JP2003113420A - 低磁場での磁束密度が高い高電圧バッテリー搭載車用の無方向性電磁鋼板およびその製造方法 - Google Patents

低磁場での磁束密度が高い高電圧バッテリー搭載車用の無方向性電磁鋼板およびその製造方法

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JP2003113420A JP2001309319A JP2001309319A JP2003113420A JP 2003113420 A JP2003113420 A JP 2003113420A JP 2001309319 A JP2001309319 A JP 2001309319A JP 2001309319 A JP2001309319 A JP 2001309319A JP 2003113420 A JP2003113420 A JP 2003113420A
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 低磁場での磁束密度が高く、かつモータ効率
に優れた、小型モータ用コア材料として好適な無方向性
電磁鋼板を提供する。 【解決手段】C≦0.005 %,Si:0.05〜1.0 %,Al≦0.
15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,P≦0.2 %,S≦0.00
5 %,Ti≦0.005 %,N≦0.005 %を含み、残部は実質
的にFeの組成とし、さらに製品板試料の圧延方向、圧延
直角方向および圧延方向に対して45°方向の磁化力H=
1000 A/mにおける磁束密度を、それぞれB 10(L), B10
(C), B10(D) 、また磁化力H=2500 A/mにおける磁束
密度を、それぞれB25(L), B25(C), B25(D) とする
時、これらについて次式(1), (2) 〔B10(L) + B10(C) + 2×B10(D) 〕/4≧ 1.55 (T) --- (1) 〔B25(L) + B25(C) + 2×B25(D) 〕/4≧ 1.65 (T) --- (2) の関係を満足させ、かつ磁束密度:1.6 T、周波数:50
Hzの正弦波で、製品板試料のL方向,C方向およびD方
向に磁化した時の鉄損を、それぞれW16/50(L),W16/50
(C), W16/50(D)とするとき、これらについて次式(3) W16/50(D)≦1.05×〔W16/50(L)+W16/50(C)〕/2 --- (3) の関係を満足させる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低磁場での磁束密
度が高い高電圧バッテリー搭載車用の無方向性電磁鋼板
およびその製造方法に関し、特に自動車電源(バッテリ
ー)の高電圧化(14V→42V以上)時に自動車・電装品
に使用される小型モータ用の鉄心材料として使用するこ
とにより、かかるモータの一層の小型化およびモータ効
率の有利な向上を達成しようとするものである。
【0002】
【従来の技術】現在、自動車においては、大衆車クラス
で20個弱、高級車クラスでは50個以上のモータが使われ
ており、今後もその使用数は増加する傾向にある。自動
車用モータに求められる特性は、 (1)低騒音、(2) 小型
・軽量、(3) 高応答・高分解能、(4) 低コストなどであ
るが、モータを構成するコアやステータ素材について
は、通常、コスト重視の観点からSPCC(JIS G 3141
に定められている一般用冷延鋼板)クラスの冷延鋼板が
用いられている。
【0003】ところで, 自動車の電源システムには、現
在14V系が使われているが、搭載されるエレクトロニク
ス機器が増大し、また制御においても機械的制御から電
気的制御へと変化しているため、14Vの電源システムで
は出力不足になりつつある。この問題の解決策として、
14Vよりも高い電圧の電気系統を導入することが考えら
れる。その候補として挙がっているのが42V系で、現
在、アメリカ、ヨーロッパおよび日本など世界各地で、
その研究・開発が進められている。
【0004】なお、ガソリンエンジンとモーターを組み
合わせた動力源で、電気自動車のような外部充電を必要
としない、低燃費で環境問題に対応したハイブリッド自
動車であるトヨタのプリウス(登録商標)のモータ入力
電圧は 288V、ホンダのインサイト(登録商標)のモー
タ入力は 144Vであるが、42V系の電源を用いれば簡易
ハイブリッド車の製造が可能であり、環境問題への対応
からも、その動きが生じつつある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】自動車の電源を14Vか
ら42Vに移行したときの電装品・小型モータへの影響に
ついては、次のような推測が成り立つ。すなわち、モー
タに要求される出力(P)は一定と考えられるので、P
=V(電圧)×I(電流)の関係から電圧が3倍になれ
ば、電流は従来の1/3 で十分である。しかしながら、モ
ータで発生する磁界(H)は、H=n(巻き数)×I
(電流)であるため、電流が1/3 になると同じ強さの磁
界を発生させるには巻き線数を3倍にする必要がある。
巻き線数の増加は、コストアップやモータ銅損の増大に
つながる。巻き線数をさほど増やさずに、必要とする磁
場を満たすには永久磁石を使用することが考えられる
が、永久磁石の使用は大幅なコストアップとなる。ま
た、巻き線数および電流値を従来並にしたのでは、電源
の高電圧化のメリットは充分には得られないことにな
る。
【0006】これらを回避するための別手段として、鉄
心材料の磁束密度をアップする方法が挙げられる。これ
により、従来よりモータで発生する磁界(H)が低くて
も高い磁束密度を確保できるので、巻き線数をさほど増
やさずにコイルに流す電流を小さくでき、電源の高電圧
化のメリットが充分に享受できることになる。これは、
モータの動作条件の主範囲が鋼板の飽和磁束密度に近い
値まで磁化される磁場領域ではなく、比較的低磁場領域
である場合に特に有効である。例えば、SPCC(一般
冷延鋼板)の磁化力H=3000, 7500(A/m)の時の磁束密
度(B30,B75)は、試料の圧延方向(L方向)、圧延
直角方向(C方向)および試料の圧延方向に対して45°
をなす方向(D方向)の平均値(〔Bx(L)+Bx(C)+2
×Bx(D)〕/4、但しx=30,75)で考えた場合、各々
30:〜1.55(T),B75:〜1.65(T)である。従っ
て、同程度の磁束密度がそれより 1/3程度の磁化力で得
られれば、電源の高電圧化のメリットを充分に享受する
ことができる。
【0007】また、このような電磁鋼板を提供すること
ができれば、特に自動車バッテリーの高電圧化に対応す
るモータの場合、モータの巻き線数および電流値設定の
自由度が増し、モータ設計におけるフレキシビリティが
増す利点がある。さらに、広い磁化力の範囲で高い磁束
密度が得られるので、モータ効率が高くなるメリットも
ある。
【0008】なお、従来のSiを0.05〜1.0 mass%程度含
有する無方向性電磁鋼板は、試料の圧延方向(L方
向),圧延直角方向(C方向)および圧延方向に対して
45°をなす方向(D方向)の平均値(〔Bx(L)+Bx(C)
+2×Bx(D)〕/4、但しx=10,25)で考えた場合、
10:〜1.50(T),B25:〜1.60(T)程度にすぎ
ず、磁束密度の観点からは特性的に満足のいくものでは
なかった。また、純鉄系の材料を用いた場合、磁束密度
は充分に高い値を呈するものの、鉄損が大きくなってモ
ータ効率が劣化するという問題があった。さらに、Siを
2〜3mass%程度含有するいわゆる高級無方向性電磁鋼
板では、鉄損(W15/50 )は低いものの、飽和磁束密度
が低いため、かえってB10やB25はSiを0.05〜1.0 mass
%程度含有するいわゆる低級無方向性電磁鋼板よりも低
いという問題があった。
【0009】本発明は、上記の実状に鑑み開発されたも
ので、自動車電源を現行の14Vから42V以上に移行した
場合に、自動車・電装品に使用するモータ用鉄心材料と
して好適な、低磁場での磁束密度が高く、かつモータ効
率にも優れた無方向性電磁鋼板を、その有利な製造方法
と共に提案することを目的にする。
【0010】
【課題を解決するための手段】小型モータは比較的高回
転で使用されることが多く、その場合には、励磁磁束密
度波形が歪んで高調波成分を含むようになるため、モー
タ効率の良否の目安となる磁気特性を、従来の標準的な
50/60Hzでのエプスタインサイズ試料の鉄損値で評価す
ることは不適切であり、例えば磁束密度:1.0 T,周波
数:400 Hzでの鉄損W10/400で表す方が好ましいと、最
近報告されている。また、実際のモータでの鉄損を考え
るには、高調波の重畳による鉄損劣化や、二次元での回
転鉄損を考慮する必要があることが、従来から知られて
いる。
【0011】本発明は、特に以下の2点、すなわち(1)
低磁場での磁束密度が高い無方向性電磁鋼板で、高調波
を重畳した非正弦波二次元での回転鉄損を測定すると、 W16/50(D)≦1.05×〔W16/50(L)+W16/50(C)〕/2 の関係を満たす場合に、高調波重畳時の回転鉄損の劣化
率が小さくなって優れたモータ効率が得られる、(2) 低
Siの成分系で、Al量が0.15〜1.0 mass%でかつS量が
0.005mass%以下の場合に、圧下率:60〜85%で冷間圧
延を施したのち、 500〜800 ℃間の平均昇温速度を20℃
/s以上、鋼板に対する付与張力を2MPa 以下にして、 8
50〜1000℃の高温で再結晶焼鈍を行うと、低磁場での磁
束密度が高く、かつ上記(1) に述べた磁気特性を有す
る、モータ効率に優れた無方向性電磁鋼板が得られるこ
との新規知見に立脚するものである。
【0012】すなわち、本発明の要旨構成は次のとおり
である。 1.質量%で、C≦0.005 %,Si:0.05〜1.0 %,Al:
0.15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,P≦0.2 %,S≦0.
005 %,Ti≦0.005 %およびN≦0.005 %を含有し、残
部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、さらに製品
板試料の圧延方向(L方向),圧延直角方向(C方向)
および圧延方向に対して45°をなす方向(D方向)の磁
化力H=1000 A/mにおける磁束密度を、それぞれB
10(L), B10(C), B10(D) 、また磁化力H=2500 A/m
における磁束密度を、それぞれB25(L),B25(C), B25
(D) とする時、これらが次式(1), (2) 〔B10(L) + B10(C) + 2×B10(D) 〕/4≧ 1.55 (T) --- (1) 〔B25(L) + B25(C) + 2×B25(D) 〕/4≧ 1.65 (T) --- (2) の関係を満足し、かつ磁束密度:1.6 (T)、周波数:
50Hzの正弦波で、製品板試料のL方向,C方向およびD
方向に磁化した時の鉄損を、それぞれW16/50(L), W
16/50(C), W16/50(D)とするとき、これらが次式(3) W16/50(D)≦1.05×〔W16/50(L)+W16/50(C)〕/2 --- (3) の関係を満足することを特徴とする、低磁場での磁束密
度が高く、かつモータ効率に優れた無方向性電磁鋼板。
【0013】2.鋼板が、さらに質量%で、Sb:0.005
〜0.1 %,Sn:0.01〜0.5 %,Cu:0.02〜0.5 %および
Ni:0.1 〜3.0 %のうちから選んだ1種または2種以上
を含有する組成になることを特徴とする上記1記載の無
方向性電磁鋼板。
【0014】3.高電圧バッテリー(42V以上)を有す
る車両のモータ用鉄心材料として用いることを特徴とす
る上記1または2記載の無方向性電磁鋼板。
【0015】4.質量%で、C≦0.005 %,Si:0.05〜
1.0 %,Al:0.15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,P≦0.
2 %,S≦0.005 %,Ti≦0.005 %およびN≦0.005 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる
鋼スラブを、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施したのちまた
は施さずに、圧下率:60〜85%で冷間圧延を施して最終
板厚に仕上げ、ついで 500〜800 ℃間の平均昇温速度:
20℃/s以上、鋼板に付与する張力:2MPa 以下、焼鈍温
度:850 〜1000℃の条件で再結晶焼鈍を施すことを特徴
とする、低磁場での磁束密度が高く、かつモータ効率に
優れた無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0016】5.鋼スラブが、さらに質量%で、Sb:0.
005 〜0.1 %,Sn:0.01〜0.5 %,Cu:0.02〜0.5 %お
よびNi:0.1 〜3.0 %のうちから選んだ1種または2種
以上を含有する組成になることを特徴とする上記4記載
の無方向性電磁鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明を具体的に説明す
る。まず、本発明の解明経緯について説明する。石田ら
の研究では、ブラシレスDCモータのステータコア・テ
ィース部の誘導起電力波形を測定したところ、基本波
(正弦波) に5次から7次の高調波に対応する強いパル
スが重畳していて、そのために, モータの最大効率は50
Hzでの鉄損ではなく、それより高い周波数(例えば 400
Hz)での鉄損と強い相関を示したと報告されている(In
fluence of Core Material on Performance of Brushle
ssDCMotor〔SMIC'99 東京〕) 。
【0018】また、西岡らの研究では、三相誘導電動機
・ティース部の磁束密度波形には、16, 18次の高調波成
分が含まれていて、それらが鉄損に与える影響は大きい
と報告されている(三相誘導電動機の鉄損解析〔電気学
会マグネティックス研究会資料MAG-00-121〕)。
【0019】そこで、高調波の重畳が交番磁界下の鉄損
に及ぼす影響を調べるために、表1に示す成分組成の無
方向性電磁鋼板を、表2に示す条件に従って基本波(正
弦波) に5次から19次の高調波を重畳させ、その際の鉄
損変化について調査した。また、従来, あまり報告例が
ない回転鉄損に及ぼす高調波重畳の影響についても調査
を行った。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】得られた結果を図1に示す。同図に示した
とおり、一次電圧波形での重畳率を一定にした場合、高
調波次数が低いほど鉄損劣化率が大きいことが判る。ま
た、高調波重畳時の回転鉄損の劣化率は、高調波重畳時
の交番磁界下の鉄損劣化率より小さいことが判る。特
に、5,7次の高調波が重畳した場合にその現象は顕著
であった。
【0023】そこで、この理由を調べるために、高調波
の重畳無しの場合と5次高調波重畳時の場合における磁
束密度ベクトルの軌跡について調べた結果を図2に示
す。この場合、L,C方向の磁束密度は重畳無しの時よ
りも増大するが、D方向の磁束密度は低くなることが判
る。このために、5次高調波重畳時の回転鉄損の劣化率
は、交番磁界下の5次高調波重畳時の鉄損劣化率よりも
小さかったものと考えられる。
【0024】次に、高調波の重畳無しの場合と19次高調
波重畳時の場合における磁束密度ベクトルの軌跡につい
て調べた結果を図3に示す。同図から明らかなように、
この場合には、磁束密度は全周にわたって細かく変動し
ている。
【0025】これらの結果から、高調波重畳時の回転鉄
損の劣化率は、L,C方向とD方向の鉄損の違いの影響
を受けると推定できる。一般に、D方向の鉄損はL,C
方向の鉄損に比べて劣っている。この原因の一つは、D
方向の集合組織がL,C方向の集合組織より劣ってい
て、その磁束密度が低いことにある。そこで、D方向と
L,C方向の鉄損に着目して、以下に述べる実験を行っ
た。
【0026】質量%で、C≦0.005 %,Si:0.05〜1.0
%,Al:0.15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,P≦0.2
%,S≦0.005 %, Ti≦0.005 %およびN≦0.005 %を
含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成範囲にあ
る無方向性電磁鋼板の製品板を多数用意し、かかる製品
板のL,C,D方向から試料を採取し、磁束密度:1.6
(T),周波数:50Hzの交番磁界下における鉄損を測定
した。また、5,7,19次高調波重畳時の回転鉄損の劣
化率を測定し、それらの平均値を求めた。さらに、 300
WのDCモータを試作してそのモータ効率を測定した。
【0027】得られた結果を、W16/50(L ) ,W
16/50(C),W16/50(D)を変数とする X=W16/50(D)/{〔W16/50(L)+W16/50(C)〕/2} という指標Xで整理したところ、図4,5に示す結果が
得られた。すなわち、X値が1.05以下を満足する場合に
高調波重畳時の回転鉄損の劣化率は顕著に減少し、モー
タ効率は90%以上に上昇することが判った。
【0028】なお、この調査に用いた製品板は、すべて
次式(1), (2) 〔B10(L) + B10(C) + 2×B10(D) 〕/4≧ 1.55 (T) --- (1) 〔B25(L) + B25(C) + 2×B25(D) 〕/4≧ 1.65 (T) --- (2) を満足する試料を用いた。その理由は、次のとおりであ
る。すなわち、SPCC(一般冷延鋼板)の磁化力H=300
0, 7500(A/m)の時の磁束密度(B30,B75)は、試料
の圧延方向(L方向)、圧延直角方向(C方向)および
試料の圧延方向に対して45°をなす方向(D方向)の平
均値(〔Bx(L)+Bx(C)+2×Bx(D)〕/4、但しx=
30,75)で考えた場合、各々B30:〜1.55(T),
75:〜1.65(T)である。従って、同程度の磁束密度
がそれより 1/3程度の磁化力で得られれば、電源の高電
圧化のメリットを充分に享受できる。そこで、本調査対
象の製品板としては、上掲(1), (2)式に示したとおり、
平均B10≧1.55(T), 平均B25≧1.65(T)を満足す
るものに限定した。
【0029】上記の結果から、次式(1), (2), (3) 〔B10(L) + B10(C) + 2×B10(D) 〕/4≧ 1.55 (T) --- (1) 〔B25(L) + B25(C) + 2×B25(D) 〕/4≧ 1.65 (T) --- (2) W16/50(D)≦1.05×〔W16/50(L)+W16/50(C)〕/2 --- (3) の関係を満足する特性の無方向性電磁鋼板を用いれば、
高いモータ効率が得られることになる。
【0030】そこで、上記したような特性を有する無方
向性電磁鋼板を得るべく、無方向性電磁鋼板の製造条件
を詳細に調べて、重回帰分析を行ったところ、上記の磁
気特性を満足させるには、素材成分,最終冷延圧下率,
再結晶時の昇温速度、鋼板張力および焼鈍温度が大きく
影響し、上記の特性を有する無方向性電磁鋼板を安定し
て収率良く製造するためには、これらの要因を制御する
必要があることが判明した。
【0031】すなわち、質量%で、C≦0.005 %,Si:
0.05〜1.0 %,Al:0.15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,
P≦0.2 %,S≦0.005 %,Ti≦0.005 %およびN≦0.
005%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成
になる鋼スラブを、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施したの
ちまたは施さずに、圧下率:60〜85%で冷間圧延を施し
て最終板厚に仕上げ、ついで 500〜800 ℃間の平均昇温
速度:20℃/s以上、鋼板に付与する張力:2MPa 以下、
焼鈍温度:850 〜1000℃の条件で再結晶焼鈍を施すこと
により、低磁場(磁化力H=1000,2500 A/m)での磁束
密度が高く、かつモータ効率に優れた無方向性電磁鋼板
が得られることが究明されたのである。
【0032】上記の製造条件によって、上掲した式(1),
(2)および(3) の関係を満足する磁気特性を有する無方
向性電磁鋼板を製造できる理由は、次のように考えられ
る。X値(=W16/50(D)/{〔W16/50(L)+W
16/50(C)〕/2})を1.05以下にするには、得られる集
合組織を異方性の少ない等方的なものにする必要があ
る。また、低磁場での磁束密度を高くするためには、
(110)や(110)方位粒が多い集合組織にする必
要がある。これらの制御因子として、素材成分、最終冷
延圧下率、再結晶時の昇温速度、鋼板張力および焼鈍温
度が有効に作用していると考えられる。
【0033】すなわち、Al≧0.15mass%にする必要があ
るのは、本調査範囲のAl量(Al>0.01mass%)では、Al
量が0.15mass%に満たないと、微細な析出物が生成し易
いためである。低磁場での磁束密度を高くするには、析
出物に起因するヒステリシス損の増大は望ましくない。
また、含有量が増すと素材の飽和磁束密度が低下し、か
えって低磁場での磁束密度を低下させる結果となるの
で、1.0 mass%以下で含有させるものとした。
【0034】また、S≦0.005 mass%にする必要がある
のは、Sに起因する析出物の生成量を抑えることでヒス
テリシス損が低減すると共に、低磁場での磁束密度を向
上させることが可能となるためである。
【0035】さらに、Ti≦0.005 mass%かつN≦0.005
mass%にする必要があるのは、TiやNに起因する析出物
の生成量を抑制することでヒステリシス損が低減するだ
けでなく、低磁場での磁束密度の向上が可能となるため
である。
【0036】また、最終冷延圧下率が60%未満では、再
結晶焼鈍後に熱延時の未再結晶粒が残存し易くなり、均
一で異方性の少ない集合組織が得られなくなる。一方、
最終冷延圧下率が85%を超えると、再結晶後の集合組織
に(111)が多くなり、低磁場で高い磁束密度を得る
ことが難しくなる。
【0037】さらに、再結晶焼鈍時の昇温速度を20℃/s
以上にすることで、(111)方位粒が減少し、(10
0),(110)方位粒が増加する。また、鋼板張力
を、2MPa 以下に抑えることで、鋼板幅方向(C方向)
および圧延方向に対して45°をなす方向(D方向)の磁
気特性が向上する。すなわち、鋼板張力が2MPa を超え
ると、鋼板長手方向の磁気特性に比べて幅方向(C方
向)および45°方向(D方向)の磁気特性が大幅に劣化
する。さらに、焼鈍温度を 850〜1000℃にすることで結
晶粒の大きさを最適化することができ、磁気特性の向上
に有効に作用する。
【0038】なお、従来は、Si量が低い(0.05〜1.0 ma
ss%)無方向性電磁鋼板の場合、α−γ変態のため再結
晶温度の上限は 800℃程度であった。しかしながら、均
熱時間を3〜10秒程度に短くすることおよび昇温速度を
20℃/s以上にすることによって、変態の開始を遅くする
ことができ、その結果、高温での焼鈍が可能になった。
【0039】次に、本発明において, 素材の成分組成を
前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成
分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味
するものとする。 C≦0.005 % Cが 0.005%を超えると、磁気特性の時効劣化が顕著に
なるので、Cは 0.005%以下に限定した。
【0040】Si:0.05〜1.0 % Siは、鋼の比抵抗を高くし鉄損を低下させる有用元素で
あるが、添加量の増加と共に鋼板の飽和磁束密度の低下
する。そこで、本発明では、低磁場での磁束密度を高く
するためにSi量の上限は 1.0%とした。また、鉄損低減
効果を得るために、Si量の下限は0.05%とした。
【0041】Al:0.15〜1.0 % Alも、Siと同様、鋼の比抵抗を高め鉄損を低減させる有
用元素であるが、本発明の検討範囲(Al>0.01%)で
は、Alが0.15%に満たないと、微細析出物が生成し易く
てヒステリシス損の増大を招く。また、含有量が増大す
ると、素材の飽和磁束密度が低下し、かえって低磁場で
の磁束密度を向上させるには不利となるので、Alは1.0
mass%以下で含有させるものとした。
【0042】Mn:0.05〜1.0 % Mnも、SiやAlほどではないが, 鋼の比抵抗を高め、鉄損
を低減させる効果がある。また、熱間圧延性を改善し、
かつ熱延時にSを固定するために必要な元素でもある。
しかしながら、含有量が0.05%に満たないとその添加効
果に乏しく、一方 1.0%を超えると飽和磁束密度の低下
が顕著になるため、Mnは0.05〜1.0 %の範囲に限定し
た。
【0043】P≦0.2 % Pは、粒界偏析により冷延再結晶後の集合組織を改善し
て磁束密度を向上させる有用元素である。しかしなが
ら、過度の粒界偏析は粒成長性を阻害し鉄損を劣化させ
るので、Pは 0.2%以下に限定した。
【0044】S≦0.005 % 不純物の中でも特にSは、析出物・介在物を形成して粒
成長性を阻害するので、極力低減することが望ましい。
特に含有量が 0.005%を超えると低磁場での磁束密度に
影響し、それを低下させる方向に作用するので、Sは
0.005%以下に制限した。
【0045】Ti≦0.005 % Tiは、0.005 %を超えると顕著にヒステリシス損を増大
させ、また低磁場での磁束密度を低下させる方向に作用
するので、0.005 %以下に制限した。
【0046】N≦0.005 % Nは、0.005 %を超えると顕著にヒステリシス損を増大
させ、また低磁場での磁束密度を低下させる方向に作用
するので、0.005 %以下に制限した。
【0047】以上、必須成分について説明したが、本発
明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させる
ことができる。 Sb:0.005 〜0.1 % Sbは、集合組織を改善して磁束密度を向上させるだけで
なく、鋼板表層の酸窒化やそれに伴う表層微細粒の生成
を抑制することによって磁気特性の劣化を防止すると共
に、表面硬度の上昇を抑制して打ち抜き加工性を向上さ
せる等、種々の作用効果を有する元素である。しかしな
がら、含有量が 0.005%に満たないとその添加効果に乏
しく、一方 0.1%を超えると結晶粒の成長性が阻害され
て磁気特性の劣化を招くので、Sbは 0.005〜0.1 %の範
囲で含有させるものとした。
【0048】Sn:0.01〜0.5 % Snも、Sbと同様の添加効果を有する元素であるが、含有
量が0.01%に満たないとその添加効果に乏しく、一方
0.5%を超えると結晶粒の成長性が阻害され、磁気特性
の劣化を招くので、Snは0.01〜0.5 %の範囲で含有させ
るものとした。
【0049】Cu:0.02〜0.5 % Cuは、鋼板表層の酸窒化を抑制することによって、磁気
特性の劣化を抑制する作用効果を有する元素である。し
かしながら、含有量が0.02%に満たないとその添加効果
に乏しく、一方 0.5%を超えると結晶粒の成長性が阻害
され、磁気特性の劣化を招くので, Cuは0.02〜0.5 %の
範囲で含有させるものとした。
【0050】Ni:0.1 〜3.0 % Niは、集合組織を改善して磁束密度を向上させる作用効
果を有する元素である。しかしながら、含有量が 0.1%
に満たないとその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超え
て添加してもそれ以上の効果に少なく、むしろ圧延性の
劣化を招くので、Niは 0.1〜3.0 %の範囲で含有させる
ものしとた。
【0051】次に、本発明の製造方法について説明す
る。上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気
炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要があれば真空
処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法を用
いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100
mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
【0052】得られたスラブを、通常の方法で加熱した
のち、熱間圧延に供する。熱間圧延時の仕上げ圧延温度
や巻取り温度等の熱延条件は特に規定しないが、省エネ
ルギーの面からスラブ加熱は1250℃以下で行うことが望
ましい。ただし、最終仕上げ板厚を考慮して, 最終冷延
圧下率が60〜85%になるように熱延板の板厚を制御する
必要がある。たとえば、最終仕上げ板厚が0.35mmの場
合、熱延板の許容板厚は0.875mm 以上、2.33mm以下であ
る。また、最終板厚が 0.8mmの場合、熱延板の許容板厚
は2.0mm 以上、5.33mm以下である。ついで、熱延板焼鈍
を施し、または施さずに、上記範囲の圧下率で最終板厚
まで冷間圧延する。ここに、最終冷延における圧下率を
60〜85%の範囲にしたのは、圧下率が60%に満たない
と、再結晶焼鈍後に熱延時の未再結晶粒が残存し易くな
り、均一で異方性の少ない集合組織が得られなくなり、
一方、圧下率が85%を超えると、再結晶後の集合組織に
(111)が多くなり、高い磁束密度を得ることが難し
くなるからである。
【0053】その後 500〜800 ℃間の平均昇温速度を20
℃/s以上、鋼板張力を2MPa 以下にして、 850〜1000℃
の温度範囲で再結晶焼鈍を行うことによって、本発明の
鋼板を得ることができる。ここに、再結晶焼鈍時におけ
る 500〜800 ℃間の平均昇温速度を20℃/s以上としたの
は、平均昇温速度を20℃/s以上にすることによって、
(111)方位粒が減少し、(100),(110)方
位粒が増加するからである。また、鋼板張力を2 MPa以
下としたのは、鋼板張力を2 MPa以下とすることによっ
て、鋼板幅方向(C方向)および圧延方向に対して45°
をなす方向(D方向)の磁気特性が向上するからであ
る。この点、鋼板張力が2 MPaを超えると、鋼板長手方
向(L方向)の磁気特性に比べて幅方向(C方向)およ
び45°方向(D方向)の磁気特性は大幅に劣化する。さ
らに、焼鈍温度を 850〜1000℃としたのは、焼鈍温度を
850〜1000℃とすることによって結晶粒の大きさを最適
化することができ、磁気特性の向上に有効に寄与するか
らである。なお、この再結晶焼鈍時における均熱時間に
ついては、3〜10秒程度とすることが好適である。さら
に、上記の再結晶焼鈍に引き続いて、既知のコーティン
グ処理を行っても良いのはいうまでもない。
【0054】
【実施例】実施例1 表3に示す成分組成になる鋼スラブを用意し、ガス加熱
炉により1200℃に加熱したのち、熱間圧延により板厚:
1.0 〜4.0 mmの熱延板とした。ついで、この熱延板を1
回の冷間圧延にて最終板厚:0.50mmに仕上げたのち、 5
00〜800 ℃間の平均昇温速度、鋼板に対する付与張力お
よび焼鈍温度を表4に示すように種々に変更して、均熱
時間:5秒の再結晶焼鈍(仕上げ焼鈍)を行った。かく
して得られた製品板から、圧延方向(L方向),圧延直
角方向(C方向)および圧延方向に対して45°をなす方
向(D方向)のエプスタイン試験片を採取して、磁気特
性を測定した。さらに、 500WのDCモータを試作して
そのモータ効率を測定した。なお、モータ効率が90.0%
以上であれば、優れた特性といえる。かくして得られた
結果を表5に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】表5から明らかなように、素材特性が本発
明で規定した関係を満足する発明例はいずれも、良好な
モータ効率が得られている。
【0059】実施例2 表6に示す成分組成になる鋼スラブを、ガス加熱炉によ
り1100℃に加熱したのち、熱間圧延により2.5mm 厚の熱
延板とした。引き続き、1000℃,30秒の熱延板焼鈍後、
1回の冷間圧延にて最終板厚:0.50mmに仕上げた。つい
で 500〜800 ℃間の平均昇温速度、鋼板に対する付与張
力および焼鈍温度を表7に示すように種々に変更して、
均熱時間:7秒の再結晶焼鈍(仕上げ焼鈍)を行った。
かくして得られた製品板から、圧延方向(L方向),圧
延直角方向(C方向)および圧延方向に対して45°をな
す方向(D方向)のエプスタイン試験片を採取して、磁
気特性を測定した。さらに、 500Wの誘導モータを試作
してそのモータ効率を測定した。得られた結果を表8に
示す。
【0060】
【表6】
【0061】
【表7】
【0062】
【表8】
【0063】表8から明らかなように、素材特性が本発
明で規定した関係を満足する発明例はいずれも、良好な
モータ効率が得られている。
【0064】
【発明の効果】かくして、本発明によれば、低磁場での
磁束密度が高く、かつモータ効率に優れた無方向性電磁
鋼板を安定して得ることができる。従って、本発明の無
方向性電磁鋼板を用いれば、特に自動車電源(バッテリ
ー)の高電圧化(14V→42V以上)の際に自動車・電装
品に使用して好適な、モータ効率の高い小型モータを得
ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 高調波の重畳が鉄損に及ぼす影響を示す図で
ある。
【図2】 高調波の重畳がない場合および5次高調波重
畳時の場合における回転磁界・磁束密度ベクトルの軌跡
を示す図である。
【図3】 高調波の重畳がない場合および19次高調波重
畳時の場合における回転磁界・磁束密度ベクトルの軌跡
を示す図である。
【図4】 製品板の磁気特性(X=W16/50(D)/{〔W
16/50(L)+W16/50(C)〕/2})と高調波重畳時の回転
鉄損の劣化率との関係を示す図である。
【図5】 製品板の磁気特性(X=W16/50(D)/{〔W
16/50(L)+W16/50(C)〕/2})とモータ効率との関係
を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 本田 厚人 岡山県倉敷市水島川崎通1丁目(番地な し) 川崎製鉄株式会社水島製鉄所内 Fターム(参考) 4K033 AA01 CA01 CA02 CA03 FA12 HA02 HA04 KA01 5E041 AA04 CA04 HB15 NN01 NN18

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C≦0.005 %,Si:0.05〜1.
    0 %,Al:0.15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,P≦0.2
    %,S≦0.005 %,Ti≦0.005 %およびN≦0.005 %を
    含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、
    さらに製品板試料の圧延方向(L方向),圧延直角方向
    (C方向)および圧延方向に対して45°をなす方向(D
    方向)の磁化力H=1000 A/mにおける磁束密度を、それ
    ぞれB10(L), B10(C), B10(D) 、また磁化力H=25
    00 A/mにおける磁束密度を、それぞれB25(L), B
    25(C), B25(D) とする時、これらが次式(1), (2) 〔B10(L) + B10(C) + 2×B10(D) 〕/4≧ 1.55 (T) --- (1) 〔B25(L) + B25(C) + 2×B25(D) 〕/4≧ 1.65 (T) --- (2) の関係を満足し、かつ磁束密度:1.6 (T)、周波数:
    50Hzの正弦波で、製品板試料のL方向,C方向およびD
    方向に磁化した時の鉄損を、それぞれW16/50(L), W
    16/50(C), W16/50(D)とするとき、これらが次式(3) W16/50(D)≦1.05×〔W16/50(L)+W16/50(C)〕/2 --- (3) の関係を満足することを特徴とする、低磁場での磁束密
    度が高い高電圧バッテリー搭載車用の無方向性電磁鋼板
    およびその製造方法。
  2. 【請求項2】 鋼板が、さらに質量%で、Sb:0.005 〜
    0.1 %,Sn:0.01〜0.5%,Cu:0.02〜0.5 %およびN
    i:0.1 〜3.0 %のうちから選んだ1種または2種以上
    を含有する組成になることを特徴とする請求項1記載の
    無方向性電磁鋼板。
  3. 【請求項3】 高電圧バッテリー(42V以上)を有する
    車両のモータ用鉄心材料として用いることを特徴とする
    請求項1または2記載の無方向性電磁鋼板。
  4. 【請求項4】 質量%で、C≦0.005 %,Si:0.05〜1.
    0 %,Al:0.15〜1.0 %,Mn:0.05〜1.0 %,P≦0.2
    %,S≦0.005 %,Ti≦0.005 %およびN≦0.005 %を
    含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼
    スラブを、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施したのちまたは
    施さずに、圧下率:60〜85%で冷間圧延を施して最終板
    厚に仕上げ、ついで 500〜800 ℃間の平均昇温速度:20
    ℃/s以上、鋼板に付与する張力:2MPa 以下、焼鈍温
    度:850 〜1000℃の条件で再結晶焼鈍を施すことを特徴
    とする、低磁場での磁束密度が高い高電圧バッテリー搭
    載車用の無方向性電磁鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】 鋼スラブが、さらに質量%で、Sb:0.00
    5 〜0.1 %,Sn:0.01〜0.5 %,Cu:0.02〜0.5 %およ
    びNi:0.1 〜3.0 %のうちから選んだ1種または2種以
    上を含有する組成になることを特徴とする請求項4記載
    の無方向性電磁鋼板の製造方法。
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