【発明の詳細な説明】
ニューロペプチドYアゴニスト
発明の分野
本発明は、生理活性物質の神経放出を調節する特異的ニューロペプチドチロシ
ン(NPY)受容体におけるNPYの生物学的活性のいくつかを模擬するペプチ
ドに関する。これらの受容体はしばしば神経−効果器接合部のニューロンに局在
し、ある組織および種では、NPY Y2受容体サブタイプとして分類されてきた。さ
らに、本発明は、活性成分としてこれらのペプチドを含む医薬組成物、およびこ
れらの組成物の投与を含む治療法に関する。
発明の背景
膵臓ポリペプチドファミリーに属する36アミノ酸ペプチドであるニューロペプ
チドYは1982年に初めてブタ脳から単離され(Tatemotoら,1982)、それ以後、
心臓血管系を神経刺激伝達する殆どの交感神経節後ニューロン(sympathetic po
stganglionic neurons)中に同定され、ノルアドレナリンと共に局在している(
Potter,1988)。それは心臓血管系では、接合部後(postjunctional)ニューロ
ペプチドY受容体に対する作用により血圧を上昇し(Dahloffら,1985;Potter,19
85;Revingtonら,1987;Potter and McCloskey,1992)、また接合部前(prejuncti
onal)ニューロペプチドY受容体に作用することにより神経伝達物質の放出〔ア
セチルコリン(Revingtonら,1987;Warner and Levy,1989)とノルアドレナリ
ン(Edvinsson,1988)の両方〕を阻害する。ニューロペプチドYの受容体はま
た感覚神経末端にも局在し、その活性化は局所神経原性応答を調節する(Grunde
marら,1990;1993)。in vitroアッセイ系でニューロペプチドYと比較すると、
これら2つの受容体サブタイプは、関連ペプチドYY-(13-36)の末端切断型類似体
に対する応答の差異に基いて、ニューロペプチドY Y1(接合部後)およびニュー
ロペプチドY Y2(接合部前)と呼ばれている(Wahlestedtら,1986)。これらの
歴史的によく定義されたニューロペプチドY受容体とは別に、薬理学的理由から
いくつかの他のサブタイプ(Y3,Y4、Y5、Y6およびY7)の存在が示唆さ
れ、Y1、Y2、Y4およびY5に対応する受容体のクローン化の詳細が報じられた(He
rzogら,1992;Geraldら,1995;Bardら,1995;Geraldら,1996)。これら各種受容
体サブタイプの分布と生理学的意義は未だ確定されてない。一つまたは他の受容
体サブタイプに対するニューロペプチドYの末端切断型の選択性についていくつ
かの議論はあっても(Potterら,1989)、明らかになりつつある事態は接合部前
および後の受容体サブタイプへの初期の分類を支持している。一つまたは他のニ
ューロペプチドY受容体サブタイプを発現する細胞系が開発され、ニューロペプ
チドYの受容体選択的類似体の開発は、主にこれら細胞系における結合特性に重
点がおかれてきた(Sheikhら,1989;Aakerlundら,1990;Fuhlendorffら,1990)
。更に最近は、ニューロペプチドY Y1受容体をコードするcDNAがクローン化
され、ニューロペプチドY類似体の特異的結合(Herzogら,1992)および特異的
類似体により誘発される機能的応答の両方に対して、クローン化受容体を発現す
る細胞系が分析されてきた。このような結合研究とその後のin vivo研究とから
、接合部後(ニューロペプチドY Y1)受容体に特異的に作用する2つの類似体が
分類された。これらのニューロペプチドY Y1選択的類似体、(Pro34)ニューロ
ペプチドYおよび(Leu31,Pro34)ニューロペプチドYはニューロペプチドYの
血圧上昇作用を模擬し、またニューロペプチドY Y1受容体のみを発現する細胞系
(例えばヒト神経芽細胞腫の細胞系SK-N-MC)およびクローン化ニューロペプチ
ドY Y1受容体を発現する繊維芽細胞系への同様の結合を共有する(Herzogら,19
92)。いずれもアセチルコリン放出の阻害の現れであるin vivo心臓迷走神経作
用を阻害するニューロペプチドY Y2受容体作用を示さない(Potterら,1991;Pot
ter and McCloskey,1992)。
神経接合部前NPY受容体の活性化は一般的に神経活性を抑制し、神経インパ
ルスに応答しかつ神経伝達物質放出に作用する局所因子に応答して、神経伝達物
質の放出を低下させる(Wahlestedtら,1986)。
NPY含有ニューロンはヒトを含む様々な種の鼻粘膜に顕著であり、腺房(gl
andular acini)および血管と結びついている(Baraniukら,1990;Grunditzら,
1994)。イヌにおける鼻粘膜(ヴィディウス神経)への副交感神経供給の刺激は
、その領域の血流を増加し、この効果の主要部はアトロピン抵抗性である。N
PYの静脈投与は副交感神経刺激のため血管拡張を抑制し、この効果はNPY Y1選
択的アゴニストである[Leu31,Pro34]NPYにより模擬されないが、NPY Y2受容体
アゴニストであるN-アセチル[Leu28,Leu31]NPY(24-36)の投与により模擬される
(Lacroixら,1994)。これは、接合部前NPY Y2様受容体が介在する副交感神経
末端からの伝達物質放出の抑制と一致する。
接合部前またはニューロペプチドY Y2受容体の分類は、ペプチドYY(13-36)の
作用に基づいていたが、多くの系でこの分子とニューロペプチドY-(13-36)は昇
圧活性を表す(Riouxら,1986;Lundbergら,1988;Potterら,1989)。これは或
る人たちにより、ある血管床においては接合部後膜上に2つのタイプのニューロ
ペプチドY受容体(ニューロペプチドY Y1とニューロペプチドY Y2の両方)が存
在することを示すと解釈されてきた(Schwartzら,1989)。しかし、これら分子
の選択性の欠如はY1受容体に対する部分的アゴニスト活性の保持によるものであ
り、それが機能的応答の低下を起こさせるのであろう。本発明者らは、in vivo
研究において全ニューロペプチドY分子と同等の接合部前活性を表すニューロペ
プチドYの13-36類似体、(Leu17,Glu19,Ala21,Ala22,Glu23,Leu28,Leu31
)ニューロペプチドY-(13-36)(ANAニューロペプチドY-(13-36))を先に記述し
た(Potterら,1989)。しかしこの類似体は、まだ顕著な昇圧活性、またはニュ
ーロペプチドY Y1受容体介在相互作用を保持していた。
また本発明者らは先に、心臓迷走神経作用の阻害においてニューロペプチドY
の作用を模擬するが、昇圧作用のないニューロペプチドYの類似体を記述した。
一つの類似体、N-アセチル[Leu28,Leu31]ニューロペプチドY-(24-36)の結合研
究はこれらの機能的応答に一致し、この類似体はヒト神経芽細胞腫細胞系SMS-KA
Nで発現したニューロペプチドY Y2受容体サブタイプにかなりの親和性を示した
が、ヒト細胞系SK-N-MCで発現したニューロペプチドY Y1受容体サブタイプには
親和性を示さなかった(Potterら,1994)。さらに、この類似体は繊維芽細胞で
発現されたヒトニューロペプチドY Y1受容体を刺激して細胞質ゾルのカルシウム
増加を誘発することはなかったものの、この受容体は完全なニューロペプチドY
には応答する。
発明の開示
本発明者らは今回、ニューロペプチドY Y2様受容体の活性化に起因する応答を
模擬する新規ぺプチドを開発した。in vitroアッセイにおいて、これらのアゴニ
ストはニューロペプチドY Y2受容体に高い親和性を示し、NPY Y1受容体に対して
は低い親和性を示す。in vivoアッセイにおいて、新しいアゴニストは、N-アセ
チル[Leu28,Leu31]ニューロペプチドY-(24-36)と比較した場合、同様かまたは
増強されたNPY Y2受容体様アゴニスト活性を示すが、最大ニューロペプチドY Y2
様アゴニスト活性を引き出す用量において昇圧またはY1受容体活性は示さない
。
従って第一の面では、本発明は下式:
X1-X2-X3-X4-X5-X6-X7-X8-X9-X10-X11-X12-X13-X14-X15
[式中、
X1はH、R1-CO、または1個もしくは2個の天然アミノ酸であり;
X2はLeu,Ile,Val,Nle,Sar,Gly,Ala,Aib,D-Leu,D-Ile,D-Val,D-Ala
またはD-Nleであり;
X3はArg,Lys,Orn,Ala,DbuまたはHisであり;
X4はHis,Lys,Arg,Ala,Gly,Ser,Thr,Asn,GlnまたはAibであり;
X5はTyr,Phe,Ala,Gly,Ser,Thr,Asn,GlnまたはAibであり;
X6はLeu,Ile,Val,Ala,ArgまたはNleであり;
X7はAsn,AlaまたはGlnであり;
X8はLeu,Ile,Val,Ala,AibまたはNleであり;
X9はLeu,Ile,Val,Ala,AibまたはNleであり;
X10はThr,AlaまたはSerであり;
X11はArg,LysまたはOrnであり;
X12はGln,ProまたはAsnであり;
X13はArg,LysまたはOrnであり;
X14はTyr,Phe,His,Trp,D-Tyr,D-Phe,D-HisまたはD-Trpであり;
X15はOH,NH2,NHR2,NR3R4または末端アミノ酸が通常の形態もしくはアミド
形態である1個または2個の天然アミノ酸であり;
ここで、R1、R2、R3およびR4は独立して、直鎖、分岐鎖または脂環式構造のア
ルキル基であり;そして
X2〜X10の少なくとも1個はAlaである]
を有するニューロペプチドY受容体に対するリガンドである。
明細書の記述に使用した省略語は次の通りである。
Sar:サルコシンまたはN-メチルグリシン
Aib:アミノイソ酪酸
Orn:オルニチン
Dbu:ジアミノ酪酸
好ましい実施態様では、X2、X4、X5、X8およびX9から選択される少なくとも2
つの基はAlaである。特に好ましい実施態様では、X2とX5がAlaである。
更に好ましい実施態様では、R1はメチル、エチル、n-ブチル、t-ブチル、シク
ロヘキシルおよび10個以下の炭素原子を持つ他のアルキル基から選択されるアル
キル基である。
更に好ましい実施態様では、R2、R3およびR4はメチル、エチル、イソプロピル
、n-ブチル、シクロヘキシルおよび10個以下の炭素原子を持つ他のアルキル基か
ら選択されるアルキル基である。
更に好ましい本発明の実施態様では、そのリガンドは である。
本発明の好ましい実施態様では、ニューロペプチドY受容体はニューロペプチ
ドY Y2様受容体である。本発明者らは「ニューロペプチドY Y2様受容体」とは、
ヒトニューロペプチドY Y2受容体と薬理学的特性を共有する受容体を意味する。
この様な受容体はアセチルコリンやノルアドレナリンのごとき神経伝達物質の放
出を調節し、感覚神経からのエフェクターの放出を調節することができる。ある
NPY受容体サブタイプ、例えばY5は、NPY Y2受容体では高効力であるが、NPY
Y1受容体では低効力でしかないリガンドにより活性化することができ(Geraldら
,1996)、従ってY2様である。最も好ましい実施態様では、この受容体はニュー
ロペプチドY Y2受容体である。
本発明のリガンドは多量体形態、すなわち二量体または三量体形態であること
ができる。
当業者であれば、本発明のペプチドに対してペプチドの生物学的活性を損なう
ことなく数多くの修飾を行うことができることを認めるであろう。これは、その
変化が実質的にペプチドの生物学的活性を低下しない限り、ペプチド配列の保存
的かまたは非保存的な、置換および挿入のごとき様々な変化により達成すること
ができ、かかる変化はペプチドの生物学的活性を実質的に低下させない。
ここで意図されるペプチドの修飾は、側鎖の修飾、ペプチド合成中の非天然ア
ミノ酸および/またはその誘導体の組み込み、および立体配座的拘束をペプチド
に課する架橋剤および他の方法の使用を含むが、これらに限らない。
本発明により意図される側鎖修飾の例は、アルデヒドとの反応とこれに続くNa
BH4での還元による還元的アルキル化;メチルアセトイミデートによるアミド化
;無水酢酸によるアシル化;シアン酸塩によるアミノ基のカルバモイル化;2,4,
6-トリニトロベンゼンスルホン酸(TNBS)によるアミノ基のトリニトロベンジル
化;無水コハク酸と無水テトラヒドロフタル酸によるアミノ基のアシル化;お
よびピリドキサル-5'-ホスフェートによるリシンのピリドキシル化とこれに続く
NaBH4による還元のごときアミノ基の修飾を含む。
アルギニン残基のグアニジン基は、2,3-ブタンジオン、フェニルグリオキサー
ルおよびグリオキサールのごとき試薬によるヘテロ環式縮合生成物の形成により
修飾することができる。
カルボキシル基は、O-アシルイソウレア形成を経由したカルボジイミド活性化
とこれに続く(例えば、対応するアミドへの)誘導体化により修飾することがで
きる。
トリプトファン残基は、例えば、N-ブロモスクシンイミドによる酸化、または
2-ヒドロキシ-5-ビトロベンジルブロマイドまたはスルフェニルハライドによる
インドール環のアルキル化により修飾することができる。他方、チロシン残基は
テトラニトロメタンによるニトロ化により変化させて3-ニトロチロシン誘導体を
形成することができる。
ヒスチジン残基のイミダゾール環の修飾は、ヨード酢酸誘導体によるアルキル
化またはジエチルピロカーボネートによるN-カルベトキシル化により行うことが
できる。
ペプチド合成中の非天然アミノ酸と誘導体の組み込みの例は、ノルロイシン、
4-アミノ酪酸、4-アミノ-3-ヒドロキシ-5-フェニルペンタン酸、6-アミノヘキサ
ン酸、t-ブチルグリシン、ノルバリン、フェニルグリシン、オルニチン、サルコ
シン、4-アミノ-3-ヒドロキシ-6-メチルヘプタン酸;2-チエニルアラニンおよび
/またはアミノ酸のD異性体の使用を含むが、これらに限らない。
更なる例として、本発明においては、X14の残基を、Cha(β-シクロヘキシル-
L-アラニン)、Nal(β-(2-ナフチル)-アラニン)、Phg(L-フェニルグリシン)
、Tic(L-1,2,3,4-テトラヒドロイソキノリン3-カルボン酸)、Thi(β-(2-チエ
ニル)-L-アラニン)、またはそれらのD異性体のごとき疎水性側鎖を有する他の
非天然アミノ酸により、実質的に生物学的活性を変えることなく置き換えること
ができる。
また、本発明のペプチドに各種の基を加えて実質的にペプチドの生物学的活性
を低下することなしにin vivoにおける効力の増加または半減期の延長のごとき
利点を与えることも可能である。この様な生物学的活性の低下を起こさない本発
明のペプチドの修飾は本発明の範囲内にあるものとする。
本発明のリガンドは次の症状の治療に有用であり得る。
-炎症に関係する症状(例えば、鼻の炎症、アレルギーおよび血管運動神経性を
含む鼻炎、喘息、関節炎)
-神経原性炎症に関係する症状(偏頭痛、頭痛、眼の炎症、鼻炎など)
-鼻炎-血管運動神経性鼻炎
-呼吸疾患(肺鬱血、喘息、上気道炎症など)
-睡眠障害
-交感神経活性亢進に関係する症状
-性機能障害と生殖障害に関係する障害
-頭、血管または腎系に関係する障害または疾患(血管鬱縮、心不全、ショック
、心臓肥大、血圧上昇、アンギナ、心筋梗塞、突然心臓死、不整脈、末梢血管疾
病、腎不全など)
-交感神経活性亢進に関係する症状(例えば冠動脈外科手術および胃腸管の処置
と外科手術中または後)
-大脳疾患および疼痛または痛覚に関係する疾患
-中枢神経系に関係する疾患(例えば、脳梗塞、神経退化、癲瘤、卒中、脳血管
攣縮、抑うつ、不安、または痴呆)
-異常な胃腸管運動および分泌に関係する疾患(例えばクローン病)
-泌尿生殖を冒す疾患と症状(例えば尿失禁)
-異常な飲料および食物摂取障害(肥満、拒食症、過食症など)
従って第二の面では、本発明は、鼻鬱血を緩和することに、または急性腎不全
の素因となる血管収縮、抗高血圧症状、心臓血管障害、肺鬱血に関係する症状、
炎症、神経原性炎症、睡眠障害、交感神経活性亢進に関係する症状、中枢神経系
に関係する疾患、疼痛または痛覚に関係する症状、胃腸管運動および分泌に関係
する疾患、肥満、またはアルツハイマー病を治療することに、または抗精神病薬
として、使用するための組成物からなり、その組成物は本発明の第一の面のペプ
チドおよび製剤上の担体を含有する。
第三の面では、本発明は、患者における鼻鬱血を緩和し、心臓迷走神経作用を
減衰し、または急性腎不全の素因となる血管収縮、高血圧、心臓血管障害、肺鬱
血に関係する症状、炎症、神経原性炎症、睡眠障害、交感神経活性亢進に関係す
る症状、中枢神経系に関係する疾患、疼痛または痛覚に関係する症状、胃腸管運
動および分泌に関係する疾患、肥満、またはアルツハイマー病を治療する方法か
らなり、患者に本発明の第二の面の組成物の有効量を投与することを含んでなる
。
本発明の第三の面の好ましい実施態様においては、患者は鼻鬱血、肺鬱血また
は急性腎不全の素因となる血管収縮を患っている。更に好ましい実施態様におい
ては、本組成物は鼻腔スプレーとして投与される。
活性化合物は経口、静脈内(水溶性の場合)、筋内、皮下、鼻腔内、皮内、ま
たは座薬経路または植込(例えば、徐放性分子を用いて)のごとき好都合のやり
方で投与することができる。それはまた、肺に吸入(乾燥または溶液中で)させ
ることもできる。投与経路によっては、活性成分をある物質で被覆して、活性成
分を不活性化するかも知れない酵素、酸および他の自然条件の作用から該成分を
保護する必要がある。例えば、ペプチドの低親油性は、胃腸管中でペプチド結合
を切断する能力のある酵素により、また胃中で酸加水分解により該ペプチドを破
壊させ得る。非経口投与以外によりペプチドを投与する目的で、その不活性化を
防止する物質でペプチドを被覆するか、または該物質と共に投与することができ
る。例えば、ペプチドは溶媒中に溶解させて、リポソーム内に保持させて、また
は酵素阻害剤と共に投与することができる。酵素阻害剤としては膵臓トリプシン
阻害剤、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)およびトラシロールが
挙げられる。リポソームは油中水型エマルジョンおよび通常のリポソームを含む
。
また、活性化合物は非経口的に投与することができる。また、分散液はグリセ
ロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中におよび油中に
調製することができる。通常の貯蔵および使用条件下では、これらの調製物は微
生物の増殖を防止する保存剤を含有する。
注射用に適切な医薬形態は、滅菌水溶液(水溶性の場合)または分散液、およ
び滅菌注射溶液または分散液の用時調製用の滅菌粉末を含む。全ての場合に、形
態は無菌で、注射が容易な程度に流体でなければならない。それは製造および貯
蔵条件下で安定でなければならないし、細菌や真菌のごとき微生物の汚染作用を
受けないよう保存されなければならない。担体は例えば水、エタノール、ポリオ
ール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリ
コールなど)、それらの適切な混合物および植物油を含有する溶媒または分散媒
質であり得る。適切な流動性を維持することは、例えば、レシチンのごときコー
ティングの使用により、分散液の場合には所要粒子寸法の維持により、そして界
面活性剤の使用により、可能である。微生物の作用の防止は各種の抗細菌薬およ
び抗真菌薬、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、
チオメルサールなどにより達成することができる。多くの場合、等張剤(例えば
、糖類または塩化ナトリウム)を含めることが好ましい。注射用の組成物の長時
間吸収は、その組成物中で吸収遅延剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウム
およびゼラチン)を使用することにより達成できる。
滅菌注射溶液は、所要量の活性化合物を適切な溶媒中に必要に応じて各種の他
の成分と共に添加し、続いて濾過滅菌して調製される。通常、分散液は基本分散
媒質と必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に各種無菌成分を添加すること
により調製することができる。そのままで使用するかまたは滅菌注射溶液を調製
するための滅菌粉末の場合、好ましい調製方法は真空乾燥と凍結乾燥技術であり
、こうした技術は予め滅菌濾過した溶液から活性成分と任意の追加的所望成分と
を含む粉末をもたらす。
本発明の性質が更に明確に理解され得るように、次に、これらの好ましい形態
を以下の実施例と図面を参考にして記述することにする。
図1は、腎交感神経の電気的刺激により誘発されるラットの増加した腎血管抵
抗に及ぼすAc[Ala24,Ala27,Leu28,Leu31]NPY(24-36)の効果を示す。材料および方法
in vivo
この実験はペントバルビトンナトリウム(Nembutal,Boehringer-Ingleheim;60
mg/kg,腹腔内)で麻酔した雌雄両方の成熟ラット(250〜350g;Wistar)を用いて行
った。気管にカニューレを挿入して、人工呼吸にした。ペプチドと追加量の麻酔
薬の投与のために大腿静脈にカニューレを挿入した。左の大腿動脈にカニューレ
を入れて動脈圧を記録した。両方の迷走神経を切断した。これは、ニューロペプ
チドYにより血圧が上昇するときに起こりうる心臓に対する迷走神経媒介反射作
用を排除するために行った。右の迷走神経の心臓末端部を、分離四角波刺激装置
(Grass Instruments)を使って6秒間の最大上刺激(2Hz,1ms;7V)で30秒ごとに刺
激した。周波数は、パルス間隔を約100ms(この変数に対する最大下効果)だけ
増加するように選択した。針電極を用いて心電図を測定し、オシロスコープの一
つのチャンネルでモニターした。パルス間隔(心臓の連続拍動間の期間)を心電
図からのトリガリング(triggering)により拍動ごとに記録した。パルス間隔と動
脈圧はペン記録器で記録した。
全てのラットのグループデータから用量-応答曲線を作成した。試験したペプ
チドの作用が長時間であるため、それぞれのラットに全部のペプチドを投与した
わけではない。しかし、通常は、各ラットにニューロペプチドYと2種の他のペ
プチドを投与した。
接合部前活性の指標として、2つのパラメーターを測定した。すなわち、ペプ
チドの注入後の迷走神経の刺激により誘起されるパルス間隔の増加の最大阻止パ
ーセントおよびこの効果の半回復までの時間(T50)である。接合部後活性の指
標である昇圧作用についても2つのパラメーターを測定した。すなわち、ペプチ
ドの注入後の最大昇圧応答および血圧上昇の持続期間である。これらの指数は接
合部前および接合部後の部位でのペプチドの作用の信頼できる測定を与え、この
目的のためにこの実験室で以前に使用されたものである(Potterら,1989;
Potterら,1991)。結果をワンウェイANOVAを用いて解析した。
腎血流(in vivo)に関する実験方法
この実験は雌雄両方の成熟した雑種イヌ(体重18〜26kg)6匹を用いて行った
。ペントバルビトンナトリウム(36mg/kg静注;Nembutal,Boehringer-Ingleheim)
のボーラス注射でイヌを麻酔し、その後輸液(2〜3mg/kg/hr)で維持した。動
物を人工呼吸にし、一定の温度で維持し、血圧および心拍数を連続的にモニター
した。
左の腎臓を腹膜の後方に露出させ、腎動脈の血流を遷音速流プローブ(transon
ic flowprobe;Transonic System Inc.,N.Y.)を使って連続的にモニターした(Pe
rnow & Lundberg,1989a)。腎臓への節後神経を分離し、切断し、刺激のために
双極白金電極(1〜10Hz,5〜10V,1〜5msec)の上に置いた。ノルアドレナリンと
ニューロペプチドYは腎臓に共存していることがわかり、腎神経の刺激の際に一
緒に放出される(Pernow & Lundberg,1989b)。
腎神経をある範囲の周波数(1〜10Hz)で30秒刺激し、周波数−応答曲線を作成
した。応答は流れの最大変化で測定した。これらの周波数−応答関係はNPY Y2受
容体アゴニストのボーラス投与(40nmol/kg)の前後で試験した。応答を血管抵抗
の変化として記録した。
結合実験(in vitro)の方法
細胞培養
ヒトY1受容体を発現するSK-N-MC細胞およびヒトY2受容体を発現するSMS-MSN細
胞をATCCから入手した。10%ウシ胎児血清、0.1%非必須アミノ酸、0.2mMグルタミ
ン、および0.056%炭酸水素ナトリウムを含有するDMEM:Ham's F12(1:1)培地(ICN
)中でそれらを培養した。集密培養した細胞を擦過法で回収し、ペレットを-80℃
で貯蔵した。使用当日に細胞を解凍し、結合バッファー塩類で1回洗浄し、22ゲ
ージ針を数回通過させ、タンパク質含量をビシンコニン酸(bicinchoninic acid
;BCAキット,Pierce)によりアッセイした。タンパク質の濃度を200〜400μg/ml
(SMS-MSN細胞)または400〜800μg/ml(SK-N-MC細胞)とするために細胞量を調
整し、BSAおよびプロテアーゼ阻害剤を添加した。
受容体結合アッセイ
受容体結合アッセイは、非特異的結合を防止するために0.5% PVP/0.1% Tween-
20(Scottら,1995)を4℃で一晩プレコートした、Multiscreen FCプレート(Mi
llipore)で行った(Gregorら,1996)。使用直前にプレートを濾過し、50mM Tris-
HCl pH7.4/0.1% BSAで2回洗浄し、30pM[125]NPY(Amersham)、競合物質(10pM〜
1μm)および細胞(SMS-MSNについては10〜20μg、SK-N-MCについては20〜40μg)
を、50mM Tris-HCl pH7.4,115mM NaCl,15mM KCl,5mM CaCl2,2mM MgSO4,1.2
5mM KH2PO4,25mM NaHCO3,10mMグルコース,0.1% BSA,4mg/mlバシトラシンお
よび0.5mM PMSFを含有する結合バッファー中で全容量200μlにて室温で2.5時間
インキュベートした(Tschoplら,1993)。濾過を行って結合を終結させた。200μ
lの50mM Tris-HCl pH7.4/0.1% BSAで2℃にて急速濾過することでフィルターを
2回洗浄し、LKBガンマカウンターで計数した。特異的結合をシングル・サイト
・フィッティング・ファンクション(single-site fitting function)(Graphpad
Prism)を用いて非直線回帰により分析した。非特異的結合は1μMの競合物質の
存在下で結合させることにより測定した。
ペプチドの合成および精製
標準的なBocまたはFmoc固相化学によりペプチドアミドを合成した。
Boc合成はポリスチレン系のMBHA樹脂を用いて行った。合成の最後のアセチル
化はメタノール中で無水酢酸を用いて行った。スカベンジャーとしてフッ化水素
含有フェノール(1.3g〜10ml)を用いてペプチドを開裂し、水相(30%v/vアセトニ
トリル水溶液)中に抽出した。スカベンジャーをエーテルで洗浄し、次に粗水性
抽出物を凍結乾燥して粗ペプチドを得た。各アミノ酸について選択した側鎖保護
基は開裂工程の間に除去された。ペプチドはイオン交換および逆相HPLC(高圧液
体クロマトグラフィー)により95%になるまで精製した。
Fmoc合成はテンタゲル(tentagel)SRAM樹脂を用いて行った。アセチル化はAcON
Su(酢酸のN-スクシンイミジルエステル)を用いて最終サイクルとして行った。
スカベンジャーとして95% TFA含有チオアニソールおよびp-クレゾールを用いて
ペプチドを開裂し、30%アセトニトリル含有水相中に抽出した。スカベンジャー
をエーテルで洗浄し、次に粗水性抽出物を凍結乾燥して粗ペプチドを得、これを
イオン交換および逆相HPLCで95%になるまで精製した。ペプチドのアミノ酸
組成を決定し、エレクトロスプレー質量分析により正確な分子イオンを測定した
。分析用HPLCとCE(毛細管電気泳動)の両方で純度を概算した。正の実効電荷を
もつペプチドは全て酢酸塩となし、また、全サンプル中のペプチド含量はPicota
gアミノ酸分析において用いられるPierceスタンダードに基づいて決定した。結果および考察
ニューロペプチドYのアミノ酸24〜36を包含する領域のアミノ酸配列に基づい
て新規ペプチドを合成し、in vivo活性を調べた。
ラットでin vivo試験した全分子のうち、NPYだけが用量依存的に血圧を顕著に
増加させた。他の化合物はどれも、試験した用量で血圧を有意に変化させなかっ
た。これは血圧上昇と関連したニューロペプチドY受容体(Y1受容体サブタイプ
)に対する直接的効果の欠如を示すものである。
表1に示した化合物の投与はいずれも、迷走神経の電気的刺激による心拍数の
低下を用量依存的に抑制した。注目すべきことに、Ac[Leu28,Leu31]NPY(24-36)
における24〜31の任意位置でのAla置換は、心拍数に及ぼす迷走神経刺激の作用
のインヒビターとしての効力を増加させた(EC50の低下)。迷走神経刺激の作用
のこの抑制は、心臓への副交感神経刺激伝達からのアセチルコリンの放出の低下
を示し、NPY Y2受容体の剌激のためであると考えられる(Potterら,1994)。24〜
31位置でのAlaの置換はすべてがNPY Y2受容体に対する高親和性およびNPY Y1受
容体に対する低親和性と結び付いていた(表1)。予期せざることに、心拍数の
迷走神経媒介低下を抑制するin vivo活性とY2受容体に対する親和性との間に直
接的関係は存在せず、これは幾つかの化合物のin vivo安定性の向上を示すだろ
う。Ac[Leu28,Leu31]NPY(24-36)の13アミノ酸残基のうちの8個のいずれか1個
のAla置換による生物学的活性の増強は予期せざることであった。さらに驚くべ
きことは、Ac[A24,A27,L28,L31]NPY24-36のような化合物を製造するための多
重Ala置換もまた、Y2受容体でのin vivo活性を増強させるという知見である。13
残基のうちの5個がAlaで置換され得るという観察は、これらの位置(24,26,27
,30,31)の比較的伸長した側鎖がNPY Y2受容体での効力または親和性の維持に
不可欠なものではないことを意味している。これは予想外のことである。なん
となれば、置換されたアミノ酸残基が構造および性質の点でさまざまに異なって
おり、2つは芳香族(His,Tyr)で、1つはカルボキシアミド側鎖を有し、残りは
Alaより3炭素原子多い脂肪族側鎖を有するからである。さらに、Alaで多重置換
された化合物のNPY Y2受容体への親和性は、Leu24またはHis26のみのAlaによる
置換が親和性の明らかな低下をもたらしたにもかかわらず、Ac[L28,L31]NPY24-
36の親和性と同等か、それより高かった。このような活性の維持または増強は予
測することができなかった。Alaで多重置換された化合物Ac[A24,A27,L28,L31
]NPY24-36については、腎神経刺激により誘発される腎血管抵抗の増加を抑制す
るその能力を評価した。循環系に対して直接的作用を及ぼさなかった(表1)こ
の化合物の40nmol量はほぼ完全に神経刺激の作用を抑制し(図1)、刺激した神
経からの神経伝達物質の放出が抑制されたことを実証している。この化合物はNP
Y Y2受容体に対して高親和性を示し、腎神経からの神経伝達物質放出の受容体媒
介抑制は確認されていないが、それらはY2様であると特徴づけられる。
in vivo観察により、これらの化合物は交感神経および副交感神経からの神経
伝達物質の放出を抑制するという一般的な能力をもつことが実証され、これらの
作用物質は、どのようなタイプの神経伝達の抑制が望まれる状況でも、活性を示
すことが期待される。神経伝達の抑制が望まれる状況の例は鼻鬱血、肺鬱血およ
び神経原性炎症のような症状である。
特定の実施態様において示した本発明に対して、多数の変更および/または修
飾が広範に記載した本発明の精神または範囲から逸脱することなく可能であるこ
とが当業者には理解されよう。したがって、これらの実施態様はあらゆる点で例
示的であると見なされ、限定的であると見なされるべきでない。表1
一連のペプチドのin vivo活性〔麻酔したラットにおけるパルス間隔(P1:Y2
様受容体での活性)および血圧(BP:Y1受容体での活性)の変化〕ならびにin v
itroでのY1受容体およびY2受容体に対する親和性
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(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
A61P 11/00 A61P 13/00
13/00 25/00
25/00 25/28
25/28 27/16
27/16 29/00
29/00 A61K 37/02
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,KE,LS,MW,S
D,SZ,UG),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ
,MD,RU,TJ,TM),AL,AM,AT,AU
,AZ,BA,BB,BG,BR,BY,CA,CH,
CN,CU,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,G
B,GE,GH,HU,IL,IS,JP,KE,KG
,KP,KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,
LU,LV,MD,MG,MK,MN,MW,MX,N
O,NZ,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG
,SI,SK,TJ,TM,TR,TT,UA,UG,
US,UZ,VN,YU
(72)発明者 ポッター,エリカ
オーストラリア国 2031 ニューサウスウ
ェールズ州,ランドウィック,ヘンリー
ストリート 3