WO2018198267A1 - 因果関係学習方法、プログラム、装置および異常分析システム - Google Patents
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Abstract
本発明は、決定論的なシステムにおいて高精度に因果関係を学習できる方法、プログラム、装置、および因果関係を用いて異常分析を行うシステムを提供する。本発明の一実施形態に係る因果関係学習装置は、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する相関判定部と、相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である測定値から原因である測定値を推定することによって2つのセンサ間の因果関係を判定する低相関用因果関係推定部と、を備える。
Description
本発明は、センサ間の因果関係を学習するため方法、プログラム、装置、および該因果関係を用いて異常分析を行うシステムに関する。
工場(プラント)の設備には温度、圧力、流量等を測定する様々な種類のセンサが設けられており、監視システムによってセンサの測定値が監視される。工場において異常が発生する際には、異常が様々な設備や環境に影響するため、複数のセンサの測定値が同時に異常な値になることが多い。異常を解決するためには異常の原因を特定する必要があるが、オペレータが目視で複数のセンサの測定値を参照して異常の原因を特定する場合には、オペレータの能力や経験によって特定を誤ったり、特定に時間を要したりするおそれがある。そのため、異常の原因を自動的に特定できる技術が求められている。
特許文献1には、予め故障の因果関係を制御装置に設定しておき、故障が発生した際には予め設定された因果関係に基づいて故障の原因を特定する技術が記載されている。このような技術により、オペレータの能力や経験に頼らずに、自動的に異常の原因を特定できる。
Sugihara et al., "Detecting Causality in Complex Ecosystems", Science, October 26, 2012, Vol. 338, Issue 6106, pp. 496-500
しかしながら、特許文献1に記載の技術では因果関係は人の経験に基づいて設定されるため誤った因果関係が設定される場合があり、また特に大規模な工場ではセンサの数が膨大であるため人の経験に基づいて因果関係を構築すること自体が難しい場合がある。
人の経験に頼らず、因果関係推定法(因果推論)を用いることによって因果関係を設定することが考えられる。例えば、グレンジャー因果を用いる因果関係推定法および移動エントロピーに用いる因果関係推定法が知られている。
しかしながら、グレンジャー因果を用いる因果関係推定法および移動エントロピーに用いる因果関係推定法は確率の要素が大きいシステムには有効であるが、決定論的な要素(すなわち運動方程式で記述できる要素)が大きいシステムでは高精度に因果関係を推定することができない。また、グレンジャー因果を用いる因果関係推定法は線形の関係を対象としているため、非線形の関係が存在する工場に適用することが難しい。また、移動エントロピーに用いる因果関係推定法は、計算量が大きいため、センサの数が膨大な大規模な工場に適用することが難しい。
本発明は、上述の問題に鑑みて行われたものであって、決定論的なシステムにおいて高精度に因果関係を学習できる方法、プログラム、装置および該因果関係を用いて異常分析を行うシステムを提供することを目的とする。
本発明の第1の態様は、因果関係学習装置であって、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、を備える。
本発明の第2の態様は、異常分析システムであって、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、前記測定値から異常を検知する検知部と、前記異常が検知されたセンサを含む前記因果関係に基づいて、前記異常の原因であるセンサを特定する特定部と、を備える。
本発明の第3の態様は、因果関係学習方法であって、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、を有する。
本発明の第4の態様は、因果関係学習プログラムであって、コンピュータに、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、を実行させる。
本発明によれば、決定論的なシステムにおいて高精度に因果関係を学習し、また該因果関係を用いて異常の原因を分析することができる。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る異常分析システム1のブロック図である。図1において、矢印は主なデータの流れを示しており、図1に示したもの以外のデータの流れがあってよい。図1において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、図1に示すブロックは単一の装置内に実装されてよく、あるいは複数の装置内に別れて実装されてよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
図1は、本実施形態に係る異常分析システム1のブロック図である。図1において、矢印は主なデータの流れを示しており、図1に示したもの以外のデータの流れがあってよい。図1において、各ブロックはハードウェア(装置)単位の構成ではなく、機能単位の構成を示している。そのため、図1に示すブロックは単一の装置内に実装されてよく、あるいは複数の装置内に別れて実装されてよい。ブロック間のデータの授受は、データバス、ネットワーク、可搬記憶媒体等、任意の手段を介して行われてよい。
異常分析システム1は、因果関係学習装置100および異常分析装置200を備える。因果関係学習装置100は、処理部として、センサ値取得部110、相関判定部120、低相関用因果関係推定部130、高相関用因果関係推定部140および因果関係構築部150を備える。また、因果関係学習装置100は、記憶部として、因果関係記憶部160を備える。異常分析装置200は、処理部として、センサ値取得部210、異常検知部220、異常原因特定部230および異常原因出力部240を備える。
因果関係学習装置100はセンサ111による測定値からセンサ111間の因果関係を学習する。センサ値取得部110は、工場(プラント)に設けられている2つ以上のセンサ111によって測定された時系列の測定値(センサ値)を示す情報を取得する。センサ値取得部110は、センサ111からセンサ値を逐次受け取ってもよく、あるいは所定の時間範囲のセンサ値をまとめて受け取ってもよい。また、センサ値取得部110は、予め因果関係学習装置100に記録されたセンサ111のセンサ値を読み出してもよい。センサ111は、温度センサ、振動センサ、圧力センサ、濃度センサ、回転数センサ等、工場の設備又は環境の情報を測定する任意のセンサである。センサ111は1つ又は複数の種類のセンサを含んでよく、また同じ種類のセンサが複数の場所に設けられてよい。各センサ111は、その種類および設置場所によって識別および管理される。
相関判定部120、低相関用因果関係推定部130(第1の推定部)および高相関用因果関係推定部140(第2の推定部)は、センサ値取得部110によって取得されたセンサ値を用いて後述の因果関係推定処理を行うことによって、センサ111の各ペアの因果関係を推定する。そして、因果関係構築部150は、低相関用因果関係推定部130および高相関用因果関係推定部140によって推定されたセンサ111の各組の因果関係を統合し、センサ111全体の因果関係として因果関係記憶部160に記録する。因果関係は、任意のデータ形式(ファイル形式)で因果関係記憶部160に記録される。
異常分析装置200は、因果関係学習装置100によって学習された因果関係に基づいて異常の原因を分析する。センサ値取得部210は、センサ値取得部110と同様にセンサ111からセンサ値を示す情報を取得する。
異常検知部220は、センサ値取得部210によって取得されたセンサ値が正常時とは異なる振る舞いをしている場合に、異常を検知する。センサ値からの異常の検知は、周知の異常検知方法によって行われる。また、異常検知部220は、外部の異常検知システムから異常の検知結果を受け取ることによって異常を検知してもよい。異常が検知された場合に、異常検知部220は、異常が検知されたセンサ111および異常の発生時間を示す異常情報を抽出する。
異常が検知されたセンサ111が複数ある場合には、異常原因特定部230によって異常の原因であるセンサ111の特定が行われる。異常原因特定部230は、因果関係学習装置100の因果関係記憶部160から、異常が検知されたセンサ111を含む因果関係を読み出す。そして異常原因特定部230は、因果関係の中で最も上流のセンサ111を異常の原因として特定する。すなわち、異常原因特定部230は、異常が検知されたセンサ111を含む因果関係を原因の方向に遡り、それよりも遡れないセンサ111を異常の原因とみなす。
異常原因出力部240は、異常原因特定部230によって特定された異常の原因であるセンサ111を示す情報を、ディスプレイによる表示、プリンタによる紙印刷、記憶装置へのデータ記録等の任意の方法で出力する。
図2は、本実施形態に係る異常分析システム1の例示的な機器構成を示す概略構成図である。因果関係学習装置100は、CPU(Central Processing Unit)101と、メモリ102と、記憶装置103と、インタフェース104とを備える。異常分析装置200は、CPU201と、メモリ202と、記憶装置203と、インタフェース204とを備える。
インタフェース104、204は、データの送受信を行う通信部であり、有線通信および無線通信の少なくとも一方の通信方式を実行可能に構成される。インタフェース104、204は、該通信方式に必要なプロセッサ、電気回路、アンテナ、接続端子等を含む。インタフェース104、204は、CPU101、201からの信号に従って、該通信方式を用いて通信を行う。インタフェース104、204は、例えばセンサ111の測定値を示す情報をセンサ111から受信する。
記憶装置103、203は、因果関係学習装置100および異常分析装置200が実行するプログラムや、プログラムによる処理結果のデータ等を記憶する。記憶装置103、203は、読み取り専用のROM(Read Only Memory)や、読み書き可能のハードディスクドライブ又はフラッシュメモリ等を含む。また、記憶装置103、203は、CD-ROM等のコンピュータ読取可能な可搬記憶媒体を含んでもよい。メモリ102、202は、CPU101、201が処理中のデータや記憶装置103、203から読み出されたプログラムおよびデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等を含む。
CPU101、201は、処理に用いる一時的なデータをメモリ102、202に一時的に記録し、記憶装置103、203に記録されたプログラムを読み出し、該プログラムに従って該一時的なデータに対して種々の演算、制御、判別などの処理動作を実行する処理部としてのプロセッサである。また、CPU101、201は、記憶装置103、203に処理結果のデータを記録し、またインタフェース104、204を介して処理結果のデータを外部に送信する。
本実施形態において因果関係学習装置100のCPU101は、記憶装置103に記録されたプログラムを実行することによって、図1のセンサ値取得部110、相関判定部120、低相関用因果関係推定部130、高相関用因果関係推定部140および因果関係構築部150として機能する。また、因果関係学習装置100の記憶装置103は、図1の因果関係記憶部160として機能する。異常分析装置200のCPU201は、図1のセンサ値取得部210、異常検知部220、異常原因特定部230および異常原因出力部240として機能する。
異常分析システム1は、図2に示す具体的な構成に限定されない。因果関係学習装置100および異常分析装置200は、それぞれ1つの装置に限られず、2つ以上の物理的に分離した装置が有線又は無線で接続されることにより構成されていてもよい。因果関係学習装置100および異常分析装置200は1つの装置として一体に構成されてもよい。因果関係学習装置100および異常分析装置200に含まれる各部は、電気回路構成により実現されていてもよい。ここで、電気回路構成とは、単一のデバイス、複数のデバイス、チップセット又はクラウドを概念的に含む文言である。
また、異常分析システム1の少なくとも一部がSaaS(Software as a Service)形式で提供されてよい。すなわち、異常分析システム1を実現するための機能の少なくとも一部が、ネットワーク経由で実行されるソフトウェアによって実行されてよい。
図3および4を用いて、相関判定部120、低相関用因果関係推定部130および高相関用因果関係推定部140によって行われる因果関係推定処理を説明する。図3は、本実施形態で用いられる因果関係を説明するための模式図である。図3の上段には、異常が検知された要素A(本実施形態のセンサ111)が示されている。このように多数の要素Aで異常が検知されると、いずれの要素Aが異常の原因であるかを知ることはできない。
図3の下段には、予め学習しておいた因果関係を、異常が検知された要素Aに適用した状態が示されている。図3の例では、変数X、Y、ZについてX→Y→Zの因果関係(矢印の左側が原因、右側が結果を表す)が予め学習されている場合に、変数X、Y、Zに対応する要素Aの因果関係がわかる。このように生成された因果関係を原因方向に遡ることによって、最も上流にある変数Xに対応する要素Aが異常の原因A1であると特定することができる。異常の原因を特定するために、因果関係学習装置100は、センサ111の正常時のセンサ値から、予め因果関係を学習する。
図4は、本実施形態で利用するCCM(Convergent Cross Mapping)を説明するための模式図である。CCMは、非特許文献1において公開された分析方法である。非特許文献1ではCCMは生態系の分析に利用されているが、本実施形態では工場で測定されたセンサ値の分析のために応用する。
力学系は、変数とその間の時間発展方程式から成り立ち、状態は変数の値が決まれば定まり、その状態は時間発展方程式によって変化する。系は十分な時間が経った後にある状態に落ち着き、その部分空間をアトラクタと呼ぶ(ただし、ここでは発散する系は考えないものとする)。
系を構成するある変数は他の変数の影響が絡み合った結果であるため、ある変数の時系列情報の中には他の変数の情報も含まれている。そのため、系を構成する一部の変数から、全体の情報を再構成できることが知られている。このように再構成されたアトラクタを再構成アトラクタという。
変数Xが原因であり、変数Yが結果である因果関係(すなわちX→Y)を考える。図4は、変数XのアトラクタMxおよび変数YのアトラクタMyを示す。図4では視認性のためにアトラクタMx、Myは三次元空間上に表されているが、実際には任意の次元で表される。このとき、結果である変数Yの異なる時間の部分的な振る舞いが似ている場合には、原因である変数Xの対応する時間の部分的な振る舞いも似ているはずである。
換言すると、図4に示すように、結果の変数Yにおけるある時間範囲のベクトルy(t1)、y(t2)、y(t3)が近い場合には、原因の変数Xにおける対応する時間範囲のベクトルx(t1)、x(t2)、x(t3)も近い。逆に結果は様々な原因が絡み合って生じるため、原因の変数Xが近いとしても、結果の変数Yが近いとは限らない。CCMは、このような原因および結果の非対称な性質を利用して、2つの変数において結果から原因を推定することによって因果関係の有無を高精度に判定する方法である。
しかしながら、CCMは、2つの変数の相関が高い場合に推定を誤る可能性がある。上述のようにCCMは結果から原因を推定することによって因果関係を判定するが、変数間の相関が高い場合には原因から結果の推定が容易になる。その結果、原因および結果の非対称な性質を利用できなくなるため、CCMは正確な推定ができない。例えばCCMは、高相関の2変数について、実際には2変数に一方向の因果関係がある場合であっても、該2変数が互いに原因および結果である両方向の因果関係があるという誤った推定を行う可能性がある。
そこで、本実施形態に係る因果関係学習装置100は、以下のような工夫を行うことにより、結果から原因を推定することによって因果関係を判定する因果推定法であるCCMを利用して高精度に因果関係を学習する。
相関判定部120は、センサ値取得部110によって取得されたセンサ値を用いて、2つのセンサ111のセンサ値間の相関を判定する。本実施形態ではセンサ値を多項式モデルに当てはめることによって相関を判定する。あるセンサ111のある時間tのセンサ値を変数Xtとし、別のセンサ111の同じ時間tのセンサ値を変数Ytとする。まず相関判定部120は、センサ111から取得したセンサ値の時系列データ{Xt}、{Yt}を用いて、変数Xt、Ytに式(1)に示す多項式モデルを当てはめる。
相関判定部120は、推定値Y’tと測定値Ytとの間の誤差を相関の指標として算出する。そして相関判定部120は、該誤差が所定の閾値以下(あるいは所定の閾値より小さい)である場合に変数Xt、Ytを出力した2つのセンサ111が高相関であると判定し、そうでない場合に低相関であると判定する。相関判定部120は、センサ111の各組について相関を判定する。センサ111の測定値間の相関の判定方法として、ここに示した具体的な式に限定されず、その他任意の方法を用いてもよい。
本実施形態に係る因果関係学習装置100は、センサ111の各組について、相関判定部120によって判定された相関に従って、異なる因果関係推定法を適用する。具体的には、因果関係学習装置100は、相関が所定の基準よりも低い(すなわちモデルの誤差が所定の閾値以下または所定の閾値より小さい)センサ111の組に対しては、CCMを用いて因果関係を判定する。一方、因果関係学習装置100は、相関が所定の基準よりも高い(すなわちモデルの誤差が所定の閾値より大きいまたは所定の閾値以上)センサ111の組に対しては、CCMが因果関係の判定を誤る可能性があるため、2方向の多項式モデルを比較することによって因果関係を判定する。
低相関用因果関係推定部130は、相関判定部120によって低相関と判定されたセンサ111の組に対して、CCMを用いて因果関係を判定する。変数Xが原因であり変数Yが結果である因果関係(すなわちX→Y)を判定するために、simplex projectionと呼ばれる手法が用いられる。具体的には、まず低相関用因果関係推定部130は、結果側の変数Yの時系列データ{Yt}から、遅延ベクトルy(t)のE+1個の最近傍遅延ベクトル{y(t1),y(t2),…,y(tE+1)}を用意する。最近傍遅延ベクトルの個数は適宜設定される。各ベクトルの時間はy(t)に近い順に1からE+1までラベリングされている。
次に低相関用因果関係推定部130は、y(t)のE+1個の最近傍遅延ベクトルの時間に対応する原因側の変数Xの時系列データ{Xt}から、以下の式(2)によって推定値X’tを算出する。
低相関用因果関係推定部130は、全ての時間で推定値X’tを算出し、式(4)を用いて時系列の推定値{X’t}および時系列測定値{Xt}の間の相関係数を取る。
低相関用因果関係推定部130は、算出された指標ρを用いてX→Yの因果関係の有無を判定する。例えば、低相関用因果関係推定部130は、X→Yの指標ρを第1の閾値と比較し、第1の閾値よりも大きい(あるいは第1の閾値以上)場合にX→Yの因果関係があると判定し、第1の閾値以下(あるいは第1の閾値より小さい)の場合にはX→Yの因果関係がないと判定する。
さらに低相関用因果関係推定部130は、逆方向であるY→Xの指標ρも算出する。X→Yの指標ρおよびY→Xの指標ρがともに第1の閾値よりも大きい(あるいは第1の閾値以上)場合には、低相関用因果関係推定部130は、さらにX→Yの指標ρおよびY→Xの指標ρの差を第2の閾値と比較する。低相関用因果関係推定部130は、該差が第2の閾値よりも大きい(あるいは第2の閾値以上)場合にX→Yの一方向の因果関係があると判定し、第2の閾値以下(あるいは第2の閾値より小さい)の場合にはX→YおよびY→Xの両方向の因果関係があると判定する。CCMの適用方法として、ここに示した具体的な式に限定されず、その他任意の式を用いてもよい。
例えば変数XおよびYに直接的な関係はないが、第3の変数を介して影響している場合に、疑似相関によって指標ρが高くなるおそれがある。そのため低相関用因果関係推定部130は、指標ρにおける疑似相関を排除するために、因果関係の判定条件として収束性の判定を行う。具体的には、収束性の判定では、指標ρに測定値のデータ長L(データ量)への依存性がある場合(すなわち、指標ρが測定値のデータ長Lとともに増加し、十分に長いデータ長Lにおいてある値に収束する場合)に、収束性があると判定される。指標ρにこのような依存性がない場合に、収束性がないと判定される。指標ρが収束するのに十分なデータ長Lがない場合には、データ長Lが増加すると指標ρが増加するという増加傾向に基づいて、依存性を確認することができる。例えば、データ長Lが極端に少ない場合の指標ρおよびデータ長Lがそれよりも多い場合の指標ρを比較することによって増加傾向の有無を確認し、増加傾向がある場合に依存性があると判定される。
低相関用因果関係推定部130は、指標ρに収束性があると判定された場合に、最終的に変数XおよびYの間に因果関係があることを判定し、指標ρに収束性がないと判定された場合に、因果関係がないことを判定する。なお、収束性の判定は、因果関係の有無の判定よりも前に行われてもよい。
高相関用因果関係推定部140は、相関判定部120によって高相関と判定されたセンサ111の組に対して、2方向の多項式モデルを比較することによって因果関係を判定する。変数Xが原因であり変数Yが結果である因果関係(すなわちX→Y)を判定するために、高相関用因果関係推定部140は、センサ111から取得したセンサ値の時系列データ{Xt}、{Yt}を用いて、上述の式(1)を用いて推定値Y’tの多項式モデルを生成するとともに、以下の式(5)を用いて推定値X’tの多項式モデルを生成する。
高相関用因果関係推定部140は、推定値Y’tと測定値Ytとの間の誤差を算出するとともに、推定値X’tと測定値Xtとの間の誤差を算出する。そして高相関用因果関係推定部140は、推定値Y’tの誤差が推定値X’tの誤差よりも小さい場合に、X→Yの一方向の因果関係があると判定する。また、高相関用因果関係推定部140は、推定値Y’tの誤差および推定値X’tの誤差が同じ又は同程度である場合に、X→YおよびY→Xの両方向の因果関係があると判定する。一方向又は両方向の因果関係を判定する基準は、任意に設定される。高相関の場合に適用される因果関係判定方法として、ここに示した具体的な式に限定されず、その他任意の式を用いてもよい。
図5は、本実施形態に係る因果関係学習装置100において実行される因果関係学習方法のフローチャートを示す図である。因果関係学習方法は、例えばユーザが因果関係学習装置100に対して所定の操作を行うことによって開始される。
まずセンサ値取得部110は、複数のセンサ111によって測定された時系列のセンサ値を取得する(ステップS101)。ここでは測定対象に異常が発生していない正常時のセンサ値を学習対象とする。センサ値取得部110は、センサ111から直接センサ値を受け取ってもよく、あるいは記憶装置に記録されたセンサ値を読み出してもよい。
相関判定部120は、センサ値が取得された2つのセンサ111のある組を判定対象とし、上述の式(1)に従ってモデルを生成する(ステップS102)。そして相関判定部120は、ステップS102で生成されたモデルの誤差に基づいて、該センサ111のセンサ値間の相関を判定する(ステップS103)。ここではモデルの誤差が所定の基準より小さい場合に高相関であると判定され、所定の基準より大きい場合に低相関であると判定される。
ステップS103で該センサ111間が低相関であると判定された場合に(ステップS104のNO)、低相関用因果関係推定部130は、上述の式(2)~式(4)に従って、CCMを用いて該センサ111間の因果関係を判定する(ステップS106)。その結果、該センサ111間の因果関係の有無および因果関係の向きが判定される。
ステップS103で該センサ111間が高相関であると判定された場合に(ステップS104のYES)、高相関用因果関係推定部140は、上述の式(5)に従って、2方向の多項式モデルを比較することによって因果関係を判定する(ステップS105)。その結果、該センサ111間の因果関係の有無および因果関係の向きが判定される。
全てのセンサ111の組について因果関係の判定が終了していない場合に(ステップS107のNO)、別のセンサ111の組を判定対象としてステップS102~S107が繰り返される。
全てのセンサ111の組について因果関係の判定が終了した場合に(ステップS107のYES)、因果関係構築部150は、ステップS105およびS106で判定された因果関係を統合することによって、センサ111全体の因果関係を構築して因果関係記憶部160に記録する(ステップS108)。
本実施形態において因果関係学習装置100のCPU101は、図5に示す処理に含まれる各ステップ(工程)の主体となる。すなわち、CPU101は、図5に示す処理を実行するためのプログラムをメモリ102又は記憶装置103から読み出し、該プログラムを実行して因果関係学習装置100の各部を制御することによって図5に示す処理を実行する。また、図5に示す処理の少なくとも一部が、CPU101ではなく、CPU101以外の装置又は電気回路によって行われてもよい。
図6は、本実施形態に係る異常分析装置200において実行される異常分析方法のフローチャートを示す図である。異常分析方法は、例えばユーザが異常分析装置200に対して所定の操作を行うことによって開始される。
まずセンサ値取得部210は、センサ111によって測定されたセンサ値を取得する(ステップS201)。センサ値取得部210は、センサ111から直接センサ値を受け取ってもよく、あるいは記憶装置に記録されたセンサ値を読み出してもよい。
異常検知部220は、ステップS201で取得されたセンサ値を用いて、周知の異常検知方法によって異常の検知を行う(ステップS202)。また、別の異常分析システムから異常検知結果を受け取ることによって異常を検知してもよい。
ステップS202で異常が検知されない場合に(ステップS203のNO)、ステップS201に戻って異常検知が繰り返される。ステップS202で異常が検知された場合に(ステップS203のYES)、異常検知部220は、異常が検知されたセンサ111および異常の発生時間を示す異常情報を抽出する(ステップS204)。
異常原因特定部230は、因果関係学習装置100の因果関係記憶部160から、異常が検知されたセンサ111を含む因果関係を読み出す(ステップS205)。そして異常原因特定部230は、因果関係の中で最も上流のセンサ111を異常の原因として特定する(ステップS206)。特定された異常の原因であるセンサ111を示す情報は、異常原因出力部240によって任意の方法で出力される。
本実施形態において異常分析装置200のCPU201は、図6に示す処理に含まれる各ステップ(工程)の主体となる。すなわち、CPU201は、図6に示す処理を実行するためのプログラムをメモリ202又は記憶装置203から読み出し、該プログラムを実行して異常分析装置200の各部を制御することによって図6に示す処理を実行する。また、図6に示す処理の少なくとも一部が、CPU201ではなく、CPU201以外の装置又は電気回路によって行われてもよい。
上述のようにCCMは決定論的なシステムにおいて結果の変数から原因の変数を推定することによって因果関係を高精度に推定することができるが、高相関の変数に対しては因果関係の推定を誤る可能性がある。本実施形態に係る因果関係学習装置100は、低相関のセンサ111の組にはCCMを用いて因果関係を学習し、高相関のセンサ111の組には別の因果推定方法を用いて因果関係を学習する。このような構成により、センサ111の中にCCMが不得意な高相関の関係があっても全体として因果関係の推定精度を向上させることができる。また、異常分析装置200は、このように学習された因果関係を用いて異常の原因を特定するため、異常分析の精度も向上する。
(その他の実施形態)
図7は、上述の実施形態に係る因果関係学習装置100の概略構成図である。図7には、因果関係学習装置100が決定論的なシステムにおいてセンサ間の因果関係を学習する装置として機能するための構成例が示されている。因果関係学習装置100は、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する相関判定部120(判定部)と、前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する低相関用因果関係推定部130(推定部)と、を備える。
図7は、上述の実施形態に係る因果関係学習装置100の概略構成図である。図7には、因果関係学習装置100が決定論的なシステムにおいてセンサ間の因果関係を学習する装置として機能するための構成例が示されている。因果関係学習装置100は、2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する相関判定部120(判定部)と、前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する低相関用因果関係推定部130(推定部)と、を備える。
本発明は、上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
上述の実施形態の機能を実現するように該実施形態の構成を動作させるプログラム(より具体的には、図5、6に示す処理をコンピュータに実行させる因果関係学習プログラム、異常分析プログラム)を記録媒体に記録させ、該記録媒体に記録されたプログラムをコードとして読み出し、コンピュータにおいて実行する処理方法も各実施形態の範疇に含まれる。すなわち、コンピュータ読取可能な記録媒体も各実施形態の範囲に含まれる。また、上述のプログラムが記録された記録媒体はもちろん、そのプログラム自体も各実施形態に含まれる。
該記録媒体としては例えばフロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性メモリカード、ROMを用いることができる。また該記録媒体に記録されたプログラム単体で処理を実行しているものに限らず、他のソフトウェア、拡張ボードの機能と共同して、OS上で動作して処理を実行するものも各実施形態の範疇に含まれる。
上述の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、
を備える因果関係学習装置。
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、
を備える因果関係学習装置。
(付記2)
前記相関が所定の基準よりも高い場合に、前記推定部とは異なる方法によって前記因果関係を判定する第2の推定部をさらに備える、付記1に記載の因果関係学習装置。
前記相関が所定の基準よりも高い場合に、前記推定部とは異なる方法によって前記因果関係を判定する第2の推定部をさらに備える、付記1に記載の因果関係学習装置。
(付記3)
前記推定部によって判定される前記因果関係および前記第2の推定部によって判定される前記因果関係を統合することによって、全体の因果関係を構築する構築部をさらに備える、付記2に記載の因果関係学習装置。
前記推定部によって判定される前記因果関係および前記第2の推定部によって判定される前記因果関係を統合することによって、全体の因果関係を構築する構築部をさらに備える、付記2に記載の因果関係学習装置。
(付記4)
前記推定部は、CCM(Convergent Cross Mapping)によって前記因果関係を推定することを特徴とする、付記1~3のいずれか一項に記載の因果関係学習装置。
前記推定部は、CCM(Convergent Cross Mapping)によって前記因果関係を推定することを特徴とする、付記1~3のいずれか一項に記載の因果関係学習装置。
(付記5)
前記CCMは、結果である前記測定値を表す遅延ベクトルに近い所定の個数の近傍遅延ベクトルを用意し、該近傍遅延ベクトルの時間に対応する原因である前記測定値を表す遅延ベクトルの重み付け平均を推定値として算出し、前記推定値および原因である前記測定値の相関係数によって前記因果関係を判定することを特徴とする、付記4に記載の因果関係学習装置。
前記CCMは、結果である前記測定値を表す遅延ベクトルに近い所定の個数の近傍遅延ベクトルを用意し、該近傍遅延ベクトルの時間に対応する原因である前記測定値を表す遅延ベクトルの重み付け平均を推定値として算出し、前記推定値および原因である前記測定値の相関係数によって前記因果関係を判定することを特徴とする、付記4に記載の因果関係学習装置。
(付記6)
前記判定部は、前記2つのセンサの前記測定値から多項式モデルを生成し、前記多項式モデルによる推定値および前記測定値の間の誤差に基づいて、前記相関を判定することを特徴とする、付記1~5のいずれか一項に記載の因果関係学習装置。
前記判定部は、前記2つのセンサの前記測定値から多項式モデルを生成し、前記多項式モデルによる推定値および前記測定値の間の誤差に基づいて、前記相関を判定することを特徴とする、付記1~5のいずれか一項に記載の因果関係学習装置。
(付記7)
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、
前記測定値から異常を検知する検知部と、
前記異常が検知されたセンサを含む前記因果関係に基づいて、前記異常の原因であるセンサを特定する特定部と、
を備える異常分析システム。
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、
前記測定値から異常を検知する検知部と、
前記異常が検知されたセンサを含む前記因果関係に基づいて、前記異常の原因であるセンサを特定する特定部と、
を備える異常分析システム。
(付記8)
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、
を有する因果関係学習方法。
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、
を有する因果関係学習方法。
(付記9)
コンピュータに、
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、
を実行させる因果関係学習プログラム。
コンピュータに、
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、
を実行させる因果関係学習プログラム。
Claims (9)
- 2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、
を備える因果関係学習装置。 - 前記相関が所定の基準よりも高い場合に、前記推定部とは異なる方法によって前記因果関係を判定する第2の推定部をさらに備える、請求項1に記載の因果関係学習装置。
- 前記推定部によって判定される前記因果関係および前記第2の推定部によって判定される前記因果関係を統合することによって、全体の因果関係を構築する構築部をさらに備える、請求項2に記載の因果関係学習装置。
- 前記推定部は、CCM(Convergent Cross Mapping)によって前記因果関係を推定することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の因果関係学習装置。
- 前記CCMは、結果である前記測定値を表す遅延ベクトルに近い所定の個数の近傍遅延ベクトルを用意し、該近傍遅延ベクトルの時間に対応する原因である前記測定値を表す遅延ベクトルの重み付け平均を推定値として算出し、前記推定値および原因である前記測定値の相関係数によって前記因果関係を判定することを特徴とする、請求項4に記載の因果関係学習装置。
- 前記判定部は、前記2つのセンサの前記測定値から多項式モデルを生成し、前記多項式モデルによる推定値および前記測定値の間の誤差に基づいて、前記相関を判定することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の因果関係学習装置。
- 2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定する判定部と、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定する推定部と、
前記測定値から異常を検知する検知部と、
前記異常が検知されたセンサを含む前記因果関係に基づいて、前記異常の原因であるセンサを特定する特定部と、
を備える異常分析システム。 - 2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、
を有する因果関係学習方法。 - コンピュータに、
2つのセンサによって測定された測定値間の相関を判定するステップと、
前記相関が所定の基準よりも低い場合に、結果である前記測定値から原因である前記測定値を推定することによって前記2つのセンサ間の因果関係を判定するステップと、
を実行させる因果関係学習プログラム。
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