JP2004011519A - 内燃機関の点火時期制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】気流制御弁の開閉状態によってノッキングが発生したり、機関出力の低下や排気温度の過上昇が生じたりするのを抑制する。
【解決手段】点火時期制御に用いられる点火時期指令値STは、点火時期の進角側についてのノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期である最遅角点火時期SR等に基づき算出されるとともに、同最遅角点火時期SRによって遅角ガードされる。上記ノック限界は、吸気通路2に設けられた気流制御弁16が開弁状態であるか、或いは閉弁状態であるかに応じた燃焼室3内のガスの流動状態変化に伴い変化するようになる。そして、上記ノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行したり最遅角点火時期SRに近づきすぎたりしないように、またノック限界が最遅角点火時期SRに対し過度に進角した状態とならないように、上記最遅角点火時期SRが気流制御弁16の開閉状態に応じて変更される。
【選択図】 図1
【解決手段】点火時期制御に用いられる点火時期指令値STは、点火時期の進角側についてのノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期である最遅角点火時期SR等に基づき算出されるとともに、同最遅角点火時期SRによって遅角ガードされる。上記ノック限界は、吸気通路2に設けられた気流制御弁16が開弁状態であるか、或いは閉弁状態であるかに応じた燃焼室3内のガスの流動状態変化に伴い変化するようになる。そして、上記ノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行したり最遅角点火時期SRに近づきすぎたりしないように、またノック限界が最遅角点火時期SRに対し過度に進角した状態とならないように、上記最遅角点火時期SRが気流制御弁16の開閉状態に応じて変更される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の点火時期制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車などの車両に搭載される内燃機関においては、同機関の熱効率及び燃料消費率が良好なものとなるよう、燃焼室内での空気と燃料からなる混合気に対する点火の時期が、機関運転状態に応じて算出される点火時期指令値に基づき制御される。
【0003】
こうした点火時期制御に用いられる点火時期指令値は、機関回転速度及び機関負荷等に応じてマップ等から決定される最遅角点火時期に基づき算出されるとともに、内燃機関でのノッキングを抑制しつつ熱効率(燃料消費率)が最良となるように補正項を用いて補正される。また、点火時期指令値は、上述した最遅角点火時期で遅角側についてガードされ、過度に遅角側の値とならないようにされる。
【0004】
上記最遅角点火時期は、点火時期をノッキングが発生する限界まで進角させたときの状態(以下、ノック限界という)から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期である。従って、この最遅角点火時期及び上記補正項に基づき算出される点火時期指令値は、図6に示されるように上記ノック限界と上記最遅角点火時期との間の値をとるようになる。このため、内燃機関の点火時期制御の制御範囲は上記ノック限界と上記最遅角点火時期とによって定められ、当該制御範囲の進角側についての境界が上記ノック限界であって、遅角側についての境界が上記最遅角点火時期ということになる。
【0005】
また、上記補正項としては、例えば特開2000−356177公報に示されるようなフィードバック補正値及びKCS学習値が用いられる。
このフィードバック補正値は、ノッキングの発生の有無に応じて変更されるものである。即ち、フィードバック補正値は、ノッキングの発生に伴い点火時期を遅角側に補正する値をとり、ノッキングが発生していないときには点火時期を進角側に補正する値をとるようになる。
【0006】
一方、KCS学習値は、フィードバック補正値を予め定められた所定範囲内に収束させるように変更されるものである。即ち、KCS学習値は、フィードバック補正値が上記所定範囲から点火時期を遅角させる側に外れたときには同点火時期を遅角させる値をとり、フィードバック補正値が上記所定範囲から点火時期を進角させる側に外れたときには同点火時期を進角させる値をとるようになる。
【0007】
こうしたフィードバック補正値及びKCS学習値を用いて点火時期指令値を補正することで、同点火時期指令値がノッキングを抑制しつつ内燃機関の熱効率が最良となる値、即ちノック限界と最遅角点火時期との間の範囲内でノッキングの発生しない最も進角側の値をとるようになる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、内燃機関においては、混合気の良好な燃焼が得られるよう燃焼室内のガスの流動状態を変更する気流制御弁を、同機関の吸気通路に設けることも知られている。例えば、内燃機関の吸気流速が遅くなる運転領域では、気流制御弁を閉じて燃焼室に吸入されるガスの流速を速めることにより、燃焼室内でのガス流を強めて空気と燃料との混合を促進し、混合気の燃焼を良好なものとする。ただし、このときには混合気の良好な燃焼によって混合気の火炎伝播が速められるため、機関運転にとって好ましい点火時期が大幅に遅角側に移行し、ノック限界も大幅に遅角側に移行するようになる。
【0009】
従って、仮に最遅角点火時期を気流制御弁の開弁状態に合わせて算出すると、同弁が開弁状態から閉弁状態に変化したとき、ノック限界が大幅に遅角側(図6の下側)に移行して最遅角点火時期に近づき過ぎたり、ノック限界が最遅角時期を越えて遅角側に移行したりするおそれがある。ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行した場合には、ノッキング抑制のための点火時期遅角を行おうとしても、上述した点火時期指令値の遅角ガードによって当該点火時期遅角を行えなくなる。また、ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行しなくても、両者が近づきすぎている場合には、ある程度は点火時期遅角を行えるものの、上記遅角ガードが行われることからノッキング抑制に必要な点火時期の遅角量を確保することは困難である。
【0010】
いずれにしろ、気流制御弁が開弁状態から閉弁状態へと変化したとき、点火時期の遅角が適切に行えなくなってノッキングが発生する確率が高くなる。このため、気流制御弁の閉弁を考慮して、最遅角点火時期が上記の場合よりも遅角側(図6の下側)の値として算出されるよう、最遅角点火時期を算出するためのマップ等を予め設定しておくことも考えられる。
【0011】
しかし、この場合には気流制御弁の開弁時における点火時期の制御範囲が遅角側に拡大されることになるため、気流制御弁の開弁時に点火時期が誤って過度に遅角し、それに伴い機関出力が低下したり排気温度が過上昇したりするおそれがある。また、気流制御弁が開弁状態と閉弁状態との間で切り換えられるときには、ノック限界が変化することから同ノック限界に対する点火時期指令値の相対位置も変化する。その結果、点火時期が、一時的に適正時期よりも進角側や遅角側の時期となって、ノッキング発生や機関出力低下及び排気温度上昇に繋がることとなる。この場合、上述した補正項によって点火時期指令値が最適値となるように補正されるものの、こうした補正が行われるとしても上記のような一時的なノッキング発生や機関出力低下及び排気温度上昇は避けられない。
【0012】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、気流制御弁の開閉状態によってノッキングが発生したり、機関出力の低下や排気温度の過上昇が生じたりするのを抑制することのできる内燃機関の点火時期制御装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、燃焼室内のガスの流動状態を変更すべく開閉される気流制御弁を備えた内燃機関に適用され、同機関の点火時期制御に用いられる点火時期指令値を、機関運転状態に応じて決定される最遅角点火時期に基づき算出するとともに、ノッキングを抑制しつつ熱効率が最良となるように補正項によって補正する内燃機関の点火時期制御装置において、前記気流制御弁の開閉状態に応じて前記最遅角点火時期を変更する変更手段を備えた。
【0014】
気流制御弁の開閉状態が変化すると燃焼室内のガス(混合気)の流動状態が変化し、混合気が燃焼する際の火炎伝播速度も変化するようになることから、点火時期の進角側についてのノック限界も変化するようになる。こうしたノック限界の変化を考慮して、気流制御弁の開閉状態に応じて最遅角点火時期を変更することにより、気流制御弁の開閉状態が変化したとしても最遅角点火時期に基づき算出される点火時期指令値を適切なものとすることができる。従って、気流制御弁の開閉状態の変化に伴い、点火時期がノッキングを生じさせるような時期になったり、同ノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。また、点火時期が機関出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することもできる。
【0015】
なお、上記補正項としては、ノッキングの発生の有無に応じて増減するフィードバック補正値や、同フィードバック補正値を所定範囲内に収束させるべく増減するKCS学習値等があげられる。
【0016】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の発明において、前記最遅角点火時期は、機関運転状態に応じて変化する点火時期のノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角した時期であって、前記点火時期指令値の遅角側についてのガードに用いられるものとした。
【0017】
上記点火時期指令値が最遅角点火時期を用いて遅角側についてガードされるため、その最遅角点火時期が点火時期の制御範囲における遅角側の境界ということになる。上記構成によれば、気流制御弁の開閉状態の変化に伴いノック限界が変化するとき、そのノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行したり、最遅角点火時期に近づきすぎたりしないように、上記最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて変更することができる。このため、ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行して点火時期がノッキングを生じさせるような時期になったり、ノック限界が最遅角点火時期に近づき過ぎてノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。また、上記のようにノック限界が変化するとき、そのノック限界と最遅角点火時期とが過度に離れた状態とならないように、上記最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて変更することもできる。このため、点火時期が機関出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。
【0018】
請求項3記載の発明では、請求項1又は2記載の発明において、前記気流制御弁の開閉状態は、前記燃焼室内のガス流を強める状態と同ガス流を弱める状態との間で変化するものであって、前記変更手段は、前記気流制御弁の開閉状態が前記ガス流を強める状態から弱める状態に変化するときに前記最遅角点火時期を進角側に変更し、前記気流制御弁の開閉状態が前記ガス流を弱める状態から強める状態に変化するときに前記最遅角点火時期を遅角側に変更するものとした。
【0019】
気流制御弁の開閉状態が燃焼室内のガス流を強める状態から弱める状態に変化したときには、混合気における燃料と空気とが混合されにくくなることから、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が遅くなり、ノック限界が進角側に変化することとなる。このノック限界の進角側への変化に対応して最遅角点火時期が進角側に変更される。このため、上記ノック限界と最遅角点火時期とが過度に離れた状態となり、点火時期が機関出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。また、気流制御弁の開閉状態が燃焼室内のガス流を弱める状態から強める状態に変化したときには、混合気における燃料と空気との混合が促進されることから、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が速くなり、ノック限界が遅角側に変化することとなる。このノック限界の遅角側への変化に対応して最遅角点火時期が遅角側に変更される。このため、上記ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行して点火時期がノッキングを生じさせるような時期になったり、ノック限界が最遅角点火時期に近づき過ぎてノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。
【0020】
請求項4記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、前記気流制御弁の開閉状態の変化に伴う点火時期の進角側についてのノック限界の変化に対応した分だけ最遅角点火時期を変更することを要旨とした。
【0021】
気流制御弁の開閉状態が変化したとき、最遅角点火時期に基づき算出される点火時期指令値は、上記開閉状態の変化に伴うノック限界の変化に対応した分だけ変化するようになる。そのため、気流制御弁の開閉状態の変化後において、同変化前の補正項をそのまま点火時期指令値の補正に用いても、ノック限界に対する点火時期指令値の相対位置が変わることはなく、点火時期指令値を適正値に維持することが可能である。従って、気流制御弁の開閉状態の変化に伴いノック限界が変化するとき、上記補正値をそのまま用いることで点火時期が一時的に過進角となってノッキングが発生したり、一時的に過遅角となって機関出力の低下や排気温度の上昇が生じることはない。
【0022】
請求項5記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の算出に用いられるマップを、前記気流制御弁の開弁時用のマップと閉弁時用のマップとの間で切り換えることにより、前記最遅角点火時期の変更を行うものとした。
【0023】
気流制御弁の開閉状態に対応したマップから最遅角点火時期を算出することにより、最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて適切に変更することができる。
【0024】
請求項6記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、機関運転状態に応じて基準となる最遅角点火時期を決定し、この最遅角点火時期に対し前記気流制御弁の開閉状態に応じた補正を加えることにより、前記最遅角点火時期の変更を行うものとした。
【0025】
気流制御弁の開閉状態に応じた補正を基準となる最遅角点火時期に加えることにより、最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて適切に変更することができる。
【0026】
請求項7記載の発明では、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更を徐々に行うものとした。
気流制御弁の開閉状態が変化するときの同変化、並びに、この変化に伴う燃焼室内のガスの流動状態の変化は徐々に行われる。このため、気流制御弁の開閉状態の変化に伴う最遅角点火時期の変更を徐々に行うことにより、気流制御弁の開閉状態が変化する過程で、点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0027】
請求項8記載の発明では、請求項7記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態の変化に基づく前記燃焼室内のガスの流動状態の変化態様に対応するように可変とすることを要旨とした。
【0028】
ノック限界の変化速度は燃焼室内におけるガスの流動状態の変化に関係していることから、気流制御弁の開閉状態が変化する際の最遅角点火時期の変更速度を上記のように可変とすることで、最遅角点火時期の変更課程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0029】
請求項9記載の発明では、請求項7又は8記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉態様に応じて可変とすることを要旨とした。
【0030】
気流制御弁の開閉状態の変化に伴う燃焼室内のガスの流動状態の変化速度、並びに同変化に伴うノック限界の変化速度は、気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉態様に応じて異なるものとなる。従って、上記気流制御弁の開閉態様に応じて最遅角点火時期の変更速度を可変とすることで、最遅角点火時期の変更課程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0031】
請求項10記載の発明では、請求項9記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉速度に対応するように可変とすることを要旨とした。
【0032】
気流制御弁の開閉状態の変化に伴う燃焼室内のガスの流動状態の変化速度、並びに同変化に伴うノック限界の変化速度は、気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉速度に応じて異なるものとなる。従って、気流制御弁の開閉速度に対応するように最遅角点火時期の変更速度を可変とすることで、最遅角点火時期の変更課程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を自動車用エンジンに適用した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0034】
図1に示されるエンジン1においては、二つに分岐した状態の吸気通路2から燃焼室3へと空気が吸入され、この空気と燃料噴射弁4から噴射される燃料とによって形成される混合気に対し、点火プラグ5による点火が行われる。同点火プラグ5の点火時期はイグナイタ5aによって調整される。点火プラグ5の点火により燃焼室3内の混合気が燃焼すると、そのときの燃焼エネルギによりピストン6が往復移動し、燃焼後の混合気は排気として排気通路7に送り出されるようになる。また、ピストン6の往復移動は、コネクティングロッド8によってエンジン1の出力軸であるクランクシャフト9の回転へと変換される。
【0035】
吸気通路2において、その上流部分には燃焼室3に吸入される空気の量(吸入空気量)を調節すべく開閉動作するスロットルバルブ11が設けられている。このスロットルバルブ11の開度(スロットル開度)は、自動車の運転者によって操作されるアクセルペダル13の踏み込み量(アクセル踏込量)に応じて調整される。
【0036】
吸気通路2の二つに分岐した部分のうちの一方には、混合気の良好な燃焼が得られるよう燃焼室3内のガスの流動状態を変更する気流制御弁16が設けられている。この気流制御弁16はアクチュエータ17によって開閉駆動されるが、こうしたアクチュエータ17としては、例えば吸気通路2内の圧力(負圧)と大気圧との差圧に基づき作動するものが採用される。また、上記アクチュエータ17として、例えばステップモータや直流(DC)モータ等のモータを採用することもできる。
【0037】
気流制御弁16が閉弁しているときには二つに分岐した吸気通路2のうちの一方のみから空気が燃焼室3に吸入されるが、この状態にあっては燃焼室3に吸入されるガスの流速が速まって燃焼室3内のガス流の乱れが大(ガス流強)となり、燃焼室3内でのガスの混合が促進される。これに対し、気流制御弁16が開弁しているときには、燃焼室3内のガス流の乱れが小(ガス流弱)とはなるが、高負荷高回転時等であればエンジン1の吸気抵抗を低減することができる。
【0038】
次に、上記エンジン1の点火時期制御装置の電気的構成について説明する。
この点火時期制御装置は、エンジン1を運転制御すべく自動車に搭載された電子制御装置35を備えている。この電子制御装置35は、イグナイタ5a、スロットルバルブ11、及びアクチュエータ17等を駆動制御する。また、電子制御装置35には、以下に示される各種センサからの検出信号が入力される。
【0039】
・クランクシャフト9が回転するときに、その回転に対応した信号を出力するクランクポジションセンサ10。
・吸気通路2内におけるスロットルバルブ11よりも下流側の圧力(吸気圧)を検出するバキュームセンサ12。
【0040】
・アクセルペダル13の踏み込み量(アクセル踏込量)を検出するアクセルポジションセンサ14。
・スロットルバルブ11の開度(スロットル開度)を検出するスロットルポジションセンサ15。
【0041】
・気流制御弁16の開度を検出する開度センサ18。
・エンジン1でのノッキング発生を検出するノックセンサ19。
次に、電子制御装置35を通じて行われるエンジン1の点火時期制御の概要を説明する。
【0042】
エンジン1の点火時期制御には、以下の式(1)に基づき算出される点火時期指令値STが用いられる。
ST=SR+F+G …(1)
ST:点火時期指令値
SR:最遅角点火時期
F :フィードバック補正値
G :KCS学習値
式(1)において、最遅角点火時期SRは、点火時期をノッキングが発生する限界まで進角させたときの状態(以下、ノック限界という)から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期であって、エンジン回転速度NE及び負荷率KLといったエンジン運転状態に応じて変化する値である。
【0043】
なお、エンジン回転速度NEはクランクポジションセンサ10からの検出信号に基づき求められる。また、負荷率KLは、エンジン1の最大機関負荷に対する現在の負荷割合を示す値であって、エンジン1の吸入空気量に対応するパラメータとエンジン回転速度NEとから算出される。吸入空気量に対応するパラメータとしては、バキュームセンサ12の検出信号に基づき求められる吸気圧、スロットルポジションセンサ15からの検出信号に基づき求められるスロットル開度、及びアクセルポジションセンサ14に基づき求められるアクセル踏込量等があげられる。
【0044】
また、式(1)において、フィードバック補正値Fは、ノッキング発生有りのときには点火時期指令値STを遅角側に移行させるように変更され、ノッキング発生無しのときには点火時期指令値STを進角側に移行させるように変更される値である。更に、KCS学習値Gは、上記フィードバック補正値Fが予め定められた所定範囲内に収束するように変更される値である。即ち、フィードバック補正値Fが上記所定範囲に対し点火時期指令値STを遅角させる側に外れていれば、KCS学習値Gは点火時期指令値STを遅角側に移行させるように変更される。また、フィードバック補正値Fが上記所定範囲に対し点火時期指令値STを進角させる側に外れていれば、KCS学習値Gは点火時期指令値STを進角側に移行させるように変更される。
【0045】
上記のように、点火時期指令値STはフィードバック補正値F及びKCS学習値Gによって補正され、これによりノッキングを抑制しつつ極力進角側の値、即ち熱効率(燃料消費率)が最良になる値をとるようになる。上記式(1)に基づき算出された点火時期指令値STは、最遅角点火時期SRを用いて遅角側についてガードされ、過度に遅角側の値とならないようにされる。従って、点火時期指令値STは、上記最遅角点火時期SRとノック限界との間で変化するようになる。
【0046】
このように点火時期指令値STが算出されると、電子制御装置35を通じてイグナイタ5aが点火時期指令値STに基づき駆動され、エンジン1の点火時期制御が行われることとなる。この点火時期制御の制御範囲において 進角側の境界は上記ノック限界となり、遅角側の境界は上記最遅角点火時期SRということになる。
【0047】
ところで、点火時期の進角側についてのノック限界は、仮にエンジン回転速度NEや負荷率KLといったエンジン運転状態が一定に維持されていたとしても、気流制御弁16の開閉状態に応じて変化することとなる。これは、気流制御弁16の開閉状態に応じて燃焼室3に吸入されるガスの流速が異なるものとなり、その流速の違いが燃焼室3内でのガスの流動状態に影響を及ぼすためである。即ち、燃焼室3内でのガスの流動状態に応じて、混合気における空気と燃料との混合度合いが異なるものとなり、その結果として混合気の燃焼時における火炎伝播速度に違いが生じ、エンジン運転にとって最適な点火時期、及びその運転でのノック限界が異なるものとなるのである。
【0048】
ここで、気流制御弁16の開閉状態に応じた上記ノック限界の変化、及びその変化が最遅角点火時期SRに及ぼす影響について図2を参照して説明する。
同図の破線L1,L3は、エンジン回転速度NEを一定とした条件下で、負荷率KLの変化に対する点火時期の進角側についてのノック限界の推移を表している。なお、破線L1は気流制御弁16が開弁しているときのノック限界であり、破線L3は気流制御弁16が閉弁しているときのノック限界である。
【0049】
この図から分かるように、気流制御弁16が閉弁しているときのノック限界(L3)は、気流制御弁16が開弁しているときのノック限界(L1)よりも遅角側に位置することとなる。これは、気流制御弁16が閉弁しているときには、燃焼室3内に吸入されるガスの流速が速くなって同燃焼室3内のガス流が強められ、混合気における空気と燃料との混合が促進されることから、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が気流制御弁16の開弁時よりも速くなるためである。
【0050】
一方、最遅角点火時期SRについては、上述したように点火時期をノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期という意味の値であることから、上記ノック限界が気流制御弁16の開閉状態に応じて変化するものであることを考慮して算出しないと、不適な値として算出されるおそれがある。例えば、仮に最遅角点火時期SRを、気流制御弁16の開弁時におけるノック限界(L1)から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期として、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき算出されるようにすると、気流制御弁16の閉弁時に最遅角点火時期SRが不適切になって不具合が生じる。
【0051】
即ち、上記のように最遅角点火時期SRを算出する場合、同最遅角点火時期SRは実線L2で示されるように推移することとなるが、気流制御弁16が閉弁してノック限界が大幅に遅角側に変化すると、上記最遅角点火時期SR(L2)の近傍にノック限界(L3)が位置するようになる。
【0052】
この状態にあって、ノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行している場合、ノッキング抑制のためにフィードバック補正値F等で点火時期指令値STを遅角側に補正しようとしても、上述した最遅角点火時期SRによる遅角ガードによって点火時期指令値STを遅角側に変化させられなくなる。
【0053】
また、ノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行しなくても同最遅角点火時期SRに近づき過ぎる場合には、フィードバック補正値Fによってある程度は点火時期指令値STを遅角側に補正できるものの、上記遅角ガードが行われることからノッキング抑制に必要な遅角量を確保することは困難である。
【0054】
いずれにしろ、気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態へと変化したとき、ノッキング抑制のための点火時期の遅角が適切に行えなくなり、ノッキングが発生する確率が高くなる。このため、気流制御弁16の閉弁を考慮して、最遅角点火時期SRがエンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき上記実線L2よりも遅角側の値として算出されるようにすることも考えられる。
【0055】
しかしこの場合には、気流制御弁16の開弁時における点火時期指令値STの変化範囲である上記最遅角点火時期SRとノック限界(L2)との間の幅が、遅角側に拡大されることとなる。このため、気流制御弁16の開弁時に、フィードバック補正値F等による点火時期指令値STの遅角補正により、点火時期が誤って過度に遅角してエンジン出力が低下したり排気温度が過上昇したりするおそれがある。
【0056】
そこで本実施形態では、気流制御弁16の開閉状態に応じて最遅角点火時期SRを変更する。
即ち、気流制御弁16が開弁状態にあるときには、最遅角点火時期SRをエンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき、上記実線L2で示されるように推移する点火時期として算出する。また、気流制御弁16が閉弁状態にあるときには、最遅角点火時期SRをエンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき、気流制御弁16の閉弁時のノック限界(L3)から上述した遅角余裕代だけ遅角させた点火時期(実線L4で示されるように推移する点火時期)として算出する。
【0057】
このように最遅角点火時期SRを算出することで、気流制御弁16の開閉状態に応じてノック限界が変化したとき、そのノック限界の変化に対応した分だけ最遅角点火時期SRを変更することができる。
【0058】
例えば、気流制御弁16の開閉状態が開弁状態から閉弁状態に変化したときには、燃焼室3内のガス流が強められて混合気における燃料と空気との混合が促進されるため、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が速くなってエンジン運転にとって最適な点火時期、及びその運転でのノック限界が遅角側に変化する。この場合、ノック限界の進角側への変化に応じて最遅角点火時期SRが、実線L2から実線L4へと遅角側に変更されることとなる。
【0059】
従って、気流制御弁16の開弁状態から閉弁状態への切り換えに伴いノック限界が遅角側に変化するとき、そのノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行したり、最遅角点火時期SRに近づきすぎたりすることはない。このため、上記最遅角点火時期SRを用いて算出される点火時期指令値ST等に基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がノッキングを生じさせる時期となったり、同ノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。
【0060】
また、気流制御弁16の開閉状態が閉弁状態から開弁状態に変化したときには、燃焼室3内のガス流が弱められて混合気における燃料と空気とが混合されにくくなるため、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が遅くなってエンジン運転にとって最適な点火時期、及びその運転でのノック限界が進角側に変化する。この場合、ノック限界の遅角側への変化に応じて最遅角点火時期SRが実線L4から実線L2へと進角側に変更されることとなる。
【0061】
従って、気流制御弁16の閉弁状態から開弁状態への切り換えに伴いノック限界が進角側に変化するとき、そのノック限界が最遅角点火時期SRに対し進角し過ぎた状態になることはない。このため、上記最遅角点火時期SR等を用いて算出される点火時期指令値STに基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がエンジン出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。
【0062】
次に、上記点火時期指令値STの算出手順について、点火時期指令値算出ルーチンを示す図3のフローチャートを参照して説明する。この点火時期指令値算出ルーチンは、電子制御装置35を通じて例えば所定時間毎の時間割り込みにて実行される。
【0063】
点火時期指令値算出ルーチンにおいては、気流制御弁16が開閉中でなく(S101:YES)、開弁状態であれば(S102:YES)、気流制御弁16が開弁しているときの最遅角点火時期SRが算出される(S103)。この最遅角点火時期SRの算出は、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき予め設定されたマップを参照して行われる。こうして算出された最遅角点火時期SRは、エンジン回転速度NEを一定とした条件下では負荷率KLの変化に対し、図2に実線L2で示されるように推移する。なお、最遅角点火時期SRを上記のようにマップを用いて算出する代わりに、計算式を用いて算出してもよい。
【0064】
また、気流制御弁16が開閉中でなく(S101:YES)、閉弁状態であれば(S102:NO、S104:YES)、気流制御弁16が閉弁しているときの最遅角点火時期SRが算出される(S105)。この最遅角点火時期SRの算出は、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき、上記マップとは別の予め設定されたマップを参照して行われる。こうして算出された最遅角点火時期SRは、エンジン回転速度NEを一定とした条件下では負荷率KLの変化に対し、図2に実線L4で示されるように推移する。なお、ここでも最遅角点火時期SRをマップを用いて算出する代わりに、計算式を用いて算出してもよい。
【0065】
気流制御弁16が開弁状態と閉弁状態との間で切り換えられるとき、その開閉状態の変化、並びに、同変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化については、応答遅れ等に起因して徐々にしか行われない。従って、上記切り換えの際に最遅角点火時期SRを実線L2と実線L4との間で瞬時に切り換えると、気流制御弁16の開閉状態が変化する過程で、点火時期が過遅角や過進角となるおそれがある。これを抑制するため、ステップS101で否定判定がなされ、気流制御弁16が開弁状態と閉弁状態との間で切り換えられる過程にある場合には、最遅角点火時期SRを徐々に実線L2から実線L4へ、又は実線L4から実線L2へと変化させる徐変処理が行われる(S106)。
【0066】
ステップS103、ステップS105、及びステップS106のいずれかで最遅角点火時期SRが算出された後、順次ノッキングの有無に応じたフィードバック補正値Fの変更(S107)、及びフィードバック補正値Fを所定範囲内に収束させるためのKCS学習値Gの変更(S108)が行われる。更に、それら最遅角点火時期SR、フィードバック補正値F、及びKCS学習値Gに基づき、上記式(1)を用いて点火時期指令値STが算出される(S109)。そして、この算出される点火時期指令値STについては、過度に遅角側の値にならないよう上記最遅角点火時期SRを用いて遅角ガードされる(S110)。
【0067】
次に、点火時期指令値算出ルーチンにおけるステップS106の除変処理について、除変処理ルーチンを示す図4のフローチャートを参照して詳しく説明する。この除変処理ルーチンは、点火時期指令値算出ルーチンにおけるステップS106(図3)に進む毎に実行される。
【0068】
除変処理ルーチンにおいては、開閉中の気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態への切り換え過程にあるか否かが判断される(S201)。ここで肯定判定であれば、最遅角点火時期SRを気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値への遅角側への変更を徐々に行わせるための除変処理(S202〜S204,S208)が実行される。この除変処理を行うに際しては、以下に示される式(2)が用いられる。
【0069】
SRi=SRi−1+(SR−SRi−1)/n1 …(2)
SRi :今回の最遅角点火時期
SR :気流制御弁閉弁時用のマップを参照して算出される最遅角点火時期
SRi−1:前回の最遅角点火時期
n1 :除変定数(正の整数)
式(2)で算出される今回の最遅角点火時期SRiは、上記除変処理を行うために一時的に利用される値であって、後述するステップS208の処理で最遅角点火時期SRとして設定されるようになる。また、式(2)における前回の最遅角点火時期SRi−1の値としては、前回のスップS109(図3)の処理で用いられた最遅角点火時期SRが設定されることとなる。更に、式(2)で用いられる最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の閉弁時に適した値として、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づきステップS105(図3)で用いられるマップを参照して算出される(S202)。
【0070】
式(2)から分かるように、今回の最遅角点火時期SRiは、気流制御弁16の閉弁時に適した値である最遅角点火時期SRから前回の最遅角点火時期SRi−1を減算したものを除変定数n1で除算し、この値(「(SR−SRi−1)/n1」)を前回の最遅角点火時期SRi−1に加算して得られるものである。従って、今回の最遅角点火時期SRi、並びにステップS208で設定される最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値へと徐々に遅角側に変更されるようになる。
【0071】
上記のように最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)が気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値へと変更される際の変更速度は、除変定数n1の大きさに関係しており、除変定数n1が小さい値になるほど速くなる。この除変定数n1は、ステップS202の処理で、気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態へと変化する際の変化速度(開閉速度)に応じて可変となるように、即ち上記開閉速度が速くなるほど小さい値となるように算出される。なお、上記気流制御弁16の開閉速度は、開度センサ18からの検出信号に基づき、単位時間当たりの気流制御弁16の開度変化量を求めることによって得られる。
【0072】
ここで、気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態へと変化する際の開閉速度と、上記最遅角点火時期SRが気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値へと遅角側に変化する際の変化速度との関係について、図5のタイムチャートを参照して説明する。
【0073】
気流制御弁16の開弁状態から閉弁状態への変化は、その指令がなされた後に応答遅れ等に起因して図5(a)に示されるように徐々に行われる。そして、このときの気流制御弁16の開閉速度に応じて上記除変定数n1が決まることから、上記最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)の遅角側への変化が、気流制御弁16の開閉速度に対応した速度で、図5(b)に示されるように徐々に行われることとなる。従って、上記気流制御弁16が閉じる際の開閉速度が速くなるほど除変定数n1が小さくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの遅角側への変化速度が速くなる。逆に、気流制御弁16が閉じる際の開閉速度が遅くなるほど除変定数n1が大きくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの遅角側への変化速度が遅くなる。
【0074】
気流制御弁16の開弁状態から閉弁状態への変化に伴いノック限界が遅角側に変化する際の変化速度は、その気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化に関係している。更に、このガスの流動状態の変化は、上記気流制御弁16の開閉状態変化の際の開閉態様の一つである開閉速度に関係している。以上のことから、上記ノック限界の変化速度は気流制御弁16の開閉速度に応じて異なるものであることが分かる。
【0075】
このため、気流制御弁16の開閉状態が変化するとき、その開閉状態変化の際の開閉態様(開閉速度)に応じて上記除変定数n1を可変とすることで、ノック限界の遅角側への変化速度に対応した速度をもって最遅角点火時期SRを徐々に遅角側に変化させることができる。従って、上記のように最遅角点火時期SRが変更される過程で、点火時期が不適切になるのを抑制することができる。即ち、上記ノック限界の遅角側の変化に対し、上記最遅角点火時期SRの遅角側への変化が速すぎたり遅すぎたりして、同最遅角点火時期SRの変化過程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができるのである。
【0076】
一方、除変処理ルーチンのステップS201(図4)で否定判定がなされた場合には、開閉中の気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態への切り換え過程にあることになる。この場合、最遅角点火時期SRを気流制御弁16の閉弁時に適した値から開弁時に適した値への進角側への変更を徐々に行わせるための除変処理(S205〜S208)が実行される。この除変処理を行うに際しては、以下に示される式(3)が用いられる。
【0077】
SRi=SRi−1+(SR−SRi−1)/n2 …(3)
SRi :今回の最遅角点火時期
SR :気流制御弁開弁時用のマップを参照して算出される最遅角点火時期
SRi−1:前回の最遅角点火時期
n2 :除変定数(正の整数)
この式(3)で用いられる最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の開弁時に適した値として、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づきステップS103(図3)で用いられるマップを参照して算出される(S205)。
【0078】
上記式(3)で算出される今回の最遅角点火時期SRiも、ステップS208の処理で最遅角点火時期SRとして設定されるものである。従って、この場合にステップS208で設定される最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)については、気流制御弁16の閉弁時に適した値から開弁時に適した値へと徐々に進角側へと変化する際の変化速度が、式(2)の除変定数n2の大きさに応じて可変とされる。この除変定数n2は、ステップS204の処理で、気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態へと変化する際の変化速度(開閉速度)に応じて可変となるように、即ち上記開閉速度が速くなるほど小さい値となるように算出される。
【0079】
ここで、気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態へと変化する際の開閉速度と、上記最遅角点火時期SRが気流制御弁16の閉弁時に適した値から開弁時に適した値へと進角側に変化する際の変化速度との関係について、図5のタイムチャートを参照して説明する。
【0080】
気流制御弁16の閉弁状態から開弁状態への変化は、その指令がなされた後に応答遅れ等に起因して図5(c)に示されるように徐々に行われる。そして、このときの気流制御弁16の開閉速度に応じて上記除変定数n2が決まることから、上記最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)の進角側への変化が、気流制御弁16の開閉速度に対応した速度で、図5(d)に示されるように徐々に行われることとなる。従って、上記気流制御弁16が開く際の開閉速度が速くなるほど除変定数n2が小さくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの進角側への変化速度が速くなる。逆に、気流制御弁16が開く際の開閉速度が遅くなるほど除変定数n2が大きくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの進角側への変化速度が遅くなる。
【0081】
気流制御弁16の閉弁状態から開弁状態への変化に伴いノック限界が進角側に変化する際の変化速度も、その気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化に関係している。更に、このガスの流動状態の変化は、上記気流制御弁16の開閉状態変化の際の開閉態様の一つである開閉速度に関係していることも上述したとおりである。以上のことから、この場合における上記ノック限界の変化速度も、気流制御弁16の開閉速度に応じて異なるものであることが分かる。
【0082】
このため、気流制御弁16の開閉状態が変化するとき、その開閉状態変化の際の開閉態様(開閉速度)に応じて上記除変定数n2を可変とすることで、ノック限界の進角側への変化速度に対応した速度をもって最遅角点火時期SRを徐々に進角側に変化させることができる。従って、上記のように最遅角点火時期SRが変更される過程で、点火時期が不適切になるのを抑制することができる。即ち、上記ノック限界の進角側の変化に対し、上記最遅角点火時期SRの進角側への変化が速すぎたり遅すぎたりして、同最遅角点火時期SRの変化過程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができるのである。
【0083】
除変処理ルーチンにおいて、ステップS208(図4)で今回の最遅角点火時期SRiが最遅角点火時期SRとして設定されると、処理が点火時期指令値算出ルーチン(図3)に戻されるようになる。
【0084】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)気流制御弁16が開弁状態であるか、或いは閉弁状態であるかに応じて点火時期の進角側についてのノック限界が異なるようになる。このことを考慮して、点火時期の制御範囲における遅角側の境界である最遅角点火時期SRが気流制御弁16の開閉状態に応じて適切な値に変更される。即ち、気流制御弁16の開閉状態が開弁状態から閉弁状態に変化してノック限界が遅角側に変化するときには最遅角点火時期SRが遅角側に変更されるため、そのノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行したり、最遅角点火時期SRに近づきすぎたりすることはない。このため、上記最遅角点火時期SRを用いて算出される点火時期指令値ST等に基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がノッキングを生じさせる時期となったり、同ノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。また、気流制御弁16の開閉状態が閉弁状態か開弁状態に変化してノック限界が進角側に変化するときには最遅角点火時期SRが進角側に変更されるため、そのノック限界が最遅角点火時期SRに対し進角側し過ぎた状態になることはない。このため、上記最遅角点火時期SR等を用いて算出される点火時期指令値STに基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がエンジン出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。
【0085】
(2)気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う最遅角点火時期SRの変更については、その開閉状態の変化に伴うノック限界の変化に対応する分だけ変更される。仮に、上記最遅角点火時期SRの変更が上記ノック限界の変化に対応する分よりも大きいか或いは小さいとすると、当該変更後にフィードバック補正値F及びKCS学習値Gをそのまま点火時期指令値STの算出に用いたとき、ノック限界に対する点火時期指令値STの相対位置が上記変更前とは異なるようになる。この状態にあっては、上記フィードバック補正値F及びKCS学習値Gが適正値からずれており、後に適正値へと徐々に変更されるとはいえ、一時的なノッキング発生やエンジン出力低下及び排気温度の上昇は避けられない。しかし、上記のように気流制御弁16の開閉状態の変化に応じて最遅角点火時期SRを変更することで、当該変更後にフィードバック補正値F及びKCS学習値Gをそのまま用いても、ノック限界に対する点火時期指令値STの相対位置が変更前と変わることはなく、同指令値STを適正値に維持することが可能である。従って、気流制御弁16の開閉状態の変化に伴いノック限界が変化するとき、上記フィードバック補正値F及びKCS学習値Gをそのまま用いることで、点火時期が一時的に過進角となってノッキングが発生したり、一時的に過遅角となってエンジン出力が低下したり排気温度が上昇したりすることはない。
【0086】
(3)最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の開弁時にそれに適したものとなるよう予め設定されたマップを参照して算出され、気流制御弁16の閉弁時にはそれに適したものとなるよう上記マップとは別のマップを参照して算出される。このように気流制御弁16の開閉状態に応じて最遅角点火時期SRを算出するためのマップを切り換えることにより、その開閉状態に応じて最遅角点火時期SRを適切に変更することができる。
【0087】
(4)気流制御弁16の開閉状態の変化は応答遅れ等に起因して徐々に行われ、それに伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化、並びにノック限界の変化も徐々に行われるようになる。このことを考慮して、気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う最遅角点火時期SRの変更が除変処理によって徐々に行われることから、当該変更が急に行われることによる点火時期の過進角や過遅角を抑制することができる。
【0088】
(5)上記のように最遅角点火時期SRを除変処理によって徐々に変化する際の変化速度は、気流制御弁16の開閉状態変化の際の開閉態様(開閉速度)に応じて可変とされる。気流制御弁16の開閉状態の変化に伴うノック限界の変化速度は、気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化と関係している。従って、上記のように最遅角点火時期SRの変化速度を可変とすることで、当該最遅角点火時期SRの変更過程で点火時期を上記ノック限界の変化速度に対応した速度で適切に変化させることができ、点火時期が過進角や過遅角になるのを抑制することができる。
【0089】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・最遅角点火時期SRの除変処理において、気流制御弁16の開閉状態の開閉速度に応じて最遅角点火時期SRの変化速度を可変としたが、必ずしもこのように可変とする必要はない。例えば除変定数n1,n2を固定値とすることにより、上記最遅角点火時期SRの変化速度を固定してもよい。
【0090】
・上記最遅角点火時期SRの変化速度について、気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態に変化するときの速度と、開弁状態から閉弁状態へと変化するときの速度とを等しくしてもよいし、異ならせてもよい。このことは、除変定数n1と除変定数n2とを等しくしたり、異ならせたりすることによって実現することができる。
【0091】
・上記最遅角点火時期SRの除変処理を必ずしも行う必要はない。
・本実施形態では、最遅角点火時期SRを算出するためのマップを切り換えることにより、気流制御弁16の開閉状態に応じた最遅角点火時期SRの変更を行うようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、気流制御弁16の開弁時に適した最遅角点火時期SRの算出を上記と同じくマップを参照して行い、気流制御弁16の閉弁時に適した最遅角点火時期SRの算出については、上記マップを参照して算出された最遅角点火時期SRを基準とし、これに対し所定の補正値による補正を加えることで行ってもよい。なお、これとは逆に、気流制御弁16の閉弁時に適した最遅角点火時期SRの算出をマップを参照して行い、気流制御弁16の開弁時に適した最遅角点火時期SRの算出については、上記マップを参照して算出された最遅角点火時期SRを基準とし、これに対し所定の補正値による補正を加えることで行ってもよい。これらの場合、上記補正によって算出される最遅角点火時期SRが適切な値となるよう、上記補正値をエンジン回転速度NE及び負荷率KLといったエンジン運転状態に応じて可変とすることが好ましい。また、上述した基準となる最遅角点火時期SRについては、マップを参照して算出する代わりに、計算式によって算出することも可能である。
【0092】
・気流制御弁として、開弁状態と閉弁状態との二つの状態のいずれかに切り換えられるものを例示したが、それら開弁状態と閉弁状態との間の任意の状態に制御可能なものを採用してもよい。この場合、気流制御弁16の所定開度から別の所定開度への制御に際し、その制御後の所定開度(目標値)に応じて最遅角点火時期SRを適切な値に変更することとなる。
【0093】
・気流制御弁16を吸気通路2の二つに分岐した部分の両方に設け、それら二つの気流制御弁16を各々開閉動作させることにより、燃焼室3内のガスの流動状態を変更するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の点火時期制御装置が適用されるエンジン全体を示す略図。
【図2】気流制御弁の開閉状態の変化に応じたノック限界の変化、及びその開閉状態に適した最遅角点火時期について説明するための説明図。
【図3】点火時期指令値の算出手順を示すフローチャート。
【図4】最遅角点火時期の除変処理手順を示すフローチャート。
【図5】(a)〜(d)は上記除変処理が行われる際の気流制御弁及び最遅角点火時期の推移を示すタイムチャート。
【図6】従来の点火時期指令値の算出手順を説明するための説明図。
【符号の説明】
1…エンジン、3…燃焼室、5…点火プラグ、5a…イグナイタ、10…クランクポジションセンサ、11…スロットルバルブ、12…バキュームセンサ13…アクセルペダル、14…アクセルポジションセンサ、15…スロットルポジションセンサ、16…気流制御弁、17…アクチュエータ、18…開度センサ、19…ノックセンサ、35…電子制御装置(変更手段)。
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関の点火時期制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車などの車両に搭載される内燃機関においては、同機関の熱効率及び燃料消費率が良好なものとなるよう、燃焼室内での空気と燃料からなる混合気に対する点火の時期が、機関運転状態に応じて算出される点火時期指令値に基づき制御される。
【0003】
こうした点火時期制御に用いられる点火時期指令値は、機関回転速度及び機関負荷等に応じてマップ等から決定される最遅角点火時期に基づき算出されるとともに、内燃機関でのノッキングを抑制しつつ熱効率(燃料消費率)が最良となるように補正項を用いて補正される。また、点火時期指令値は、上述した最遅角点火時期で遅角側についてガードされ、過度に遅角側の値とならないようにされる。
【0004】
上記最遅角点火時期は、点火時期をノッキングが発生する限界まで進角させたときの状態(以下、ノック限界という)から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期である。従って、この最遅角点火時期及び上記補正項に基づき算出される点火時期指令値は、図6に示されるように上記ノック限界と上記最遅角点火時期との間の値をとるようになる。このため、内燃機関の点火時期制御の制御範囲は上記ノック限界と上記最遅角点火時期とによって定められ、当該制御範囲の進角側についての境界が上記ノック限界であって、遅角側についての境界が上記最遅角点火時期ということになる。
【0005】
また、上記補正項としては、例えば特開2000−356177公報に示されるようなフィードバック補正値及びKCS学習値が用いられる。
このフィードバック補正値は、ノッキングの発生の有無に応じて変更されるものである。即ち、フィードバック補正値は、ノッキングの発生に伴い点火時期を遅角側に補正する値をとり、ノッキングが発生していないときには点火時期を進角側に補正する値をとるようになる。
【0006】
一方、KCS学習値は、フィードバック補正値を予め定められた所定範囲内に収束させるように変更されるものである。即ち、KCS学習値は、フィードバック補正値が上記所定範囲から点火時期を遅角させる側に外れたときには同点火時期を遅角させる値をとり、フィードバック補正値が上記所定範囲から点火時期を進角させる側に外れたときには同点火時期を進角させる値をとるようになる。
【0007】
こうしたフィードバック補正値及びKCS学習値を用いて点火時期指令値を補正することで、同点火時期指令値がノッキングを抑制しつつ内燃機関の熱効率が最良となる値、即ちノック限界と最遅角点火時期との間の範囲内でノッキングの発生しない最も進角側の値をとるようになる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、内燃機関においては、混合気の良好な燃焼が得られるよう燃焼室内のガスの流動状態を変更する気流制御弁を、同機関の吸気通路に設けることも知られている。例えば、内燃機関の吸気流速が遅くなる運転領域では、気流制御弁を閉じて燃焼室に吸入されるガスの流速を速めることにより、燃焼室内でのガス流を強めて空気と燃料との混合を促進し、混合気の燃焼を良好なものとする。ただし、このときには混合気の良好な燃焼によって混合気の火炎伝播が速められるため、機関運転にとって好ましい点火時期が大幅に遅角側に移行し、ノック限界も大幅に遅角側に移行するようになる。
【0009】
従って、仮に最遅角点火時期を気流制御弁の開弁状態に合わせて算出すると、同弁が開弁状態から閉弁状態に変化したとき、ノック限界が大幅に遅角側(図6の下側)に移行して最遅角点火時期に近づき過ぎたり、ノック限界が最遅角時期を越えて遅角側に移行したりするおそれがある。ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行した場合には、ノッキング抑制のための点火時期遅角を行おうとしても、上述した点火時期指令値の遅角ガードによって当該点火時期遅角を行えなくなる。また、ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行しなくても、両者が近づきすぎている場合には、ある程度は点火時期遅角を行えるものの、上記遅角ガードが行われることからノッキング抑制に必要な点火時期の遅角量を確保することは困難である。
【0010】
いずれにしろ、気流制御弁が開弁状態から閉弁状態へと変化したとき、点火時期の遅角が適切に行えなくなってノッキングが発生する確率が高くなる。このため、気流制御弁の閉弁を考慮して、最遅角点火時期が上記の場合よりも遅角側(図6の下側)の値として算出されるよう、最遅角点火時期を算出するためのマップ等を予め設定しておくことも考えられる。
【0011】
しかし、この場合には気流制御弁の開弁時における点火時期の制御範囲が遅角側に拡大されることになるため、気流制御弁の開弁時に点火時期が誤って過度に遅角し、それに伴い機関出力が低下したり排気温度が過上昇したりするおそれがある。また、気流制御弁が開弁状態と閉弁状態との間で切り換えられるときには、ノック限界が変化することから同ノック限界に対する点火時期指令値の相対位置も変化する。その結果、点火時期が、一時的に適正時期よりも進角側や遅角側の時期となって、ノッキング発生や機関出力低下及び排気温度上昇に繋がることとなる。この場合、上述した補正項によって点火時期指令値が最適値となるように補正されるものの、こうした補正が行われるとしても上記のような一時的なノッキング発生や機関出力低下及び排気温度上昇は避けられない。
【0012】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、気流制御弁の開閉状態によってノッキングが発生したり、機関出力の低下や排気温度の過上昇が生じたりするのを抑制することのできる内燃機関の点火時期制御装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について記載する。
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、燃焼室内のガスの流動状態を変更すべく開閉される気流制御弁を備えた内燃機関に適用され、同機関の点火時期制御に用いられる点火時期指令値を、機関運転状態に応じて決定される最遅角点火時期に基づき算出するとともに、ノッキングを抑制しつつ熱効率が最良となるように補正項によって補正する内燃機関の点火時期制御装置において、前記気流制御弁の開閉状態に応じて前記最遅角点火時期を変更する変更手段を備えた。
【0014】
気流制御弁の開閉状態が変化すると燃焼室内のガス(混合気)の流動状態が変化し、混合気が燃焼する際の火炎伝播速度も変化するようになることから、点火時期の進角側についてのノック限界も変化するようになる。こうしたノック限界の変化を考慮して、気流制御弁の開閉状態に応じて最遅角点火時期を変更することにより、気流制御弁の開閉状態が変化したとしても最遅角点火時期に基づき算出される点火時期指令値を適切なものとすることができる。従って、気流制御弁の開閉状態の変化に伴い、点火時期がノッキングを生じさせるような時期になったり、同ノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。また、点火時期が機関出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することもできる。
【0015】
なお、上記補正項としては、ノッキングの発生の有無に応じて増減するフィードバック補正値や、同フィードバック補正値を所定範囲内に収束させるべく増減するKCS学習値等があげられる。
【0016】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の発明において、前記最遅角点火時期は、機関運転状態に応じて変化する点火時期のノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角した時期であって、前記点火時期指令値の遅角側についてのガードに用いられるものとした。
【0017】
上記点火時期指令値が最遅角点火時期を用いて遅角側についてガードされるため、その最遅角点火時期が点火時期の制御範囲における遅角側の境界ということになる。上記構成によれば、気流制御弁の開閉状態の変化に伴いノック限界が変化するとき、そのノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行したり、最遅角点火時期に近づきすぎたりしないように、上記最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて変更することができる。このため、ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行して点火時期がノッキングを生じさせるような時期になったり、ノック限界が最遅角点火時期に近づき過ぎてノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。また、上記のようにノック限界が変化するとき、そのノック限界と最遅角点火時期とが過度に離れた状態とならないように、上記最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて変更することもできる。このため、点火時期が機関出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。
【0018】
請求項3記載の発明では、請求項1又は2記載の発明において、前記気流制御弁の開閉状態は、前記燃焼室内のガス流を強める状態と同ガス流を弱める状態との間で変化するものであって、前記変更手段は、前記気流制御弁の開閉状態が前記ガス流を強める状態から弱める状態に変化するときに前記最遅角点火時期を進角側に変更し、前記気流制御弁の開閉状態が前記ガス流を弱める状態から強める状態に変化するときに前記最遅角点火時期を遅角側に変更するものとした。
【0019】
気流制御弁の開閉状態が燃焼室内のガス流を強める状態から弱める状態に変化したときには、混合気における燃料と空気とが混合されにくくなることから、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が遅くなり、ノック限界が進角側に変化することとなる。このノック限界の進角側への変化に対応して最遅角点火時期が進角側に変更される。このため、上記ノック限界と最遅角点火時期とが過度に離れた状態となり、点火時期が機関出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。また、気流制御弁の開閉状態が燃焼室内のガス流を弱める状態から強める状態に変化したときには、混合気における燃料と空気との混合が促進されることから、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が速くなり、ノック限界が遅角側に変化することとなる。このノック限界の遅角側への変化に対応して最遅角点火時期が遅角側に変更される。このため、上記ノック限界が最遅角点火時期を越えて遅角側に移行して点火時期がノッキングを生じさせるような時期になったり、ノック限界が最遅角点火時期に近づき過ぎてノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。
【0020】
請求項4記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、前記気流制御弁の開閉状態の変化に伴う点火時期の進角側についてのノック限界の変化に対応した分だけ最遅角点火時期を変更することを要旨とした。
【0021】
気流制御弁の開閉状態が変化したとき、最遅角点火時期に基づき算出される点火時期指令値は、上記開閉状態の変化に伴うノック限界の変化に対応した分だけ変化するようになる。そのため、気流制御弁の開閉状態の変化後において、同変化前の補正項をそのまま点火時期指令値の補正に用いても、ノック限界に対する点火時期指令値の相対位置が変わることはなく、点火時期指令値を適正値に維持することが可能である。従って、気流制御弁の開閉状態の変化に伴いノック限界が変化するとき、上記補正値をそのまま用いることで点火時期が一時的に過進角となってノッキングが発生したり、一時的に過遅角となって機関出力の低下や排気温度の上昇が生じることはない。
【0022】
請求項5記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の算出に用いられるマップを、前記気流制御弁の開弁時用のマップと閉弁時用のマップとの間で切り換えることにより、前記最遅角点火時期の変更を行うものとした。
【0023】
気流制御弁の開閉状態に対応したマップから最遅角点火時期を算出することにより、最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて適切に変更することができる。
【0024】
請求項6記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、機関運転状態に応じて基準となる最遅角点火時期を決定し、この最遅角点火時期に対し前記気流制御弁の開閉状態に応じた補正を加えることにより、前記最遅角点火時期の変更を行うものとした。
【0025】
気流制御弁の開閉状態に応じた補正を基準となる最遅角点火時期に加えることにより、最遅角点火時期を気流制御弁の開閉状態に応じて適切に変更することができる。
【0026】
請求項7記載の発明では、請求項1〜6のいずれかに記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更を徐々に行うものとした。
気流制御弁の開閉状態が変化するときの同変化、並びに、この変化に伴う燃焼室内のガスの流動状態の変化は徐々に行われる。このため、気流制御弁の開閉状態の変化に伴う最遅角点火時期の変更を徐々に行うことにより、気流制御弁の開閉状態が変化する過程で、点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0027】
請求項8記載の発明では、請求項7記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態の変化に基づく前記燃焼室内のガスの流動状態の変化態様に対応するように可変とすることを要旨とした。
【0028】
ノック限界の変化速度は燃焼室内におけるガスの流動状態の変化に関係していることから、気流制御弁の開閉状態が変化する際の最遅角点火時期の変更速度を上記のように可変とすることで、最遅角点火時期の変更課程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0029】
請求項9記載の発明では、請求項7又は8記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉態様に応じて可変とすることを要旨とした。
【0030】
気流制御弁の開閉状態の変化に伴う燃焼室内のガスの流動状態の変化速度、並びに同変化に伴うノック限界の変化速度は、気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉態様に応じて異なるものとなる。従って、上記気流制御弁の開閉態様に応じて最遅角点火時期の変更速度を可変とすることで、最遅角点火時期の変更課程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0031】
請求項10記載の発明では、請求項9記載の発明において、前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉速度に対応するように可変とすることを要旨とした。
【0032】
気流制御弁の開閉状態の変化に伴う燃焼室内のガスの流動状態の変化速度、並びに同変化に伴うノック限界の変化速度は、気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉速度に応じて異なるものとなる。従って、気流制御弁の開閉速度に対応するように最遅角点火時期の変更速度を可変とすることで、最遅角点火時期の変更課程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができる。
【0033】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を自動車用エンジンに適用した一実施形態を図1〜図5に従って説明する。
【0034】
図1に示されるエンジン1においては、二つに分岐した状態の吸気通路2から燃焼室3へと空気が吸入され、この空気と燃料噴射弁4から噴射される燃料とによって形成される混合気に対し、点火プラグ5による点火が行われる。同点火プラグ5の点火時期はイグナイタ5aによって調整される。点火プラグ5の点火により燃焼室3内の混合気が燃焼すると、そのときの燃焼エネルギによりピストン6が往復移動し、燃焼後の混合気は排気として排気通路7に送り出されるようになる。また、ピストン6の往復移動は、コネクティングロッド8によってエンジン1の出力軸であるクランクシャフト9の回転へと変換される。
【0035】
吸気通路2において、その上流部分には燃焼室3に吸入される空気の量(吸入空気量)を調節すべく開閉動作するスロットルバルブ11が設けられている。このスロットルバルブ11の開度(スロットル開度)は、自動車の運転者によって操作されるアクセルペダル13の踏み込み量(アクセル踏込量)に応じて調整される。
【0036】
吸気通路2の二つに分岐した部分のうちの一方には、混合気の良好な燃焼が得られるよう燃焼室3内のガスの流動状態を変更する気流制御弁16が設けられている。この気流制御弁16はアクチュエータ17によって開閉駆動されるが、こうしたアクチュエータ17としては、例えば吸気通路2内の圧力(負圧)と大気圧との差圧に基づき作動するものが採用される。また、上記アクチュエータ17として、例えばステップモータや直流(DC)モータ等のモータを採用することもできる。
【0037】
気流制御弁16が閉弁しているときには二つに分岐した吸気通路2のうちの一方のみから空気が燃焼室3に吸入されるが、この状態にあっては燃焼室3に吸入されるガスの流速が速まって燃焼室3内のガス流の乱れが大(ガス流強)となり、燃焼室3内でのガスの混合が促進される。これに対し、気流制御弁16が開弁しているときには、燃焼室3内のガス流の乱れが小(ガス流弱)とはなるが、高負荷高回転時等であればエンジン1の吸気抵抗を低減することができる。
【0038】
次に、上記エンジン1の点火時期制御装置の電気的構成について説明する。
この点火時期制御装置は、エンジン1を運転制御すべく自動車に搭載された電子制御装置35を備えている。この電子制御装置35は、イグナイタ5a、スロットルバルブ11、及びアクチュエータ17等を駆動制御する。また、電子制御装置35には、以下に示される各種センサからの検出信号が入力される。
【0039】
・クランクシャフト9が回転するときに、その回転に対応した信号を出力するクランクポジションセンサ10。
・吸気通路2内におけるスロットルバルブ11よりも下流側の圧力(吸気圧)を検出するバキュームセンサ12。
【0040】
・アクセルペダル13の踏み込み量(アクセル踏込量)を検出するアクセルポジションセンサ14。
・スロットルバルブ11の開度(スロットル開度)を検出するスロットルポジションセンサ15。
【0041】
・気流制御弁16の開度を検出する開度センサ18。
・エンジン1でのノッキング発生を検出するノックセンサ19。
次に、電子制御装置35を通じて行われるエンジン1の点火時期制御の概要を説明する。
【0042】
エンジン1の点火時期制御には、以下の式(1)に基づき算出される点火時期指令値STが用いられる。
ST=SR+F+G …(1)
ST:点火時期指令値
SR:最遅角点火時期
F :フィードバック補正値
G :KCS学習値
式(1)において、最遅角点火時期SRは、点火時期をノッキングが発生する限界まで進角させたときの状態(以下、ノック限界という)から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期であって、エンジン回転速度NE及び負荷率KLといったエンジン運転状態に応じて変化する値である。
【0043】
なお、エンジン回転速度NEはクランクポジションセンサ10からの検出信号に基づき求められる。また、負荷率KLは、エンジン1の最大機関負荷に対する現在の負荷割合を示す値であって、エンジン1の吸入空気量に対応するパラメータとエンジン回転速度NEとから算出される。吸入空気量に対応するパラメータとしては、バキュームセンサ12の検出信号に基づき求められる吸気圧、スロットルポジションセンサ15からの検出信号に基づき求められるスロットル開度、及びアクセルポジションセンサ14に基づき求められるアクセル踏込量等があげられる。
【0044】
また、式(1)において、フィードバック補正値Fは、ノッキング発生有りのときには点火時期指令値STを遅角側に移行させるように変更され、ノッキング発生無しのときには点火時期指令値STを進角側に移行させるように変更される値である。更に、KCS学習値Gは、上記フィードバック補正値Fが予め定められた所定範囲内に収束するように変更される値である。即ち、フィードバック補正値Fが上記所定範囲に対し点火時期指令値STを遅角させる側に外れていれば、KCS学習値Gは点火時期指令値STを遅角側に移行させるように変更される。また、フィードバック補正値Fが上記所定範囲に対し点火時期指令値STを進角させる側に外れていれば、KCS学習値Gは点火時期指令値STを進角側に移行させるように変更される。
【0045】
上記のように、点火時期指令値STはフィードバック補正値F及びKCS学習値Gによって補正され、これによりノッキングを抑制しつつ極力進角側の値、即ち熱効率(燃料消費率)が最良になる値をとるようになる。上記式(1)に基づき算出された点火時期指令値STは、最遅角点火時期SRを用いて遅角側についてガードされ、過度に遅角側の値とならないようにされる。従って、点火時期指令値STは、上記最遅角点火時期SRとノック限界との間で変化するようになる。
【0046】
このように点火時期指令値STが算出されると、電子制御装置35を通じてイグナイタ5aが点火時期指令値STに基づき駆動され、エンジン1の点火時期制御が行われることとなる。この点火時期制御の制御範囲において 進角側の境界は上記ノック限界となり、遅角側の境界は上記最遅角点火時期SRということになる。
【0047】
ところで、点火時期の進角側についてのノック限界は、仮にエンジン回転速度NEや負荷率KLといったエンジン運転状態が一定に維持されていたとしても、気流制御弁16の開閉状態に応じて変化することとなる。これは、気流制御弁16の開閉状態に応じて燃焼室3に吸入されるガスの流速が異なるものとなり、その流速の違いが燃焼室3内でのガスの流動状態に影響を及ぼすためである。即ち、燃焼室3内でのガスの流動状態に応じて、混合気における空気と燃料との混合度合いが異なるものとなり、その結果として混合気の燃焼時における火炎伝播速度に違いが生じ、エンジン運転にとって最適な点火時期、及びその運転でのノック限界が異なるものとなるのである。
【0048】
ここで、気流制御弁16の開閉状態に応じた上記ノック限界の変化、及びその変化が最遅角点火時期SRに及ぼす影響について図2を参照して説明する。
同図の破線L1,L3は、エンジン回転速度NEを一定とした条件下で、負荷率KLの変化に対する点火時期の進角側についてのノック限界の推移を表している。なお、破線L1は気流制御弁16が開弁しているときのノック限界であり、破線L3は気流制御弁16が閉弁しているときのノック限界である。
【0049】
この図から分かるように、気流制御弁16が閉弁しているときのノック限界(L3)は、気流制御弁16が開弁しているときのノック限界(L1)よりも遅角側に位置することとなる。これは、気流制御弁16が閉弁しているときには、燃焼室3内に吸入されるガスの流速が速くなって同燃焼室3内のガス流が強められ、混合気における空気と燃料との混合が促進されることから、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が気流制御弁16の開弁時よりも速くなるためである。
【0050】
一方、最遅角点火時期SRについては、上述したように点火時期をノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期という意味の値であることから、上記ノック限界が気流制御弁16の開閉状態に応じて変化するものであることを考慮して算出しないと、不適な値として算出されるおそれがある。例えば、仮に最遅角点火時期SRを、気流制御弁16の開弁時におけるノック限界(L1)から所定の遅角余裕代だけ遅角させたときの点火時期として、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき算出されるようにすると、気流制御弁16の閉弁時に最遅角点火時期SRが不適切になって不具合が生じる。
【0051】
即ち、上記のように最遅角点火時期SRを算出する場合、同最遅角点火時期SRは実線L2で示されるように推移することとなるが、気流制御弁16が閉弁してノック限界が大幅に遅角側に変化すると、上記最遅角点火時期SR(L2)の近傍にノック限界(L3)が位置するようになる。
【0052】
この状態にあって、ノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行している場合、ノッキング抑制のためにフィードバック補正値F等で点火時期指令値STを遅角側に補正しようとしても、上述した最遅角点火時期SRによる遅角ガードによって点火時期指令値STを遅角側に変化させられなくなる。
【0053】
また、ノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行しなくても同最遅角点火時期SRに近づき過ぎる場合には、フィードバック補正値Fによってある程度は点火時期指令値STを遅角側に補正できるものの、上記遅角ガードが行われることからノッキング抑制に必要な遅角量を確保することは困難である。
【0054】
いずれにしろ、気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態へと変化したとき、ノッキング抑制のための点火時期の遅角が適切に行えなくなり、ノッキングが発生する確率が高くなる。このため、気流制御弁16の閉弁を考慮して、最遅角点火時期SRがエンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき上記実線L2よりも遅角側の値として算出されるようにすることも考えられる。
【0055】
しかしこの場合には、気流制御弁16の開弁時における点火時期指令値STの変化範囲である上記最遅角点火時期SRとノック限界(L2)との間の幅が、遅角側に拡大されることとなる。このため、気流制御弁16の開弁時に、フィードバック補正値F等による点火時期指令値STの遅角補正により、点火時期が誤って過度に遅角してエンジン出力が低下したり排気温度が過上昇したりするおそれがある。
【0056】
そこで本実施形態では、気流制御弁16の開閉状態に応じて最遅角点火時期SRを変更する。
即ち、気流制御弁16が開弁状態にあるときには、最遅角点火時期SRをエンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき、上記実線L2で示されるように推移する点火時期として算出する。また、気流制御弁16が閉弁状態にあるときには、最遅角点火時期SRをエンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき、気流制御弁16の閉弁時のノック限界(L3)から上述した遅角余裕代だけ遅角させた点火時期(実線L4で示されるように推移する点火時期)として算出する。
【0057】
このように最遅角点火時期SRを算出することで、気流制御弁16の開閉状態に応じてノック限界が変化したとき、そのノック限界の変化に対応した分だけ最遅角点火時期SRを変更することができる。
【0058】
例えば、気流制御弁16の開閉状態が開弁状態から閉弁状態に変化したときには、燃焼室3内のガス流が強められて混合気における燃料と空気との混合が促進されるため、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が速くなってエンジン運転にとって最適な点火時期、及びその運転でのノック限界が遅角側に変化する。この場合、ノック限界の進角側への変化に応じて最遅角点火時期SRが、実線L2から実線L4へと遅角側に変更されることとなる。
【0059】
従って、気流制御弁16の開弁状態から閉弁状態への切り換えに伴いノック限界が遅角側に変化するとき、そのノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行したり、最遅角点火時期SRに近づきすぎたりすることはない。このため、上記最遅角点火時期SRを用いて算出される点火時期指令値ST等に基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がノッキングを生じさせる時期となったり、同ノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。
【0060】
また、気流制御弁16の開閉状態が閉弁状態から開弁状態に変化したときには、燃焼室3内のガス流が弱められて混合気における燃料と空気とが混合されにくくなるため、混合気の燃焼時における火炎伝播速度が遅くなってエンジン運転にとって最適な点火時期、及びその運転でのノック限界が進角側に変化する。この場合、ノック限界の遅角側への変化に応じて最遅角点火時期SRが実線L4から実線L2へと進角側に変更されることとなる。
【0061】
従って、気流制御弁16の閉弁状態から開弁状態への切り換えに伴いノック限界が進角側に変化するとき、そのノック限界が最遅角点火時期SRに対し進角し過ぎた状態になることはない。このため、上記最遅角点火時期SR等を用いて算出される点火時期指令値STに基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がエンジン出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。
【0062】
次に、上記点火時期指令値STの算出手順について、点火時期指令値算出ルーチンを示す図3のフローチャートを参照して説明する。この点火時期指令値算出ルーチンは、電子制御装置35を通じて例えば所定時間毎の時間割り込みにて実行される。
【0063】
点火時期指令値算出ルーチンにおいては、気流制御弁16が開閉中でなく(S101:YES)、開弁状態であれば(S102:YES)、気流制御弁16が開弁しているときの最遅角点火時期SRが算出される(S103)。この最遅角点火時期SRの算出は、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき予め設定されたマップを参照して行われる。こうして算出された最遅角点火時期SRは、エンジン回転速度NEを一定とした条件下では負荷率KLの変化に対し、図2に実線L2で示されるように推移する。なお、最遅角点火時期SRを上記のようにマップを用いて算出する代わりに、計算式を用いて算出してもよい。
【0064】
また、気流制御弁16が開閉中でなく(S101:YES)、閉弁状態であれば(S102:NO、S104:YES)、気流制御弁16が閉弁しているときの最遅角点火時期SRが算出される(S105)。この最遅角点火時期SRの算出は、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づき、上記マップとは別の予め設定されたマップを参照して行われる。こうして算出された最遅角点火時期SRは、エンジン回転速度NEを一定とした条件下では負荷率KLの変化に対し、図2に実線L4で示されるように推移する。なお、ここでも最遅角点火時期SRをマップを用いて算出する代わりに、計算式を用いて算出してもよい。
【0065】
気流制御弁16が開弁状態と閉弁状態との間で切り換えられるとき、その開閉状態の変化、並びに、同変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化については、応答遅れ等に起因して徐々にしか行われない。従って、上記切り換えの際に最遅角点火時期SRを実線L2と実線L4との間で瞬時に切り換えると、気流制御弁16の開閉状態が変化する過程で、点火時期が過遅角や過進角となるおそれがある。これを抑制するため、ステップS101で否定判定がなされ、気流制御弁16が開弁状態と閉弁状態との間で切り換えられる過程にある場合には、最遅角点火時期SRを徐々に実線L2から実線L4へ、又は実線L4から実線L2へと変化させる徐変処理が行われる(S106)。
【0066】
ステップS103、ステップS105、及びステップS106のいずれかで最遅角点火時期SRが算出された後、順次ノッキングの有無に応じたフィードバック補正値Fの変更(S107)、及びフィードバック補正値Fを所定範囲内に収束させるためのKCS学習値Gの変更(S108)が行われる。更に、それら最遅角点火時期SR、フィードバック補正値F、及びKCS学習値Gに基づき、上記式(1)を用いて点火時期指令値STが算出される(S109)。そして、この算出される点火時期指令値STについては、過度に遅角側の値にならないよう上記最遅角点火時期SRを用いて遅角ガードされる(S110)。
【0067】
次に、点火時期指令値算出ルーチンにおけるステップS106の除変処理について、除変処理ルーチンを示す図4のフローチャートを参照して詳しく説明する。この除変処理ルーチンは、点火時期指令値算出ルーチンにおけるステップS106(図3)に進む毎に実行される。
【0068】
除変処理ルーチンにおいては、開閉中の気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態への切り換え過程にあるか否かが判断される(S201)。ここで肯定判定であれば、最遅角点火時期SRを気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値への遅角側への変更を徐々に行わせるための除変処理(S202〜S204,S208)が実行される。この除変処理を行うに際しては、以下に示される式(2)が用いられる。
【0069】
SRi=SRi−1+(SR−SRi−1)/n1 …(2)
SRi :今回の最遅角点火時期
SR :気流制御弁閉弁時用のマップを参照して算出される最遅角点火時期
SRi−1:前回の最遅角点火時期
n1 :除変定数(正の整数)
式(2)で算出される今回の最遅角点火時期SRiは、上記除変処理を行うために一時的に利用される値であって、後述するステップS208の処理で最遅角点火時期SRとして設定されるようになる。また、式(2)における前回の最遅角点火時期SRi−1の値としては、前回のスップS109(図3)の処理で用いられた最遅角点火時期SRが設定されることとなる。更に、式(2)で用いられる最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の閉弁時に適した値として、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づきステップS105(図3)で用いられるマップを参照して算出される(S202)。
【0070】
式(2)から分かるように、今回の最遅角点火時期SRiは、気流制御弁16の閉弁時に適した値である最遅角点火時期SRから前回の最遅角点火時期SRi−1を減算したものを除変定数n1で除算し、この値(「(SR−SRi−1)/n1」)を前回の最遅角点火時期SRi−1に加算して得られるものである。従って、今回の最遅角点火時期SRi、並びにステップS208で設定される最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値へと徐々に遅角側に変更されるようになる。
【0071】
上記のように最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)が気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値へと変更される際の変更速度は、除変定数n1の大きさに関係しており、除変定数n1が小さい値になるほど速くなる。この除変定数n1は、ステップS202の処理で、気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態へと変化する際の変化速度(開閉速度)に応じて可変となるように、即ち上記開閉速度が速くなるほど小さい値となるように算出される。なお、上記気流制御弁16の開閉速度は、開度センサ18からの検出信号に基づき、単位時間当たりの気流制御弁16の開度変化量を求めることによって得られる。
【0072】
ここで、気流制御弁16が開弁状態から閉弁状態へと変化する際の開閉速度と、上記最遅角点火時期SRが気流制御弁16の開弁時に適した値から閉弁時に適した値へと遅角側に変化する際の変化速度との関係について、図5のタイムチャートを参照して説明する。
【0073】
気流制御弁16の開弁状態から閉弁状態への変化は、その指令がなされた後に応答遅れ等に起因して図5(a)に示されるように徐々に行われる。そして、このときの気流制御弁16の開閉速度に応じて上記除変定数n1が決まることから、上記最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)の遅角側への変化が、気流制御弁16の開閉速度に対応した速度で、図5(b)に示されるように徐々に行われることとなる。従って、上記気流制御弁16が閉じる際の開閉速度が速くなるほど除変定数n1が小さくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの遅角側への変化速度が速くなる。逆に、気流制御弁16が閉じる際の開閉速度が遅くなるほど除変定数n1が大きくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの遅角側への変化速度が遅くなる。
【0074】
気流制御弁16の開弁状態から閉弁状態への変化に伴いノック限界が遅角側に変化する際の変化速度は、その気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化に関係している。更に、このガスの流動状態の変化は、上記気流制御弁16の開閉状態変化の際の開閉態様の一つである開閉速度に関係している。以上のことから、上記ノック限界の変化速度は気流制御弁16の開閉速度に応じて異なるものであることが分かる。
【0075】
このため、気流制御弁16の開閉状態が変化するとき、その開閉状態変化の際の開閉態様(開閉速度)に応じて上記除変定数n1を可変とすることで、ノック限界の遅角側への変化速度に対応した速度をもって最遅角点火時期SRを徐々に遅角側に変化させることができる。従って、上記のように最遅角点火時期SRが変更される過程で、点火時期が不適切になるのを抑制することができる。即ち、上記ノック限界の遅角側の変化に対し、上記最遅角点火時期SRの遅角側への変化が速すぎたり遅すぎたりして、同最遅角点火時期SRの変化過程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができるのである。
【0076】
一方、除変処理ルーチンのステップS201(図4)で否定判定がなされた場合には、開閉中の気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態への切り換え過程にあることになる。この場合、最遅角点火時期SRを気流制御弁16の閉弁時に適した値から開弁時に適した値への進角側への変更を徐々に行わせるための除変処理(S205〜S208)が実行される。この除変処理を行うに際しては、以下に示される式(3)が用いられる。
【0077】
SRi=SRi−1+(SR−SRi−1)/n2 …(3)
SRi :今回の最遅角点火時期
SR :気流制御弁開弁時用のマップを参照して算出される最遅角点火時期
SRi−1:前回の最遅角点火時期
n2 :除変定数(正の整数)
この式(3)で用いられる最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の開弁時に適した値として、エンジン回転速度NE及び負荷率KLに基づきステップS103(図3)で用いられるマップを参照して算出される(S205)。
【0078】
上記式(3)で算出される今回の最遅角点火時期SRiも、ステップS208の処理で最遅角点火時期SRとして設定されるものである。従って、この場合にステップS208で設定される最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)については、気流制御弁16の閉弁時に適した値から開弁時に適した値へと徐々に進角側へと変化する際の変化速度が、式(2)の除変定数n2の大きさに応じて可変とされる。この除変定数n2は、ステップS204の処理で、気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態へと変化する際の変化速度(開閉速度)に応じて可変となるように、即ち上記開閉速度が速くなるほど小さい値となるように算出される。
【0079】
ここで、気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態へと変化する際の開閉速度と、上記最遅角点火時期SRが気流制御弁16の閉弁時に適した値から開弁時に適した値へと進角側に変化する際の変化速度との関係について、図5のタイムチャートを参照して説明する。
【0080】
気流制御弁16の閉弁状態から開弁状態への変化は、その指令がなされた後に応答遅れ等に起因して図5(c)に示されるように徐々に行われる。そして、このときの気流制御弁16の開閉速度に応じて上記除変定数n2が決まることから、上記最遅角点火時期SR(今回の最遅角点火時期SRi)の進角側への変化が、気流制御弁16の開閉速度に対応した速度で、図5(d)に示されるように徐々に行われることとなる。従って、上記気流制御弁16が開く際の開閉速度が速くなるほど除変定数n2が小さくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの進角側への変化速度が速くなる。逆に、気流制御弁16が開く際の開閉速度が遅くなるほど除変定数n2が大きくされ、これにより上記最遅角点火時期SRの進角側への変化速度が遅くなる。
【0081】
気流制御弁16の閉弁状態から開弁状態への変化に伴いノック限界が進角側に変化する際の変化速度も、その気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化に関係している。更に、このガスの流動状態の変化は、上記気流制御弁16の開閉状態変化の際の開閉態様の一つである開閉速度に関係していることも上述したとおりである。以上のことから、この場合における上記ノック限界の変化速度も、気流制御弁16の開閉速度に応じて異なるものであることが分かる。
【0082】
このため、気流制御弁16の開閉状態が変化するとき、その開閉状態変化の際の開閉態様(開閉速度)に応じて上記除変定数n2を可変とすることで、ノック限界の進角側への変化速度に対応した速度をもって最遅角点火時期SRを徐々に進角側に変化させることができる。従って、上記のように最遅角点火時期SRが変更される過程で、点火時期が不適切になるのを抑制することができる。即ち、上記ノック限界の進角側の変化に対し、上記最遅角点火時期SRの進角側への変化が速すぎたり遅すぎたりして、同最遅角点火時期SRの変化過程で点火時期が過遅角や過進角となるのを抑制することができるのである。
【0083】
除変処理ルーチンにおいて、ステップS208(図4)で今回の最遅角点火時期SRiが最遅角点火時期SRとして設定されると、処理が点火時期指令値算出ルーチン(図3)に戻されるようになる。
【0084】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)気流制御弁16が開弁状態であるか、或いは閉弁状態であるかに応じて点火時期の進角側についてのノック限界が異なるようになる。このことを考慮して、点火時期の制御範囲における遅角側の境界である最遅角点火時期SRが気流制御弁16の開閉状態に応じて適切な値に変更される。即ち、気流制御弁16の開閉状態が開弁状態から閉弁状態に変化してノック限界が遅角側に変化するときには最遅角点火時期SRが遅角側に変更されるため、そのノック限界が最遅角点火時期SRを越えて遅角側に移行したり、最遅角点火時期SRに近づきすぎたりすることはない。このため、上記最遅角点火時期SRを用いて算出される点火時期指令値ST等に基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がノッキングを生じさせる時期となったり、同ノッキングを抑制するための点火時期遅角量が不足したりするのを抑制することができる。また、気流制御弁16の開閉状態が閉弁状態か開弁状態に変化してノック限界が進角側に変化するときには最遅角点火時期SRが進角側に変更されるため、そのノック限界が最遅角点火時期SRに対し進角側し過ぎた状態になることはない。このため、上記最遅角点火時期SR等を用いて算出される点火時期指令値STに基づき点火時期を制御するとき、その点火時期がエンジン出力の低下や排気温度の過上昇を招くほど遅角した状態となるのを抑制することができる。
【0085】
(2)気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う最遅角点火時期SRの変更については、その開閉状態の変化に伴うノック限界の変化に対応する分だけ変更される。仮に、上記最遅角点火時期SRの変更が上記ノック限界の変化に対応する分よりも大きいか或いは小さいとすると、当該変更後にフィードバック補正値F及びKCS学習値Gをそのまま点火時期指令値STの算出に用いたとき、ノック限界に対する点火時期指令値STの相対位置が上記変更前とは異なるようになる。この状態にあっては、上記フィードバック補正値F及びKCS学習値Gが適正値からずれており、後に適正値へと徐々に変更されるとはいえ、一時的なノッキング発生やエンジン出力低下及び排気温度の上昇は避けられない。しかし、上記のように気流制御弁16の開閉状態の変化に応じて最遅角点火時期SRを変更することで、当該変更後にフィードバック補正値F及びKCS学習値Gをそのまま用いても、ノック限界に対する点火時期指令値STの相対位置が変更前と変わることはなく、同指令値STを適正値に維持することが可能である。従って、気流制御弁16の開閉状態の変化に伴いノック限界が変化するとき、上記フィードバック補正値F及びKCS学習値Gをそのまま用いることで、点火時期が一時的に過進角となってノッキングが発生したり、一時的に過遅角となってエンジン出力が低下したり排気温度が上昇したりすることはない。
【0086】
(3)最遅角点火時期SRは、気流制御弁16の開弁時にそれに適したものとなるよう予め設定されたマップを参照して算出され、気流制御弁16の閉弁時にはそれに適したものとなるよう上記マップとは別のマップを参照して算出される。このように気流制御弁16の開閉状態に応じて最遅角点火時期SRを算出するためのマップを切り換えることにより、その開閉状態に応じて最遅角点火時期SRを適切に変更することができる。
【0087】
(4)気流制御弁16の開閉状態の変化は応答遅れ等に起因して徐々に行われ、それに伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化、並びにノック限界の変化も徐々に行われるようになる。このことを考慮して、気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う最遅角点火時期SRの変更が除変処理によって徐々に行われることから、当該変更が急に行われることによる点火時期の過進角や過遅角を抑制することができる。
【0088】
(5)上記のように最遅角点火時期SRを除変処理によって徐々に変化する際の変化速度は、気流制御弁16の開閉状態変化の際の開閉態様(開閉速度)に応じて可変とされる。気流制御弁16の開閉状態の変化に伴うノック限界の変化速度は、気流制御弁16の開閉状態の変化に伴う燃焼室3内のガスの流動状態の変化と関係している。従って、上記のように最遅角点火時期SRの変化速度を可変とすることで、当該最遅角点火時期SRの変更過程で点火時期を上記ノック限界の変化速度に対応した速度で適切に変化させることができ、点火時期が過進角や過遅角になるのを抑制することができる。
【0089】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・最遅角点火時期SRの除変処理において、気流制御弁16の開閉状態の開閉速度に応じて最遅角点火時期SRの変化速度を可変としたが、必ずしもこのように可変とする必要はない。例えば除変定数n1,n2を固定値とすることにより、上記最遅角点火時期SRの変化速度を固定してもよい。
【0090】
・上記最遅角点火時期SRの変化速度について、気流制御弁16が閉弁状態から開弁状態に変化するときの速度と、開弁状態から閉弁状態へと変化するときの速度とを等しくしてもよいし、異ならせてもよい。このことは、除変定数n1と除変定数n2とを等しくしたり、異ならせたりすることによって実現することができる。
【0091】
・上記最遅角点火時期SRの除変処理を必ずしも行う必要はない。
・本実施形態では、最遅角点火時期SRを算出するためのマップを切り換えることにより、気流制御弁16の開閉状態に応じた最遅角点火時期SRの変更を行うようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、気流制御弁16の開弁時に適した最遅角点火時期SRの算出を上記と同じくマップを参照して行い、気流制御弁16の閉弁時に適した最遅角点火時期SRの算出については、上記マップを参照して算出された最遅角点火時期SRを基準とし、これに対し所定の補正値による補正を加えることで行ってもよい。なお、これとは逆に、気流制御弁16の閉弁時に適した最遅角点火時期SRの算出をマップを参照して行い、気流制御弁16の開弁時に適した最遅角点火時期SRの算出については、上記マップを参照して算出された最遅角点火時期SRを基準とし、これに対し所定の補正値による補正を加えることで行ってもよい。これらの場合、上記補正によって算出される最遅角点火時期SRが適切な値となるよう、上記補正値をエンジン回転速度NE及び負荷率KLといったエンジン運転状態に応じて可変とすることが好ましい。また、上述した基準となる最遅角点火時期SRについては、マップを参照して算出する代わりに、計算式によって算出することも可能である。
【0092】
・気流制御弁として、開弁状態と閉弁状態との二つの状態のいずれかに切り換えられるものを例示したが、それら開弁状態と閉弁状態との間の任意の状態に制御可能なものを採用してもよい。この場合、気流制御弁16の所定開度から別の所定開度への制御に際し、その制御後の所定開度(目標値)に応じて最遅角点火時期SRを適切な値に変更することとなる。
【0093】
・気流制御弁16を吸気通路2の二つに分岐した部分の両方に設け、それら二つの気流制御弁16を各々開閉動作させることにより、燃焼室3内のガスの流動状態を変更するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の点火時期制御装置が適用されるエンジン全体を示す略図。
【図2】気流制御弁の開閉状態の変化に応じたノック限界の変化、及びその開閉状態に適した最遅角点火時期について説明するための説明図。
【図3】点火時期指令値の算出手順を示すフローチャート。
【図4】最遅角点火時期の除変処理手順を示すフローチャート。
【図5】(a)〜(d)は上記除変処理が行われる際の気流制御弁及び最遅角点火時期の推移を示すタイムチャート。
【図6】従来の点火時期指令値の算出手順を説明するための説明図。
【符号の説明】
1…エンジン、3…燃焼室、5…点火プラグ、5a…イグナイタ、10…クランクポジションセンサ、11…スロットルバルブ、12…バキュームセンサ13…アクセルペダル、14…アクセルポジションセンサ、15…スロットルポジションセンサ、16…気流制御弁、17…アクチュエータ、18…開度センサ、19…ノックセンサ、35…電子制御装置(変更手段)。
Claims (10)
- 燃焼室内のガスの流動状態を変更すべく開閉される気流制御弁を備えた内燃機関に適用され、同機関の点火時期制御に用いられる点火時期指令値を、機関運転状態に応じて決定される最遅角点火時期に基づき算出するとともに、ノッキングを抑制しつつ熱効率が最良となるように補正項によって補正する内燃機関の点火時期制御装置において、
前記気流制御弁の開閉状態に応じて前記最遅角点火時期を変更する変更手段を備える
ことを特徴とする内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記最遅角点火時期は、機関運転状態に応じて変化する点火時期のノック限界から所定の遅角余裕代だけ遅角した時期であって、前記点火時期指令値の遅角側についてのガードに用いられる
請求項1記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記気流制御弁の開閉状態は、前記燃焼室内のガス流を強める状態と同ガス流を弱める状態との間で変化するものであって、
前記変更手段は、前記気流制御弁の開閉状態が前記ガス流を強める状態から弱める状態に変化するときに前記最遅角点火時期を進角側に変更し、前記気流制御弁の開閉状態が前記ガス流を弱める状態から強める状態に変化するときに前記最遅角点火時期を遅角側に変更する
請求項1又は2記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、前記気流制御弁の開閉状態の変化に伴う点火時期の進角側についてのノック限界の変化に対応した分だけ最遅角点火時期を変更する
請求項1〜3のいずれかに記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、前記最遅角点火時期の算出に用いられるマップを、前記気流制御弁の開弁時用のマップと閉弁時用のマップとの間で切り換えることにより、前記最遅角点火時期の変更を行うものである
請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、機関運転状態に応じて基準となる最遅角点火時期を決定し、この最遅角点火時期に対し前記気流制御弁の開閉状態に応じた補正を加えることにより、前記最遅角点火時期の変更を行うものである
請求項1〜4のいずれかに記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更を徐々に行うものである
請求項1〜6のいずれかに記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態の変化に基づく前記燃焼室内のガスの流動状態の変化態様に対応するように可変とする
請求項7記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉態様に応じて可変とする
請求項7又は8記載の内燃機関の点火時期制御装置。 - 前記変更手段は、前記最遅角点火時期の変更速度を、前記気流制御弁の開閉状態変化の際の開閉速度に対応するように可変とする
請求項9記載の内燃機関の点火時期制御装置。
Priority Applications (1)
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2007247625A (ja) * | 2006-03-20 | 2007-09-27 | Nissan Motor Co Ltd | 筒内直接噴射式内燃機関 |
JP2014185570A (ja) * | 2013-03-22 | 2014-10-02 | Toyota Motor Corp | 火花点火式内燃機関 |
-
2002
- 2002-06-06 JP JP2002165513A patent/JP2004011519A/ja active Pending
Cited By (3)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2007247625A (ja) * | 2006-03-20 | 2007-09-27 | Nissan Motor Co Ltd | 筒内直接噴射式内燃機関 |
JP4682885B2 (ja) * | 2006-03-20 | 2011-05-11 | 日産自動車株式会社 | 筒内直接噴射式内燃機関 |
JP2014185570A (ja) * | 2013-03-22 | 2014-10-02 | Toyota Motor Corp | 火花点火式内燃機関 |
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