JP2003342680A - 深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents

深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板およびその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織
型高張力冷延鋼板およびその製造方法を提案することに
ある。 【解決手段】 本発明の複合組織型高張力冷延鋼板は、
質量%で、C:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0
〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005〜0.
1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およびNb:0.005
〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCとの含有量
(質量%)が、0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C
/12なる関係を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避
的不純物からなる成分組成を有し、主相がポリゴナルフ
ェライト相とベイニチックフェライト相からなるフェラ
イト相で、さらに、面積率で1%以上のマルテンサイト
相を含む第2相を有する鋼組織を有することを特徴とす
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車用鋼板等の
使途に有用な深絞り性と伸びフランジ性に優れた引張強
さが440MPa以上の複合組織型高張力冷延鋼板およびその
製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、地球環境の保全という観点から、
自動車の燃費改善が要求されている。加えて、車両衝突
時に乗員を保護する観点から、自動車車体の安全性向上
も要求されている。このようなことから、自動車車体の
軽量化と強化の双方を図るための検討が積極的に進めら
れている。自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させ
るには、部品素材を高強度化することが効果的であると
言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極
的に使用されている。
【0003】鋼板を素材とする自動車部品の多くがプレ
ス加工によって成形されるため、自動車用鋼板には優れ
たプレス成形性を具備していることが必要とされる。し
かし、−般に、鋼板を高強度化すると、ランクフォード
値(r値)および延性(El)が低下し、また、伸びフラ
ンジ性も低下して、プレス成形性が劣化するとともに、
降伏応力が上昇して形状凍結性が劣化する傾向がある。
特に引張強さ(TS)と延性(El)との積TS×Elで表され
る、いわゆる強度伸びバランスの値が大きいほどプレス
成形性には有利であり、従来から鋼板の高強度化と共に
高延性化が図られてきた。高強度と高延性を兼ね備えた
鋼板については、歪み誘起塑性現象を利用した残留オー
ステナイト鋼(残留γ鋼)をはじめとしてポリゴナルフ
ェライトとマルテンサイトの2相を有するDual‐Phase
鋼(DP鋼)など、いわゆる複合組織鋼についての開発
研究が進められている。
【0004】プレス成形性の良好な高張力鋼板の代表例
としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織から
なる複合組織鋼板が挙げられ、特に連続焼鈍後ガスジェ
ット冷却で製造される複合組織鋼板は、降伏応力(YS)
が低く、さらに高延性(El)と優れた焼付け硬化性とを
兼ね備えている。しかしながら、上記複合組織鋼板は、
加工性については概ね良好であるものの、ランクフォー
ド値(r値)が低く、深絞り成形性に劣るとともに、穴
拡げ率(λ)が低く、伸びフランジ成形性も劣るという
欠点があった。
【0005】そのため、複合組織鋼板のランクフォード
値(r値)を改善する試みがなされている。例えば特公
昭55−10650号公報では、冷間圧延後、再結晶温度〜A
c3変態点の温度で箱焼鈍を行い、その後、複合組織とす
るため700〜800℃に加熱した後、焼入れ焼戻しを行う技
術が開示されている。しかしながら、この方法では、連
続焼鈍時に焼入れ焼戻しを行うため降伏応力YSが高く、
低い降伏比YRが得られない。なお、ここで降伏比YRは引
張強さTSに対する降伏応力YSの比であり、YR=YS/TSで
ある。この高降伏応力の鋼板はプレス時、プレス部品の
形状凍結性が悪いという欠点がある。
【0006】この高降伏応力YSを改善するための方法と
しては、特開昭55−100934号公報に開示されている。こ
の方法は、高いランクフォード値(r値)を得るために
まず箱焼鈍を行うが、箱焼鈍時の温度をフェライト
(α)−オーステナイト(γ)の2相域とし、均熱時に
α相からγ相にMnを濃化させる。このMn濃化相は連続焼
鈍時に優先的にγ相となり、ガスジェット程度の冷却速
度でも混合組織が得られ、さらに降伏応力YSも低く、前
記したようなプレス部品の形状凍結性も悪くない。しか
し、この方法では、Mn濃化のためα−γの2相域という
比較的高温で長時間の箱焼鈍が必要であり、そのため鋼
板間の密着の多発、テンパーカラーの発生および炉体イ
ンナーカバーの寿命低下など製造工程上、多くの問題が
ある。従来、このように高いランクフォード値(r値)
と低い降伏応力YSを兼ね備えた高張力鋼板を工業的に安
定して製造することは困難であった。
【0007】加えて、特公平1-35900号公報では、0.012
質量%C-0.32質量%Si-0.53質量%Mn-0.03質量%P−
0.051質量%Tiの組成の鋼を冷間圧延後、α-γの2相域
である870℃に加熱後、100℃/sの平均冷却速度にて冷
却することにより、r=1.61、YS=224MPa、TS=482MPaの非
常に高いランクフォード値(r値)と低降伏応力を有す
る複合組織型冷延鋼板が製造可能となる技術が開示され
ている。しかしながら、100℃/sという高い冷却速度
を、通常のガスジェット冷却では達成できないため、水
焼入れ設備が必要となる他、水焼入れした冷延鋼板は、
表面処理性の問題も顕在化するため、製造設備上および
材質上の問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の問題
を材質面でも製造面でも有利に解決したもので、鋼組成
として特にCとVおよびNbの含有量、および製造条件と
して特に焼鈍温度および焼鈍温度からの冷却速度を規制
することにより、強度伸びバランスに優れ、且つ高いラ
ンクフォード値に加えて、伸びフランジ性にも優れる複
合組織型高張力冷延鋼板と、これを安定して製造できる
技術を提案することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記した
課題を達成するため、冷延鋼板のミクロ組織および再結
晶集合組織におよぼす合金元素、および焼鈍温度条件の
影響について鋭意研究を重ねた。その結果、C含有量を
0.01〜0.05質量%とし、適正範囲のV、Nb量を含有する
ことにより、再結晶焼鈍前には、固溶Cを極力低減させ
て{111}再結晶集合組織を発達させることにより、高い
ランクフォード値(r値)が得られること、また、連続
焼鈍ラインにて(Ac3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+
50℃)の温度域の焼鈍温度に加熱することにより、Vお
よびNb系炭化物を溶解させて、固溶Cを大量に生成でき
ることで、オーステナイト中にCを濃化させ、その後、
400℃以下まで冷却し、この冷却における平均冷却速度
を、焼鈍温度から700℃までの温度域で10℃/s以上、7
00℃から400℃までの温度域で5℃/s以上として、ポ
リゴナルフェライト相とベイニチックフェライト相を主
相とする中に、第2相としてマルテンサイト相を生成さ
せることにより、高強度にもかかわらず延性に優れ、ラ
ンクフォード値が高く、伸びフランジ性も良好な複合組
織型高張力冷延鋼板が製造可能であることを見出した。
【0010】ここで、本発明鋼である複合組織型冷延鋼
板とは、主相がフェライト相であり、このフェライト相
は転位密度の低いポリゴナルフェライト相と、オーステ
ナイト域からの冷却過程により生成した転位密度の高い
ベイニチックフェライト相が混在したもので、さらに面
積率で1%以上のマルテンサイト相を含む第2相との複
合組織鋼板である。
【0011】まず、本発明者らが行った基礎的な実験結
果について説明する。質量%で、C:0.02%、Si:0.5
%、Mn:2.0%、P:0.05%、S:0.005%、Al:0.03
%、N:0.002%を基本組成とし、これにV:0.01〜0.15
質量%の範囲およびNb:0.001〜0.16質量%の範囲で添
加した異なるVおよびNb含有量を有する種々の鋼素材に
ついて、1250℃に加熱しこの温度で均熱保持した後、仕
上圧延終了温度が880℃となるように3パス圧延を行っ
て板厚4.0mmとした。なお、仕上圧延終了後、コイル巻
取り相当処理として650℃×3hの保温処理を施した。
引き続き、圧下率70%の冷間圧延を施して板厚1.2mm
とした。ついで、これらの冷延板に、(Ac3変態点−50
℃)〜(Ac3変態点+50℃)の温度域内である850℃を
焼鈍温度として加熱した後、室温まで冷却する連続焼鈍
(再結晶焼鈍)を施した。この冷却における平均冷却速
度は、焼鈍温度から700℃までの温度域と700℃から400
℃までの温度域でともに15℃/sとし、400℃から室温
までは5℃/sとした。
【0012】得られた冷延鋼板について、引張試験を実
施し引張特性を調査した。引張試験は、JIS5号引張試験
片を用いて行った。引張強さTSおよび延性Elは、圧延方
向に対して垂直方向に引張試験を行ったときの値であ
る。r値は、圧延方向(rL)、圧延方向に45度方向(r
D)および圧延方向に垂直(90度)方向(rc)の平均r
値{=(rL +rc +2×rD)/4}として求めた。
【0013】図1は、VとNbの含有量がCとの関係でr値
と強度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図
であり、横軸はVおよびNbの含有量とC含有量の原子比
((V/51+Nb/93)/(C/12))であり、縦軸はr値と
強度伸びバランス(TS×El)を上下に分けて示す。
【0014】図1から、鋼中のVおよびNbの含有量をC
との原子比にして0.5〜2.0の範囲に制限することによ
り、高いr値と高い強度伸びバランスが得られ、高r値
と高い延性Elを有する複合組織型冷延鋼板が製造可能と
なることが明らかになった。
【0015】つぎに、上記図1で用いた冷延鋼板のう
ち、(V/51+Nb/93)/(C/12)=1.1の鋼素材(Ac3
変態点:870℃)を熱間圧延し、引き続き酸洗した後、
冷間圧延を施し、その後、750〜970℃の温度域で焼鈍し
た後、焼鈍温度から700℃までの温度域での平均冷却速
度を20℃/sとし、700℃から400℃までの温度域での平
均冷却速度を15℃/sとして室温まで冷却する連続焼鈍
(再結晶焼鈍)を施ことによって、得られた冷延鋼板に
ついて、穴拡げ試験を実施し穴拡げ率(λ)を求めて伸
びフランジ性を評価した。なお、一部の試料について
は、焼鈍温度から700℃までの温度域での平均冷却速度
を8℃/sとし、700℃から400℃までの温度域での平均
冷却速度を3℃/sとして室温まで冷却することによっ
て得た。
【0016】穴拡げ試験は、JFST 1001の規定に準拠し
て、10mmφのポンチで打ち抜いて供試片にポンチ穴を
形成したのち、頂角60°の円錐ポンチを用い、ばりが外
側になるようにして、板厚を貫通する割れが発生するま
で穴拡げを行い、穴拡げ率λを求めた。穴拡げ率λは、
λ(%)={(d−d0)/d0}×100で求めた。な
お、d0:初期穴内径、d:割れ発生時の穴内径であ
る。
【0017】図2は、再結晶焼鈍温度が穴拡げ率(λ)
に及ぼす影響を示した図の一例である。図2の結果か
ら、焼鈍温度を(Ac3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+
50℃)の温度域内とし、かつその後の冷却における平均
冷却速度を所定の範囲にすることにより、高い穴拡げ率
が得られ、伸びフランジ性に優れた複合組織型冷延鋼板
が製造可能となることが明らかになった。
【0018】本発明の冷延鋼板では、焼鈍過程において
は、再結晶焼鈍前には固溶CおよびNが少ないため、{1
11}再結晶集合組織が強く発達し、高いランクフォード
値が得られるとともに、再結晶後にVおよびNb系炭化物
が溶解し、固溶Cがオーステナイト相に多量に濃化する
ことにより、その後の冷却過程においてオーステナイト
相がマルテンサイト相に変態し、高いランクフォード値
を有するフェライト相とマルテンサイト相の複合組織が
得られる。さらに、この焼鈍温度を、(Ac3変態点−50
℃)〜(Ac3変態点+50℃)とすることにより、固溶C
が多量に濃化したオーステナイト相と、固溶Cが少ない
オーステナイト相およびフェライト相に変態し、その
後、所定の冷却速度で冷却することにより、主相がポリ
ゴナルフェライトとベイニチックフェライト相で、第2
相がマルテンサイト相である複合組織が得られる。この
ような組織を有する複合組織鋼板は、主相のポリゴナル
フェライトおよびベイニチックフェライト相と、第2相
のマルテンサイト相との硬度差が小さくなったため、穴
拡げ率が高くなったものと考えられるが、詳細は明らか
ではない。
【0019】本発明は、上記した知見に基づき、さらに
検討して完成されたものであり、本発明の要旨は下記の
とおりである。 (1)質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.5%、Mn:
1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、Al:0.005
〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およびNb:
0.005〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCとの含有
量(質量%)が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12 なる関係を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避的不
純物からなる成分組成を有し、主相がポリゴナルフェラ
イト相とベイニチックフェライト相からなるフェライト
相で、さらに、面積率で1%以上のマルテンサイト相を
含む第2相を有する鋼組織を有することを特徴とする、
深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張力冷
延鋼板。
【0020】(2)質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1
〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以
下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2
%、Nb:0.005〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有
し、かつ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)
が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12 なる関係を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避的不
純物からなる成分組成を有し、主相がポリゴナルフェラ
イト相とベイニチックフェライト相からなるフェライト
相で、さらに、面積率で1%以上のマルテンサイト相を
含む第2相を有する鋼組織を有することを特徴とする、
深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張力冷
延鋼板。
【0021】(3)上記組成に加えてさらにMo:0.01〜
0.5質量%を含有することを特徴とする、上記(1)ま
たは(2)に記載の深絞り性と伸びフランジ性に優れた
複合組織型高張力冷延鋼板。
【0022】(4)質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1
〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以
下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2
%およびNb:0.005〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNb
とCとの含有量(質量%)が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12 なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、
引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続焼
鈍ラインにて(Ac3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+50
℃)の温度域の焼鈍温度に加熱した後、400℃以下まで
冷却し、この冷却における平均冷却速度が、前記焼鈍温
度から700℃までの温度域で10℃/s以上、700℃から40
0℃までの温度域で5℃/s以上であることを特徴とす
る、深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張
力冷延鋼板の製造方法。
【0023】(5)質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1
〜1.5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以
下、Al:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2
%、Nb:0.005〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有
し、かつ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)
が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12 なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、
引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続焼
鈍ラインにて(Ac3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+50
℃)の温度域の焼鈍温度に加熱した後、400℃以下まで
冷却し、この冷却における平均冷却速度が、前記焼鈍温
度から700℃までの温度域で10℃/s以上、700℃から40
0℃までの温度域で5℃/s以上であることを特徴とす
る、深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張
力冷延鋼板の製造方法。
【0024】(6)鋼スラブは、上記組成に加えてさら
にMo:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする、
上記(4)または(5)に記載の深絞り性と伸びフラン
ジ性に優れた複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。
【0025】
【発明の実施の形態】本発明の冷延鋼板は、引張強さTS
が440MPa以上の深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合
組織型高張力冷延鋼板である。
【0026】まず、本発明鋼板の組織について説明す
る。本発明の冷延鋼板の組織は、転位密度の低いポリゴ
ナルフェライト相と転位密度の高いベイニチックフェラ
イト相が混合した主相と、マルテンサイト相を含む第2
相との複合組織を有する。また、主相であるポリゴナル
フェライト相とベイニチックフェライト相は{111}集
合組織が発達しており、高いランクフォード値を有す
る。
【0027】低い降伏応力(YS)と高い強度伸びバラン
ス(TS×El)を有し、優れた深絞り性と伸びフランジ性
を有する冷延鋼板とするために、本発明では冷延鋼板の
組織を、ポリゴナルフェライト相およびベイニチックフ
ェライト相からなるフェライト相である主相と、マルテ
ンサイト相を含む第2相との複合組織とする必要があ
る。主相であるポリゴナルフェライト相およびベイニチ
ックフェライト相からなるフェライト相は、組織全体に
対する面積率で80%以上とし、且つ主相中のベイニチッ
クフェライト相は組織全体に対する面積率で5%以上含
まれていることが好ましい。また、本発明ではポリゴナ
ルフェライト相は、組織全体に対する面積率で概ね40%
以上含まれる。ポリゴナルフェライト相およびベイニチ
ックフェライト相が、面積率で80%未満では、高い強度
伸びバランスを確保することが困難となり、プレス成形
性が低下する傾向があるからである。また、さらに良好
な延性と穴拡げ性が要求される場合には、主相に占める
ベイニチックフェライト相の割合が、面積率で10%以上
とするのが好ましい。なお、複合組織の利点を利用する
ため、主相であるポリゴナルフェライト相およびベイニ
チックフェライト相は99%以下とするのが好ましい。
【0028】また、第2相として、本発明では、マルテ
ンサイト相が存在することが必要であり、本発明の冷延
鋼板は、マルテンサイト相を組織全体に対する面積率で
1%以上含有するような複合組織鋼である。マルテンサ
イト相が面積率で1%未満では、低い降伏比(YR)と高
い強度伸びバランス(TS×El)を同時に満足させること
が難しい。なお、第2相は、面積率で1%以上のマルテ
ンサイト相単独としても、あるいは面積率で1%以上の
マルテンサイト相と、副相としてそれ以外のパーライト
相、ベイナイト相、残留オーステナイト相のいずれかと
の混合としてもよい。
【0029】次に、本発明の冷延鋼板の組成を限定した
理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。 C:0.01〜0.05% Cは、鋼板の強度を増加し、さらに主相であるポリゴナ
ルフェライト相およびベイニチックフェライト相からな
るフェライト相とマルテンサイト相の複合組織の形成を
促進する元素であり、本発明では複合組織形成の観点か
ら0.01%以上含有する必要がある。一方、0.05%を超え
る含有は、{111}再結晶集合組織の発達を阻害し、深絞
り成形性および穴拡げ性を低下させる。このため、本発
明では、C含有量は0.01〜0.05%に限定した。
【0030】Si:0.1〜1.5% Siは、鋼板の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を
高強度化、すなわち強度伸びバランスを向上させること
ができる有用な強化元素であり、この効果を得るために
は、Si含有量は0.1%以上とする必要がある。しかしな
がら、Si含有量が1.5%を超えると、深絞り性の劣化を
招く。このため、Si含有量は0.1〜1.5%に限定した。な
お、より優れた深絞り性が要求される場合には、Si含有
量は0.7%未満とすることが好ましい。
【0031】Mn:1.0〜3.0% Mnは、鋼を強化する作用があり、さらに主相であるポリ
ゴナルフェライト相およびベイニチックフェライト相か
らなるフェライト相と、第2相であるマルテンサイト相
との複合組織が得られる臨界冷却速度を低くし、主相で
あるポリゴナルフェライト相およびベイニチックフェラ
イト相と、第2相であるマルテンサイト相の複合組織の
形成を促進する作用を有しており、焼鈍後の冷却速度に
応じ含有するのが好ましい。臨界冷却速度未満での緩慢
な冷却速度ではマルテンサイト相は生成されず、代わり
にベイナイト相あるいはパーライト相が生成されるが、
第2相にマルテンサイト相が存在しない場合、強度伸び
バランスが低下する傾向にある。したがって、マルテン
サイト相の生成を容易にするため、すなわち臨界冷却速
度を低くするためには、Mnの添加が有効となる。また、
Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、
含有するS量に応じて含有するのが好ましい。このよう
な効果は、Mnを1.0%以上含有させることで顕著とな
る。一方、Mn含有量が3.0%を超えると、深絞り性およ
び溶接性が劣化する。このため、本発明ではMn含有量は
1.0〜3.0%の範囲に限定した。
【0032】P:0.10%以下 Pは鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて適宜
含有させることができるが、P含有量が0.10%を超える
と、強度伸びバランスが低下するとともに深絞り性が劣
化する。このため、P含有量は0.10%以下に限定した。
なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、
P含有量は0.08%以下とするのが好ましい。なお、上記
効果を得るため、Pは0.005%以上含有することが好ま
しい。
【0033】S:0.02%以下 Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成
形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素
であるため、できるだけ低減するのが好ましく、0.02%
以下に低減すると、さほど悪影響を及ぼさなくなること
から、本発明ではS含有量は0.02%を上限とした。な
お、より優れた伸びフランジ成形性が要求される場合に
は、S含有量は0.01%以下とするのが好ましく、より好
ましくは0.005%以下である。
【0034】Al:0.005〜0.1% Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上
させるのに有用な元素であるが、0.005%未満では添加
の効果がなく、一方、0.1%を超えて含有してもより一
層の脱酸効果は得られず、逆に深絞り性が劣化する.こ
のため、Al含有量は0.005〜0.1%に限定した。なお、本
発明では、Al脱酸以外の脱酸方法による溶製方法を排除
するものではなく、たとえばTi脱酸やSi脱酸を行っても
よく、これらの脱酸法による鋼板も本発明の範囲に含ま
れる。その際、CaやREM等を溶鋼に添加しても、本発明
鋼板の特徴はなんら阻害されず、CaやREM等を含む鋼板
も本発明範囲に含まれるのは勿論である。
【0035】N:0.02%以下 Nは、固溶強化や歪時効硬化で鋼板の強度を増加させる
元素であるが、0.02%を超えて含有すると、鋼板中に窒
化物が増加し、それにより鋼板の深絞り性が顕著に劣化
する。このため、Nは0.02%以下に限定した。なお、よ
りプレス成形性の向上が要求される場合にはNは低減さ
せることが好ましく、0.004%以下とするのが好適であ
る。
【0036】V:0.01〜0.2% 、Nb:0.005〜0.2%でか
つ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12の関係を
満たすこと VおよびNbは、本発明において最も重要な元素であり、
再結晶前には固溶CをVおよびNb系炭化物として析出固
定することにより、{111}再結晶集合組織を発達させて
高いランクフォード値を得ることができる。さらに、焼
鈍時にはVおよびNb系炭化物を溶解させて固溶Cを多量
にオーステナイト相に濃化させ、その後の冷却過程にお
いてマルテンサイト変態させることにより、主相である
ポリゴナルフェライト相およびベイニチックフェライト
相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織鋼板
を得る。このような効果を奏するには、VおよびNbの含
有量がそれぞれ0.01%以上および0.005%以上でかつ、
C、V、Nbの含有量(質量%)が0.5×C/12≦(V/51
+Nb/93)の関係を満足することが必要である。一方、
VおよびNbの少なくとも一方の含有量が0.2%を超える
か、あるいは、C、V、Nbの含有量(質量%)が(V/5
1+Nb/93)>2×C/12であると、焼鈍時におけるVお
よびNb系炭化物の溶解が起こりにくくなるため、主相で
あるポリゴナルフェライト相およびベイニチックフェラ
イト相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織
が得られない。したがって、本発明では、V:0.01〜0.
2% 、Nb:0.005〜0.2%でかつ0.5×C/12≦(V/51+N
b/93)≦2×C/12の関係を満たすことに限定した。
【0037】また、本発明では、上記した組成に加え
て、質量%で、Ti:0.001〜0.3%を含有することが好ま
しく、この場合には、上記C、V、Nbの含有量(質量
%)の関係式である0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2
×C/12に代えて、上記C、V、Nb、Tiの含有量(質量
%)の関係式、すなわち0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+
Ti/48)≦2×C/12なる関係式を満たすことが必要であ
る。Tiは炭化物形成元素であり、再結晶前には固溶Cを
V、NbおよびTi系炭化物として析出固定することによ
り、{111}再結晶集合組織を発達させて高いランクフォ
ード値を得る。さらに、焼鈍時には、V、NbおよびTi系
炭化物を溶解させて固溶Cを多量にオーステナイト相に
濃化させ、その後の冷却過程においてマルテンサイト変
態させることにより、主相であるポリゴナルフェライト
相およびベイニチックフェライト相からなるフェライト
相と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織鋼板
を得る。このような効果を奏するには、Ti含有量が0.00
1%以上でかつ0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)の
関係を満足することが必要である。一方、Ti含有量が0.
3%を超えるか、あるいは、(V/51+Nb/93+Ti/48)>
2×C/12であると、焼鈍時における炭化物の溶解が起
こりにくくなるため、主相であるポリゴナルフェライト
相およびベイニチックフェライト相と、第2相であるマ
ルテンサイト相との複合組織が得られない。したがっ
て、Tiを含有する場合には、Ti:0.001〜0.3%であって
0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12なる
関係を満たすことに限定した。
【0038】また、本発明では、上記した組成に加えて
さらにMo:0.01〜0.5%を含有することが好ましい。 Mo:0.01〜0.5% MoはMnと同様に、主相であるポリゴナルフェライト相お
よびベイニチックフェライト相からなるフェライト相
と、第2相であるマルテンサイト相との複合組織が得ら
れる臨界冷却速度を低くし、フェライト相とマルテンサ
イト相の複合組織の形成を促進する作用を有しており、
必要に応じて含有できる。その効果は、0.01%以上のMo
の含有により発揮される。しかしながら、Mo含有量が0.
5%を超えると、深絞り性が低下するため、Mo含有量は
0.01〜0.5%に限定した。
【0039】なお、本発明では、上記した成分以外の残
部は実質的にFeおよび不可避的不純物の組成とすること
が好ましいが、B、Ca、REM等を通常の鋼組成の範囲内
であれば含有させてもなんら問題はない。
【0040】Bは、鋼の焼入性を向上する作用を有する
元素であり、必要に応じ含有できる。しかし、B含有量
が0.003%を超えると、効果が飽和するため、Bは0.003
%以下が好ましい。なお、より望ましい範囲は0.0001〜
0.002%である。CaおよびREMは、硫化物系介在物の形態
を制御する作用を有し、これにより鋼板の伸びフランジ
性を向上させる効果を有する。このような効果は、Caお
よびREMのうちから選ばれた1種または2種の含有量が
合計で、0.01%を超えると飽和する。このため、Caおよ
びREMのうちの1種または2種の含有量は、合計で0.01
%以下とするのが好ましい。なお、より好ましい範囲は
0.001〜0.005%である。
【0041】また、その他の不可避的不純物としては、
例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これらの含有量の
許容範囲としては、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Z
n:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
【0042】次に、本発明の冷延鋼板の製造方法につい
て説明する。本発明の製造方法に用いられる鋼スラブの
組成は、上述した冷延鋼板の組成と同様であるので、鋼
スラブの限定理由の説明については省略する。本発明の
冷延鋼板は、上記した範囲内の組成を有する鋼スラブを
素材とし、該素材に熱間圧延を施し熱延板とする熱延工
程と、該熱延板を酸洗する酸洗工程と、該熱延板に冷間
圧延を施し冷延板とする冷延工程と、該冷延板に再結晶
焼鈍を施す再結晶焼鈍工程とを順次施すことにより製造
される。
【0043】使用する鋼スラブは、成分のマクロ偏析を
防止するために連続鋳造法で製造するのが好ましいが、
造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、鋼ス
ラブを製造したのち、いったん室温まで冷却し、その
後、再度加熱する従来法に加え、冷却しないで、温片の
ままで加熱炉に挿入する方法や、わずかの保熱を行った
後に直ちに圧延する直送圧延・直接圧延する方法などの
省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
【0044】上記した素材(鋼スラブ)を加熱し、熱間
圧延を施し熱延板とする熱延工程を施す。熱延工程は所
望の板厚の熱延板が製造できる条件であればよく、通常
の圧延条件を用いても特に問題はない。なお、参考のた
め、好適な熱延条件を以下に示しておく。
【0045】スラブ加熱温度:900℃以上 スラブ加熱温度は、析出物を粗大化させることにより、
{111}再結晶集合組織を発達させ、深絞り性を改善する
ため、低い方が望ましい。しかし、加熱温度が900℃未
満では、圧延荷重が増大し、熱間圧延時におけるトラブ
ル発生の危険性が増大する。このため、スラブ加熱温度
は900℃以上にすることが好ましい。また、酸化重量の
増加に伴うスケールロスの増大などから、スラブ加熱温
度の上限は1300℃とすることがより好適である。なお、
スラブ加熱温度を低くし、かつ熱間圧延時のトラブルを
防止するといった観点から、シートバーを加熱する、い
わゆるシートバーヒーターを活用することは、有効な方
法であることは言うまでもない。
【0046】仕上圧延終了温度:700℃以上 仕上圧延終了温度(FDT)は、冷間圧延および再結晶焼
鈍後に優れた深絞り性が得られる均一な熱延母板組織を
得るため、700℃以上にすることが好ましい。すなわ
ち、仕上圧延終了温度が700℃未満では、熱延母板組織
が不均一となるとともに、熱間圧延時の圧延負荷が高く
なり、熱間圧延時におけるトラブル発生の危険性が増大
するからである。
【0047】巻取温度:800℃以下 巻取温度は、800℃以下とするのが好ましい。すなわ
ち、巻取温度が800℃を超えると、スケールが増加しス
ケールロスにより歩留りが低下する傾向があるからであ
る。なお、巻取温度は200℃未満となると、鋼板形状が顕
著に乱れ、実際の使用にあたり不具合を生じる危険性が
増大するため、巻取温度の下限を200℃とすることがよ
り好適である。
【0048】このように、本発明の熱延工程では、鋼ス
ラブを900℃以上に加熱した後、仕上圧延終了温度:700
℃以上とする熱間圧延を施し、800℃以下好ましくは200
℃以上の巻取温度で巻き取り熱延板とするのが好まし
い。なお、本発明における熱間圧延工程では、熱間圧延
時の圧延荷重を低滅するため、仕上圧延の一部または全
部のパス間で潤滑圧延としてもよい。加えて、潤滑圧延
を行うことは、鋼板形状の均一化や材質の均一化の観点
からも有効である。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.
10〜0.25の範囲とすることが好ましい。
【0049】また、相前後するシートバー同士を接合
し、連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスとすること
が好ましい。連続圧延プロセスを適用することは、熱間
圧延の操業安定性の観点からも望ましい。
【0050】ついで、熱延板を酸洗後、冷間圧延を施し
冷延板とする。酸洗は通常の条件にて行えばよい。冷間
圧延条件は、所望の寸法形状の冷延板とすることができ
ればよく、特に限定されないが、冷間圧延時の圧下率は
40%以上とすることが好ましい。圧下率が40%未満で
は、{111}再結晶集合組織が発達せず、優れた深絞り
性を得ることが困難となるからである。
【0051】引き続き、上記冷延鋼板に再結晶焼鈍を行
い冷延焼鈍板とする再結晶焼鈍工程を施す。再結晶焼鈍
は、連続焼鈍ラインで行う。再結晶焼鈍の焼鈍温度は、
(A c3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+50℃)の温度域
で行う必要がある。焼鈍温度が(Ac3変態点−50℃)未
満では、ベイニチックフェライト相が形成しにくく、し
たがって主相がほぼフェライト単相組織となり、穴拡げ
性が劣化する。一方、(Ac3変態点+50℃)を超える高
温では、第2相のマルテンサイト相が過剰に生成される
ため、強度伸びバランス特性が著しく劣化するととも
に、結晶粒が粗大化し、{111}再結晶集合組織が発
達せずに深絞り性が著しく劣化するからである。
【0052】なお、再結晶焼鈍時の冷却は、ベイニチッ
クフェライト相およびマルテンサイト相の形成の観点か
ら、400℃以下まで冷却するとともに、この冷却におけ
る平均冷却速度を、焼鈍温度から700℃までの温度域で1
0℃/s以上、700℃から400℃までの温度域で5℃/s
以上とする必要がある。すなわち、焼鈍温度から700℃
までの温度域での平均冷却速度を10℃/s以上とするこ
とにより、固溶Cが少ないオーステナイト相が転位密度
の高いベイニチックフェライト相に変態し、また、ひき
つづき700℃から400℃までの温度域での平均冷却速度を
5℃/s以上として400℃以下まで冷却することによ
り、固溶Cが多量に濃化したオーステナイト相がマルテ
ンサイト相に変態する結果、主相がポリゴナルフェライ
トとベイニチックフェライト相からなるフェライト相
で、第2相がマルテンサイト相である複合組織が得られ
る。均熱温度から700℃までの温度域での平均冷却速度
が10℃/s未満だと、ベイニチックフェライト相が形成
されにくくなり、穴拡げ性が低下するためである。一
方、700℃から400℃までの温度域での平均冷却速度が5
℃/s未満だと、マルテンサイト相が形成されにくくフ
ェライト単相組織となり、強度伸びバランスが低下する
からである。また、マルテンサイト相を形成するため、
上記平均冷却速度で400℃以下まで冷却することが必要
である。
【0053】したがって、本発明においては、主相がポ
リゴナルフェライトとベイニチックフェライト相からな
るフェライト相と、マルテンサイト相を含む第2相の存
在が必須であることから、そのためには、再結晶焼鈍時
の冷却を、焼鈍温度から700℃までの温度域で、臨界冷
却速度以上である10℃/s以上の平均冷却速度で行い、
かつ、700℃から400℃までの温度域で5℃/s以上の平
均冷却速度で行う必要がある。
【0054】
【実施例】表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続
鋳造法でスラブとした。ついで、これら鋼スラブを1250
℃に加熱したのち、仕上圧延終了温度:880℃、巻取温
度:650℃とする熱間圧延を施す熱延工程により、板厚
4.0mmの熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これ
ら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗、冷間圧延を施す冷延工程に
より、板厚1.2mmの冷延鋼帯(冷延板)とした。つい
で、これら冷延鋼帯(冷延板)に、連続焼鈍ラインで表2
に示す条件で再結晶焼鈍を行った。なお、表2に示す再
結晶焼鈍時の冷却における平均冷却速度は、焼鈍温度か
ら700℃までの温度域と、700〜400℃の温度域とに分け
て制御し、400℃以下まで冷却した。得られた鋼帯(冷
延鋼板)に、さらに伸び率:0.5%の調質圧延を施し
た。
【0055】得られた鋼帯から試験片を採取し、圧延方
向に平行な断面(L断面)について、光学顕微鏡あるい
は走査型電子顕微鏡を用いて400〜1000倍程度の倍率で
微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるポ
リゴナルフェライト相およびベイニチックフェライト相
の組織分率および第2相の種類と組織分率を求めた。ま
た、得られた鋼帯から、前述の基礎的な実験結果を得た
時と同様にJIS5号引張試験片を採取して、JIS Z 224
1の規定に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、
引張強さ(TS)、伸び(El)、降伏比(YR)を求めた。
またr値は、鋼帯から採取したJIS5号引張試験片を用
いて、JIS Z 2254の規定に準拠して平均r値(平均塑
性ひずみ比)を求め、これをr値とした。さらに、穴拡
げ率(λ)も求めた。ここで、穴拡げ率(λ)は、得ら
れた鋼帯から試験片を採取し、前述のようにJFST 1001
の規定に準拠して穴拡げ試験を行って求めた。これらの
結果を表2に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】表2に示す結果から、本発明例は、いずれ
も、目標とする、低い降伏比(YR≦70%)、高い伸び
(El≧28%)、高いランクフォード値(r値≧1.3)お
よび高い穴拡げ率(λ≧100%)を有し、深絞り成形性
に優れた鋼板となっている。特に本発明例では、再結晶
焼鈍温度を、本発明の範囲である(Ac3変態点−50℃)
〜(Ac3変態点+50℃)の温度域とすることによって、
穴拡げ率(λ)が飛躍的に上昇し、λ≧100%以上を確
保できる。これに対し、本発明の範囲を外れる条件で製
造した比較例では、降伏比(YR)が高いか、伸び(E
l)、ランクフォード値(r値)または穴拡げ率(λ)
が低下した鋼板となっている。
【0059】
【発明の効果】本発明によれば、強度伸びバランスに優
れるとともに、深絞り成形性および穴拡げ成形性にも優
れた冷延鋼板を安定して製造することが可能となり、産
業上格段の効果を奏する。本発明の冷延鋼板を自動車部
品に適用した場合、プレス成形が容易で、自動車車体の
軽量化に十分に寄与できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 VとNbの含有量とCとの関係を表す比(V/5
1+Nb/93)/(C/12)がランクフォード値(r値)と強
度伸びバランス(TS×El)に及ぼす影響を示した図であ
る。
【図2】 再結晶焼鈍温度が穴拡げ率(λ)に及ぼす影
響を示した図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 坂田 敬 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川崎製 鉄株式会社技術研究所内 Fターム(参考) 4K037 EA01 EA05 EA15 EA16 EA17 EA18 EA19 EA23 EA25 EA27 EA28 EA31 EA32 EB05 EB08 EB09 EB11 FB00 FG00 FH01 FJ04 FJ05 FJ06 FK02 FK03 GA08 HA00

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.
    5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、A
    l:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およ
    びNb:0.005〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCと
    の含有量(質量%)が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12 なる関係を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避的不
    純物からなる成分組成を有し、主相がポリゴナルフェラ
    イト相とベイニチックフェライト相からなるフェライト
    相で、さらに、面積率で1%以上のマルテンサイト相を
    含む第2相を有する鋼組織を有することを特徴とする、
    深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張力冷
    延鋼板。
  2. 【請求項2】 質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.
    5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、A
    l:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%、N
    b:0.005〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、か
    つ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12 なる関係を満たし、残部は実質的にFeおよび不可避的不
    純物からなる成分組成を有し、主相がポリゴナルフェラ
    イト相とベイニチックフェライト相からなるフェライト
    相で、さらに、面積率で1%以上のマルテンサイト相を
    含む第2相を有する鋼組織を有することを特徴とする、
    深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張力冷
    延鋼板。
  3. 【請求項3】 上記組成に加えてさらにMo:0.01〜0.5
    質量%を含有することを特徴とする、請求項1または2
    に記載の深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型
    高張力冷延鋼板。
  4. 【請求項4】 質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.
    5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、A
    l:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%およ
    びNb:0.005〜0.2%を含有し、かつ、VおよびNbとCと
    の含有量(質量%)が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93)≦2×C/12 なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、
    引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続焼
    鈍ラインにて(Ac3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+50
    ℃)の温度域の焼鈍温度に加熱した後、400℃以下まで
    冷却し、この冷却における平均冷却速度が、前記焼鈍温
    度から700℃までの温度域で10℃/s以上、700℃から40
    0℃までの温度域で5℃/s以上であることを特徴とす
    る、深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張
    力冷延鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 質量%でC:0.01〜0.05%、Si:0.1〜1.
    5%、Mn:1.0〜3.0%、P:0.10%以下、S:0.02%以下、A
    l:0.005〜0.1%、N:0.02%以下、V:0.01〜0.2%、N
    b:0.005〜0.2%およびTi:0.001〜0.3%を含有し、か
    つ、V、NbおよびTiとCとの含有量(質量%)が、 0.5×C/12≦(V/51+Nb/93+Ti/48)≦2×C/12 なる関係を満たす組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、
    引き続き酸洗した後、冷間圧延を施し、その後、連続焼
    鈍ラインにて(Ac3変態点−50℃)〜(Ac3変態点+50
    ℃)の温度域の焼鈍温度に加熱した後、400℃以下まで
    冷却し、この冷却における平均冷却速度が、前記焼鈍温
    度から700℃までの温度域で10℃/s以上、700℃から40
    0℃までの温度域で5℃/s以上であることを特徴とす
    る、深絞り性と伸びフランジ性に優れた複合組織型高張
    力冷延鋼板の製造方法。
  6. 【請求項6】 鋼スラブは、上記組成に加えてさらにM
    o:0.01〜0.5質量%を含有することを特徴とする、請求
    項4または5に記載の深絞り性と伸びフランジ性に優れ
    た複合組織型高張力冷延鋼板の製造方法。
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