JPWO2002083730A1 - 新規タンパク質IRSALおよび該タンパク質をコードする遺伝子irsal - Google Patents

新規タンパク質IRSALおよび該タンパク質をコードする遺伝子irsal Download PDF

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Abstract

本発明は、インスリンの生理活性を修飾し、糖の細胞内取り込みを制御する活性を有する新規タンパク質IRSAL、該タンパク質をコードする遺伝子irsal、該遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターを保持する形質転換体、該形質転換体を用いた前記タンパク質の製造方法、前記タンパク質に対する抗体、およびインスリンレセプター基質(IRS)と前記タンパク質との結合を阻害または促進する化合物のスクリーニング方法を提供する。本発明の課題は、インスリン生理活性発現機構の初期段階においてシグナル伝達の異常を引き起こす分子、特に、インスリンレセプターとIRSのチロシンリン酸化を調節、またはIRSのチロシンリン酸化以降のシグナル伝達を調節することである。

Description

技術分野
本発明は、インスリンの生理活性を修飾し、糖の細胞内取り込みを制御する活性を有する新規タンパク質IRSAL、該タンパク質をコードする遺伝子irsalに関するものである。
背景技術
糖尿病は、今や有病率が全人口の約5%を占め、高齢化社会を迎える21世紀においては更に患者数は増加し、深刻な社会問題になろうことが予想されている。
糖尿病は、インスリン依存性糖尿病(1型糖尿病)とインスリン非依存性糖尿病(2型糖尿病)に大別され、いずれも遺伝素因を背景にして引き起こされると考えられており、これらの原因遺伝子に関する研究は鋭意進められてきている。また、2型糖尿病においては、遺伝素因の他に環境因子の関与も大きいことが明らかとなっている。より詳しくは、2型糖尿病は、遺伝素因とともに、肥満・過食・運動不足・ストレス・加齢などの環境因子により引き起こされるインスリン抵抗性と、やはり遺伝素因と血中インスリン濃度の異常な上昇により起こるインスリン分泌不全が相まって、インスリン生理活性が不足し、結果として高血糖が引き起こされる状態と考えられている。ここでインスリン抵抗性とは、血中に十分量のインスリンがあるにも関わらず、肝臓における糖取り込みが亢進しないうえ糖放出が抑えられず、一方で筋肉や脂肪などの末梢組織において糖取り込みが亢進しないために、血糖値が上昇する現象である。
一般に、血中に正常に分泌されたインスリン等のホルモンが、標的組織で生理作用を発現できない状態(すなわちホルモン抵抗性)の一部は、ホルモンレセプターの異常、あるいはレセプター以降のシグナル伝達の障害など情報伝達系の先天的異常を伴う機構によるものと想定されており、先にも述べたように、これらに関する研究は分子生物学的・細胞生物学的手法を用いて鋭意進められてきた。
近年インスリンの作用伝達に関与するポストレセプターのいくつかが明らかにされた。その中でもインスリンレセプター基質(insulin receptor substrate、以下「IRS」と称する)はインスリンレセプター、インスリン様成長因子I(以下、「IGF−I」と称する)レセプターに共通な基質と考えられ、ポストレセプターの伝達機構の中で最も上流に位置するものである。
IRS1は、インスリンの刺激によって活性化されるインスリンレセプターキナーゼによりチロシンリン酸化を受ける分子質量170〜185kDaのタンパク質として発見され、その1次構造の解析により、多数のチロシンリン酸化部位が存在し、SH2ドメインを持つシグナル伝達タンパク質が結合することが知られている。実際に、該IRS1中に9個存在するTyr−x−x−Metモチーフによりシグナル伝達タンパク質であるホスファチジルイノシトール3キナーゼ(以下、「PI3キナーゼ」と称する)を結合してPI3キナーゼを活性化し、この活性化により糖輸送担体が細胞質から細胞膜に移動し、糖輸送の亢進が起こると考えられている。
従って、IRSと結合するタンパク質がインスリンレセプター又はIGF−IレセプターによるIRSのチロシンリン酸化に及ぼす影響を解析することができれば、インスリン抵抗性発生の分子機構に新たな観点を与えるものと期待される。さらに、新たな分子機構が明らかとなれば、IRS結合タンパク質とのインスリンシグナル抑制活性を特異的に阻害するような薬剤をスクリーニングする系を容易に構築できると考えられるが、未だその分子機構は明らかになっていない。
発明の開示
そこで本発明は、2型糖尿病におけるインスリン抵抗性の発生機構を解明するために、インスリン生理活性発現機構の初期段階においてシグナル伝達の異常を引き起こす分子、特に、インスリンレセプター又はIGF−IレセプターによるIRSのチロシンリン酸化を調節するタンパク質、または、IRSのチロシンリン酸化以降のシグナル伝達を調節するタンパク質を見出すことを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意研究した結果、IRS1をbaitとした酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより、IRS1と強く結合し、LIMドメインを分子内に有するタンパク質IRSAL(IRS−associated LIM protein)を見出し、さらに該タンパク質が糖の細胞内取り込みを制御することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成されたものである。
(1) すなわち本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のアミノ酸番号493〜694に示す領域に結合し、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有することを特徴とするタンパク質に関する。
(2) 本発明は、以下の(a)または(b)のタンパク質に関する。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質。
(3) 本発明は、(2)のタンパク質をコードする遺伝子である。
(4) 本発明は、以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子である。
(a)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
(5) 本発明は、(3)または(4)の遺伝子を含有することを特徴とする組換えベクターである。
(6) 本発明は、(5)の組換えベクターを保持する形質転換体である。
(7) 本発明は、(6)の形質転換体を培養し、当該培養物から(1)または(2)のタンパク質を回収することを特徴とする、(1)または(2)のタンパク質の製造方法である。
(8) 本発明は、(1)または(2)のタンパク質に対する抗体である。
(9) 本発明は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と(1)または(2)のタンパク質を用いることを特徴とする、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と(1)または(2)のタンパク質との結合を阻害または促進する化合物のスクリーニング方法である。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2001−111864号の明細書及び図面に記載される内容を包含する。
配列表の説明
配列番号1は、配列番号5の塩基配列に対応するアミノ酸配列である。
配列番号2は、配列番号3の塩基配列から推定されたアミノ酸配列である。
配列番号4は、配列決定に使用した合成プライマーである。
発明を実施するための形態
以下に本発明を詳細に説明する。
(本発明のタンパク質)
本発明のタンパク質は、以下のような酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより見出された、IRS1と強く結合するタンパク質の知見に基づくものである。
すなわち、リン酸化チロシン残基を介さずにIRS1と結合して、IGF−Iシグナルを修飾するタンパク質IRSAP(IRS−associated protein)を同定するために、チロシンキナーゼ活性がほとんど検出されない酵母系を用いて酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行った。
baitとしてGAL4のDNA結合ドメインにrat IRS1を融合したタンパク質を用い、preyとしてGAL4の転写活性化ドメインと融合したヒト胎盤cDNAライブラリーを用いて、His3をセレクションマーカーとした一次スクリーニングを行い、単離した陽性クローンについて、さらにLacZ活性を指標とした二次スクリーニングを行い、187個の陽性クローンを得た。これら陽性クローンからプラスミドを回収し、これを再び酵母に導入後、LacZ活性を指標にbaitであるIRS1との結合を再検討し、強い結合が観察されたクローンについて、塩基配列の解析を行い、この遺伝子がコードするタンパク質を同定した。その結果、既にリン酸化チロシン残基を介さずにIRS1と結合することが報告されている14−3−3タンパク質を含む、様々な遺伝子が単離され、その中から、BLASTサーバーを用いたhomology searchの結果、タンパク質間相互作用に働くLIMドメインを分子内に有する新規タンパク質IRSAL(IRS−associated LIM protein)を得たものである(実施例1参照)。
すなわち、本発明のタンパク質は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のアミノ酸番号493〜694に示す領域に結合し、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有することを特徴とするタンパク質である。
配列番号1に記載のアミノ酸配列は、IRS1を表わす。従って、本発明のタンパク質は、IRS1の特定の領域と結合(相互作用)するものである。
「糖の細胞内取り込みを制御する活性を有する」とは、該タンパク質が細胞内に産生された細胞または組織において、該タンパク質の発現がインスリンあるいはIGF刺激依存の細胞の糖取り込み量の調節に関与することを意味する。さらに詳しくは、該タンパク質の発現が細胞の糖取り込み量を促進又は抑制する活性を有することを意味する。
本発明のタンパク質の1具体例としては、配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質IRSALを挙げることができる。
したがって、本発明のタンパク質はまた、以下の(a)または(b)のタンパク質であることを特徴とするタンパク質である。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質。
本発明のタンパク質のうち、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質については、例えば、配列番号3記載の塩基配列における一連の3塩基を、当業者に公知の解析ソフトを用いて、その塩基の組合わせ(すなわち、コドン)によりコードされている1つのアミノ酸に置き換えることにより得ることができる。また、例えば配列番号2に示すように、一旦そのアミノ酸配列が決定された本発明のタンパク質については、その配列を元に当業者に公知の手法、例えば、アミノ酸1つ1つを化学的に重合してタンパク質を合成する方法(ペプチド合成法)に従って調製することができる。さらに、本発明のタンパク質が後述の本発明の遺伝子によりコードされている場合には、例えば、本発明の遺伝子を含む組換えベクターを作製し、該ベクターを適切な宿主細胞中に導入して得られる形質転換体を培地に培養または飼育し、その培養物または飼育体から採取することによっても本発明のタンパク質を得ることができる。ここで使用する組換えベクター、宿主細胞、培地、各操作法および条件等については、当業者に公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができる。
配列番号2記載のアミノ酸配列における「1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加」は、本願の出願時において常用される技術、例えば、部位特異的変異誘発法(Zollerら、Nucleic Acids Res.10 6478−6500,1982)により、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の配列(例えば、配列番号3記載の塩基配列)を改変することにより実施することができる。
ここで、タンパク質の構成要素となるアミノ酸の側鎖は、疎水性、電荷、大きさなどにおいてそれぞれ異なるものであるが、実質的にタンパク質全体の3次元構造(立体構造とも言う)に影響を与えないという意味で保存性の高い幾つかの関係が、経験的にまた物理化学的な実測により知られている。例えば、異なるアミノ酸残基間の保存的置換の例としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、グリシンとアラニン(Ala)またはバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、スレオニンとセリン(Ser)またはアラニン、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)、等のアミノ酸の間での置換が知られている。
従って、配列番号2に記載のアミノ酸配列において「1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加」が生じた結果得られたアミノ酸配列からなる変異型タンパク質であっても、その変異が配列番号2に記載のアミノ酸配列の3次元構造において保存性が高い変異であって、その変異型タンパク質が配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる本発明のタンパク質IRSALと同様に糖の細胞内取り込みを制御する活性を有しているのであれば、これらの変異型タンパク質もまた本発明のタンパク質である。なお、アミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、好ましくは1〜4個、さらに好ましくは1〜2個である。
用語「糖の細胞内取り込みを制御する活性を有する」については、上記と同様の意味を有する。
本発明のタンパク質のうち、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質IRSALは、全アミノ酸336残基からなる分子質量の(38kDa)のタンパク質である(実施例3参照)。
また、本発明のタンパク質IRSALは、そのアミノ酸配列上に5つのLIMドメインを有する(実施例3参照)。LIMドメインはタンパク質間の相互作用などに重要なZnフィンガーモチーフが2つ連なった構造のドメインであることから、該タンパク質はタンパク質間の相互作用によりIRS機能を調節する特性を有することがわかる。
さらに、本発明のタンパク質IRSALは、現在までに知られているIRSファミリータンパク質(IRS1〜IRS4)のうち、IRS1およびIRS2と結合する特性を有する。
また、本発明のタンパク質IRSALを発現する細胞内におけるチロシンリン酸化に関する活性については、以下のような特徴を有する。293T細胞では、インスリンレセプターキナーゼによるIRS1のチロシンリン酸化を増強するものの、IRS2のチロシンリン酸化は逆に抑制し(実施例4参照)、SH−SY5Y細胞では、IRS1のチロシンリン酸化の変化は確認されなかったが、IRS2のチロシンリン酸化は著しく増強した。従って、本発明のタンパク質IRSALは、IRS1およびIRS2のIGF−I誘導性チロシンリン酸化を変化させる活性を有するものである。
さらに、本発明のタンパク質IRSALは、IRSのチロシンリン酸化以降の(さらに下流の)シグナル伝達の調節に関して以下のような特性をも有する。すなわち、IGF−I刺激に応じてプロテインキナーゼErkやAktはリン酸化され活性化するが、本発明のタンパク質IRSALは、IGF−I刺激によりErkを活性化するものの、Akt活性化には関与しておらず、Erkの活性化を増強し、Aktの活性化には影響を与えないことが明らかとなった(実施例4参照)。これらの結果は、IRSALがIGF−IによるPI 3−kinase経路の活性化には影響を与えないが、MAP kinase経路の活性化は増強させることを示すものである。しかし驚くべきことに、IRSALを細胞内で発現させると糖の該細胞内への取り込みは顕著に阻害されていた(実施例5参照)。このことは、本発明のタンパク質の糖細胞内取り込み制御機構が、従来知られたものとは全く異なるものであること強く示唆するものである。
また、IRS1を安定的に高発現させるSH−SY5Y細胞は、対照細胞と比較して増殖能に優れていた。
(本発明の遺伝子)
本発明の遺伝子は、以下の(a)または(b)のタンパク質をコードすることを特徴とする。
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
(b)配列番号2のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質。
用語「1もしくは数個のアミノ酸の欠失、置換もしくは付加」および「糖の細胞内取り込みを制御する活性を有する」は、それぞれ本発明のタンパク質について説明した箇所と同様の意味を有するものとする。
本発明の遺伝子のうち、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、配列番号3に記載の塩基配列(1008bp)を有する遺伝子(irsal)を挙げることができる。
従って、本発明の遺伝子はまた、以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子であることを特徴とする。
(a)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA、
(b)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
本発明の遺伝子のうち、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする遺伝子、または配列番号3に記載の塩基配列からなる遺伝子については、例えば、本明細書中の実施例1および3に記載した方法に従って得ることができる。
また、例えば配列番号3に示すように、一旦その塩基配列が決定された遺伝子については、例えば、これらの塩基配列をもとに適当なプライマーを設計・合成してPCRを行なうことによっても得ることができる。
用語「糖の細胞内取り込みを制御する活性を有する」は、本発明のタンパク質について説明した箇所と同様の意味を有するものとする。
用語「ストリンジェントな条件」とは、DIG DNA Labeling kit(ベーリンガー・マンハイム社製、カタログ番号1175033)でプローブをラベルした場合に、32℃のDIG Easy Hyb溶液(ベーリンガー・マンハイム社製カタログ番号1603558)中でハイブリダイズさせ、50℃の0.5×SSC溶液(0.1%[w/v]SDSを含む)中でメンブレンを洗浄する条件(1×SSCは0.15M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウムである)を意味する。
上記ストリンジェントな条件下で配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとハイブリダイズし、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質をコードするDNAもまた、本発明の遺伝子である。
すなわち、配列番号3に記載の塩基配列全長において、種々の人為的処理、例えば部位特異的変異導入、変異剤処理によるランダム変異、制限酵素切断によるDNA断片の変異・欠失・連結等により、部分的にその配列が変化したものであっても、これらの変異型DNAが配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質をコードするDNAであれば、配列番号3に示した塩基配列との相違に関わらず、本発明の遺伝子に含まれる。
本発明の遺伝子は、心臓、骨格筋、大腸、脾臓、腎臓などインスリンやIGFの標的組織の多くでその発現が認められ、特に心臓において強く発現される(実施例3参照)。
(本発明の組換えベクター)
本発明の組換えベクターは、本発明の遺伝子を、一般的な遺伝子組み換え技術に従って適当なベクターに挿入することにより得ることができる。
本発明の遺伝子を挿入する適当なベクターとしては、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されないが、例えば大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322、pUC118他)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110、pC194他)、酵母由来のプラスミド(例、pSH19他)、さらにバクテリオファージやレトロウィルスやワクシニアウィルス等の動物ウィルス等が利用できる。
また、挿入した遺伝子が確実に発現されるようにするため、該遺伝子の上流に適当な発現プロモーターを接続する。
使用する発現プロモーターは、宿主に応じて当業者が適宜選択すればよく、例えば宿主が大腸菌である場合には、T7プロモーター、lacプロモーター、trpプロモーター、λ−PLプロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合にはSPO系プロモーター等が、宿主が酵母である場合にはPHO5プロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等が、宿主が動物細胞である場合にはSV40由来プロモーター、レトロウィルスプロモーター等が、それぞれ使用できるが、これらに限定されない。
本発明の組換えベクターには更に、所望により、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、リボソーム結合部位等を挿入してもよい。
(本発明の形質転換体)
本発明の形質転換体は、前記組換えベクターを、常法または各宿主に対して一般に用いられる形質転換方法に従って、本発明の遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することにより得ることができる。
本発明の組換えベクターの宿主への導入は、限定するものではないが、例えばカルシウムイオン法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法を用いて実施することができる。
宿主としては、限定するものではないが、エシェリヒア属菌であるEscherichia coliの各種菌株、バチルス属菌であるBacillus subtilisの各種菌株、酵母としてはSaccharomyces cerevisiaeの各種菌株、動物細胞としてはCOS−7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、L6細胞およびSH−SY5Y細胞等が利用できる。
(本発明のタンパク質の製造方法)
本発明のタンパク質は、前記形質転換体を、当業者に公知の通常の方法に従って培養し、当該培養物から本発明のタンパク質を回収することにより実施できる。
ここで「培養物」とは、培養上清のほか、培養細胞もしくは培養菌体または細胞もしくは菌体の破砕物のいずれをも意味する。
本発明のタンパク質はまた、他のタンパク質(例、グルタチオンSトランスフェラーゼ、プロテインAその他)との融合型タンパク質として発現させてもよい。このようにして発現させた融合型タンパク質は、適当なプロテアーゼ(例、トロンビンその他)を用いて切り出すことができる。
(本発明の抗体)
本発明の抗体は、本発明のタンパク質と特異的に反応する抗体である。
ここで「抗体」とは、抗原である本発明のタンパク質またはその断片に結合し得る抗体分子全体またはその断片(例えば、FabまたはF(ab’)断片)を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。
本発明の抗体は、当業者に公知の手法を用いて調製することができ、例えば、アジュバントと共に抗原で動物を一回あるいは数週間間隔で複数回追加免疫する生体内(in vivo)の方法、免疫細胞を分離して適当な培養系で感作させる生体外(in vitro)の方法のいずれかによって調製できる。
また、抗原として使用する本発明のタンパク質は、必ずしも全体を使用する必要は無く、そのタンパク質の一部分を使用してもよい。アジュバントとしては、限定するものではないが、例えばフロイントの完全または不完全アジュバントを使用することができる。抗原を投与する動物としては、限定するものではないが、例えばラット等の実験動物を使用することができる。
(本発明のスクリーニング方法)
本発明のスクリーニング方法は、本発明のタンパク質と配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質(IRS1)を用いることを特徴とする、本発明のタンパク質とIRS1との結合を阻害または促進する化合物のスクリーニング方法である。
本発明のスクリーニング方法は、タンパク質とIRS1との結合の阻害または促進が確認できる方法であれば特に制限されないが、例えば、一例として以下のような方法が挙げられる。
(1)被検物質の存在下又は非存在下において、本発明のタンパク質とIRS1とを接触させ、本発明のタンパク質とIRS1との結合量を測定し、比較することによるスクリーニング方法。
(2)ツーハイブリッド系の技術を利用し、形質転換体でのレポーター遺伝子の発現量を測定することにより検出する、ツーハイブリッドスクリーニング方法。
上記(1)の方法における結合量の検出は、例えば、標識(例えば、RI標識、蛍光標識など)を付したIRS1を、非標識の被検物質とともに混合して用いる通常の競合アッセイ法などにより実施できる。被検物質には特に制限はなく、低分子化合物、ペプチドなどが挙げられ、また、人工的に合成したものであっても、天然に存在するものであっても良い。
また、タンパク質間相互作用をより効率よく高度に解析できる観点から、上記(2)のツーハイブリッドスクリーニングを用いるのが好ましい。ツーハイブリッドスクリーニングは、当該技術分野で公知の方法を用いて実施することができるが、具体的には、以下のように行うことができる。
本発明のタンパク質と転写制御因子のDNA結合ドメインとを融合させたタンパク質を発現せしめるベクターと、IRS1と転写制御因子の転写活性化ドメインとを融合させたタンパク質を発現せしめるベクターとを導入した形質転換体内で、本発明のタンパク質とIRS1とが結合することによりレポーター遺伝子の転写が活性化されるツーハイブリッドスクリーニングにおいて、被験物質の添加によるレポーター遺伝子の発現量の増減を測定することにより、被験物質がタンパク質とIRS1との結合を阻害または促進するか否かを確認し、IRSALの発現調節能を評価することができる。
レポーター遺伝子としては、転写活性化の状態を測定できるものであればよく、例えば、β−ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)、ルシフェラーゼ遺伝子等を用いることができる。
宿主細胞としては、酵母、大腸菌等が使用可能であるが、特に、酵母CG−1945株(遺伝子型;MATa,ura3−52,his3−200,lys2−801,ade2−101,trp1−901,leu2−3,112,gal4−542,gal80−538,cyh2,LYS2::GAL1UAS−GAL1TATA−HIS3,URA3::GAL417−mer(x3)−CyC1TATA−lacZ)を用いるのが好ましい。
本発明のタンパク質と転写制御因子のDNA結合ドメインとを融合させたタンパク質を発現せしめるベクターとしては、例えば、pAS2−1等を用いることができ、また、IRS1と転写制御因子の転写活性化ドメインとを融合させたタンパク質を発現せしめるベクターとしては、例えば、pACT2等を用いることができる。
転写制御因子としては、GAL4等を利用することができる。
レポーター遺伝子の発現強度は、レポーター酵素の発色物質、蛍光物質等により判定することが可能であるが、例えば、LacZの場合、X−Galプレート上のLacZレポーター遺伝子活性によるコロニーの青色強度により判定することができる。
スクリーニング方法に用いられる被検物質は特に制限はなく、例えば、タンパク質、細胞抽出液、合成ペプチド等のペプチド、発酵生産物等を挙げることができ、これらの物質は人工的に合成したものであっても、天然に存在するものであってもよい。
阻害または促進する物質の評価は、正常より2倍以上発現を増加させる被検物質を促進物質として単離または同定し、正常より2分の1以下に発現を減少させる物質を阻害物質として単離または同定することが好ましい。
さらには、細胞内または組織内のmRNA量を測定することによって、本発明のタンパク質の発現の増減を検出し、本発明のタンパク質の発現を調節し得る物質をもスクリーニングすることができる。
前記スクリーニング方法により得られる化合物は、本発明のタンパク質とIRS1との結合を阻害または促進するものであるから、インスリン抵抗性を示す対象に投与する医薬組成物の有効成分として有用である。
実施例
以下に実施例を示すことにより本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕酵母ツーハイブリッドスクリーニングを用いたIRS1と結合するタンパク質IRSAP(IRS−associated protein)の単離および同定
[方法]大腸菌を用いた遺伝子操作
本研究で主に用いた大腸菌株はDH5α[遺伝子型;supE44 ΔlacU169(φ80lacZΔM15)hsdR17 recA1 endA1 gyrA96 thi−1 relA1]で、通常の培養にはTY培地(1% polypepton,0.5% yeast extract,0.5% NaCl,pH7.0)を用いた。ベクターの持つ抗生物質耐性マーカーにより、アンピシリン(50μg/mL)またはカナマイシン(liquid;50μg/mL,plate;15μg/mL)を加えた。また固体培地は上記の培地にagarを1.5%加えて作成した。プラスミドベクターとしては、酵母ツーハイブリッド系にはpAS2−1およびpACT2(Clontech)を、シークエンスにはpACT2もしくはpBluescript SK+(Stratagene)を使用し、目的のベクターを構築するためのDNAの制限酵素による切断、結合、平滑末端化、アガロース電気泳動、大腸菌の形質転換などの操作は標準的なプロトコールに従った(Sambrook et al.,1989)。
出芽酵母の培養方法
出芽酵母株はCG−1945(遺伝子型;MATa,ura3−52,his3−200,lys2−801,ade2−101,trp1−901,leu2−3,112,gal4−542,gal80−538,cyh2,LYS2::GAL1UAS−GAL1TATA−HIS3,URA3::GAL417−mer(x3)−CyC1TATA−lacZ)を用い、培養にはYPD(1% yeast extract,2% polypeptone,2% glucose)、もしくは最小培地としてSD(Sherman et al.,1986)を用いた。またマーカーとして適宜アミノ酸を加え、SD/−His/−Leu/−Trp[0.67% yeast nitrogen base(w/o amino acid),1% glucose,0.03% L−Isoleucine,0.15% L−Valine,0.02% L−Adenine hemisulfate salt,0.02% L−Arginine HCl,0.03% L−Lysine HCl,0.02% L−Methione,0.05% L−Phenylalanine,0.2% L−Threonine,0.02% L−Uracil]、SD/−Leu/−Trp(SD/−His/−Leu/−Trp+0.02% L−Histidine HCl monohydrate)、またはSD/−Trp(SD/−Leu/−Trp+0.1% L−Leucine)を用いた。固体培地は上記の培地にagarを1.5%添加して作成した。
酵母の形質転換
Small scaleでの形質転換は以下の方法に従った。酵母をYPD 4mLでOD260=0.2〜0.3となるまで培養した後、培養液を1.5mLチューブに3本に分注し、1,000×gで30秒間遠心後、菌体を回収した。次に1×TE/LiAc(10mM Tris−HCl,1mM EDTA,0.1M lithium acetate,pH7.5)を1mL加えて懸濁し、このうち0.1mLを新しい1.5mLチューブに移した。これにPAS−IRS1 0.1μg,1×PEG/LiAc(1×TE/LiAc+40% PEG 6000)0.6mLを入れ攪拌した後、30℃で30分間インキュベートした。DMSO 70μLを加え攪拌した後、42℃で15分間インキュベートした。1,000×gで5分間遠心後、上清を取り除き、沈殿を滅菌水に懸濁してSD/−Trp(Trpを含まないアミノ酸マーカー)を含むSDプレートに播種した。
Large scaleでの形質転換は以下の方法に従った。酵母をSD/−Trp 50mLでOD260=0.2〜0.3となるまで培養した後、培養液をYPD 300mLに移し、30℃で3時間インキュベートした。この培養液を50mLの遠心管8本に分注し、1,000×gで5分間遠心後、上清を除去した。次に、酵母の沈殿を1本あたり5mLの滅菌水に懸濁し、これらを2本に20mLずつ集めた。1,000×gで5分間遠心後、上清を除去した。酵母の沈殿に1×TE/LiAc 1mLを加えて懸濁し、15mLの遠心管1本にまとめた。これにcDNAライブラリー100μg,1×PEG/LiAc 9mLを入れ攪拌した後、30℃で30分間インキュベートした。DMSO 1mLを加え攪拌した後、42℃で15分間インキュベートした。1,000×gで5分間遠心後、上清を取り除き、沈殿を滅菌水に懸濁して、SD/−His,−Trp,−Leu+0.5mM 3AT(His,Trp,Leuを含まず、3−amino−1,2,4−Triazoleを0.5mM含むアミノ酸マーカー)を含むSDプレート20枚に分けて播種した。
β−ガラクトシダーゼアッセイ
SD/−Trp,−Leuを含むSDプレートの上にニトロセルロースフィルター(Schleicher & Schuell)を置き、このフィルター上にコロニーを播種し培養した。2日後、フィルターを取り出し、液体窒素をかけて細胞を破壊した。新しい試験皿に濾紙を置き、3mLのZ buffer/X−gal solution[Z buffer(NaHPO・7HO 16.1mg/mL,NaHPO・HO 5.5mg/mL,KCl 0.75mg/mL,MgSO・7HO 0.246mg/mL,pH7.0)3mLにβ−mercaptoethanol 8.1μL,X−gal solution(X−gal;5−bromo−4−chloro−3−indolyl−β−D−galactopyranoside 3mgをN,N−dimethylformamide 30μLに溶解したもの)30μLを混合して作成]をしみこませ、この上に破壊した細胞の乗ったフィルターを置き、30℃で2時間インキュベートした。
プラスミドの大腸菌への回収
SD/−Trp,−Leuを含むSD液体培地4mLで陽性コロニーを培養し、この培養液を3本の1.5mLチューブに移し、1,000×gで30秒間遠心後、上清を除去した。次に、yeast lysis solution(2% Triton X−100,1% SDS,100mM NaCl,10mM Tris,1.0mM EDTA,pH8.0)0.2mL、phenol:chloroform(1:1)0.2mL、acid−washed glass beads(0.5mmのglass beadsを一晩濃硝酸に浸した後、水で数回洗浄し、エタノールで1回洗浄し乾燥させた)0.3gを加え、5分間攪拌した後、10,000×gで5分間遠心し、上清を新しい1.5mLチューブに移した。エタノールによりDNAを沈殿し、TE 20μLに溶解した。この溶液を用いて大腸菌を形質転換し、アンピシリン耐性を賦与するプラスミドを回収した。
酵母ツーハイブリッド系を用いたIRS1と結合するタンパク質(IRSAP)のクローニング
Baitとしてrat IRS1 cDNA(東京大学医学部門脇孝博士から供与された。全長cDNA配列を配列番号5、対応するアミノ酸配列を配列番号1に示す)をpAS2−1 Nde I−BamH I部位に導入したものを、CG−1945にsmall scaleで形質転換し、SD/−Trpプレートに播種した。このsmall scale形質転換によりプレートに生えてきたコロニーを再び液体培地SD/−Trpで培養し、これにhuman placenta cDNAライブラリー(Clontech)がpACT2のEcoR I−Xho I部位に導入されたものをlarge scaleで形質転換し、SD/−His/−Leu/−Trp+0.5mM 3AT(3−amino−1,2,4−triazole,SIGMA)プレート20枚に分けて播種した。この際、一部をSD/−Leu/−Trpプレートに播種し、スクリーニングクローン数を計算した。以上2回の形質転換によりbaitおよびcDNAライブラリーが導入され、プレート上に生えてきたコロニーについてβ−ガラクトシダーゼアッセイを行った。このβ−ガラクトシダーゼアッセイにおいて陽性なコロニーは、さらにプラスミドの大腸菌への回収を行った。回収されたプラスミドについては、ジデオキシ法(Sanger et al.,1977)に基づいたkit(Thermo Sequenase fluorescent labelled primer cycle sequencing Kit,Amersham Pharmacia)とシークエンスプライマーとして5’−TGGCTTACCCATACGATGTTCCAG−3’(配列番号4)、およびALF DNA sequencer(Amersham Pharmacia)を用いて塩基配列を決定した。また、決定した塩基配列の解析は、コンピューター上で塩基配列解析用ソフトDNASIS(日立)およびBLASTサーバー(URL=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を用いて行った。
[結果]
IRS1をbaitとした酵母ツーハイブリッドスクリーニングにより、14−3−3タンパク質を含む様々なタンパク質をコードする遺伝子が取得された
リン酸化チロシン残基を介さずにIRS1と結合して、IGF−Iシグナルを修飾するタンパク質(IRSAP)を同定するために、チロシンキナーゼ活性がほとんど検出されない酵母系を用いて酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行った。
baitとしてGAL4のDNA結合ドメインにrat IRS1を融合したタンパク質を用い、preyとしてGAL4の転写活性化ドメインと融合したヒト胎盤cDNAライブラリーを用いて、His3をセレクションマーカーとした一次スクリーニングを行った。その結果、約7×10個のコロニーから約1×10個の陽性クローンが単離された。これらのクローンについて、さらにLacZ活性を指標とした二次スクリーニングを行ったところ、187個の陽性クローンを得た。これら陽性クローンからプラスミドを回収し、これを再び酵母に導入後、LacZ活性を指標にbaitであるIRS1との結合を再検討した。IRS1との結合の強さは、X−Galプレート上のLacZレポーター遺伝子活性によるコロニーの青色の強度により判断した。
強い結合が観察されたクローンについて、塩基配列の解析を行い、この遺伝子がコードするタンパク質を同定した。その結果、下記表1に示すように、既にリン酸化チロシン残基を介さずにIRS1と結合することが報告されている14−3−3タンパク質を含む、様々な遺伝子が単離された。配列解析の詳細については後述の実施例3を参照されたい。
Figure 2002083730
Figure 2002083730
これら単離された遺伝子のうち、クローン番号3はBLASTサーバーを用いたhomology searchの結果、新規タンパク質であることが明らかになったことから、このタンパク質をIRSAP3と命名した。しかし最近になり、VogelらのグループによりTSPYL(testis−specific protein,Y−encoded−like protein)が単離され、IRSAP3は彼らが単離したTSPYLと同一であることがわかった(Vogel et al.,1998)。またクローン番号80は、BLASTサーバーを用いたhomology searchの結果、タンパク質間相互作用に働くLIMドメインを分子内に有する新規タンパク質であることが明らかになったことから、このタンパク質をIRSAL(IRS−associated LIM protein)と命名した。これら2つのタンパク質は、機能については全く明らかにされていないことから、これらの分子に注目して研究を進めた。
このIRSAL(クローン番号80)およびTSPYL(クローン番号3)は、IRS1との結合が特に強く確認されたことから、まず、これらTSPYLおよびIRSALと他のIRSファミリータンパク質(IRS2、IRS3もしくはIRS4)が結合するかどうかを酵母ツーハイブリッドアッセイにより調べた。その結果、TSPYL(クローン番号3)およびIRSAL(クローン番号80)は共に、IRSファミリータンパク質のうち、IRS1およびIRS2と結合することが明らかとなった(データは示さず)。
〔実施例2〕細胞内におけるIRSALとIRS1との結合の確認
[方法]
細胞培養
COS7細胞(東京大学大学院新領域創生科学研究科片岡宏誌博士から供与された)は、増殖用培地としてDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium,ニッスイ)に最終濃度10%となるようにCS(calf serum,ニチレイ)を加えたものを用い、これに、抗生物質を100U/mLペニシリン、50μg/mLストレプトマイシンとなるように加えた培地で、150cmフラスコ(IWAKI)を用いて37℃,CO濃度5%の条件で培養した。培地交換は3日おきに行い、植え継ぎはPBS(phosphate buffered saline,ニッスイ)+0.25% trypsin+0.02% EDTAで細胞を剥がし、全量の1/10の割合で植え継ぎを行った。
プラスミドベクターの構築
GFP−IRSALを発現するベクターは、pACT−IRSALのEcoR I−Xho I断片をpEGFP−C1のEcoR I−Sal I部位にフレームを合わせて導入し作成した。FLAG−IRS1を発現するベクターは、IRS1の全長cDNA断片をpCMV/Flag(University of Rochester NY.U.S.A.のDr.Richard Furlanettoより供与された)のHind III−BamH I部位にフレームを合わせて導入し作成した。また酵母ツーハイブリッドアッセイに用いたIRS1 deletion mutantを発現するベクターは、IRS1の各cDNA断片(NB;Hind III−BamH I,NNc;Hind III−Nco I,BgB;Bgl II−BamH I,NcNc;Nco I−Nco I,BB;BamH I−BamH I)をpAS2−1にフレームを合わせて導入し作成した。
DEAE−dextran法によるCOS7細胞への遺伝子導入
COS7細胞を100mm試験皿に1.0×10個ずつ播種し、増殖用培地で24時間培養した。HBSSで3回洗浄後、4mLのDNA−DEAE−dextran solution[transfection buffer(DMEM+50mM Tris−HCl,pH7.4)4mLに20mg/mL DEAE−dextran 0.06mL、DNA 8μgを混合したもの]を加えた。37℃で6時間インキュベート後、培地を除き、glycerol buffer(transfection buffer+10% glycerol)4mLを加えて2分間インキュベートした。HBSSで3回洗浄後、増殖用培地を加えて37℃で2日間インキュベートし、その後の実験に用いた。ただしco−transfectionは、2種類のプラスミドを用いてDNA−DEAE−dextran solution 4mLずつ作成し、それらを混ぜ合わせ細胞に処理した。
共免疫沈降アッセイ
DEAE−dextran法によりpEGFPもしくはpEGFP−IRSALとpCMV/Flag−IRS1を導入したCOS7細胞から、400μL/100mm試験皿のLysis buffer(20mM Tris−HCl pH8.0,150mM NaCl,1mM NaF,10% glycerol,1% NP−40,1mM NaVO,100KIU/mL aprotinin,20μg/mL PMSF,10μg/mL leupeptin,5μg/mL pepstatin,10mg/mL PNPP)を用いて細胞抽出液を2枚ずつ調製し、この細胞抽出液800μLに抗GFP抗体を3μg加え、4℃で2時間インキュベートした。またこのとき、細胞抽出液を20μL取り分けた。インキュベートしたサンプルに40μLのprotein A−Sepharose[50%(v/v),Amersham Pharmacia]を加え、さらに4℃で2時間インキュベートした。その後、遠心によりbeadsを集めて3回washing buffer(20mM Tris−HCl pH8.0,150mM NaCl,1mM NaF,10% glycerol,0.1% NP−40)で洗浄し、beadsに20μLのlysis bufferと10μLの3×Laemmli’s sample bufferを加えて5分間煮沸した。その後、これらのサンプルをSDS−PAGEおよび抗FLAG抗体(SIGMA)によるimmunoblotに用いた。
SDS−PAGEおよびImmunoblot
100mm試験皿に細胞を7.85×10個まき、上記の方法と同様に静止期に同調するまで培養した。200μLのLysis bufferを用いて免疫沈降と同様な手法で細胞を掻き取り、細胞抽出液を調製した。タンパク質濃度をそろえ、200μLの細胞抽出液に100μLの3×Laemmli’s sample bufferを加えて5分間煮沸した。これらのサンプルを適当なゲル濃度のSDS−PAGE(Hoefer Standard Slab Gel Units SE600,Hoefer Scientific Instruments)にて分離した。その後分離したタンパク質をニトロセルロース膜(BA−85,Schleicher & Schuell)へTrans Blot Cell(Bio−Rad)を用いてトランスファーした。トランスファー終了後、ニトロセルロース膜をRinsing buffer(RB;10mM Tris−HCl pH7.2,50mM NaCl,1mM EDTA)で洗浄した後、Blocking buffer[RB+3% bovine serum albumin(BSA)+0.025% NaN]に浸し、4℃で一晩ブロッキングした。ブロッキング終了後、メンブレンを抗ホスホチロシン抗体(1:3,000,癌研究会癌化学療法センター基礎研究部矢守隆夫博士より供与された)、抗phospho−Erk抗体(1:1,000,New England BioLabs)、抗phospho−Akt抗体(1:1,000,New England BioLabs)にて4℃で一晩インキュベートして一次抗体の結合を行った。インキュベート終了後、Tris buffered saline−Tween(TBS−T;20mM Tris−HCl pH7.6,137mM NaCl,1mM EDTA,0.1% Tween−20)で10分間1回、5分間2回洗浄し、次に二次抗体としてhorseradish peroxidaseを結合した抗マウスIgG抗体(1:7,500,Amersham−Pharmacia)もしくは抗ラビットIgG抗体(1:7,500,Amersham−Pharmacia)を用いて室温で2時間インキュベートした。その後、TBS−Tで同様にメンブレンを3回洗浄し、検出はECL kit(NEN Life Science Products)を用いて、キットのプロトコールに従って行い、X線フィルム(HR−H,Fuji Film Co.)に露光した。
酵母ツーハイブリッドアッセイ
酵母の培養、形質転換およびβ−ガラクトシダーゼアッセイは、実施例1と同様にして実施した。
[結果]COS7細胞内で、GFP−IRSALとFLAG−IRS1は結合する
pEGFPにIRSAL cDNAをつなげたプラスミドを作成したところ、GFP−IRSALは効率よくCOS7細胞内で発現した。次に、このGFP−IRSALとIRS1との結合を調べるために、GFPとは別のタグであるFLAGタグを繋げたFLAG−IRS1を発現するプラスミドを作成、COS7細胞に導入したところ、FLAG−IRS1も効率よく発現することが確認された。
そこで、GFP−IRSALとFLAG−IRS1を高発現するCOS7細胞の細胞抽出液を用いて、共免疫沈降アッセイを行った。抗GFP抗体で免疫沈降後、抗FLAG抗体でimmunoblotした結果、IRSALとIRS1の結合を示す、抗FLAG抗体によるFLAG−IRS1のバンドが検出された。結果を図1に示す。図中、WCLは全細胞抽出液、MockはpEGFPを示す。
IRSALは、IRS1のアミノ酸配列中、アミノ酸番号493〜694位の領 域と結合する
次に、IRSALがIRS1のどの領域に結合するかを調べた。上述のとおり、GST−IRSALが作成できなかったため、酵母系を用いて解析を進めた。まず、IRS1全長cDNA配列(配列番号5)を該配列内のいくつかの制限酵素部位で切断し、酵母ツーハイブリッドアッセイにおいてbaitとなるpAS2−1ベクターにフレームを合わせてつなぎ、pAS−IRS1 deletion mutants(図2中、M1〜M5。FLはIRS1cDNA全長を表わす)を作成した。
まず、first codon(ATG)の3塩基をCATに置き換えて、NdeI siteを入れた。IRS−FL=NdeI−BamHI(配列番号5に示す配列中、塩基番号1〜3708の領域に該当する)、−M1=NdeI−BamHI(同1〜2578)、−M2=NdeI−NcoI(同1〜1482)、−M3=BglII−BamHI(同1531〜2578)、−M4=NcoI−NcoI(同1482〜2078)、−M5=BamHI−BamHI(同2578〜3708)これらのpAS−IRS1 deletion mutantsとpACT−IRSALを用いて、酵母ツーハイブリッドアッセイを行った。結果を図2に示す。図中、X−Galプレート上で白色コロニーを呈したものをマイナス(−)、青色コロニーを呈したものをプラス(+)、baitのみで青色コロニーを呈したものをND(測定不可)で表す。
その結果、IRS1−FL(full length),M1,M3,M4は、IRSALとの結合によりβ−ガラクトシダーゼ活性が検出されたが、IRS1−M5はIRSALとの結合が確認できなかった。またIRS1−M2はbaitであるpAS−IRS1−M2のみでβ−ガラクトシダーゼ活性が検出されてしまったため、IRSALとの結合は確認できなかった[図2中、ND(cannot be determined)と表示]。これらの結果から、IRSALは、配列番号1に示すIRS1アミノ酸配列中、アミノ酸番号493〜694位の領域と結合することが明らかとなった。
〔実施例3〕 IRSAL cDNAの塩基配列の決定および発現組織の同定
[方法]
塩基配列の決定
IRSAL遺伝子(単離した全長cDNA)を含む約2.0kbpのEcoR I−Xho I断片をpBluescript SK+に導入し、exonucleaseIIIおよびS1 nucleaseを用いてDNAを段階的に削り、これらを鋳型DNAとした。ジデオキシ法に基づいたkit(Thermo Sequenase fluorescent labelled primer cycle sequencing kit,Amersham Pharmacia)およびALF DNA sequencer(Amersham Pharmacia)を用いて、5’側と3’側の両方向に塩基配列を決定した。また、決定した塩基配列の解析は、コンピューター上で塩基配列解析用ソフトDNASIS(日立)およびBLASTサーバーを用いて行った。
発現組織の同定
ヒト各組織から抽出・精製されたポリ(A)RNA 1μgから構成されるHuman 12−Lane Multiple Tissue Northern Blot(Clontech)およびプローブの鋳型としてIRSAL全長cDNAを含むEcoR I−Xho I断片とkitに添付されていたβ−actin cDNAを用いてNorthern blotを行った。すなわち、HYBRIDIZATION OVEN(Amersham)にてメンブレンをプレハイブリダイゼーション溶液(5×SSPE;0.75M NaCl,50mM NaHPO,5mM EDTA−Na,pH7.4,50% formamide,5xDenhart’s Solution,1% SDS,100μg/mL salmon sperm)12mLで42℃、2時間プレハイブリダイゼーションを行い、さらにプレハイブリダイゼーション溶液にプローブ液(>20×10c.p.m./mL)10mLを加え、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。
ハイブリダイゼーション後、塩濃度の違う2種類の洗浄液(1×SSC,0.1% SDSもしくは0.2×SSC,0.1% SDS)でメンブレンを洗い、充分にバックグラウンドを落とし、メンブレンをプラスチックパックしてイメージングアナライザー(FUJIX BAS 2000 SYSTEM,富士写真フィルム)もしくはオートラジオグラフィーにて解析を行った。また、定量はFUJIX BAS 2000 SYSTEMにて行った。プローブはRandom primer DNA labelling kit(Takara)を用いて、[α−32P]dCTP(3,000 Ci/mmole,Amersham)でラベルした。ラベルの手順はキットのプロトコールに従った。
反応後のcDNAプローブは、spin−column法(Sambrook et al.,1989)によって、Sephadex G−50mid.(Pharmacia)を用いて精製した。再ハイブリダイゼーションは、解析後のメンブレンを1% SDS,0.1×SSCで30分間煮沸してcDNAプローブを剥がして除去し、再びプレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションを行った。
[結果]
IRSAL cDNAは1,008塩基対、336アミノ酸からなるORF(open reading flame)をコードし、その分子構造はPINCH(particularly interesting new Cys−His protein)タンパク質と類似している
スクリーニングにより得られたプラスミド(クローン番号80)は、約2.0kbpからなるインサートを含んでいた。そこで、この約2.0kbpからなるcDNAの全塩基配列を決定したところ、1,008塩基対、336アミノ酸(推定)からなるORFが存在していることがわかった。これらの配列を図3に示す。また、塩基配列を配列番号3、推定アミノ酸配列を配列番号2とする。
塩基配列より予想されたアミノ酸配列から、IRSALは分子内にLIMドメインを5個有し、この分子がほとんどLIMドメインのみで構成されているLIM−only proteinであることが判明した。また、IRSALと他のLIMタンパク質は、LIMドメイン内で高い相同性を示し、特にヒト胎児期肝臓発現ライブラリーから単離されたPINCH(particularly interesting new Cys−His protein)タンパク質(Rearden,1994)は、IRSALと分子構造が類似していることがわかった。
IRSALはインスリンやIGF−Iの標的組織での発現が確認され、特に心臓において発現が強い
次に、IRSALの様々な組織における発現様式を調べるため、ヒト各組織由来mRNAから作られたメンブレン(Human 12−Lane Multiple Tissue Northern Blot)および32Pで標識したIRSAL全長cDNAプローブ(配列番号3)を用いてNorthern blotを行った。結果を図4に示す。
その結果、約2.4kbpと約2.0kbpの位置にIRSAL mRNAのバンドが確認された。また、IRSALはインスリンやIGF−Iの標的組織である心臓、骨格筋、大腸、脾臓、腎臓、肝臓、小腸、胎盤、肺などで発現が確認され、特に心臓において発現が強いことが明らかとなった。
〔実施例4〕HEK293細胞を用いたIGF−Iシグナル伝達経路におけるIRSALの機能の解析
[方法]
細胞培養
HEK(ヒト胚腎)293T細胞(東京大学大学院農学生命科学研究科塩田邦郎博士から供与された)は、増殖用培地としてDMEMに最終濃度10%となるようにFCSを加えたもの、無血清培地としてDMEMに最終濃度0.1%となるようにBSAを加えたものを用いた。
リン酸カルシウム法による293T細胞への遺伝子導入
293T細胞を100mm試験皿に1.0×10個ずつ播種し、増殖用培地で48時間培養した。またtransfectionを行う1時間前に増殖用培地を新しいもの交換した。transfection solutionは以下のように調製した。滅菌水440μLにDNAを10μg加え、さらに2×HBS(HEPES buffered saline),pH7.05[2×Hebs(42mM HEPES,290mM NaCl,pH7.05)500μLに70mM NaHPOを10μL加えたもの]を510μL入れよく混ぜ合わせた。この溶液に2.5M CaCl 50μLを徐々に滴下してよく混ぜ合わせた後、室温にて30分放置した。インキュベート後、この溶液1mLを攪拌してtransfection solutionとした。先の新しく培地を交換した試験皿にtransfection solution 1mLを滴下しながら加え、37℃で12時間〜18時間インキュベートした。その後、培地を新しい増殖用培地に換え、さらに24時間培養後、実験に用いた。
GFP−IRSAL高発現293T細胞の抽出液の免疫沈降、SDS−PAGEおよびimmunoblot
pEGFPもしくはpEGFP−IRSALを導入した293T細胞を無血清培地で12時間〜18時間インキュベートし、静止期に同調した。この細胞を100ng/mL IGF−Iで処理し、様々な時間でLysis buffer(20mM Tris−HCl pH8.0,150mM NaCl,1mM NaF,10% glycerol,1% NP−40,1mM NaVO,100KIU/mL aprotinin,20μg/mL PMSF,10μg/mL leupeptin,5μg/mL pepstatin,10mg/mL PNPP)800μL/試験皿を用いて掻き取った。これを14,000×g,4℃で20分間遠心し、細胞抽出液を作成した。細胞抽出液のタンパク質濃度をBio−Rad Protein Assay Kit(Bio−Rad)を用いてキットのプロトコールに従って測定した。一方、免疫沈降をする場合には、タンパク質濃度の等しい細胞抽出液に抗IRS1抗体(10μL)、抗IRS2抗体(10μL)をそれぞれ加え、4℃で12時間反応させた。この反応液に40μLのprotein A−Sepharose[50%(v/v);Pharmacia Biotech]を加え、さらに4℃で2時間反応させた。遠心により免疫沈降物を集め、washing buffer(20mM Tris−HCl pH8.0,150mM NaCl,1mM NaF,10% glycerol,0.1% NP−40)を用いて3回洗浄した。この免疫沈降物に60μLのLysis bufferと30μLの3×Laemmli’s sample buffer(9% SDS,15% glycerol,30mM Tris−HCl pH7.8,0.05% bromophenol blue,6% 2−mercaptoethanol)を加え、5分間煮沸して、SDS−PAGEおよびimmunoblotのサンプルとした。なお、抗IRS1抗体および抗IRS2抗体は、Ogiharaらが用いたペプチドと同様の配列を有するものを合成し(Ogihara et al.,1997a)、ウサギに免疫して作成した。
細胞抽出液を用いた免疫沈降、SDS−PAGEおよびimmunoblotは、前出の方法に従った。ただし、ブロッキング終了後、メンブレンを抗ホスホチロシン抗体(1:3,000,癌研究会癌化学療法センター基礎研究部矢守隆夫博士より供与された)、抗phospho−Erk抗体(1:1,000,New England BioLabs)、抗phospho−Akt抗体(1:1,000,New England BioLabs)にて4℃で一晩インキュベートして一次抗体の結合を行った。
[結果]
293T細胞におけるIRSALの高発現は、IGF−I刺激に応答したIRS1およびIRS2のチロシンリン酸化を変化させる
次に、IRSALは、IRSファミリータンパク質のうちIRS1とIRS2に結合することが明らかとなっていることから、IRSALがレセプターキナーゼによるIRS1およびIRS2のチロシンリン酸化に与える影響について、同様な実験系を用いて検討した。結果を図5に示す。
その結果、IGF−I刺激に応じて、IRS1やIRS2がチロシンリン酸化されるが、GFPのみを高発現させた対照細胞と比較して、GFP−IRSALを高発現させた細胞ではIGF−IによるIRS1のチロシンリン酸化が増強していることを発見した。これに対して、対照細胞と比較してGFP−IRSALを高発現させた細胞では、IGF−IによるIRS2のチロシンリン酸化は、抑制されていた。またこのとき、GFP−IRSALの発現は、細胞抽出液を用いたイムノブロットにより確認できたが、IRS1やIRS2に結合しているGFP−IRSALは、結合量が少ないためか、IRS1やIRS2との共沈降実験により確認できなかった。今後の検討が必要である。これらの結果から、IRSALはIRS1およびIRS2のIGF−I誘導性チロシンリン酸化を変化させることが明らかとなった。
293T細胞におけるIRSALの高発現は、IGF−I刺激に応答したAkt の活性化に影響しないが、Erkの活性化を増強する
さらに、IRSALがIRSよりもさらに下流のシグナルに与える影響について検討した。IGF−IによるIRS1やIRS2のチロシンリン酸化に対するIRSALの影響が、下流のMAP kinase経路およびPI 3−kinase経路の活性化にどのように反映されているかについて、同様な実験系を用いて調べた。結果を図6に示す。
IGF−I刺激に応じてErkやAktはリン酸化され活性化するが、抗phospho−Erk抗体および抗phospho−Akt抗体を用いたimmunoblotの結果、IRSALはIGF−I刺激によるErkの活性化を増強し、Aktの活性化には影響を与えないことが明らかとなった。これらの結果から、IRSALはIGF−IによるPI 3−kinase経路の活性化には影響を与えないが、MAP kinase経路の活性化は増強させることが明らかとなった。
〔実施例5〕 IRSALの発現が糖の細胞内取り込みに与える影響
[方法]
L6筋芽細胞の培養および筋管細胞への分化
本研究で用いたラット骨格筋由来筋芽細胞L6 myoblast(ATCC No.CRL 1458 東京農工大学農学部、矢ケ崎一三教授より供与された)は以下の方法で培養を行い、以後の実験に用いた。L6細胞の培養は、150cmのフラスコ(IWAKI)に、培養培地としてDMEM(Dulbecco’smodified Eagle’s medium(Nissui))+10%FBS(fetalbovin serum)を20mL加え37℃のCOインキュベーター中(Air:CO,100% humidity)で行った。細胞の継代は以下の方法で行った。Subconfluentになった細胞に0.25% trypsin+0.02%EDTAを4mL加え、37℃のCOインキュベーター中で数分間静置し、細胞を剥離させた。この溶液にDMEM+10%FBSを6mL加えて数回ピペッティングした後、15mL遠沈管に移し入れ、600×gで5分間遠心した。遠心後、上清を吸い取り、あらたにDMEM+10%FBSを5mL加え、よくピペッティングし細胞を均一にした後、細胞数を計測した。新しい150cmフラスコに1×10cells/20mL/フラスコの濃度になるように細胞を播き、継代用とした。
遺伝子導入
L6筋芽細胞を24 well plateに6.0×10個ずつ播種し、DMEM+10% FBS培地で24時間培養した。培養後、TransFastTM Transfection Reagent(Promega)0.75μLを用いて、0.25μgのpCMV/HisもしくはpCMV/His−IRSALを細胞に導入した。遺伝子導入の方法はキットのプロトコールに従った。遺伝子導入から48時間後に培地をDMEM+2%FBSに換え、2日毎に培地交換を行い、約80〜90%の細胞が筋管細胞に分化するまで培養した。分化後、培地をDMEM+0.1%BSAに換えて24時間培養し、細胞を静止期に同調した後に、各因子で処理を行い、糖取り込みを測定した。
糖の取り込み
細胞を終濃度10−8Mのインスリンで30分間処理をした。Hepes buffer(20mM Hepes,140mM NaCl,5mM KCl,2.5mM MgSO,1mM CaCl,pH7.4)で細胞を2回洗浄後、次いで500μLの0.5μCi/mL 2−deoxy−D[2,6−H]glucose,10μM 2−deoxy−D−glucoseを含むHepes bufferで37℃で10分間incubationした。そしてbufferを吸引・除去後、1mLのice cold PBS(−)で3回洗浄して、その後200μLの0.05 N NaOHを加えて、ピペッティングする事により細胞を溶解し、5mLの液体シンチレーションカクテル(クリアゾル)を加えた後、液体シンチレーションカウンター(Aloka)で細胞に取り込まれた2−deoxy−D[2,6−H]glucoseの放射活性を測定した。結果を図7に示す。
結果に示すように、IRSALの強制発現によって、インスリン刺激に依存して増加する糖の取り込みが抑制された。
産業上の利用性
本発明のタンパク質IRSALは糖の細胞内取り込みを制御する活性を有することから、該タンパク質をコードする本発明の遺伝子irsalの発現異常は、糖の細胞内取り込み上重大な障害となることが推測される。
従って、本発明のタンパク質IRSALを利用して、糖の細胞内取り込みを促進または阻害する化合物をスクリーニングすることができ、これらの化合物は2型糖尿病の治療薬として期待される。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【配列表】
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【図面の簡単な説明】
図1は、抗FLAG抗体を用いたimmunoblotにより、IRSALとIRS1の結合を調べた結果を示す図である。
図2は、酵母ツーハイブリッドアッセイを用いてIRSALとIRS1 deletion mutantとの結合を調べた結果を示す図である。IRS1 deletion mutantの模式的な図を左に、アッセイの結果を右に示す。
図3は、単離されたIRSAL cDNA塩基配列と、該塩基配列から予想されるアミノ酸配列を示す図である。
図4は、各種ヒト組織におけるIRSAL mRNAの発現をノーザンブロットにより調べた結果を示す図である。
図5は、IRSALの発現がIGF−I刺激によるIRS1およびIRS2のチロシン残基リン酸化に及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
図6は、IRSALの発現がIGF−I刺激によるErkおよびAktの活性化に及ぼす影響を調べた結果を示す図である。
図7は、IRSALの発現が、ラット骨格筋由来筋芽細胞L6において糖の細胞内取り込みに及ぼす影響を調べた結果を示す図である。

Claims (9)

  1. 配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質のアミノ酸番号493〜694で示す領域に結合し、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有することを特徴とするタンパク質。
  2. 以下の(a)または(b)のタンパク質。
    (a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質、
    (b)配列番号2のアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質。
  3. 請求項2に記載のタンパク質をコードする遺伝子。
  4. 以下の(a)または(b)のDNAからなる遺伝子。
    (a)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNA、
    (b)配列番号3に記載の塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖の細胞内取り込みを制御する活性を有するタンパク質をコードするDNA。
  5. 請求項3または4に記載の遺伝子を含有することを特徴とする組換えベクター。
  6. 請求項5に記載の組換えベクターを保持する形質転換体。
  7. 請求項6に記載の形質転換体を培養し、当該培養物から請求項1または2に記載のタンパク質を回収することを特徴とする、請求項1または2に記載のタンパク質の製造方法。
  8. 請求項1または2に記載のタンパク質に対する抗体。
  9. 配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と請求項1または2に記載のタンパク質を用いることを特徴とする、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と請求項1または2に記載のタンパク質との結合を阻害または促進する化合物のスクリーニング方法。
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