WO2022158586A1

WO2022158586A1 - 卵黄中のカロテノイドを増強する方法

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Publication number: WO2022158586A1
Application number: PCT/JP2022/002342
Authority: WO
Inventors: 和明平澤; 育生黒田; 祐貴川嶋; 卓石橋
Original assignee: Ｅｎｅｏｓ株式会社
Priority date: 2021-01-25
Filing date: 2022-01-24
Publication date: 2022-07-28
Also published as: JP2022113274A

Abstract

本発明は、家禽卵の卵黄色を改善するための卵黄色改善剤もしくは家禽用飼料、または卵黄色改善方法の提供を目的とする。本発明はカプサンチンおよびアスタキサンチンを含む卵黄色改善剤もしくは家禽用飼料、およびそれらを家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄色を改善する方法に関する。

Description

卵黄中のカロテノイドを増強する方法

　本発明は、家禽卵の卵黄色を改善するための卵黄色改善剤および当該改善剤を含む家禽用飼料、並びに前記卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄色を改善する方法および卵黄色が改善された家禽卵に関する。

　多くの家禽卵の卵黄は、見栄えを良くして食欲を喚起するように、天然色素や化学合成色素を基礎飼料に添加して卵黄を着色している。近年の消費者の天然志向の高まりにより、天然色素による着色の重要性が増している。また、消費者は赤味の強い卵黄色、すなわちカラーファン値の高い卵黄を好む傾向にある。

　従来、家禽卵のカラーファン値を１２以上に高めるために、赤色系色素であるパプリカ、ファフィア酵母、ヘマトコッカス藻、パラコッカス菌、合成カンタキサンチン等を基礎飼料に単独添加して卵黄色の色揚げが行われている。パプリカの主な天然赤色系色素はカプサンチンであり、ファフィア酵母、ヘマトコッカス藻、パラコッカス菌の主な天然赤色系色素はアスタキサンチンである。中でも、家禽卵の天然赤色系色素としては、パプリカ由来のカプサンチンが広く用いられている。一方、黄色系色素は卵黄のカラーファン値を高める効果が低く、黄色系色素であるマリーゴールド由来のルテインや合成β－アポ－８'－カロチン酸エチルエステルの単独添加では、カラーファン値を１２以上に高める効果はないか、あったとしても低いことが知られている。

　天然赤色色素を基礎飼料に添加して卵黄色を高めることに関し、例えば、特許文献１には、ファフィア酵母を基礎飼料に単独添加して卵黄色を高めることが開示されている。また、特許文献２には、マリーゴールドと組み合わせたパプリカあるいは赤色酵母（ファフィア酵母）の単独添加が開示されているが、カプサンチンとアスタキサンチンを併用することや併用した場合の効果は開示されていない。

　近年、赤色系天然色素、特にパプリカの市場価格は高騰を続け、供給不安に陥っている。そのため、家禽卵の生産者において、安価な赤色系天然色素への要求があった。

特開２００４－３０５０５７号公報特開２００２－１７１９１７号公報

　このような状況において、卵黄色の濃い家禽卵、並びにそのような卵を生産するための方法および家禽用飼料の提供が依然として望まれている。

　アスタキサンチンとカプサンチンを組み合わせて家禽に給与することは知られていなかったところ、本発明者はアスタキサンチンとカプサンチンを家禽に給与することにより、卵黄中におけるカプサンチン含有量を向上させることが可能であることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
［１］
　カプサンチンおよびアスタキサンチンを含む、卵黄色改善剤。
［２］
　前記アスタキサンチンがパラコッカス菌に由来する、［１］に記載の卵黄色改善剤。
［３］
　［１］または［２］に記載の卵黄色改善剤を含有し、前記カプサンチンおよび前記アスタキサンチンの合計含有量が、含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍである、家禽用飼料。
［４］
　［３］に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法。
［５］
　［３］に記載の家禽用飼料を給与された家禽から得られる家禽卵であって、家禽卵の卵黄中にカプサンチンを１～２５ｐｐｍ含み、かつアスタキサンチンを１～１５ｐｐｍ含む、家禽卵。
［６］
　［３］に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄へのカプサンチンの移行を促進する方法であって、
　カプサンチン摂取量当たりの家禽卵の卵黄中のカプサンチン含有量が、カプサンチンを含むがアスタキサンチンを含まない飼料を家禽に給与した場合に比較して増加する、方法。
［７］
　［３］に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法であって、所定の卵黄色が、カプサンチンを含むがアスタキサンチンを含まない飼料を家禽に給与した場合のカプサンチンの量に比較して少ない量のカプサンチンで達成される、方法。
［８］
　［３］に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色の改善された家禽卵の生産方法。

　本発明により、カプサンチンおよびアスタキサンチンを含む、卵黄色改善剤が提供される。また、本発明の別の態様において、前記卵黄色改善剤を含む、家禽用飼料が提供される。
　本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することにより、家禽卵の卵黄色を改善することおよび卵黄色の改善された家禽卵を提供することができる。また、本発明の一態様において、本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色の改善された家禽卵の生産方法を提供することができる。

　本発明の別の態様において、本発明の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄へのカプサンチンの移行を促進する方法が提供される。本発明の家禽用飼料を家禽に給与した場合、カプサンチン単独給与の場合に比較して、カプサンチン摂取量当たりの家禽卵の卵黄中のカプサンチン含有量を増加させることができる。

　また、本発明の別の態様において、本発明の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法が提供される。本発明の家禽用飼料を家禽に給与した場合、カプサンチン単独給与の場合に比較して少ない量のカプサンチンで同等の卵黄色を示す家禽卵を生産することができ、カプサンチンの使用量を減らすことが可能となる。

１日あたりのカプサンチン摂取量に対する卵黄中のカプサンチン含有量を示す図である。図中、●は実施例１（アスタキサンチンおよびカプサンチン給与群）および◆は比較例１（カプサンチン単独給与群）の値を示す。実施例１および比較例１のそれぞれの値から得られる近似式と曲線（点線）を示す。１日あたりのアスタキサンチンおよびカプサンチンの合計摂取量（ｍｇ／羽）とカラーファン値の関係を示す図である。図中、●は実施例１（アスタキサンチンおよびカプサンチン給与群）、◆は比較例１（カプサンチン単独給与群）、および▲は比較例２（アスタキサンチン単独給与群）の値を示す。実施例１、比較例１、および比較例２のそれぞれの値から得られる近似式と曲線（点線）を示す。

　以下、本発明を詳細に説明する。
　本発明は、カプサンチンとアスタキサンチンを含む卵黄色改善剤および当該卵黄色改善剤を含む家禽用飼料に関する。また、本発明は、本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法に関する。

　アスタキサンチンをカプサンチンと共に家禽に給与して飼育することにより、卵黄中におけるカプサンチン含有量を向上させることが可能である。本発明においては、アスタキサンチンと共に給与しない場合（カプサンチン単独給与）に比べて少量のカプサンチンの給与により、カプサンチン単独投与の場合と同等の卵黄色を有する家禽卵を得ることができる。したがって、本発明により、従来と同等の卵黄色を有する家禽卵を得るためのカプサンチンの使用量を減らすことが可能となる。

　また、アスタキサンチンをカプサンチンと共に家禽に給与して飼育することにより、アスタキサンチンと共に給与しない場合（カプサンチン単独給与）に比べてカプサンチン摂取量あたりの卵黄中のカプサンチン含有量が増加し、カプサンチンの卵黄への移行が促進される。このようなカプサンチンの卵黄移行促進方法も本発明に含まれる。

　本明細書において、「家禽」または「家禽類」は、特に限定されるものではないが、例えばニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、ホロホロチョウ、ハト、カモ、アヒル、ガチョウ、チャボ、ダチョウが例示される。本発明において、家禽はニワトリまたはウズラが好ましい。本明細書において、「卵」または「家禽卵」は、上記家禽または家禽類の卵をいう。特に日本を含む多くの国では家禽卵の中で鶏卵の消費量または流通量が最も多いため、消費量または流通量の観点から、本発明は鶏卵において好適に実施することができる。

　本明細書において、数値範囲について「～」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値および上限値を含むものとする。例えば、「１～４０」という記載では、下限値である「１」、上限値である「４０」のいずれも含むものとする。すなわち、「１～４０」は、「１以上４０以下」と同じ意味である。

　本明細書において、「％」および「ｐｐｍ」の値は、重量比を意味する。本明細書において、「１ｍｇ／ｋｇ」は「１ｐｐｍ」と同じ意味である。本明細書において、含有量は、特に断りがない限り、質量または重量比で表される。

　本明細書において、卵黄色の改善または卵黄色改善とは、対照と比較して卵黄色が濃いこと、または卵黄色の赤味が強いことをいう。卵黄色はカラーファン値として測定され、カラーファン値が大きいほど卵黄色が濃いこと、または卵黄色の赤味が強いことを意味する。対照とは、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を給与されていない家禽または給与前の家禽から得られる家禽卵の卵黄色をいう。好ましくは、卵黄色の改善された家禽卵の卵黄は、１２～１８の範囲のカラーファン値を有する。

１．卵黄色改善剤および家禽用飼料
　本発明は、カプサンチンおよびアスタキサンチンを含有する、卵黄色改善剤（以下、「本発明の卵黄色改善剤」ともいう）を提供する。また、本発明は、カプサンチンおよびアスタキサンチンを含有し、カプサンチンおよびアスタキサンチンの合計含有量が、含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍであることを特徴とする、家禽用飼料（以下、「本発明の家禽用飼料」ともいう）を提供する。
　本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を家禽類に給与することにより、卵黄色の濃い家禽卵が生産される。

　本発明において、カプサンチンおよびアスタキサンチンは、化学的に合成されたものであってもよく、動物、植物、微生物等の天然物由来のものであってもよい。本発明に係るカプサンチンおよびアスタキサンチンは、当業者であれば化学合成法、または植物、細菌や酵母等の微生物を用いた方法等の公知の方法で製造することができる。

　カプサンチンまたはアスタキサンチンは、例えば、Pure & Appl. Chem., Vol 51 pp535-564（1979）等に記載の方法で化学的に製造することができるが、これらの合成方法および精製方法等に限定されるものではない。

　また、天然物由来のカプサンチンまたはアスタキサンチンは、天然物原料の種類および産地、天然物からの生成または加工方法に限定されない。例えば、細菌を用いてアスタキサンチンを製造する場合は、特開２０１０－１７２２９３号、特開２００５－０８７０９７号、国際公開２０１０／０８７４００号パンフレット、国際公開２０１０／０４４４６９号パンフレット、特開２００１－３５２９９５号パンフレット等に記載の方法で製造することができる。さらに、酵母を用いる場合は、特開平５－７６３４７号、特開平６－３１９５３１号、特開平８－２１４８７０号等に記載の方法で製造することができる。

　本発明に用いる細菌としては、アスタキサンチンを産生する細菌であれば何ら限定されないが、好ましくはParacoccus（パラコッカス）属、Sphingomonas（スフィンゴモナス）属、Brevundimonas（ブレバンディモナス）属またはErythrobacter（エリスロバクター）属に属する細菌が用いられ、中でもParacoccus属に属する細菌が好ましい。Paracoccus属に属する細菌の中では、Paracoccus carotinifaciens（パラコッカスカロティニファシエンス）、Paracoccus marcusii（パラコッカスマークシイ）、Paracoccus haeundaensis（パラコッカスヘウンデンシス）およびParacoccus zeaxanthinifaciens（パラコッカスゼアキサンチニファシエンス）が好ましく用いられ、特にParacoccus carotinifaciensが好ましく用いられる。
　Paracoccus属に属する細菌の具体的な菌株の例として、Paracoccus carotinifaciensＥ－３９６株（ＦＥＲＭＢＰ－４２８３）およびParacoccus属細菌Ａ－５８１－１株（ＦＥＲＭＢＰ－４６７１）が挙げられ、これらの変異株も本発明に好ましく用いられる。また、天然アスタキサンチン源としてファフィア酵母やヘマトコッカス藻を使用してもよい。なお、Ｅ－３９６株およびＡ－５８１－１株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構（NITE）特許生物寄託センター（NITE-IPOD）（〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8）を国際寄託当局として以下のとおり国際寄託されている。
Ｅ－３９６株
　識別のための表示：E-396、受託番号：FERM BP-4283、原寄託日：平成５年（１９９３年）４月２７日
Ａ－５８１－１株
　識別のための表示：A-581-1、受託番号：FERM BP-4671、原寄託日：平成６年（１９９４年）５月２０日

　また、アスタキサンチンの産生細菌として、好ましくは１６ＳリボソームＲＮＡに対応するＤＮＡの塩基配列が上記Ｅ－３９６株の塩基配列と高い同一性を有する細菌が用いられる。ここで言う「高い同一性を有する」とは、Ｅ－３９６株の１６ＳリボソームＲＮＡに対応するＤＮＡの塩基配列と目的の細菌の対応する塩基配列とが、好ましくは９５％以上、例えば、９６％以上、９７％以上、９８％以上または９９％以上同一であること意味する。Ｅ－３９６株の１６ＳリボソームＲＮＡに対応するＤＮＡの塩基配列は、例えば国際公開第２０１０／０４４４６９号の配列表に記載されている。１６ＳリボソームＲＮＡに対応するＤＮＡの塩基配列とは、１６ＳリボソームＲＮＡの塩基配列中のＵ（ウラシル）をＴ（チミン）に置き換えた塩基配列を意味する。

　Paracoccus carotinifaciens Ｅ－３９６株の１６ＳリボソームＲＮＡの塩基配列と、他のアスタキサンチン産生細菌であるParacoccus marcusii DSM 11574株、Paracoccus属細菌N-81106株、Paracoccus haeundaensis BC 74171株、Paracoccus属細菌A-581-1株、Paracoccus zeaxanthinifaciens ATCC 21588株、およびParacoccus sp. PC-1株の１６ＳリボソームＲＮＡの塩基配列との同一性は、それぞれ９９．７％、９９．７％、９９．６％、９９．４％、９５．７％、および９５．４％であり、これらは分類学上極めて近縁な菌株であることが分かる。したがって、これらの菌株はアスタキサンチンを産生する細菌として一つのグループを形成しているといえる。よって、これらの菌株はアスタキサンチンを効率的に産生する細菌として、本発明に好ましく用いることができる。

　本発明において、アスタキサンチンの生産性が改良された変異株も用いることができる。例えば、改良された変異株は、アスタキサンチン生産能の高い菌株（特開２００１－９５５００号）等の公知の菌株を用いることができる。また、アスタキサンチンの生産性が改良された変異株は、当業者であれば公知技術に基づき、変異処理とスクリーニングにより取得することができる。変異処理する方法は変異を誘発するものであれば特に限定されない。例えば、Ｎ－メチル－Ｎ'－ニトロ－Ｎ－ニトロソグアニジン（ＮＴＧ）およびエチルメタンスルホネート（ＥＭＳ）などの変異剤による化学的方法、紫外線照射およびＸ線照射などの物理的方法、遺伝子組換えおよびトランスポゾンなどによる生物学的方法などを用いることができる。変異処理される微生物は特に限定されないが、アスタキサンチンの産生細菌であることが好ましい。また、変異株は、自然に起こる突然変異により生じたものでもよい。

　本発明においては、アスタキサンチンを産生する微生物を適宜培養し、得られた培養物を、アスタキサンチンとして用いることができる。微生物の培養方法は、アスタキサンチンを産生する条件であればいずれの方法でもよく、当業者であれば、公知の方法から適宜選択、変更することができる。当業者は、公知技術に基づき、培養物をさらに濃縮、乾燥、粉砕、抽出または精製などを行い、得られた沈殿濃縮物、乾燥菌体、抽出物もしくは精製物、またはそれらの組み合わせ等をアスタキサンチンとして本発明に使用することができる。

　また、本発明において、パプリカ、とうがらし、赤ピーマン、パプリカオレンジなどのカプサンチン含有天然物をカプサンチン源として使用することもできる。
　本発明において、パプリカ、とうがらし、赤ピーマン、パプリカオレンジなどのカプサンチン含有天然物を適切な大きさでそのまま使用してもよいし、その乾燥物や抽出物を使用することもできる。例えばパプリカを例に挙げると、飼料用のパプリカ、飼料用のパプリカ加工品、パプリカからのカプサンチン抽出物を使用することができる。カプサンチン抽出物は、カプサンチン含有天然物から油脂や有機溶媒で抽出して得ることができ、抽出工程は、適宜、蒸留、アルカリ処理、乾燥等の手段を単独または組み合わせることができる。

　このように、本発明においては、カプサンチンおよびアスタキサンチンとして、カプサンチンもしくはアスタキサンチンそのものを使用してもよいし、カプサンチンもしくはアスタキサンチンの加工品やカプサンチンもしくはアスタキサンチンを含む組成物を使用してもよい。カプサンチンおよびアスタキサンチンは、薬学的に許容される塩の形態であってもよい。

　本発明において、カプサンチンもしくはアスタキサンチンは、市販品を使用することもできる。そのようなアスタキサンチンの市販品としては、例えば、Panaferd-PまたはPanaferd-AX（ＥＮＥＯＳ株式会社、東京）を挙げることができる。Panaferd-Pは、鶏卵の色調改善を目的とした鶏卵用色揚げ剤として販売されている。カプサンチンの市販品としては、カラーアップ（コーキン化学株式会社）またはカプサンタルＣ（ＩＴＰＳＡジャパン株式会社）を挙げることができる。

　アスタキサンチンおよびカプサンチンは、組み合わせて家禽に投与されることにより、家禽卵の卵黄色が改善される。したがって、本発明の卵黄色改善剤は、アスタキサンチンおよびカプサンチンを含む。アスタキサンチンおよびカプサンチンは、家禽用の基本飼料に配合され、配合飼料として家禽に給与することができる。カプサンチンおよびアスタキサンチンは、含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍの合計含有量で含まれる。本発明は、このように調整された家禽用飼料を含む。「含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍ」とは、カプサンチンおよびアスタキサンチンを含有させる前の基本飼料に含まれるカプサンチンおよびアスタキサンチン含有量の合計よりも、含有後の飼料におけるカプサンチンおよびアスタキサンチンの含有量の合計が１～４０ｐｐｍ多いことを意味する。
　通常、基本飼料にはカプサンチンまたはアスタキサンチンは含有されていない。すなわち、基本飼料に含まれるカプサンチンおよびアスタキサンチン含有量の合計は、通常はゼロまたはゼロに近い値である。

　本明細書において、カプサンチンおよび／またはアスタキサンチンの含有量は、高速液体クロマトグラフィー法（ＨＰＬＣ法）により測定することができる。定量は、クロマトグラム中のカプサンチンまたはアスタキサンチンのピーク面積に基づいてなされる。

　本発明において、基本飼料は、家禽類の飼料として当業者が通常使用されるものであればよく、特に限定されない。家禽類の飼料としては、種々の組成の配合飼料が知られており、当業者であれば、家禽の種類や成長段階等に応じて、適宜選択することができる。例えば、動物性飼料原料（魚粉など）、植物性油粕（大豆油粕、ナタネ油粕など）、穀類（トウモロコシなど）、糟糠類（フスマ、ヌカなど）、炭酸カルシウムおよびカキガラ等の家禽に給与される任意の飼料原料を主成分として含む配合飼料を用いてもよい。家禽用飼料としてはトウモロコシを主体とする飼料が最も一般的であり、トウモロコシを主体とする飼料の一例を表１に示す。

　本発明の家禽用飼料は、アスタキサンチンおよびカプサンチンを、含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍの合計含有量で含む。この範囲内であればアスタキサンチンおよびカプサンチンの合計含有量は特に限定されない。また、含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍの範囲であれば、そこに含まれるアスタキサンチンとカプサンチンの配合比または含有比も特に限定されない。本発明の家禽用飼料におけるアスタキサンチン／アスタキサンチンおよびカプサンチンの含有比の下限は、好ましくは０．１以上、より好ましくは０．２以上、さらに好ましくは０．３以上であり、上限は、好ましくは０．８以下、より好ましくは０．７以下、さらに好ましくは０．６以下、特に好ましくは０．５以下である。

　本明細書において、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料は、カプサンチンおよびアスタキサンチンに加えて、1種または複数種のキサントフィルを含有しても良い。そのようなキサントフィルとしては、例えば、アドニルビン、アドニキサンチン、ゼアキサンチン、α－クリプトキサンチン、β－クリプトキサンチン、ルテイン、カンタキサンチン、アステロイデノン、３－ヒドロキシエキネノン、β－アポ－８’－カロテナール、フコキサンチン、ラクツカキサンチン、ツナキサンチン、カプソルビン、ビオラキサンチン、ネオキサンチン、シフォナキサンチン、アンテラキサンチン、シトラナキサンチン、フコキサンチノール、アマロウシアキサンチンＡ、ハロシンチアキサンチン、ジアトキサンチン、ペリジニン、スピリロキサンチン、ルビキサンチン、ロドキサンチン、アロキサンチン等が挙げられる。
　本明細書において、キサントフィルは、薬学的に許容される塩の形態であってもよい。

　本発明の家禽用飼料は、任意の形状であってよく、対象となる家禽の種類や成長段階等に応じて形状を適宜選択することができる。家禽用飼料の形状としては、例えば、粉末、ペレット状、フレーク状、ペースト状、液体などが挙げられるがこれに限定されない。

２．本発明の家禽卵および本発明の家禽卵の卵黄色の改善方法
　本発明の家禽用飼料で給与された家禽から生産された卵は、本発明に含まれる。本発明の家禽卵は、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を給与された家禽から生産される。卵黄色が改善された家禽卵の生産方法は、本発明に含まれる。
　本発明の家禽卵は、卵黄中にカプサンチンを１～２５ｐｐｍ含有し、かつ、アスタキサンチンを１～１５ｐｐｍ含有することを特徴とする。本発明の家禽卵の卵黄中に含まれるカプサンチンの含有量は、１～２５ｐｐｍの範囲内であれば特に限定されないが、例えば、１～２０ｐｐｍ、３～２０ｐｐｍなどであってもよい。また、本発明の家禽卵の卵黄中に含まれるアスタキサンチンの含有量は、１～１５ｐｐｍの範囲内であれば特に限定されないが、例えば、１～１０ｐｐｍ、２～１０ｐｐｍなどであってもよい。上述のとおり、カプサンチンおよびアスタキサンチンの含有量は、高速液体クロマトグラフィー法（ＨＰＬＣ法）により測定され、クロマトグラム中のカプサンチンまたはアスタキサンチンのピーク面積に基づいて定量することができる。
　また、本発明の家禽卵は、卵黄のカラーファン値が１２～１８の範囲にあることを特徴とする。本発明の家禽卵は、好ましくは１３～１８、１４～１８、１５～１８、１６～１８または１６超～１８の範囲のカラーファン値を有する。

　本発明において、家禽は、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、ホロホロチョウ、ハト、カモ、アヒル、ガチョウおよびチャボからなる群から選択することができる。本発明における家禽は、好ましくはニワトリまたはウズラであり、より好ましくはニワトリである。
　本発明において、ニワトリは、例えば、肉用鶏、採卵鶏が挙げられる。本発明におけるニワトリは、好ましくは採卵鶏である。

　本発明における家禽の飼育方法は特に限定されず、当業者であれば給水、室温、飼育環境は通常の家禽の飼育に適した条件を適宜設定することができる。本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料は、例えば、通常成体で与える飼料を給与可能となった時点以降の全期間使用してもよいし、幼体から継続して使用してもよいし、一定期間のみ使用して他の期間は別の飼料を使用してもよい。

　本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することは、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を家禽に給餌すること、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料の存在下で家禽を飼育すること、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を家禽に投与することなどを含むが、特に限定されない。本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することにより、家禽卵の卵黄色が改善する。

　本発明の家禽用飼料の給与期間は、特に限定するものではないが、４日間以上とすることができ、１０日間以上とすることがより好ましい。業者であれば、本発明の範囲で飼料、給与条件、飼育条件等を適宜検討することにより、本発明の家禽卵を取得することができる。

　鶏卵等の卵黄色は、カラーファン（ＣＦ）値による測定が、当分野において最も一般的な卵黄色の評価方法である。カラーファン（ＣＦ）値の測定には、JA全農たまご社の全農卵黄カラーチャート（Zen-Noh Yolk Colour Chart:CF）やロッシュ社のヨークカラーファン（Roche Yolk Color Fan: RYCF）が一般に用いられ、電子的に色調を判定する機器（例えばエッグマルチテスタEMT-7300（ＪＡ全農たまご社）等）による自動的測定によってカラーファン値を測定することも行われている。本発明において、カラーファン（ＣＦ）値は、エッグマルチテスタEMT-7300（ＪＡ全農たまご社）により測定された値を意味する。カラーファンの値は、１～１８の範囲である。本発明の家禽卵は、卵黄のカラーファン値が１２～１８であることを特徴とする。

　さらに、本発明においては、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を家禽に給与することにより、カプサンチンを含むがアスタキサンチンを含まない飼料を家禽に給与した場合に比較して、カプサンチン摂取量当たりの家禽卵の卵黄中のカプサンチン含有量が多いことが示された。すなわち、カプサンチンとアスタキサンチンを家禽に給与すると、アスタキサンチンを含まない飼料を給与された場合に比べて、カプサンチン摂取量当たりのカプサンチンの卵黄への移行が促進される。したがって、本発明は、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄へのカプサンチンの移行を促進する方法を含む。

　また、本発明においては、本発明の卵黄色改善剤または本発明の家禽用飼料を家禽に給与することにより、所定の卵黄色が、カプサンチンを含むがアスタキサンチンを含まない飼料を家禽に給与した場合のカプサンチンの量に比較して少ない量のカプサンチンで達成されることが示された。すなわち、カプサンチンとアスタキサンチンを家禽に投与すると、アスタキサンチンを含まない飼料を給与された場合に比べて、少ないカプサンチンの摂取量で、所定の卵黄色を示す家禽卵を得ることができる。本発明により、同等の卵黄色を示す家禽卵を得るのに必要なカプサンチンの量を、アスタキサンチンを一緒に家禽に給与することで、減らすことができる。

　以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に記載の態様のみに限定されるものではない。

［試験方法］
　表１に記載した基礎飼料に、アスタキサンチンとカプサンチンの両方を添加した配合飼料、アスタキサンチンを単独添加した配合飼料、カプサンチンを単独添加した配合飼料を家禽（供試鶏）に４週間給与した。
　供試鶏は、産卵率の分布がほぼ均等となるように１群を１０羽とした１２群に区分し、各区に１群ずつ割り付けた。基礎飼料を１４日間、１日１羽あたり１２０ｇずつ定量給与して予備飼育し、試験環境に馴致させたのち、各配合飼料を同様に４週間定量給与した。

　得られた家禽卵のカラーファン値をエッグマルチテスタで測定した。また、給与した家禽用配合飼料に含まれるアスタキサンチンとカプサンチン含有量をＨＰＬＣで測定した。さらに、給与量から平均食下量を算出した。また、平均産卵率を調査した。

［カロテノイド源］
　基礎飼料に添加するアスタキサンチンとして、パナファード（登録商標）Ｄ（ＥＮＥＯＳ株式会社、アスタキサンチン０．６０％含有）を用いた。
　基礎飼料に添加するカプサンチンとして、カラーアップ（コーキン化学株式会社、キサントフィル５ｇ品、カプサンチン０．３３％含有）、またはカプサンタルＣ（ＩＴＰＳＡジャパン株式会社、キサントフィル８ｇ品、カプサンチン０．５２％含有）を用いた。

［供試動物］
　供試動物として、産卵率が９７～１００％の白レグ種採卵鶏を供試した。供試鶏は、開放型鶏舎内に設置したヒナ壇式の採卵鶏用単飼ゲージで個体管理した。光線管理は明期１４時間、暗期１０時間とした。

［カラーファン値］
　カラーファン値は、エッグマルチテスタ（ＥＭＴ－７３００）（ＪＡ全農たまご社）により測定した。

［卵黄中および飼料中のアスタキサンチンおよびカプサンチンの定量］
　卵黄中および飼料中のアスタキサンチンおよびカプサンチンの定量は、ＷＯ２０１４／０５４６６９号に記載の方法に準じ、高速液体クロマトグラフィー（ＨＰＬＣ）にて以下のとおり行った。
　カラムはＷａｋｏｓｉｌ－II ＳＩＬ－１００（φ４．６×２５０ｎｍ、和光純薬）を２本連結して使用した。溶出は、移動相であるｎ－ヘキサン／テトラヒドロフラン／メタノール混合液（４０：２０：１）を室温付近一定温度にて毎分１．０ｍＬ流すことで行った。
　測定試料として飼料または卵黄を用いた。測定においては、試料をテトラヒドロフランで溶解し、移動相にて希釈した液２０μＬを注入量とし、カラム溶離液の検出は波長４７０ｎｍで行った。
　また、定量のための標準品としては、シグマ社製アスタキサンチン（Ａ９３３５）を用いた。標準液のアスタキサンチン濃度の設定は、標準液の４７７ｎｍの吸光度（Ａ）および上記条件でＨＰＬＣ分析を行ったときのアスタキサンチンピークの面積百分率％（Ｂ）を測定した後、以下の式を用いて行った。
　標準液のアスタキサンチン含有量（ｐｐｍ）＝Ａ÷２１５０×Ｂ×１００
　試料のアスタキサンチン含有量は以下の式を用いて求めた。
　試料のアスタキサンチン含有量（ｐｐｍ）＝｛（標準液のアスタキサンチン濃度）×（試料溶液のアスタキサンチンピーク面積）×希釈倍率｝／｛（標準液のアスタキサンチンピーク面積）×（試料採取量）｝
　カプサンチンの標準品は、ＥＸＴＲＡＳＹＮＴＨＥＳＥ社製Ｃａｐｓａｎｔｈｉｎ（CAS No：465-42-9、商品コード0312S）を用いる。カプサンチンは、アスタキサンチンの上記定量方法に準ずる方法で定量した。

［実施例１］　アスタキサンチンとカプサンチンの同時給与
　基礎飼料にアスタキサンチン源としてパナファードＤ、カプサンチン源としてカプサンタルＣを添加し、アスタキサンチンおよびカプサンチンの含有量別に４つの試験区を設定した。配合飼料中のアスタキサンチン含有量、カプサンチン含有量、各区の平均食下量および平均産卵率を表２に示す。なお、表中のアスタキサンチンおよびカプサンチン含有量は実測値である（以下同じ）。

［比較例１］　カプサンチン単独投与
　カプサンチン源として、カラーアップを添加した配合飼料を給与する４区を設定した。
　実際に製造された配合飼料中のアスタキサンチン含有量、カプサンチン含有量、各区の平均食下量および平均産卵率を表３に示す。

［比較例２］　アスタキサンチン単独投与
　アスタキサンチン源として、パナファードＤを添加した配合飼料を給与する４区を設定した。
　実際に製造された配合飼料中のアスタキサンチン含有量、カプサンチン含有量、各区の平均食下量および平均産卵率を表４に示す。

［結果１］カプサンチンの卵黄移行量
　実施例１、比較例１におけるカプサンチンの摂取量と、卵黄への移行量の関係を図１に示す。カプサンチンの摂取量は、配合飼料中のカプサンチン含有量と平均食下量から算出した。
　アスタキサンチンとカプサンチンを同時に給与することで（実施例１、図１中●）、カプサンチン単独給与（比較例１、図１中◆）の場合と比べ、カプサンチンの摂取量当たりの卵黄中のカプサンチンの含有量が、１．４～１．５倍も増加することが分かった。
　一方、アスタキサンチンの摂取量当たりの卵黄中のアスタキサンチンの含有量は、アスタキサンチンとカプサンチンを同時に給与した場合（実施例１）とアスタキサンチン単独給与（比較例２）との間に明確な差はなかった（表５）。

　この結果から、アスタキサンチンはカプサンチンと共に給与された場合に、カプサンチンの卵黄中への移行を高まることが初めて明らかになった。また、アスタキサンチンとカプサンチンを共に給与することにより、カプサンチン単独給与の場合よりも少ない量のカプサンチンで、所望の卵黄中のカプサンチンの含有量が達成できることが明らかになった。

［結果２］アスタキサンチンおよびカプサンチンの摂取量とカラーファン値の関係
　実施例１、比較例１および比較例２におけるアスタキサンチンおよびカプサンチンの合計摂取量と、カラーファン値の関係を図２に示す。アスタキサンチンの摂取量およびカプサンチンの摂取量は、それぞれ、配合飼料中のアスタキサンチンの含有量およびカプサンチン含有量と平均食下量から算出した。

　図２に示すとおり、アスタキサンとカプサンチンの同時給与（実施例１、図２中●）によって、アスタキサンチン単独給与（比較例２、図２中▲）、またはカプサンチン単独給与（比較例１、図２中◆）よりも、合計摂取量あたりのカラーファン値の高い卵が得られた。したがって、本発明の家禽用飼料は、卵黄色の改善効果が高いことが分かった。
　図２に示す近似曲線から、カラーファン値１２の場合、アスタキサンとカプサンチンの同時給与はカプサンチン単独給与と比較して一日当たりのカロテノイド摂取量を４６％減らすことが可能であると推測される（表６）。同様に、カラーファン値１７の場合は、カロテノイド摂取量を７４％も減らすことが可能であると推測される（表６）。

　本実施例により、アスタキサンチンとカプサンチンを家禽に給与することで、卵黄中におけるカプサンチン含有量を向上させることができた。これにより、少量のカプサンチンによって、従来と同等の色味または所望の色味を有する卵黄を得ることが可能となった。

　本発明により、カプサンチンおよびアスタキサンチンを含む、卵黄色改善剤が提供される。また、本発明の別の態様において、前記卵黄色改善剤を含む、家禽用飼料が提供される。
　本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することにより、家禽卵の卵黄色を改善することおよび卵黄色の改善された家禽卵を提供することができる。また、本発明の一態様において、本発明の卵黄色改善剤または家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色の改善された家禽卵の生産方法を提供することができる。
　本発明の別の態様において、本発明の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄へのカプサンチンの移行を促進する方法が提供される。本発明の家禽用飼料を家禽に給与した場合、カプサンチン単独給与の場合に比較して、カプサンチン摂取量当たりの家禽卵の卵黄中のカプサンチン含有量を増加させることができる。
　また、本発明の別の態様において、本発明の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法が提供される。本発明の家禽用飼料を家禽に給与した場合、カプサンチン単独給与の場合に比較して少ない量のカプサンチンで同等の卵黄色を示す家禽卵を生産することができ、カプサンチンの使用量を減らすことが可能となる。

Claims

　カプサンチンおよびアスタキサンチンを含む、卵黄色改善剤。
　前記アスタキサンチンがパラコッカス菌に由来する、請求項１に記載の卵黄色改善剤。
　請求項１または２に記載の卵黄色改善剤を含有し、前記カプサンチンおよび前記アスタキサンチンの合計含有量が、含有前の飼料に対して１～４０ｐｐｍである、家禽用飼料。
　請求項３に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法。
　請求項３に記載の家禽用飼料を給与された家禽から得られる家禽卵であって、家禽卵の卵黄中にカプサンチンを１～２５ｐｐｍ含み、かつアスタキサンチンを１～１５ｐｐｍ含む、家禽卵。
　請求項３に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、家禽卵の卵黄へのカプサンチンの移行を促進する方法であって、
　カプサンチン摂取量当たりの家禽卵の卵黄中のカプサンチン含有量が、カプサンチンを含むがアスタキサンチンを含まない飼料を家禽に給与した場合に比較して増加する、方法。
　請求項３に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色改善方法であって、所定の卵黄色が、カプサンチンを含むがアスタキサンチンを含まない飼料を家禽に給与した場合のカプサンチンの量に比較して少ない量のカプサンチンで達成される、方法。
　請求項３に記載の家禽用飼料を家禽に給与することを含む、卵黄色の改善された家禽卵の生産方法。