JP2004003800A - 反応容器の操業管理方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 - Google Patents
反応容器の操業管理方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】反応容器の内表面及び外表面における温度分布や熱流束分布を同時推定できるようにする。
【解決手段】反応容器の操業管理装置は、反応容器の壁に埋め込まれた熱電対により測定された温度が入力される入力部101と、入力部101に入力される温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める演算部102等を備え、演算部102では、1次元方向に配置された各熱電対により測定された温度Yと、反応容器の内表面及び外表面における熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された各熱電対位置での温度Tとの差の二乗の和が最小となる仮定値を反応容器の内表面及び外表面における熱流束として求める。
【選択図】 図2
【解決手段】反応容器の操業管理装置は、反応容器の壁に埋め込まれた熱電対により測定された温度が入力される入力部101と、入力部101に入力される温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める演算部102等を備え、演算部102では、1次元方向に配置された各熱電対により測定された温度Yと、反応容器の内表面及び外表面における熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された各熱電対位置での温度Tとの差の二乗の和が最小となる仮定値を反応容器の内表面及び外表面における熱流束として求める。
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、高炉、燃焼による鋼材加熱炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器の操業を管理するための反応容器の操業管理方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
高炉、燃焼による鋼材加熱炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器の操業を管理する場合、反応容器内の状況(例えば、燃焼挙動)を観測し、その状況を管理する必要がある。
【0003】
従来から、反応容器の壁に埋め込まれた熱電対により測定された温度から反応容器内の状況を推定することがなされている。例えば、急激な温度上昇があれば、その熱電対周辺の反応容器内において異常な発熱が生じていると推定し、逆に極端な温度下降があれば、その熱電対周辺の反応容器内において発熱反応域の縮小等の発熱量低下が生じていると推定する等の経験的な手法である。
【0004】
しかしながら、上記のような推定では、実際の反応容器内での温度異常の発生タイミングと温度測定したタイミングとの間でタイムラグが発生することは避けられない。これは、反応容器内の温度異常が熱流束変化として反応容器の表面に伝わり、その後、反応容器の壁材料内部に一部の熱が溜まりつつ、熱伝導効果によって熱が徐々に伝わって、最終的に熱電対に温度変化をもたらすためであり、原理的に、熱容量を有する固体内の熱伝導現象は若干の時間遅れを有する(非定常性)。
【0005】
これに対して、反応容器壁内の熱伝導現象を非定常1次元の熱伝導逆問題と考えて、1つの熱電対温度変化、又は、1次元方向に並んだ複数の熱電対温度変化から、反応容器の内表面における熱流束変化を推定する手法が提案されている。
【0006】
図5は、複数の熱電対「×」が埋め込まれた反応容器(加熱炉)の炉壁近くの2次元断面を示している。炉壁内に破線で境界を示しているが、1次元とはこの破線に沿った方向の熱流れのみを考慮したことを意味している。すなわち、例えば、1a→1b→1cや1d→1e方向の熱伝導を想定した場合に、炉内表面における熱流束を推定する。このとき、炉外表面の冷却条件を既知と仮定して、未知とした炉内表面における熱流束を求めることが一般的である。もちろん、既知と未知の境界条件を反対にすることも可能である。
【0007】
上記推定手法としては、例えば、特許文献1では、高炉炉床に埋め込まれた熱電対から、非定常1次元熱伝導方程式の逆問題解析することにより、端点の熱流束を推定する手法について述べられている。
【0008】
この手法の一つは、1点の熱電対温度変化と、端点の冷却条件(既知と仮定)から、その反対側の端点の熱流束を推定する手法である。このような冷却条件は、熱伝達係数と冷却水温度で与えることになるが、特に、熱伝達係数は、冷却水の平均流速から経験相関式により推定することになるので、不確実な推定値になる場合があり、その値を使って逆問題推定した反対側端点の熱流束推定値の精度に、悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
また、もう一つの手法として、2点の熱電対温度変化を用いた推定手法についても述べられているが、2点の内、1点を固定温度境界条件として与えて解く手法であるので、2点の相対的な温度変化を捉えて推定することは難しい上に、固定温度境界条件上での熱流束の推定は可能であるが、固定温度境界条件に選んだ側の、その外側延長線上の端点熱流束は推定できないことになる。
【0010】
更に、上記いずれの方法においても、解析長さを固定して両端の熱流束を求める手法ではなく、耐火物表面に付着する炉内溶融物による厚みの変化と、熱流束変化を同時に推定する手法である。凝固・溶解現象によって付着量を増減するロジックを逆問題解析に導入すると、第一に、計算手続きが複雑になって計算が不安定化しやすくなるという問題がある。第二に、各時間ステップで解析長さを変化させる計算手続きが入ると、長さを変化させた前後の温度分布の推定方法に不確定な要素が混入する可能性があるので、熱流束の推定精度が悪くなる可能性も否定できない。
【0011】
このように、従来の逆問題解析手法では、不十分な点が多く、複数の熱電対情報から、解析長さを固定して、その両端の熱流束を同時に推定する手法を新たに確立して、非定常な熱流束の変化を精度良く、安定的に推定する技術が重要となる。
【0012】
これに対して、複数の熱電対の計測温度から、その温度変化を十分に表現できるように、試行錯誤的に温度分布を推定し、両端の温度分布を同時に推定する手法も考えられる。しかし、このような手法では、熱電対の数が増えると計算が複雑化して、全ての熱電対の計測温度変化を満たす温度分布解を得ることは、極めて難しくなる。また、それぞれの熱電対において、計測温度と計算温度の差の絶対値を何処まで小さくすべきかの基準を決めることが困難なので、計算手続きを一般化することが難しい。
【0013】
この一つの例として、2つの熱電対温度から、特許文献1の手法を応用して、未知の熱流束を、2つの端点で交互に変えて計算し、見かけ上、同時に端点の熱流束を推定する方法が考えられる。即ち、固定温度境界条件とする計測温度を交互に変えて繰り返して計算し、両方の熱電対における計測温度と計算温度が、ある程度一致した時点で、その時間ステップでの両端の熱流束解とするものである。
【0014】
しかし、この手法においては、それぞれの熱電対において、計測温度と計算温度の差の絶対値が、どの程度まで小さくなった時点で解とすべきかを決めることが困難で、場合によっては、片方の熱電対温度を極めてよく表現するが、もう一方の熱電対温度はあまり表現できないような場合でも、解として認識してしまう危険性をはらんでいる。つまり、2つの熱電対位置において、計測温度と計算温度の差の絶対値を最小化するに際して、独立した2つの熱電対位置での最小化のバランスをどの程度にするべきかの基準を、適切に設定することが難しい。
【0015】
さらに、複数の熱電対の場合まで、この方法を拡張すると、解の判定が極めて難しくなることは言うまでもない。
【0016】
【特許文献1】
特開2001−234217号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述のように、本来の非定常1次元の熱伝導逆問題は、炉内表面及び炉外表面での境界条件を同時推定することであり、片側の境界条件を既知と仮定した逆問題解法では、未知とした境界条件の近似的な答えしか得ることができない。例えば、ある熱電対により測定された温度変動が、上述のような反応容器の内表面における熱流束変化によるものなのか、反応容器外に設置された冷却装置の接触不良等によって引き起こされるような反応容器の外表面における熱流束変化によるものかを区別することはできないことになる。
【0018】
また、より厳密に評価するには、熱伝導現象は、図5に示す破線を跨いで上方向にも起こるはずであり、2次元での熱伝導逆問題を解くことが必要となる。この場合には、図2の上下境界が断熱と仮定した場合においても、左右境界の細かな熱流束分布を推定する2次元逆問題を構成する必要があることになる。
【0019】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、反応容器の内表面及び外表面における熱流束変化や温度変化を同時推定可能とすることを目的とする。更には、1次元だけでなく、2次元、3次元といった空間次元数にも容易に適用可能とすることを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための手段として、本発明の反応容器の操業管理方法について説明すれば、本発明の反応容器の操業管理方法は、高温反応を伴う反応容器の操業を管理するための反応容器の操業管理方法であって、上記反応容器の壁内部の少なくとも厚み方向に複数配置された温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める手順を有する点に特徴を有する。
【0021】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記各温度測定点において測定された温度と、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された上記各温度測定点位置での温度との差の二乗の和が最小となる上記仮定値を上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束として求める点にある。
【0022】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記反応容器の内表面及び外表面のいずれか一方における温度或いは熱流束の仮定値を熱伝達率と上記反応容器の壁内部及び内外表面以外での参照温度とを用いて一方の仮定値として与え、上記差の二乗の和が最小となる上記反応容器の内表面及び外表面のいずれか他方における温度或いは熱流束を他方の仮定値として算出する点にある。
【0023】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記熱伝達率及び上記参照温度の少なくともいずれかを変化させた上記一方の仮定値と、上記各一方の仮定値に対応して得られた上記他方の仮定値との複数の組み合わせのうち、上記差の二乗の和の最小の値が最も小さくなる組み合わせを上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束とする点にある。
【0024】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記一方の仮定値として上記反応容器の外表面における温度或いは熱流束の仮定値を上記熱伝達率と上記参照温度とを用いて与え、上記参照温度を上記反応容器の冷却条件から定める点にある。
【0025】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記温度測定点は、上記反応容器の壁内部の厚み方向に1次元的に存在するだけでなく、2次元的或いは3次元的にも複数配置されている点にある。
【0026】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、1次元非定常熱伝導方程式を組み合わせて2次元或いは3次元近似する点にある。
【0027】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、2次元非定常熱伝導方程式或いは3次元非定常熱伝導方程式を用いる点にある。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の反応容器の操業管理方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の実施の形態を説明する。
【0029】
図1には、本実施の形態の反応容器の操業管理装置の概略構成を示す。同図に示すように、反応容器の操業管理装置は、反応容器の壁に埋め込まれた熱電対(図5を参照)により測定された温度が入力される入力部101と、入力部101に入力される温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める演算部102と、演算部102により演算された反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を、例えば図示しないディスプレイに表示等するための出力部103とを備えている。
【0030】
以下、主として演算部102において行われる処理について詳細に説明する。逆問題解析に用いられる非定常熱伝導方程式は、下記の数1に示すように表される。
【0031】
【数1】
【0032】
数1において、ρは反応容器内部の材料の密度、Cpは反応容器内部の材料の比熱、Tは反応容器内部の温度の計算値、tは時間、kは反応容器内部の材料の熱伝導度を表す。
【0033】
熱伝導逆問題解析というのは、計算領域を支配する非定常熱伝導方程式を基にして、領域内部の温度を既知として、領域境界での温度や熱流束等の境界条件を推定することをいう。これに対して、熱伝導順問題解析というのは、既知である領域境界での温度や熱流束等の境界条件から領域内部の温度を推定することをいう。
【0034】
2次元逆問題解析の手法の例としては、例えば、本願出願人が先に出願した特願2001−002680に示したものがあり、この手法はそのまま1次元逆問題解析へも適用できる。また、1次元逆問題解析の例として、Beckらにより提案された解析手法が知られている(Beckその他、Inverse Heat Conduction,1985,Wiley,New York)。
【0035】
また、逆問題解析の最近の手法として、カルマンフィルター理論や、射影フィルター理論などの確率的推定法を適用することも考えられる。この手法は、現状では、上記数1の左辺をゼロと置いた、定常熱伝導方程式(観測方程式)への適用が検討されているが、非定常項を含めて適切に観測行列を構成できれば、同様の逆問題解析ができる可能性がある。この定常微分方程式への、確率推定法の適用例としては、登坂その他、「逆問題の数理と解法・偏微分方程式の逆解析」(東京大学出版会(1999))に詳しい。
【0036】
本実施の形態では、逆問題解析の手法として上記特願2001−002680に示した考え方を用いている。
【0037】
すなわち、下記の数2に示すように、ある1次元方向(図5に示す1a→1b→1cや1d→1e等)に配置された各熱電対により測定された温度Yと、反応容器の内表面及び外表面における熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された各熱電対位置での温度Tとの差の二乗の和が最小となる仮定値を反応容器の内表面及び外表面における熱流束として求める。なお、Jは熱電対の数を表す。
【0038】
【数2】
【0039】
このように複数の熱電対位置での温度T、Yを完全に一致させるような解(反応容器の内表面及び外表面における熱流束)を求めるのではなく、最小二乗的に満たすような解を求めることにより、現実的な熱流束変化の推定が可能となる。その理由は、測定温度には様々な測定誤差要因が含まれるため、完全に一致させることは実用的に意味がないといえるからである。
【0040】
なお、計算を安定化させるために、正則化項を付加するようにしてもよい。下記の数3には、0次の正則化項の例を示す。pは推定熱流束の分割数の数であり、α0は経験値から得られる正則化パラメータである。
【0041】
【数3】
【0042】
以下に、より具体的に、複数の熱電対位置での温度Yを既知として、反応容器の内表面及び外表面における熱流束を推定する定式化と、計算手続きの一例を示す。
【0043】
下記の数4のSmは全体の目的関数を表し、下記の数5は、実測温度Yと計算温度Tの偏差を表す目的関数を示す。下記の数6は、計算を安定化するために付加した目的関数であり、空間分割方向の値の急激な変化を抑える働きがある。数6中のα0やα1は、一定の経験値から得られる正則化パラメータである。
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
上記数5では、ある熱電対で計測された温度Yと、熱流束の仮定値から熱伝導方程式モデルにより算出された温度Tの差の二乗が最小となるように目的関数を設定している。また、上記数6では、温度測定誤差があっても解が安定するように空間方向の正則化を施す目的関数を設定している。そして、数4を全体の目的関数として、下記の数7に示すように、未知である熱流束分割領域に対して極小点を探す。
【0048】
【数7】
【0049】
ここで、数8に示すように、解を安定させる目的で、各時間ステップの熱流束値が、一定の未来時間まで不変であると仮定する。時間ステップは、対象とする材料の熱物性・形状などによって変わる。数8のqは熱流束を示し、m時間ステップにおける熱流束qmから、将来時間m+r−1時間ステップにおける熱流束qm+r−1が一定であると仮定している。
【0050】
【数8】
【0051】
そして、数7の極小化を、数8の仮定を用いて展開すると、数9に示すように、マトリクス形に展開することができる。
【0052】
【数9】
【0053】
数9のXTXは数4の右辺第1項から導かれ、XTXに続く2項(α0H0 TH0+α1H1 TH1)は、数4の右辺第2項から導かれる(上付のTは、転置行列を表す)。Xの構成は、補足式数10として下部に、Xj,i,kとして示している。ここで、時間方向の分割数を示すiは、最大M時間ステップまで変化し、熱電対の数を示すjは、最大J個まで変化して、熱流束分布の分割数を示すkは、最大pまで変化する。なお、数9の上付の*は、繰り返し収束計算での参照値であることを示しており、T*は温度参照値、q*は熱流束参照値である。1次元の場合は、両端の境界条件を推定するので、熱流束分布の分割数kは、最大p=2である。
【0054】
【数10】
【0055】
数9は、温度変化が起きた場合の熱流束の変化を推定する連立方程式であり、各時間ステップにおいて、この数9を用いて両端の熱流束qを求める。まずは、前時間ステップでの熱電対位置での計算温度を初期T*とし、数9によりqを求める。このqを、並行して計算している順問題熱伝導方程式モデルの境界条件として与え、温度分布を計算する。ここで求めた温度計算値を、次の温度参照値T*として、qを再修正する(数9に代入してqを再び求める)。この操作を、数5が一定残差以下になる(収束)まで、qとT*の修正を繰り返し、各時間ステップにおける両端の熱流束(最終的なq)を求めていく。この計算手続きを繰り返すことにより、両端の熱流束qの変化を、2つ同時に推定することが可能となる。
【0056】
数10は、一種の感度行列を表しており、端的に言うと、境界端点での熱流束qの単位変化に対する熱電対位置での計算温度Tの変化の大きさの比率を示している。数10は、逆解析と同時に計算している順問題計算によって、各時間ステップにおいて、単位時間ステップあたりの値の計算が可能である。
【0057】
以下、1次元の逆問題解析を例にして、より望ましい解法について説明する。上述のように、2つの端面(反応容器の内表面及び外表面)の熱流束を未知の境界条件とした1次元逆問題を構成(定式化)しても、原理上は解を求めることができる。
【0058】
ただし、熱電対の数や材料の熱物性条件等によって多解となる場合があり、計算が不安定となる可能性がある。その理由の一つは、「未知両端面の熱流束差」の組み合わせを適当に選ぶことができれば、離散的な温度測定点の温度変化を表現する熱流束の組み合わせは無数に存在する可能性があるためである。特に、熱伝導度の低い物質の場合、表面温度が極端に大きくなったり、小さくなったりしてしまうような境界条件を推定してしまう場合でも、離散測定点の温度の変化だけを再現すれば、一つの解として認識してしまうことも起こり得る。これは、現実の現象としてはあり得ないことであるばかりでなく、逆問題計算を非常に不安定なものとする。
【0059】
また、実際の問題として、逆問題解析を開始する時の熱電対の温度(離散測定点の温度)は既知として与えられるが、その他の解析領域での温度分布の初期条件は不明であることが一般的である。このため、任意に与えた仮初期温度分布から計算を始め、計算ステップを進める中で、実際の温度分布を探索・推定し、妥当な温度分布へと徐々に修正しながら、安定的に計算を進めていけるような計算ロジックにすることが求められる(ここで言う温度分布とは、例えば、逆問題解析の計算手続きの中で、上記数9の解を修正するために並行して計算している順問題熱伝導方程式モデルの計算値である)。このように、初期温度分布が不確定であることも、逆問題計算を不安定なものとする大きな要因の一つとなる。
【0060】
以上のことは、逆問題を安定化するためには、逆問題解析の過程で、ある程度の表面温度の目安(拘束条件)を与える必要性があることを示しているといえる。この考え方に基づき、拘束条件を適当に与える手法を、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0061】
まず、反応容器の内表面及び外表面のいずれか片側、ここでは外表面における熱流束として仮の熱流束qを与える。この仮の熱流束qの与え方として、熱伝達率hと参照温度Tbとを用いて、
q=h(Tsurf−Tb)
として与える(ステップS201)。
【0062】
Tsurfは未知境界、ここでは反応容器の外表面における温度を示している。この表面温度Tsurfは、逆問題解析の過程で熱流束の値を修正するために、通常は順問題解析も同時に行うが、この順問題解析で求めた表面温度に相当する。
【0063】
また、参照温度Tbは反応容器の内部及び内外表面以外での温度である。本実施の形態では、反応容器の冷却条件、例えば、水冷ならば水温等に基づいて定めるようにしている。
【0064】
結果として、上式の左辺である熱流束qをあたかも既知の熱流束情報として与えることができる。このように仮の熱流束情報を与えることで、熱伝達率hと参照温度Tbという2つの拘束条件を与えることとなり、任意の熱流束を与えるのに比べて物理的な妥当性を確保して、極端な温度分布が生じることを防ぐことが可能となる。
【0065】
次に、反応容器の外表面における仮の熱流束q(=h(Tsurf−Tb))を与えて、上記数2、又は、数5に示した温度T、Yの差の二乗の和が最小となる反応容器の内表面における熱流束を、反応容器の内表面における仮の熱流束として算出する(ステップS202)。このステップは、逆問題解析のメインの計算手続きであり、具体的な解法の一つとして、数4から数9に示した定式化と計算手続きが、そのまま適用できる。この場合では、数9を解く際に、反応容器の外表面における仮の熱流束q(=h(Tsurf−Tb))は既知として与え、反応容器の内表面における仮の熱流束を未知として解くことを意味する。
【0066】
ここで、上記のように片側(反応容器の外表面)の熱流束情報を与えて、逆問題解析により求めた反対側(反応容器の内表面)の熱流束は、一つの解の可能性を示しているに過ぎない。また、既知と仮定した熱伝達率hや参照温度Tbも概算値であり、本来ならば未知の値である。
【0067】
そこで、熱伝達率h及び外部参照温度Tbの両方或いはいずれかを数点変化させて、すなわち、反応容器の外表面における仮の熱流束qの値を数点(K点)振って、反応容器の外表面における仮の熱流束qと、各仮の熱流束情報qを与えたとき温度T、Yの差の二乗の和が最小となる反応容器の内表面における熱流束との組み合わせをK個得る(ステップS203)。
【0068】
そして、下記の数11に示すように、反応容器の外表面における仮の熱流束qと、各仮の熱流束情報qに対応して得られた反応容器の内表面における熱流束とのK個の組み合わせのうち、温度T、Yの差の二乗の値が最も小さくなる組み合わせを選び出し、その組み合わせを反応容器の内表面及び外表面における熱流束とする(ステップS204)。
【0069】
【数11】
【0070】
上式の大括弧の中は、片側の熱流束を既知として逆問題解析した1ケースの計算結果を示し、その計算をKケース計算した中から更に最小二乗差の最も小さな結果を選び出すことを意味する。
【0071】
この手続を、各時間ステップにおいて繰り返し行うことにより、反応容器の内表面及び外表面における熱流束経時変化を逐次同時計算していくことができる。
【0072】
以上述べたように、反応容器の内表面及び外表面における熱流束変化を同時に求めるような1次元逆問題解析を安定して実行することができる。そして、反応容器の内表面及び外表面における温度変化や熱流束変化を同時推定することができれば、例えば、ある温度測定点における温度変動が、反応容器の内表面における熱流束変化によるものなのか、反応容器外に設置された冷却装置の接触不良等によって引き起こされるような反応容器の外表面における熱流束変化によるものかを区別するようなことが可能となる。
【0073】
上記手法は1次元逆問題解析に適用すると簡便であり、実際問題として有効である場合が多い。その理由は、一般的には、反応容器の上端と下端とは断熱条件(対称)とする場合が多く、実用的にも問題ないからである。
【0074】
したがって、図5の破線で区切られた範囲での厚み方向1次元を仮定して逆問題解析し、その結果を上下方向に組み合わせることで、2次元化することも可能である。
【0075】
より厳密に図5の上下方向の熱流れも考慮したい場合には、2次元逆問題解析が必要である。このような2次元解析は、図1の左右両端部の熱流束分割を上方向に細かくして、これらの熱電対位置での温度を最小二乗的に最小な熱流束分布を求めることと等価であり、上述した特願2001−002680に示した逆問題定式化と同様の手法に従って本発明を適用すればよいこととなる。
【0076】
この場合に、図5の上端下端の熱流束に関しては、未知としても、既知としても構わないが、計算の安定性を考慮すると、物理的な考察から適当な熱流束(例えば、断熱等)を与えて既知とした方が望ましい。
【0077】
同様の考えに基づいて、3次元解析への拡張も容易に行うことができる。
【0078】
(実施例)
上記手法に従って、ある金属精錬炉壁に埋め込まれた熱電対の測定温度データを逆問題解析した例を説明する。図3に示すように、炉壁の厚さは総長1mであり、炉外端部から0.1[m]、0.2[m]の位置に熱電対1t、1sが埋め込まれている。すなわち、熱電対の位置は炉外側に偏った配置関係とされている。なお、炉壁材の熱物性値は、定圧熱容量Cp=0.17[kcal/kg・K](≒7.12×102[J/kg・K])、エネルギー密度ρ=2300[kg/m3]、熱伝導率k=18.2[kcal/m・hr・K](≒7.62×104[J/m・hr・K])である。計算の時間刻みは3時間とした。
【0079】
図4には、熱電対1s、1tの測定温度データ及び解析結果を示す。横軸はいずれも日数である。図4(a)は2つの熱電対1s、1tの温度経時変化を示す。この結果によると、楕円で囲んだように、目立って高温化している個所が2箇所観察することができる(高温化1、高温化2)。
【0080】
しかしながら、図4(a)に示す結果だけでは、これら高温化現象1、2が炉内が高温化したことに起因するのか、炉外の冷却能力が低下したことに起因するのかの区別をつけることができない。
【0081】
図4(b)、(c)には、上記実施の形態で説明した逆問題解析の手法により炉内端部(反応容器の内表面)における温度及び炉外端部(反応容器の外表面)における温度を求めた結果を示す。このように高温化現象を解析すると、高温化現象1は、炉内端部と炉外端部とが同時に高温化しており、炉内の反応活性高温化の影響が炉外端部に影響したものと推察することができる。一方、高温化現象2は、炉内端部での温度変動はほとんど観察されず、単に炉外の冷却能力が低下したために高温化したものと推察することができる。
【0082】
図4(d)には、同じく上記実施の形態で説明した逆問題解析の手法により求めた炉外端部及び炉内端部の熱流束の変化を示す。また、図4(e)には、炉外端部側の熱伝達率hに換算したグラフを示す。この結果からも、高温化現象2付近では熱伝達率hも大きく変動しており、300日を越えたあたりから冷却能力が徐々に大きくなり、高温化現象2付近で急激に低下したことが推定され、何らかの要因により冷却に異常が生じていることが分かる。
【0083】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態の反応容器の操業管理装置は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等により構成され、RAMやROMに記憶されたプログラムが動作することによって実現される。したがって、コンピュータに対し、上記実施の形態の機能を実現するためのプログラム自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラム自体は本発明を構成する。
【0084】
また、上記プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを格納した記録媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0085】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより、上述の実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施の形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施の形態に含まれることはいうまでもない。
【0086】
更に、供給されたプログラムがコンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに格納された後、そのプログラムの指示に基づいてその機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合にも本発明に含まれることはいうまでもない。
【0087】
なお、上記実施の形態において示した各部の形状及び構造は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、本発明をネットワーク環境で利用すべく、全部或いは一部のプログラムが他のコンピュータで実行されるようになっていてもかまわない。
【0088】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、反応容器の壁内の温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度変化や熱流束変化を同時推定することができる。したがって、例えば、ある温度測定点における温度変動が、反応容器の内表面における熱流束変化によるものなのか、反応容器外に設置された冷却装置の接触不良等によって引き起こされるような反応容器の外表面における熱流束変化によるものかを区別するようなことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態の反応容器の操業管理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】操業管理装置における演算処理を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施例において金属精錬炉壁に埋め込まれた熱電対1s、1tの配置関係を説明するための図である。
【図4】熱電対1s、1tの測定温度データ及び解析結果を示す図である。
【図5】複数の熱電対が埋め込まれた反応容器(加熱炉)の炉壁近くの2次元断面を示す図である。
【符号の説明】
101 入力部
102 演算部
103 出力部
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、高炉、燃焼による鋼材加熱炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器の操業を管理するための反応容器の操業管理方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
高炉、燃焼による鋼材加熱炉、石炭ガス化反応炉等の高温のガス反応又は液体反応を伴う反応容器の操業を管理する場合、反応容器内の状況(例えば、燃焼挙動)を観測し、その状況を管理する必要がある。
【0003】
従来から、反応容器の壁に埋め込まれた熱電対により測定された温度から反応容器内の状況を推定することがなされている。例えば、急激な温度上昇があれば、その熱電対周辺の反応容器内において異常な発熱が生じていると推定し、逆に極端な温度下降があれば、その熱電対周辺の反応容器内において発熱反応域の縮小等の発熱量低下が生じていると推定する等の経験的な手法である。
【0004】
しかしながら、上記のような推定では、実際の反応容器内での温度異常の発生タイミングと温度測定したタイミングとの間でタイムラグが発生することは避けられない。これは、反応容器内の温度異常が熱流束変化として反応容器の表面に伝わり、その後、反応容器の壁材料内部に一部の熱が溜まりつつ、熱伝導効果によって熱が徐々に伝わって、最終的に熱電対に温度変化をもたらすためであり、原理的に、熱容量を有する固体内の熱伝導現象は若干の時間遅れを有する(非定常性)。
【0005】
これに対して、反応容器壁内の熱伝導現象を非定常1次元の熱伝導逆問題と考えて、1つの熱電対温度変化、又は、1次元方向に並んだ複数の熱電対温度変化から、反応容器の内表面における熱流束変化を推定する手法が提案されている。
【0006】
図5は、複数の熱電対「×」が埋め込まれた反応容器(加熱炉)の炉壁近くの2次元断面を示している。炉壁内に破線で境界を示しているが、1次元とはこの破線に沿った方向の熱流れのみを考慮したことを意味している。すなわち、例えば、1a→1b→1cや1d→1e方向の熱伝導を想定した場合に、炉内表面における熱流束を推定する。このとき、炉外表面の冷却条件を既知と仮定して、未知とした炉内表面における熱流束を求めることが一般的である。もちろん、既知と未知の境界条件を反対にすることも可能である。
【0007】
上記推定手法としては、例えば、特許文献1では、高炉炉床に埋め込まれた熱電対から、非定常1次元熱伝導方程式の逆問題解析することにより、端点の熱流束を推定する手法について述べられている。
【0008】
この手法の一つは、1点の熱電対温度変化と、端点の冷却条件(既知と仮定)から、その反対側の端点の熱流束を推定する手法である。このような冷却条件は、熱伝達係数と冷却水温度で与えることになるが、特に、熱伝達係数は、冷却水の平均流速から経験相関式により推定することになるので、不確実な推定値になる場合があり、その値を使って逆問題推定した反対側端点の熱流束推定値の精度に、悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
また、もう一つの手法として、2点の熱電対温度変化を用いた推定手法についても述べられているが、2点の内、1点を固定温度境界条件として与えて解く手法であるので、2点の相対的な温度変化を捉えて推定することは難しい上に、固定温度境界条件上での熱流束の推定は可能であるが、固定温度境界条件に選んだ側の、その外側延長線上の端点熱流束は推定できないことになる。
【0010】
更に、上記いずれの方法においても、解析長さを固定して両端の熱流束を求める手法ではなく、耐火物表面に付着する炉内溶融物による厚みの変化と、熱流束変化を同時に推定する手法である。凝固・溶解現象によって付着量を増減するロジックを逆問題解析に導入すると、第一に、計算手続きが複雑になって計算が不安定化しやすくなるという問題がある。第二に、各時間ステップで解析長さを変化させる計算手続きが入ると、長さを変化させた前後の温度分布の推定方法に不確定な要素が混入する可能性があるので、熱流束の推定精度が悪くなる可能性も否定できない。
【0011】
このように、従来の逆問題解析手法では、不十分な点が多く、複数の熱電対情報から、解析長さを固定して、その両端の熱流束を同時に推定する手法を新たに確立して、非定常な熱流束の変化を精度良く、安定的に推定する技術が重要となる。
【0012】
これに対して、複数の熱電対の計測温度から、その温度変化を十分に表現できるように、試行錯誤的に温度分布を推定し、両端の温度分布を同時に推定する手法も考えられる。しかし、このような手法では、熱電対の数が増えると計算が複雑化して、全ての熱電対の計測温度変化を満たす温度分布解を得ることは、極めて難しくなる。また、それぞれの熱電対において、計測温度と計算温度の差の絶対値を何処まで小さくすべきかの基準を決めることが困難なので、計算手続きを一般化することが難しい。
【0013】
この一つの例として、2つの熱電対温度から、特許文献1の手法を応用して、未知の熱流束を、2つの端点で交互に変えて計算し、見かけ上、同時に端点の熱流束を推定する方法が考えられる。即ち、固定温度境界条件とする計測温度を交互に変えて繰り返して計算し、両方の熱電対における計測温度と計算温度が、ある程度一致した時点で、その時間ステップでの両端の熱流束解とするものである。
【0014】
しかし、この手法においては、それぞれの熱電対において、計測温度と計算温度の差の絶対値が、どの程度まで小さくなった時点で解とすべきかを決めることが困難で、場合によっては、片方の熱電対温度を極めてよく表現するが、もう一方の熱電対温度はあまり表現できないような場合でも、解として認識してしまう危険性をはらんでいる。つまり、2つの熱電対位置において、計測温度と計算温度の差の絶対値を最小化するに際して、独立した2つの熱電対位置での最小化のバランスをどの程度にするべきかの基準を、適切に設定することが難しい。
【0015】
さらに、複数の熱電対の場合まで、この方法を拡張すると、解の判定が極めて難しくなることは言うまでもない。
【0016】
【特許文献1】
特開2001−234217号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述のように、本来の非定常1次元の熱伝導逆問題は、炉内表面及び炉外表面での境界条件を同時推定することであり、片側の境界条件を既知と仮定した逆問題解法では、未知とした境界条件の近似的な答えしか得ることができない。例えば、ある熱電対により測定された温度変動が、上述のような反応容器の内表面における熱流束変化によるものなのか、反応容器外に設置された冷却装置の接触不良等によって引き起こされるような反応容器の外表面における熱流束変化によるものかを区別することはできないことになる。
【0018】
また、より厳密に評価するには、熱伝導現象は、図5に示す破線を跨いで上方向にも起こるはずであり、2次元での熱伝導逆問題を解くことが必要となる。この場合には、図2の上下境界が断熱と仮定した場合においても、左右境界の細かな熱流束分布を推定する2次元逆問題を構成する必要があることになる。
【0019】
本発明は上記のような点に鑑みてなされたものであり、反応容器の内表面及び外表面における熱流束変化や温度変化を同時推定可能とすることを目的とする。更には、1次元だけでなく、2次元、3次元といった空間次元数にも容易に適用可能とすることを目的とする。
【0020】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための手段として、本発明の反応容器の操業管理方法について説明すれば、本発明の反応容器の操業管理方法は、高温反応を伴う反応容器の操業を管理するための反応容器の操業管理方法であって、上記反応容器の壁内部の少なくとも厚み方向に複数配置された温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める手順を有する点に特徴を有する。
【0021】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記各温度測定点において測定された温度と、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された上記各温度測定点位置での温度との差の二乗の和が最小となる上記仮定値を上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束として求める点にある。
【0022】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記反応容器の内表面及び外表面のいずれか一方における温度或いは熱流束の仮定値を熱伝達率と上記反応容器の壁内部及び内外表面以外での参照温度とを用いて一方の仮定値として与え、上記差の二乗の和が最小となる上記反応容器の内表面及び外表面のいずれか他方における温度或いは熱流束を他方の仮定値として算出する点にある。
【0023】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記熱伝達率及び上記参照温度の少なくともいずれかを変化させた上記一方の仮定値と、上記各一方の仮定値に対応して得られた上記他方の仮定値との複数の組み合わせのうち、上記差の二乗の和の最小の値が最も小さくなる組み合わせを上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束とする点にある。
【0024】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記一方の仮定値として上記反応容器の外表面における温度或いは熱流束の仮定値を上記熱伝達率と上記参照温度とを用いて与え、上記参照温度を上記反応容器の冷却条件から定める点にある。
【0025】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、上記温度測定点は、上記反応容器の壁内部の厚み方向に1次元的に存在するだけでなく、2次元的或いは3次元的にも複数配置されている点にある。
【0026】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、1次元非定常熱伝導方程式を組み合わせて2次元或いは3次元近似する点にある。
【0027】
また、本発明の反応容器の操業管理方法の他の特徴とするところは、2次元非定常熱伝導方程式或いは3次元非定常熱伝導方程式を用いる点にある。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の反応容器の操業管理方法、装置、コンピュータプログラム、及びコンピュータ読み取り可能な記憶媒体の実施の形態を説明する。
【0029】
図1には、本実施の形態の反応容器の操業管理装置の概略構成を示す。同図に示すように、反応容器の操業管理装置は、反応容器の壁に埋め込まれた熱電対(図5を参照)により測定された温度が入力される入力部101と、入力部101に入力される温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める演算部102と、演算部102により演算された反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を、例えば図示しないディスプレイに表示等するための出力部103とを備えている。
【0030】
以下、主として演算部102において行われる処理について詳細に説明する。逆問題解析に用いられる非定常熱伝導方程式は、下記の数1に示すように表される。
【0031】
【数1】
【0032】
数1において、ρは反応容器内部の材料の密度、Cpは反応容器内部の材料の比熱、Tは反応容器内部の温度の計算値、tは時間、kは反応容器内部の材料の熱伝導度を表す。
【0033】
熱伝導逆問題解析というのは、計算領域を支配する非定常熱伝導方程式を基にして、領域内部の温度を既知として、領域境界での温度や熱流束等の境界条件を推定することをいう。これに対して、熱伝導順問題解析というのは、既知である領域境界での温度や熱流束等の境界条件から領域内部の温度を推定することをいう。
【0034】
2次元逆問題解析の手法の例としては、例えば、本願出願人が先に出願した特願2001−002680に示したものがあり、この手法はそのまま1次元逆問題解析へも適用できる。また、1次元逆問題解析の例として、Beckらにより提案された解析手法が知られている(Beckその他、Inverse Heat Conduction,1985,Wiley,New York)。
【0035】
また、逆問題解析の最近の手法として、カルマンフィルター理論や、射影フィルター理論などの確率的推定法を適用することも考えられる。この手法は、現状では、上記数1の左辺をゼロと置いた、定常熱伝導方程式(観測方程式)への適用が検討されているが、非定常項を含めて適切に観測行列を構成できれば、同様の逆問題解析ができる可能性がある。この定常微分方程式への、確率推定法の適用例としては、登坂その他、「逆問題の数理と解法・偏微分方程式の逆解析」(東京大学出版会(1999))に詳しい。
【0036】
本実施の形態では、逆問題解析の手法として上記特願2001−002680に示した考え方を用いている。
【0037】
すなわち、下記の数2に示すように、ある1次元方向(図5に示す1a→1b→1cや1d→1e等)に配置された各熱電対により測定された温度Yと、反応容器の内表面及び外表面における熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された各熱電対位置での温度Tとの差の二乗の和が最小となる仮定値を反応容器の内表面及び外表面における熱流束として求める。なお、Jは熱電対の数を表す。
【0038】
【数2】
【0039】
このように複数の熱電対位置での温度T、Yを完全に一致させるような解(反応容器の内表面及び外表面における熱流束)を求めるのではなく、最小二乗的に満たすような解を求めることにより、現実的な熱流束変化の推定が可能となる。その理由は、測定温度には様々な測定誤差要因が含まれるため、完全に一致させることは実用的に意味がないといえるからである。
【0040】
なお、計算を安定化させるために、正則化項を付加するようにしてもよい。下記の数3には、0次の正則化項の例を示す。pは推定熱流束の分割数の数であり、α0は経験値から得られる正則化パラメータである。
【0041】
【数3】
【0042】
以下に、より具体的に、複数の熱電対位置での温度Yを既知として、反応容器の内表面及び外表面における熱流束を推定する定式化と、計算手続きの一例を示す。
【0043】
下記の数4のSmは全体の目的関数を表し、下記の数5は、実測温度Yと計算温度Tの偏差を表す目的関数を示す。下記の数6は、計算を安定化するために付加した目的関数であり、空間分割方向の値の急激な変化を抑える働きがある。数6中のα0やα1は、一定の経験値から得られる正則化パラメータである。
【0044】
【数4】
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
上記数5では、ある熱電対で計測された温度Yと、熱流束の仮定値から熱伝導方程式モデルにより算出された温度Tの差の二乗が最小となるように目的関数を設定している。また、上記数6では、温度測定誤差があっても解が安定するように空間方向の正則化を施す目的関数を設定している。そして、数4を全体の目的関数として、下記の数7に示すように、未知である熱流束分割領域に対して極小点を探す。
【0048】
【数7】
【0049】
ここで、数8に示すように、解を安定させる目的で、各時間ステップの熱流束値が、一定の未来時間まで不変であると仮定する。時間ステップは、対象とする材料の熱物性・形状などによって変わる。数8のqは熱流束を示し、m時間ステップにおける熱流束qmから、将来時間m+r−1時間ステップにおける熱流束qm+r−1が一定であると仮定している。
【0050】
【数8】
【0051】
そして、数7の極小化を、数8の仮定を用いて展開すると、数9に示すように、マトリクス形に展開することができる。
【0052】
【数9】
【0053】
数9のXTXは数4の右辺第1項から導かれ、XTXに続く2項(α0H0 TH0+α1H1 TH1)は、数4の右辺第2項から導かれる(上付のTは、転置行列を表す)。Xの構成は、補足式数10として下部に、Xj,i,kとして示している。ここで、時間方向の分割数を示すiは、最大M時間ステップまで変化し、熱電対の数を示すjは、最大J個まで変化して、熱流束分布の分割数を示すkは、最大pまで変化する。なお、数9の上付の*は、繰り返し収束計算での参照値であることを示しており、T*は温度参照値、q*は熱流束参照値である。1次元の場合は、両端の境界条件を推定するので、熱流束分布の分割数kは、最大p=2である。
【0054】
【数10】
【0055】
数9は、温度変化が起きた場合の熱流束の変化を推定する連立方程式であり、各時間ステップにおいて、この数9を用いて両端の熱流束qを求める。まずは、前時間ステップでの熱電対位置での計算温度を初期T*とし、数9によりqを求める。このqを、並行して計算している順問題熱伝導方程式モデルの境界条件として与え、温度分布を計算する。ここで求めた温度計算値を、次の温度参照値T*として、qを再修正する(数9に代入してqを再び求める)。この操作を、数5が一定残差以下になる(収束)まで、qとT*の修正を繰り返し、各時間ステップにおける両端の熱流束(最終的なq)を求めていく。この計算手続きを繰り返すことにより、両端の熱流束qの変化を、2つ同時に推定することが可能となる。
【0056】
数10は、一種の感度行列を表しており、端的に言うと、境界端点での熱流束qの単位変化に対する熱電対位置での計算温度Tの変化の大きさの比率を示している。数10は、逆解析と同時に計算している順問題計算によって、各時間ステップにおいて、単位時間ステップあたりの値の計算が可能である。
【0057】
以下、1次元の逆問題解析を例にして、より望ましい解法について説明する。上述のように、2つの端面(反応容器の内表面及び外表面)の熱流束を未知の境界条件とした1次元逆問題を構成(定式化)しても、原理上は解を求めることができる。
【0058】
ただし、熱電対の数や材料の熱物性条件等によって多解となる場合があり、計算が不安定となる可能性がある。その理由の一つは、「未知両端面の熱流束差」の組み合わせを適当に選ぶことができれば、離散的な温度測定点の温度変化を表現する熱流束の組み合わせは無数に存在する可能性があるためである。特に、熱伝導度の低い物質の場合、表面温度が極端に大きくなったり、小さくなったりしてしまうような境界条件を推定してしまう場合でも、離散測定点の温度の変化だけを再現すれば、一つの解として認識してしまうことも起こり得る。これは、現実の現象としてはあり得ないことであるばかりでなく、逆問題計算を非常に不安定なものとする。
【0059】
また、実際の問題として、逆問題解析を開始する時の熱電対の温度(離散測定点の温度)は既知として与えられるが、その他の解析領域での温度分布の初期条件は不明であることが一般的である。このため、任意に与えた仮初期温度分布から計算を始め、計算ステップを進める中で、実際の温度分布を探索・推定し、妥当な温度分布へと徐々に修正しながら、安定的に計算を進めていけるような計算ロジックにすることが求められる(ここで言う温度分布とは、例えば、逆問題解析の計算手続きの中で、上記数9の解を修正するために並行して計算している順問題熱伝導方程式モデルの計算値である)。このように、初期温度分布が不確定であることも、逆問題計算を不安定なものとする大きな要因の一つとなる。
【0060】
以上のことは、逆問題を安定化するためには、逆問題解析の過程で、ある程度の表面温度の目安(拘束条件)を与える必要性があることを示しているといえる。この考え方に基づき、拘束条件を適当に与える手法を、図2のフローチャートを参照して説明する。
【0061】
まず、反応容器の内表面及び外表面のいずれか片側、ここでは外表面における熱流束として仮の熱流束qを与える。この仮の熱流束qの与え方として、熱伝達率hと参照温度Tbとを用いて、
q=h(Tsurf−Tb)
として与える(ステップS201)。
【0062】
Tsurfは未知境界、ここでは反応容器の外表面における温度を示している。この表面温度Tsurfは、逆問題解析の過程で熱流束の値を修正するために、通常は順問題解析も同時に行うが、この順問題解析で求めた表面温度に相当する。
【0063】
また、参照温度Tbは反応容器の内部及び内外表面以外での温度である。本実施の形態では、反応容器の冷却条件、例えば、水冷ならば水温等に基づいて定めるようにしている。
【0064】
結果として、上式の左辺である熱流束qをあたかも既知の熱流束情報として与えることができる。このように仮の熱流束情報を与えることで、熱伝達率hと参照温度Tbという2つの拘束条件を与えることとなり、任意の熱流束を与えるのに比べて物理的な妥当性を確保して、極端な温度分布が生じることを防ぐことが可能となる。
【0065】
次に、反応容器の外表面における仮の熱流束q(=h(Tsurf−Tb))を与えて、上記数2、又は、数5に示した温度T、Yの差の二乗の和が最小となる反応容器の内表面における熱流束を、反応容器の内表面における仮の熱流束として算出する(ステップS202)。このステップは、逆問題解析のメインの計算手続きであり、具体的な解法の一つとして、数4から数9に示した定式化と計算手続きが、そのまま適用できる。この場合では、数9を解く際に、反応容器の外表面における仮の熱流束q(=h(Tsurf−Tb))は既知として与え、反応容器の内表面における仮の熱流束を未知として解くことを意味する。
【0066】
ここで、上記のように片側(反応容器の外表面)の熱流束情報を与えて、逆問題解析により求めた反対側(反応容器の内表面)の熱流束は、一つの解の可能性を示しているに過ぎない。また、既知と仮定した熱伝達率hや参照温度Tbも概算値であり、本来ならば未知の値である。
【0067】
そこで、熱伝達率h及び外部参照温度Tbの両方或いはいずれかを数点変化させて、すなわち、反応容器の外表面における仮の熱流束qの値を数点(K点)振って、反応容器の外表面における仮の熱流束qと、各仮の熱流束情報qを与えたとき温度T、Yの差の二乗の和が最小となる反応容器の内表面における熱流束との組み合わせをK個得る(ステップS203)。
【0068】
そして、下記の数11に示すように、反応容器の外表面における仮の熱流束qと、各仮の熱流束情報qに対応して得られた反応容器の内表面における熱流束とのK個の組み合わせのうち、温度T、Yの差の二乗の値が最も小さくなる組み合わせを選び出し、その組み合わせを反応容器の内表面及び外表面における熱流束とする(ステップS204)。
【0069】
【数11】
【0070】
上式の大括弧の中は、片側の熱流束を既知として逆問題解析した1ケースの計算結果を示し、その計算をKケース計算した中から更に最小二乗差の最も小さな結果を選び出すことを意味する。
【0071】
この手続を、各時間ステップにおいて繰り返し行うことにより、反応容器の内表面及び外表面における熱流束経時変化を逐次同時計算していくことができる。
【0072】
以上述べたように、反応容器の内表面及び外表面における熱流束変化を同時に求めるような1次元逆問題解析を安定して実行することができる。そして、反応容器の内表面及び外表面における温度変化や熱流束変化を同時推定することができれば、例えば、ある温度測定点における温度変動が、反応容器の内表面における熱流束変化によるものなのか、反応容器外に設置された冷却装置の接触不良等によって引き起こされるような反応容器の外表面における熱流束変化によるものかを区別するようなことが可能となる。
【0073】
上記手法は1次元逆問題解析に適用すると簡便であり、実際問題として有効である場合が多い。その理由は、一般的には、反応容器の上端と下端とは断熱条件(対称)とする場合が多く、実用的にも問題ないからである。
【0074】
したがって、図5の破線で区切られた範囲での厚み方向1次元を仮定して逆問題解析し、その結果を上下方向に組み合わせることで、2次元化することも可能である。
【0075】
より厳密に図5の上下方向の熱流れも考慮したい場合には、2次元逆問題解析が必要である。このような2次元解析は、図1の左右両端部の熱流束分割を上方向に細かくして、これらの熱電対位置での温度を最小二乗的に最小な熱流束分布を求めることと等価であり、上述した特願2001−002680に示した逆問題定式化と同様の手法に従って本発明を適用すればよいこととなる。
【0076】
この場合に、図5の上端下端の熱流束に関しては、未知としても、既知としても構わないが、計算の安定性を考慮すると、物理的な考察から適当な熱流束(例えば、断熱等)を与えて既知とした方が望ましい。
【0077】
同様の考えに基づいて、3次元解析への拡張も容易に行うことができる。
【0078】
(実施例)
上記手法に従って、ある金属精錬炉壁に埋め込まれた熱電対の測定温度データを逆問題解析した例を説明する。図3に示すように、炉壁の厚さは総長1mであり、炉外端部から0.1[m]、0.2[m]の位置に熱電対1t、1sが埋め込まれている。すなわち、熱電対の位置は炉外側に偏った配置関係とされている。なお、炉壁材の熱物性値は、定圧熱容量Cp=0.17[kcal/kg・K](≒7.12×102[J/kg・K])、エネルギー密度ρ=2300[kg/m3]、熱伝導率k=18.2[kcal/m・hr・K](≒7.62×104[J/m・hr・K])である。計算の時間刻みは3時間とした。
【0079】
図4には、熱電対1s、1tの測定温度データ及び解析結果を示す。横軸はいずれも日数である。図4(a)は2つの熱電対1s、1tの温度経時変化を示す。この結果によると、楕円で囲んだように、目立って高温化している個所が2箇所観察することができる(高温化1、高温化2)。
【0080】
しかしながら、図4(a)に示す結果だけでは、これら高温化現象1、2が炉内が高温化したことに起因するのか、炉外の冷却能力が低下したことに起因するのかの区別をつけることができない。
【0081】
図4(b)、(c)には、上記実施の形態で説明した逆問題解析の手法により炉内端部(反応容器の内表面)における温度及び炉外端部(反応容器の外表面)における温度を求めた結果を示す。このように高温化現象を解析すると、高温化現象1は、炉内端部と炉外端部とが同時に高温化しており、炉内の反応活性高温化の影響が炉外端部に影響したものと推察することができる。一方、高温化現象2は、炉内端部での温度変動はほとんど観察されず、単に炉外の冷却能力が低下したために高温化したものと推察することができる。
【0082】
図4(d)には、同じく上記実施の形態で説明した逆問題解析の手法により求めた炉外端部及び炉内端部の熱流束の変化を示す。また、図4(e)には、炉外端部側の熱伝達率hに換算したグラフを示す。この結果からも、高温化現象2付近では熱伝達率hも大きく変動しており、300日を越えたあたりから冷却能力が徐々に大きくなり、高温化現象2付近で急激に低下したことが推定され、何らかの要因により冷却に異常が生じていることが分かる。
【0083】
(その他の実施の形態)
上述した実施の形態の反応容器の操業管理装置は、コンピュータのCPU或いはMPU、RAM、ROM等により構成され、RAMやROMに記憶されたプログラムが動作することによって実現される。したがって、コンピュータに対し、上記実施の形態の機能を実現するためのプログラム自体が上述した実施の形態の機能を実現することになり、そのプログラム自体は本発明を構成する。
【0084】
また、上記プログラムをコンピュータに供給するための手段、例えばかかるプログラムを格納した記録媒体は本発明を構成する。かかるプログラムコードを記憶する記録媒体としては、例えばフレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0085】
また、コンピュータが供給されたプログラムを実行することにより、上述の実施の形態の機能が実現されるだけでなく、そのプログラムがコンピュータにおいて稼働しているOS(オペレーティングシステム)或いは他のアプリケーションソフト等と共同して上述の実施の形態の機能が実現される場合にもかかるプログラムコードは本発明の実施の形態に含まれることはいうまでもない。
【0086】
更に、供給されたプログラムがコンピュータの機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに格納された後、そのプログラムの指示に基づいてその機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部又は全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現される場合にも本発明に含まれることはいうまでもない。
【0087】
なお、上記実施の形態において示した各部の形状及び構造は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化のほんの一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその精神、又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、本発明をネットワーク環境で利用すべく、全部或いは一部のプログラムが他のコンピュータで実行されるようになっていてもかまわない。
【0088】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、反応容器の壁内の温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度変化や熱流束変化を同時推定することができる。したがって、例えば、ある温度測定点における温度変動が、反応容器の内表面における熱流束変化によるものなのか、反応容器外に設置された冷却装置の接触不良等によって引き起こされるような反応容器の外表面における熱流束変化によるものかを区別するようなことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態の反応容器の操業管理装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】操業管理装置における演算処理を説明するためのフローチャートである。
【図3】実施例において金属精錬炉壁に埋め込まれた熱電対1s、1tの配置関係を説明するための図である。
【図4】熱電対1s、1tの測定温度データ及び解析結果を示す図である。
【図5】複数の熱電対が埋め込まれた反応容器(加熱炉)の炉壁近くの2次元断面を示す図である。
【符号の説明】
101 入力部
102 演算部
103 出力部
Claims (11)
- 高温反応を伴う反応容器の操業を管理するための反応容器の操業管理方法であって、
上記反応容器の壁内部の少なくとも厚み方向に複数配置された温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める手順を有することを特徴とする反応容器の操業管理方法。 - 上記各温度測定点において測定された温度と、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束の仮定値から非定常熱伝導方程式により算出された上記各温度測定点位置での温度との差の二乗の和が最小となる上記仮定値を上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束として求めることを特徴とする請求項1に記載の反応容器の操業管理方法。
- 上記反応容器の内表面及び外表面のいずれか一方における温度或いは熱流束の仮定値を熱伝達率と上記反応容器の壁内部及び内外表面以外での参照温度とを用いて一方の仮定値として与え、上記差の二乗の和が最小となる上記反応容器の内表面及び外表面のいずれか他方における温度或いは熱流束を他方の仮定値として算出することを特徴とする請求項2に記載の反応容器の操業管理方法。
- 上記熱伝達率及び上記参照温度の少なくともいずれかを変化させた上記一方の仮定値と、上記各一方の仮定値に対応して得られた上記他方の仮定値との複数の組み合わせのうち、上記差の二乗の和の最小の値が最も小さくなる組み合わせを上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束とすることを特徴とする請求項3に記載の反応容器の操業管理方法。
- 上記一方の仮定値として上記反応容器の外表面における温度或いは熱流束の仮定値を上記熱伝達率と上記参照温度とを用いて与え、上記参照温度を上記反応容器の冷却条件から定めることを特徴とする請求項3又は4に記載の反応容器の操業管理方法。
- 上記温度測定点は、上記反応容器の壁内部の厚み方向に1次元的に存在するだけでなく、2次元的或いは3次元的にも複数配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の反応容器の操業管理方法。
- 1次元非定常熱伝導方程式を組み合わせて2次元或いは3次元近似することを特徴とする請求項6に記載の反応容器の操業管理方法。
- 2次元非定常熱伝導方程式或いは3次元非定常熱伝導方程式を用いることを特徴とする請求項6に記載の反応容器の操業管理方法。
- 高温反応を伴う反応容器の操業を管理するための反応容器の操業管理装置であって、
上記反応容器の壁内部の少なくとも厚み方向に複数配置された温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める手段を備えたことを特徴とする反応容器の操業管理装置。 - 高温反応を伴う反応容器の操業を管理するためのコンピュータプログラムであって、
上記反応容器の壁内部の少なくとも厚み方向に複数配置された温度測定点において測定された温度から、非定常熱伝導方程式を用いた逆問題解析を行うことにより、上記反応容器の内表面及び外表面における温度或いは熱流束を求める処理を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。 - 請求項10に記載のコンピュータプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
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-
2002
- 2002-11-29 JP JP2002348429A patent/JP2004003800A/ja active Pending
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