JP2000212699A - 溶接性および被削性に優れた工具鋼およびそれを用いた金型 - Google Patents
溶接性および被削性に優れた工具鋼およびそれを用いた金型Info
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Abstract
せずに、溶接性や被削性に優れた工具鋼を提供する。 【解決手段】 重量%で、C:0.45〜0.75%、Si:0.1〜0.6
%、Mn:0.1〜1.2%、Cr:4.5〜12.0%、MoまたはWの1種ある
いは2種を(Mo+1/2W):0.6〜1.2%、V:0.05〜0.5%未満を含
有し、残部がFeおよび不可避の不純物からなり、共晶値
Z[=8×(C%)+0.6×(Cr%)]が10.8以下である工具鋼であ
る。好ましくは、重量%で、C:0.55〜0.75%、Cr:6.8〜
8.0%であり、かつ共晶値Z[=8×(C%)+0.6×(Cr%)]を9以
上10.5以下とし、あるいは、Si:0.1〜0.3%、S:0.005〜
0.10%、Ni≦5.0%、Ca≦100ppmの工具鋼である。そし
て、これらに加えて、1000〜1050℃での焼入れ、500℃
以上の焼戻しに適用され、55HRC以上の硬さになる工具
鋼であり、これら本発明の工具鋼を55HRC以上の硬さに
調質し、切削加工を行うことで作製した金型である。
Description
製品、農機具等に使用される鋼板の打抜、曲げ、絞りあ
るいはトリミング用の金型等に使用される工具鋼に関す
るものである。
勝ち収益を確保するために、これまであらゆる分野での
コスト低減を実施してきた。その分野は金型関連までに
もおよび、コスト低減のため、プレス金型で成形される
製品の製作工程の短縮や金型製作数の削減、更には、金
型の加工方法や工具の開発等、種々の低減施策が実施さ
れてきた。
れる金型材、特に冷間加工用金型材には、耐摩耗性付与
のため炭化物を多量に含み、更に、焼入れ性に優れかつ
靭性を確保するためCr含有量が多い材料が求められて
おり、例えば、JIS G4404規定の合金工具鋼鋼
材であるSKD11等の高C−高Cr系鋼が使用されて
いる。
しては、金型を構成する部品数の削減や一体成形、形状
の複雑化等で、上述のSKD11のごとき鋼材からの加
工による形状出しでは、耐摩耗性には優れているが加工
すべき体積が膨大となり、製造コスト増加の原因となっ
ている。一方、SKD11に相当する材質の成分で鋳造
化して加工代を減少する試みも成されてきたが、炭化物
を多量に含むため、靭性等に問題があり、適切な合金設
計での実用化までには至っていないのが現状である。
いはトリミング等に使用される金型では、三次元的に変
化している被打抜品の形状を成形する金型にて割れが頻
発するようになり、溶接補修性等の要求が高まってき
た。つまり、最近の動向を見てみると、金型加工工程の
立ち上げが短期化してきたための設計変更による形状修
正や、金型使用中の過酷な条件等による破損や割れが生
じても、救済により再使用ができるための溶接性が重要
となってきたのである。
具鋼には、その最近において求められる機械的特性につ
いて各々、一長一短がある。そこで、本発明は、靭性や
耐摩耗性といった機械的性質を低下させずに、溶接性や
被削性に優れた工具鋼を提供するものである。
摩耗性といった基本的な機械的特性の維持を鑑みた上
で、溶接性や被削性の改善に要求される基本条件を見直
した。
耗性重視のため硬質脆性な炭化物を多量に含有する成分
設計を行っているが、近年の耐摩耗性付与手段として表
面処理の技術が発達してきたことから、金型材自体の耐
摩耗性確保は現状ほど重視する必要性が無くなってき
た。そして、耐割れ性の点から見ると、このような炭化
物はクラック進展を促進させる因子であるので、適切な
量まで低くする必要がある。
工具鋼を構成する基本成分であるC含有量を減少しても
良好な機械的性質、特に硬さ及び靭性を得るに充分な成
分構成および組成を見いだし、更に溶接性や被削性、表
面処理特性にも優れた本発明の工具鋼に想到した。
45〜0.75%、Si:0.1〜0.6%、Mn:
0.1〜1.2%、Cr:4.5〜12.0%、Moま
たはWの1種あるいは2種を(Mo+1/2W):0.
6〜1.2%、V:0.05〜0.5%未満を含有し、
残部がFeおよび不可避の不純物からなり、共晶値Z
[=8×(C%)+0.6×(Cr%)]が10.8以
下である工具鋼である。
0.75%、Cr:6.8〜8.0%であり、かつ共晶
値Z[=8×(C%)+0.6×(Cr%)]を9以上
10.5以下とし、あるいは、Si:0.1〜0.3
%、S:0.005〜0.10%、Ni≦5.0%、C
a≦100ppmの工具鋼である。そして、これら本発
明に加えて、1000〜1050℃での焼入れ、500
℃以上の焼戻しに適用され、55HRC以上の硬さにな
る工具鋼である。そして、これら本発明の工具鋼を55
HRC以上の硬さに調質し、切削加工を行うことで作製
した金型である。
る基本成分であるC含有量を減少しても良好な機械的性
質、特に硬さ及び靭性を得るに充分な成分構成および組
成を見いだし、更に溶接性や被削性、表面処理特性にも
優れた工具鋼を達成したところにある。
抑えて優れた溶接性を確保するものであり、金型に使用
すれば、その優れた靭性と共に、使用中の破損や割れ、
摩耗が生じても溶接による補修にて容易に再使用が可能
である。そして、C含有量の抑制による耐摩耗性の不足
が生じた場合にも対処すべく、優れた表面処理性をも確
保したものである。
溶接可能というのは、規定の予熱、後熱処理を行うJI
S Z 3158のY形状試験にて溶接割れが認められ
ないことを指す。溶接を行うにおいては、その際の溶接
割れを防止するために、通常は予熱、後熱を行う。予熱
は一般的に溶接時の高温割れ防止のために行い、後熱は
低温割れの防止を目的とし、特に溶接熱影響部の硬さを
下げる一種の焼戻しである。
の状況により形状変更や補修のために溶接が実施される
が、合金鋼は溶接時の割れを防止するために高温に予熱
した状態で実施される。特に、Cr等を含む場合は45
0〜550℃以上に予熱後実施するのが一般的である
が、本発明では、この予熱温度を下げても、具体的には
250℃にまで下げても、JIS Z 3158のY形
状試験による溶接割れが認められない工具鋼が提供でき
る。これによって、溶接に係る作業性が向上し、経済的
でもある。
要になるが、溶接熱影響部の硬さを下げることで、後熱
における加熱温度、時間を低くすることができる。特に
溶接熱影響部のコントロールにはC量を0.75%以下
にすることと、Cr量を4.5%以上、好ましくは6.
8%以上にすることが有効であり、これは溶接性を左右
するマルテンサイト組織中の固溶C、Cr量を最適に調
整するに有効となる。
おく。本発明は、C含有量の抑制による耐摩耗性の不足
が生じた場合にも対処すべく、表面処理性をも十分に確
保するものである。そのために必要な特性は、焼入性お
よび、塩浴法やCVD処理といった表面処理温度でのオ
ーステナイト組織中に固溶するC量と表面近傍部の母材
の硬さである。
置への適用を可能にすべく付与するものであり、主にC
r量を4.5%以上、好ましくは6.8%以上に維持す
ることで確保できる。同時に、4.5%以上のCr含有
は、複雑形状物へ表面処理後の冷却中におこる一種の焼
き割れ現象を防止する目的で確保すべきものでもある。
固溶するC量は、十分な膜厚を有するMX型化合物(T
iC、VC等)の生成に重要である。つまり、固溶C
は、CVD、TD処理等の表面処理法にてMX型化合物
を生成するために、その鋼材から供給すべく必要とな
り、その最適量は、表面処理温度に保持する前のマルテ
ンサイト組織中に固溶するC量による。その固溶C量の
調整をすべく、本発明の工具鋼は、そのC含有量を0.
45%以上、好ましくは0.55%以上としている。
ることは、表面処理による形成膜の耐剥離性を付与する
に重要な要素である。
が熱処理時の変寸である。TD、CVD処理は一種の焼
入れ焼戻しを兼ね、その後少しでも寸法が狂い研削で落
とすことになると、表面膜を除去することになり問題が
ある。
す。焼入れままでは、主体となっているマルテンサイト
組織中に固溶するCによって結晶格子が押し広げられ、
膨張をする。焼戻し温度を上げてゆくと、低、中温領域
(図1(A)域)ではセメンタイトが析出して寸法変化
が収縮傾向となる。高温域では、2次硬化とほぼ同じ温
度で変寸率が最大になる。この最大値が発生するのは、
この最大値の低温側(図1(B)域)と高温側(図1
(C)域)で主に起こる二つの機構による。
度を上げることより多くなり膨張傾向が発生する。最大
値よりも高温側ではM7C3、M23C6系の炭化物の
析出・凝集によりマルテンサイト中の固溶C量が低下し
てゆくため、収縮傾向が発生する。この(B)、(C)
間で起こる変寸の抑制に対しては、図1にも示されてい
るような、セメンタイト析出を制御するSi、M7C3
やM23C6の析出を制御するMo、Wの最適化を行う
必要がある。そのため本発明の工具鋼では、Siを0.
6%以下、好ましくは0.3%以下に調整すると共に、
(Mo+1/2W)量を1.2%以下とすることが非常
に重要である。
た鋼組成においては、一方で耐摩耗性が不足するのであ
って、このような工具鋼については表面処理を施すこと
をも十分に考慮した設計をしておかないと、工具材料と
しての実用性に乏しいものとなる。つまり、本発明は、
表面処理が施される場合にも最適な工具鋼を達成するた
めにも、上記熱処理変寸の抑制を重要とするのである。
えば特開平11−181548が提案されているが、本
発明の重要とする変寸の抑制に鑑みれば2.0%ものS
i含有に合わせて5.0%ものMo当量を許容し、その
実施例を見ても高Si、高Mo側であって、これでは本
発明の熱処理変寸の抑制には至らない。つまり、特開平
11−181548の工具鋼は、本発明が狙う変寸抑制
が困難な組成系、具体的には最近の金型品質に対応でき
る0.1%以下の変寸抑制が困難な組成系を中心に設計
されているからであって、工具、金型として作製される
最終的な姿を視野に入れた研究を重要とする工具鋼設計
において不十分である。これらに基いて、本発明の工具
鋼を構成する元素およびその含有量の限定理由について
述べる。
を維持するために必要である。耐摩耗性を達成すべく熱
処理後の硬さを55HRC以上に確保し、CVD処理や
塩浴法といった表面処理において十分なMX型炭化物の
膜厚を確保するためには、0.45%以上、好ましくは
0.55%以上の含有量が必要である。0.45%未満
では、焼入硬さが不足し十分な強度を確保できず、かつ
塩浴法もしくはCVD法による3μm以上の膜厚を生成
させるのが困難となる。
化物を形成し、耐摩耗性や焼戻し軟化抵抗を向上させ
る。添加量が過多になると靭性を低下させ、0.75%
を越えると溶接性を劣化させる。更に、固液共存温度幅
が大きくなり鋳造欠陥発生の危険、つまり共晶値Zが増
す原因となる。よってCの添加量は、0.45〜0.7
5%、好ましくは0.55〜0.75%とした。
さを評価する指標であり、Z=8×(C%)+0.6×
(Cr%)で定義する。この式での(C%)と(Cr
%)とは工具鋼に含有されるCおよびCrの重量%であ
る。
明がその調整を重要とする元素である。脱酸剤および鋳
造性改善の目的で含有し、その効果を得るべく0.1%
以上が含有される。しかし、製造方法によっては添加し
なくてもよい。一方、熱処理時の変寸が大きくなると実
用上不具合が大きくなることから、0.6%以下、好ま
しくは0.3%以下に調整することが不可欠である。ま
た、過多の含有は、被削性と溶接性を阻害する原因とも
なり、加えてマトリックスの成分偏析も激しくなること
から、この点においても調整するものである。
0.1%未満では焼入硬さを安定して得るためには不十
分である。一方、多過ぎると溶接性を劣化させる原因と
なり、更にSiと同様、マトリックスの成分偏析も激し
くなるので、0.1〜1.2%とした。ただし、Mnは
高価なCrやMo等と置換できる経済的な元素でもあ
り、CrやMo等の効果が十分発揮される場合にはMn
は無添加としても良い。
耗性を向上すると共に、焼入性を増す効果、そして、C
VD処理や塩浴法などによる複雑形状物への表面処理後
の冷却中におこる一種の焼き割れ現象を防止する効果が
ある。しかし、多過ぎるとCr炭化物の増加による靭性
の低下をきたす。更に、Cの添加と同様に、固液共存温
度幅が大きくなり鋳造欠陥発生の危険(共晶値Z)が増
す原因となる。よってCrの添加量は、4.5〜12.
0%、好ましくは6.8〜8.0%とした。
た、Cと結合して硬い炭化物を形成し、耐摩耗性を向上
させる。Wの原子量はMoの約2倍であるため、Mo1
%の含有量はW2%の含有量と等しい効果を有し、(M
o+1/2W)量でその効果を表すことが可能である。
本発明ではMo、Wの1種または2種を含有させること
ができ、つまり、Moの全含有量を2倍のW含有量で置
き換え使用してもよく、Moの一部をそれに相当するW
量に置き換え使用してもよい。(Mo+1/2W)量で
どちらの成分を優先して使うかは経済性を考慮して判断
すればよいが、火炎焼入れ処理を行う材料としてはW添
加を少なくした方が良い。
満では、高温焼戻しでの硬さが55HRC以上出難くな
り、焼戻し温度による硬さの変化も急激になるため硬さ
合わせが思うようにし難くなる。一方、過多の添加量で
は、熱処理変寸が大きくなり、表面処理、熱処理での寸
法精度が確保できない。よってMoの添加量は0.6〜
1.2%とした。なお、高温焼戻しでの硬さの確保をも
考慮すれば1.0%以上の含有が有効であり、また、過
多の含有は疲労特性を低下させる塊状の共晶炭化物を発
生させることから、この点においても調整するものであ
る。
成長を抑制し、靭性を確保するのに有効であり、この効
果を発揮するためには、0.05%以上の含有が必要で
ある。逆に、過多の含有は凝固時に巨大なV系炭化物を
晶出し、溶接性と靭性を低下させる原因となる。そし
て、焼きなまし状態での炭化物中にVC形成を起こし、
被削性が劣化するので、0.05〜0.5%未満とし
た。
こり易さを評価する指標であり、共晶値Zが増す程、固
液共存温度幅が大きくなる。本発明の工具鋼において
は、共晶値Zが大きくなると溶接時の高温割れや靭性の
劣化が懸念されるので、10.8以下とする。好ましく
は、C:0.55〜0.75%、Cr:6.8〜8.0
%に調整するに合わせて、9以上10.5以下する。
る効果に則して、上記の成分組成にS、Zr、Ca、P
b、Se、Te、Bi、In、Be、Ceのうちの1種
または2種以上を含有してもよい。そのうち、Sは、脆
化元素の代表として溶接、高硬度鋼の分野では忌み嫌わ
れる元素であるが、快削効果があるため、靭性、溶接性
を向上させた分、被削性向上の目的で0.1%程度まで
なら含有を許容することができる。本発明に好ましく
は、0.005〜0.10%であり、効果を得る上で更
に好ましくは0.02〜0.10%である。
伴わない、理想的な快削元素である。その快削性向上の
機構は、鋼中に微量に分散している酸化物を低融点化さ
せ、これが切削熱で溶けだし、刃先に保護膜を形成する
ものである。また、S添加に際し、Caを添加すること
はMnSの形態制御を行い、圧延と直角方向の靭性を向
上させるのに有望である。しかし、Caは蒸気圧が高い
ので、現状の技術では100ppm程度が含有の上限で
ある。
とによる靭性向上が認められる元素であるが、本合金系
では、特に高C量域での靭性維持による効果で溶接性劣
化を防止でき、実用的に操業可能な表面処理領域を広げ
る方向に作用する。しかし、過多のNi含有は製造上の
困難性から上限を5.0%以下とした。上記の効果を得
るに好ましくは、0.005%以上、更に好ましくは、
0.01%以上とする。
る被削性を向上する目的のもとに0.2%以下、好まし
くは、0.1%以下の含有が可能である。また不可避の
不純物の総量は0.5%以下が望ましい。但し、耐摩耗
性を上げるため窒化処理を施す場合、窒化層の硬さを積
極的に上げるAlの添加は1.0%以下なら許容でき
る。
れた溶接性の付与に加えて、従来のSKD11と同等の
熱処理条件である1000〜1050℃からの焼入れ、
500℃以上の焼戻しによっても55HRC以上の硬さ
が確保できる。そして、その55HRC以上の硬さにて
優れた被削性の達成に加え、塩浴法やCVD処理といっ
た表面処理性、更には熱処理時の変寸抑制にも優れるも
のである。
場合は、その求められる機能に応じて必要な部位のみに
火焔焼入れ等を実施しても良く、製作工数あるいは必要
特性を考慮して硬さを得るための熱処理方法を選択すれ
ばよい。一例として、本発明の工具鋼を55HRC以上
の硬さに調質し、切削加工を行うことで作製した金型で
ある。
おいて、焼入後の状態を調整することが有効である。つ
まり、焼入れ後のマルテンサイト組織中に固溶するCお
よびCr含有量を重量%でC:0.45〜0.6%、C
r:3.0〜6.0%とすること、好ましくはC:0.
50〜0.63%、Cr:4.5〜7.5%の範囲を狙
うことであり、工具鋼を構成するC、Cr量をC:0.
55〜0.75%、Cr:6.8〜8.0%に調整する
ことと合わせて有効である。そして、断面組織中のM7
C3型一次炭化物を面積%にて1.5%以下とすること
である。
調整することは、溶接性の向上に有効である。高C、C
r鋼では溶接後の後熱も重要であり、溶接熱影響部の硬
さを下げることで、後熱における加熱温度、時間を低く
することができることは先述の通りである。その手段と
してマルテンサイト組織中の固溶C、Cr量の調整は有
効であり、本発明において具体的には、固溶C量を0.
6%以下、固溶Cr量を3.0%以上とすることであ
る。更には、固溶Cr量を6.0%以下とすることであ
り、この場合、被削性の向上の面においても有効であ
る。
性の向上おいて、本発明の工具鋼に含有されるCr量を
4.5%以上にすることは先述の通りであるが、好まし
くは、そのうち、マルテンサイト組織中の固溶Cr量を
3.0%以上にすることが有効である。また、固溶C量
を確保する理由は、先述のごとく、表面処理法にてMX
型化合物を生成するために鋼材からの供給が必要となる
ためでもあって、硬さを維持する上でも、その固溶C量
を0.45%以上とすることが好ましい。
固溶するCおよびCr含有量を調整する有効性について
述べたが、それら上下限の限定においてはそれぞれの効
果の程度調整に加えて、更には本発明の工具鋼を構成す
るC、Cr量自体の最適調整範囲にも応じた決定が望ま
しい。具体的には、C:0.50〜0.63%、Cr:
4.5〜7.5%の固溶範囲を狙うことであり、工具鋼
を構成するC、Cr量をC:0.55〜0.75%、C
r:6.8〜8.0%に調整することと合わせて有効で
ある。
で、その断面組織中の1.5(面積%)以下にすること
が好ましい。なお、一次炭化物量は、本発明の工具鋼に
て規定する化学組成に加え、熱処理によっても低減が可
能である。
るが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるも
のではない。 (実施例1)まず、50kg高周波炉を使用して材料を
溶解し、表1に示す化学組成を有したインゴットを作製
した。なお、比較材1はSKD11相当材である。次
に、鍛造比が5程度になるように熱間圧延をし、冷却
後、850℃で4時間保持の焼鈍を実施した。
のY型試験片に整え、真空加熱炉を用いて1025℃に
加熱保持後、不活性ガスでガス冷却焼入れを実施した。
更に続けて各試験片の目標硬さがHRC55以上となる
ように、500〜550℃で焼戻しを実施した。このよ
うにして製作した試験片を表2に示す条件で溶接し、溶
接性の評価を行なった。なお、比較材4〜10は、50
0℃以上の焼戻しで55HRC以上の硬さを得ることが
できなかった。
って行ない、その結果を焼入れ、焼戻し熱処理による硬
さと共に表3に示す。本発明材1〜8、比較材11、1
2では350℃の予熱温度でも溶接割れが発生しなかっ
たが、比較材1、2、3では予熱温度が350、450
℃のいずれかで割れを生じた。
た。まず、表1に示す素材にて、硬さ24HRC以下の
焼きなまし状態である供試材を作製し、スクエアエンド
ミルでの被削性の評価を行った。なお、切削試験は表4
に示す条件で行った。表5に示す結果より、本発明材1
〜8と比較材11、12は、SKD11相当である比較
材1に比べて、3倍あるいはそれ以上の工具寿命が得ら
れることが分かる。
理条件により硬さ57〜60HRCに焼入れ焼戻しした
供試材を作製し、スクエアエンドミルでの被削性の評価
を行った。切削条件は表6に示す。表7に示す試験結果
より、本発明材1〜8と比較材11、12はSKD11
相当である比較材1に比べて、6倍あるいはそれ以上の
工具寿命が得られることが分かる。
接後の冷却時間が溶接性に及ぼす影響を調査した。調査
にあたっては、上記焼鈍材を真空加熱炉を用いて102
5℃に加熱保持後、不活性ガスでガス冷却焼入れを実施
し、続けて500〜550℃で焼戻して所定の硬さとし
たものを供試材とし、溶接後の後熱は450℃で1時間
保持後、3時間または7時間をかけて常温まで冷却する
ものとした。この条件による割れの発生有無を、調整硬
さおよび予熱温度と共に、表8に示す。
12では、冷却時間が3時間の場合でも割れが発生しな
かったのに対し、比較材1、9、10では7時間の冷却
時間においても割れを生じた。
1〜3および11、12の焼鈍材から長手方向が圧延方
向になるように10mmφ×80mmLのテストピース
を10本づつ作製した。それら焼入れ前のテストピース
の長さ方向寸法を予め計ってから、1030℃×1時間
保持して空冷焼入れし、500℃以上の焼戻しを行なっ
て60HRC±1に入るように硬さ調整した。室温に十
分に冷やした後、再度寸法を測定し、焼入れ前を基準と
した寸法変化率をそれぞれ求め、変寸率が0.1%を超
えたものの本数を調べた。表9にその結果を示す。
8とSKD11相当である比較材1は限度オーバーの変
寸が見られなかった。Siがやや高い本発明材4、Mo
がやや高めの本発明材7の場合でも0.1%を超える変
寸の発生数は1本と少ないものであった。それに対し、
比較材2、11、12はSi、Mo当量が高いため、1
0本全てに限度オーバーの変寸が発生している。なお、
比較材3は例えば先述の特開平11−181548にて
提案されるような工具鋼に対しSiを低めたものである
が、それでもMo当量が高いために4本の変寸オーバー
が発生している。
めに炭化物を低減しているので、場合によっては耐摩耗
性が劣るといった懸念がある。しかし、本発明の変寸低
減効果により、表面処理の自由度は確保されているの
で、工具、金型への作製のし易さと、その工具性能の両
者を満足できる。
1、2、3、11、12の焼鈍材から切り出した25×
100×100(mm)の板材について、実際にTD処
理を行なった時の圧延方向の寸法変化率を調べた。前熱
処理は焼入れ1020℃で、焼戻しは530℃を2回行
い、その後仕上げ加工を行なってから、5点の圧延方向
寸法をそれぞれ場所を変えて測定した。次に目標膜厚を
3μmに設定したVCを生成させる条件として1020
℃×7時間でTD処理し、焼戻しは530℃で2回行っ
た。更に後熱処理でも同様に焼入れを1020℃で行
い、焼戻しを530℃で行った。その後圧延方向の寸法
測定を行い、変寸率を算出した。その結果を表10に示
す。
材)は変寸率が0.1%以下で満足する変寸率となって
いるが、比較例2、3、11、12の変寸率は0.1%
を大きく超え実用には耐え難い変寸率となっている。S
KD11が従来ダイス鋼として汎用性を持つのは、この
ような熱処理特性が良好であることが大きな要因である
と同時に、本発明材もこのような汎用性を持つにふさわ
しい特徴を具備していることが分かる。但し、SKD1
1相当材は実施例1、2で示したように溶接性、被削性
に乏しいため、その点を大幅に改良した本発明の工具鋼
であれば工具材料として工業的価値が極めて高いことが
分かる。
較して、基本成分であるC含有量を減少しても良好な機
械的性質、特に硬さ、靭性を確保することができ、溶接
性に優れ、更に被削性の優れた鋼材を提供することがで
きる。更に溶接時の予熱温度を低めに設定でき、冷却時
間を短縮しても割れが発生し難く、作業性にも優れてい
る。加えて、優れた熱処理・表面処理性にも考慮がなさ
れていることから、本発明による工業的価値は大きい。
Claims (8)
- 【請求項1】 重量%で、C:0.45〜0.75%、
Si:0.1〜0.6%、Mn:0.1〜1.2%、C
r:4.5〜12.0%、MoまたはWの1種あるいは
2種を(Mo+1/2W):0.6〜1.2%、V:
0.05〜0.5%未満を含有し、残部がFeおよび不
可避の不純物からなり、共晶値Z[=8×(C%)+
0.6×(Cr%)]が10.8以下であることを特徴
とする溶接性および被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項2】 重量%で、C:0.55〜0.75%、
Cr:6.8〜8.0%であり、かつ共晶値Z[=8×
(C%)+0.6×(Cr%)]が9以上10.5以下
であることを特徴とする請求項1に記載の溶接性および
被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項3】 重量%で、Si:0.1〜0.3%であ
ることを特徴とする請求項1または2に記載の溶接性お
よび被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項4】 重量%で、S:0.005〜0.10%
であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに
記載の溶接性および被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項5】 重量%で、Ni≦5.0%であることを
特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の溶接性
および被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項6】 重量比で、Ca≦100ppmであるこ
とを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の溶
接性および被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項7】 1000〜1050℃での焼入れ、50
0℃以上の焼戻しに適用され、55HRC以上の硬さに
なることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記
載の溶接性および被削性に優れた工具鋼。 - 【請求項8】 請求項1ないし7のいずれかの工具鋼を
55HRC以上の硬さに調質し、切削加工を行うことで
作製したことを特徴とする金型。
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JP2009132990A (ja) * | 2007-10-31 | 2009-06-18 | Daido Steel Co Ltd | 合金工具鋼及びその製造方法 |
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1999
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