JP2001079664A - 溶接ワイヤ加熱装置 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】狭隘な幅のＩ開先を横向き姿勢で溶接を行う場
合に、重力の影響で発生する上側の開先壁でのアンダー
カットや、下側の開先壁面でのオーバラップといった溶
接欠陥を防止することにある。 【解決手段】狭開先内で非消耗電極を揺動させ、溶接ワ
イヤを供給する溶接法を用いる横向き姿勢溶接装置にお
いて、溶接ワイヤと母材間に通電し、加熱しながら供給
し、溶接ワイヤを非消耗電極の揺動周波数と同期させて
揺動させ、開先の上側領域では溶接ワイヤの加熱電流を
減少させ、開先の下側領域では、溶接ワイヤの加熱電流
を増加させる制御を行う。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、非消耗電極を保持
する溶接トーチ（本明細書内では単に溶接トーチと呼ぶ
ことにする）を捻転させ、非消耗電極を揺動させる横向
き姿勢溶接装置の溶接ワイヤ加熱装置に係わり、非消耗
電極の揺動周波数と同期させて溶接ワイヤを揺動させる
とき、溶接中の溶接ワイヤ先端位置に対応させて、溶接
ワイヤの加熱電流を制御する溶接ワイヤ加熱装置、さら
に該溶接ワイヤ加熱装置を搭載した横向き姿勢溶接装置
に関する。

【０００２】

【従来の技術】横向き姿勢で溶接する場合には、重力の
影響により、溶融池が垂れ下がるため、母材表面を覆う
溶融池が少ない上側の開先壁では、開先壁が過剰に溶融
し、母材が掘られ（アンダーカット）、母材表面を覆う
溶融池が多い下側の開先壁では、アークが遮られるた
め、開先壁が十分に溶融せず、融合不良（オーバラッ
プ）となることがある。これらの溶接欠陥を防止する方
法としては、特開平10−296438号公報に開示されている
ように開先内で非消耗電極を支持する溶接トーチとワイ
ヤトーチを上下に移動(オシレート)させて溶接し、開先
の上側領域では、溶接電流の減少、あるいは溶接ワイヤ
供給量の増加により母材の過剰溶融を抑制し、開先の下
側領域では、逆に溶接電流の増加、あるいは溶接ワイヤ
供給量の減少により母材の溶込みを増加させる方法が知
られている。

【０００３】

【発明が解決しようとする課題】溶接線を形成する開先
が狭隘な幅のＩ開先である場合、その狭さ故に、溶接ト
ーチとワイヤトーチを開先内でオシレートさせる方法
は、開先壁面への接触の恐れがあるため、オシレートの
幅に制約があり、開先隅部の溶融が困難である。また、
アーク電圧の変化を利用する開先倣いを併用する場合、
開先内の電極位置によって溶接電流を変更する方法で
は、アーク電圧が変動するため、制御が複雑になるとい
った問題がある。

【０００４】本発明の目的は、上記の問題点を解決し、
狭隘な幅のＩ開先を横向き姿勢で溶接する場合に、アン
ダーカットやオーバラップなどの溶接欠陥を防止する溶
接ワイヤ加熱装置及び横向き姿勢溶接装置を提供するこ
とにある。

【０００５】

【課題を解決するための手段】上記目的は非消耗電極を
揺動させ、溶接ワイヤを供給する溶接法を用いる横向き
姿勢溶接装置において、溶接ワイヤと母材間に通電し、
加熱しながら供給する際に、非消耗電極の揺動周波数と
同期させて、開先内で溶接ワイヤを揺動させるとき、そ
の溶接ワイヤの先端位置が、開先の上側領域にあるとき
は、溶接ワイヤの加熱電流を減少させて、アーク発生熱
量のうち、母材と溶接ワイヤの溶融に寄与する熱量(本
明細書内では、溶接入熱と呼ぶことにする)が母材の溶
融と溶接ワイヤの溶融の両方に消費されるようにするこ
とによって、母材の過剰溶融と溶融池の垂れ下がりを抑
制し、開先の下側領域にあるときは、溶接ワイヤの加熱
電流を増加させて、溶接ワイヤが単独で溶融するため、
溶接入熱が母材の溶融のみに消費されるようにすること
によって、母材の溶融を促進させることで達成される。

【０００６】

【発明の実施の形態】以下、本発明の実施例を図面に従
って説明する。

【０００７】図１は、本発明の請求項１記載の溶接ワイ
ヤ加熱装置を搭載した横向き姿勢溶接装置で溶接する場
合の非消耗電極の揺動波形と、溶接ワイヤの揺動波形
と、溶接ワイヤの加熱電流の関係を示したものである。
本図においては図示する＋側を開先の上側，−側を下側
として説明する。非消耗電極先端は溶接トーチの捻転運
動により開先内を上下に揺動する。この際、開先隅部の
溶融を確保するために、揺動振幅の両端で一定時間停止
させる。溶接ワイヤ先端はワイヤトーチの捻転運動によ
り非消耗電極の揺動周波数と同期させて、開先内を上下
に揺動する。この溶接ワイヤの揺動角度を検出し、溶接
ワイヤ先端が揺動振幅中心よりも＋側にあるとき、溶接
ワイヤの加熱電流をＩｕにし、−側にあるとき、Ｉｄに
する。

【０００８】これにより開先の上下で母材への入熱を制
御し、アンダーカットやオーバラップの溶接欠陥を防止
できる。溶接ワイヤ加熱電流の切替の時期は、揺動振幅
の中心である必要はなく、例えば、揺動振幅の上端位置
のみＩｕとするようにしても良い。また、検出する揺動
角度を変数とした関数により、溶接ワイヤの加熱電流を
連続的に変化させるようにしても良い。

【０００９】図２は、本発明の請求項１記載の溶接ワイ
ヤ加熱装置を搭載した横向き姿勢溶接装置で溶接する場
合の非消耗電極と溶接ワイヤの開先内での位置関係を示
す模式図である。非消耗電極１の揺動周波数と同期させ
て溶接ワイヤ２を揺動させながら溶接するとき、非消耗
電極１先端と溶接ワイヤ２先端が揺動中心より上側の開
先壁４側にある（１）の状態では、溶接ワイヤの加熱電
流はＩｕ(Ｉｕ＜Ｉｄ）であるから、溶接入熱が母材６
の溶融と溶接ワイヤ２の溶融の両方に消費され、母材６
の過剰溶融と溶融池７の垂れ下がりを抑制し、母材６の
上側に発生するアンダーカットを防止できる。

【００１０】（２）状態では、溶接ワイヤ２が揺動中心
を通ったことを検知して、溶接ワイヤの加熱電流をＩｕ
からＩｄに変更する。非消耗電極１先端と溶接ワイヤ２
先端が揺動中心より下側の開先壁５側にある（３）の状
態では、溶接ワイヤの加熱電流はＩｄであるから、溶接
ワイヤ２が単独で溶融するため、溶接入熱が母材６の溶
融のみに消費されることによって、母材６の溶融を促進
させ、母材６の下側に発生するオーバラップを防止でき
る。

【００１１】図３は、本発明の請求項１記載の溶接ワイ
ヤ加熱装置で溶接ワイヤの加熱電流を揺動振幅の上端領
域と下端領域で制御する場合の制御フローチャートであ
る。まず、溶接ワイヤの揺動角度ｋｒを設定する。本図
においては開先の上側を＋の角度，下側を−の角度とし
て説明する。次に溶接ワイヤ加熱電流の切替を行う揺動
角度ｋｄを設定し、ワイヤの揺動角度がｋｄ以上の場合
の溶接ワイヤの加熱電流Ｉｕと、ｋｄ未満の場合の溶接
ワイヤの加熱電流Ｉｄを設定する。さらに非消耗電極と
溶接ワイヤの揺動周波数を同期させて、非消耗電極先端
と溶接ワイヤの先端が同一の開先壁側を向くように設定
する。

【００１２】溶接中の溶接ワイヤの揺動角度ｋｓを検出
する。検出した揺動角度ｋｓがｋｄ以上の場合は、溶接
ワイヤの加熱電流をＩｕにし、ｋｄ未満の場合はＩｄに
する制御を行う。ワイヤ供給装置の動作から溶接終了か
否かの判定をして、溶接継続中ならば再度検出，制御を
繰り返すことで、開先の上側領域で、母材の過剰溶融と
溶融池の垂れ下がりを抑制し、開先の下側領域で、母材
の溶融を促進させる。

【００１３】図４は、本発明の請求項１記載の溶接ワイ
ヤ加熱装置で溶接ワイヤの加熱電流を揺動角度を変数と
して連続的に制御する場合の制御フローチャートであ
る。まず、溶接ワイヤの揺動角度ｋｒを設定する。本図
においては開先の上側を＋の角度，下側を−の角度とし
て説明する。溶接中に検出する溶接ワイヤの揺動角度ｋ
ｓを変数とした溶接ワイヤの加熱電流算出式Ｉｆ＝α×
ｋｓ＋β（α，βは定数）を設定，記憶させる。次に非
消耗電極と溶接ワイヤの揺動周波数を同期させて、非消
耗電極先端と溶接ワイヤ先端が同一の開先壁側を向くよ
うに設定する。溶接中の揺動角度ｋｓを検出する。

【００１４】前記溶接ワイヤ加熱電流算出式Ｉｆ＝α×
ｋｓ＋βに検出した揺動角度ｋｓを代入し、算出した値
に溶接ワイヤ加熱電流を設定する。ワイヤ供給装置の動
作から溶接終了か否かの判定をして、溶接継続中ならば
再度検出，制御を繰り返すことで、開先の上側領域で、
母材の過剰溶融と溶融池の垂れ下がりを抑制し、開先の
下側領域で、母材の溶融を促進させる。

【００１５】図５は、非消耗電極と溶接ワイヤの揺動周
波数と揺動方向を一致させる機構の一例の概略図であ
る。回転軸１０を一定周波数で捻転運動させる。この回
転軸１０の捻転運動をギア１１とベルト１２とギア１３
により溶接トーチ８に伝達し、非消耗電極１の先端を揺
動させる。これと同時に回転軸１０の捻転運動をギア１
４とギア１５によりワイヤトーチ９に伝達し、溶接ワイ
ヤ２の先端を揺動させる。このような機構により非消耗
電極１と溶接ワイヤ２の揺動周波数と揺動方向を一致さ
せる。

【００１６】図６は、本発明の実施例である溶接ワイヤ
加熱装置を搭載した横向き姿勢溶接装置の構成図であ
る。図示の横向き姿勢溶接装置は、非消耗電極１と母材
６との間にアーク３を発生する手段である溶接電源１６
と、溶接ワイヤ２を順次供給する手段であるワイヤ供給
装置１７と、溶接ワイヤと母材間に通電し、溶接ワイヤ
をジュール加熱する手段であるワイヤ加熱電源１８と、
溶接トーチ８とワイヤトーチ９を揺動させる揺動機構１
９と、溶接トーチ８と母材６間の距離を調整するアーク
長調整軸２０と、溶接トーチ８を図示する上下方向に移
動させる溶接トーチ移動軸２１と、レール２２上を溶接
線方向に自走する手段である台車２３と、上記各装置を
統括制御する手段である制御装置２４で構成されてい
る。溶接線方向に自走する手段としては、台車２３に限
らず、ロボット，マニピュレータなどでもよい。

【００１７】上記構成の装置の動作を次に説明する。ま
ず、溶接する母材６の開先内に溶接トーチ８とワイヤト
ーチ９が配されるようにレール２２上に台車２３を設置
する。次に制御装置２４が起動される。次に制御装置２
４は溶接電源１６を起動し、溶接トーチ８先端の非消耗
電極１と母材６間にアーク３を発生させる。アーク３は
母材６を溶融し、溶融池７を形成する。制御装置２４は
アーク３の発生より所定の時間が経過したことを検知す
ると、揺動機構１９を起動し、溶接トーチ８とワイヤト
ーチ９の揺動を開始する。同様にワイヤ供給装置１７を
起動し、溶接ワイヤ２の供給を開始する。また、制御装
置２４は溶接ワイヤ２の供給開始より所定の時間が経過
したことを検知し、ワイヤ電源１８を起動し、溶接ワイ
ヤ２と母材６間に通電する。また、同様に台車２３の走
行を開始させる。

【００１８】非消耗電極１を開先内で揺動する溶接法で
図示するように横向き姿勢溶接を行う場合、重力の影響
により溶融池７は垂れ下がろうとし、上側の開先壁４で
はアンダーカットが、下側の開先壁５ではオーバラップ
が発生しやすい。このため、開先の上側領域では、母材
の過剰溶融と溶融池の垂れ下がりを抑制し、開先の下側
領域では、母材の溶融を促進させる必要がある。

【００１９】制御装置２４は、揺動機構１９に起動し、
非消耗電極１と溶接ワイヤ２をあらかじめ設定した周波
数と角度で揺動させ、揺動機構１９に組み込むエンコー
ダなどの符号器によって溶接ワイヤの揺動角度ｋｓを検
出する。この揺動角度ｋｓを制御因子として溶接ワイヤ
の加熱電流の制御を行う方法は、図３記載の方法と、図
４記載の方法のどちらの方法でもよい。制御装置２４は
前述の処理を溶接終了まで、繰り返し行い、欠陥が発生
しない横向き姿勢溶接を実現する。

【００２０】

【発明の効果】本発明によれば、開先の上側領域では溶
接ワイヤの加熱電流を減少させることにより、溶接入熱
が母材の溶融と溶接ワイヤの溶融の両方に消費されるこ
とによって、母材の過剰溶融と溶融池の垂れ下がりを抑
制し、開先の下側領域では、溶接ワイヤの加熱電流を増
加させることにより、溶接ワイヤが単独で溶融するた
め、溶接入熱が母材の溶融のみに消費されることによっ
て、母材の溶融を促進させ、重力の影響を受ける横向姿
勢の狭開先溶接でもアンダーカットやオーバラップとい
った溶接欠陥を防止できる横向き姿勢溶接装置を提供で
きる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明の溶接ワイヤ加熱装置を搭載した横向き
姿勢溶接装置で溶接する場合の非消耗電極の揺動波形
と、溶接ワイヤの揺動波形及び溶接ワイヤの加熱電流の
関係を示した特性図である。

【図２】本発明の溶接ワイヤ加熱装置を搭載した横向き
姿勢溶接装置で溶接する場合の非消耗電極と溶接ワイヤ
の開先内での位置関係を示す模式図である。

【図３】本発明の溶接ワイヤ加熱装置で溶接ワイヤの加
熱電流を揺動振幅の上端領域と下端領域で制御する場合
の制御フローチャートである。

【図４】本発明の溶接ワイヤ加熱装置で溶接ワイヤの加
熱電流を揺動角度を変数として連続的に制御する場合の
制御フローチャートである。

【図５】非消耗電極の揺動と、溶接ワイヤの揺動周波数
と揺動方向を一致させる機構の一例の概略斜視図であ
る。

【図６】本発明の実施例である溶接ワイヤ加熱装置を搭
載した横向き姿勢溶接装置のブロック図である。

【符号の説明】

１…非消耗電極、２…溶接ワイヤ、３…アーク、４…上
側開先壁、５…下側開先壁、６…母材、７…溶融池、８
…溶接トーチ、９…ワイヤトーチ、１０…回転軸、１
１，１３，１４，１５…ギア、１２…ベルト、１６…溶
接電源、１７…ワイヤ供給装置、１８…ワイヤ電源、１
９…揺動機構、２０…アーク長調整軸、２１…溶接トー
チ移動軸、２２…レール、２３…台車、２４…制御装
置、Ｉｕ…上側の溶接ワイヤ加熱電流の設定値、Ｉｄ…
下側の溶接ワイヤ加熱電流の設定値、Ｉｆ…溶接ワイヤ
加熱電流の算出値、ｋｒ…溶接ワイヤ揺動角度の設定
値、ｋｄ…溶接ワイヤ加熱電流の切替を行う揺動角度の
設定値、ｋｓ…溶接ワイヤ揺動角度の検出値。

Claims (1)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】非消耗電極を狭開先内で捻転させて電極先
   端を溶接線に対して直交する方向に往復動（本明細書内
   では揺動と呼ぶことにする）させながら溶接を行う横向
   き姿勢溶接装置において、前記非消耗電極の揺動周波数
   に同期させて、溶接ワイヤ先端を開先内で揺動させるワ
   イヤ揺動手段と、前記溶接ワイヤの揺動角度を検出する
   ワイヤ揺動角度検出手段と、前記溶接ワイヤと母材（被
   溶接材）の間に通電し、溶接ワイヤを加熱するワイヤ加
   熱手段と、前記ワイヤ揺動角度検出手段の検出結果に基
   づいて、前記ワイヤ加熱手段の加熱電流を制御するワイ
   ヤ電流制御手段を備え、前記ワイヤ揺動角度検出手段に
   より検出された溶接ワイヤの揺動角度から開先内におけ
   る溶接ワイヤ先端位置を検出し、ワイヤ電流制御手段
   は、溶接ワイヤ先端位置が揺動振幅上端領域にあると
   き、前記ワイヤ加熱手段の加熱電流を減少させ、揺動振
   幅下端領域にあるとき、前記ワイヤ加熱手段の加熱電流
   を増加させる制御を行うことを特徴とした溶接ワイヤ加
   熱装置。