JP2003313197A - 高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム - Google Patents

高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム

Info

Publication number
JP2003313197A
JP2003313197A JP2002118426A JP2002118426A JP2003313197A JP 2003313197 A JP2003313197 A JP 2003313197A JP 2002118426 A JP2002118426 A JP 2002118426A JP 2002118426 A JP2002118426 A JP 2002118426A JP 2003313197 A JP2003313197 A JP 2003313197A
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
ligand
antibody
phage
rate constant
library
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Withdrawn
Application number
JP2002118426A
Other languages
English (en)
Inventor
Hiroo Katakura
啓雄 片倉
Kokukyo Sho
国強 庄
Kenichi Suga
健一 菅
Michimasa Kishimoto
通雅 岸本
Takeshi Omasa
健史 大政
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Japan Science and Technology Agency
Original Assignee
Japan Science and Technology Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Japan Science and Technology Corp filed Critical Japan Science and Technology Corp
Priority to JP2002118426A priority Critical patent/JP2003313197A/ja
Publication of JP2003313197A publication Critical patent/JP2003313197A/ja
Withdrawn legal-status Critical Current

Links

Landscapes

  • Peptides Or Proteins (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 リガンドライブラリーから、実用レベルのリ
ガンド(抗体等)を効率的にスクリーニングすることが
できるリガンドの生産方法と、この生産方法を実現可能
とするリガンド生産システムとを提供する。 【解決手段】 スクリーニング工程で、バイオパニング
処理によって、ファージライブラリーから特定の抗原と
結合する特定のファージ抗体をスクリーニングする際
に、上記特定のファージ抗体における見かけの会合速度
定数と、解離速度定数もしくは解離定数とを仮定すると
ともに、これら定数を含み、ファージ抗体の回収率を表
す数式モデルを用いて、ファージライブラリーを固定化
した適切な抗原と接触させる結合時間、抗原に結合しな
かったファージ抗体を洗浄除去する洗浄時間、および固
定化した抗原の有効濃度のうち少なくとも何れかのスク
リーニング条件を設定する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、リガンドライブラ
リーから、特定のターゲットと特異的に結合するリガン
ドを効率的かつ迅速にスクリーニングするリガンドの生
産方法と、この生産方法を実現可能とするリガンド生産
システムに関するものであり、特に、ファージディスプ
レイ法に代表される、コンビナトリアルバイオエンジニ
アリング技術によって作成された、抗体等をディスプレ
イするリガンドライブラリーから、臨床検査用途や医薬
品用途に実用可能な実用レベルのリガンドを効率的かつ
迅速にスクリーニングすることができるリガンドの生産
方法と、この生産方法を実施可能とするリガンド生産シ
ステムとに関するものである。
【0002】
【従来の技術】特定のターゲットを特異的に認識するリ
ガンドは、物質の検出、定量、同定、疾病の治療薬剤
等、様々な用途に用いられている。リガンドの一例とし
ては、抗体が挙げられるが、この抗体は高い親和性と高
い特異性でその抗原(ターゲット)を認識することか
ら、物質の検出や定量、疾病の治療薬剤などに応用され
ている。
【0003】ここで、抗体を得る具体的な手法として
は、近年開発されたファージディスプレイ法が注目され
ている(Gene, 73, 305-318 (1988) 参照)。この技術
では、ファージに抗体を発現(ディスプレイ)させたフ
ァージの集団からなる抗体のファージライブラリーを作
製し、このファージライブラリーを用いて抗原に対する
アフィニティ選択(バイオパニング)を行う。これによ
って、動物を免疫して抗体を得る方法に比べて、はるか
に効率良く抗体を得ることができる。
【0004】このようなファージディスプレイ法を利用
した具体的な技術としては、例えば、特表平7−50
2167号公報(米国特許5,885,793号公報)、特表
平6−500930号公報、特表平10−50743
1号公報等に開示されている各技術が挙げられる。
【0005】ファージディスプレイ法により抗体を得る
プロセスには、少なくとも、ファージライブラリーの作
製工程と、ファージライブラリーのスクリーニング工程
とが含まれる。
【0006】このうち、上記の公報には、主にファー
ジライブラリーの作製工程を改良する技術が開示されて
おり、上記の技術は、上記ファージライブラリーの作
製工程で用いるベクターを改良する技術が開示されてい
る。また、上記の公報は、ファージディスプレイ法を
利用して、特定の化学反応を触媒する抗体(触媒抗体)
を得る技術を開示している。
【0007】ところで、抗体等のリガンドでターゲット
を検出する場合、特別な例を除き、検出感度が高いこと
が好ましいのは当然である。この検出感度は、リガンド
−ターゲット間の解離定数KDが低い値を示すほど高くな
る。
【0008】上記解離定数KDは、解離速度定数koffと会
合速度定数konとの比として表される(KD=kon
koff)。特定の抗原に有意な親和性を有する抗体の解離
速度定数k offは、10-6〜10-2-1の広い範囲を示す
のに対して、会合速度定数konは104〜106-1-1
の比較的狭い範囲を示す。それゆえ、従来のバイオパニ
ングでは、低い解離定数KDを有する抗体を発現するファ
ージをスクリーニングするために、オフレート選択(of
f rate selection)という手法が用いられている。この
手法は、洗浄時間を延長して、高い会合速度定数kon
有するファージを除去するものであり、例えば、上記
の公報でも、高アフィニティの抗体を選択する手法の一
つとして挙げられている。
【0009】なお、特表平5−503011号公報に
は、リガンド−ターゲット間の会合速度を向上させる技
術が開示されている。すなわち、この技術では、すでに
選択された抗原−抗体などの結合対について、その抗原
と抗体それぞれに、その会合を促進する副結合対を共有
結合させることによって、会合速度を向上させている。
具体的には、例えば、抗原に正に荷電するペプチド、抗
体に負に荷電するペプチドを共有結合させ、ペプチド間
の静電的な相互作用によって、抗原と抗体との会合を促
進させている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従
来の技術では、バイオパニングにおいて、解離速度定数
koffに注目してスクリーニングを実施している。そのた
め、ターゲットの検出や定量をより短時間に実施できる
リガンドをスクリーニングするには不十分であるという
問題点を有している。
【0011】例えば、臨床検査においては、抗原(ター
ゲット)と抗体(リガンド)との反応に要する時間を短
くすることができれば、検査結果を迅速に知ることがで
き、高価な臨床検査機器の稼働率を上げることが可能と
なる。また、疾病の治療薬剤においては、投与した抗体
は体内で分解を受けるので、分解する前に十分に中和効
果を得るには、抗体が迅速に抗原(癌細胞や感染性生
物)に結合することが要求される。したがって、抗体を
実用レベルで用いるためには、短時間で抗原との複合体
を形成できる抗体が要求されることになる。
【0012】実用レベルで用いられる抗体の優劣は、平
衡状態を前提とした上記解離定数KDではなく、動力学的
なパラメーターである会合速度定数konと解離速度定数k
offとの双方を用いて評価することがより好ましい。
【0013】特に、会合速度定数konは、検出時間を左
右するパラメーターであり、リガンドの会合速度定数k
onが高い値を示すほど、検出時間は速くなる。また、例
えば抗体を治療薬剤として用いる場合、病原生物の中和
活性は、会合速度定数konが大きい抗体ほど高いことが
知られている。
【0014】ところが、上記の公報にも開示されてい
るように、従来のファージディスプレイ法では、基本的
に、リガンドは、解離速度定数koffに基づいてスクリー
ニングされている。そのため、低い解離速度定数koff
有することによって低い解離定数KDを有するリガンドを
スクリーニングすることはできても、実用的に価値のあ
る高い会合速度定数konを有するリガンドをスクリーニ
ングすることは事実上できない。
【0015】実用レベルのリガンドをスクリーニングす
るためには、ファージディスプレイ法における主な上記
各工程のうち、ファージライブラリーのスクリーニング
工程の手法を改良すべきであるが、上記の公報は、
「通常のスクリーニング法を用いてライブラリーから単
離することができる」と述べていることからも明らかな
ように、実質的に、ファージライブラリー作製工程を改
良する技術しか開示していない。
【0016】実際、上記の技術では、浸漬時間の延長
または浸漬溶液のpHの変更によって、ファージライブ
ラリーと抗原(ターゲット)とのアフィニティを増大さ
せるための緊縮条件(stringent conditions)について
の言及はあるものの、ファージライブラリーと抗原との
インキュベート時間(結合時間)等を変化させるなど、
動力学的な面からスクリーニング工程を改良するような
点については言及されていない。
【0017】また、上記の公報も、ファージライブラ
リーの作製工程の改良技術を開示しているのみであっ
て、の公報と同様、スクリーニング工程を改良する技
術については何ら開示していない。
【0018】さらに、上記の技術では、触媒抗体を得
るプロセスで遷移状態アナログに結合する抗体を選択し
ているが、この選択は従来公知の選択方法であって、よ
り実用性の高いリガンドを得るための手法は何ら開示し
ていない。加えて、上記の技術は、「すでに選択され
た」リガンド−ターゲット間の会合速度を向上させる技
術であって、最初から、ターゲットとの会合速度が速い
リガンドをスクリーニングする技術ではない。
【0019】このように、従来では、実用レベルの抗体
の性能を評価する上で重要なパラメーターである、会合
速度定数konに注目してリガンドをスクリーニングして
おらず、それゆえ、実用レベルのリガンドを効率良く、
かつ迅速にスクリーニングすることは困難となってい
た。
【0020】本発明は、上記課題に鑑みてなされたもの
であって、その目的は、リガンドライブラリーから、実
用レベルのリガンドを効率的にスクリーニングすること
ができるリガンドの生産方法と、この生産方法を実現可
能とするリガンド生産システムとを提供することにあ
る。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
について鋭意検討した結果、バイオパニングにおいて動
的なモデルを構築し、このモデルを元に、実用レベルの
抗体を効率良く単離する条件を設計し、これに基づいて
実際に実用レベルのリガンドをスクリーニングできるこ
とが可能であることを独自に見出し、本発明を完成させ
るに至った。
【0022】すなわち、本発明にかかるリガンドの生産
方法は、上記の課題を解決するために、バイオパニング
によって、リガンドライブラリーから特定のターゲット
と特異的に結合する特定のリガンドをスクリーニングす
るスクリーニング工程を含むリガンドの生産方法におい
て、さらに、目的となる上記特定のリガンドのスクリー
ニング工程における見かけの会合速度定数と、解離速度
定数もしくは解離定数とを仮定するとともに、これら定
数を含み、リガンドの回収率を表す数式モデルを用い
て、リガンドライブラリーを固定化したターゲットと接
触させる結合時間、ターゲットに結合しなかったリガン
ドを洗浄除去する洗浄時間、および固定化したターゲッ
トの有効濃度のうち少なくとも何れかのスクリーニング
条件を設定する条件設定段階を含むことを特徴としてい
る。
【0023】本発明にかかるリガンドの生産方法におい
ては、上記数式モデルとして、具体的には、次式
【0024】
【数5】
【0025】(ただし、Ffは回収率であり、kon(app)
スクリーニング工程におけるリガンドの見かけの会合速
度定数であり、koffはリガンドの解離速度定数であり、
tbは結合時間であり、twは洗浄時間であり、Ageffは固
定化したターゲットの有効濃度である。)が用いられる
ことを特徴としている。
【0026】上記方法によれば、真の会合速度定数kon
ではなく見かけの会合速度定数kon(a pp)を含む数式モデ
ルにより、リガンドとターゲットとの会合を動力学的に
評価し、これに基づいてリガンドをスクリーニングする
条件を選択する。つまり、会合速度が速く実用性に優れ
たリガンドを、従来のような経験則によらず理論に基づ
いて単離することになる。それゆえ、リガンドライブラ
リーから、特定のターゲットに対する真の会合速度定数
が高い数値を示すリガンドを、効率的にスクリーニング
することができる。
【0027】なお、請求項の記載や、実施の形態および
実施例の記載も含めて、会合速度定数とは、リガンド
(例えば抗体)とターゲット(例えば抗原)が何れも固
定も修飾もされない状態で溶液中に存在するときの会合
速度定数であり、見かけの会合速度定数とは、リガンド
とターゲットとの何れかが固定もしくは修飾された状態
における会合速度定数である。ただし、例えば請求項等
に記載しているように、前後関係によっては、会合速度
定数を、見かけの会合速度定数と明確に区別するために
「真の会合速度定数」と表記する場合もある。
【0028】本発明にかかるリガンドの生産方法では、
リガンドライブラリーをターゲットと接触させる結合時
間を10分以下とすることが好ましく、2分以下とする
ことがより好ましい。また、リガンドライブラリーを、
粘度3cp以上の溶液に調製してもよい。さらに、ター
ゲットに結合しなかったリガンドを洗浄除去する洗浄時
間を30分以下とすることが好ましく、10分前後とす
ることがより好ましい。また、固定化したターゲットの
有効濃度を1×10-9M〜1×10-5Mの範囲内とする
ことが好ましく、5×10-7M〜2×10-6Mの範囲内
とすることがより好ましい。
【0029】上記方法によれば、スクリーニング条件を
より適切に設定することになるので、リガンドライブラ
リーから、特定のターゲットに対する会合速度定数が高
い数値を示すリガンドを、より一層効率的にスクリーニ
ングすることができる。
【0030】本発明にかかるリガンドの生産方法では、
上記リガンドライブラリーとして、ファージディスプレ
イ法により作製された、ファージライブラリーが用いら
れることが好ましい。また、上記リガンドライブラリー
として、特定のリガンドに対してランダムに変異を導入
した2次ライブラリーが用いられてもよい。このよう
に、本発明では、用いられるリガンドライブラリーの種
類は特に限定されるものではない。
【0031】本発明にかかるリガンドの生産方法では、
さらに、1×105-1-1以上の真の会合速度定数を
有するリガンドを1分子以上回収できるように、上記数
式モデルを用いて、上記スクリーニング条件を設定する
ことがより好ましい。
【0032】上記方法によれば、実用性の高いリガンド
について、その真の会合速度定数の下限を具体的に規定
した上で、上記スクリーニング条件を設定するので、リ
ガンドライブラリーから、特定のターゲットに対する会
合速度定数が高い数値を示すリガンドを、より一層効率
的にスクリーニングすることができる。
【0033】本発明にかかるリガンドの生産方法で生産
されるリガンドは特に限定されるものではないが、臨床
検査や疾病治療に用途の広い抗体であることが非常に好
ましい。
【0034】抗体は、各種アッセイや病気の治療薬とし
て有効に用いることができるが、これらの用途で抗体を
用いる場合、抗原−抗体反応の迅速性が要求されること
が多い。上記方法によれば、上記数式モデルを用いて抗
体ライブラリーから、特定の抗原に対する会合速度定数
が高い数値を示す抗体をスクリーニングすることができ
るので、実用性の高い抗体を容易かつ確実に生産するこ
とができる。
【0035】本発明にかかるリガンドの生産方法では、
吸光度と抗体濃度とが比例する範囲内で抗原と抗体とを
混合し、一定時間反応させた後、遊離の抗体をELIS
Aで定量し、抗体の結合率の時間変化を表す理論式を用
いて真の会合速度定数を求める会合速度定数測定段階を
含むことがより好ましく、上記理論式として、具体的
に、次式
【0036】
【数6】
【0037】(ただし、Ftは結合率であり、konはリガ
ンドの真の会合速度定数であり、KDは解離定数であり、
Agtotはターゲットの全濃度であり、tは時間である。)
が用いられることがより好ましい。
【0038】上記方法によれば、従来とは異なり、抗体
の精製や固定化または修飾を必要とせず、しかも解離の
速い抗体についても確実に会合速度定数を求めることが
できる。また、従来の方法で測定した結果とも良く一致
し、可溶性の抗体とファージ抗体との間で求めた値に有
意な差も見られない。それゆえ、ファージディスプレイ
法により得られる会合速度の速い抗体について、会合速
度定数を簡便かつ確実に測定することが可能となり、得
られる抗体の品質をより一層向上させることができる。
【0039】本発明にかかるリガンド生産システムは、
上記の課題を解決するために、バイオパニングによっ
て、リガンドライブラリーから特定のターゲットと特異
的に結合する特定のリガンドをスクリーニングする高速
スクリーニング手段と、少なくとも上記高速スクリーニ
ング手段の動作を制御する制御手段とを備えており、さ
らに、上記制御手段は、目的となる上記特定のリガンド
の上記スクリーニング工程における見かけの会合速度定
数と、解離速度定数もしくは解離定数とを仮定するとと
もに、これら定数を含み、リガンドの回収率を表す数式
モデルを用いて、リガンドライブラリーを固定化したタ
ーゲットと接触させる結合時間、ターゲットに結合しな
かったリガンドを洗浄除去する洗浄時間、および固定化
したターゲットの有効濃度のうち少なくとも何れかのス
クリーニング条件を設定することを特徴としている。
【0040】上記リガンド生産システムにおいては、ス
クリーニング工程に用いる上記数式モデルとして、次式
【0041】
【数7】
【0042】(ただし、Ffは回収率であり、kon(app)
リガンドの上記スクリーニング工程における見かけの会
合速度定数であり、koffはリガンドの解離速度定数であ
り、tbは結合時間であり、twは洗浄時間であり、Ageff
は固定化したターゲットの有効濃度である。)が用いら
れることが非常に好ましい。
【0043】また、上記リガンド生産システムにおいて
は、上記リガンドとして抗体を生産するようになってお
り、さらに、上記高速スクリーニング手段には、少なく
ともELISAを実施する手段が含まれており、上記制
御手段は、高速スクリーニング手段に、吸光度と抗体濃
度とが比例する範囲内で抗原と抗体とを混合して一定時
間反応させた後、遊離の抗体をELISAで定量させる
とともに、抗体の結合率の時間変化を表す理論式を用い
て真の会合速度定数を求めることが好ましく、リガンド
のELISAによる評価における上記理論式として、次
【0044】
【数8】
【0045】(ただし、Ftは結合率であり、konはリガ
ンドの真の会合速度定数であり、KDは解離定数であり、
Agtotはターゲットの全濃度であり、tは時間である。)
が用いられることが非常に好ましい。
【0046】上記構成によれば、数式モデルや理論式を
利用して、バイオパニング処理や会合速度定数測定段階
を自動的に実施することができる。しかも記憶手段等を
備えることで、得られた結果をフィードバックして、次
のラウンドの条件設定に利用したり、記憶手段に記憶さ
せてスクリーニング条件のデータベースとしたりするこ
とが可能となる。それゆえ、効率の良いスクリーニング
を高速かつ多数回実施することができるので、より実用
性の高いリガンドを極めて効率良く生産することができ
る。
【0047】
【発明の実施の形態】〔実施の形態1〕本発明における
実施の一形態について図1ないし図9に基づいて説明す
れば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定され
るものではない。
【0048】本発明にかかるリガンドの生産方法は、リ
ガンドライブラリーから、アフィニティ選択によって、
特定のターゲットと特異的に結合する特定のリガンドを
スクリーニングするスクリーニング工程を含み、該スク
リーニング工程には、少なくとも、リガンドの見かけの
会合速度定数を用いた数式モデルに基づいて、上記特定
のリガンドをスクリーニングするスクリーニング条件を
設定する条件設定段階が含まれる。
【0049】本発明における上記リガンドとは、特定の
標的物質(ターゲット)と特異的に結合する物質を指
す。上記ターゲットとしては、一般に各種タンパク質が
挙げられ、上記リガンドの代表的なものとしては、例え
ば、抗体が挙げられる。他に、リガンドとしては、酵素
の阻害剤やエフェクター、受容体の遮断薬等も挙げられ
るが特に限定されるものではない。上記リガンドを物質
として見れば、ペプチド、抗体、cDNAから翻訳され
たタンパク質等が挙げられるが、これも特に限定される
ものではない。本実施の形態では、上記リガンドとして
抗体を例に挙げて説明する。
【0050】抗体は高い親和性と高い特異性でその抗原
(ターゲット)を認識することから、物質(抗原)の検
出や定量、疾病の治療などに応用されている。例えば、
ウエスタンブロッティングや免疫染色法では、抗体を酵
素あるいは蛍光物質で標識することによって抗原を可視
化することができる。また、ELISA(enzyme linke
d immunosorbent assay)やRIA(radio immunoassa
y)では抗原を定量することができる。さらに、臨床に
おいては、感染性の生物や癌細胞を中和する薬剤として
用いることができる。
【0051】しかしながら、上記の用途では、抗原の検
出や定量等では、迅速なアッセイが要求されることが多
い。例えば、心筋梗塞のマーカータンパク質であるクレ
アチンホスフェートキナーゼ(creatine phosphate kin
ase)の血中濃度を抗体で定量する場合、そのアッセイ
は分秒を争う迅速性が要求される。また、臨床検査にお
いても、抗原と抗体との反応に要する時間を短くするこ
とができれば、検査結果を迅速に知ることができ、その
結果、高価な臨床検査機器の稼働率を上げることが可能
となる。
【0052】さらに、疾病の治療薬剤においては、投与
した抗体は体内で分解を受けるので、分解する前に十分
に中和効果を得るには、抗体が迅速に抗原(癌細胞や感
染性生物)に結合することが要求される。
【0053】そこで、本発明では、後述する数式モデル
を用いて、スクリーニング工程におけるスクリーニング
条件を適切に設定する。これによって、会合速度定数が
高く、抗原に対する会合速度の速い抗体を効率的にスク
リーニングし、実用レベルの抗体を生産する。
【0054】また、本発明における上記リガンドライブ
ラリーとは、各種の組み合わせとなるように生産された
上記リガンドの混合物(ライブラリー)を指す。上記リ
ガンドライブラリーの生産手法については、特に限定さ
れるものではないが、コンビナトリアル・ケミストリー
やコンビナトリアル・バイオエンジニアリングを用いて
得られるコンビナトリアル・ライブラリーが好ましく用
いられる。
【0055】上記コンビナトリアル・ライブラリーのよ
り具体的な例としては、例えば、ファージディスプレイ
法により得られるファージライブラリーを挙げることが
できる。ファージディスプレイ法では、ファージの遺伝
子を操作して、ファージのコートタンパク質の上にラン
ダムな配列を有するペプチドを、コートタンパク質との
融合タンパク質として発現させる。発現できるペプチド
は1ファージ当たり1種類であるが、1012個/ml以
上の濃度でファージを調製することが可能であるため、
さまざまな種類のペプチドを発現したファージ集団をリ
ガンドライブラリーとして用いることができる。
【0056】また、抗体を発現するファージライブラリ
ーには、リンパ球や脾臓などの抗体遺伝子群から構築し
たユニバーサル・ライブラリー(特定の抗原に特化しな
いライブラリー)と、ある抗原に結合する抗体の遺伝子
にランダム変異を導入したカスタマイズド・ライブラリ
ー(特定の抗原に特化したライブラリー)がある。本発
明においては、何れのファージライブラリーを用いても
よい。なお、ユニバーサル・ライブラリーを一次ライブ
ラリーとすれば、カスタマイズド・ライブラリーは二次
ライブラリーと表現することができる。
【0057】換言すれば、本発明にかかるリガンドの生
産方法では、上記リガンドライブラリーとして、ファー
ジディスプレイ法により作製されたファージライブラリ
ーを用いることができるし、特定のリガンドに対してラ
ンダムに変異を導入した2次ライブラリーを用いること
もできる。
【0058】また、本発明で用いられるリガンドライブ
ラリーの多様性は特に限定されるものではないが、好ま
しくは、105〜106通りを超える多様性を有していれ
ば良い。抗体を発現するファージライブラリーの場合、
一般に、105〜106通りのリガンドライブラリーには
少なくとも一つ、ある抗原に対する抗体が含まれている
と見積もることができる。それゆえ、上記ファージライ
ブラリーにこの見積もりが適用できるとすれば、例えば
109通りの多様性を有するリガンドライブラリーの場
合、ある抗原に結合する抗体は103〜104種類含まれ
ていることになり、この中には会合速度定数konが高い
抗体が含まれていると期待できる。
【0059】なお、上記コンビナトリアル・バイオエン
ジニアリングにより得られるコンビナトリアル・ライブ
ラリーとしては、他に酵母ディスプレイライブラリー等
も挙げられるが、本発明で用いられるリガンドライブラ
リーとしては、これらに特に限定されるものではない。
【0060】また、上記の例や、本実施の形態で詳細に
説明する例では、リガンドおよびターゲットは何れもタ
ンパク質やペプチド等の生体関連物質であるが、本発明
で用いられるリガンドライブラリーはこれに限定される
ものではなく、前述したように、特定の標的物質(ター
ゲット)と特異的に結合する物質であれば、生体関連以
外の物質のライブラリーでも構わない。
【0061】例えば、コンビナトリアル・ケミストリー
によって、特定の化学反応を触媒する金属錯体触媒のコ
ンビナトリアル・ライブラリーを作製し、これを利用し
て、化学反応の対象となる物質(ターゲット)との会合
速度が速い金属錯体触媒をスクリーニングする方法に利
用してもよい。
【0062】上記ファージディスプレイ法は、コンビナ
トリアル・バイオケミストリーの中でも特に有用性が高
く注目されている。それゆえ、本実施の形態でも、この
ファージディスプレイ法により抗体ライブラリーを作製
して、特定のターゲットを認識する特定の抗体をスクリ
ーニングする例を挙げて、本発明を詳細に説明する。
【0063】本発明にかかるファージディスプレイ法に
は、図1に示すように、少なくとも、ファージライブラ
リーの作製工程(ステップ1、以下ステップをSと略
す)、ファージライブラリーのスクリーニング工程(S
2)、およびスクリーニング結果の解析工程(S3)が
含まれ、さらに、上記スクリーニング工程には、後述す
るように結合段階、洗浄段階、溶出段階等が含まれ、さ
らに、条件設定段階が含まれる。なお、本発明にかかる
リガンドの生産方法はこれに限定されるものではなく、
他の工程が含まれていてもよいし、スクリーニング工程
以外の工程は無くてもよい。
【0064】まず、S1のファージライブラリーの作製
工程は、上述したように、ファージの遺伝子を操作し
て、ファージのコートタンパク質の上にランダムな配列
を有するペプチドを、コートタンパク質との融合タンパ
ク質として発現させる工程であり、本発明では、従来公
知の各種方法を用いることができる。
【0065】例えば、ヒトの抗体ライブラリーをファー
ジライブラリーで作製する場合には、ヒトの血液からリ
ンパ球(群)を採取し、これらから全mRNAを抽出し
て、逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、抗体遺伝子
に特異的なプライマーを用いてPCRを行うことで抗体
遺伝子群が調製される。この抗体遺伝子群をファージの
コートタンパク質遺伝子に挿入することで、ヒト抗体の
ファージライブラリーが得られる。
【0066】得られたファージライブラリーは、緩衝液
(バッファー)に溶解させたファージライブラリー溶液
として用いられる。この緩衝液の具体的な組成や使用量
等も特に限定されるものではなく、従来公知の組成や使
用量であればよい。また、得られるリガンドの用途と同
じイオン強度やpHを有する緩衝液を用いれば、その用
途において高い会合速度定数を有するリガンドをスクリ
ーニングすることが可能である。さらに、上記緩衝液に
は、各種の界面活性剤、有機溶剤、変性剤等、リガンド
の用途において望ましい添加物が含まれていてもよい。
【0067】なお、以下の説明では、説明の便宜上、抗
体を発現(ディスプレイ)するファージをファージ抗体
と称する。また、スクリーニングにより単離または選択
されたファージクローンについてもファージ抗体と称す
る。
【0068】次に、S2のスクリーニング工程は、得ら
れたファージライブラリーから、特定の抗原を特異的に
認識する特定のファージ抗体をスクリーニングする工程
であるが、本発明では、特に、バイオパニングによりフ
ァージ抗体をスクリーニングする場合に、最終的な回収
率、すなわちバイオパニングに供するファージ抗体の数
に対する洗浄段階後に担体表面に残存しているファージ
抗体の数の割合を示す数式モデルにおいて、調節可能な
パラメーターである、結合時間、洗浄時間、および有効
抗原濃度を好ましい値に設定する条件設定段階を含んで
いる。
【0069】上記バイオパニングとは、ファージライブ
ラリー等のコンビナトリアル・ライブラリーからのスク
リーニングを指し、具体的には、ターゲット(抗原)と
なるタンパク質等を所定の担体に結合させ、これにコン
ビナトリアル・ライブラリーの溶液を加えて、所望のリ
ガンド(抗体)をターゲットに結合させ、ターゲットに
結合しないリガンドを除去して、残ったリガンドをター
ゲットから外して増幅もしくは固定するスクリーニング
工程の一連の各段階を指す。
【0070】ここで、本発明における上記スクリーニン
グ工程では、図1および図2に示すように、プロセス1
(以下、プロセスをPと略す)として、数式モデルによ
り、スクリーニング条件を好適化する条件設定段階を、
P2として、抗原(ターゲット)を担体に固定化するタ
ーゲットの固定化段階を、P3として、固定化した抗原
とファージライブラリーとを接触させて結合を試みる結
合段階を、P4として、結合段階後に抗原に結合しなか
ったファージ抗体を洗浄除去する洗浄段階を、P5とし
て、抗原に結合したファージ抗体を溶出する溶出段階
を、P6として、溶出したファージ抗体の溶液を宿主大
腸菌に感染させ、ファージ抗体を増殖させるファージ増
殖段階を、P7として、得られた抗体の会合速度定数を
測定する会合速度定数測定段階を含んでいる。
【0071】上記各段階のうち、会合速度の速い抗体を
得るために特に重要な段階は、固定化段階、結合段階、
および洗浄段階である。また、本実施の形態では、説明
の便宜上、上記結合段階、洗浄段階、溶出段階、および
増殖段階までの一連の操作をまとめてバイオパニング処
理と表現する。
【0072】以下、上記各段階について詳細に説明す
る。まず、P1の上記条件設定段階は、得たい抗体(目
的となる特定のリガンド)における見かけの会合速度定
数と、解離速度定数もしくは解離定数とを仮定し、これ
ら定数を含み、ファージ抗体の回収率を表す数式モデル
を用いて、ファージライブラリーを固定化した適切な抗
原と接触させる結合時間、抗原に結合しなかったファー
ジ抗体を洗浄除去する洗浄時間、および固定化した抗原
の有効濃度という調節可能な3つの条件のうち少なくと
も何れかの条件を設定する。この段階の詳細について
は、数式モデルとともに後述する。
【0073】P2の上記固定化段階は、抗原を適切に担
体に固定化するようになっていれば良く、その具体的な
手法等については特に限定されるものではない。一般的
には、従来公知の手法を利用して、各種担体に抗原を固
定化すればよい。
【0074】より具体的には、抗原を担体表面に固定す
るには、疎水吸着等により抗原直接に固定する手法(直
接固定法)や、リンカーを介した半共有結合により間接
的に固定する手法(間接的固定法)等が挙げられる。中
でも、抗原をビオチンによって修飾し、これを、ストレ
プトアビジンを共有結合させた担体に半共有結合的に固
定する方法がより好ましい。さらに、ビオチンと抗原分
子とはジスルフィド結合を含むリンカーを介して連結す
ることが好ましく、この場合、後述するように、溶出処
理は終濃度として0.1M程度のジチオスレイトールを
含む緩衝液等を用いて簡便かつ確実に行うことができ
る。
【0075】図3(a)に示すように、直接固定法で
は、抗原のエピトープが様々な方向に向いた状態で固定
され、状況によっては、抗原分子同士が重なって固定さ
れる(立体障害)こともある。さらに、抗原そのものが
変性したり(図中楕円で示す)、担体表面から抗原が脱
着したりすることもある。そのため、エピトープが担体
内部から見て外側に向くように固定された抗原、すなわ
ち、抗体との結合に有効な状態で固定化された抗原(図
中太線で示す)の個数(有効抗原濃度)は低下してしま
う。
【0076】これに対して、図3(b)に示すように、
例えばビオチン−アビジン反応を利用した間接固定法で
は、有効抗原濃度の低下を回避することができる。具体
的には、まず、抗原をビオチンで化学修飾するととも
に、担体表面にストレプトアビジンを共有結合させてお
く。その後、ビオチンで修飾された抗原と担体とを反応
させ、ビオチン−アビジンの結合によるリンカーを介し
て担体表面に抗原を固定化する。
【0077】上記間接固定法では、抗原のエピトープを
抗体との結合に有効となる方向に向け易いため、直接固
定法よりも有効抗原濃度を向上できる。しかも、立体障
害の発生を回避できる、抗原の変性を大幅に低下でき
る、ビオチンで修飾した抗原の大部分を担体表面に固定
化できる、ビオチン−アビジンの結合は非常に親和性が
高く事実上共有結合と見なせるため、脱着も低減できる
等、直接固定法のように抗原を無駄に固定化することが
大幅に低減され、貴重な抗原を有効に使用することがで
きる。
【0078】また、ビオチンによる抗原の化学修飾が容
易であることや、ストレプトアビジンを共有結合させた
磁気ビーズ等の担体が市販されていること等から、固定
化段階の煩雑化を回避することもできる。
【0079】上記担体としては、抗原を架橋反応等によ
って固定化した状態で維持できるものであれば、その形
状や材質については特に限定されるものではない。例え
ば、形状としては、チューブ状、ディッシュ状、ビーズ
状、あるいはELISAプレート等を用いることができ
る。また、材質としては、ポリスチレン製のものを好適
に用いることができるが特に限定されるものではない。
【0080】本発明では、特に、各種ビーズ状の担体を
用いることが好ましく、磁気成分を含む磁気ビーズを用
いることがより好ましい。磁気ビーズを用いた場合、磁
石を用いて容易に磁気ビーズを集めることができるた
め、後段の結合段階、洗浄段階、溶出段階におけるハン
ドリング性を向上させる等の利点が得られる。
【0081】上記固定化段階における詳細な条件は、本
発明では、後述するように、数式モデルにより好適化さ
れる。具体的には、有効抗原濃度(固定化したターゲッ
トの有効濃度)が、後述するように数式モデルを用いて
決定した好適な濃度となるように、抗原(ターゲット)
を担体に固定する。
【0082】なお、上記固定段階の後に、ブロッキング
処理を施すと、ファージ抗体の担体への非特異的な結合
を軽減できるため好ましい。
【0083】例えば、ビオチン−アビジン反応による間
接固定法を用いた場合、担体の表面の大部分にストレプ
トアビジンを共有結合させ、さらにビオチン−アビジン
反応により抗原を固定化する。そのため、担体の表面
は、ビオチン−アビジンのリンカーを介して固定化され
た抗原か、抗原が固定化されないストレプトアビジンの
みが存在していることになる。
【0084】しかしながら、実際には、図4(a)に示
すように、固定化された抗原もストレプトアビジンも存
在せず、担体表面が露出している部分も存在する。この
ような部分では、抗体が非特異的に吸着し易くなるの
で、抗体の回収率に大きな影響を及ぼす。そこで、図4
(b)に示すように、露出している担体表面をブロッキ
ングタンパク質でブロックする。これによって、担体表
面の露出を回避できるので、抗体の非特異的な吸着を回
避することができる。
【0085】上記ブロッキングタンパク質としては、特
に限定されるものではなく、市販の各種ブロッキングタ
ンパク質を好適に用いることができる。
【0086】P3の上記結合段階は、固定化した抗原と
ファージライブラリーとを接触させて結合を試みるよう
になっていれば良く、その具体的な手法は特に限定され
るものではない。一般的には、ファージライブラリー溶
液と抗原が固定化された担体とを混合したり、担体をフ
ァージライブラリー溶液に浸漬させたりして、一定時間
所定の温度でインキュベートする。このインキュベート
時間中に、抗原に親和性を有する抗体が発現しているフ
ァージ抗体は担体表面の抗原に結合するので、一定時間
経過後、担体とファージライブラリー溶液とを分離す
る。
【0087】例えば、担体として上記ポリスチレン製の
磁気ビーズを用いた場合、磁気ビーズを磁石で集めるこ
とで、容易にファージライブラリー溶液から分離させる
ことができる。
【0088】上記結合段階における詳細な条件は、本発
明では、後述するように、数式モデルにより好適化され
る。具体的には、後述するように数式モデルを用いて決
定した好適な時間、ファージライブラリーを抗原と接触
させる(インキュベートする)。
【0089】P4の上記洗浄段階は、結合段階後に抗原
に結合しなかったファージ抗体を洗浄除去するようにな
っていれば良く、その具体的な手法は特に限定されるも
のではない。一般的には、ファージライブラリー溶液か
ら分離した担体を、適切な洗浄液で洗浄する。
【0090】上記洗浄液としては、従来公知の緩衝液
(バッファー)を好適に用いることができる。この緩衝
液の具体的な組成や使用量等も特に限定されるものでは
なく、従来公知の組成や使用量であればよい。
【0091】上記洗浄段階における詳細な条件は、本発
明では、後述するように、数式モデルにより好適化され
る。具体的には、後述するように数式モデルを用いて決
定した好適な時間、ファージ抗体が結合した担体を洗浄
する。
【0092】ここで、この洗浄段階では、抗体表面上の
抗原には結合していないファージ抗体(以下、説明の便
宜上、非特異的ファージ抗体と称する)を除去すること
のみを目的とするのではなく、抗原に結合しているファ
ージ抗体、すなわち抗原を特異的に認識するファージ抗
体(以下、説明の便宜上、特異的ファージ抗体と称す
る)のうち、会合速度定数が低いものを除去し、会合速
度定数が高いものをできるだけ多く残すことも目的とし
ている。
【0093】換言すれば、洗浄段階には、抗原に弱く結
合する特異的ファージ抗体を除去するという他の目的が
ある。上記弱く結合する特異的ファージ抗体とは、抗原
から速やかに解離する抗体、すなわち、解離速度定数の
高い抗体を発現する特異的ファージである。このような
弱く結合する特異的ファージ抗体を除去することで、会
合速度定数が高い特異的ファージ抗体を効率的に残すこ
とが可能になる。
【0094】非特異的ファージ抗体のほとんどはファー
ジライブラリー溶液中に存在するため、結合段階にてフ
ァージライブラリー溶液を分離すれば大部分は除去でき
る。また、洗浄液の交換による希釈効果によって、残存
する非特異的ファージ抗体は除去される。しかしなが
ら、一部の非特異的ファージ抗体は担体に非特異的に吸
着しているため、洗浄段階で洗浄を繰り返してもその数
はなかなか減少しない。しかも、過剰に洗浄すると、特
異的ファージ抗体のうち、会合速度定数が高いものが減
少してしまうおそれもある。
【0095】それゆえ、会合速度定数が高い特異的ファ
ージ抗体を効率的に残すためには、この洗浄段階におけ
る洗浄時間や、固定化段階における担体に固定化したタ
ーゲットの有効濃度や、結合段階における結合時間等を
適切に設定することが重要となる。したがって、本発明
では、後述する数式モデルを用いて、これらスクリーニ
ング条件を適切に設定する。
【0096】P5の上記溶出段階は、抗原に結合した特
異的ファージ抗体を溶出するようになっていれば良く、
その具体的な手法は特に限定されるものではない。一般
的には、酸性またはアルカリ性の溶出液を担体に接触さ
せることで、直接的には抗原と抗体とのアミノ酸側鎖の
解離状態の変化によって、間接的には、抗原および抗体
の変性によって、抗原抗体複合体の解離が生じ、特異的
ファージ抗体が溶出される。
【0097】上記溶出液としては、この分野で従来公知
の酸性溶液やアルカリ性溶液を好適に用いることができ
る。この緩衝液の具体的な組成やpH、使用量等も特に
限定されるものではなく、従来公知の組成やpH、使用
量であればよい。
【0098】ただし、抗体が結合したタンパク質(抗
原)は遊離の状態に比べて一般に変性しにくくなること
もあり、変性による間接的な効果がほとんどない場合が
ある。この場合、上記直接的な効果による解離は拮抗溶
出と同様に非常に遅くなり、特異的ファージ抗体を回収
し難くなる。そこで、ジスルフィド結合(S−S結合)
を介して抗原を担体に固定し、これを還元切断して強制
的に特異的ファージ抗体を溶出してもよい。
【0099】具体的には、前述したように、例えば、図
5に示すように、ビオチンと抗原分子とをジスルフィド
結合を含むリンカーを介して連結することで、抗原を担
体に固定する。その後、終濃度として0.1M程度のジ
チオスレイトール(DTT)を含む緩衝液等を用いて、
ジスルフィド結合を還元切断して強制的に特異的ファー
ジ抗体を溶出する。
【0100】P6の上記ファージ増殖段階は、溶出した
ファージ溶液を宿主大腸菌に感染させ、ファージ抗体を
増殖させるようになっていれば良く、その具体的な手法
は特に限定されるものではない。一般的には、溶出段階
で得られた、特異的ファージ抗体を含む酸性またはアル
カリ性の溶出液を中和し、これを宿主大腸菌の培養液に
加えて、特異的ファージを大腸菌に感染させる。これに
よって、宿主のタンパク質合成系によってファージのコ
ートタンパク質が合成され、大量のファージが培養液中
に放出される。
【0101】上記特異的ファージ抗体を大腸菌へ感染さ
せる手法等については、この分野で従来公知の条件や試
薬等を好適に用いることができ、特に限定されるもので
はない。
【0102】上記結合段階から上記ファージ増殖段階ま
での一連のバイオパニング処理を1ラウンドとすれば、
上記バイオパニング処理は、通常、2日で1ラウンド実
施できる。それゆえ、1週間以上あれば複数回のバイオ
パニング処理を実施することが可能である。
【0103】そこで、例えば、第1回目のラウンドでフ
ァージライブラリーから適当な特異的ファージ抗体を複
数スクリーニングし、第2回目のラウンド以降で、第1
回目のラウンドで得られた上記特異的ファージ抗体群を
新たなファージライブラリーとして用い、これからより
好ましい特異的ファージ抗体を選択することができる。
この場合、第1回目のラウンドで増殖させた特異的ファ
ージ抗体を用いて、結合段階以降の一連の段階(プロセ
ス)を繰り返す。
【0104】また、1ラウンド以上のバイオパニング処
理で一次選択された特異的ファージ抗体の遺伝子に対し
て、ランダムで変異を導入してカスタマイズド・ライブ
ラリーを作製し、それ以降のラウンドで、より好ましい
変異型の特異的ファージ抗体を選択することもできる。
この場合、変異を導入する特異的ファージ抗体(一次選
択されたファージ抗体)は、1つのファージクローンで
も複数のファージクローンでもよい。なお、上記変異の
導入の仕方についても、従来公知の手法を用いることが
でき、特に限定されるものではない。
【0105】本発明では、上記スクリーニング工程の
後、各種解析工程を実施すればよい。例えば、得られた
特異的ファージ抗体から従来公知の手法でDNA配列を
読み取れば、抗体のアミノ酸配列を得ることができる。
また、従来公知の手法で、単離した抗体遺伝子を適当な
発現ベクターに組み換えれば、その抗体を大量に生産す
ることができる。
【0106】なお、本発明では、後述するように、P7
の会合速度定数測定段階にて、得られた特異的ファージ
抗体の会合速度定数を測定することが好ましい。この会
合速度定数測定段階は、図1に示すように、上記スクリ
ーニング工程の一段階として含まれていてもよいし、解
析工程の一段階として含まれていてもよい。
【0107】本発明にかかるリガンドの生産方法では、
上記バイオパニングによるスクリーニング工程にて、さ
らに、数式モデルにより、上記各段階のスクリーニング
条件を好適化する条件設定段階を実施することで、会合
速度定数が高く実用性の高い抗体を効率良くスクリーニ
ングする。
【0108】より具体的には、P1の上記条件設定段階
では、得たい抗体(目的となる特定のリガンド)におけ
る見かけの会合速度定数と、解離速度定数もしくは解離
定数とを仮定し、これら定数を含み、ファージ抗体の回
収率を表す数式モデルを用いて、ファージライブラリー
を固定化した適切な抗原と接触させる結合時間、抗原に
結合しなかったファージ抗体を洗浄除去する洗浄時間、
および固定化した抗原の有効濃度という調節可能な3つ
の条件のうち少なくとも何れかの条件を設定する。
【0109】本実施の形態では、上記数式モデルとし
て、結合段階および洗浄段階におけるスクリーニング条
件に注目して決定される次式(I)が用いられる。な
お、kon( app)は抗体の見かけの会合速度定数であり、k
offは抗体の解離速度定数であり、tbは結合時間であ
り、twは洗浄時間であり、Ageffは有効抗原濃度であ
る。また、上記見かけの会合速度定数kon(app)に対する
真の会合速度定数(単に会合速度定数と記載する場合も
ある)はkonと表記する。
【0110】
【数9】
【0111】上記式(I)の数式モデルの決定につい
て、上記スクリーニング工程における抗体抗原の結合時
の動力学的な挙動とともに説明する。
【0112】ある抗体がその抗原と溶液中で反応する
時、抗原抗体複合体の濃度の変化速度は、次式(1)で
与えられる。ただし、AbAgは抗原抗体複合体の濃度であ
り、Ab freeは遊離した抗体の濃度(遊離抗体濃度)であ
り、Agfreeは遊離した抗原の濃度(遊離抗原濃度)であ
る。
【0113】
【数10】
【0114】換言すれば、ある抗原を認識するファージ
抗体がファージライブラリー中に存在し、そのファージ
抗体と抗原とが遊離状態でファージライブラリー溶液中
に存在する時、抗原抗体複合体濃度の変化は、上記式
(1)によって表すことができる。
【0115】ここで、上記反応が平衡に達すると、dAbA
g/dt=0であるから、上記式(1)は、次式(2)に示
すように変形することができる。ただし、KDは解離定数
である。
【0116】
【数11】
【0117】上記解離定数KDは、図6に示すような平衡
状態において、ファージ抗体の半数に抗原抗体複合体を
形成させるのに必用な抗原濃度を意味し(Abfree=AbA
g)、解離速度定数koffおよび会合速度定数konの比で表
される。ファージ抗体によって抗原を検出あるいは定量
する場合、反応が平衡に達しているなら、そのアッセイ
の感度は解離定数KDによって決定される。
【0118】ここで、前述したように、実用レベルで
は、短い時間で抗原との複合体を形成できる抗体が要求
されている。そのため、実用レベルの抗体の優劣は、平
衡状態を前提とした解離定数KDにより静的に評価するの
ではなく、動力学的なパラメーターである会合速度定数
konおよび解離速度定数koffを用いて評価しなければな
らない。
【0119】従来では、バイオパニング処理を、数式モ
デルを用いて解析することそのものがあまりなされてお
らず、しかも、結合段階において平衡が成立していると
仮定して数式モデルを決定し、これを用いて解析してい
ることがほとんどであった。そのため、動力学的な評価
は今までほとんどなされていない。
【0120】上記動力学的な評価と、この評価に基づく
シミュレーション上での注意点とについてより具体的に
説明する。ある濃度の抗体を用いて抗原のアッセイを行
う場合、会合反応の速度(上記式(1)の右辺第一項)
は会合速度定数によって決まる。しかしながら、図7に
示すように、ある抗原を認識する抗体の解離定数KD(縦
軸)と会合速度係数kon(横軸)との間には、弱い相関
しかないことが知られている(J. Immunol., 162, pp60
40-6045 (1999) 参照)。
【0121】すなわち、ある抗体が低い解離定数KDを有
するからといって、その抗体の会合速度が速い、すなわ
ち会合速度定数konが高いとは限らない。
【0122】例えば、図8に示すように、同じ10-9
の解離定数KDを有する3つの抗体(実線)における結合
率の経時変化について比較する。なお、図8では、縦軸
が結合率Fであり、横軸が時間tb(単位分)である。図
8に示すように、会合速度定数kon=106-1-1 の抗
体が、平衡時の90%の結合率Fを達成するのに要する
時間は3.5分であるのに対して、会合速度定数kon=1
4-1s-1の抗体は350分を要する(図8では時間は
60分まで)。一桁低い10-10Mの解離定数K Dを持つ
抗体であっても、会合速度定数konの値が同じ105-1
-1であれば、結合率の経時変化はほぼ同じになる。す
なわち、反応時間が限られる実用用途において、会合速
度定数konは解離定数KDよりも重要なパラメーターとな
る。
【0123】さらに、上記動力学的な評価にて会合速度
の速い抗体を確実に得るためには、真の会合速度定数k
onを用いるよりも、見かけの会合速度定数kon(app)を用
いることが好ましい。
【0124】一般に、ターゲットとリガンドとがともに
溶液中に存在する場合、これらが会合する速度は、何れ
か小さい方の分子の拡散速度に主に支配されることが知
られている。例えば、平均的なサイズのタンパク質性抗
原と抗体との間における会合速度定数konは、104〜1
6-1-1の範囲内にある。これに対してバイオパニ
ング処理では、ターゲットは担体表面に固定され、リガ
ンド(抗体)は巨大なファージ分子にディスプレイ(発
現)されている。したがって、見かけの会合速度は、溶
液中の真の会合速度に比べて小さくなる。
【0125】これを会合速度定数の比較で見た場合、抗
体の見かけの会合速度定数kon(app)は、真の会合速度定
数konの約1/300程度に低下することが、具体的な
実験による知見として得られている。したがって、動力
学的な評価に基づくシミュレーション上での一つの注意
点として、見かけの会合速度定数kon(app)を用いること
が挙げられる。
【0126】また、特に結合時間を求める場合、バイオ
パニング処理全体が終了した後の状態を考慮しなければ
ならない。
【0127】例えば、ある条件でバイオパニング処理を
行ったときにおいて、オリジナルのファージ抗体の回収
率と、オリジナルのファージ抗体よりも会合速度定数k
onの高い望ましいファージ抗体と比、すなわち濃縮率を
定義して、これを利用して結合時間を求めることが考え
られる。しかしながら、この手法では、結合段階の後の
段階、特に、洗浄段階の影響を考慮しないことになる。
それゆえ、濃縮率に基づいて得られる結合時間は、結合
段階直後において好適な値であって、バイオパニング処
理全体が終了した後に好適な値となっていない。
【0128】さらに、用いられるファージライブラリー
中では、あらゆる会合速度定数konを有するファージ抗
体が全て同じように含まれているわけではない。それゆ
え、ファージ抗体の分布を考慮することも重要となる。
一般に、会合速度定数konの異なるファージ抗体の分布
は、2項分布にしたがうと見なすことができる。
【0129】したがって、動力学的な評価に基づくシミ
ュレーション上での他の注意点として、濃縮率を用いず
に、会合速度定数konの異なるファージ抗体の分布が2
項分布にしたがうと見なして、回収される特異的ファー
ジ抗体に占める、好ましい会合速度定数konを有するフ
ァージ抗体の割合が最大となるようにシミュレーション
条件を仮定して(後述する仮定条件(1)・(2)参
照)、スクリーニング条件を設定することが挙げられ
る。
【0130】ここで、バイオパニング処理では、上記固
定化段階にて抗原を担体に固定化するが、このとき用い
た全抗原濃度Agtotの代わりに有効抗原濃度Ageffを用い
ることが好ましい。
【0131】具体的には、抗原が抗原溶液として存在す
る場合、抗原分子のほとんど全ては抗体の結合に有効な
状態となるが、バイオパニング処理では、抗原を担体に
固定化する。担体に固定化された抗原は、エピトープを
液相に露出した分子のみが有効である(図3(a)参
照)。固定化された全抗原分子に占める抗体の結合に有
効な抗原分子の割合は意外に少ない。例えば、抗体をE
LISAプレートに疎水吸着させた場合には、該抗体の
抗原認識部位は、全体の1割以下しか機能しないことが
知られている(J. Immunol. Methods, 150, pp77-90 (1
992) 参照)。
【0132】そこで、上記有効抗原濃度Ageffを用いた
場合、特定のファージ抗体と抗原との複合体の変化は、
上記式(1)によって表すことができる。
【0133】また、バイオパニング処理では、上記有効
抗原濃度Ageffは、特定のファージ抗体の濃度よりも十
分に大きく、遊離した抗原濃度Agfreeは有効抗原濃度Ag
effに近似することができる。そこで、上記式(1)を
時間tで積分すれば、次式(3)が成立する。
【0134】
【数12】
【0135】したがって、ファージ抗体の回収率、すな
わち全抗体濃度Abtotに対する抗原抗体複合体濃度AgAb
の比は、次式(4)で与えられる。ただし、tbは抗原と
ファージライブラリーとのインキュベート時間、すなわ
ち結合段階における結合時間である。
【0136】
【数13】
【0137】ここで、洗浄段階では、洗浄液にはファー
ジ抗体は含まれない。それゆえ、上記式(1)における
遊離抗体濃度Abfree=0となり、次式(5)が成立す
る。
【0138】
【数14】
【0139】上記式(5)を時間tについて積分する
と、次式(6)が成立する。
【0140】
【数15】
【0141】ここで、上述した動力学的な評価に基づく
シミュレーション上での注意点を考慮すれば、真の会合
速度定数konの代わりに見かけの会合速度定数kon(app)
を用いることが好ましいため、ファージ抗体の最終的な
回収率Ffは、次に示すように、見かけの会合速度定数k
on(app)を用いた前記式(I)で表されることになる。
ただし、次式では、Nは回収できた特異的ファージ抗体
の個数、N0はファージライブラリーに含まれていた特異
的ファージ抗体の個数である。
【0142】
【数16】
【0143】なお、ファージライブラリーに含まれてい
た上記特異的ファージ抗体の個数N0は次式(7)で与え
られる。ただし、Iはバイオパニング処理に用いられる
ファージライブラリー溶液に含まれるファージの総数
(バイオパニング処理へのインプット量)であり、rは
インプットするファージ総数のうち、実際に抗体を発現
しているファージ(ファージ抗体)の割合であり、Dは
ファージライブラリーの多様性(diversity)である。
【0144】
【数17】
【0145】また、上記前記式(2)から明らかなよう
に、解離定数KD=解離速度定数koff/会合速度定数kon
あり、見かけの会合速度定数kon(app)を真の会合速度定
数k onに置き換えることになるので、上記式(I)は、
次式に示すように、解離速度定数koffの代わりに解離定
数KDを用いても記述することができる。
【0146】
【数18】
【0147】次に、本発明にかかるリガンドの生産方法
では、図1に示すように、上記バイオパニング処理によ
るスクリーニング工程か、あるいはその後の解析工程に
て、得られる多数の抗体の会合速度定数konを、ELI
SAを用いて測定する会合速度定数測定段階を含んでい
る。本発明で実施される会合速度定数測定段階は本発明
者らが以前に開発したもの(J. Biosci. Bioeng., 92,
pp330-336 (2001) 参照)であり、本発明にかかるリガ
ンドの生産方法と組み合わせることで、より一層優れた
作用・効果を発揮し得るものである。
【0148】上記会合速度定数測定段階では、まず、測
定対象となる抗体の解離定数KDを、従来公知の各種方法
(例えば、Mol. Immunol., 24, pp1055-1060 (1987) に
開示されている方法)で測定する。次に、吸光度と抗体
濃度とが比例する範囲となるように、抗体を含む測定試
料を希釈する。次に、適当な全抗原濃度Agtotを決定す
る。次に、時間tにおける抗原と抗体との結合率FtをE
LISAで測定する。その後、上記結合率Ftの時間変化
を表す理論式を導出し、この理論式を用いて、非線形最
少二乗法で会合速度定数konを求める。
【0149】なお、上記会合速度定数測定段階で用いら
れる吸光度の測定やELISAの条件等については特に
限定されるものではなく、この分野で従来公知の条件を
適宜用いることができる。
【0150】本実施の形態では、抗原に対する抗体の結
合率Ftの時間変化を表す上記理論式として次式(II)が
用いられる。なお、次式(II)におけるkonはリガンド
の真の会合速度定数であり、見かけの会合速度定数k
on(app)ではない。
【0151】
【数19】
【0152】上記式(II)の理論式は、次のようにして
導き出される。まず、前記式(1)を時間tで積分する
と、全抗原濃度Agtotは全抗体濃度Abtotよりも十分大き
い値であるため、遊離抗原濃度Agfreeは全抗原濃度Ag
totとほぼ等しいと見なせるので、次式(9)が成立す
る。
【0153】
【数20】
【0154】上記式(9)を全抗体濃度Abtotで割る
と、前記式(4)から明らかなように、Ab×Ag/Abtot
が抗体の結合率Ftとなるので、次式に示すように、上記
式(II)が導き出される。なお、上記前記式(2)から
明らかなように、解離定数KD=解離速度定数koff/会合
速度定数konであるから、前記式(I)と同様、次式(I
I)も、解離速度定数の代わりに解離定数を用いても記
述することができる。
【0155】
【数21】
【0156】従来では、抗体の解離定数KD、解離速度定
数koff、会合速度定数konは、主に表面プラズモン共鳴
法(SPR法)や蛍光偏光法(FP法)等によって測定
されていた。しかしながら、これら従来の測定法では、
何れも精製された抗体が必要であり、しかも抗原や抗体
の固定化または修飾が必要となるため、これらの操作が
抗原抗体反応に影響を及ぼす可能性がある。さらに、こ
れら従来の方法は、抗体を発現するファージすなわちフ
ァージ抗体に適用することはできなかった。
【0157】また、従来、J. Immun. Methods, 200, pp
155-159 (1996) に開示されているように、ELISA
を用いた会合速度定数の測定法(説明の便宜上、従来E
LISA法と称する)も報告されている。ELISAは
抗体の精製や固定化または修飾を必要としないため、簡
便かつ高い信頼性で会合速度定数konを測定することが
理論上可能である。しかしながら、上記従来ELISA
法は、抗原抗体反応の初期において解離反応を無視し、
擬一次の会合反応と見なすことで会合速度定数konを測
定している。そのため、解離速度定数koffが10-4-1
以下の抗体、すなわち解離が非常に遅い非常に強い抗体
にしか適用できない。
【0158】これに対して、本発明で実施する会合速度
定数測定段階では、上述したように、吸光度と抗体濃度
とが比例する範囲内で、抗原と抗体とを混合した後、遊
離した抗体をELISAで定量する。つまり、図9に示
すように、混合直後(t=0)で抗原と抗体とが複合体を
形成していない段階の吸光度A0を基準として、結合率の
経時変化、例えば一定時間経過後(t=t1)の吸光度A1
さらに一定時間後の吸光度A2を用いて会合速度定数kon
を求める。なお、図9では縦軸が結合率Fであり、横軸
が時間tである。
【0159】そのため、上記会合速度定数測定段階で
は、SPR法やFP法とは異なり、ELISAの利点、
すなわち抗体の精製や固定化または修飾を必要としない
という利点を有効に活用して会合速度定数konを求める
ことができる。しかも、従来ELISA法とは異なり、
解離の速い抗体についても確実に会合速度定数konを求
めることができる。特に、本発明では、解離速度定数k
offが最大5×10-3-1までの抗体に利用することが
できるので、従来ELISA法に比べて約50倍も解離
の速い抗体まで適用することが可能である。
【0160】また、後述する実施例でも説明するよう
に、上記会合速度定数測定段階で求めた会合速度定数k
onは、SPR法やFP法により求めた値と良く一致して
おり、しかも、可溶性の抗体とファージ抗体との間で求
めた値に有意な差も見られない。それゆえ、本発明で
は、上記会合速度定数測定段階を含めることで、ファー
ジディスプレイ法により得られる会合速度の速い抗体に
ついて、会合速度定数konを簡便かつ確実に測定するこ
とが可能となり、得られる抗体の品質をより一層向上さ
せることができる。
【0161】次に、前記式(I)の数式モデルを用い
た、ファージディスプレイ法における上記スクリーニン
グ条件の設定について具体的に説明する。
【0162】抗体を実用レベルで臨床検査や疾病の治療
薬剤等として用いる場合には、前述したように、抗体が
短時間で抗原との複合体を形成できることが好ましい。
それゆえ、本発明では、会合速度定数konの高い抗体を
生産することを目的としているが、この会合速度定数k
onは、具体的には、1×105-1-1以上であること
が好ましい。
【0163】さらに、ファージライブラリーとして、特
定のリガンドに対してランダムに変異を導入したカスタ
マイズド・ライブラリー(2次ライブラリー)を用いる
場合には、より速い会合速度を実現する抗体が含まれて
いる可能性がある。そこで、この場合には、オリジナル
の抗体と比較して数倍の会合速度定数konを有する抗体
を生産するようにしてもよい。
【0164】条件を決定する上で仮定する会合速度定数
konの具体的な値は、特に限定されるものではないが、
上記実用レベルの会合速度定数konを考慮すれば、1×
106-1-1の抗体、あるいはこれ以上の値を有する
抗体を仮定し、この抗体を1分子以上回収できるように
スクリーニング条件を設定すれば良い。
【0165】そこで、本発明では、動力学的な評価に基
づくシミュレーションに際して、まず、会合速度定数k
onが、それぞれ1×104-1-1、3×104
-1-1、1×105-1-1、3×105-1-1、1×
106-1-1の5種類のファージ抗体が、ファージラ
イブラリー中に存在し(説明の便宜上、この条件を仮定
条件(1)とする)、これら5種類のファージ抗体が2
項分布にしたがって1:4:6:4:1の比率で存在す
る(同じくこの条件を仮定条件(2)とする)とした模
擬ライブラリーを仮定する。
【0166】そして、上記模擬ライブラリー中におい
て、回収される特異的ファージ抗体、すなわち洗浄段階
終了後に担体に残存する特異的ファージ抗体中に占める
1×106-1-1の会合速度定数konを有するファージ
抗体(説明の便宜上、最高会合速度ファージ抗体と称す
る)の割合を高くし、かつ、該最高会合速度ファージ抗
体が1分子以上回収できるように、上記数式モデルを用
いてスクリーニング条件を設定する。
【0167】まず、結合時間tbの設定について説明す
る。上述したように、バイオパニング処理における結合
段階では、ファージ抗体を、担体に固定化した抗原に結
合させるが、本発明では、会合速度定数konの高い抗体
を回収することが目的であるため、この結合段階では、
1ラウンドのバイオパニング処理を行った後に、回収さ
れる特異的ファージ抗体に占める会合速度定数konの高
いファージ抗体の割合が高くなるように結合時間tbを設
定する必要がある。
【0168】ここで、ファージライブラリー中に、解離
定数KDが10-9Mのファージ抗体が複数種類含まれてお
り、これらファージ抗体の会合速度定数konが1×104
-1-1〜1×106-1-1の範囲内にあるとする。
それぞれのファージ抗体の解離速度定数koffは、上記式
(2)から1×10-5-1〜1×10-31-1の範囲内
となり、それぞれのファージ抗体の最終的な回収率F
fは、前記式(I)を用いて計算することができる。
【0169】さらに、上記仮定条件(1)および(2)
を兼ね備える模擬ライブラリーから、目的の特異的ファ
ージ抗体を回収する際に、洗浄段階終了時に担体に残存
する全ファージ抗体に占める、最高会合速度ファージ抗
体の割合を、存在比R(H/T)と定義する。この全ファージ
抗体に占める最高会合速度ファージ抗体の割合に相当す
る存在比R(H/T)は、次式(8)で定義される。なお、N
totが上記5種類のファージ抗体における回収される個
数の和であり、Nhigが最高会合速度ファージ抗体におけ
る回収される個数である。
【0170】
【数22】
【0171】それゆえ、上記存在比R(H/T)が高くなるよ
うに、スクリーニング条件を設定すれば、会合速度定数
konの高いファージ抗体を効率良く得ることができる。
【0172】後述する実施例で詳細に説明するように、
本発明者らは、上記存在比を高くする条件を検討した結
果、結合時間tbが短いほど好ましいことを見出した(図
13、図14参照)。
【0173】したがって、本発明では、実際のバイオパ
ニング処理に要する時間を考慮し、結合時間tbは10分
以下とすることが好ましく、2分以下とすることがより
好ましい。
【0174】なお、結合時間tbを短縮する目的は、抗原
との会合速度が高いファージ抗体を濃縮することにある
が、一般に、分子同士の会合は、その分子が存在する溶
液の粘度および温度の少なくとも一方にも左右される。
溶液の粘度が低いほど、あるいは溶液の温度が低いほ
ど、分子の運動は遅くなり会合速度定数konは低下す
る。つまり、溶液の温度を下げるか、グリセリンなどを
溶液に添加して粘度を上げれば、結合時間tbを短縮する
場合と同様、会合速度定数konの高いファージ抗体を濃
縮する効果が得られる。
【0175】それゆえ、本発明では、上記結合段階にお
いて、ファージライブラリーを粘度3cp以上の溶液に
調製してもよい。水の粘度は1cp前後であり、拡散速
度は粘度に反比例するため、水の粘度を3cp以上とす
ることで、上記結合時間tbを短縮させるのと同様の効果
を得ることが可能となる。また、上記結合時間tbの規定
と組み合わせることで、より一層優れた効果を得ること
が可能となる。
【0176】次に、洗浄時間twの設定について説明す
る。上述したように、バイオパニング処理における洗浄
段階の主な目的には、抗原に弱く結合する特異的ファー
ジ抗体、すなわち解離速度定数koffの高い特異的ファー
ジ抗体を除去することが含まれる。
【0177】洗浄時間twを延長すると、担体(抗原)に
結合したファージ抗体の結合率は上記式(5)にしたが
って減少する。この時、ファージ抗体の解離速度定数k
offが高いほど結合率が低下するので、解離速度定数k
offが低い抗体、結果として解離定数KDが小さいファー
ジ抗体が濃縮される。この洗浄時間twを延長する方法
は、従来、オフレート選択と呼ばれ、これまで解離定数
KDの低いファージ抗体を単離するために利用されてき
た。
【0178】しかしながら、後述する実施例で詳細に説
明するように、本発明者らは、洗浄時間twを延長する
と、会合速度定数konの高いファージ抗体が排除されて
しまうことを初めて明らかにした(図15参照)。ま
た、上記存在比R(H/T)は洗浄時間twが短いほど高くなる
ことも見出した(図16参照)。
【0179】そこで、本発明では、洗浄時間twと結合率
Ffとの関係を考慮して、上記洗浄時間twを30分以下と
することが好ましく、溶液中に存在する非特異的なファ
ージ抗体を効果的に除去することができるならば10分
以下とすることがより好ましい。
【0180】次に、有効抗原濃度(固定化されたターゲ
ットの有効濃度)Ageffについて説明する。後述する実
施例で説明するように、有効抗原濃度Ageffは、上記存
在比R (H/T)を高く維持し、かつ会合速度定数konが高い
ファージ抗体を1分子以上回収できるように設定する必
要がある。会合速度定数konが高いファージ抗体を1分
子以上回収するために必要な回収率Ffは1/N0で与え
られる(上記式(7)参照)ため、少なくとも回収率Ff
は1/N0以上でなければならない。また、再現性良く
解離速度定数koffが高いファージ抗体を回収するために
は、回収率Ffは10/N0以上であることが望ましい
(図17参照)。
【0181】ここで、有効抗原濃度Ageffの好ましい範
囲は、本発明で用いた条件における好適な範囲であり、
用いるファージライブラリーの多様性、バイオパニング
処理に用いるファージ抗体の総数、得たいファージ抗体
の会合速度定数konによって異なる。本発明では、有効
抗体濃度Ageffは、1×10-9M〜1×10-5Mの範囲
内とすることが好ましく、5×10-7M〜2×10-6
の範囲内とすることがより好ましい(図18および後述
する実施例参照)。
【0182】通常のバイオパニング処理では、1011
1014cfu(Colony Forming Unit)/mlの濃度のフ
ァージライブラリー溶液を0.1〜1.0ml用いる。
つまり、1ラウンドのバイオパニング処理には、一般的
に1010〜1014個のファージ抗体、より好ましくは1
11〜1012個のファージ抗体を用いる。
【0183】例えば、あるファージライブラリーが10
9通りの多様性を持っている場合、1012cfuのファ
ージを、バイオパニング処理にインプットするなら、特
定の抗体1種類当たりのファージ数は103個となる。
この場合、回収率が10-3未満であれば、特定のファー
ジ抗体を確実に回収できない。例えば回収率が10-4
ら、0.1分子のファージ抗体しか回収できず、これは
同じ条件で10回バイオパニング処理した時に1回しか
特定のファージ抗体を回収できないことを意味する。
【0184】同様に、多様性が105通りであるファー
ジライブラリーを用い、1012個cfuのファージを、
バイオパニング処理にインプットする場合、特定の抗体
1種類当たりのファージ数は107個となる。この場
合、回収率が10-7よりも大きければ特定のファージ抗
体を回収することができる。
【0185】ここで、上述したように、会合速度定数測
定段階で会合速度定数を測定するには、測定対象となる
抗体(ファージ抗体)の解離速度定数koffが5×10-3
-1以下である必要がある。しかしながら、解離速度定
数koffがこのレベル以下のファージ抗体は、洗浄段階で
高原から脱着する速度が大きくなり、回収率Ffが低下す
るため、このレベル以下のファージ抗体を選択する可能
性は低下する。有効抗原濃度Ageffを高くすれば、解離
速度定数koffが上記レベル以下のファージ抗体の回収率
を高くすることは可能であるが、このレベルのファージ
抗体は、抗原からの解離が速すぎて実用には適さないた
め、会合速度定数konを測定することができなくても良
い。
【0186】これに対して、目的とする特定の抗体が、
上記5×10-3-1レベルと同じかそれよりも小さい解
離速度定数koffを有する場合、洗浄段階では、該特定の
抗体は、抗原との解離の程度が同じか小さいことになる
ため、回収率Ffの低下を回避できる。そこで、解離速度
定数koffの上限値として上記5×10-3-1レベルを、
多様性の下限値として105通りを、回収率Ffの下限値
として10-7を想定すれば、有効抗原濃度Ageffは1×
10-11M以上あれば良く、好ましくは1×10 -9M以
上であれば良いことになる。
【0187】一方、有効抗原濃度Ageffの上限を、10
-5Mを超えるレベルにすることは事実上困難である。ま
た、バイオパニング処理において、このように高い有効
抗原濃度Ageffを必用とする抗体は、親和性が低く解離
が速いため、実用的な価値はほとんどない。また、有効
抗原濃度Ageffが10-6Mを超えると、上記存在比R(H
/T)が低下する。それゆえ、有効抗原濃度Ageffの上限は
10-6M以下であることが好ましい。
【0188】このように、本発明では、数式モデルによ
り、抗体−抗原の会合に関する動力学的な評価に基づい
て、ファージ抗体をスクリーニングする条件を設定す
る。そのため、会合速度が速く実用性に優れた抗体を、
従来のような経験則によらず理論に基づいて単離するこ
とになる。それゆえ、ファージライブラリーから、特定
のターゲットに対する会合速度定数konが高い数値を示
す抗体を、効率的にスクリーニングすることができる。
【0189】なお、本実施の形態では、リガンドとして
抗体を、リガンドライブラリーとしてファージライブラ
リーを用いた場合を例に挙げて説明しているが、本発明
はこれに限定されないことは言うまでも無い。本実施の
形態で挙げた数値限定や条件は、各種抗体だけでなく、
抗体以外の各種リガンドにも十分応用可能なものであ
り、また、ファージディスプレイ法以外の手法で作製さ
れたリガンドライブラリーにも十分応用できるものであ
る。勿論、リガンドやリガンドライブラリーの種類によ
っては、より適切なスクリーニング条件が存在する場合
もあるので、そのような場合には、本発明の数式モデル
を利用してスクリーニング条件を設定すればよい。
【0190】〔実施の形態2〕本発明における他の実施
の形態について図10および図11に基づいて説明すれ
ば以下の通りである。なお、本発明はこれに限定される
ものではない。また、説明の便宜上、実施の形態1で説
明した事項と実質的に同一の事項については、適宜その
説明を省略する。
【0191】前記実施の形態1では、抗体等のリガンド
の生産方法そのものについて説明したが、本発明はこれ
に限定されるものではない。すなわち、本発明は、リガ
ンドの生産を数式モデルにより実施しているため、自動
化あるいはロボット化された高速スクリーニング(high
throughput screening,HTS)手段を備えるリガン
ド製造システムにも応用することができる。
【0192】具体的には、例えば、図10に示すよう
に、本実施の形態にかかるリガンド製造システム10
は、制御部(制御手段)11、入力部(入力手段)1
2、表示部(表示手段・出力手段)13、プリント部
(画像形成手段・出力手段)14、通信部(通信手段)
15、記憶部(記憶手段)16、HTS部(高速スクリ
ーニング手段)17等を備える構成となっている。
【0193】上記入力部12は、上記リガンド生産シス
テム10の操作あるいは動作に関わる各種情報を入力可
能とするものであれば特に限定されるものではない。具
体的には、例えば、キーボードやタブレット等、あるい
はスキャナー等、従来公知の入力手段を好適に用いるこ
とができる。
【0194】上記表示部13は、上記リガンド生産シス
テム10の操作あるいは動作に関わる各種情報を表示で
きるものであれば、特に限定されるものではない。具体
的には、従来公知のCRTディスプレイや、液晶ディス
プレイ等といった各種表示装置が好適に用いられるが特
に限定されるものではない。
【0195】上記プリント部14は、上記表示部13で
表示可能な各種情報をPPC用紙等の記録材に記録(印
刷・画像形成)するものであれば特に限定されるもので
はない。具体的には、従来公知のインクジェットプリン
タやレーザープリンタ等の画像形成装置が好適に用いら
れるが特に限定されるものではない。
【0196】上記通信部15は、インターネットを含む
各種通信ネットワークを介して各種情報が入出力できる
ものであれば特に限定されるものではない。具体的に
は、従来公知のLANカード、LANボード、LANア
ダプタや、モデム等を好適に用いることができる。
【0197】上記記憶部16は、上記リガンド生産シス
テム10で利用される制御情報等の各種情報を記憶可能
とするものであれば特に限定されるものではない。具体
的には、例えば、RAMやROM等の半導体メモリ、フ
ロッピー(登録商標)ディスクやハードディスク等の磁
気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD等の光
ディスクのディスク系、ICカード(メモリカードを含
む)/光カード等のカード系等、従来公知の各種記憶手
段を好適に用いることができる。
【0198】上記制御部11は、本実施の形態における
上記リガンド生産システム10の動作を制御する。具体
的には、図10の矢印で示すように、入力部12、表示
部13、プリント部14、通信部15、記憶部16、H
TS部17の各手段に対して、上記制御部11から制御
情報が出力される。この制御情報に基づいて上記各手段
が連携して動作することで、上記リガンド生産システム
10全体が動作する。また、制御部11に対しては、入
力部12から各種操作情報等も入力可能となっており、
通信部15や記憶部16では、制御部11と各種情報の
やりとりが可能となっているので、図10では、制御情
報のやりとりを示す矢印は双方向となっている。
【0199】上記HTS部17は、自動化あるいはロボ
ット化により高速スクリーニングを実施できるものであ
れば特に限定されるものではない。具体的には、前記実
施の形態1で説明したファージディスプレイ法により抗
体を生産する場合に合わせれば、例えば、ディスペンサ
ー17a、第一インキュベーター17b、ELISA部
17c、分離部17d、第二インキュベーター17e、
ロボットアーム17f等を含む構成が挙げられる。
【0200】ディスペンサー17aは、バイオパニング
処理に関する操作、例えば、結合段階でファージライブ
ラリーと抗原を固定化した磁気ビーズ(担体)とを混合
して所定の容器に仕込んだり、洗浄段階で洗浄液を分注
したり除去したり、溶出段階で酸性溶液またはアルカリ
性溶液を分注したり除去したり、培地やヘルパーファー
ジ溶液を分注したり除去したり、培養液を分離部17d
に移送したり、該分離部17dで分離された上澄み液を
ELISA部17cに移送したりできる構成であれば特
に限定されるものではない。
【0201】上記第一インキュベーター17bは、ディ
スペンサー17aにより混合されたファージライブラリ
ーと磁気ビーズとを仕込んだ容器を、一定時間所定の温
度でインキュベートできる構成であれば特に限定される
ものではない。
【0202】上記ELISA部17cは、ELISAが
実施可能であり、その結果を吸光度、蛍光強度、または
放射活性として読み取って制御部11に情報として送出
できる構成で在れば特に限定されるものではない。
【0203】上記分離部17dは、宿主大腸菌培養液か
ら清澄な上澄み液を分離し、上澄み液からポリエチレン
グリコール沈殿法等によってファージを沈殿として分離
できるものであれば特に限定されるものではなく、例え
ば、従来公知の遠心分離機や濾過膜等を好適に用いるこ
とができる。
【0204】上記第二インキュベーター17eは、宿主
大腸菌の培養およびこれにファージを感染させた後の培
養を行えるものであれば特に限定されるものではなく、
例えば、チューブ、ELISAプレートを培養容器とし
て、これを回転あるいは振動させることで撹拌が可能な
従来公知の各種振盪培養装置等を好適に用いることがで
きる。
【0205】上記ロボットアーム17fは、ファージラ
イブラリーと磁気ビーズとを仕込むための、あるいは培
養容器に培地を仕込むための容器、または仕込んだ後の
容器等をディスペンサー17aや第一インキュベーター
17b、第二インキュベーター17e等に適切に運搬で
きる構成であれば特に限定されるものではない。なお、
図10では、ロボットアーム17fによる容器等の運搬
を、太い点線の矢印で示している。
【0206】HTS部17に含まれる上記各手段は全て
揃っていてもよいし、一部のみであっても良い。本発明
にかかるリガンド生産システム10は、本発明にかかる
リガンドの生産方法におけるスクリーニング工程のう
ち、少なくとも1段階を自動的に実施できる構成となっ
ていればよい。
【0207】次に、本実施の形態における上記リガンド
生産システム10の具体的な動作について説明する。
【0208】前記実施の形態1で説明したように、本発
明にかかるリガンドの生産方法は、得たい抗体(目的と
なる特定のリガンド)における見かけの会合速度定数k
on(ap p)と、解離速度定数koffもしくは解離定数KDとを
仮定し、これら定数を含み、ファージ抗体の回収率Ff
表す数式モデルを用いて、ファージライブラリーを固定
化した適切な抗原と接触させる結合時間tb、抗原に結合
しなかったファージ抗体を洗浄除去する洗浄時間tw、お
よび固定化した抗原の有効濃度(有効抗原濃度)Ageff
という調節可能な3つの条件のうち少なくとも何れかの
条件を設定する条件設定段階を含む方法である。
【0209】そこで、制御部11ではHTS部17の動
作を制御する際に、前記式(I)を用いて上記スクリー
ニング条件の好適な値を適宜設定し、この設定値を、H
TS部17の動作制御に利用する。
【0210】例えば、ユニバーサル・ライブラリー(1
次ライブラリー)から、会合速度定数konが105-1
-1以上の抗体を得ようとする場合、解離速度定数koff
しくは解離定数KD、結合時間tb、洗浄時間tw、および有
効抗原濃度Ageffを、上記入力部12から入力する。制
御部11では、これらスクリーニング条件に基づいて、
HTS部17を動作させ、バイオパニング処理を自動的
に実施する。
【0211】逆に、会合速度定数konから、好ましい結
合時間tbや洗浄時間tw等を算出して、これに基づいて、
自動的にバイオパニング処理を試行するようになってい
てもよい。
【0212】さらに、制御部11が、前記式(II)に基
づいて、自動的に会合速度定数測定段階を実施するよう
になっていれば、その結果をフィードバックして、第2
回目以降のラウンドで、バイオパニング処理に関するス
クリーニング条件を適宜変更するようになっていてもよ
い。
【0213】上記制御部11によるHTS部17の動作
制御の一例について、図11に基づいて説明する。勿
論、制御部11による動作制御の例はこれに限定される
ものではない。
【0214】まず、制御ステップ(コントロールステッ
プ、以下CSと略す)1として、制御部11は、前記式
(I)に基づいてスクリーニング条件を設定する。次に
CS2として、制御部11の動作制御により、HTS部
17に、前記バイオパニング処理や会合速度定数測定段
階等を含む高速スクリーニングを実施させる。
【0215】次にCS3として、得られた結果を解析す
る。具体的には、制御部11で自動的に解析を実施した
り、表示部13やプリント部14で出力した結果を使用
者が解析して解析結果を入力部12から再入力したり、
さらには、得られた結果を、通信部15からLAN等を
介して、別の場所にあるコンピュータや自動解析装置等
で解析したりする。
【0216】その後、CS4として、上記解析結果か
ら、高速スクリーニング(バイオパニング処理等を含
む)を再度実施するか否かを判定する。実施しない場合
(図中NO)には、そのままHTS部17の制御を終了
する。一方、実施する場合(図中YES)には、CS5
に進み、スクリーニング条件を改めて設定するか否かを
判定する。改めて設定しない場合(図中NO)には、C
S2に戻り、そのままのスクリーニング条件で、HTS
部17にバイオパニング処理を繰り返させる。一方、改
めて設定する場合(図中YES)には、CS1に戻り、
前記式(I)に基づいてスクリーニング条件を再度設定
してから、HTS部17にバイオパニング処理を繰り返
させる。
【0217】このように、本実施の形態では、数式モデ
ルや理論式を利用して、バイオパニング処理や会合速度
定数測定段階を自動的に実施させることになり、しかも
得られた結果をフィードバックして、次のラウンドの条
件設定に利用したり、記憶部に記憶させてスクリーニン
グ条件のデータベースとしたりすることが可能となる。
それゆえ、効率の良いスクリーニングを高速かつ多数回
実施することができるので、より実用性の高い抗体を極
めて効率良く生産することができる。
【0218】なお、本実施の形態にかかるリガンド生産
システムは、図示しないが、上記通信部15を介して、
同一構内にある他のシステムや、パーソナルコンピュー
タ(PC)サーバ等に接続されてLAN(ローカルエリ
アネットワーク)を構成していてもよいし、さらにこの
LANがインターネットを介して、他地域にあるPC等
とも接続されていてもよい。上記システムやPC、ある
いはサーバは、従来公知の構成を好適に用いることがで
き、特に限定されるものではない。また、上記LANの
型式も特に限定されるものではなく、バス型やスター
型、リング型等、従来公知の型式であればよい。
【0219】上記構成のネットワークでは、例えば、本
発明にかかるリガンド生産システム10で得られた結果
を、LANを介してPCやサーバ等に送信することもで
き、さらにはインターネットを介して他のPCやサーバ
等にも送信することができる。それゆえ、上記サーバが
データベースサーバやファイルサーバを兼ねている場合
には、得られたスクリーニング条件をサーバに蓄積して
いくことができる。その結果、上記数式モデルを利用し
て得られたスクリーニング条件をより一層有効利用する
ことが可能となる。
【0220】なお、本発明は、上述した各実施の形態に
限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の
変更が可能であり、異なる実施の形態にそれぞれ開示さ
れた技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態
についても、本発明の技術的範囲に含まれることはいう
までもない。
【0221】
【実施例】以下、実施例および図12ないし図18に基
づいて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれ
らに限定されるものではない。
【0222】〔実施例1〕 <使用菌株および試薬>ファージ抗体の調製とタイター
測定のための宿主大腸菌としては、Escherichia coli s
train TG1 [K12, ((lac-pro), supE, thi, hasd(5/F'tr
aD36, proA+B+,lacIq, lacZ(M15]を用いた。牛膵臓リボ
ヌクレアーゼ(RNase A)は、Sigma社から(コード番号
R-5500)購入し、蒸留水に対して透析して用いた。ポリ
スチレン磁気ビーズ(Polystyrene paramagnetic micro
particles、2.6%懸濁液、直径1〜2μm)はPolys
ciences, Inc. (Warrington, France)から購入した。ブ
ロッキング処理には、Block Ace(雪印製、商品名)を
用いた。ペルオキシダーゼ標識抗M13抗体はAmersham Ph
armacia Biotech社(以下、Amersham社と略)から購入
し、ペルオキシダーゼの基質として、BM Blue溶液(Roc
he製、商品名)を用いた。
【0223】<ファージライブラリー作製工程>抗RNas
e A single chain Fv (scFv) 抗体遺伝子をpCANTAB5E
(Amersham社製)にそのSfiI及びNotIサイトを用いてサ
ブクローンニングした(得られたプラスミドを以下pCAN
E/3A21とする)。一般に抗体の6つある超可変領域のう
ち、H3領域は抗体の特異性の決定に重要であることが知
られており、これまでの知見として、抗RNase A scFv抗
体はそのH1領域においてRNase Aと塩橋を形成している
ことが分かっていたので、H1及びH3領域にランダム配列
を導入した。
【0224】まずH1領域の5’側に、図12(a)に示
すオリゴヌクレオチドを用いてApaIサイトと終止コドン
を導入した。なお、図12(a)におけるアンダーライ
ンはApaIサイトと終止コドンを、枠で囲った部分はH1領
域を示す。
【0225】次に、ApaIサイトと終止コドンを導入した
pCANE/3A21をテンプレートとし、図12(b)および
(c)に示すプライマーを用いることによって、H1領域
の5’側にあるApaIサイトからH3領域の3’側にあるEc
oT14Iサイトの配列をPCRによって調製した。なお、
図12(b)および(c)におけるアンダーラインはそ
れぞれApaIサイト及びEcoT14サイトを示し、XXXはNNKも
しくはRNSを示し、N=A+C+G+T, K=G+T, R=A+G, S=G+Cで
ある。
【0226】そして、XXXをNNKとした断片、及びRNSと
した断片をそれぞれ調製し、ApaIとEcoT14Iで消化した
後、pCANE/3A21 ApaIとEcoT14I断片(大きい方の断片)
とライゲーションし、エレクトロポレーションによって
E.coli TG1株を形質転換した。得られたNNKライブラリ
ー及びRNSライブラリーはそれぞれ5×107通り及び2
×107通りの独立したクローンを含んでいると見積も
られた。バイオパニング処理では、これら2つのライブ
ラリーを混合したものを1012cfuとなるようにイン
プットした。
【0227】<ファージ溶液の調製及びファージのタイ
ター測定>Amersham社のRecombinant Phage Antibody S
ystem(商品名)のマニュアルに従った。ただし、ファ
ージ溶液を調製するための培養は30℃で行い、ポリエ
チレングリコール沈殿によって調製したファージの沈殿
はPBS(0.2g/LKH2PO4,2.9g/L N
2HPO4・12H2O,8.0g/L NaCl,0.
1g/l KCl,pH7.2)に溶解した。
【0228】<スクリーニング工程> <固定化段階>2.6mgのポリスチレン磁気ビーズを
0.1M炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.6)で3回洗
浄し、同緩衝液で調製した4.5μMのRNase A溶液中
で穏やかに攪拌しながら一晩4℃でインキュベートし
た。このビーズをPBSで3回洗浄した後、PBSM
(2%のBlock Aceを含むPBS)に懸濁し、30℃で
穏やかに攪拌しながら3時間インキュベートすることに
よってブロッキング処理を行った。
【0229】この条件でブロッキング処理を行うことに
よって、結合段階および洗浄段階における抗原分子の固
相からの脱着による抗原濃度の変化は無視できるほど小
さくなり、同時に抗原の担体からの脱着によるファージ
抗体のロスも無視できる程度まで軽減することができ
る。また、このビーズを1mlの溶液に懸濁したとき、
有効抗原濃度は2×10-8Mとなる。
【0230】<結合段階・洗浄段階・溶出段階>RNase
Aを固定したビーズが入ったチューブに、30℃に予熱
した1012cfu/mlのファージライブラリー溶液1
mlを加えて混合した。30秒後に、1分間チューブを
磁石にセットしてビーズをチューブの管壁に集め、1分
30秒後にファージ溶液を、ピペットマンを用いて除去
した。その後直ちに以下の洗浄操作を3回行った。PB
Sを1ml加えて混合し、3分間チューブを磁石にセッ
トしてビーズをチューブの管壁に集め、溶液を、ピペッ
トマンを用いて除去した。1回の洗浄操作を3分20秒
で行ったので、洗浄時間は10分となる。
【0231】この後、0.1M トリエチルアミン溶液
を0.1ml加えて10分間室温でインキュベートした
後、ビーズを磁石で集め、上清を回収して直ちに1M T
ris-HCl(pH7.2)を用いて中和した。中和した溶
液は、上記Recombinant PhageAntibody System(商品
名)のマニュアルに従って宿主大腸菌TG1株に感染さ
せ、ファージ溶液の調製もしくはクローンの単離を行っ
た。
【0232】<抗体発現率の測定>まず、上述したよう
に、抗RNase A scFvファージ抗体を調製し、これをRNas
eAを固定したセファロース4B(商品名)によって精製し
た。得られたファージ抗体溶液は、含まれるファージ分
子の95%以上が抗RNase A scFvを提示したものとな
る。108〜109cfu/mlに調製した精製していな
いファージ抗体溶液及び精製したファージ抗体溶液を用
いて、上述したようにRNase Aに対するバイオパニング
処理を行った。
【0233】精製していないファージ溶液を用いてこの
バイオパニング処理を行った際のインプット、すなわち
バイオパニング処理に供したファージ抗体数をI、アウ
トプット、すなわち回収できたファージ抗体数をDと
し、精製したファージライブラリー溶液を用いて同じ操
作を行った場合のアウトプットに対するインプットの比
をN0として、調製したファージライブラリー溶液のscFv
抗体の発現率(ディスプレイ率)は、前記式(7)によ
って計算することができる。
【0234】本実施例で用いた条件で調製した抗RNase
A scFv抗体の発現率は2.5%であった。なお、本実施
例では、作製したファージライブラリーに含まれる変異
型抗体全てにこの値が適用できると仮定した。
【0235】<ビーズを用いたELISA>単離したフ
ァージ抗体もしくは、各ラウンドのアウトプットから調
製したファージライブラリー溶液を、30℃で予熱した
後、上述したように調製したビーズに加えて反応を開始
した。30℃で穏やかに攪拌しながら反応させ、経時的
にビーズ懸濁液をサンプリングし、直ちに上述したよう
に洗浄した。それぞれの洗浄したビーズに対して、ペル
オキシダーゼ標識抗M13抗体溶液を加え、室温で1時間
インキュベートした。上述したように洗浄した後、BM B
lue溶液を加え、室温で15〜30分インキュベートし
た後、450nmの吸光度を測定した。
【0236】<結果1・結合時間の設定>本実施例で作
製されたファージライブラリーの多様性は7×107
見積もられた。それゆえ、上記ファージライブラリー中
にはオリジナルの抗RNase A抗体に比べて会合速度定数k
onが高いファージ抗体が含まれていると期待できる。
【0237】そこで、まず、解離定数KD=10-9Mのフ
ァージ抗体が上記ファージライブラリー中に含まれてい
るとし、この5種類のファージ抗体における真の会合速
度定数konが、それぞれ1×104-1-1、3×104
-1-1、1×105-1-1、3×105-1-1、1
×106-1-1として(仮定条件(1))、さらに、
これら5種類のファージ抗体は、2項分布にしたがっ
て、それぞれ1:4:6:4:1の比率で存在する(仮
定条件(2))とした模擬ライブラリーを仮定した。さ
らに、上記5種類のファージ抗体における見かけの会合
速度定数kon(app)は、真の会合速度定数konの1/30
0に低下する(kon(app)=1/300kon)とした。
【0238】そして、上記模擬ライブラリーにおける上
記5種類のファージ抗体が、有効抗原濃度Ageff=5×
10-7MのRNase Aと反応する場合のバイオパニング処
理について、シミュレーションした。このとき、ファー
ジ抗体の回収率Ffに及ぼす結合時間tbの影響について
は、前記式(4)を用いて、洗浄時間tw=10分として
シミュレーションした。その結果を図13に示す。ま
た、全ファージ抗体に占める最高会合速度ファージ抗体
の割合に相当する存在比R(H/T)に及ぼす結合時間tbの影
響は、前記式(8)の定義に基づいてシミュレーション
した。その結果を図14に示す。
【0239】なお、図13の横軸は真の会合速度定数k
onであり、縦軸はファージ抗体の回収率Ffであり、図中
1min、10min、30min、および60minで示されるグ
ラフが各結合時間tb別の回収率Ffの変化を示す。また、
図14の横軸は結合時間tbであり、縦軸は上記存在比R
(H/T)(%)である。
【0240】さらに、事前に、抗RNase A抗体と抗原RNa
se Aとの真の会合速度定数が、kon=3×104-1-1
であるのに対し、上記抗体および抗原の間における見か
けの会合速度定数を実験により求めたところ、kon(app)
=1×102-1-1程度しかなかった。それゆえ、上
記5種類のファージ抗体における見かけの会合速度定数
kon(app)は、真の会合速度定数konの1/300に低下
するとした。
【0241】図13に示すように、上記5種類のファー
ジ抗体の回収率Ffは、結合時間tbが長いほど大きくなる
ものの、図14の結果から明らかなように、結合時間tb
が短いほど上記存在比R(H/T)は高くなった。そこで、
これらの結果と実際の実験操作に必要な時間とを考慮す
れば、結合時間tbは10分以下が好ましく、2分以下が
より好ましく、1分が特に好ましい。
【0242】<結果2・洗浄時間の設定>結合時間tb
1分とした上で、上記結合時間の設定と同様の条件で、
上記模擬ライブラリーからのバイオパニング処理におけ
る洗浄時間twが上記存在比R(H/T )に及ぼす影響をシミ
ュレートした。その結果のうち、ファージ抗体の回収率
Ffに及ぼす洗浄時間twの影響を図15に、上記存在比R
(H/T)に及ぼす洗浄時間twの影響を図16に示す。
【0243】なお、図15の縦軸は回収率Ffであり、横
軸は真の会合速度定数konであり、図中1min、10mi
n、30min、および60minで示されるグラフが各洗浄
時間tw別の回収率Ffの変化を示す。また、図16の縦軸
は上記存在比R(H/T)(%)であり、横軸は洗浄時間tw
ある。
【0244】図15に示すように、上記5種類のファー
ジ抗体の回収率Ffは、真の会合速度定数konが低い場合
には洗浄時間twの影響はほとんど見られないが、真の会
合速度定数konが高くなると、洗浄時間twが短い方が大
きくなる。また、図16に示すように、上記存在比R
(H/T)は、洗浄時間twが短いほど高くなる。つまり、洗
浄時間twは短いほどよいことになるが、洗浄段階では、
洗浄により非特異的ファージ抗体を除去する必要がある
ため、ある程度の洗浄時間twを確保しなければならな
い。そこで、この点を考慮すれば、洗浄時間twは30分
以下が好ましく、10分前後がより好ましい。
【0245】なお、図示しないが、結合時間tb=60分
として、洗浄時間を、それぞれtw=10分、20分、6
0分、120分としてオフレート選択を行った場合に
は、図15において、何れの洗浄時間twにおいても、会
合速度定数konが高いファージ抗体ほど回収率Ffは低く
なった。この点からも、本発明が優れていることがわか
る。なお、上記結合時間60分は、オフレート選択にお
ける標準的な条件である。
【0246】<結果3・有効抗原濃度の設定>〕結合時
間tb=1分、洗浄時間tw=10分とした上で、上記結合
時間の設定と同様の条件で、上記模擬ライブラリーから
のバイオパニング処理における有効抗原濃度Ageffが上
記存在比R(H/T)に及ぼす影響をシミュレートした。そ
の結果のうち、ファージ抗体の回収率Ffに及ぼす有効抗
原濃度Ageffの影響を図17に、上記存在比R(H/T)に及
ぼす有効抗原濃度Ageffの影響を図18に示す。
【0247】なお、図17の縦軸は回収率Ffであり、横
軸は有効抗原濃度Ageffであり、図中のグラフは真の会
合速度定数kon別の回収率Ffの変化を示し、上から順
に、それぞれ1×104-1-1、3×104-1-1
1×105-1-1、3×105-1-1、1×106
-1-1の会合速度定数konを有するファージ抗体を示
す。さらに、図17における破線は設定した有効高原濃
度Ageff=5×10-7Mを示す。また、図18の縦軸は
上記存在比R(H/T)(%)であり、横軸は有効抗原濃度Ag
effである。
【0248】図17に示すように、上記5種類のファー
ジ抗体の回収率Ffは、有効抗原濃度Ageffに比例して大
きくなっているが、図16に示すように、上記存在比R
(H/T)は、有効抗原濃度Ageffが10-6Mレベルから低下
傾向にある。
【0249】このとき、上記模擬ライブラリー中の最高
会合速度ファージ抗体の回収率、すなわち、会合速度定
数kon=1×106-1-1のファージ抗体の回収率は、
この場合の許容範囲である2.5×10-3以上、再現性
の良い回収を考慮すれば、3×10-2以上であることが
望ましい(図17の網掛け領域)。
【0250】そこで、有効抗原濃度Ageffの設定では、
ファージライブラリー中に含まれる1クローン当たりの
ファージ個数の逆数(1/N0)よりも大きい回収率Ff
が得られ、かつ、回収されるクローンに占める最高会合
速度ファージ抗体の割合である上記存在比(R(H/T))が
大きくなるように定める必要がある。
【0251】したがって、有効抗原濃度Ageffは1×1
-9M〜1×10-5Mの範囲内とすることが好ましく、
5×10-7M〜2×10-6Mの範囲内とすることがより
好ましい。
【0252】なお、図示しないが、上記方法でRNase A
を固定した磁気ビーズ懸濁液を調製すると、RNase Aの
有効抗原濃度は2×10-8Mとなり、この至適濃度範囲
に入る。
【0253】〔実施例2〕前記実施例1で決定した実験
条件、すなわち、結合時間1分、洗浄時間10分、有効
抗原濃度2×10-8Mの条件で、作製したファージライ
ブラリーのバイオパニングを3ラウンド行った。まず、
3ラウンド後のアウトプットをE.coli TG1株に感染させ
て増幅し、ファージライブラリー溶液を調製した。オリ
ジナルのファージ抗体および3ラウンド後のアウトプッ
トに含まれるファージ抗体が、RNase Aに結合して行く
様子を、実施例と同様にして比較した。
【0254】オリジナル抗体は反応が平衡に達するのに
30分以上を要するのに対して、第3ラウンド目のアウ
トプットに含まれるファージ抗体の反応は約10分でほ
ぼ平衡に達した。
【0255】次に、第3ラウンド目のアウトプットに含
まれるファージ抗体をランダムに10クローン単離し、
それぞれファージ溶液を調製し、J. Biosci. Bioeng.,
92,pp330-336 (2001)に開示されている方法を用いて会
合速度定数konを、Mol. Immunol., 24, pp1055-1060 (1
987)に開示されている方法で解離定数KDを測定した。そ
の結果を表1に示す。
【0256】
【表1】
【0257】表1の結果から明らかなように、何れのク
ローンもオリジナルの抗RNase Aファージ抗体に比べて
会合速度定数konが大きくなっていた。
【0258】〔実施例3〕本実施例で使用したオリジナ
ル抗体の会合速度定数konの値は、表面プラズモン共鳴
(SPR)法を用い、遊離の(ファージに提示されてい
ない状態の)single chain Fvを用いて測定した値であ
る(RNase Aをセンサーチップに固定し、遊離のscFvを
結合させた時のRU値の変化によって測定した)。
【0259】分子と分子の会合速度は、主にそれぞれの
分子の拡散速度に支配される。SPR法での測定におい
ても、バイオパニング処理においても、RNase Aは固相
に固定されている。しかしながら、SPR法による測定
では、scFv抗体は遊離の状態(分子量約3×104)で
あるのに対して、バイオパニング処理では、巨大なファ
ージ分子に提示された状態である(分子量は約2×10
7)。したがって、ファージに発現されたscFv抗体が、
担体に固定化されたRNase Aに結合する場合、見かけの
会合速度定数konの値は、SPR法で測定した値に比べ
て小さいと考えられる。
【0260】そこで、ファージに発現したscFv抗体の会
合速度定数konが1/20に低下する場合についてもシ
ミュレーションを行った。その結果、回収率Ffは10-2
と見積もられ、ファージライブラリー中の1クローン当
たりのファージ数は4×10 2であるから、なお、4分
子のファージを回収できることがわかった。
【0261】担体に固定化した抗原に対する、ファージ
抗体の会合速度を実験的に求めるのは容易ではなく、本
実施例では遊離のscFv抗体を用いて測定した会合速度定
数ko nをシミュレーションに用いた。
【0262】しかしながら、上記のように、仮にファー
ジ抗体の固定化された抗原への会合が、遊離のscFv抗体
の会合よりも20倍遅くても、本実施例で用いた有効抗
原濃度Ageffで、会合速度定数konが高い抗体を効率良く
単離することができる。なお、予備実験的データとし
て、ファージ抗体の会合速度は遊離のscFv抗体における
会合速度の約1/10になるという結果を得ているの
で、上記20倍遅い場合を想定した検証は妥当なもので
ある。
【0263】
【発明の効果】以上のように、本発明にかかるリガンド
の生産方法は、目的となる上記特定のリガンドのスクリ
ーニング工程における見かけの会合速度定数と、解離速
度定数もしくは解離定数とを仮定するとともに、これら
定数を含み、リガンドの回収率を表す数式モデルを用い
て、リガンドライブラリーを固定化したターゲットと接
触させる結合時間、ターゲットに結合しなかったリガン
ドを洗浄除去する洗浄時間、および固定化したターゲッ
トの有効濃度のうち少なくとも何れかのスクリーニング
条件を設定する条件設定段階を含む方法であり、数式モ
デルとして前記式(I)を用いることが非常に好まし
い。
【0264】上記方法によれば、真の会合速度定数kon
ではなく見かけの会合速度定数kon(a pp)を含む数式モデ
ルにより、リガンドとターゲットとの会合を動力学的に
評価し、これに基づいてリガンドをスクリーニングする
条件を選択する。それゆえ、リガンドライブラリーか
ら、特定のターゲットに対する真の会合速度定数が高い
数値を示すリガンドを、効率的にスクリーニングするこ
とができる。
【0265】本発明にかかるリガンドの生産方法で生産
されるリガンドは特に限定されるものではないが、臨床
検査や疾病治療に用途の広い抗体であることが非常に好
ましい。上記方法によれば、上記数式モデルを用いて抗
体ライブラリーから、特定の抗原に対する会合速度定数
が高い数値を示す抗体をスクリーニングすることができ
るので、実用性の高い抗体を容易かつ確実に生産するこ
とができる。
【0266】また、本発明にかかるリガンドの生産方法
では、吸光度と抗体濃度とが比例する範囲内で抗原と抗
体とを混合し、一定時間反応させた後、遊離の抗体をE
LISAで定量し、抗体の結合率の時間変化を表す理論
式を用いて真の会合速度定数を求める会合速度定数測定
段階を含むことが好ましく、上記理論式として、前記式
(II)を用いることが非常に好ましい。
【0267】上記方法によれば、従来とは異なり、抗体
の精製や固定化または修飾を必要とせず、しかも解離の
速い抗体についても確実に会合速度定数を求めることが
できる。また、従来の方法で測定した結果とも良く一致
し、可溶性の抗体とファージ抗体との間で求めた値に有
意な差も見られない。それゆえ、ファージディスプレイ
法により得られる会合速度の速い抗体について、会合速
度定数を簡便かつ確実に測定することが可能となり、得
られる抗体の品質をより一層向上させることができる。
【0268】さらに、本発明にかかるリガンド生産シス
テムは、少なくとも高速スクリーニング手段の動作を制
御する制御手段を備えており、さらに、上記制御手段
は、上記数式モデルを用いて、結合時間、洗浄時間、お
よび固定化したターゲットの有効濃度のうち少なくとも
何れかのスクリーニング条件を設定する構成であり、好
ましくは、前記式(I)や式(II)を用いる。
【0269】上記構成によれば、数式モデル等を利用し
て、バイオパニング処理や会合速度定数測定段階を自動
的に実施することができる。しかも記憶手段等を備える
ことで、得られた結果をフィードバックして、次のラウ
ンドの条件設定に利用したり、記憶部に記憶させてスク
リーニング条件のデータベースとしたりすることが可能
となる。それゆえ、効率の良いスクリーニングを高速か
つ多数回実施することができるので、より実用性の高い
抗体を極めて効率良く生産することができる。
【0270】このように、本発明によって、実用性の高
い抗体等のリガンドを効率的に生産することができるた
め、本発明は、臨床検査用や疾病治療用の医薬品を生産
する医薬品産業や化学産業、さらにはHTS等を製造す
る機械産業、スクリーニング条件や得られた結果等を解
析・利用する情報処理産業等に好適に用いることが可能
となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるリガンドの生産方法の一例を示
す概略工程図である。
【図2】図1に示すリガンドの生産方法において、スク
リーニング工程の概要を示す模式図である。
【図3】(a)は、図1に示すリガンドの生産方法にお
いて、スクリーニング工程の固定化段階で、疎水吸着に
より抗原を担体表面に直接吸着させた状態を示す模式図
であり、(b)は、上記固定化段階で、ビオチン−アビ
ジンの結合によるリンカーを介して、抗原を担体表面に
間接的に吸着させた状態を示す模式図である。
【図4】(a)は、図1に示すリガンドの生産方法にお
いて、スクリーニング工程の固定化段階で、担体表面が
露出した状態を示す模式図であり、(b)は、上記露出
した表面をブロッキングタンパク質でブロックした状態
を示す模式図である。
【図5】図1に示すリガンドの生産方法において、S−
S結合を介して抗原を担体に固定し、これを還元切断し
て強制的にファージ抗体を溶出する状態を示す説明図で
ある。
【図6】図1に示すリガンドの生産方法において、抗原
とファージ抗体とが会合・解離して平衡状態にあること
を示す模式図である。
【図7】特定の抗原を認識する抗体について、解離定数
KDと会合速度係数konとの間の相関関係を示すグラフで
ある。
【図8】同じ10-9Mの解離定数KDを有する3つの抗体
における結合率の経時変化を示すグラフである。
【図9】図1に示すリガンドの生産方法において、会合
速度定数測定段階にて、遊離した抗体をELISAで定
量する際に用いられる、吸光度と抗体濃度との関係を示
すグラフである。
【図10】本発明にかかるリガンド生産システムの一例
を示すブロック図である。
【図11】図10に示すリガンド生産システムにおい
て、制御部によるHTS部の制御の一例を示すフローチ
ャートである。
【図12】(a)は、本発明の一実施例において、抗RN
ase A scFv抗体遺伝子のH1領域に、ApaIサイトと終止コ
ドンを導入するためのオリゴヌクレオチドを示す塩基配
列図であり、(b)および(c)は、上記H1領域の5’
側にあるApaIサイトからH3領域の3’側にあるEcoT14I
サイトの配列をPCRによって調製するために用いたプ
ライマーを示す塩基配列図である。
【図13】本発明の一実施例において、模擬ライブラリ
ーを用いて所定条件でバイオパニング処理をシミュレー
ションした際に、ファージ抗体の回収率Ffに及ぼす結合
時間tbの影響を前記式(4)を用いてシミュレーション
した結果を示すグラフである。
【図14】本発明の一実施例において、模擬ライブラリ
ーを用いて所定条件でバイオパニング処理をシミュレー
ションした際に、最高会合速度ファージ抗体の存在比R
(H/ T)に及ぼす結合時間tbの影響を前記式(8)を用い
てシミュレーションした結果を示すグラフである。
【図15】本発明の一実施例において、模擬ライブラリ
ーを用いて所定条件でバイオパニング処理をシミュレー
ションした際に、ファージ抗体の回収率Ffに及ぼす洗浄
時間twの影響を前記式(4)を用いてシミュレーション
した結果を示すグラフである。
【図16】本発明の一実施例において、模擬ライブラリ
ーを用いて所定条件でバイオパニング処理をシミュレー
ションした際に、最高会合速度ファージ抗体の存在比R
(H/ T)に及ぼす洗浄時間twの影響を前記式(8)を用い
てシミュレーションした結果を示すグラフである。
【図17】本発明の一実施例において、模擬ライブラリ
ーを用いて所定条件でバイオパニング処理をシミュレー
ションした際に、ファージ抗体の回収率Ffに及ぼす有効
抗原濃度Ageffの影響を前記式(4)を用いてシミュレ
ーションした結果を示すグラフである。
【図18】本発明の一実施例において、模擬ライブラリ
ーを用いて所定条件でバイオパニング処理をシミュレー
ションした際に、最高会合速度ファージ抗体の存在比R
(H/ T)に及ぼす有効抗原濃度Ageffの影響を前記式(8)
を用いてシミュレーションした結果を示すグラフであ
る。
【符号の説明】
11 制御部(制御手段) 17 HTS部(高速スクリーニング手段) 17a ディスペンサー 17b 第一インキュベーター 17c ELISA部(ELISAを実施する手段) 17d 分離部 17e 第二インキュベーター 17f ロボットアーム
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 岸本 通雅 京都府京都市西京区樫原角田町1−24 (72)発明者 大政 健史 兵庫県西宮市田近野町3番地6−201 Fターム(参考) 4H045 AA20 DA75 EA50 FA74

Claims (16)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】バイオパニングによって、リガンドライブ
    ラリーから特定のターゲットと特異的に結合する特定の
    リガンドをスクリーニングするスクリーニング工程を含
    むリガンドの生産方法において、 さらに、目的となる上記特定のリガンドのスクリーニン
    グ工程における見かけの会合速度定数と、解離速度定数
    もしくは解離定数とを仮定するとともに、 これら定数を含み、リガンドの回収率を表す数式モデル
    を用いて、リガンドライブラリーを固定化したターゲッ
    トと接触させる結合時間、ターゲットに結合しなかった
    リガンドを洗浄除去する洗浄時間、および固定化したタ
    ーゲットの有効濃度のうち少なくとも何れかのスクリー
    ニング条件を設定する条件設定段階を含むことを特徴と
    するリガンドの生産方法。
  2. 【請求項2】上記数式モデルとして、次式 【数1】 (ただし、Ffは回収率であり、kon(app)はスクリーニン
    グ工程におけるリガンドの見かけの会合速度定数であ
    り、koffはリガンドの解離速度定数であり、tbは結合時
    間であり、twは洗浄時間であり、Ageffは固定化したタ
    ーゲットの有効濃度である。)が用いられることを特徴
    とする請求項1に記載のリガンドの生産方法。
  3. 【請求項3】リガンドライブラリーをターゲットと接触
    させる結合時間を10分以下とすることを特徴とする請
    求項1または2に記載のリガンドの生産方法。
  4. 【請求項4】リガンドライブラリーを、粘度3cp以上
    の溶液に調製することを特徴とする請求項1、2または
    3に記載のリガンドの生産方法。
  5. 【請求項5】ターゲットに結合しなかったリガンドを洗
    浄除去する洗浄時間を30分以下とすることを特徴とす
    る請求項1ないし4の何れか1項に記載のリガンドの製
    造方法。
  6. 【請求項6】固定化したターゲットの有効濃度を1×1
    -9M〜1×10-5Mの範囲内とする請求項1ないし4
    の何れか1項に記載のリガンドの生産方法。
  7. 【請求項7】上記リガンドライブラリーとして、ファー
    ジディスプレイ法により作製された、ファージライブラ
    リーが用いられることを特徴とする請求項1ないし6の
    何れか1項に記載のリガンドの生産方法。
  8. 【請求項8】上記リガンドライブラリーとして、特定の
    リガンドに対してランダムに変異を導入した2次ライブ
    ラリーが用いられることを特徴とする請求項1ないし7
    の何れか1項に記載のリガンドの生産方法。
  9. 【請求項9】さらに、1×105-1-1以上の真の会
    合速度定数を有するリガンドを1分子以上回収できるよ
    うに、上記数式モデルを用いて、上記スクリーニング条
    件を設定することを特徴とする請求項1ないし8の何れ
    か1項に記載のリガンドの生産方法。
  10. 【請求項10】上記リガンドが抗体であることを特徴と
    する請求項1ないし9の何れか1項に記載のリガンドの
    生産方法。
  11. 【請求項11】吸光度と抗体濃度とが比例する範囲内で
    抗原と抗体とを混合し、一定時間反応させた後、遊離の
    抗体をELISAで定量し、抗体の結合率の時間変化を
    表す理論式を用いて真の会合速度定数を求める会合速度
    定数測定段階を含むことを特徴とする請求項10に記載
    のリガンドの生産方法。
  12. 【請求項12】上記理論式として、次式 【数2】 (ただし、Ftは結合率であり、konはリガンドの真の会
    合速度定数であり、KDは解離定数であり、Agtotはター
    ゲットの全濃度であり、tは時間である。)が用いられ
    ることを特徴とする請求項13に記載のリガンドの生産
    方法。
  13. 【請求項13】バイオパニングによって、リガンドライ
    ブラリーから特定のターゲットと特異的に結合する特定
    のリガンドをスクリーニングする高速スクリーニング手
    段と、少なくとも上記高速スクリーニング手段の動作を
    制御する制御手段とを備えており、 さらに、上記制御手段は、目的となる上記特定のリガン
    ドの上記スクリーニング工程における見かけの会合速度
    定数と、解離速度定数もしくは解離定数とを仮定すると
    ともに、 これら定数を含み、リガンドの回収率を表す数式モデル
    を用いて、リガンドライブラリーを固定化したターゲッ
    トと接触させる結合時間、ターゲットに結合しなかった
    リガンドを洗浄除去する洗浄時間、および固定化したタ
    ーゲットの有効濃度のうち少なくとも何れかのスクリー
    ニング条件を設定することを特徴とするリガンド生産シ
    ステム。
  14. 【請求項14】スクリーニング工程に用いる上記数式モ
    デルとして、次式 【数3】 (ただし、Ffは回収率であり、kon(app)はリガンドの上
    記スクリーニング工程における見かけの会合速度定数で
    あり、koffはリガンドの解離速度定数であり、tbは結合
    時間であり、twは洗浄時間であり、Ageffは固定化した
    ターゲットの有効濃度である。)が用いられることを特
    徴とする請求項13に記載のリガンド生産システム。
  15. 【請求項15】上記リガンドとして抗体を生産するよう
    になっており、 さらに、上記高速スクリーニング手段には、少なくとも
    ELISAを実施する手段が含まれており、 上記制御手段は、高速スクリーニング手段に、吸光度と
    抗体濃度とが比例する範囲内で抗原と抗体とを混合して
    一定時間反応させた後、遊離の抗体をELISAで定量
    させるとともに、 抗体の結合率の時間変化を表す理論式を用いて真の会合
    速度定数を求めることを特徴とする請求項13または1
    4に記載のリガンド生産システム。
  16. 【請求項16】リガンドのELISAによる評価におけ
    る上記理論式として、次式 【数4】 (ただし、Ftは結合率であり、konはリガンドの真の会
    合速度定数であり、KDは解離定数であり、Agtotはター
    ゲットの全濃度であり、tは時間である。)が用いられ
    ることを特徴とする請求項15に記載のリガンド生産シ
    ステム。
JP2002118426A 2002-04-19 2002-04-19 高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム Withdrawn JP2003313197A (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2002118426A JP2003313197A (ja) 2002-04-19 2002-04-19 高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2002118426A JP2003313197A (ja) 2002-04-19 2002-04-19 高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム

Publications (1)

Publication Number Publication Date
JP2003313197A true JP2003313197A (ja) 2003-11-06

Family

ID=29535325

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2002118426A Withdrawn JP2003313197A (ja) 2002-04-19 2002-04-19 高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP2003313197A (ja)

Cited By (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2007108204A1 (ja) * 2006-03-16 2007-09-27 Sumitomo Bakelite Co., Ltd. 分析試料調製方法および分析試料ならびに糖鎖捕捉物質
CN107597715A (zh) * 2017-09-14 2018-01-19 江苏星浪光学仪器有限公司 一种滤光片不良品回收方法

Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2007108204A1 (ja) * 2006-03-16 2007-09-27 Sumitomo Bakelite Co., Ltd. 分析試料調製方法および分析試料ならびに糖鎖捕捉物質
US7964410B2 (en) 2006-03-16 2011-06-21 Sumitomo Bakelite Company, Ltd. Method for preparing analysis sample, analysis sample and sugar chain capture agent
JP5115988B2 (ja) * 2006-03-16 2013-01-09 住友ベークライト株式会社 分析試料調製方法および分析試料ならびに糖鎖捕捉物質
CN107597715A (zh) * 2017-09-14 2018-01-19 江苏星浪光学仪器有限公司 一种滤光片不良品回收方法

Similar Documents

Publication Publication Date Title
EP1360207B1 (en) Protein arrays of camelid heavy-chain immunoglobulin variable domains
JP5677835B2 (ja) 血液型抗体スクリーニング
US20030044772A1 (en) Methods for identifying ligand specific binding molecules
JP2002502977A (ja) マイクロアレイとその使用
JP2001503131A (ja) 医薬ライブラリーをスクリーニングするための組成物および方法
JP2005516183A (ja) 検体を検出および測定するための非抗体タンパク質の使用方法
US9983203B2 (en) Method for protein analysis
WO2003062402A2 (en) Use of collections of binding sites for sample profiling and other applications
JP2018154627A (ja) スクリーニング方法およびその使用
US20030143612A1 (en) Collections of binding proteins and tags and uses thereof for nested sorting and high throughput screening
Pavlickova et al. Microarray of recombinant antibodies using a streptavidin sensor surface self-assembled onto a gold layer
US8030006B2 (en) Blood typing
US20160312383A1 (en) Method for screening anti-ligand libraries for identifying anti-ligands specific for differentially and infrequently expressed ligands
WO2002095407A1 (fr) Procede de dosage immunologique
Hsiao et al. Continuous microfluidic assortment of interactive ligands (CMAIL)
US20130053271A1 (en) Self-Assembled Bead-Based Multiplexed Assay For Antigen-Specific Antibodies
JP2003527605A (ja) 生物学的物質マイクロアレイの作製および使用方法
Tang et al. Isolation of artificial binding proteins (Affimer reagents) for use in molecular and cellular biology
JP2003313197A (ja) 高い会合速度定数を有するリガンドの生産方法、およびこの生産方法を実施するリガンド生産システム
Pei et al. Enhanced surface plasmon resonance immunoassay for human complement factor 4
JP2010538659A (ja) デュアルベイトレポーターを用いてscFvスクリーニングにおける特異性を増大させる方法
JP2006105803A (ja) 生体試料物質の分析方法、分析装置、マイクロアレイ及びイムノアッセイ
JP3216452B2 (ja) 免疫測定法及びその装置
CN112730836B (zh) 基于sers传感基底的多种肿瘤标志物的非诊断性检测方法
JP2005147718A (ja) マイクロビーズアレイ作製法

Legal Events

Date Code Title Description
A711 Notification of change in applicant

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A712

Effective date: 20031031

RD03 Notification of appointment of power of attorney

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A7423

Effective date: 20040129

A300 Withdrawal of application because of no request for examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A300

Effective date: 20050705