JP2007197748A - 深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法 - Google Patents

深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】440MPa以上のTS及び1.3以上のr値を有する深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.015〜0.050、Si:1.0以下、Mn:1.0〜3.0、P:0.005〜0.1、S:0.01以下、Al:0.005〜0.5、N:0.01以下、Nb:0.01〜0.3を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が式(1)を満たすスラブを、熱間圧延後、720℃以下の巻取温度CT℃で巻取り、式(2)と(3)から求まる範囲内の圧下率CR%で冷間圧延して、500〜750℃の均熱温度で熱処理後、さらに冷間圧延し、連続焼鈍して、面積率で、50%以上のフェライト相と1〜15%のマルテンサイト相を含むミクロ組織を得る方法;[C]-(12×[Nb]/93)≧0.01・・・(1)、350-CT+1000×ε1.2≧0・・・(2)、ε=ln(1+CR/100)・・・(3)、ここで、[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
【選択図】なし

Description

本発明は、自動車や電気機器などのプレス部品に有用な冷延鋼板、特に、440MPa以上、好ましくは500MPa以上の引張強度TSを有する深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法に関する。
近年では、自動車車体の高強度化にともない、TSが440MPa以上の高強度鋼板がプレス部品に多用されるようになり、こうした高強度鋼板にも、高延性のみならず、優れた深絞り性、すなわち1.3以上のr値が要求されている。
一般に、高r値化には{111}再結晶集合組織を発達させることが有効である。そのため、高い歪みエネルギを導入して{111}再結晶集合組織を発達させる観点から冷間圧延時の圧下率を高める方法や、再結晶粒の成長を促して{111}再結晶集合組織を発達させる観点から2回焼鈍を繰り返す方法など種々の工夫された製造方法が開示されている。
例えば、特許文献1〜3には、極低炭素のIF(Interstitial Free)鋼を用い、熱間圧延-冷間圧延-中間焼鈍-冷間圧延-焼鈍という2回冷間圧延および2回焼鈍を施すことにより{111}再結晶集合組織の高集積化を計り、3.0以上の高r値を有するフェライト単相の冷延鋼板が開示されている。しかしながら、この冷延鋼板では、極低炭素のIF鋼を用いていることから、440MPa以上のTSを有する高強度鋼板が得られていない。
特許文献4には、同じく極低炭素のIF鋼を用い、熱間圧延後、600〜750℃の高温で巻取ることにより、あるいは巻取温度が600℃未満の場合は600〜800℃で熱延鋼板を焼鈍することによりNbCの粗大化を計り、冷間圧延-再結晶焼鈍後に高r値化を計る方法が開示されている。しかしながら、この方法でも極低炭素のIF鋼を用いているため、440MPa以上のTSが得られていない。
特許文献5〜6には、固溶強化元素の添加された極低炭素のIF鋼を用い、熱間圧延をAr3変態点以下〜500℃の温度域での潤滑圧延で行い、熱延鋼板の焼鈍-冷間圧延-焼鈍後に500MPa以上のTSと高r値化を計る方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、Ar3変態点以下〜500℃の低温域で圧延を行っているため、圧延負荷が高くなり圧延時のトラブルを誘発しやすい。また、固溶強化元素の添加は合金コスト増のほか、伸びElやr値の低下、めっき性や表面性状の著しい劣化をもたらす。
したがって、深絞り用高強度冷延鋼板には、固溶強化元素の添加された極低炭素のIF鋼をベースにした鋼板より、低炭素鋼をベースとして組織強化を利用した複合組織型冷延鋼板の方が望ましいといえる。しかし、一般に複合組織型冷延鋼板のr値は1程度と低く、また、高r値化のために冷間圧延時の圧下率を高くすると、圧延負荷が大きくなり、トラブル発生の危険性が増大するとともに、生産性の低下も懸念される。
そこで、特許文献7には、V、Nbを添加した低炭素鋼を用い、熱間圧延-冷間圧延-焼鈍-冷間圧延-焼鈍を行うことにより、冷間圧延を2回に分けてV添加による高圧延負荷を回避する複合組織型冷延鋼板の製造方法が提案されている。しかしながら、この方法では、冷間圧延を2回に分けて圧下率を高くしているが、最終焼鈍後に{111}再結晶集合組織が十分に発達せず、1.3以上のr値が得られない。
特開平3-97812号公報 特開平3-97813号公報 特開平5-209228号公報 特開2002-249849号公報 特開平6-220546号公報 特開平6-330180号公報 特開2004-232018号公報
本発明は、440MPa以上、好ましくは500MPa以上のTS、および1.3以上のr値を有する深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、低炭素鋼をベースとした高強度複合組織型冷延鋼板の高r値化について鋭意検討を進めたところ、巻取温度に応じて冷間圧延の圧下率と熱処理を適宜組み合わせて、最終の冷間圧延と焼鈍を行う前に炭化物の析出の駆動力を高めることにより、最終の冷間圧延時の圧延負荷を増大させることなく焼鈍時に{111}再結晶集合組織を発達でき、高r値化が図れることを見出した。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、質量%で、C:0.015〜0.050%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.5%、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が下記の式(1)を満たす組成の鋼スラブを、熱間圧延後、720℃以下の巻取温度CT℃で巻取り熱延鋼板とし、前記熱延鋼板を下記の式(2)と(3)から求まる範囲内の圧下率CR%で冷間圧延して冷延鋼板とし、前記冷延鋼板を500〜750℃の均熱温度で熱処理後、さらに冷間圧延し、連続焼鈍して、面積率で、50%以上のフェライト相と1〜15%のマルテンサイト相を含むミクロ組織を得ることを特徴とする深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法を提供する。
[C]-(12×[Nb]/93)≧0.01 ・・・(1)
350-CT+1000×ε1.2≧0 ・・・(2)
ε=ln(1+CR/100) ・・・(3)
ここで、[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
本発明は、また、質量%で、C:0.015〜0.050%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.5%、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が上記の式(1)を満たす組成の鋼スラブを、熱間圧延後、350℃以下の巻取温度で巻取り熱延鋼板とし、前記熱延鋼板を500〜750℃の均熱温度で熱処理後、冷間圧延し、連続焼鈍して、面積率で、50%以上のフェライト相と1〜15%のマルテンサイト相を含むミクロ組織を得ることを特徴とする深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法を提供する。
本発明の深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法では、さらに、質量%で、Ti:0.1%以下を含有し、かつ下記の式(4)と(5)または(6)を満たす組成の鋼スラブを用いることができる。
([Ti]/48)/([S]/32+[N]/14)≦2.0 ・・・(4)
Ti*>0で、[C]-12×([Nb]/93+[Ti*]/48)≧0.01 ・・・(5)
Ti*≦0で、[C]-12×[Nb]/93≧0.01 ・・・(6)
ここで、Ti*=[Ti]-48×([N]/14+[S]/32)であり、[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
また、さらに、質量%で、Mo、Crのうちから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.5%以下含有する鋼スラブを用いることもできる。
本発明の深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法では、連続焼鈍後に鋼板表面にめっき層を形成したり、連続焼鈍時の冷却工程で鋼板表面に合金化溶融めっき層を形成することもできる。
本発明により、440MPa以上、好ましくは500MPa以上のTS、および1.3以上のr値を有する深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板を、冷間圧延時の圧延負荷を増大させることなく製造できるようになった。本発明の方法で製造された深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板は、自動車や電気機器などのプレス部品に限らずパイプ素材としても適用可能である。
上述したように、本発明のポイントは、巻取温度に応じて冷間圧延の圧下率と熱処理を適宜組み合わせて、最終の冷間圧延と焼鈍を行う前に炭化物の析出の駆動力を高めることにより高強度複合組織型冷延鋼板の高r値化を図ったことにある。以下に、その詳細を説明する。
1)ミクロ組織
本発明の方法により製造される深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板では、後述する成分と製造条件を最適化して、ミクロ組織を、面積率で、50%以上、好ましくは70〜97%のフェライト相と、1〜15%、好ましくは3〜15%のマルテンサイト相を含む複合組織とする必要がある。これは、フェライト相の面積率が50%未満だと1.3以上の高いr値を得ることが困難となり、また、マルテンサイト相の面積率が1%未満だと組織強化能が低く440MPa以上のTSを得ることが困難になり、さらに、マルテンサイト相の面積率が15%を超えると高r値化が達成できなくなるためである。
ここで、フェライト相とマルテンサイト相の面積率は、鋼板の圧延方向に平行な板厚断面を光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡により観察し、画像処理によって求めたものである。
なお、フェライト相とマルテンサイト相の面積率の和は、必ずしも100%である必要はなく、100%未満の場合は、ベイナイト、残留オーステナイト、パーライトなどのフェライト相とマルテンサイト相以外の相が存在するが、これらのフェライト相とマルテンサイト相以外の相は少ないほど好ましい。また、ここでいうフェライト相には、ポリゴナルフェライト相のほか、ベイニティックフェライト相も含まれる。
2)成分(以下の「%」は、「質量%」を表す。)
C:0.015〜0.050%
Cは、炭化物を形成したり、焼鈍時にフェライト相中に微細なマルテンサイト相などの低温変態相を形成させて、鋼板の高強度化に寄与する。このような観点から、C量は0.015%以上、好ましくは0.020%以上にする必要がある。しかし、C量が0.050%を超えるとフェライト粒の成長が抑制され、深絞り性などの成形性が劣化する傾向があるので、C量は0.050%以下にする必要がある。
Si:1.0%以下
Siは、固溶強化の効果とともに、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイト中のC含有量を上昇させてフェライト相とマルテンサイト相の複合組織を形成させやすくする効果を有する。しかし、Si量が1.0%を超えると熱間圧延時に赤スケールと呼ばれる表面欠陥が発生し、鋼板の表面外観が悪くなり、また、溶融亜鉛めっきを施す場合には、めっきの濡れ性が悪くなりめっきむらが発生するので、Si量は1.0%以下、好ましくは0.7%以下にする必要がある。なお、上記効果を得るためには、Si量を0.01%以上にすることが好ましく、0.05%以上にすることがより好ましい。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、高強度化に有効な元素であるととともに、組織強化する際には、マルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を低くする効果があり、焼鈍冷却時にマルテンサイト相の形成を促す。そのため、要求される強度レベルおよび焼鈍時の冷却速度に応じてその量を調整する必要がある。また、Mnは、Sによる熱間割れを防止するのに有効な元素である。このような観点から、Mn量は1.0%以上、好ましくは1.2%以上にする必要がある。一方、Mn量が3.0%を超えると成形性や溶接性の劣化が顕著となるので、Mn量は3.0%以下にする必要がある。
P:0.005〜0.1%
Pは、固溶強化元素であり、所望とする強度に合わせて添加できる。しかし、P量が0.005%未満ではその効果が現れないだけでなく、製鋼時の脱りんコストが上昇する。したがって、P量は0.005%以上にする必要がある。一方、P量が0.1%を超えると、Pが粒界に偏析して耐二次加工脆性や溶接性が劣化したり、溶融亜鉛めっき後の合金化処理時に、Pはめっき層と鋼板の界面におけるFeの拡散を抑制して合金化処理性を劣化させるので、高温での合金化処理が必要となり、パウダリングやチッピング等のめっき剥離が生じやすくなる。したがって、P量は0.1%以下にする必要がある。
S: 0.01%以下
Sは、熱間割れの原因になるほか、鋼中で介在物として存在して穴広げ性などの特性を劣化させる。したがって、S量は0.01%以下にする必要があるが、少ないほど好ましい。
Al:0.005〜0.5%
Alは、鋼の脱酸元素として有用であるほか、固溶NをAlNとして析出させ耐常温時効性を向上させる作用がある。また、Alはフェライト生成元素であり、(α+γ)2相温度域を調整する上でも有用である。こうした作用を発揮させるために、Al量は0.005%以上にする必要がある。一方、Al量が0.5%を超えると合金コストが増加したり表面欠陥が誘発されるので、Al量は0.5%以下にする必要がある。
N:0.01%以下
上述のように、Nが固溶Nとして存在すると耐常温時効性が劣化するので、その量が多くなると固溶Nを析出させるために多量のAlやTi添加が必要となる。したがって、N量は0.01%以下にする必要があるが、少ないほど好ましい。
Nb:0.01〜0.3%
Nbは、熱間圧延後のミクロ組織を微細化したり、鋼中の固溶CをNbCとして析出させて深絞り性の向上に寄与する。このような観点から、Nb量は0.01%以上にする必要がある。一方、焼鈍時の冷却過程でマルテンサイト相を形成させるためには、Nbによって析出されない固溶Cを確保する必要があるが、それにはNb量は0.3%以下とし、かつ上記式(1)を満たすようにする必要がある。
残部は、Feおよび不可避的不純物である。ここで、不可避的不純物としては、0.01%以下のSb、0.1%以下のSn、0.01%以下のZn、0.1%以下のCoなどが挙げられる。
本発明の目的を達成するには上記の成分で十分であるが、固溶N、C、SをTiN、TiC、TiS、Ti4C2S2などとして析出させて耐時効性やプレス成形性の向上を図るために、さらにTiを0.1%以下含有させ、かつ上記式(4)と(5)または(6)を満たすようにすることが効果的である。Ti量を0.1%以下、式(4)の左辺を2.0以下、および式(5)と式(6)の左辺を0.01以上にした理由は、マルテンサイト相の形成に必要な固溶Cを確保するためである。すなわち、TiはNやSと優先的に結合し、次いでCと結合するが、Ti量が0.1%を超えると、あるいは([Ti]/48)/([S]/32+[N]/14)が2.0を超えると、過剰なTiにより鋼中に固溶Cを残すことが困難となり、また、Cを析出させる上で有効なTi量であるTiが、Ti>0で、[C]-12×([Nb]/93+[ Ti]/48)<0.01の場合、あるいはTi≦0で、[C]-12×[Nb]/93<0.01の場合、上記のようにマルテンサイト相形成のための固溶Cの確保が困難となるためである。
また、マルテンサイト相の形成を促進したり、高強度化を図るために、さらにMo、Crのうちから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.5%以下含有させることが効果的である。合計の量を0.5%以下にした理由は、0.5%を超えるとその効果が飽和し、コスト増を招くためである。また、その効果を得るには、その量を各々0.01%以上とすることが好ましい。
なお、さらに、鋼の焼入性を向上させるBを0.003%以下の範囲で、また、硫化物系介在物の形態制御に効果的なCaやREMのうち少なくとも1種の元素を0.01%以下の範囲で含有させても、本発明の効果が損なわれることはない。
3)製造条件
本発明の製造方法では、上記組成を有するスラブを、熱間圧延後、720℃以下の巻取温度CT℃で巻取り熱延鋼板とし、前記熱延鋼板を上記式(2)と(3)から求まる範囲内の圧下率CR%で冷間圧延して冷延鋼板とし、前記冷延鋼板を500〜750℃の均熱温度で熱処理後、また、巻取温度CTが350℃以下の場合は、前記熱延鋼板を冷間圧延することなしに500〜750℃の均熱温度で熱処理後、冷間圧延し、連続焼鈍して、面積率で、50%以上のフェライト相と1〜15%のマルテンサイト相を含むミクロ組織として、440MPa以上のTSおよび1.3以上のr値を有する深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板を製造する。
本発明の製造方法で使用するスラブは、成分のマクロ偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法や薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、スラブを熱間圧延するには、スラブをいったん室温まで冷却し、その後再加熱して圧延する従来法に加え、連続鋳造後直ちに熱間圧延する方法、あるいは室温まで冷却せず温片のままで加熱炉に装入し圧延する方法などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。
スラブ加熱温度は、熱間圧延時に圧延荷重が増大し、トラブル発生の危険性が増大しないように1000℃以上に、また、酸化重量の増加に伴うスケールロスの増大を防止するために1300℃以下にすることが好適である。
加熱後のスラブは、粗圧延によりシートバーとされる。粗圧延の条件は、特に規定されず、常法に従って行えばよい。また、スラブの加熱温度を低くした場合は、圧延時のトラブルを防止するといった観点から、シートバーヒーターを活用してシートバーを加熱することが好ましい。
シートバーは、仕上圧延により熱延鋼板とされる。このとき、圧延時の負荷が高くならないように、仕上温度FTを800℃以上にすることが好ましい。また、圧延荷重を低減したり、鋼板の形状や特性の均一化を図るために、仕上圧延の一部または全部のパス間で潤滑圧延を行うこともできる。潤滑圧延時の摩擦係数は0.10〜0.25の範囲にすることが好ましい。さらに、熱間圧延の操業安定性の観点から、シートバー同士を接合して連続的に仕上圧延する連続圧延プロセスを適用することが好ましい。
熱間圧延後の巻取温度CTは、熱延鋼板の結晶粒が粗大化し、焼鈍後に強度低下や表面性状の劣下を招くことがあるので、720℃以下、好ましくは680℃以下とする必要がある。
巻取り後の熱延鋼板には、巻取温度CTに応じた圧下率の冷間圧延と熱処理が施される。CTが350℃を超える場合は、上記式(2)と(3)から求まる範囲内の圧下率CR%で冷間圧延した後、500〜750℃の均熱温度で熱処理される。また、巻取温度CTが350℃以下の場合は、式(3)でε=0、すなわちCR=0%でも式(2)は満足されるので、冷間圧延を省略して500〜750℃の均熱温度で熱処理することができる。冷間圧延による歪導入、あるいは低温巻取により炭化物の析出サイトが増し、析出の駆動力が高まることにより、次の熱処理で炭化物の析出が促進され、引き続き行われる冷間圧延時に導入される加工歪が、焼鈍時の{111}再結晶集合組織形成に有利な状態になると推察される。なお、上記式(2)と(3)は、種々の検討後に得られた実験式である。また、上記熱処理は、連続焼鈍法や箱焼鈍法などで行うことができるが、生産性の観点から連続焼鈍法で行うことが望ましい。コイル巻取時、コイル先尾端では炭化物等の析出が不均一かつ不安定になりがちであるが、この処理によりコイル内の材質(TSやr値など)均一性が向上するというメリットもある。
熱処理後の鋼板は、酸洗などによりスケール除去した後、冷間圧延される。冷間圧延時の圧下率は、深絞り性の向上の観点から、少なくとも40%以上とすることが好ましく、50%以上とすることがより好ましい。
冷間圧延後の鋼板は、連続焼鈍により再結晶焼鈍されるが、十分に再結晶を進行させ、また、冷却後に複合組織を形成させるために、焼鈍温度は800℃以上とすることが好ましい。また、焼鈍温度が920℃を超えると再結晶粒が著しく粗大化し機械的特性や表面性状を劣化させるので、焼鈍温度は920℃以下にすることが好ましい。なお、特に限定するものではないが、再結晶粒を十分に発達させて深絞り性や穴広げ性を向上させるために、700℃〜焼鈍温度の温度域を徐加熱、好ましくは5℃/s以下の平均加熱速度で加熱することが望ましい。また、焼鈍温度では1〜300秒間保持することが好ましい。これは、保持時間を1秒以上にすることにより再結晶が十分に進行するとともに、(α+γ)2相域において相分離と固溶Cのオーステナイト相への濃化が十分に促進されるためである。一方、保持時間が300秒を超えると結晶粒が粗大化し、強度や表面性状など諸特性が劣化する傾向にある。なお、保持時間は10秒以上とすることがより好ましい。
加熱後の冷却速度は、マルテンサイト相形成の観点から800〜400℃の温度域を平均冷却速度5℃/s以上で冷却することが望ましい。冷却速度を規定した温度域の上限温度を800℃とした理由は、マルテンサイト相を得るため(α+γ)2相域から冷却を開始する必要があるためである。したがって、800℃以上の焼鈍温度から5℃/s以上の平均冷却速度で冷却しても何ら問題はない。また、下限温度を400℃とした理由は、マルテンサイト相を得る上で800〜400℃の温度域での冷却速度の影響が大きいためである。したがって、少なくとも400℃までを5℃/s以上で冷却すればよく、その後はそのまま冷却を続けてもよいし、400〜200℃の温度域で一定時間保持後冷却してもよい。保持する場合は、生成したマルテンサイト相の軟質化が起こらないように、また製造コスト増とならないように、保持時間は600秒以下にすることが好ましい。
焼鈍後の鋼板には、電気めっき処理、あるいは溶融めっき処理などによりめっき層を形成することができる。また、オンラインで合金化溶融亜鉛めっきを施す場合は、800〜920℃で加熱後の冷却工程でめっき層を形成することができる。例えば、マルテンサイト相の形成の観点から、800℃からめっき浴浸漬直前までの温度域を平均5℃/s以上で冷却し、合金化後、合金化温度から400℃までを平均5℃/s以上で冷却することが好ましい。このとき、めっき浴浸漬直前の鋼板温度は概ね480〜520℃、めっき浴温度は概ね440〜480℃、合金化温度は概ね500〜600℃である。
このようにして製造された冷延鋼板あるいはめっき鋼板には、形状矯正、表面粗度調整の目的で調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。調質圧延あるいはレベラー加工の伸び率は合計で0.1〜15%の範囲内であることが好ましい。これは、0.1%未満では、形状矯正や表面粗度調整の目的が達成できないおそれがあり、15%を超えると顕著な延性低下をもたらすためである。
表1に示す成分の鋼A〜Kを溶製し、連続鋳造法でスラブとした。このスラブを1250℃に加熱後、粗圧延してシートバーとし、次いで仕上温度880℃で仕上圧延して熱延鋼板とし、表2に示す巻取温度CTでコイルに巻取り、この熱延鋼板に対し、巻取温度CTに応じた圧下率で冷間圧延(この冷間圧延を、中間冷延と呼ぶ)し、熱処理を施した。ここで、中間冷延の圧下率が0%とは、冷間圧延を行ってないことを意味する。次いで熱処理後の鋼板を酸洗し、圧下率60%で冷間圧延して、連続焼鈍ラインにて焼鈍温度860℃で再結晶焼鈍を行った。その後、伸び率0.5%の調質圧延を施して鋼板No.1〜19の試料を作製した。なお、鋼板No.12は、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)にて焼鈍を行い、焼鈍時の冷却工程でオンラインでめっき処理を施した試料である。このとき、めっき浴浸漬直前の鋼板温度は500℃、めっき浴温度は460℃、合金化温度は550℃であった。そして、得られた試料について、上記の方法でミクロ組織を調査するとともに、次の方法で引張特性とr値を測定した。
引張特性:試料から圧延方向に対して90°方向にJIS5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/minで引張試験を行い、降伏強度YS、TS、降伏比YR、およびElを求めた。
r値:試料から、圧延方向、圧延方向に対し45°方向、圧延方向に対し90°方向からJIS5号引張試験片を採取し、10%の単軸引張歪を付与して、JIS S 2254の規定に準拠して平均r値を次の式から算出した。
平均r値=(r0+2r45+r90)/4
ここで、r0、r45、r90は、それぞれ圧延方向に対し0°、45°、90°方向から採取した試験片で測定した塑性歪比である。
結果を表2に示す。本発明の製造方法で製造された鋼板No.1〜3、6〜7、9〜10、12〜14では、いずれもTSが440MPa以上で、平均r値が1.3以上の高強度複合組織型冷延鋼板であることがわかる。
Figure 2007197748
Figure 2007197748

Claims (6)

  1. 質量%で、C:0.015〜0.050%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.5%、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が下記の式(1)を満たす組成の鋼スラブを、熱間圧延後、720℃以下の巻取温度CT℃で巻取り熱延鋼板とし、前記熱延鋼板を下記の式(2)と(3)から求まる範囲内の圧下率CR%で冷間圧延して冷延鋼板とし、前記冷延鋼板を500〜750℃の均熱温度で熱処理後、さらに冷間圧延し、連続焼鈍して、面積率で、50%以上のフェライト相と1〜15%のマルテンサイト相を含むミクロ組織を得ることを特徴とする深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法;
    [C]-(12×[Nb]/93)≧0.01 ・・・(1)
    350-CT+1000×ε1.2≧0 ・・・(2)
    ε=ln(1+CR/100) ・・・(3)
    ここで、[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
  2. 質量%で、C:0.015〜0.050%、Si:1.0%以下、Mn:1.0〜3.0%、P:0.005〜0.1%、S:0.01%以下、Al:0.005〜0.5%、N:0.01%以下、Nb:0.01〜0.3%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、かつNbとCの含有量が下記の式(1)を満たす組成の鋼スラブを、熱間圧延後、350℃以下の巻取温度で巻取り熱延鋼板とし、前記熱延鋼板を500〜750℃の均熱温度で熱処理後、冷間圧延し、連続焼鈍して、面積率で、50%以上のフェライト相と1〜15%のマルテンサイト相を含むミクロ組織を得ることを特徴とする深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法;
    [C]-(12×[Nb]/93)≧0.01 ・・・(1)
    ここで、[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
  3. さらに、質量%で、Ti:0.1%以下を含有し、かつ下記の式(4)と(5)または(6)を満たす組成の鋼スラブを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法;
    ([Ti]/48)/([S]/32+[N]/14)≦2.0 ・・・(4)
    Ti*>0で、[C]-12×([Nb]/93+[Ti*]/48)≧0.01 ・・・(5)
    Ti*≦0で、[C]-12×[Nb]/93≧0.01 ・・・(6)
    ここで、Ti*=[Ti]-48×([N]/14+[S]/32)であり、[M]は元素Mの含有量(質量%)を表す。
  4. さらに、質量%で、Mo、Crのうちから選ばれた少なくとも1種の元素を合計で0.5%以下含有する鋼スラブを用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法。
  5. 連続焼鈍後に、鋼板表面にめっき層を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法。
  6. 連続焼鈍時の冷却工程で、鋼板表面に合金化溶融めっき層を形成することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の深絞り用高強度複合組織型冷延鋼板の製造方法。
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