JP2004007527A - 高周波回路素子、共振器、フィルタ、デュプレクサ、および高周波回路装置 - Google Patents
高周波回路素子、共振器、フィルタ、デュプレクサ、および高周波回路装置 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】基体表面に導体膜と誘電体膜とからなる電極膜を形成して、共振器などの高周波回路素子を構成するが、基体の所定断面で見たとき、基体1の周囲を1周以上回って一部が重なるように導体膜2を形成し、その重なる部分に誘電体膜3を挿入する。これにより、導体膜の重なる部分で、自己容量部CAを構成し、その部分で電界エネルギーを蓄積し、基体1の内部に磁界エネルギーを蓄積する。このステップインピーダンス構造によって全体に小型化を図る。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、無線通信や電磁波の送受信に利用される、例えばマイクロ波帯やミリ波帯における高周波回路素子、共振器、フィルタ、デュプレクサ、および高周波回路装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、誘電体からなる基体に電極膜を形成した共振器として、図19に示すような短絡円形TM010モードの共振器や、図20に示すような同軸TEMモードの共振器が利用されている。
【0003】
図19において、図の上部は上面図、下部はA−A部分の断面図である。この例では、円柱形状の基体1の外面に電極20を形成している。この共振器は、円柱の側面を短絡面とする短絡円形TM010モードの共振器として作用する。
【0004】
また、図20において、図の上部は上面図、下部はB−B部分の断面図である。この例では、円筒形の基体1の図における上面以外の表面に電極20を設けている。これにより、使用周波数の1/4波長で共振する同軸TEMモードの共振器として作用する。
【0005】
一方、基体表面に形成した電極での導体損失を抑えるため、導体薄膜と誘電体薄膜とを交互に積層してなる薄膜多層電極を構成する技術が知られている。図19および図20のような構造の共振器に適用する場合、図中の丸印部分を拡大すれば、図21に示すようになる。ここで、2は導体膜、3は誘電体膜である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような従来の共振器は、小型且つ高いQを備える。しかし、これらの共振器を適用する高周波回路装置の小型化の要請に伴い、これらの共振器などの高周波回路素子も、低損失特性を維持しつつ小型化が要求されている。
【0007】
この発明の目的は、より小型化および低損失化を図った高周波回路素子、共振器、フィルタ、デュプレクサ、および高周波回路装置を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
この発明の高周波回路素子は、基体の表面に、導体膜と誘電体膜とからなる電極膜を形成したものにおいて、
導体膜を基体の所定断面で見たとき、基体の周囲を1周以上回って、一部が重なる部分をもち、誘電体膜を導体膜の重なる部分で導体膜同士を絶縁するように挿入した構造とする。
【0009】
この構造により、導体膜の重なる部分で、誘電体膜を介して静電容量を生じさせ、この静電容量の付加によって周波数特性を低周波側へシフトさせる。また、その分、所定の周波数特性を得るための基体の小型化を図る。
【0010】
また、この発明の高周波回路素子は、前記導体膜がその重ならない部分で数えて2層以上設けたことを特徴とする。
【0011】
また、この発明の高周波回路素子は、前記導体膜および前記誘電体膜の一部または全部を、使用周波数における導体の表皮深さ程度またはそれより薄くしたことを特徴とする。
【0012】
また、この発明の高周波回路素子は、前記導体膜および前記誘電体膜の一部または全部を、多線化するとともに、各線幅を使用周波数における導体の表皮深さ程度、またはそれより細くしたことを特徴とする。
【0013】
また、この発明の共振器は、前記高周波回路素子の基体を略中空円筒形とし、基体の外表面と内表面のそれぞれに前記電極膜を設けたことを特徴とする。これにより、小型でQの高い共振器を構成する。
【0014】
また、この発明の高周波回路素子は、その導体膜を超伝導体物質で構成したことを特徴とする。
【0015】
この発明のフィルタは、前記共振器とそれに結合する信号入出力部とから構成する。
【0016】
また、この発明のデュプレクサは、前記フィルタを送信フィルタもしくは受信フィルタとして設けることによって、またはその両方のフィルタとして設けることによって、構成する。
【0017】
また、この高周波回路装置は、前記フィルタまたはデュプレクサを備えることにより構成する。
【0018】
また、この発明の共振器は、次の条件を満たすように、基体表面に導体膜と誘電体膜とからなる電極膜を形成することによって構成する。
前記基体の所定断面で、該基体周囲を囲む導体膜の電流が前記基体の周回方向に流れ、前記断面に対して垂直な方向に電磁界の節や腹をもたない。
前記導体膜における電流経路の両端が前記誘電体膜を介して互いに近接配置されていて、該導体膜両端の近接部が静電容量部として作用する。
前記静電容量部以外の導体膜部分が、当該導体膜部分内部に電流分布の節または腹が殆ど生じることなく、該導体膜部分が誘導部として作用する。
前記誘導部に流れる電流により、前記断面に節または腹の略無い磁界が誘導されて前記断面の全面にわたって略平坦な磁界が分布し、前記導体膜両端の近接配置による狭い空間に電界が分布する。
【0019】
また、この発明の共振器は、前記導体膜を超伝導体物質で構成したことを特徴とする。
【0020】
【発明の実施の形態】
第1の実施形態に係る共振器の構成を図1〜図4を参照して説明する。
図1の(A)は共振器の上面図、(B)は(A)におけるA−A部分の断面図である。また、(C)は、(B)の断面図における右半面の拡大図である。
【0021】
ここで、1は中空円筒形状の絶縁性基体である。この基体1の表面に導体膜2を形成している。図1の(C)において、縦軸を基体1の中心軸z方向、横軸を半径r方向としている。導体膜2は、基体1の周囲をその断面で見たとき、1周以上回って、一部が重なるように形成している。この導体膜2の重なる部分で、導体膜同士を絶縁するように誘電体膜3を挿入している。この誘電体膜3を挟んで導体膜2が重なった部分は、中心軸を中心として中空円筒形基体1の上部に円状に形成している。このようにして、導体膜2と誘電体膜3とによる電極膜を構成している。
【0022】
図2は、この共振器の動作について示す図である。図2の(A)は、共振器の断面において、導体膜2同士が重なっている部分の4つの位置A,B,D,Eと、断面において導体膜2が周回する方向の中央位置Cを示している。図2の(B)は、断面において導体膜2の重なる部分およびその近傍の電界分布を示している。(C)は、断面における導体膜上の電流分布を示している。
【0023】
図2の(B)に示すように、導体膜同士の重なる部分に電界が集中する。また、断面における導体膜の一方の端部と、それに近接する他方の端部付近の側部との間にも電界が集中し、これらの部分に静電容量(以下単に「容量」という。)が生じる。
【0024】
なお、図1に示した例では、断面における導体膜2の重なり部分で断面形状がクランク状になるように導体膜2を形成したが、この図2では、説明を容易にするため、基体1の図における上面で、導体膜2が平板状を保ったまま部分的に重なった例を示している。
【0025】
電流は、基体1の断面で、基体1の周回方向に流れる。電流分布についてみると、図2の(C)に示すように、電流強度は、AからBにかけて急激に増大し、B〜Dの領域において略一定値を保ち、DからEにかけて急激に減少する。両端部は0である。このように、導体膜の断面における両端部同士が、膜厚方向に近接する領域A〜B,D〜Eは、容量性領域、その他の領域B〜Dは誘導性領域と呼ぶことができる。この容量性領域と誘導性領域とにより共振動作する。すなわち集中定数回路のようにみなせば、LC共振回路を構成している。
【0026】
このように、いわゆるステップインピーダンス構造となるので、電界エネルギーが容量性領域に集中し、磁界エネルギーが誘導性領域に集中することになり、所望の共振周波数を得るための基体の寸法が縮小化できる。
【0027】
図3および図4は、共振器の断面における電界ベクトル分布および磁界ベクトル分布の解析結果を示している。図3は中空円筒形の曲率半径が小さい例、図4はその曲率半径が大きい例である。図中の数値の単位はμmである。解析は有限要素法により行い、基体断面の周囲はメッシュを細かく、その他の部分はメッシュを粗く設定している。磁界の強度は濃淡で表している。
【0028】
この図3、図4に示すように、電界は誘電体膜を挟んで導体膜が重なった部分に集中し、その他の領域には電界が殆ど存在しない。また、磁界は、中空円筒形の内周側に偏って分布するが、断面内に節や腹は存在しない。また、中空円筒形の曲率半径が大きいほど、その偏りの程度は小さい。このように、基体全体に磁界エネルギーが効率よく蓄積される。このようにして、円筒座標TM000モードの共振器として作用する。
【0029】
上述のとおり、この共振器は、基体とそれを取り囲む導体膜および誘電体膜からなり、基体の誘電率は共振器の特性要因にならないため、成形の容易な材料を用いて、例えばインジェクション法により成型する。電極を構成する導体膜と誘電体膜は、薄膜形成技術である例えばスパッタリング法やメッキ法を用いて形成する。
【0030】
以上に示した共振器の作用効果を列記すると次のとおりである。
(1)誘電体層を挟んで導体層の重なった部分に電界が集中し、容量を形成する。この部分を以下「自己容量部」という。
(2)自己容量部以外の誘電体膜は絶縁機能があればよく、その膜厚と誘電率は任意に選ぶことができる。
(3)基体内部には磁界が分布し、共振に必要な誘導量を形成する。
(4)基体内部の磁界ベクトルはφ(r,zに直交する軸)成分をもち、φ,r,zのいずれの方向にも節や腹をもたない。
(5)基体内部には電界エネルギーが殆ど蓄積されないため、誘電率および誘電正接(tanδ)は共振特性に殆ど影響しない。したがって、基体は絶縁性を保つ材料であればよい。基体が磁性材料である場合には、磁界エネルギーの蓄積能力が高くなるので、小型化のためにより効果的である。
(6)導体膜2の膜厚を使用周波数における導体の表皮深さより厚くすることにより、基体内部の磁界エネルギーが遮蔽される。
【0031】
次に、第2の実施形態に係る共振器の構成を図5を参照して説明する。
図1に示した共振器では、中空円筒形の基体を用いたが、この第2の実施形態に係る共振器では、角筒形の内側面と外側面のコーナー部分に丸みをもたせた略中空円筒形としている。
【0032】
図5の(A)は共振器の上面図、(B)は(A)におけるA−A部分の断面図である。また、(C)は、(B)の断面図における右半面の拡大図である。
【0033】
図1に示した例と異なり、この例では、自己容量部CAを基体1の外側面の円周方向に沿って設けている。この構造により、自己容量部CAの周長が長くなり、その部分に生じる静電容量を稼ぐことができる。そのため、同一共振周波数を得るための基体1の寸法をさらに小型化できるようになる。
【0034】
また、基体1の図における上下面には、単に導体膜2が存在するだけであるので、自己容量部CAを損傷することなく、共振器の上下面での機械的保持が容易となる。このように、基体1が完全な中空円筒形でなくても、第1の実施形態の場合と同様の作用効果が得られる。
【0035】
次に、第3の実施形態に係る共振器の構成を図6〜図10を参照して説明する。
図6の(A)は共振器の上面図、(B)は(A)におけるA−A部分の断面図である。また、(C)は、(B)の断面図における右半面の拡大図である。
【0036】
第1の実施形態に係る共振器と異なり、この共振器は、基体1の表面に薄膜多層電極10を形成している。この薄膜多層電極10は、導体膜と誘電体膜とを交互に積層したものである。2a,2b,2cは導体膜、3はそれらの間に挟み込んだ誘電体膜である。
【0037】
CAaは、誘電体膜3を挟んで、導体膜2aが重なった部分の自己容量部である。CAbは、同じく誘電体膜3を挟んで、導体膜2bが重なった部分の自己容量部である。CAcは、誘電体膜3を挟んで、導体膜2cが重なった部分の自己容量部である。この例は、自己容量部CAaの一部をなす導体膜2aの外側の層と、自己容量部CAbの一部をなす内側の導体膜2bによる層とが同一層をなすように、自己容量部CAaの隣接位置に自己容量部CAbを配置している。同様に、自己容量部CAbの一部をなす導体膜2bの外側の層を自己容量部CAcの一部をなす導体膜2cの内側の層とが同一層となるように、自己容量部CAbに隣接して自己容量部CAcを配置している。
【0038】
このような構造により、導体膜と誘電体膜の層間の段差を無くして、薄膜多層電極の形成を容易にしている。
【0039】
また、導体膜2a,2bの膜厚は、使用周波数における導体の表皮深さ以下としている。薄膜多層電極10の最外層をなす導体膜2cの膜厚は、使用周波数における導体の表皮深さより厚くしている。このことによって、導体膜2cで基体内部の磁界エネルギーを遮蔽する。
【0040】
このように、電極膜を薄膜多層電極とすることにより、導体膜の各層に電極密度が分散し、全体の導体損失が低減される。これにより、Qの高い共振器が得られる。また、自己容量部CAa,CAb,CAcが導体膜の層数だけ得られる。このような薄膜多層電極の場合も、導体膜と誘電体膜は、薄膜形成技術である例えばスパッタリング法やメッキ法を用いて形成する。
【0041】
このように、電極膜を薄膜多層化したことによる作用効果は次の通りである。
【0042】
(1)薄膜多層電極10の層数の増大に応じて、共振器のQが向上する。
(2)各導体膜の自己容量の総和が略共振器全体の容量を形成し、その容量の増大に伴い、共振器が小型化できる。
(3)薄膜多層電極の最外層の導体膜の膜厚を厚くすることにより、薄膜多層化による低損失化を損なうことなく、基体内部の磁界エネルギーが遮蔽できる。
【0043】
図7は、共振器各部の寸法を示す図である。(A)は共振器のr−z面の片側断面、(B)は(A)における自己容量部CA部分の拡大断面図である。各部の寸法は次の通りとする。
【0044】
r1=100μm
r2=350μm
z1=250μm
S0=0.1μm
L1=4.0μm
Wc=1.3μm
σ=53×106 S/m
εs=8.5
εb=80
なお、L0,Wgは変数である。
【0045】
図8は、各層の導体膜の膜厚と共振器のQとの関係を示している。ここで、nは導体膜の層数である。このように層数に応じた最適設計膜厚が存在する。したがって、導体膜の層数に応じて、導体膜厚を最も高いQが得られるように定める。
【0046】
共振周波数fo=2GHzに対する最適設計の結果は次のとおりである。
【0047】
図9は、基体の誘電率依存性を示している。図3・図4に示したように、基体1の内部には、電界エネルギーが蓄積されないため、共振器の電気特性に対して基体の誘電率依存性は図9に示すように殆ど無い。従って、基体に関する材料の選択自由度は大きい。
【0048】
図10は、誘電体膜3の誘電率依存性を示している。基体1には電界エネルギーが蓄積されず、誘電体膜3内に殆どの電界エネルギーが蓄積されるため、共振器の共振周波数は、誘電体膜の比誘電率の平方根に略反比例する。また、Q値は、周波数変化に応じて変化する。
【0049】
次に、第4の実施形態に係る導波路について、図11・図12を参照して説明する。
図11は、導波路の斜視図である。ここで、1は基体、2は、その表面に形成した導体膜である。y軸を基体1の延びる方向(信号伝搬方向)とする、x,y,zの直角座標をとると、x−z面の断面において、導体膜2が基体1の周囲を一周以上回って、その一部が誘電体膜3を挟んで重なるようにしている。この誘電体膜3を挟んで、導体膜2が重なった部分が自己容量部CAである。従って、自己容量部CAは信号伝搬方向に沿って延びている。
【0050】
図12は、x−z面での電界ベクトルおよび磁界ベクトルの分布を示している。(A)は電界ベクトル分布、(B)は磁界ベクトル分布である。ここで、数値の単位はμmである。また、基体の曲率を0とした直線状の導波路としている。このように、第1の実施形態で示した共振器の場合と同様に、電界は誘電体膜を挟んで導体膜が重なった部分に集中し、その他の領域には殆ど存在しない。また、磁界は、中空円筒形の内周側に偏って分布するが、断面内に節や腹は存在しない。
【0051】
このように基体1周囲の電極部分に自己容量をもたせたことにより、周波数特性をもつ導波路として作用する。その共振周波数は、信号伝搬方向に垂直な断面(x−z面)の形状により略決定される。また、共振器の無負荷Qは、上記断面に垂直方向の長さに応じて定めることができる。一般に、線路を伝搬する信号による磁界ベクトルが描くループの幅が広くなる程、その線路のQは高くなる。この導波路においては、磁界ベクトルが基体1の長手方向にループを描くが、基体1の長手方向が長くなる程、そのループが大きな体積空間を占めることになり、共振器としての無負荷Qが高くなる。すなわち、導波路の長さを長くする程、通過特性の共振周波数での挿入損失が小さくなる。
【0052】
従って、導波路の長さを適宜定めることにより、共振器の機能と導波路の機能とを兼用することができる。すなわち、フィルタ作用をもった導波路として用いることができる。
【0053】
一般に、フィルタは、所望のフィルタ特性を得ようとすれば、そのサイズが決定され、その信号伝搬方向の長さが決まってしまうが、このようなフィルタ作用をもった導波路によれば、その長さが決まっていても、その長さで所望のフィルタ特性を得るための上記断面形状を設計すればよいので、フィルタ特性を持つ高周波回路素子でありながら、その長さに自由度がある。
【0054】
図13は、第5の実施形態に係る導波路の斜視図である。この導波路は、第4の実施形態に係る導波路の電極膜を薄膜多層電極化したものである。
図13において、2a,2b,2cはそれぞれ導体膜、3は誘電体膜である。基体1に周囲に、このように、導体膜と誘電体膜を交互に積層した薄膜多層電極を形成している。この導波路の断面構造は図6に示したものと同様である。この構造により、電極膜による導体損失が抑えられ、導波路としての伝搬損失が抑えられる。
【0055】
次に、第6の実施形態に係る共振器の構成を図14・図15を参照して説明する。
図14の(A)は共振器のx−z面での断面図、(B)は共振器のx方向を見た正面図である。図14において、1は角柱形状の基体であり、そのx−z面の断面で見たとき、基体1の周囲を1周以上回って、一部が重なるように導体膜2を形成している。その導体膜2の両端同士の重なる部分に誘電体膜3を挟み込んでいる。この誘電体膜を挟んで導体膜が重なった部分で自己容量部CAを構成している。図中、Gはx−z面に沿って周回する隙間(スペース)であり、この隙間Gには、導体膜2および誘電体3を形成していない。このように、複数の隙間Gを設けることにより、基体1周囲の電極膜を多線化している。このことにより、縁端効果を緩和して、導体損失を抑制している。
【0056】
図15の(A)はy−z面での磁界分布の例を示している。(B)は、比較例としての共振器の構成を示している。この例では、隙間Gを設けることなく、導体膜2をy方向に端から端まで連続したパターンとしている。
【0057】
このように、隙間Gを設けなければ、電極の縁端部に磁界が集中する。これに対し、(A)のように、隙間Gを設ければ、その隙間Gを磁界が通り抜け、これにより縁端効果が緩和され、低損失動作となる。
【0058】
また、特に縁端効果の大きく生じる電極膜の両端付近ほど、隙間Gの分布を密にすることによって、隙間Gを設けることによる縁端効果抑制による電極膜全体の導体損失低減効果を高めている。
【0059】
このような柱状の基体の側面に自己容量部CAを備えた電極構造の共振器においても、電界エネルギーが自己容量部CAのみに集中し、磁界エネルギーが基体1の内部に分布するため、ステップインピーダンス構造となり、全体に小型化できる。
【0060】
また、電極膜を多線化し、その線幅を小さくするほど縁端効果緩和による損失低減効果が大きくなる。
【0061】
以上の各実施形態で示した導体膜としては、CuやAg等の常伝導体の電極物質を用いることができる。また、この導体線路を超伝導体物質で構成してもよい。超伝導体物質の導体が超伝導動作するためには、最大磁界強度が臨界磁界強度以下で動作し、且つ最大電流密度が臨界電流密度以下で動作する必要がある。
【0062】
この発明によれば、最大磁界強度と最大電流密度を共に低減する効果があるため、超伝導体の導体膜を設けた高周波回路素子、共振器、およびそれらを備えたフィルタ、デュプレクサ、高周波回路装置の耐電力性が向上する。すなわち、臨界磁界強度・臨界電流密度を超えるような大電力の信号を印加させたとき、導体膜は超伝導動作しなくなり、この臨界磁界強度・臨界電流密度を超えた際に高周波特性が劇的に変化してしまうが、この発明によれば、磁界強度や電流密度を効果的に低減できるので、それだけ耐電力性が向上する。
【0063】
上記超伝導物質としては、Y−Ba−Cu−O系、Bi−Sr−Ca−Cu−O系、Bi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系、Ti−Ba−Ca−Cu−O系などの酸化物高温超伝導体物質を用いることができる。厚膜製法では、これらの物質をスクリーン印刷法で印刷形成し、焼成することによって酸化物高温超伝導体の導体膜を形成する。また、薄膜製法では、これらの酸化物超伝導物質をスパッタリング法、MOCVD(MetalOrganic Chemical Vapor Deposition)法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法などで成膜することによって酸化物高温超伝導体の導体膜を形成する。
【0064】
次に、第7の実施形態に係るフィルタの構成を、図16を基に説明する。
図16の(A)は、フィルタの上面図、(B)は(A)におけるA−A部分の断面図、(C)は(B)における丸印部分の拡大図、(D)は後述する入出力導体部分を通る断面図である。
【0065】
図16において、1は直方体形状の基体であり、この例では、3つの孔4を設けている。基体1の外表面および孔4の内面には、導体膜2を形成している。基体1の上面には、自己容量部CAを構成しいている。この自己容量部CAは、(B)に示した断面において、導体膜2の両端同士が誘電体膜3を挟んで重なった部分である。孔4の内面に形成した電極膜2は、内導体22として作用し、基体1の外面に形成した導体膜2は外導体23として作用する。従って、自己容量部CA部分で先端容量をもつ1/4波長の同軸共振器として作用する。この3つの同軸共振器は、隣接する共振器同士が誘導性結合する。
【0066】
また、図16の(D)に示すように、入出力導体242と付加導体21との間、および入出力導体24と外導体23との間に誘電体膜3を挟み込んでいる。このような構造により、入出力導体24は、付加導体21との間の生じる静電容量を介して容量性結合する。このようにして、先の実施形態で示した共振器と同様の作用効果を奏する小型・低損失特性をもったフィルタが得られる。
【0067】
次に、第8の実施形態としてデュプレクサの構成をブロック図として図17に示す。ここで、送信フィルタと受信フィルタは、それぞれ図16に示した構成からなる。送信フィルタと受信フィルタの通過帯域は、それぞれの帯域に合わせて設計する。また、送受共用端子としてのアンテナ端子への接続は、送信信号の受信フィルタへの回り込みおよび受信信号の送信フィルタへの回り込みを防止するように位相調整する。
【0068】
図18は、第9の実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図である。ここで、デュプレクサとしては図17に示した構成のものを用いる。回路基板上には、送信回路と受信回路を構成し、デュプレクサの送信信号入力端子に送信回路が接続され、デュプレクサの受信信号出力端子に受信回路が接続され、且つアンテナ端子にアンテナが接続されるように、上記回路基板上にデュプレクサを実装する。
【0069】
【発明の効果】
この発明によれば、基体の所定断面で見たとき、導体膜が基体の周囲を1周以上回って、一部が重なる部分をもち、その部分で静電容量が構成されるため、電界エネルギーの殆どが、その静電容量部に蓄積され、磁界エネルギーが基体内部に蓄積されるので、全体に極めて小型化された高周波回路素子が得られる。
【0070】
また、基体内部には、電界エネルギーが殆ど蓄積されないため、基体の誘電率および誘電正接は共振特性に殆ど影響せず、基体材料の自由度が高くなる。
【0071】
また、この発明によれば、電極膜を薄膜多層電極とすることにより、電極膜の導体損失を削減でき、Qの高い高周波回路素子が得られる。また、自己容量部の増大によって、全体にさらに小型化できる。また、自己容量部以外の誘電体層は絶縁機能があればよく、その膜厚と誘電率とは任意に選ぶことができ、設計上の自由度が高くなる。
【0072】
また、この発明によれば、導体膜および誘電体膜の一部または全部の厚さを使用周波数における導体の表皮深さ程度またはそれより薄くしたことにより、上記薄膜多層化による導体損失の低減効果が高められる。
【0073】
また、この発明によれば、導体膜および誘電体膜の一部または全部を多線化するとともに、各線幅を使用周波数における導体の表皮深さ程度またはそれより細くしたことにより、縁端効果が緩和され、導体損失が抑制できる。
【0074】
また、この発明によれば、略中空円筒形の基体を用いて共振器を構成したことにより、基体内部の磁界ベクトルの向きがループを描くことになり、磁界エネルギーの蓄積効果が更に高まって、全体に小型の共振器が得られる。
【0075】
また、この発明によれば、最大磁界強度と最大電流密度を共に低減する効果があるため、超伝導体の導体膜を設けた高周波回路素子、共振器、およびそれらを備えたフィルタ、デュプレクサ、高周波回路装置の耐電力性が向上する。
【0076】
また、この発明によれば、棒状の基体を用いて、自己容量部を備えた電極膜をその外表面に設けて導波路を構成したことにより、全体に小型で、且つフィルタ作用をもつ導波路として用いることができる。
【0077】
また、この発明によれば、例えば通信装置の高周波回路部に、小型且つ低損失なフィルタやデュプレクサを備えることによって、挿入損失が低減され、雑音特性や伝送速度などの通信品質の高い通信装置などの高周波回路装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係る共振器の構成を示す図
【図2】同共振器の動作を説明する図
【図3】同共振器の電界ベクトルおよび磁界ベクトルの分布を示す図
【図4】同共振器の電界ベクトルおよび磁界ベクトルの分布を示す図
【図5】第2の実施形態に係る共振器の構成を示す図
【図6】第3の実施形態に係る共振器の構成を示す図
【図7】同共振器の各部の寸法を示す図
【図8】同共振器の導体膜厚とQ値の関係を示す図
【図9】同共振器の基体の誘電率依存性を示す図
【図10】同共振器の誘電体膜の誘電率依存性を示す図
【図11】第4の実施形態に係る導波路の構成を示す図
【図12】同導波路の電界ベクトルおよび磁界ベクトルの例を示す図
【図13】第5の実施形態に係る導波路の構成を示す図
【図14】第6に実施形態に係る共振器の構成を示す図
【図15】同共振器の磁界ベクトルの例を示す図
【図16】第7の実施形態に係るフィルタの構成を示す図
【図17】第8の実施形態に係るデュプレクサの構成を示すブロック図
【図18】第9の実施形態に係る通信装置の構成を示すブロック図
【図19】従来の短絡円形TM010モードの共振器の構成を示す図
【図20】従来の同軸TEMモード共振器の構成を示す図
【図21】従来の薄膜多層電極の構成例を示す部分断面図
【符号の説明】
1−基体
2−導体膜
3−誘電体膜
4−孔
10−薄膜多層電極
20−電極
21−付加導体
22−内導体
23−外導体
24−入出力導体
CA−自己容量部
G−隙間
Claims (12)
- 基体の表面に、導体膜と誘電体膜とからなる電極膜を形成した高周波回路素子において、
前記導体膜は、前記基体の所定断面で見たとき、前記基体の周囲を1周以上回って、一部が重なる部分をもち、前記誘電体膜は、前記重なる部分で前記導体膜同士を絶縁するように挿入されていることを特徴とする高周波回路素子。 - 前記電極膜は前記導体膜と前記誘電体膜とを交互に積層した薄膜多層電極であり、前記導体膜を、前記重ならない部分で数えて2層以上設けたことを特徴とする請求項1に記載の高周波回路素子。
- 前記導体膜および前記誘電体膜の一部または全部の厚さを、使用周波数における導体の表皮深さと略等しくした、または該表皮深さより薄くした、ことを特徴とする請求項1または2に記載の高周波回路素子。
- 前記導体膜および前記誘電体膜の一部または全部を多線化するとともに、各線幅を、使用周波数における導体の表皮深さと略等しくした、または該表皮深さより細くしたことを特徴とする請求項1、2または3に記載の高周波回路素子。
- 前記導体膜を超伝導体物質で構成したことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の高周波回路素子。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の高周波回路素子の基体を略中空円筒形とし、該基体の外表面と内表面のそれぞれに前記電極膜を設けたことを特徴とする共振器。
- 請求項1〜5のいずれかに記載の高周波回路素子の基体を棒状とし、該基体の外表面に前記電極膜を設けたことを特徴とする導波路。
- 請求項6に記載の共振器と、該共振器に結合する信号入出力部を設けてなるフィルタ。
- 請求項8に記載のフィルタを送信フィルタもしくは受信フィルタとして、またはその両用のフィルタとして用いたデュプレクサ。
- 請求項8に記載のフィルタまたは請求項9に記載のデュプレクサの少なくともいずれかを備えた高周波回路装置。
- 基体の表面に、導体膜と誘電体膜とからなる電極膜を形成した高周波回路素子において、次の条件を満たすように前記基体および前記電極膜を形成した共振器。
前記基体の所定断面で、該基体周囲を囲む導体膜の電流が前記基体の周回方向に流れ、前記断面に対して垂直な方向に電磁界の節や腹をもたない。
前記導体膜における電流経路の両端が前記誘電体膜を介して互いに近接配置されていて、該導体膜両端の近接部が静電容量部として作用する。
前記静電容量部以外の導体膜部分が、当該導体膜部分内部に電流分布の節または腹が殆ど生じることなく、該導体膜部分が誘導部として作用する。
前記誘導部に流れる電流により、前記断面に節または腹の略無い磁界が誘導されて前記断面の全面にわたって略平坦な磁界が分布し、前記導体膜両端の近接配置による狭い空間に電界が分布する。 - 前記導体膜を超伝導体物質で構成したことを特徴とする請求項5または11に記載の共振器。
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