WO2017002835A1 - 磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板および磁気記録媒体 - Google Patents
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Abstract
磁気記録媒体基板用ガラスは、モル%表示にて、SiO2含有量が56~75%、Al2O3含有量が0.1~10%、Li2O含有量が0~2%、Na2OおよびK2Oの合計含有量が3~15%、MgO、CaOおよびSrOの合計含有量が14~35%、Ti酸化物含有量が0.20~2.50%、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.10~1.55%、Sb酸化物含有量が0~0.02%であり、SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}が0.02以下であり、かつガラス転移温度が600℃以上である。
Description
本出願は、2015年6月30日出願の日本特願2015-132038号の優先権を主張し、その全記載は、ここに特に開示として援用される。
本発明は、磁気記録媒体基板用ガラス、磁気記録媒体基板および磁気記録媒体に関する。
従来、ハードディスク等の磁気記録媒体用の基板(磁気記録媒体基板)としては、アルミニウム製の基板が広く用いられていた。しかしながら、近年、ハードディスクドライブにおいては、耐衝撃性に加えて、磁気記録媒体の高密度記録化と薄型化に伴い、磁気記録媒体基板の表面平滑性の向上と薄型化への要求はますます厳しくなっている。そのため、表面硬度、剛性に劣るアルミニウム製の基板で対応するには限界がある。そこでガラス製の磁気記録媒体基板の開発が、現在主流となっている(例えば特許文献1~4参照)。特許文献1~4の全記載は、ここに特に開示として援用される。
近年、磁気記録媒体のより一層の高密度記録化を図ることを目的として、磁気異方性エネルギーが高い磁性材料を含む磁気記録層を形成したガラス基板が開発されている。このような磁性材料からなる磁気記録層を形成するためには、通常、高温で成膜が行われるか、または成膜後に高温で熱処理が行われる(例えば特許文献2、3参照)。したがって、このようなガラス基板には、高温処理に耐え得る高い耐熱性、即ち高いガラス転移温度(以下、「Tg」とも記載する。)を有することが求められる。
一方、磁気記録媒体基板用のガラスには、泡の発生を抑制することも求められる。これは、以下の理由による。近年の高密度記録化の進行に伴い、データの書き込み・読み取りのためのヘッド(磁気ヘッド)と磁気記録媒体表面との距離(「フライングハイト」と呼ばれる。)を狭小化することが望まれている。しかし、磁気記録媒体用のガラス基板表面に泡に起因する凹凸が存在すると、磁気記録媒体の表面にこの凹凸が反映され、磁気記録媒体の表面平滑性は低下してしまう。表面平滑性に劣る磁気記録媒体表面に磁気ヘッドを近接させると、磁気ヘッドが磁気記録媒体表面に接触して磁気ヘッドが破損するおそれがあるため、接触を防ぐためにフライングハイトをある程度確保せざるを得ない。以上の点から、磁気記録媒体基板には、フライングハイトを狭小化するために、高い表面平滑性を有する磁気記録媒体を作製すべくガラス基板の泡を低減することが求められる。ガラス中の泡は、ガラス熔融中に泡を取り除く作用を奏する成分(「清澄剤」と呼ばれる。)を用いることにより低減することができる。従来、清澄剤としては、Sb酸化物(例えばSb2O3)が広く用いられていたが、Sb酸化物は環境へ負荷を与えてしまう成分であるため、その使用は控えるべきである。清澄剤としては、特許文献1~4に、Sn酸化物やCe酸化物の使用も提案されているが、耐熱性の向上(高Tg化)と泡の低減とを両立するためには、更なる改善が求められていた。
本発明の一態様は、耐熱性が高く、かつ泡が低減された磁気記録媒体基板用ガラスを提供することを目的とする。
本発明の一態様は、モル%表示にて、
SiO2含有量が56~75%、
Al2O3含有量が0.1~10%、
Li2O含有量が0~2%、
Na2OおよびK2Oの合計含有量が3~15%、
MgO、CaOおよびSrOの合計含有量が14~35%、
Ti酸化物含有量が0.20~2.50%、
Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.10~1.55%、
Sb酸化物含有量が0~0.02%、
であり、
SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}が0.02以下であり、かつ
ガラス転移温度が600℃以上である磁気記録媒体基板用ガラス、
に関する。
SiO2含有量が56~75%、
Al2O3含有量が0.1~10%、
Li2O含有量が0~2%、
Na2OおよびK2Oの合計含有量が3~15%、
MgO、CaOおよびSrOの合計含有量が14~35%、
Ti酸化物含有量が0.20~2.50%、
Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.10~1.55%、
Sb酸化物含有量が0~0.02%、
であり、
SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}が0.02以下であり、かつ
ガラス転移温度が600℃以上である磁気記録媒体基板用ガラス、
に関する。
上記磁気記録媒体基板用ガラスは、上述の組成を有することにより、ガラス転移温度が600℃以上の高い耐熱性と泡の低減とを両立することができる。この点について本発明者は、以下のように考えている。ただし以下は推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
Li2Oは、少量導入した場合でも耐熱性を低下(ガラス転移温度を低下)させる成分であるため、Li2Oの導入量を抑えること、具体的には、Li2Oの含有量を上記範囲とし、かつモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}を0.02以下とすることが、ガラスの耐熱性向上に寄与すると本発明者は考えている。しかし一方で、かかる組成を有するガラスは熔解性が低い傾向があり、そのためガラス熔融中に泡が除去し難くなると考えられる。Li2Oはガラスの熔融性を向上させる働きをする成分でもあるためである。このような組成のガラスにおいて、上記の量で含まれるTi酸化物、ならびに上記の合計含有量で含まれるSn酸化物およびCe酸化物が清澄剤として清澄作用を発揮することにより、ガラス熔融中の泡の除去を促進できると、本発明者は推察している。以上により、耐熱性の向上と泡の低減とを両立することが可能になると、本発明者は考えている。
Li2Oは、少量導入した場合でも耐熱性を低下(ガラス転移温度を低下)させる成分であるため、Li2Oの導入量を抑えること、具体的には、Li2Oの含有量を上記範囲とし、かつモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}を0.02以下とすることが、ガラスの耐熱性向上に寄与すると本発明者は考えている。しかし一方で、かかる組成を有するガラスは熔解性が低い傾向があり、そのためガラス熔融中に泡が除去し難くなると考えられる。Li2Oはガラスの熔融性を向上させる働きをする成分でもあるためである。このような組成のガラスにおいて、上記の量で含まれるTi酸化物、ならびに上記の合計含有量で含まれるSn酸化物およびCe酸化物が清澄剤として清澄作用を発揮することにより、ガラス熔融中の泡の除去を促進できると、本発明者は推察している。以上により、耐熱性の向上と泡の低減とを両立することが可能になると、本発明者は考えている。
上述した一態様によれば、耐熱性に優れ、かつ泡が低減された磁気記録媒体基板用ガラスを提供することができる。更に、一態様によれば、上記磁気記録媒体基板用ガラスからなる磁気記録媒体基板、およびこの基板を含む磁気記録媒体を提供することもできる。
[磁気記録媒体基板用ガラス]
本発明の一態様は、上述のガラス組成を有し、かつガラス転移温度が600℃以上の磁気記録媒体基板用ガラス(以下、単に「ガラス」とも記載する。)に関する。以下、上述のガラスについて、更に詳細に説明する。
本発明の一態様は、上述のガラス組成を有し、かつガラス転移温度が600℃以上の磁気記録媒体基板用ガラス(以下、単に「ガラス」とも記載する。)に関する。以下、上述のガラスについて、更に詳細に説明する。
<ガラス組成>
本発明では、ガラスのガラス組成を、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成はモル基準(モル%、モル比)で表示するものとする。
本発明におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)などの方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
本発明では、ガラスのガラス組成を、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されてガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいうものとする。また、特記しない限り、ガラス組成はモル基準(モル%、モル比)で表示するものとする。
本発明におけるガラス組成は、例えばICP-AES(Inductively Coupled Plasma - Atomic Emission Spectrometry)などの方法により求めることができる。定量分析は、ICP-AESを用い、各元素別に行われる。その後、分析値は酸化物表記に換算される。ICP-AESによる分析値は、例えば、分析値の±5%程度の測定誤差を含んでいることがある。したがって、分析値から換算された酸化物表記の値についても、同様に±5%程度の誤差を含んでいることがある。
また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%または含まないもしくは導入しないとは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、この構成成分の含有量が不純物レベル程度以下であることを指す。不純物レベル程度以下とは、例えば、0.01%未満であることを意味する。
以下に、上述のガラスのガラス組成について、更に詳細に説明する。なお、上述のガラスは、好ましくは非晶質性(アモルファス)のガラスである。
Tiは遷移金属であって、その酸化物であるTi酸化物は、上述のガラス組成のガラスにおいて、上述の合計含有量で含まれるSn酸化物および/またはCe酸化物とともに、清澄作用を発揮する成分(清澄剤として機能する成分)であると、本発明者は考えている。その含有量は、耐熱性が高く、かつ泡が低減された磁気記録媒体基板用ガラスを提供するために、0.20~2.50%の範囲とする。ガラス中の泡をより一層低減する観点から、Ti酸化物含有量は、0.30%以上であることが好ましく、0.40%以上であることがより好ましく、0.50%以上であることが更に好ましく、0.60%以上であることが一層好ましいく、0.70%以上であることがより一層好ましい。一方、ガラス中の泡をより一層低減する観点、ガラスの熔融性を向上させる観点およびガラスの着色抑制の観点から、Ti酸化物含有量は、2.40%以下であることが好ましく、2.30%以下であることがより好ましく、2.25%以下であることが更に好ましく、1.75%以下であることが一層好ましく、1.50%以下であることがより一層好ましい。
上述のガラスは、上記含有量のTi酸化物とともに、Sn酸化物およびCe酸化物からなる群から選ばれる一種以上の酸化物を含む。耐熱性が高く、かつ泡が低減された磁気記録媒体基板用ガラスを提供するために、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量は、0.10~1.55%の範囲とする。Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量は、ガラス中の泡をより一層低減する観点から、0.15%以上であることが好ましく、0.20%以上であることがより好ましい。また、同様の観点から、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量は、1.50%以下であることが好ましく、1.25%以下であることがより好ましく、1.00%以下であることが一層好ましい。上述のガラスは、Sn酸化物とCe酸化物の中で、Sn酸化物のみ含んでもよく、Ce酸化物のみ含んでもよく、Sn酸化物およびCe酸化物を含んでもよい。上述のガラスは、泡の一層の低減の観点からは、Sn酸化物およびCe酸化物を必須成分として含むことが好ましい。
泡の一層の低減の観点から、Sn酸化物の含有量は、好ましくは0.10%以上であり、より好ましくは0.15%以上であり、更に好ましくは0.20%以上である。また、同様の観点から、Sn酸化物の含有量は、好ましくは1.50%以下であり、より好ましくは1.20%以下であり、更に好ましくは1.00%以下であり、一層好ましくは0.80%以下である。
Ce酸化物の含有量は、泡の一層の低減の観点から、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上であり、更に好ましくは0.15%以上である。また、同様の観点から、Ce酸化物の含有量は、好ましくは0.70%以下であり、より好ましくは0.50%以下であり、更に好ましくは0.40%以下である。
Ce酸化物の含有量は、泡の一層の低減の観点から、好ましくは0.05%以上であり、より好ましくは0.10%以上であり、更に好ましくは0.15%以上である。また、同様の観点から、Ce酸化物の含有量は、好ましくは0.70%以下であり、より好ましくは0.50%以下であり、更に好ましくは0.40%以下である。
Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物は、いずれも酸化物を構成する金属原子が複数の価数を取り得るため、清澄工程の高温下で価数変化し酸素(O2)を放出することにより熔融ガラスから泡を浮上させて泡の除去を促進すると考えられる。更に、Ti酸化物に関して、本発明者は、清澄工程の後半の低温領域でTi酸化物が強力な酸化作用を示し、熔融ガラス中に存在する酸素を奪い、ガラス中の泡を消失させるのではないかと推察している。このことが、Sn酸化物およびCe酸化物とともに、上記の量でTi酸化物を含有させることにより、耐熱性向上のための組成調整により泡が除去し難いガラスから、泡を除去することが可能になる理由ではないかと、本発明者は推察している。中でもTi酸化物が清澄剤として機能し得ることは、従来知られていなかった新たな知見である。ただし以上は推察であって、本発明を何ら限定するものではない。
Ti酸化物、Sn酸化物、Ce酸化物は、好ましくは、TiO2、SnO2、CeO2であるが、他の形態の酸化物として含まれていてもよい。
先に記載したように、清澄剤として従来広く用いられていたSb酸化物は、環境負荷低減の観点から、使用を控えるべきである。そこで上述のガラスにおけるSb酸化物含有量は、0~0.02%の範囲とする。Sb酸化物含有量は、好ましくは0.01%以下である。上述のガラスは、Sb酸化物を実質的に含まないことが特に好ましい。
上述のガラスにおいて、Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量(Ti酸化物+Sn酸化物+Ce酸化物)は、泡の一層の低減の観点から、0.5%(詳しくは0.50%)以上であることが好ましく、0.8%(詳しくは0.80%)以上であることがより好ましく、1.1%(詳しくは1.10%)以上であることが一層好ましい。また、同様の観点から、上記合計含有量(Ti酸化物+Sn酸化物+Ce酸化物)は、4.0%(詳しくは4.00%)以下であることが好ましく、3.5%(詳しくは3.50%)以下であることがより好ましく、3.0%(詳しくは3.00%)以下であることが更に好ましく、2.5%(詳しくは2.50%)以下であることが一層好ましい。更に、同様の観点から、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量に対するTi酸化物含有量のモル比{Ti酸化物/(Sn酸化物+Ce酸化物)}は、0.4~10.0の範囲であることが好ましい。泡の更なる低減の観点からは、モル比{Ti酸化物/(Sn酸化物+Ce酸化物)}は、0.6以上であることがより好ましく、0.7以上であることが更に好ましく、0.8以上であることが一層好ましく、1.0以上であることが更に一層好ましい。同様の観点から、モル比{Ti酸化物/(Sn酸化物+Ce酸化物)}は、8.0以下であることがより好ましく、6.0以下であることが更に好ましく、5.0以下であることが一層好ましく、4.0以下であることが更に一層好ましい。
SiO2は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラス安定性および化学的耐久性(例えば耐酸性)を向上させる効果がある。これらの効果を得るために、上述のガラスは、SiO2を56~75%含有する。SiO2含有量は、好ましくは57%以上であり、より好ましくは58%以上であり、更に好ましくは59%以上であり、一層好ましくは60%以上である。また、SiO2含有量は、好ましくは73%以下であり、より好ましくは70%以下であり、更に好ましくは68%以下である。
Al2O3もガラスのネットワーク形成成分であり、化学的耐久性および耐熱性を向上させる効果がある。これらの効果を得るために、上述のガラスは、Al2O3を0.1~10%含有する。Al2O3含有量は、好ましくは9%以下であり、より好ましくは8%以下であり、更に好ましくは7%以下であり、一層好ましくは6%以下である。また、Al2O3含有量は、好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは0.3%以上である。
泡の一層の低減の観点から、上述のガラスにおいて、SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するTi酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量のモル比{(Ti酸化物+Sn酸化物+Ce酸化物)/(SiO2+Al2O3)}は、0.010~0.070の範囲であることが好ましく、0.010~0.050の範囲であることがより好ましく、0.015~0.040の範囲であることが更に好ましい。
また、ガラス中の泡を一層低減する観点やガラスの熔融性を向上させる観点から、SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するTi酸化物含有量のモル比{Ti酸化物/(SiO2+Al2O3)}は、0.030以下であることが好ましい。更に、モル比{Ti酸化物/(SiO2+Al2O3)}は、0.003~0.030の範囲であることがより好ましく、0.005~0.030の範囲であることが更に好ましく、0.005~0.025の範囲であることが一層好ましい。
また、ガラス中の泡を一層低減する観点やガラスの熔融性を向上させる観点から、SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するTi酸化物含有量のモル比{Ti酸化物/(SiO2+Al2O3)}は、0.030以下であることが好ましい。更に、モル比{Ti酸化物/(SiO2+Al2O3)}は、0.003~0.030の範囲であることがより好ましく、0.005~0.030の範囲であることが更に好ましく、0.005~0.025の範囲であることが一層好ましい。
Li2Oは、ガラスの熔融性および成形性を向上させる働きをするとともに熱膨張係数を増加させる働きをするが、ガラス転移温度を低下させる成分である。そのため耐熱性の向上(高Tg化)のために、上述のガラスのLi2O含有量は、0~2%である。耐熱性を一層向上させる上から、Li2O含有量の好ましい範囲は0~1.5%、更に好ましい範囲は0~1.2%、一層好ましい範囲は0~1.0%、より一層好ましい範囲は0~0.8%、更に一層好ましい範囲は0~0.5%であり、なお一層好ましい範囲は0~0.2%であり、Li2Oを実質的に含まないことが特に好ましい。
更に、耐熱性の向上(高Tg化)のために、上述のガラスにおいて、ガラスのネットワーク成分として含まれるSiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}は0.02以下であり、好ましくは0.01以下であり、更に好ましくは0である。
このように耐熱性向上のための組成調整がなされたガラスは、先に記載したように泡が除去し難くなると考えられるが、Ti酸化物の含有量、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量を上述の範囲とすることにより、耐熱性の向上と泡の低減を両立することが可能となる。
更に、耐熱性の向上(高Tg化)のために、上述のガラスにおいて、ガラスのネットワーク成分として含まれるSiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}は0.02以下であり、好ましくは0.01以下であり、更に好ましくは0である。
このように耐熱性向上のための組成調整がなされたガラスは、先に記載したように泡が除去し難くなると考えられるが、Ti酸化物の含有量、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量を上述の範囲とすることにより、耐熱性の向上と泡の低減を両立することが可能となる。
Na2OおよびK2Oは、ガラスの熔融性および成形性を向上させる働き、清澄時にガラスの粘性を低下させて、泡切れを促進させる働きをするとともに熱膨張係数を増加させる働きの大きい成分である。また、アルカリ成分中、Li2Oと比べてガラス転移温度を低下させる働きが小さい。上述のガラスにおいては、磁気記録媒体基板に望まれる均質性(未熔解物や残留泡のない状態)や熱膨張特性を付与する上から、Na2OおよびK2Oの合計含有量を3%以上とする。また、耐熱性向上および化学的耐久性(例えば耐酸性)向上の観点から、Na2OおよびK2Oの合計含有量は15%以下とする。Na2OおよびK2Oの合計含有量の好ましい範囲は5~13%、より好ましい範囲は6~13%、更に好ましい範囲は8~11%である。一態様では、Na2O含有量は、好ましくは2~11%の範囲であり、より好ましくは3~10%の範囲である。また、一態様では、K2O含有量は、好ましくは0~13%の範囲であり、より好ましくは2~10%の範囲であり、更に好ましくは2.5~8%である。
上述のガラスは、イオン交換することなく磁気記録媒体基板として使用してもよく、イオン交換を行った後に磁気記録媒体基板として使用してもよい。イオン交換を行う場合、Na2Oはイオン交換を担う成分として好適な成分である。また、Na2OとK2Oとをガラス成分として共存させ、混合アルカリ効果によってアルカリ溶出抑制効果を得ることもできる。以上の点および耐熱性や化学的耐久性の向上の点から、Na2OおよびK2Oの合計含有量を上記範囲にした上で、Na2Oの含有量の範囲を0~5%とすることが好ましく、0.1~5%とすることがより好ましく、1~5%とすることがより好ましく、2~5%とすることがより好ましい。K2Oの含有量の範囲は1~10%とすることが好ましく、1~9%とすることがより好ましく、1~8%とすることが更に好ましく、3~8%とすることが一層好ましく、5~8%とすることがより一層好ましい。
アルカリ土類金属成分であるMgO、CaO、SrOは、いずれもガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化し、熱膨張係数を大きくする働きをする。かかる働きを得るために、上述のガラスにおけるMgO、CaOおよびSrOの合計含有量は、14~35%とする。上記合計含有量は、より好ましくは15~30%の範囲であり、更に好ましくは15~25%の範囲である。
ところで、モバイル用途に使用される磁気記録媒体の基板には、持ち運び時の衝撃に耐える高い剛性および硬度を有すること、ならびに軽量であることが求められる。したがって、かかる基板を製造するためのガラスは、高ヤング率、高比弾性率、低比重であることが望ましい。上記アルカリ土類金属成分のうち、MgO、CaOは、剛性および硬度を高めるとともに、比重の増加を抑える働きがある。したがって、高ヤング率、高比弾性率、低比重のガラスを得る上で非常に有用な成分である。特にMgOは高ヤング率化、低比重化に有効であり、CaOは高熱膨張化に有効な成分である。したがって上述のガラスにおいて、ガラスを高ヤング率化、高比弾性率化、低比重化する上から、MgO、CaOおよびSrOの合計含有量に対するMgOおよびCaOの合計含有量のモル比{(MgO+CaO)/(MgO+CaO+SrO)}は、0.85~1.0の範囲であることが好ましく、0.9~1.0の範囲であることがより好ましい。
高ヤング率化、高比弾性率化、低比重化と化学的耐久性の維持の観点から、MgOの含有量の好ましい範囲は1~23%であり、MgOの含有量の好ましい下限は2%、より好ましい下限は5%であり、MgOの含有量の好ましい上限は20%、より好ましい上限は18%であり、更に好ましい上限は15%であり、一層好ましい上限は12%である。
高ヤング率化、高比弾性率化、低比重化、高熱膨張化と化学的耐久性の維持の観点から、CaOの含有量の好ましい範囲は6~21%であり、より好ましい範囲は10~20%、更に好ましい範囲は10~18%、一層好ましい範囲は10~15%である。
なお、上記観点からMgOおよびCaOの合計含有量の範囲を15~35%とすることが好ましく、15~32%とすることがより好ましく、15~30%とすることが更に好ましく、15~25%とすることが一層好ましく、15~20%とすることがより一層好ましい。
高ヤング率化、高比弾性率化、低比重化、高熱膨張化と化学的耐久性の維持の観点から、CaOの含有量の好ましい範囲は6~21%であり、より好ましい範囲は10~20%、更に好ましい範囲は10~18%、一層好ましい範囲は10~15%である。
なお、上記観点からMgOおよびCaOの合計含有量の範囲を15~35%とすることが好ましく、15~32%とすることがより好ましく、15~30%とすることが更に好ましく、15~25%とすることが一層好ましく、15~20%とすることがより一層好ましい。
SrOは上記効果を有するが、過剰に含有させると比重が増大する。また、MgOやCaOと比較し、原料コストも増大する。そのため、SrOの含有量は0~5%の範囲とすることが好ましく、0~2%の範囲とすることがより好ましく、0~1%の範囲とすることが更に好ましく、0~0.5%の範囲とすることがよりいっそう好ましい。SrOは、ガラス成分として導入しなくてもよい、すなわち、上述のガラスは、SrOを実質的に含まないガラスであってもよい。
BaOも、上記の他のアルカリ土類金属成分と同様に上記効果を有するが、過剰に含有させると比重が大きくなる、ヤング率が低下する、化学的耐久性が低下する、比重が増加する、原料コストが増大する、といった傾向がある。また、BaOを多量に含むガラス基板は、長期使用中にガラス表面が変質しやすい傾向がある。これは、ガラス中のBaが大気中の二酸化炭素と反応し、基板表面にBaCO3が析出し付着物となるためと考えられる。このような付着物の発生を低減ないし防止するために、BaOを過剰に含有させないことが望ましい。以上の観点から、上述のガラスにおけるBaOの含有量は0~5%とすることが好ましい。BaOの含有量のより好ましい範囲は0~3%、更に好ましい範囲は0~2%、一層好ましい範囲は0~1%、より一層好ましい範囲は0~0.5%である。BaOは、ガラス成分として導入しなくてもよい、すなわち、上述のガラスは、BaOを実質的に含まないガラスであってもよい。
上記観点からSrOおよびBaOの合計含有量を0~5%とすることが好ましく、0~3%とすることがより好ましく、0~2%とすることが更に好ましく、0~1%とすることが一層好ましく、0~0.5%とすることがより一層好ましい。
上記観点からSrOおよびBaOの合計含有量を0~5%とすることが好ましく、0~3%とすることがより好ましく、0~2%とすることが更に好ましく、0~1%とすることが一層好ましく、0~0.5%とすることがより一層好ましい。
上記のように、MgOおよびCaOはヤング率、熱膨張係数を高める効果がある。これに対しAl2O3はヤング率を高める働きが小さく、熱膨張係数を減少させる働きをする。そこで高ヤング率、高熱膨張のガラスを得る上から、上述のガラスでは、MgOおよびCaOの合計含有量に対するAl2O3含有量のモル比{Al2O3/(MgO+CaO)}を0~0.4の範囲とすることが好ましく、0.01~0.2の範囲とすることがより好ましく、0.01~0.1の範囲とすることが一層好ましい。
ZrO2は、ガラス転移温度を高め耐熱性を改善する働きや、化学的耐久性(例えば耐アルカリ性)を改善する働きが大きく、また、ヤング率を高め高剛性化する効果も有する。ZrO2の含有量の好ましい範囲は2~9%、より好ましい範囲は2~8%、更に好ましい範囲は2~7%、一層好ましい範囲は2~6%、より一層好ましい範囲は2~5%、更に一層好ましい範囲は3~5%である。
ZnOは、ガラスの熔融性、成形性およびガラス安定性を良化し、剛性を高め、熱膨張係数を大きくする働きをする成分である。上述のガラスにおけるZnOの含有量は、好ましくは0~5%の範囲である。耐熱性、化学的耐久性を良好な状態に維持する上から、ZnOの含有量のより好ましい範囲は0~4%、更に好ましい範囲は0~3%、一層好ましい範囲は0~2%、より一層好ましい範囲は0~1%、更に一層好ましい範囲は0~0.5%であり、ZnOを実質的に含有させなくてもよい。
La2O3、Y2O3、Yb2O3、Ta2O5、Nb2O5、HfO2は、比重を高める力が大きいため、比重増大を抑える上から、それぞれの成分の含有量を0~4%の範囲にすることが好ましく、0~3%の範囲にすることがより好ましく、0~2%の範囲にすることが更に好ましく、0~1%の範囲にすることが一層好ましく、0~0.5%の範囲にすることがより一層好ましい。La2O3、Y2O3、Yb2O3、Ta2O5、Nb2O5、HfO2は、ガラス成分として導入しなくてもよい。
その他、導入可能なガラス成分として、B2O3、P2O5などがある。
B2O3は、脆さを低下させるとともに、熔融性を向上させる働きをするが、過剰導入により化学的耐久性が低下するため、その含有量の好ましい範囲は0~3%、より好ましい範囲は0~1%、さらに好ましい範囲は0~0.5%であり、導入しないことが一層好ましい。
P2O5は、本発明の目的を損なわない範囲で少量導入することができるが、過剰導入により化学的耐久性が低下するため、その含有量を0~1%とすることが好ましく、0~0.5%とすることがより好ましく、0~0.3%とすることが更に好ましく、導入しないことが一層好ましい。
B2O3は、脆さを低下させるとともに、熔融性を向上させる働きをするが、過剰導入により化学的耐久性が低下するため、その含有量の好ましい範囲は0~3%、より好ましい範囲は0~1%、さらに好ましい範囲は0~0.5%であり、導入しないことが一層好ましい。
P2O5は、本発明の目的を損なわない範囲で少量導入することができるが、過剰導入により化学的耐久性が低下するため、その含有量を0~1%とすることが好ましく、0~0.5%とすることがより好ましく、0~0.3%とすることが更に好ましく、導入しないことが一層好ましい。
Pb、Cd、Asなどは環境に悪影響を与える物質なので、これらの導入は避けることが好ましい。
上述のガラスは、所定のガラス組成が得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、水酸化物などのガラス原料を秤量、調合し、十分混合して、熔融容器内で、例えば1400~1600℃の範囲で加熱、熔解し、清澄、攪拌して十分泡切れがなされた均質化した熔融ガラスを成形することにより作製することができる。例えば、ガラス原料を熔解槽において1400~1550℃で加熱して熔解し、得られた熔融ガラスを清澄槽において昇温して1450~1600℃に保持した後、降温して1200~1400℃に保持して清澄することが好ましい。1450~1600℃に保持する時間をTH、1200~1400℃に保持する時間をTLとすると、TL/THを0.5以下にすることが好ましく、0.2以下にすることがより好ましい。また、TL/THは、0.01より大きくすることが好ましく、0.02より大きくすることが更に好ましく、0.03より大きくすることが一層好ましく、0.04より大きくすることがより一層好ましい。1450~1600℃の範囲から1200~1400℃の範囲へ降温する際の温度差は、30℃以上にすることが好ましく、50℃以上にすることがより好ましく、80℃以上にすることが更に好ましく、100℃以上にすることが一層好ましく、150℃以上にすることがより一層好ましい。なお、温度差の上限は、例えば400℃である。
<ガラス特性>
以上説明した組成を有する上述のガラスは、高い耐熱性を有し、好ましくは、高剛性、高熱膨張係数も有することができる。以下、上述のガラスが有する好ましい物性について、順次説明する。
以上説明した組成を有する上述のガラスは、高い耐熱性を有し、好ましくは、高剛性、高熱膨張係数も有することができる。以下、上述のガラスが有する好ましい物性について、順次説明する。
1.ガラス転移温度
前述のとおり、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料の導入などによって磁気記録媒体の高記録密度化を図る場合、磁性材料の高温処理などにおいて、磁気記録媒体基板は高温下に晒されることになる。その際、基板の平坦性が損なわれないようにするため、磁気記録媒体基板用ガラスには優れた耐熱性を有することが求められる。耐熱性の指標としてはガラス転移温度を用いることができ、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、先に記載した組成調整により、600℃以上のガラス転移温度を有する。これにより、高温処理後にも優れた平坦性を維持することができる。したがって、上述のガラスによれば、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体の作製に好適な基板を提供することができる。ただし、上述のガラスは、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体の基板用ガラスに限定されるものではなく、各種磁性材料を備えた磁気記録媒体の作製に用いることができる。
ガラス転移温度の好ましい範囲は620℃以上、より好ましい範囲は630℃以上、更に好ましい範囲は650℃以上、一層好ましい範囲は660℃以上、より一層好ましい範囲は670℃以上、更に一層好ましい範囲は675℃以上、なお一層好ましい範囲は680℃以上である。ガラス転移温度の上限は、例えば750℃程度であるが、ガラス転移温度が高いほど耐熱性の観点から好ましいため、特に限定されるものではない。
前述のとおり、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料の導入などによって磁気記録媒体の高記録密度化を図る場合、磁性材料の高温処理などにおいて、磁気記録媒体基板は高温下に晒されることになる。その際、基板の平坦性が損なわれないようにするため、磁気記録媒体基板用ガラスには優れた耐熱性を有することが求められる。耐熱性の指標としてはガラス転移温度を用いることができ、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、先に記載した組成調整により、600℃以上のガラス転移温度を有する。これにより、高温処理後にも優れた平坦性を維持することができる。したがって、上述のガラスによれば、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体の作製に好適な基板を提供することができる。ただし、上述のガラスは、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含む磁気記録層を有する磁気記録媒体の基板用ガラスに限定されるものではなく、各種磁性材料を備えた磁気記録媒体の作製に用いることができる。
ガラス転移温度の好ましい範囲は620℃以上、より好ましい範囲は630℃以上、更に好ましい範囲は650℃以上、一層好ましい範囲は660℃以上、より一層好ましい範囲は670℃以上、更に一層好ましい範囲は675℃以上、なお一層好ましい範囲は680℃以上である。ガラス転移温度の上限は、例えば750℃程度であるが、ガラス転移温度が高いほど耐熱性の観点から好ましいため、特に限定されるものではない。
2.泡密度
上述のガラスは、先に記載した組成により、高い耐熱性と泡の低減とを両立することができる。耐熱性の指標であるガラス転移温度については、先に記載した通りである。ガラス中の泡に関しては、単位質量あたりの泡の密度が、光学顕微鏡(倍率40~100倍)により観察される直径0.03mm超の泡の密度として、好ましくは50個/kg未満であり、より好ましくは20個/kg未満であり、更に好ましくは10個/kg未満であり、一層好ましくは2個/kg以下であり、最も好ましくは0個/kgである。
上述のガラスは、先に記載した組成により、高い耐熱性と泡の低減とを両立することができる。耐熱性の指標であるガラス転移温度については、先に記載した通りである。ガラス中の泡に関しては、単位質量あたりの泡の密度が、光学顕微鏡(倍率40~100倍)により観察される直径0.03mm超の泡の密度として、好ましくは50個/kg未満であり、より好ましくは20個/kg未満であり、更に好ましくは10個/kg未満であり、一層好ましくは2個/kg以下であり、最も好ましくは0個/kgである。
3.熱膨張係数
ところで、磁気記録媒体を組み込んだHDD(ハードディスクドライブ)は、通常、中央部分をスピンドルモーターのスピンドルで押さえて磁気記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、磁気記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料の各々の熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と磁気記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として磁気記録媒体が変形してしまう現象が起きることがある。このような現象が生じると書き込んだ情報をヘッドが読み出せなくなってしまい、記録再生の信頼性を損なう原因となる。したがって磁気記録媒体の信頼性を高めるには、ガラス基板には、スピンドル材料(例えばステンレスなど)と同程度の高い熱膨張係数を有することが求められる。一般にHDDのスピンドル材料は、100~300℃の温度範囲において70×10-7/℃以上の平均線膨張係数(熱膨張係数)を有するものであるところ、上述の磁気記録媒体基板用ガラスによれば、100~300℃の温度範囲における平均線膨張係数を60×10-7/℃以上にすることができ、上記信頼性を向上することができる。上記平均線膨張係数の好ましい範囲は64×10-7/℃以上、より好ましい範囲は67×10-7/℃以上、更に好ましい範囲は70×10-7/℃以上、一層好ましい範囲は73×10-7/℃以上である。上記平均線膨張係数の上限は、スピンドル材料の熱膨張特性を考慮すると、例えば120×10-7/℃程度であることが好ましく、100×10-7/℃であることがより好ましく、88×10-7/℃であることが更に好ましい。
ところで、磁気記録媒体を組み込んだHDD(ハードディスクドライブ)は、通常、中央部分をスピンドルモーターのスピンドルで押さえて磁気記録媒体そのものを回転させる構造となっている。そのため、磁気記録媒体基板とスピンドル部分を構成するスピンドル材料の各々の熱膨張係数に大きな差があると、使用時に周囲の温度変化に対してスピンドルの熱膨張・熱収縮と磁気記録媒体基板の熱膨張・熱収縮にずれが生じてしまい、結果として磁気記録媒体が変形してしまう現象が起きることがある。このような現象が生じると書き込んだ情報をヘッドが読み出せなくなってしまい、記録再生の信頼性を損なう原因となる。したがって磁気記録媒体の信頼性を高めるには、ガラス基板には、スピンドル材料(例えばステンレスなど)と同程度の高い熱膨張係数を有することが求められる。一般にHDDのスピンドル材料は、100~300℃の温度範囲において70×10-7/℃以上の平均線膨張係数(熱膨張係数)を有するものであるところ、上述の磁気記録媒体基板用ガラスによれば、100~300℃の温度範囲における平均線膨張係数を60×10-7/℃以上にすることができ、上記信頼性を向上することができる。上記平均線膨張係数の好ましい範囲は64×10-7/℃以上、より好ましい範囲は67×10-7/℃以上、更に好ましい範囲は70×10-7/℃以上、一層好ましい範囲は73×10-7/℃以上である。上記平均線膨張係数の上限は、スピンドル材料の熱膨張特性を考慮すると、例えば120×10-7/℃程度であることが好ましく、100×10-7/℃であることがより好ましく、88×10-7/℃であることが更に好ましい。
4.ヤング率
磁気記録媒体の変形としては、HDDの温度変化による変形の他、高速回転による変形がある。高速回転時の変形を抑制する上からは、磁気記録媒体基板用ガラスのヤング率を高めることが望まれる。上述の磁気記録媒体基板用ガラスによれば、ヤング率を75GPa以上にすることができ、高速回転時の基板変形を抑制し、磁気異方性エネルギーが比較的高い磁性材料を備えた高記録密度化された磁気記録媒体においても、データの読み取り、書き込みを正確に行うことができる。
ヤング率の好ましい範囲は75GPa以上、より好ましい範囲は78GPa以上であり、更に好ましい範囲は80GPa以上である。ヤング率の上限は、例えば95GPa程度であるが特に限定されるものではない。
磁気記録媒体の変形としては、HDDの温度変化による変形の他、高速回転による変形がある。高速回転時の変形を抑制する上からは、磁気記録媒体基板用ガラスのヤング率を高めることが望まれる。上述の磁気記録媒体基板用ガラスによれば、ヤング率を75GPa以上にすることができ、高速回転時の基板変形を抑制し、磁気異方性エネルギーが比較的高い磁性材料を備えた高記録密度化された磁気記録媒体においても、データの読み取り、書き込みを正確に行うことができる。
ヤング率の好ましい範囲は75GPa以上、より好ましい範囲は78GPa以上であり、更に好ましい範囲は80GPa以上である。ヤング率の上限は、例えば95GPa程度であるが特に限定されるものではない。
5.比弾性率・比重
磁気記録媒体を高速回転させたとき、変形しにくい基板を提供する上で、磁気記録媒体基板用ガラスの比弾性率を28MNm/kg以上にすることが好ましく、30MNm/kg以上にすることがより好ましい。その上限は、例えば35MNm/kg程度であるが特に限定されるものではない。比弾性率はガラスのヤング率を密度で除したものである。ここで密度とはガラスの比重に、g/cm3という単位を付けた量と考えればよい。ガラスの低比重化によって、比弾性率を大きくすることができることに加え、基板を軽量化することができる。基板の軽量化により、磁気記録媒体の軽量化がなされ、磁気記録媒体の回転に要する電力を減少させ、HDDの消費電力を抑えることができる。磁気記録媒体基板用ガラスの比重の好ましい範囲は3.0未満、より好ましい範囲は2.9以下、更に好ましい範囲は2.85以下であり、一層好ましい範囲は2.80以下である。
磁気記録媒体を高速回転させたとき、変形しにくい基板を提供する上で、磁気記録媒体基板用ガラスの比弾性率を28MNm/kg以上にすることが好ましく、30MNm/kg以上にすることがより好ましい。その上限は、例えば35MNm/kg程度であるが特に限定されるものではない。比弾性率はガラスのヤング率を密度で除したものである。ここで密度とはガラスの比重に、g/cm3という単位を付けた量と考えればよい。ガラスの低比重化によって、比弾性率を大きくすることができることに加え、基板を軽量化することができる。基板の軽量化により、磁気記録媒体の軽量化がなされ、磁気記録媒体の回転に要する電力を減少させ、HDDの消費電力を抑えることができる。磁気記録媒体基板用ガラスの比重の好ましい範囲は3.0未満、より好ましい範囲は2.9以下、更に好ましい範囲は2.85以下であり、一層好ましい範囲は2.80以下である。
[磁気記録媒体基板]
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は、上述の磁気記録媒体基板用ガラスからなる。上述の磁気記録媒体基板は、耐熱性に優れ(即ち、ガラス転移温度が600℃以上)、かつ泡が低減された磁気記録媒体基板であることができる。
本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板は、上述の磁気記録媒体基板用ガラスからなる。上述の磁気記録媒体基板は、耐熱性に優れ(即ち、ガラス転移温度が600℃以上)、かつ泡が低減された磁気記録媒体基板であることができる。
上述の磁気記録媒体基板は、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを調製し、この熔融ガラスをプレス成形法、ダウンドロー法またはフロート法のいずれかの方法により板状に成形し、得られた板状のガラスを加工する工程を経て製造することができる。例えば、プレス成形方法では、ガラス流出パイプから流出する熔融ガラスを所定体積に切断し、所要の熔融ガラス塊を得て、これをプレス成形型でプレス成形して薄肉円盤状の基板ブランクを作製する。次いで、得られた基板ブランクに中心孔を設けたり、内外周加工、両主表面にラッピング、ポリッシングを施す。次いで、酸洗浄およびアルカリ洗浄を含む洗浄工程を経て、ディスク状の基板を得ることができる。
上述の磁気記録媒体基板は、一態様では、表面および内部の組成が均質である。ここで、表面および内部の組成が均質とは、イオン交換が行われていない(即ち、イオン交換層を有さない)ことを意味する。例えば、磁気記録媒体を組み込んだHDD(ハードディスクドライブ)が外部衝撃を受け難い環境下で用いられる場合などにおいて、イオン交換層を有さない磁気記録媒体基板を用いることができる。もっとも、上述の磁気記録媒体基板は、耐熱性が高く、かつ泡が低減されているため、イオン交換層を有さなくとも各種HDDへの適用に適する。なお、イオン交換層を有さない磁気記録媒体基板は、イオン交換処理を施していないため、製造コストを大幅に低減できる。
また、上述の磁気記録媒体基板は、一態様では、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。イオン交換層は圧縮応力を示すため、イオン交換層の有無は、主表面に対して垂直に基板を破断し、破断面においてバビネ法により応力プロファイルを得ることによって確認することができる。「主表面」とは、基板の磁気記録層が設けられる面または設けられている面である。こうした面は、磁気記録媒体基板の表面のうち、最も面積の広い面であることから、主表面と呼ばれ、ディスク状の磁気記録媒体の場合、ディスクの円形状の表面(中心孔がある場合は中心孔を除く。)に相当する。また、イオン交換層の有無は、基板表面からアルカリ金属イオンの深さ方向の濃度分布を測定する方法等によっても確認することができる。
イオン交換層は、高温下、基板表面にアルカリ塩を接触させ、このアルカリ塩中のアルカリ金属イオンと基板中のアルカリ金属イオンを交換させることにより形成することができる。イオン交換(「強化処理」、「化学強化」とも呼ばれる。)については、公知技術を適用することができ、一例として、WO2011/019010A1の段落0068~0069を参照できる。
上述の磁気記録媒体基板は、例えば厚みが1.5mm以下、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは1mm以下であり、厚みの下限は好ましくは0.3mmである。また、上述の磁気記録媒体基板は、好ましくは中心孔を有するディスク形状である。
[磁気記録媒体]
本発明の一態様は、上述の磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体は、磁気ディスク、ハードディスクなどと呼ばれ、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコンなどの内部記憶装置(固定ディスクなど)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置などに好適である。
磁気記録媒体は、例えば、磁気記録媒体基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば、磁気記録媒体基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、磁気記録媒体基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。上記成膜後、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりC2H4を用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
本発明の一態様は、上述の磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体は、磁気ディスク、ハードディスクなどと呼ばれ、デスクトップパソコン、サーバ用コンピュータ、ノート型パソコン、モバイル型パソコンなどの内部記憶装置(固定ディスクなど)、画像および/または音声を記録再生する携帯記録再生装置の内部記憶装置、車載オーディオの記録再生装置などに好適である。
磁気記録媒体は、例えば、磁気記録媒体基板の主表面上に、主表面に近いほうから順に、少なくとも付着層、下地層、磁性層(磁気記録層)、保護層、潤滑層が積層された構成になっている。
例えば、磁気記録媒体基板を、真空引きを行った成膜装置内に導入し、DC(Direct Current)マグネトロンスパッタリング法にてAr雰囲気中で、磁気記録媒体基板の主表面上に付着層から磁性層まで順次成膜する。付着層としては例えばCrTi、下地層としては例えばCrRuを用いることができる。上記成膜後、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition)法によりC2H4を用いて保護層を成膜し、同一チャンバ内で、表面に窒素を導入する窒化処理を行うことにより、磁気記録媒体を形成することができる。その後、例えばPFPE(ポリフルオロポリエーテル)をディップコート法により保護層上に塗布することにより、潤滑層を形成することができる。
先に説明したように、磁気記録媒体のより一層の高密度記録化のためには、磁気記録層は、磁気異方性エネルギーの高い磁性材料を含むことが好ましい。この点から好ましい磁性材料としては、Fe-Pt系磁性材料またはCo-Pt系磁性材料を挙げることができる。なおここで「系」とは、含有することを意味する。即ち、上述の磁気記録媒体は、磁気記録層としてFeおよびPt、またはCoおよびPtを含む磁気記録層を有することが好ましい。かかる磁性材料を含む磁気記録層およびその成膜方法については、WO2011/019010A1の段落0074および同公報の実施例の記載を参照できる。また、そのような磁気記録層を有する磁気記録媒体は、エネルギーアシスト記録方式と呼ばれる記録方式による磁気記録装置に適用することが好ましい。エネルギーアシスト記録方式の中で、レーザー光の照射により磁化反転をアシストする記録方式は熱アシスト記録方式、マイクロ波によりアシストする記録方式はマイクロ波アシスト記録方式と呼ばれる。それらの詳細については、WO2011/019010A1の段落0075を参照できる。
ところで近年、磁気ヘッドへDFH(Dynamic Flying Height)機構を搭載させることにより、磁気ヘッドの記録再生素子部と磁気記録媒体表面との間隙の大幅な狭小化(低浮上量化)を達成し、更なる高記録密度化を図ることが行われている。DFH機構とは、磁気ヘッドの記録再生素子部の近傍に極小のヒーター等の加熱部を設けて、素子部周辺のみを媒体表面方向に向けて突き出す機能である。こうすることで、磁気ヘッドと媒体の磁気記録層との距離(フライングハイト)が近づくため、より小さい磁性粒子の信号も拾うことができるようになり、更なる高記録密度化を達成することが可能となる。しかしその一方で、磁気ヘッドの素子部と媒体表面との間隙(フライングハイト)が極めて小さくなる。上述の磁気記録媒体は、基板の泡が低減されているため、高い表面平滑性を有することができる。したがって、フライングハイトが極狭小化されたDFH機構を搭載した磁気記録装置にも好適である。
上述の磁気記録媒体基板(例えば磁気ディスク基板)、磁気記録媒体(例えば磁気ディスク)とも、その寸法に特に制限はないが、例えば、高記録密度化が可能であるため媒体および基板を小型化することも可能である。例えば、公称直径2.5インチは勿論、更に小径(例えば1インチ、1.8インチ)、または3インチ、3.5インチ等の寸法のものとすることができる。
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
[実施例No.1~No.15]
表1に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持して清澄し、熔融ガラスを得た。
表1に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持して清澄し、熔融ガラスを得た。
(1)泡密度ランク
上記で得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)を作製した。このガラス板の表面を平坦かつ平滑に研磨し、研磨面からガラス内部を光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)し、直径が0.03mm超の泡(以下、単に「泡」と記載する。)の数をカウントした。拡大観察した領域に相当するガラスの質量で、カウントした泡の数を割ったものを泡の密度とした。
泡密度ランクを、上記方法で求めた泡の密度に応じてSランク~Fランクで評価した。具体的には、泡密度が0個/kgのものをSランク、泡が存在し、泡密度が2個/kg以下のものをAランク、泡密度が2個/kg超10個/kg未満のものをBランク、泡密度が10個/kg以上20個/kg未満のものをCランク、泡密度が20個/kg以上50個/kg未満のものをDランク、泡密度が50個/kg以上80個未満のものをEランク、泡密度が80個/kg以上のものをFランクとした。
上記で得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)を作製した。このガラス板の表面を平坦かつ平滑に研磨し、研磨面からガラス内部を光学顕微鏡で拡大観察(倍率40~100倍)し、直径が0.03mm超の泡(以下、単に「泡」と記載する。)の数をカウントした。拡大観察した領域に相当するガラスの質量で、カウントした泡の数を割ったものを泡の密度とした。
泡密度ランクを、上記方法で求めた泡の密度に応じてSランク~Fランクで評価した。具体的には、泡密度が0個/kgのものをSランク、泡が存在し、泡密度が2個/kg以下のものをAランク、泡密度が2個/kg超10個/kg未満のものをBランク、泡密度が10個/kg以上20個/kg未満のものをCランク、泡密度が20個/kg以上50個/kg未満のものをDランク、泡密度が50個/kg以上80個未満のものをEランク、泡密度が80個/kg以上のものをFランクとした。
(2)ガラス転移温度Tg、熱膨張係数
各ガラスのガラス転移温度Tgおよび100~300℃における平均線膨張係数αを、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定した。
各ガラスのガラス転移温度Tgおよび100~300℃における平均線膨張係数αを、熱機械分析装置(TMA;Thermomechanical Analysis)を用いて測定した。
(3)ヤング率
各ガラスのヤング率を超音波法にて測定した。
各ガラスのヤング率を超音波法にて測定した。
(4)比重
各ガラスの比重をアルキメデス法にて測定した。
各ガラスの比重をアルキメデス法にて測定した。
(5)比弾性率
上記(3)で得られたヤング率および(4)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
上記(3)で得られたヤング率および(4)で得られた比重から、比弾性率を算出した。
以上の結果を表1に示す。
表1に示されるように、実施例の磁気記録媒体基板用ガラスは、いずれもガラス転移温度(Tg)が600℃以上、かつ泡密度ランクがB以上(泡密度が10個/kg未満)であった。すなわち、これらの磁気記録媒体基板用ガラスは、耐熱性が高く、泡が極めて少ない磁気記録媒体基板用ガラスであることが確認された。
[実施例No.A1~A11、比較例1~5]
表2に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持して清澄し、熔融ガラスを得た。表2に示す組成は、Ti酸化物(TiO2)、Sn酸化物(SnO2)およびCe酸化物(CeO2)以外の成分量を固定し、Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の量を変化させた組成である。こうして得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)をプレス成形により作製し、これらのガラス板を研削・研磨加工して平坦かつ平滑で透明なガラス基板を複数枚得た。
各ガラスについて、先に記載した方法により泡密度ランクの評価およびガラス転移温度の測定を行った。結果を表2に示す。
表2に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持して清澄し、熔融ガラスを得た。表2に示す組成は、Ti酸化物(TiO2)、Sn酸化物(SnO2)およびCe酸化物(CeO2)以外の成分量を固定し、Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の量を変化させた組成である。こうして得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)をプレス成形により作製し、これらのガラス板を研削・研磨加工して平坦かつ平滑で透明なガラス基板を複数枚得た。
各ガラスについて、先に記載した方法により泡密度ランクの評価およびガラス転移温度の測定を行った。結果を表2に示す。
表2に示されるように、実施例No.A1~A11の磁気記録媒体基板用ガラスは、いずれもガラス転移温度(Tg)が600℃以上、かつ泡密度ランクがB以上(泡密度が10個/kg未満)であった。すなわち、これらの磁気記録媒体基板用ガラスは、耐熱性が高く、泡が極めて少ない磁気記録媒体基板用ガラスであることが確認された。
これに対して、比較例1~5は、Ti酸化物(TiO2)、Sn酸化物(SnO2)およびCe酸化物(CeO2)以外の成分量が実施例No.A1~No.A11と同等であるため、ガラス転移温度(Tg)は600℃以上と高いものの、泡密度ランクがEランク以下(泡密度が50個/kg以上)であり、泡の数が低減されず、実用に適さないことが確認された。特に、Ti酸化物(TiO2)を含有しない比較例1は、他の比較例2~5と比べても泡密度が大きく、泡密度ランクがFランクであることが確認された。
[実施例No.B1~B11、比較例6~10]
表3に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持して清澄し、熔融ガラスを得た。表3に示す組成は、Ti酸化物(TiO2)、Sn酸化物(SnO2)およびCe酸化物(CeO2)以外の成分量を固定し、Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の量を変化させた組成である。こうして得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)をプレス成形により作製し、これらのガラス板を研削・研磨加工して平坦かつ平滑で透明なガラス基板を複数枚得た。
各ガラスについて、先に記載した方法により泡密度ランクの評価およびガラス転移温度の測定を行った。結果を表3に示す。
表3に示す組成のガラスが得られるように、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などの原料を秤量し、混合して調合原料とした。この調合原料を熔融槽に投入して1400~1600℃の範囲で加熱、熔解して得られた熔融ガラスを、清澄槽において1400~1550℃で6時間保持した後、温度を低下(降温)させて1200~1400℃の範囲に1時間保持して清澄し、熔融ガラスを得た。表3に示す組成は、Ti酸化物(TiO2)、Sn酸化物(SnO2)およびCe酸化物(CeO2)以外の成分量を固定し、Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の量を変化させた組成である。こうして得られた熔融ガラスから厚さ約1.2mmのガラス板(基板ブランク)をプレス成形により作製し、これらのガラス板を研削・研磨加工して平坦かつ平滑で透明なガラス基板を複数枚得た。
各ガラスについて、先に記載した方法により泡密度ランクの評価およびガラス転移温度の測定を行った。結果を表3に示す。
表3に示されるように、実施例No.B1~B11の磁気記録媒体基板用ガラスは、いずれもガラス転移温度(Tg)が600℃以上、かつ泡密度ランクがB以上(泡密度が10個/kg未満)であった。すなわち、これらの磁気記録媒体基板用ガラスは、耐熱性が高く、泡が極めて少ない磁気記録媒体基板用ガラスであることが確認された。
これに対して、比較例6~10は、Ti酸化物(TiO2)、Sn酸化物(SnO2)およびCe酸化物(CeO2)以外の成分量が実施例No.B1~No.B11と同等であるため、ガラス転移温度(Tg)は600℃以上と高いものの、泡密度ランクがEランク以下(泡密度が50個/kg以上)であり、泡の数が低減されず、実用に適さないことが確認された。特に、Ti酸化物(TiO2)を含有しない比較例6は、他の比較例7~10と比べても泡密度が大きく、泡密度ランクがFランクであることが確認された。
[磁気記録媒体基板の作製]
(1)基板ブランクの作製
次に、下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。
(方法A)
清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径66mm、厚さ1.2mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランクを得た。なお、上述の成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤形状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランクを作製した。
なお、本実施例では上述の方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。
(方法C)
上述の実施例の熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(方法D)
上述の実施例の熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(1)基板ブランクの作製
次に、下記方法AまたはBにより、円盤状の基板ブランクを作製した。
(方法A)
清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを流出パイプから一定流量で流出するとともにプレス成形用の下型で受け、下型上に所定量の熔融ガラス塊が得られるよう流出した熔融ガラスを切断刃で切断した。そして熔融ガラス塊を載せた下型をパイプ下方から直ちに搬出し、下型と対向する上型および胴型を用いて、直径66mm、厚さ1.2mmの薄肉円盤状にプレス成形した。プレス成形品を変形しない温度にまで冷却した後、型から取り出してアニールし、基板ブランクを得た。なお、上述の成形では複数の下型を用いて流出する熔融ガラスを次々に円盤形状の基板ブランクに成形した。
(方法B)
清澄、均質化した上述の実施例の熔融ガラスを円筒状の貫通孔が設けられた耐熱性鋳型の貫通孔に上部から連続的に鋳込み、円柱状に成形して貫通孔の下側から取り出した。取り出したガラスをアニールした後、マルチワイヤーソーを用いて円柱軸に垂直な方向に一定間隔でガラスをスライス加工し、円盤状の基板ブランクを作製した。
なお、本実施例では上述の方法A、Bを採用したが、円盤状の基板ブランクの製造方法としては、下記方法C、Dも好適である。
(方法C)
上述の実施例の熔融ガラスをフロートバス上に流し出し、シート状のガラスに成形(フロート法による成形)し、次いでアニールした後にシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(方法D)
上述の実施例の熔融ガラスをオーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)によりシート状のガラスに成形、アニールし、次いでシートガラスから円盤状のガラスをくり貫いて基板ブランクを得ることもできる。
(2)ガラス基板の作製
上述の各方法で得られた基板ブランクの中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径65mm、厚さ0.8mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。実施例のガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面荒れなどは認められず、平滑な表面であった。
上述の各方法で得られた基板ブランクの中心に貫通孔をあけて、外周、内周の研削加工を行い、円盤の主表面をラッピング、ポリッシング(鏡面研磨加工)して直径65mm、厚さ0.8mmの磁気ディスク用ガラス基板に仕上げた。得られたガラス基板は、1.7質量%の珪弗酸(H2SiF)水溶液、次いで、1質量%の水酸化カリウム水溶液を用いて洗浄し、次いで純水ですすいだ後に乾燥させた。実施例のガラスから作製した基板の表面を拡大観察したところ、表面荒れなどは認められず、平滑な表面であった。
[磁気記録媒体(磁気ディスク)の作製]
以下の方法により、実施例のガラスから得られたガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
以下の方法により、実施例のガラスから得られたガラス基板の主表面上に、付着層、下地層、磁気記録層、保護層、潤滑層をこの順に形成し、磁気ディスクを得た。
まず、真空引きを行った成膜装置を用いて、DCマグネトロンスパッタリング法にて、Ar雰囲気中で、付着層、下地層および磁気記録層を順次成膜した。
このとき、付着層は、厚さ20nmのアモルファスCrTi層となるように、CrTiターゲットを用いて成膜した。続いて枚葉・静止対向型成膜装置を用いて、Ar雰囲気中で、DCマグネトロンスパッタリング法にて下地層としてCrRuからなる10nm厚の層を形成した。また、磁気記録層は、厚さ10nmのFePtまたはCoPt層となるように、FePtまたはCoPtターゲットを用いて成膜温度400℃にて成膜した。
磁気記録層までの成膜を終えた磁気ディスクを成膜装置から加熱炉内に移しアニールした。アニール時の加熱炉内の温度は、650~700℃の範囲とした。
続いて、エチレンを材料ガスとしたCVD法により水素化カーボンからなる保護層を3nm形成した。この後、PFPE(パーフロロポリエーテル)を用いてなる潤滑層をディップコート法により形成した。潤滑層の膜厚は1nmであった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。得られた磁気ディスクを、DFH機構を備えたハードディスクドライブ(フライングハイト:8nm)に搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり20ギガビットの記録密度で磁気信号を記録したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
以上の製造工程により、磁気ディスクを得た。得られた磁気ディスクを、DFH機構を備えたハードディスクドライブ(フライングハイト:8nm)に搭載し、磁気ディスクの主表面上の記録用領域に、1平方インチあたり20ギガビットの記録密度で磁気信号を記録したところ、磁気ヘッドと磁気ディスク表面が衝突する現象(クラッシュ障害)は確認されなかった。
本発明の一態様によれば、高密度記録化に最適な磁気記録媒体を提供することができる。
最後に、前述の各態様を総括する。
一態様によれば、モル%表示にて、SiO2含有量が56~75%、Al2O3含有量が0.1~10%、Li2O含有量が0~2%、Na2OおよびK2Oの合計含有量が3~15%、MgO、CaOおよびSrOの合計含有量が14~35%、Ti酸化物含有量が0.20~2.50%、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.10~1.55%、Sb酸化物含有量が0~0.02%であり、SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}が0.02以下であり、かつガラス転移温度が600℃以上である磁気記録媒体基板用ガラスが提供される。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、単位質量あたりの泡の密度が、光学顕微鏡(倍率40~100倍)により観察される直径0.03mm超の泡の密度として、好ましくは50個/kg未満であり、より好ましくは20個/kg未満であり、更に好ましくは10個/kg未満であり、一層好ましくは2個/kg以下であり、最も好ましくは0個/kgである。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、Sn酸化物の含有量が0.10~1.50モル%である。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、Ce酸化物の含有量が0.05~0.70モル%である。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が、0.50~4.00%である。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量に対するTi酸化物の含有量のモル比{Ti酸化物/(Sn酸化物+Ce酸化物)}が、0.4~10.0である。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、Sn酸化物およびCe酸化物を必須成分として含む。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板用ガラスは、SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するTiO2含有量のモル比{TiO2/(SiO2+Al2O3)}が、0.030以下である。
本発明の一態様によれば、上述の磁気記録媒体からなる磁気記録媒体基板が提供される。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板は、表面および内部の組成が均質である。
一態様では、上述の磁気記録媒体基板は、表面の一部または全部に、イオン交換層を有する。
本発明の一態様によれば、上述の磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体が提供される。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。
例えば、上述の例示されたガラス組成に対し、明細書に記載の組成調整を行うことにより、本発明の一態様にかかる磁気記録媒体基板用ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。
Claims (9)
- モル%表示にて、
SiO2含有量が56~75%、
Al2O3含有量が0.1~10%、
Li2O含有量が0~2%、
Na2OおよびK2Oの合計含有量が3~15%、
MgO、CaOおよびSrOの合計含有量が14~35%、
Ti酸化物含有量が0.20~2.50%、
Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.10~1.55%、
Sb酸化物含有量が0~0.02%、
であり、
SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するLi2O含有量のモル比{Li2O/(SiO2+Al2O3)}が0.02以下であり、かつ
ガラス転移温度が600℃以上である磁気記録媒体基板用ガラス。 - Sn酸化物の含有量が0.10~1.50モル%である、請求項1に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
- Ce酸化物の含有量が0.05~0.70モル%である、請求項1または2に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
- Ti酸化物、Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量が0.50~4.00%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
- Sn酸化物およびCe酸化物の合計含有量に対するTi酸化物の含有量のモル比{Ti酸化物/(Sn酸化物+Ce酸化物)}が0.4~10.0である、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
- SiO2およびAl2O3の合計含有量に対するTiO2含有量のモル比{TiO2/(SiO2+Al2O3)}が、0.030以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
- Sn酸化物およびCe酸化物を必須成分として含む請求項1~6のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラス。
- 請求項1~7のいずれか1項に記載の磁気記録媒体基板用ガラスからなる磁気記録媒体基板。
- 請求項8に記載の磁気記録媒体基板上に磁気記録層を有する磁気記録媒体。
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Legal Events
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ENP | Entry into the national phase |
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NENP | Non-entry into the national phase |
Ref country code: DE |
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122 | Ep: pct application non-entry in european phase |
Ref document number: 16817943 Country of ref document: EP Kind code of ref document: A1 |