【発明の詳細な説明】
転写リプレッサー活性を有するユビキチン結合酵素
本発明は、同時継続の米国仮出願第60/002,995号および同時継続の
米国仮出願第60/018,040号に対して優先権を主張する。本発明は、国
立衛生研究所からの認可(2PO1CA49712)によって支持された研究に
よって発展した。合衆国政府は、本発明に権利を有することができる。
発明の背景
本発明は、新規な哺乳類ユビキチン結合(conjugating)酵素、さらに詳しくは
、ヒトユビキチン結合酵素の同定、単離および精製、解明された完全アミノ酸配
列、ならびに該酵素をコードするヌクレオチド配列に関する。さらに本発明は、
ヒトおよび非ヒト宿主細胞において、遺伝子転写を調節するため、特に標的遺伝
子の転写を抑圧するための該酵素および類似の酵素の新規な使用方法に関する。
好ましい適用においては、本発明は、ウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子産物で
あるWT1のリプレッサー活性を増加する方法に関する。
ユビキチンは、タンパク質に分解のための標識をつけ、それによって、それら
の細胞中での寿命を調節することにおいて中心的役割を演じることが同定されて
いる。たとえば、ユビキチネーションによって調節されていることが知られてい
る核タンパク質には、NFxb、サイクリンB、c−jun、p53およびヒス
トンが包含される。ユビキチン結合酵素(UBC)は、ユビキチンを活性化し、
活性化したユビキチンをチオエステル結合で移動させることによってタンパク質
分解的プロテオサム(proteosome)経路において分解の標的となるタンパク質にユ
ビキチンを結合させる。少なくとも12種の別の酵母ユビキチン結合酵素が同定
され、配列決定されている。しかっし、本発明の以前には、2種の哺乳類UBC
が同定され、配列決定されているに過ぎず、yUBC−9および他の酵母UBC
のヒト対応物は同定されていなかった。2種の酵母ユビキチン結合酵素が細胞周
期の進行を媒介することが報告されている(yUBC3:Goeble,M.G.ら、1988
およびyUBC9:Seufert,W.ら、1995)が、ユビキチン結合酵素が、その結合
活性とは独立した他の活性を有することはこれまでに報告されていない。
p53遺伝子、網膜芽腫瘍(Rb)およびウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子
などの腫瘍サプレッサー遺伝子は、種々の方法で細胞の生殖および/または転写
を阻害するタンパク質をコードする。たとえば、p53遺伝子タンパク質は、D
NAに結合して他の調節遺伝子の転写を誘発し、その産物が正常な細胞周期の進
行に重要なタンパク質のキナーゼ活性を遮断し、それによって細胞生殖が排除さ
れると考えられている。Rb遺伝子タンパク質は、アクチベータータンパク質の
活性化ドメインをマスキングすることによって作用すると考えられている。Rb
遺伝子産物タンパク質およびその治療的使用方法が、米国特許第5,496,73
1号(Benedictら)に開示されている。遺伝子サプレッサータンパク質もまた、
特異的DNA結合部位に対してアクチベータータンパク質と競合すること、およ
び/または一般的転写因子との直接的または間接的相互作用といったような他の
方法で作用する。他の腫瘍サプレッサー遺伝子および遺伝子産物(HTS−1遺
伝子)が、米国特許第5,491,064号(Howleyら)に開示されている。
ウィルムス腫瘍(WT)サプレッサー遺伝子産物(WT1)は、クルッペルジ
ンクフィンガーファミリーをもつ二価性転写因子である。WT1遺伝子(11p
13)の両対立遺伝子の機能喪失は、ウィルムス腫瘍および関連症候群に関連性
がある。WT1は、グルタミン/プロリンリッチなN末端領域およびC末端領域
にサブクラスC2−H2の4個のジンクフィンガーを含む52〜57kdの核タ
ンパク質である。WT1は、TGF−II、PDGF A鎖、CSF−1および
IGF−Rプロモーターといったような幾つかの成長関連遺伝子のプロモーター
活性の強力なリプレッサーである。WT1は、WT1がジンクフィンガードメイ
ンを介してDNAと相互作用するときに活性をもつ独立したリプレッサードメイ
ンを有する。WT1などのリプレッサー遺伝子産物の活性が転写に影響を及ぼす
ことは知られているが、転写抑制が有効であることによる生化学的メカニズムへ
のコントロールは、完全には理解されておらず、高レベルの抑制がなされること
が、市販用には望ましい。
発明の要約
したがって、本発明の目的は、細胞内で転写を調節する方法、特に宿主細胞内
標的遺伝子の転写を抑制する方法でを提供することである。本発明の他の目的は
、WT1、ウィルムス腫瘍遺伝子産物といったような公知のリプレッサータンパ
ク質のリプレッサー活性を増加することである。
したがって、本発明は、分子量が約16キロダルトン〜約18キロダルトン、
好ましくは約17キロダルトンであり、配列長さ約150〜165アミノ酸残基
、好ましくは158アミノ酸残基であり、結合活性および/または転写リプレッ
サー活性を有する、新規な、単離され、実質的に精製された哺乳類ユビキチン結
合酵素、hUBC−9に関する。さらに本発明は、hUBC−9のアミノ酸配列
を包含するアミノ酸配列を有するタンパク質に関する。さらに本発明は、ユビキ
チン結合活性または転写リプレッサー活性を有し、少なくとも約12アミノ酸残
基の長さのhUBC−9のアミノ酸配列の一部を包含するタンパク質に関する。
hUBC−9の配列の包含された部分が、結合活性またはリプレッサー活性をタ
ンパク質に授与する。本発明は、転写リプレッサー活性を有し、hUBC−9に
対して、少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約65%、より好ましくは
少なくとも約75%、さらに好ましくは少なくとも約85%および最も好ましく
は少なくとも約95%の配列同一性を有するタンパク質に関する。ユビキチン結
合活性はないが、転写リプレッサー活性を保持するhUBC−9のC93突然変異
体が、特に好ましいタンパク質である。
さらに本発明は、hUBC−9をコードする実質的に単離された核酸ポリマー
に関する。該核酸ポリマーは、好ましくは、(a)図1Aのヌクレオチド配列番号
1;(b)図1Aのヌクレオチド配列番号2;(c)図1Aの配列番号2の88番か
ら564番の位置の配列によって定義される核酸残基を包含する核酸配列;から
なるグループから選ばれる核酸配列を有する。さらに本発明は、ユビキチン結合
活性または転写リプレッサー活性を有し、hUBC−9のアミノ酸配列の一部を
包含するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする、実質的に単離された核
酸ポリマーに関する。包含される部分は、少なくとも約12アミノ酸残基の長さ
であり、該タンパク質に結合活性またはリプレッサー活性を授与する。本発明は
、少なくとも約36核酸残基の長さであり、転写リプレッサー活性をもつタンパ
ク
質をコードする核酸ポリマーに関する。このような核酸フラグメントは、hUB
C−9に対して少なくとも約60%の配列同一性をもつタンパク質をコードする
ことができる。あるいは別の態様としては、本発明の一部を構成する上記核酸ポ
リマーに対して相補的な核酸ポリマーにハイブリダイズすることができる。また
本発明は、上記本発明の核酸ポリマーに対して相補的である核酸ポリマーに関す
る。
本発明は、hUBC−9またはその断片をコードするDNAを有するベクター
でトランスフェクトされた宿主細胞を用いてhUBC−9またはその断片を産生
する方法に関する。DNA(ゲノムDNAおよび/またはゲノムDNA)を有す
るプラスミドベクターを産生することを特徴とする方法が好ましい。DNAは上
記hUBC−9タンパク質またはその断片もしくは相同体をコードする。プラス
ミドベクターを宿主細胞にトランスフェクトし、hUBC−9を宿主細胞内に発
現させる。要すれば、発現したhUBC−9を宿主細胞から精製する。また本発
明は、該ベクターおよびそれにトランスフェクトされた宿主細胞に関する。
さらに本発明は、それぞれDNAを含む第1および第2プラスミドベクターで
同時トランスフェクトされた宿主細胞に関する。第1プラスミドベクターのDN
Aは、WT1といったようなUBC−9タンパク質以外の転写リプレッサータン
パク質をコードする核酸ポリマーを含む。第2のプラスミドベクターのDNAは
、好ましくは、該転写リプレッサータンパク質の転写リプレッサー活性とは独立
している転写リプレッサー活性を有するアダプタータンパク質をコードする核酸
ポリマーを含む。アダプタータンパク質は、該転写リプレッサータンパク質と、
両者が宿主細胞内で共に発現した後に、会合するかまたは相互作用する。アダプ
タータンパク質は、転写リプレッサー活性を有するユビキチン結合酵素のアミノ
酸配列の一部を含むアミノ酸配列を有する。ユビキチン結合酵素として、たとえ
ばhUBC−9、yUBC−9、UBC−9ファミリーの他のメンバーおよび他
のユビキチン結合酵素が挙げられる。アミノ酸配列の包含された部分は、少なく
とも約12アミノ酸残基の長さである。
さらに本発明は、転写リプレッサードメインおよびDNA結合ドメインを含む
融合タンパク質に関する。転写リプレッサードメインは、転写リプレッサー活性
を有するユビキチン結合酵素のアミノ酸配列の少なくとも12個のアミノ酸残基
からなる部分を包含するアミノ酸配列を有する。DNA結合ドメインは、標的遺
伝子のプロモーター領域に十分近くに結合してユビキチン結合酵素の転写活性を
抑制するドメインが好ましい。DNA結合ドメインとして、たとえば、Gal4
、LexAおよびジンクフィンガードメインを有するものすべてが挙げられる。
また本発明は、このような融合タンパク質をコードする核酸ポリマー、このよう
な核酸ポリマーを含むプラスミドベクターおよび該ベクターでトランスフェクト
された宿主細胞に関する。本発明はさらに、転写リプレッサードメインおよびD
NA結合ドメインを有する融合タンパク質を産生する方法に関する。該方法は、
上記融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドベクターを産生し、該
プラスミドベクターを宿主細胞にトランスフェクトし、宿主細胞内で融合タンパ
ク質を発現させ、次いで、要すれば、発現した融合タンパク質を宿主細胞から精
製することを特徴とする。
他の態様では、本発明は、転写リプレッサー活性を有するタンパク質、および
許容しうる担体、希釈剤または標的細胞に該タンパク質を導入するのに適した生
化学的デリバリー剤を含む組成物に関する。該タンパク質は、転写リプレッサー
活性を有し、転写リプレッサー活性を有するユビキチン結合酵素の少なくとも1
2個のアミノ酸残基の長さの部分を包含するアミノ酸配列をもつ。該タンパク質
は、その転写リプレッサー活性を、酵素の包含された部分から誘導する。組成物
は、非医薬(すなわち、非ヒト)用途に用いることができるが、医薬組成物に用
いることもでき、該組成物においては、上記タンパク質を医薬的に許容しうる担
体、希釈剤および/または遺伝子治療デリバリー剤と組み合わせて使用する。
さらに本発明は、細胞へ核酸ポリマーを導入し、それによって核酸ポリマーの
発現産物を標的遺伝子に曝露および/または接触させるために使用するのに適し
た組成物に関する。該組成物は、転写を調節するための医薬的または非医薬的適
用に用いることができる。該組成物は、核酸ポリマーおよび遺伝子治療デリバリ
ー剤を含む。医薬的適用に用いる場合、核酸ポリマーまたは該核酸ポリマーを含
む構築物の量は、宿主細胞における発現という点で、細胞内の標的遺伝子を調節
するための医薬的有効量のタンパク質を発現するのに充分な量である。核酸ポリ
マーは、医薬的に許容しうる遺伝子治療デリバリー剤とともに用いる。核酸ポリ
マーは、転写リプレッサー活性を有し、転写リプレッサー活性を有するユビキチ
ン結合酵素の少なくとも12個のアミノ酸残基の長さの部分を包含するアミノ酸
配列を有するタンパク質をコードする。酵素の包含された部分が、該タンパク質
にリプレッサー活性を授与する。別の態様として、該核酸ポリマーは、組成物中
の上記核酸ポリマーに相補的な核酸配列を有することができる。核酸組成物は、
標的遺伝子にデリバリーされている核酸ポリマーを包含するウイルスゲノムを有
するウイルスであることができる。このような組成物において用いるユビキチン
結合酵素は、hUBC−9、yUBC−9またはyUBC−9−mといったよう
なUBC−9タンパク質が好ましい。別の医薬組成物は、医薬的活性量の上記融
合タンパク質および医薬的に許容しうる担体を含む。
本発明はまた、細胞内で標的遺伝子の転写を調節する方法に関する。該方法は
、標的遺伝子を転写リプレッサー活性を有するタンパク質に曝露および/または
接触させることを特徴とする。該タンパク質は、UBC−9といったような転写
リプレッサー活性を有するユビキチン結合酵素の少なくとも12個のアミノ酸残
基の長さの部分を包含するアミノ酸配列を有する。該タンパク質を含む組成物ま
たは該タンパク質をコードする核酸ポリマーを含む組成物は、標的細胞をウイル
スなどの遺伝子治療デリバリー剤と接触、感染またはトランスフェクトさせるな
どの多くの方法で細胞に導入することができる。遺伝子を曝露させるタンパク質
の量は、細胞内に通常存在する内在性の量以上である。該細胞は、真菌細胞(酵
母細胞など)などの真核細胞、植物細胞、非ヒト動物または哺乳類細胞あるいは
ヒト細胞でありうる。細胞は、ウイルスに感染した細胞であってもよく、その場
合、該ウイルスのゲノムが転写調節タンパク質に曝露される。本発明はまた、新
生組織の成長を調節する方法に関する。該方法では、新生組織細胞を、新生組織
成長調節量の上記医薬組成物の1種に接触させ、それによって新生組織の成長を
調節する。また本発明は、ウィルムス腫瘍細胞の増殖を阻害する方法に関する。
該方
法は、ウィルムス腫瘍細胞に、ウィルムス腫瘍阻害量の転写リプレッサー活性を
有するユビキチン結合酵素またはその断片を導入すること、あるいは別の態様と
して、そのような量の酵素をコードする核酸ポリマーを、好ましくは同時発現し
ているWT1とともに導入することを特徴とする。
本明細書に記載されている発見は、転写リプレッサーまたはプロモーターが種
々の細胞活性を所望の仕方で阻害または増強するようにするための方法の発展に
おいて、重要な分析的ツールおよび重大なつながりを提供する。たとえば、化学
療法、遺伝子療法および薬物開発において、hUBC−9および他のメンバーま
たはUBC−9ファミリーを用いることができる。本発明の他の用途としては、
ウイルスによって起こる疾患などのヒト疾患に関連する遺伝子、または酵母感染
に関連する遺伝子の異常発現のコントロールといったような、特定および一般の
両遺伝子の転写速度および細胞周期の速度を調節するための使用が挙げられる。
本発明には、パン焼きおよび醸造工業など、酵母に対する非医薬的適用、および
必須アミノ酸といったような価値ある化学品を生産するための酵素転換法と組み
合わせた非医薬的適用といった使用も含まれる。酵素、その活性および他の特徴
、酵素発現方法、ならびにその使用方法を以下にさらに詳細に記載する。
本発明の他の特徴および目的は、当業者には一部明らかであろうし、後記にお
いても一部指摘されることとなろう。
図面の簡単な説明
本発明を添付の図面によってさらに開示し、説明する。本発明が優先権を主張
する先の米国仮出願およびその図面においては、他の名称を用いて酵素hUBC
−9を示した。特記すると、頭字語“TRA”、“ヒトUBC”および/または
“hUBC−h”という名称で該酵素を示した。本発明で用いる語句hUBC−
9は、該文献の語句に匹敵するものである。しかし、これらの名称の各々は、図
1Bおよび図1Aに示す特定のヌクレオチド配列に対応するものとしてまた図1
Aに記載されているhUBC−9と同じ酵素を意味するものである。
図1Aおよび1Bは、hUBC−9のヌクレオチドおよびアミノ酸配列を示す
。図1Aは、hUBC−9をコードする2つのDNAクローンに対する全長ヌク
レ
オチド配列および予測されるアミノ酸配列を示す。長い方の792番目の位置の
シトシンと短い方の73番目の位置のシトシンを連結する垂直線は、2つの別の
スプライスされたmRNAの共通のヌクレオチド配列のスプライス部位および起
点を示す。図2Bは、hUBC−9とyUBC−9の予測されるアミノ酸配列の
比較を示す。
図2Aおよび2Bは、それぞれノーザンおよびサザンブロット分析の結果を示
す。図2Aは、異なるヒト組織中のhUBC−9のノーザンブロットを示す。図
2Bは、hUBC−9遺伝子のサザンブロットを示す。
図3Aおよび3Bは、会合したWT1およびhUBC−9のウエスタンブロッ
トにおける、WT1とhUBC−9のインビトロでの結合を示す。図3Aは、マ
トリックス−カップリングしたGST−hUBC−9から得、次いで293細胞
抽出物由来のWT1とともにインキュベートした溶離液のブロットを示す。図3
Bは、WT1およびHA−標識hUBC−9発現ベクターで同時トランスフェク
トされた293細胞由来のWT1とhUBC−9の共免疫沈降の結果を示す。
図4Aおよび4Bは、それぞれ増強温度および制限温度における温度感受性酵
母細胞培養物を示す。
図5Aおよび5Bは、ヒト胚腎臓細胞(293)においてhUBC−9がどの
ようにWT1の転写リプレッサー活性増強するかを示す。図5Aは、WT1およ
びhUBC−9発現ベクターを種々の量で同時トランスフェクトした場合の相対
的CAT活性を示す。図5Bは、それぞれ時間±標準偏差の異なる独立したアッ
セイの相対的CAT活性を示す。
図6Aおよび6Bは、hUBC−9/Gal4DNA結合ドメイン融合タンパ
ク質の転写リプレッサー活性を示す。図6Aは、発現およびレポーターベクター
構築物を示す。図6Bは、相対的CAT活性を示す。
図7A〜7Cは、hUBC−9、yUBC−9およびyUBC−9/Gal4
DNA結合ドメイン融合タンパク質の転写リプレッサー活性を示す。図7Aは、
発現およびレポーターベクター構築物を示す。図7Bは、hUBC−9/Gal
4融合タンパク質に対する相対的CAT活性を示す。図7Cは、yUBC−9/
Gal4およびyUBC−9−m/Gal4融合タンパク質に対する相対的CA
T活性を示す。
図8は、TATA結合タンパク質(TBP)、転写因子IIB(TFIIB)
およびウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子産物WT1に対するGST/hUBC
−9捕捉アッセイの結果を示す。
図9Aおよび9Bは、野生型hTBPおよび数種の突然変異TATA結合タン
パク質mTBPのGST/hUBC−9捕捉アッセイに関する。図9Aの図式的
表現において、野生型hTBPの黒塗りの部分は、種間で高度に保存された領域
を表す。突然変異TBPの黒塗りの部分は、TBP欠失部分を表す。語句“dl
x−y”は、mTBPにおいて、残基x〜yが欠失していることを意味する。図
9Bは、種々のGST/hUBC−9捕捉アッセイから得られるブロットを示す
。
図10A〜10Dは、WT1が単独で発現する場合(図10A)、WT1がh
UBC−9と同時発現する場合(図10B)、WT1が、タンパク質分解的分解シ
ステムの公知のインヒビターであるラクトシステインの存在下で発現する場合(
図10C)、およびWT1が、hUBC−9のC93S変異体であるmUBC−9
と同時発現する場合(図10D)に行ったWT1の代謝回転実験の結果を示す。
図11Aおよび11Bは、hUBC−9とTATA結合タンパク質(TBP)
の相互作用を示す、ゲル移動度シフトアッセイに関する。図11Aは、hUBC
−9および(a)TBPの存在なし(カラムA1〜A3);(b)TBPの存在
あり、TFIIBの存在なし(カラムB1〜B3);および(c)TBPとTF
IIBの両方の存在あり(カラムC1〜C3)のいずれかの条件でTATAボッ
クスを含む末端標識DNAプローブを用いるアッセイの結果を示す。図11Bは
、種々の量のhUBC−9の存在下にTBPが存在する場合の同様のアッセイの
結果を示す。
図12Aおよび12Bは、5xUAS pSV CATレポーターベクターを
用いる移行同時トランスフェクトアッセイの結果をを示す。図12Aは、GAL
4/hUBC−9融合タンパク質(pSGhUBC−9)(0または10μg)
、
TBP(0、0.5または2.5μg)および/またはTFIIB(5μg)を種
々の組み合わせで293細胞内で同時発現させた場合のアッセイにおける該レポ
ーターベクターの発現の相対的濃度を示す。図12Bは、突然変異TBPである
TBPΔ1−138(0、2.5または5μg)およびhUBC−9/Gal4
融合タンパク質(0、10μg)を種々の組み合わせで同時発現させた場合のア
ッセイにおける該レポーターベクターの発現の相対的濃度を示す。
図13は、5xUAS pSV CATレポーターベクターを用い、TBPΔ1
−138(0、2.5または5μg)をWT1(10μg)と種々の組み合わせ
で同時発現させた場合の移行同時トランスフェクトアッセイの結果を示す。
詳細な記載
本明細書中で用いるアミノ酸に対する種々の記号を下記表1に記載する。
表1:アミノ酸の略語
A Ala アラニン
B Asx アスパラギンまたはアスパラギン酸
C Cys システイン
D Asp アスパラギン酸
E Glu グルタミン酸
F Phe フェニルアラニン
G Gly グリシン
H His ヒスチジン
I Ile イソロイシン
K Lys リシン
L Leu ロイシン
M Met メチオニン
N Asn アスパラギン
P Pro プロリン
Q Gln グルタミン
R Arg アルギニン
S Ser セリン
T Thr トレオニン
V Val バリン
W Trp トリプシン
Y Tyr チロシン
Z Glx グルタミンまたはグルタミン酸
本明細書で用いる“実質的に精製した”タンパク質とは、該タンパク質が、通
常それに会合している大部分の宿主細胞タンパク質から分離されること、または
該タンパク質が実質的に精製された形態で合成されることを意味し、このような
合成は、いずれかの適当な遺伝子療法デリバリー手段によって宿主細胞へ内在的
に導入された核酸ポリマーから、該細胞内でタンパク質を発現することである。
“実質的に単離された”核酸ポリマーとは、対象の核酸ポリマーを含む混合物が
、通常それに会合している他の核酸ポリマーの大部分を実質的に含まないことを
意味する。“核酸ポリマー”には、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチ
ド、などのヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体または類縁体が包含される。
ゲノムDNA、cDNAおよmDNAは、典型的な核酸ポリマーである。“転写
を調節する”とは、転写の増強および/または抑制を意味する。“遺伝子”は、
内在性および異種遺伝子の両方、特に、天然の細胞内の標的タンパク質をコード
するゲノムDNAおよび標的タンパク質をコードするcDNAの両方を意味する
(ここで、cDNAは、細胞に導入されたプラスミドベクターまたはウイルスと
いったような核酸構築物の一部である)。本明細書の参考文献の内容は、言及す
ることによってここに完全に包含される。
本発明は、機能的結合活性を有することに加えて、独立した転写リプレッサー
活性を有する、hUBC−9と称する、新たに発見されたヒトユビキチン結合酵
素関する。結合活性とリプレッサー活性の両方が、転写に影響を及ぼすことがわ
かっている。hUBC−9の結合活性は、WT1などの転写サプレッサータンパ
ク質、あるいはhUBC−9それ自体の分解によって転写を増強する。hUBC
−9のリプレッサー性は、その結合活性とは独立して転写を抑制する。たとえば
、hUBC−9は、遺伝子転写のリプレッサーとしてのWT1の機能を著しく増
強する。該酵素はまた、WT1とは独立して作用し、特に、Gal4といったよ
うなDNA結合ドメインをもつタンパク質に融合した場合に、遺伝子転写を抑圧
する。
特定の理論に結び付いているわけではないが、TATA結合タンパク質(TB
P)のDNA結合領域との特定の相互作用を介して転写開始複合体を崩壊させる
ことによって、UBC−9は強力なリプレッサーとして作用する。このような相
互作用は、濃度依存性であり、この作用の結果としてTBP/DNA相互作用が
不安定化され、TFIIB/TBP転写開始複合体の形成が妨害される。さらに
、hUBC−9は、WT1といったような他のリプレッサー効果を有するタンパ
ク質とともに作動することができ、結果として、WT1単独またはhUBC−9
単独のリプレッサー効果と比べて増強された、組み合わせリプレッサー効果が得
られる。したがって、hUBC−9と他のリプレッサータンパク質の会合は、W
T1との関係のようにタンパク質−タンパク質相互作用を介するものであるか、
またはhUBC−9およびGal4、LexA、シンクフィンガーなどのDNA
結合ドメインを含む融合タンパク質として、hUBC−9をプロモーターの近接
に位置させることによるかのいずれかである。hUBC−9に融合しているDN
A結合タンパク質またはhUBC−9と特異的に相互作用しているリプレッサー
タンパク質は、hUBC−9がTBPと相互作用し、それによって転写開始を減
少しうるように、プロモーターNAに関して適当な部位にhUBC−9位置させ
るようにみえる。さらに、組み合わせたWT1/hUBC−9システムにおいて
、hUBC−9の結合活性は、該システムに存在するWT1の濃度を調節するこ
とによって、hUBC−9のリプレッサー活性とともに作動するようにみえる。
このようなWT1濃度の調節は、そのユビキチン結合活性および関連するユビキ
チン依存性タンパク質分解経路を通して遂行される。さらに、hUBC−9のユ
ビキチン結合活性およびリプレッサー活性は、同時に作用することができ、hU
BC−9はWT1(その結合活性による)およびTBP(そのリプレッサー活性
に
よる)と同時に相互作用する。hUBC−9はまた、同様の仕方でp53および
Rbといったような他のリプレッサーと相互作用することもできる。有利なこと
には、UBC−9の結合活性の阻害により、転写開始の著しい減少という結果が
得られる。
さらに、酵母などの他の真核細胞の相同なユビキチン結合酵素(yUBC−9
)は、hUBC−9のような、転写抑制およびユビキチン結合といったような、
同様の2機能性活性を呈する。アミノ酸配列および機能の両方において、UBC
−9の性質が種間で高度に保存されていることは、このタンパク質ファミリーの
普遍的な役割を示唆する。したがって、本発明の多くの態様は、hUBC−9に
対して構造的に相同であり、機能的に等価なタンパク質ファミリーに関するもの
であり、このファミリーを集合的にUBC−9と称する。UBC−9には、ここ
に同定されているタンパク質または将来発見されるタンパク質のいずれもが包含
される。個々の種のタンパク質に対し、本発明では、ヒトについてはhUBC−
9であり酵母についてはyUBC−9と呼ぶ。さらに、UBC−9酵素以外の他
のユビキチン結合酵素であって、結合活性に加えて転写リプレッサー活性をもつ
ならば、このようなユビキチン結合酵素は本発明の多くの態様に含まれる。
hUBC−9タンパク質およびそれをコードする核酸ポリマー、UBC−9酵
素などのユビキチン結合酵素の転写リプレッサー活性、および他の転写リプレッ
サータンパク質、特にDNA結合ドメインを有するタンパク質、さらに詳しくは
WT1などの腫瘍サプレッサータンパク質、ヒトに関する医薬的適用および非医
薬的使用などの可能な幾つかの実際の適用などが本発明の幾つかの態様に含まれ
る。
hUBC−9
酵母の2つのハイブリッドシステムを用いて、本発明のヒトユビキチン結合(
UBC)酵素をコードするクローンを同定した(実施例1)。図1Aは、2つの
別にスプライスされたmRNAから作られた、配列番号1および2と呼ぶヌクレ
オチドである、2つの独立したcDNAクローンの完全ヌクレオチド配列を示す
。cDNAクローンは両方ともhUBC−9をコードする。これらのcDNAク
ロ
ーンの転写および翻訳から得られるアミノ酸産物は、SDS−含有ポリアクリル
アミドゲルにおいて17キロダルトンのタンパク質として独立して移動した。
hUBC−9は、図1Bに示すアミノ酸配列を有する。ジーンバンクのデータ
との比較に基づいて、hUBC−9は、ユビキチンタンパク質分解経路における
中間体である、酵母ユビキチン結合酵素−9、すなわちyUBC−9またはE2
の活性ヒト(h)相同体である。ヒトUBC−9の配列は、分離した領域での同
一の9個のアミノ酸配列を含めて、yUBC−9と56%のアミノ酸同一性を有
する。hUBC−9の158個のアミノ酸配列もまた、酵母UBC−9の活性部
位システインと正確なアラインメントにあるシステイン残基を含む(図1Bのボ
ックス)。
ヒトUBCは、心臓、脳、胎盤、肺、平滑筋、腎臓および膵臓組織といった試
験したすべてのヒトの組織において発現した(実施例2)。しかし、図2Aに示
したノーザンブロット実験の結果からわかるように、発現濃度は、異なる組織で
は変化した。異なる組織におけるhUBC−9のノーザンブロットにおいて、通
常、強いハイブリッドシグナルが2.8kbと1.3kbにおいて見られた。し
かし、心臓と平滑筋では、分析した他の組織と比べて、転写物が有意に高い濃度
で発現しており、腎臓では2.8kbのmRNAイソ体が相対的に少なく発現し
ているようにみえる。
ヒトゲノムDNAを異なる制限酵素で消化し、hUBC−9cDNAの1.1
kbのフラグメントでプローブするサザンブロット実験からわかるように、hU
BC−9は単一の遺伝子によってコードされる(実施例3)。PstIおよびBamH
Iの消化において単一のハイブリッド形成シグナルが見られた(図2B)が、こ
のことは、ヒトUBC遺伝子がヒトゲノムにおいて単一コピー遺伝子として存在
することを示唆している。
hUBC−9は、ウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子産物WT1との会合によ
ってさらに特徴づけられる。ヒトUBCは、インビボおよびインビトロの両方に
おいてWT1に結合する。hUBC−9とWT1のタンパク質−タンパク質相互
作用は、実施例1の表2に示すように、高濃度のβ−ガラクトシダーゼ活性によ
り、
酵母の2つのハイブリッドシステムにおいて最初に明らかになった。さらに実験
を行って、酵母に観察されるWT1−ヒトUBCタンパク質相互作用を確認した
。ヒトUBCは、大腸菌においてグルタチオンS−トランスフェラーゼ融合タン
パク質(GST−ヒトUBC)として発現し、グルタチオンマトリックスにカッ
プリングした(実験例4)。図3Aに示されるように、WT1発現プラスミドで
トランスフェクトした293細胞からの抽出物をGST−ヒトUBCグルタチオ
ンマトリックスとともにインキュベートし、抗WT1抗体でプローブしたウエス
タンブロットによって溶離液を分析すると、GSTマトリックス単独では複合体
を形成しないが、GST−ヒトUBCマトリックスでは、WT1と複合体を形成
することが明らかになった。他の実験では、WT1およびヘマグルチニン(HA
)標識ヒトUBC(HA−ヒトUBC)発現ベクターでトランスフェクトした2
93細胞の抽出物を、抗WT1抗体とともに免疫沈降させ、抗HA抗体をウエス
タンブロットにて分析した(実施例5)。図3Bに示されるように、ヒトUBC
およびWT1発現ベクターの両方で共トランスフェクトした293細胞からはH
A標識ヒトUBCがWT1免疫複合体として同定されたが、ヒトUBC単独でト
ランスフェクトした293細胞からは、同定されなかった。
GST捕捉アッセイから実証されるように、hUBC−9は、TATA結合タ
ンパク質(TBP)とも直接的に相互作用する。全長アミノ酸配列を有するGS
T融合タンパク質は、TFIIBよりもTBPとWT1を選択的に捕捉した(図
8)。さらに行ったアッセイから、hUBC−9が、TBPの高度に保存された
C末端ドメインを介してTBPと相互作用することが実証された。hTBPの幾
つかの突然変異体を構築した(図9A)。GST捕捉アッセイでは、GST/h
UBC−9は、野生型TBPならびに数種の突然変異体TBPを捕捉した;しか
し、TBPのC末端領域が欠失(アミノ酸残基196〜335)すると、捕捉効
率が有意に減少し、そのさらに大きい部分が欠失(アミノ酸残基163〜335
)すると、該アッセイで検出しうる相互作用は起こらなかった(図9B)。した
がって、hUBC−9は、TATA結合タンパク質の163〜335アミノ酸を
包含するC末端ドメインと相互作用する。後述するゲル移動度シフトアッセイに
より、
TBPとhUBC−9間の相互作用の特異性をさらに確認した。
hUBC−9酵素は活性な結合活性をもつ
hUBC−9は、活性なユビキチン結合酵素であり、それ自体、ユビキチネー
ティング酵素ファミリーのメンバーである。哺乳類ユビキチン結合酵素の正確な
アミノ酸配列中に幾つかのバリエーションが存在すると信じられているが、93
位置(図1B、ボックス)にある活性システイン残基は、これまでに発見された
すべてのユビキチン結合酵素に特徴的であり、ユビキチン結合活性にとって活性
部位システインの存在が重要であることが決定されている。このシステインがチ
オエステル形成に関与する能力をもつ酵素を提供すると考えられる。したがって
、酵母UBC−9と56%の配列同一性をもち、同じ活性システイン部位をもつ
、ヒトUBC−9は、タンパク質分解的プロテオサム経路の不可欠なパートを構
成する。
hUBC−9の保存されたシステイン残基がモノユビキチンチオエステル形成
に関係することを実証するために、タンパク質のユビキチネーションに必要な3
つのカップリングした酵素[E1E2E3]を含む、ウサギ網状赤血球系において
、ヒトUBC cDNAインビトロ転写/翻訳を使用した。生成物を1Mの中性
ヒドロキシルアミンで試験すると、ヒトUBCがヒドロキシルアミンによって加
水分解されるチオエステルを含むことを示唆する、遅く移動するタンパク質バン
ドが検出された。他の実験では、抗ユビキチン抗体が、ウエスタンブロットにお
いてヒドロキシルアミンに感受性をもつ遅く移動するバンドを認識した。さらに
行った実験では、我々は、yUBC−9の温度感受性突然変異体を用いて酵母内
で全長hUBC−9 cDNAを発現させた(実施例6)。図4Aおよび4Bに
示すように、成長が、制限温度以外では温度感受性(ts)yUBC−9酵母に完全
に復帰した。これらの実験の結果を、独立的および累計的に考慮することにより
、hUBC−9 cDNAが活性なユビキチン結合酵素をコードするという説が
確立される。
hUBC−9の結合活性は転写を調節する
本発明のヒトユビキチン結合タンパク質は、細胞周期およびDNA複製を調節
する機能をもつ酵素のファミリーのメンバーである。さらに、ユビキチン依存性
プロテアーゼ分解システムが、転写調節に直接関与していることが、いまや決定
されている。hUBC−9の結合活性は、WT1といったようなリプレッサータ
ンパク質の分解にかかわることによって遺伝子転写を調節すると考えられる。
WT1は、タンパク質分解経路を移行するのに必要な酵素を含むウサギ網状赤
血球溶解液中で発現する場合、ユビキチンプロテオサムタンパク質分解経路によ
って急速に分解した。コントロール実験では、WT1のcDNAを、タンパク質
のユビキチネーションおよび分解に必要なE1E2およびE3酵素、ユビキチンお
よび26Sプロテオサム複合体を含むウサギ網状赤血球溶解液に加えた。SDS
ゲル分析においてWT1と同様に移動する別のバンドが観察された。WT1とh
UBC−9の両方のcDNAをウサギ網状赤血球系に加える実験では、ひとつの
タンパク質バンドの強度が、コントロール実験で観察されるバンドと比べて非常
に減少した。さらに、比較的低分子量の免疫応答種が発見され、モノユビキチン
WT1に一致して移動する単一の比較的高いみかけの分子量の種が観察された。
これらの結果から、hUBC−9とWT1相互作用がさらに確認され、重要なこ
とには、WT1がhUBC−9依存的に分解されることが実証される。
26Sプロテオサム複合体と会合しているプロテアーゼ活性の特異的インヒビ
ターである、ラクトシステインによるタンパク質分解経路の阻害によって、結合
活性の効果も実証され、このような阻害によってWT1の半減期が増加する。W
T1を(a)293細胞単独で発現させる;(b)hUBC−9と同時発現させ
る;(c)タンパク質分解的分解系の公知のインヒビターであるラクトシステイ
ンの存在下に発現させる;または(d)mUBC−9(hUBC−9のC93変異
体)と同時発現させる、という一連の実験において、WT1の代謝回転を試験し
た。それぞれのケースにおいて、タンパク質合成インヒビターであるシクロヘキ
シルアミンで処理した。異なる時点で採取した細胞を溶解し、抗WT1抗体を用
い、ウエスタンブロットにて分析した。コントロール実験では(WT1単独)、
シクロヘキシルアミンの添加によりWT1の定常状態のレベルが劇的に減少し、
WT1の半減期が約1.5時間であることが測定された(図10A)。hUBC
−9を同時発現した場合は、WT1の半減期は減少した(図10B)。しかし、
ラクトシステインで共処理した細胞は、ファクター約5にWT1の定常状態のレ
ベルが上昇した。さらに、WT1を、活性部位システインがセリンで置換されて
いるためにユビキチン結合活性をもたない変異体hUBC−9と同時発現させた
場合に、多くのWT1において同様の増加が観察された(図10D)。WT1依
存性転写抑制は、プロテオサム分解系によって影響を受ける。レポータープラス
ミドで同時トランスフェクトされている293細胞内でWT1を発現させ、ラク
トシステイン(50μM)とともに培養した場合、2倍から3倍のリプレッサー
活性の増加が観察された。さらに、WT1の発現のレベルが増加するので、ラク
トシステインの増加効果は累進的に減少した。ラクトシステインはWT1の上限
レベルでは効果はなかった。結合活性を除去することによって、hUBC−9の
結合活性およびその抑制効果を独立的に実証する。後記同時トランスフェクショ
ン実験では、活性システイン部位でyUBC−9を変異体化することによってユ
ビキチン結合活性を除去することにより、活性部位システインを有するyUBC
−9よりも大きな抑制活性が得られることが示される(実施例9)。
これらの実験を独立的および累計的に考慮することにより、hUBC−9が、
WT1(あるいは他のサプレッサータンパク質)に特異的な結合活性を有するこ
とが実証される。hUBC−9の結合活性は、WT1といったようなリプレッサ
ーの分解、あるいはhUBC−9それ自体の分解を介して、転写に正の影響を及
ぼす。
UBC'は転写を抑圧するリプレッサー活性を有する
hUBC−9およびyUBC−9などのユビキチン接合酵素は転写抑制活性を
有する。hUBC−9の抑制活性は、WT1およびおそらく他のリプレッサー遺
伝子産物のリプレッサー活性を増強する。さらに、ヒトおよび酵母UBC'sそれ
自体による遺伝子転写の抑圧は、これらの酵素がGal4またはWT1などのDN
A結合ドメインを有するタンパク質とタンパク質−タンパク質相互作用を介して
融合または会合する(associate)場合には重要である。
hUBC−9酵素の抑制活性は著しくウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子(Wi
lm's tumor supressor gene)産物、WT1のリプレッサー活性を増強する。ヒ
トUBCのWT1転写制御活性を調節する能力は同時トランスフェクション(co
transfection)実験において分析した(実施例7)。図5Aに示すように、ヒト
UBCが15μgのみで、WT1の添加もなくまたDNA結合ドメインに融合さ
れることなく発現する場合、該ポーター遺伝子の発現は2倍よりわずかに多く減
少する(42%の相対活性)。WT1が単独で10μgで発現する場合、該リポ
ーター遺伝子の発現を10のうちの1要素程度で減少させた(8%の相対活性)
。しかしながら、ヒトUBCがWT1と共に発現させた場合、WT1のリプレッ
サー活性はさらに4倍の要因によって増加させられ、その結果総転写抑制は、約
50倍となる(2%の相対活性)。さらなる実験で、本質的に同一の結果を得た
(図5B)。ヒトUBCは、両者が共に高レベルで発現する場合には、イン・ビ
ボでWT1のリプレッサー活性を増強する。
さらに、hUBC−9は、適当なプロモーター要素によって認識された機能的
なDNA結合ドメインに結合する場合、潜在的な転写リプレッサーである。ヒト
UBCはGal4 DNA結合ドメインに結合し、同時トランスフェクション実験に
おいては5つの上流Gal14DNA結合配列(5×UAS欠如)を含むプロモー
ターで試験する(実施例8)。図6Bに示すように、ヒトUBCが結合できない
コントロールプロモーター(5×UAS)リポータープラスミドと試験される場
合、ヒトUBCの影響は最少となる(66%相対活性)。しかしながら、ヒトU
BCはGal4結合ドメインを介してGal4 DNA結合配列を含むプロモーター/
リポーター構築物に直接結合することができた場合に強力な転写リプレッサーと
なる。この場合、約8倍(12%相対活性)のヒトUBC抑制プロモーター活性
は、それが適当なプロモーター要素に結合する場合、ヒトUBCは単独で有効
なリプレッサーであることが確立される。上記の実験が反復される場合(実施例
9)、h−UBC−9/Gal4融合タンパク質は図7Bに示すように再度有意な
抑制活性(15%の相対活性)を示した。
これらの結果はヒトUBCが転写リプレッサー活性を有するという結諭を強く
支持する。hUBCのリプレッサー活性はhUBCがプロモーター領域の近辺に位
置している場合、WT1などの他のタンパク質とタンパク質−タンパク質結合す
ることによってか、またはGal4などのDNA結合ドメインとの融合によって(
両者は共にヒトUBCを遺伝子特異的プロモーター部位に結合させる)、特に重
要である。
yUBC−9などの他のユビキチン接合酵素もまたDNA結合ドメインに融合
する場合、転写リプレッサーとして有効に機能する。酵母UBC−9はGal4D
NA結合ドメインに結合し、ついで5つの上流のGal4DNA結合配列を有する
リポーターベクターとともに同時発現した(実施例9)。図7Cに示すように、
単独で20μgによって同時発現した場合、yUBC−9/Gal14融合タンパ
ク質は約3倍(0.35相対活性)で転写を抑制した。
UBC'sの転写抑制活性はその接合活性から独立している
上記のように、UBC'sはユビキチン接合活性に加えて、転写抑制活性を有す
る。ユビキチン接合活性を欠如しているyUBC−9C93S変異であるyUBC−
9−mはDNA結合ドメインに融合させられた場合、転写リプレッサーとして有
効に機能することを示したデータによって証明されているように、抑制活性は接
合活性から独立している。簡単には、第93位の活性部位システインを欠如して
いるyUBC−9の変異形態はGal4DNA結合ドメインに結合し、5つの上流の
Gal4DNA結合配列を有するリポーターべクターと同時発現している(実施例
9)。図7Cに示すように、20μg単独で同時発現した場合、yUBC−9−m
/Ga4融合タンパク質は約5倍(20%相対活性)で転写を抑制した。
さらに、UBCの抑制活性の独立性はyUBC−9よりyUBC−9−m変異体
の転写抑制が高程度であることを示すデータによって支持されている。図7Cを
参照すると、yUBC−9の単独発現は35%の相対活性を示すのに、yUBC
−9−m単独発現は20%の相対活性を示す・・・抑制活性における増加は15%で
ある。矛盾せず一致して、正常yUBC−9および変異体yUBC−9−mの両者
が同量(10μg)にてリポーターベクターと共に同時発現する場合、転写抑制の
程度は正常または変異体株単独の値の間の中間値(28%相対活性)であった。
理論的には結合されないが、活性部位システインを欠如しているyUBC−9
−mはリプレッサーとして活性であり、さらに活性部位システインを有する正常y
UBC−9より一層活性があるので、ユビキチン接合酵素は転写抑制活性に必要
ではないようである。それにもかかわらず、上記で諭じたように、UBC−9の
接合活性はリプレッサー活性のレベルに影響を及ぼし、制御するようである。h
UBC−9の接合活性はWT1のタンパク質加水分解およびそれにより、少なく
とも部分的にはWT1のリプレッサー効果を除去する。
hUBC−9はTATA結合タンパク質(TBP)との相互作用によるリプレッ
サーとして機能する。
記載のように、hUBC−9はGST捕捉アッセイ(GST capture assay)
においてTATA結合タンパク質のC−末端として相互作用する。ゲル移動度シ
フトアッセイはこの相互作用を確認し、さらに、hUBC−9はTBPのDNA
への結合を解くことによりまたは転写開始複合体の形成を解くことによって転写
を抑圧するようであることをさらに示した。このモデルは、hUBC−9が相互
作用するように示されるTBPのC末端がDNAの主要なくぼみ(groove)と接
触する「面(face)」を含むという理解に一致する。行われるアッセイにおいて
、TATAボックスを含むエンドラベリングしたDNAプローブをTBP、TF
IIBおよびhUBC−9の多様な組合せにより複合体を形成する機会を提供す
る。TBP不在のコントロール実験において、検出可能な複合体はhUBC−9
とDNAプローブ間、TFIIBとプローブ間またはhUBC−9、TFIIBお
よび該プローブ間には形成されなかった(それぞれ図11A、カラムA1、A2
およびA3)。さらなるコントロール実験において、精製したTBPとTATA
ボックスを含むDNAプローブの組合せは、単一の容易に検出可能な複合体とな
る(図11A、カラムC1)。TFIIBのTATA配列への結合を増強すると
報告された能力に基づき期待されたように、TFIIBの付加はバンドの強度を
増強した(図11A、カラムC1)。しかしながら、上記のアッセイが該系にお
いて精製したhUBC−9(10ng、50ng)を用いて反復される場合、h
UBC−9はTBPとDNA間の複合体の形成能力のレベルを低減させ(図11
A、カラムB2およびB3)、ついで続く実験においてはTFIIBの存在下で
TBP
とDNA間の該レベルを低減させた(図11A、カラムC2およびC3)。従っ
て、hUBC−9はTBP/DNA結合を脱安定化させる。TBPのDNA結合
能力へのhUBC−9の効果は濃度依存的である(図11B)。
hUBC−9はTBP DNA結合ドメインの該領域において相互作用すると
いうことをさらに確認するため、外在性TBPの高レベルがhUBC−9のリプ
レッサー活性を克服することを示した同時トランスフェクションアッセイを行っ
た。GAL4/hUBC−9融合タンパク質(pSGhUBC−9)(0または
10μg)、TBP(0、0.5または2.5μg)および/またはTFIIB(
5μg)が多様な組合せにおいて293細胞中で同時発現する一時的なアッセイ
において5×UAS pSV CATリポーターベクターを使用した。hUBC−
9のリプレッサー活性はTBPの存在下(TFIIBの不在下)で濃度依存的な
方法において有意に減少した(図12A、カラムA、B、CおよびD)。該アッ
セイにおけるTFIIBの存在はhUBC−9の抑制に全く影響を及ぼさなかっ
た(図12A、カラムEおよびF)。さらなる実験は、hUBC−9のリプレッ
サー活性における観察された減少が実際、TBPの発現のための転写の本質的な
活性化に関係しないことを確実にするために行った。変異体TBPは、GST捕
捉アッセイでhUBC−9と相互作用するTBPドメインを含むアミノ酸配列を
含まないもので構築されるが、アミノ酸残基1−138は含まなかった。変異体
TPB(0、0.5または2.5μg)は、本明細書ではTBPΔ1−138と称
され、ついでhUBC−9/Gal4融合タンパク質(0、10μg)は、直前に
記したのと同様の一時的な同時トランスフェクションアッセイにおける多様な組
合せにおいて同時発現する。TBPΔ1−138は実質的にプロモーターを活性
化する能力を持たないが、hUBC−9のリプレッサー活性を野生型TBPより
も少ない程度ではあるが、有効に除去する(図12B)。従って、hUBC−9
は転写を抑制するTBPと相互作用することを示している。さらに、TBPの付
加は有効にhUBC−9を滴定し、そのリプレッサー活性を和らげ、ついで事実
上転写を増強する。
類似の同時トランスフェクションアッセイにおいて、変異体TBP、TBPΔ
1−138は有効にWT1のリプレッサー活性を除去する(図13)。累積的に
、これらの結果はWT1が、TFIID転写因子のTBPサブユニットと相互作
用する直接のhUBC−9のためのタンパク質−タンパク質相互作用をの通して
hUBC−9を位置づけることによってhUBC−9との組合せにおいての抑制
に影響し、それによってTBP/TATA配列相互作用を脱安定化され、さらに
一般的には転写開始複合体の形成を崩壊することになる。
hUBC−9の産生
哺乳動物または酵母または他のUBC酵素またはその活性のある一部をコード
するヌクレオチド配列は公知の手段を用いて発現ベクターにクロ−ニングされる
。簡単には、ベクター中の特異的なヌクレオチド配列をNcoIおよびHindIIIなど
の部位特異的制限酵素によって切断する。ついで、該ベクターを時にアルカリホ
スファターゼ処理した後、該ベクターおよび関心のあるヌクレオチド配列を含む
標的断片を所望のコントロール配列および発現配列の近辺の標的コドンの挿入の
結果とともにライゲーションする。特に使用したベクターは遺伝子発現における
使用のために選択された宿主細胞の型に一部は依存している。典型的には、宿主
変換可能なプラスミドはアンピシリンまたはテトラサイクリン耐性などのマーカ
ーの遺伝子を含み、また適当なプロモーターおよびターミネーター配列を含む。
本発明の組換えDNA発現配列がライゲーションされる好ましいプラスミドはプ
ラスミドpETである。ヒトUBC−9を産生するpETプラスミドはジーン・
バンク(Gene Bank)、受託番号第μ66818号およびμ66867号に寄託
されている。
本発明のUBC酵素のDNA発現配列を含むプラスミドは、宿主細胞において
ー発現した本発明の酵素の配列の存在を示唆している。細菌、例えば、大腸菌お
よび酵母、および例えばベイカー酵母は、一層複雑な細胞を用いる技術が公知で
あるが、哺乳類UBC酵素の発現のための宿主細胞として非常に頻繁に使用され
た。例えば、デピッカー(Depicker,A.)ら、1982に記載された植物細胞
を用いる方法を参照。大腸菌宿主株X7029は野生型Fであり、lacオペロン
をカバーするX74欠失を有するが、該株は本発明の好ましい態様において利用
され
ている。宿主細胞は、特定の宿主細胞に特異的に設定されたプロトコールを用い
て形質転換される。大腸菌に関しては、カルシウム処理が形質転換を生み出す(
コーエン(Cohen,S.N.、1972)。別法および一層有効である無塩大腸菌
のエレクトロポレーションがドゥーワー(Dower)ら、1988により行われた
。形質転換後、形質転換された宿主が、アンピシリン耐性などの発現ベクターか
ら得られた特徴に基づく他の細菌から選択され、ついで細菌の形質転換されたコ
ロニーはさらにイソプロピルチオガラクトシド(IPTG)−誘発耐熱性大腸菌
ポリメラーゼ活性の高レベルを産む能力をスクリーニングする。形質転換された
大腸菌コロニーは大量に増殖し、ついで哺乳類UBC酵素の発現は単離および精
製のた誘発される。実施例4はGST−融合タンパク質として細菌中のヒトUB
Cの発現を詳細に示す。実施例6は酵母における温度感作酵母UBC株の発現を
詳細に示す。
多様な精製技術が知られているが、すべては大腸菌細胞の崩壊工程、本来のタ
ンパク質の不活性化および除去および核酸の沈殿にかかわる。該酵素は重量(遠
心)、大きさ(投石、ゲル濾過クロマトグラフィー)、または帯電(イオン交換
クロマトグラフィー)の利点を用いることにより分離される。一般的にこれらの
技術の組合せは精製工程において共に使用される。哺乳類UBC酵素を精製する
ための好ましい工程において、大腸菌細胞をリソチームを用いて弱化し、ついで
細胞を溶解し、ついでほとんどそのままのタンパク質を、その細胞懸濁液を80
℃まで急速に加熱することによって変性させ、ついで80−81℃で20分間イ
ンキュベートする。ついでその懸濁液を冷却し、遠心して変性タンパク質を沈殿
させる。その上清(哺乳動物UBC酵素を含む)を高塩ポリエチレン−イミン処
理をして核酸を沈殿させる。抽出物の遠心により核酸を除去し、ついで哺乳動物
UBC酵素をクロマトグラフィー前に、好ましくはヘパリンアガロースカラム上
で硫安沈殿を用いて結合させる。好ましくは、精製した酵素は調製タンパク質の
少なくとも60%(w/w)である。さらに好ましくは、該タンパク質は均一調
製物として提供される。
組成物
本明細書に開示されるユビキチン接合酵素は、転写抑制活性(例えばhUBC
−9、yUBC−9およびy−UBC9−m)を有し、該酵素ならびに他のユビ
キチン接合酵素またはそのセグメントを有用な組成物を形成する許容し得る担体
、希釈剤または運搬剤と組み合わせる。その組成物は製薬学的に(すなわちヒト
)および製薬学的に指示書をかわす。いずれの場合も、該組成物中において使用
されたタンパク質は転写リプレッサー活性を有する。該タンパク質のアミノ酸配
列は転写抑制活性を有するUBC−9などのユビキチン接合タンパク質の少なく
とも12アミノ酸部位を含む。該タンパク質のアミノ酸配列は好ましくはhUB
C−9またはyUBC−9の少なくともセグメントを含む。hUBC−9のcy
s93変異体など、それによりユビキチン接合酵素活性を欠如している変異体また
はそのセグメントはまた、該タンパク質として使用することもできる。セリン残
基がシステイン残基を置換する変異体が好ましい。該組成物からユビキチン接合
活性を除去するための別法において、該組成物はさらにユビキチン接合酵素の活
性部位システインを抑制するのに適切な生化学的インヒビターを含む。模範的に
適切なインヒビターはn−エチル−マレイミドである。該組成物中のタンパク質
は転写リプレッサー活性のみを有するかまたはユビキチン接合活性同様の活性な
どを有する。使用において、該組成物はさらに1またはそれ以上の他のタンパク
質を含み、例えば、WT1などの転写抑制活性を有する第2タンパク質を含む。
該組成物はまた、ユビキチン接合酵素またはそのセグメントが相互作用するDN
A結合ドメインを有する他のタンパク質をも含む。さらに、該組成物中のタンパ
ク質はDNA結合ドメインおよび転写リプレッサードメインを含むアミノ酸配列
を有する融合タンパク質であり得る。該融合タンパク質のリプレッサードメイン
は好ましくは転写リプレッサー活性を有するユビキチン接合酵素の少なくとも1
2アミノ酸セグメントを含む。該DNA結合ドメインは好ましくは特に、プロモ
ーター領域である、TATA結合部位でTATA結合タンパク質と相互作用する
ことがユビキチン接合酵素にとって可能であるプロモーター領域に十分近接する
遺伝子領域に結合するかまたは該領域と相互作用するかまたはさもなければ連合
するドメインである。そのようなドメインにはGal4ドメイン、LexAドメインお
よび多くのジンクフィンガードメインのアミノ酸配列を含む。
医薬組成物にとって該タンパク質製薬学的に許容し得る担体、希釈剤または遺
伝子療法運搬剤(gene therapy delivery agent)および該タンパク質の製薬学
的に活性のある量が該組成物中に使用される。好ましくは該量は、標的遺伝子の
遺伝子転写の調整または制御または抑圧を行うのに有効である量である。一層少
量または多量が本願において適切である場合、該製薬学的に活性のある該タンパ
ク質の量は好ましくは、該細胞に内在性である該タンパク質の量に比較してやう
1%から1000%にまでわたる因子に制御される標的遺伝子の該細胞中の該タ
ンパク質の濃度を増加させるのに十分な量である。濃度の増加はより好ましくは
約10%から約100%までにわたる。該医薬組成物中の該タンパク質は転写リ
プレッサー活性を有するユビキチン接合酵素濃度セグメントであり、該量はその
天然に存在する全配列状態中のユビキチン接合酵素の内在量に比較してとられる
。特別な製薬適応のために投与される特定の用量は好ましくは上記量と一致する
のだが、年齢、健康状態、受領者の体重、もしあれば現在の治療の型、治療の頻
度、望ましい効果の性質および限局した組織または系広範な効果が追求されてい
るか否かによる。ウィルムス腫瘍の治療に関しては、腫瘍抑制量が投与される。
同様に、任意の悪性新生物の増殖を制御または調整または抑圧することに関して
は、上記に概説した因子によって決定されるような制御、調整または抑圧を達成
するのに有効な量が投与されるべきである。非製薬学的応用において使用される
タンパク質の量は医薬組成物に関しては類似の範囲にあるが、またこの範囲外に
もある量を含む。
転写リプレッサー活性を有するUBC−9などのユビキチン接合酵素をコード
するかまたはそのセグメントをコードする核酸ポリマーは遺伝子療法運搬剤と組
み合わせて核酸組成物において使用されることができる。本明細書で使用するよ
うに、遺伝子療法なる語はヒトおよび非ヒト遺伝子の療法に影響を及ぼす作用お
よび/または操作に関し、そのような作用は、本来イン・ビボまたはエクス・ビ
ボである。より詳しくは、該組成物は好ましくは転写リプレッサー活性を有する
タンパク質をコードする核酸ポリマーを含む。該転写リプレッサータンパク質は
転写リプレッサー活性を有するユビキチン接合酵素のアミノ酸配列の少なくとも
一部を含ミ、長さ少なくとも約12アミノ酸残基である含有部分であるアミノ酸
配列を有する。別法として、該核酸ポリマーは直前に記載した核酸ポリマーの核
酸配列に相補的なヌクレオチド配列を有することができる。ユビキチン接合酵素
はhUBC−9などのUBC−9またはその断片、またはユビキチン接合活性を
欠如している変異体であり得る。該組成物はさらに該ユビキチン接合酵素のユビ
キチン接合酵素活性の生化学的インヒビターと共に使用してよい。該核酸ポリマ
ーはまた上記タンパク質組成物と共に記載した上記融合タンパク質などの融合タ
ンパク質をもコードする。
製薬学的使用に関して、該核酸組成物は医薬的組成物に有効な量の核酸および
製薬学的に許容し得る遺伝子療法運搬手段を含む。必要とされる核酸の量は細胞
の型に依存して多様であり、追求される効果は標的細胞に核酸ポリマーを導入す
るのに使用されるデリバリーシステムにおいて依存する。概して、核酸ポリマー
の量は標的細胞内での発現に関して標的遺伝子の転写を制御または調整または抑
制するのに十分なタンパク質の量となる。好ましくは、その量は、制御される遺
伝子の細胞に内在するタンパク質の量に比較して約1%から1000%にわたる
因子によって制御される標的遺伝子の細胞内のタンパク質の濃度を増加させるの
に十分である。より好ましくは、濃度増加は約10%から約100%にわたる。
該試薬の核酸ポリマーが転写リプレッサー活性を有するユビキチン接合酵素のセ
グメントであるタンパク質をコードする場合、該量は本来の全配列状態における
ユビキチン接合酵素の内在量に比較してとられる。
遺伝子療法デリバリー試薬は、標的細胞に核酸ポリマーを導入するかまたは標
的細胞による核酸ポリマーの取込みを増強するのに使用される。核酸ポリマーを
細胞に導入するおよびその発現に影響するいくつかの方法は公知であり、当業者
によって行われる(ミュリガン(Mulligan,R.)、The Basic Science of Gene Thrapy
、SCIENCE、Vol.260、926−32(1993))。1方法
において、該組成物の核酸ポリマーを、イン・ビボでヒト細胞に導入する運搬剤
と結合、複合、組合せまたは融合することができる。例えば、該核酸はリ
ポソームの形態であり得る脂質親和性陽イオン化合物(lipophilic cation comp
ound)と結合できる。遺伝子または他の製薬学的に活性な成分を細胞に導入する
リポソームの使用は、例えば、米国特許第4,397,355号および4,394,
448号において教示される。代わりに、該核酸はコレステロール、コール酸塩
、デオキシコール酸を含む複数のステロールのうちの任意の1つなどの脂質親和
性担体と組み合わせてよい。好ましいステロールはコレステロールである。さら
に、核酸は細胞によって摂取されるペプチドに接合することができる。有用なペ
プチドの例にはペプチドホルモンまたは抗体を含む。ウィルムスの腫瘍または他
の悪性新生物によって選択的に取り込まれるペプチドの選択によって、核酸の特
異的な運搬が影響を及ぼされる。核酸は該ペプチドに当該技術分野においてよく
知られている方法によって共有結合する。ついで選択されたペプチドはアミノ酸
およびスルフヒドリル反応性ヘテロ二価性試薬を介して活性化した酵素に結合し
てよい。後者は該ペプチド中に存在するシステイン残基に結合する。該ペプチド
に結合した核酸に対して標的分子をさらすと、該核酸はエンドサイトーシスされ
、遺伝子転写の調整に利用される。本発明の核酸ポリマーもまた、米国特許第5
,428,132号において、ヒルシュ(Hirsch)らにおいて記載されているよう
に、DNA−抗体接合を用いて特異的な組織に運搬されることができる。DNA
およびRNAなどのセンスまたはアンチセンス核酸ポリマーをヒト細胞に導入す
るために使用した他の遺伝子療法運搬剤は米国特許第5,460,831号、ジェ
ルマン(Gelman)らおよび米国特許第5,433,946号、アレン(Allen)ら
に開示されている。
別法において、該遺伝子療法運搬剤は核酸ポリマーを含むcDNAおよび宿主
細胞中に発現されることができるcDNAを有する構築物である。そのような構
築物は細胞に感染またはトランスフェクションされ、該細胞中で転写リプレッサ
ー活性を有するユビキチン接合酵素を発現する。例えば、該組成物は該薬剤の核
酸ポリマーを含むウイルスゲノムかまたは該剤の核酸ポリマーに複合体を形成す
るウイルスゲノムを有するウイルスであり得る。そのような方法は例えば、米国
特許第5,252,479号、スリバスタバ(Srivastava)、米国特許第5,52
1,291号および第5,547,932号、バーンスチール(Birnstiel)ら、米
国特許第5,512,421号、バーンズ(Burns)ら、米国特許第5,240,8
46号、コリンズ(Collins)ら、米国特許第5,112,767号、ロイーバー
マン(Roy−Burman)らおよび米国特許第5,543,328号、マクレランド(M
cClelland)ら中に教示される。
さらに別の方法において、該遺伝子療法運搬剤はヒト細胞である。該組成物の
核酸ポリマーはイン・ビトドでヒト細胞に挿入され、核酸ポリマーを含む細胞は
ついで体内に導入される。ついでコードされたユビキチン接合酵素はイン・ビボ
で該細胞によって発現される。そのような方法は、例えば米国特許第5,399,
346号、アンダーソン(Anderson)ら中に教示される。
核酸ポリマーを含む組成物および本発明のタンパク質を含む医薬組成物は意図
した目的を達成する任意の方法によって投与されることができる。例えば投与は
非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内または経皮経路によって投与されること
ができる。非経口投与のための製剤は、水溶性形態において、例えば水溶性塩に
おいて組成物または医薬組成物の水溶液を含むことができる。さらに、油性注入
懸濁液において活性化合物の懸濁液を投与する。適当な脂質親和性溶剤またはビ
ヒクルは脂肪油、例えばゴマ油または合成脂肪酸エステル、例えばカルボキシメ
チルセルロースナトリウム、ソルビトールおよび/またはデキストランを含む。
時に、懸濁液はまた、安定化剤を含むことができる。本発明の組成物中で使用し
た遺伝子療法運搬剤および各成分の有効量の最適な範囲の決定は当業者の能力の
範囲内である。
本発明の医薬組成物は、多様な製薬学的および非製薬学的応用において使用す
ることができる。概して、細胞中の遺伝子転写は標的遺伝子がさらされるかまた
は標的遺伝子が接触するようになるUBC−9の濃度および/またはTBPの濃
度を制御することによって制御するか、増強するかまたは抑制することができる
。特に、転写の抑制はWT1、TBPまたは他のプロモーター領域または転写開
始領域に関連したUBC−9とタンパク質の間のタンパク質−タンパク質相互作
用によってかUBC−9リプレッサードメインと遺伝子特異的DNA結合ドメイ
ン
の融合によって多様な遺伝子のプロモーター領域の近辺にUBC酵素を位置づけ
ることによって遺伝子特異的な方法によって行うことができる。
多様な細胞は本発明において使用することができる。TATAボックスを含む
プロモーター領域を有する遺伝子を含む天然に存在する真核生物細胞のような真
核生物は特に好ましい。hUBC−9または少なくとも長さ約12アミノ酸残基
である転写リプレッサー活性を有する他のUBCまたは他のユビキチン接合酵素
またその断片はそのような遺伝子中で転写開始においてTATA結合タンパク質
の役割を崩壊させることができる。例えば、該細胞は真菌細胞(例えば、酵母細
胞)、植物細胞、非ヒト動物細胞、非ヒト哺乳動物細胞およびヒト細胞であるこ
とができる。大腸菌などの非真核生物生物細胞はまた、細胞が転写開始のための
TBPに関するプロモーター領域を含む遺伝的に操作可能な核酸ポリマー構築物
を含むところで使用することができる。
WT1などのリプレッサー遺伝子産物の機能は、IGF−II、PDGF A−
鎖、CSF−1およびIGF−Rまたは後に発見されたその他のものなどのWT
1が作動することが知られている遺伝子プロモーターの転写制御を可能にするよ
うな方法によって厳密に増強され得る。転写の制御はまた、例えばそのような活
性を欠如した93cys変異体酵素により、または活性部位システインを抑制する
または特定の方法においてのタンパク質加水分解経路をさもなくば邪魔する薬剤
によりUBC−9の接合活性の限局した抑制によって制御されることができる。
転写制御は特に医学的治療、診断および研究の応用において特に有用である。例
えば、UBC−9はそれ自体で新生物組織の増殖のための治療組成物において、
WT1などの公知の腫瘍サプレッサータンパク質と組み合わせて使用することが
できる。それは特にウィルムス腫瘍を治療すること、例えば白血病および中皮腫
を含むWT1サプレッサー遺伝子が関係する他のタイプの腫瘍を治療するのに適
している。それはまた、あるタンパク質の過剰に因果的に結合している任意の数
のヒト疾患を制御することにも有用である。過剰にタンパク質が発現している遺
伝子はUBC−9または他の過剰なタンパク質発現の量を減少させるリプレッサ
ー活性を有する他のユビキチン接合酵素にさらされることができる。ある状況に
おいて、UBC−9または他のユビキチン接合酵素のリプレッサー活性は、特定
の関心のあるタンパク質の発現における増加に影響を及ぼすよう応用することが
できる。関心のあるタンパク質における増加は「再結合(rebound)メカニズム
を通して影響され得、そこでの増加は該系に存在する第2のタンパク質の量にお
いて減少が引き続く天然の生化学的メカニズムの結果である。第2タンパク質の
量の減少は、そのタンパク質をコードする遺伝子に指令する本発明の方法により
達成される。本発明の他の有意義な応用はヒトウイルス感染の治療を含む。本願
はヒトウイルスのウイルスゲノムを特に、ゲノムのプロモーター領域、転写リプ
レッサー活性を有するユビキチン接合酵素にさらすことを含む。ウイルスゲノム
の転写を抑圧することにより、該ウイルスは殺害されるかまたは少なくとも制御
されることができる。本発明はまた、酵母感染を静めるかまたは少なくとも制御
することを助けるために使用されることができる。
さらに、転写制御は多様な非ヒト、非製薬学的応用において有用である。例え
ば、本発明は動物の治療または特に上記に記載されただけの動物の疾患の治療に
関して使用されることができる。本発明はまた、過剰発現による植物の疾患を治
療するために有用であり、および同様の他の植物の応用を有することができる。
非治療的応用の他の組合せにおいて、hUBC−9は動物に基づいたモデルま
たイン・ビトロアッセイを開発するのに使用してよい。例えば、選択的なタンパ
ク質欠損を有する動物は、本発明の医薬組成物または生化学的薬剤を動物に投与
することによって関心のあるタンパク質をコードする標的遺伝子の転写がUBC
−9またはリプレッサー活性を有する他のユビキチン接合酵素のリプレッサー活
性によって抑制される。別の応用には、関心のある新生物の細胞または他の細胞
の培養へのhUBC−9の効果が他の潜在的な抗癌剤の効果を評価する標準とし
て使用されるイン・ビトロ競合アッセイを含むことができる。
酵素変換工程は、化学物質が細胞内で発現する酵素を用いて市販用に製造され
る工程であり、本発明を利用できる。模範的な生物変換工程には醸造およびパン
製造と関連し、多様なカルボン酸の市販用製造にも関する酵母触媒工程を含み、
不可欠アミノ酸またはその類似体、アミドまたはニトリル由来のものを含む。本
発明はまた、環境浄化にも影響を及ぼすように行われる生物学的治療法測定(bi
oremediation)に組み込まれる生物変換工程において使用することもできる。そ
のような酵素変換工程において使用される細胞は、真核細胞または遺伝的に操作
される大腸菌細胞などの非真核生物細胞であることができる。本発明のいくつか
の局面の他の使用および応用は当業者に明らかである。
以下の実施例は本発明の原理および利点を説明する。
実施例
以下の実施例の根拠となる実験を実施するのに用いたすべての分子生物学的操
作は、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold S
prings Harbor Laboratory Press,Cold Springs Harber,NY(1989)に記載の当
該分野で知られた方法を用いて行われた。実施例1
:hUBC−9の単離
WT1の個別のスプライス変異体のそれぞれのN末端領域内のリプレッサード
メイン(残基85−179)は、あらかじめマッピングされ、Gal4結合ドメ
インと融合するとき、有力なリプレッサーとして独立して機能するものとして確
認された(Wang,Z-Yら、1993)。このリプレッサードメインは機能的DNA結合ド
メインなしに独立して発現したとき、WT1のリプレッサー機能をブロックする
ことも示され、このことは、DNA結合活性を欠くリプレッサードメインが、W
T1が転写リプレッサーとして機能するのに必要な相互作用核因子に対してWT
1と競合することを示唆している(Wang,Z-Y.ら、1995)。
現在hUBC−9であることが確認されている該相互作用因子は、酵母2ハイ
ブリッドスクリーンを用いて単離された。ベクター、LexADB−WT−Nは
、ヒトWT1の残基85−179をLex DNA結合ドメインと連結すること
により構築された。pLexADB/WT−Nを構築するために、WT1の負の
制御を行うドメイン(残基85−179)をコードするcDNAフラグメントを
、プラスミドpSGWT−NをXbaIで消化し、クレノーフラグメントで平滑
末端とし、EcoRIで消化することにより得、次いで、EcoRIおよびSm
aI処理ベクターpSTtop116中にクローンし、これをポリリンカー領域
内
の3つの読み取り枠にそれぞれ終止コドンを導入することによりプラスミドpB
TM116から改変した。
該ベクターは、「ベート(bait)」としてWT1の負の調節ドメイン(WTN)
およびLexA DNA結合(DB)ドメインを持つ融合タンパク質を発現した
。酵母L40株をライブラリースクリーニングに用いた。L40をpLexAD
B/WT−N、次いで製造業者の推奨するところに従ってヒト胎盤cDNAライ
ブラリー(Clontech,CA)と融合させたGal4活性化ドメインを用いて形質転換
した。酵母形質転換体200万個をスクリーニングした。Hisプレート上の陽
性コロニーについて、さらにフィルターアッセイを用い、β−ガラクトシダーゼ
活性を試験した。陽性コロニーはLexADB/lamin Cハイブリッド、
LexADB/WT−INS(WT1の残基250−266を含む)、LexA
DB/WT−NおよびLexADBベクターのみを用いて特異性を試験した。p
lexADB/WT−Nのみと反応するプラスミドを酵母から回収し、これを用
いてエレクトロポーレーションによりHB101を形質転換し、leu-、am
p+最少培地上で選択を行った。初期スクリーニングにおいて陽性クローン65
個を確認した。
回収した陽性クローン65個を酵母に再導入し、β−gal活性の定量および
特異性の再チェックを行った。ベクター単独、およびGal4活性化ドメインと
融合したhUBC−9と融合したベクターと連結したDNA結合ドメイン融合パ
ートナーに対するβ−ガラクトシダーゼ活性単位を表2に示した。表2
:2ハイブリッド経におけるhUBC−9の結合特異性
*−ガラクトシダーゼ活性
DNA−結合ドメイン融合パートナー ベクター hUBC−9
ベクター単独: N.D. 0.2±0.1
+WT 85−179: 0.3±0.2 57.9±16.2
+WT 250−266: 0.2±0.2 0.3±0.2
+Lamin C: 0.3±0.1 1.5±0.5
WT1に依然として特異的な陽性クローン11個は、製造業者の指示書に従っ
て(U.S.Biochemical)ジデオキシNTPsおよびセクエナーゼ(sequenase)2
.0を用いて配列決定した。配列分析および相同性検査はGCGプログラム(GC
G,Madison,WI)を用いて行った。各挿入物はGal4活性化ドメインとして同じ
読み取り枠内にあった。これらプラスミドのうち7個は本発明者らがヒトUBC
と名付けた同じタンパク質をコードしていた。最長のcDNAクローンの挿入に
より、ノーザンブロット分析において約2.8および1.3kbの転写物が検出
された。
完全長cDNAを探すため、2ハイブリッドスクリーンを用いて得たプローブ
を用いてヒト胎盤cDNAライブラリーを再スクリーニングし、第三スクリーニ
ング後に独立したクローン8個を単離した。5クローンは1.1kbのDNAフ
ラグメントを含み、1クローンは1.8kbのDNAフラグメントを含み、また
2クローンは小DNAフラグメントを含んでいたがさらに分析を行わなかった。
1.8kb cDNAおよび1.1kb cDNAが完全に配列決定された。2つ
のクローンはコード領域と3’末端に同じ配列を持っていたが、別のスプライシ
ングでは、より長いcDNAアイソフォームの翻訳開始部位の上流に長い5’非
翻訳領域(5’UTR)が導入されるようである。長い5’UTR内の3つすべ
ての読み取り枠内に複数の開始および終止コドンが確認され、より長い転写物の
タンパク質産物は厳密な翻訳調節下にあるかも知れないことを示している。両m
RNAのin vitroにおける転写/翻訳により同じサイズのタンパク質が生じたが
、より長いcDNAクローンは、より短いmRNAから発現したものに比べて2
0%以下のタンパク質産物しか発現せず(データ示さず)、長い5’UTRは翻
訳効率を明確に低下させることが確認された。長い型の5’UTRは3つの読み
取り枠すべてに複数の介在する開始および終止コドンを含むため(図1A)、こ
れらコドンの存在は、おそらく、より長いmRNAアイソフォームの翻訳速度を
負に調節するようである。
コントロール実験において、LexADB−WT−Nは、分析のみでは酵母中
のLexA結合部位を含むレポーター遺伝子の転写を活性化することができなか
っ
た。実施例2
:ヒト組織のノーザンブロット分析
ヒト組織ノーザンブロット(Clontech,CA)は、製造業者の推奨するところに従
って1.1kb hUBC−9 cDNAを用いて精査された。図2Aは、種々の
ヒト組織におけるhUBC−9のノーザンブロットを示す。各レーンは心臓(H
)、脳(B)、胎盤(P1)、肺(Li)、平滑筋(SM)、腎臓(K)、膵臓
(Pa)由来のポリA+RNA 2μgを含んでいた。コントロールとして、β−
アクチンcDNAを用いて同じブロットを精査した。実施例3
:hUBC−9遺伝子に対するヒトゲノムDNAの分析
ヒトゲノムDNA(Promega,Madison WI)10μgをHind III(H)、Ec
oRI(E)、BglII(Bg)またはBamHI(B)で消化した。消化した
DNAを1%アガロースゲル電気泳動により分離し、完全長1.1kb hUB
C−9 cDNAをプローブに用いてサザンブロットを行った。図2Bは、hU
BC−9遺伝子のサザンブロット分析を示す。実施例4
:E.coliにおけるGST−hUBC−9融合タンパク質の発現
簡単に述べると、GST−hUBC−9融合タンパク質として細菌中で発現さ
せることにより、hUBC−9をグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST
)と融合させた。GST−hUBC−9およびGSTを、独立して還元グルタチ
オンセファロースマトリックスと連結し、徹底的に洗浄した。次に、WT1およ
び種々のWT1ドメインを発現するベクターでトランスフェクトされた293細
胞由来の抽出物をカラムに通し、インキュベーションおよび洗浄した後、溶出液
を得た。溶出液をSDS−PAGEによって分離し、イムノブロッティング用の
ニトロセルロースフィルターに移し、抗WT1(1:500)およびパーオキシ
ダーゼ結合抗IgGを用いるウエスタンブロットにより分析を行った。カラーフ
ルオログラフィーによりブロットを可視化した。
GST−hUBC−9を構築するため、pBS−hUBC−9をEcoRIで
消化し、1.1−kbの挿入物を、GST含有pGEX−KGベクターのEco
RI部位にインフレーム(in frame)にサブクローンした。E.coli DH
5α株をGST−hUBC−9で形質転換し、GST−hUBC−9を抽出し、
グルタチオン−セファロースビーズで精製した。GSTおよびGST−hUBC
−9融合タンパク質をグルタチオン−セファロースビーズと独立して結合させ、
徹底的に洗浄した。
WT1およびその種々のドメインを既述(Wangら、1993)のごとく、293細
胞中で発現させた。WT1の完全長、ならびにWT1△1−84、WT1△1−
294およびWT1△297−429ドメインをコードするCMVプロモーター
誘導発現ベクターでトランスフェクトした293(ヒト胚腎細胞)細胞2x106
個から抽出物を得た。
抽出物を、溶解緩衝液(50mMトリス(pH7.4)、150mM NaC
l、5mM EDTA、0.1%NP−40、50mM NaF、1mM PMS
F、ロイペプチン(leupeptin)1μg/mL、アンチペイン(antipain)1μ
g/mL)中の、GSTおよびGST−hUBC−9 2〜3μgを含むセファ
ロースビーズと室温にて2−3時間インキュベーションすることによりin vitro
結合アッセイを行った。コンプレックスを溶解緩衝液および0.5M NaCl
含有溶解緩衝液で徹底的に洗浄し、SDS PAGE泳動用緩衝液(1%SDS
、10%β−メルカプトエタノール)中でボイルし、5%SDS−ポリアクリル
アミドゲルで泳動した。ゲルをニトロセルロース膜(SOSNC)に移し、それ
ぞれWT1のN末端およびC末端ドメインを認識するポリクローナル抗WT1抗
体SC089およびSC189(Santa Cruz,CA)を用いてイムノブロットした。
アルカリホスファターゼ結合第二抗体を加え、次いで結合したWT1タンパク質
を、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートトルイジニウムおよ
びニトロブルーテトラゾリウム(BCIP,NBT; Promega,Madison,WI)を用いて可視化
した。
図3Aはin vitroにおけるWT1およびhUBC−9の結合を示す。左欄は細
胞溶解物コントロールの結果を示し、矢印は予測された推定分子量14kdのW
T1を示す。右欄はGSTコントロールの結果を示す。真ん中の欄はGST−h
UBC−9融合タンパク質の結果を示し、その中の矢印はWT1とGST−hU
BC−9マトリックスとの結合を示す。WT1とGSTコントロールマトリック
スの間には同様の結合は観察されず、これらの結果はWT1がhUBC−9と結
合しているかまたは密接に結びついていることを示している。実施例5
:WT1およびHA標識(tagged)ヒトUBCによる細胞の同時トランス
フェクション
hUBC−9の1.1kbのEcoRIフラグメントを、HAペプチドをコー
ドするcDNAフラグメントとインフレームに、発現ベクターpGCN(REF
)のEcoRI部位にクローンすることによりインフルエンザウイルスヘマグル
チニン(HA)標識hUBC−9をコードする発現ベクターを構築した。
293細胞をWT1およびHA標識hUBC−9発現プラスミドで同時トラン
スフェクトした。細胞溶解物を調製し、抽出物を抗WT1抗体または非特異的ウ
サギポリクローナル抗体(抗Gal4DB)のいずれかを用いて免疫沈降させた
。WT1結合タンパク質を15%SDS−PAGEで分離し、ブロットした。次
に、該プロットを、HA標識hUBC−9を認識する抗HAモノクローナル抗体
を用いて精査することにより分析した。
図3BはWT1およびhUBC−9の同時免疫沈降の結果を示す。実施例6
:hUBC−9とts yUBC−9の同時発現
酵母W9432株(MATa,ubc9-△1::TRP1,pSE362[ARS1,CEN4,HIS3]-ubc9-1)は
、ゲノミックyUBC−9をコードしている配列が、プラスミドに保持されてい
る温度感受性yUBC−9−1アレル(1.5kbXbal−Ssp1フラグメ
ント)のコピーおよびTRP1マーカーで置き換えられている以外はW303と
同遺伝子型である。
hUBC−9 cDNA(1.1kbのEcoRIフラグメント)およびyU
BC−9遺伝子(0.6kbのEcoRI−Xbalフラグメント)を、それぞ
れベクターp416GAL1(ARSH4、CEN6、URA3)およびpSE
936(ARS1、CEN4、URA3)中のGAL1プロモーターと融合させ
た。
図4Aおよび4Bにおいて、温度感受性酵母株(W9432)を、独立してh
UBC−9(第1列)およびyUBC−9(第4列)コントロールベクター(そ
れぞれp416GAL1およびpSE936)、およびhUBC−9 cDNA
発現構築物(第2列)またはyUBC−9遺伝子(第3列)で形質転換した。こ
れらの株の増殖を比較するため、細胞を、ガラクトース含有プレート上の希釈系
列中にスポットし、許容温度(23℃)で3.5日間、または制限温度で(34
℃)で2日間インキュベーションした。実施例7
:hUBC−9/WT1同時トランスフェクション実験
293細胞を、CMVプロモーターの制御下、PDGF A鎖プロモーター誘
導CATレポータープラスミドを用い、リン酸カルシウム/DNA沈殿によりh
UBC−9およびWT1発現構築物で同時トランスフェクションした。
各トランスフェクションにおいて、各ディッシュ内でトランスフェクトされた
CMVプロモーター配列の全量は、ベクターDNAを加えることにより等量化さ
れた。トランスフェクション効率は、CMVプロモーター誘導β−ガラクトシダ
ーゼレポーター構築物の同時トランスフェクションにより標準化された。すべて
の実験は少なくとも3回繰り返した。
図5Aは、CATアッセイおよびβ−ガラクトシダーゼアッセイの結果を示す
。CAT活性は、TLCプレートの切り出した断片をシンチレーションカウント
することにより定量された。図5Bは、種々の時間に種々のアッセイから得た相
対CAT活性値とそれぞれの標準偏差を示す。該実験は、hUBC−9がヒト胚
腎細胞(293細胞)のWT1の転写レプレッサー活性を増強することを示して
いる。実施例8
:hUBC−9−Gal4同時トランスフェクションアッセイ
hUBC−9をGal4DNA結合ドメインと連結し、レポーター系における
転写に対するその効果を評価した。
図6Aにおいて、コントロール発現ベクター、pSG424は、SV40プロ
モーターによって誘導されるGal4DNA結合ドメインを用いて構築された。
融合タンパク質発現ベクター、pSG−hUBC−9は、SV40プロモーター
によって誘導されるGal4DNA結合ドメインと融合させたhUBC−9の
完全長cDNAを用いて構築された。pSG−hUBC−9は、完全長のhUB
C−9 cDNAを含むEcoRI DNAフラグメントを、発現ベクターpSG
424のEcoRI部位に挿入することにより構築された。レポータープラスミ
ドpSV CATおよび5XUAS pSV CATはS.Weintraub博士(Washingto
n University,St.Louis)から提供された。pSV CATプラスミドは、CAT
レポーター遺伝子(Promega,Madison,WI)と融合させたSV40プロモーターを
含んでいた。5xUAS pSV CATプラスミドには、SV40プロモーター
の上流にGal4結合部位をさらに5コピー有するpSV CATプラスミドが
含まれた。
各発現ベクターを各レポータープラスミドと同時トランスフェクトさせる同時
トランスフェクション実験を実施した。レポータープラスミドDNA 5μgを
、種々の量の発現プラスミドを用いる各トランスフェクションに用いた。図6B
は、示した種々の量の発現プラスミドについて、既述(実施例7)のごとく行っ
た、CATおよびβ−ガラクトシダーゼアッセイの結果を示す。CAT活性は、
コントロール単独と比較したCAT活性として示す。実施例9
:hUBC−9、yUBC−9およびyUBC−9−m Gal4融合
タンパク質
hUBC−9、yUBC−9およびyUBC−9−m(活性部位のシステイン
の代わりにセリンを有する突然変異体yUBC−9)を独立してGal4DNA
結合ドメインと結合させ、レポーター系における転写に対する影響について評価
した。
図7Aにおいて、コントロール発現ベクター、pSG424およびhUBC−
9/Gal4融合タンパク質発現ベクター、pSG−hUBC−9を既述(実施
例8)のごとく構築した。yUBC−9/Gal4発現ベクター、pSG−yU
BC−9は、完全長のyUBC−9 cDNAを含むEcoRI DNAフラグメ
ントを、発現ベクターpSG424のEcoRI部位に挿入することにより構築
された。yUBC−9−m/Gal4発現ベクター、pSG−yUBC−9−m
を、pUC19−yUBC9−mプラスミドをHindIIIで消化することに
より構築し、クレノーフラグメントを用いて平滑にし、次いでEcoRIで消化
してEcoRI−SmaI消化pSG424プラスミド中にクローンした。図7
Aに示したレポータープラスミドは、既述(実施例8)のごとく得られた。
同時トランスフェクション実験に関して、既述(実施例7)のごとく行ったC
ATおよびβ−ガラクトシダーゼアッセイの結果を、ヒトおよび酵母UBCにつ
いてそれぞれ図7Bおよび7Cに示す。示した種々の量の発現プラスミドを用い
る各トランスフェクションにはレポータープラスミドDNA 5μgを用いた。
上記の本発明の詳細な説明および実施例に照らして、本発明の種々の目的が達
成されることを正しく認識することができる。本明細書に示した説明および例示
は、本発明、その原理およびその実際的応用を当業者に熟知させることを意図す
るものである。当業者は、特定の使用の要求に最も適するように多くの形で本発
明を適用および応用することができよう。したがって、示した本発明の特定の態
様は、本発明を網羅または限定するものではない。
参考文献
Cohen,S.N.,1972:Proc.Natl.Acad.Sci.69:2110(1972)。
Depicker,A.ら,1982:J.Mol.Appl.Gen.(1982)1:561。
Dowerら(1988),Nucleic Acids Research 16:6127-6145。
Goeble,M.G.ら,1988:「酵母細胞サイクル遺伝子CDC34はユビキチン結合酵素を
コードしている」Science,1988.241(4871):p.1331-5。
Seufert,W.ら,1995:「S期およびM期のサイクリンの分解におけるユビキチン
結合酵素の役割」Nature,1995.373(6509):p.78-81。
Wang,Z-Y.ら,1995:「WT1、ウィルムス腫瘍サプレッサー遺伝子産物は、相互作
用性核タンパク質を介する転写を抑制する」0ncogene,1995.10:p.1243-1247。
Wangl Z-Y.ら,1993:「血小板誘導成長因子A鎖遺伝子プロモーターのS1ヌク
レアーゼ感受性領域と相互作用する1本鎖DNA結合タンパク質の確認」J.Biol
.Chem.,1993a 268(N0.14,May 15),p.9172,p.10681-10685。
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(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
A61P 43/00 C12N 1/15
C07K 19/00 1/19
C12N 1/15 1/21
1/19 9/00
1/21 5/00 A
5/10 C
9/00 A61K 37/48
37/02
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),AU,CA,JP
(72)発明者 デュエル,トーマス・エフ
アメリカ合衆国02138マサチューセッツ州
ケンブリッジ、ヒラード・ストリート18
番
(72)発明者 シェンク,トーマス
アメリカ合衆国08540ニューヨーク州 プ
リンストン、マコッシュ・サークル87番
(72)発明者 ワン,ジャオ−イ
アメリカ合衆国06460コネティカット州
ミルフォード、ジー−2、マーウィン・ア
ベニュー 330番