JP2004005931A - 塗布型磁気記録媒体の下層用粉末およびこれを用いた磁気記録媒体 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】平均長軸長が20〜200nmの範囲内にある針状の酸化鉄粒子からなる粉末であって,BET法による比表面積が30〜100m2/gで粉体pHが7以下である塗布型磁気記録媒体の下層用粉末である。この下層用粉末は,好ましくはPを0.1〜5.0wt%含有し,さらにR(RはYを含む希土類元素の1種または2種以上)を,R/Feの原子比百分率( at.%)で0.1〜10 at.%含有する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は重層構造の塗布型磁気記録媒体に用いられる下層用粉末およびこれを用いた磁気記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁性粉末を樹脂中に分散させた磁性層とベースフイルムとの間に,非磁性粉末を樹脂中に分散させた非磁性層(下層)を設ける重層構造の塗布型磁気記録媒体(ビデオテープ等の磁気テープ)が知られている。このような重層構造をとることで,磁気記録媒体の電磁変換特性の改善が進み高記録密度化を達成できる。また,テープ耐久性が改善され信頼性も向上する。本願明細書において「下層用粉末」とは,このような重層構造の塗布型記録媒体の非磁性層(下層)を形成するための粉末を意味する。
【0003】
昨今の情報量の増大は止まるところがなく,それに対応して記録媒体にも一層の記録容量の増大と信頼性の向上が求められるようになっている。その結果,重層構造の塗布型磁気記録媒体の下層用粉末においても各種特性の改善が求められている。下層用粉末に求められる基本的な特性には,ベースフィルムに塗布された際により平滑な表面をもつ下層が形成できることと,下層の塗膜の強度が高いことが挙げられる。
【0004】
下層の表面が平滑であると,その上に塗布される磁性層がより平滑になり,それによって電磁変換特性の優れた磁気記録媒体になり得るし,高密度化につながる。またテープの高容量化に伴ってテープ厚が薄層化し,高密度化のためにテープ自体の寸法安定性と塗膜の強度が重要になるが,このためには下層の高強度化が望まれ,そうすることでテープ自体の強度が上がり信頼性の向上につながっていく。
【0005】
一般にこれらの要求特性を満たすためには,下層用の非磁性粉末としては,塗料化段階で分散性に優れ,かつ粒子自体の強度が高く,しかも樹脂との接着性が高いといった性質を具備することが必要であり,そのような非磁性粉末を用いて塗膜にしたときに,平滑でかつ強度の高い下層を形成できる。
【0006】
従来,この下層を形成するための非磁性粉末としては,球状酸化チタン粉末または針状酸化鉄粉末が主に使用されている。また,このような下層をもつ重層構造の磁気記録媒体については,例えば特開昭63−187418号公報や特開平4−167225号公報に記載されたようなものがある。
【0007】
さらに,特開平6−60362号公報,特開平6−139553号公報,特開平6−215360号公報,特開平7−192248号公報,特開平9−170003号公報等には,かような重層構造の磁気記録媒体において,下層を形成する非磁性粉として針状の酸化鉄等を用いた場合の特性値が示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
下層用粉末として使用されたことのある球状酸化チタンでは,テープ化した場合に強度が針状のものに比べて不十分であった。また針状の酸化鉄については粒子間の焼結を伴っているため,その下層の表面平滑性が十分得られないという問題が付随していた。
【0009】
この原因として次のことが考えられる。針状の酸化鉄粉末は,湿式反応で生成させた針状のオキシ水酸化鉄を高温で焼成することによって得られるが,高温での処理であるために粒子間の焼結や粒子自体の形状崩壊が生じてしまう。粒子間の焼結が生じると,テープにしたときの表面平滑性が損なわれ,また粒子と樹脂との接着が不十分となって,塗膜強度が損なわれてしまう。粒子自体の針状性が損なわれると,塗膜面内方向の強度が損なわれてしまう。
【0010】
そこで,これらを改善するため,AlやSiに代表される各種の元素を焼結防止剤として使用し,これらをオキシ水酸化鉄中に含有,被覆させることで高温での焼成時の焼結を抑制しようとしてきた。しかし,その焼結防止効果も完全ではなく,現状では,望まれる特性を示す下層用粉末を得るに至っていない。例えば特開平10−241148号公報では,Alを内部に含有させること,さらに表面にAlまたはSiの少なくとも1種を被覆することによって焼結防止を図っているが,これだけでは十分な効果を得るに至っていない。
【0011】
さらに,求められるテープ特性が得られていない他の原因の1つとして,粉体表面が示すpH値(粉体pH)が高いことがあげられる。針状の酸化鉄粉末においては,その前駆体であるオキシ水酸化鉄は一般的にアルカリ側で生成する。このため,これを原料として得られる針状の酸化鉄粉末もpH値がアルカリ側を示す傾向にある。
【0012】
しかし,最近の研究の結果,酸化鉄粉末を含有分散させた下層用の塗料においては,その粉末の表面がアルカリ性であると,それを用いて塗料にした場合,その塗料中に存在する成分特に潤滑剤(脂肪酸等)と反応を生じてしまうことがわかってきた。この反応によって潤滑剤が不足すると,テープの表面性が悪化し,また実用の際には摩擦係数が高くなり,テープ走行時,耐久性が低下するという問題が起きている。そこで,下層用の酸化鉄粉体のpHとしては,酸性側であることが望まれるが,上記の理由から,下層用酸化鉄粉末としては,アルカリ側のものが一般的であり,このような問題を生じる原因となっていた。
【0013】
したがって本発明は,このような問題の解決を図り,重層構造の塗布型磁気記録媒体における下層用粉末に要求される諸特性を満足すること,とくに表面平滑性と塗膜強度が向上する下層用酸化鉄粉末を得ることを課題としたものであり,ひいては高容量で信頼性の高い重層構造記録媒体を得ることを課題としたものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば,平均長軸長が20〜200nmの範囲内にある針状の酸化鉄粒子からなる粉末であって,BET法による比表面積が30〜100m2/gで粉体pHが7以下である塗布型磁気記録媒体の下層用粉末を提供する。本発明に従う下層用粉末は好ましくはPを0.1〜5.0wt%含有し,またR(RはYを含む希土類元素の1種または2種以上)を,R/Feの原子比百分率( at.%)で0.1〜10 at.%含有する。この下層用粉末を用いることによって高記録密度化に適した耐久性のある磁気記録媒体を得ることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は,重層構造の塗布型磁気記録媒体の非磁性層を形成するための下層用粉末として,平均長軸長:20〜200nm,BET法による比表面積:30〜100m2/g,粉体pH:7以下の針状の酸化鉄粒子からなる粉末を用いる点に特徴がある。この下層用粉末は,その前駆体原料である針状のオキシ水酸化鉄をリン化合物,またはリン化合物と希土類金属化合物で表面処理してから,焼成することによって得られる。
【0016】
針状の酸化鉄は,湿式反応で生成させた針状のオキシ水酸化鉄を高温で焼成することによって得られるが,前記のように,高温で処理を行うために粒子間の焼結や粒子自体の針状性の低下が生じるが,この問題は,リン化合物を被覆したオキシ水酸化鉄またはリン化合物と希土類金属化合物を被覆したオキシ水酸化鉄を焼成して酸化鉄粉末とすれば解決できることがわかった。その結果,下層を形成するための樹脂への分散が良好になってテープの表面平滑性が向上し,さらに酸化鉄の表面にPまたはPおよびRが存在することで酸化鉄粒子の表面特性が改質され,樹脂との接着性が良好となって塗膜の強度が向上することがわかった。
【0017】
従来よりオキシ水酸化鉄中にAlなどを粒子内部に固溶させることで,焼結防止効果の向上をはかろうとしたものがあった。しかし,オキシ水酸化鉄粒子の内部に他元素か固溶すると,オキシ水酸化鉄から酸化鉄になる脱水温度が高温側にシフトする結果,より高い温度で焼成することになっていた。本発明では,オキシ水酸化鉄粒子の内部に他元素を含有させるようなことはせず,該粒子の表面にリン化合物またはリン化合物と希土類金属化合物を被覆して焼成する。これにより,低温から脱水反応を進行させることができ,ひいては焼成温度を低く設定することができ,粒子間の焼結を抑えることができる。リン化合物のみでも,従来のAlやSiを用いた場合よりも焼結防止効果に改善されるが,リン化合物と希土類金属化合物を用いると焼結防止剤として極めて優れた効果を示すことがわかった。
【0018】
このようにして,リン化合物と更には希土類金属化合物で表面処理された酸化鉄粒子粉末は,これを下層用粉末として用いた場合に,テープの表面平滑性とテープ耐久性の両者を向上させることができることから,この上に極薄の磁性層を塗布した場合にも,磁性層の表面平滑性が良好となって,優れた電磁変換特性を有すると共に,薄層化したテープにおいて強度も十分な磁気テープが得られるので,重層構造の塗布型磁気記録媒体にとって非常に好ましい下層用粉末となり得る。そして,この酸化鉄粉末は粉体pHが7以下を示すことができる点でも,有利である。
【0019】
下層用粉末の必要特性の一つに粉体pHがある。粉体pHが変化すると,該粉末と塗料中の潤滑剤との吸着挙動に影響を与える。塗布型磁気記録媒体を製造するための,下層用粉末や磁性粉末を含有分散した塗料中には,いわゆる潤滑剤と呼ばれる脂肪酸類が添加されている。この潤滑剤は塗膜になった状態でテープ表面とヘッドとの干渉を少なくする役割を果たし,テープの耐久性を向上させる。このような潤滑剤として,酸性物質である脂肪酸類が一般的に使用されているので,下層用粉末の粉体pHがアルカリ側である場合,該塗料中において,酸性の潤滑剤との反応が進行しやすく,この反応が起きると潤滑剤本来の潤滑作用が発揮できなくなる。このため,下層用粉末としては,脂肪酸類と吸着が起きないような表面性質を有することが望ましく,具体的には,下層用粉末の粉体pHは7以下,好ましくは酸性側であるのがよい。
【0020】
本発明に従う下層用粉末は,リン化合物を被覆したオキシ水酸化鉄を焼成したものであるから,その粉体pHは7以下を示す。このため,前記のように潤滑剤の作用を劣化させることがなく,また塗料との相溶性(なじみ性)の改善にも大きな効果があり,前記の焼結防止の作用に加えて,この点からも,テープにした際の表面平滑性の向上と走行耐久性の向上が確認された。このように,本発明の下層用粉末の粉体pHは7以下である点に特徴があるが,あまり低pHであると,周囲の物質(例えば磁性層の金属磁性粉末)に対する好ましくない影響が考えられるため,pH3以上,好ましくは4以上であるのがよく,したがって本発明の下層用粉末の好ましい粉体pHの範囲は4〜7程度である。
【0021】
本発明に従う下層用粉末は平均長軸長(TEM写真の視野内において無作為に選んだ100個の粒子について測定した長軸長の平均値)が20〜200nm,好ましくは50〜160nm,より好ましくは50〜120nmである。一般に塗料に分散可能であれば,針状酸化鉄粒子の平均長軸長は小さいほど,テープ化したときにテープ表面を平滑化できる。本発明の下層用粉末は,求められる表面平滑性にもよるが,前記範囲の平均長軸長を有する微粒子であるためテープの表面平滑化に寄与する。軸比については2〜10のものがよく,好ましくは3〜8,さらに好ましくは4〜8である。このように軸比が高いことで,塗布時にベースフィルムの面内方向に配列し,さらに粒子同士がからまり合った状態となり,このことがテープの表面平滑化とテープ強度に寄与する。また,本発明に従う下層用粉末の比表面積は,BET法で30〜100m2/g,好ましくは35〜80m2/g,より好ましくは35〜70m2/gである。比表面積がこの値より高くなると塗料中での分散不良が生じ,また30m2/gより低いものは凝集や焼結を伴った粉末となるため,好ましいことではない。
【0022】
本発明に従う下層用粉末を製造するには,下記のようにして作製したオキシ水酸化鉄を焼成すればよい。
【0023】
オキシ水酸化鉄を製造する方法としては,(1)第一鉄塩水溶液に当量以上の水酸化アルカリ水溶液を加えて得られる水酸化第一鉄コロイドを含む懸濁液をpH11以上にて80℃以下の温度で酸素含有ガスを通気して酸化反応を行い,これによって液中にオキシ水酸化鉄を生成させる方法,(2)第二鉄塩水溶液に,鉄に対し1.0〜3.5当量の水酸化アルカリ水溶液を加えて得られる水酸化第二鉄コロイドを含む懸濁液を10〜90℃で生成させ,その後2〜20時間熟成してから加水分解することによりオキシ水酸化鉄粉体を生成させる方法,または(3)第一鉄塩水溶液に炭酸アルカリ水溶液を加え,さらにアルカリ水溶液を加えるかまたは加えずして,得られる懸濁液に酸素含有ガスを通気して酸化反応を行い,液中にオキシ水酸化鉄を生成させる方法,などのいずれの方法でもよい。
【0024】
どの製法による針状オキシ水酸化鉄を用いても,以下に述べるようにリン化合物,さらには希土類元素化合物を被着することによって,焼成時の焼結防止を図ることができる。
【0025】
まず,上記(1)または(3)の酸化反応もしくは(2)の加水分解反応が終了したオキシ水酸化鉄が分散懸濁している水溶液を,激しく攪拌した状態にする。そこに規定濃度のリン含有水溶液の添加を行う。この激しく攪拌を行うこと,そして添加後の攪拌時間も長めにとることで,被着の均一化が促進させる。さらにRを被着させる場合には,その後,Yを含む希土類元素の硫酸水溶液を規定量,反応槽に添加する。この場合も,激しく攪拌を行うこと,添加後の攪拌時間も長めにとっておくで,被着の均一化が促進される。
【0026】
別法として,予め用意してあるオキシ水酸化鉄を純水中に加えて攪拌することによって懸濁液を作製し,この懸濁液に対して前記と同様の被着処理を行っても良い。しかし,この場合は,該懸濁液が中性付近を示すため,希土類金属化合物の被着時に水酸化物が生成せず,被着ができない場合がある。この場合は,液中に適当なアルカリを入れて懸濁液をアルカリ側として処理を行うのがよい。
【0027】
得られたリン化合物,更には希土類元素化合物を被着したオキシ水酸化鉄は,これを液から濾過し,水洗し乾燥するが,水洗において,ろ液が中性付近になるまで,十分に洗い流すのがよい。これは,リン分は被着される量に限度があるため,未被着のリン分が共存しやすく,この未被着のリン分の除去が不十分であると,テープにしたときに表面平滑性の低下につながるからである。
【0028】
さらに別法として,上記(1)または(3)の酸化反応もしくは(2)の加水分解反応が終了して,オキシ水酸化鉄が分散懸濁している水溶液が得られたならば,その水溶液を激しく攪拌した状態にし,そこにYを含む希土類元素の硫酸水溶液を規定の量で添加し,攪拌を続ける。この添加時に激しく攪拌を行うこと,添加後の攪拌時間も長めにすることで,Yを含む希土類元素の被着の均一化が促進される。得られたYを含む希土類元素被着オキシ水酸化鉄の懸濁液について,濾過,水洗を行い,その後,その濾過水洗物に規定濃度のリン含有水溶液を浸透させることにより,リンを被着させ,水洗,乾燥を行う。その水洗においては,前記同様に,ろ液が中性付近になるまで,十分に洗い流すのがよい。また,乾燥に関しては,含有する水分を除去するのが目的であるため,加熱温度等の条件に特に規定はないが,80〜350℃程度の温度範囲であれば十分な乾燥もしくは脱水まで行うことができる。高温ほど,乾燥,脱水の速度を早くすることができる。
【0029】
使用できるリン化合物としては,リン酸,メタリン酸,二リン酸,リン酸塩例えばリン酸アンモニウム,リン酸二水素アンモニウム等を挙げることができる。リン被覆量としては,どのようなリン化合物を使用しようとも,リン元素の酸化鉄中での含有量として0.01〜5.0wt%の範囲であるのがよい。0.01wt%未満では,リン被覆による焼結防止効果が不十分となり,表面平滑性の優れた下層とならず,また,十分な塗膜強度も得られない。他方,5.0wt%を越えるリン量では,焼結防止効果としては十分であるが,比表面積の高い酸化鉄粉末となり,塗料化し分散する際に分散不良を生じやすくなって下層用粉末として不適当なものとなることのほか,塗膜にしたときに遊離したリン化合物が存在するようになり,この遊離のリン化合物が塗膜組成物の一部となって塗膜に悪影響を与えるので,あまり好ましくない。
【0030】
使用できる希土類元素としては,特に制限はなくどの元素を使用しても本発明の効果は確認できるが,YとLaを用いたときが,Pとの焼結防止効果の相乗作用が大きくなるので,YとLaが適している。希土類元素の酸化鉄中での含有量としてはR/Feの原子比百分率( at.%)で0.1〜10 at.%の範囲であるのがよい。0.1 at.%未満では,R被覆による焼結防止効果が不十分となり,表面平滑性の優れた下層とならず,また,十分な塗膜強度も得られない。他方,10 at.%を越える場合は,被覆後のオキシ水酸化鉄粒子が凝集し易くなり,その後工程の焼成時に,焼結を生じやすくなるため,好ましくない。
【0031】
このようにして,表面にリン化合物,更には希土類元素化合物を被覆したオキシ水酸化鉄を得たあとは,これを焼成して酸化鉄粉末とする。焼成処理は,大気中で300〜900℃,好ましくは400〜700℃で行えばよい。処理時間は10〜60分程度でよく,あまり長すぎると焼結が進行する。この焼成処理にあたっては,内部に滞留する水蒸気についても注意が必要で,オキシ水酸化鉄から酸化鉄に変化する際に発生する水分が悪影響を及ぼさないように,できる限り水蒸気濃度を下げるように雰囲気の調整を行うのがよい。そして,所定の処理が終了したら,大気の常温中に取り出し,冷却することで針状の酸化鉄粉末を得ることができる。
【0032】
焼成中の雰囲気については,雰囲気中の水蒸気濃度の管理のほか,酸素濃度の管理も必要である。焼成初期には低酸素濃度での焼成を行うと,より焼き締まりのある酸化鉄を生成させることができる。したがって,焼成初期は低酸素濃度もしくは無酸素の雰囲気とするのがよい。
【0033】
そのさい,前述したように,リン化合物更には希土類元素化合物がオキシ水酸化鉄粒子の表面に被着しているので,Al等の元素が内部に含有されている場合と比較して,オキシ水酸化鉄から酸化鉄になる脱水反応が低温で進行する結果,さらには表面にこれら化合物が存在する結果,粒子間の不必要な焼結を抑制することができる。したがって,このようにして得られたリンと希土類元素が表面に被覆された酸化鉄粉末は,塗膜にした際に表面平滑性が極めてよく,さらに,塗膜強度,耐久性の優れたものとなり,高容量記録媒体に適した下層用非磁性粉末となる。
【0034】
本発明に従う針状の酸化鉄粉末は,前記に加えて,さらに次の特性を有するものが好ましい。
【0035】
〔ステアリン酸吸着量〕:0.1〜3.0mg/m2,好ましくは0.1〜2.0mg/m2,より好ましくは0.1〜1.5mg/m2である。ステアリン酸吸着量が少ないほど,下層粉末が塗料中に分散された際に,潤滑剤(脂肪酸)を吸着する量が少ないことを意味しており,ステアリン酸吸着量が少ないほど潤滑剤に悪影響を与えないので,潤滑剤によるテーブ耐久性の効果を維持することができる。
【0036】
〔樹脂吸着量(MR)〕:0.1〜3mg/m2,好ましくは0.5〜3mg/m2,更に好ましくは1〜3mg/m2である。樹脂吸着量(MR)が高いことは,樹脂との接着性が良いことを示し,塗膜強度も向上する。よって,樹脂吸着量は高い方がよい。
【0037】
〔樹脂吸着量(UR)〕:0.1〜4mg/m2,好ましくは1.0〜4mg/m2,更に好ましくは2〜4mg/m2である。上記の樹脂吸着量(MR)と同じ理由により,樹脂吸着量(UR)も高い方がよい。
【0038】
〔鋼球摺動:傷幅〕:190μm以下,好ましくは170μm以下,さらに好ましくは,150μm以下である。傷幅が小さいほど,塗膜が強いことを示している。
【0039】
〔鋼球摺動:走行耐久性〕:600pass以上,好ましくは900pass以上である。走行耐久性は,塗膜の強度に加え,塗膜中の潤滑剤の作用も影響する。できるだけ多くの回数の摺動運動に対して安定でいられる塗膜であるのがよい。
【0040】
重層構造の磁気記録媒体において,本発明に従う針状の酸化鉄粉末を用いて下層を形成する場合,上層の磁性層を構成する磁性粉末,塗料組成物,ベースフィルムについては,次のものが例示できる。
【0041】磁性層を構成する磁性粉末としては,
Co:5超え〜50 at.%,
Al:0.1〜50 at.%,
希土類元素(Yを含む):0.1〜30 at.%,
周期律表第1a族元素(Li,Na,K等):0.05重量%以下,
周期律表第2a族元素(Mg,Ca,Sr,Ba等):0.1重量%以下,
を含有した鉄を主体とする強磁性粉末であって,
平均長軸長:10〜200nm,
比表面積がBET法で30〜150m2/g,
X線結晶粒径(Dx):50〜200オングストローム,
の形状を有する針状の強磁性粉末であり,且つ
保磁力(Hc):1000〜3000Oe,
飽和磁化(σs):10〜200emu/g
の磁気特性を有する磁性粉末を挙げることができる。
【0042】
重層構造の磁気記録媒体を形成するためにのベースフイルムとしては,ポリエチレンテレフタラート,ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類,ポリオレフィン類,セルローストリアセテート,ポリカーボネイト,ポリアミド,ポリイミド,ポリアミドイミド,ポリスルフォン・アラミド,芳香族ポリアミド,等の樹脂フィルムを挙げることができる。
【0043】
磁性層(上層)を形成するための磁性塗料としては,
金属磁性粉末 100重量部
カーボンブラック 5重量部
アルミナ 3重量部
塩化ビニル樹脂(MR110) 15重量部
ポリウレタン樹脂(UR8200)15重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
からなる組成の磁性塗料を挙げることができる。
【0044】
非磁性層(下層)を形成するための非磁性塗料としては,
非磁性粉末α−Fe2O3 85重量部
カーボンブラック 20重量部
アルミナ 3重量部
塩化ビニル樹脂(MR110) 15重量部
ポリウレタン樹脂(UR8200)15重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
からなる組成の非磁性塗料を挙げることができる。
【0045】
いずれの塗料においても,各材料を該組成となるような割合で配合し,ニーダーおよびサンドグラインダーを用いて混練分散を行うことによって塗布液に調整でき,得られた塗料をベースフイルム上にそれぞれ目標厚みとなるように塗布したあと,磁性層が湿潤状態にあるうちに,磁場をかけて磁性層を配向させ,ついで乾燥,カレンダーを行うことによって磁気テープが作製できる。上に例示した強磁性粉末,ベースフィルム,塗料組成物を使用し,且つ本発明に従う下層用粉末を使用した非磁性層を形成することによって,従来のものにはない,高密度記録に適した高性能の磁気記録媒体を製造できる。
【0046】
【実施例】
以下に本発明の代表的な実施例を挙げるが,その前に,各実施例における特性値の測定について説明する。
【0047】
・平均長軸長,平均短軸長及び軸比:いずれも174000倍の電子顕微鏡写真から不作為に抽出した100個の粒子について測定した値の平均を採った。
・比表面積:BET法で測定した。
・粉体pH:JIS K5101に従って測定した。
・ステアリン酸吸着量:試料粉末をステアリン酸2%溶液(溶媒はMEK)に分散させた後,遠心分離機により試料粉末を沈ませ,上澄み液の濃度を求めることにより比表面積当たりの吸着量として算出した。
・樹脂吸着量(MR):塩ビ系樹脂(MR−110)の1%の溶液(溶媒はMEKとトルエン)を使用し,ステアリン酸吸着量と同様の方法で算出した。
・樹脂吸着量(UR):ポリウレタン樹脂(UR−8200)の2%溶液(溶媒はMEK,トルエンおよびMIBK)を使用し,ステアリン酸吸着量と同様の方法で算出した。
【0048】
塗膜粘度およびテープの評価については,得られた酸化鉄粉末を下記の塗料化条件で塗料化し,下記の条件で下層テープを作製したものについて評価した。
【0049】
・塗料化条件
酸化鉄粉末 100重量部
塩ビ系樹脂 10重量部
ポリウレタン樹脂 10重量部
メチルエチルケトン 165重量部
シクロヘキサノン 65重量部
トルエン 165重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
の成分組成となるように各材料を配合し,これを遠心ボ−ルミルで1時間分散させて得た塗料を,ポリエチレンテレフタラ−トからなるベ−スフィルム上にアプリケ−タ−を用いて,目標厚みが約3μmとなるように塗布して非磁性の下層(下層テープ)を形成した。
【0050】
・塗料粘度:株式会社東機産業製の粘度計(R110型)を用いて分散塗料の粘度を測定した。
・表面平滑性(表面粗度):株式会社小坂研究所製の3次元微細形状測定機(ET−30HK)を用いて,下層テープの表面のRa(粗度)を測定することにより評価した。
・表面平滑性(光沢度):下層テープをグロスメータで角度60度で光沢度を測定した。
・塗膜強度(鋼球摺動):下層テ−プの塗布面が上になるようにガラス板に貼りつけ,水平な場所にガラス板を置き,テープの塗布面に直径5mmのステンレス鋼球をのせ,鉛直方向に5gの荷重がかかるようにする。この状態からガラス板を水平に定速2320mm/minで,片道20mmで300回の往復運動をさせる。この操作の後に,SUS鋼球によりテープ表面に残された傷を光学顕微鏡で観察し,傷幅を測定した。また,テープが剥離するまでのパス回数を測定し,これを摺動回数とした。
・走行耐久性(鋼球摺動):上記の鋼球摺動において,塗膜が剥がれ落ちるまでの摺動回数を測定する。
【0051】
〔実施例1〕
平均長軸長が100nmでBET法による比表面積が125m2/gのオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)71gを純水4リットルに入れ,20wt%のNH3水を200g添加して液をアルカリ側にしたうえ,液の温度を35℃に保ちながら激しく攪拌し,その状態を30分間保持する。次いで攪拌状態のまま,Yが2.0wt%の硫酸イットリウム水溶液を35.56g添加し,15分間攪拌する。その後,攪拌状態のまま,Pが2.0wt%のリン酸水溶液を53.31g添加し,攪拌を30分間続けて反応を終了する。
【0052】
このように表面処理したオキシ水酸化鉄含有のスラリーをろ過,水洗し,得られた湿った粉末を110℃の大気中で,水分の発生がなくなるまで乾燥を行い,イットリウム化合物とリン化合物が被覆されているオキシ水酸化鉄を得る。
【0053】
次に,このオキシ水酸化鉄の焼成を行うが,まず,管状炉において600℃の温度で5L/minのAirを導入した状態を整える。ここに,前記の表面処理を施したオキシ水酸化鉄50gをアルミナボートに載せて管状炉の中に装入し,この状態を30分保持する。その後,アルミナボートごと,大気の室温中に取り出し酸化鉄粉末を得る。
【0054】
得られた酸化鉄粉末を化学分析して得た含有成分の組成と,前記のようにして測定したこの粉末の諸特性,並びにこの粉末を用いた下層テープについてのテープ特性の測定結果を表1に示した。
【0055】
〔実施例2〕
硫酸イットリウム水溶液の添加を行わなかった以外は,実施例1を繰り返し,得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行った。それらの測定結果を表1に示した。
【0056】
〔比較例1〕
本例は,リン化合物や希土類元素化合物に代えて,アルミニウム化合物で表面を被覆したオキシ水酸化鉄を製造し,これを焼成して酸化鉄粉末を得る比較例である。
【0057】
実施例1で用いたのと同じ原料オキシ水酸化鉄71gを純水4リットル中に入れ,20wt%のNH3水を200g添加して液をアルカリ側にしたうえ,液の温度を35℃に保ちながら激しく攪拌し,その状態を30分間保持する。ついで攪拌状態のまま,Alが0.85wt%の硫酸アルミニウム水溶液を83.62g添加し,攪拌を30分間続けて反応を終了する。
【0058】
この後は,実施例1と同様にろ過,水洗,乾燥,焼成を行ない,得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行った。それらの測定結果を表1に示した。
【0059】
〔比較例2〕
本例は,リン化合物や希土類元素化合物に代えて,Si化合物で表面を被覆したオキシ水酸化鉄を製造し,これを焼成して酸化鉄粉末を得る比較例である。
【0060】
実施例1で用いたのと同じ原料オキシ水酸化鉄71gを純水4リットル中に入れ,液の温度を35℃に保ちながら激しく攪拌し,その状態を30分間保持する。ついで攪拌状態のまま,Siが2.0wt%の水ガラス水溶液を35.54g添加する。その後,攪拌を続けながら0.1モル/LのHClを添加してpHを6とし,Si化合物のゲル化による表面被着を進め,この状態を30分間保持して反応を終了する。
【0061】
この後は,実施例1と同様にろ過,水洗,乾燥,焼成を行ない,得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行った。それらの測定結果を表1に示した。
【0062】
〔比較例3〕
硫酸イットリウム水溶液の添加だけを行ない,リン酸水溶液の添加を行わなかった以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行なった。それらの測定結果を表1に示した。
【0063】
〔比較例4〕
実施例1で用いたのと同じ原料オキシ水酸化鉄を,表面処理することなくこれを直接実施例1と同じ条件で焼成し,得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行なった。それらの測定結果を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から,次のことがわかる。
【0066】
(1)Pを含む実施例2の酸化鉄粉末は,焼結防止効果が現れた結果,その下層テープの表面平滑性が向上している。PにYを加えた実施例1では,さらに焼結防止効果が現れ,下層テープの表面平滑性が著しく向上している。
【0067】
(2)Pを含む実施例1と2の酸化鉄粉末は粉体pHが低くなり,表面が酸性を示す。これによって,脂肪酸吸着量(StA.吸着量)が低くなっており,塗膜中で酸化鉄粉末と潤滑剤(脂肪酸)の吸着反応が起こりにくくなっている。その結果,テープ中の潤滑剤の本来作用が十分に働き,テープ耐久性が良好である。すなわち,Pを含まない比較例のものに比べて鋼球摺動の傷幅が小さく,摺動パス回数が大きくなっており,Pを含むことでテープ耐久性が大きく改善されたことがわかる。
【0068】
(3)Yだけを含む比較例3のものは無添加の比較例4のものに比べると下層テープの表面平滑性が改善されているが,テープの耐久性の改善にもつながっているが,Pを含む実施例1のものに比べると,その効果は低い。しかし,実施例1のようにPと組合せてYを含むと,Y単独,P単独以上の相乗的な効果が奏され,下層テープの表面性質とテープ耐久性が大きく向上する。
【0069】
〔実施例3〕
本例は,実施例1で得られた下層用粉末を非磁性層とし,下記の金属磁性粉末を磁性層とした重層構造の磁気テープを作成して,電磁変換特性とテープ耐久性の評価を行ったものである。
【0070】
非磁性層の塗料は,実施例1の下層用粉末85重量部に対し,下記の成分を下記の割合で配合し,ニーダーおよびサンドグラインダーを用いて,混練,分散を行った。
〔非磁性塗料の組成〕
実施例1の下層用粉末(α−Fe2O3)85重量部
カーボンブラック 20重量部
アルミナ 3重量部
塩化ビニル樹脂(MR110) 15重量部
ポリウレタン樹脂(UR8200) 15重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
【0071】
磁性層の塗料は,下記の金属磁性粉末100重量部に対し,下記の成分を下記の割合で配合し,ニーダーおよびサンドグラインダーを用いて,混練,分散を行った。
〔金属磁性粉末〕
長軸長:60nm
BET:63m2/g
Dx :140オングストローム
Hc :2100(Oe)
σs :123emu/g
〔磁性塗料の組成〕
前掲の金属磁性粉末 100重量部
カーボンブラック 5重量部
アルミナ 3重量部
塩化ビニル樹脂(MR110) 15重量部
ポリウレタン樹脂(UR8200)15重量部
ステアリン酸 1重量部
アセチルアセトン 1重量部
メチルエチルケトン 190重量部
シクロヘキサノン 80重量部
トルエン 110重量部
【0072】
これらの塗料をアラミド支持体からなるベースフイルム上にそれぞれ,非磁性層厚(下層厚)2.0μm,磁性層厚が0.20μmの目標厚みとなるように塗布し,磁性層が湿潤状態にあるうちに,磁場をかけ配向させ,乾燥,カレンダーを行って磁気テープを作製した。
【0073】
得られた磁気テープについて既述の方法で表面平滑性(粗度)およびテープ耐久性(鋼球摺動のパス回数)の試験を行うと共に電磁変換特性(C/Nおよび出力)を測定した。C/N比の測定は,記録ヘッドをドラムテスターに取り付けて,デジタル信号を,記録波長0.35μmで記録した。そのさい,MRヘッドを使用し,再生信号を測定し,ノイズは変調ノイズを測定し,比較例5の出力,C/Nを0dBとして,その相対値で表示した。それらの結果を表2に示した。
【0074】
〔比較例5〕
下層用粉末として前記の比較例1でえられたものを使用した以外は,実施例3を繰り返した。得られた磁気テープの表面平滑性(粗度),テープ耐久性(鋼球摺動のパス回数)および電磁変換特性を表2に示した。
【0075】
【表2】
【0076】
表2の結果から,本発明に従う下層用粉末は,重層構造にしたときのテープ表面平滑性が極めて良好であり,その結果,高い出力と高いC/Nを示し,高密度記録媒体として好適なものであることがわかる。また磁気テープの耐久性にも優れており,ヘッドとの摺動に対しても優れた耐久性を示す。
【0077】
〔実施例4〕
最初に用いるオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)を,平均長軸長が30nmでBET法による比表面積が195m2/gのものに代えた以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0078】
〔実施例5〕
最初に用いるオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)を,平均長軸長が210nmでBET法による比表面積が70m2/gのものに代えた以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0079】
〔比較例6〕
最初に用いるオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)を,平均長軸長が20nmでBET法による比表面積が230m2/gのものに代えた以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0080】
〔比較例7〕
最初に用いるオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)を,平均長軸長が280nmでBET法による比表面積が49m2/gのものに代えた以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0081】
〔実施例6〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液の添加量を277.21gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0082】
〔実施例7〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液の添加量を191.92gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0083】
〔実施例8〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液の添加量を28.43gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0084】
〔実施例9〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液の添加量を14.22gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0085】
〔比較例8〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液の添加量を312.75gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0086】
〔実施例10〕
Yが2.0wt%の硫酸イットリウム水溶液の添加量を7.11gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0087】
〔実施例11〕
Yが2.0wt%の硫酸イットリウム水溶液の添加量を284.48gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0088】
〔比較例9〕
Yが2.0wt%の硫酸イットリウム水溶液の添加量を533.40gに変更した以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0089】
〔実施例12〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液を,硫酸が2.0wt%の硫酸水溶液に代えた以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0090】
〔実施例13〕
Pが2.0wt%のリン酸水溶液を,塩酸が2.0wt%の硫酸水溶液に代えた以外は,実施例1を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0091】
〔実施例14〕
平均長軸長130nmでBET法による比表面積が85m2/gのオキシ水酸化鉄(α−FeOOH)71gを純水4リットルに入れ,20wt%のNH3水を200g添加して激しく攪拌し,液をアルカリ側とした懸濁液を準備する。
【0092】
この懸濁液に,Yが2.0wt%の硫酸イットリウム水溶液を35.56g添加し,15分間分攪拌する。得られたイットリウム含有オキシ水酸化鉄の懸濁液について,濾過,水洗を行う。その後,得られた濾過水洗物に,Pが2.0wt%程度のリン含有水溶液を浸透させ,オキシ水酸化鉄中のリン含有量が1.4wt%となるように浸透時間を調整し,リンを被着させる。その後,水洗し,次いで脱水乾燥を300℃で行い,イットリウム化合物とリン化合物が被覆されているオキシ水酸化鉄を得る。
【0093】
次に,このオキシ水酸化鉄の焼成を行うが,この焼成は,管状炉において,まず590℃の温度で水蒸気10%を含有する窒素ガス中で20分程度の加熱処理し,次いで同じく590℃の温度で,空気雰囲気中で20分の加熱処理を行い,その後は,大気の室温中に取り出して酸化鉄粉末を得る。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0094】
〔実施例15〕
オキシ水酸化鉄中のリン含有量が0.8wt%となるように,りん含有水溶液に浸透させる濾過水洗物の浸透時間を調整した以外は,実施例14を繰り返した。得られた酸化鉄粉末の評価を実施例1と同様に行い,それらの結果を表3に示した。
【0095】
【表3】
【0096】
表3の結果から(表1も参照)次のことがわかる。
【0097】
(1)酸化鉄(ヘマタイト)粉末の平均長軸径について見ると,比較例6,実施例4,実施例1,実施例5,比較例7の順に平均長軸径が大きくなっているが,比較例6の平均長軸径が20nmを切る微粒子では,BET法による比表面積が112m2/gと非常に高くなり,塗料化の際,粘度が高くなりすぎて,その後の塗布が困難(テープ化不可能)という結果となっている。逆に,比較例7の平均長軸径が246nmの粒子では,粗粒子であるために表面平滑性が損なわれる結果となっている。これに対して,平均長軸径が20〜200nmの範囲にある実施例のものは良好な結果が得られている。すなわち,表面平滑性とテープ耐久性の優れた下層材としては,粒子の平均長軸長は20〜200nmが好適であることが分かる。
【0098】
(2)酸化鉄(ヘマタイト)粉末のリン含有量について見ると,比較例8,実施例6,実施例7,実施例1,実施例8,実施例9,比較例3の順にリン含有量が少なくなっているが,リン含有量が多い比較例8などでは,BET法による比表面積がが増加傾向を示し,このために塗料化のさいに分散が不十分となり,結果としてテープの表面平滑性が低下する傾向を示している。逆にリン含有量を減らしていくと,焼成時の焼結防止効果が不十分となり,粒子間の焼結が生じて,やはり塗料化のさいに分散がしにくくなり,表面平滑性が損なわれるという結果となっている。また,そのときは,塗膜強度の効果が十分には現れずに,テープ耐久性が損なわれる結果となっている。よって,表面平滑性とテープ耐久性の優れた下層材としてのリン含有量は,0.1〜5.0wt%の範囲が好適であることがわかる。
【0099】
(3)実施例12と13は,リン酸を用いず,硫酸および塩酸で処理することによって酸化鉄(ヘマタイト)の粉体pHを下げた例を示しており,この硫酸または塩酸でpHを下げても,酸処理を行わない比較例3との比較では,ある程度の焼結防止効果を示し,表面平滑性が改善していることがわかる。しかし,この硫酸または塩酸を用いたものでは,リン酸を用いた実施例1のものよりも,焼結防止効果が低下し,表面平滑性が低下する結果となっている。また実施例12または13のもののテープ耐久性については,ステアリン酸吸着量が低下を示すことより,鋼球摺動による傷幅の減少,パス回数の増加の傾向が確認できる。よって,表面平滑性とテープ耐久性の優れた下層材としては,粉体pHを7以下とすることが好適であり,このための含有物質としては,硫黄,塩素,リンが挙げられるが,中でも,リンが好適であることがわかった。
【0100】
(4)実施例14と15は,濾過後の含水物質にリン酸液を浸透させる方法を採用した点が,実施例1の液中反応によるリン酸処理とは異なるが,このリン酸液の浸透法でも,実施例1と同様に表面平滑性およびテープ耐久性の優れた下層材が得られることがわかる。
【0101】
【発明の効果】
以上説明したように,本発明によると,重層構造の塗布型磁気記録媒体における下層用粉末に要求される諸特性,とくに,テープの表面平滑性とテープ強度を向上させることができる酸化鉄粉末が得られる。したがって,本発明の酸化鉄粉末を重層構造の塗布型磁気記録媒体の下層用粉末として用いることにより,高記録密度に適した耐久性のある記録媒体を得ることができる。
Claims (4)
- 平均長軸長が20〜200nmの範囲内にある針状の酸化鉄粒子からなる粉末であって,BET法による比表面積が30〜100m2/gで粉体pHが7以下である塗布型磁気記録媒体の下層用粉末。
- Pを0.1〜5.0wt%含有する請求項1に記載の塗布型磁気記録媒体の下層用粉末。
- R(RはYを含む希土類元素の1種または2種以上)を,R/Feの原子比百分率( at.%)で0.1〜10 at.%含有する請求項1または2に記載の塗布型磁気記録媒体の下層用粉末。
- 磁性粉末を樹脂中に分散させた磁性層とベースフイルムとの間に,非磁性粉末を樹脂中に分散させた非磁性層(下層)を設ける重層構造の塗布型磁気記録媒体において,前記の非磁性粉末として請求項1ないし3のいずれかに記載の下層用粉末を用いたことを特徴とする塗布型磁気記録媒体。
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JP2003095229A JP2004005931A (ja) | 2002-04-03 | 2003-03-31 | 塗布型磁気記録媒体の下層用粉末およびこれを用いた磁気記録媒体 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2007042185A (ja) * | 2005-08-02 | 2007-02-15 | Dowa Holdings Co Ltd | 非磁性粉末および重層磁気記録媒体 |
US7425378B2 (en) | 2004-07-26 | 2008-09-16 | Tdk Corporation | Magnetic recording medium |
-
2003
- 2003-03-31 JP JP2003095229A patent/JP2004005931A/ja active Pending
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JP2007042185A (ja) * | 2005-08-02 | 2007-02-15 | Dowa Holdings Co Ltd | 非磁性粉末および重層磁気記録媒体 |
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