JP2004003012A - 溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.02以上、0.07%未満、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜2%、Al:0.08%以下を含有し、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.10の中から選ばれる2種以上を含有し、残部が実質的にFeからなり、原子%でのC量とTi、Nb、Vの合計量の比であるC/(Ti+Nb+V)が0.5〜3であり、Ceqが0.38以下であり、金属組織が実質的にフェライトとベイナイトの2相組織であり、Ti、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出していることを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板を用いる。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、建築、海洋構造物、造船、土木、建設機械、ラインパイプ等の分野で使用される、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
溶接鋼構造物の大型化、またコスト削減の観点から、より高強度、高靭性を有する鋼板の需要が高まっている。通常、高強度高靭性鋼板は、焼入れ焼戻し処理や制御圧延・制御冷却を用いる、いわゆるTMCP法により製造されるが、焼入れ焼戻し処理は時間と手間を要し、製造コスト高である。また、TMCP法を用いて鋼材の高強度化を行なう際には、鋼材への多量の合金元素の添加が必要であり、合金元素添加によるコスト上昇、溶接熱影響部靭性の劣化が問題となる。
【0003】
焼入れ焼戻し処理の欠点を補うために、圧延後そのまま焼入れを行う直接焼入れ技術が知られているが、焼戻し工程を圧延・冷却ラインと別のラインで行うため従来の形式と大差がなく、製造効率、製造コストの改善には至らない(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【0004】
一方、特許3015923号公報、特許3015924号公報には、圧延から焼入れ焼戻し処理までを同一ラインで行い、かつ急速加熱で保持時間無しの焼戻し処理を行う技術が知られている(例えば、特許文献3、特許文献4参照。)。すべての工程を同一ラインで行うことで製造時間が短縮されるので、製造効率、製造コストが大幅に改善される。また、この技術で製造された鋼材は、急冷によってベイナイトまたはマルテンサイト組織とした後に、急速加熱焼戻しを行うことによって、過飽和に固溶した炭素が微細なセメンタイトとして析出し、さらに保持時間無しの焼戻し処理によりセメンタイトが粗大化しないため、強度靱性に優れている。
【0005】
【特許文献1】
特公昭53−6616号公報
【0006】
【特許文献2】
特公昭58−3011号公報
【0007】
【特許文献3】
特許3015923号公報
【0008】
【特許文献4】
特許3015924号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献3、特許文献4に記載の技術では、製造効率、製造コストを大幅に改善できるが、高強度の鋼を得るためには、その実施例が示すように、鋼材の炭素含有量を高めるか、あるいはその他の合金元素の添加量を増やす必要があるため、素材コストの上昇を招くだけでなく、溶接熱影響部靭性の劣化が問題となる。このように従来の技術では、多量の合金元素を添加することなく溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板を製造することは困難である。
【0010】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、多量の合金元素を添加することなく、低コストで製造できる、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板とその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
(1)、質量%で、C:0.02%以上、0.07%未満、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜2%、Al:0.08%以下を含有し、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.10の中から選ばれる2種以上を含有し、残部が実質的にFeからなり、原子%でのC量とTi、Nb、Vの合計量の比であるC/(Ti+Nb+V)が0.5〜3であり、下記(1)式で表されるCeqが0.38以下であり、金属組織が実質的にフェライトとベイナイトの2相組織であり、Ti、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出していることを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・・(1)
但し、(1)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
(2)、さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.005%以下の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする(1)に記載の溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板。
(3)、(1)または(2)に記載の成分組成を有する鋼を、1000〜1300℃の温度に加熱し、Ar3温度以上の圧延終了温度で熱間圧延した後、5℃/s以上の冷却速度で300〜600℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜700℃まで再加熱を行うことを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは高強度鋼板の溶接熱影響部靭性改善を目的に、鋼板の製造方法を鋭意検討し、制御圧延後の加速冷却とその後の再加熱という製造プロセスにおいて、ベイナイト変態途中で再加熱を行うことによって、加速冷却時のベイナイト変態による強化に加え、再加熱時の未変態オーステナイトからのフェライト変態時に析出する微細析出物による析出強化によって、合金元素が少なく低成分系の鋼においても高強度化が可能になるという知見を得た。そして、Ti、Nb、Vを含有する微細な複合炭化物の分散析出によってフェライト相の高強度化が達成できるという知見を得た。
【0013】
本発明は上記のような、圧延後の加速冷却によって生成したベイナイト相と、その後の再加熱によって生じるTi、Nb、Vを含有する微細な複合炭化物が分散析出したフェライト相との2相組織を有する高強度鋼板とその製造方法に関するものであり、変態強化に加え析出強化を最大限に活用するため、合金元素を多量に添加する必要がなく、溶接熱影響部靭性を損なうことなく高強度化が達成できるものである。
【0014】
以下、本発明の高強度鋼板について詳しく説明する。まず、本発明の高強度鋼板の組織について説明する。
【0015】
本発明の鋼板の金属組織は実質的にフェライトとベイナイトの2相組織とする。本発明では、加速冷却時のベイナイト変態による変態強化と、加速冷却後に再加熱してフェライト中に析出する微細析出物による析出強化を複合して活用することにより、合金元素を多量に添加することなく高強度化が可能である。フェライト相は延性に富んでおり、一般的には軟質であるが、本発明では以下に述べる微細な析出物により高強度化を達成できる。一方で、合金元素を多量に添加しない場合には、加速冷却で得られるベイナイト単層組織だけでは強度不足であるが、析出強化されたフェライト相との2相組織であれば十分な強度を有するものとなる。フェライトとベイナイトとの2相組織に、マルテンサイトやパーライトなどの異なる金属組織が1種または2種以上混在する場合は、強度が低下するため、フェライト相とベイナイト相以外の組織分率は少ない程良い。しかし、フェライト相とベイナイト相以外の組織の体積分率が低い場合は影響が無視できるため、トータルの体積分率で5%以下の他の金属組織を、すなわちマルテンサイト、パーライト等を1種または2種以上含有してもよい。また、強度確保の観点からフェライト分率を5%以上に、母材の靭性確保の観点からベイナイト分率を10%以上にする事が望ましい。
【0016】
次に、上記のフェライト相内に分散析出する析出物について説明する。
【0017】
本発明の鋼板では、フェライト相中のTi、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を含有する複合炭化物による析出強化を利用している。Ti、Nb、Vは鋼中で炭化物を形成する元素であり、個々の炭化物の析出により鋼を強化することは従来より行われているが、本発明ではTi、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を複合添加して、Ti、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を含有する複合炭化物を鋼中に微細析出させることにより、個々の炭化物による析出強化の場合に比べて、より大きな強度向上効果が得られることが特徴である。この従来にない大きな強度向上効果は、この複合炭化物が安定でかつ成長速度が遅いので、粒径が10nm未満の極めて微細な析出物が得られることによるものである。
【0018】
本発明において鋼板内に分散析出する析出物である、Ti、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を含有する複合炭化物は、Ti、Nb、Vの合計とCとが原子比で1:1の付近で化合しているものであり、高強度化に非常に効果がある。また、この微細炭化物は主にフェライト相中に析出するが、化学成分、製造条件によってはベイナイト相からも析出する場合があり、この場合は鋼板を更に高強度化することが可能である。
【0019】
上記の10nm未満の析出物の個数は、たとえば降伏強度が448MPa以上の高強度鋼板とするためには、2×103個/μm3以上析出させることが好ましい。析出形態としては、ランダムでも列状でも良く、特に規定されない。また、MoとTiとを主体とする複合炭化物以外の析出物を含有する場合は、MoとTiの複合炭化物による高強度化の効果を損なわず靭性を劣化させない程度とするが、10nm未満の析出物の個数はTiNを除いた全析出物の個数の95%以上であることが好ましい。
【0020】
本発明において鋼板内に分散析出する析出物である、Ti、Nb、Vを主体とする粒径10nm未満の複合炭化物は、以下に述べる成分の鋼に本発明の製造方法を用いて鋼板を製造することにより得ることができる。
【0021】
次に、本発明の高強度鋼板の化学成分について説明する。以下の説明において%で示す単位は全て質量%である。
【0022】
C:0.02%以上、0.07%未満とする。Cは炭化物として析出強化に寄与する元素であるが、0.02%未満では十分な強度が確保できず、0.07%以上では靭性を劣化させるため、C含有量を0.02以上、0.07%未満に規定する。
【0023】
Si:0.01〜0.5%とする。Siは脱酸のため添加するが、0.01%未満では脱酸効果が十分でなく、0.5%を超えると靭性や溶接性を劣化させるため、Si含有量を0.01〜0.5%に規定する。
【0024】
Mn:0.5〜2%とする。Mnは強度、靭性のため添加するが、0.5%未満ではその効果が十分でなく、2%を超えると溶接性が劣化するため、Mn含有量を0.5〜2%に規定する。好ましくは0.5〜1.5%である。
【0025】
Al:0.08%以下とする。Alは脱酸剤として添加されるが、0.08%を超えると鋼の清浄度が低下し、靱性が劣化するため、Al含有量は0.08%以下に規定する。好ましくは、0.01〜0.08%である。
【0026】
本発明の鋼板は、Ti、Nb、Vのの中から選ばれる2種以上を含有する。
【0027】
Ti:0.005〜0.04%とする。Tiは本発明において重要な元素である。0.005%以上添加することで、Nbおよび/またはVと共に微細な複合炭化物を形成し、強度上昇に大きく寄与する。しかし、0.04%を超える添加は溶接熱影響部靭性の劣化を招くため、Ti含有量は0.005〜0.04%に規定する。さらに、Ti含有量が0.02%未満であると、よりすぐれた靭性を示すため、Ti含有量を0.005〜0.02%未満とすることが好ましい。
【0028】
Nb:0.005〜0.07%とする。Nbは組織の微細粒化により靭性を向上させるが、Tiと同様に、Tiおよび/またはVと共に微細な複合炭化物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.07%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、Nb含有量は0.005〜0.07%に規定する。
【0029】
V:0.005〜0.1%とする。VもTi、Nbと同様に、Tiおよび/またはNbと共に微細な複合炭化物を形成し、強度上昇に寄与する。しかし、0.005%未満では効果がなく、0.1%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化するため、V含有量は0.005〜0.1%に規定する。
【0030】
本発明の高強度鋼板は上記の成分の鋼を用いることで、Ti、Nb、Vを含有する微細炭化物が得られるが、析出強化を最大限に利用するためには、炭化物を形成する元素の含有量の割合を以下のように制限することが望ましい。すなわち、原子%でのC量とTi、Nb、Vの合計量の比である、C/(Ti+Nb+V)は0.5〜3が好ましい。本発明による高強度化はTi、Nb、Vのいずれか2種以上を含む微細な複合炭化物によるものである。この微細な複合炭化物による析出強化を有効に利用するためには、C量と炭化物形成元素であるTi、Nb、V量の関係が重要であり、これらの元素を適正なバランスのもとで添加することによって、熱的に安定かつ非常に微細な複合炭化物を得ることが出来る。このとき各元素の原子%の含有量で表される、C/(Ti+Nb+V)の値が0.5未満または3を越える場合はいずれかの元素量が過剰であり、溶接熱影響部に島状マルテンサイトなどの硬化組織が形成し溶接熱影響部靭性の劣化を招くため、C/(Ti+Nb+V)の値を0.5〜3とするのが好ましい。ただし、各元素記号は原子%での各元素の含有量である。C/(Ti+Nb+V)の値が0.7〜2であると、粒径5nm以下のさらに微細な析出物が得られるので、より好ましい。なお、質量%の含有量を用いる場合には、C/(Ti+Nb+V)の値は、(C/12.01)/(Ti/47.9+Nb/92.91+V/50.94)で表される。
【0031】
本発明では鋼板の強度靱性をさらに改善する目的で、以下に示すCu、Ni、Cr、Bの1種又は2種以上を含有してもよい。
【0032】
Cu:0.5%以下とする。Cuは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加すると溶接性が劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
【0033】
Ni:0.5%以下とする。Niは靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、多く添加するとコスト的に不利になり、また、溶接熱影響部靱性が劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
【0034】
Cr:0.5%以下とする。CrはMnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるが、多く添加すると溶接性を劣化するため、添加する場合は0.5%を上限とする。
【0035】
B:0.005%以下とする。Bは強度上昇、HAZ靭性改善に寄与する元素であるが、0.005%を越えて添加すると溶接性を劣化させるため、添加する場合は0.005%以下とする。
【0036】
また、溶接性の観点から、強度レベルに応じて下記の(1)式で定義されるCeqの上限を規定することが好ましい。降伏強度が448MPa以上の場合には、Ceqを0.32以下、降伏強度が482MPa以上の場合には、Ceqを0.34以下、降伏強度が551MPa以上の場合には、Ceqを0.38以下にすることで良好な溶接性を確保することが出来る。
【0037】
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5…(1)
但し、(1)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
【0038】
なお、本発明の鋼材については、板厚10mmから30mm程度の範囲でCeqの板厚依存性はなく、30mm程度まで同じCeqで設計することができる。
【0039】
上記以外の残部は実質的にFeからなる。残部が実質的にFeからなるとは、本発明の作用効果を無くさない限り、不可避不純物をはじめ、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれ得ることを意味する。
【0040】
次に、本発明の高強度鋼板の製造方法について説明する。
【0041】
本発明は、加速冷却時のベイナイト変態による変態強化と、加速冷却後の再加熱時に析出する微細炭化物による析出強化を複合して活用することにより、合金元素を多量に添加することなく高強度化が可能な技術である。本発明では、加速冷却によりベイナイト変態領域まで過冷することにより、その後の再加熱時に温度保持することなくフェライト変態を完了させることが可能である。
【0042】
図1は、本発明の組織制御方法を示す概略図である。Ar3温度以上のオーステナイト領域(A)からベイナイト変態領域(B)まで加速冷却(C)することで、オーステナイト単相10から、未変態オーステナイト11とベイナイト12の混合組織とする。冷却後、直ちにフェライト領域(E)まで再加熱(D)することにより、オーステナイト11はフェライトに変態し、フェライト相中には微細析出物が分散析出して、微細析出物によって析出強化したフェライト相13となる。一方、ベイナイト相12は焼戻されて焼戻しベイナイト14となる。焼戻しベイナイト14は微細析出物が分散析出して、析出強化される場合もある。以下、具体的にこの組織制御方法を詳しく説明する。
【0043】
本発明の高強度鋼板は上記の成分組成を有する鋼を用い、加熱温度:1000〜1300℃、圧延終了温度:Ar3温度以上で熱間圧延を行い、その後5℃/s以上の冷却速度で300〜600℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜700℃の温度まで再加熱を行うことで、金属組織をフェライトとベイナイトの2相組織とし、Ti、Nb、Vのいずれかを含有する微細な複合炭化物をフェライト相中に分散析出することができる。ここで、温度は鋼板の平均温度とする。以下、各製造条件について詳しく説明する。
【0044】
加熱温度:1000〜1300℃とする。加熱温度が1000℃未満では炭化物の固溶が不十分で必要な強度が得られず、1300℃を超えると靭性が劣化するため、1000〜1300℃とする。
【0045】
圧延終了温度:Ar3温度℃以上とする。Ar3温度とは、冷却中におけるフェライト変態開始温度を意味し、以下の(2)式を用いて求めることができる。圧延終了温度がAr3温度未満になると、その後のフェライト変態速度が低下するため、再加熱によるフェライト変態時に十分な微細析出物の分散析出が得られず、強度が低下するため、圧延終了温度をAr3温度以上とする。
Ar3温度(℃)=910−310C−80Mn−20Cu−15Cr−55Ni−80Mo・・・(2)
但し、(2)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。
【0046】
圧延終了後、直ちに5℃/s以上の冷却速度で冷却する。冷却速度が5℃/s未満では冷却時にフェライトを生成するため、ベイナイトによる強化が得られないだけでなく、700℃以上の高温域でのフェライト変態時に生じた析出物が容易に粗大化するため、十分な強度が得られない。よって、圧延終了後の冷却速度を5℃/s以上に規定する。このときの冷却方法については製造プロセスによって任意の冷却設備を用いることが可能である。
【0047】
冷却停止温度:300〜600℃とする。圧延終了後加速冷却でベイナイト変態域である300〜600℃まで急冷することにより、ベイナイト相を生成させ、かつ、ベイナイト変態途中で冷却を停止することによって、未変態のオーステナイトをその後の再加熱時にフェライトに変態させることが可能となる。さらに、過冷却により駆動力が大きくなるため、再加熱過程でのフェライト変態が促進され、短時間の再加熱でフェライト変態を完了させることが可能となる。冷却停止温度が300℃未満では、ベイナイト変態がほぼ完了するためにその後の再加熱によって十分な量のフェライトが得られないだけでなく、島状マルテンサイト(MA)が生成するため再加熱時の微細炭化物の析出が不十分となり、また600℃を超えるとフェライト変態の駆動力が十分でなく、再加熱時にフェライト変態が完了せずパーライトが析出するため微細炭化物の析出が不十分であり十分な強度が得られないため、加速冷却停止温度を300〜600℃に規定する。確実にMAの生成を抑制するためには、冷却停止温度を400℃以上とすることが好ましい。
【0048】
加速冷却後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜700℃の温度まで再加熱を行う。このプロセスは本発明における重要な製造条件である。フェライト相の強化に寄与する微細析出物は、再加熱時のフェライト変態と同時に析出する。このような微細析出物を得るためには、加速冷却後直ちに550〜700℃の温度域まで再加熱する必要がある。また、再加熱の際には、冷却後の温度より少なくとも50℃以上昇温することが望ましい。昇温速度が0.5℃/s未満では、目的の再加熱温度に達するまでに長時間を要するため製造効率が悪化し、またパーライト変態が生じるため、微細析出物の分散析出が得られず十分な強度を得ることができない。再加熱温度が550℃未満ではフェライト変態が進行せずに、ベイナイト変態を生じるため、十分な析出強化が図れず、700℃を超えると析出物が粗大化し十分な強度が得られないため、再加熱の温度域を550〜700℃に規定する。再加熱温度において、特に温度保持時間を設定する必要はない。本発明の製造方法を用いれば再加熱後直ちに冷却しても、フェライト変態が十分に進行するため、微細析出による高い強度が得られる。しかし、確実にフェライト変態を終了させるために、30分以内の温度保持を行うことができる。30分を超えて温度保持を行うと、析出物の粗大化を生じ強度低下を招く場合がある。また、再加熱後の冷却過程でもフェライト変態が進行するので、再加熱後の冷却速度は基本的には空冷とする。しかし、フェライト変態を阻害しない程度の早い冷却速度で冷却を行うこともできる。
【0049】
図2に、上記の製造方法を用いて製造した本発明の鋼板(0.05C−0.25Si−1.2Mn−0.01Ti−0.04Nb−0.05V)を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真を示す。図2によれば、非常に微細な析出物が列状に析出している様子が確認できるが、これは、フェライト変態時のオーステナイト/フェライト界面において析出を生じる変態析出によるものであり、これにより極めて高い析出強化が得られる。また、析出物はTi、Nb、Vを含有する炭化物であり、このことはエネルギー分散型X線分光法(EDX)等を用いて分析して確認した。
【0050】
加速冷却後の再加熱を行うための設備として、加速冷却を行なうための冷却設備の下流側に加熱装置を設置することができる。加熱装置としては、鋼板の急速加熱が可能であるガス燃焼炉や誘導加熱装置を用いる事が好ましい。誘導加熱装置は均熱炉等に比べて温度制御が容易でありコストも比較的低く、冷却後の鋼板を迅速に加熱できるので特に好ましい。また複数の誘導加熱装置を直列に連続して配置することにより、ライン速度や鋼板の種類・寸法が異なる場合にも、通電する誘導加熱装置の数や供給電力を任意に設定するだけで、昇温速度、再加熱温度を自在に操作することが可能である。
【0051】
また、本発明の製造方法を実施するための設備の一例を図3に示す。図3に示すように、圧延ライン1には上流から下流側に向かって熱間圧延機3、加速冷却装置4、インライン型誘導加熱装置5、ホットレベラー6が配置されている。インライン型誘導加熱装置5あるいは他の熱処理装置を、圧延設備である熱間圧延機3およびそれに引き続く冷却設備である加速冷却装置4と同一ライン上に設置する事によって、圧延、冷却終了後迅速に再加熱処理が行えるので、圧延冷却後の鋼板温度を過度に低下させることなく加熱することができる。
【0052】
【実施例】
表1に示す化学成分の鋼(鋼種A〜Q)を連続鋳造法によりスラブとし、これを用いて板厚18、26mmの厚鋼板(No.1〜32)を製造した。
【0053】
【表1】
【0054】
加熱したスラブを熱間圧延により圧延した後、直ちに水冷型の加速冷却設備を用いて冷却を行い、誘導加熱炉またはガス燃焼炉を用いて再加熱を行った。誘導加熱炉は加速冷却設備と同一ライン上に設置した。各鋼板(No.1〜32)の製造条件を表2に示す。
【0055】
以上のようにして製造した鋼板のミクロ組織を、光学顕微鏡、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した。析出物の成分はエネルギー分散型X線分光法(EDX)により分析した。また各鋼板の引張特性、溶接熱影響部(HAZ)靭性を測定した。測定結果を表2に併せて示す。引張特性は、圧延垂直方向の全厚試験片を引張試験片として引張試験を行い、引張強度を測定した。引張強度580MPa以上を本発明に必要な強度とした。溶接熱影響部靭性については、再現熱サイクル装置によって入熱40kJ/cmに相当する熱履歴を加えた試験片を用いてシャルピー試験を行った。そして、−10℃でのシャルピー吸収エネルギーが100J以上の物を良好とした。
【0056】
【表2】
【0057】
表2において、本発明例であるNo.1〜16はいずれも、化学成分および製造方法が本発明の範囲内であり、引張強度580MPa以上の高強度であり、溶接熱影響部靭性は良好であり、かつ鋼板の組織は、実質的にフェライト+ベイナイト2相組織であり、Ti、Nb、Vのうち2種以上を含む粒径が10nm未満の微細な複合炭化物の析出物が分散析出していた。
【0058】
No.17〜24は、化学成分は本発明の範囲内であるが、製造方法が本発明の範囲外であるため、組織がフェライト+ベイナイト2相組織にならない場合や、微細炭化物が分散析出しない場合があり、強度不足であった。No.25〜32は化学成分が本発明の範囲外であるので、十分な強度が得られないか、溶接熱影響部靭性が劣っていた。
【0059】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板を、多量の合金元素を添加することなく、低コストで製造することができる。このため建築、海洋構造物、造船、土木、建設機械、ラインパイプ等の溶接構造物に使用する鋼板を、安価で大量に安定して製造することができ、生産性および経済性を著しく高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の組織制御方法を示す概略図。
【図2】本発明の鋼板を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した写真。
【図3】本発明の製造方法を実施するための製造ラインの一例を示す概略図。
【符号の説明】
1:圧延ライン、
2:鋼板、
3:熱間圧延機、
4:加速冷却装置、
5:インライン型誘導加熱装置、
6:ホットレベラー、
10:オーステナイト単相、
11:未変態オーステナイト、
12:ベイナイト、
13:微細析出物によって析出強化したフェライト相、
14:焼戻されて軟化したベイナイト相、
A:オーステナイト領域、
B:ベイナイト領域、
C:加速冷却、
D:再加熱、
E:フェライト領域
Claims (3)
- 質量%で、C:0.02%以上、0.07%未満、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜2%、Al:0.08%以下を含有し、Ti:0.005〜0.04%、Nb:0.005〜0.05%、V:0.005〜0.1の中から選ばれる2種以上を含有し、残部が実質的にFeからなり、原子%でのC量とTi、Nb、Vの合計量の比であるC/(Ti+Nb+V)が0.5〜3であり、下記(1)式で表されるCeqが0.38以下であり、金属組織が実質的にフェライトとベイナイトの2相組織であり、Ti、Nb、Vの中から選ばれる2種以上を含む粒径10nm未満の炭化物が分散析出していることを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5・・(1)
但し、(1)式の元素記号は各含有元素の質量%を示す。 - さらに、質量%で、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、B:0.005%以下の中から選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板。
- 請求項1または請求項2に記載の成分組成を有する鋼を、1000〜1300℃の温度に加熱し、Ar3温度以上の圧延終了温度で熱間圧延した後、5℃/s以上の冷却速度で300〜600℃まで加速冷却を行い、その後直ちに0.5℃/s以上の昇温速度で550〜700℃まで再加熱を行うことを特徴とする、溶接熱影響部靭性に優れた高強度鋼板の製造方法。
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