JP2003116591A - 微生物の代謝機能評価方法及びその装置 - Google Patents

微生物の代謝機能評価方法及びその装置

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JP2003116591A
JP2003116591A JP2001316387A JP2001316387A JP2003116591A JP 2003116591 A JP2003116591 A JP 2003116591A JP 2001316387 A JP2001316387 A JP 2001316387A JP 2001316387 A JP2001316387 A JP 2001316387A JP 2003116591 A JP2003116591 A JP 2003116591A
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Hitoshi Shuku
仁 珠玖
Hidenobu Uchida
英伸 内田
Yoshiaki Hara
慶明 原
Hiroaki Oya
博昭 大矢
Hiroyuki Noda
博行 野田
Tomokazu Suenaga
智一 末永
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Japan Science and Technology Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 寒天培地上の任意の場所における微生物の代
謝活性を、寒天培地上に生育させたままの状態で評価す
ることができる微生物の代謝機能評価方法及びその装置
を提供する。 【解決手段】 寒天培地7で培養する微生物8を、前記
寒天培地7上に生育させたままの状態でキャピラリ管6
に充填し、このキャピラリ管6を計測溶液11に浸し、
この計測溶液11に配置される作用極としての微小電極
1と参照電極2と、これらの電極1,2に接続されるポ
テンショスタット3により、前記微生物8の代謝機能評
価を行う。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、微生物の代謝機能
評価方法及びその装置に係り、特に、寒天培地培養微生
物の代謝機能評価方法及びその装置に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】寒天培地培養法は、微生物の成長に必要
な栄養素を含んだ溶液に寒天を混入することにより、固
相の培地を形成し、その固相の上で目的微生物の増殖を
促す培養法である。この培養法は培地が固化しており取
扱が容易なことから、ファージ、カビ、菌類、酵母、藻
類、その他の微生物の培養系において広く適用されてい
る。
【0003】従来、液体培地でこれらの微生物を継代培
養する際には、複数の(必ずしも遺伝的に均質でない)
細胞群をイノキュレートする(移植する)ことが普通で
ある。従って、培養中に自然誘発される突然変異の個体
群が含まれる可能性を常に有する。
【0004】これに対し、寒天培地上に微生物を希釈し
てイノキュレートし、単一細胞に由来するコロニーを形
成させた場合は、遺伝学的に均一なクローンを得ること
ができる(クローン増殖法)。このクローン増殖法は、
突然変異株や遺伝子改変体を作出する工程において極め
て重要な位置を占めている。例えば、寒天培地上に形成
されたコロニーから、望みの個体を選別し、継代するこ
とが可能である。
【0005】コロニーの状態の正常/異常を判断する手
立ては、形態観察に頼るところが大きい。このような形
態観察により、例えば、コロニーが偏平であるものは細
胞形態が異常な個体群であると判断できる〔D.R.D
avis and A.Plaskitt,Gene
t.Res.,17,33−43(1971)〕。
【0006】また、培地組成を工夫することにより、酵
素反応と呈色反応を組み合わせて微生物の酵素活性を視
覚化したり〔J.P.Davis et al.,Pl
ant Cell,6,53−63(1994)〕、注
目遺伝子(タンパク質)が発現しないと微生物が生存で
きなくすることも試みられている〔M.Goldsch
midt−Clermount,Nucleic Ac
ids Rec.,19,4083−4089(199
1)〕。
【0007】ところで、一般的に、コロニーがある程度
大きく発達するまでには、微生物の種類によっては数日
から数週間を要する。
【0008】一方、微生物の代謝活性を定量する目的
で、電気化学的手法が広く適用されてきた。電気化学的
手法が適用可能な検出系は以下の3つに分類できる。
【0009】(1)試料微生物の生体反応に伴い放出/
吸収する物質が、電気化学活性物質(電極表面で酸化還
元反応する物質)である場合:微生物は呼吸/光合成に
伴い、酸素を吸収/放出する。酸素は電気化学的に活性
であるため、酸素還元電流を観測することにより、試料
溶液中の酸素濃度を定量できる。これは、クラーク型酸
素電極が広く使用されている。
【0010】(2)試料微生物中の酸化還元反応に伴い
生成する物質が、電極と直接反応しないかあるいは電極
反応速度が極めて遅い場合:適当な酸化還元電位を有す
る物質(レドックス種)を試料溶液中に添加する。例え
ば、添加したレドックス種の酸化体が生体内の電子伝達
系から電子を奪い還元体に変化する場合には、還元体の
濃度変化を定量できる。
【0011】(3)試料微生物内の酵素活性を評価する
場合:適当なレドックス種と注目酵素反応に特異的な基
質を添加する。酵素媒質の濃度に依存するレドックス種
の濃度変化を計測することにより、酵素の活性を定量す
る。
【0012】以上に挙げたような微生物の代謝活性を評
価する場合、ある程度まとまった数の個体が必要とな
る。例えば、通常のクラーク型酵素電極では、計測に必
要とする個体数は、大腸菌、酵母の場合106 〜109
個程度である。また、代謝活性計測にあたり、寒天培地
から剥がして回収し、計測溶液に懸濁する工程も必要と
なる。
【0013】電気化学顕微鏡(Scanning el
ectrochemical microscopy)
は探針である微小電極を試料表面に近接し走査すること
により、試料の放出/吸収する分子種の検出や、分子種
の分布の画像化を可能にする装置である〔A.J.Ba
rd et al.,Anal.Chem.,61,1
32−138(1989);R.C.Engstrom
et al.,Anal.Chem.,58,844
−848(1986)〕。既に、電気化学顕微鏡による
細胞や生体組織の機能評価が報告されている。
【0014】また、細胞の呼吸/光合成活性評価は既に
報告がある〔T.Yasukawaet al.,De
nki Kagaku,66,660−661(199
8)〕。電子伝達機能の評価は、酸化還元物質(レドッ
クス種)としてキノン類を応用した例がある〔T.Ya
sukawa et al.,Biophysical
J.,76,1129−135(1999)〕。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】ところが、単一細胞レ
ベルの細胞内酵素活性の評価は報告されていない。
【0016】上記した従来の報告では、何れも液体培地
で培養される細胞の評価を行っており、寒天培地上で培
養する微生物の機能を、寒天培地上に生育する状態のま
まで評価した報告はない。
【0017】本発明は、上記状況に鑑みて、寒天培地上
の任意の場所における微生物の代謝活性を、寒天培地上
に生育させたままの状態で評価することができる、微生
物の代謝機能評価方法及びその装置を提供することを目
的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記目的を達
成するために、 〔1〕微生物の代謝機能評価方法において、寒天培地で
培養する微生物を、寒天培地上に生育させたままの状態
でキャピラリ管に充填し、このキャピラリ管を計測溶液
に浸し、この計測溶液に配置される作用極としての微小
電極と参照電極と、これらの電極に接続されるポテンシ
ョスタットにより、前記微生物の代謝機能評価を行うこ
とを特徴とする。
【0019】〔2〕上記〔1〕記載の微生物の代謝機能
評価方法において、前記微小電極と微生物の位置を、精
密位置決め装置で制御することを特徴とする。
【0020】〔3〕上記〔1〕又は〔2〕記載の微生物
の代謝機能評価方法において、前記微生物の代謝機能評
価は、前記微生物近傍の酸素濃度分布を計測することに
よる前記微生物の呼吸活性および光合成活性の評価であ
ることを特徴とする。
【0021】〔4〕上記〔1〕又は〔2〕記載の微生物
の代謝機能評価方法において、前記微生物の代謝機能評
価は、酸化還元物質(レドックス種)を前記計測溶液に
共存させ、前記微生物近傍の酸化還元物質濃度分布を計
測することによる前記微生物の電子伝達機能の評価であ
ることを特徴とする。
【0022】〔5〕上記〔1〕又は〔2〕記載の微生物
の代謝機能評価方法において、前記微生物の代謝機能評
価は、酸化還元物質(レドックス種)を前記計測溶液に
共存させ、前記微生物近傍の酸化還元物質濃度分布を計
測することによる前記微生物の酵素活性の評価であるこ
とを特徴とする。
【0023】〔6〕微生物の代謝機能評価方法であっ
て、上記〔3〕、〔4〕又は〔5〕記載の微生物の代謝
機能評価の後に、計測に供した前記微生物を継代培養す
ることを特徴とする。
【0024】〔7〕微生物の代謝機能評価装置におい
て、計測溶液を有する計測容器と、この計測容器内の計
測溶液に浸されるとともに、寒天培地で培養する微生物
を、前記寒天培地上に生育させたままの状態で充填した
キャピラリ管と、前記微生物の近傍に配置される作用極
としての微小電極と、参照電極と、前記微小電極と参照
電極に接続されるポテンショスタットと、前記キャピラ
リ管の位置を決める精密位置決め装置と、この精密位置
決め装置と前記ポテンショスタットに接続されるコンピ
ュータとを具備することを特徴とする。
【0025】〔8〕上記〔7〕記載の微生物の代謝機能
評価装置において、前記微生物と前記微小電極間に配置
される膜を具備することを特徴とする。
【0026】より具体的には、 (1)寒天培地上の任意の場所に存在する微生物を、下
地の寒天培地と共にキャピラリ管で型抜きする。微生物
が存在する面がキャピラリ管の片端部に位置するよう
に、キャピラリ管内の微生物/寒天部分をスライドさせ
る。さらに、そのキャピラリ片端部を膜で覆い微生物を
保持する。
【0027】(2)微小電極とキャピラリ管の位置を精
密位置決め装置で制御し、キャピラリ管片端部に固定し
た微生物の代謝に伴う吸収/放出物質の濃度勾配を計測
する。
【0028】(3)寒天培地表面に生育したままの状態
で微生物の呼吸/光合成活性を評価するために酸素濃度
勾配を計測する。
【0029】(4)寒天培地表面に生育したままの状態
で微生物の電子伝達機構を評価するために、酸化還元物
質の濃度勾配を計測する。
【0030】(5)生きた細胞や生体組織中の酵素活性
を評価するために、計測溶液中に酸化還元物質と注目酵
素特有の基質を共存させる。
【0031】(6)必要に応じて、キャピラリ、膜、計
測用容器、計測容器をオートクレーブで滅菌し、精密位
置決め装置を70%エタノール滅菌し、アルコールラン
プをチャンバー内で燃焼させながら無菌的に計測する。
計測後、計測に供した試料をチャンバー内で新しい寒天
培地上に無菌的に移植し、引き続き継代培養する。
【0032】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態につい
て詳細に説明する。
【0033】図1は本発明の実施例を示す寒天培地培養
微生物の代謝機能評価装置の模式図である。
【0034】この図において、1は微小電極〔作用極
(探針電極)〕、2は参照電極(参照極/対極)、3は
ポテンショスタット、4はコンピュータ、5は精密位置
決め装置、6はキャピラリ管、7は寒天培地、8は微生
物試料、9は膜、10は計測用容器、11は計測溶液、
12は電極シール部である。
【0035】電気化学計測系は、微小電極1、参照電極
2、およびポテンショスタット3で構成されている。微
小電極〔作用極(探針電極)〕1には、白金微小電極
〔電極半径4μm、電極シール部(ガラスシール部)1
2を含む全体半径15μm〕を用い、その微小電極1は
計測用容器10の下側に固定した。参照電極2は銀/塩
化銀電極を用いた。ポテンショスタット3は探針(微小
電極)1の電位制御と電流検出のために使用した。
【0036】酸素還元電流、FMA(ferrocen
emethanol)酸化電流、およびFMA+ 還元電
流を検出するための探針電極1の電位は、銀/塩化銀参
照電極2の電位に対し、各々−0.6V、+0.5Vお
よび+0.1Vとした。試料は、寒天培地7上で培養し
た微生物試料8を、下地の寒天培地7とともにキャピラ
リ管(内径0.6mmφ、外径1.0mmφ)6で型抜
きしたものを使用した。
【0037】キャピラリ管6の片端部に微生物試料8を
配置し、さらに膜9で被覆した。膜9と計測溶液11の
界面近傍には、微生物試料8の代謝反応に伴う反応物質
の吸収/生成物質の放出に起因して、反応/生成物質の
濃度勾配が形成される。探針電極1で反応/生成物質の
空間分布を記録するために、キャピラリ管6の位置を精
密位置決め装置(中央精機、M9103)5により制御
した。ポテンショスタット3及び精密位置決め装置5は
コンピュータ4により制御した。
【0038】本発明の計測においては、以下のような生
体機能情報の取得が期待できる。
【0039】(1)微生物試料8の生体反応に伴い放出
/吸収する物質が、電気化学活性物質(電極表面で酸化
還元反応する物質)である場合には、その物質の濃度勾
配を直接計測する。
【0040】(2)微生物試料8の電子伝達機能を評価
する場合、適当な酸化還元電位を有する物質(レドック
ス種)を計測溶液11に共存させる。例えば、あるレド
ックス種の酸化体が生体内の電子伝達系から電子を奪い
還元体に変化する場合には、微生物試料8近傍には酸化
体の減少及び還元体の増加に伴う濃度勾配が形成され
る。従って、レドックス種の濃度勾配を計測することに
より、微生物試料8の電子伝達機能を評価できる。
【0041】(3)微生物試料8内の酵素活性を評価す
る場合、適当なレドックス種と注目酵素反応に特異的な
基質を共存させる。酸素反応に伴うレドックス種の濃度
勾配形成が基質の有無に依存する場合は、レドックス種
の濃度勾配を計測することにより、微生物試料8の酵素
活性を評価できる。
【0042】クラミドモナス(Chlamydomon
as reinhaditii 137c株)は、液体
培地、寒天培地のどちらでも培養できる微生物である。
クラミドモナスの培養条件は以下の通りとした。
【0043】TAP液体培地で継代後、希釈系列の細胞
懸濁液をTAP寒天培地上にイノキュレートし、植物用
培養器中で3〜7日間培養した。TAP培地は栄養源と
して酢酸塩を含む〔E.H.Harris,Chlam
ydomonas Sourcebook,Acade
mic Press Inc.(1989)〕。培養条
件は22℃、明期12時間/暗期12時間のサイクルを
繰り返した。
【0044】膜9は寒天培地表面の微生物試料保持を補
強すると同時に、膜9を透過する物質の選択性を制御す
る。例えば、フィルターメンブレン(ミリポア、テフロ
ン(登録商標)製、ポアサイズ3μm)を用いた場合、
膜透過過程において物質選択性を有しない。また、酸素
透過性膜(Yellow Spring Instru
ment)を用いた場合、酸素の選択的な膜透過が期待
できる。仮に、膜9を用いない場合でも、微生物は寒天
培地表面に保持され、かつ良好な時間応答が期待でき
る。
【0045】図2に探針電極1を微生物試料(クラミド
モナス)8の最近接地点に配置して光(白色光、60k
lxs)をオン/オフした際の酸素還元電流値の時間変
化を示した。この図2において、横軸は時間(s)、縦
軸は還元電流を示している。
【0046】計測溶液は17mM(ミリモル)リン酸バ
ッファー溶液を使用した。線aは膜がない場合、線bは
酸素透過性膜を用いた場合の経時変化を示す。いずれの
場合も、光照射とともに電流値が上昇し、照射を止める
と電流は減衰してもとの値に戻る挙動を示した。これ
は、クラミドモナスの光合成作用に対応する酸素濃度変
化を反映している。線aと線bでは時間応答がほぼ等し
いことから、経時変化が、膜透過過程ではなく、微生物
試料(クラミドモナス)の酸素生成速度を反映している
ことが分かる。
【0047】図3にフィルターメンブレンを膜に用いた
場合の、微生物試料8の最近接点から膜面と垂直方向の
距離(μm)に対する酸素濃度(mM)を示した。
【0048】この図3において、線aおよび線bは暗黒
下および光照射(明条件)下の酸素濃度勾配を示す。な
お、走査速度は14.7μm/s、計測溶液11はリン
酸バッファー溶液、試料8はクラミドモナスである。
【0049】暗黒下aにおいては、微生物試料8の呼吸
活性を反映して、微生物試料近傍の酸素濃度は、計測溶
液の酸素濃度(0.21mM)に比較して減少する。明
条件下bにおいては、光合成活性を反映して、試料近傍
の酸素濃度は増加している。濃度勾配より呼吸/光合成
に伴う微生物試料8の酸素消費/生成速度を定量するこ
とが可能である。
【0050】本発明は、生体内のレドックスバランスに
関する情報を得る目的にも適用できる。そのためには、
適当な酸化還元電位を有する物質(レドックス種)を計
測溶液11に共存させる。
【0051】図4は探針を微生物試料8の最近接地点に
配置して、光をオン/オフした際のFMA酸化電流
(a)およびFMA+ 還元電流(b)の時間変化を示す
図である。
【0052】この図4において、横軸は時間、縦軸は電
流(pA)を示している。なお、膜9にはフィルターメ
ンブレンを使用し、微生物試料8にはクラミドモナスを
用いた。縦軸は還元電流を正、酸化電流を負で表示し
た。計測溶液11には0.5mMFMA+ を含むリン酸
バッファーを用いた。光照射に伴い、微生物試料近傍で
FMA酸化電流の増加およびFMA+ 還元電流の減少が
観測された。これは、光照射下にのみ機能する光合成電
子伝達継路と相互作用することにより、FMA+がFM
Aに還元されたことを示している。細胞内の葉緑体膜で
起きたFMA+ 還元反応に起因し、微生物試料近傍のF
MA濃度が上昇する。
【0053】光合成電子伝達経路から電子を奪う反応は
Hill反応と呼ばれ、反応速度はレドックス種の標準
酸化還元電位と密接な関係にある。酸化還元電位の異な
る複数のレドックス種の光応答を追跡することにより、
電子伝達機構の詳細を評価できると期待される。
【0054】本発明は、微生物試料8内の酵素活性評価
にも適用できる。生体内のペルオキシダーゼ活性を評価
するために、基質として過酸化水素を、レドックス種と
してFMAを選択した。
【0055】図5は微生物試料8の最近接点から膜面と
垂直方向の距離(μm)に対するFMA+ の濃度(m
M)を示す図である。
【0056】計測溶液11は0.5mMFMAを含むリ
ン酸バッファー溶液を使用した。線(a)および線
(b)は過酸化水素濃度0および0.5mMにおけるF
MA+ の濃度勾配を示す。なお、膜9はフィルターメン
ブレンを使用した。微生物試料走査速度は14.7μm
/s、試料8はクラミドモナスである。
【0057】過酸化水素の添加に伴い、微生物試料8近
傍でFMA+ の増加が観測された。FMA+ の増加は過
酸化水素を基質とする酵素反応に由来すると考えられ
る。つまり、FMA+ の生成速度は、微生物試料中に含
まれるペルオキシダーゼの活性を反映する。この手法を
応用し還元電流応答の過酸化水素濃度依存性を検討する
ことにより、最大酵素反応速度やミカエリスーメンテン
定数を求めることも可能である。
【0058】図6に本発明により計測されたクラミドモ
ナスを新しい寒天培地上に継代した後、3日目の写真
(a)(代用図)およびその拡大図(b)を示した。
【0059】計測では、0.5mMFMAおよび0.5
mM過酸化水素濃度を含むリン酸バッファー溶液中にお
いてペルオキシダーゼ活性を評価した。計測後も、クラ
ミドモナスは正常に増殖している。図6(b)に示すよ
うに、細菌類による汚染が認められず無菌的培養がなさ
れていることが分かった。
【0060】以上、寒天培地上の微生物試料の代謝活性
を、寒天培地上に生育させたままの状態で評価した実施
例を挙げた。代謝活性として、呼吸活性、光合成活性、
電子伝達機能、ペルオキシダーゼ活性の評価が可能であ
ることを示した。
【0061】いずれの場合も、計測の後に、計測された
微生物試料を新しい寒天培地上に移すと、引き続き正常
に増殖することが確認された。すなわち、計測溶液中に
浸漬したことに対する、被計測微生物試料の増殖に関す
る影響はほとんどないことが分かった。
【0062】本発明の計測における無侵襲性は、実際に
様々な微生物の突然変異株や遺伝子改変体を代謝活性に
基づきスクリーニングする際に、極めて重要な特徴であ
る。
【0063】なお、最近、微小体積内に動物/植物細胞
を充填し、呼吸/光合成活性を評価する方法が提案され
ている〔特願2000−153013〕。本発明は、こ
の技術に類似している部分もあるが、以下の点で全く新
しい工夫がなされている。
【0064】(1)一般に、微生物を液体培地で培養し
た場合には、正常個体群のみならず、液体培養中に生じ
る自然突然変異個体群の活性変異を含んだ状態での評価
に相当する。これに対し、本発明は、微生物の代謝活性
を、遺伝的均一性の保証されたクローン状態で評価する
ことを可能にした。本発明は、液体培地で培養する細胞
を計測対象とするのではなく、寒天培地(固相)の表面
で増殖する微生物を計測対象としている。従って、計測
のために必要な試料の調整工程が全く新規な発明であ
る。本発明では、微生物を寒天培地表面から回収する工
程、及び細胞や微生物を溶液に懸濁する工程が不要とな
る。
【0065】(2)本発明の計測工程は先行特許出願の
発明と類似している。しかしながら酸素濃度の計測に基
づく呼吸/光合成活性の評価法のみならず、生体と酸化
還元反応をし得るレドックス種を利用することにより、
計測し得る生体反応の適用範囲を広げている。また、本
発明で適用される膜は、膜の選択的透過性を利用して電
極で検出される物質の選択性を向上させる目的よりもむ
しろ、微生物の保持性向上の目的で使用されている。
【0066】(3)本発明は、計測後に計測に供した微
生物を引き続き無菌的に継代培養する工程を付加するこ
とが可能である。本発明の計測が無菌的に行われている
以上、本発明による代謝活性計測工程は純粋培養の一過
程として容易に組み入れることが出来る。
【0067】この特性により、本発明は、様々な遺伝子
座に変異のある各細胞のクローンの中から、代謝活性の
違いに基づいて(突然)変異株をスクリーニングする際
に、高い実用性を有する。
【0068】なお、本発明は上記実施例に限定されるも
のではなく、本発明の趣旨に基づいて種々の変形が可能
であり、これらを本発明の範囲から排除するものではな
い。
【0069】
【発明の効果】以上、詳細に説明したように、本発明に
よれば、以下のような効果を奏することができる。
【0070】(A)微生物の突然変異株や遺伝子改変体
をスクリーニングする技術に応用でき、現行の形態観察
や標識判定によるスクリーニングとは異なり、代謝活性
に基づくスクリーニング方法を可能にする。さらに計測
に必要な試料は微量であり、スクリーニングに要する時
間と手間を著しく減ずることが出来る。
【0071】(B)古くから微生物の利用技術は社会の
幅広い分野に浸透しており、酵母等を直接食品加工の目
的で使用する場合や、微生物の産生物質を医薬品として
回収する産業も大きく発展してきた。さらに、遺伝子組
み替え技術の大きな発展で、今後も様々な機能を有する
微生物の開発は益々盛んになると予測される。突然変異
誘発剤処理、遺伝子タギングを行った細胞群の中から、
従来のスクリーニング方法で単離され得なかった優秀な
品質や特異な株を発見する目的において、微生物の新規
スクリーニング技術が社会に果たす役割は大変重要であ
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す寒天培地培養微生物の代
謝機能評価装置の模式図である。
【図2】本発明の実施例を示す微小電極で記録された酸
素還元電流の光応答特性を示す図である。
【図3】本発明の実施例を示す微生物試料の最近接点か
ら膜面と垂直方向の距離に対する酸素濃度を示す図であ
る。
【図4】本発明の実施例を示すFMA酸化電流(a)お
よびFMA+ 還元電流(b)の光応答特性を示す図であ
る。
【図5】本発明の実施例を示す試料の最近接点から膜面
と垂直方向の距離に対するFMA+ の濃度を示す図であ
る。
【図6】本発明により計測されたクラミドモナスを新し
い寒天培地上に継代した後、3日目の写真(a)(代用
図)およびその拡大図(b)である。
【符号の説明】
1 微小電極(作用極,探針電極) 2 参照電極(参照極/対極) 3 ポテンショスタット 4 コンピュータ 5 精密位置決め装置 6 キャピラリ管 7 寒天培地 8 微生物試料 9 膜 10 計測用容器 11 計測溶液 12 電極シール部(ガラスシール部)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) G01N 27/46 M (72)発明者 大矢 博昭 山形県山形市十日町4−1−32−304 (72)発明者 野田 博行 山形県山形市春日町1−55−205 (72)発明者 末永 智一 宮城県仙台市青葉区貝ヶ森5−2−1 Fターム(参考) 4B029 AA07 BB01 CC03 FA01 4B063 QA18 QA20 QQ05 QR69 QR90 QX04

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 寒天培地で培養する微生物を、前記寒天
    培地上に生育させたままの状態でキャピラリ管に充填
    し、該キャピラリ管を計測溶液に浸し、該計測溶液に配
    置される作用極としての微小電極と参照電極と、これら
    の電極に接続されるポテンショスタットにより、前記微
    生物の代謝機能評価を行うことを特徴とする微生物の代
    謝機能評価方法。
  2. 【請求項2】 請求項1記載の微生物の代謝機能評価方
    法において、前記微小電極と微生物の位置を、精密位置
    決め装置で制御することを特徴とする微生物の代謝機能
    評価方法。
  3. 【請求項3】 請求項1又は2記載の微生物の代謝機能
    評価方法において、前記微生物の代謝機能評価は、前記
    微生物近傍の酸素濃度分布を計測することによる微生物
    の呼吸活性および光合成活性の評価であることを特徴と
    する微生物の代謝機能評価方法。
  4. 【請求項4】 請求項1又は2記載の微生物の代謝機能
    評価方法において、前記微生物の代謝機能評価は、酸化
    還元物質を前記計測溶液に共存させ、前記微生物近傍の
    酸化還元物質濃度分布を計測することによる前記微生物
    の電子伝達機能の評価であることを特徴とする微生物の
    代謝機能評価方法。
  5. 【請求項5】 請求項1又は2記載の微生物の代謝機能
    評価方法において、前記微生物の代謝機能評価は、酸化
    還元物質を前記計測溶液に共存させ、前記微生物近傍の
    酸化還元物質濃度分布を計測することによる、微生物の
    酵素活性の評価であることを特徴とする微生物の代謝機
    能評価方法。
  6. 【請求項6】 請求項3、4又は5記載の微生物の代謝
    機能評価の後に、計測に供した前記微生物を継代培養す
    ることを特徴とする微生物の代謝機能評価方法。
  7. 【請求項7】(a)計測溶液を有する計測容器と、
    (b)該計測容器内の計測溶液に浸されるとともに、寒
    天培地で培養する微生物を、前記寒天培地上に生育させ
    たままの状態で充填したキャピラリ管と、(c)前記微
    生物の近傍に配置される作用極としての微小電極と、
    (d)参照電極と、(e)前記微小電極と参照電極に接
    続されるポテンショスタットと、(f)前記キャピラリ
    管の位置を決める精密位置決め装置と、(g)該精密位
    置決め装置と前記ポテンショスタットに接続されるコン
    ピュータとを具備することを特徴とする微生物の代謝機
    能評価装置。
  8. 【請求項8】 請求項7記載の微生物の代謝機能評価装
    置において、前記微生物と前記微小電極間に配置される
    膜を具備することを特徴とする微生物の代謝機能評価装
    置。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
WO2005049854A1 (ja) * 2003-11-19 2005-06-02 Sakata Seed Corporation 土壌微生物を格納したバイオセンサーおよびその利用
JP2006329639A (ja) * 2005-05-23 2006-12-07 National Institute Of Advanced Industrial & Technology 土壌環境の診断方法
JP2012242274A (ja) * 2011-05-20 2012-12-10 Univ Of Tsukuba 食品検査装置及び食品検査方法

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