JP2001011565A - 衝撃エネルギー吸収性に優れた高強度鋼板およびその製造方法 - Google Patents

衝撃エネルギー吸収性に優れた高強度鋼板およびその製造方法

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JP2001011565A
JP2001011565A JP18844999A JP18844999A JP2001011565A JP 2001011565 A JP2001011565 A JP 2001011565A JP 18844999 A JP18844999 A JP 18844999A JP 18844999 A JP18844999 A JP 18844999A JP 2001011565 A JP2001011565 A JP 2001011565A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】自動車の衝突安全性を高めるとともに軽量化を
図ることが可能な衝撃吸収エネルギーの大きい高強度鋼
板およびその製造法を提供する。 【解決手段】重量%で,C:0.05〜0.30%、S
i:2.0%以下、Al:0.01〜2.0%、Mn:
0.5〜4.0%、Ni:0〜5.0%、P:0.1%
以下、S:0.1%以下、N:0.01%以下、残部は
Feおよび不可避的不純物からなり、かつ1.5−3.
0×C≦Si+Al≦3.5−5.0×C、およびMn
+(Ni/3)≧1.0%、を満足する化学組成を有
し、さらに鋼板の焼付硬化量が50MPa以上である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プレス成形などの
塑性加工により製造される構造部材に好適な、衝撃エネ
ルギー吸収性に優れた高強度鋼板およびその製造方法に
関する。
【0002】
【従来の技術】乗用車の衝突安全性確保に対する社会的
要求は、近年とみに高まっている。そこで、衝突時に搭
乗者空間を確保するために、車体に様々な補強部材を取
り付け、車体の強度アップが図られている。そのため、
車体重量が増加し、燃費が低下する傾向にある。これ
は、昨今の地球温暖化対策と相反する。そのために、高
張力鋼板を用いて、車体の軽量化を図る動きがある。特
に500MPaを超えるような高強度鋼板の適用が検討
されている。一般に鋼板の高強度化に伴い延性が劣化す
るため、高延性の高強度鋼板が望まれている。
【0003】このようなニーズに対し、SiとMnを複
合添加した低炭素鋼板をフェライト+オーステナイト2
相域焼鈍後、350〜550℃まで急冷し、その温度で
階段状の冷却あるいは短時間保持してオーステナイトを
一部ベイナイトに変態させ最終的にフェライト+ベイナ
イト+残留オーステナイト(残留γ)からなる鋼板は、
変形中に残留オーステナイトが歪誘起変態し、大きな伸
びを示すことが知られている。
【0004】例えば特開昭60−43430号公報で
は、0.30〜0.65%のC、0.7〜2.0%のS
iおよび0.5〜2.0%のMnを含有する鋼板を、焼
鈍過程においてフェライト+オーステナイト2相域に加
熱した後、冷却過程の650℃から450℃の間で10
〜50秒の保持を1回以上行ない、最終製品において、
各々体積率10%以上のフェライトと残留オーステナイ
トおよび残部組織がマルテンサイトおよびベイナイトの
一種または二種からなる鋼板の製造方法が開示されてい
る。
【0005】また、特開昭61−157625号公報で
は、0.12〜0.55%のC、0.4〜1.8%のS
iおよび0.2〜2.5%のMnを必須元素として含有
し、更に各々0.5%以下のCu、Cr、Ti、Nb、
V、Mo、0.1%以下のP、3%以下のNiの内、1
種または2種以上含有する鋼板を素材とし、更に上記特
開昭60−43430号公報と同様に、フェライト+オ
ーステナイト2相域に加熱した後、冷却途中の500℃
〜350℃の間の温度で30秒から30分の範囲で保持
する製造方法が開示されている。
【0006】更に、上記のような混合組織を有する鋼板
の欠点である穴拡げのごとき伸びフランジ加工性の不足
を解消するために、Siの一部をAlに置換した残留オ
ーステナイト鋼板の製造方法が特開平5−70886号
公報に開示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】以上のような高強度か
つ延性の優れた鋼板が開発されても、衝突安全性の向
上、軽量化のニーズはますます高くなっており、さらに
高強度の鋼板が要望されている。しかしながら、上述の
ような高強度かつ延性の優れた鋼板であっても、強度の
上昇に伴って成形時のスプリングバックによる形状不良
が増大するため、実際に使用できる強度には上限があ
る。さらに、高強度化に伴うC量の増加のため、溶接性
が劣化する恐れもある。
【0008】そこで、本発明は、高強度化をはかると同
時に本発明の目的である衝突時の衝撃吸収エネルギーが
高い鋼板を提供しようとするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記の
(1)、(2)および(3)の衝撃エネルギー吸収性に
優れた高強度鋼板ならびに(4)および(5)のその製
造方法にある。
【0010】(1)重量%で,C:0.05〜0.3
%、Si:2.0%以下、Al:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜4.0%、Ni:0〜5.0%、P:
0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.01%以
下、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ
1.5−3.0×C≦Si+Al≦3.5−5.0×
C、およびMn+(Ni/3)≧1.0(%)、を満足
する化学組成を有し、さらに鋼板の焼付硬化量が50M
Pa以上である鋼板(ここで式中の元素記号は、鋼中に
おけるそれぞれの元素の重量%で表示した含有量を表
す)。
【0011】(2)重量%で,C:0.05〜0.3
%、Si:2.0%以下、Al:0.01〜2.0%、
Mn:0.5〜4.0%、Ni:0〜5.0%、P:
0.1%以下、S:0.1%以下、N:0.01%以
下、さらにTi:0.005〜0.10%、Nb:0.
005〜0.10%、V:0.005〜0.10%の1
種以上を、合計で0.005〜0.10%含有し、残部
はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ1.5−
3.0×C≦Si+Al≦3.5−5.0×C、および
Mn+(Ni/3)≧1.0(%)、を満足する化学組
成を有し、さらに鋼板の焼付硬化量が50MPa以上で
ある鋼板。
【0012】(3)鋼板組織が5%以上の残留オーステ
ナイトおよび5〜15%のベイナイトを含む上記(1)
または(2)に記載する鋼板。
【0013】(4)上記(1)または(2)に記載する
化学組成を有する鋼片を、Ac3点以上に加熱保持して
から熱間圧延し、780〜840℃で仕上圧延を終了し
た後、10〜50℃/秒の冷却速度にて300〜450
℃まで冷却して巻き取る方法。
【0014】(5)上記(1)または(2)に記載する
化学組成を有する鋼片を、Ac3点以上に加熱保持して
から熱間圧延し、300〜720℃の温度範囲で巻き取
り、酸洗、冷間圧延を行った後に、連続焼鈍工程におい
て、Ac1点以上、Ac3点以下の温度域に加熱して再結
晶させ、引き続く冷却途中の550〜350℃の温度域
で30秒以上の保持、または100℃/分以下の冷却速
度での徐冷を行う方法。
【0015】ここで、「焼付硬化量」は、下記に示した
方法で測定した値である。「残留オーステナイト量」、
「ベイナイト量」は「発明の実施の形態」の中で示した
方法で測定した値である。
【0016】本発明者らは、様々な組成、組織バランス
を持った残留オーステナイトを有する鋼板を実験室的規
模で作製し、自動車の衝突における構造部材(以下、部
材と記す)の変形を模擬した試験を行い、衝撃吸収エネ
ルギーを調査した。以下にその実験内容を説明する。
【0017】表1の鋼Aおよび鋼Bの組成を有する厚さ
25mmの鋼片を、実験室において熱間圧延、酸洗、冷
間圧延、焼鈍、調質圧延を行った後、引張試験及び部材
の軸圧壊試験を行った。熱間圧延は、鋼片を1200℃
に30分加熱した後に900℃から800℃の温度範囲
で行い、板厚5mmとした。熱間圧延後、水スプレー冷
却により、600℃まで冷却し、30分保持し、20℃
/時で炉冷することによって実機製造におけるコイル巻
き取りを模擬した。熱延板は、酸洗にてスケールを除去
した後、冷間圧延により板厚1.2mmとした。この冷
延板を、820℃で30秒間均熱後、700℃まで3℃
/秒で徐冷し、その後は過時効温度まで50℃/秒で冷
却し、その温度で保持し、さらに10℃/秒で室温まで
冷却した。過時効温度は250〜600℃、保持時間は
15〜300秒までの範囲で、種々の組み合わせ条件で
試験した。焼鈍後は、伸び率1%で調質圧延を行った。
調質圧延後に引張試験を行った。
【0018】更に焼付硬化量(BH量)を測定するため
に、JIS G 3135に準じて、2%の引張予歪み
を付与し、170℃で20分の塗装焼付相当の熱処理を
行なった後にも引張試験を行った。「焼付硬化量」は、
ひずみ時効降伏荷重から予ひずみ荷重を差し引いた値を
予ひずみ前の試験片平行部断面積で除した値とした。
【0019】衝撃吸収エネルギーの測定は、次のように
行った。図1に示す軸圧壊試験の供試体は、上記のよう
に製造した鋼板をプレス成形でハット形状にし、同一材
料の鋼板を20mmピッチでスポット溶接した。ハット
壁部の塑性歪みは約2%であった。この供試体を塗装焼
付に相当する170℃、20分の熱処理を行った後、軸
圧壊試験を行った。軸圧壊試験は、350kgの錘体を
高さ3mから落下させて、荷重−変位曲線から100m
mを潰すのに要したエネルギーを算出した。組成Aにつ
いては、引張強さが580〜620MPaのもの、組成
Bについては680〜720MPaのものを抽出し、焼
付硬化量と衝撃吸収エネルギーの関係を調べた。図2に
示すように焼付硬化量が大きいほど衝撃吸収エネルギー
が大きく好ましいことを示している。特に、焼付硬化量
が50MPa以上では、衝撃吸収エネルギーの上昇が著
しい。例えば、組成Aの焼付硬化量50MPaの鋼板
は、組成Bの焼付硬化量が20MPaの鋼板と同等の衝
撃吸収エネルギーを示している。後者は前者より引張強
さが100MPa高いので、焼付硬化は単純な強度上昇
効果以上の作用を持っていると考えられる。
【0020】したがって、スプリングバックのような引
張強さに支配される成形性と、軸圧壊吸収エネルギーを
両立させるための基本的考え方は、鋼板の引張強さを確
保した上で、高い焼付硬化量を付与することである。
【0021】次に組成Aのグループについて金属組織と
引張試験特性との関係を図3に示すが、次の重要な知見
を得た。
【0022】ベイナイト量(面積率)が多いほど、焼
付硬化量が上昇する。
【0023】一方、引張強度(TS)と伸び値(E
L)との積(強度−延性バランス)は、ベイナイト量が
5〜15%の範囲で優れ、ベイナイト量が5%未満ある
いは15%を超えると減少する。
【0024】したがって、ベイナイト量を5〜15%
に調整すると、焼付硬化量が大きく、即ち衝撃吸収エネ
ルギーが大きく、かつ強度−延性バランスも良好であ
る。
【0025】
【発明の実施の形態】以下に、本発明鋼板およびその製
造方法について具体的に説明する。
【0026】C: 最も強力なオーステナイト安定化元
素であり、本発明の必須元素の一つである。室温におい
てオーステナイトを安定化するためには、オーステナイ
ト中に1%以上のCが含有されることが必要である。全
C量が0.05%以上の場合には、熱間圧延または焼鈍
のヒートサイクルを最適化すれば、Cを残留オーステナ
イト中に濃縮させることができる。より多量のCを添加
することにより、より高強度鋼板を製造できる。しか
し、0.3%を超えると強度が高くなりすぎるため、ス
プリングバック量が大きいなどの問題により部品への成
形が困難になる。また、溶接性も劣化するため、上限を
0.3%とし、Cの範囲は0.05〜0.3%とした。
好ましくは0.08〜0.23%である。
【0027】Si: SiはAlと同様にフェライト安
定化元素であり、熱間圧延後の冷却過程あるいは冷延鋼
板の2相域焼鈍において、フェライトの体積率を増加さ
せることにより、平衡するオーステナイト相のC濃度を
高める働きをする。また、ベイナイト変態中に炭化物の
析出を抑制し、オーステナイトにCを濃縮する働きがあ
る。同時にSiはフェライトを強化する作用がある。し
かし、Siの含有量が2.0%を超えると、Si添加鋼
板特有の高Siスケールによる表面品質の劣化が生じる
ので、上限を2.0%とした。また、Alとの関係で含
有量を最適化する。
【0028】Al: AlはSiと同様にフェライト安
定化元素で、オーステナイト相のC濃度を高める作用が
あり、Siとの関係で添加量を制限する。溶融亜鉛めっ
き鋼板あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場
合は、めっき濡れ性を阻害しないAlを積極的に添加す
ることが好ましい。また、製鋼時に脱酸剤として使わ
れ、十分な脱酸効果を得るためには、0.01%以上が
必要である。2.0%を超えると鋼板中に介在物が多く
なり延性を損ねるので、これを上限とした。
【0029】Si、Al、Cのバランス: 残留オース
テナイトを十分確保するため、SiとAlは合計で、
「1.5−3.0×C」以上の含有が必要である。しか
し、Si、Alの過剰な添加は残留オーステナイトを安
定化しすぎ、特にC量が高い場合は延性をかえって劣化
させる。そこで、「Si+Al」の上限は、「3.5−
5.0×C」に限定する。また、Alは残留オーステナ
イトを安定化させる効果が大きいので、1.25×Si
(%)以下とすることが好ましい。
【0030】Mn: オーステナイト安定化元素で、本
発明の必須元素の一つであり、その添加量はNiとの関
係で規制される。オーステナイトを安定化し、室温まで
残留させるためには、「Mn+(Ni/3)」が1.0
%以上となるように添加する必要がある。Mnは、鋼中
のSをMnSとして固定し熱間脆性を防止する目的でも
添加されるので、下限を0.5%とした。また、4.0
%を超えると鋼板が硬くなりすぎ高延性が得られないの
で上限を4.0%とした。
【0031】Ni: Mnと同様にオーステナイト安定
化元素として添加してもよい。しかし、Mnと比較して
オーステナイトを安定化する作用が小さく、Mnの3割
程度である。更に、Mnと比べて高価であり、基本的に
はオーステナイトの安定化にはMnを添加すればよい。
しかし、連続溶融亜鉛めっきラインにてめっき鋼板を製
造する場合、鋼板表面にMn酸化物が生成し、めっき濡
れ性が劣化するのを防止する効果がある。Mn含有量と
の合計で規制され、「Mn+(Ni/3)」が1.0%
以上とする必要がある。Ni含有量が、5.0%を超え
ると製品コストが高くなりすぎるためこれを上限とし
た。
【0032】P: Pは低ければ低いほどよい。ただ
し、Pはフェライトを固溶強化する作用を持っており、
その効果を得る場合には添加してもよい。P含有量が
0.1%を超えると、溶接性が劣化するので、0.1%
を上限とする。
【0033】S: Sは低い方が好ましい。S含有量が
多いと、MnSの析出量が多くなり、延性を阻害するの
みならず、オーステナイト安定化元素として添加された
Mnを析出物として消費するので、0.1%以下に限定
した。
【0034】N: Nは現状の製鋼技術で可能な限り低
い方が好ましい。加工性確保のため0.01%を上限と
した。
【0035】Ti、Nb、V: いずれも必要に応じて
添加する元素である。これらの元素は炭化物生成元素で
あり、微細な析出物を形成し鋼板を強化する。いずれの
元素も添加する場合は、0.005〜0.10%の範囲
が好ましい。2種以上を複合して添加する場合は、合計
量で.005〜0.10%が好ましい。
【0036】また、Tiは特に鋼中のNと結合し易く、
AlNの析出に優先してTiNが析出する。AlNの析
出に起因するスラブの割れを防止するとともに、TiN
による熱延板の細粒化効果をうるために、重量比でTi
/N≧3となるよう添加することが好ましい。
【0037】焼付硬化量: 既に述べたように、焼付硬
化量が高いほど衝撃吸収エネルギーは向上する。その効
果は50MPa以上で著しく大きい。その理由ははっき
りしないが、次のように推察される。なお本発明で「焼
付硬化量」というのは、「課題を解決するための手段」
の中で規定した引張試験により求めた量である。
【0038】焼付硬化は、転位が炭素原子によって固着
されるため生じる現象であり、転位が強固に固着される
ほど、可動転位密度が減少し、変形抵抗の歪み速度依存
性は大きくなる。焼付硬化量が高いほど、JIS5号試
験片による引張試験のような準静的な引張試験において
変形抵抗が上昇するのみでなく、歪み速度が大きい衝突
時の変形では、さらに高い変形抵抗を示し、衝撃吸収エ
ネルギーが著しく大きくなるものと推察される。
【0039】このような効果を発揮させるためには、少
なくとも50MPa以上の焼付硬化量が必要であり、7
0MPa以上が望ましい。
【0040】残留オーステナイトの体積率: 本発明鋼
の延性は、製品中に含まれる残留オーステナイトの体積
率の増加にともなって向上するため、残留オーステナイ
トの体積率は5%以上が望ましい。これにより、オース
テナイトの歪誘起変態による延性の更なる向上が期待で
きる。また残留オーステナイトの上限は、特に高成形性
を得る場合は、25%以下が望ましい。残部は、主とし
てフェライトまたはフェライト+ベイナイトである。
【0041】なお、残留オーステナイトの体積率は、鋼
板表面に平行な板厚中心面を化学研磨により露出させ、
CoKα線を用いたX線回折により次式で算出される。
【0042】残留オーステナイトの体積率(%)={1/(1
+K-1×Iα×Iγ-1)}×100 上記式中、KはSUS304と純鉄の混合粉末からなる
標準試料できめた定数、Iαはフェライトの(211)
面のX線積分強度、Iγは残留オーステナイトの(22
0)面のX線積分強度を表す。
【0043】ベイナイトの面積率: 前述したように、
ベイナイトの面積率の増加にともなって焼付硬化量は増
加するが、強度−延性バランスが低下する。この相反す
る特性を両立させるため、ベイナイトの面積率は5〜1
5%が望ましい。なおベイナイトの面積率は、圧延方向
に垂直な鋼板断面を走査型電子顕微鏡で観察し、ベイナ
イト組織の占める面積を測定して決定した。
【0044】熱延条件: 熱延条件は、熱延鋼板の製造
と冷延鋼板の製造の場合で異なるので、分けて説明す
る。
【0045】(熱延鋼板) Ac3点以上に加熱、保持
後熱間圧延し、780〜840℃の温度範囲で仕上げ圧
延を終了することにより、オーステナイトの結晶粒を微
細化し、かつオーステナイト相に歪みを蓄積することに
よって、フェライト相の生成を促進する。780℃未満
では、圧延中にフェライト粒が生成し、加工を受けるた
めポリゴナルフェライトが生成しにくくなる。逆に84
0℃をこえるとオーステナイトの動的再結晶がおき、歪
みの蓄積が少なくなるため、フェライトの生成が遅れる
ので、好ましくない。
【0046】熱間圧延の仕上げ圧延後の冷却速度は、1
0〜50℃/秒が好ましい。仕上げ後の冷却速度が10
℃/秒未満では、冷却中にパーライトが生成し、オース
テナイトが生成しにくい。逆に、50℃/秒を超える
と、フェライト変態に要する時間が確保できなくなり、
オーステナイトが残留しにくい。
【0047】巻き取り温度は、450℃を超えるとパー
ライトが生成し、300℃未満ではマルテンサイトが生
成する。いずれも延性を低下させるので、熱延鋼板の製
造における巻き取り温度は、300〜450℃とする。
【0048】(冷延鋼板) 冷延鋼板の場合、金属組織
は主に連続焼鈍工程で決定されるため、熱延条件に対す
る規制は少ないが、次の理由により巻き取り温度を規制
する。本発明鋼の場合、低温で巻取ると焼きが入り硬く
なるため、その後の酸洗、冷間圧延が困難になる。ま
た、高温で巻取りるとセメンタイトが粗大化し、軟質に
なり酸洗、冷間圧延が容易になる反面、焼鈍の均熱時に
セメンタイトが再び固溶するのに時間がかかりすぎ、十
分なオーステナイトが残留しなくなる。そのため、30
0〜720℃に限定した。酸洗、冷間圧延に支障のない
範囲で低い温度で巻取るのがよい。好ましくは、550
〜650℃がよい。
【0049】連続焼鈍条件: まず、「フェライト+オ
ーステナイト」の2相にしてCをオーステナイトに濃縮
するためAc1以上、Ac3変態点以下の温度域に加熱す
る。加熱温度が低すぎるとセメンタイトが再固溶するの
に時間がかかりすぎ、高すぎるとオーステナイトの体積
率が大きくなりすぎてオーステナイト中のC濃度が以下
する。それ故、800〜850℃の温度範囲で均熱する
ことが望ましい。更に均熱後徐冷してフェライトを成長
させて、オーステナイト中のC濃度を高めるために、7
00℃までの冷却速度は10℃/s以下が望ましい。更
に、過時効処理帯に入るまでの温度域では、オーステナ
イトのパーライト変態を抑制するために、冷却速度は逆
に50℃/s以上が望ましい。
【0050】過時効処理帯では、550〜350℃の温
度範囲で30秒以上の保持または100℃/分以下の冷
却速度で徐冷し、オーステナイトをベイナイト変態させ
ながら、オーステナイトへのCの濃縮を促進するのがよ
い。550〜350℃の温度範囲で250秒を超える保
持では残留オーステナイトがやや減少するので、250
秒以下が好ましい。550℃超えではベイナイト変態が
生じず、350℃未満では、下部ベイナイトになり、オ
ーステナイトへのCの濃縮が起こりにくい。材料特性面
では、過時効処理帯後の冷却速度はとくに限定する必要
はないが、焼鈍ライン長を短くする観点から強制冷却を
行ってもよい。
【0051】また、溶融めっき鋼板を製造するために、
連続溶融めっきラインを用いて上記の熱処理を行っても
よい。合金化溶融亜鉛めっきとするために、合金化熱処
理を行っても良い。
【0052】
【実施例】(実施例1)表1に化学組成を示す鋼A〜M
の厚さ25mmの鋼片を、実験室において熱間圧延、酸
洗、冷間圧延、焼鈍、調質圧延を行った後、引張試験及
び図1に示す部材の軸圧壊試験を行った。熱間圧延は、
鋼片を1200℃に30分加熱した後に900℃から8
00℃の温度範囲で行い、板厚5mmまで圧延した。熱
間圧延後、水スプレー冷却により、600℃まで冷却
し、30分保持し、20℃/時で炉冷することによって
実機製造におけるコイル巻き取りを模擬した。熱延板
は、酸洗にてスケールを除去した後、冷間圧延により板
厚1.2mmとした。この冷延板を、820℃で30秒
間均熱後、700℃まで3℃/秒で徐冷し、その後は4
00℃まで30℃/秒で冷却し、その温度で150秒間
保持し、さらに10℃/秒で室温まで冷却した。焼鈍後
は、伸び率1%の調質圧延を行った。これらの鋼板の機
械的特性および金属組織を表2に示す。焼付硬化量、残
留オーステナイト(残留γ)量、ベイナイト量は、前記
の方法で求めた。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】試番3は、Cが0.040%と本発明範囲
より低いため、残留オーステナイトがほとんど存在せ
ず、伸びが劣る。試番5は、Cが0.33%と本発明範
囲より高いため、引張強さが1200MPa以上になっ
ており、プレス成形用途には高強度すぎて適さない。試
番6は、「Si+Al」量が本発明範囲より低いため、
2相域焼鈍中にオーステナイト相中へのCの濃縮が十分
行われないために、残留オーステナイト量が少なく、伸
びが劣る。一方、試番7は「Si+Al」量が本発明で
規定する範囲より高すぎるために、残留オーステナイト
中のC濃度が高くなりすぎ、過剰に安定化されているの
で、残留オーステナイト量が多いにもかかわらず伸びが
低い。試番9は、Mnが0.31%と本発明範囲より低
く、オーステナイトが安定化されないため、室温まで冷
却したときマルテンサイト変態がおき、残留オーステナ
イトは消失してしまうので、伸びが劣る。
【0056】本発明例の試番1、2、4、8、10、1
1、12および13は優れた強度−延性バランス(TS
×EL)を有している。
【0057】(実施例2)表1に化学組成を示す鋼Aの
厚さ25mmの鋼片を、実験室において熱間圧延、酸
洗、冷間圧延、焼鈍、調質をおこなった後、引張試験お
よび部材の軸圧壊試験をおこなった。熱間圧延は、鋼片
を1200℃に30分間均熱した後に900℃〜800
℃の温度範囲でおこない、板厚5mmとした。熱間圧延
後、水スプレー冷却により、600℃まで冷却し、30
分保持し、20℃/時で炉冷することによって実機製造
におけるコイル巻き取りを模擬した。熱延板は、酸洗に
てスケールを除去した後、冷間圧延により板厚1.2m
mとした。この冷延板を、表3に示す均熱温度で30秒
間均熱後、700℃まで3℃/秒で徐令し、引き続き過
時効開始温度までを30℃/秒で冷却し、その後、過時
効終了温度までを同表の平均冷却速度で冷却し、さらに
10℃/秒で室温まで冷却した。焼鈍後は、伸び率1%
の調質圧延をおこなった。
【0058】なお、表3の試番1,14〜19は、過時
効処理を一定温度でおこなった例である。
【0059】連続焼鈍条件を表3のように変化させた場
合の機械的性質、金属組織および軸圧壊吸収エネルギー
を表4に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】試番14は連続焼鈍の均熱温度が本発明で
規定する範囲より高いので、ほぼオーステナイト単相域
から冷却されるためCの濃縮はおこらず、残留オーステ
ナイトは残らない。焼付硬化量が高いので軸圧壊吸収エ
ネルギーは高いが、伸びが著しく小さく、プレス成形に
耐えない。試番15、22は、過時効時間が短いため残
留オーステナイトが残らず、焼付硬化量も小さいので、
伸び、エネルギー吸収ともに劣る。試番17は過時効時
間が300秒とやや長いため、ベイナイト変態が進行し
残留がやや減少する傾向がある。試番18、19、23
は過時効温度が本発明範囲を外れるため、残留オーステ
ナイトが得られていない。したがい、試番18〜19の
伸びは劣っている。
【0063】本発明例の試番1、16、20,21は極
めて良好な伸びと吸収エネルギーを兼ね備えている。
【0064】(実施例3)表1の鋼Aの成分を有する厚
さ10mmの鋼片を、1200℃に30分加熱した後に
900℃から800℃の温度範囲で熱間圧延を行い、板
厚1.2mmとした。熱間圧延後、表5に示す条件で冷
却、巻き取り相当の処理を行った。この熱延鋼板の機械
的性質、金属組織および片ハット部材を作製して評価し
た軸圧壊吸収エネルギーを表6に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】試番24は熱延後の冷却速度が遅いため、
パーライト変態が進行し伸びが劣る。試番28は冷却速
度が速すぎるためCのオーステナイト中への濃縮が不足
し、残留量が少なく、伸びが悪い。試番29、30はい
ずれも巻き取り温度が不適切であるため、残留オーステ
ナイト量が少ない。本発明例の試番25,26,27
は、良好な伸びと高い吸収エネルギーを兼ね備えてい
る。
【0068】
【発明の効果】本発明によれば、鋼板の強度が必要以上
に高くないので、言い換えれば、成形時のスプリングバ
ック等の不良を発生させることなく、鋼板の焼付硬化量
を規定することにより衝撃吸収エネルギーに優れた鋼板
が得られる。この鋼板を自動車等の構造部材に適用する
ことにより、衝突安全性の向上および軽量化が達成でき
る。
【図面の簡単な説明】
【図1】衝撃吸収エネルギーを評価するために用いたハ
ット形状の部材の模式図である。
【図2】焼付硬化量と衝撃吸収エネルギーの関係を示す
図である。
【図3】ベイナイトの面積率と焼付硬化量および強度−
延性バランスとの関係を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4K037 EA01 EA05 EA06 EA15 EA16 EA18 EA19 EA20 EA23 EA25 EA27 EA28 EA31 EA32 FC03 FD03 FD04 FE01 FE02 FE03 FK01 FK02 HA01

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で,C:0.05〜0.3%、S
    i:2.0%以下、Al:0.01〜2.0%、Mn:
    0.5〜4.0%、Ni:0〜5.0%、P:0.1%
    以下、S:0.1%以下、N:0.01%以下、残部は
    Feおよび不可避的不純物からなり、かつ1.5−3.
    0×C≦Si+Al≦3.5−5.0×C、およびMn
    +(Ni/3)≧1.0(%)、を満足する化学組成を
    有し、さらに鋼板の焼付硬化量が50MPa以上である
    ことを特徴とする衝撃エネルギー吸収性に優れた高強度
    鋼板。
  2. 【請求項2】重量%で,C:0.05〜0.3%、S
    i:2.0%以下、Al:0.01〜2.0%、Mn:
    0.5〜4.0%、Ni:0〜5.0%、P:0.1%
    以下、S:0.1%以下、N:0.01%以下、さらに
    Ti:0.005〜0.10%、Nb:0.005〜
    0.10%、V:0.005〜0.10%の1種以上
    を、合計で0.005〜0.10%含有し、残部はFe
    および不可避的不純物からなり、かつ1.5−3.0×
    C≦Si+Al≦3.5−5.0×C、およびMn+
    (Ni/3)≧1.0(%)、を満足する化学組成を有
    し、さらに鋼板の焼付硬化量が50MPa以上であるこ
    とを特徴とする衝撃エネルギー吸収性に優れた高強度鋼
    板。
  3. 【請求項3】鋼板組織が5%以上の残留オーステナイト
    および5〜15%のベイナイトを含むことを特徴とする
    請求項1または2に記載の衝撃エネルギー吸収性に優れ
    た高強度鋼板。
  4. 【請求項4】請求項1または2に規定する化学組成を有
    する鋼片を、Ac3点以上に加熱保持してから熱間圧延
    し、780〜840℃で仕上圧延を終了した後、10〜
    50℃/秒の冷却速度にて300〜450℃まで冷却し
    て巻き取ることを特徴とする、衝撃エネルギー吸収性に
    優れた高強度鋼板の製造方法。
  5. 【請求項5】請求項1または2に規定する化学組成を有
    する鋼片を、Ac3点以上に加熱保持してから熱間圧延
    し、300〜720℃の温度範囲で巻き取り、酸洗、冷
    間圧延を行った後に、連続焼鈍工程において、Ac1
    以上、Ac3点以下の温度域に加熱して再結晶させ、引
    き続く冷却途中の550〜350℃の温度域で30秒以
    上の保持、または100℃/分以下の冷却速度での徐冷
    を行うことを特徴とする衝撃エネルギー吸収性に優れた
    高強度鋼板の製造方法。
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