WO2024034200A1 - 膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるためのペプチドリンカー及び局在化方法並びに局在化する融合タンパク質 - Google Patents

膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるためのペプチドリンカー及び局在化方法並びに局在化する融合タンパク質 Download PDF

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Abstract

膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルの間に挿入される剛直性が高いペプチドリンカー、それらを含む融合タンパク質及びペプチドリンカーを挿入することを含む局在化方法を開示する。

Description

膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるためのペプチドリンカー及び局在化方法並びに局在化する融合タンパク質
 本発明は、膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるためのペプチドリンカー及び局在化方法並びに局在化する融合タンパク質に関する。
 膜貫通タンパク質は、細胞膜又はオルガネラ膜に局在する膜タンパク質の一種である。膜貫通タンパク質が膜に局在した状態においては、疎水性の膜貫通領域が脂質二重膜を貫くように存在し、それ以外の領域は脂質二重膜の外側に表出する。主要な膜貫通タンパク質としては、特定の物質を脂質二重膜の反対側に輸送する膜貫通タンパク質(トランスポーター)であるチャネル及びポンプ、細胞外からの特定の入力を細胞内のシグナルとして伝達する膜貫通タンパク質である細胞膜受容体並びに膜局在酵素などが知られており、生体膜の多様な機能を果たしている。
 生体機能に必要不可欠なタンパク質の生合成を行うことができないことは、生命を重篤な危機に瀕させる恐れのある事象であり、特に遺伝病等により先天的に適切な構造のタンパク質の生合成を行うことができない場合、根治は極めて困難である。このような先天的遺伝病の治療方法としては、ヒトの体細胞に対して外部から遺伝子を導入する治療(遺伝子治療)が期待されているものの、実用に至った例は乏しい。
 先天的遺伝病の一つであるミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能不全に起因する疾患の総称であり、筋力の低下及び発達の遅れをはじめとする様々な重篤症状の原因となる疾患である。真核細胞において、ミトコンドリアは核を除くオルガネラとして唯一、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ばれるオルガネラ固有のDNAを有し、オルガネラ内でタンパク質の発現をすることができるオルガネラであり、ミトコンドリアDNAにより発現されるミトコンドリアタンパク質はミトコンドリアの機能の発揮に必要不可欠であるところ、ミトコンドリア病においては、ミトコンドリアDNAによるタンパク発現の異常が認められる。
 膜貫通タンパク質による物質の輸送及びシグナルの伝達等が細胞に与える影響は、膜貫通タンパク質が局在する箇所に大きく依存することから、その局在制御が試みられている。例えば、非特許文献1には、膜貫通タンパク質であるATP合成酵素のサブユニット9のN末端のミトコンドリア移行シグナルを重複させることにより、ミトコンドリアへの局在性を向上させる技術が開示されている。また、非特許文献2には、5回膜貫通型の膜貫通タンパク質であるATP6について、mRNA自体がミトコンドリアに存在するタンパク質SOD2のミトコンドリア移行シグナル領域を5’末端に、SOD2の3’非翻訳領域を3’末端にそれぞれ付加することで、ミトコンドリアに局在化させる技術が開示されている。
 膜貫通タンパク質を特定のオルガネラに局在化させる技術は、先天的遺伝病の遺伝子治療への応用をはじめとする医学的応用及び生化学的応用が期待できる。例えば、ミトコンドリアは二重の膜から成るオルガネラであり、ミトコンドリアタンパク質の多くは膜に局在する膜貫通タンパク質であることから、膜貫通タンパク質をミトコンドリアに局在化させる技術は、ミトコンドリアタンパク質の補充によるミトコンドリア病の治療への医学的応用が期待できる。
 しかし、通常のタンパク質(例えば細胞質局在性タンパク質)を標的オルガネラに局在化させる場合と異なり、膜貫通タンパク質に対してオルガネラ移行シグナルを付与したとしても、膜貫通タンパク質は疎水性が高い性質から分子間で凝集、あるいは小胞体に移行してしまい、標的オルガネラにうまく局在化できない場合が多いことが知られている。
 したがって、本発明の目的は、膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるための方法を提供することである。
 本発明者らが鋭意検討を進めたところ、膜貫通タンパク質の末端に、剛直性が高いリンカーとして知られるプロリンが豊富なペプチドリンカー又は2次構造をαヘリックスとするペプチドリンカー(以下、これらをまとめて「剛直性リンカー」とも記載する。)を介してオルガネラ移行シグナルを付与すると、膜貫通タンパク質がオルガネラ移行シグナルに対応したオルガネラに局在化することを見出し、本願発明を完成させた。
 すなわち、本発明は、以下の[1]~[15]に関する。
[1]膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるために用いられる、上記膜貫通タンパク質と上記標的オルガネラに対応するオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーであって、上記ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数が、上記ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の40%を超え、かつ、上記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が60残基以上である、ペプチドリンカー。
[2]膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるために用いられる、上記膜貫通タンパク質と上記標的オルガネラに対応するオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーであって、上記ペプチドリンカーが2次構造をαヘリックスとするペプチドからなり、かつ、上記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が70残基以上である、ペプチドリンカー。
[3]膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、上記膜貫通タンパク質と上記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含む融合タンパク質であって、上記ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数が、上記ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の40%を超え、かつ、上記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が60残基以上である、融合タンパク質。
[4]膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、上記膜貫通タンパク質と上記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含む融合タンパク質であって、上記ペプチドリンカーが2次構造をαヘリックスとするペプチドからなり、かつ、上記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が70残基以上である、融合タンパク質。
[5]膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、の間にペプチドリンカーを挿入することを含む、上記膜貫通タンパク質を上記標的オルガネラに局在化させる方法であって、上記ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数が、上記ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の40%を超え、かつ、上記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が60残基以上である、方法。
[6]膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、の間にペプチドリンカーを挿入することを含む、上記膜貫通タンパク質を上記標的オルガネラに局在化させる方法であって、上記ペプチドリンカーが2次構造をαヘリックスとするペプチドからなり、かつ、上記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が70残基以上である、方法。
[6-1][1]又は[2]に記載のペプチドリンカーをコードする配列を含む、核酸。
[7][3]又は[4]に記載の融合タンパク質をコードする、核酸。
[8][3]又は[4]に記載の融合タンパク質を発現する、ベクター。
[9]上記標的オルガネラが核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体及びペルオキシソームからなる群より選択される、[1]~[8]のいずれか1つに記載のペプチドリンカー、融合タンパク質、局在化方法、核酸又はベクター。
[10]上記標的オルガネラが核又はミトコンドリアである、[1]~[8]のいずれか1つに記載のペプチドリンカー、融合タンパク質、方法、核酸又はベクター。
[11]上記標的オルガネラがミトコンドリアである、[1]~[8]のいずれか1つに記載のペプチドリンカー、融合タンパク質、方法、核酸又はベクター。
[12]上記標的オルガネラがミトコンドリアであり、[3]若しくは[4]に記載の融合タンパク質又は[8]に記載のベクターを含む、ミトコンドリア病治療薬。
[13]上記標的オルガネラがミトコンドリアであり、[3]若しくは[4]に記載の融合タンパク質又は[8]に記載のベクターを患者に投与する、ミトコンドリア病の治療方法。
[14]上記標的オルガネラがミトコンドリアであり、ミトコンドリア病の治療に用いるための、[3]若しくは[4]に記載の融合タンパク質又は[8]に記載のベクター。
[15]ミトコンドリア病の治療薬の製造における、上記標的オルガネラがミトコンドリアである[3]若しくは[4]に記載の融合タンパク質又は[8]に記載のベクターの使用。
 本発明によれば、膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるためのペプチドリンカー及び局在化方法並びに局在化する融合タンパク質を提供することができる。
図1は、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る融合タンパク質の構造の概略を示す図である。 図2は、膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルとの間に柔軟性リンカーが挿入された融合タンパク質の概略図を示す図である。ペプチドリンカーが柔軟であるため、オルガネラ移行シグナル及び膜貫通タンパク質が分子内疎水性相互作用を起こし、標的オルガネラに局在化できないことが推測される。 図3は、膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルとの間に剛直性リンカーが挿入された融合タンパク質の概略図を示す図である。ペプチドリンカーが剛直であるため、オルガネラ移行シグナル及び膜貫通タンパク質が分子内疎水性相互作用を起こさず、標的オルガネラに局在化できることが推測される。 図4は、補充療法によるミトコンドリア病の治療のメカニズムを示す図である。 図5は、実施例においてタンパク質を細胞に発現させるために用いたプラスミドの翻訳領域に相当する核酸の概略を示す図である。 図6は、実施例1において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数と、共局在解析における相関係数との関係を示す図である。 図7は、実施例1において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0残基の群における代表的な蛍光画像を示す図である。 図8は、実施例1において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0残基の群における複数の細胞を含む代表的な蛍光画像を示す図である。 図9は、実施例1において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が70、80、90、100、150及び200残基の群における代表的な蛍光画像を示す図である。 図10は、実施例2において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基に占めるプロリン残基の割合と、共局在解析における相関係数との関係を示す図である。 図11は、実施例2において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基に占めるプロリン残基の割合が30%である群における代表的な蛍光画像を示す図である。 図12は、実施例2において、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基に占めるプロリン残基の割合が30%である群における複数の細胞を含む代表的な蛍光画像を示す図である。 図13は、実施例3において、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数と、共局在解析における相関係数との関係を示す図である。 図14は、実施例3において、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が300残基の群における代表的な蛍光画像を示す図である。 図15は、実施例3において、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が200残基の群における代表的な蛍光画像を示す図である。
 本発明の一側面は、膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるために用いられる、上記膜貫通タンパク質と上記標的オルガネラに対応するオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーである。
 本発明の他の一側面は、膜貫通タンパク質と、オルガネラ移行シグナルと、上記膜貫通タンパク質と上記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含む融合タンパク質である。
 本発明の他の一側面は、膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルとの間にペプチドリンカーを挿入することを含む、上記膜貫通タンパク質を上記オルガネラ移行シグナルに対応するオルガネラに局在化させる方法(以下、「局在化方法」とも称する。)である。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る融合タンパク質は、図1に示すように、少なくとも、膜貫通タンパク質と、オルガネラ移行シグナルと、上記膜貫通タンパク質と上記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含み、該ペプチドリンカーは、剛直性リンカーである。
 いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る融合タンパク質が標的オルガネラに局在化できるメカニズムは、以下のように推察される。膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーが、剛直性が低いリンカー(以下では、柔軟性リンカー、とも記載する。)である場合、膜貫通タンパク質は疎水性が高いため、図2に示すように、膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルの疎水的な領域は分子内で疎水性相互作用してしまう。そうすると、シグナル認識粒子(SRP)又はプレ配列受容体等のオルガネラ移行シグナルの認識機構が、オルガネラ移行シグナルを認識できないため、融合タンパク質は標的オルガネラに局在化できないと推察される。これに対し、膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーが、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る剛直性リンカーである場合、剛直性リンカーが屈曲せず、膜貫通タンパク質とオルガネラ移行シグナルは分子内で疎水性相互作用しないため、図3に示すように、オルガネラ移行シグナルが膜貫通タンパク質から自由な状態で存在できる。そうすると、シグナル認識粒子(SRP)又はプレ配列受容体等のオルガネラ移行シグナルの認識機構が、オルガネラ移行シグナルを認識できるため、融合タンパク質は標的オルガネラに局在化できると推察される。
(1)膜貫通タンパク質
 膜貫通タンパク質は、生体膜の脂質二重膜を貫通して存在する膜タンパク質であり、生体膜の主要な構成要素となっている。ポンプ、トランスポーター、イオンチャネル、受容体、酵素又は膜構造タンパク質などとして存在し、生体膜の多様な機能を果たしている。膜貫通タンパク質の分子内には1個あるいは複数個の疎水性領域(以下では「膜貫通ドメイン」とも呼ぶ)が存在し、疎水性相互作用により生体膜に固定されており、それ以外の領域は脂質二重膜の外側に表出する。一般に、疎水性領域は20個程度の疎水性が高いアミノ酸から成り、その両端に電荷をもつアミノ酸などの親水性が高いアミノ酸が存在する。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る膜貫通タンパク質は、細胞膜又はオルガネラ膜に局在化した際に1回以上脂質二重膜を貫通するものであればよく、例えば1回膜貫通型タンパク質であっても、複数回膜貫通型タンパク質であってもよい。特に、1回膜貫通型タンパク質は、翻訳過程で小胞体膜に挿入された状態において小胞体内腔にN末端側が露出するI型と、C末端側が露出するII型に分類されるが、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る1回膜貫通型タンパク質は、I型であってもよく、II型であってもよい。また、膜貫通タンパク質の膜貫通ドメインの二次構造は特に限定されず、例えばαヘリックス型であってもよく、βシート型であってもよい。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る膜貫通タンパク質の由来は特に限定されず、自然界に存在するものであってもよく、自然界に存在するタンパク質の機能を損なわない範囲で一部アミノ酸残基を置換又は欠損させたものであってもよく、人工的に作成されたものであってもよい。また、膜貫通タンパク質が真核細胞由来である場合、その生理的条件下における局在は特に限定されず、例えば細胞膜局在性のタンパク質であってもよく、核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、ゴルジ体、分泌顆粒、分泌小胞、リソソーム、ファゴソーム、エンドソーム、液胞又はペルオキシソームといったオルガネラの膜局在性のタンパク質であってもよい。また、膜貫通タンパク質は、オルガネラ局在性の膜貫通タンパク質から、オルガネラ移行シグナルに該当するアミノ酸配列の一部又は全体を置換又は欠損させたものであってもよい。
 本発明に係る膜貫通タンパク質としては、例えばアクアポリン、CLCファミリーイオンチャネル、ベストロフィン、Cysループ型リガンド依存性イオンチャネル、イオンチャネル型グルタミン酸受容体、イオンチャネル型ATP受容体、電位依存性カリウムチャネル、環状ヌクレオチド依存性チャネル、カルシウム活性化カリウムチャネル、TRPチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、CatSperチャネル、2細孔性カリウムチャネル、内向き整流性カリウムチャネル、電位依存性アニオンチャネル(VDAC)、ABCトランスポーター、P型ATPアーゼ、V型ATPアーゼ、SLC35遺伝子ファミリートランスポーター、SLCファミリートランスポーター、APCスーパーファミリートランスポーター、ミトコンドリアキャリア、MFS型トランスポーター、シデロフレキシン、小胞関連膜タンパク質(VAMP)、ロドプシンホスホジエステラーゼ、接着Gタンパク質共役型受容体、セクレチン受容体、代謝型グルタミン酸受容体、Frizzled/Taste2受容体、EGF受容体活性化型キナーゼ、FGF受容体活性化型キナーゼ、エフリン受容体活性化型キナーゼ、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体、AXL活性型キナーゼ、インスリン受容体、受容体型グアニル酸シクラーゼ、PDGF受容体、TNF/NGF受容体、インテグリン、受容体型チロシンホスファターゼ、プレキシン、Notch、セレクチン、コンタクチン、NADH-ユビキノン酸化還元酵素、シトクロムcオキシダーゼ、フラビン含有モノオキシゲナーゼ、非特異的モノオキシゲナーゼ、シトクロムP450、アシル基転移酵素、グリコシルトランスフェラーゼ、リン酸転移酵素、硫酸転移酵素、非受容体型チロシンリン酸化酵素、リン酸ジエステル加水分解酵素、膜局在性ペプチダーゼ、ヌクレオシドジホスファターゼ、アデニル酸シクラーゼ、SAM複合体構成タンパク質、TOM複合体構成タンパク質、TIM複合体構成タンパク質、ミトフシン及びERMES複合体構成タンパク質などが挙げられる。
(2)オルガネラ移行シグナル
 本明細書においてオルガネラ移行シグナルとは、タンパク質に付与することで、そのタンパク質をオルガネラ移行シグナルに対応するオルガネラ(標的オルガネラ)に局在化させる性質を有するペプチドを指す。一般に、細胞質局在性タンパク質に代表される細胞中で遊離状態として存在するタンパク質は、オルガネラ移行シグナルの付与により標的オルガネラに局在化されやすいのに対し、生理状態において特定のオルガネラへの強い局在性を示すタンパク質は、オルガネラ移行シグナルにより局在化されにくい。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係るオルガネラ移行シグナルは、タンパク質に付与することでそのタンパク質を標的オルガネラに局在化させることができるものであれば特に限定されず、自然界に存在するものであってもよく、自然界に存在するオルガネラ移行シグナルの機能を損なわない範囲で一部アミノ酸残基を置換又は欠損させたものであってもよく、人工的に作成されたものであってもよい。オルガネラ移行シグナルが自然界に存在するものである場合、オルガネラ移行シグナルは標的オルガネラに局在するタンパク質の全長であっても一部であってもよいが、膜貫通タンパク質の機能の阻害を避ける観点から、好ましくは標的オルガネラに局在するタンパク質の一部である。
 標的オルガネラに局在するタンパク質のアミノ酸配列は、公知のタンパク質データベース、例えば、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)のタンパク質データベースから入手することができる。
 標的オルガネラとしては、例えば核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体、ゴルジ体、分泌顆粒、分泌小胞、リソソーム、ファゴソーム、エンドソーム、液胞又はペルオキシソーム等が挙げられる。細胞におけるタンパク質のダイナミクス又はエネルギー産生を制御する観点から核、ミトコンドリア、葉緑体、小胞体又はペルオキシソームであることが好ましく、同様の観点から、核又はミトコンドリアであることがより好ましく、細胞の機能を制御する観点から、ミトコンドリアであることが特に好ましい。
 標的オルガネラがミトコンドリアである場合、一般に、オルガネラ移行シグナルはN末端に付与される。ミトコンドリア移行シグナル(Mitochondria targeting signal:MTSとも表記する。)としては、公知文献(例えば、Gunnar von HEIJNE et al.,「EUROPEAN JOURNAL OF BIOCHEMISTRY」、1989年、180巻、p535-545)に記載されたペプチドを用いることができる。ミトコンドリアへの局在性を高める観点から、ミトコンドリア移行シグナルを構成するアミノ酸残基の数は、15残基以上300残基以下であることが好ましく、16残基以上250残基以下であることがより好ましく、17残基以上200残基以下であることがさらに好ましく、18残基以上160残基以下であることがより一層好ましい。また、Tom複合体との相互作用によりミトコンドリアへの局在性を高める観点から、ミトコンドリア移行シグナルに含まれるロイシン残基の数が、オルガネラ移行シグナルに含まれる全てのアミノ酸残基の数の10%以上であってもよい。同様の観点から、ミトコンドリア移行シグナルに含まれるアルギニン残基の数が、オルガネラ移行シグナルに含まれる全てのアミノ酸残基の数の10%以上であってもよい。ミトコンドリア移行シグナルの一例としては、例えば、タンパク質のN末端に付与される、以下の配列番号1~3に示すアミノ酸配列を有するペプチドを挙げることができる。
(a)MLSLRQSIRFFKPATRTLCSSRYL(配列番号1)
(b)MRAPSARALLLIPRRGPAVRAWAPAVSSRIWLASEWTPLVRAWTSLIHKPGSGLRFPAPLSGLPGGVGQWATSSGARRCWVLAGPRAAHPLFARLQGAAATGVRDLGNDSQRRPAATGRSEVWKLLGLVRPERGRLSAAV(配列番号2)
(c)MALLRAAVSELRRRGRGALTPLPALSSLLSSLSPRSPASTRPEPNNPHADRRHVIALRRCPPLPASAVLAPELLHARGLLPRHWSHASPLSTSSSSSRPADKAQLTWVDKWIPEAARPY(配列番号3)
 標的オルガネラが核である場合、一般に、オルガネラ移行シグナルはペプチドの末端以外にも付与されうることから、核移行シグナル(Nuclear localization signal:NLSとも表記する。)はN末端に付与されてもよく、C末端に付与されてもよく、またN末端に付与された核移行シグナルのさらにN末端側又はC末端に付与された核移行シグナルのさらにC末端側にペプチド鎖が付与されていてもよい。核移行シグナルとしては、公知文献(例えば、Shunichi Kosugi et al.,「JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY」、2009年、284巻、p478-485及びAllison Lange et al.,「JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY」、2007年、282巻、p5101-5105)に記載されたペプチドを用いることができる。核移行シグナルには、シグナル配列がペプチド中の1の領域である単節型と2の領域である双節型が存在するが、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る核移行シグナルは、単節型であってもよく、双節型であってもよい。核移行シグナルを構成するアミノ酸残基の数は、例えば20残基以下であり、18残基以下であってもよく、16残基以下であってもよい。また、核局在性を高める観点から、核移行シグナルを構成するアミノ酸残基の数に占めるリジン残基とアルギニン残基の合計数の割合が、20%以上であってもよい。核移行シグナルの一例としては、以下の配列番号4に示すアミノ酸配列を有するペプチドを挙げることができる。
(a)PKKKRRV(配列番号4)
 標的オルガネラがペルオキシソームである場合、オルガネラ移行シグナルであるペルオキシソーム移行シグナル(Peroxisomal targeting signals:PTS)は、C末端側に付与されるPTS1と、N末端側に付与されるPTS2に分類されるが、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係るPTSは、PTS1であってもよく、PTS2であってもよい。PTS1としては例えば以下に示すペプチドを、PTS2としては例えば以下に示すペプチドを、それぞれ例示することができる。なお、以降において、特別な記載がない限り、記載したアミノ酸配列中のXは、任意のアミノ酸を示す。
(a)SKL
(b)RLXXXXXHL
 標的オルガネラが葉緑体である場合、一般に、オルガネラ移行シグナルはN末端に付与される。葉緑体移行シグナルとしては、公知文献(例えば、Gunnar von HEIJNE et al.,「EUROPEAN JOURNAL OF BIOCHEMISTRY」、1989年、180巻、p535-545)に記載されたペプチドを用いることができ、また、任意の植物種のルビスコ(rubisco、ribulose bisphosphate carboxylase/oxygenase、リブロース2リン酸カルボキシル基転移酵素/酸素添加酵素)のスモールサブユニットの葉緑体移行シグナルペプチド(トランジットペプチド)を用いることもできる。葉緑体への局在性を高める観点から、葉緑体移行シグナルを構成するアミノ酸残基の数は、30以上100以下であることが好ましい。
(3)ペプチドリンカー
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係るペプチドリンカーは、αアミノ酸からなるペプチドリンカー(ペプチド結合したアミノ酸により形成されたリンカー)であって、剛直性が高いリンカーとして知られるプロリンが豊富なペプチドリンカー(以下では、プロリンリンカーとも記載する。)又は2次構造をαヘリックスとするペプチドリンカー(以下では、αヘリックスリンカーとも記載する。)である。なお、本明細書においてαアミノ酸には、プロリンを含む。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係るペプチドリンカーがプロリンリンカーである場合、分子内疎水性相互作用を阻害することで融合タンパク質の標的オルガネラへの局在性を高める観点から、ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数は、ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の30%以上であればよく、40%以上であることが好ましく、40%を超えることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。また、同様の観点から、ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基以外のアミノ酸残基について、それぞれのアミノ酸残基とペプチド結合しているプロリン残基の数の平均は、0.8以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、1.2以上であることがさらに好ましく、1.5以上であることがより一層好ましく、1.8以上であることがさらに一層好ましい。また、同様の観点から、ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数は、60残基以上であればよく、60残基を超えることが好ましく、70残基以上であることがより好ましく、また発現効率を高める観点から、例えば600残基以下であり、500残基以下であってもよく、400残基以下であってもよく、300残基以下であってもよい。
 αへリックスリンカーは、2次構造として3.6残基で一巻きする螺旋構造であるαヘリックスを形成することで、屈曲しづらい剛直なリンカーとなる。すなわち、本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係るペプチドリンカーがαヘリックスリンカーである場合、ペプチドリンカーを構成するアミノ酸配列はαヘリックスを形成可能なものであれば特に限定されず、天然に存在するL体のアミノ酸に加えて非天然アミノ酸及びD体のアミノ酸等を含んでもよい。本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係るペプチドリンカーがαヘリックスリンカーである場合、分子内疎水性相互作用を阻害することで融合タンパク質の標的オルガネラへの局在性を高める観点から、ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数は、70残基以上であればよく、80残基以上であることが好ましく、90残基以上であることがより好ましく、また発現効率を高める観点から、例えば600残基以下であり、500残基以下であってもよく、400残基以下であってもよく、300残基以下であってもよい。αへリックスリンカーとしては、例えば、以下の配列番号5~10を繰り返し単位としたペプチドリンカーを挙げることができる。
(a)EAAAK(配列番号5)
(b)EAAAR(配列番号6)
(c)EAAAQ(配列番号7)
(d)DAAAK(配列番号8)
(e)DAAAR(配列番号9)
(f)DAAAQ(配列番号10)
(4)融合タンパク質
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る融合タンパク質は、少なくとも、膜貫通タンパク質と、オルガネラ移行シグナルと、上記膜貫通タンパク質と上記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含む。融合タンパク質は、アミノ酸のみからなる単純タンパク質であってもよく、アミノ酸以外の構成要素を含む複合タンパク質であってもよいが、取得の簡便性の観点から、通常は単純タンパク質である。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る融合タンパク質は、ペプチドリンカーと膜貫通タンパク質との間及び/又はペプチドリンカーとオルガネラ移行シグナルとの間に、さらにリンカーが挿入されていてもよい。挿入されるリンカーの構造は特に限定されないが、取得の簡便性の観点から、リンカーはペプチド結合したアミノ酸により形成されたリンカーであってもよい。また、融合タンパク質とオルガネラ移行シグナルの間のペプチド鎖の剛直性を確保して分子内疎水性相互作用を阻害することで融合タンパク質の標的オルガネラへの局在性を高める観点から、リンカーの長さは、例えば200nm以下であってよく、150nm以下であってもよく、100nm以下であってもよく、50nm以下であってもよく、25nm以下であってもよい。リンカーがペプチド結合したアミノ酸により形成されたリンカーである場合、同様の観点から、リンカーを構成するアミノ酸残基の数は、例えば400残基以下であってよく、300残基以下であってもよく、200残基以下であってもよく、100残基以下であってもよく、50残基以下であってもよく、また例えばペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数の2.0倍以下であってよく、1.5倍以下であってもよく、1.0倍以下であってもよく、0.5倍以下であってもよい。
 本発明のペプチドリンカー、融合タンパク質及び局在化方法に係る融合タンパク質は、融合タンパク質のペプチド末端のうちオルガネラ移行シグナルが結合していない末端に、さらに任意のペプチドドメインを含んでいてもよい。ペプチドドメインは、例えば、GFP、CFP及びRFP等の蛍光タンパク質ドメイン並びにHisタグ、FLAGタグ及びGSTタグ等のアフィニティタグドメイン等の機能性ドメインを含んでいてもよい。
(5)核酸、ベクター及びそれらの取得方法
 本発明の他の一側面は、本発明の一側面に係る融合タンパク質をコードする核酸又は本発明の一側面に係る融合タンパク質を発現するベクターである。
 本発明の一実施形態に係る核酸は、本発明の一側面に係る融合タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列又は該塩基配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む核酸であれば特に限定されず、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)又はDNAとRNAの複合体のいずれであってもよく、1本鎖核酸又は2本鎖核酸であってもよく、ゲノムDNA又はcDNA(相補的DNA、complementary DNA)であってもよい。本発明の好ましい一実施形態に係る核酸は、本発明の一側面に係る融合タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列又は該塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む核酸である。
 本発明の一実施形態に係るベクターは、本発明の一側面に係る融合タンパク質を細胞に発現できるものであれば特に限定されず、例えば一過性ベクター又は安定発現ベクターであってもよく、少なくともプロモーター配列及び融合タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を含むプラスミドであってもよく、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス又はレンチウイルス等のウイルスベクターに融合タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を組み込んだベクターであってもよい。核酸を組み込むベクターは、制限酵素部位、挿入された遺伝子の発現のための制御配列、抗生物質耐性遺伝子、形質転換体の選別のための配列等、種々の配列を含むことができる。本発明の一実施形態に係るベクターは、当業者が通常行う方法により容易に取得することができ、例えば本発明の一実施形態に係る核酸をインサートとして任意のベクターにライゲーションにより導入し、クローニングすることで得ることができる。上述した核酸を組み込むベクターとしては、例えば、pEBMulti-Hygroベクター(富士フイルム和光純薬株式会社)等の市販品を利用することができる。
(6)局在化方法の実施方法
 本発明の一側面に係る局在化方法は、例えば、本発明の一側面に係る融合タンパク質又は該タンパク質を発現するベクターを細胞に導入することにより、実施することができる。細胞への導入は当業者が通常行う方法により容易に行うことができ、例えばベクターがウイルスベクターである場合、細胞の培養環境又は動物個体にウイルスベクターを添加することにより、ベクターを細胞に導入することができる。また、例えばベクターがプラスミドある場合又は融合タンパク質自体を細胞に導入する場合、リポフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、ソノポレーション又はマグネトフェクション等により、これらを細胞に導入することができる。
(7)融合タンパク質の取得方法
 本発明の一側面に係る融合タンパク質は、例えば、本発明の一側面に係る局在化方法と同様の方法で融合タンパク質を発現させた宿主細胞から単離精製することにより得ることができる。宿主細胞は特に限定されず、大腸菌、枯草菌等の原核細胞であっても、酵母、動物細胞等の真核細胞であってもよい。動物細胞は、例えば、哺乳動物細胞であってよく、より具体的には、マウス細胞又はヒト細胞であってよい。また、宿主細胞から融合タンパク質を単離する方法は特に限定されず、当業者が通常行う方法により行うことができ、例えば宿主細胞の膜を可溶化した後、透析、塩析、濾過、分別沈澱、アフィニティクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー又は逆相クロマトグラフィー等の方法により単離精製することができる。これらの方法は、単独で用いてもよく、複数の方法を組み合わせて用いてもよい。
(8)ミトコンドリア病の治療
 先天的遺伝病の一つであるミトコンドリア病は、ミトコンドリアの機能不全に起因する疾患の総称であり、筋力の低下や発達の遅れをはじめとする様々な重篤症状の原因となる疾患である。ミトコンドリアは核を除くオルガネラとして唯一、ミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ばれるオルガネラ固有のDNAを有し、オルガネラ内でタンパク質の発現をすることができるオルガネラであり、ミトコンドリアDNAにより発現されるミトコンドリアタンパク質はミトコンドリアの機能の発揮に必要不可欠であるところ、ミトコンドリア病においては、ミトコンドリアDNAによるタンパク発現の異常が認められる。すなわち、ミトコンドリア病においては、ミトコンドリアDNAにより発現されるタンパク質の欠損又は機能不全を原因として、ミトコンドリア自体の機能不全が生じ、様々な重篤症状を引き起こす。
 ミトコンドリア病の治療方法の1つとして、図4に示すように、ミトコンドリアDNAにより発現されるタンパク質を核のDNAから発現させて、ミトコンドリアに輸送することにより補充するアプローチ(以下、「補充療法」とも呼ぶ。)が考えられる。しかし、ミトコンドリアは脂質二重膜である内膜及び外膜を有する細胞小器官であり、生命機能に必須のミトコンドリアタンパク質の多くは膜貫通タンパク質であるところ、従来技術では膜貫通タンパク質をミトコンドリアに局在化させることは困難であったため、補充療法による治療は難しいとされてきた。他方、本発明の一側面に係る融合タンパク質又はベクターは、細胞において膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させることができるため、ミトコンドリア病の補充療法に利用可能であると考えられる。
 すなわち、本発明の他の一側面は、本発明の一側面に係る融合タンパク質又はベクターを含み、標的オルガネラがミトコンドリアである、ミトコンドリア病治療薬である。本実施形態における融合タンパク質又はベクターに係る膜貫通タンパク質は、ミトコンドリア病において欠損した、若しくは機能不全を起こした膜貫通タンパク質、又は該膜貫通タンパク質の機能を代替可能な膜貫通タンパク質である。本実施形態における融合タンパク質又はベクターに係るオルガネラ移行シグナルは、ミトコンドリア移行シグナルである。
 本発明の一実施形態に係るミトコンドリア病治療薬に含まれる融合タンパク質又はベクターは、リポソーム、マイクロスフェア、ナノスフェア、高分子ミセル又はエキソソーム等の薬物送達キャリアに封入されていてもよい。また、本発明の一実施形態に係るミトコンドリア病治療薬の投与方法は特に限定されず、例えば、経口投与、吸入、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与又は経皮投与等の方法により投与することができる。
(9)ペプチドリンカーをコードする核酸
 本開示の他の一側面は、本開示の一側面に係るペプチドリンカーをコードする配列を含む、核酸である。本発明の一実施形態に係る核酸は、本発明の一側面に係るペプチドリンカーのアミノ酸配列に対応する塩基配列又は該塩基配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む核酸であれば特に限定されず、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)又はDNAとRNAの複合体のいずれであってもよく、1本鎖核酸又は2本鎖核酸であってもよく、ゲノムDNA又はcDNA(相補的DNA、complementary DNA)であってもよい。本発明の好ましい一実施形態に係る核酸は、本発明の一側面に係るペプチドリンカーのアミノ酸配列に対応する塩基配列又は該塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列を含む核酸である。本発明の一実施形態に係る核酸は、本発明の一側面に係るペプチドリンカーのアミノ酸配列に対応する塩基配列又は該塩基配列と80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上の配列同一性を有する塩基配列が、該核酸の塩基配列の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上又は100%を占める核酸であってもよい。
 以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実験方法1:融合タンパク質及びその発現に用いたベクター]
 実施例において融合タンパク質を細胞に発現させるために用いたプラスミドの翻訳領域に相当する核酸の概略を図5に示す。図5において、左が5’末端である。上記翻訳領域を含むプラスミドは以下に従って作成した。COX8N25及びスペーサーをコードする核酸は、これらの配列を含むプライマーを北海道システム・サイエンス株式会社に合成を依頼して、入手した。ペプチドリンカーをコードする核酸はユーロフィンジェノミクス株式会社に合成を依頼して、入手した。CFPをコードする核酸はATUM社(FPB-47-609)から購入した。膜貫通タンパク質をコードする核酸はマウスcDNA(Quick Clone cDNA、637304、タカラバイオ株式会社)から入手した。これらの核酸を、KOD One PCR Master Mix -Blue-(KMM-201、東洋紡株式会社)を用いてPCRクローニングし、ユーロフィンジェノミクス株式会社から購入したpEX-A2J2ベクターにIn-Fusion Snap Assembly Master Mix(Z8947N、タカラバイオ株式会社)を使用して挿入することで、タンパク質を発現させるためのコンストラクトを作製した。コンストラクトを東洋紡株式会社のコンピテントセル(Competent Quick DH5a、DNA-913F)に導入して増幅し、タカラバイオ株式会社のプラスミド精製キット(NucleoSpin Plasmid、U0588A)によって精製することで、プラスミドを取得した。なお、pEX-A2J2ベクターにはチャイニーズハムスターのHipp 11領域の一部(1615 bp)が組み込まれており、Cas9タンパク質を同時に発現させれば、相同組換によるノックインが可能なベクターとなっている(本明細書に記載の実施例では一過的な発現で十分であったため、Cas9は発現させていない)。このプラスミドを用いて細胞において発現されたタンパク質は、N末端から順に、ミトコンドリア移行シグナル(配列番号1、COX8N25)、クローニングにおける余剰6残基のペプチド(グリシン-セリン-アラニン-グリシン-セリン-アラニン)、ペプチドリンカー、膜貫通タンパク質mABCB10d132(配列番号11)、スペーサー(配列番号12)、蛍光タンパク質CFP(配列番号13)及びヒスチジンタグ(Hisタグ、6つのヒスチジン残基)からなる。mABCB10d132は、ミトコンドリア内膜局在性タンパク質mouseABCB10のN末端側132アミノ酸を欠損させたタンパク質であり、ミトコンドリア移行シグナルに相当するN末端側132アミノ酸を欠損させることで、ミトコンドリア局在性を失い、小胞体に局在化する(非特許文献3)。さらに、欠損させたN末端側132アミノ酸に代わって、他の種類のミトコンドリア局在タンパク質のMTSを付加しても、ミトコンドリアに局在化できないことが報告されている(非特許文献3)。
[実験方法2:融合タンパク質を発現した細胞の調製]
 実施例において用いた、融合タンパク質を発現した細胞の調製方法は以下のとおりである。
 まず、細胞に関し、最終濃度10%のウシ胎児血清を含むHam’s F-12 Nutrient Mix(Thermo Fisher Scientific社製、製品番号11765054)培地(以下では、単に培地とも呼ぶ。)中で培養したCHO-K1細胞(JCRB細胞バンクより分譲された。細胞登録番号:JCRB9018、以下では単に細胞とも呼ぶ。)を、3ウェルディッシュ(AGCテクノグラス株式会社製、製品番号3970-103)に0.7×10cells/wellとなるように播種した。
 次に、形質転換に用いる溶液に関し、20μLのOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific社製、製品番号31985062)、実験方法1に従って用意した200ngのプラスミド、0.2μLのPlus reagent及び0.8μLのLipofectamine LTX(Thermo Fisher Scientific社製、製品番号15338030)を混合し、室温にて25分間静置して溶液(形質転換溶液)を調製した。
 最後に、融合タンパク質を発現した細胞の調製工程に関し、播種した細胞を培地中、37℃、5%CO雰囲気下で1日培養した後、細胞を培養している培地に対して、形質転換溶液を1ウェルあたり10μL添加し、37℃、5%CO雰囲気下で4~5時間静置した。その後、培地を形質転換溶液を含まない培地に置換し、さらに37℃、5%CO雰囲気下で1日培養した。
[実験方法3:ミトコンドリアの蛍光染色]
 実験方法2で調製した融合タンパク質を発現した細胞を、形質転換溶液の添加から24時間経過した後に、最終濃度50nMのMitotracker Deep Red(Thermo Fisher Scientific社製、製品番号M22426、以下ではMTDRとも呼ぶ。)を溶解した培地中において37℃、5%CO雰囲気下で1時間培養することで、ミトコンドリアを蛍光染色した。
[実験方法4:蛍光顕微観察]
 実験方法3で得られた細胞は、以下のプロトコールに従って蛍光顕微観察した。ミトコンドリアの蛍光染色から1~6時間後に、100倍の対物レンズUplanSApo 100x(オリンパス社製)とデジタルCMOSカメラORCA-flash4,0V3(浜松ホトニクス社製、C13440-20CU)を搭載した電動型倒立型顕微鏡IX83(オリンパス社製)を用いて、細胞を蛍光顕微観察し、蛍光画像を取得した。蛍光ミラーユニットとして、MTDR(ミトコンドリア)の蛍光観察にはX3-FGWXL(励起波長530~550nm、蛍光波長570nm以上)、CFP(融合タンパク質)の蛍光観察にはIX3-FCFPXL(励起波長425~445nm、蛍光波長460~510nm)を、それぞれ用いた。
[実験方法5:共局在解析]
 実験方法4で得られたMTDR及びCFPの蛍光画像は、以下のプロトコールに従って共局在解析した。蛍光画像について、ウィンドウサイズ35ピクセル(ピクセル解像度130nm/pixel)のメディアンフィルタによりノイズを含めた高周波成分を除去した画像を作成し、元の蛍光画像から減算することで、蛍光画像から背景光を除去した解析用画像を作成した。MTDR及びCFPの蛍光画像から得られた2枚の解析用画像について、公知文献(Costes SV et al.,Biophys.J.86,3993-4003(2004))に記載の方法に従って、輝度値の相関係数Pearson Correlation Coefficient(以下では、単に「相関係数」とも呼ぶ。)を算出した。
 異なる群の間の相関係数の有意差検定は、有意水準1%の両側検定(Mann-WhitneyのU検定)により行った。
[実施例1:プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数と局在化効果との関係]
 ペプチドリンカーがプロリンリンカーである場合の、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数と局在化効果との関係について検討した。
 実験方法1~5に従って、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0、50、60、70、80、90、100、150又は200残基であって、かつ、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の50%がプロリン残基である融合タンパク質を発現させた細胞を蛍光顕微観察し、共局在解析した。一例として、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が100残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号14に、融合タンパク質を発現させるために用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号15に、それぞれ示した。プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が100残基未満である場合には、配列番号14に示した融合タンパク質のアミノ酸配列に含まれるプロリンリンカー領域100残基(配列番号16)に代わって、配列番号16のC末端側から各群のリンカーに含まれるアミノ酸残基の数に相当する数のアミノ酸残基をプロリンリンカー領域として利用した。プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が150残基である場合には、配列番号14に示した融合タンパク質のアミノ酸配列に含まれるプロリンリンカー領域100残基(配列番号16)に代わって、配列番号16に示したアミノ酸配列にさらに配列番号16のN末端側50残基をN末端側に有するアミノ酸配列をプロリンリンカー領域として利用した。プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が200残基である場合には、配列番号14に示した融合タンパク質のアミノ酸配列に含まれるプロリンリンカー領域100残基(配列番号16)に代わって、配列番号16に示したアミノ酸配列にさらに配列番号16に示したアミノ酸配列をN末端側に有するアミノ酸配列をプロリンリンカー領域として利用した。また、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0である融合タンパク質は、ペプチドリンカー領域を有しない融合タンパク質であり、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドも、ペプチドリンカーをコードする領域を有しないプラスミドである。
 プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数に応じた、共局在解析における相関係数を図6に示す。図6において、グレーの棒グラフは平均値、黒いエラーバーは標準偏差を示し、アスタリスク(*)は、アミノ酸残基の数が0残基の群との間において相関係数に有意差があることを示す。また、アミノ酸残基の数が0残基の群における代表的な蛍光画像を図7及び図8に、70、80、90、100、150及び200残基の群における代表的な蛍光画像を図9に、それぞれ示す。図7~9において、アミノ酸残基の数の横又は白線の外側近傍に記載された数値は、各画像について、白線で囲われた領域における相関係数を示す。
 図6に示すように、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が60残基以上の融合タンパク質において、相関係数の平均値の増加が見られ、アミノ酸残基の数が70残基以上の融合タンパク質において、アミノ酸残基の数が0残基の融合タンパク質との間で相関係数の差が有意であった。また、図7及び図8に示すように、アミノ酸残基の数が0残基の融合タンパク質は、細胞全体にメッシュ状に分布し、小胞体に移行することが強く示唆されたのに対し、図9に示すように、アミノ酸残基の数が70、80、90、100、150及び200残基の融合タンパク質は、MTDRとよく類似した蛍光像を与え、ミトコンドリアに局在化することが強く示唆された。
[実施例2:プロリンリンカーに含まれるプロリン残基の割合と局在化効果との関係]
 ペプチドリンカーがプロリンリンカーである場合の、プロリンリンカーに含まれるプロリン残基の割合と局在化効果との関係について検討した。
 実験方法1~5に従って、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が100残基であって、アミノ酸残基の30%、40%又は50%がプロリン残基である融合タンパク質を発現させた細胞を蛍光顕微観察し、共局在解析した。プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の30%がプロリン残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号17に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号18に、それぞれ示す。プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の40%がプロリン残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号19に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号20に、それぞれ示す。プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基の50%がプロリン残基である場合、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号14に示したアミノ酸配列と同一であり、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列は配列番号15に示した塩基配列と同一である。
 プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基に占めるプロリン残基の割合に応じた、共局在解析における相関係数を図10に示す。図10において、グレーの棒グラフは平均値、黒いエラーバーは標準偏差を示し、シャープ(#)は、アミノ酸残基の50%がプロリン残基である群との間において相関係数に有意差があることを示す。また、アミノ酸残基の30%がプロリン残基である群における代表的な蛍光画像を図11及び図12に示す。図11及び図12において、白線の外側近傍に記載された数値は、各画像について、白線で囲われた領域における相関係数を示す。
 図10に示すように、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基に占めるプロリン残基の割合が30%及び40%の融合タンパク質において相関係数が小さくなり、プロリン残基の割合が50%の融合タンパク質との間で相関係数の差が有意であった。また、図11及び図12に示すように、プロリンリンカーに含まれるアミノ酸残基に占めるプロリン残基の割合が30%の融合タンパク質は、プロリンリンカー領域を有しない融合タンパク質と同様、細胞全体にメッシュ状に分布し、小胞体に移行することが強く示唆された。プロリン残基の割合が40%の融合タンパク質でも、同様の傾向が見られた。
[実施例3:αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数と局在化効果との関係]
 ペプチドリンカーがαヘリックスリンカーである場合の、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数と局在化効果との関係について検討した。
 実験方法1~5に従って、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0,50、60、70、80、90、100、200、300、400、500又は600残基である融合タンパク質を発現させた細胞を蛍光顕微観察し、共局在解析した。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が50残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号21に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号22に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が60残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号23に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号24に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が70残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号25に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号26に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が80残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号27に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号28に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が90残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号29に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号30に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が100残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号31に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号32に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が200残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号33に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号34に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が300残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号35に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号36に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が400残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号37に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号38に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が500残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号39に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号40に、それぞれ示す。αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が600残基である場合の、発現させた融合タンパク質のアミノ酸配列を配列番号41に、融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドに含まれる翻訳領域に相当する核酸の塩基配列を配列番号42に、それぞれ示す。また、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0である融合タンパク質及び融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドは、実施例1で用いたリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が0である融合タンパク質及び融合タンパク質を発現させるのに用いたプラスミドと同一である。
 αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数に応じた、共局在解析における相関係数を図13に示す。図13において、グレーの棒グラフは平均値、黒いエラーバーは標準偏差を示し、アスタリスク(*)は、アミノ酸残基の数が0残基の群との間において相関係数に有意差があることを示す。また、アミノ酸残基の数が300残基の群における代表的な蛍光画像を図14に、200残基の群における代表的な蛍光画像を図15に、それぞれ示す。図14及び図15において、アミノ酸残基の数の横に記載された数値は、各画像について、白線で囲われた領域における相関係数を示す。
 図13に示すように、αヘリックスリンカーに含まれるアミノ酸残基の数が70残基以上の融合タンパク質において、相関係数の平均値の増加が見られ、アミノ酸残基の数が90残基以上の融合タンパク質において、アミノ酸残基の数が0残基の融合タンパク質との間で相関係数の差が有意であった。また、図14及び15に示すように、アミノ酸残基の数が200及び300残基の融合タンパク質は、MTDRとよく類似した蛍光像を与え、ミトコンドリアに局在することが強く示唆された。

Claims (10)

  1.  膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるために用いられる、前記膜貫通タンパク質と前記標的オルガネラに対応するオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーであって、前記ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数が、前記ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の40%を超え、かつ、前記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が60残基以上である、ペプチドリンカー。
  2.  膜貫通タンパク質を標的オルガネラに局在化させるために用いられる、前記膜貫通タンパク質と前記標的オルガネラに対応するオルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーであって、前記ペプチドリンカーが2次構造をαヘリックスとするペプチドからなり、かつ、前記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が70残基以上である、ペプチドリンカー。
  3.  膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、前記膜貫通タンパク質と前記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含む融合タンパク質であって、前記ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数が、前記ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の40%を超え、かつ、前記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が60残基以上である、融合タンパク質。
  4.  膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、前記膜貫通タンパク質と前記オルガネラ移行シグナルとの間に挿入されるペプチドリンカーと、を含む融合タンパク質であって、前記ペプチドリンカーが2次構造をαヘリックスとするペプチドからなり、かつ、前記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が70残基以上である、融合タンパク質。
  5.  膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、の間にペプチドリンカーを挿入することを含む、前記膜貫通タンパク質を前記標的オルガネラに局在化させる方法であって、前記ペプチドリンカーに含まれるプロリン残基の数が、前記ペプチドリンカーに含まれる全てのアミノ酸残基の数の40%を超え、かつ、前記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が60残基以上である、方法。
  6.  膜貫通タンパク質と、標的オルガネラに局在化させるためのオルガネラ移行シグナルと、の間にペプチドリンカーを挿入することを含む、前記膜貫通タンパク質を前記標的オルガネラに局在化させる方法であって、前記ペプチドリンカーが2次構造をαヘリックスとするペプチドからなり、かつ、前記ペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基の数が70残基以上である、方法。
  7.  請求項3又は4に記載の融合タンパク質をコードする、核酸。
  8.  請求項3又は4に記載の融合タンパク質を発現する、ベクター。
  9.  請求項3若しくは4に記載の融合タンパク質又は請求項3若しくは4に記載の融合タンパク質を発現するベクターを含み、前記標的オルガネラがミトコンドリアである、ミトコンドリア病治療薬。
  10.  請求項1又は2に記載のペプチドリンカーをコードする配列を含む、核酸。
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