JP2003277292A - マラリア原虫伝搬阻止粘膜ワクチン - Google Patents

マラリア原虫伝搬阻止粘膜ワクチン

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JP2003277292A
JP2003277292A JP2002084169A JP2002084169A JP2003277292A JP 2003277292 A JP2003277292 A JP 2003277292A JP 2002084169 A JP2002084169 A JP 2002084169A JP 2002084169 A JP2002084169 A JP 2002084169A JP 2003277292 A JP2003277292 A JP 2003277292A
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vaccine
mucosal
transmission
protein
malaria
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JP2002084169A
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English (en)
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Takeshi Shinkawa
武 新川
Motomi Torii
本美 鳥居
Yoshifumi Tsuboi
敬文 坪井
Yoshinari Sato
良也 佐藤
Masayuki Tadano
昌之 只野
Yasuki Matsumoto
安喜 松本
Naotoshi Tsuji
尚利 辻
Isao Shimabukuro
勲 島袋
Shigetoshi Sato
茂俊 佐藤
Masaru Nagamine
勝 長嶺
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University of the Ryukyus NUC
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    • Y02TECHNOLOGIES OR APPLICATIONS FOR MITIGATION OR ADAPTATION AGAINST CLIMATE CHANGE
    • Y02ATECHNOLOGIES FOR ADAPTATION TO CLIMATE CHANGE
    • Y02A50/00TECHNOLOGIES FOR ADAPTATION TO CLIMATE CHANGE in human health protection, e.g. against extreme weather
    • Y02A50/30Against vector-borne diseases, e.g. mosquito-borne, fly-borne, tick-borne or waterborne diseases whose impact is exacerbated by climate change

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  • Medicines Containing Antibodies Or Antigens For Use As Internal Diagnostic Agents (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 本発明は、粘膜投与によるマラリア原虫伝搬
阻止ワクチンを提供することを目的とする。 【解決手段】 本発明は、粘膜アジュバントおよびマラ
リア原虫伝搬阻止抗原の混合物を含むことを特徴とする
ワクチンを提供する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、粘膜アジュバント
およびマラリア原虫伝搬阻止抗原を含有することを特徴
とするマラリア原虫伝搬阻止粘膜ワクチンに関する。
【0002】
【従来の技術】これまで過去数十年にわたり莫大な尽力
がマラリア感染の征圧のために投入され、効果的な抗マ
ラリア薬の開発およびDDTのような殺虫剤が開発され
たことなどからマラリア発生率は顕著に減少した。しか
し、そのような薬剤の使用は薬剤耐性原虫および殺虫剤
耐性媒介蚊を出現させ、現在では抗マラリア薬による直
接的な感染治療、および媒介生物の駆除を介しての間接
的な原虫駆除などの方法のみでマラリアを制御すること
は著しく困難なものとなってきている。このようなマラ
リア征圧における現状から、宿主側の免疫機能を有効に
利用するワクチン接種がマラリア制御戦略のもう一方の
有効手段として、以前にも増して重要となってきてお
り、WHOおよびその他の国際機関が有効なワクチンの
開発を待ち望んでいる。しかしながら、マラリアに限ら
ず、デング熱、日本脳炎など、多くの感染症の蔓延に実
際に悩まされているアジア、アフリカ、中南米諸国の経
済途上国では、費用がかかりすぎるという理由から、従
来型ワクチンの接種を普及させることはきわめて困難で
あり、世界規模での感染症対策が円滑に行えないという
のが現状である。
【0003】また、マラリア原虫感染に対する有効なワ
クチンは未だ開発されていない。その理由は、ヒトの獲
得防御免疫に関する主要な原虫由来の抗原や免疫誘導機
構など、不明な点が多くあるためであるが、とりわけ重
大な理由は、マラリア原虫は高度に発達した免疫回避機
構によりヒト宿主の免疫監視から逃れるシステムを発達
させており、防御免疫の獲得が困難なことである。この
ような宿主免疫監視からの回避機構はマラリア原虫の遺
伝子多型や抗原性の多様性などに起因しており、ヒト体
内で各発生段階に応じて表面の抗原が変化するためであ
ると考えられている。このようなことから感染患者内の
無性生殖期の原虫を標的としたワクチンは、未感染者の
感染防御および感染患者の症状緩和において若干の効果
はあるものの、実用化に至る有効なワクチンは開発され
ていない。また、宿主免疫監視から回避したマラリア原
虫に対しては効果がなく、伝搬阻止の目的にはあまり有
効ではない。
【0004】このような理由からマラリア原虫の伝搬を
阻止するためには、伝搬阻止ワクチン(図1〜4)が有
効と考えられる。伝搬阻止ワクチンは、媒介蚊内で有性
生殖期にあるマラリア原虫の表面抗原の変異性が、宿主
内マラリア原虫のそれと比べ低いことに依拠するもので
ある。有性生殖期のマラリア原虫の表面抗原を含有する
伝搬阻止ワクチンは、前記表面抗原を標的とする抗体を
ヒト体内で産生させ、ワクチンを投与されたヒトがその
後感染した場合でも、すでに感染している場合でも、効
果的に媒介蚊からヒトへのマラリア伝搬を阻止するもの
である(図1)。即ち、吸血した蚊は中和抗体を中腸内
に取り込み、そこでの原虫発育を阻害する。その作用機
構上、伝搬阻止ワクチンはマラリア原虫の生活環を媒介
蚊の段階で遮断して感染の伝搬を阻止するため、ワクチ
ン接種を受ける本人に対しては感染防御効果や症状の緩
和などの直接的な効果がない。また、前記表面抗原は感
染患者に存在するマラリア原虫では発現していないこと
から、感染原虫がたとえ体内に存在していても前記表面
抗原に対するブースト効果が生じないため、感染患者で
さえも継続的なワクチン接種によって抗体価を維持する
必要がある。
【0005】以上のように、マラリアの根絶には伝搬阻
止ワクチンが有効であるが、感染地域のできるだけ多く
の対象に継続して接種する必要があること、また接種す
る対象が感染・発症から守られないこと、さらに従来の
注射投与ではコストがかかることなどの理由から、マラ
リア浸淫地域での実用化が困難とされている。
【0006】遺伝子組換え技術によって作り出された組
換え蛋白質ワクチンの経口および経鼻などの経粘膜免疫
法によるワクチンは、注射器を必要としない利便性のあ
る易接種型ワクチンであり、コスト的にも従来型ワクチ
ンより優れている。また、経粘膜免疫法は痛みを伴わな
いので生殖母体を多く有する感染した子供を対象とする
ことが比較的容易であり、継続的な集団ワクチン接種が
可能となる。更に、経粘膜ワクチンは、組換え植物を使
用した「食べるワクチン」としての可能性を秘めてい
る。このような「食べるワクチン」は究極的な接種法で
あり、コスト面できわめて優れていると考えられてい
る。
【0007】このように粘膜投与型のワクチンは前記課
題の有効な解決策と思われるが、媒介蚊の吸血によって
伝搬するマラリアの侵入部位は、ポリオやインフルエン
ザのように腸管や呼吸器の粘膜ではない。そのため、従
来はマラリアのワクチンを粘膜から接種するという発想
がなかったことなどから、粘膜投与型のワクチンはいま
だ提案されてない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】前記課題を解決し、集
団的・継続的なワクチン実施体制を確立するために、本
発明は易接種型で痛みを伴わない粘膜投与型の伝搬阻止
ワクチンを提供することを目的とする。
【0009】より具体的には、粘膜アジュバントおよび
マラリア原虫伝搬阻止抗原の混合物を含むことを特徴と
するマラリア原虫伝搬阻止粘膜ワクチンを提供すること
を目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、有性生殖
期(媒介蚊内での発育)のマラリア原虫の抗原(ヒトの
体内で増殖する原虫では発現していない)を伝搬阻止ワ
クチンとして使用し、有性生殖期のマラリア原虫に対す
る特異的血中抗体を経粘膜投与によって誘導することを
試みた。また、粘膜アジュバントを用いることで免疫増
強効果を獲得することを試みた。
【0011】上記課題を解決するため鋭意研究を行った
結果、粘膜アジュバントおよびマラリア原虫伝搬阻止抗
原との混合物がマラリア原虫伝搬阻止粘膜ワクチンとし
て機能することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】すなわち、本発明の一つの態様に従えば、
粘膜アジュバントおよびマラリア原虫伝搬阻止抗原を含
有することを特徴とする粘膜ワクチンが提供される。
【0013】本発明の更に別の態様に従えば、前記粘膜
ワクチンを使用したマラリア伝搬を阻止する方法が提供
される。
【0014】本発明において、前記粘膜アジュバント
は、好ましくはコレラトキシン蛋白質(CT)、より好
ましくはコレラトキシンB鎖蛋白質(CTB)である。
【0015】また、本発明において、前記マラリア原虫
伝搬阻止抗原は、好ましくはマラリア原虫虫様体の表面
抗原、より好ましくはPys25蛋白質またはPvs2
5蛋白質である。
【0016】以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明のマラリア原虫の伝搬を阻
止するワクチンは、粘膜アジュバントおよびマラリア原
虫伝搬阻止抗原を含有することを特徴とする。
【0018】ここで、「粘膜アジュバント」とは、粘膜
組織や免疫担当細胞(T細胞、B細胞、樹状細胞、マク
ロファージ等)に対する特異的親和性を有するなどの性
質をもつ蛋白質をいい免疫増強効果やワクチン運搬機能
をもつもののことである。前記粘膜アジュバントは、た
とえばコレラトキシン蛋白質(CT)、コレラトキシン
B鎖蛋白質、毒素原性大腸菌(LTB)、弱毒サルモネ
ラ菌もしくは乳酸菌等の細菌、ウイルス、病原体、また
はその他に由来する、粘膜細胞表面や免疫担当細胞に対
する特異的親和性を有する蛋白質を使用することができ
る。本発明は、このような粘膜アジュバントをマラリア
原虫伝搬阻止抗原と組合わせることにより、経粘膜投与
によるワクチン接種によって、マラリア原虫伝搬阻止抗
原での有効な免疫賦与を可能にしたものである。
【0019】本発明の一つの態様において、前記粘膜ア
ジュバントは、好ましくはコレラトキシン蛋白質(C
T)であり、より好ましくはコレラトキシンB鎖蛋白質
(CTB)である。
【0020】本発明の「マラリア原虫伝搬阻止抗原」と
は、有性生殖期(媒介蚊内での発育)のマラリア原虫で
発現する変異しないか、または、変異の少ない抗原であ
る。既述したように、該抗原に対して誘導された抗体
は、媒介蚊内でマラリアの発生を阻害する効果を呈す
る。したがって、この抗原に対する免疫を誘導すること
によって、結果的に媒介蚊からヒトへのマラリア伝搬を
阻止することができる。この抗原は前記マラリア原虫伝
搬阻止抗原の性質を有するものであればよいが、好まし
くは有性生殖期のマラリア原虫の表面に発現する抗原で
あり、より好ましくはマラリア原虫の虫様体の表面に発
現する蛋白質であり、最も好ましくはPys25蛋白質
またはPvs25蛋白質に由来する抗原である。
【0021】また、前記マラリア原虫伝搬阻止ワクチン
は、前記粘膜アジュバントと前記マラリア原虫伝搬阻止
抗原の融合蛋白質を含むものであってもよい。この融合
蛋白質は、前記粘膜アジュバントの遺伝子および前記マ
ラリア原虫伝搬阻止抗原の遺伝子が得られれば、これら
の遺伝子を適切な発現ベクターに組込み、該発現ベクタ
ーを適切な宿主に形質転換することにより、当該技術分
野において周知の方法を用いて製造することができる。
【0022】本発明のワクチンは、前記蛋白質(粘膜ア
ジュバントおよびマラリア原虫伝搬阻止抗原)を含有す
ることを特徴とするが、前記ワクチンは、たとえばひと
つ以上の薬学的に、又は獣医学的に許容される担体を含
んでいてもよく、必要に応じて他の治療成分と組み合わ
せることが好ましい。前記担体は、ワクチン中の他の成
分と適合し、その投与対象に対して害がないという意味
で「許容される」ものでなければならない。当然のこと
ながら、その成分は意図する投与経路に応じて変動し、
薬学分野での周知の方法によって調製され得る。また、
本発明のワクチンの用量は、様々な要因に基づいて、適
切な投与量レベルで投与すればよい。このような用量
は、医師または獣医師であれば、容易に適切な投与量レ
ベルを決定できるであろう。
【0023】本発明のワクチンは、経粘膜接種されるこ
とが特徴であり、鼻腔粘膜に接種するのが特に好まし
い。
【0024】以下、本発明に使用する蛋白質の一例につ
いて、その取得方法を説明する。
【0025】本発明において使用する蛋白質の幾つか
は、商業的に入手可能である。例えば、コレラトキシン
蛋白質(CT)およびコレラトキシンB鎖蛋白質(CT
B)はシグマケミカル社(St.Louis, M
O.)から商業的に入手可能である。
【0026】また、商業的に入手できないときでも、コ
レラトキシン蛋白質(CT)またはコレラトキシンB鎖
蛋白質(CTB)、並びにPys25遺伝子およびPv
s25遺伝子などのマラリア原虫伝搬阻止抗原をコード
するcDNA配列は公知であるので、それらの配列を基
にして、当業者に周知の技術により、これら蛋白質をコ
ードする遺伝子を得ることができる。即ち、プライマー
を設計して通常のPCR法により、又は化学合成によ
り、あるいは該塩基配列を有するDNA断片をプローブ
としてハイブリダイズさせることにより、これら蛋白質
の遺伝子を得ることができる。
【0027】具体的には、例えば、本発明に使用する蛋
白質のうち、コレラトキシンB鎖蛋白質(CTB)をコ
ードするDNAの取得法としては、以下の反応条件、テ
ンプレート、およびプライマーを使用してPCRを行う
ことによって、CTB遺伝子を増幅できる; テンプレート:コレラ菌(Vibrio choler
ae)のゲノムDNA、N−terminal pri
mer: 5’−GCGCCATGGTTAAATTAAAATT
TGGTGTT−3’(配列番号1) C−terminal primer: 5’−CGCGAGCTCTTAAAGTTCATCC
TTTTCGGATCCTGGACTAGTAGGGG
TACCGGGCCCGGGTCCATTTGCCAT
ACTAATTGCGGCAATCGC−3’(配列番
号2) PCR条件:94℃において3分の後、94℃において
45秒、55℃において1分、72℃において1分を3
0サイクル、次に72℃において10分。
【0028】また、本発明に使用する蛋白質のうち、マ
ラリア原虫伝搬阻止抗原であるPvs25蛋白質をコー
ド遺伝子は、例えば、以下の反応条件、テンプレート、
およびプライマーを使用してPCRを行うことによっ
て、Pvs25遺伝子を増幅できる; テンプレート:Salvador I株の三日熱マラリ
ア原虫(Plasmodium vivax)のゲノム
DNA、 N−terminal primer: 5’−TATAGCGCTAGCGCCGTCACGG
TATACACC−3’(配列番号3) C−terminal primer: 5’−TACAGAGGGCCCAAGGCATACA
TTTTTCTC−3’(配列番号4) PCR条件:94℃において2分変性した後、変性条件
を94℃、アニーリング条件を42℃、伸長条件を72
℃にして、それぞれ1分の反応を3サイクル、その後は
アニーリング温度を62℃にして更に25サイクルの反
応をおこなう。
【0029】次に、上記のようにして得られた遺伝子
を、適切な発現ベクターに組込み、これを適切な宿主細
胞に導入して得られた形質転換体を培養し、前記組込ま
れた遺伝子を発現させることにより、コレラトキシンB
鎖蛋白質およびマラリア原虫伝搬阻止抗原蛋白質を得る
ことができる。このような遺伝子組換え技術は、当業者
に周知である。なお、上記二つの遺伝子を適切に連結
し、これを一つの発現ベクターに組込んで、適切な宿主
細胞内で発現させることにより、上記二つの蛋白質の融
合蛋白質を得ることができる。このような融合蛋白質を
得る方法も、当業者に周知である。
【0030】こうして得られた目的の蛋白質は、必要に
応じて適宜精製して使用する。そのような精製方法とし
ては、次のような方法が挙げられる。即ち、例えば硫安
塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマ
トグラフィー、ハイドロフォービッククロマトグラフィ
ー、逆相クロマトグラフィー等の方法を組み合わせるこ
とにより精製する方法;前記蛋白質または前記融合蛋白
質を発現させる際に、種々の精製用タグ(例えばHi
s、GST、T7、チオレドキシン等)を付加して発現
させ、それぞれのアフィニティーカラムを利用したアフ
ィニティークロマトグラフィーにより精製する方法;前
記蛋白質または前記融合蛋白質に特異的なモノクローナ
ル抗体又はポリクローナル抗体を用いて作製したイムノ
アフィニティーカラムを用い、イムノアフィニティーク
ロマトグラフィーにより精製する方法;およびGM1ガ
ングリオシドをカップリングさせたカラムを用いたアフ
ィニティークロマトグラフィー(CTBは、GM1ガン
グリオシドに対する特異的親和性を有していることが明
らかである)により精製する方法などである。
【0031】粘膜アジュバントは粘膜細胞表面や免疫担
当細胞に親和性を有する限り、及び、マラリア原虫伝搬
阻止抗原は、免疫誘導活性を有する限り、当該アミノ酸
配列において少なくとも1個のアミノ酸に欠失、置換、
付加等の変異が生じてもよい。例えば、前記蛋白質(粘
膜アジュバントまたはマラリア原虫伝搬阻止抗原)また
は前記融合蛋白質のアミノ酸配列の少なくとも1個、好
ましくは1〜50個程度、さらに好ましくは1〜20個
のアミノ酸が欠失してもよく、又は、アミノ酸配列に少
なくとも1個、好ましくは1〜50個程度、さらに好ま
しくは1〜20個のアミノ酸が付加してもよく、或い
は、アミノ酸配列の少なくとも1個、好ましくは1〜5
0個程度、さらに好ましくは1〜20個のアミノ酸が他
のアミノ酸に置換してもよい。前記蛋白質または前記融
合蛋白質は、粘膜細胞および/または免疫担当細胞に対
する特異的親和性または免疫誘導活性を有している限
り、より短い、またはより長いペプチド配列をコードし
てもよい。ここで、免疫誘導活性とは、前記蛋白質また
は前記融合蛋白質を投与された動物が、それらを体内に
取り込み、異物として認識し、それらに対する抗体を体
内に生産し、かつ該抗体が前記蛋白質または前記融合蛋
白質の活性部分に作用してマラリア原虫の伝搬を阻害す
る活性を意味する。例えば、前記蛋白質または前記融合
蛋白質の粘膜アジュバントにおいては、粘膜細胞表面に
親和性あるいは免疫増強効果を有することを意味し、マ
ラリア原虫伝搬阻止抗原においては、マラリア原虫抗原
に対する抗体産生を体内に誘導することを意味する。
【0032】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に
説明する。但し、本発明はこれら実施例にその技術的範
囲が限定されるものではない。なお、以下の説明では各
系列の実験ごとに種々の公知文献が参照される。これら
文献の書誌的事項は、発明の詳細な説明の項の末尾にあ
る配列表の直前に各系列ごとに列記する。
【0033】
【第1系列の実験】ネズミマラリア(Plasmodi
um yoelii)の虫様体表面蛋白質(OSP:o
okinete surface proteins)
Pys25とコレラ毒素の共経鼻投与によるマウスにお
ける完全伝搬阻止免疫の誘導。
【0034】<材料および方法>Pys25蛋白質の発現および精製 Pys25遺伝子をコードする遺伝子は、公知のPys
25遺伝子の塩基配列をもとに設計したプライマーセッ
ト、および、ネズミマラリア(Plasmodium
yoelii)のDNAを鋳型として使用したPCR法
により増幅した。
【0035】Pys25遺伝子をコードするPCR産物
をYEpRPEU−3プラスミッドに導入した。YEp
RPEU−3プラスミッドは酵母のエピゾームプラスミ
ッドであって、マルチクローニングサイトの5’側に酵
母の蛋白質分解酵素であるKEX2の切断部位配列を終
端部に有する分泌性α―因子配列をコードしている。
【0036】前記プラスミッドのマルチクローニングサ
イトの下流には6つのヒスチジン、そして終止コドンを
コードする領域が設けられている。組換え型蛋白質はα
―因子配列の5’側に配置したエタノール誘導性のAD
H2プロモーターの支配下で産生される。形質転換体の
プラスミッド保持はトリプトファン選択により維持し
た。全てのプラスミッド構築物DNAの塩基配列は自動
塩基配列決定装置(ABI377型; PEアプライド
バイオシステムズ社、Norwalk、 Conn.)
を用いて確認した。
【0037】次に、酵母(S. cerevisiae
VK1)を前記のプラスミッド構築物で形質転換し
た。形質転換体のヒスチジン標識蛋白質の分泌を検査し
て、分泌が認められた形質転換体を増殖後に発酵させ
た。
【0038】発酵上清を微量濾過器に回収し、1000
分子量排除限界を有するYD10ラセン中空繊維濾過器
(アミコン社、Beverly、Mass.)による限
外濾過により300mlにまで濃縮した。そして2xP
BS(pH7.4)1.5リッターを用いた透析濾過
(diafiltration)により透析した。
【0039】透析物をニッケル−ニトリロ三酢酸(Ni
−NTA: nickel−nitrilotriac
etic acid)アガロースビーズと4℃で攪拌し
ながらインキュベーションした。1晩インキュベーショ
ンを行った後、クロマトグラフ用のカラムに移して、ア
ガロースビーズを2xPBS(pH7.4)、2xPB
S(pH6.8)、1xPBS(pH6.4)で洗浄し
た。蛋白質をアガロースビーズから0.25M酢酸ナト
リウム(pH4.5)で溶出して、SDS−ポリアクリ
ルアミド電気泳動法(SDS−PAGE)で目的蛋白質
の分子量および目的蛋白質が含まれる画分を確認した。
【0040】目的蛋白質を含有する画分を、16/60
Superdex−75カラム(ファルマシア社、ウ
プサラ、スウェーデン)を用いた分子排除クロマトグラ
フ(size exclusion chromato
graphy)により精製した。目的蛋白質を含有する
画分を保存し、BCA(bicinchoninica
cid)アッセイ(ピアス社、ロックフォード、Il
l.)により蛋白質濃度を決定した。
【0041】組換え型蛋白質の同一性をN端のアミノ酸
配列分析、およびエレクトロスプレーマススペクトル分
析により確認した。
【0042】マウスおよび免疫 7週齢のDBA/2NCrj(DBA/2)および異系
交配ddy雌マウスは日本SLC(東京、日本)から購
入した。伝搬阻止ワクチン抗原Pys25の粘膜での免
疫原性を評価するために、異系交配ddyマウスを抗体
導入実験で使用した。蚊の中腸でのオーシスト形成水準
の顕著な上昇が伝搬阻止ワクチン有効性評価に有用であ
ると報告されているので(Tsuboi等、199
5)、C−5欠損DBA/2マウスを免疫および蚊生体
食餌実験(mosquito live feeds
experiments)の両実験で使用した。5〜1
0μgコレラ毒素(シグマケミカル,St.Loui
s, MO.)と混合した25μgの酵母で合成した組
換え型Pys25(Pys25/CT)により、マウス
を週1回、4週間にわたり経鼻的に免疫した。コントロ
ール群はコレラ毒素(CT)単独で経鼻的に免疫した。
同様に1群のマウスを同じ投与スケジュールで10μg
コレラ毒素を混合した50μgPys25、またはコン
トロール実験としてコレラ毒素単独により経口的に免疫
した。受動免疫の実験では、DBA/2雌マウスをPy
s25/CTまたはCT単独(コントロール)で経鼻的
に免疫したマウス由来のプール免疫血清0.5mlで経
静脈的に受動免疫した。
【0043】酵素結合免疫吸着検定法(ELISA) 平底96ウェルプレート(Immulon4;ダイネッ
クステクノロジー,Chantilly, VA.)を
酵母で合成した組換え型Pys25蛋白質(重炭酸緩衝
液pH9.6中で0.5μg/ウェル)で4℃、1晩コ
ートした。プレートを1%スキムミルク(Difco,
Detroit, MI.)を含有するTBS−T
(0.05%Tween−20含有のトリス緩衝塩類溶
液)中で1時間室温にてブロッキングした。マウス血清
のブロッキング緩衝液による連続希釈系列(100μ
l)を2組の抗原コートしたウェルに添加し、37℃、
2時間インキュベーションした。これらのプレートを各
マウス抗体アイソタイプおよびサブクラスを認識するア
ルカリフォスファターゼ標識2次抗体(100μl/ウ
ェル)とインキュベーションした。結合した2次抗体を
アルカリフォスファターゼ基質(p−ニトロフェニルフ
ォスフェート, シグマケミカル, St.Loui
s, MO.)100μl/ウェルを添加して染色し
た。バイオラッドマイクロプレートリーダー(バイオラ
ッド, Hercules, CA.)により415n
mの波長の吸光度を測定した。抗Pys25血清抗体の
濃度を、抗原およびアルカリフォスファターゼ標識した
抗マウス免疫グロブリン抗体をコートしたプレートでの
間接的ELISAで種々のマウス免疫グロブリン濃度を
測定し作成した標準曲線に基づき決定した。抗体濃度ま
たは吸光度値の統計学的な有意差をシェッフェのF検定
(Scheffe’s F−test)により検定し
た。
【0044】原虫の実験感染、蚊の食餌法、および伝搬
阻止アッセイ 最終免疫の約1週間後、致死系統Plasmodium
yoelii 17Xに感染した末梢赤血球10
胞でマウスを腹腔内感染させた。感染3日後に原虫血症
および血中生殖母体の水準を、ギムザ染色した血液塗抹
標本の顕微鏡検査により検定した。約100個体の雌の
蚊(Anopheles stephensi)を1晩
飢餓状態にして、免疫マウス各群からのマウス血液餌
(blood meal)を摂食させた。摂食しなかっ
た蚊を除き、充血蚊を1.5%フルクトースおよび1.
5%スクロース含有水を与え24℃で1週間飼育した。
各々の実験群で蚊を解剖し、中腸をオーシスト形成数の
計数のため光学顕微鏡下で調べた。オーシスト数の統計
学的な有意差をシェッフェのF検定により検定した。
【0045】受動免疫実験での血清の調製 血液(Pys25/CTまたはCT単独で経鼻的に免疫
したマウスからエーテル麻酔下で心臓穿刺によって採血
した)を1時間室温にて凝固させ、4℃で1晩インキュ
ベーションした。血餅を遠心分離で除き、血清を受動免
疫実験のためにプールした。
【0046】原虫実験感染、蚊の食餌法、および受動的
伝搬阻止アッセイ マウスを上記のようにP. yoeliiで感染させ、
原虫血症の水準が9〜10%に達するまで3日間飼育し
た。約100個体の蚊(Anophelessteph
ensi)に血液餌を免疫血清の受動的移植の前または
5分後に摂食させた。充血蚊を分離し、上記のようにオ
ーシスト形成を調べるために適切な時間飼育した。オー
シスト数の統計学的な有意差をシェッフェのF検定によ
り検定した。
【0047】<結果>組換え型Pys25の粘膜免疫原性 週1回の25μgPys25蛋白質(酵母で合成)およ
び5−10μgコレラ毒素の投与で4週間にわたり経鼻
免疫したDBA/2マウスでの血清抗体応答を調べた。
Pys25特異的血清抗体(全血清IgG抗体レベルお
よびIgM抗体レベル)を最終免疫の1週間後に間接E
LISA法により測定した(図5および図6a)。図6
aにおいて、抗Pys25特異的抗体のレベルは、各群
3〜4個体のマウスから採取したプール免疫血清におけ
る全IgGおよびIgM(主にIgG)の平均濃度±標
準偏差(μg/ml)で表した。統計学的な有意差はP
ys25/CTおよびCT免疫群の間で認められた(P
<0.0001)。
【0048】我々は顕著なレベルの特異的な血清IgG
抗体およびIgM抗体(主にIgG)をCT存在下、P
ys25で経鼻免疫されたマウスで見出した(1414
6.7μg/ml 平均±4241.05標準偏差)。
血清の抗体反応は初回免疫刺激の約4週間後に検出され
た(データ示さず)。CT非存在下での経鼻免疫はPy
s25に対する特異的抗体を検出し得る水準にまで誘導
できなかった。50μgPys25での経口投与による
免疫(経鼻免疫に使用される量の2倍量)は、CTの存
在下でさえ、抗Pys25抗体を検出し得る水準にまで
誘導できなかった。経鼻Pys25/CT免疫により誘
導された血清IgGのサブクラスの構成は主にIgG1
で構成され、低水準ではあるが顕著量のIgG2a抗体
を伴っていた(図6b)。この図においては、血清Ig
G1およびIgG2aサブクラスを測定した結果を、希
釈率128,000でのO.D.415±標準偏差とし
て表した。IgG1/IgG2aの比は約20(1.4
55±0.178/0.075±0.019)であっ
た。
【0049】低水準ではあるが、検出し得る水準の抗P
ys25血清IgAおよびIgE抗体がPys25/C
T経鼻免疫したマウス群でのみ誘導された。しかしなが
ら、IgAおよびIgEアイソタイプの抗体の水準は、
CT免疫のコントロール群と比較して顕著な水準に達さ
なかった(IgA:P=0.09;IgE:P=0.2
0)(図6c)。この図においては、血清IgAおよび
IgEのレベルを測定し、希釈率128,000での平
均O.D.415±標準偏差として表した。両方のアイ
ソタイプで抗体レベルは、CT免疫したコンロトール群
と対比して有意なレベルに達さなかった(IgA:P=
0.09;IgE:P=0.20**)。
【0050】高いIgG力価のマウスは高いIgAおよ
び低いIgE力価を有し、そして低いIgG力価のマウ
スは低いIgAおよび高いIgE力価を示す傾向にあっ
た(データ示さず)。同様な血清の抗体応答は異系交配
マウス系統(ddy)が粘膜免疫実験に使用された際に
も観察された(データ示さず)。
【0051】経鼻免疫の伝搬阻止の有効性 経鼻Pys25/CT免疫の伝搬阻止効果を評価するた
めに、蚊(Anopheles stephensi)
にP. yoelii 17Xの致死性系統を感染させ
た免疫DBA/2マウスの血液餌を摂食させた。CT免
疫コントロールマウスの血液餌を摂食した蚊の中腸にお
いて顕著に多数のオーシストを観察したが(308.9
平均±130.2標準偏差)、Pys25/CT免疫マ
ウスの血液餌を摂食した充血蚊の中腸では全く観察され
なかった(P<0.0001)(図5および図7)。図7
において、オーシスト感染度は中腸毎の平均オーシスト
数±標準偏差で表され、オーシスト感染度での統計学的
な有意差がPys25/CT免疫(0)およびCT免疫
群(308.9±130.2)の間で観察された(P<
0.0001)。
【0052】Pys25/CTで免疫したマウス由来の
免疫血清の伝搬阻止効果を評価するために、免疫血清の
受動的移植処理前後のP. yoelii 17Xに感
染したマウスの血液餌を蚊(An. stephens
i)に摂食させた。免疫血清の受動的移植前の血液餌を
蚊に摂食させた際に、Pys25/CT免疫マウスおよ
びCT免疫マウスの両方で、顕著に多数のオーシストが
蚊の中腸で観察された(Pys25/CT:337.5
平均±75.14標準偏差;CT:335.7平均±7
4.9標準偏差)(図8)。この図においては、オーシ
スト感染度は中腸毎の平均オーシスト数±標準偏差で表
され、統計学的な有意差がPys25/CTおよびCT
免疫群のマウスの両方において受動的移植を行った前
(BF)後(AF)で観察された(Pys25/CT:
337.5±75.14に対して0、P<0.0001
*1;CT:335.7±74.9に対して103.8
5±54.99、P<0.0001*2)。移植後処理
のPys25/CTおよびCT免疫群の間においても統
計学的な有意差が認められた(P<0.000
**)。
【0053】この結果と対比して、受動的移植後に血液
餌を与えた場合にはPys25/CT免疫群においてオ
ーシスト感染は観察されなかった(P<0.000
1)。我々はまた、免疫血清の受動的移植の前後でCT
免疫群におけるオーシスト感染度の顕著な減少化を認め
た(335.7平均±74.9標準偏差に対して10
3.85平均±54.99標準偏差、P<0.000
1)。
【0054】<考察>伝搬阻止免疫の誘発に対するマラ
リア原虫OSPに準拠した粘膜ワクチンの可能性を調査
するために、我々は伝搬阻止実験に酵母で合成したPy
s25を使用した。我々は初めて伝搬阻止ワクチン抗原
の粘膜投与が、ほぼ15mg/mlの濃度に達する抗原
特異的血清IgGおよびIgM産生により特徴づけられ
る強い免疫反応性を誘発することを示した。経鼻的免疫
によって達成されるこの強い免疫反応はワクチン接種マ
ウスに完全な伝搬阻止免疫能を与えた。この事実は全て
の充血蚊でオーシスト感染の完全阻止を呈したことから
明白である。
【0055】さらに、我々は粘膜ワクチン接種に基づく
完全な伝搬阻止効果を能動免疫実験のみならず受動免疫
実験においても観察した(図7、8)。オーシスト感染
の罹患率はコントロール血清(CT単独による受動免
疫)に対して100%のままであったが(表1)、我々
は受動免疫の前(335.7平均±74.9標準偏差)
後(103.85平均±54.99標準偏差)でオーシ
スト感染度の顕著な減少を見出した(P<0.000
1)(図8)。コントロール血清によるオーシスト感染
度の減少は、以前Cao等(Cao等、1998a、1
998b)によって報告された自然伝搬阻止効果により
説明することができる。受動的伝搬阻止実験に使用した
免疫血清は、原虫感染の約3.5日後のマウスから得ら
れたものであり、自然伝搬阻止効果は感染3日後(感染
5日後にピークがある)に観察されると報告されてい
る。従って、受動ワクチン接種実験に使用した免疫血清
はマラリア原虫感染によって誘導された自然伝搬阻止免
疫を有するものであると考えられた。
【0056】
【表1】
【0057】このモデルマウスの実験系では、蚊の中腸
のオーシスト形成数を最大にするために補体系の構成因
子を欠損したDBA/2系統を使用した(Tsuboi
等、1995)。しかしながら、自然界でハマダラカ属
の媒介蚊はマラリア原虫にそう頻繁には感染していない
ことが予想される。従って、もし同水準の免疫反応がワ
クチン接種によってヒトで誘導し得るならば、完全な伝
搬阻止効果が達成されるであろうと期待される。
【0058】一般的に、肝臓および赤血球の原虫に対す
るマラリアワクチン開発は、主に哺乳類の宿主免疫系に
よる選択圧に起因するマラリアの抗原変異性により困難
とされる。循環型原虫での遺伝子発現とは異なり、OS
Pのような伝搬阻止ワクチンの標的抗原は、分子の抗原
変異性を回避するであろう宿主免疫機構から免疫的に隠
れている。この現象が効果的マラリアワクチンの開発に
要求される決定的な要素である。実際、P. falc
iparumおよびP. vivaxのOSPが世界の
遠隔地の隔離された地域間においてさえ最小限の抗原変
異性を呈することが示された(Tsuboi、未発表デ
ータ)。
【0059】また、ワクチン製剤に蚊の体内の発生段階
でのみ発現する抗原を使用しても安全性に関する問題を
提議することにはならないだろう(蚊の中腸で発現する
蛋白質に基づく伝搬阻止ワクチンである場合には)、な
ぜならヒト宿主は蚊の吸血時にそれらの抗原に暴露され
ないからであり、このことは潜在的にアレルギー反応の
ような望まない免疫反応の誘導を回避する。しかしなが
ら、伝搬阻止ワクチン抗原の潜在的な利点は、理想的ワ
クチンにおいて期待される重要な因子の犠牲のもとに成
立する、すなわち(1)感染によるブースター効果、結
果として生じる長期免疫、および(2)ワクチン接種を
うけた個体における直接的な防御効果がないことであ
る。
【0060】もし注射によるワクチン接種法に匹敵する
伝搬阻止免疫が誘導し得るのであれば、ワクチン抗原の
粘膜投与はもうひとつの戦略と成り得るであろう。病原
性微生物の効果的な排除のために、CD8の細胞障害
性T細胞の刺激によって特徴付けられる細胞性免疫反応
の誘導を必要とする感染症とは異なり(Sederおよ
びHill、2000;Infante−Duarte
およびKamradt、1999)、効果的なマラリア
伝搬阻止ワクチンには血清抗体(免疫グロブリンアイソ
タイプの種類にかかわらず)のみが必要とされる。外来
抗原の粘膜投与は液性免疫反応のTh−2サブタイプの
T細胞を動員する傾向にあり、これは血清IgG1およ
び粘膜S−IgAの優勢的な発現誘導によって特徴付け
られるものである(McNeela等、2000;Ya
mamoto等、1997)。従って、我々が本発明に
おいて示したように、粘膜ワクチンとして製剤化された
伝搬阻止抗原は上記の伝搬阻止ワクチンの短所を克服す
る別の有利な特徴を提供するものであり、ワクチンの有
効性を犠牲としないものである。
【0061】肝臓および赤血球ワクチン、並びに蚊の中
腸で発現する蛋白質に基づく伝搬阻止ワクチンを含む他
のマラリアワクチン候補抗原と組み合わせた場合に、O
SP準拠の伝搬阻止ワクチンがマラリア原虫の異なる発
生段階を標的とした非常に効果的な多価ワクチンを提供
し得る、これは結果的にワクチン接種したヒトの感染防
御に対して寄与し、そしてハマダラカ属の媒介蚊集団に
おけるマラリア感染罹患率の減少に寄与する。
【0062】経鼻経路による免疫は経口経路に比べて全
身系および粘膜系の免疫反応の誘導に効果的である(R
ask等、2000)と以前から指摘されていた。これ
は抗原が鼻粘膜に関連するリンパ組織に達するまでに消
化酵素に直接に暴露されないことに主に起因しており、
消化管で部分的または広範囲の抗原分解を生じる経口投
与の場合とは異なるものである。この見解はCTの存在
下でさえ検出し得る水準の抗体応答を誘導できなかった
我々の経口免疫試験の結果を説明し得るものである。今
後、血清抗体誘導における伝搬阻止抗原の経口免疫原性
を改善できるかどうかの調査がなされるべきである。
【0063】本発明において我々はCT(今日知られる
最も強力な粘膜アジュバントのひとつ)をマラリア伝搬
阻止抗原に対する全身系血清免疫反応を誘導する目的で
使用した。しかしながら、ヒトのワクチン製剤でCTを
使用することは潜在的な毒性効果のため禁止されてい
る。他の方法として、毒性のない変異CTが共投与する
抗原として粘膜アジュバントに使用できる、或いはCT
のBサブユニット(CTB)が外来抗原に対して様々な
様式で化学的または遺伝学的に結合した粘膜アジュバン
トとして使用できる(Yamamoto等、2001;
Isaka等、2001;George−Chandy
等、2001)。最近、組換え型5量体CTB分子の生
物学的活性型が細菌の遺伝子発現系(Goto等、20
00)のみならず、トランスジェニック植物(Arak
awa等、1997)および酵母(Arakawa、未
発表データ)の系においても合成されることが報告され
ており、これらの系で発現させた蛋白質を用いたワクチ
ンも使用できる。
【0064】
【第2系列の実験】三日熱マラリア(Plasmodi
um vivax)のPvs25とコレラ毒素のマウス
への共経鼻投与は感染ヒト血液から蚊への原虫伝搬を完
全に阻止する血清抗体を誘導する。
【0065】<材料および方法>Pvs25蛋白質の発現および精製 Pvs25遺伝子をコードするDNAはSalvado
r I株の三日熱マラリア原虫のゲノムDNAを鋳型と
して、以下のプライマーセットを用いて増幅した。
【0066】N−terminal primer: 5’−TATAGCGCTAGCGCCGTCACGG
TATACACC−3’(配列番号3) C−terminal primer: 5’−TACAGAGGGCCCAAGGCATACA
TTTTTCTC−3’(配列番号4) PCRの条件は94℃において2分変性した後、変性条
件を94℃、アニーリング条件を42℃、伸長条件を7
2℃にして、それぞれ1分の反応を3サイクル、その後
はアニーリング温度を62℃にして更に25サイクルの
反応を行った。
【0067】前記反応条件によって増幅したPCR産物
を用いて、既述の「第1系列の実験」の「材料および方
法」に記載した方法と同様にPvs25蛋白質の発現お
よび精製を行った。
【0068】動物および免疫 7週齢の雌のCAF1(H−2d/a)およびA/J
(H−2)マウスは日本SLC(東京、日本)から購入
し、琉球大学の遺伝子実験センターの動物施設で飼育し
た。マウスを5μgのコレラ毒素(CT)(シグマケミ
カル、St.Louis、MO.)と混合した25μg
組換え型Pvs25蛋白質(酵母で合成)で経鼻的に免
疫した。PBS溶液に溶解した20μlワクチン混合液
を軽度の麻酔下で鼻の開口部に投与した。マウスを0、
3、および5週目に合計3回免疫した。ネガティブコン
トロールとして、5μgCT単独またはPBS溶液を同
様なスケジュールで3回経鼻経路でマウスに投与した。
3回目の免疫処理の1週後にマウス殺生し、血液を麻酔
下で心臓穿刺して採取した。採取した血液を室温で1時
間凝固させ、4℃で一晩インキュベーションした。免疫
血清を遠心分離で集め、そして伝搬阻止アッセイをタイ
国の村で実施するまで−80℃で保存した。本発明で実
施した動物試験は、琉球大学の動物の保護及び使用に関
する委員会で承認されたガイドライン及びプロトコルに
従って実施した。
【0069】酵素結合免疫吸着検定法(ELISA) 平底96−ウェルマイクロタイタープレート(Immu
lon 4;ダイネックステクノロジー、Chanti
lly、VA.)を組換え型Pvs25蛋白質(酵母で
合成したもの、重炭酸緩衝液pH9.6中で0.5μg
/ウェル)で4℃、1晩コーティングした。プレートを
PBSに溶解した1%牛血清アルブミン(BSA)(シ
グマケミカル、St.Louis、MO.)で37℃、
2時間ブロッキングした。0.5%BSA(PBSに溶
解)により作成したマウス血清の段階希釈系列(100
μl)を2組の抗原コートしたウェルに添加し、37
℃、2時間インキュベーションした。プレートをアルカ
リホスファターゼ標識した抗マウスIgG(シグマ)
(100μl/ウェル)でインキュベーションした。結
合した二次抗体をアルカリホスファターゼ基質(p−ニ
トロフェニルフォスフェート、シグマケミカル、St.
Louis、MO.)を100μl/ウェルを添加して
染色した。415nmの波長の吸光度をマイクロプレー
トリーダー(バイオラッド, Hercules,C
A.)で測定した。抗Pvs25血清抗体力価を415
nmで0.1吸光度を与える最大血清希釈率として決定
した。吸光度値の統計学的な有意差をシェッフェのF検
定(Scheffe's F−test)により検定し
た。
【0070】伝搬阻止アッセイ 末梢血液サンプルをタイ国の11〜13人の三日熱マラ
リア感染患者から採取した。感染をギムザ染色した血液
塗抹標本により確認した。凝固防止の目的でヘパリンコ
ーティングした注射器で血液を採取し、そしてマウス免
疫血清の等量と混合した。混合液を直ちに37℃に保た
れた膜状給餌装置(membranefeeding
apparatus)にセットして、ケージ内の蚊(A
nopheles stephensi)に約10分
間、随意に吸血させる。吸血しなかった蚊を取り除き、
充血蚊を1.5%フルクトースおよび1.5%サッカロ
ース含有水を与えて1週間、25℃で飼育した。各々の
実験群で蚊を解剖し、オーシスト形成数を計数するため
中腸を光学顕微鏡下で検査した。オーシスト数の統計学
的な有意差をシェッフェのF検定により検定した。
【0071】<結果>血清免疫反応の誘導に対する組換え型Pvs25の経鼻
投与。 マウスを麻酔下で5μgのコレラ毒素と混合した25μ
g組換え型Pvs25(酵母で合成)で免疫した。コー
ティング抗原として500ng/ウェルの組換え型Pv
s25蛋白質を使用した間接的ELISAを実施するた
め、免疫血清を段階希釈した。25μg組換え型Pvs
25(酵母で合成したもの、5μgのCTを共投与す
る)によるマウスの経鼻免疫は、PBS(p<0.00
01)または5μgCT(p<0.0001)を経鼻投
与したコントロール・マウスと比較して、CAF1およ
びA/Jマウス両系統において、血清IgGの顕著量を
誘導した(図9a)。この図において、全血清IgG抗
体力価は415nmで0.1の吸光度を与える最大血清
希釈率の逆数として算出した。エラーバーは各々の免疫
群に対して6〜7匹のマウスから得られた平均値の標準
誤差(SEM)を示す。免疫前マウスの血清はPvs2
5蛋白質を認識しなかった(データ示さず)。
【0072】CAF1血清と比べIgG力価の軽微な上
昇がA/Jマウス血清で観察されたが、この差は統計的
有意差レベル以下であった(68,666.7±7,5
75.9 SEMに対して57,916.7±11,5
51.6 SEM、p=0.8695)。誘導された血
清IgGは主にIgG1サブクラスであり、低いIgG
2a及びIgG2b抗体も誘導された(図9b)。この
図において、血清IgGの各々のサブタイプはIgGサ
ブタイプの2種のマウス免疫グロブリンγFc領域を認
識するアルカリホスファターゼ標識抗体を使用して決定
した。
【0073】Pvs25(CT共投与での)による経鼻
免疫は、マウス両系統(CAF1:21.5、A/J:
22.5)で低いが、検出可能なレベルのPvs25特
異的血清IgA抗体を誘導する、しかしながらPvs2
5特異的IgE抗体力価の増加は、免疫前マウスの血清
と比較してPvs25/CT免疫したマウスで観察され
なかった(図9c)。この図において、血清IgAおよ
びIgE抗体はマウス免疫グロブリンのαFcおよびε
Fc領域を認識するアルカリホスファターゼ標識抗体を
使用して決定した。IgAおよびIgE抗体の力価は、
415nmで0.1の吸光度を与えるプール免疫血清の
最大希釈率の逆数として算出した。結果は2回の独立し
た測定の平均値として表される。伝搬阻止抗原を経鼻投
与で粘膜アジュバントCTと共投与した場合のみ、これ
らの血清抗体の顕著な上昇が検出された(データ示さ
ず)。
【0074】患者血液から蚊へのP. vivax伝搬
に対するマウス免疫血清の効果。 生殖母体陽性患者の血液から媒体蚊への三日熱マラリア
原虫の伝搬を阻止する抗Pvs25免疫血清の効力評価
のために、4倍希薄したマウス免疫血清プールと患者血
液を混合し、膜状給餌装置で蚊(An. stephe
nsi)に混合液を吸血させた。血液餌吸血の約1週間
後に実験群毎に約200〜250匹の充血蚊を解剖し、
中腸で形成されたオーシスト数を計数した。我々はオー
シスト感染強度水準の顕著な減少を見出しており、それ
はPBS(CAF1: 6.828±1.164 SE
M,p<0.0001;A/J:6.326±0.90
4SEM,p<0.0001)またはCT(CAF1:
10.051±1.341 SEM,p<0.000
1;A/J:4.971±0.645 SEM,p=
0.004)で免疫されたマウス群と比較して、Pvs
25/CT(CAF1:0.034±0.015 SE
M;A/J:0)で免疫したマウスの免疫血清が与えら
れた蚊で形成されるオーシスト数として定義する、ここ
でオーシスト感染強度水準は、蚊中腸で形成された平均
オーシスト数±標準誤差として表した(図10a)。こ
の図においてはPBS、CTまたはPvs25/CTで
免疫したマウスから得られた免疫血清を4倍希薄したも
のを使用した。PBSおよびCT免疫群と対比して、オ
ーシスト感染強度水準の顕著な減少がPvs25/CT
群で観察された。
【0075】我々はまた、CT免疫したCAF1および
A/Jマウス間(10.051±1.341 SEMに
対して4.971±0.645 SEM,p=0.00
32)でオーシスト感染強度水準の顕著な差を観察し
た。抗Pvs25免疫血清で観察された伝搬阻止効果は
CAF1およびA/Jマウス両血清に対する血清希釈率
の増加につれ、形成されるオーシスト数の増加が認めら
れる用量依存的なものであった[CAF1(1/4:
0.034±0.015 SEM;1/16:1.19
6±0.195 SEM;1/64:2.182±0.
365 SEM);A/J(1/4:0;1/16:
0.637±0.103 SEM;1/64:0.98
1±0.152 SEM)](図10b)。
【0076】また、抗Pvs25免疫血清は充血蚊(A
n. stephensi)の感染罹患率の減少に効果
的であった(図11a)。この図において、CTまたは
PBS群と比較して感染罹患率の顕著な減少がCAF1
およびA/Jマウス両血清のPvs25/CT処理群で
観察された。
【0077】オーシスト感染罹患率は、全充血蚊中のオ
ーシスト陽性蚊のパーセンテージとして表される。オー
シスト感染罹患率の顕著な減少は、CT(CAF1:5
5.09%;A/J:48.54%)およびPBS(C
AF1:51.52%;A/J:40.77%)の血清
の場合と比較して、Pvs25/CT免疫血清(CAF
1:2.55%;A/J:0%)において、観察され
た。オーシスト感染強度水準(図10b)の場合のよう
に、血清希釈率の増加につれてCAF1およびA/J免
疫血清の双方で感染罹患率が増加した[CAF1(1/
4:2.55%;1/16:26.94%;1/64:
35.41%);A/J(1/4:0%;1/16:2
3.72%;1/64:28.02%)](図11
b)。この図において、CAF1およびA/J免疫血清
の双方で免疫血清の希釈が感染罹患率の増加を生じるこ
とから、感染強度水準(図10b)の場合のように、抗
Pvs25免疫血清の伝搬阻止効果は用量依存的なもの
であることが示された。図11aおよび図11bにおい
て、オーシスト感染罹患率は充血蚊全体中の感染蚊のパ
ーセンテージとして表し、蚊中腸で形成されたオーシス
トが1つであっても感染陽性として計数した。また、各
々の図のデータ部に示される数値は充血蚊の総数に対す
る感染蚊の数を示している。
【0078】オーシスト形成抑制に対する免疫血清の効
果は完全伝搬阻止率に基づき評価する、これは全ての充
血蚊でオーシスト形成を生じない血液(実験時に免疫血
清と混合する)を提供した感染患者のパーセンテージと
して定義されるものである。顕著に高率な完全阻止率が
Pvs25/CT免疫マウス(CAF1:76.92
%;A/J:100%)に由来する免疫血清で観察さ
れ、CT(CAF1:33.33%;A/J:30.7
7%)またはPBS(CAF1:25%;A/J:2
3.08%)の免疫血清より高率であった(図12
a)。
【0079】オーシスト感染強度水準および罹患率(図
10b、11b)と同様に、免疫血清の希釈は伝搬阻止
能力の低下を生じる(1/16 A/J血清より高い阻
止率を示した1/64 A/J血清の場合を除く)
[(CAF1:1/4:76.92%;1/16:3
8.46%;1/64:27.27%);(A/J:1
/4:100%;1/16:38.46%;1/64:
45.45%)](図12b)。図12aおよび図12
bにおいて、完全伝搬阻止率は患者総数において、すべ
ての充血蚊でオーシスト形成を生じなかった血液(免疫
血清と混合される)を提供した三日熱マラリア患者のパ
ーセンテージとして表される。また、各々の図のデータ
部に示される数値は検査した患者総数に対して蚊に与え
た血液がオーシスト形成を生じなかった三日熱マラリア
患者の数である。
【0080】<考察>本発明で我々は、Pvs25蛋白
質(ヒトマラリア原虫P. vivaxに対する伝搬阻
止ワクチンの候補分子)および強力な粘膜アジュバント
であるコレラ毒素の鼻腔内への共投与が伝搬阻止(T
B:transmission−blocking)免
疫の誘導に非常に効果的なことを初めて証明した。適切
な高次構造をもつ酵母合成Pvs25蛋白質による経鼻
免疫は、生物学的に活性な抗体(P. vivaxの虫
様体が発現するPvs25に相当する分子を特異的に認
識する)を誘導し、感染患者から媒介蚊への原虫伝搬を
完全に阻止した。組換え型Pvs25は、T−およびB
−細胞双方の応答を誘導する数種マウス系統において、
高免疫原性であった(Hisaeda等、2000)。
本発明で我々は、マウス2系統(CAF1およびA/
J)において、組換え型Pvs25の粘膜免疫原性を試
験し、双方で適用し得る水準の強い抗体応答を誘導し
た。加えて、Pvs25(CTとの共投与による)の経
鼻免疫はTB免疫の適用し得る水準を誘導することがで
き、それは非経口免疫法(Hisaeda等、200
0)よりも低い用量および投与頻度でさえ認められた。
【0081】TBワクチンに使用される候補分子の主な
利点は(赤血球および肝臓の原虫で発現する他のマラリ
ア抗原に対しての利点)、フィールドで採取された分離
体の分子において認められるような抗原変異性の低さで
ある(Hafalla等、1997、Kaslow等、
1989)。これらの分子は媒介蚊内の原虫のみで非常
に限定して発現しているので(もしそれほど限定されて
いなくとも)、それらの分子は宿主免疫系から隠れてい
ると思われ、このようにして宿主の免疫的な選択圧から
逃れている。多形レベルは低いとされているものの、マ
ラリア感染症が認められる地域で分離した原虫のPvs
25およびPvs28分子で多少の多形性が観察されて
いる(Tsuboi等、1998)。従って、TBワク
チン抗原に対する抗血清が、フィールドで採取・単離し
た原虫の媒介蚊への伝搬を阻止するかとの疑問に答える
必要がある。タイ国の感染患者でのTB試験によって、
Pvs25に対する抗血清が三日熱マラリア患者から分
離した原虫で発現しているPvs25に相当する分子を
認識し得ることが明確に示され、そしてこの研究結果は
TBワクチンが抗原性バリエーションという課題を克服
するだろうとの考えを支持するものである。
【0082】TBワクチンが低度の抗原性バリエーショ
ンを標的とすることの利点は、このワクチンにおける重
大な欠点と共存する性質のものである。すなわち、それ
らの分子は媒介蚊中の原虫では発現しないので、TB分
子に対しての感染誘導免疫ブースト効果が期待できない
ことである。加えて、弱毒化ワクチンまたは死細胞ワク
チン(killed whole−cell vacc
ine)とは異なり、長期の免疫を組換え型蛋白質ベー
スのワクチンによって、達成するのは困難なことであ
る。この課題を解決するひとつの方法は、簡単に使用で
き、容易に投与可能な形態のワクチン種を開発すること
である。エアロゾル形態のTBワクチンが解決策のひと
つであり、この形態により経鼻的に供給できる。一般的
に鼻の内面にある鼻粘膜関連リンパ組織は消化管関連の
リンパ組織よりも免疫反応を効果的に誘導するので有効
な投与経路である。
【0083】ワクチン抗原の注射接種が細胞性および体
液性双方の強い全身系免疫応答を誘導できるにもかかわ
らず、非経口による免疫刺激では、侵入時に粘膜組織と
接触する病原体に対して、粘膜組織の生体防御の第1障
壁としてのS−IgAによる防御が充分な効力を発揮す
ることができないことは多くの研究者により強調されて
いる。加えて、局所粘膜組織に対する外来抗原の粘膜投
与が距離的に遠位であっても相互に関連する粘膜部位の
免疫反応を誘導できるので、呼吸器上部を介して侵入す
るインフルエンザウイルスのような病原体は、ワクチン
抗原の経鼻投与または経口投与によって効果的に制御さ
れ得る。これらの知見に基づいて、粘膜の病原体に対す
る新規なワクチンの開発は粘膜投与による接種戦略を選
択するようになりつつある。粘膜ワクチンの他の注目す
べき特徴は、主に血清IgGの産生で特徴づけられる強
い全身の体液性免疫反応を誘導する能力である。粘膜を
介して侵入する病原体に対する粘膜ワクチンの開発には
多くの労力が注がれたにもかかわらず、粘膜組織を介し
て侵入しない伝染性病原体に対する粘膜ワクチンを記載
した報告は少ない。しかし、我々の実験の結果は粘膜ア
ジュバントを適切に使用すれば、粘膜ワクチンによって
粘膜感染しない病原体を制御できる可能性を明確に示唆
するものである。これらの発見は、マラリアのような節
足動物媒介性の病原微生物による多様な感染病に対する
粘膜ワクチンの開発に重要な知見を示し得る。
【0084】我々はTBワクチンの粘膜アジュバントと
してCTを使用したが、その毒性のために実用上はヒト
には適用できない。最近、大腸菌から非毒性の変異コレ
ラ毒素および関連する非耐熱性毒素が開発された(Ha
giwara等、 1999; Ohmura等、 2
001; Saito等、 2001; Bonenf
ant等、 2001)。また、これら毒素分子に由来
する非毒性のBサブユニットが化学的または遺伝的に融
合したワクチン抗原のキャリヤとして粘膜免疫系に広く
使用された(Yamamoto等、 2001; Is
aka等、 2001; George−Chandy
等、 2001)。更に、最近の報告は組換え型CTB
分子の生物学的活性型が細菌(Goto等、 200
0)、トランスジェニック植物(Arakawa等、
1997)および酵母(Arakawa未発表データ)
の遺伝子発現系で合成できることを示している。これら
の発現系は粘膜TBワクチンの開発の目的で粘膜アジュ
バント分子およびTBワクチン抗原による融合蛋白質の
生産に使用できる。
【0085】病原体に対する粘膜ワクチンの接種方法に
は従来の注射に基づく予防接種方法に勝るいくつかの利
点がある。粘膜ワクチンは、経鼻インフルエンザワクチ
ンで認められたように、粘膜組織を介して侵入する微生
物病原体に特に効果的である可能性がある(Hagiw
ara等、 1999)。加えて、本発明で示されたよ
うに、粘膜ワクチンで誘導される血清IgG誘導を特徴
とする全身系免疫応答は、非経口投与により誘導される
水準に匹敵する抗体の水準にまで達し得る。
【0086】
【発明の効果】本発明では、粘膜アジュバントおよびマ
ラリア原虫伝搬阻止抗原を含有するワクチンの粘膜投与
により、粘膜を介した全身系の免疫応答を誘導して各種
のマラリア原虫伝搬阻止抗原に対する抗体産生を可能と
した。
【0087】前記抗体が誘導された血清は、それを吸血
した媒介蚊の中腸内でのオーシスト形成を顕著に阻害す
るので、蚊からヒトへのマラリア伝搬を阻止することが
できる。
【0088】結果として本発明は易接種型で、かつ安価
な接種法(注射器不要)によるマラリア伝搬を阻止する
ワクチン接種の実施を可能とした。
【0089】
【参照文献1−1】
【0090】
【参照文献1−2】
【0091】
【参照文献1−3】
【0092】
【参照文献2−1】
【0093】
【参照文献2−2】
【0094】
【参照文献2−3】
【0095】
【参照文献2−4】
【0096】
【配列表】 SEQUENCE LISTING <110> The president of Uneversity of Ryukyus <120> Malaria transmission-blocking mucosal vaccine <130> A000104375 <140> <141> <160> 4 <170> PatentIn Ver. 2.0 <210> 1 <211> 29 <212> DNA <213> Artificial Sequence <220> <223> Description of Artificial Sequence:Artificially synthesized oligonucleotide sequence <400> 1 gcgccatggt taaattaaaa tttggtgtt 29 <210> 2 <211> 90 <212> DNA <213> Artificial Sequence <220> <223> Description of Artificial Sequence:Artificially synthesized oligonucleotide sequence <400> 2 cgcgagctct taaagttcat ccttttcgga tcctggacta gtaggggtac cgggcccggg 60 tccatttgcc atactaattg cggcaatcgc 90 <210> 3 <211> 30 <212> DNA <213> Artificial Sequence <220> <223> Description of Artificial Sequence:Artificially synthesized oligonucleotide sequence <400> 3 tatagcgcta gcgccgtcac ggtatacacc 30 <210> 4 <211> 30 <212> DNA <213> Artificial Sequence <220> <223> Description of Artificial Sequence:Artificially synthesized oligonucleotide sequence <400> 4 tacagagggc ccaaggcata catttttctc 30
【図面の簡単な説明】
【図1】マラリア原虫の生活環を示す図。
【図2】マラリア原虫伝搬阻止ワクチンの効果を示す
図。
【図3】伝搬阻止ワクチンの利点および問題点を示す
図。
【図4】伝搬阻止ワクチンの粘膜免疫の効果を示す図。
【図5】マラリア原虫ワクチンの鼻腔内接種による免疫
実験の結果を示す図および顕微鏡写真。
【図6】DBA/2マウスでの血清抗体応答を示すグラ
フである。
【図7】蚊(An. stephensi)の中腸で
の、P. yoeliiオーシスト感染におけるPys
25/CTの経鼻免疫の伝搬阻止効果を示すグラフであ
る。
【図8】蚊(An. stephensi)の中腸の
P. yoeliiオーシスト感染における、抗Pys
25免疫血清の受動的移植の伝搬阻止効果を示すグラフ
である。
【図9】雌のCAF1およびA/Jマウスにおける3回
目の経鼻免疫1週後の抗Pvs25蛋白質特異的血清抗
体応答を示すグラフである。
【図10】蚊(An. stephensi)の中腸の
P. vivaxオーシスト感染強度におけるPvs2
5/CTによる経鼻免疫の伝搬阻止効果を示すグラフで
ある。
【図11】蚊(An. stephensi)のP.
vivaxオーシスト感染罹患率におけるPvs25/
CTの経鼻免疫の伝搬阻止効果を示すグラフである。
【図12】蚊(An. stephensi)中腸のオ
ーシスト形成の完全阻止における経鼻免疫の効果を示す
グラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 佐藤 良也 沖縄県中頭郡北中城村字安谷屋693−1 (72)発明者 只野 昌之 沖縄県沖縄市高原4−16−30 (72)発明者 松本 安喜 東京都北区王子6−2−7−304 (72)発明者 辻 尚利 茨城県つくば市松代4−415−1 (72)発明者 島袋 勲 沖縄県那覇市壺屋1−21−5 (72)発明者 佐藤 茂俊 沖縄県中頭郡西原町千原1 琉球大学農学 部内 (72)発明者 長嶺 勝 沖縄県那覇市首里末吉町1−180−9 Fターム(参考) 4B024 AA01 AA13 BA31 CA02 DA12 HA17 4C085 AA03 BA31 BB11 CC05 CC07 CC21 CC32 EE06 FF13 FF18 GG10

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 粘膜アジュバントおよびマラリア原虫伝
    搬阻止抗原を含有することを特徴とする粘膜ワクチン。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載のワクチンであって、前
    記粘膜アジュバントがコレラトキシンB鎖蛋白質(CT
    B)またはコレラトキシン蛋白質(CT)である粘膜ワ
    クチン。
  3. 【請求項3】 請求項1または2に記載のワクチンであ
    って、前記マラリア原虫伝搬阻止抗原がマラリア原虫虫
    様体の表面抗原である粘膜ワクチン。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3の何れか1項に記載のワク
    チンであって、前記マラリア原虫伝搬阻止抗原が、Py
    s25蛋白質またはPvs25蛋白質である粘膜ワクチ
    ン。
  5. 【請求項5】 鼻粘膜に投与するための、請求項1〜4
    の何れか1項に記載のワクチン。
  6. 【請求項6】 請求項1〜4に記載のワクチンの粘膜投
    与による、マラリア原虫の伝搬を阻止する方法。
  7. 【請求項7】 前記マラリア原虫がネズミマラリア(P
    lasmodiumyoelii)または三日熱マラリ
    ア(Plasmodium vivax)である、請求
    項6に記載の方法。
  8. 【請求項8】 請求項6または7に記載の方法であっ
    て、前記粘膜投与が鼻粘膜投与である方法。
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