WO2020225846A1 - 連続鋳造用金型及び連続鋳造用金型の製造方法 - Google Patents
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Abstract
本開示の課題は、耐熱性及び耐食性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れた連続鋳造用金型を提供することである。連続鋳造用金型(1)は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼(41)を通過させる流路(21)を有する金型基体(2)と、ニッケル基合金を含み、金型基体(2)を覆う被覆層(3)とを備える。被覆層(3)は、流路(21)の内面(24)の少なくとも一部を覆う。被覆層(3)は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、金型基体(2)にニッケル基合金を積み重ねて作製されている。
Description
本開示は、連続鋳造用金型及び連続鋳造用金型の製造方法に関し、詳しくは、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含む金型基体を備える連続鋳造用金型、及びこの連続鋳造用金型の製造方法に関する。
鋳造品を連続鋳造により製造するために用いられる連続鋳造用金型は、鋳造時に溶鋼を速やかに冷却できるように、熱伝導性の高い銅又は銅合金から作製されることが多い。
銅及び銅合金は、連続鋳造用金型の材料としては、耐熱性及び耐食性が低く、かつ硬度が低いことから耐摩耗性にも劣る。そのため、連続鋳造用金型の表面を保護することが行われている。
例えば特許文献1には、金型本体の内側表面に、ニッケル基自溶合金の金属マトリックスと耐摩耗性硬質セラミックスとからなる微粉末を用いて、溶射皮膜を形成することが、開示されている。
しかし、溶射により作製された皮膜と金型本体との間の密着性は低くなりやすく、そのため特許文献1に記載の技術では鋳造用金型の耐摩耗性を十分に高められないことがある。
本開示の課題は、耐熱性及び耐食性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れた連続鋳造用金型、及びこの連続鋳造用金型の製造方法を提供することである。
本開示の一態様に係る連続鋳造用金型は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼を通過させる流路を有する金型基体と、ニッケル基合金を含み、前記金型基体を覆う被覆層とを備える。前記被覆層は、前記流路の内面の少なくとも一部を覆う。前記被覆層は、前記金型基体上でニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することで前記ニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、前記ニッケル基合金を積み重ねて作製されている。
本開示の一態様に係る連続鋳造用金型の製造方法は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼を通過させる流路を有する金型基体と、ニッケル基合金を含み、前記金型基体を覆う被覆層とを備え、前記被覆層は、前記流路の内面の少なくとも一部を覆う連続鋳造用金型の製造方法である。本方法では、前記金型基体上で、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することで前記ニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、ニッケル基合金を積み重ねることにより、前記被覆層を作製する。
1.本開示の概要
まず、発明者の考察に基づく本開示の背景について説明する。
まず、発明者の考察に基づく本開示の背景について説明する。
連続鋳造用金型1には、溶鋼41が流し込まれ、この連続鋳造用金型1内を溶鋼41が連続的に移動しながら、連続鋳造用金型1が冷却水で冷却される(図1参照)。これにより溶鋼41が連続鋳造用金型1内で凝固して鋳造品42が鋳造され、鋳造品42が連続鋳造用金型1から連続的に取り出される。
連続鋳造用金型1の特に溶鋼41の液面43と接する部分には、高い耐熱性と耐食性が求められる。さらに、この液面43に接する部分は、冷却水と溶鋼41との温度差に起因して強い熱応力を受けるため、クラックが発生しやすい。また、溶鋼41が凝固しながら連続鋳造用金型1内を移動する際は、連続鋳造用金型1の内面24が、この内面24に添加されるモールドパウダーに含まれるガラス質のセラミックパウダーに擦られることで摩耗することがある。また、溶鋼41が凝固すると体積収縮による密度上昇によって重量が増大するため、溶鋼41が凝固しながら移動すると重量増大に伴って連続鋳造用金型1の内面24が強く擦られやすく、このことによっても連続鋳造用金型1の内面24が摩耗することがある。さらに、溶鋼41に含まれる硫黄化合物による連続鋳造用金型1の化学的腐食、並びに連続鋳造用金型1から取り出された鋳造品42に冷却用の水を吹き付ける際に生じる水蒸気による連続鋳造用金型1の腐食に対しても、対策が必要である。
このため、熱負荷による熱衝撃、擦られることによる摩耗、腐食などに対して、耐性を有する連続鋳造用金型1が必要である。さらに、連続鋳造技術の進展とともに、異鋼種を連続鋳造すること、及び効率を重視した高速鋳造が望まれるため、連続鋳造用金型1には、より大きな熱負荷、摩耗及び腐食に耐え得ることが望まれる。
連続鋳造用金型1の金型基体2は、熱伝導性に優れることで冷却しやすい銅又は銅合金から作製されることが多いが、銅及び銅合金では上述のような耐性を十分に発揮し得ない。
そこで、発明者は、銅又は銅合金から作製された金型基体2を備える連続鋳造用金型1に、熱衝撃、摩耗、及び腐食に対する耐性を付与すべく、研究開発を進めた結果、本開示の完成に至った。
本開示に係る連続鋳造用金型1(以下、単に金型1ということがある)は、金型基体2(以下、単に基体2ともいう)と、基体2を覆う被覆層3とを備える。基体2は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含む。基体2は、溶鋼41を通過させる流路21を有する。被覆層3は、ニッケル基合金を含む。被覆層3は、流路21の内面24の少なくとも一部を覆う。被覆層3は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、基体2にニッケル基合金を積み重ねることにより作製されている。
本開示によると、被覆層3中のニッケル基合金によって、金型1に熱衝撃、摩耗、及び腐食に対する耐性を付与できる。さらに、被覆層3を作製する際、ニッケル基合金粉末を溶融させるためにレーザ光を利用すると、ニッケル基合金粉末を効率良く溶融させることができる。このため、ニッケル基合金粉末を十分に溶融させてから固化させることが容易である。そのため、被覆層3と基体2との界面、及び被覆層3内に、欠陥が生じにくくなる。このため、被覆層3の剥離及び破損による耐摩耗性の低下が起こりにくくなる。
このため、本開示によると、耐摩耗性が高められた金型1が得られる。
以下、本開示の具体的な実施形態について説明する。
2.第一実施形態
第一実施形態では、金型1は、例えば図1に示す構造を有する。この金型1は、溶鋼41が通過しうる流路21を有する。流路21は、例えば金型1を上下に貫通し、金型1の上面には流路21に通じる注入口22があり、金型1の下面には流路21に通じる導出口23がある。なお、ここでいう上及び下は、金型1を使用する場合の金型1の姿勢を基準にする。鋳造品42を連続鋳造成形で製造する際は、金型1が冷却水などによって冷却された状態で、タンディッシュなどから金型1の注入口22を通じて流路21内に溶鋼41が供給される。溶鋼41は流路21内を下方へ移動することで金型1の流路21の内面24で精密に成形され、かつ金型1によって冷却されることで溶鋼41の凝固が進行する。このとき、まず溶鋼41における流路21の内面24に接する部分で微細な結晶からなる薄い凝固殻が形成され、続いて結晶がつながりあって大きな樹枝状晶が成長する。これにより溶鋼41の凝固が進行し、金型1内で鋳造品42が作製される。鋳造品42は導出口23を通って金型1の外へ取り出される。鋳造品42は、金型1の外へ取り出された時点では完全には凝固しきっていない半製品であってもよい。金型1から取り出された鋳造品42には、必要により延伸加工処理などの加工処理が施される。
第一実施形態では、金型1は、例えば図1に示す構造を有する。この金型1は、溶鋼41が通過しうる流路21を有する。流路21は、例えば金型1を上下に貫通し、金型1の上面には流路21に通じる注入口22があり、金型1の下面には流路21に通じる導出口23がある。なお、ここでいう上及び下は、金型1を使用する場合の金型1の姿勢を基準にする。鋳造品42を連続鋳造成形で製造する際は、金型1が冷却水などによって冷却された状態で、タンディッシュなどから金型1の注入口22を通じて流路21内に溶鋼41が供給される。溶鋼41は流路21内を下方へ移動することで金型1の流路21の内面24で精密に成形され、かつ金型1によって冷却されることで溶鋼41の凝固が進行する。このとき、まず溶鋼41における流路21の内面24に接する部分で微細な結晶からなる薄い凝固殻が形成され、続いて結晶がつながりあって大きな樹枝状晶が成長する。これにより溶鋼41の凝固が進行し、金型1内で鋳造品42が作製される。鋳造品42は導出口23を通って金型1の外へ取り出される。鋳造品42は、金型1の外へ取り出された時点では完全には凝固しきっていない半製品であってもよい。金型1から取り出された鋳造品42には、必要により延伸加工処理などの加工処理が施される。
金型1は、基体2と、基体2を覆う被覆層3とを備える。本実施形態における基体2は、少なくとも、金型1における流路21を有する部分を構成する。すなわち、基体2が上記の流路21、注入口22及び導出口23を有する。なお、基体2が、被覆層3を除く金型1全体を構成してもよい。本実施形態では、基体2全体が、銅又は銅合金から作製されている。銅合金の組成に特に制限はない。銅合金は、例えばクロム・ジルコニウム添加析出硬化型金型用銅材(好ましくはCr含有率0.5重量%以上1.5重量%以下、Zr含有率0.08重量%以上0.30重量%以下)、又は電磁攪拌用クロム・ジルコニウム・アルミニウム添加金型用銅材(好ましくはCr含有率0.50重量%以上1.50重量%以下、Zr含有率0.08重量%以上0.30重量%以下、Al含有率0.7重量%以上1.1重量%以下)等である。
被覆層3は、流路21の内面24の少なくとも一部を覆っている。被覆層3は流路21の内面24全体を覆っていてもよい。被覆層3が流路21の内面24の一部を覆う場合は、例えば、流路21の注入口22側の部分(すなわち上部)における、溶鋼41が流路21に供給された際に溶鋼41の液面43が接する部分が、被覆層3で覆われていることが好ましい。流路21の導出口23側の部分(すなわち下部)が、被覆層3で覆われていることも好ましい。
本実施形態では、被覆層3は、銅又は銅合金から作製された基体2を直接覆っている。被覆層3は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、基材2にニッケル基合金を積み重ねることにより、作製することができる。このようにして金属を積み重ねる手法を、レーザメタルデポジッション(LMD)という。
本実施形態における被覆層3を作製する方法について説明する。
被覆層3を作製するに当たり、基体2に向けてニッケル基合金粉末を噴射しながらニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することが好ましい。具体的には、基体2の表面の、被覆層3を形成すべき部分(すなわち、流路21の内面24)に、ニッケル基合金粉末を噴射し、かつこのニッケル基合金粉末にレーザ光を照射する。そのためには、例えばレーザ発振器を備えるノズルを用い、ノズルからニッケル基合金粉末を噴射しながら、ニッケル基合金粉末が噴射された位置に向けてレーザ発振器からレーザ光を照射する。このようにニッケル基合金粉末の噴射とレーザ光の照射とを行いながら、基体2上におけるニッケル基合金粉末の噴射及びレーザ光の照射がされる位置を移動させる。これにより、基体2上にニッケル基合金を積み重ねることができる。これにより、ニッケル基合金を含む被覆層3を作製できる。
被覆層3は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させて作製された複数の重畳層31を含み、これらの重畳層31が積層していてもよい。このような被覆層3を作製するに当たり、例えば基体2上でニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることを、複数回繰り返すことで、ニッケル基合金を複数回積み重ねてもよい。すなわち、基体2の上にニッケル基合金を積み重ねたら、このニッケル基合金の上で前記と同じ方法でニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、ニッケル基合金を更に積み重ねてもよい。
被覆層3がニッケル基合金本来の特性を発揮するためには、被覆層3内に空孔などの欠陥が無く、被覆層3がニッケル基合金本来の密度を有していることが好ましい。被覆層3に欠陥を生じにくくするためには、被覆層3を作製する際、被覆層3の材料であるニッケル基合金粉末を完全に溶融させてから固化させることが好ましい。
本実施形態のようにニッケル基合金粉末にレーザ光を照射して溶融させると、熱伝導性の良い銅又は銅合金を含む基体2上でニッケル基合金粉末を溶融させる場合であっても、ニッケル基合金粉末へのエネルギーの供給量、ニッケル基合金粉末の溶融熱量、及び熱拡散量を制御することが容易である。そのため、ニッケル基合金粉末を完全に溶融させることが容易である。
レーザ光のエネルギーを、ニッケル基合金粉末を溶融させるために効率的に利用するためには、ニッケル基合金粉末が溶融することで形成される溶融プールのサイズと温度が適切になるように、レーザ光の出力を制御することが好ましい。
なお、金属を積み重ねる手法には、金属粉末ではなく、溶接棒、合金板などを使用する方法もある。しかし、これらの方法では、溶接棒や合金板を加熱すると、熱が溶接棒内や合金板内を伝導することで、金属の溶解に利用されずに拡散する熱エネルギーが多くなる。そのため、金属の溶融量の制御が困難になり、かつ金属を溶融させるために過大なエネルギーが必要となる。さらに、基体2に過大な熱が伝達されることで、大きな熱ひずみが生じてしまうことがある。これに対し、本実施形態のようにレーザ光から供給されるエネルギーでニッケル基合金粉末を溶融させると、レーザ光のエネルギーをニッケル基合金粉末を溶融させるために効率良く利用することができる。このため、過大なエネルギーを必要とせず、かつ基体2に大きな熱ひずみを生じさせにくい。
レーザ光の波長は、例えば900nm以上1200nm以下である。この場合、ニッケル基合金粉末は前記の波長域の光を吸収しやすいため、レーザ光のエネルギーをニッケル基合金粉末に効率良く吸収させることができる。このため、レーザメタルデポジションを容易に実施できる。
ニッケル基合金を積み重ねて被覆層3を作製するに当たり、基体2を加熱して、基体2の温度を100℃以上400℃以下に保っておくことが好ましい。この場合、レーザ光のエネルギーが熱伝導によって基体2に更に散逸しにくくなる。そのため、レーザ光の出力制御を容易にでき、被覆層3への基体2由来の金属の固溶量が過大になりにくくでき、被覆層3と基体2との密着性を向上でき、かつ被覆層3がニッケル基合金の本来の特性を発揮しやすい。この温度が400℃以下であると、熱による基体2の強度低下を生じにくくして、金型1の機能を維持しやすくできる。また、この温度が100℃未満であると、エネルギーの散逸防止に効果は認められるが、出力制御の容易さはそれほど向上しない。
なお、銅及び銅合金は、前記の波長域の光を吸収しにくいため、レーザ光で基体2を加熱することは難しい。銅及び銅合金が吸収しやすい波長のレーザ光を発する青色半導体レーザ発振器や高調波レーザ発振器が開発中であるが、現状、レーザメタルデポジションに利用できるような十分な出力は得られていない。そのため、レーザメタルデポジションにあたって、基体2を加熱する場合は、レーザ光の照射以外の方法で加熱する必要がある。ただし、将来、レーザ発振器の高出力化が可能となれば、基体2をレーザ光の照射以外の方法で加熱する必要性は薄れ、かつレーザ光の出力制御がより容易になると予想される。
本実施形態におけるレーザメタルデポジションは、不活性ガス雰囲気中で行われることが好ましい。そのためには、ノズルからニッケル基合金粉末と共にアルゴンガスなどの不活性ガスを噴射することが好ましい。この場合、ニッケル基合金を酸化させにくくすることで、被覆層3に欠陥を生じにくくできる。。
基体2の上にニッケル基合金を積み重ねるに当たっては、基体2由来の金属をニッケル基合金に固溶させることが好ましい。すなわち、被覆層3に基体2由来の金属が固溶していることが好ましい。そのためには、ニッケル基合金粉末をレーザ光により溶融させて形成された溶融プールに、基体2の表層部分に由来する金属を溶解させることが好ましい。これにより、被覆層3に基体2由来の金属を固溶させることができる。この場合、被覆層3と基体2との界面に欠陥が更に生じにくくなることで、被覆層3と基体2との密着性を高めることができ、被覆層3が擦られたり、被覆層3が熱負荷による過酷な熱衝撃を受けたりしても、被覆層3が基体2から剥離しにくくなる。これにより、金型1の耐摩耗性が更に高まり、かつ金型1が熱により損傷しにくくなる。このような被覆層3への基体2由来の金属の固溶は、ニッケル基合金粉末が溶融して形成される溶融プールのサイズと温度とを管理しながら、レーザ光の出力を制御することで、実現できる。また、レーザ光の出力を制御することで、被覆層3への基体2由来の金属の固溶量が多くなりすぎないように制御することも容易である。これにより、被覆層3全体に対する、被覆層3に固溶している基体2由来の金属の量を、例えば10重量%以下にできる。
ニッケル基合金を複数回積み重ねて複数の重畳層31を順次作製する場合には、先に作製された重畳層31(以下、下側の重畳層31ともいう)に更にニッケル基合金を積み重ねて別の重畳層31(以下、上側の重畳層31ともいう)を作製するに当たり、下側の重畳層31を構成する金属の一部を上側の重畳層31に固溶させることが好ましい。すなわち、上側の重畳層31には、下側の重畳層31由来の金属が固溶していることが好ましい。その場合、被覆層3内に欠陥が生じにくくなることで、熱負荷による過酷な熱衝撃を受けても被覆層3が破損しにくくなる。このような上側の重畳層31への下側の重畳層31由来の金属の固溶は、ニッケル基合金粉末が溶融して形成される溶融プールのサイズと温度とを管理しながら、レーザ光の出力を制御することで、実現できる。また、レーザ光の出力を制御することで、新規ニッケル基合金への下地ニッケル基合金の固溶量が多くなりすぎないように制御することも容易である。これにより、上側の重畳層31中の、下側の重畳層31由来の金属の固溶量を、例えば10重量%以下にできる。
なお、上記における「下側」は基体2により近いことを、「上側」は基体2により遠いことを意味し、実際の上下位置とは関係ない。
ニッケル基合金を複数回積み重ねて複数の重畳層31を順次積み重ねるに当たり、上記のように基体2由来の金属を基体2に接する重畳層31に固溶させ、かつ下側の重畳層31由来の金属を上側の重畳層31に固溶させると、下側の重畳層31に含まれる基体2由来の金属が上側の重畳層31に固溶するため、基体2由来の金属が被覆層3中に拡散する。ただし、重畳層31を積み重ねるごとに、重畳層31に固溶する基体2由来の金属の量は少なくなる。そのため、被覆層3中の基体2由来の金属の濃度が、被覆層3の厚み方向に沿って、基体2から離れるほど低くなるという基体2由来の金属の濃度分布が、実現できる。特に、上記のように新規ニッケル基合金中の、下地ニッケル基合金の固溶量が、10重量%以下であれば、被覆層3の表層における基体2由来の金属の濃度を十分に低くできる。特に重畳層31の数が3つ以上であると、被覆層3の表層における基体2由来の金属の濃度を非常に低くし、実質的にゼロに近づけることができる。これにより、被覆層3が、ニッケル基合金本来の性能を発揮しやすくなる。例えば本実施形態では、基体2全体が銅又は銅合金から作製され、被覆層3は基体2に直接接するように作製されるため、被覆層3に固溶する基体2由来の金属には、銅が含まれる。銅の融点はニッケル基合金粉末の融点より300℃以上低いため、銅は被覆層3の耐熱性を低下させる。しかし、本実施形態では、上記により、被覆層3の表層における銅の濃度を十分に低くできるため、被覆層3の耐熱性は低下しにくい。
被覆層3の作製に当たり、ニッケル基合金を、0.1mm以上3mm以下の厚みで積み重ねることが好ましい。ニッケル基合金を複数回積み重ねて複数の重畳層31を順次積み重ねる場合は、複数の重畳層31の各々の厚みが0.1mm以上3mm以下であることが好ましい。この場合、ニッケル基合金粉末を利用して複数の重畳層31を効率良く積み重ねることができる。さらに、重畳層31に基体2由来の金属を固溶させやすくなり、かつ上側の重畳層31に下側の重畳層31由来の金属を固溶させやすくなる。特に、厚みが0.1mm以上であると、ニッケル基合金を積み重ねるためのニッケル基合金粉末の粒径を過度に小さくする必要がなくなり、ニッケル基合金粉末の飛散による作業環境の悪化及び収率の低下が起こりにくくなる。また、厚みが3mm以下であると、溶融プールのサイズを過度に大きくする必要が無く、それに伴い必要とされるレーザ光のエネルギーが過大になりにくい。そのため、溶融プールのサイズ及び温度などを調整するためのレーザ光の出力の制御が容易になり、このため金属の固溶量を制御しやすく、例えば固溶量の増大を招きくい。また、レーザ光の出力を制御しやすいことから、エネルギーの不足も生じにくくなり、そのため基体2と被覆層3との界面や被覆層3内に欠陥を生じにくくできる。
被覆層3の厚みは0.1mm以上10mm以下であることが好ましい。0.1mm未満の厚みの被覆層3を形成することは困難である。また、被覆層3では解決しにくい範囲の金型1の耐久性の限界を考慮すると、10mmを超える厚みの必要性は低い。重畳層31が2つ以上である場合には、被覆層3の厚みは0.2mm以上10mm以下であることが好ましい。重畳層31が3つ以上である場合には、被覆層3の厚みは0.3mm以上10mm以下であることが好ましい。
本実施形態で使用されるニッケル基合金粉末の粒径は、溶融プールを形成するために必要なレーザ光のエネルギー及び複数の重畳層31を積み重ねる場合の重畳層31の厚みに影響する。ニッケル基合金粉末の平均粒径は、20μm以上150μm以下であることが好ましい。この平均粒径が150μm以下であると、各重畳層31の厚みが過大になりにくい。また、溶融プールのサイズ及び温度などを調整するためのレーザ光の出力の制御が容易になり、このため金属の固溶量を制御しやすく、例えば固溶量の増大を招きくい。また、レーザ光の出力を制御しやすいことから、エネルギーの不足も生じにくくなり、そのため基体2と被覆層3との界面や被覆層3内に欠陥を生じにくくできる。平均粒径が20μm以上であると、ニッケル基合金粉末の飛散による作業環境の悪化及び収率の低下が起こりにくくなる。
ニッケル基合金粉末は、Niと、Co、Cr、Mo、W、Al、Ti、Nb、Ta、Y、Cu、Fe及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の金属との合金を含むことが好ましい。この場合、被覆層3は、特に高い耐熱性、耐摩耗性及び耐食性を有しうる。
ニッケル基合金粉末は、Niを30重量%以上93重量%以下の濃度で含むことが好ましい。ニッケル基合金粉末がCoを含む場合、ニッケル基合金粉末中のCoの濃度は1重量%以上であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がCrを含む場合、ニッケル基合金粉末中のCrの濃度は8重量%以上であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がMoを含む場合、ニッケル基合金粉末中のMoの濃度は1重量%以上であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がWを含む場合、ニッケル基合金粉末中のWの濃度は0.5重量%以上であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がAlを含む場合、ニッケル基合金粉末中のAlの濃度は0.2重量%以上であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がTiを含む場合、ニッケル基合金粉末中のTiの濃度は0.4重量%以上6重量%以下であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がNbを含む場合、ニッケル基合金粉末中のNbの濃度は0.4重量%以上6重量%以下であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がTaを含む場合、ニッケル基合金粉末中のTaの濃度は0.1重量%以上4重量%以下であることが好ましい。ニッケル基合金粉末がYを含む場合、ニッケル基合金粉末中のYの濃度は0.1重量%以上であることが好ましい。ニッケル基合金粉末は、前記以外の金属を含んでもよく、不可避的な不純物を含んでいてもよい。
特にニッケル基合金粉末は、ハステロイC(53Ni19Mo17Cr)、ハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)、インコネル(80Ni13Cr)、モネル(65Ni31Cu4(Fe+Mn))、NiCoCrAlY(47.9Ni23Co20Cr8.5Al0.6Y)、NiCr(80Ni20Cr)、及びワスパロイ(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)からなる群から選択される少なくとも一種の合金を含むことが好ましい。
被覆層3の表面の、JIS B0601-2001で規定される最大高さRzは、10μm以下であることが好ましい。この場合、被覆層3の摩耗を生じにくくできる。被覆層3の厚みが大きくなると、被覆層3の最大高さRzが大きくなることがあるので、必要により被覆層3の表面を研磨することで、最大高さRzが10μm以下であることを実現することが好ましい。
3.第二実施形態
本開示の第二実施形態について説明する。なお、下記において特に明記する事項を除き、本実施形態は、第一実施形態と同じ構成を有することができる。
本開示の第二実施形態について説明する。なお、下記において特に明記する事項を除き、本実施形態は、第一実施形態と同じ構成を有することができる。
第二実施形態では、第一実施形態において、図3に示すように、基体2は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方から作製された基部25と、基部25を覆う、ニッケルとコバルトとを含む合金層26とを備える。被覆層3は合金層26を覆っている。すなわち、被覆層3は、合金層26上でニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで作製される。合金層26は、電気めっき法で作製されることが好ましい。
合金層26は、ニッケルを7重量%以上の割合で含むことが好ましい。この場合、合金層26は優れた耐クラック性及び耐食性を有しやすい。合金層26は、ニッケルを100重量%の割合で含んでも良い。この場合、合金層26は特に優れた耐クラック性、耐食性及び強度を有しやすい。合金層26がニッケルを75重量%以下の割合で含むことも好ましい。この場合、合金層26は熱負荷に対する特に高い耐性を有することができ、熱負荷による強度低下などの不具合が生じにくい。なお、金型1にかかる熱負荷の大きさによっては、合金層26がニッケルを75重量%を超える割合で含んでもよい。また、合金層26は、コバルトを93重量%以下25重量%以上の割合で含有することが好ましい。コバルトは、合金層26からニッケルを除いた残部であってもよい。また、合金層26は、合金層26を作製するプロセスなどで混入する、ニッケルとコバルト以外の不可避的不純物を含有してもよい。
被覆層3は、合金層26上に、第一実施形態の場合と同じ方法で作製できる。
本実施形態では、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射して溶融させるにあたり、銅及び銅合金よりも熱伝導率が低いコバルト及びニッケルを含む合金層26の上でニッケル基合金粉末を溶融させるため、熱が基体2に拡散しにくい。さらに、本実施形態でも、第一実施形態と同様、レーザ光の波長は、例えば900nm以上1200nm以下であるが、波長域の光の吸収率は、ニッケルが銅の約3倍であるため、合金層26はレーザ光によって加熱されやすい。合金層26が加熱されると、ニッケル合金粉末及びこれが溶融して形成される溶融プールから熱が合金層26へ拡散しにくくなる。このため、本実施形態では、ニッケル基合金粉末へのエネルギーの供給量、ニッケル基合金粉末の溶融熱量、及び熱拡散量を制御することが、更に容易である。そのため、ニッケル基合金粉末を完全に溶融させることが容易である。
また、本実施形態では、合金層26があることで、レーザ光のエネルギーをニッケル基合金粉末を溶融させるために効率良く利用できるため、レーザ光から基体2に与えられるエネルギーを減らしやすい。そのため、レーザ光の照射による基体2の熱ひずみを緩和させやすい。
被覆層3を作製するために基体2の上にニッケル基合金を積み重ねるに当たっては、第一実施形態と同様、基体2由来の金属をニッケル基合金に固溶させることが好ましい。この場合、第一実施形態と同様、被覆層3と基体2との界面及び被覆層3内に欠陥が更に生じにくくなる。
本実施形態では、基体2における合金層26の上にニッケル基合金を積み重ねるため、被覆層3には合金層26由来のニッケル及びコバルトが固溶し、基部25に含まれる銅又は銅合金は被覆層3に固溶しにくい。すなわち、合金層26は、基部25を保護して、基部25に含まれる銅又は銅合金を被覆層3に固溶しにくくできる。このため、銅又は銅合金による被覆層3の耐熱性の低下が起こりにくい。また、ニッケルはニッケル基合金に含まれている金属であり、コバルトもニッケル基合金に含まれうるため、被覆層3に合金層26由来のニッケル及びコバルトが固溶しても、被覆層3の組成に大きな変動が生じにくい。このため、基体2由来の金属が固溶しても被覆層3の機能が損なわれにくい。
さらに、被覆層3を作製するに当たり、ニッケル基合金を複数回積み重ねて複数の重畳層31を順次積みかねる場合には、第一実施形態と同様、下側の重畳層31由来の金属を上側の重畳層31に固溶させることが好ましい。本実施形態でも、上側の重畳層31中の、下側の重畳層31由来の金属の固溶量を、例えば10重量%以下にできる。また、本実施形態でも、第一実施形態と同様、被覆層3中の基体2由来の金属の濃度が、被覆層3の厚み方向に沿って、基体2から離れるほど低くなるという基体2由来の金属の濃度分布が、実現できる。このため、被覆層3の表層における基体2由来の金属の濃度を非常に低くし、実質的にゼロに近づけることができる。すなわち、被覆層3の表層の組成を、ニッケル基合金粉末の組成と同じ又はこれに近くなるようにできる。これにより、被覆層3が、ニッケル基合金本来の性能を発揮しやすくなる。
合金層26の厚みは、30μm以上500μm以下であることが好ましい。厚みが30μm以上であると、合金層26上でニッケル基合金粉末がレーザ光の照射を受けて溶融プールが形成された際に、合金層26が溶融プールに溶解して消失してしまうような事態が起こりにくい。また、そのため、合金層26は、基部25中の銅又は銅合金を被覆層3に固溶しにくくできる。さらに、合金層26によって基部25の熱ひずみを特に緩和しやすくできる。また、厚みが500μmを超えてもよいが、500μmを超えても、熱ひずみの更なる緩和作用は得られにくい。
4.第三実施形態
以下、本開示の第三実施形態について説明する。本実施形態は、合金層26の細部の構成及びそれに由来する作用を除き、第二実施形態と同じ構成を有することができ、第二実施形態と同様の作用を奏することができる。
以下、本開示の第三実施形態について説明する。本実施形態は、合金層26の細部の構成及びそれに由来する作用を除き、第二実施形態と同じ構成を有することができ、第二実施形態と同様の作用を奏することができる。
本実施形態では、第二実施形態の場合と同様、図3に示すように、基体2は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方から作製された基部25と、基部25を覆う、ニッケルとコバルトとを含む合金層26とを備える。更に、本実施形態では、合金層26が、ニッケルとコバルトとを含む六方晶系の結晶を含む複数の六方晶層と、ニッケルとコバルトとを含む面心立方晶系の結晶を含む複数の面心立方晶層とを含む。合金層26において、六方晶層と面心立方晶層とは交互に積層している。
このように、合金層26が、六方晶系と面心立方晶系という互いに異なる結晶系を有する層が交互に積層した構造を有すると、合金層26が均質な非晶質の層である場合と比べて、化学的な安定性が向上する。そのため、金型1の耐食性が更に向上しうる。また、六方晶層と面心立方晶層とは、いずれもニッケルとコバルトとを含むため、両者の間に高い密着性が得られやすい。それでいて、合金層26は高い強度を有しやすい。さらに合金層26は柔軟性を有しやすく、合金層26の破断伸びは、非晶質の層と比べて5倍以上向上しうる。このため、合金層26が破損しにくくなる。さらに、合金層26が複数の六方晶層と複数面心立方晶層とに分割されていることから、六方晶層と面心立方晶層との各々の厚みは小さくなり、そのため、六方晶層と面心立方晶層との各々に含まれる結晶子のサイズが小さくなりやすい。これにより、合金層26の硬さが高くなりやすく、例えば合金層26のマイクロビッカース硬さは非晶質の層のマイクロビッカース硬さの約130%にもなりうる。
六方晶層と面心立方晶層との各々の厚みは、0.1μm以上50μm以下であることが好ましい。この場合、六方晶層と面心立方晶層との各々で小さな結晶子が形成されやすくなり、かつ六方晶層と面心立方晶層との各々の結晶性が高くなりやすい。また、厚みが0.1μm以上であると、六方晶層と面心立方晶層とが安定して形成されやすい。さらに、厚みが50μm以下であると、合金層26内の六方晶層と面心立方晶層との各々の数を増やしやすく、そのため合金層26の強度を高めやすい。
六方晶層の合金組成は、六方晶層が六方晶系の結晶を含み得るように、適宜設定される。六方晶層のニッケル含有率が10重量%以上20重量%以下であり、かつ六方晶層のニッケルを除く残部がコバルト及び不可避的な不純物であることが、好ましい。ニッケル含有率が20重量%以下であると、六方晶層は、特に六方晶系の結晶を含みやすくなる。さらに、ニッケル含有率が10重量%以上であると、合金層26が特に脆くなりにくい。また、面心立方晶層のニッケル含有率が21重量%以上60重量%以下であり、かつ面心立方晶層のニッケルを除く残部がコバルト及び不可避的な不純物であることが、好ましい。ニッケル含有率が21重量%以上であると、面心立方晶は、特に面心立方晶系の結晶を含みやすくなる。さらに、ニッケル含有率が60重量%以下であると、面心立方晶層と六法晶層との間の組成の差異が大きくなりすぎないため、合金層26が更に良好な伸び特性を有しやすくなり、金型1の耐熱衝撃性が更に高まりやすい。
合金層26は、例えば次の方法で作製される。
電気めっき法により、基部25の表面上に、複数の第一めっき層と複数の第二めっき層とを、交互に積層させて形成する。第一めっき層と第二めっき層との各々はニッケルとコバルトとを含有し、かつ第一めっき層の組成と第二めっき層の組成とは互いに異なる。第一めっき層は結晶化することで六方晶系の結晶が生成しやすい組成を有し、例えば第一めっき層のニッケル含有率は10重量%以上20重量%以下であり、かつ第一めっき層のニッケルを除く残部はコバルト及び不可避的な不純物である。第二めっき層は結晶化することで面心立方晶系の結晶が生成しやすい組成を有し、例えば第二めっき層のニッケル含有率は21重量%以上60重量%以下であり、かつ第二めっき層のニッケルを除く残部がコバルト及び不可避的な不純物である。
第一めっき層と第二めっき層とを交互に作製するためには、例えばめっき浴中のニッケルイオンとコバルトイオンとの比率を順次変更する。また、ニッケルイオンとコバルトイオンとを含有するめっき浴をエア攪拌しながら電気めっき法でめっき層を作製し、かつめっき浴へのエア吹き込み量を経時的に変動させることで、めっき層中に含まれるニッケルとコバルトとの含有率を変動させることもできる。
続いて、第一めっき層及び第二めっき層に加熱処理を施すことで、第一めっき層及び第二めっき層の各々の結晶化を進行させる。これにより、第一めっき層内で六方晶系の結晶を生成させることで、第一めっき層から六方晶層を作製し、かつ第二めっき層内で面心立方晶系の結晶を生成させることで第二めっき層から面心立方晶層を作製する。加熱処理に当たっての加熱温度は200℃以上500℃以下であることが好ましい。加熱温度が200℃以上であれば結晶化を効率良く進行させることができる。また加熱温度が500℃以下であれば基部25の熱による変形を生じにくくできる。また、加熱処理に当たっての加熱時間は10分以上480分以下であることが好ましい。
以上に説明した本開示の各実施形態に係る連続鋳造用金型1は、溶鋼41からの製鋼用金型として、優れた耐熱性、耐性、耐摩耗性を有する。また、この連続鋳造用金型1の高温における長寿命性や高い精度維持性は、高温や腐食性環境における高品質の成形品製造用途にも活用できる。
以下、本開示の具体的な実施例を提示する。なお、本開示は以下の実施例のみに制限されるものではない。
1.サンプル1~3
230mm×900mm×50mmの寸法の銅製の基体2を用意した。基体2を加熱しない状態で、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の表面に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、粒径は45~125μmのハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の粒子を使用した。ノズルからのニッケル基合金粉末の供給速度は8g/min、ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nmである。これにより、ニッケル基合金を積み重ねて、厚み0.5mmの被覆層3を形成した。また、レーザ光の出力は、サンプル1の場合は2500W、サンプル2の場合は4000W、サンプル3の場合は1200Wとした。
230mm×900mm×50mmの寸法の銅製の基体2を用意した。基体2を加熱しない状態で、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の表面に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、粒径は45~125μmのハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の粒子を使用した。ノズルからのニッケル基合金粉末の供給速度は8g/min、ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nmである。これにより、ニッケル基合金を積み重ねて、厚み0.5mmの被覆層3を形成した。また、レーザ光の出力は、サンプル1の場合は2500W、サンプル2の場合は4000W、サンプル3の場合は1200Wとした。
被覆層3中の銅の含有量を電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて分析したところ、サンプル1では基体2との界面付近では4.6重量%、表面付近では1.7重量%であり、サンプル2では基体2との界面付近では23.6重量%、表面付近では21.1重量%であり、サンプル3では基体2との界面付近と表面付近とのいずれにおいても0重量%であった。すなわちレーザ光の出力が高いほど被覆層3中の銅の固溶量が多かった。これにより、レーザ光の出力を調整することで、被覆層3に基体2中の銅が固溶する量を制御できることが確認できた。
また、各サンプルの断面を電子顕微鏡で観察した。図4A、図4B及び図4Cに、サンプル1、2及び3についての断面の構造を模式的に示す。
サンプル1では、図4Aに示されるように、基体2と被覆層3との界面は波打つような凹凸状であった。これは基体2の表層が溶融プールに溶解することで被覆層3に固溶したためであると推察される。また、被覆層3の断面には欠陥は認められなかった。
サンプル2では、図4Bに示されるように、基体2と被覆層3との界面はサンプル1の場合よりも大きく波打つような凹凸状であった。これは高出力のレーザ光により基体2が大きく溶融した影響による。さらに、サンプル2では、組成ムラが原因と思われるクラック5が被覆層3と基体2との界面付近に認められた。
サンプル3では、図4Cに示されるように、基体2と被覆層3との界面は直線的であった。これは基体2の被覆層3への固溶が生じなかったためと推察される。また被覆層3には、基体2との界面付近にポア状の欠陥6が認められた。
上記の結果を下記表1にまとめて示す。
以上により、サンプル1~3のうち、特に被覆層3が銅を10重量以下の含有率で含有するサンプル1で、最も良好な結果が得られることが確認できた。
なお、基体2に含まれる金属の種類、金型1のサイズ及び形状などによって熱伝導による熱拡散速度が異なるため、これらの条件に応じて、被覆層3への基体2由来の金属の固溶量が所望の量となるように、レーザ光の照射条件等を設定すればよい。
2.サンプル4
次の方法で、サンプル4を得た。まず、サンプル1を作製する場合と同じ方法及び条件で、基体2の上にニッケル基合金を積み重ねた。
次の方法で、サンプル4を得た。まず、サンプル1を作製する場合と同じ方法及び条件で、基体2の上にニッケル基合金を積み重ねた。
続いて、このニッケル基合金の上に、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、粒径45~125μmのハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の粒子を使用した。ノズルからのニッケル基合金粉末の供給速度は24g/min、ノズルの移動速度は1000mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nm、レーザ光の出力は2800Wである。この操作を3回繰り返した。
このように、基体2の上にニッケル基合金を合計4回積み重ねて、4つの重畳層31を含む被覆層3を作製した。基体2側から1つ目の重畳層31の厚みは0.5mm、2つ目以降の重畳層31の厚みは各々1.5mmであり、これにより厚み5mmの被覆層3を作製した。
被覆層3における、基体2側から1つ目の重畳層31(第1層)、2つ目の重畳層31(第2層)、3つ目の重畳層31(第3層)、及び4つ目の重畳層31(第4層)の、各々の銅の含有量を、EPMAを用いて分析した。また、各重畳層31のビッカース硬さを測定した。その結果を下記表2、及び図5に示す。図5の横軸は被覆層3内の深さ位置を示し、左側の縦軸は深さ位置における被覆層3中の銅の含有率を示し、右側の縦軸は深さ位置における被覆層3のマイクロビッカース硬さを示す。
これらの結果に示されるように、ニッケル基合金を複数回積み重ねて複数の重畳層31を含む被覆層3を作製すると、被覆層3中の銅の濃度は、被覆層3の厚み方向に沿って、基体2から離れるほど低くなり、三つ目の重畳層31ではCu含有量は約0.5重量%、4つ目の重畳層31ではCu含有率は0.1%未満となって、ニッケル基合金粉末の組成に近い組成が実現された。また、ビッカース硬さは、銅の濃度が低くなるに従って高くなる傾向を示し、被覆層3の表面側では高いビッカース硬さが実現された。
このサンプル4の耐摩耗性を、テーバー摩耗試験により評価した。具体的には、摩耗輪H-10をサンプル4の被覆層3に接触させ、かつ摩耗輪から被覆層3へ9.8Nの荷重をかけながら、摩耗輪を回転させときの、摩耗輪が1000回転するごとのサンプル4の重量減少量を測定した。その結果と、被覆層3の密度とから、摩耗による被覆層3の体積減少量(cm3/1000rev)を算出した。
また、サンプル4の耐食性を、酸溶液への浸漬試験により評価した。具体的には、サンプル4の基体を切削加工により除去して被覆層3のみからなる板を作製し、この板を5%硫酸溶液へ72時間浸漬させた。このときに生じた板の重量変化に基づき、腐食による板の厚みの減少速度を算出した。
また、基体2の上にCo-Niめっき皮膜を設けることで、従来技術に相当する比較サンプルを作製し、この比較サンプルの耐摩耗性の評価及び耐食性の評価を行った。
サンプル4及び比較サンプルについて得られた結果を下記表3に示す。
この結果に示されるように、比較サンプルに対し、サンプル4は、耐摩耗性に関しては約2倍の良好な評価が得られ、耐食性に関しては10倍以上の非常に優れた評価が得られた。
3.サンプル5
200mm×200mm×40mmの寸法の銅製の基体2を用意した。この基体2を高周波加熱法により350℃に加熱した状態で、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の表面に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、粒径は45~125μmのハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の粒子を使用した。ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nm、レーザ光の出力は2000Wである。これにより、基体2の上にニッケル基合金を積み重ねて、厚み0.5mmの被覆層3を形成した。
200mm×200mm×40mmの寸法の銅製の基体2を用意した。この基体2を高周波加熱法により350℃に加熱した状態で、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の表面に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、粒径は45~125μmのハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の粒子を使用した。ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nm、レーザ光の出力は2000Wである。これにより、基体2の上にニッケル基合金を積み重ねて、厚み0.5mmの被覆層3を形成した。
これにより得られたサンプル5の被覆層3中の銅の含有量を電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて分析したところ、銅の含有率は2.2重量%と、サンプル1と同程度であった。
また、サンプル5の断面を電子顕微鏡で観察したところ、サンプル1の場合と同様に、基体2と被覆層3との界面に波打つような凹凸がみられ、かつ被覆層3の断面には欠陥は認められなかった。
上記のとおり、サンプル5では、被覆層3の作製時のレーザ光の出力がサンプル1の場合よりも低いにもかかわらず、サンプル1と同様の良好な被膜が形成された。これは、被覆層3の作製時に基体2を加熱したために、レーザのエネルギーを低くしてもニッケル基合金粉末を効率よく溶融させることができたためであると、推察される。
4.サンプル6~11
230mm×900mm×50mmの寸法の、Cr-Zn-Cu合金製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、ニッケルとコバルトの硫酸塩を含有するめっき浴を用いた電気めっき法で、合金層26を作製した。この合金層26を研磨することでその厚みを調整した。これにより、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
230mm×900mm×50mmの寸法の、Cr-Zn-Cu合金製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、ニッケルとコバルトの硫酸塩を含有するめっき浴を用いた電気めっき法で、合金層26を作製した。この合金層26を研磨することでその厚みを調整した。これにより、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
めっき浴の組成については、所望の組成の合金層26を得るために、ニッケルイオン濃度を0~1.07mol/Lの範囲で調整し、コバルトイオン濃度を0.03~1.07mol/Lの範囲で調整し、ホウ酸濃度を0.55mol/Lとし、pHを3.8~4.2の範囲内にした。また、電気めっき時に、めっき浴の温度を40~55℃の範囲内で調整し、電流密度を1~10A/dm2の範囲内で調整した。合金層26の組成及び厚みを、下記表3に示す。なお、サンプル11では合金層26を作製していない。
続いて、基体2を加熱しない状態で、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の表面に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、平均粒径65μmのNi-Cr系材(80Ni20Cr)の粒子を使用した。ノズルからのニッケル基合金粉末の供給速度は7.2g/min、ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nmである。また、レーザ光の出力は、サンプル6~9の場合は2000W、サンプル10~11の場合は2500Wとした。これにより、ニッケル基合金を積み重ねて、被覆層3を形成した。
各サンプルにおける被覆層3の成分の含有率を、EPMAを用いて分析した。また、各サンプル熱衝撃試験を行った。具体的には、各サンプルを大気雰囲気中、800℃で20分間加熱してから水冷する試験を繰り返し行い、拡大鏡での観察により表面にクラックが認められるまでの試験回数で評価を行った。その結果を下記表4に示す。
被覆層3組成の測定結果によると、合金層26の厚みが10μmであるサンプル10では、被覆層3に銅が含まれていることが確認された。すなわち、合金層26が被覆層3に拡散してしまい、基部25中の銅が被覆層3に固溶してしまった。
合金層26のないサンプル11では、被覆層3に銅の固溶が確認された。また、図6に、サンプル11の断面の電子顕微鏡写真を示す。この写真に示されるように、サンプル11では、被覆層3には基部25との界面付近に欠陥7が確認された。
また、熱衝撃試験の結果によると、合金層26の厚みが10μmと薄いサンプル10及び合金層26が無いサンプル11では評価が1回であり、合金層26がニッケルを含まないサンプル9では評価が2回であった。これに対し、ニッケルを7重量%以上75重量%以下含む厚み200μmの合金層26を備えるサンプル6~8では10回以上の評価が得られた。
なお、合金層26が薄い場合及び無い場合でも、レーザ条件を精密に制御すれば、被覆層3を改善可能と考えるが、被覆層3の作製条件の制御の困難さ、及び品質の安定性に課題が残る。また、合金層26のCo含有率が25重量%未満では、加熱による合金層26の急激な強度の低下が生じるが、熱負荷の小さい部分、例えば連続鋳造用金型の1下端部などには適用可能と考えられる。また、合金層26のNi含有率が7重量%未満では、耐クラック性及び耐食性が低下することから、連続鋳造用金型1の用途としては、合金層26のNi含有率は7重量%以上が好ましいと考えられる。
5.サンプル12
サンプル6の場合と同様にして、基部25の上に合金層26を作製し、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
サンプル6の場合と同様にして、基部25の上に合金層26を作製し、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
続いて、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の合金層26に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、平均粒径65μmのワスパロイ(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)の粒子を使用した。ニッケル基合金粉末の供給速度は7.2g/min、ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nmである。この操作を3回繰り返した。レーザ光の出力は、1回目は2000W、2回目以降は1600Wである。
このように、基体2の上に3つの重畳層31を順次積み重ねて、被覆層3を作製した。ニッケル基合金は、毎回0.5mmの厚みで積み重ね、これにより厚み1.5mmの被覆層3を作製した。
被覆層3における、基体2側から1つ目の重畳層31(第1層)、2つ目の重畳層31(第2層)、及び3つ目の重畳層31(第3層)の組成を、EPMAを用いて分析した。その結果を下記表5に示す。なお、残部とあるのは、Cr、Mo及びTiの合計のことである。
これらの結果に示されるように、ニッケル基合金を3回積み重ねて3つの重畳層31を順次積み重ねると、3つ目の重畳層31の組成は本来のワスパロイの組成(58Ni19Cr14Co4.5Mo3Ti)に非常に近く、2つ目の重畳層31の組成も本来の組成に近いことが確認された。
また、サンプル12の断面の電子顕微鏡写真を図7に示す。図7によると、被覆層3内及び被覆層3と合金層26との界面には空孔、欠陥などが認められず、緻密な被覆層3が形成されていることが確認できた。
6.サンプル13~19
銅製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、ニッケルとコバルトの硫酸塩を含有するめっき浴を用いた電気めっき法で、互いに組成の異なる複数の第一めっき層と複数の第二めっき層とが交互に積層した合金層26を作製した。第一めっき層はNi含有率が10重量%以上20重量%以下であり残部がコバルトであるように作製し、第二めっき層はNi含有率が21重量%以上60重量%以下であり残部がコバルトであるように作製した。
銅製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、ニッケルとコバルトの硫酸塩を含有するめっき浴を用いた電気めっき法で、互いに組成の異なる複数の第一めっき層と複数の第二めっき層とが交互に積層した合金層26を作製した。第一めっき層はNi含有率が10重量%以上20重量%以下であり残部がコバルトであるように作製し、第二めっき層はNi含有率が21重量%以上60重量%以下であり残部がコバルトであるように作製した。
めっき浴の組成については、所望の組成の第一めっき層と複数の第二めっき層とを得るために、ニッケルイオン濃度を0.78~1.07mol/Lの範囲で調整し、コバルトイオン濃度を0.34~0.55mol/Lの範囲で調整し、ホウ酸濃度を0.55mol/Lとし、pHを3.8~4.2の範囲内にした。また、電気めっき時に、めっき浴の温度を20~60℃の範囲内で調整し、電流密度を1~10A/dm2の範囲内で調整した。また、電気めっき時にめっき浴をエア攪拌し、かつめっき浴へのエアの供給量を0~0.6m3/m2・minの範囲内で変動させた。具体的には、電流密度3A/dm2で、エア供給量を0.1m3/m2と0.4m3/m2との間で交互に切り替え、かつ各エア供給量を維持する時間を制御することで第一めっき層と第二めっき層の各々の厚みを調整した。ただし、サンプル19については、エア供給量を0.4m3/m2のみに維持することで、単一の第一めっき層のみからなる合金層26を作製した。
続いて、合金層26を研磨することで、合金層26全体の厚みを500μmにした。
続いて、サンプル13~16及び19については、合金層26に加熱温度400℃、加熱時間1時間の条件で加熱処理を施すことで、合金層26を結晶化させ、第一めっき層から六方晶層を作製し、かつ第二めっき層から面心立方晶層を作製した。サンプル17及び18には加熱処理を施さず、第一めっき層及び第二めっき層をそのまま維持した。
サンプル13~16及び19における六方晶層及び面心立方晶層、並びにサンプル17及び18における第一めっき層及び第二めっき層の、各々の厚みを測定し、かつ各々のNi含有率をEPMAを用いて分析した。その結果は下記表6に示す。
また、各サンプルにおける合金層26の引張り強さ、破断伸び、及びマイクロビッカース硬さを測定した。引張り強さとは破断伸びについては、合金層26のみに対して引張り試験を行うことで、引張り強さを測定し、かつ合金層26が破断した時点での最大変位から破断伸び率を求めた。またマイクロビッカース硬さは、合金層26の断面において、試験力1.96N(200gf)の条件で測定した。その結果も下記表6に示す。
この結果に示されるように、合金層26が結晶化していないサンプル17及び18、並びに合金層26が単層からなるサンプル19に比べ、六方晶層と面心立方晶層とが交互に積層しているサンプル13~16では、引張り強さ及び破断伸び率が大きくなる傾向がみられた。また、サンプル13~16では、六方晶層及び面心立方晶層の積層数が多いほど、マイクロビッカース強さが高くなった。
7.サンプル20~23
230mm×900mm×50mmの寸法の、Cr-Zr-Cu合金製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、上記のサンプル13~15及び19の各々の場合と同じ条件で、合金層26を作製した。合金層26を研磨することで厚みを200μmにした。これにより、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
230mm×900mm×50mmの寸法の、Cr-Zr-Cu合金製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、上記のサンプル13~15及び19の各々の場合と同じ条件で、合金層26を作製した。合金層26を研磨することで厚みを200μmにした。これにより、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
続いて、基体2を加熱しない状態で、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の表面に向けて噴射しながら、ノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、平均粒径65μmのNi-Cr系材(80Ni20Cr)の粒子を使用した。ノズルからのニッケル基合金粉末の供給速度は7.2g/min、ノズルの移動速度は600mm/minである。レーザ光の波長は950~1070nmである。また、レーザ光の出力は2000Wとした。これにより、ニッケル基合金を積み重ねて、厚み1.0mmの被覆層3を形成した。
サンプル21の断面の電子顕微鏡写真を、図8及び図9に示す。この写真には、基部25の上に複数の六方晶層と複数の面心立方晶層とが積層した合金層26があり、合金層26の上に被覆層3がある様子が、明確に示されている。
各サンプルにおける被覆層3の成分の含有率を、EPMAを用いて分析した。また、各サンプルの熱衝撃試験を行った。具体的には、各サンプルを大気雰囲気中、800℃で20分間加熱してから水冷する試験を繰り返し行い、拡大鏡での観察により表面にクラックが認められるまでの試験回数で評価を行った。その結果を下記表7に示す。
この結果に示されるように、被覆層3の組成は、サンプル間で大きな差は無かった。また、合金層26が単一の層からなるサンプル23に対して、複数の六方晶層と複数の面心立方晶層とが積層した合金層26を有するサンプル20~22では、熱衝撃試験の評価が大きく向上し、熱衝撃によるクラックの抑制作用が著しく現れていた。
8.サンプル24
銅製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、上記のサンプル13の場合と同じ条件で、合金層26を作製した。合金層26を研磨することで厚みを200μmにした。これにより、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
銅製の基部25を用意した。この基部25の表面上に、上記のサンプル13の場合と同じ条件で、合金層26を作製した。合金層26を研磨することで厚みを200μmにした。これにより、基部25と合金層26とを備える基体2を得た。
続いて、ノズルを基体2に対して移動させ、かつノズルからニッケル基合金粉末を基体2の合金層26に向けて噴射しながらノズルに内装した半導体レーザ発振器からレーザ光をニッケル基合金粉末に照射した。ニッケル基合金粉末として、粒径45~125μmのハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の粒子を使用した。ニッケル基合金粉末の供給速度は8g/minである。レーザ光の波長は950~1070nmである。この操作を3回繰り返した。ノズルの移動速度は、1回目は600mm/min、2回目以降は1000mm/minであり、レーザ光の出力は、1回目は2000W、2回目以降は1600Wである。
このように、基体2の上に3つの重畳層31を順次積み重ねて、被覆層3を作製した。ニッケル基合金は、毎回0.5mmの厚みで積み重ね、これにより厚み1.5mmの被覆層3を作製した。
被覆層3における、基体2側から1つ目の重畳層31(第1層)、2つ目の重畳層31(第2層)、及び3つ目の重畳層31(第3層)の組成を、EPMAを用いて分析した。その結果を下記表8に示す。また、ニッケル基合金粉末として用いたハステロイC276(Ni57Cr16Mo16W4Fe5)の組成も併せて示す。
この結果に示されるとおり、ニッケル基合金を3回積み重ねて3つの重畳層31を作製すると、3つ目の重畳層31の組成は本来のハステロイC276の組成に非常に近く、2つ目の重畳層31の組成も本来の組成に近いことが確認された。
上記の実施形態及び実施例から明らかなように、本開示の第1の態様に係る連続鋳造用金型(1)は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼(41)を通過させる流路(21)を有する金型基体(2)と、ニッケル基合金を含み、金型基体(2)を覆う被覆層(3)とを備える。被覆層(3)は、流路(21)の内面(24)の少なくとも一部を覆う。被覆層(3)は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、金型基体(2)にニッケル基合金を積み重ねて作製される。
第1の態様によると、耐熱性及び耐食性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れた連続鋳造用金型(1)が得られる。
本開示の第2の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、被覆層(3)を作製するに当たり、金型基体(2)に向けてニッケル基合金粉末を噴射しながらニッケル基合金粉末にレーザ光を照射する。
第2の態様によると、レーザ光のエネルギーを効率良く利用してニッケル基合金粉末を十分に溶融させてから固化させることができるので、被覆層(3)が連続鋳造用金型(1)の耐摩耗性を更に高めやすい。
本開示の第3の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第1又は第2の態様において、被覆層(3)の厚みは0.1mm以上10mm以下である。
第3の態様によると、0.1mm未満の厚みの被覆層(3)を形成することは困難であり、また、被覆層(3)では解決しにくい範囲の連続鋳造用金型(1)の耐久性の限界を考慮すると、10mmを超える厚みの必要性は低い。
本開示の第4の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第1から第3のいずれか一の態様において、被覆層(3)は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させて作製された複数の重畳層(31)を含み、重畳層(31)は積層している。
第4の態様によると、被覆層(3)の厚みを容易に調整できる。また、被覆層(3)に基体(2)由来の金属が固溶する場合でも、この金属の濃度を被覆層(3)の表層において低めることができて、ニッケル基合金本来の機能を発揮させることができる。
本開示の第5の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第4の態様において、重畳層(31)の各々の厚みは0.1mm以上3mm以下である。
第5の態様によると、ニッケル基合金粉末を利用してニッケル基合金を効率良く積み重ねて重畳層(31)を作製でき、かつ重畳層(31)に基体(2)由来の金属を固溶させやすくなる。
本開示の第6の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第1から第5のいずれか一の態様において、被覆層(3)に基体(2)由来の金属が固溶している。
第6の態様によると、被覆層(3)と基体(2)との界面に欠陥が生じにくいため、耐摩耗性が更に向上しやすい。
本開示の第7の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第6の態様において、被覆層(3)中の金型基体(2)由来の金属の濃度は、被覆層(3)の厚み方向に沿って、金型基体(2)から離れるほど低くなっている。
第7の態様によると、被覆層(3)が、ニッケル基合金本来の性能を発揮しやすくなる。
本開示の第8の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第1から第7のいずれか一の態様において、ニッケル基合金粉末は、Niと、Co、Cr、Mo、W、Al、Ti、Nb、Ta、Y、Cu、Fe及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の金属との合金を含む。
第8の態様によると、被覆層(3)は、特に高い耐熱性、耐摩耗性及び耐食性を有しうる。
本開示の第9の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第1から第8のいずれか一の態様において、基体(2)は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方から作製された基部(25)と、基部(25)を覆う、ニッケルとコバルトとを含む合金層(26)とを備え、被覆層(3)は合金層(26)を覆っている。
第9の態様によると、ニッケル及びコバルトは銅及び銅合金よりも熱伝導率が低く、かつレーザ光で加熱されやすいため、被覆層(3)の作製時のレーザ光からのニッケル基合金粉末へのエネルギーの供給量、ニッケル基合金粉末の溶融熱量、及び熱拡散量を制御することが容易である。さらに、合金層(26)は基部(25)中の銅又は銅合金が被覆層(3)へ固溶しにくくして、被覆層(3)においてニッケル基合金が本来の性能を発揮しやすくできる。
本開示の第10の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第9の態様において、合金層(26)の厚みは、30μm以上500μm以下である。
第10の態様によると、合金層(26)は、基部(25)中の銅又は銅合金を被覆層(3)に更に固溶しにくくでき、かつ合金層(26)が基部(25)の熱ひずみを特に緩和しやすくできる。
本開示の第11の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第9又は第10の態様において、合金層(26)のニッケル含有率は、7重量%以上である。
第11の態様によると、合金層(26)は優れた耐クラック性及び耐食性を有しやすい。
本開示の第12の態様に係る連続鋳造用金型1では、第8から第11のいずれか一の態様において、合金層(26)が、ニッケルとコバルトとを含む六方晶の結晶を含む複数の六方晶層と、ニッケルとコバルトとを含む面心立方晶の結晶を含む複数の面心立方晶層とを含み、六方晶層と面心立方晶層とが交互に積層している。
第12の態様によると、合金層(26)は、より高い耐食性、柔軟性、及び硬度を有しやすい。
本開示の第13の態様に係る連続鋳造用金型(1)では、第12の態様において、六方晶層と面心立方晶層との各々の厚みは、0.1μm以上50μm以下である。
第13の態様によると、六方晶層内と面心立方晶層内とで、結晶性が安定して形成されやすくなることで、合金層(26)の強度が高まりやすい。
本開示の第14の態様に係る連続鋳造用金型(1)の製造方法は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼(41)を通過させる流路(21)を有する金型基体(2)と、ニッケル基合金を含み、金型基体(2)を覆う被覆層(3)とを備え、被覆層(3)が流路(21)の内面(24)の少なくとも一部を覆う連続鋳造用金型(1)の製造方法である。本方法では、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することでニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、金型基体(2)にニッケル基合金を積み重ねることにより、被覆層(3)を作製する。
第14の態様によると、耐熱性及び耐食性に優れ、かつ耐摩耗性にも優れた連続鋳造用金型(1)が得られる。
本開示の第15の態様に係る連続鋳造用金型(1)の製造方法では、第14の態様において、被覆層(3)を作製するに当たり、金型基体(2)に向けてニッケル基合金粉末を噴射しながらニッケル基合金粉末にレーザ光を照射する。
第15の態様によると、レーザ光のエネルギーを効率良く利用してニッケル基合金粉末を十分に溶融させてから固化させることができるので、被覆層(3)が連続鋳造用金型(1)の耐摩耗性を更に高めやすい。
本開示の第16の態様に係る連続鋳造用金型(1)の製造方法では、第14又は第15の態様において、銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含む基部(25)の上に、電気めっき法でニッケルとコバルトとを含む合金層(26)を作製することで、基部(25)と基部(25)を覆う合金層(26)とを備える金型基体(2)を作製し、金型基体(2)の合金層(26)の上に被覆層(3)を作製する。
第16の態様によると、ニッケル及びコバルトは銅及び銅合金よりも熱伝導率が低く、かつレーザ光で加熱されやすいため、被覆層(3)の作製時のレーザ光からのニッケル基合金粉末へのエネルギーの供給量、ニッケル基合金粉末の溶融熱量、及び熱拡散量を制御することが容易である。さらに、合金層(26)は基部(25)中の銅又は銅合金が被覆層(3)へ固溶しにくくして、被覆層(3)においてニッケル基合金が本来の性能を発揮しやすくできる。
Claims (16)
- 銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼を通過させる流路を有する金型基体と、
ニッケル基合金を含み、前記金型基体を覆う被覆層とを備え、
前記被覆層は、前記流路の内面の少なくとも一部を覆い、
前記被覆層は、ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することで前記ニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、前記金型基体に前記ニッケル基合金を積み重ねて作製された、
連続鋳造用金型。 - 前記被覆層を作製するに当たり、前記金型基体に向けて前記ニッケル基合金粉末を噴射しながら前記ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射する、
請求項1に記載の連続鋳造用金型。 - 前記被覆層の厚みは0.1mm以上10mm以下である、
請求項1に記載の連続鋳造用金型。 - 前記被覆層は、前記ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することで前記ニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させて作製された複数の重畳層を含み、前記重畳層は積層している、
請求項1から3のいずれか一項に記載の連続鋳造用金型。 - 前記重畳層の各々の厚みは0.1mm以上3mm以下である、
請求項4に記載の連続鋳造用金型。 - 前記被覆層に前記金型基体由来の金属が固溶している、
請求項1から5のいずれか一項に記載の連続鋳造用金型。 - 前記被覆層中の前記金型基体由来の前記金属の濃度は、前記被覆層の厚み方向に沿って、前記金型基体から離れるほど低くなっている、
請求項6に記載の連続鋳造用金型。 - 前記ニッケル基合金粉末は、Niと、Co、Cr、Mo、W、Al、Ti、Nb、Ta、Y、Cu、Fe及びMnからなる群から選択される少なくとも一種の金属との合金を含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載の連続鋳造用金型。 - 前記金型基体は、銅と銅合金とのうち少なくとも一方から作製された基部と、前記基部を覆う、ニッケルとコバルトとを含む合金層とを備え、
前記被覆層は前記合金層を覆っている、
請求項1から8のいずれか一項に記載の連続鋳造用金型。 - 前記合金層の厚みは、30μm以上500μm以下である、
請求項9に記載の連続鋳造用金型。 - 前記合金層のニッケル含有率は、7重量%以上である、
請求項9又は10に記載の連続鋳造用金型。 - 前記合金層が、ニッケルとコバルトとを含む六方晶の結晶を含む複数の六方晶層と、ニッケルとコバルトとを含む面心立方晶の結晶を含む複数の面心立方晶層とを含み、
前記六方晶層と前記面心立方晶層とが交互に積層している、
請求項9から11のいずれか一項に記載の連続鋳造用金型。 - 前記六方晶層と前記面心立方晶層との各々の厚みは、0.1μm以上50μm以下である、
請求項12に記載の連続鋳造用金型。 - 銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含み、溶鋼を通過させる流路を有する金型基体と、ニッケル基合金を含み、前記金型基体を覆う被覆層とを備え、前記被覆層は、前記流路の内面の少なくとも一部を覆う連続鋳造用金型の製造方法であり、
ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射することで前記ニッケル基合金粉末を溶融させてから固化させることで、前記金型基体にニッケル基合金を積み重ねることにより、前記被覆層を作製する、
連続鋳造用金型の製造方法。 - 前記被覆層を作製するに当たり、前記金型基体に向けて前記ニッケル基合金粉末を噴射しながら前記ニッケル基合金粉末にレーザ光を照射する、
請求項14に記載の連続鋳造用金型の製造方法。 - 銅と銅合金とのうち少なくとも一方を含む基部の上に、電気めっき法でニッケルとコバルトとを含む合金層を作製することで、前記基部と前記基部を覆う前記合金層とを備える前記金型基体を作製し、前記金型基体の前記合金層の上に前記被覆層を作製する、
請求項14又は15に記載の連続鋳造用金型の製造方法。
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