【発明の詳細な説明】
有機分子の固相有機合成のためのRink−クロライドリンカー
発明の分野
本発明は固相化学において使用するための新規なリンカー、その製造およびリ
ンカーの使用方法に関する。
発明の背景
種々の生物学的工程を効果的に調節することができる新規な化学的な基につい
ての継続的な探索において、探索を行うための標準的な方法は、既に存在する化
合物、例えば天然に存在する化合物または合成ライブラリーもしくはデータバン
クに存在する化合物をスクリーニングすることである。既に存在する化学的な基
の生物学的活性は、その基を、スクリーニングされる化学的な基のある特性を試
験するように設計されたアッセイ、例えば、その基のある種の受容体部位に結合
する能力を試験する受容体結合アッセイに適用することにより測定される。
多数の無作為に選択された化合物を生物学的活性についてスクリーニングする
のに要する時間および費用を減少させる試みにおいて、いくつかの手段が開発さ
れ、リード化合物を発見するための化合物のライブラリーが提供された。新規な
リード構造物の探索には、分子多様性の化学的生成が主たる手段となっている。
現在、特にペプチドおよびペプチドライブラリーを合成し、同定するための、多
くの分子的に多様な化合物を化学的に生成する既知方法は、一般に、固相合成を
用いるものである。例えば、いくらかのペプチドがなお樹脂に結合したままであ
り、配列決定することができるが、ある量のペプチドを樹脂から遊離させ、可溶
形態にてアッセイできるように、ペプチドと樹脂の間を選択的に切断できるリン
カーを得る方法を開示する、Leblらの、Int.J.Pept.Prot.Res.41:201(1993)
;ポリスチレンまたはポリアクリルアミド樹脂などの固体支持体上で直鎖ペプチ
ドを合成する方法を開示する、Lamらの、Nature,354:82(1991)および(WO
92/00091):96−ウェルのマイクロタイタープレートのウェルの配列
に対応するようにブロック上に配列されたポリスチレン誘導体のピン上でのペプ
チド
合成を開示する、Geysenらの、J.Immunol.Meth.102:259(1987);および可溶
性ペプチドのプールを含む抗体または受容体結合配列を新たに決定する解決方法
を開示する、Houghtenらの、Nature,354:84(1991)およびWO92/0930
0を参照のこと。
技術的な考察は別として、リード化合物を作成するためのこれらすべての方法
が有する主たる欠点は、リード化合物の品質にある。直鎖ペプチドは、歴史的に
、医薬品を設計するには相対的に貧相なリード化合物であった。とりわけ、直鎖
ペプチドを非ペプチドリード化合物に変換する合理的な方法はない。前記したよ
うに、ペプチド受容体に対する非ペプチドリード化合物を決定するために、ラー
ジデータバンクの化合物をスクリーニングし、各化合物を個々に試験しなけらば
ならない。
この点に関して、とりわけコンビナトリアルケミストリーおよび多段階同時合
成(multiple simultaneous synthesis)またはパラレル合成において、固相合
成を有機化合物の製造に適用することに関心が高まってきている。一般に、固相
方法を制限する一つの原因は、有機分子を固相支持体に結合させるリンカーにあ
る。使用が容易であり、ライブラリーの構成成分を遊離する条件が穏やかである
という理由から、Rinkリンカー(Rink,H.、Tetrahedron Lett.28:3787-3790(
1987))がいくつかの化学ライブラリーの合成に効果的に適用されている(Gordeev
,M.F.、Patel,D.V.およびGordon,E.M.、J.Org.Chem.61:924-928(1996);Norma
n,T.C.、Gray,N.S.、Koh,J.T.およびSchultz,P.G.、J.Am.Chem.Soc.p118:7430
-7431(1996);Ward,Y.D.およびFarina,V.、Tetrahedron Lett.37:6993-6996(1
996))。しかしながら、Rinkリンカーは、現在、アミドおよびカルボン酸の
製造における使用に限定されている。従って、広範囲に及ぶ固相化学に有用なR
inkリンカーに対する要求がある。本明細書において、本発明者らは、とりわ
けアミン、アルコールおよびチオールを固体支持担体に結合させるための極めて
一般的で実質的な方法を可能とする、Rink−クロライドリンカーの製造を記
載する。
発明の要約
本発明は、式(I)で示される新規な固相Rinkリンカー(以下、樹脂結合
のRink−クロライドリンカーまたはRink−クロライドリンカーという)
に関する。このリンカーは、現在使用されているRink−酸リンカーと比べて
顕著に改良されている。現在のところ、既知のRink−酸リンカーの使用はア
ミドおよびカルボン酸の製造に限定されている。本発明の式(I)で示される改
良されたRink−クロライドリンカーを用いることにより、Rink法を多数
の官能基結合に利用できるようになる。Rink−クロライドリンカーを使用す
ることにより、アミン、アルコールおよびチオール(フェノールおよびチオフェ
ノールを含む)を固体支持担体に結合する方法が、極めて一般的かつ実質的にな
る。従って、本発明の別の態様は、固相合成において、Rink−クロライドリ
ンカーを用いる樹脂結合合成により化合物を製造する方法にある。この方法は固
相コンビナトリアルケミストリーまたは多段階同時合成(「パラレル合成」)の
既知の方法を用いてコア分子構造の周辺に設計される化合物のコンビナトリアル
ライブラリーの創製に適用できる。薬物療法に有用である可能性のある特定の物
理学的特性を試験するために設計された生物学的検定において、このリンカーを
用いて生成された化合物または化合物のライブラリーを試験できる。
発明の詳細な記載
「樹脂」、「固体支持担体」、「不活性樹脂」、「重合性樹脂」または「重合
体樹脂支持体」なる語は、本明細書においてあるとすればすべて、ビーズ、ペレ
ット、ディスク、キャピラリー、中空ファイバー、針、固体ファイバー、セルロ
ースビーズ、多孔性ガラスビーズ、シリカゲル、グラフト共重合ビーズ、ポリア
クリルアミドビーズ、ラテックスビーズ、N,N'-ビス-アクリロイルエチレンジ
アミンで架橋されていてもよいジメチルアクリルアミドビーズ、疎水性重合体で
被覆されたガラス粒子等、すなわち剛性または半剛性表面を有する物質などのビ
ーズまたは他の固体支持担体を意味するのに用いられる。固体支持担体は、例え
ば、架橋ポリスチレン樹脂、ポリエチレングリコール−ポリスチレン樹脂、およ
びそれ自体用いることができ、当業者に公知または明らかである他のいずれかの
物質からなるのが適当である。
「置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体」なる語は、本明細書に
てあるとすればすべて、求核物質がRinkリンカーを介して樹脂に結合するよ
うに、樹脂結合のRink−クロライドリンカーを適当な求核物質と(Rink
リンカーの塩化物の置換体と)カップリングさせることで生成された中間体を意
味するのに用いる。
「付加的な合成化学」なる語は、本明細書にあるとすればすべて、求核物質を
ポリマー樹脂から切断する前に、置換された樹脂結合のRink−クロライド中
間体に対してなされる化学反応を意味するのに用いられ、ここでその化学反応は
Rink−クロライドリンカーと和合的であって、かつ非反応性であり、求核物
質の誘導体を製造するのに用いることができる。置換された樹脂結合のRink
−クロライド中間体上でなされる付加的な合成化学が、誘導化求核物質を切断す
る前になされることは当業者であれば理解されよう。求核物質/Rink−クロ
ライド結合と不和合的である、すなわち求核物質をRink−クロライドリンカ
ーから切断させる化学反応は、本発明の方法に用いることができる付加的な合成
化学には含まれない。
「樹脂結合合成」および「固相合成」なる語は、本明細書において、互換的に
、単一の分子/化合物かまたは分子的に多様な化合物のライブラリーのいずれか
を製造するために用いられる一連の化学反応を意味するのに用いられ、ここで化
学反応は結合、とりわけRink−クロライド結合を介してポリマー樹脂に結合
する化合物に対してなされる。
固体支持担体上での化学的合成は、小型有機分子のコンビナトリアルライブラ
リーの作成における基礎となっている。すなわち、リンカー技法を介して出発物
資を固体支持担体に結合させる信頼性のある一般的な方法が、成功したいずれの
固相合成法よりも優れている。かかるリンカー技法はまた、反応生成物の構造を
傷つけることなく、比較的穏やかな反応条件下で反応生成物を容易に切断しやす
いものでなくてはならない。使用が容易であり、ライブラリーの構成成分を固体
支持担体から放出させるための条件が穏やかであるという理由から、Rinkリ
ンカーはある化学ライブラリーの合成に効果的に使用されてきた。しかしながら
Rink技法は、現在、アミドおよびカルボン酸の製造に限定されている。本明
細書において、本発明者らは、Rink−クロライドリンカーの製造および有用
性を記載する。このリンカーは、アミン、アルコールおよびチオールの固体支持
担体への結合、これらの樹脂結合の化合物の誘導化およびトリフルオロ酢酸を用
いる樹脂からの実際的な放出に関する極めて一般的かつ実用的な方法を可能とす
るものである。
樹脂結合のRink−酸リンカーをトリフェニルホスフィンおよびヘキサクロ
ロエタンと反応させることにより、樹脂結合のRink−酸リンカー、1-スキ
ーム1を本発明の樹脂結合のRink−クロライド樹脂、2-スキーム1に変換
できる。このようにして得られた2-スキーム1は室温で数日間安定しており、
活性をなんら損失することなく使用することができる。
スキーム1
穏やかな反応条件下で、2-スキーム1を種々の求核物質(「Nu」)と簡単
に反応させることができる(以下のスキーム2および表Iを参照のこと)。本明
細書に記載する求核物質は市販されているかまたは公知方法を用いて製造するこ
とができる。
スキーム2 Rink−クロライドは一級および二級アミン、アニリン、アルコール、フェ
ノール、チオール、チオフェノールならびにカルボン酸と効率的に反応する。そ
のカップリングは、通常、不活性環境下、室温で18-26時間、Hunig塩基の存
在下、ジクロロエタン中で行う。カップリング効率度をMSANMRでモニター
観察し、ついでジクロロメタン中3−5%TFAを用いて生成物を樹脂から切断
する。リガンドの樹脂からの放出は、残りの樹脂のMASNMRにより明らかに
されるように30分以内に完了する。表Iから明らかなように、カップリングは
一般的であり、効率が高い。樹脂からの切断は容易であるが、小型分子ライブラ
リーの構築に一般に用いられる広範な化学反応を行うのに十分安定である。いく
つかの例をスキーム3に示す。スキーム3 置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体を作成した後、TFAで切
断する前に、求核物質のコアを誘導するために、その中間体に付加的な合成化学
を行ってもよいことが解るであろう。従って、本発明の別の態様は
(a)樹脂結合のRink−酸リンカーを式(I)
で示される樹脂結合のRink−クロライドリンカーに変換する工程;
(b)適当な条件下で樹脂結合のRink−クロライドリンカーを適当な求核物
質とカップリングさせ、置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体を得
る工程;および
(c)付加的な合成化学を置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体に
対して行い、樹脂結合の誘導化求核物質を得る工程;
からなる樹脂結合の合成法により化合物を合成する方法である。樹脂結合の誘導
化求核物質を貯蔵および/またはさらなる誘導化のために樹脂に結合させたまま
とすることができ、または約3から5%TFAを用いて樹脂から切断してもよい
。
さらに別の態様では、本発明は、
(a)樹脂結合のRink−酸リンカーを、式(I):
で示される樹脂結合のRink−クロライドリンカーに変換する工程;
(b)適当な条件下で樹脂結合のRink−クロライドリンカーを適当な求核物
質とカップリングさせ、置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体を得
る工程;
(c)所望によりその置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体を複数
の部分に分割する工程;
(d)付加的な合成化学を置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体に
対して行い、樹脂結合した誘導化求核物質を得る工程;および
(e)所望によりその部分を再び組み合わせてもよい工程;
からなる樹脂結合した合成による分子的に多様な化合物のライブラリーを合成す
る方法である。
本明細書の開示に基づいて、本発明のライブラリーを創製するのに多くの可能
性のある合成法があることが当業者には理解できよう。例えば、スプリットおよ
び混合技法またはパラレル合成技法を用いてライブラリーを作成することができ
る。その合成法のいずれかより作成したライブラリーは分子的に多様であり、同
時に作成できる。本明細書に記載するRink−クロライドリンカーを用いて、
ライブラリーをポリマー樹脂上に調製する。例えば、誘導化すべき化合物(適当
な求核物質)をRink−クロライドリンカーを介してポリマー樹脂に結合させ
、置換された樹脂結合のRink−クロライド中間体を得る。一つの具体例では
、樹脂結合のRink−クロライド中間体を試薬混合物と反応させることで置換
基(複数でも可)を修飾する。別の具体例では、樹脂結合したRink−クロラ
イド中間体のアリコートを、その各々が樹脂結合した求核物質のコア上の一の位
置を修飾するであろう個々の試薬と反応させ、ついで得られた生成物を一緒に混
合して誘導化した樹脂結合の中間体のライブラリーを形成する。ついで、付加的
な合成化学により形成された中間体を分割し、再び組み合わせる工程を繰り返す
ことにより、このライブラリーをさらに誘導化してもよい。本発明のライブラリ
ーを本明細書に従って作成する場合、各ポリマー支持担体が、置換された樹脂結
合のRink−クロライド中間体に対してなされた付加的な合成化学により形成
された単一の種を担持することは当業者に明らかであろう。
所望により樹脂結合したアリールシラン中間体を部分的に分割および再び組み
合わせてもよい工程が、コンビナトリアル合成により得られる樹脂結合の求核物
質上の誘導化を変えることを目的とするのは当業者には明らかであろう。もちろ
ん、合成経路の間のいずれの点でも樹脂結合した求核物質中間体を部分的に分割
できることは当業者には明らかであろう。その経路の間のいずれの点でも部分的
に再び組み合わせることができ、またはもっと誘導化する必要がある場合、さら
に繰り返すことができる。従って、製造される最終生成物のライブラリーに必要
な多様性の種類に応じて、部分的に分割し、付加的な合成化学を行い、部分的に
再び組み合わせる工程を、各々、1回以上行ってもよいことは当業者に明らかで
ある。
本発明により、樹脂結合したアリールシラン中間体に対して付加的な合成化学
を行い、分子的に多様な化合物のライブラリーを創製した後、化合物を分離し、
当業者に公知の慣用的な分析技術により、例えば赤外線分光測定法または質量分
光測定法により特性化できる。樹脂に結合したままで化合物を特性化するか、ま
たは前記した条件を用いて樹脂から切断し、次いで分析してもよい。加えて、ラ
イブラリーの化合物のアレイを、一部、樹脂に結合させたままで、ライブラリー
の化合物のアレイを、一部、樹脂から切断し、特性化し、分析してもよい。実施例 Rink−クロライド(2-スキーム1)の製造
樹脂結合Rink−酸、1-スキーム1(1.0g、1.6ミリモル)のTHF
(25ml)中懸濁液に、トリフェニルホスフィン(2.32g、8.8ミリモル
)およびヘキサクロロエタン(2.13g、8.8ミリモル)を加えた。反応混合
物を一定のアルゴン流で6時間かきまぜた。樹脂結合のRink−クロライド、
2-スキーム1を濾過し、THFおよびアセトンで洗浄した。塩素分析およびM
ASNMR(δ5.85でのCH(OH)のシグナルが完全に消失する)により反応
が完了したことを確認した。塩素分析は、化学量論的な塩素の量を示した。Rink−クロライドと種々の求核物質との反応
2-スキーム1(0.96g、1.6ミリモル)のジクロロエタン(25ml)
中懸濁液に、Hunig塩基(1ml)および必要な求核物質(10ミリモル)を加
えた。反応混合物を一定のアルゴン流で6-12時間かきまぜた。樹脂を濾過し
、ジクロロメタン、MeOH、H2O、EtOH、CH2Cl2およびMeOHで
洗浄した。
MASNMR、IRまたは元素分析により反応が完了したことを確認した。元
素分析は、塩素が存在せず、適当な化合物についての化学量論量の窒素または硫
黄を示した。Rink−結合リガンドからの切断
個々のビーズとして、または大量の置換された樹脂結合のRink−クロライ
ド部に3%THF/CH2Cl2を加えた。30分間切断を行い、MeOH:Me
CN/1:1で抽出して生成物を単離した。その化合物を出発物質(求核物質)
の標体と比較して表Iのすべての切断生成物を同定した。
上の記載は、その好ましい態様を含め、本発明を十分に開示するものである。
本明細書中に具体的に開示された態様の修飾および改良は以下の請求の範囲内に
ある。さらに工夫することなく、当業者は上の記載を用いて本発明を最大限利用
することができると考えられる。従って、いずれの実施例も単なる例示を意図す
るものであって、何ら本発明の範囲を限定するものではない。独占権または特権
を請求する本発明の具体例を以下に規定する。
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(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
C08F 8/30 C08F 8/30