシアシルCoA濃度を高く設定する場合は、前記の緩衝液濃度も高めに設定することが好ましい。
【0116】
なお、本発明の、界面活性剤中でのPHA合成酵素活性の安定化方法、界面活性剤中での酵素活性が安定化された修飾PHA合成酵素及びその製造方法、前記のPHA合成酵素により3−ヒドロキシアシル補酵素Aを重合させてPHAを合成するPHAの製造方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【0117】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、以下に述べる実施例は本発明の最良の実施形態の一例ではあるが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下における「%」は特に標記した以外は重量基準である。
【0118】
(実施例1)  修飾PHA合成酵素の生産
YN2株を100mLのLB培地(1%ポリペプトン(日本製薬社製)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、0.5%NaCl、pH7.4)で 30℃、一晩培養後、マーマーらの方法により染色体DNAを分離回収した。得られた染色体DNAを制限酵素HindIIIで完全分解した。
【0119】
ベクターにはpUC18を使用し、制限酵素HindIIIで切断した。末端の脱リン酸処理(Molecular Cloning,1,572,1989、Cold Spring Harbor Laboratory出版)ののち、DNAライゲーションキットVer.II(宝酒造社製)を用いて、ベクターの切断部位(クローニングサイト)と染色体DNAのHindIII完全分解断片とを連結した。この染色体DNA断片を組み込んだプラスミドベクターを用いて、大腸菌(Escherichia coli)HB101株を形質転換し、YN2株のDNAライブラリーを作製した。
【0120】
次に、YN2株のPHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片を選択するため、コロニー・ハイブリダイズ用のプローブ調製を行った。配列番号:1および配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを合成し(アマシャムファルマシア・バイオテク社)、このオリゴヌクレオチドをプライマーに用いて、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行った。PCR増幅されてきたDNA断片をプローブとして用いた。プローブの標識化は、市販の標識酵素系AlkPhosDirect(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)を利用して行った。
【0121】
得られた標識化プローブを用いて、YN2株の染色体DNAライブラリーからコロニーハイブリダイゼーション法によってPHA合成酵素遺伝子を含む組換えプラスミドを有する大腸菌菌株を選抜した。選抜した菌株から、アルカリ法によってプラスミドを回収することで、PHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片を得ることができた。
【0122】
ここで取得した遺伝子DNA断片を、不和合性グループであるIncP、IncQ、あるいはIncWの何れにも属さない広宿主域複製領域を含むベクターpBBR 122(Mo Bi Tec)に組み換えた。この組み換えプラスミドをシュードモナス・チコリアイYN2ml株(PHA合成能欠損株)にエレクトロポレーション法により形質転換したところ、YN2ml株のPHA合成能が復帰し、相補性を示した。従って、選抜された遺伝子DNA断片は、シュードモナス・チコリアイYN2ml株内において、PHA合成酵素に翻訳可能な、PHA合成酵素遺伝子領域を含むことが確認される。
【0123】
このDNA断片について、サンガー法により塩基配列を決定した。その結果、決定された塩基配列中には、ペプチド鎖をコードする、配列番号:3で示される塩基配列が存在することが確認された。このPHA合成酵素遺伝子について、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を再調製した。
【0124】
即ち、配列番号:3で示される塩基配列のPHA合成酵素遺伝子に対する、上流側プライマー(配列番号:4)および下流側プライマー(配列番号:5)を合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク社)。
【0125】
これらのプライマーを用いて、配列番号:3で示される塩基配列それぞれについてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA−PCRキット;宝酒造社製)。次に、得られたPCR増幅断片および発現ベクターpTrc 99Aを制限酵素HindIIIで切断し、脱リン酸化処理(Molecular Cloning,1,572,1989、Cold Spring Harbor Laboratory出版)したのち、この発現ベクターpTrc 99Aの切断部位に、両末端の不用な塩基配列を除いたPHA合成酵素遺伝子の完全長を含むDNA断片を、DNAライゲーションキットVer.II(宝酒造社製)を用いて連結した。
【0126】
得られた組換えプラスミドで大腸菌(Escherichia coli HB101:宝酒造社製)を塩化カルシウム法により形質転換した。得られた組換え体を培養し、組換えプラスミドの増幅を行い、組換えプラスミドを回収した。この組換えプラスミドで大腸菌(Escherichia coli HB101fB : fadB欠損株)を塩化カルシウム法により形質転換し、組換えプラスミドを保持する組換え大腸菌株を得た。
【0127】
前記の組換えプラスミドに対して、上流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:6)および下流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:7)をそれぞれ設計・合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク社)。このオリゴヌクレオチドをプライマーとして、前記の組換えプラスミドをテンプレートとしてPCRを行い、上流にBamHI制限部位、下流にXhoI制限部位を有するPHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA−PCRキット;宝酒造社製)。
【0128】
精製したPCR増幅産物をBamHIおよびXhoIにより消化し、プラスミドpGEX−6P−1(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)の対応する部位に挿入した。これらのベクターを用いて大腸菌(JM109)を形質転換し、発現用菌株を得た。菌株の確認は、Miniprep(Wizard Minipreps DNA Purification Systems、PROMEGA社製)を用いて大量に調製したプラスミドDNAをBamHI、XhoIで処理して得られるDNA断片により行った。
【0129】
得られた菌株をLB−Amp培地10mLで一晩プレ・カルチャーした後、その0.1mLを、10mLのLB−Amp培地に添加し、37℃、170rpmで3時間振とう培養した。その後IPTGを添加(終濃度 1mmol/L)し、37℃で4から12時間培養を続けた。
【0130】
IPTG誘導した大腸菌を集菌(78,000m/s(8,000G)、2分、4℃)し、1/10量の 4℃ リン酸緩衝生理食塩水(PBS;8g NaCl,1.44g NaHPO,0.24g KHPO,0.2g KCl,1,000mL精製水)に再懸濁した。凍結融解およびソニケーションにより菌体を破砕し、遠心(78,000m/s(8,000G)、10分、4℃)して固形夾雑物を取り除いた。
【0131】
目的の発現タンパク質が上清に存在することをSDS−PAGEで確認した後、誘導され発現されたGST融合タンパク質をグルタチオンセファロース4B(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)で精製した。使用するグルタチオンセファロースは、予め非特異的吸着を抑える処理を行った。すなわち、グルタチオンセファロースを同量のPBSで3回洗浄(78,000m/s(8,000G)、1分、4℃)した後、4%ウシ血清アルブミン含有PBSを同量加えて4℃で1時間処理した。処理後同量のPBSで2回洗浄し、1/2量のPBSに再懸濁した。
【0132】
前処理したグルタチオンセファロース40μLを、無細胞抽出液1mLに添加し、4℃で静かに攪拌した。これにより、融合タンパク質をグルタチオンセファロースに吸着させた。吸着後、遠心(78,000m/s(8,000G)、1分、4℃)してグルタチオンセファロースを回収し、400μLのPBSで3回洗浄した。その後、10mmol/Lグルタチオン 40μLを添加し、4℃で1時間攪拌して、吸着した融合タンパク質を溶出した。遠心(78,000m/s(8,000G)、2分、4℃)して上清を回収した後PBSに対して透析し、GST融合タンパク質(即ち、GSTが融合したPHA合成酵素)を精製した。SDS−PAGEにより、シングルバンドを確認した。
【0133】
(比較例1)  非修飾PHA合成酵素の生産
YN2株を100mLのLB培地(1%ポリペプトン(日本製薬社製)、0.5%酵母エキス(Difco社製)、0.5%NaCl、pH7.4)で30℃、一晩培養後、マーマーらの方法により染色体DNAを分離回収した。得られた染色体DNAを制限酵素HindIIIで完全分解した。
【0134】
ベクターにはpUC18を使用し、制限酵素HindIIIで切断した。末端の脱リン酸処理(Molecular Cloning,1,572,1989、Cold Spring Harbor Laboratory出版)ののち、DNAライゲーションキットVer.II(宝酒造社製)を用いて、ベクターの切断部位(クローニングサイト)と染色体DNAのHindIII完全分解断片とを連結した。この染色体DNA断片を組み込んだプラスミドベクターを用いて、大腸菌(Escherichia coli)HB101株を形質転換し、YN2株のDNAライブラリーを作製した。
【0135】
次に、YN2株のPHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片を選択するため、コロニー・ハイブリダイズ用のプローブ調製を行った。配列番号:1および配列番号:2の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを合成し(アマシャムファルマシア・バイオテク社)、このオリゴヌクレオチドをプライマーに用いて、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行った。PCR増幅されてきたDNA断片をプローブとして用いた。プローブの標識化は、市販の標識酵素系AlkPhosDirect(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)を利用して行った。
【0136】
得られた標識化プローブを用いて、YN2株の染色体DNAライブラリーからコロニーハイブリダイゼーション法によってPHA合成酵素遺伝子を含む組換えプラスミドを有する大腸菌菌株を選抜した。選抜した菌株から、アルカリ法によってプラスミドを回収することで、PHA合成酵素遺伝子を含むDNA断片を得ることができた。
【0137】
ここで取得した遺伝子DNA断片を、不和合性グループであるIncP、IncQ、あるいはIncWの何れにも属さない広宿主域複製領域を含むベクターpBBR 122(Mo Bi Tec)に組み換えた。この組み換えプラスミドをシュードモナス・チコリアイYN2ml株(PHA合成能欠損株)にエレクトロポレーション法により形質転換したところ、YN2ml株のPHA合成能が復帰し、相補性を示した。従って、選抜された遺伝子DNA断片は、シュードモナス・チコリアイYN2ml株内において、PHA合成酵素に翻訳可能な、PHA合成酵素遺伝子領域を含むことが確認される。
【0138】
このDNA断片について、サンガー法により塩基配列を決定した。その結果、決定された塩基配列中には、ペプチド鎖をコードする、配列番号:3で示される塩基配列が存在することが確認された。このPHA合成酵素遺伝子について、染色体DNAをテンプレートとしてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を再調製した。
【0139】
即ち、配列番号:3で示される塩基配列のPHA合成酵素遺伝子に対する、上流側プライマー(配列番号:4)および下流側プライマー(配列番号:5)を合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク社)。
【0140】
これらのプライマーを用いて、配列番号:3で示される塩基配列それぞれについてPCRを行い、PHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA−PCRキット;宝酒造社製)。次に、得られたPCR増幅断片および発現ベクターpTrc 99Aを制限酵素HindIIIで切断し、脱リン酸化処理(Molecular Cloning,1,572,1989、Cold Spring Harbor Laboratory出版)したのち、この発現ベクターpTrc 99Aの切断部位に、両末端の不用な塩基配列を除いたPHA合成酵素遺伝子の完全長を含むDNA断片を、DNAライゲーションキットVer.II(宝酒造社製)を用いて連結した。
【0141】
得られた組換えプラスミドで大腸菌(Escherichia coli HB101:宝酒造社製)を塩化カルシウム法により形質転換した。得られた組換え体を培養し、組換えプラスミドの増幅を行い、組換えプラスミドを回収した。この組換えプラスミドで大腸菌(Escherichia coli HB101fB:fadB欠損株)を塩化カルシウム法により形質転換し、組換えプラスミドを保持する組換え大腸菌株を得た。
【0142】
前記の組換えプラスミドに対して、上流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:6)および下流側プライマーとなる、オリゴヌクレオチド(配列番号:7)をそれぞれ設計・合成した(アマシャムファルマシア・バイオテク社)。このオリゴヌクレオチドをプライマーとして、前記の組換えプラスミドをテンプレートとしてPCRを行い、上流にBamHI制限部位、下流にXhoI制限部位を有するPHA合成酵素遺伝子の完全長を増幅した(LA−PCRキット;宝酒造社製)。
【0143】
精製したPCR増幅産物をBamHIおよびXhoIにより消化し、プラスミドpGEX−6P−1(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)の対応する部位に挿入した。これらのベクターを用いて大腸菌(JM109)を形質転換し、発現用菌株を得た。菌株の確認は、Miniprep(Wizard Minipreps DNA Purification Systems、PROMEGA社製)を用いて大量に調製したプラスミドDNAをBamHI、XhoIで処理して得られるDNA断片により行った。
【0144】
得られた菌株をLB−Amp培地10mLで一晩プレ・カルチャーした後、その0.1mLを、10mLのLB−Amp培地に添加し、37℃、170rpmで3時間振とう培養した。その後IPTGを添加(終濃度1mmol/L)し、37℃で4から12時間培養を続けた。
【0145】
IPTG誘導した大腸菌を集菌(78,000m/s(8,000G)、2分、4℃)し、1/10 量の 4℃ リン酸緩衝生理食塩水(PBS;8g NaCl,1.44g NaHPO,0.24g KHPO,0.2g KCl,1,000mL精製水)に再懸濁した。凍結融解およびソニケーションにより菌体を破砕し、遠心(78,000m/s(8,000G)、10分、4℃)して固形夾雑物を取り除いた。
【0146】
目的の発現タンパク質が上清に存在することをSDS−PAGEで確認した後、誘導され発現されたGST融合タンパク質をグルタチオンセファロース4B(アマシャムファルマシア・バイオテク社製)で精製した。使用するグルタチオンセファロースは、予め非特異的吸着を抑える処理を行った。すなわち、グルタチオンセファロースを同量のPBSで3回洗浄(78,000m/s(8,000G)、1分、4℃)した後、4%ウシ血清アルブミン含有PBSを同量加えて4℃で1時間処理した。処理後同量のPBSで2回洗浄し、1/2量のPBSに再懸濁した。
【0147】
前処理したグルタチオンセファロース40μLを、無細胞抽出液1mLに添加し、4℃で静かに攪拌した。これにより、融合タンパク質をグルタチオンセファロースに吸着させた。
【0148】
吸着後、遠心(78,000m/s(8,000G)、1分、4℃)してグルタチオンセファロースを回収し、400μLのPBSで3回洗浄した。その後、10mmol/Lグルタチオン40μLを添加し、4℃で1時間攪拌して、吸着した融合タンパク質を溶出した。遠心(78,000m/s(8,000G)、2分、4℃)して上清を回収した後PBSに対して透析し、GST融合タンパク質を精製した。SDS−PAGEにより、シングルバンドを確認した。
【0149】
前記の融合タンパク質500μgをPreScissionプロテアーゼ(アマシャムファルマシア・バイオテク社製、5U)で消化し、融合タンパク質中のPHA合成酵素をGSTから切り離した後、グルタチオンセファロースに通してプロテアーゼとGSTとを除去した。フロースルー分画をさらに、PBSで平衡化したセファデックスG 200カラムにかけ、発現タンパク質の最終精製物(即ち、GSTが融合していないPHA合成酵素)を得た。SDS−PAGEによりそれぞれ60.8kDa、および61.5kDaのシングルバンドを確認した。
【0150】
(実施例2)  界面活性剤の影響の評価
ウシ血清アルブミン(Sigma社製)を所定濃度のTriton X−100(キシダ化学社製)を含む0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に3.0mg/mLとなるよう溶解して試薬1とした。3−ヒドロキシオクタノイルCoAを0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に3.0mmol/Lとなるよう溶解して試薬2とした。トリクロロ酢酸を0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に10mg/mLとなるよう溶解して試薬3とした。5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)を0.1mol/Lトリス塩酸バッファー(pH8.0)に2.0mmol/Lとなるよう溶解して試薬4とした。
【0151】
実施例1または比較例1の酵素の溶液100μLに試薬1を100μL添加して混合し、30℃で1分間プレインキュベートした。ここに、試薬2を100μL添加して混合し、30℃で 30分間および60分間インキュベートした。この時点での反応液中のTriton X−100の濃度を、のちの結果に示す「Triton X−100終濃度」とした。試薬3を添加して反応を停止させたのち、第1反応液を遠心分離(147,000m/s(15,000G)、10分間)した。この上清550μLに試薬4を550μL添加し、30℃で10分間インキュベートしたのち、412nmの吸光度を測定した。
【0152】
3−ヒドロキシオクタノイルCoAを含まない試薬2を用いて、上記と同様に測定した結果をブランクとして、前記の測定値から差引いた。PHA酵素活性は前記反応時間 30分間から60分間の間の吸光度変化より算出した。
【0153】
Triton X−100終濃度を0%、0.01%、0.03%、0.1%および0.3%に調製し、それぞれの酵素活性を調べた結果、図1に示す通り、実施例1の修飾PHA合成酵素は界面活性剤中での酵素活性の安定性が改善されていることがわかった。
【0154】
【発明の効果】
本発明により、界面活性剤中でのポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法が提供される。また、本発明により、界面活性剤中での酵素活性が安定化された修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素及びその製造方法、及びそれを用いたポリヒドロキシアルカノエートの製造方法が提供される。
【0155】
【配列表】
Figure 2004016133
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Figure 2004016133
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【図面の簡単な説明】
【図1】実施例2の界面活性剤の影響の評価結果を示す図。

Claims (15)

  1. ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼとを融合させることを特徴とする、界面活性剤中でのポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法。
  2. 前記ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素が中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項1に記載のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法。
  3. 前記中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素がシュードモナス属(Pseudomonas sp.)に属する微生物に由来する中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項2に記載のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法。
  4. 前記中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素がシュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2、FERM BP−7375)に由来する中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項3に記載のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法。
  5. 前記界面活性剤がポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(商品名:Triton X−100)である、請求項1から請求項4のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカノエート合成酵素活性の安定化方法。
  6. ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼとが融合されてなることを特徴とする、界面活性剤中での酵素活性が安定化された修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素。
  7. 前記ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素が中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項6に記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素。
  8. 前記中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素がシュードモナス属(Pseudomonas sp.)に属する微生物に由来する中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項7に記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素。
  9. 前記中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素がシュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2、FERM BP−7375)に由来する中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項8に記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素。
  10. 前記界面活性剤がポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル(商品名:Triton X−100)である、請求項6から請求項9のいずれかに記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素。
  11. ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素をコードする遺伝子およびグルタチオンS−トランスフェラーゼをコードする遺伝子が導入されてなる形質転換体を培養して得られる培養液から、ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素とグルタチオンS−トランスフェラーゼとが融合されてなる修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素を採取する工程を含むを特徴とする、界面活性剤中での酵素活性が安定化された修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の製造方法。
  12. 前記ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素が中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項11に記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の製造方法。
  13. 前記中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素がシュードモナス属(Pseudomonas sp.)に属する微生物に由来する中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項12に記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の製造方法。
  14. 前記中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素がシュードモナス・チコリアイ・YN2株(Pseudomonas cichorii YN2、FERMBP−7375)に由来する中鎖長ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素である、請求項13に記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素の製造方法。
  15. 請求項6から請求項10のいずれかに記載の修飾ポリヒドロキシアルカノエート合成酵素により3−ヒドロキシアシル補酵素Aを重合させてポリヒドロキシアルカノエートを合成することを特徴とする、ポリヒドロキシアルカノエートの製造方法。
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