本発明は、機械的摩擦摺動部等に供給される潤滑剤組成物およびそれに用いられるトリアジン環含有化合物の技術分野に属し、より詳細には、極圧下における低摩擦特性および耐摩耗性、ならびにその効果の持続性に優れる潤滑剤組成物およびそれに用いられるトリアジン環化合物の技術分野に属する。
潤滑剤に求められる性能は、広い温度範囲および広い圧力範囲において、機械的摩擦摺動部の摩擦係数を低下することができ、さらにその効果ができるだけ持続することである。また、潤滑剤には、摩擦摺動部材間の潤滑性を向上させるという効果だけでなく、それによって摩擦摺動部材自体に耐磨耗性が付与できることも望まれる。エンジンオイル等の潤滑油の、摩擦摺動部における摩擦係数の低減効果およびその長寿命化は、機械駆動のための燃費の向上、すなわちエネルギーの節約に直結する。エンジンオイルの長寿命化は、廃オイル量の低減のみならず、CO2排出量の低減をも可能とするので、近年注目されている環境適合性の面でも好ましい。また、産業機械系の摺動部の中でも、特に苛酷な摩擦条件で摺動する軸受やギヤなどでは、従来の潤滑油やグリースなどの潤滑剤を用いた場合、潤滑条件が苛酷になると、潤滑剤が膜切れや焼付けを起こし、摩耗傷のために、所望の低摩擦係数を得られなくなる場合がある。その結果、装置の信頼性を損ねることがあり、特に装置を小型化した場合に、摺動部の摩擦条件が過酷化する傾向になり、装置の小型化の妨げにもなっている。従って、苛酷な条件においても、摩耗や焼付きを生じず、装置の信頼性を向上させることができ、さらに装置の小型化に寄与することができるような省エネルギーな潤滑剤が望まれている。
ところで、従来、潤滑剤としては、一般的には、潤滑剤基油を主成分とし、これに有機化合物等の潤滑助剤を配合したものが用いられる。特に近年では、有機モリブデン化合物が、潤滑助剤として注目されている。有機モリブデン化合物は、機械装置の摺動部が、高温、高速または低速、高負荷、小型軽量化など、苛酷な摩擦条件で運動している場合も、なお耐摩耗性、極圧性(耐荷重性)、低摩擦特性などの性能に優れ、通常圧での流体潤滑条件より高圧下、即ち境界潤滑条件において効果的に潤滑性能を発揮できる素材として注目されている。
しかし、有機モリブデン化合物は、激しい摩擦条件下でも優れた潤滑効果を奏する、優れた素材ではあるが、潤滑油中にはモリブデンおよび亜鉛といった重金属、容易に酸化されて潤滑油のみならず摺動部材そのもの、さらには環境にも悪影響を及ぼす硫黄酸化物のもととなる硫化物、および河川や海を富栄養化してしまうリン酸がかなり含まれていて、環境適合性の点からは明らかに好ましくない。さらに、摺動面に形成される酸化/硫化モリブデン被膜は、摩擦で徐々に削り取られ、新たな被膜を形成するため、その元となる有機モリブデン化合物や有機亜鉛化合物のいずれかが不足すると急激にその効果を失う。しかし、有機モリブデン化合物および有機亜鉛化合物を増量すると、その皮膜が削られることによって副生される副生物が系内に増え、摺動機械そのものに悪影響を及ぼすため、増量することは有効ではなく、前記有機モリブデン化合物を利用した系では、潤滑剤の長寿命化による燃費改善等の効果はあまり期待できないのが実状である。この様に、従来の潤滑剤は、重金属元素、リン酸化合物および硫化物等の環境有害物質または環境汚染物質を含むことなく、潤滑剤としての優れた性能を示すとともに、その性能を長期的に維持できる材料は、未だに提供されていない。
ところで、トリアジン構造を有する化合物を主成分とする潤滑剤組成物が、環境適合性あるいは潤滑剤の長寿命化による燃費改善に優れ、摩擦係数の低減剤、極圧剤または磨耗防止剤として有用な潤滑性能示すことが知られている(特許文献1参照)。
潤滑剤は多様な性能が要求され、しかも、近年、種々の機械の高性能化、苛酷な使用条件などに伴い、さらなる高度な性能が要求されてきている。
特開2002−69472号公報(段落番号0006〜0045)
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、従来の潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す新規化合物を提供することを課題とする。また、本発明は、摺動面において低摩擦性および耐摩耗性を長期的に維持できる、特に極圧下においても、低摩擦性および耐摩耗性を長期的に維持できる潤滑剤組成物を提供することを課題とする。さらに、本発明は、環境適合性に乏しい重金属元素、リン酸基および硫化物を排除することにより、長寿命化および環境適合性を両立し得る潤滑剤組成物を提供することを課題とする。
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解決するために鋭意研究した結果、特定の官能基部分構造を有する化合物が、優れた潤滑性能を示すとの知見を得、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、前記課題を解決するための手段は以下の通りである。
[1] 下記一般式(1)で表される化合物を含有する潤滑剤組成物。
(式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表し、Xは各々独立に、単結合、NR
1基(R
1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、Rは各々独立に、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、m個のRのうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。mは2〜11の整数を表す。)
[1−1] Rが芳香族基または複素環基を含む[1]に記載の潤滑剤組成物。
[2] Dが5〜7員環構造の複素環残基である[1]に記載の潤滑剤組成物。
[3] 前記一般式(1)が下記一般式(2)で表される[2]に記載の潤滑剤組成物。
(式中、X
1、X
2およびX
3は各々独立に、単結合、NR
1基(R
1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、R
11、R
12およびR
13は各々独立に、置換または無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、R
11、R
12およびR
13のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。)
[3―1] R
11〜R
13が芳香族基または複素環基を含む[3]に記載の潤滑剤組成物。
[4] 前記一般式(1)が下記一般式(3)で表される[1]〜[3]のいずれかの潤滑剤組成物。
(式中、X
21、X
22およびX
23は、各々独立に、単結合、NR
1基(R
1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表し、R
21、R
22およびR
23は各々独立に置換基を表し、R
21、R
22およびR
23のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。a21、a22およびa23は各々独立に1〜5の整数を表す。)
[4−1] R
21〜R
23が芳香族基または複素環基を含む[4]に記載の潤滑剤組成物。
[5]前記一般式(1)が下記一般式(4)で表される[1]〜[4]のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
(式中、X
11、X
12およびX
13は、各々独立に、単結合、NR
1基(R
1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。L
11、L
12およびL
13は、各々独立に、単結合、NR
1基(R
1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。A
11、A
12およびA
13は、各々独立に、芳香族基または複素環基を表し、A
11、A
12およびA
13のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む置換基で置換されている。p
11、p
12およびp
13は各々独立に1〜5の整数を表す。)
[6] 一般式(4)のX
11、X
12およびX
13が全てイミノ基(−NH−)であることを特徴とする[5]に記載の潤滑剤組成物。
[7] 前記一般式(4)が下記一般式(5)で表される[1]〜[6]のいずれかに記載の潤滑剤組成物。
(式中、R
21、R
22およびR
23は各々独立に、下記一般式(6)で表される。)
(式中、L
21は、単結合、NR
1基(R
1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。R
31は置換基を表し、a個のR
31のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。aは0または1〜5の整数を表す。Yは置換基を表す。bは0または1〜4の整数を表す。)
[8] 前記一般式(2)で表されるトリアジン化合物。
[8―1] R11〜R13が芳香族基または複素環基を含む[8]に記載の潤滑剤組成物。
[9] 前記一般式(3)で表されるトリアジン化合物。
[9−1] R21〜R23が芳香族基または複素環基を含む[9]に記載の潤滑剤組成物。
[10] 前記一般式(4)で表されるトリアジン化合物。
[11] 前記一般式(5)で表されるトリアジン化合物。
本発明の潤滑組成物は、機械的摩擦摺動部において、耐摩耗性、極圧性および低摩擦特性に優れ、実用性が高い。また、本発明の潤滑剤組成物は、高い温度域においても優れた潤滑性能を示し、低摩擦性を長期的に維持することができる。さらに、本発明の化合物は、潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す。
発明の実施の形態
以下において、本発明の潤滑剤組成物について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の潤滑剤組成物は、環状の基と該環状の基に結合したm個(mは2〜11)の側鎖とを有する化合物を含む。前記m個の側鎖のうち少なくとも一つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。本明細書において「部分フッ化炭素基」とはフッ素原子、炭素原子および水素原子を有する基を意味し、「フッ化炭素基」とはフッ素原子および炭素原子を有する基であって水素原子を有しないものを意味する。前記化合物は、単独でも潤滑剤としての優れた性能を有するので、本発明の潤滑剤組成物は前記化合物のみからなっていてもよい。また、本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤基油等の基材に前記化合物を添加した態様であってもよく、該態様においては、前記化合物は潤滑剤基油に添加されることによって、その潤滑剤性能の向上に寄与する。
本発明で用いる化合物は、前記した様に、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含有する側鎖を有する環状構造の化合物である。前記化合物は、円盤状化合物であるのが好ましい。本明細書において、「円盤状化合物」とはその中心部に円盤状の部分構造を有する化合物をいう。円盤状の部分構造は、分子構造から側鎖部を除いた中心の部分構造であり、その形態的特徴を、例えば、その原形となる化合物である水素置換体について説明すれば、以下のように表現することができる。
まず、以下の1)〜5)の方法により、円盤状の部分構造の原形となる水素置換体についての分子の大きさを求める。
1) 対象となる分子につき、できる限り平面に近い、好ましくは平面分子構造を構築する。この場合、結合距離、結合角としては、軌道の混成に応じた標準値を用いることが好ましく、例えば日本化学会編、化学便覧改訂4版基礎編、第II分冊15章(1993年刊 丸善)を参照することができる。
2) 前記1)で得られた構造を初期値として、分子軌道法や分子力場法にて構造最適化する。方法としては例えば、Gaussian92、MOPAC93、CHARMm/QUANTA、MM3が挙げられる。好ましくはGaussian92である。
3) 構造最適化によって得られた構造の重心を原点に移動させ、座標軸を慣性主軸(慣性テンソル楕円体の主軸)にとる。
4) 各原子にファンデルワールス半径で定義される球を付与し、これによって分子の形状を記述する。
5) ファンデルワールス表面上で各座標軸方向の長さを計測し、それらそれぞれをa、bおよびcとする。
以上の手順1)〜5)により求められたa、bおよびcを用いて、円盤状の形態を定義すると、a≧b>c且つa≧b≧a/2を満足する形態、好ましくはa≧b>c且つa≧b≧0.7aを満足する形態である。また、b/2>cを満足する形態も好ましい。
また、円盤状部分構造の原形となる水素置換体である円盤状化合物の具体例を挙げると、例えば、日本化学会編、季刊化学総説No.22「液晶の化学」第5章、第10章2節(1994年刊 学会出版センター);C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.liq.Cryst.71巻、111頁(1981年);B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年);J.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,1794頁(1985年);J.Zhang、J.s.Mooreらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.,116巻、2655頁(1994年);に記載の母核化合物およびその誘導体が挙げられる。例えば、ベンゼン誘導体、トリフェニレン誘導体、トルキセン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、アントラセン誘導体、ヘキサエチニルベンゼン誘導体、ジベンゾピレン誘導体、コロネン誘導体およびフェニルアセチレンマクロサイクル誘導体が挙げられる。さらに、日本化学会編、"化学総説No.15 新しい芳香族の化学"(1977年 東京大学出版会刊)に記載の環状化合物およびそれらの複素原子置換等電子構造体を挙げることができる。
本発明の潤滑剤組成物に用いる化合物は、下記一般式(1)で表される化合物である。
式中、Dはm個の側鎖と結合可能な環状の基を表す。Dが分子の中心に位置し、m個の側鎖がDを中心にして放射状に配置されているのが好ましい。Xは各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。Rは各々独立に、置換または無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、m個のRのうち少なくとも1つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。本明細書において、部分フッ化炭素基およびフッ化炭素基の構造は特に制限されず、二重結合や分岐を有していてもよいし、環状構造を有していてもよく、芳香環を有していても構わない。mは2〜11の整数を表す。
前記一般式(1)中、Dが表す環状の基の例には、芳香族基および複素環基が含まれる。芳香族基の芳香族環の例には、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環およびピレン環が含まれる。芳香族基は置換基を有していてもよい。
複素環基は、5員、6員または7員の複素環を有することが好ましい。5員環または6員環がさらに好ましく、6員環が最も好ましい。複素環を構成する複素原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましい。複素環は、芳香族性複素環であることが好ましい。芳香族性複素環は、一般に不飽和複素環である。最多二重結合を有する不飽和複素環がさらに好ましい。複素環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環およびトリアジン環が含まれる。トリアジン環が好ましく、1,3,5−トリアジン環が特に好ましい。複素環に他の複素環、脂肪族環または芳香族環が縮合していてもよい。ただし、単環式複素環が好ましい。
前記一般式(1)中、Xは単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。Xが単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。一般式(1)のXは、硫黄原子またはNR1基が好ましく、R1は炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。
前記一般式(1)中、Rはアルキル基の場合では、炭素数が1〜30であるのが好ましく、2〜30であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましく、6〜30であることが最も好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)およびアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基およびウレイド基等が挙げられる。
一般式(1)のRがアルケニル基、アルキニル基のときの炭素数の好ましい範囲、構造の範囲、置換基の具体例は、アルキル基で説明したものと同じである。ただし、炭素数の下限値は2である。なお、本明細書における「アルキル基」、「アルケニル基」および「アルキニル基」には、それぞれシクロアルキル基、シクロアルケニル基およびシクロアルキニル基も含まれる。また、アルキル基、アルケニル基およびアルキニル基を有する置換基(例えばアルコキシ基等)にはシクロアルキル基、シクロアルケニル基およびシクロアルキニル基を有する置換基も含まれる。
前記一般式(1)中、Rがアリール基の場合では、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基およびピレニル基等が挙げられるが、フェニル基やナフチル基が好ましい。さらに、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、上記アルキル基の置換基で例示したものの他、アルキル基が挙げられ、炭素数8以上の直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基、例えばアルキル基(オクチル、デシル、ヘキサデシル、2−エチルヘキシル等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基およびデシルスルファモイル基等で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
前記一般式(1)中、Rが複素環基の場合では、Dと同様に、5〜7員環構造の複素環基が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的な例としては、岩波理化学辞典 第3版増補版(岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁および表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁に記載されるものが挙げられる。また、これらは、アリール基と同様に、置換基を有していてもよく、炭素数8以上の直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、2つ以上置換していることが好ましく、さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
前記一般式(1)中、m個のRのうち少なくとも1つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。mは、2〜11の整数を表す。mが2以上の場合、2以上のXおよびRは各々同一でも異なってもよい。好ましいのは同一である場合である。mは3以上が好ましい。
前記一般式(1)で表される化合物の中でも、下記一般式(2)で表される化合物が好ましい。
前記一般式(2)中、X1、X2およびX3は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。X1、X2およびX3が単結合の場合、複素環基でピペリジンのように遊離原子価をもった窒素原子で直接結合してもよく、さらに、遊離原子価がなくともヘテロ原子で結合し、オキソニウム塩、スルホニウム塩、アンモニウム塩のようにオニウム塩を形成してもよい。X1、X2、X3は、単結合でない場合、NR1基(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基である。これらの組み合わせからなる二価の連結基としては、例えば、オキシカルボニル基、ウレイレン基、オキシスルホニル基、−NR1CO−および−SO2NR1−(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)等を挙げることができる。ここでいう二価の連結基の具体例は、トリアジン環側から置換フェニル基へ向けた構造の具体例を規定したものである。X1、X2およびX3は、硫黄原子またはNR1基が好ましく、R1は、炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。X1、X2およびX3は、イミノ基(−NH−)がより好ましい。X1、X2およびX3は同一であることが好ましい。
前記一般式(2)中、R11、R12およびR13は、各々独立に、置換または無置換のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。R11、R12およびR13のうち少なくとも1つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。
R11、R12およびR13でそれぞれ表されるアルキル基は、炭素数が1〜30であることが好ましく、2〜30であることがより好ましく、4〜30であることがさらに好ましく、6〜30であることが最も好ましい。アルキル基は、直鎖状であっても、分枝状であってもよい。また、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、メトキシエトキシ、フェノキシ等)、スルフィド基(メチルチオ、エチルチオ、プロピルチオ等)、アルキルアミノ基(メチルアミノ、プロピルアミノ等)、アシル基(アセチル、プロパノイル、オクタノイル、ベンゾイル等)およびアシルオキシ基(アセトキシ、ピバロイルオキシ、ベンゾイルオキシ等)や、水酸基、メルカプト基、アミノ基、カルボキシル基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基およびウレイド基等が挙げられる。R11、R12およびR13がアルケニル基、アルキニル基のときの炭素数の好ましい範囲、構造の範囲、置換基の具体例は、アルキル基で説明したものと同じである。ただし、炭素数の下限値は2である。
R11、R12およびR13でそれぞれ表されるアリール基は、炭素数が6〜50であることが好ましく、6〜40であることがより好ましく、6〜30であることがさらに好ましい。例としては、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基およびピレニル基等が挙げられるが、フェニル基やナフチル基が好ましい。さらに、炭素数8以上の直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基、例えばアルキル基(オクチル基、デシル基、ヘキサデシル基、2−エチルヘキシル基等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、2−ヘキシルデシルオキシ基、ヘキシルオキシエチレンオキシエチレンオキシ基等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ基等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ基等)、オクチルカルバモイル基、アリールカルボニル基(ベンゾイル基等)、アリールカルボニルオキシ基(ベンゾイルオキシ基等)、アルカノイル基(オクタノイル基等)およびデシルスルファモイル基等で置換されることが好ましい。また、これらの置換基は、部分フッ化炭素基、フッ化炭素基を含むことがさらに好ましい。さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
R11、R12およびR13でそれぞれ表される複素環基は、炭素数が3〜50であることが好ましく、3〜40であることがより好ましく、3〜30であることがさらに好ましい。一般式(1)のDと同様に、5〜7員環構造の複素環残基が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的な例として、岩波理化学辞典 第3版増補版(岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁および表5.主要縮合複素環式化合物の名称1607頁に記載されるものが挙げられる。また、これらは、アリール基と同様に、炭素数8以上の直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されていることが好ましい。また、これらの置換基は、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含むことがさらに好ましい。さらに、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等に置換されていてもよい。
R11、R12およびR13の全てが部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含んでいるのが好ましい。R11、R12およびR13は同一であることが好ましい。
さらに前記一般式(2)で表される化合物のより好ましい態様として、下記一般式(3)で表される化合物が挙げられる。
式中、X21、X22およびX23は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。R21、R22およびR23は各々独立に置換基を表し、R21、R22およびR23のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。a21、a22およびa23は各々独立に1〜5の整数を表す。
前記一般式(3)中、X21、X22およびX23は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。X21、X22およびX23が単結合でない場合、NR1基(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基である。これらの組み合わせからなる二価の連結基としては、例えば、オキシカルボニル基、ウレイレン基、オキシスルホニル基、−NR1CO−および−SO2NR1−(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)等を表す。ここでいう二価の連結基の具体例は、トリアジン環側から置換フェニル基へ向けた構造の具体例を規定したものである。X21、X22およびX23は、硫黄原子またはNR1基であるのが好ましく、R1は炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。X21、X22およびX23は、イミノ基(−NH−)がより好ましい。X21、X22およびX23は同一であることが好ましい。
置換基R21、R22およびR23の例には、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基[直鎖、分岐、環状の、置換もしくは無置換のアルキル基を表す。アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2―エチルヘキシル)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換又は無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、更に環構造が多いトリシクロ構造なども包含する。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。]、アルケニル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)]、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキニル基、例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基、、アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル)、ヘテロ環基(好ましくは5又は6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族のヘテロ環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、更に好ましくは、炭素数3〜30の5もしくは6員の芳香族のヘテロ環基である。例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環オキシ基、1−フェニルテトラゾールー5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)、アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N−メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ、例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)、メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールチオ、例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ、2−ブトキシ−5−t−ブチルフェニルチオ、4−ヘキサノイルアミノフェニルチオ、2−ベンズアミドフェニルチオ)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換又は無置換のヘテロ環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ、1,3,4−チアジアゾール−2−イルチオ)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N'−フェニルカルバモイル)スルファモイル)、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換又は無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)、アルキル及びアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換又は無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換又は無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)、アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換又は無置換のアルキルカルボニル基、、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)、アリール及びヘテロ環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のヘテロ環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)が挙げられる。
さらに、置換基R21、R22およびR23の例には、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。R21、R22およびR23のうち少なくとも1つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。さらに、R21、R22およびR23のうち少なくとも1つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含有する直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアシル基(アリールカルボニル、アルキルカルボニル基等)、アリールカルボニルオキシ基、アリールオキシ基またはアルコキシ基であることが好ましい。
a21、a22およびa23は各々独立に1〜5の整数を表す。好ましくは1〜3の整数である。a21、a22およびa23が2以上の場合、2以上のR21、R22およびR23はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは、R21、R22およびR23がすべて同一である場合である。
さらに前記一般式(3)で表される化合物のより好ましい態様として、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
式中、X11、X12およびX13は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。L11、L12およびL13は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。A11、A12およびA13は、各々独立に、芳香族基または複素環基を表し、A11、A12およびA13のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む置換基で置換されている。p11、p12およびp13は各々独立に1〜5の整数を表す。
X11、X12およびX13がとることができる、前記の組み合わせからなる二価の連結基としては、例えば、オキシカルボニル基、ウレイレン基、オキシスルホニル基、−NR1CO−および−SO2NR1−(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)等を挙げることができる。ここでいう二価の連結基の具体例は、トリアジン環側から置換フェニル基へ向けた構造の具体例を規定したものである。X11、X12およびX13は、硫黄原子、酸素原子またはNR1基であることが好ましく、R1は、炭素数が3以下のアルキル基または水素原子が好ましい。X11、X12およびX13は、イミノ基(−NH−)がより好ましい。また、X11、X12およびX13は同一であることが好ましい。
L11、L12およびL13は、各々独立に、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。好ましくは、酸素原子、オキシアルキレン基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニル基および−NR1CO−(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)であり、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基およびカルボニル基がより好ましい。L11、L12およびL13は同一であることが好ましい。
A11、A12およびA13は、各々独立に、芳香族基または複素環基を表す。芳香族基の芳香族環の例には、ベンゼン環、インデン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環およびピレン環が挙げられる。ベンゼン環やナフタレン環が好ましい。
複素環基は、5員、6員または7員の複素環を有することが好ましい。5員環または6員環がさらに好ましい。複素環を構成する複素原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましい。複素環は、芳香族性複素環であることが好ましい。芳香族性複素環は、一般に不飽和複素環である。最多二重結合を有する不飽和複素環がさらに好ましい。複素環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環およびトリアジン環が含まれる。複素環に他の複素環、脂肪族環または芳香族環が縮合していてもよい。ただし、単環式複素環が好ましい。芳香族基と同様に、置換基を有していてもよい。
A11、A12およびA13のうち少なくとも1つは、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む置換基で置換されている。なかでも、部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含有する直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換されたアシル基(アリールカルボニル基、アルキルカルボニル基等)、アリールカルボニルオキシ基、アリールオキシ基またはアルコキシ基で置換されていることがより好ましい。
p11、p12およびp13は各々独立に1〜5の整数を表す。好ましくは1〜3の整数である。p11、p12およびp13が2以上の場合、2以上の(L11−A11)、(L12−A12)および(L13−A13)はそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは、(L11−A11)、(L12−A12)および(L13−A13)のすべてが同一である場合である。
また、A11、A12およびA13は同一であることが好ましい。
前記一般式(4)で表される化合物の中でも、下記一般式(5)で表される化合物が好ましい。
式中、R
21、R
22およびR
23は各々独立に、下記一般式(6)で表される。R
21、R
22およびR
23は同一であることが好ましい。
式中、L21は、単結合、NR1基(R1は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、アルキレン基、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組み合わせからなる二価の連結基を表す。これらの組み合わせからなる二価の連結基として好ましくは、酸素原子、オキシアルキレン基、オキシカルボニル基、カルボニルオキシ基、カルボニル基および−NR1CO−(R1は、炭素数が1〜30のアルキル基または水素原子)であり、オキシカルボニル基およびカルボニル基がより好ましい。
R31およびYは置換基を表す。R31およびYの置換基の例には、先に一般式(3)中の置換基R21、R22およびR23の例として挙げたものが挙げられる。さらに、R31およびYの例には、これらの置換基から選ばれる1種以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。
a個のR31のうち少なくとも1つは部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む。R31の置換基としては部分フッ化炭素基またはフッ化炭素基を含む直鎖状または分枝状のアルキル残基を含む置換基で置換された、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基およびアシル基が好ましい。R31の炭素原子数は1〜40であるのが好ましく、1〜20であるのがより好ましい。aは0または1〜5の整数であり、好ましくは1〜3の整数である。aが2以上の場合、2以上のR31は同一であっても異なっていてもよい。好ましいのは、2以上のR31が同一である場合である。
Yの置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基およびアルコキシ基が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子、塩素原子および臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。Yの炭素原子数は1〜20であるのが好ましく、1〜10であるのがより好ましい。bは0または1〜5の整数であり、好ましくは0または1であり、より好ましくは0である。bが2以上の場合、2以上のYは同一であっても異なっていてもよいが、好ましいのは2以上のYが同一である場合である。
前記一般式(5)で表される化合物のR
21、R
22およびR
23は、各々独立に、下記一般式(7)で表されるものである場合が好ましい。
式中、R
31は置換基を表す。aは0または1〜5の整数を表す。R
31とaの具体例および好ましい範囲は、一般式(6)のR
31とaの具体例および好ましい範囲と同じである。
また、前記一般式(5)で表される化合物のR
21、R
22およびR
23は、各々独立に、下記一般式(8)で表されるものである場合も好ましい。
式中、R
31は置換基を表す。aは0または1〜5の整数を表す。R
31とaの具体例および好ましい範囲は、一般式(6)のR
31とaの具体例および好ましい範囲と同じである。
以下に、前記一般式(1)で表される化合物の具体例を一般式(2)の構造で代表して挙げるが、本発明の潤滑剤組成物に用いることができる化合物は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
本発明の化合物の製造方法としては、例えば、トリアジン環母核となる円盤状化合物に、側鎖を反応させる方法(例えば塩化シアヌルの求核置換反応やカップリング反応等)、および側鎖構造の化合物を用いて環状構造を構築してトリアジン環化合物とする方法が挙げられる。中でも、塩化シアヌルと活性水素を持った化合物(アミン、アニリン、アルコール、フェノール、チオアルコール、チオフェノール等の誘導体が挙げられる)との反応より合成する方法が好ましい。具体的には、後述する合成例を参考にすることができる。
反応に使用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素系有機溶媒(例えばジクロロメタン)、エステル系有機溶媒(例えば、酢酸メチルまたは酢酸エチル)、ケトン系有機溶媒(例えばアセトンまたはメチルエチルケトン)、エ−テル系有機溶媒(例えばテトラヒドロフランまたはジオキサン)、ニトリル系有機溶媒(例えばアセトニトリルまたはプロピオニトリル)、アミド系有機溶媒(例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリドン、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン(DMPU)またはヘキサメチルリン酸トリアミド)、若しくは、スルホキシド系有機溶媒(例えばジメチルスルホキシド)等があげられる。また、必要ならば、触媒、塩基を用いてもよい。
一般式(1)で表される化合物は、それ自体のみで、潤滑剤組成物の基材油として用いることができるが、通常、潤滑油組成物の基油として用いられる鉱油や合成油と、混合して本発明の潤滑剤組成物の基材油として用いられる。混合基材油として用いられる鉱油や合成油は、特に限定されるものではなく、一般に潤滑油基油として用いられているものならば何でも使用することができる。すなわち、これらに該当するものとしては、鉱油、合成油、あるいはそれらの混合油がある。鉱油としては、例えば、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧または減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート、潤滑油原料をシリカーアルミナを担体とするコバルト、モリプデン等の水素化処理用触媒の存在下において水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油、水素化分解触媒の存在下において苛酷な分解反応条件下で水素と接触させて得られる水素化分解油、ワックスを異性化用触媒の存在下において異性化条件下で水素と接触させて得られる異性化油、あるいは溶剤精製工程と水素化処理工程、水素化分解工程および異性化工程等を組み合わせて得られる潤滑油留分等を挙げることができる。特に、水素化分解工程や異性化工程によって得られる高粘度指数鉱油が好適なものとして挙げることができる。いずれの製造法においても、脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程は、常法により、任意に採用することができる。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油およびブライトストック等が挙げられ、要求性状を満たすように適宜混合することにより基油を調製することができる。合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングルコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。本発明の潤滑剤組成物の混合基材油として使用してもよい。このような通常基油は、100℃において、一般に2〜20mm2/sの動粘度を有し、好適な動粘度は3〜15mm2/sの範囲である。本発明の潤滑剤組成物が用いられる機械的摩擦摺動部の潤滑条件等に適するように、適宜、最適な動粘度を有した混合基材油が選択される。
本発明の潤滑剤組成物において、前記一般式(1)で表される化合物と通常基油との配合割合は、基材油全量基準で、通常、一般式(1)で表される化合物が0.1〜20質量%であり、通常基油、すなわち鉱油および/または合成油が80〜99.9質量%である。好ましくは、前記一般式(1)で表される化合物が0.1〜10質量%であり、最も好ましくは0.1〜5質量%である。しかし、前記本発明化合物を有する化合物は、前記したように、それ自体のみでも、潤滑剤組成物の基材油として用いることができ、単独で用いる方が効果的な場合も多く、苛酷な潤滑条件でも広い温度範囲で低摩擦係数が得られ、同時に耐摩耗性にも優れた効果が発揮される。
本発明の潤滑剤組成物は、前記一般式(1)で表される化合物を主成分として含有するものであるが、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、潤滑剤、例えば軸受油、ギヤ油、動力伝達油などに用いられている各種添加剤、すなわち摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加することができる。
本発明の潤滑剤組成物は、苛酷な潤滑条件において、摩擦係数が低いこと、耐摩耗性と極圧性に優れていること等の特徴を有している。本発明の潤滑剤組成物は、前記一般式(1)で表される化合物、好ましくは前記一般式(2)、より好ましくは前記一般式(3)、(4)または(5)で表される構造を有する化合物を種々選択して混合し、使用目的や使用環境などに適したものとすることができる。例えば、広範囲の温度域でも使用可能で実用的な潤滑剤組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、前記のような特徴を活かして、従来の潤滑油やグリースなどの潤滑剤では、油膜切れを生じるような苛酷な潤滑条件であっても、焼付きを生じるようなことなく、耐摩耗性であって、低摩擦係数を得ることができ、苛酷な潤滑条件の軸受やギヤなどにおいて省エネルギー化を図ることができる優れた潤滑剤組成物を提供することができる。また、本発明によれば、苛酷な潤滑条件であっても焼付きを生じない潤滑剤組成物を提供することができるため、摺動部装置の信頼性を向上させ、摺動部装置の小型化に寄与することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例に制限されるものではない。
[合成例:E−9の合成例]
下記反応方法に従って、本発明化合物E−9を合成した。
(4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカフルオロノニルオキシベンゼンの合成)
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した500mLの反応容器に、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカフルオロノニルアルコール45.4g(0.12mol)、トリエチルアミン13.2g(0.13mol)およびテトラヒドロフラン150mLを加え、撹拌して溶液を得た。溶液を0℃に冷却し、メタンスルホニルクロリド13.7g(0.12mol)のテトラヒドロフラン溶液を滴下した。徐々に昇温し、室温で2時間撹拌した。酢酸エチルで抽出して、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した500mLの反応容器に、フェノール9.4g(0.1mol)、上記で得られたメタンスルホニル誘導体50.1g(0.11mol)およびN,N−ジメチルホルムアミド150mLを加え、撹拌して溶液を得た。これに炭酸カリウム16.6g(0.12mol)を加え、98℃に加熱して2時間撹拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出して、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。シリカゲルカラム分取によって精製を行い、43.6g(96%)の目的物化合物を得た。
(ニトロ誘導体の合成)
撹拌器、滴下漏斗および温度計を備えた300mLの反応容器に、塩化メチレン100mLおよび塩化アルミニウム13.3g(0.1mol)を加え、撹拌して溶液を得た。溶液を0℃に冷却し、ニトロベンゾイルクロリド16.7g(0.09mol)の塩化メチレン溶液を滴下した。そのまま30分攪拌した後、上記で得られたアルコキシベンゼン誘導体40.9g(0.09mol)の塩化メチレン溶液を、1時間かけて滴下した。滴下終了後、室温で1.5時間撹拌した。反応液を氷水に注ぎ、塩酸で酸性にした。酢酸エチルで抽出、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して粗生成物を得た。メタノールによって精製を行い、50.0g(83%)の目的物化合物を得た。
(アニリン誘導体の合成)
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した1Lの反応容器に、還元鉄22.3g(0.4mol)、イソプロピルアルコール220mL、水22mLおよび塩化アンモニウム2.1gを加え、90℃に加熱撹拌して、還流させた。この中に、上記で得られたニトロ化合物48.2g(0.08mol)を徐々に添加し、添加終了後そのまま2時間加熱撹拌を続けた。反応終了後、加熱状態のままセライトろ過し、酢酸エチルで洗浄した。ろ液を酢酸エチルで抽出、水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して、粗生成物を得た。シリカゲルカラム分取によって精製を行い、56.88g(99%)の目的化合物を得た。
(化合物E−9の合成)
撹拌器、還流冷却器および温度計を装着した300mLの反応容器に、メチルエチルケトン100mLおよびシアヌルクロリド3.68g(0.02mol)を加え、撹拌して溶液を得た。溶液を0℃に冷却し、上記で得られたアニリン誘導体化合物41.3(0.072mol)のメチルエチルケトン溶液をゆっくり滴下した。ついで、そして炭酸カリウム11g(0.08mol)を加え、室温で30分攪拌した後、98℃で2時間加熱撹拌した。室温に冷却後、酢酸エチルで抽出、有機層を水で洗浄した後、有機層を分取して、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を減圧留去して、粗生成物を得た。メタノールによって精製を行い、25.1g(収率70%)の化合物(E−9)を得た。
以下に、合成した化合物のNMRデータを示す。
1H NMR(300MHz CDCl3):δ7.59(m,6H)、7.45(m,6H)、6.87(m,6H)、6.56(m,6H)、3.94(t,6H)、1.71(m,6H)、1.61(t,6H)
[実施例1〜6および比較例1〜6:潤滑剤組成物の性能評価]
本発明の化合物としてA−9、B−18、C−9、E−25、F−7、G−13、および潤滑剤基油、また下記比較化合物M−1およびM−2を用いて、以下の条件で摩擦試験を実施し、摩擦係数を測定した。なお、実施例における摩擦係数は、往復動型摩擦試験機(SRV摩擦摩耗試験機)を用いて測定し、下記の試験条件で摩擦試験を行った。実施例1〜6の結果を表1に、同様に比較例1〜6の結果も各々示した。
(試験条件)
試験条件はシリンダ−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×6.9mm
シリンダ:φ11×15mm
温度:220℃
荷重:400N
振幅:1.5mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始30分間および10時間後を測定。
表1から明らかなように、本発明の化合物は潤滑剤基油や比較化合物に比べて30分後および10時間後の摩擦係数がかなり低かった。
本発明の潤滑剤組成物は、機械的摩擦摺動部において、耐摩耗性、極圧性および低摩擦特性に優れた効果を発揮するため、実用性が高い。また、本発明の潤滑剤組成物は、高い温度域においても優れた潤滑性能を示し、低摩擦性を長期的に維持できるため、産業上の利用可能性が高い。
また、本発明の化合物は、潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す。本発明の化合物を用いた潤滑剤は、上記の本発明の潤滑剤組成物の特性を備えていることから、産業上の利用可能性が高い。