【発明の詳細な説明】
セラギネラ・レピドフィラ由来のトレハロース−6−リン酸
シンターゼ/ホスファターゼのcDNAで形質転換することによる、
生物中のトレハロース含量の増加法
技術の属する分野
本発明は、生物の炭水化物代謝の遺伝的修飾における組換えDNA法の使用、
これを行うために必要なDNA、特定の炭水化物の製造に関与する酵素ならびに
修飾生物およびその一部に関する。このような生物またはその一部は、上記特定
の炭水化物の製造に使用でき、または食品または成分として加工でき、上記炭水
化物の存在の結果として改善された特性を有する。
背景
細菌、藻類、酵母、真菌、昆虫、甲殻類および植物のような種々の生物の代謝
に適合する溶質の蓄積は、溶質の浸透圧調節作用のために水分不足、塩分濃度ま
たは凍結に対抗するために使用する適応機構として進化の過程で発生した。これ
らの浸透圧活性化合物は、ポリオール−ソルビトール、マンニトール、アラビト
ールまたはグリセロール;プロリンまたはグリシン−ベタイン誘導体のようなア
ミノ酸;およびジサッカライドスクロースおよびトレハロースを含む[Yancey,P
.H.,Clark,M.E.,Hand,S.C.,Bowlus,R.D.& Somero,G.N.(1982)Scie
nce 217:1214-1222]。
オスモライトであるのと同時に、グリセロール、スクロースおよびトレハロー
スは、無水条件下の膜およびタンパク質の構造的および機能的安定化に重要な役
割を担うため、オスモプロテクタントとみなされる。これは、水分子がオスモプ
ロテクタントに置換し、これはこの方法で細胞内巨大分子の可溶性を維持するた
めであるように見える[Clegg,J.S.(1985)The physical properties and meta
bolic status of Artemia cysts at low water contents:The“water replacem
ent hypothesis”,pp.169-187:Membranes,metabolism and dry organisms,L
eopold,A.C.(編)Cornell Univ.Press,Ithaca,New York]。トレハロースは
、特に、オスモプロテクタントとして最良の生物物理学的および生物化学的特性
を有する[Crowe,J.H.,Crowe,L.M.& Chapman D.(1984)Science 223:
701-703;Crowe,J.H.,Crowe,L.M.,Carpenter,J.F.& Aurell Wistrom,C
.(1987)Biochem.J.242:1-10]。
トレハロース[O−α−D−グルコピラノシル−(1−1)−α−グルコピラノ
ース]は、還元基を介して結合した二つのグルコース分子の二量体である。これ
らの還元基はトレハロースでは存在せず、従って糖の還元基がタンパク質のアミ
ノ基と反応し、黒変をもたらし、食品の色および香味の変化をもたらすメイラー
ド反応をしない[Nursten,H.E.(1986)Maillard Browning reactions in dried
foods,pp.53-68:Concentration and drying of foods,Macarthy,D.(編),
Elsevier Applied Science,London]。
熱量測定、赤外線分光学、核磁気共鳴およびX線回析を使用したリポソームで
の実験は、トレハロースが水非存在下で脂質を流動相に維持でき、その結果、相
分離、漏出および膜融合を避けることを示す[Crowe,J.H.,Crowe,L.M.& Ja
ckson,S.A.(1983)Arch.Biochem.Biophys.220:477-484;Crowe,J.H.,Cro
we,L.M.,& Chapman D.(1984)Science 223:701-703;Crowe,L.M.,Womersle
y,C.,Crowe,J.H.,Reid,D.,Appel,L.,& Rudolph,A.(1986)Biochem.B
iophys.Acta 861:131-140;Crowe,J.H.,Crowe,L.M.,Carpenter,J.F.,&
Wistrom,A.(1987)Biochem.J.242:1-10;Lee,C.W.B.,Waugh,J.S.& Gr
iffin,R.G.(1986)Biochemistry 25:3724-3737;Lis,L.J.,Tamura-Lis,W.
,Lim,T.K.& Quinn,P.J.(1990)Biochim.Biophys.Acta 1021:201-204]。
これはトレハロースのヒドロキシル基とリン脂質のリン酸エステル基の間の、水
素結合を介した相互作用によるものであり、また膜を被覆し、その内部に存在す
る他の分子の漏出を避けるトレハロース−トレハロース相互作用によるものであ
ると提案されている。
トレハロースが完全脱水下で酵素の活性を保護することができることが判明し
た。例えば、T7DNAポリメラーゼ、T4DNAリガーゼまたは異なる制限酵
素をトレハロース存在下に脱水し、この状態を数ヶ月保った場合、温度は37、
55または70℃で、再水和した場合、その活性を100%回復する[Colaco,C
.,Sen,S.,Thangave1u,M.,Pinder,S.& Roser,B.(1992)Bio/Technology
10:1007/1111]。
ニンジンまたはタバコ細胞がトレハロース存在下で低温保存できることもまた
示された[Bhandal,I.S.,Hauptman,R.M.& Widholm,J.M.(1985)Plant Phy
siol.78:430-432]。2mMより低いトレハロース濃度は、単離ホウレンソウチ
ラコイドの低温保存にスクロースよりも有効であることも報告されている[Hinch
a,D.K.(1989)Biochem.Biophys.Acta 987:231-234]。
トレハロースを合成する生物は、細菌、酵母、ある真菌胞子、線虫類、甲殻類
幼虫、昆虫および植物、特にある種の復活植物、例えばミロサムナス・フラベリ
フォリウスおよびセラギネラ・レピドフィラを含む[Adams,R.P.,Kendall,E
.& Kartha,K.K.(1990)Biochem.Systematics & Ecology 18:107-110;Bianch
i,G.,Gamba,A.,Murelli,C.,Salamini,F.& Bartels,D.(1993)Physiol
.Plant,87:223-226;Weisburd,S.(1988)Sci,News 133:107-110]。後者の種
は、ミロサムナス・フラベリフォリウスより少なくとも3倍多いトレハロースを
-9]。セラギネラ・レピドフィラにおいて、トレハロースは可溶性炭水化物の8
0%を占め、このためこの植物はトレハロースの最高含量の生物の一つとなって
いる。この植物は、液体窒素中で低温保存でき、融解した場合に正常に生き返る
。極真空、100℃までの加熱および大量の電離放射線にも、傷害を受けること
なく生存する[Roser,B.(1991)Trends Food Sci.Technol.2]166-169;Roser,
B.& Colaco,C.(1993)New Scient.138:25-28;Weisburd,S.(1988)Sci.News
133:107-110]。
エシェリキア・コリおよびサッカロマイセス・セレビシアエ中でのトレハロー
スの生物合成は、グルコース−6−リン酸およびUDP−グルコースからトレハ
ロース−6−リン酸を合成するトレハロース−6−リン酸シンターゼおよび最後
にトレハロースを製造するトレハロース−6−リン酸により触媒される二つの酵
素段階を含む[Bell,W.,Klaassen,P.,Ohnacker,M.,Boller,T.,Herweijer
,M.,Schoppink,P.,Van Der Zee & Weimken,A.(1992)Eur.J.Biochem.20
9:951-959;Cabib,E.& Leloir,L.F.(1957)J.Biol.Chem.231:259-275;Gia
ver,H.M.,Styrvold,O.B.,Kaasen,Y.& Strom,A.R.(1988)J.Bacterio
l.170:2841-2849;Londesborough,J.& Vuorio,O.(1991)J.Gen.Microbi
ol.137:323-330]。細菌および酵母から両方の酵素がすでに単離され、配列決定
されている[Bell,W.,Klaassen,P.,Ohnacker,M.,Boller,T.,Herewijer,
M.,Schoppink,P.,Van Der Zee & Weimken,A.(1992)Eur.J.Biochem.212:
315-323;Kaasen,I.,Falkenberg,P.,Styrvold:O.B.& Strom,A.R.(1992
)J.Bacteriol.174:889-898;McDougall,J.,Kaasen,I.Strom,A.R.(1993
)FEMS Microbiol.Let.107:25-30]。
トレハロース−6−リン酸シンターゼおよびホスファターゼをそれぞれコード
するエシェリキア・コリのotsAまたはotsBの欠失がオスモトレランスおよびサー
モトレランスの損失をもたらす。更に、otsAおよびotsB遺伝子の転写は浸透圧性
および熱性ストレス下で誘導される[Kaasen,I.,Falkenberg,P.,Styrbold,O
.B.& Strom,A.R.(1992)J.Bacteriol.174:889-898;Hengge-Aronis,R.,Kl
ein,W.,Lange,R.,Rimmele,M.& Boos,W.(1991)J.Bacteriol.173:7918-
7924]。
酵母サッカロマイヤス・セレビシアエにおいて、トレハロース−6−リン酸シ
ンターゼ/ホスファターゼオリゴマーは3サブユニット、TPS1(56kDa)、
TPS2(100kDa)およびTPS3(130kDa)を有し、それぞれトレハロース
−6−リン酸シンターゼ、トレハロース−6−リン酸ホスファターゼおよび調節
機能を有する可能性のあるポリペプチドに対応する[Bell,W.,Klaassen,P.,O
hnacker,M.,Boller,T.,Herweijer,M.,Schoppink,P.,Van Der Zee & Wei
212:315-323;Thevelein,J.M.& Hohmann,S.(1995)Trends Biochem.Sci.20:
3-10;Vuorio,O.E.,Kalkkinen,N.& Londesborough,J.(1993)Eur.J.Bioc
hem.216:849-861]。
酵母のホロ酵素トレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホスファターゼの活性
は、まだほとんど解明されていない複雑な調節を有する。第一に、TPS1サブ
ユニットは脱リン酸化により活性化されるように見える[Panek,A.C.,de Arau
jo,P.S.,Neto,M.V.& Panek,A.D.(1987)Curr.Genet.11:459-465]。T
PS1遺伝子が変異により不活性化された場合、酵母がグルコース中での生育
ができないことは、TPS1サブユニットが細胞へのグルコースの流れを調節す
る役割を担うためであるとまた示されている[Thevelein,J.M.& Hohmann,S.
(1995)Trends Biochem.Sci.20:3-10]。シンターゼとグルコースセンサーとい
うTPS1のこの二つの機能は、cAMPへのキナーゼ依存性がTPS1不活性
化のシグナルに関与しているように見える代謝調節機構を示す[Panek,A.C.,d
e Araujo,P.S.,Neto,M.V.& Panek,A.D.(1987)Curr.Genet.11:459-46
5;Thevelein,J.M.& Hohmann,S.(1995)Trends Biochem.Sci.20:3-10]。
酵母において、熱[De Virgillo,C.,Hottiger,T.,Dominguez,J.,Boller
,T.& Wiemken,A.(1994)Eur.J.Biochem.219:179-186;Hottiger,T.,D Vi
rgilio,C.,Hall,M.N.,Boller,T.& Weimken,A.(1994)Eur.J.Biochem
.219:187-193]、凍結[Oda,Y.,Uno,K.& Ohta,S.(1986)App.& Environ.M
icrobiol.52:941-943]および脱水負荷[Gadd,G.M.,Chalmers,K.& Reed,R
.H.(1987)FEMS Microbiol.Lett.48:249-254]への耐性におけるトレハロース
の役割の明らかな遺伝的および生化学的証拠がある。
35Sプロモーターの制御下にあるエシェリキア・コリ由来のotsAおよびotsB
遺伝子を使用したトランスジェニックタバコでのトレハロースの合成が報告され
ている。しかしながら、トレハロースレベルは生重量の0.012%であり、ス
ケールアップおよび産業化目的では不充分である[Goddijn,O.J.M.,Verwoerd
,T.C.,Voogd,E.,Krutwagen,R.,de Graaf,P.,van Dun,K.,de Laat,A
.& van den Elzen,P.(1995)Plant Physiol.108 Supplement:149]。旱魃耐性
トランスジェニック植物が酵母由来のTPS1遺伝子を使用して得られることが
Palva,E.T.,Tunnela,O.E.& Londesborough,J.(1996)Nature 379:683-68
4]。これらの植物でのトレハロース合成は、乾燥重量で0.08から0.32mg/
gであり、これらのジサッカライドのトランスジェニック植物でのスケールアッ
プ製造の目的にはまだ少ない量である。
ある生物内での異種遺伝子の過発現は、コドンの使用が遠い種で系統発生の観
点から異なるという事実を考慮すべきである[Fox,T.D.(1987)Ann.Rev.Gene
t.21:67-91]。この理由のために、酵母または細菌遺伝子の植物細胞内での発
現は、細胞がこれらの写しを十分に翻訳できないため、高くない。酵母のTPS
1およびTPS2遺伝子またはエシェリキア・コリのotsAおよびotsB遺伝子の植
物細胞内での発現は限定されている。これらの問題を解決するために、TPS1
およびTPS2コドンを直接変異誘発により修飾することが示されている[Londe
aborough,J.& Vuorio,O.,Helsinki,Finland,特許登録番号0542225
4号(1995年6月6日)]。
植物内で大規模にトレハロースを製造する他の戦略は、植物自体からの遺伝子
の使用である。生物で報告されている最も高いトレハロースレベルを製造するも
のの一つである復活植物セラギネラ・レピドフィラ(乾燥重量の10%対乾燥重
量の15%を製造する酵母)[Muller,J.,Boller,T.& Wiemken,A.(1995)Pla
nt Science 112:1-9]からのトレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホスファタ
ーゼcDNAの単離は、この遺伝子を植物内で過発現した場合に、上記問題を回
避することを可能にする。これは、4つの理由による。最初に、トレハロース−
6−リン酸シンターゼおよびトレハロース−6−リン酸ホスファターゼをコード
するsl-tps/p遺伝子が構造的に転写され、水和し、乾燥したセラギネラ・レピド
フィラで報告されている高レベルのトレハロースと相関する。上記に記載のよう
に、これは酵母のTPS1と反対に翻訳後調節またはその酵素活性を限定する代
謝機構を有しないように見える。第2に、sl-tps/pはセラギネラ・レピドフィラ
で単一コピーであり、この植物内でのトレハロース合成がこの遺伝子によりコー
ドされる酵素(SL-TPS/P)に専ら起因する。従って、単一遺伝子sl-tps/pが、トラ
ンスジェニック生物で発現された場合、高レベルのトレハロースを製造できるこ
とが予測できる。第3に、sl-tps/pコドンは、エシェリキア・コリまたは酵母と
対照的に、他の植物のそれと近い。これは、sl-tps/p遺伝子を過発現する植物に
おいて、かなりの高レベルのトレハロースの製造をもたらす。最後に、セラギネ
ラ・レピドフィラのsl-tps/p遺伝子の生産物が2機能性酵素であり、シンターゼ
とホスファターゼの活性を含むため、数個よりも一つの遺伝子だけを挿入するほ
うが技術的により簡単である。
トレハロースの使用の可能性は、農業および製薬産業に及ぶ。先ず、トランス
ジェニック植物内でのトレハロースの合成は、乏しい水、過剰の暑さ、寒さまた
は塩分濃度の条件でのそれらの生存を可能にする。これは季節的農業ならびに乾
燥または半乾燥地帯での農業の生産性の増加をもたらす。更に、未来の世界規模
での予測できる水不足を仮定すれば、灌漑農業はまた限定される。これらの条件
下で、水の使用量の減少はトレハロースを合成する作物の収率または生産性に影
響しない。さらに、トレハロースを合成する植物または植物の一部は、冷却の必
要なく乾燥状態で長期間貯蔵でき、消費者が要求する感覚忍容性特性を保存する
。農学的生産物における貯蔵寿命の空前の増加は、輸送および貯蔵費用を減少す
るため、市場に強い衝撃を与える。
第2に、植物および他の形質転換生物内でのトレハロースの高レベルの生産は
、現在1kg当たり200ドルに相当する酵母からトレハロースを得る費用と比較
した場合、産業におけるトレハロースの安価な源を表す[Kidd,G.& Devorak,J
.(1994)Bio/Technol.12:1328-1329]。トレハロースは脱水状態で食物を保護し
、再水和した場合に味、香りおよびコンシステンシーの特性を保存する独特な添
加剤である。前記のために、トレハロースを加工食品に包含した場合、再水和し
た場合に新鮮な食物として摂取される。これはまだ使用されているが、健康への
危険な影響の可能性または証拠のために消費者から拒絶されている保存剤および
防腐剤の全てがこれにより除くことができることを意味する。更に、トレハロー
スが生体分子を活性に保つという事実は、それを含む脱水食品が新鮮生産物と同
等であり、トレハロースを含まない脱水食品よりも高い栄養価を有することを意
味する。トレハロース存在下での加工そのものは、空気乾燥であって、食品、そ
の加工物または生体分子を乾燥する市場で最も低価格の方法である[Roser,B.(
1991)Trends Food Sci.& Tech.2:166-169]。
トレハロースを二つのグルコース分子に分解する酵素トレハラーゼが哺乳類お
よびヒトの消化管で発見されている。トレハロースを含む蜂蜜、マッシュルーム
、パン、ビール、ワインおよびヴィネガーの食品の一日の消費の範囲を考慮して
[Roser,B.& Colaco,C.(1993)New Scient.138:25-28]、このジサッカライド
の他の食品での消費は健康の害にならない[Gudmand-Hoyer,E.(1994)Am.J.Cl
in.Nutr.59(suppl.):735S-741S]。実際、食品保存剤のための添加剤としての
トレハロースの使用は、すでにイギリスで認可されており[Roser,B.(1991)Eu
r.Biotechnol.News 111:2]、従ってメキシコ、米国または他の国での認可も問
題はない。
最後に、大量のトレハロースが利用可能なことは、酵素、ワクチン、ホルモン
および他のタンパク質ならびに医薬の、生物活性の損失がない、乾燥状態での保
存剤としての使用を可能にする。
本発明の要約
本発明は、トレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホスファターゼ活性をコー
ドする植物起源のcDNA、特に、復活植物セラギネラ・レピドフィラの2機能
性酵素トレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホスファターゼ(SL-TPS/P)をコー
ドする、sl-tps/p遺伝子のトランスジェニック生物内での単離、クローニングお
よび過発現を含む。この酵素は、トランスジェニック植物で高レベルのトレハロ
ースを得ることを可能にする。更に、植物は暑さ、寒さ、塩分濃度および脱水負
荷に耐性である。このcDNAの、細菌、酵母および動物のような他の生物の形
質転換に適当なベクターへのサブクローニングは、その生物内でのトレハロース
合成を可能にし、それらの生物を暑さ、寒さ、塩分濃度および脱水負荷に耐性と
する。更に、sl-tps/p cDNAはまたその遺伝子で形質転換した微生物、単離
細胞および完全植物または動物内でのトレハロースの大量の合成の使用にできる
。
図面
図1.セラギネラ・レピドフィラの酵素SL-TPS/Pの構造。この図は、酵母のT
PS1とTPS2のアミノ酸配列の類似性を基本にしたSL-TPS/Pの大きさ(kDa)
およびその構造を示す。斜線および交差斜線は類似領域を示す。
図2.sl-tps/p遺伝子cDNAの制限地図。この地図の制限部位は、ヌクレオチ
ド配列で確認した。図の上部は制限酵素の開裂部位を示す:EcoRI(R)、EcoRV(
E)、HindIII(H)、SacI(Sc)、Sa1I(S)。BamHI、KpnI、PstI、SmaI、XbaIの酵
素部位はない。図の下部において、cDNAの長さ(kb)を見ることができる。c
DNAの5’末端は図の左側に見ることができる。
図3.プラスミドpIBT6の模式図を示す。略語は:AmpR、アンピリシンへの耐性
を付与する遺伝子;LacZ、β−ガラクトシラーゼ遺伝子のプロモーター;sl-tps
/p、トレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホスファターゼのcDNA;T3
およびT7は、インビトロ転写のためのファージT3およびT7のプロモーター
を意味する。プラスミドpIBT6は約6150bpのサイズを有する。矢印は転写の
方向を示す。
図4.発現ベクターpBN35の模式図。略語は:RBおよびLB、アグロバクテリ
ウム・ツメファシエンスのTiプラスミドのT−DNAのそれぞれ右および左の
境界;KanR、エシェリキア・コリでの選択のためのカナマイシンに耐性を付与す
る遺伝子;pNOS、ノパリンシンターゼ遺伝子のプロモーター;NPTII、ネオマイ
シンホスホトランスフェラーゼをコードし、カナマイシンに耐性の植物細胞の選
択を可能にする遺伝子;pA、ポリ(A)シグナル;35S、カリフラワーウイルス
35Sプロモーター;SMC、多重クローニング部位を示す。プラスミドpBN35
は約12kbの大きさである。矢印は転写の方向を示す。
図5.プラスミドpIBT36の模式図。略語はRBおよびLB、アグロバクテリウム
・ツメファシエンスのTiプラスミドのT−DNAのそれぞれ右および左の境界
;KanR、エシェリキア・コリでの選択のためのカナマイシンに耐性を付与する遺
伝子;pNOS、ノパリンシンターゼ遺伝子のプロモーター;NPTII、ネオマイシン
ホスホトランスフェラーゼをコードし、カナマイシンに耐性の植物細胞の選択を
可能にする遺伝子;pA、ポリ(A)シグナル;35S、カリフラワーウイルス35
Sプロモーター;sl-tps/p、トレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホスファタ
ーゼcDNAを示す。プラスミドpIBT36は約15.2kbの大きさである。矢印は
転写の方向を示す。
詳細な説明
以下の記載において、2機能性酵素トレハロース−6−リン酸シンターゼ/ホ
スファターゼをコードするcDNAをsl-tps/pと呼ぶ;SL-TPS/Pは酵素トレハロ
ース−6−リン酸シンターゼ/ホスファターゼである;sl-tpsはトレハロース−
6−シンターゼをコードする配列である;そしてSL-TPSはトレハロース−6−リ
ン酸シンターゼ活性を有するポリペプチドである。
クローンsl-tps/pを単離するために、報告されているヌクレオチド配列から推
測されるトレハロース−6−リン酸シンターゼのアミノ酸配列と比較を行った。
使用した配列はエシェリキア・コリ、EC-otsA[Kaasen,I.,McDougall,J.,Str
om,A.R.(1994)Gene 145:9-15];シゾサッカロマイセス・ポンベ、SP-TPS1[Bl
azquez,M.A.,Stucka,R.,Feldman,H.& Gancedo,C.(1994)J.Bacterio1
.176:3895-3902];アスペルギルス・ニガー、AN-TPS1[Wolschek,M.F.& Kubi
cek,C.P.(1994)NCBI;配列番号551471;未刊行];サッカロマイセス・セレビ
シアエ、SC-TPS1[McDougall,J.,Kaasen,Y.& Strom,A.R.(1993)FEMS Micr
obiol.Let.107:25-30];クルイベロマイセス・ラクティス、KL-GGS1[Luyten,
K.,de Koning W.,Tesseur,Y.,Ruiz,M.C.,Ramos,J.,Cobbaert,P.,The
velein,J.M.,Hohmann,S.(1993)Eur.J.Biochem.217:701-713]由来である
。上記比較を使用して、非常に保存的な領域を、変性オリゴヌクレオチドを合成
するために選択し、これをセラギネラ・レピドフィラのcDNAバンクのスクリ
ーニングに使用した。合成したオリゴヌクレオチドはTPS5'-1(YTNTGGCCNBCNTTYC
AYTAY)、TPS5'-2(GGNTKBTTYYTNCAYAYNCCNTTYCC)、TPS5'-3(MGNYTNGAYTAYWBNAARG
GNB-TNCC)、TPS3'-1(SWNACNARRTTCATNCCRTCNCK)そしてTPS3'-2(CCRWANTKNCCRTTD
ATNCKNCC)であった。
4×105で平板培養したセラギネラ・レピドフィラのcDNA発現バンク由
来の組換えバクテリオファージを使用して、オリゴヌクレオチドTPS5'-1、TPS5'
-3およびTPS3'-2とハイブリダイズする13のプラークを得た。これらの13の
バクテリオファージ単離物を再び異なる希釈で平板培養し、別々のプラークを得
た。得られたプラークで6例のみがオリゴヌクレオチドTPS5'-2およびTPS3'-1と
ハイブリダイズし、またTPS5'-1、TPS5'-3およびTPS-3'-2混合物と再ハイブリダ
イズした。これらの6個の異なる単離物のそれぞれの単一プラークを使用して、
バクテリオファージ由来のプラスミドpBluescript SK(-)を摘出した。プラスミ
ドDNAをアンピリシン中で生育したコロニーから抽出し、酵素EcoRIおよびXho
Iで切断し、対応する挿入物を単離した。異なる酵素で、およびサザンブロット
ハイブリダイゼーションの手段で制限酵素地図作成後、これら6個のクローン中
のオリゴヌクレオチドとハイブリダイズするDNAフラグメントを同定した。最
大挿入物を含むクローンをすぐに選択し(図2)、欠失を製造し、そのヌクレオチ
ド配列を決定した。このクローン、pIBT6(図3)はcDNAの単離のために選択
した相同性領域のアミノ末端に対応するオリゴヌクレオチドTPS5'-1とハイブリ
ダイズする唯一のものであった。
クローンpIBT6の挿入物の完全な配列は3223bp長であり、sl-tps/p(配列番
号1)と呼ぶ。これはSL-TPS/P(配列番号2)と呼ぶポリペプチドをコードする2
985bp長(停止コドンを含む)の読み取り枠を、994アミノ酸と共に含み、分
子量109.1kDaである。配列は32ヌクレオチドのポリ(A)テイルを含む。更
に、sl-tps/pは5'および3'非翻訳領域を含み、それぞれ110bpおよび96bp
長である。上記データは、sl-tps/pが完全な長さのcDNAクローンであること
を確認する。SL-TPS/P中の開始コドンの内容は植物で報告されているものに対応
F.& Scheele,G.A.(1987)EMBO J.6:43-48]。
SL-TPS/Pの600アミノ酸のアミノ末端領域は570アミノ酸を含む酵母シゾ
サッカロマイセス・ポンベのTPS1と53%同一であり、70%類似である。
これらの600アミノ酸はそれ自体、トレハロース−6−リン酸シンターゼを含
み、これは本明細書でSL-TPS(配列番号4)と呼び、sl-tps(配列番号3)はこれを
コードするcDNA領域である。サッカロマイセス・セレビシアエのSL-TPS/Pア
212:315-323]はまた29%同一性および52%類似性の一致を明らかにする。酵
母のTPS1とTPS2が33%同一性を有することを注目すべきである。SL-T
PS/PとTPS1またはSL-TPS/PとTPS2の間の類似性は、酵母、真菌および細
菌の異なるトレハロース−6−リン酸シンターゼまたはホスファターゼの中で高
度に保存されたアミノ酸領域に対応する。SL-TPS/PとTPS1またはTPS2の
同一性の割合は、同じ機能を有するポリペプチドをコードする遺伝子で予測され
る範囲内であり、植物と真菌の間の系統発生の関係を示す。例えば、アラビトプ
シス・タリアナのhsp101遺伝子の推測される配列が酵母の相同hsp104と比較して
、43%しか同一性を示さない場合でさえ、植物遺伝子は酵母変異体を補うこと
ができる[Schirmer,E.C.,Lindquist,S.& Vierling,E.(1994)Plant Cell
6:1899-1909]。
異なるタンパク質の推測される配列の相同性が、それらが系統発生的に関連し
てない種由来でさえ、類似の構造および関連または同一機能の証拠なることが確
立されている[Doolittle,R.F.(1995)Annu.Rev.Biochem.64:287-314]。二
つのタンパク質配列の2次構造および類似機能の測定に重要な基準は、疎水性の
パターンである[Kyte,J.& Doolittle,R.F.(1982)J.Mol.Biol.157:105-1
32]。セラギネラ・レピドフィラの酵素SL-TPS/Pおよび酵母のTPS1はほとん
ど同じ疎水性パターンを有する。これらの結果を一緒にして、SL-TPS/Pの機能は
トレハロース−6−リン酸シンターゼおよびトレハロース−6−リン酸ホスファ
ターゼの触媒活性を有する2機能性酵素のものであると結論付けることができる
。
トレハロースの機能の今日まで入手可能な情報は、このジサッカライドがセラ
ギネラの旱魃負荷中の細胞保護に能動的に関与していることを強く示す。sl-tps
/p cDNAが活性遺伝子に対応することを確認するために、上記遺伝子の発現
パターンをノーザンブロットゲルを使用して測定し、正常条件下および水欠乏条
件下での具体的転写レベルを評価した。ノーザンブロットゲルでのsl-tps/p遺伝
子発現を分析するために、セラギネラ・レピドフィラの小葉由来のポリ(A)+R
NA抽出物2μgを各ゲルレーンに充填した。サンプルは十分水和したもの、2
.5時間、5時間および1年脱水したものであった。32Pで放射標識したsl-tps/
p cDNAをプローブとして使用した。十分に水和した小葉および全ての脱水
サンプルの両方のゲルレーンに存在する3.2kbバンドが、放射能写真で観察で
きた。この結果はsl-tps/p遺伝子の構造的発現を示し、これは他の著者らが先に
なした、水和および脱水植物の両方で相対的に同じレベルのトレハロースの存在
が見られた観察と一致する[Adams,R.P.,Kendall,E.& Kartha,K.K.(1990
)Biochem.Systematics & Ecology 18:107-110]。エシェリキア・コリおよび酵
母とは異なり、セラギネラ・レピドフィラでのトレハロース−6−リン酸シンタ
ーゼ/ホスファターゼ発現は、浸透圧負荷の作用により誘導されず、植物の水和
状態と無関係に一定のままである。従って、セラギネラ中でのsl-tps/p遺伝子の
発現とトレハロースの存在の間の相関関係は、酵素活性がリン酸化および基質に
より調節される酵母とは対照的に、酵素がその活性を修飾しないことを示す[Pan
ek,A.C.,de Araujo,P.S.,Neto,M.V.& Panek,A.D.(1987)Curr.G en
et.11:459-465;Thevelein,J.M.& Hohmann,S.(1995)Trends Biochem.S
ci.20:3-10]。
セラギネラ・レピドフィラゲノム中のsl-tps/p遺伝子のコピー数を測定するた
めに、ゲノムサザンを、以下の制限酵素で切断し、各ゲルレーンに充填したセラ
ギネラ・レピドフィラのゲノムDNA 20μgを使用して行った:EcoRI、XbaI
またはBamHI。32P−標識sl-tps/p cDNAをプローブとして使用した。1.6
および6kbの二つのバンドをDNAを酵素EcoRIで切断した場合に;そしてBamHI
で消化した場合に11および12kbの二つのバンドを見ることができる。この実
験はsl-tps/p遺伝子がセラギネラ・レピドフィラのゲノム中で単一コピー遺伝子
として見られることを示す。従って、この植物中のsl-tps/p遺伝子は、セラギネ
ラ・レピドフィラの可溶性炭水化物の約80%に対応するトレハロースの合成を
唯一担うように見える。
トレハロースを合成する植物を得るために、sl-tps/pのcDNAを最初にプラ
スミドpIBT36(図5)に導く発現ベクターpBN35(図4)にサブクローンした。ベク
ターpBN35は、強く構造的なプロモーターであるカリフラワーウイルス(CaMV)3
5Sプロモーターの制御化で遺伝子の発現を可能にする[Guilley,H.,Dudley,
K.,Jonard,G.,Richards,K.,& Hirth,L.(1982)Cell 21:285-294]。プラス
ミドpIBT36は、アグロバクテリウムシステムの手段で形質転換したタバコ植物を
得るのに使用され、これは再生した場合、トレハロースを製造できた。この構築
物はアグロバクテリウムシステム、または当分野で既知の他の方法を使用して形
質転換できる植物で発現できる。得られた31個のトランスジェニック植物中、
sl-tps/p cDNAの発現は、ノーザンブロットゲルを使用して16個で検出さ
れた。高レベルのトレハロースの存在がこれらの植物中の10個で検出され、ト
レハロース−6−リン酸シンターゼの活性と対応した。トレハロースも酵素の活
性も存在しないことが検出された植物は、形質転換されていないか、ベクターpB
N35でのみ形質転換された。
酵母およびトランスジェニック植物としてのトランスジェニック生物中での大
量合成を介した、食物添加剤としてならびに医学的関心の生体分子および他の物
質のより安い値段での保存のためのトレハロースを得ることが可能となる。この
ようにするために、抽出および精製費用を削減するために、植物組織内で高レベ
ルのトレハロースを得ることが必要である。本発明は植物内でのトレハロースの
大量製造の戦略を提供し、トランスジェニック実験で最も使用されている植物の
一つであること以外に、トレハロースの大量の製造に使用できる大葉領域を有す
るタバコのcDNA sl-tps/pまたはsl-tps DNAフラグメント(適当な構築
物の)での形質転換を含む。他方、ジャガイモ植物がヘクタール辺り最大の生物
量の穀物であり、人間がジャガイモを消費することは自然であるため、トランス
ジェニックジャガイモから単離したトレハロースは、社会的および規範的体の両
方で適している。本発明のsl-tps/p cDNAまたはsl-tps cDNAフラグメ
ントがタバコおよびジャガイモ植物に限定されず、他の植物の形質転換に使用で
きることは当業者には明白である。
前記のように、酵母中での高レベルのトレハロースの製造に、代謝タイプの重
要な限定因子が存在する。本発明は、統合的Yipまたは多コピーベクターが関与
しているが、同時に、上記のように、SL-TPS/Pがその酵素活性を限定する翻訳後
または代謝的調節を有しないように見え、および更に高レベルのトレハロースを
合成できる事実から利益を得る、sl-tps/p由来のcDNAまたは適当な構築物で
のsl-tps DNAフラグメントの使用により、これらの問題を回避する方法を提
供する。これはトレハロースの大量合成を可能にするだけでなく、パン製造なら
びにビールおよびワインのアルコール発酵での酵母収率を改善する。
米、小麦およびトウモロコシのような世界的に重要な食品である穀物;本発明
で使用されるマメ科植物およびタバコのような他の植物は、構造的に、または寒
さ、暑さ、塩分濃度または旱魃に反応してトレハロースを製造できる対応するト
ランスジェニック植物を使用して、好ましくない気候条件で栽培できる。本発明
は、構造的なまたは負荷下に誘導可能なプロモーターを含む構築物中のsl-tps/p
cDNAまたはsl-tps DNAフラグメントの使用を介した、これらの耐性を
得る方法を提供する。収穫生産物は、通常では生育か可能でない条件下に栽培し
た以外は、非形質転換植物から得られる生産物とは異なり、長期間または過酷な
条件下で貯蔵できる。
構造的にそれらを含むベクターでの形質転換実験におけるsl-tps/p cDNA
またはsl-tps DNAフラグメントの使用を介してトレハロースがそれを含む組
織に付与する寒さ、暑さおよび旱魃負荷への耐性特性は、長期間、高い生存力で
、花粉、塊茎、種子および花のような器官または組織の再生を可能にし、従って
植物育種および胚原形質貯蔵計画における非常な助けを意味する。
記載の材料および方法
材料
分析グレードのBakerまたはSigma試薬を使用した。制限および修飾酵素は、Bo
ehringer-Mannheim由来であった。ZAP cDNA合成キット、Uni-ZAP XRベクターお
よびGigpack II Gold包装抽出物をStratagene Cloning Systems(USA)から得た。
ヌクレオチド配列を測定するためのSequenaseヴァージョン2.2キットをUnited
States Biochemical Corporation(USA)から得た。
復活植物セラギネラ・レピドフィラ(Hook & Grev.Spring)は、メキシコのモ
レロス州およびオアハカ州の乾燥地帯の岩状土から脱水形で採取した。これを続
いて制御条件下(平均50%湿度で24℃および16時間日照)で、コンビロン生
育室または温室で栽培した。植物に、2L植木鉢で20mlの水を一日おきに与え
た。セラギネラ・レピドフィラを脱水負荷に処理するために、全植物または小葉
をWhatman 3MM濾紙上に置くことにより空気乾燥させた。その時点から、脱水時
間を測定した。
株
cDNAバンクを、“ZAP-cDNA Synthesis Kit”[Stratagene Cloning System
s,Calif.USA;カタログ#200400、200401および2004029]の指示に従って、エシ
ェリキア・コリ株XL1-Blue MRF'中で平板培養し、株SOLRをλファージからpBlue
sciptを摘出するのに使用した。エシェリキア・コリDH5α株を使用して、サ
ブクローンし、構築物を製造した。アグロバクテリウム・ツメファシエンスLBA4
404株を使用し、タバコを形質転換し、プラスミドpRK2013を有するエシェリキア
・コリHB101株[Bevan,M.(1984)Nucl.Acids.Res.22:8711-8721]を使用して
プラスミドpIBT36をエシェリキア・コリからアグロバクテリウム・ツメファシエ
ンスに先に記載のように三親式接合により移入する[Bevan,M.(1984)Nucl.Aci
ds Res.22:8711-8721]。
DNA操作
細菌形質転換のような組換えDNA法、プラスミドおよびλバクテリオファー
ジからのDNAの単離を標準法に従って行った[Sambrook,J.,Fritsch,E.F.
& Maniatis,T.(1989)Molecular cloning:A Laboratory manual,第2版,Cold
Spring Harbor Laboratory Press,New York]。放射活性フラグメントの標識を
オリゴヌクレオチドで“ランダム−プリンティング”法により行った[Feinberg
,A.P.& Vogelstein,B.(1983)Anl.Biochem.132:6.13]。
構築物
発現ベクターpBN35は、pBin19誘導体であり[Bevan,N.(1984)Nucl.Acids.R
es.22:8711-8721]、850bpのカリフラワーウイルスCaMV 35Sプロモータ
ー[Guilley,H,Dudley,K.,Jonard,G.,Richards,K.,& Hirth,L.(1982)C
ell 21:285-294]をpBin19のHindIIIとSaII部位の間に、T−DNAノパリンシン
セターゼ遺伝子[Bevan,M.,Barnes,W.& Chilton,M.D.(1983)Nucl.Acids
Res.11:369-385]のポリアデニル化シグナルから成る260bpフラグメントを
同ベクターのSacIとEcoRI部位にサブクローニングして構築した(図4)。
プラスミドpIBT36(図5)は、発現ベクターpBN35のBamHIおよびKpnI部位にsl-t
ps/p cDNAをサブクローニングすることにより構築した。
セラギネラ・レピドフィラのcDNAバンクの構築
cDNAクローンを単離するために、ZAP-cDNA Synthesis Kit、Uni-ZAP XRベ
クターおよびGigapackIIゴールドパッケージングエキストラクトを用いて、2.
5時間脱水したセラギネラ・レピドフィラ小葉から単離したmRNAで発現バン
クを調製した。製造業者により提供された「ZAP-cDNA Synthesis Kit」実験マニ
ュアル[Stratagene Cloning Systems,Calif.,USA;カタログ番号#200400、200
401および2004029]を段階的に行った。ポリA+RNAを、公知の方法により、2
.5時間脱水したセラギネラ・レピドフィラの小葉から抽出した[Chomczyniski,P
.& Sacchi,N.(1987)Anal.Biochem.162:156-159]。バンクの初めの力価は、2×
106バクテリオファージプラーク/mlであり、増幅後では、1.5×1011バク
テリオファージプラーク/mlであった。
実験マニュアル「ZAP-cDNA Synthesis Kit」[Stratagene Cloning Systems,C
alif.,USA;カタログ番号#200400、200401および2004029]に従って、プラス
ミドpBluescript SK(-)を、「ザッピング(ZAPping)」法によりバクテリオファ
ージから切除した。
DNAシークエンス
選択したクローンから酵素ExoIIIおよびヌクレアーゼS1を用いてインサート
の整列欠失変異を作製し[Henikoff,S.(1984)Gene 28:351-359]、続けてジデオ
キシヌクレオチドを用いるチェーンターミネーション法[Sanger,F.、Nicklen,S
.& Coulson,A.R.(1977)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5463-5467]によりそのヌク
レオチド配列を決定した。
DNA配列はウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)
ソフトウェアパッケージを用いて解析した[Devereux,J.、Haeberli,P.& Smithie
s,O.(1984)Nucl.Acids Res.12:387-395]。UWGCGパッケージに含まれている
既知のプログラム[Kyte,J.& Doolittle,R.F.(1982)J.Mol.Biol.157:105-132]お
よびBESTFITプログラムのタンパク質配列を用いて、疎水性プロットを得た。
核酸のハイブリダイゼーション
バンクをスクリーニングするために、バクテリオファージプラークを、Hybond
N+ナイロン膜(Amersham Life Sciences)に転写し、慣用的なDNA変性法[Samb
rook,J.、Fritsh,E.F.& Maniatis,T.(1989)Molecular cloning:A laboratory ma
nual、第二版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York]を用いて処理
した。フィルターをオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせ、6×SSC(1
×SSC=0.15M NaClおよび0.015Mクエン酸ナトリウム)を用いて
37℃にて、ポリヌクレオチドキナーゼにより32P同位体で標識した。フィルタ
ーを、3回、各10分間同温度および以下の条件下で洗浄した:6×SSC;4
×SSC;および2×SSC。
サザンおよびノザンゲルブロット法を、標準的なプロトコール[Sambrook,J.、
Fritsh,E.F.& Maniatis,T.(1989)Molecular cloning:A laboratory manual、第
二版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York]に従って、以下の修飾
を加えて行った。ゲノムサザンでは、DNAをTBE緩衝液中0.8%アガロー
スゲル上で分画し、Hybond N+ナイロン膜(Amersham Life Sciences)に転写し
た。フィルターを、2×SSC(1×SSC=0.15M NaClおよび0.01
5Mクエン酸ナトリウム)を用いて65℃にて、プローブとして32P同位体で標
識したsl-tps/p cDNAを用いてハイブリダイズさせた。フィルターを3回、
各20分間同温度および以下の条件下で洗浄した:2×SSC;1×SSC;お
よび0.5×SSC。ノザンでは、MOPS−ホルムアルデヒド緩衝液中1.2%
アガロースゲルを用い、ここでもHybond N+ナイロン膜を転写に使用した。ハイ
ブリダイゼーション条件は、42℃、50%ホルムアミドおよび2×SSC中で
あった。フィルターを2×SSC、2×SSCおよび1×SSCを用いて、それ
ぞれ55℃で、3回連続的に洗浄した。
タバコの形質転換
タバコ(Nicotiana tabacum var.SR1)の形質転換は、プラスミドpIBT36を含有
するアグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefasciens)L
BA4404を用いて、リーフディスク法[Horsch,R.B.、Fry,J.E.、Hoffmann,N
.L.、Eichholtz,D.、Rogers,S.G.、Fraley,R.T.(1985)Science 227:1229-1231]
により行った。リーフディスクを、ビタミン[Murashige,T.& Skoog,F.(1962)Phy
siol.Plant.15:473-497]、ホルモン[0.1ppmNAAおよび1ppmBAP)および
抗生物質(100μg/mlカナマイシンおよび200μg/mlカルベニシリン)を含
むMS培地の入ったペトリ皿で培養すると、4から6週間でシュートが再生され
た。シュートを、抗生物質(100μg/mlカナマイシンおよび200μg/mlカ
ルベニシリン)は含むが、ホルモンもビタミンも含まないMS培地の入ったマゲ
ンタ(Magenta)鉢に移し、2から3週間後に根を再生させた。再生した植物を土
壌の入った鉢に移し、生育チャンバー中で栽培すると(24℃、16時間光を照
射しながら)、4から6週間以内に繁殖性植物が得られた。
トレハロース測定
トレハロースは、トレハラーゼを用いた分解法により測定した[Araujo,P.S.:
、Panek,A.C.、Ferreira,R.& Panek,A.D.(1989)Anal.Biochem.176:432-436]。可
溶性糖を得るために、500mgの新鮮組織または50mgの乾燥組織(液体窒素で
凍結)を、0.5mlの100mlPBS緩衝液(pH7.0)中、マイクロ遠心チュー
ブ用ホモジナイザーで粉砕した。無水エタノール4用量を加え、蒸発を防ぐため
にスクリューキャップを付けチューブ中で10分間煮沸した。続いて、13,0
00rpmで2分間マイクロ遠心チューブ中で遠心し、上清を回収した。サンプル
を再度同用量の80%エタノールで再抽出し、ペレットを真空乾燥させた。サン
プルを0.250mlの50mM PBS(pH6.5)中に再懸濁した。
トレハロースの測定については、4μl(約15mU)のトレハラーゼ(Sigma製
造番号T-8778)を、抽出物10−30μlに加え、30℃で2時間インキュベー
トして行った。陰性対照として、抽出物は含むがトレハラーゼは含まないチュー
ブを使用し、陽性対照として、純粋なトレハロース(Sigma製造番号T−3663)を
含むチューブを使用した。50mM PBS(pH7.0)を用いて用量を0.5ml
とし、Sigmaキット、製造番号510-Aの0.5μlグルコースオキシダーゼおよび
ペルオキシダーゼを加えてグルコースを測定した。37℃で40分間インキュベ
ートし、直ちに425nmにおける光学密度を測定した。グルコース濃度を計算す
るために、0ないし75mMの値の標準的グルコース曲線を用いた。トレハラー
ゼを含まないチューブの値を、酵素で処理したチューブから引き、1molのグル
コースは1/2molのトレハロースであることを考慮して、トレハロースの量を計
算した。
酵素活性の測定
トレハロース−6−リン酸シンターゼの活性を測定するために、実質的に34
0nmにおけるNADHのモル吸光度を測定する共役アッセイからなる報告された
方法を行った[Londesborough,J.& Vuorio.O(1991)J.Gen.Microbiol.137:323-330
]。反応は、40mM HEPES/KOH(pH6.8)緩衝液、10mMグルコー
ス−6−リン酸、5mM UDP−グルコース、10mM MgCl2および1mg/
mlウシ血清アルブミンを含有する用量100μl中で行った。30℃で10分間
インキュベートして反応させ、2分間煮沸して反応を停止した。チューブを冷却
した後、40mM HEPES/KOH(pH6.8)緩衝液、10mM MgCl2
、2.5μl/mlホスホエノールピルビン酸、0.24mM NADH、3.5単位
ピルビン酸キナーゼおよび5単位乳酸デヒドロゲナーゼ(Sigma製造番号P-0294)
を含有する900μlを加えた。上記した条件下と同じ条件下でインキュベート
しながら、340nmにおけるNADHの消失を、分光光学的に測定した。トレハ
ロ
ース−6−リン酸シンターゼの比活性を測定するために、Bradford法[Bradford,
M.M.(1976)Anal.Biochem.72:248-254]によりタンパク質濃度を測定した。
以下の実施例は、本発明を詳細に説明するために提供したものであり、本発明
の適用を制限する要素を含むものでは決してない。本発明に関する情報により、
sl-tps/p cDNAクローンを用いて組換えDNA技術により形質転換した細胞
または生物におけるトレハロースの産生が可能となる。形質転換法および微生物
および植物に使用するに適当なベクターは、当該分野に精通している人には公知
である。
実施例1.sl-tps/pのcDNAの単離
脱水復活植物である、セラギネラ・レピドフィラを、メキシコのモレロスおよ
びオアハカ州の乾地性地域の岩土から回収した。続いて、それらをコンビロン(C
onviron)生育チャンバー中、24℃で16時間光を照射しながら、50%平均湿
度で2Lの植木鉢で栽培した。植物に隔日で20mlの水を与えた。
cDNAクローンを単離するために、2.5時間脱水した50gのセラギネラ・
レピドフィラ小葉から単離した5μgのmRNAを用いて、発現バンクを調製し
た。cDNAを合成した後、1μgのUni-ZAP XRベクターを用いてクローン化し
た。バクテリオファージをインビトロでパッケージングし、続いて、エシェリキ
ア・コリおよび酵母の報告された配列のトレハロース−6−リン酸シンターゼお
よびホスファターゼにおける共通領域をコードする変性オリゴヌクレオチド混合
物を用いてスクリーニングした。単離されたクローンの1つが、完全なコード領
域をもつcDNA(sl-tps/p)に対応する。推定されたアミノ酸配列を解析すると
、細菌および種々の酵母のトレハロース−6−リン酸シンターゼの報告された配
列と比較して、トレハロース−6−リン酸シンターゼと53%同一であり、トレ
ハロース−6−リン酸ホスファターゼと29%同一であった。sl-tps/pによりコ
ードされたタンパク質(SL-TPS/Pと呼ばれる)のトレハロース−6−リン酸シンタ
ーゼに対する相同性は、前者のN末端領域に位置し、SL-TPS/Pのトレハロース−
6−リン酸ホスファターゼに対する相同性は全配列を通して認められる(図1)。
実施例2.トランスジェニック生物の構築
タバコ(Nicotiana tabacum var.SR1)細胞を、プラスミドpIBT36を含むアグロ
バクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefasciens)LBA440
4を用いてリーフディスク法により形質転換した。リーフディスクを、ビタミン
、0.1ppm NAA、1ppm BAP、100μg/mlカナマイシンおよび200μ
g/mlカルベニシリンを含むMS培地が入ったペトリ皿で培養すると、4−6週
間でシュートが再生された。このシュートを100μg/mlカナマイシンおよび
200μg/mlカルベニシリンは含むがホルモンないしビタミンのいずれも含ま
ないMS培地に移すと、さらに2−3週間経って根が形成された。再生された植
物を、24℃で16時間光を照射しながら生育チャンバーに移すと、4−6週間
で繁殖性植物が得られた。
得られた全31個のトランスジェニック植物から、ノザン型ゲルにより、sl-t
ps/p cDNAの発現が16個検出された。これらの植物10個において、高レ
ベルのトレハロースの存在が確認され、これは、トレハロース−6−リン酸シン
ターゼ活性と相関がある。トレハロースの存在ないし酵素活性のいずれも、非形
質転換植物または空ベクターpBN35で形質転換した植物では検出されなかった。
実施例3.酵母におけるトレハロースの合成亢進
グルコースの存在により酵母におけるトレハロースの合成は減少するという明
らかな証拠がある[Thevelein,J.M.& Hohmann,S.(1995)Trends Biochem.Sci.20:3
-10]。このことはTPS1の翻訳後修飾および該酵素の遺伝子における翻訳レベ
ルの起こり得る負の調節のためであると考えられる[Panek,A.C.、de Araujo,P.S
.、Neto,M.V.& Panek,A.D.(1987)Curr.Genet.11:459-465]。前述は、酵母におけ
るトレハロースの大量生成の重要な制御因子の構成要素である。異化減退による
変動なく、酵母において高レベルのトレハロースを得るための方法を下記に提示
する。
S.cerevisiae株は、his3、leu2、ura3等の栄養要求性マーカーを必要とし、こ
れにより、インテグレイティブYIpベクターで形質転換することにより選択可能
となる[Orr-Weaver,T.L.、Szostak,J.Wl & Rothstein,R.S.(1983)Methods in En
zymol.101:228-245]。これらのベクターは、当該分野に精通した人により構築す
ることができる。インテグレイティブベクターは、酵母ゲノムに組み込まれ
るDNA領域に隣接しなければならない同遺伝子の5'および3'フラグメントを
有する、酵母ゲノムに存在するマーカーの相同的組換えに基づいている。
最初に、sl-tps/p cDNAを、sl-tps/p cDNAが異化調節を受けない酵母
遺伝子の強力なプロモーターの制御下にあるようにエシェリキア・コリベクター
にサブクローニングしなければならない[Romanos,M.A.、Scorer,C.A.& Clare,J.
J.(1992)Yeast 8:423-428]。同様に、構築物はsl-tps/p cDNAの3'末端の位
置に転写終結シグナル(ter)を含まなければならない。この融合体、すなわちプ
ロモーター/sl-tps/p cDNA/terを、ura3遺伝子の5'および3'領域を含
むYIpベクターにサブクローニングし、遺伝子融合物およびleu2マーカー遺
伝子をこれらの領域間に配置させる。得られた構築物をura3+およびleu
2-遺伝子型と共に酵母株に形質転換し、組換え体を選択する。ゲノムへの構築
物の組み込みはまた、サザンハイブリダイゼーションでも確認され、関与するD
NAフラグメントの公知の制限パターンと一致するはずである。一旦組換え株を
選択培地において同定できれば、慣用的な培地で生育させることができる。なぜ
なら、エピソームベクターを酵母における外因性遺伝子発現に使用する場合に必
要とされる、選択培地の厳しい要求は、染色体における構築物の組み込みでは回
避できるからである[Stearns,T.、Ma,H.& Botstein,D.(1990)Methods in Enzymo
l.185:280-291]。この組換え株の設計におけるこの特異性は、選択培地は慣用的
な培地よりもはるかに費用がかかることから、バイオテクノロジー工程の大量化
に経済的衝撃をもたらす。
本明細書で記載した新規性は、S.cerevisiaeの組換え株は高レベルで酵素SL-T
PS/Pを発現し、SL-TPS/P活性は翻訳後調節を受けないために、当該分野に精通す
る人により現在までに達成されたものをはるかに上回るトレハロースを続いて産
生するという事実からなる。酵母における高レベルのトレハロースの合成により
、パンの製造およびビールおよびワインのアルコール発酵における収率が向上す
る。さらに、この方法により得られたトレハロースは、食物または生体分子の保
存などの他の工業的な用途のためにも精製することができる。
実施例4.トランスジェニックジャガイモおよびタバコ植物におけるトレハロー
スの大量合成
遺伝子工学により、異種生物においてほとんど全ての遺伝子を発現することが
できるようになった。トランスジェニック植物は、通常、限定された量でしか得
られない、例えば生分解性プラスティック、種々の炭水化物、医薬用途のポリペ
プチドおよび工業用途の酵素などの商業的に注目を集めている化合物の大量製造
用バイオリアクターとして使用することができる[Goddijn,O.J.M.& Pen,J.(1995
)Trends Biotech.13:379-387]。経済的に非常に重要な穀物を含む高等植物の形
質転換に関する種々の方法が報告されている[Wa1den,R.& Wngender,R.(1995)Tre
nds Biotech.13:324-331]。タバコ[Horsch,R.B.、Fry,J.E.、Hoffmann,N.L.、Ei
chholtz,D.、Rogers,S.G.、Fraley,R.T.(1985)Science 227:1229-1231]およびジ
ャガイモ[Sheerman,S.& Bevan,M.W.(1988)Plant Cell Rep.7:13-16]の形質転換
は、アグロバクテリウム・チュメファシエンス系を用いて効率的に行われ、かか
る技術は当該分野を習得した人により実験室で行うことができる。sl-tps/p c
DNAの植物における発現構築物は、T−DNA腫瘍発生遺伝子を欠失し、例え
ばカナマイシンに耐性といった形質転換植物の選択マーカーを含むTiプラスミ
ドから誘導したベクター中で作製することができる[Bevan,M(1984)Nucl.Acids R
es.22:8711-8721]。さらに、適当なプロモーターは、トランスジェニック植物に
与えられる使用により選択すべきである。T−DNAのノパリンシンターゼ遺伝
子からのポリアデニル化シグナルを使用することができる[Bevan,M.、Barnes,W.
& Chilton,M.-D.(1983)Nucl.Acids.Res.11:369-385]。
例えば、工業的用途のためにトレハロースを過剰に生産することを計画してい
るならば、ジャガイモにおいて一般的に知られている特別な器官である塊茎に大
量の炭水化物を貯蔵しているSolanum tuberosumなどの植物を使用することがで
きる。使用できる植物のバイオマスの点では、ジャガイモは面積単位にして最も
生産性のある穀物の1つである[Johnson,V.A & Lay,C.L.(1974)Agric.Food Chem
.22:558-566]。大量のトレハロースを産生するために使用できる、パタチン遺伝
子のクラス−1プロモーターなどの強力な塊茎特異的プロモーターが存在する[B
evan,M.、Barker,R.、Goldsbrough,A.、Jarvis,M.、Kavanagh,T.& Iturriaga,G.
(1986)Nucl.Acids Res.14:4625-4638;Jefferson,R.、
Goldsbrough,A.& Bevan,M.(1990)Plant Mol.Biol.14:995-1006]。ジャガイモを
トレハロース過剰産生系として使用する簡便性は、この植物の塊茎がヒト食物で
あり、それ故、この器官から単離されたトレハロースは容易に消費者により受け
入れられることである。
トレハロース過剰産生系としてのタバコは、乾燥食物における添加剤として使
用する目的では、トレハロース精製後に得られ得るニコチンなどの混入物の可能
性から市場では受け入れられない。タバコで過剰産生されるトレハロースは、制
限および修飾酵素などの工業的に使用する生体分子を保存するために使用するこ
とができる[Colaco,C.、Sen,S.、Thangavelu,M.、Pinder,S.& Roser,B.(1992)Bi
o/Technology 10:1007-1111]。タバコでトレハロースを過剰発現させるために、
プラスミドpIBT36を使用し、ここで、sl-tsp/p遺伝子はカリフラワーモザイクウ
イルス35Sプロモーターの制御下にある[Guilley,H.、Dudley,K.、Jonard,G.
、Richards,K.& Hirth,L.(1982)Cell 21:285-294]。
実施例5.環境ストレスに抵抗性のあるトランスジェニック穀物植物
穀物は世界中の栄養の基礎であり、それらが寒さ、熱、塩度または渇水に対す
る応答としてトレハロースを産生できるならば、好ましくない気候条件下でも栽
培することができる。これを行うためには、これらの環境因子のいずれかにより
誘導されるプロモーターの制御下でsl-tps/p cDNAを発現することが要求さ
れる[Baker,S.S.、Wilhelm,K.S.& Thomoshow,M.F.(1994)Plant Mol.Biol.24:701
-713;Takahashi,T.、Naito,S.& Komeda,Y.(1992)Plant J.2:751-761;Yamaguchi-
Shinozaki,K.& Shinozaki,K(1994)Plant Cell 6:251-264]。ストレス条件下のみ
でのトレハロースの合成が、トレハロースの連続的産生を防止し(構成プロモー
ターを用いて)、これにより、炭水化物の代謝も迂回させ、結果として、穀物の
質および生産性を減少させることができる。メイズ[D'Halluin,K.、Bossut,M.、
De Beuckeleer,M.& Leemans,J.(1992)Plant Cell 4:1495-1505]、大麦[Wan,Y.&
Lemaux,P.G.(1994)Plant Physiol.104:37-48]、小麦[Vasil,V.、Castillo,A.M.
、Fromm,M.E.& Vasil,I.K.(1992)Bio/Technology 10:667-674]および米[Shimamo
to,K.、Terada,R.、Izawa,T.& Fujimoto,H.(1989)Nature 338:274-276]の形質転
換が報告されている。この方法は当該分野に精通した人
により実行することができる。
実施例6.より長い貯蔵寿命をもつトランスジェニック植物の果物
トマト、マンゴーおよびバナナなどの種々の型の果物は速く熟し、消費者の手
に届く前に腐り易い。この問題を防ぐために、果物を早く収穫し、制御した環境
の冷蔵庫またはチャンバーで貯蔵することが昔から行われている。しかし、これ
らの方法は、特に、もし果物が遠隔地に輸送されるのであれば、高くつく。トマ
トの貯蔵寿命を延ばすために、果物の熟成に関与するポリガラクツロナーゼをア
ンチセンスに発現するトランスジェニック植物を用いた熟成の遅延が報告されて
いる[Smith,C.J.S.、Watson,C.F.、Ray,J.、Bird,C.R.、Morris,P.C.、Schuch,W
.& Grierson,D.(1988)Nature 334:724-726]。このような熟成の遅延にもかかわ
らず、一定時間の後にこの方法では消費者に必ずしも良好な状態で品物が届かな
いであろうという問題が依然として残る。
これとは別の方法として、本明細書ではトランスジェニックトマト、マンゴー
およびバナナ植物におけるトレハロースの産生を提唱する。例えば、トマト果物
の特異的プロモーターを用いて[Bird,C.R.、Smith,C.J.S.、Ray,J.A.、Moureau,
P.、Bevan,M.W.、Bird,A.S.、Hughes,S.、Morris,P.C.、Grierson,D.、Schuch,W
.(1988)Plant Mol.Biol.11:651-662]、sl-tps/pを過剰発現することで、トレハ
ロースはその器官に特異的に蓄積する。トマト植物の形質転換および再生法[McC
ormick,S.、Niedermeyer,J.、Fry,J.、Barnason,A.、Horsch,R.、Fraley,R.(198
6)plant Cell Rep.5:81-84]は、当該分野を知る人なら誰でも行うことができる
。トマトおよび他の型の果物は熟したものを収穫でき、次いで、完全に、または
部分的に乾燥し、冷蔵の必要なく長期間保存できる。再び水和すれば、果物は消
費者が要求する正常の感覚受容特性を示す。もし、再生および形質転換系が問題
となる植物に利用でき、適当なプロモーターが存在するのであれば、原則的に、
上記した方法は、他の型の果物についても実施することができる。
実施例7.有性または無性再生産に関与する細胞、器官または植物部分の生存度
の充進
生存度が延長された花粉が産生されることは、植物繁殖計画および生殖質の保
存に非常に助けとなる。同様に、長期間保存可能であること、および、種、鱗茎
、
塊茎、接木、枝木および花の挿し木の生存度の亢進は、植物繁殖および生殖質の
保存に大きな衝撃を与える。組織、器官または形質転換植物の一部にトレハロー
スが存在することにより、トレハロースがない場合よりも、該組織、器官または
部位を室温にて脱水状態で非常に長い期間保存することができる。この目的を達
成するために、組織特異的または器官特異的プロモーター下で植物の発現ベクタ
ーにsl-tps/p cDNAをクローン化し、問題の植物を、この構築物を用いて、
当該分野に精通している人には公知の報告されたいずれかの方法により形質転換
することが必要である。植物におけるトレハロース発現のハイブリッド遺伝子を
構築するために使用できる、花粉特異的プロモーター[Guerrero,F.D.、Crosslan
d,L.、Smutzer,G.S.、Hamilton,D.A.& Mascarenhas,J.P.(1990)Mol.Ge.Genet.22 4
:161-168]、塊茎特異的プロモーター[Bevan,M.、Barker,R.、Goldsbrough,A.、
Jarvis,M.、Kavanagh,T.& Iturriaga,G.(1986)Nucl.Acids Res.14:4625-4638;Je
fferson,R.、Goldsbrough,A.& Bevan,M.(1990)Plant Mol.Biol.14:995-1006]お
よび種特異的プロモーター[Colot,V.、Robert,L.S.、Kavanaugh,T.A.、Bevan,M.
W.& Beachy,R.N.(1988)EMBO J.7:297-302]が報告されている。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】平成10年7月13日(1998.7.13)
【補正内容】
請求の範囲
1.トレハロース−6−リン酸シンターゼおよびトレハロース−6−ホスファ
ターゼの活性の2機能性ペプチドをコードする、配列番号1の配列または機能的
に同等の変異体を含む単離および精製DNAフラグメント。
2.植物から単離される、請求項1記載のDNAフラグメント。
3.単離する植物が好ましくは復活稙物セラギネラ・レピドフィラである、請
求項2記載のDNAフラグメント。
4.トレハロース−6−リン酸シンターゼおよびトレハロース−6−リン酸ホ
スファターゼの活性を有し、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の機能
的に同等の変異体を含む2機能性ポリペプチド(SL-TPS/P)をコードする、請求項
1記載のDNAフラグメント。
5.トレハロース−6−リン酸シンターゼの活性を有するポリペプチドをコー
ドする、配列番号3の配列もしくは配列番号3の一個またはそれ以上の塩基対の
欠失、挿入または置換を含む、単離および精製DNAフラグメント。
6.植物から単離される、請求項5記載のDNAフラグメント。
7.単離する植物が好ましくは復活植物セラギネラ・レピドフィラである、請
求項6記載のDNAフラグメント。
8.トレハロース−6−リン酸シンターゼの活性を有し、配列番号4のアミノ
酸配列もしくは配列番号4の一個またはそれ以上のアミノ酸の欠失、挿入または
置換を含む活性ポリペプチド(SL-TPS)をコードする、請求項5記載のDNAフラ
グメント。
9.配列がトレハロース−6−リン酸シンターゼおよびトレハロース−6−リ
ン酸ホスファターゼの活性を有する2機能性ポリペプチドSL-TPS/Pまたは機能的
に同等の変異体をコードする請求項4記載のDNAフラグメントを含む、遺伝子
。
10.配列がポリペプチドSL-TPSまたは該ポリペプチドの一個またはそれ以上
のアミノ酸の欠失、挿入または置換をコードする請求項8記載のDNAフラグメ
ントを含む、遺伝子。
11.請求項1記載のDNA配列を含む、発現のための分子媒体。
12.請求項5記載のDNA配列を含む、発現のための分子媒体。
13.請求項1記載のDNA配列または機能的に同等の変異体を含む、遺伝的
に修飾した微生物または植物。
14.請求項5記載のDNA配列または該配列の一個またはそれ以上の塩基対
の欠失、挿入または置換を含む、遺伝的に修飾した微生物または植物。
15.宿主が植物またはその一部、酵母または細菌である、請求項13または
14に記載の遺伝的に修飾した微生物または植物。
16.高レベルのトレハロースを含む、請求項15記載の遺伝的に修飾した微
生物または植物。
17.寒さ、暑さおよび脱水負荷に同じ非修飾宿主よりも耐性である、請求項
15記載の遺伝的に修飾した微生物または植物。
18.脱水されたときに貯蔵寿命が延長された生産物を生産できる、請求項1
5記載の遺伝的に修飾した微生物または植物。
19.細胞または再生可能器官で増強された生存力を示す、請求項15記載の
遺伝的に修飾した微生物または植物。
20.配列番号2のアミノ酸配列または該配列番号2の一個またはそれ以上の
アミノ酸の欠失、挿入または置換を示す、ポリペプチドSL-TPS/P。
21.トレハロースの製造のためのトレハロース−6−リン酸シンターゼおよ
びトレハロース−6−リン酸ホスファターゼの両方の2機能性である、請求項2
0記載のポリペプチドSL-TPS/P。
22.配列番号4のアミノ酸配列または該配列の一個またはそれ以上のアミノ
酸の欠失、挿入または置換を示す、トレハロース−6−リン酸シンターゼ活性を
有する、ポリペプチドSL-TPS。
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
C12N 9/12 C12N 9/16 B
9/16 5/00 C
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,KE,LS,MW,S
D,SZ,UG),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ
,MD,RU,TJ,TM),AL,AU,BA,BB
,BG,BR,CA,CN,CU,CZ,EE,GE,
HU,IL,IS,JP,KP,KR,LC,LK,L
R,LT,LV,MG,MK,MN,NO,NZ,PL
,RO,SG,SI,SK,TR,TT,UA,US,
UZ,VN
(72)発明者 イトゥリアガ・デ・ラ・フエンテ,ガブリ
エル
メキシコ62240モレロス、クエルナバカ、
コロニア・ロマス・デ・コルテス、ヌエ
バ・フランシア211―1番
(72)発明者 センテリャ・ゴメス,ロドルフォ
メキシコ14310メキシコ・ディストリト・
フェデラル、コヨアカン、コロニア・フロ
レスタ、ハシエンダ・デ・コルロメ24番