JP2004004012A - 構造異性体の分離方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】分子の分離力に優れた、新たな液体クロマトグラフィー固定相を提供すること。
【解決手段】キトサンを長鎖二塩基酸グリシジルエステルで化学修飾して得られる架橋キトサンは、化合物の分離に用いられている従来のキトサンの誘導体あるいはODSなどと比較して、分子サイズによる分離能、あるいは構造異性(立体異性)などの分子形状の識別・分離能が優れており、液体クロマトグラフィー用固定相として有用である。長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとしては、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)または8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)が好ましく用いられる。
【選択図】 なし
【解決手段】キトサンを長鎖二塩基酸グリシジルエステルで化学修飾して得られる架橋キトサンは、化合物の分離に用いられている従来のキトサンの誘導体あるいはODSなどと比較して、分子サイズによる分離能、あるいは構造異性(立体異性)などの分子形状の識別・分離能が優れており、液体クロマトグラフィー用固定相として有用である。長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとしては、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)または8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)が好ましく用いられる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な液体クロマトグラフィー用の固定相およびこの固定相を用いて、分子サイズにより、あるいは分子形状の相違により、化合物を分離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キトサンは、甲殻類、昆虫の外殻、微生物の細胞壁などの主成分として自然界に分布するキチンを脱アセチル化したものである。甲殻類から得られたキトサンは、食品、医薬品などの原料として使用されるだけではなく、イオン交換体、銅、クロム、錫などの重金属吸着剤、酵素の固定化担体などとして、広く用いられている。分離科学の分野においても、アミノ基を化学修飾したキトサンを固定相として、金属イオン、生体物質などの分離が行われている(非特許文献1〜3)。しかし、分離科学の分野において、単に、吸着剤として使用するだけでは、その用途は限られている。
【0003】
現在、分離科学の分野では、液体クロマトグラフィーで、構造異性体を分離する試みがなされており、固定相としては、オクタデシル基結合シリカ(ODS)が挙げられる。しかしながら、ODSは分離性能がそれほど高くなく、高価であり、廃棄などの問題もある。
【0004】
【非特許文献1】
I. Malinovska and J.K.Rozylo, Biomed. Chrimatogr., 11, 272−275(1997)
【非特許文献2】
Jyoti Dhar, Jack N. Losso, Jhon Vanderstoep and Shuryo Nakai, Food and Agricultural Immunology, 11, 155−168 (1999)
【非特許文献3】
Y.Kurauchi, H. Ono, B. Wang, N. Egashira and K. Ohga, Anal. Sci., 13, 47−52 (1997)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
他方、キトサンは、安価であり、生分解性という性質を有するため、使用後の処理も容易である。さらに、酸性条件下および塩基性条件下でも安定であり、スラリー化することも可能である。そこで、キトサンを、単に吸着剤として利用するだけではなく、液体クロマトグラフィー用の固定相として利用する、安価で、優れた分離技術が待望されている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、キトサンを、液体クロマトグラフィーに利用するために種々の検討を行った結果、ある種の架橋剤で処理したキトサンを用いて、試料中に含まれる化合物を、分子サイズにより、あるいは分子形状の相違により分離できることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、分子の両端にエポキシ基を有する化合物を用いて処理されたキトサンからなる、液体クロマトグラフィー用固定相に関する。
【0008】
好ましい実施態様においては、前記化合物は、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルである。
【0009】
さらに好ましい実施態様においては、前記長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)または8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)である。
【0010】
本発明は、また、長鎖脂肪酸グリシジルエステルを用いて化学修飾されたキトサンからなる液体クロマトグラフィー用固定相に関する。
【0011】
本発明は、さらに、前記いずれかの液体クロマトグラフィー用固定相を用いて、試料中の化合物を分子形状の相違により分離する方法に関する。
【0012】
また、本発明は、前記いずれかの液体クロマトグラフィー用固定相を用いて、試料中の化合物を分子サイズにより分離する方法に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるキトサンとしては特に制限がなく、通常、市販のキトサンが用いられる。キトサンは、一般に、キチンを脱アセチル化することにより得られるが、完全に脱アセチル化されないため、キチンを含む場合がある。従って、本発明に用いられるキトサンは、本発明の効果を損なわない範囲で、キチンを含んでもよい。キチンは、キトサン中に約10重量%まで含まれていてもよい。
【0014】
本発明の液体クロマトグラフィー用固定相は、分子の両端にエポキシ基を有する化合物で処理されたキトサンからなる。
【0015】
分子の両端にエポキシ基を有する化合物としては、特に制限はないが、キトサン間に架橋を形成することができ、そして、キトサン鎖間にある程度の間隙を生じるような化合物であることが好ましい。このような化合物としては、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが好ましく用いられる。
【0016】
長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルは、主鎖が炭素数10〜22の長鎖脂肪族二塩基酸のジグリシジルエステルであることが好ましく、炭素数14〜20の長鎖脂肪族二塩基酸のジグリシジルエステルであることがさらに好ましい。脂肪族二塩基酸は、飽和脂肪族二塩基酸であってもよく、不飽和脂肪族二塩基酸であってもよい。また、直鎖の脂肪族二塩基酸であってもよく、分岐を有する脂肪族二塩基酸であってもよい。分岐を有する場合、分岐は炭素数1〜6の低級アルキル基(メチル基、エチル基など)、置換あるいは未置換のアリール基が好ましい。
【0017】
好ましい長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとしては、以下の長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが挙げられる。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
これらの長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0021】
キトサンを、分子の両端にエポキシ基を有する化合物で処理する方法としては、例えば、キトサンをアルコールなどの溶媒に懸濁し、これに分子の両端にエポキシ基を有する化合物を所定量添加して、適切な温度(例えば、常圧で溶媒の沸点以下)で、適切な時間攪拌し、濾過、洗浄する方法が挙げられる。あるいは、酸性溶液中にキトサンを溶解させて、分子の両端にエポキシ基を有する化合物を所定量添加して反応させ、ついで適切な溶媒(例えば、アセトン)でキトサンを固形分として回収する方法が挙げられる。
【0022】
この処理により、分子中あるいは分子間のアミノ基がエポキシ化合物で架橋されたキトサンと、エポキシ化合物がアミノ基にペンダント的に結合したキトサンが単独で、あるいは共に得られると考えられる。
【0023】
本発明の液体クロマトグラフィー用固定相は、また、長鎖脂肪酸グリシジルエステルで化学修飾されたキトサンからなる。長鎖脂肪酸グリシジルエステルは、主鎖が炭素数10〜22の長鎖脂肪酸を有することが好ましく、炭素数14〜20の長鎖脂肪酸を有することがさらに好ましい。長鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖の脂肪酸であってもよく、分岐を有する脂肪酸であってもよい。
【0024】
キトサンを長鎖脂肪酸グリシジルエステルで修飾する方法には、特に制限はなく、上記のようなキトサンと分子の両端にエポキシ基を有する化合物とを反応させる方法と同じ方法が適用される。
【0025】
分子の両端にエポキシ基を有する化合物で処理されたキトサン、あるいは長鎖脂肪酸グリシジルエステルで修飾されたキトサン(以下、架橋・修飾キトサンと総称する)は、そのままの形態で、あるいは乾燥され、さらには微粒子化されて、液体クロマトグラフィー用固定相として使用し得る。化合物の分離をシャープにするには、粒子径を予め均一な大きさとすることが好ましい。架橋・修飾キトサンは、力学的にも安定化していると考えられる。従って、架橋・修飾キトサンを粉砕し、スラリー化することも可能である。好ましくは、平均粒子径が、1〜50μm、より好ましくは、1〜10μmとなるように粉砕される。粉砕された架橋・修飾キトサンは、乾燥状態で保存するよりも、液体の状態で溶媒中でスラリーとして保存しておくことが好ましい。
【0026】
架橋・修飾キトサンの粉砕は、当業者が通常用いる方法で行われ、例えば、メノウ乳鉢、その他の粉砕装置を用いて、行われる。
【0027】
本発明の架橋・修飾キトサンを、例えば、スラリー化して、液体クロマトグラフィーのマイクロカラムに充填し、液体カラムクロマトグラフィーの分離カラムとして用いると、分離したい物質を含有する試料をロードすることにより、分子サイズにより、あるいは立体構造の相違などの分子形状の相違を認識して、目的の物質が分離される。立体構造が相違する化合物としては、例えば、構造異性体、あるいは平面構造体と非平面構造体が挙げられる。
【0028】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1:液体カラムクロマトグラフィー用固定相の作成−1)
(1)原料のキトサンとして、粉末状のキトサンFM−80(甲陽ケミカル(株)製、N−アセチル化度21.9%、繰り返し単位量170.36g/mol)を用いた。長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとして、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)(岡村製油(株)製、エポキシ当量294(過塩素酸法):以下、20bGと略称する)を用いた。
【0030】
キトサン2.5gを5%酢酸水溶液100mLに溶解し、メタノール100mLで希釈した。表1に記載の量の20bGを含有するメタノール溶液100mLを準備し、それぞれ、上記キトサン溶液中に60〜70℃で30分かけて滴下し、この温度で20時間攪拌した。反応後、内容物をアセトン中に注ぎ、固形分をろ取した。アセトン、5%水酸化カリウム水溶液、およびエーテルで順次洗浄した後、乾燥し、固形の反応生成物を得た。反応生成物である架橋キトサン−I、架橋キトサン−II、および架橋キトサン−IIIの合成における20bGとキトサンとの仕込比(エポキシ基/アミノ基比)、および得られた各反応生成物の元素分析値を表1に示す。元素分析は(株)柳本製作所製ヤナコCHN corder MT−5型を使用して行った。
【0031】
【表1】
【0032】
(2)反応生成物である架橋キトサン−I、IIおよびIIIと原料キトサンFM−80との赤外吸収差スペクトル(400〜4000cm−1)をそれぞれ、測定した。図1に架橋キトサン−Iの差スペクトルを示す。赤外吸収差スペクトルは、日立分光(株)製FT−IR430を使用して測定した。図1において、1741cm−1のピークは、エステルのC=Oの伸縮振動に基づく吸収であり、2926cm−1および2854cm−1のピークは脂肪族鎖のCH伸縮振動に基づく吸収である。この結果は、反応生成物中に、20bG構造に由来するエステル結合およびメチレン結合が検出されたことを示している。さらに、1599cm−1のピークはアミンが減少したことを示している。これらのことから、キトサンに20bGが導入されたことが確認された。架橋キトサン−IIおよびIIIについても同様のスペクトルが得られた。
【0033】
(3)反応生成物架橋キトサン−Iと原料キトサンとの示差走査熱量の測定(DSC分析:Perkin Elmer社製DSC7を使用)を行った。結果を図2に示す。原料キトサンについてのDSC曲線(a)の316.17℃に見られた発熱ピークは、架橋キトサン−IのDSC曲線(b)には認められなかった。
【0034】
(4)以上の(1)〜(3)の結果は、以下の反応が起こっていることを示唆する。
【0035】
【化3】
【0036】
(5)得られた架橋キトサン−I〜IIIを、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、400〜500メッシュ通過区分を集め、液体クロマトグラフィー用の固定相を作成した。このキトサンポリマーは、約20〜30万の重量平均分子量であり、グルコサミンが約1200〜1800個連なっていると考えられる。
【0037】
(実施例2:架橋キトサン−I〜IIIの固定相としての機能)
実施例1で得られた、架橋キトサン−I〜IIIの液体クロマトグラフィー用固定相の機能を、市販のキトサン誘導体およびオクタデシル基結合シリカゲル(ODS)と比較した。
【0038】
比較対照のキトサン誘導体としては、以下に示す構造を有するChitopearl BT−01およびChitopearl PH−01(いずれも、Fuji spinning(株)製)を用いた。
【0039】
【化4】
【0040】
また、比較対照のODSとしては、Develosol ODS−UG−5(野村化学(株))およびVydac 201 TPB−5(Separation group, Inc., CA, USA)を用いた。Develosol ODS−UG−5は、モノメリック相のODSであり、Vydac 201 TPB−5は、エンドキャッピングが施されていないポリメリックODSである。これらのODSのうち、ポリメリックODSは、アルキル鎖の自由度が小さいため、分子形状認識能を有している。なお、Chitopearl、DevelosolおよびVydacは、それぞれ、登録商標である。
【0041】
(分析装置)
マイクロカラムLCシステム
ポンプ:マイクロフィーダーMF−2(東電気(株))
検出器:UVIDEC−100−III(Jasco社製)
インジェクター:Rheodyne 7520(Cotati社製、CA、USA)
カラム:φ0.53mm×150mm 溶融シリカキャピラリー
(Shinwa Chemical製)
データ取得ソフトウエア:BORWIN Ver. 1.50(Jasco社製)
【0042】
(分析条件)
移動相:メタノール/水
流速:2μl/分
注入量:0.2μl
カラム温度:室温
検出波長:254、273、300(nm)
【0043】
(試料)
以下に示す、種々の形状を有する多環芳香族炭化水素(以下、PAHという)を、分離用試料として使用した。各PAHはメタノールにそれぞれ100ppmとなるように溶解した。PAHが完全に溶解しない場合は、少量のジクロロメタンをメタノールに加えて、溶解した。
【0044】
【化5】
【0045】
(結果)
(1)種々の組成の移動相を用いた場合の、各固定相におけるPAH類の保持値(Retention factor)を表2〜5に示す。なお、各表におけるF値は、Hurtubiseらにより提案された分子サイズを表す因子であり、以下の式で定義される。
【0046】
F=(二重結合の数)+(第1、2級炭素の数)−0.5×(非芳香環の数)
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
これらの結果は、どの移動相組成においても、架橋キトサン−I〜IIIの順に、すなわち、架橋度が大きくなるほど、保持値(k)が増大したことを示している。また、架橋キトサン−I〜IIIは、既存の化学修飾キトサン(Chitopearl)よりも、保持値が優れていることがわかった。このとから、キトサンよりはその架橋構造が基質の保持に寄与していると考えられる。また、架橋キトサン−IIIは、市販のODSと同等の性質を有することが明らかになった。
【0052】
(2)次に、上記表2〜5におけるナフタレン(Naphthalene)、フェナントレン(Phenanthrene)、アントラセン(Anthracene)、およびピレン(Pyrene) の各化合物について、移動相の組成と架橋キトサン−I〜IIIの保持値kの対数(logk)との関係をそれぞれ図3〜5に示す。架橋キトサン−I〜IIIのいずれも、移動相のメタノールの割合が減少するにつれて、保持値kが対数的に増加した。このことは、ODSに代表される逆相の固定相に一般的に見られる傾向である。従って、架橋キトサン固定相におけるPAH類の保持には、架橋部分のアルキル鎖とPHAとの間の疎水的相互作用が支配的に作用しているものと考えられる。
【0053】
(3)表2〜5における、上記定義されたF値は、水系の逆相HPLCの場合、logkとの間で直線関係にあると言われている。F値と、架橋キトサン−I〜IIIのlogkとの関係を図6〜8にそれぞれ示す。
【0054】
図6〜8に示すように、平面構造を有するPAH類に対しては、F値と保持値の対数logkとの間に高い相関関係が認められた。また、F=9であり、平面構造である4種のPAH類(トリフェニレン(Triphenylene)、ベンズ[a]アントラセン(Benz[a]anthracene)、クリセン(Chrysene)、およびナフタセン(Naphthacene))は、それぞれの架橋キトサンI〜IIIにおいて、ほぼ同じ保持値を有することから、これらは、分子の大きさのみに従って分離されていることが明らかとなった。
【0055】
(4)図8は、架橋キトサン−IIIを用いた場合の、F値と保持値の対数logkとの関係を示す。非平面構造であるo−テルフェニル(Terphenyl)のプロットが、上記平面構造の4種のPAH類とはかなり離れた位置に存在している。このことは、o−テルフェニルの保持値が、F値から推定される保持値よりも、はるかに小さいことを示しており、キトサンを架橋して得られる固定相が、平面性の異なるPAH類に対して、優れた選択性があることを示している。
【0056】
(実施例3:架橋キトサン−IIIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−1)
ナフタレン、アントラセンおよびピレンをそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解し、実施例2と同じ装置および条件で、架橋キトサン−IIIを充填したカラムで分離した。比較として、モノメリックODS(Develosol ODS−UG−5)を用いた。結果を図9に示す。移動相をメタノールとした場合でも、対称性のあるピークが得られた。架橋キトサン−IIIが平面構造を有するPAH類を分離する能力は、市販のODSとほぼ同等であることが示された。
【0057】
(実施例4:架橋キトサン−IIIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−2)
ナフタレン、アントラセン、ピレンおよびトリフェニレンをそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解した以外は、実施例3と同様にして、分離した。結果を図10に示す。これらの4種のPAH類は架橋キトサン−IIIで分離され、市販のODSとほぼ同等の能力を有することが示された。
【0058】
(実施例5:構造異性体の分離)
架橋キトサン−IIIを用いて、分子サイズがほぼ同じで、平面性が異なる3組のPAH類の分離を検討した。比較として、モノメリックODS(Develosol ODS−UG−5)およびポリメリックODS(Vydac 201 TPB−5)を用いた。結果を表6に示す。表6における選択性(α)(k平面/k非平面)は、(平面PAH類の保持値)/(非平面PAH類の保持値)で算出され、この値が大きいほど平面認識能が高いことを意味する。一般に、モノメリックODSは平面認識能が低く、ポリメリックODSは平面認識能が高いことが知られている。
【0059】
【表6】
【0060】
表6の結果から、架橋キトサン−IIIは、どの移動相組成に対しても、ポリメリックODSを超える高い平面認識能を有していることが理解される。また、移動相のメタノールの濃度が高いほどポリメリックODSよりも選択性が高くなり、水の濃度が高くなるほど選択性が低下することがわかる。これは、架橋キトサン−IIIの架橋部分にあるヒドロキシル基あるいはエステル基などの水和により、架橋部分のアルキル鎖とPAH分子との間の疎水性相互作用が抑制され、平面認識能が低下するためと考えられる。さらに、PAHの分子サイズが大きくなるに伴い、ODSとの選択性(α)の値の差が拡大すると予想される。
【0061】
図11は、トランス−スチルベン(trans−Stilbene)とシス−スチルベン(cis− Stilbene)との分離クロマトグラムを示す。移動相がメタノールである場合、比較対照のポリメリックODSはこれらの化合物を分離できなかったのに対して、架橋キトサン−IIIはこれらの化合物を分離できた。また、いずれの移動相においても、架橋キトサン−IIIのα値に変化は見られなかった。
【0062】
図12は、トリフェニレン(Triphenylene)とo−テルフェニル(o−Terphenyl)との分離クロマトグラムを示す。α値はいずれの移動相においても、架橋キトサン−IIIの方がポリメリックODSよりも高く、トリフェニレンとo−テルフェニルとを分離することができた。
【0063】
(実施例6:液体カラムクロマトグラフィー用固定相の作成−2)
(1)長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとして、8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)(岡村製油(株)製、エポキシ当量325.8(過塩素酸法):以下、2PGと略称する)を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋キトサンを合成した。なお、精製は、反応終了後、5%水酸化カリウム水溶液で中和し、内容物をアセトン中に注ぎ、固形分をろ取した。アセトン、およびエーテルで順次洗浄した後、乾燥することによって行った。反応生成物である架橋キトサン−IV、架橋キトサン−Vおよび架橋キトサン−VIの合成における2PGとキトサンとの仕込比(エポキシ基/アミノ基比)、および得られた各反応生成物の元素分析値を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
(2)反応生成物である架橋キトサン−IV、VおよびVIと原料キトサンFM−80との赤外吸収差スペクトル(400〜4000cm−1)をそれぞれ、測定した。図13にキトサン−VIの差スペクトルを示す。図13において、1736cm−1(エステルの吸収)および702cm−1(ベンゼン環)付近に山のピークがみられ、1644cm−1(アミンの吸収)付近に谷のピークが見られた。このことから、キトサンに2PGが導入されたことが確認された。他の架橋キトサン−IVおよびVについても同様のスペクトルが得られた。
【0066】
(実施例7:架橋キトサン−VIの固定相としての機能)
実施例6で得られた架橋キトサン−VIを、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、400〜500メッシュ通過区分を集め、液体クロマトグラフィー用の固定相を作成した。この液体クロマトグラフィー用固定相の機能を、実施例2と同様に、検討した。
【0067】
(試料)
以下に示す、多環芳香族炭化水素(PAH)を、分離用試料として使用した。各PAHはメタノールにそれぞれ100ppmとなるように溶解した。PAHが完全に溶解しない場合は、少量のジクロロメタンをメタノールに加えて、溶解した。
【0068】
【化6】
【0069】
(結果)
(1)水/メタノール=0/100〜40/60の組成の移動相を用いて測定したPAH類の保持値(Retention factor)を表8に示す。
【0070】
【表8】
【0071】
この結果から、移動相中の水の割合が増加するにつれて保持値も増加することが確認された。水/メタノール=10/90〜40/60の範囲のデータから、水の増加に対する各PAHのlogkをプロットしたとき、どのPAHも直線関係が得られた。これらの相関関数rを表8に示す。表8からわかるように、最小でもr=0.995を示したことから、保持値の対数と移動相との間に高い相関性があることが判った。
【0072】
表8の水/メタノール=20/80のデータから、水の増加に対する各PAHのlogkをプロットした結果を図14に示す。この結果は、平面構造を有するPAHについては、F値とlogkとの間に相関性があることを示している。
【0073】
この表8のPAHのうち、F=9のPAH(ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、クリセン、トルフェニレン、およびo−テルフェニル)のlogkを、水の増加に対してプロットした図を図15に示す。
【0074】
図15の結果は、非平面性の構造を有するPAH(o−テルフェニル)は、他の平面構造の異性体より保持値が顕著に小さいことを示している。このことは、固定相が平面構造である分子を選択的に認識し、保持することを示唆している。
【0075】
そこで、分子サイズが同じかほぼ同じで、平面性の異なる3組のPAH(トランス−スチルベン/シス−スチルベン、フェナントレン/シス−スチルベン、およびトリフェニレン/o−テルフェニル)について、それぞれの選択性(α)を求めた。
【0076】
結果を図16に示す。この結果は、平面構造のPAHは、非平面構造のPAHと比較すると、約2倍以上の保持値を有することを示す。
【0077】
この例として典型的なトリフェニレン/o−テルフェニルのクロマトグラムを図17に示す。
【0078】
以上のデータを総合すると、ポリメリックODSはアルキル鎖の自由度が小さいため平面認識能が高いとされるが、本発明の架橋キトサン−VIにおいても、アルキル鎖を有する架橋剤の両端がキトサンによって固定されているため、ポリメリックODS以上にアルキル鎖の自由度が小さいと考えられ、架橋キトサンVIを用いる逆相液体クロマトグラフィーにおけるPAHの保持は、疎水性相互作用が支配的であると考えられる。
【0079】
(実施例8:架橋キトサン−VIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−1)架橋キトサン−VIを充填したカラムを用いて、実施例3と同様にナフタレン、フェナントレン、ピレンを分離した。結果を図18に示す。この図18においては、芳香環が2、3、および4である化合物のうち、分子の長さと幅の最大比であるL/Bがあまり変化しないように組合わせた例であるが、極めて良好に分離された。
【0080】
(実施例9:架橋キトサン−VIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−2)架橋キトサン−VIを充填したカラムを用いて、ナフタレン、アントラセン、およびナフタセンをそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解した以外は、実施例3と同様にして、分離した。結果を図19に示す。この図19においては、分子の幅が変化しないように組合わせた例であるが、極めて良好に分離された。
【0081】
以上の結果から、本発明の架橋キトサンを固定相として用いることにより、平面PAH類は、分子のサイズで分離できることが示された。
【0082】
(実施例10:架橋キトサン−VIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−3)
架橋キトサン−VIを充填したカラムを用いて、ジメチルビフェニルの3つの異性体(2,2’−、3,3’−、および4,4’−)をそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解した以外は、実施例3と同様にして、分離した。結果を図20に示す。図20では、2,2’−異性体が、他の3,3’− 異性体、および4,4’− 異性体から分離された。
【0083】
このジメチルビフェニルの3つの異性体は、芳香環を結合する単結合の自由回転によって2つの芳香環が捩れたような構造を有しているため、非平面構造を有すると考えられる。ところで、上記の通り、F値が同じPAH類であれば非平面性構造の分子は平面構造に比べて保持値が小さいことが示唆されている。実際に測定すると、表8で示されるように、2,2’−異性体の保持値は他の異性体(3,3’−、および4,4’−)の半分程度であるため、2,2’−異性体の方が他の異性体と比べ、分子構造の非平面性が大きいと考えられ、図20のように分離されたと考えられる。このことは、テルフェニルの異性体にも適用されると考えられる。
【0084】
【発明の効果】
分子の両端にエポキシ基を有する長鎖脂肪酸グリシジルエステルで化学修飾されたキトサンは、従来の分離用のキトサン誘導体あるいはODSなどと比較して、分子サイズによる分離能、あるいは構造異性(立体異性)などの分子形状の識別・分離能が優れており、液体クロマトグラフィー用固定相として有用である。さらに、キャピラリー電気クロマトグラフィーの固定相としても十分応用可能であり、混合物中に存在する微量分析対象物質の抽出・濃縮媒体としても幅広い応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】架橋キトサン−Iと原料キトサンとの赤外吸収差スペクトルである。
【図2】(a)原料キトサンおよび(b)架橋キトサン−Iの示差走査熱量の測定結果を示すグラフである。
【図3】多環芳香族炭化水素について、移動相の組成と架橋キトサン−Iの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図4】多環芳香族炭化水素について、移動相の組成と架橋キトサン−IIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図5】多環芳香族炭化水素について、移動相の組成と架橋キトサン−IIIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図6】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン−Iの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図7】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン−IIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図8】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン−IIIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図9】架橋キトサン−IIIおよびモノメリックODSにおける3種の多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図10】架橋キトサン−IIIにおける4種の多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図11】架橋キトサン−IIIおよびポリメリックODSにおけるトランス−スチルベンおよびシススチルベンのクロマトグラムである。
【図12】架橋キトサン−IIIおよびポリメリックODSにおけるトリフェニレンおよびo−テルフェニルのクロマトグラムである。
【図13】架橋キトサン−VIの差スペクトルである。
【図14】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン− VIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図15】F値が9の多環芳香族炭化水素における、移動相組成と架橋キトサン− VIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図16】分子サイズが同等で、平面性の異なる3組の多環芳香族炭化水素の選択性(α)と移動相との関係を示す図である。
【図17】架橋キトサン− VIを用いるトリフェニレン/o−テルフェニルのクロマトグラムである。
【図18】架橋キトサン−VIを用いる、平面構造を有する多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図19】架橋キトサン−VIを用いる、平面構造を有する多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図20】架橋キトサン−VIを用いる、ジメチルビフェニルの3つの異性体のクロマトグラムである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な液体クロマトグラフィー用の固定相およびこの固定相を用いて、分子サイズにより、あるいは分子形状の相違により、化合物を分離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
キトサンは、甲殻類、昆虫の外殻、微生物の細胞壁などの主成分として自然界に分布するキチンを脱アセチル化したものである。甲殻類から得られたキトサンは、食品、医薬品などの原料として使用されるだけではなく、イオン交換体、銅、クロム、錫などの重金属吸着剤、酵素の固定化担体などとして、広く用いられている。分離科学の分野においても、アミノ基を化学修飾したキトサンを固定相として、金属イオン、生体物質などの分離が行われている(非特許文献1〜3)。しかし、分離科学の分野において、単に、吸着剤として使用するだけでは、その用途は限られている。
【0003】
現在、分離科学の分野では、液体クロマトグラフィーで、構造異性体を分離する試みがなされており、固定相としては、オクタデシル基結合シリカ(ODS)が挙げられる。しかしながら、ODSは分離性能がそれほど高くなく、高価であり、廃棄などの問題もある。
【0004】
【非特許文献1】
I. Malinovska and J.K.Rozylo, Biomed. Chrimatogr., 11, 272−275(1997)
【非特許文献2】
Jyoti Dhar, Jack N. Losso, Jhon Vanderstoep and Shuryo Nakai, Food and Agricultural Immunology, 11, 155−168 (1999)
【非特許文献3】
Y.Kurauchi, H. Ono, B. Wang, N. Egashira and K. Ohga, Anal. Sci., 13, 47−52 (1997)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
他方、キトサンは、安価であり、生分解性という性質を有するため、使用後の処理も容易である。さらに、酸性条件下および塩基性条件下でも安定であり、スラリー化することも可能である。そこで、キトサンを、単に吸着剤として利用するだけではなく、液体クロマトグラフィー用の固定相として利用する、安価で、優れた分離技術が待望されている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、キトサンを、液体クロマトグラフィーに利用するために種々の検討を行った結果、ある種の架橋剤で処理したキトサンを用いて、試料中に含まれる化合物を、分子サイズにより、あるいは分子形状の相違により分離できることを見出して、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、分子の両端にエポキシ基を有する化合物を用いて処理されたキトサンからなる、液体クロマトグラフィー用固定相に関する。
【0008】
好ましい実施態様においては、前記化合物は、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルである。
【0009】
さらに好ましい実施態様においては、前記長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)または8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)である。
【0010】
本発明は、また、長鎖脂肪酸グリシジルエステルを用いて化学修飾されたキトサンからなる液体クロマトグラフィー用固定相に関する。
【0011】
本発明は、さらに、前記いずれかの液体クロマトグラフィー用固定相を用いて、試料中の化合物を分子形状の相違により分離する方法に関する。
【0012】
また、本発明は、前記いずれかの液体クロマトグラフィー用固定相を用いて、試料中の化合物を分子サイズにより分離する方法に関する。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるキトサンとしては特に制限がなく、通常、市販のキトサンが用いられる。キトサンは、一般に、キチンを脱アセチル化することにより得られるが、完全に脱アセチル化されないため、キチンを含む場合がある。従って、本発明に用いられるキトサンは、本発明の効果を損なわない範囲で、キチンを含んでもよい。キチンは、キトサン中に約10重量%まで含まれていてもよい。
【0014】
本発明の液体クロマトグラフィー用固定相は、分子の両端にエポキシ基を有する化合物で処理されたキトサンからなる。
【0015】
分子の両端にエポキシ基を有する化合物としては、特に制限はないが、キトサン間に架橋を形成することができ、そして、キトサン鎖間にある程度の間隙を生じるような化合物であることが好ましい。このような化合物としては、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが好ましく用いられる。
【0016】
長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルは、主鎖が炭素数10〜22の長鎖脂肪族二塩基酸のジグリシジルエステルであることが好ましく、炭素数14〜20の長鎖脂肪族二塩基酸のジグリシジルエステルであることがさらに好ましい。脂肪族二塩基酸は、飽和脂肪族二塩基酸であってもよく、不飽和脂肪族二塩基酸であってもよい。また、直鎖の脂肪族二塩基酸であってもよく、分岐を有する脂肪族二塩基酸であってもよい。分岐を有する場合、分岐は炭素数1〜6の低級アルキル基(メチル基、エチル基など)、置換あるいは未置換のアリール基が好ましい。
【0017】
好ましい長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとしては、以下の長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが挙げられる。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
これらの長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0021】
キトサンを、分子の両端にエポキシ基を有する化合物で処理する方法としては、例えば、キトサンをアルコールなどの溶媒に懸濁し、これに分子の両端にエポキシ基を有する化合物を所定量添加して、適切な温度(例えば、常圧で溶媒の沸点以下)で、適切な時間攪拌し、濾過、洗浄する方法が挙げられる。あるいは、酸性溶液中にキトサンを溶解させて、分子の両端にエポキシ基を有する化合物を所定量添加して反応させ、ついで適切な溶媒(例えば、アセトン)でキトサンを固形分として回収する方法が挙げられる。
【0022】
この処理により、分子中あるいは分子間のアミノ基がエポキシ化合物で架橋されたキトサンと、エポキシ化合物がアミノ基にペンダント的に結合したキトサンが単独で、あるいは共に得られると考えられる。
【0023】
本発明の液体クロマトグラフィー用固定相は、また、長鎖脂肪酸グリシジルエステルで化学修飾されたキトサンからなる。長鎖脂肪酸グリシジルエステルは、主鎖が炭素数10〜22の長鎖脂肪酸を有することが好ましく、炭素数14〜20の長鎖脂肪酸を有することがさらに好ましい。長鎖脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。また、直鎖の脂肪酸であってもよく、分岐を有する脂肪酸であってもよい。
【0024】
キトサンを長鎖脂肪酸グリシジルエステルで修飾する方法には、特に制限はなく、上記のようなキトサンと分子の両端にエポキシ基を有する化合物とを反応させる方法と同じ方法が適用される。
【0025】
分子の両端にエポキシ基を有する化合物で処理されたキトサン、あるいは長鎖脂肪酸グリシジルエステルで修飾されたキトサン(以下、架橋・修飾キトサンと総称する)は、そのままの形態で、あるいは乾燥され、さらには微粒子化されて、液体クロマトグラフィー用固定相として使用し得る。化合物の分離をシャープにするには、粒子径を予め均一な大きさとすることが好ましい。架橋・修飾キトサンは、力学的にも安定化していると考えられる。従って、架橋・修飾キトサンを粉砕し、スラリー化することも可能である。好ましくは、平均粒子径が、1〜50μm、より好ましくは、1〜10μmとなるように粉砕される。粉砕された架橋・修飾キトサンは、乾燥状態で保存するよりも、液体の状態で溶媒中でスラリーとして保存しておくことが好ましい。
【0026】
架橋・修飾キトサンの粉砕は、当業者が通常用いる方法で行われ、例えば、メノウ乳鉢、その他の粉砕装置を用いて、行われる。
【0027】
本発明の架橋・修飾キトサンを、例えば、スラリー化して、液体クロマトグラフィーのマイクロカラムに充填し、液体カラムクロマトグラフィーの分離カラムとして用いると、分離したい物質を含有する試料をロードすることにより、分子サイズにより、あるいは立体構造の相違などの分子形状の相違を認識して、目的の物質が分離される。立体構造が相違する化合物としては、例えば、構造異性体、あるいは平面構造体と非平面構造体が挙げられる。
【0028】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1:液体カラムクロマトグラフィー用固定相の作成−1)
(1)原料のキトサンとして、粉末状のキトサンFM−80(甲陽ケミカル(株)製、N−アセチル化度21.9%、繰り返し単位量170.36g/mol)を用いた。長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとして、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)(岡村製油(株)製、エポキシ当量294(過塩素酸法):以下、20bGと略称する)を用いた。
【0030】
キトサン2.5gを5%酢酸水溶液100mLに溶解し、メタノール100mLで希釈した。表1に記載の量の20bGを含有するメタノール溶液100mLを準備し、それぞれ、上記キトサン溶液中に60〜70℃で30分かけて滴下し、この温度で20時間攪拌した。反応後、内容物をアセトン中に注ぎ、固形分をろ取した。アセトン、5%水酸化カリウム水溶液、およびエーテルで順次洗浄した後、乾燥し、固形の反応生成物を得た。反応生成物である架橋キトサン−I、架橋キトサン−II、および架橋キトサン−IIIの合成における20bGとキトサンとの仕込比(エポキシ基/アミノ基比)、および得られた各反応生成物の元素分析値を表1に示す。元素分析は(株)柳本製作所製ヤナコCHN corder MT−5型を使用して行った。
【0031】
【表1】
【0032】
(2)反応生成物である架橋キトサン−I、IIおよびIIIと原料キトサンFM−80との赤外吸収差スペクトル(400〜4000cm−1)をそれぞれ、測定した。図1に架橋キトサン−Iの差スペクトルを示す。赤外吸収差スペクトルは、日立分光(株)製FT−IR430を使用して測定した。図1において、1741cm−1のピークは、エステルのC=Oの伸縮振動に基づく吸収であり、2926cm−1および2854cm−1のピークは脂肪族鎖のCH伸縮振動に基づく吸収である。この結果は、反応生成物中に、20bG構造に由来するエステル結合およびメチレン結合が検出されたことを示している。さらに、1599cm−1のピークはアミンが減少したことを示している。これらのことから、キトサンに20bGが導入されたことが確認された。架橋キトサン−IIおよびIIIについても同様のスペクトルが得られた。
【0033】
(3)反応生成物架橋キトサン−Iと原料キトサンとの示差走査熱量の測定(DSC分析:Perkin Elmer社製DSC7を使用)を行った。結果を図2に示す。原料キトサンについてのDSC曲線(a)の316.17℃に見られた発熱ピークは、架橋キトサン−IのDSC曲線(b)には認められなかった。
【0034】
(4)以上の(1)〜(3)の結果は、以下の反応が起こっていることを示唆する。
【0035】
【化3】
【0036】
(5)得られた架橋キトサン−I〜IIIを、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、400〜500メッシュ通過区分を集め、液体クロマトグラフィー用の固定相を作成した。このキトサンポリマーは、約20〜30万の重量平均分子量であり、グルコサミンが約1200〜1800個連なっていると考えられる。
【0037】
(実施例2:架橋キトサン−I〜IIIの固定相としての機能)
実施例1で得られた、架橋キトサン−I〜IIIの液体クロマトグラフィー用固定相の機能を、市販のキトサン誘導体およびオクタデシル基結合シリカゲル(ODS)と比較した。
【0038】
比較対照のキトサン誘導体としては、以下に示す構造を有するChitopearl BT−01およびChitopearl PH−01(いずれも、Fuji spinning(株)製)を用いた。
【0039】
【化4】
【0040】
また、比較対照のODSとしては、Develosol ODS−UG−5(野村化学(株))およびVydac 201 TPB−5(Separation group, Inc., CA, USA)を用いた。Develosol ODS−UG−5は、モノメリック相のODSであり、Vydac 201 TPB−5は、エンドキャッピングが施されていないポリメリックODSである。これらのODSのうち、ポリメリックODSは、アルキル鎖の自由度が小さいため、分子形状認識能を有している。なお、Chitopearl、DevelosolおよびVydacは、それぞれ、登録商標である。
【0041】
(分析装置)
マイクロカラムLCシステム
ポンプ:マイクロフィーダーMF−2(東電気(株))
検出器:UVIDEC−100−III(Jasco社製)
インジェクター:Rheodyne 7520(Cotati社製、CA、USA)
カラム:φ0.53mm×150mm 溶融シリカキャピラリー
(Shinwa Chemical製)
データ取得ソフトウエア:BORWIN Ver. 1.50(Jasco社製)
【0042】
(分析条件)
移動相:メタノール/水
流速:2μl/分
注入量:0.2μl
カラム温度:室温
検出波長:254、273、300(nm)
【0043】
(試料)
以下に示す、種々の形状を有する多環芳香族炭化水素(以下、PAHという)を、分離用試料として使用した。各PAHはメタノールにそれぞれ100ppmとなるように溶解した。PAHが完全に溶解しない場合は、少量のジクロロメタンをメタノールに加えて、溶解した。
【0044】
【化5】
【0045】
(結果)
(1)種々の組成の移動相を用いた場合の、各固定相におけるPAH類の保持値(Retention factor)を表2〜5に示す。なお、各表におけるF値は、Hurtubiseらにより提案された分子サイズを表す因子であり、以下の式で定義される。
【0046】
F=(二重結合の数)+(第1、2級炭素の数)−0.5×(非芳香環の数)
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
これらの結果は、どの移動相組成においても、架橋キトサン−I〜IIIの順に、すなわち、架橋度が大きくなるほど、保持値(k)が増大したことを示している。また、架橋キトサン−I〜IIIは、既存の化学修飾キトサン(Chitopearl)よりも、保持値が優れていることがわかった。このとから、キトサンよりはその架橋構造が基質の保持に寄与していると考えられる。また、架橋キトサン−IIIは、市販のODSと同等の性質を有することが明らかになった。
【0052】
(2)次に、上記表2〜5におけるナフタレン(Naphthalene)、フェナントレン(Phenanthrene)、アントラセン(Anthracene)、およびピレン(Pyrene) の各化合物について、移動相の組成と架橋キトサン−I〜IIIの保持値kの対数(logk)との関係をそれぞれ図3〜5に示す。架橋キトサン−I〜IIIのいずれも、移動相のメタノールの割合が減少するにつれて、保持値kが対数的に増加した。このことは、ODSに代表される逆相の固定相に一般的に見られる傾向である。従って、架橋キトサン固定相におけるPAH類の保持には、架橋部分のアルキル鎖とPHAとの間の疎水的相互作用が支配的に作用しているものと考えられる。
【0053】
(3)表2〜5における、上記定義されたF値は、水系の逆相HPLCの場合、logkとの間で直線関係にあると言われている。F値と、架橋キトサン−I〜IIIのlogkとの関係を図6〜8にそれぞれ示す。
【0054】
図6〜8に示すように、平面構造を有するPAH類に対しては、F値と保持値の対数logkとの間に高い相関関係が認められた。また、F=9であり、平面構造である4種のPAH類(トリフェニレン(Triphenylene)、ベンズ[a]アントラセン(Benz[a]anthracene)、クリセン(Chrysene)、およびナフタセン(Naphthacene))は、それぞれの架橋キトサンI〜IIIにおいて、ほぼ同じ保持値を有することから、これらは、分子の大きさのみに従って分離されていることが明らかとなった。
【0055】
(4)図8は、架橋キトサン−IIIを用いた場合の、F値と保持値の対数logkとの関係を示す。非平面構造であるo−テルフェニル(Terphenyl)のプロットが、上記平面構造の4種のPAH類とはかなり離れた位置に存在している。このことは、o−テルフェニルの保持値が、F値から推定される保持値よりも、はるかに小さいことを示しており、キトサンを架橋して得られる固定相が、平面性の異なるPAH類に対して、優れた選択性があることを示している。
【0056】
(実施例3:架橋キトサン−IIIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−1)
ナフタレン、アントラセンおよびピレンをそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解し、実施例2と同じ装置および条件で、架橋キトサン−IIIを充填したカラムで分離した。比較として、モノメリックODS(Develosol ODS−UG−5)を用いた。結果を図9に示す。移動相をメタノールとした場合でも、対称性のあるピークが得られた。架橋キトサン−IIIが平面構造を有するPAH類を分離する能力は、市販のODSとほぼ同等であることが示された。
【0057】
(実施例4:架橋キトサン−IIIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−2)
ナフタレン、アントラセン、ピレンおよびトリフェニレンをそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解した以外は、実施例3と同様にして、分離した。結果を図10に示す。これらの4種のPAH類は架橋キトサン−IIIで分離され、市販のODSとほぼ同等の能力を有することが示された。
【0058】
(実施例5:構造異性体の分離)
架橋キトサン−IIIを用いて、分子サイズがほぼ同じで、平面性が異なる3組のPAH類の分離を検討した。比較として、モノメリックODS(Develosol ODS−UG−5)およびポリメリックODS(Vydac 201 TPB−5)を用いた。結果を表6に示す。表6における選択性(α)(k平面/k非平面)は、(平面PAH類の保持値)/(非平面PAH類の保持値)で算出され、この値が大きいほど平面認識能が高いことを意味する。一般に、モノメリックODSは平面認識能が低く、ポリメリックODSは平面認識能が高いことが知られている。
【0059】
【表6】
【0060】
表6の結果から、架橋キトサン−IIIは、どの移動相組成に対しても、ポリメリックODSを超える高い平面認識能を有していることが理解される。また、移動相のメタノールの濃度が高いほどポリメリックODSよりも選択性が高くなり、水の濃度が高くなるほど選択性が低下することがわかる。これは、架橋キトサン−IIIの架橋部分にあるヒドロキシル基あるいはエステル基などの水和により、架橋部分のアルキル鎖とPAH分子との間の疎水性相互作用が抑制され、平面認識能が低下するためと考えられる。さらに、PAHの分子サイズが大きくなるに伴い、ODSとの選択性(α)の値の差が拡大すると予想される。
【0061】
図11は、トランス−スチルベン(trans−Stilbene)とシス−スチルベン(cis− Stilbene)との分離クロマトグラムを示す。移動相がメタノールである場合、比較対照のポリメリックODSはこれらの化合物を分離できなかったのに対して、架橋キトサン−IIIはこれらの化合物を分離できた。また、いずれの移動相においても、架橋キトサン−IIIのα値に変化は見られなかった。
【0062】
図12は、トリフェニレン(Triphenylene)とo−テルフェニル(o−Terphenyl)との分離クロマトグラムを示す。α値はいずれの移動相においても、架橋キトサン−IIIの方がポリメリックODSよりも高く、トリフェニレンとo−テルフェニルとを分離することができた。
【0063】
(実施例6:液体カラムクロマトグラフィー用固定相の作成−2)
(1)長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルとして、8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)(岡村製油(株)製、エポキシ当量325.8(過塩素酸法):以下、2PGと略称する)を用いた以外は、実施例1と同様にして、架橋キトサンを合成した。なお、精製は、反応終了後、5%水酸化カリウム水溶液で中和し、内容物をアセトン中に注ぎ、固形分をろ取した。アセトン、およびエーテルで順次洗浄した後、乾燥することによって行った。反応生成物である架橋キトサン−IV、架橋キトサン−Vおよび架橋キトサン−VIの合成における2PGとキトサンとの仕込比(エポキシ基/アミノ基比)、および得られた各反応生成物の元素分析値を表7に示す。
【0064】
【表7】
【0065】
(2)反応生成物である架橋キトサン−IV、VおよびVIと原料キトサンFM−80との赤外吸収差スペクトル(400〜4000cm−1)をそれぞれ、測定した。図13にキトサン−VIの差スペクトルを示す。図13において、1736cm−1(エステルの吸収)および702cm−1(ベンゼン環)付近に山のピークがみられ、1644cm−1(アミンの吸収)付近に谷のピークが見られた。このことから、キトサンに2PGが導入されたことが確認された。他の架橋キトサン−IVおよびVについても同様のスペクトルが得られた。
【0066】
(実施例7:架橋キトサン−VIの固定相としての機能)
実施例6で得られた架橋キトサン−VIを、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、400〜500メッシュ通過区分を集め、液体クロマトグラフィー用の固定相を作成した。この液体クロマトグラフィー用固定相の機能を、実施例2と同様に、検討した。
【0067】
(試料)
以下に示す、多環芳香族炭化水素(PAH)を、分離用試料として使用した。各PAHはメタノールにそれぞれ100ppmとなるように溶解した。PAHが完全に溶解しない場合は、少量のジクロロメタンをメタノールに加えて、溶解した。
【0068】
【化6】
【0069】
(結果)
(1)水/メタノール=0/100〜40/60の組成の移動相を用いて測定したPAH類の保持値(Retention factor)を表8に示す。
【0070】
【表8】
【0071】
この結果から、移動相中の水の割合が増加するにつれて保持値も増加することが確認された。水/メタノール=10/90〜40/60の範囲のデータから、水の増加に対する各PAHのlogkをプロットしたとき、どのPAHも直線関係が得られた。これらの相関関数rを表8に示す。表8からわかるように、最小でもr=0.995を示したことから、保持値の対数と移動相との間に高い相関性があることが判った。
【0072】
表8の水/メタノール=20/80のデータから、水の増加に対する各PAHのlogkをプロットした結果を図14に示す。この結果は、平面構造を有するPAHについては、F値とlogkとの間に相関性があることを示している。
【0073】
この表8のPAHのうち、F=9のPAH(ナフタセン、ベンズ[a]アントラセン、クリセン、トルフェニレン、およびo−テルフェニル)のlogkを、水の増加に対してプロットした図を図15に示す。
【0074】
図15の結果は、非平面性の構造を有するPAH(o−テルフェニル)は、他の平面構造の異性体より保持値が顕著に小さいことを示している。このことは、固定相が平面構造である分子を選択的に認識し、保持することを示唆している。
【0075】
そこで、分子サイズが同じかほぼ同じで、平面性の異なる3組のPAH(トランス−スチルベン/シス−スチルベン、フェナントレン/シス−スチルベン、およびトリフェニレン/o−テルフェニル)について、それぞれの選択性(α)を求めた。
【0076】
結果を図16に示す。この結果は、平面構造のPAHは、非平面構造のPAHと比較すると、約2倍以上の保持値を有することを示す。
【0077】
この例として典型的なトリフェニレン/o−テルフェニルのクロマトグラムを図17に示す。
【0078】
以上のデータを総合すると、ポリメリックODSはアルキル鎖の自由度が小さいため平面認識能が高いとされるが、本発明の架橋キトサン−VIにおいても、アルキル鎖を有する架橋剤の両端がキトサンによって固定されているため、ポリメリックODS以上にアルキル鎖の自由度が小さいと考えられ、架橋キトサンVIを用いる逆相液体クロマトグラフィーにおけるPAHの保持は、疎水性相互作用が支配的であると考えられる。
【0079】
(実施例8:架橋キトサン−VIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−1)架橋キトサン−VIを充填したカラムを用いて、実施例3と同様にナフタレン、フェナントレン、ピレンを分離した。結果を図18に示す。この図18においては、芳香環が2、3、および4である化合物のうち、分子の長さと幅の最大比であるL/Bがあまり変化しないように組合わせた例であるが、極めて良好に分離された。
【0080】
(実施例9:架橋キトサン−VIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−2)架橋キトサン−VIを充填したカラムを用いて、ナフタレン、アントラセン、およびナフタセンをそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解した以外は、実施例3と同様にして、分離した。結果を図19に示す。この図19においては、分子の幅が変化しないように組合わせた例であるが、極めて良好に分離された。
【0081】
以上の結果から、本発明の架橋キトサンを固定相として用いることにより、平面PAH類は、分子のサイズで分離できることが示された。
【0082】
(実施例10:架橋キトサン−VIを用いる平面構造を有するPAH類の分離−3)
架橋キトサン−VIを充填したカラムを用いて、ジメチルビフェニルの3つの異性体(2,2’−、3,3’−、および4,4’−)をそれぞれ100ppmとなるようにメタノールに溶解した以外は、実施例3と同様にして、分離した。結果を図20に示す。図20では、2,2’−異性体が、他の3,3’− 異性体、および4,4’− 異性体から分離された。
【0083】
このジメチルビフェニルの3つの異性体は、芳香環を結合する単結合の自由回転によって2つの芳香環が捩れたような構造を有しているため、非平面構造を有すると考えられる。ところで、上記の通り、F値が同じPAH類であれば非平面性構造の分子は平面構造に比べて保持値が小さいことが示唆されている。実際に測定すると、表8で示されるように、2,2’−異性体の保持値は他の異性体(3,3’−、および4,4’−)の半分程度であるため、2,2’−異性体の方が他の異性体と比べ、分子構造の非平面性が大きいと考えられ、図20のように分離されたと考えられる。このことは、テルフェニルの異性体にも適用されると考えられる。
【0084】
【発明の効果】
分子の両端にエポキシ基を有する長鎖脂肪酸グリシジルエステルで化学修飾されたキトサンは、従来の分離用のキトサン誘導体あるいはODSなどと比較して、分子サイズによる分離能、あるいは構造異性(立体異性)などの分子形状の識別・分離能が優れており、液体クロマトグラフィー用固定相として有用である。さらに、キャピラリー電気クロマトグラフィーの固定相としても十分応用可能であり、混合物中に存在する微量分析対象物質の抽出・濃縮媒体としても幅広い応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】架橋キトサン−Iと原料キトサンとの赤外吸収差スペクトルである。
【図2】(a)原料キトサンおよび(b)架橋キトサン−Iの示差走査熱量の測定結果を示すグラフである。
【図3】多環芳香族炭化水素について、移動相の組成と架橋キトサン−Iの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図4】多環芳香族炭化水素について、移動相の組成と架橋キトサン−IIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図5】多環芳香族炭化水素について、移動相の組成と架橋キトサン−IIIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図6】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン−Iの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図7】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン−IIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図8】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン−IIIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図9】架橋キトサン−IIIおよびモノメリックODSにおける3種の多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図10】架橋キトサン−IIIにおける4種の多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図11】架橋キトサン−IIIおよびポリメリックODSにおけるトランス−スチルベンおよびシススチルベンのクロマトグラムである。
【図12】架橋キトサン−IIIおよびポリメリックODSにおけるトリフェニレンおよびo−テルフェニルのクロマトグラムである。
【図13】架橋キトサン−VIの差スペクトルである。
【図14】多環芳香族炭化水素のF値と架橋キトサン− VIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図15】F値が9の多環芳香族炭化水素における、移動相組成と架橋キトサン− VIの保持値の対数(logk)との関係を示す図である。
【図16】分子サイズが同等で、平面性の異なる3組の多環芳香族炭化水素の選択性(α)と移動相との関係を示す図である。
【図17】架橋キトサン− VIを用いるトリフェニレン/o−テルフェニルのクロマトグラムである。
【図18】架橋キトサン−VIを用いる、平面構造を有する多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図19】架橋キトサン−VIを用いる、平面構造を有する多環芳香族炭化水素のクロマトグラムである。
【図20】架橋キトサン−VIを用いる、ジメチルビフェニルの3つの異性体のクロマトグラムである。
Claims (6)
- 分子の両端にエポキシ基を有する化合物を用いて処理されたキトサンからなる、液体クロマトグラフィー用固定相。
- 前記化合物が、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルである、請求項1に記載の液体クロマトグラフィー用固定相。
- 前記長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルが、7−エチルオクタデカン二酸ビス(2,3−エポキシプロピル)または8,9−ジフェニルヘキサデカン二酸(2,3−エポキシプロピル)である、請求項2に記載の液体クロマトグラフィー用固定相。
- 長鎖脂肪酸グリシジルエステルを用いて化学修飾されたキトサンからなる、液体クロマトグラフィー用固定相。
- 請求項1から4のいずれかの項に記載の液体クロマトグラフィー用固定相を用いて、試料中の化合物を分子形状の相違により分離する方法。
- 請求項1から4のいずれかの項に記載の液体クロマトグラフィー用固定相を用いて、試料中の化合物を分子サイズにより分離する方法。
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