【発明の詳細な説明】
金属錯体を使用する均質な酸化触媒作用
関連出願についてのクロスリファレンス
適用不能
合衆国連邦政府の支持研究に関する記載
本研究は、米国健康保険局(National Institutes of Health)からの援助に
よって支援された。(5RO1GM55836).米国政府は、本発明において一定の権利を
有する。
発明の背景
本発明は、酸化触媒および触媒作用の分野に関する。さらに詳しくは、本発明
は、オレフィン類の酸化、特に、オレフィン類のエナンチオ選択的な酸化につい
て有用な触媒の分野に関する。
化学選択性、レジオ選択性および立体選択性を含め、反応における選択性は、
化学および生物学の両方において最も重要である。異なる官能基間、例えば、ア
ルコール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類およびその他のうちまたは
間での反応における選択は、化学選択性(chemoselectivity)と称される。レジ
オ選択性とは、反応によって変化する基質において生ずるかまたは破壊されうる
すべての他のものに対して1つの配向またはレジオ異性体を選択することを言う
。立体選択性とは、ジアステレオ選択性(重ね合わせることのできない非鏡像で
ある同一の結合性を有する2つの化学物質であるジアステレオマーのうちでの選
択)およびエナンチオ選択性(重ね合わせることのできない鏡像である同一の結
合性を有する2つの化学物質である2つの可能なエナンチオマー間の選択)の概
念を包括する。例えば、種々の医薬品の製造において、1つのエナンチオマーが
有益な性質を有し、他方、他のエナンチオマーが有害であることが知られており
、悲惨な結果を招くことが多い。選択性の所望される度合いおよびタイプを得る
ために、化学者は、ほとんど周期律表の全体を組み込む多数の試薬を使用し、元
素は、あらゆるアクセス可能な環境から収集される。プロキラルなオレフィンを
エナンチオ選択的にエポキシ化し、プロキラルなスルフィドをエナンチオ選択的
に
酸化するためにキラルな遷移金属触媒を使用する方法は、Jacobsen et al.の米
国特許No,5,637,739に開示されている。
対照的に、自然は、各局所環境で入手可能な比較的少数の元素を使用し、これ
らの入手可能な溶剤および到達可能な温度の限度内で使用して、生命の複雑な化
学を営んでいる。自然は、試薬設計、および複雑さにおいて無限と思われるシス
テムの相互連絡性を達成することによってその選択的目的を成就している。自然
は、この設計の複雑性を通して、化学者が同目的のために達成したよりもはるか
に広範な範囲の構造および官能性の役割において少数の群の元素を使用すること
ができる。この重要な相違において、環境的な損傷の多く根本原因は、化学、確
かに、適切な理解または当然払うべき注意なしで実施された工業化学に起因させ
られよう。選択性を達成するために元素の多様性を使用することによって、化学
者は、比較的簡単な設計配置内で仕事をすることができる。そのプロセスにおい
て、生物は、なじみのない元素に直面し、したがって、毒性となることが多い。
低い毒性の遷移元素、例えば、マンガンおよび鉄の反応性の領域を拡張する好ま
しい試薬は、既存のものよりもより環境的に望ましいプロセスをもたらすことが
できる。
マンガンおよび鉄のパーオキシド活性化触媒を支持する酸化的に活性なキレー
トリガンドの設計に向けた努力は、T.J.CollinsのAccounts of Chemical Resear
ch 27,279−285(1994);および、F.C.Anson et al.のJ.Am.Chem.Soc.106,4460
−4472(1984)で報告されている。特に活性な四座配位リガンドは、T.Collins
の”Long−Lived Homogenous Oxidation Catalysts”についての米国同時継続特
許出願08/681,237に開示されており、この特許出願は、参考とすることによっ
て本明細書に組み込む。第1の安定なマンガニル、すなわち、MnV−オキソ錯
体の開発は、T.J.Collins,S.W.Gordon−Wylie,のJ.Am.Chem.Soc.111,4511-13(1
989)およびT.J.Collins,R.D.Powell,C.Slebodnick,E.S,UffelmanのJ.Am.Chem.S
oc.112,899−901(1990)に報告されており、後者の論文に記載されている錯体
もまた水性環境中で安定である。前述の1989年および1990年のCollins et al.の
J.Am.Chem.Society論文に記載されている大環状テトラアミドリガンドは、酸化
金属イオンに配位す
る時に安定であり、これらリガンド−金属錯体およびそれらの類縁体は、あまり
反応性ではない酸素原子移動剤である。これは、ジアニオン性ポルフィリンおよ
びサレン四座配位リガンドを使用するシステムとは対照的であり、ここで、MnV
およびMnIV−オキソ錯体は、種々のO−原子移動プロセスにおいて目的とす
る反応性中間体である。E.Srinivasan,P.Michaud,J.K,Kochl,J.Am.Chem.Soc.108
,2309−2320(1986);J.T.Groves,M.K.Stern,J.Am.Chem.Soc.110,8628−8638(
1988);W.Zhang,J.L.Loebach,S.R.Wilson,E.N.Jacobsen,J.Am.Chem.Soc.112,28
01−2803(1990)参照。
発明の簡単な概要
従来のテトラアミドMnV−オキソ錯体の強度の弱い反応性は、ポルフィリン
またはサレンリガンドと比較してテトラアミドリガンドのより高い負の電荷およ
びσドナー能によって生ずると考えられている。本発明は、その活性形において
、オキソリガンド種がO−原子移動反応で有機求核剤に対して反応性である鉄ま
たはマンガンのような金属を含有する新しい酸化的かつ加水分解的に活性な遷移
金属錯体を使用する。有意なことに、本発明のシステムは、また、オキソリガン
ドの求電子性を高めるために、第2の反応を使用する。改良した四座配位リガン
ドの金属−オキソ部分の即近傍において通常正に荷電したイオンの形のルイス酸
性種の結合は、O求電子性における目的とする増加を提供し、それによって、触
媒の1つの実施態様について図1に概略的に示したような、有効なメタロO−原
子移動剤を生ずる。
本発明は、複数の酸化可能部位を有する標的化合物における少なくとも1つの
酸化可能部位へ酸素を移動させる方法;または、プロキラル種の酸化可能部位へ
酸素を移動させる方法を提供する。本明細書で使用する酸化可能とは、酸素原子
を受容することのできるいずれかの部位、例えば、オレフィンまたはアルキニル
部位か、または、本明細書で示す酸化触媒システムによって生ずるもう1つの形
の酸化に賦されるいずれかの部位を言う。複数の酸化可能部位を有する化合物の
場合を詳細に説明しよう。キラルな化合物を生ずるためのプロキラルな種の酸化
は、1個のみの酸化可能部位が存在する必要があり、触媒システムがキラリティ
を有するものである必要がある以外は、同様に進行する。この方法は、その中に
複数の酸化可能部位を有する標的化合物を含有する溶液に、酸素原子の源;ルイ
ス酸種の源、最も一般的には、カチオン種;および、構造式:
[式中、Zは、NまたはOであり、少なくとも1個、および、好ましくは,4
個のZは、Nであり;
MOは、遷移金属−オキソ種であり;
Ch1は、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ジシアノ−ピラジン、一−、二
−、三−または四−置換ベンゼン、ベンズイミダゾール、ベンゾキノン、ジ−イ
ミノ置換ベンゼン、インドール、置換されたクラウン誘導体、クリプタンドリガ
ンド、EDTA誘導体、5員環および5員環誘導体、ポルフィリン誘導体、金属
化されたフタロシアニン基体システム、ビ−ピリジル基体システム、フェナント
ロリン基体システムおよびサレン基体システムからなる群より選択され;
Ch2およびCh3は、各々、
{式中、R1、R2、R3およびR4は、対でかつ累積的に同一または異なり、各
々、水素、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、
シク
ロアルキル、シクロアルケニル、アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン、フルオロ
アルキル、パーフルオロアルキル、フルオロアルケニル、パーフルオロアルケニ
ル、CH2CF3およびCF3からなる群より選択されるか、または、R1、R2、
R3およびR4は、一緒になって、置換または非置換ベンセン環を形成するか、あ
るいは、R1、R2またはR3、R4対の対をなすR置換基は、一緒になって、シク
ロアルキルまたはシクロアルケニル環を形成する。}
によって構成される隣接Z原子を結合する単位を表し;
Ch4は、
{式中、R5およびR6は、同一または異なり、結合または非結合であり、各々
、水素、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、エステル類、エーテル類、ア
ミン類、イミン類、アミド類、ニトロ、スルホニル類、サルフェート類、ホスホ
リル類、ホスフェート類、シリル、シロキサン類、アルキル、アリール、アルケ
ニル、アルキニル、アルキルアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ア
ルコキシ、フェノキシ、ハロ、CH2CF3またはCF3によって構成されるか;
または、R5,R6対の対をなすR置換基は、一緒になって、シクロアルキルまた
はシクロアルケニル環を形成する。}
からなる群より選択される隣接Z原子を結合する単位である。]
を有する触媒を加え;
標的化合物の所望される酸化可能部位を酸化するのに十分な時間、その酸化反
応を進行させる;
ことを含む。
当業者であれば、ルイス酸としては、カチオン種、中性種およびアニオン種が
挙げられることが理解されるであろう。本明細書で使用するカチオン触媒錯体と
言う用語の使用は、触媒と結合し、その活性を変化させる実体としての全てのこ
のような種の使用を包含し、カチオンに限定されるものではない。
金属イオンは、いずれかのルイス酸種、例えば、プロトン、アルカリ金属、ア
ルカリ土類金属、希土類金属もしくは遷移金属または主要族金属イオンである。
上記触媒を使用するための好ましい方法において、標的化合物における複数の
酸化可能部位は、相対的反応性において相互に異なり、溶液に添加されるカチオ
ンは、標的化合物の1つの酸化可能部位を酸化するために触媒を選択的に活性化
するように選択される。したがって、本発明の方法は、標的化合物上の一連の酸
化可能部位を特定し、ここで、各一連の酸化可能部位は、一連の酸化可能部位の
最も高い相対的反応性を有する開始酸化可能部位から一連の部位における酸化可
能部位の最も低い相対的反応性を有する最終酸化可能部位までの逐次範囲の逐次
反応性を有しており;一連の酸化可能部位中の第2の酸化可能部位がついで標的
化合物の一連の部位の残る酸化可能部位の最も高い相対的反応性を有するように
、所望される第1の酸化可能部位を酸化するのに十分な第1の反応性レベルを有
する第1のカチオン触媒錯体を形成するために、触媒を活性化するための第1の
カチオンを溶液に加える工程を含む。各利用可能な開始酸化可能部位の酸化に続
き、第1のカチオンは、所望により、溶液から除去される。その後、第2のカチ
オン触媒錯体を形成するために触媒を活性化するための第2のカチオンを溶液に
加え、第2のカチオン触媒錯体が標的化合物上の第2の酸化可能部位を酸化する
のに十分な反応性レベルを有するようにし、その酸化反応は、標的化合物上の一
連の酸化可能部位における次に酸化可能部位が一連の部位の残る酸化可能部位の
最も高い相対的な反応性を有するように、標的化合物上の各酸化可能部位の酸化
を許容するのに十分な時間進行させる。酸化に続き、第2のカチオンは、所望に
より、その溶液からを除去される。前述の工程は、カチオンを溶液に加え、酸化
を進行させ、所望により、その溶液からカチオンを除去することによって繰り返
され、溶液に加えられる各逐次カチオンは、各最後の酸化可能部位が酸化される
まで、一連の酸化可能部位における酸化可能部位の逐次酸化を実行するために、
漸次高い反応性を有するカチオン触媒錯体を形成する。カチオンが第2の部位ま
たは触媒部位と強力な結合を形成する場合には、カチオンおよびカチオン触媒錯
体の除去は必要ないであろう。また、逐次加えられるカチオンが触媒を活性化す
るのに、
カチオンの除去が必要ではない場合には、カチオン除去は必要ないであろう。
本方法は、さらに、標的化合物上の少なくとも1個のプロキラルな酸化可能部
位のエナンチオ選択的な酸化を含んでもよく、このような標的化合物は、1つの
みの酸化可能部位を有してもよい。エナンチオ選択的な酸化に使用される触媒ま
たはカチオン触媒錯体は、標的化合物のプロキラルな酸化可能部位と反応する時
に、カチオン触媒錯体が他方に比べて一方のエナンチオマーの形成を有利とする
か、または、既に、基質がジアステレオマー変種のうちで選択を有利とするキラ
リティを有する場合には、錯体を不整とする置換基を含む。これとは別に、本方
法は、混合物中で対をなすエナンチオマーの一方をその混合物から選択的により
分ける動的分割用途において役割を果たす。
図面の簡単な説明
本発明は、図1の好ましい実施態様について互換性のある用語として標題”化
合物1”および[LMnV≡O]-を含む図面を参考とすることによってよりよ
く理解されるであろう。
図1は、本発明のスイッチ酸化が従うと考えられる触媒サイクルの概略図であ
る。
図2は、化合物1の分子構造であり;Mn原子がオキソ原子に向かって平面よ
り0.579Å高く存在し、配位された酸素がマンガンより高く対称に位置する50%
の電子密度を包含するように描かれた非水素原子を有するORTEP図面である。
選択された結合長さ[A]:Mn−O(1),1.549(3);Mn−N(1),1.8
84(4);Mn−N(2),1.873(3);Mn−N(3),1.881(3);Mn−
N(4),1.885(3)。
図3Aおよび図3Bは、(A)において、化合物1(9.71×10-5M,3ml,試
料寸法)のUV/Vis(紫外/可視)スペクトルであり、アセトニトリル中Li(OS
O2CF3)のアリコートが加えられ(初期添加中の2μl中に0.06μmol)であり;
(B)において、モル比プロットが、希釈のために補正されているのを示す。
図4は、化合物1の赤外スペクトル(ポリエチレンフィルム)(細い線);お
よび、スイッチング部位のリチウム化に伴うν(Mn≡18O)バンドにおける15
cm-1の増加を示すリチウム化された化合物1の赤外スペクトル(太い線)を表
す。Li+結合は、大環状テトラアミド−Nリガンドのドナー能における実質的
な降下を誘発し、これはオキソリガンドの結合エネルギーの増大によって補償さ
れる降下である。
図5Aおよび図5Bは、(A)において、トリフェニルホスフィンおよび種々の
スイッチングイオンの存在下における396nmの化合物1のUV/Vis吸収の変化速
度を示す。標準的に観測される速度定数;実験数、カチオンの当量数、カチオン
、相対速度±3つの試験の最小の標準偏差:1,カチオンなし,0,1;2a,5,
Na+,2.7±0.1;3a,5,Ba2+,4.8±0.5;3b,60,Ba2+,5.7±0
.1;4a,5,Mg2+,7.0±0.4;4b,60,Mg2+,7.2±0.8;5a,5,L
i+,13.5±2.0;6a,5,Zn2+,24.5±1;6b,60,Zn2+,24.1±0.8
;5b,60,Li+,25.0±0.5;2b,60,Na+,506.4±7.0;7a,5,S
c3+,1246.0±206.1;7b,60,Sc3+,1577.6±290.0;および、(B)
において、最も迅速な酸化を示すタイムスケールの拡大を示す。
図6は、リガンドの合成を概略的に示す。
図7は、マンガンについての金属挿入を概略的に示す。
図8は、種[LMnV≡O]-の1HNMRスペクトルである。ピリジン−Nお
よびMn(O)の存在によって生ずる低い対称性は、4つのメチル共鳴cc’dd
’の観測に現れている。
図9Aおよび図9Bは、Na+の種々のモル当量についての[LMnV≡O]-
と結合するNa+のUV/Visを示す。0.0.(長いダッシュの破線によって示す)
,25(短いダッシュの破線によって示す),および60(黒い実線によって示す
)。モル比のプロットは、2つの結合プロセスが存在することを示す。1つは、
スイッチング部位へのNa+結合であり、他の結合事象は、アミド酸素の1つで
生ずると考えられる。
図10A,B,CおよびDは、Zn2+の種々のモル当量についての(LMnV≡
O]-と結合するZn2+のUV/VisおよびIR研究を示す。0.0(長いダッシュの
破線),0.23(短いダッシュの破線によって示す)および0.69(黒い実線によ
って示す。)
図11A,B,C,およびDは、Mg2+の種々のモル当量についての[LMnV
≡O]-と結合するMg2+のUV/Vis研究を示し、0.0は長いダッシュの破線によ
って示し、0.30は、短い点線によって示し、1.06は、黒い実線によって示す。
図12Aおよび図12Bは、Ca2+の種々のモル当量についての[LMnV≡O]-
と結合するCa2+のUV/Vis研究を示す。
図13Aおよび図13Bは、Ba2+の種々のモル当量についての[LMnV≡O]-
と結合するBa2+のUV/Vis研究を示す。
図14Aおよび図14Bは、Sc3+の種々のモル当量についての[LMnV≡O]-
と結合するSc3+のUV/Vis研究を示す。Sc3+は、複雑な結合挙動を示すが、
終点に到達するのに1当量のみを必要とする。
図15A−Fは、13C−NMRによってモニターした[LMnV≡O]-とテトラ
メチルエチレンとのO原子の反応性研究を示し、カーボン生成物の共鳴の経時的
な成長が明るいトレースから暗いトレースまで漸次示されている。
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明の方法で使用される触媒の好ましい実施態様は、試薬が低い毒性の元素
によって構成する必要があるという原則を呼び起こすことによって化学の”グリ
ーン化”に貢献する。グリーン化設計のうち、重要であると考えられる元素は、
以下のものである。好ましくは、金属は、低い毒性元素の1つ、すなわち、鉄ま
たはマンガンである。支持リガンドシステムは、好ましくは、炭素、水素、窒素
、酸素およびその他の生物学的に一般的な元素によって構成される。主要な酸化
体は、天然に広範に見られるもの、例えば、酸素またはその還元された誘導体の
1つ、特に、過酸化水素であることが好ましい。この理由は、広範な範囲の均質
的な酸化のために過酸化物および酸素を活性化するための非毒性長寿命の鉄およ
びマンガン触媒を与えるためにリガンド設計を進歩させるための有意な環境状態
を構成するからである。
本発明の方法に対して有用であることが見出された触媒は、一般構造式: [式中、Zは、NまたはOであり、少なくとも1個のZ、および、好ましくは
,4個のZは、Nであり;
MOは、遷移金属−オキソ種であり;
Ch1は、本明細書の表1に記載したこのような置換基についての表現に従い
、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ジシアノ−ピラジン、一−、二−、三−ま
たは四−置換ベンゼン、ベンズイミダゾール、ベンゾキノン、二置換ベンゼン、
インドール、置換されたクラウン誘導体、クリプタンドリガンド、EDTA誘導
体、5員環および5員環誘導体、ポルフィリン誘導体、金属化されたフタロシア
ニン基体システム、ビ−ピリジル基体システム、フェナントロリン基体システム
およびサレン基体システムからなる群より選択され;
Ch2およびCh3は、各々、
{式中、R1、R2、R3およびR4は、対でかつ累積的に同一または異なり、各
々、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、アルキルアリール、シクロ
アルキル、シクロアルケニル、アルコキシ、フェノキシ、ハロゲン、CH2CF3
およびCF3からなる群より選択されるか、または、R1、R2、R3およびR4は
、一緒
になって、置換または非置換ベンゼン環を形成するか、あるいは、R1、R2また
はR3、R4対の対をなすR置換基は、一緒になって、シクロアルキルまたはシク
ロアルケニル環を形成する。}
によって構成される隣接Z原子を結合する単位を表し;
Ch4は、
{式中、R5およびR6は、同一または異なり、結合または非結合であり、各々
、水素、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、エステル類、エーテル類、ア
ミン類、イミン類、アミド類、ニトロ、スルホニル類、サルフェート類、ホスホ
リル類、ホスフェート類、シリル、シロキサン類、アルキル、アリール、アルケ
ニル、アルキニル、アルキルアリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、ア
ルコキシ、フェノキシ、ハロ、CH2CF3またはCF3によって構成されるか;
または、R5,R6対の対をなすR置換基は、一緒になって、シクロアルキルまた
はシクロアルケニル環を形成する。}
からなる群より選択される隣接Z原子を結合する単位である。]
を有する。
触媒の好ましい実施態様は、本明細書で化合物1と称する図1に示したテトラ
アミドリガンドである。本発明の方法で使用される触媒は、化合物1において、
ピリジン窒素原子と隣接するアミド酸素とによって構成される二座配位の第2の
部位を含有する。第2のイオンを結合する電子的な影響は、σおよびπ撹乱の組
合せによりMn(O)部分へと伝達される。このような結合は、オキソリガンドの
求電子性を増大させ、それにより、そのO−原子移動反応性を増大させる。第2
の結合は、本明細書では、’スイッチング’事象と称し、その事象により、許容
可能な速度で目的とする反応性および選択性を達成するために第1の反応を進行
させるように、第2の反応がちょうどよい時に準備される事象である。
本発明の方法において、スイッチングプロセスは、適当なタイムスケールで有
用な酸化を実施できるように、化合物1を活性化させるために使用される。第2
の部位と結合するルイス酸またはカチオンを操作することによって、触媒の相対
的な反応性を制御することができる。この技術を使用し、以下に詳細に説明する
ように、複数の可能な酸化部位を有するより大きな化合物の所望される部位での
化学−およびレジオ−選択性および酸化反応の順序を制御することができる。ま
た、所望されるプロキラルな部位でのキラリティの導入は、不整を導入するため
の触媒の活性部位を取り囲む環境を合成的に改良することによるか、または、ス
イッチングカチオンと結合する基を介してカチオン触媒錯体に不整をもたらすこ
とによって制御することができる。錯体の寸法および形状は、所望される酸化部
位の1つの側、例えば、オレフィンと、他の側に優先して、有利に接触するよう
に変化させることができる。
カチオン性リガンド(L)−金属(M)−オキソ(O)−種{[LM=O]+
}は、本発明のそれらと類似して、概して、以下の:
[LM]+ + [O] → {[LM=O]+}+ オレフィン → [LM]+
+ エポキシド(またはその他の酸化生成物)
のように、金属触媒オレフィン酸化における活性な酸化体として使用されている
。
大環状テトラアミド類
は、安定なアニオン[LM≡O]-種、例えば、[LMnV≡O]-を与える。こ
れらアニオン性のマンガニル種は、O−原子移動剤としてあまり活性ではない。
中性種またはカチオン種を生じさせるためのアニオン種の変換は、酸化反応にお
いて、マンガンの触媒能を高めることが見出された。本発明の1つの方法におい
て、二座配位の第2のイオン結合部位は、大環状体:
に付加して電荷が切り替わり、アミドのドナー能を改質し、金属と結合するアキ
シャルリガンドの動力学および熱力学を変化させる。[LMnV≡O]-錯体は、
典型的なアルカリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属カチオンのトリフレー
ト[SO3CF3]塩で滴定した。変化は、UV/Vis分光分析で追跡した。モル比
プロットを作成し、結合プロセスを理解するために解析した。カチオンとしてL
i+を使用する例を図3に示す。ここで、K=9.0×104−1.2×105およびpK
=4.95−5.08である。モル比プロットは、1つの結合プロセスのみが存在する
ことを示す。
UV/VisスペクトルにおけるMnVバンドの変化は、また、Na+,Zn2+,M
g2+,Ca2+,Ba2+およびSc3+についてもモニターした。図9−図14参照。
遷移金属イオンRuおよびRhを有するカチオン触媒錯体を製造したが、これら
は、首尾よく、酸化を触媒した。
図5に示したように、初期試験反応において、[LMnV≡O]-スイッチング
錯体は、スイッチングイオンの不在または存在下で、PPh3と反応して、Ph3
P=Oを生成した。UV/VisスペクトルにおけるMnVバンドの崩壊をモニ
ターした。
その結果は、スイッチングイオンの存在がO−原子移動反応性を劇的に高める
ことを示す。その速度は、第2イオンの選択によって制御することができる。第
2イオンの選択的な取り扱いによる反応の速度を制御する能力とともに、テトラ
メチルエチレンへの首尾よい触媒O−原子の移動(図15参照)は、本発明の酸化
触媒が、オレフィンを含め、種々の基質の酸化に有用であることを立証する。
図15を参照すると、例えば、本発明の選択的酸化方法は、以下のように進行
することができるであろう。オキソ触媒[LMnV≡O]-および所望されるアル
カリ金属、アルカリ土類金属または遷移金属カチオン、主要族金属イオン源;お
よび、酸素源、例えば、パーオキシ化合物または酸化体は、溶剤および複数のオ
レフィン部位を有する標的化合物を含有する溶液中、室温で混合される。許容可
能な速度で反応を生じさせることが必要な場合には、溶液は加熱される。反応は
、最も反応性の高いオレフィン部位;および、カチオン触媒錯体の反応性が適合
するいずれかの他の部位で酸化を生ずる。
[LMnV≡O]- + スイッチまたはカチオン + オレフィンまたは標的
化合物 + [O] → オレフィンの1個以上の選択される部位における酸化
された生成物またはエポキシド。
具体的な反応は、図15に示す。
1つの部位のみ、または、ある一定の反応性を有する部位のみが酸化されるよ
うに酸化を制御するためには、使用される第1のカチオンは、最も低い反応性を
有するカチオン触媒錯体を生成するものである。カチオンとの結合の際に生ずる
低い反応性のカチオン触媒錯体は、基質または標的化合物上の最も高い反応性の
オレフィン部位のみを酸化するであろう。このように、最も高い反応性から最も
低い反応性の一連のオレフィン部位は、それぞれ、最も低い反応性のカチオン触
媒錯体[LM(O)]-を生成するオキソテトラアミドリガンドの第2の結合部
位と結合するカチオンで始まり、最も高い反応性のカチオン触媒錯体へと進む。
複数のオレフィン部位a,b,c,d,e,f,g,等を有する標的化合物につ
いての典型的な順序は、上記した反応混合物に、最も低い反応性のカチオン触媒
錯体を生成するものである第1のカチオン源を加えることである。カチオンは、
オキソ触媒の第2の結合部位と結合するであろう。カチオン触媒錯体は、標的化
合物上の最も高い反応性のオレフィン部位、すなわち第1オレフィン部位aの酸
化を開始するであろう。反応を停止し、必要とあらば、第1のカチオンは、所望
により、除去されるであろう。反応混合物に第2のカチオン源を加え、オキソ触
媒の第2の結合部位と結合させると、これは、順次、標的化合物上の最も高い反
応性の残りのオレフィン部位、すなわち第2のオレフィン部位b(本来存在した
最も高い反応性の部位は先に酸化されている)の酸化を開始するであろう。つい
で、必要とあらば、第2のカチオンを反応混合物から除去し、オキソ触媒の第2
の結合部位と結合させるために、第3のカチオンを加えると、触媒は、標的化合
物上の最も反応性の高い残りのオレフィン部位、すなわち第3のオレフィン部位
cの酸化を開始するであろう。標的化合物上の異なるオレフィン部位d,e,f
,g等の逐次酸化を行うために、本プロセスを継続することができる。逐次反応
性は、また、1つのカチオンで達成することもでき、その際には、温度が制御因
子である。かくして、カチオン/触媒錯体は、この部位のみが反応するように選
択された温度で最も低い反応性の部位を酸化する。温度を上昇させると、2つの
最も高い反応性の部位がその他等と比較して選択的に反応する温度を見出すこと
ができる。前述したのは、化学選択性の例である。オレフィンが同一でないか、
または、同一であるオレフィンのグルーピングおよび同化合物において同一でな
いオレフィンのグルーピングが存在する化合物においては、オレフィンの1つま
たはオレフィンのグルーピングの1つが、その他のオレフィンまたはオレフィン
群よりもより高い反応性であろう。各オレフィンまたはオレフィン群は、反応性
において幾分異なるであろう。オレフィン部位の二重結合に隣接するかまたは結
合する種々の官能基の反応性は公知であるだろうから、もう1つの官能基での酸
化より優先的な1つの官能基での酸化の選択を制御することができる。オキソ触
媒の反応性は、また、金属イオンMを別の遷移金属へと変化させることによって
制御することもできる。例えば、鉄はこれら触媒システムにおいてマンガンより
もはるかにより高い反応性である。マンガンは、温和な酸化触媒が要求されるシ
ステムについて好ましい。
スイッチング触媒は、プロキラルな基質に不整を組み込むのに有用である。標
的化合物上のプロキラルな部位に関するエナンチオ選択性は、カチオン錯体にお
ける不整の存在によって制御することができる。触媒上の酸素原子の移動部位は
、標的化合物のオレフィンまたはその他の酸化可能なプロキラルに到達すること
ができる必要がある。キラリティは、オキソ触媒中に構成するか、または、オキ
ソ触媒に結合したスイッチングカチオンおよび原子団を介してオキソ触媒にもた
らされる。触媒上の置換基を選択することによって、触媒の寸法、形状およびキ
ラル特性を制御することができる。置換基およびそれらの製造法についての数多
く
の変種は、上記参考とし、本明細書に組み込むCollins et alの特許出願およびS
.Gordon−Wylie et al.の”Synthesis of Macrocyclic Tetraamido N−Ligands
”についての同時継続米国特許出願08/681,187に開示されており、その該当部
分は、ここで参考とすることによって本明細書に組み込む。同様に、標的化合物
の寸法および形状ならびに標的化合物上の官能基の位置、特に、二重結合に最も
近いものが、触媒がオレフィンへの酸素原子の移動を行うためにオレフィン二重
結合のいずれの側にアプローチすることができるか、すなわち、オレフィン部位
を酸化することができるかを制御するであろう。1つのエナンチオマーが、生成
したかまたは破壊されたであろう他のエナンチオマーに優先して生成または破壊
される場合に、選択性が生ずる。エナンチオ選択性を生ずることのできる市販入
手可能な触媒が存在するものの、最良で、酸化触媒の10〜20サイクルまたは
回転数に限られている。本発明の触媒システムは、非常に長寿命であり、酸化出
力源、好ましくは、酸素またはその還元された誘導体の存在下で、市販入手可能
な触媒よりも何倍も再生できるようであることが観測されている。
本発明の触媒システムは、スイッチング触媒から有機または無機基質へと硫黄
化合物の酸素原子を移動させることによってキラリティを誘発することもできる
。例えば、プロキラルなリン化合物は、キラル種が生ずるように、リン(phospho
rys)または硫黄で酸化することができる。
図1に示すピリジン置換大環状体(化合物1)は、上記参考としたS.Gordon
−Wylie et al.の同時継続米国特許出願08/681,187に開示されている大環状テ
トラアミド類を製造するための多段階処理法を採用することによって合成するこ
とができ、この特許出願は、本明細書に組み込む。ピリジン基を有しない親錯体
は、T.J.Collins,R.D.Powell,C.Slebodnick,E.S.Uffelman,J.Am.Chem.Soc.113,8
419−8425(1991)に報告されている。
四座配位リガンドの合成は、概して、以下のように進められる。第1の工程に
おいて、アミノカルボン酸、好ましくは、αまたはβアミノカルボン酸が支持溶
剤に溶解され、オキサレートおよびマロネート類、例えば、置換マロニルジクロ
ライドからなる群より選択される活性化された誘導体と塩基の存在下で加熱され
、中間体が形成される。選択的なダブルカップリング反応の完了に続き、ジアミ
ド
ジカルボキシル含有中間体が単離される。第2の工程において、溶剤およびカッ
プリング剤の存在下で、ジアミンが中間体に付加される。ジアミンは、第2の結
合部位を付与するものであり、例えば、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、ジシ
アノ−ピラジン、一−または二−置換ベンゼン、ベンズイミダゾール、インドー
ル、置換されたクラウン誘導体、クリプタンドリガンド、EDTA誘導体、5員
環および5員環誘導体、ポルフィリン誘導体、金属化されたフタロシアニン基体
システム、ビ−ピリジル基体システム、フェナントロリン基体システムおよびサ
レン基体システム、例えば、表1に示したジアミン類からなる群より選択される
ものである。カップリング剤は、好ましくは、ハロゲン化リン化合物または塩化
ピバロイルである。生ずる混合物は、加熱され、反応は、大環状体四座配位化合
物を生成するのに十分な時間、ピリジンが溶剤である時には通常48−72時間還流
で進められる。典型的には、反応体の化学量論量が使用される。
アミノカルボン酸上の置換基、活性化されたオキサレートまたはマロネート誘
導体およびジアミンは、全て、生成する四座配位大環状体が具体的な所望される
最終用途に適合するように選択的に変化させることができる。置換基の変更は、
合成法にほとんどまたは全く影響を及ぼさない。
一度、大環状体リガンドが製造されると、その化合物は、金属イオン、好まし
くは、元素の周期律表の6族(Cr,Mo,W)、7族(Mn,Tc,Re)、
8族(Fe,Ru,Os)、9族(Co,Rh,Ir)、10族(Ni,Pd,P
t)、11族(Cu,Ag,Au)からの遷移金属イオン、または、酸化状態I、
II、III、IV、V、VI、VIIまたはVIIIを有するものと錯化され
る。本発明の触媒システムの好ましい使用は環境学的に健全な酸化であるため、
非毒性である金属の使用が好ましく、マンガンおよび鉄の使用が最も好ましい。
ついで、生成する金属化された錯体が強力なO−原子移動酸化体、好ましくは
、過酸化物、例えば、過酸化水素、t−ブチルパーオキシドまたはクミルパーオ
キシドと合わせられる場合に、リガンド金属オキソ錯体が形成される。いずれの
酸素原子源をも使用することができる。
金属が鉄である時に有用である特に活性な酸化触媒については、Ch4は、一
般構造式:
[式中、Zは、金属錯化原子、好ましくは、Nであり;Xは、金属錯体が酸化
媒体の存在中にある時に酸化抵抗性の官能基であり;
R’およびR”は、同一または異なり、各々、未反応性であるか、R’および
R”内におよびそれらが結合する環式炭素と分子内的に強力な結合を形成し、金
属錯体の酸化的な分解が酸化媒体の存在中で制限されるように、立体障害される
かまたはコンフォメーション障害される置換基からなる群より選択される。]
を有する。
Xは、好ましくは、酸素またはNRs[ここで、Rsは、メチル、フェニル、ヒ
ドロキシル、オキシリック、CF3およびCH2CF3である。]である。R’お
よびR”は、各々、好ましくは、水素、メチル、ハロゲン、CF3;および、結
合している場合には、シクロアルキル、例えば、シクロペンチル、シクロブチル
、シクロヘキシルまたはシクロプロピルである。
これとは別に、より温和な酸化環境中にある時、例えば、金属がマンガンであ
る時には、R’およびR”は、上記Ch4について列挙した基のいずれか1つで
あるか、または、さらに、11頁のR5およびR6について選択したものであっても
よい。酸化的に活性な酸化触媒は、上記参考とした1996年7月22日に出願された
T.Collins et al.の米国特許出願08/681,237にさらに詳細に記載されており
、この特許出願は、参考とすることによって本明細書に組み込む。
化合物1の大環状体へのマンガンの挿入は、第1のテトラアミドおよび第2の
部位がともに塩基性非プロトン条件の下にマンガンと容易に結合する点で厄介で
ある。かくして、マンガンは、第1の部位に挿入した後、第2の部位から除去す
る必要がある。マンガンの場合、これは、塩基性水性後処理条件によって達成さ
れる。有用な合成は、以下のように進められる。実施例 1
不活性雰囲気下、リガンド(425mg,1.05×10-3mol)を乾燥テトラヒド
ロフラン(THF,40ml)に溶解させ、リチウム[ビス(トリメチルシリルアミド
)](1.0MのTHF溶液6.32ml,6.3×10-3mol)を加えた。混合物を(5分
間)攪拌し、マンガンアセチルアセトナートMn(acac)3(557mg,1.58×10-3mo
l)を、ついで、アセトニトリル溶液(10ml)として加えた。反応混合物を(2
時間)攪拌し、ついで、溶液を大気中ロータリーエバポレータで蒸発乾固させた
。固体の残渣を少量の水に溶解し、濾過して固体残渣を除去した。減圧下、濾液
を蒸発乾固させ、生ずる固体Li[LMnIII]をアセトンに溶解し、濾過した
。濾液を過剰のt−ブチルヒドロパーオキシド(TBHP)溶液(0.586ml,5.25
×1Omol,5%t−ブチルアルコールおよび5%水を含有する90%TBHP)で処理し
た。反応を確認するために、出発色の明るいオレンジ色から最終色の深い赤褐色
までの色の変化によってモニターした。水(20ml)に溶解した過剰のテトラフ
ェニルホスホニウムクロライド(2.0g,5.25×10-3mol)を、本質的に定量
的収率のLi[LMnV(O)]、すなわち、化合物1のリチウム塩を含有する
生成物溶液に加えた。ロータリーエバポレーティングにより混合物の溶剤体積を
減少させると、[Ph4P]化合物1の水懸濁液を与えた。室温で[Ph4P]化
合物1の酢酸エチル溶液中にペンタンを蒸気拡散させることによって単結晶を成
長させた。X線結晶構造決定の結果は、化合物1アニオンについて図2に示す。
(C6H5)4P[化合物1]:C44H45MnN5O5Pについての分析計算値:C,
65.26;H,5.60;N,8.65;P,3.82;測定値:C,65.42;H,5.67;
N,8.85;P,3.89。ESI−MS(陰イオン):m/z470.1,[化合物1]1-(100%)。
結晶データ:単結晶は、斜方晶形であり、空間群Pbca.−100℃で、α=14.
205(2)Å,b=19.87(2)Å,c=28.341(4)Å,V-7999(9)Å3を有し、Z−8[d計算
値=1.355gcm-3;μ=4.24cm-1であった。ZrフィルタードMo KαX
線でωスキャンを使用して、合計7895の特有の反射(2°<2θ<52.16°)を
収集した。構造は、SHELXS[G.M.Sheldrick,Acta Cryst.,A46,(1990),46
7]を使用し、直接法によって解析し、SHELXL93[G.M.Sheldrick,SHELXL
93 Program for Crystal Structure Refinement,University of Goettingen,Fed
eral Republic of Germany,1993]を使用し、F2についてのフル−マトリックス
最小2乗法によって厳密とした。ピリジン環のCとNとの識別は以下のようにし
て行った。ディファレンスマップのピークの高さまたは各原子に対する結合の長
さに違いがないので、両原子は、C原子に算入され、C原子と推論される。2つ
のうちの1つ[続いて、N(5)とラベルされる]は、異方性リファインメント(re
finement)についてより不整な熱パラメータを示す。他の[C(2)とラベルされ
る]ものは、ディファレンスマップにおいて同様のH原子位置を示す唯一のもの
であった。その他の全ての水素原子は、ディファレンスマップにおいて、明白に
位置決めすることができるので、これは、原子を帰属させるのに、温度因子デー
タと関連させて採用される十分な証拠であると考えられた。しかし、これらは、
決して確かなものではなく、これら原子は、互換性であってもよい。水素原子は
、それらが結合する原子の等方性温度因子の1.2倍に設定された等方性温度因
子を有するライディングモデルを使用して、厳密化した。メチル水素は、堅固な
基として厳密化した。研究した結晶は、NMRスペクトルによって示されるよう
に、結晶化の分別水分子を含有することが観測された。この酸素原子についての
厳密な占有因子は、0.38であった。リファインメントは、4202観測反射[I>
2σ(I)]についてR1(Fに基づいて)=0.0564で集中していた。実施例 セット2
化合物1の第2の錯体の可逆的な形成は、1価、2価および3価のカチオンの
範囲を使用して、UV/Vis分光分析により、アセトニトリル中でモニターした。
モノカチオン性アルカリ系列Li+、Na+およびK+(トリフレート塩類として
)は、驚くべきことに、結合性において大きな変化を示す。かくして、Li+結
合は、等吸収性挙動(図3)を示し、モル比プロットは、リチウム化を完了する
ために2.5当量のLi+を必要とすることを示す。滴定は、3回行った([化
合物1]=0.30,0.27および0.14mmolL-1,logK25°=5.0
2±0.06)。比較において、Na+結合についてのモル比プロット(図9)は、
8当量のNa+で始まる第1のプラトーおよび47当量で始まる第2のプラトーに
よって立証される2つの結合プロセスが存在することを示す。第1の結合事象は
、二座配位部位で生じ、第2の結合事象は、一座配位アミドO原子で生ずると考
えることができる。UV/Visスペクトルは、K+の添加(60当量以下)の際に変化
しない。UV/Visスペクトルは、1個より多い化合物1アニオンがBa2+と結合
することを示唆するように、Ba2+の添加の際に非等吸収性で変化し;Ba2+結
合は、モル比プロットで強力で、1.3当量のBa2+で、終点に到達することを示
す。同様に、Sc3+結合は、非等吸収性の挙動を示すが、終点に到達するのに1
当量のみを必要とする(図14)。遺憾ながら、化合物1によって表されるシス
テムのサイクリック・ボルタメトリック挙動は、いずれのスイッチングイオンに
ついても電気化学的に可逆的ではない。しかし、化合物1の平坦な四α座配位C
oIII類縁体のサイクリック・ボルタメトリック研究は、種々の第2イオンにつ
いて電気化学的に可逆的な電子移動特性を示す。例えば,過剰なCoIII錯体条
件下において、2核、3核および4核種が、Ca2+で全て観測可能である。これ
らから、および、多核イオンもまた観測可能なエレクトロスプレーイオン化MS
による研究から、化合物1のCoIII類縁体が多重荷電スイッチングイオンと2
回以上結合すると結論することができる。化合物1の多重荷電スイッチングイオ
ンとの多重結合は、Ba2+/化合物1およびSc3+/化合物1についてのUV/Vi
s結合研究における等吸収性の挙動が存在しないことについて一致した合理性を
提供する。累積すると、これらの結果は、二座配位およびアミド−O結合部位が
ともに第2のイオンまたはイオン類の電荷/寸法比に対して有意な感度を示すこ
とを示唆する。実施例 セット3
化合物1システムのマンガン部分が第2イオンの撹乱を受けやすいことは、I
Rスペクトルにおけるν(Mn≡O)バンドに及ぼすLi+の影響によって示す
ことができる。大環状体リガンドのバンドを含まないIR領域を得るために、18
Oラベルしたマンガンを調べた。これは、室温で3週間CH3CN/H2O18(1:1
;98%18O)の混合物中で[Et4N][化合物1]を攪拌することによって生成し
た。Li+フリーおよびLi+結合種についてのν(Mn≡18O)バンドを図4に
示す。ν(Mn≡18O)は、親錯体における939cm-1からLi+錯化種における
954cm-1へとシフトする。この15cm-1のブルーシフトは、Li+結合が大環状
体テトラアミド−Nリガンドのドナー能における実質的な低下を誘発することを
示しており、その低下は、オキソ結合エネルギーにおけるその付随する増大を有
するオキソリガンドからの供与における増大によって補償される。オキソリガン
ドの求電子性もまた第2のカチオン結合について有意に増大するはずであると推
論することができる。実施例 セット4
種々のスイッチングイオンの反応性に及ぼす影響は、第1に、概念的な酸化、
すなわち、トリフェニルホスフィンのトリフェニルホスフィンオキシドへの酸化
の証拠を検討することによって調べた。種々のスイッチングイオンとの反応は、
化合物1の1当量およびトリフェニルホスフィンの100当量を使用して、大気下
、アセトニトリル中15℃でUV/Vis分光分析によってモニターした。スイッチン
グイオンは、トリフレート塩類(5および60当量)として加え;反応は、少なくと
も3回行った。酸化生成物であるトリフェニルホスフィンオキシドの形成は、1
H NMR分光分析およびυ(P=O)領域におけるIR分光分析によって立証
された。その結果は、図5において示すが;相対的な速度は、スイッチングイオ
ンの不在下での親化合物1によるトリフェニルホスフィンの酸化速度に対して正
規化する。第2のカチオンの化合物1への結合について見られるように、ホスフ
ィン酸化速度に及ぼすスイッチングの影響は、加えるスイッチングイオンの性質
に強く依存する。スイッチしない化合物1によるUV/Vis実験条件下でのトリフ
ェニルホスフィンのトリフェニルホスフィンオキシドへの酸化は遅く、反応は
完了に到達するのに数千秒かかる。種々のスイッチングイオンの5当量の存在下
において、スイッチされない速度に対する相対的速度は以下のようであることが
見出された:Na+=3,Ba2+=5,Mg2+=7,Li+=13,Zn2+=24,Sc3 +
=1244。上記したように、化合物1に対して相当の第2結合を有することにつ
いて検討されたスイッチングイオンのうち、Na+イオンが特有であることが見
出された。種々のスイッチを有する化合物1によるトリフェニルホスフィン酸化
の相対的な速度は、この発見を反映する。かくして、Mg2+またはZn2+につい
て、スイッチングイオン:化合物1の比が5:1から60:1まで増大したとき、
トリフェニルホスフィン酸化の速度の増大は認められなかった。Ba2+、Li+
およびSc3+についてこの比を増大させたとき、わずかの増大が認められた;B
a2+(1.2倍),Li+(2倍)およびSc3+(1.3倍)。対照的に、Na+:
化合物1の比を5:1から60:1まで増大させると、ホスフィン酸化速度におい
て169倍の増大を生じた。さらに、K+(60当量までの)の添加は、親非スイッチ
化合物1の酸化速度を乱さず、このことは、K+は容易に検討することのできる
濃度範囲においてスイッチング部位と結合しないようであるという上記のことを
補強する。
ありふれた酸化について上述したオキソ移動速度の増大は、真に有用な性質を
表す。我々は、また、電子富裕オレフィンであるテトラメチルエチレンについて
化合物1のO−原子移動剤としての反応性を調べた。実施例 5
[Ph4P]化合物1(1当量)、ZnTf2(4.5当量)、2、3−ジメチル
−2−ブテン(テトラメチルエチレン,132当量)およびTBHP(90%,266当量)
のアセトニトリル−d3混合物を、全てのオレフィンが消費されるまで(48時間
)13C分光分析により50℃でモニターした。唯一観測可能な生成物は、2、3−
ジメチルブテ−3−エン−2−オール(>98%)であり、反応は、3回行った。13
C NMR(アセトニトリル−d3):(図15参照)2、3−ジメチルブテ−
3−エン−2−オール:δ19.5,29.3,73.3,108.7,153.3。R.W,Murray,
W.Kong,S.N.Rajadhyaksha,J.Org.Chem.58,315−321(1993
)参照。図15参照。
生成物溶液は、また、GC/MSによって分析し、これにより、唯一のオレフ
ィン誘導生成物として2、3−ジメチルブテ−3−エン−2−オールの存在が確認
された。生成物、生ずるt−ブタノールおよび残留TBHPは、同じ相対量を有
しており、非常に明確αな化学量論量的選択性反応であることを示す。有意なこ
とに、少量の分解物以外は、未使用TBHPが消費されずに残り、さらにオレフィン
を添加すると、触媒酸化プロセスが再開された。触媒溶液のUV/Vis分析は、触
媒酸化中および後で、化合物1の定量的な存在を示した。明らかにTBHPから
誘導される痕跡量のその他の生成物が13C NMRスペクトルで検知可能である
ものの、アセトン−d6中の使い終わった反応溶液は、ベンチトップのNMRチ
ューブに9ヶ月放置した際であっても本質的に未変化のままであり;この時間後
、それは、2、3−ジメチルブテ−3−エン−2−オール、t−ブタノール、TB
HPおよびそのアセトン付加体を、反応の終了時に達成されたものと同じ相対比
で含有し、他のものは含有していなかった。アセトニトリル−d3中ZnTf2(
1当量)、2、3−ジメチル−2−ブテン(30当量)およびTBHP(90%,64当量)
からなる化合物1を含まない対照システムもまた13C NMR分光分析により50
℃で5日間モニターしたが、変化は観測されなかった。温度を70℃まで上昇させ
、溶剤として重水素化アセトニトリルを使用することによって反応条件を変化さ
せた時、2、3−ジメチルブテ−3−エン−2−オールについて図15に示した同じ
5つの特性ピークが存在した。すなわち、化合物1は、温和で、非常に優れた選
択性で、かつ、とりわけ安定な触媒的O−原子移動システムである。
自然の仕組みの一部として、酵素は、目的とする選択性を達成するために、時
間的にも空間的にも多数の反応を正確に組み合わせることが多い。現代の化学は
、選択性を達成するために、空間において反応を組み合わせる方法について豊富
な洞察を含むものの、時間的に多数の反応を入念に組み合わせることによる選択
性の達成は、新しい領域である。反応性の違いを使用すると、本明細書に記載し
た酸化触媒により、空間的な配置および寸法が付与され、リガンドシステムは、
目的とする反応性および選択性を達成するために、順序および反応部位において
、1つより多い酸化反応を系統立てるように設計することができる。本発明のリ
ガンドシステムは、それらが非常に長寿命で、再使用可能な触媒を提供するよう
に、
酸化的な分解に対して著しく抵抗性である。化合物1の数多くの変種を製造する
ための合成方法は、参考とすることにより本明細書に組込むGordon−Wylie et a
l.に記載されている方法に従い、表1に示した一連のジアミン類からの2段階工
程処理においてリガンドを製造することができるように精選されており、Gordon
−Wylieの合成において記載されているジアミンを表1のジアミン類で置換する
ことによって改良された。示したアプローチが、他の遅いO−原子移動剤の反応
性を緩やかに増大させることにより、環境的に望ましい遷移金属、例えば、マン
ガンについて達成可能な反応性の領域を明らかに拡張すること、またはより一般
的には、1個より多い反応を組み合わせて酸化触媒が反応性の目的を達成するよ
う設計された化合物1およびその変種のような試薬が、化学のグリーン化におい
て必須であることを理解することが重要である。これらは、環境的に望ましい触
媒元素を製造するための本発明の新規な方法が、現在使用されている環境的に望
ましくない元素を置換するために必要とされるあらゆる役割を果たすことを可能
とする。多数の反応を時間的に組み合わせるアプローチは、さもなくばアクセス
することのできないグリーン試薬、特に、酸化体を得るため、および、あまり活
発ではない開発アプローチに対して抵抗性であることが立証されている酸化にお
けるエナンチオ選択性かつ化学選択性を達成するためなどの困難な反応性の問題
を取り扱うための未曾有の前途有望性を有する。
─────────────────────────────────────────────────────
フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY,
DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I
T,LU,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ
,CF,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,
NE,SN,TD,TG),AP(GH,GM,KE,L
S,MW,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM,AZ
,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),AL
,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,
BY,CA,CH,CN,CU,CZ,DE,DK,E
E,ES,FI,GB,GE,GH,GM,GW,HU
,ID,IL,IS,JP,KE,KG,KP,KR,
KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,M
D,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ,PL
,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,SK,
SL,TJ,TM,TR,TT,UA,UG,UZ,V
N,YU,ZW
(72)発明者 ゴードン−ワイリー,スコット・ダブリュ
ー
アメリカ合衆国ペンシルバニア州15224,
ピッツバーグ,サウス・ワインビドル・ス
トリート 540,アパートメント 5
(72)発明者 ウーマー,クリスティン・ジー
アメリカ合衆国ペンシルバニア州15235,
ピッツバーグ,ヨセミテ・ドライブ 204
(72)発明者 ホーウイッツ,コリン・ピー
アメリカ合衆国ペンシルバニア州15206,
ピッツバーグ,ファーラガット・ストリー
ト 921
(72)発明者 ウッフェルマン,エリック・エス
アメリカ合衆国ヴァージニア州24450,レ
キシントン,ハムリック・ストリート 8