JP2000328222A - シリンダブロックの溶射前処理方法及び溶射方法 - Google Patents

シリンダブロックの溶射前処理方法及び溶射方法

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JP2000328222A
JP2000328222A JP14096599A JP14096599A JP2000328222A JP 2000328222 A JP2000328222 A JP 2000328222A JP 14096599 A JP14096599 A JP 14096599A JP 14096599 A JP14096599 A JP 14096599A JP 2000328222 A JP2000328222 A JP 2000328222A
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bore
cylinder block
thermal spray
cavity
vacuum arc
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Masashi Takahashi
正志 高橋
Kenji Miyai
研二 宮井
Seiya Kunioka
誠也 國岡
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Suzuki Motor Corp
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Suzuki Motor Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 シリンダブロックのボア内面に存在する鋳巣
を埋めて、密着性に優れた溶射皮膜を形成する溶射前処
理方法及び溶射方法を提供する。 【解決手段】 その含有成分にケイ素を含むと共に、ボ
ア内面a1の表層部41に鋳巣が形成されたアルミニウ
ム合金製シリンダブロック1のボア内面1aに向けて真
空アーク5を放電し、該ボア内面1aの表層部41を溶
融するステップと、この溶融した金属を上記鋳巣内部に
流れ込ませて鋳巣を封鎖するステップと、上記ボア内面
1aの表層部41に、直径5μm以下のケイ素粒子が分
散した硬化層43を形成するステップと、該硬化層43
の上から溶射処理を施して溶射皮膜を形成するステップ
とを含んでなるシリンダブロックの溶射方法である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アルミニウム合金
製シリンダの溶射前処理方法及び溶射方法に関し、更に
詳しくは、その表面に鋳巣が存在するシリンダブロック
のボア内面において、該鋳巣を埋めて密着性に優れた溶
射皮膜を形成することができる溶射前処理方法及び溶射
方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シリンダブロックのボア内面に溶
射をする場合に、ブラスト処理によって被溶射面である
ボア内面を粗くする前処理が行われている。しかし、上
記シリンダブロックは、アルミニウム合金鋳物から形成
されているものが多く、この場合は、ボア周辺に鋳巣が
存在し、溶射前の機械加工により鋳巣がボア内面に露出
することがある。このようなシリンダブロックのボア内
面にブラスト処理をすると、鋳巣を広げたり、ボア内面
の深さ方向のすぐ下部に存在していた鋳巣を新たに露出
させたり、鋳巣内にブラスト材が残留したりする。この
状態のボア内面に溶射をすると、鋳巣の部分で溶射皮膜
が分断されたり、溶射皮膜が鋳巣を覆いきれなくて鋳巣
が空孔として残ったり、又は残留したブラスト材が溶射
皮膜の密着性を低下させたりする。このため、エンジン
作動時におけるオイル消費やブローバイガス量の増加な
ど多くの問題がある。
【0003】上述したアルミニウム合金鋳物には、ダイ
カスト品、低圧鋳造品などがあるが、特にダイカスト品
は鋳巣が多く存在するため、ボア内面に溶射やめっきな
どの表面処理を行うことが困難である。また、低圧鋳造
品においても鋳巣を皆無にすることは困難であるため、
量産では、圧漏れや外観検査などで鋳巣の良否を判断
し、不良品については、表面処理をすることができない
場合が数多くある。上記鋳巣の対策として、特開昭59-7
4353号公報には、アルミニウム合金鋳物製のシリンダブ
ロックにアルミニウム展伸材のライナを鋳ぐるみ、その
ボア内面に溶射することによって鋳巣から回避する方法
が記載されている。しかし、この方法ではシリンダブロ
ックの部品点数及び製造工数が増加するため、コストが
高くなるという問題がある。また、溶射前処理として、
特開平5-98412号公報には真空アーク放電を用いて金属
材料表面を処理する技術が記載されている。しかし、こ
の方法は、(1)被処理物全体を真空槽内部に入れて真空
アーク放電処理を行っているため、真空槽を大きくする
必要があり、また(2)被処理物である母材の表面を清浄
化又は粗面化することを目的としており、母材表面の鋳
巣を埋めることまではできないため、アルミニウム合金
鋳物に適用することが困難であるという問題がある。
【0004】また、特開平5-98412号公報では、真空ア
ーク放電処理により被溶射材料表面を清浄化及び粗面化
する方法を採用している。これは、陰極面上のアーク陰
極点は物質の仕事関数の小さな場所に優先的に形成され
るという真空アーク放電の特徴を利用したものである。
ここで、酸化物の仕事関数は金属の仕事関数よりleV程
度小さいことから、金属材料表面に形成された酸化皮膜
やブラスト材(SiC,Al203)などを優先的に放電により攻
撃し、消滅させることができる。このように上記発明
は、金属材料表面に異物を残留させることなく清浄化す
ることを目的とし、金属材料表面の酸化皮膜などが除去
されると放電を終了するため、母材に何らかの影響を与
えるに至らない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記課題を
解決し、シリンダブロックのボア内面に存在する鋳巣を
埋めて、密着性に優れた溶射皮膜を形成する溶射前処理
方法及び溶射方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明に係るシリンダブ
ロックの溶射前処理方法は、上記目的を達成するため、
表層部に鋳巣が形成されたシリンダブロックのボア内面
に向けて真空アークを放電して該ボア内面の表層部を溶
融し、この溶融した金属を上記鋳巣内部に流れ込ませる
ことによって鋳巣を封鎖している。上記本発明によれ
ば、母材表面のみを短時間で溶融することができるた
め、母材の機械的強度を損なったり、ボア内面にブリス
ターを発生させることなく鋳巣を埋めることが可能とな
り、鋳巣を埋めた後溶射皮膜を形成するため、皮膜の密
着性を改善することができる。また、母材表面のみを溶
融する工程で母材表面に硬化層が形成されるため、溶射
皮膜の密着性をさらに向上させることができる。上記ボ
アのみを密閉状態とすることによって、装置の小型化及
び簡略化ができ、真空排気時間も短縮されるため、生産
性が向上する。また、量産性は高いが鋳巣が多く存在す
るため、表面処理が困難とされてきたダイカスト製シリ
ンダブロックに対して有効である。そして、溶射皮膜が
分断されたり、皮膜の下に空孔が残るなどの欠陥がない
ため、エンジン作動時におけるオイル消費やブローバイ
ガス量等の問題が解消される。また、鋳巣が埋まること
で、これまで溶射ができずNG品とされてきたシリンダ
ブロックへの溶射が可能となるため、不良率が低下し生
産性が向上する。
【0007】また、本発明の一態様では、シリンダボア
の鋳巣によってボア内面から外方に貫通した貫通孔が形
成されたシリンダブロックの溶射前処理方法であって、
上記貫通孔に含浸による封孔処理を施したのち、ボア内
面に真空アーク放電処理を行っている。貫通した鋳巣を
有するシリンダブロックに封孔処理をすることにより、
シリンダボア内の真空度を50Pa以下にすることがで
き、熱的なダメージの少ない真空アーク放電処理が可能
になるため、さらにNG品が減少し生産性が向上する。
【0008】さらに、本発明の別の態様では、その含有
成分にケイ素を含むと共に、ボア内面の表層部に鋳巣が
形成されたアルミニウム合金製シリンダブロックのボア
内面に向けて真空アークを放電し、該ボア内面の表層部
を溶融し、この溶融した金属を上記鋳巣内部に流れ込ま
せて鋳巣を封鎖すると同時に、上記ボア内面の表層部
に、直径5μm以下のケイ素粒子が分散した硬化層を形
成している。上記処理方法では、シリンダブロックの材
質として低融点材料であるアルミニウム合金を用いてい
るため、真空アーク放電処理の際に発生するジュール熱
で表面層を溶融し、鋳巣を埋めることができる。これに
よって、シリンダブロックの不良率が低下して生産性が
向上する。この処理方法によって母材表面のみを溶融し
た場合、母材表面ではアルミニウム合金鋳物中に存在し
ていた共晶及び初晶Siが一旦溶融アルミ中に溶解し、処
理が終了すると急冷され母材とは異なった組織を有する
硬化層が最も表面側に形成される。この硬化層は、直径
5μm以下の極微細なケイ素粒子が均一且つ緻密に分散し
た組織であるため、母材よりも硬い層である。
【0009】なお、本発明に係るシリンダブロックの溶
射方法では、その含有成分にケイ素を含むと共に、ボア
内面の表層部に鋳巣が形成されたアルミニウム合金製シ
リンダブロックのボア内面に向けて真空アークを放電
し、該ボア内面の表層部を溶融し、この溶融した金属を
上記鋳巣内部に流れ込ませて鋳巣を封鎖し、上記ボア内
面の表層部に、直径5μm以下のケイ素粒子が分散した
硬化層を形成し、該硬化層の上から溶射処理を施して溶
射皮膜を形成している。このようにして形成される溶射
皮膜構造では、母材と溶射皮膜との間に中間層として硬
化層が形成されているため、母材と溶射皮膜との性質の
違いが緩和されて非常に高い密着性を有すると共に、ブ
ラスト処理が不要となる。
【0010】
【発明の実施の形態】以下に、本発明に係るシリンダブ
ロックの溶射前処理方法及び溶射方法の実施の形態につ
いて、図面を用いて詳細に説明する。
【0011】[溶射方法]本発明に係る溶射方法を各工程
ごとに説明する。 (1)まず、高密度エネルギーを有する手段によって、ア
ルミニウム合金鋳物からなるシリンダブロックのボア内
面を処理すると、ボア内面の表層部のみが局所的に短時
間で加熱されて溶融状態となる。 (2)次に、この溶融した表層部の金属が鋳巣の内部に流
れ込んで鋳巣を埋め尽くし、処理を停止すると、鋳巣に
流れ込んだ溶融金属は急冷されて凝固し、鋳巣は消滅す
る。 (3)このボア内面上に溶射皮膜を形成すると、母材と溶
射皮膜との間に空孔が存在したり皮膜が分断されること
がないため、密着性に優れた溶射皮膜を形成することが
できる。
【0012】[真空アーク放電処理を用いた処理方法]上
述した母材表面のみを加熱して溶融する工程は、できる
だけ短時間で母材を溶融できることが望ましい。これ
は、溶融までに時間がかかるとシリンダブロック全体の
温度が上昇し、硬さが低下するなど母材の機械的強度が
変化したり、ボア内面にブリスターが発生したりするた
めである。従って、高密度エネルギーを有する手段とし
て、例えば真空アーク放電処理を好適に用いることがで
きる。この真空アーク放電処理によって母材表面のみを
溶融すると、鋳巣を埋めると共に、溶射前処理の粗面化
をも同時に行うことができる。ここで、真空アークとい
う用語は、厳密な意味での真空の中で形成されるアーク
に限定されるものではなく、大気圧より極めて低い減圧
雰囲気において形成されるアークをも意味するものとす
る。
【0013】真空アーク放電処理による作用を以下に説
明する。まず、図1に示すように、真空状態の雰囲気中
で、被処理物であるシリンダブロック1のボア内面1a
を陰極2とし、陽極3との間に電圧を印加すると、陽極
3から陰極面であるボア内面1a上に発生する多数の陰
極点4に向けて真空アーク5が放電される。この真空ア
ーク5によってジュール熱が発生し、ボア内面1aは局
所的に溶融してプラズマ化し、イオンと電子を放出した
後にクレーターを形成する。上記陰極点4は陰極面1a
上を高速で動き回るため、母材に与える熱影響は、他の
高密度エネルギーを有する方法と比較して格段に少な
く、陰極面1a全体が溶融及び急冷されると共にクレー
ターも無数に形成される。上記方法でボア内面1aの表
面のみを溶融した場合、表層部ではアルミニウム合金鋳
物中に存在していた共晶及び初晶Siが一旦溶融アルミ中
に溶解し、処理が終了すると急冷され母材とは異なった
組織を有する硬化層が最も表面側に形成される。この硬
化層は、直径5μm以下の極微細なケイ素粒子が均一且つ
緻密に分散した組織であるため、母材よりも硬い層とな
る。
【0014】[硬化層の効果]母材と溶射皮膜の機械的性
質が大きく異なる場合に溶射皮膜の密着性を向上させる
方法として、溶射皮膜を多層膜とし、硬さなどの機械的
性質が母材と溶射皮膜との間の値を示す溶射皮膜を、溶
射皮膜と母材との間に中間層として形成し、皮膜性質の
急激な変化を緩和して密着性を向上させる方法がある。
ボア内面の表層部のみを溶融することにより得られた上
記硬化層は、これと同様の効果を有するため、母材であ
るアルミニウム合金鋳物と溶射皮膜との中間層として働
き、溶射皮膜の密着性を向上させる。また、溶射前には
前処理として、通常、ブラスト処理を行うが、硬化層を
粗面化して得られた凹凸は溶射粒子によりつぶれにくい
ため、アンカー効果が保たれ密着性が向上する。
【0015】この時、アルミニウム合金鋳物中に存在す
る共晶及び初晶Siは、仕事関数が4.85eVで4.28eVのアル
ミニウムよりも大きく、更にアルミニウム合金鋳物表面
には酸化物が形成されているため、アーク放電はむしろ
アルミニウム合金鋳物に集中し、アルミニウム合金鋳物
の熱伝導性の良さから発生したジュール熱によって溶融
アルミ中に一旦溶解し、処理が終了すると微細化して析
出し硬化層を形成する。また、鋳巣を消滅させ、且つ硬
化層に中間層としての効果を溶射皮膜全体に渡ってもた
せるためには、硬化層の厚さを10μm以上に形成するこ
とがより好ましい。これは、処理時間、出力などの条件
を選定することにより可能となる。また、鋳巣がシリン
ダブロック1を貫通している場合は、樹脂をこの貫通部
分に含浸させることによって封孔処理をすることで、シ
リンダボア内の真空度を50Pa以下にでき真空アーク放電
処理をすることができる。このとき、真空アーク放電処
理は母材への熱影響が少ないため、上記貫通部分に含浸
させた樹脂は、真空アーク放電処理によって溶融するこ
とがない。
【0016】以下、本発明の内容を実施例を通して更に
詳細に説明する。 [実施例1]実施例1として、アルミニウム合金鋳物から
なる単気筒のシリンダブロック1を用いて、該シリンダ
ブロック1のボア内面1aに真空アーク放電処理を施し
た。まず、図1に示すように、材質がADC12材からなる
シリンダブロック1のボア(ボア径φ72mm)10の上下の
開口部11,12をマスク板13,14及びシール材1
5,16で封鎖してボア10の内部を密閉状態とし、図
示しない真空ポンプによってボア10内の真空度が50Pa
以下になるように排気口17からエアを排気した。
【0017】次に、シリンダブロック1を電源20の陰
極側2に接続し、ボア10内に設置された陽極3とシリ
ンダブロック1との間に電圧を印加することによって、
陽極3からボア内面1aに向けて真空アーク5を放電さ
せて前処理を行った。このときに流した直流電流は100
A、アーク放電時間は60秒、陽極3とボア内面1aとの
距離は30mmとした。上記ボア内面1aは、処理を施す前
は多少の鋳巣が存在していたが、真空アーク放電処理に
よって、表層が十分に溶融した形跡があり鋳巣は消滅し
ていた。また、ボア内面1aも十分に粗面化されてお
り、その粗度は5点平均でRa=7.6であった。こののち、
真空アーク放電処理を施したシリンダブロック1をター
ンテーブル上にセットして、ボア10の中心部を軸とし
て回転させた。そして、図示しないプラズマ溶射装置に
より、ボア10内で内径溶射ガン(図示せず)を上下方
向に移動させながら溶射をしてボア内面1aに溶射皮膜
を形成させた。溶射材料には、アルミニウム合金と炭素
鋼との混合粉末を使用した。その他の溶射条件は表1に
示すとおりである。
【0018】
【表1】
【0019】溶射後のボア内面1aを観察すると、溶射
皮膜が分断されている様子はなく、また溶射後にホーニ
ング加工を行ったが、溶射皮膜の剥離等の密着性に関す
る問題はなかった。
【0020】[比較例1]次に、比較例として、実施例1
と同じ型式のシリンダブロック1を用い、このボア内面
1aを従来から用いられているブラスト処理により粗面
化した。ブラスト材にはホワイトアルミナ#30を使用
し、ブラスト材の噴射圧力は4 kgf/cm2とした。処理前
にボア内面1aに存在していた鋳巣は、ブラスト処理に
より消滅しなかった。また、ブラスト処理により母材表
面が削られるため、ボア内面1aのすぐ下に存在してい
た鋳巣が新たに露出し、その部分にはブラスト材が刺さ
り込んでいた。こののち、実施例1と同様の溶射条件
で、シリンダブロック1のボア内面1aに溶射皮膜を形
成したところ、鋳巣で皮膜が分断される箇所や、空孔で
ある鋳巣を覆うように溶射皮膜が形成された箇所があっ
た。さらに、溶射後にボア内面1aにホーニング加工を
施すと、鋳巣を溶射皮膜が覆っていた箇所では一部の溶
射皮膜が剥離した。
【0021】[実施例2]本発明の効果を実証するため
に、実施例1及び比較例1で作製したシリンダブロック1
を用いた2輪エンジンをベンチテストに供した。この場
合のエンジン諸元とベンチテスト条件を表2に示す。
【0022】
【表2】
【0023】比較例1で用いたシリンダブロック1は、
エンジンを1時間作動させた後、エンジンを作動させる
前(ホーニング加工後)には剥離がなかった箇所におい
ても、鋳巣の上を覆っていた溶射皮膜では剥離が発生し
た部分があった。従って、比較例1であるボア内面に鋳
巣の存在するシリンダブロックには溶射することができ
ない。一方、実施例1で用いたシリンダブロック1の場
合は、エンジンを10時間作動させた後も、ボア内面1a
に形成した溶射皮膜の剥離はなく鋳巣を埋めた効果が得
られた。
【0024】[実施例3]また、実施例3では、図2に示
すように、シリンダブロック1の代わりに平板テストピ
ース30を用いて、該テストピース30の表面に真空ア
ーク放電処理を施した。まず、縦と横の寸法が100mm×l
OOmmで厚さが10mmの、材質がADC12からなる平板テスト
ピース30の片面にカップ型ホルダー31を被せ、該カ
ップ型ホルダー31と平板テストピース30によって仕
切られた空間32内から、図示しない真空ポンプを用い
て真空度が50Pa以下になるようにエアを排気した。上記
カップ型ホルダー31の内部には陽極3が配設されてお
り、カップ型ホルダー31の下端部には周縁に沿ってシ
ール材16が取り付けられている。そして、平板テスト
ピース30を陰極側2に接続し、陽極3と平板テストピ
ース10との間に電圧を印加して、陽極3からテストピ
ース30に向けて真空アーク5を放電させた。
【0025】ここで、本発明材としてテストピースA
を、比較材としてテストピースBを用い、表3に示す条
件でそれぞれ真空アーク放電処理を施した。また、真空
アーク放電処理後のテストピースAの表層部を図3に、
母材硬さ及び放電処理によって形成された硬化層の厚さ
と硬さを表4に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
【表4】
【0028】図3に示す表層部41には、母材であるAD
C12材の金属組織42とは異なる組織を有する、厚さが
約40〜80μmの硬化層43が形成されている。また、通
常のADC12材は初晶α(Al)と硬質の共晶及び初晶Siが存
在しているのに対し、硬化層43では母材が短時間で溶
融及び凝固して、極微細なケイ素粒子 が均一且つ緻密
に分散及び晶出しているため、表4に示すように、硬化
層43の硬度は母材よりも高かった。これに対し、テス
トピースBでは、真空アーク放電処理によって、母材表
面の清浄化は行われていたが溶融が不十分であったた
め、上記テストピースAのような硬化層43はほとんど
形成されなかった。
【0029】次に、真空アーク放電処理を行ったそれぞ
れのテストピース上に、表5に示す条件によって溶射皮
膜を形成した。
【0030】
【表5】
【0031】溶射材料には鋳鉄粉を使用し、溶射皮膜形
成後、接着剤の引き剥がし法により溶射皮膜の密着強さ
試験を行った。この場合の溶射皮膜の硬さと密着強さを
表4に示す。この表4から、テストピースA上に溶射皮
膜を形成した方が、硬化層43がほとんど形成されてい
ないテストピースBに溶射皮膜を形成したものよりも高
い密着強さを示すことが判明した。これは、硬化層43
の硬さが母材と溶射皮膜との間の値であるため、硬化層
43が溶射皮膜と母材42の性質の差を緩和する中間層
としての役割を果たすためである。以上のことから、こ
の母材42−硬化層43−溶射皮膜で構成されたものが
耐摩耗性部材の表面層として優れていることが分かる。
また、真空アーク処理条件と形成される硬化層43の厚
さとの関係は処理面積及び被処理物の大きさによって変
化するため、いずれの被処理物に対しても表3の条件が
適用できるわけではなく、形成される硬化層43の効果
が溶射皮膜全体に渡って得られるためには、硬化層43
の厚さを10μm以上に形成することがより好ましい。
【0032】
【発明の効果】本発明によれば、以下に示す効果を得る
ことができる。 (1)シリンダブロックのボア内面に形成された鋳巣が埋
まることにより、その上から形成される溶射皮膜が分断
されたり空孔が形成されることがない。このため、エン
ジン作動時のオイル消費やブローバイガス量等の問題が
解消される。 (2)また、真空アーク放電処理は局所的な溶融点が高速
で移動するため、母材に与える熱的なダメージが少な
く、母材の性質を損なわない。さらに、溶融時に微小な
クレーターを形成するため、その上に直接溶射皮膜を形
成することができ、ブラスト処理が不要になる。 (3)なお、本発明は、溶射皮膜と母材との間に中間層と
して硬化層が形成された多層構造であるため、密着性に
優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1において、シリンダブロックのボア内
面に真空アーク放電処理を施す状態を示す断面図であ
る。
【図2】実施例3において、平板テストピース上に真空
アーク放電処理を施す状態を示す断面図である。
【図3】実施例3において、真空アーク放電処理を施し
た平板テストピースの表層部を示す、400倍の倍率に
相当する断面図である。
【符号の説明】
1 シリンダブロック 1a ボア内面 2 陰極 3 陽極 4 陰極点 5 真空アーク 10 ボア 11,12 開口部 13,14 マスク板 15,16 シール材 20 電源 30 平板テストピース 31 カップ型ホルダー 32 空間 41 表層部 42 母材組織 43 硬化層
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 國岡 誠也 静岡県浜松市高塚町300番地 スズキ株式 会社内 Fターム(参考) 4K031 AA01 AA02 AA08 AB08 BA03 BA08 CB28 CB37 DA04 EA01 EA02 EA05 EA10 FA03

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 その表層部に鋳巣が形成されたシリンダ
    ブロックのボア内面に向けて真空アークを放電して該ボ
    ア内面の表層部を溶融するステップと、この溶融した金
    属を上記鋳巣内部に流れ込ませることによって鋳巣を封
    鎖するステップとを含んでなるシリンダブロックの溶射
    前処理方法。
  2. 【請求項2】 シリンダボアの鋳巣によってボア内面か
    ら外方に貫通した貫通孔が形成されたシリンダブロック
    の溶射前処理方法であって、上記貫通孔に含浸による封
    孔処理を施すステップと、この封孔処理をしたボア内面
    に真空アーク放電処理を行うステップとを含んでなるシ
    リンダブロックの溶射前処理方法。
  3. 【請求項3】 その含有成分にケイ素を含むと共に、ボ
    ア内面の表層部に鋳巣が形成されたアルミニウム合金製
    シリンダブロックのボア内面に向けて真空アークを放電
    し、該ボア内面の表層部を溶融するステップと、この溶
    融した金属を上記鋳巣内部に流れ込ませて鋳巣を封鎖す
    るステップと、上記ボア内面の表層部に、直径5μm以
    下のケイ素粒子が分散した硬化層を形成するステップと
    を含んでなるシリンダブロックの溶射前処理方法。
  4. 【請求項4】 その含有成分にケイ素を含むと共に、ボ
    ア内面の表層部に鋳巣が形成されたアルミニウム合金製
    シリンダブロックのボア内面に向けて真空アークを放電
    し、該ボア内面の表層部を溶融するステップと、この溶
    融した金属を上記鋳巣内部に流れ込ませて鋳巣を封鎖す
    るステップと、上記ボア内面の表層部に、直径5μm以
    下のケイ素粒子が分散した硬化層を形成するステップ
    と、該硬化層の上から溶射処理を施して溶射皮膜を形成
    するステップとを含んでなるシリンダブロックの溶射方
    法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2010202939A (ja) * 2009-03-04 2010-09-16 Nissan Motor Co Ltd シリンダボア内面補修方法及びシリンダボア内面補修装置
JP2016089275A (ja) * 2014-11-07 2016-05-23 ジーエム・グローバル・テクノロジー・オペレーションズ・エルエルシー シリンダボアの溶射被覆のためのプラズマ噴射による表面活性化

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