以下、必要により添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
本発明の固形製剤は、薬物を含有する薬物含有部と、この薬物含有部を直接的又は間接的に被覆し、かつ水を吸収して膨潤しゲルを形成するゲル形成層とを備えている。例えば、薬物含有部を直接的に被覆するゲル形成層を備えた固形製剤では、薬物含有部に生理学的に許容される発泡剤を含んでおり、薬物含有部を間接的に(中間層を介して)被覆するゲル形成層を備えた固形製剤では、薬物含有部及び/又は薬物含有部とゲル形成層との間に介在する層(中間層)に生理学的に許容される発泡剤を含んでいる。
図1は本発明の固形製剤の一例を示す概略断面図である。
図1に示す固形製剤(経口投与剤)1は、薬物を含む薬物含有部(又は薬物含有層)2と、この薬物含有部を被覆する中間層(又は接着層)3と、この中間層を被覆し、かつ水を吸収して膨潤し、ゲルを形成するゲル形成層4と、このゲル形成層を被覆し、口腔内への付着を防止するための水溶性付着防止層(又は最表面層)5とを備えている。この例では、前記各層は積層形態で形成されている。すなわち、前記中間層3は、薬物含有部2の一方の面に積層された第1の中間層3aと、前記薬物含有部2の他方の面に積層された第2の中間層3bとで構成されており、薬物含有部2の外周縁部では、第1の中間層3aと第2の中間層3bとが接合して薬物含有部2を封止している。さらに、ゲル形成層4は、前記第1の中間層3aに積層された第1のゲル形成層4aと、第2の中間層3bに積層された第2のゲル形成層4bとで構成され、付着防止層5は、前記第1のゲル形成層4aに積層された第1の付着防止層5aと、前記第2のゲル形成層4bに積層された第2の付着防止層5bとで構成されている。そして、この例では、薬物含有部2に発泡剤を含有させている。
このような固形製剤1では、水溶性付着防止層5が口腔内で唾液などの水分により速やかに溶解するとともに、固形製剤の最表面に低粘度の膜を形成するため、ゲル形成層4による口腔内壁への固形製剤1の付着を防止できる。また、口腔内では唾液や水分により、付着防止層5を介してゲル形成層4が吸水して膨潤してゲルを形成する。そのため、多量の水がなくても、固形製剤1は飲み込みやすい大きさ、形状、弾力や粘度などを有し、口腔内でツルッと滑り易い剤形に変化し、患者は固形製剤1を容易に服用できる。また、固形製剤1が患者の気道を詰まらせる危険性が低下し、高齢者(老人)や幼児であっても安全に服用できる。
そして、前記薬物含有部2に発泡剤を含有させているため、薬物含有部2の薬物の溶出性(さらには薬物の分散性、薬物の吸収性など)を大きく改善できる。具体的には、固形製剤1では、薬物含有部が、ゲル形成層を含む多重の層で被覆されているため、溶出試験に供すると、固形製剤1が内部まで十分に吸水しても、ゲル形成層4が吸水して膨潤して形成されたゲルが薬物含有部を包み込んだままであるためか、薬物の溶出性が低下する傾向にある。しかし、薬物含有部2に発泡剤を含有させると、固形製剤1の崩壊に伴い、薬物含有部に水が流入することにより、発泡剤が発泡して気流を生成する。この気流により、薬物の分散性が向上するとともに、薬物含有部を被覆する層が素早く分離し、薬物含有部の遠方へ拡散するためか、薬物の溶出性を大幅に改善できる。
なお、前記固形製剤において、前記中間層(又は接着層)は必ずしも必要ではないが、ゲル形成層同士を接着させて薬物含有部を封止するためには、中間層(又は接着層)を有するのが好ましい。中間層を有する固形製剤では、中間層に生理学的に許容される発泡剤を含有させてもよい。中間層に発泡剤を含有させると、前記図1に示す構造の固形製剤と同様の作用機序により薬物の溶出性を向上できるとともに、発泡剤が薬物に及ぼす影響も小さくできる。
また、前記固形製剤において、前記付着防止層(表面層)も必ずしも必要ではないが、付着防止層を形成すると、口腔内壁への固形製剤の付着を有効に防止でき、服用感を向上できる。
[薬物含有部]
薬物含有部に含まれる活性成分(薬物)は、経口投与可能であれば特に制限されず、例えば、薬理活性成分又は生理活性成分のいずれであってもよく、薬理活性成分と生理活性成分とは互いに組み合わせて使用してもよい。これらの成分は固形又は半固形状であってもよく、固形又は半固形状を維持できる限り、液状の活性成分も併用できる。また、これらの成分は、アニオン性(又は酸性)成分、中性成分であってもよく、カチオン性(又は塩基性)成分であってもよい。
薬物含有部に含まれるアニオン性又は酸性薬物(以下、単にアニオン性薬物と総称する場合がある)は、少なくとも一種の酸性基、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基などを有している。アニオン性薬物は少なくとも1つの酸性基を有していればよく、同一又は異なる種類の複数の酸性基を有していてもよい。また、薬物は塩(例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属などとの塩)を形成してもよい。なお、アニオン性又は酸性薬物には、代謝物や生体内で活性を発現するプロドラッグ体がアニオン性又は酸性である薬物も含まれる。
薬物含有部に含まれるカチオン性薬物は、少なくとも一種の塩基性基、例えば、第一級アミノ基(-NH2)、第二級アミノ基(イミノ基-NH-)、第三級アミノ基(>N-)、アミド基、塩基性窒素含有複素環基(ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、プリニル基、キノリル基、ピリジル基、ピペリジノ基、ピペリジル基、ピペラジニル基、トリアゾロ基など)などを有している。なお、アミノ基には、ヒドラジノ基(-NH-NH2)、ヒドラゾ基(-NH-NH-)なども含む。カチオン性薬物は少なくとも1つの塩基性基を有していればよく、同一又は異なる種類の複数の塩基性基を有していてもよい。また、薬物は塩(例えば、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸、酢酸、酒石酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸などの有機カルボン酸、メシル酸などの有機スルホン酸などとの塩)を形成してもよい。なお、カチオン性又は塩基性薬物には、代謝物や生体内で活性を発現するプロドラッグ体がカチオン性又は塩基性である薬物も含まれる。
薬物含有部に含まれる中性薬物としては、例えば、前記酸性基及び塩基性基を有しない薬物などが挙げられる。また、薬物は塩(例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属などとの塩)を形成していてもよい。なお、中性薬物には、代謝物や生体内で活性を発現するプロドラッグ体が中性である薬物も含まれる。
薬理活性成分の種類は特に制限されず、例えば、中枢神経系、自律神経性、呼吸器系、循環器系、消化器系、代謝系などに作用する薬物であってもよく、血液および造血作用薬、眼科領域や耳鼻科領域の薬物、生体内活性物質(オータコイド)などであってもよい。具体的な種類としては、解熱剤、鎮痛剤、抗炎症薬、催眠・鎮静薬、リウマチ治療薬、抗うつ剤、抗てんかん剤、抗めまい剤、抗アレルギー剤、強心薬、β遮断剤、カルシウム拮抗剤、抗不整脈剤、利尿薬、狭心症治療薬、心不全治療薬、心筋梗塞治療薬、降圧剤(高血圧治療薬)、末梢循環障害治療薬、昇圧剤(低血圧治療薬)、気管支拡張薬、喘息治療薬、抗結核薬、糖尿病治療薬、糖尿病性合併症治療薬、高脂血症治療薬、高尿酸血症治療薬、鎮咳去痰薬、消化性潰瘍治療剤、甲状腺疾患治療薬、前立腺肥大症治療薬、抗癌剤、骨粗鬆症治療薬、アルツハイマー病治療薬、抗生物質、ビタミン類、抗プラスミン剤などであってもよい。
薬理活性成分としてのアニオン性薬物の具体例としては、例えば、解熱・鎮痛・抗炎症薬(アスピリン、イブプロフェン、ケトプロフェン、スリンダク、ロキソプロフェンナトリウム水和物、ザルトプロフェンなど)、抗アレルギー剤(クロモグリク酸、セラトロダストなど)、抗てんかん剤(バルプロ酸など)、利尿薬(エタクリン酸など)、高脂血症治療薬(プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンなどのスタチン類、クロフィブラート、シンフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラートなどのフィブラート類、デキストラン硫酸ナトリウムイオウなど)、消化性潰瘍治療剤(ソファルコン、オルノプロスチル、スクラルファート水和物、エグアレンナトリウム水和物など)、下剤(センノシドなど)、肝疾患治療薬(グルクロン酸など)、自律神経系作用薬(トレピブトンなど)、貧血治療薬(硫酸鉄、クエン酸第一鉄ナトリウムなど)、ホルモン類および内分泌治療薬(プレドニゾロンなど)、抗生物質(ホスホマイシンなど)、ビタミン類(コハク酸トコフェロールなど)、又はこれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。
薬理活性成分としてのカチオン性薬物の具体例としては、解熱・鎮痛・抗炎症薬(メシル酸ジメトチアジンなどの解熱鎮痛薬、メシル酸ジヒドロエルゴタミン、塩酸ロメリジン、コハク酸スマトリブタンなどの頭痛薬、フェナム酸、メフェナム酸、フロクタフェニン、マレイン酸プログルメタシン、エピリゾール、塩酸チアラミドなどの抗炎症薬など)、抗リウマチ薬(ペニシラミン、メトトレキサートなど)、高尿酸血症治療薬(アロプリノールなど)、催眠・鎮静薬(塩酸リルマザホン、酒石酸ゾルピデムなど)、抗うつ剤(塩酸ノルトリプチリン、塩酸イミプラミン、塩酸アミトリプチリン、塩酸クロミプラミン、マレイン酸フルボキサミン、塩酸ミルナシプランなど)、抗めまい剤(塩酸イソプレナリン、メシル酸ベタヒスチンなど)、抗アレルギー剤(塩酸ジフェンヒドラミン、テオクル酸ジフェニルピラリン、フマル酸クレマスチン、マレイン酸クロルフェニラミン、酒石酸アリメマジン、塩酸プロメタジンなどの抗ヒスタミン剤;フマル酸ケトチフェン、塩酸アゼラスチン、塩酸エピナスチンなどのヒスタミンH1拮抗剤(又は塩基性抗アレルギー剤)など)、強心薬(デノパミン、塩酸イソプレナリンなど)、抗狭心症薬(ニコナンジル、塩酸エタフェノン、ジピリダモール、トラピジル、塩酸トリメタジジンなど)、β遮断剤(塩酸プロプラノロール、塩酸ジフェニドール、塩酸ブフェトロール、塩酸ブプラノロール、マロン酸ボピンドロール、塩酸オクスプレノロール、塩酸アルプレノロール、塩酸インデノロール、塩酸アセブトロール、塩酸セリプロロールなど)、カルシウム拮抗剤(塩酸マニジピン、塩酸ベニジピン、ベシル酸アムロジピン、塩酸ベラパミル、塩酸ジルチアゼムなど)、抗不整脈剤(塩酸アプリンジン、塩酸ピルジカイニド、塩酸プロパフェノン、塩酸アミオダロン、塩酸ニフェカラント、塩酸ソタロール、塩酸ベプリジルなど)、利尿薬(ヒドロクロロチアジド、ペンフルチジド、ベンチルヒドロクロロチアジド、ブメタニド、アゾセミド、トリアムテレンなど)、降圧剤(塩酸クロニジン、メチルドパ、酢酸グアナベンズ、塩酸グアンファシン、レセルピン、塩酸プラゾシン、塩酸ブナゾシン、塩酸テラゾシン、メシル酸ドキサゾシンなどの交感神経抑制剤、塩酸ヒドララジン、ブドララジン、塩酸トドララジン、カドララジンなどの血管拡張剤、マレイン酸エナラプリル、塩酸デラプリル、リシノプリル、塩酸ベナゼプリルなどのACE阻害剤、カンデサルタン シレキセチル、バルサルタンなどのアンジオテンシンII受容体拮抗剤など)、末梢循環障害治療薬(イノシトールヘキサニコチネート、ヘプロニカート、塩酸トリゾリン、塩酸イソクスプリンなど)、昇圧剤(酒石酸水素メタラミノール、塩酸メトキサミン、塩酸ミドドリン、メチル硫酸アメジニウム、塩酸エチレフリン、塩酸フェニレフリンなど)、気管支拡張薬及び喘息治療薬(塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン、塩酸イソプレナリン、硫酸オルシプレナリン、塩酸クロルプレナリン、塩酸サルブモール、塩酸テルブタリン、フマル酸ホルモテロール、塩酸ツロブテロール、臭化水素酸フェノテロール、塩酸プロカテロール、塩酸クレンブテロールなどのβ2-アドレナリン受容体刺激剤、テオフィリン、アミノフィリン、コリンテオフィリン、プロキシフィリンなどのキサンチン誘導体など)、鎮咳剤(リン酸ジメモルファン、ヒヘンズ酸チペピジン、クエン酸オキセラジン、臭化水素酸デキストロメトルファン、クエン酸ペントキシベリン、クロペラスチン、リン酸ベンプロペリンなど)、糖尿病治療薬(トルブタミド、アセトヘキサミド、グリベンクラミド、グリメピリド、塩酸ブホルミン、エンサンメトホルミン、塩酸ピオグリタゾン、ボグリボースなど)、去痰薬(塩酸L-メチルシスティン、塩酸アンブロキソール、塩酸ブロムヘキシンなど)、消化性潰瘍治療剤(シメチジン、塩酸ラニチジン、ファモチジンなどのH2受容体拮抗剤、ランソプラゾール、オメプラゾールなどのプロトンポンプ阻害剤、塩酸ピレンゼピンなどのムスカリン受容体拮抗剤など)、抗生物質(クラリスロマイシン、キタサマイシン、ジョサマイシン、ミデカマイシン、ロキスタマイシン、アジスロマイシンなど)、麻薬類(アンフェタミン、メペリジンなど)、ビタミン類[塩酸チアミン、硝酸チアミン、塩酸ジセチアミン、シコチアミン、ベンフォチアミン、ビスイブチアミン、フルスルチアミン、プロスルチアミン、オクトチアミン、ビスベンチアミン、チアミンジスルフィドなどのビタミンB1類;リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウムなどのビタミンB2類;塩酸ピリドキシン、酢酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサールなどのビタミンB6類;ニコチン酸、ニコチン酸アミドなどのニコチン酸類;メコバラミン、シアノコバラミン、ヒドロキソコバラミン(塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミンなど))、メチルコバラミンなどのビタミンB12類;葉酸、パントテン酸類、ビオチン、ビタミンP(ヘスペリジンなど)など]、抗プラスミン剤(イプシロン-アミノカプロン酸、トラネキサム酸など)などが挙げられる。
薬物含有部に含まれる中性薬物の具体例としては、強心薬(ジギトキシン、ジゴキシンなど)、利尿薬(スピロノラクトンなど)、消化性潰瘍治療剤(テプレノンなど)、高尿酸血症治療薬(ベンズブロマロンなど)、抗癌剤(エトポシドなど)、中枢性骨格弛緩薬(メフェネシンなど)、高脂血症治療薬(プロブコールなど)、抗血栓症薬(ワルファリンカリウムなど)、ホルモン類および内分泌治療薬(ベタメタゾンなど)、ビタミン類(メナテトレノン、パルミチン酸レチノール、アルファカルシドールなど)、又はこれらの薬学的に許容される塩などが挙げられる。
これらの薬理活性成分は、予防又は治療目的などに応じて、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
生理活性成分としてのアニオン性薬物としては、有機酸又はその塩[例えば、α-リポ酸、L-アスコルビン酸、クエン酸、りんご酸、酒石酸、シュウ酸、フマル酸又はこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム、カルシウム塩)など]、アミノ酸又はその塩[例えば、L-グルタミン酸、L-アスパラギン酸、又はこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩など)]などが例示できる。
生理活性成分としてのカチオン性薬物としては、アミノ酸又はその塩[例えば、グリシン、L-リジン、L-バリン、L-アラニン、L-アルギニン、L-シスチン、L-メチオニン、又はこれらのアルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など]、ペプチド又はその塩[例えば、L-リジングルタメート、コラーゲン及びそのコラーゲンペプチド等のペプチド類、コエンザイムQ10、L-カルニチン又はその塩(フマル酸塩、酒石酸塩など)など]、グルコサミン類(キチン、キトサンなど)などが例示できる。
これらの生理活性成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。生理活性成分は前記薬理活性成分と組み合わせて使用してもよい。
なお、アニオン性薬物、カチオン性薬物、及び中性薬物を組み合わせて使用してもよい。
これらの活性成分のうち、カチオン性薬物(例えば、第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基、及び塩基性窒素含有複素環基から選択された少なくとも一種の塩基性基を有する薬物又はそれらの塩)であっても、薬物の溶出性を大きく向上できる。すなわち、ゲル形成層にアニオン性高分子を含有させると、カチオン性薬物がアニオン性高分子に吸着(イオン間相互作用による吸着)又はイオン的に結合するためか、薬物の溶出率が低下する傾向にある。しかし、本発明の固形製剤では、薬物含有部及び/又は薬物含有部とゲル形成層との間に介在する中間層に発泡剤を含有させているため、発泡剤の発泡に伴う気流や対イオンの生成により、カチオン性薬物とアニオン性高分子との吸着を有効に防止(又は解離)でき、薬物の溶出性を著しく改善できる。
本発明ではゲル形成層により薬物含有部を内包できるため、比較的多量の活性成分、物理的強度を低下させやすい嵩高い活性成分を含有させても、固形製剤に物理的強度を付与できる。そのため、活性成分としては、投与量が微量な(例えば、1mg以下の)活性成分、投与量が多量な(例えば、300mg以上の)活性成分のいずれも使用できる。活性成分の単位投与量は、例えば、0.01~1500mg(例えば、0.01~800mg)、好ましくは0.1~1200mg(例えば、0.1~500mg)、さらに好ましくは1~1000mg(例えば、1~300mg)程度であってもよく、通常、1~500mg(例えば、2~250mg)程度である場合が多い。活性成分の含有量は、活性成分の種類などに応じて選択でき、通常、薬物含有部中、0.001~99.9質量%、好ましくは0.01~70質量%(例えば、0.01~50質量%)、さらに好ましくは0.1~35質量%程度である。
本発明の固形製剤は、服用感が良好で、少量の水又は実質的に水なしで有効に経口投与できるため、例えば、単位投与量の多い活性成分、嵩高い活性成分、不快な味(苦味や渋みなど)のある活性成分、水溶性の高い活性成分などであっても好適に使用できる。これらの成分のうち、通常、薬理活性成分が汎用される。
薬物含有部は、活性成分のみで構成してもよいが、通常、活性成分に加えて、添加剤(基剤又は担体)を含んでいる。添加剤としては、特に制限されず、製剤の形態に応じて、慣用の担体、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤などから選択された少なくとも一種の担体が選択できる。
前記賦形剤としては、乳糖、白糖、麦芽糖、ブドウ糖、ショ糖、果糖などの糖類;マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類;トウモロコシデンプン、バレイショデンプンなどのデンプン;結晶セルロース(微結晶セルロースも含む)、シクロデキストリン、デキストランなどの多糖類;軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、タルクなどの酸化ケイ素又はケイ酸塩;酸化チタンなどの酸化物;リン酸一水素カルシウムなどのリン酸塩などが例示できる。結合剤としては、アルファ化デンプン、部分アルファ化デンプン、酸化デンプン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ、デキストリンなどの可溶性デンプン又はデンプン誘導体;寒天、アラビアゴム、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、トラガントガム、プルラン、キサンタンガム、ヒアルロン酸、ペクチン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ゼラチンなどの多糖類;ポリビニルピロリドン(ポビドンなど)、酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸系ポリマー、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニルなどの合成高分子;メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などのセルロースエーテル類、酢酸セルロースなどのセルロースエステル類などが例示できる。滑沢剤としては、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール6000などが例示できる。崩壊剤としては、特に限定されず、例えば、カルボキシメチルセルロース又はその塩(カルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウムなど)などのセルロース誘導体、カルボキシメチルスターチなどのデンプン誘導体、ポリビニルピロリドン(ポビドン、架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)など)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが例示できる。これらの担体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
薬物含有部は、ポリグルコサミン類(キチン、キトサンなど)、蛋白質(カゼイン、ダイズ蛋白質など)、腸溶性基剤(セルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCF)、ヒドロキシプロピルメチルアセテートサクシネートなどのセルロース誘導体、メタクリル酸-アクリル酸エチル共重合体(メタクリル酸コポリマーLD)、メタクリル酸-アクリル酸n-ブチル共重合体、メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体(メタクリル酸コポリマーL,S)など)、胃溶性基剤(メタクリル酸ジメチルアミノエチル-メタクリル酸共重合体、メタクリル酸ジメチルアミノエチル-メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸ジメチルアミノエチル-メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、メタクリル酸ジメチルアミノエチル-メタクリル酸塩化トリメチルアンモニウムメチル共重合体、メタクリル酸ジメチルアミノエチル-アクリル酸塩化トリメチルアンモニウムエチル共重合体、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート)などを含んでいてもよい。また、腸溶性基剤及び/又は胃溶性基剤は前記結合剤として使用してもよい。
さらに、薬物含有部は、油脂類を含んでいてもよい。油脂類としては、ワックス類(蜜ろう、カルナウバロウ、カカオ脂、ラノリン、パラフィン、ワセリンなど)、長鎖脂肪酸エステル、(飽和又は不飽和脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸と多価アルコール(ポリC2-4アルキレングリコール、グリセリン又はポリグリセリンなど)とのエステル(グリセライドなど)など)、硬化油、高級アルコール(ステアリルアルコールなどの飽和脂肪族アルコール、オレイルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコールなど)、高級脂肪酸(リノール酸、リノレイン酸、オレイン酸、ステアリン酸など)、金属石鹸類(例えば、ヤシ油脂肪酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩など)などが例示できる。
さらに、薬物含有部には、公知の添加剤を使用できる。このような添加剤としては、例えば、崩壊補助剤、抗酸化剤又は酸化防止剤、非イオン性界面活性剤などの各種界面活性剤、分散剤、防腐剤又は保存剤(メチルパラベン、ブチルパラベンなどのパラベン類など)、殺菌剤又は抗菌剤(安息香酸ナトリウムなどの安息香酸類など)、帯電防止剤、矯味剤又はマスキング剤(例えば、甘味剤など)、着色剤(酸化チタン、ベンガラなどの染顔料など)、矯臭剤又は香料(芳香剤など)、清涼化剤などが挙げられる。これらの添加剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
添加剤の割合は、活性成分1質量部に対して、例えば、0.001~100質量部程度(例えば、0.01~50質量部、好ましくは0.1~30質量部、さらに好ましくは0.5~20質量部程度)であってもよい。
活性成分と添加剤(基剤又は担体)とを含む薬物含有部は、種々の固形剤の形態又は剤形、例えば、粉剤、散剤、粒剤(顆粒剤、細粒剤など)、丸剤、錠剤(舌下錠、口腔内崩壊錠、トローチ剤、チュアブル錠なども含む)、カプセル剤(硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤など)、層状又はフィルム状製剤(又はシート状製剤)などの形態に加工又は成形されていてもよい。薬物含有部の形態は、例えば、球状、楕円体状、多角体又は多角柱状、層状、不定形状、粒状物の集合体などであってもよい。なお、添加剤(基剤又は担体)を用いて薬物を顆粒などの形態に造粒又は被覆すると、薬物(カチオン性薬物)と隣接する層の成分との接触を抑制でき、薬物(カチオン性薬物)の安定性を向上できる場合がある。
本発明では、口腔内壁との接触面積が大きな形態であっても、水なしで又は少量の水で容易に嚥下できる。また、薬物の含有量が多く、剤形の大きな製剤であっても、容易に嚥下できる。そのため、薬物含有部は、従来から高齢者や乳幼児にとって嚥下が困難であった製剤[例えば、平坦部を有する形状の製剤、扁平な形状の製剤、サイズの大きな錠剤(例えば、直径が5~15mm、好ましくは6~14mm、さらに好ましくは7~13mm程度の錠剤)など]で構成してもよい。薬物含有部は、これらの形態のうち、層状又はフィルム状(四角形などの多角形、円形、楕円形など)の形態であってもよい。層状の薬物含有部の厚みは、例えば、5μm~5mm、好ましくは10μm~3mm、さらに好ましくは100~1000μm(例えば、100~500μm)程度であってもよい。
[中間層]
薬物含有部に、後述する生理学的に許容される発泡剤を含有させる場合には、薬物含有部とゲル形成層との間に中間層(又は接着層)は必ずしも必要ではないが、中間層(又は接着層)により薬物含有部の周縁部でゲル形成層を接着すると、ゲル形成層を緊密に接着し、薬物含有部からの活性成分の漏出を有効に防止しつつ、円滑に服用できる。
また、薬物含有部に生理学的に許容される発泡剤を含有させない場合には、中間層に生理学的に許容される発泡剤を含有させることにより、薬物に及ぼす影響を抑制しつつ、薬物の溶出性を改善できる。
さらに、薬物含有部と中間層との両方に生理学的に許容される発泡剤を含有させることにより、薬物の溶出性をより一層改善することができる。
なお、薬物含有部に、後述する生理学的又は薬学的に許容される電解質を含有させない場合には、中間層に生理学的又は薬学的に許容される電解質を含有させることによっても、薬物に及ぼす影響を抑制しつつ、薬物の溶出性を改善できる。また、薬物含有部と中間層との両方に生理学的又は薬学的に許容される電解質を含有させることによっても、薬物の溶出性をより一層改善することができる。
中間層(又は接着層)を構成する基剤(接着剤)としては、(メタ)アクリル酸系重合体[例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウムなどのポリアクリル酸又はその塩;アクリル酸共重合体又はその塩など]、ビニルピロリドン系重合体[ポビドン、酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体などのビニルピロリドンの共重合体]、多糖類[例えば、植物由来の多糖類(例えば、CMCやCMCナトリウム塩、MC、HPC,HPMCなどのセルロース誘導体、カラヤガム、ペクチン、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、トラガントガム、カラギーナン、アルギン酸又はそのナトリウム塩など)、菌類由来の多糖類(例えば、プルラン、キサンタンガム、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸又はそのナトリウム塩などの酸性多糖類)]、酢酸ビニル系重合体(ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体など)、(メタ)アクリル酸系重合体(例えば、メタクリル酸-アクリル酸エチル共重合体(メタクリル酸コポリマーLD)、メタクリル酸-アクリル酸n-ブチル共重合体、メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合体(メタクリル酸コポリマーL,S)など)などが例示できる。(メタ)アクリル酸系重合体としては、後述するゲル形成剤又は付着防止層のアニオン性高分子と同様の重合体を例示できる。これらの接着剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、接着剤は、中性崩壊性、酸性崩壊性、塩基性崩壊性のいずれであってもよい。
接着剤は熱接着性(熱融着性)を有していてもよい。このような熱接着性を有する接着剤としては、(メタ)アクリル酸系重合体、ビニルピロリドン系重合体、酢酸ビニル系重合体などが例示できる。熱接着性を有する接着剤を用いると、一対のフィルム状の接着層の間に薬物含有部を介在させ、薬物含有部の周縁部で接着層を熱接着させることにより、薬物含有部を簡便な操作で封入できる。
接着層は可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤としては、水溶性可塑剤(エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ソルビトール、ショ糖、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニック、ポロクサマーなど)、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリソルベート80など)、ポリエチレングリコール(質量平均分子量300~6000のポリエチレングリコールなど)、非水溶性可塑剤(トリアセチン、クエン酸トリエチル、フタル酸ジエチル、アジピン酸ジオクチル、ラウリル酸などの脂肪酸など)などが例示できる。これらの可塑剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい可塑剤は、水溶性可塑剤、例えば、グリセリンである。
可塑剤の使用量は、接着層の基剤(接着剤)の種類に応じて選択でき、基剤100質量部に対して、1~100質量部、好ましくは5~75質量部(例えば、10~50質量部)、さらに好ましくは15~50質量部(例えば、20~40質量部)程度であってもよい。
さらに、接着層は、体内の所望の部位で特異的に溶解する基剤(薬物含有部の項で例示した胃溶性又は腸溶性基剤など)を含んでいてもよい。このような基剤を含有させることにより、発泡剤を体内の所望の部位で確実に発泡させることができる。
接着層は、薬物含有部の表面の少なくとも一部を覆い、薬物含有部とゲル形成層とを接着してもよい。接着層は、通常、薬物含有部の表面全体又は一部(例えば、層状の薬物含有部の表面のうち少なくとも上下面など)を被覆してもよい。
接着層の厚みは、薬物含有部が露出しない限り、例えば、1μm~1mm(例えば、5~500μm)程度の広い範囲から選択でき、10~500μm(例えば、15~300μm)、好ましくは20~200μm(例えば、30~175μm)、さらに好ましくは50~150μm程度であってもよい。
[ゲル形成層]
ゲル形成層は、唾液などの少量の水分により膨潤してゲル形成可能な層である限り、特に限定されず、通常、ゲル形成剤としてアニオン性又は酸性高分子を含んでいる。ゲル形成層は、唾液などの少量の水分で、薬物含有部を内包してゲル化するため、製剤の滑り性を大きく向上でき、飲み込みやすい弾力、粘度などを有する形状又は表面特性に変化して、服用感を改善する(例えば、嚥下を容易にするなど)。
ゲル形成層のゲル形成剤は、少なくとも薬学的に許容可能なアニオン性又は酸性高分子を含んでいればよく、合成高分子、セルロース誘導体、デンプン誘導体、天然多糖類などであってもよい。ゲル形成剤を構成するアニオン性又は酸性高分子としては、カルボキシル基含有高分子((メタ)アクリル酸及びイタコン酸から選択された少なくとも一種の重合性単量体を重合成分とするカルボキシル基含有重合体、カルボキシビニルポリマーなどの合成高分子、CMC、カルボキシメチルエチルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、カルボキシメチルスターチなどのデンプン誘導体、アルギン酸、ヘパリン、ヒアルロン酸、ペクチン、トラガロースなどのセルロース誘導体、ヒアルロン酸、カラギーナン、コンドロイチン硫酸などの天然多糖類など)、リン酸基含有高分子(リン酸セルロースなどのセルロース誘導体など)又はこれらの塩などが例示できる。これらのアニオン性又は酸性高分子は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
前記アニオン性高分子は、例えば、無機塩基[アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、アンモニア]、有機塩基[モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなど]と塩を形成してもよい。
これらのアニオン性高分子のうち、迅速に水分を吸収するため、水溶性アニオン性高分子、例えば、カルボキシル基含有高分子及びスルホン酸基含有高分子、特に(メタ)アクリル酸を必須の重合成分とするアニオン性高分子((メタ)アクリル酸の単独又は共重合体又は(メタ)アクリル酸系重合体)が好ましい。(メタ)アクリル酸との共重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1-6アルキルエステル、特に(メタ)アクリル酸C1-4アルキルエステルなど]、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル[例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-4アルキルエステル、特に(メタ)アクリル酸ヒドロキシC2-3アルキルエステルなど]、酢酸ビニル、ビニルピロリドンなどが例示できる。これらの共重合性単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
(メタ)アクリル酸と共重合性単量体との質量割合は、例えば、(メタ)アクリル酸/共重合性単量体=100/0~50/50、好ましくは100/0~60/40(例えば、99.9/0.1~65/35)、さらに好ましくは100/0~70/30(例えば、99/1~80/20程度)であってもよい。
(メタ)アクリル酸系重合体には、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸メチル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エチル共重合体、(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸ブチル共重合体などが含まれる。これらの(メタ)アクリル酸系重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
代表的な(メタ)アクリル酸系重合体には、カルボキシビニルポリマー(商品名:カーボポール)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物、メタクリル酸-アクリル酸n-ブチルコポリマー、メタクリル酸コポリマーLD(商品名:オイドラギットL-30D55)などが例示できる。これらの(メタ)アクリル酸系重合体のうち、アクリル酸を主要な単量体として用いたポリアクリル酸又はアクリル酸共重合体(すなわち、アクリル酸系重合体)、特にカルボキシビニルポリマーが好ましい。カルボキシビニルポリマーとしては、カーボポール981、カーボポール980、カーボポール974P、カーボポール971P、カーボポール941、カーボポール940、カーボポール934P、カーボポール71G(米国,ノベオン社製)、ハイビスワコー103、ハイビスワコー104(和光純薬(株)製)、ジュンロン(日本純薬(株))、AQUPEC(住友精化(株))などが例示できる。
アニオン性高分子(カルボキシビニルポリマーなど)の0.2質量%水溶液の粘度は、20℃において、1500~50000mPa・s、好ましくは2500~20000mPa・s、さらに好ましくは5000~15000mPa・s、特に7500~12500mPa・s程度であってもよい。
なお、アニオン性高分子は、必要により、他のゲル形成剤、例えば、蛋白質(コラーゲン、カゼインなど)、ヒドロキシル基含有高分子(ポリビニルアルコールなどの合成高分子、MC、HPC、HPMCなどのセルロース誘導体、ヒドロキシプロピルスターチ、デキストリンなどのデンプン誘導体、寒天、ガラクトマンナン、グルコマンナン、グアーガム、ローカストビーンガム、アラビアガム、アラビノガラクタン、タマリンドガム、サイリウムシードガム、デキストランなどの天然多糖類)などと併用してもよい。
ゲル形成層中のアニオン性高分子の含有量は、迅速に水分を吸収してゲルを形成し、ゲル形成剤の溶出を抑制できる範囲、例えば、不揮発分換算で、5~90質量%(例えば、10~80質量%)から選択でき、ゲル形成層全体に対して、不揮発分換算で、10~70質量%(例えば、12~50質量%)、好ましくは15~35質量%(例えば、15~25質量%)程度であってもよい。
ゲル形成層は、薬学的に許容可能な基剤又はフィルム形成剤を含んでもよい。基剤(フィルム形成剤)は、ゲル形成層にクラックなどが生成するのを抑制し、ゲル形成層の形状を安定化させ、ゲルが薬物含有部から分離するのを防止する。なお、基剤を含む場合であっても、薬物含有部に水が流入すると、発泡剤が発泡する力によって、ゲルは薬物含有部から迅速に分離する。
基剤(フィルム形成剤)としては、ビニル系高分子[例えば、(メタ)アクリル系重合体、ビニルアルコール系高分子(ポリビニルアルコールなど)、ビニルピロリドン系高分子(ポビドン、酢酸ビニル-ビニルピロリドン共重合体など)、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸ビニルフタレートなど]、ポリエチレングリコール、植物由来の多糖類[セルロースエーテル類(例えば、MC、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、HEC、HPC、HPMCなど)、キサンタンガム、カラギーナンなど]などが例示できる。これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらのフィルム形成剤のうち、水溶性基剤、例えば、ポリビニルアルコール、ビニルピロリドン系高分子、セルロースエーテル類が好ましい。水溶性基剤を用いることによりゲル形成層に水分が浸透しやすくなり、口腔内で速やかに膨潤してゲル形成層のゲルを形成できる。特に、ビニルアルコール系高分子(ポリビニルアルコールなど)を用いると、薬物含有部に含まれる活性成分の味、臭いなどを遮蔽してマスクするのに有用である。
基剤の含有量は、ゲル形成層全体に対して、20~85質量%(例えば、30~80質量%)程度の範囲から選択でき、通常、50~85質量%、好ましくは60~80質量%(例えば、65~75質量%)程度であってもよい。
基剤(フィルム形成剤)とゲル形成剤(アニオン性高分子など)との質量割合は、固形分換算で、基剤/ゲル形成剤=99/1~10/90(例えば、90/10~15/85、特に85/15~20/80)程度の範囲から選択でき、通常、85/15~50/50(例えば、82.5/17.5~65/35)、好ましくは80/20~70/30程度であってもよい。ゲル形成剤100質量部に対する基剤の割合は、例えば、50~700質量部(例えば、100~500質量部)、好ましくは200~400質量部、さらに好ましくは250~350質量部程度であってもよい。
ゲル形成層は、例えば、ゲル形成剤及び架橋剤を含む組成物により、架橋したゲル形成層として形成できる。架橋したゲル層を形成すると、吸水して膨潤しても強度が高く弾性及び口腔内での高い滑り性を有するゲルを形成でき、嚥下を容易にするとともに、口腔内での溶解を抑制できる。
アニオン性高分子の架橋剤としては、例えば、多価金属化合物を使用できる。多価金属化合物としては、薬学的に許容可能な金属化合物であれば特に制限されず、例えば、多価金属塩、金属酸化物、金属水酸化物などが挙げられる。多価金属としては、アルカリ土類金属[例えば、マグネシウム、カルシウムなど]、周期表3乃至13族金属[例えば、周期表8族金属(鉄など)、周期表第12族金属(亜鉛など)、周期表第13族金属(アルミニウムなど)など]などが例示できる。
これらの多価金属化合物としては、例えば、酸化カルシウム、塩化カルシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、硫酸第二鉄、クエン酸鉄、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン類(例えば、カリウムアルミニウムミョウバン、アンモニウム鉄ミョウバン、アンモニウムアルミニウムミョウバンなど)などが例示できる。これらの多価金属化合物は単独で又は二種以上を組み合わせて使用できる。なお、三価の金属化合物を使用すると、ゲル形成剤の架橋化度が高まり、ゲル形成層の物理的強度を向上でき、ゲル形成剤が溶解することを確実に防止できる。
ゲル形成剤(アニオン性高分子など)と架橋剤との割合(質量比)は、例えば、ゲル形成剤100質量部に対して、架橋剤0.1~10質量部(例えば、0.5~7.5質量部)、好ましくは1~5質量部、さらに好ましくは1.5~3.5質量部(例えば、2~3質量部)程度である。架橋剤でゲル形成剤を架橋することにより、ゲル形成層の溶解を防止しつつ、ゲル形成層の形態を保持できる。また、ゲル形成剤と架橋剤との割合を調整することにより、ゲル形成層の原料となる塗工液の粘度を低減でき、より効率よくゲル形成層を形成することができる。
また、基剤とゲル形成剤(アニオン性高分子など)との総量100質量部に対する架橋剤の割合は、例えば、0.1~2.5質量部、好ましくは0.2~1.5質量部(例えば、0.25~1.2質量部)、さらに好ましくは0.3~1質量部(例えば、0.5~0.8質量部)程度であってもよい。
ゲル形成層は、吸水速度及びゲル化速度を速めるため、吸水促進剤を含んでもよい。吸水促進剤としては、水溶性の高い成分が使用でき、単糖又は二糖類(例えば、グルコース、キシロース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、ショ糖、果糖、白糖など)、多価アルコール類[例えば、アルカンジオール(例えば、プロピレングリコールなど)、ポリエチレングリコール類(例えば、質量平均分子量300~20000のポリエチレングリコール;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール)、3価以上のポリオール類(例えば、グリセリンなど)、糖アルコール類(例えば、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、イノシトール、マルチトール、ラクチトールなど)など]、エチレンオキサイド付加体(例えば、ステアリン酸ポリオキシル40、ステアリン酸ポリオキシル45、ステアリン酸ポリオキシル55、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)などが例示できる。これらの吸水促進剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの吸水促進剤のうち、吸水促進力に優れ、ゲルに柔軟性を付与し、嚥下を一層容易にするため、多価アルコール類、特にグリセリンが好ましい。また、単糖又は二糖類、糖アルコールやグリセリンは、薬物の苦み、渋みなどをマスクすることもできる。
吸水促進剤の5質量%水溶液の粘度は、37℃において、0.3~5.0mPa・s、好ましくは0.5~3.5mPa・s、さらに好ましくは0.6~1.8mPa・s程度であってもよい。吸水促進剤の水溶液粘度が低いほど、ゲル形成層の吸水速度は大きくなる。
吸水促進剤の質量割合は、ゲル形状の保持及び吸水率の観点から、ゲル形成剤100質量部に対して、1~100質量部、好ましくは5~75質量部、さらに好ましくは10~50質量部(例えば、25~50質量部)程度であってもよい。なお、グリセリンを含む複数の吸水促進剤を用いる場合、グリセリンの含有量は、吸水促進剤全体に対して、35~95質量%、好ましくは40~90質量%程度であってもよい。
ゲル形成層は、後述の付着防止層と同様に、種々の任意成分、例えば、可塑剤、マスキング剤、防腐剤、着色剤などを含んでもよい。
ゲル形成層は、薬物含有部(固形製剤が接着層を有する場合は、接着層)の少なくとも一部の表面、特に表面全体又は大部分の表面(例えば、50~100%、好ましくは80~100%程度)を被覆すればよく、薬物含有部又は接着層の表面積を均一又は不均一に(四角形などの多角形状、円形状、格子状などの形態で散在して)被覆してもよい。ゲル形成層は薬物含有部又は接着層の全体(前記の例では、少なくとも上下面)を被覆する場合が多い。
ゲル形成層の厚みは、例えば、1~1000μm(例えば、3~700μm)程度の範囲から選択でき、5~500μm、好ましくは7~250μm(例えば、10~100μm)、程度であってもよく、5~50μm(例えば、10~30μm)程度であってもゲル形成層として十分に機能する。なお、ゲル形成層の調製においては、特開2008-37794号公報に記載の方法を利用して、厚みの薄い複数のゲル形成層[10μm以下(例えば、1~10μm、好ましくは2~9μm、さらに好ましくは3~8μm)]を積層して、所定厚みのゲル形成層を形成し、ゲル化速度を速めてもよい。
[付着防止層(表面層)]
付着防止層(表面層)は必ずしも必要ではないが、付着防止層(表面層)でゲル形成層を直接的又は間接的に被覆すると、水に溶解して口腔内壁への付着を防止する上で有用である。そのため、ゲル形成層を被覆する付着防止層(表面層)を備えた製剤は、乳幼児から高齢者に対して、服薬コンプライアンスを大幅に改善するのに有用である。
付着防止層(表面層)の成分としては、例えば、水溶性高分子[セルロース誘導体[アルキルセルロース(MCなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(HEC,HPC,HPMCなど)、カルボキシメチルセルロース類(CMC、CMC-ナトリウムなど)など]、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、高級脂肪酸又は多価アルコール脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加体(ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油など)、天然多糖類(アラビアガムなど)、蛋白質(ゼラチンなど)など];糖類[エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、イノシトール、マルチトール、ラクチトール、グルコース、キシロース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、乳糖、白糖、麦芽糖、ブドウ糖、ショ糖、果糖など];多価アルコール類(プロピレングリコール、グリセリンなど)などが例示できる。これらの成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分のうち、水溶性高分子、例えば、セルロース誘導体[アルキルセルロース(MCなど)、ヒドロキシアルキルセルロース(HEC,HPC,HPMCなど)]、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールを用いる場合が多い。
好ましい付着防止層(表面層)は、水溶性セルロースエーテルとアニオン性高分子とを含み、口腔内壁への固形製剤の付着を防止する。このような付着防止層は唾液などの少量の水分で溶解し、ゲル形成層が吸水して膨潤したゲルの周囲に、より確実に水溶液の液膜を形成する。そのため、前記ゲル形成層が直接的に口腔内壁に付着することを防止でき、仮に一部が付着したとしても容易に剥がれやすい。また、経口投与においてより長期にわたって、口腔の内壁に固形製剤が付着するのを確実に防止できる。
水溶性セルロースエーテルとしては、アルキルセルロース[例えば、メチルセルロース(MC)など]、ヒドロキシアルキルセルロース[例えば、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)など]、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース[例えば、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(例えば、HPMC2208、HPMC2906、HPMC2910など)]、カルボキシメチルセルロース類[CMC、CMC-ナトリウム、カルボキシメチルセルロースなど]などが例示できる。これらのセルロースエーテルは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの水溶性セルロースエーテルのうち、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースから選択された少なくとも一種であるのが好ましい。なお、水溶性セルロースエーテルにおいて、ヒドロキシアルキルセルロース(HEC、HPCなど)、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース(HEMC、HPMCなどのヒドロキシC2-3アルキルメチルセルロース)、アルキルセルロース(MCなど)の順に口腔内壁への付着を防止する作用が大きいようである。
ヒドロキシアルキルメチルセルロースにおいて、セルロースの全ヒドロキシル基のエーテル基含有量は、特に制限されないが、固形製剤の口腔内壁への付着防止の観点から、メチル平均置換度が大きく、ヒドロキシアルキル平均置換度が小さい方が好ましい。具体的には、メトキシ基の含有量(置換率)は、例えば、5~40%、好ましくは10~35%、さらに好ましくは15~30%程度であってもよく、ヒドロキシアルコキシ基の含有量(置換率)は、例えば、0.1~20%、好ましくは1~15%、さらに好ましくは2~10%程度であってもよい。メトキシ基の含有量(置換率)とヒドロキシアルコキシ基の含有量(置換率)との割合は、例えば、メトキシ基/ヒドロキシアルコキシ基=90/10~50/50、好ましくは85/15~60/40、さらに好ましくは80/20~70/30程度であってもよい。
ヒドロキシアルキルメチルセルロースのうち、HPMCが好ましく、代表的なHPMCとしては、HPMC2208、HPMC2906、HPMC2910などが挙げられ、特にHPMC2910が好ましい。
水溶性セルロースエーテルの2質量%水溶液粘度は、20℃において、50mPa・s以下、好ましくは40mPa・s以下、さらに好ましくは1~30mPa・s程度であってもよい。水溶性セルロースエーテルの粘度が低いほど、唾液などの少量の水分でも迅速に溶解して粘度の低い水溶液膜を形成するためか、固形製剤の口腔の内壁への付着を有効に防止できる。
水溶性セルロースエーテルの含有量は、付着防止層全体に対して、20~99質量%(例えば、30~98質量%)程度の範囲から選択でき、通常、50~95質量%(例えば、60~95質量%)、好ましくは70~90質量%(例えば、75~90質量%)程度であってもよい。
アニオン性高分子は、口腔内環境下、唾液などの水分で溶解できれば、特に制限されず、例えば、前記ゲル形成層のゲル形成剤として記載の水溶性高分子(カルボキシ基含有高分子、スルホン酸基含有高分子、リン酸基含有高分子などのアニオン性高分子)が挙げられる。アニオン性高分子は、例えば、無機塩基[アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)、アンモニア]、有機塩基[モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールなど]と塩を形成してもよい。好ましいアニオン性高分子は、前記カルボキシ基含有高分子、特に(メタ)アクリル酸を必須の重合成分とする(メタ)アクリル酸系重合体[(メタ)アクリル酸の単独又は共重合体]である。
(メタ)アクリル酸との共重合性単量体としては、前記ゲル形成剤に記載の共重合性単量体が単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。(メタ)アクリル酸系重合体において、(メタ)アクリル酸(又はその塩)と共重合性単量体との割合(質量比)は、水溶性である限り特に制限されず、例えば、前記ゲル形成剤に記載の割合と同様である。
(メタ)アクリル酸系重合体としては、アクリル酸系重合体[例えば、ポリアクリル酸、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、アクリル酸-アクリル酸メチル共重合体、アクリル酸-アクリル酸エチル共重合体など)、アクリル酸-メタクリル酸アルキルエステル共重合体(例えば、アクリル酸-メタクリル酸メチル、アクリル酸-メタクリル酸エチルなど)など]、メタクリル酸系重合体(例えば、メタクリル酸-アクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸-アクリル酸エチル共重合体などのメタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体など)などが例示できる。これらの(メタ)アクリル酸系重合体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。アニオン性高分子の0.2質量%水溶液の粘度は、通常、前記ゲル形成剤の水溶液粘度と同様である。
代表的な(メタ)アクリル酸系重合体には、カルボキシビニルポリマー(商品名:カーボポール)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物、メタクリル酸-アクリル酸n-ブチルコポリマー、メタクリル酸コポリマーLD(商品名:オイドラギットL-30D55)などが例示できる。これらの(メタ)アクリル酸系重合体のうち、アクリル酸を主要な単量体として用いたアクリル酸系重合体、特に、カルボキシビニルポリマー(前記ゲル形成剤で例示のカーボポール、ハイビスワコーなど)が好ましい。
付着防止層中のアニオン性高分子の含有量は、口腔内壁への付着を防止しつつ、迅速に水分を吸収して液膜を形成できる範囲、例えば、固形分又は不揮発分換算で、0.1~50質量%(例えば、1~30質量%)から選択でき、付着防止層全体に対して、不揮発分換算で、1~25質量%(例えば、2~20質量%)、好ましくは3~17質量%(例えば、5~15質量%)程度であってもよい。
水溶性セルロースエーテル及びアニオン性高分子の種類にもよるが、水溶性セルロースエーテル及びアニオン性高分子がゲル形成層の基剤及びゲル形成剤と同種である場合、付着防止層において、前記アニオン性高分子に対する水溶性セルロースエーテルの割合は、通常、前記ゲル形成層のゲル形成剤(カルボキシビニルポリマーなどのアニオン性高分子)に対する基剤の割合よりも多い。水溶性セルロースエーテルとアニオン性高分子との質量割合は、固形分換算で、水溶性セルロースエーテル/アニオン性高分子=99.9/0.1~75/25(例えば、99/1~80/20)程度の範囲から選択でき、通常、99.9/0.1~85/15(例えば、99/1~85/15)、好ましくは95/5~85/15(例えば、92/18~87/13)程度であってもよい。アニオン性高分子100質量部に対する水溶性セルロースエーテルの割合は、例えば、100~2000質量部(例えば、200~1500質量部)、好ましくは300~1200質量部(例えば、500~1000質量部)、さらに好ましくは600~900質量部程度であってもよい。
付着防止層は、水溶性セルロース及びアニオン性高分子を使用した場合に、その種類や分子量によっては粘度が高すぎたり低すぎたりすることがあり、付着防止層としての機能を発揮できない場合がある。また、付着防止層を形成する際に、付着防止層形成用の塗工液の粘度が高すぎる場合には、付着防止層を円滑に形成できないことがある。そのため、付着防止層は、粘度を調整するための粘度調整剤、特に粘度を低下させるための減粘剤又は補助剤を含んでいてもよい。このような減粘剤としては、溶液粘度の低減効果の大きな金属塩(例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩など)を用いる場合が多い。減粘剤の使用量は、水溶性セルロースエーテル及びアニオン性高分子の総量100質量部に対して、例えば、0~200質量部程度の範囲から選択でき、通常、1~100質量部、好ましくは5~50質量部、さらに好ましくは10~30質量部程度であってもよい。
なお、多価金属塩(アルカリ土類金属塩、3価以上の多価金属塩)は、アニオン性高分子の架橋剤として機能する場合がある。このような多価金属塩を減粘剤として付着防止層で用いる場合、多価金属塩の使用量は、ゲル形成層での基剤とゲル形成剤との総量100質量部に対する架橋剤の割合よりも少ない。付着防止層での多価金属塩の使用量は、水溶性セルロースエーテルとアニオン性高分子(カルボキシビニルポリマーなど)との総量100質量部に対して、例えば、0~2質量部(例えば、0.01~1.5質量部)、好ましくは0.05~1質量部、さらに好ましくは0.1~0.5質量部(例えば、0.2~0.4質量部)程度であってもよい。なお、アニオン性高分子(カルボキシビニルポリマーなど)100質量部に対する多価金属塩の割合は、例えば、0.1~10質量部(例えば、0.5~7.5質量部)、好ましくは1~5質量部、さらに好ましくは1.5~3.5質量部(例えば、2~3質量部)程度であってもよい。
付着防止層は、前述の吸水促進剤(例えば、グリセリンなど)、活性成分の味や臭いをマスクするためのマスキング剤、可塑剤(例えば、グリセリントリアセテート、フタル酸ジエチル、クエン酸トリエチルなど)、防腐剤又は保存剤(例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、エデト酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウムなど)、抗酸化剤(アスコルビン酸、酢酸トコフェロールなど)、着色剤(例えば、酸化チタン、食用レーキ着色剤など)などの種々の添加剤を含んでもよい。マスキング剤としては、クエン酸、酒石酸、フマル酸などの酸味剤、サッカリン、グリチルリチン酸、アスパルテーム、ステビオサイド、アセスルファムカリウム、糖類などの甘味剤、メントール、ハッカ油、ペパーミント、スペアミントなどの清涼化剤、天然又は合成の香料などが例示できる。これらのマスキング剤のうち、糖類(乳糖、白糖、ブドウ糖、ショ糖などの糖類、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどの糖アルコール類)が好ましい。
これらの成分も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの成分の使用量は、水溶性セルロースエーテル及びアニオン性高分子の合計100質量部(固形分換算)に対して20質量部以下(例えば、0.01~15質量部、好ましくは0.05~10質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部程度)であってもよい。
付着防止層は、ゲル形成層の表面のうち少なくとも一部[例えば、ゲル形成層の表面積の50%以上(例えば、50~100%、好ましくは87~100%、さらに好ましくは90~100%程度)]を被覆すればよく、ゲル形成層の全体又は少なくとも上下面を被覆する場合が多い。付着防止層は、均一又は不均一に(例えば、四角形などの多角形状、円形状、格子状などの形状に散在して)被覆してもよい。
付着防止層の厚みは、唾液などの少量の水分でも浸透しやすくするため、50μm以下(例えば、1~50μm、好ましくは5~45μm、さらに好ましくは10~40μm程度)であってもよい。
ゲル形成層と付着防止層との合計厚みは、例えば、5~1000μm、好ましくは10~500μm(例えば、15~250μm)、さらに好ましくは20~100μm(例えば、25~75μm)程度であってもよい。また、ゲル形成層と付着防止層との厚みの割合は、ゲル形成層/付着防止層=5/95~95/5(例えば、10/90~90/10)程度の範囲から選択でき、15/85~50/50、さらに好ましくは20/80~40/60(例えば、20/80~30/70)程度であってもよい。ゲル形成層と付着防止層との厚み割合を調整すると、付着防止層を介してゲル形成層が迅速に吸水して膨潤し、短時間内に滑り性が大きく向上したゲル層を形成しつつ、表面では付着防止層による水性液状膜を形成できる。そのためか、固形製剤(経口投与固形製剤)は水なしでも口腔内壁へ付着することがなく容易に嚥下でき、服用性を大幅に改善できる。
[生理学的(又は薬学的)に許容される発泡剤]
生理学的(又は薬学的)に許容される発泡剤は、前記薬物含有部及び/又は中間層に含有させることができる。薬物含有部及び/又は中間層に発泡剤を含有させると、発泡剤の発泡作用により、薬物含有部の周囲にゲル形成層が吸水して膨潤して形成されたゲルを迅速に崩壊させ、薬物の溶出(例えば、固形製剤の崩壊初期における薬物の溶出)を改善できる。この発泡剤の発泡作用は、固形製剤が、唾液や胃液等の水性液体に接触してから数分後から顕著となるため、服用時の口腔内では薬物の溶出がなく、薬物の味等のマスキング性に優れると共に、胃に到達してから発泡作用が顕著となり、薬物含有部の周囲にゲル形成層が吸水して膨潤して形成されたゲルを迅速に崩壊させ、薬物含有部からの薬物の溶出を促進することができる。なお、前記中間層に発泡剤を含有させると、発泡剤が薬物に及ぼす影響を低減でき、製剤の安定性などの観点から有利である。
発泡剤としては、水と反応して二酸化炭素などの気体を発生可能な成分である限り、特に限定されず、例えば、アニオン成分とカチオン成分との塩が挙げられる。前記アニオン成分としては、炭酸などの無機酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸などが例示できる。また、前記カチオン成分としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニアなどが例示できる。
代表的な発泡剤としては、炭酸アルカリ金属塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなど)、炭酸アルカリ土類金属塩(炭酸カルシウムなど)、炭酸アンモニウム塩などが例示できる。
これらの発泡剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの発泡剤のうち、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニアから選択された少なくとも一種の炭酸塩、炭酸水素塩(重炭酸塩)、又はセスキ炭酸塩が好ましく、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩又は炭酸水素塩が特に好ましい。
薬物含有部に含有する発泡剤の割合は、薬物含有部の容積などに応じて適宜選択でき、薬物1質量部に対して、0.001~200質量部程度の範囲から選択でき、0.1~160質量部(例えば、1~150質量部)、好ましくは3~80質量部(例えば、4~70質量部)、さらに好ましくは5~60質量部(特に6~40質量部)程度であってもよい。
中間層に含有する発泡剤の割合は、薬物1質量部に対して、0.001~100質量部程度の範囲から選択でき、0.01~50質量部(例えば、0.05~30質量部)、好ましくは0.1~25質量部(例えば、0.5~20質量部)、さらに好ましくは1~15質量部(特に5~10質量部)程度であってもよい。また、中間層に含有する発泡剤の割合は、中間層に含有する基材(接着剤)100質量部に対して、0.001~100質量部程度の範囲から選択でき、0.1~50質量部(例えば、0.5~40質量部)、好ましくは1~35質量部(例えば、5~30質量部)、さらに好ましくは10~25質量部(特に15~20質量部)程度であってもよい。
発泡剤は、薬物含有部の項に記載の崩壊剤(例えば、酸性の崩壊剤)と組み合わせて使用すると、発泡剤の発泡作用を向上できる。酸性の(又は酸性基を有する)崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルスターチ、酢酸フタル酸セルロースなどの酸性基(カルボキシル基、カルボキシルメチル基などのカルボキシルC1-2アルキル基など)を有するセルロース又はスターチなどが例示できる。このような崩壊剤(例えば、酸性の崩壊剤)は、発泡助剤としての機能も有する。崩壊剤(例えば、酸性の崩壊剤)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。好ましい崩壊剤は、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルスターチ、及び酢酸フタル酸セルロースから選択された少なくとも一種であり、さらに好ましくはカルボキシメチルセルロース又はスターチ(特にカルボキシメチルセルロース)である。
酸性基を有するセルロース又はスターチ(カルボキシメチルセルロースなど)において、酸性基(カルボキシメチル基など)の平均置換度(又は平均エーテル化度、DS)は、例えば、0.3~0.7、好ましくは0.35~0.65、さらに好ましくは0.4~0.6程度であってもよい。なお、「平均置換度」とは、セルロース又はスターチを構成するグルコース単位の2,3及び6位のヒドロキシル基に対する置換度(置換割合)の平均値であり、最大値は3である。
崩壊剤の1重量%水混合液(水性分散液又は水溶液)のpHは特に限定されず、発泡剤の発泡作用を向上する点などから、2.0~6.5(例えば2.5~6.0)、好ましくは3.0~5.5、さらに好ましくは3.5~5程度であってもよい。
崩壊剤(例えば、酸性の崩壊剤)の割合は、薬物の溶出性に応じて適宜選択され、発泡剤100質量部に対して、0~100質量部(例えば、1~100質量部)程度から選択でき、例えば、10~80質量部(例えば、15~75質量部)、好ましくは20~70質量部(例えば、25~65質量部)、さらに好ましくは30~60質量部(例えば、35~55質量部、特に40~50質量部)程度であってもよい。なお、上記割合は、薬物含有部に共存する崩壊剤と発泡剤との割合、中間層に共存する崩壊剤と発泡剤との割合、固形製剤全体における崩壊剤と発泡剤との割合などであってもよい。
なお、薬物含有部及び中間層の双方に発泡剤又は崩壊剤を含有させるとき、発泡剤又は崩壊剤の種類は、薬物含有部と中間層とで異なっていてもよく、同一であってもよい。
[生理学的(又は薬学的)に許容される電解質]
生理学的(又は薬学的)に許容される電解質は、前記薬物含有部及び/又は中間層に含有させることができ、必要であれば、ゲル形成層及び/又は付着防止層に電解質を含有させてもよい。なお、前記中間層に電解質を含有させると、電解質が薬物に及ぼす影響を低減でき、製剤の安定性などの観点から有利である。
電解質は、溶解度の如何を問わず少なくとも部分的に水に溶解してイオン解離可能な成分であればよく、水に対して易溶性であってもよく難溶性であってもよい。また、電解質は、強電解質、弱電解質のいずれであってもよい。このような電解質は、対イオンを生成させ、アニオン性高分子に対するカチオン性薬物の吸着又はイオン的結合を阻害する。
薬学的に許容される電解質の種類は、薬物の塩基性度やアニオン性高分子の酸性度などに応じて、カチオン成分とアニオン成分との種々の塩又は化合物から選択できる。電解質のカチオン成分としては、アンモニウム、金属{一価の金属[アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウムなど)]、多価金属[アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウムなど)、周期表8族金属(例えば、鉄など)、周期表第12族金属(例えば、亜鉛など)、周期表第13族金属(例えば、アルミニウムなど)などの周期表2乃至13族金属]}などに対応するカチオンが例示できる。アニオン成分として、無機酸[例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸、ケイ酸、ホウ酸など]、有機酸[例えば、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などの脂肪族飽和ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸などの脂肪族不飽和カルボン酸;安息香酸などの芳香族カルボン酸)、ヒドロキシカルボン酸(乳酸などの脂肪族飽和モノカルボン酸;りんご酸、酒石酸などの脂肪族飽和ジカルボン酸;クエン酸、イソクエン酸などの脂肪族飽和トリカルボン酸;サリチル酸などの芳香族カルボン酸など)、スルホン酸(メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)、アミノ酸など]などに対応するアニオンが例示できる。
代表的な電解質としては、例えば、アルカリ金属化合物[例えば、ハロゲン化物(塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの塩化物);無機酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウムなどの硫酸塩;リン酸塩、例えば、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウムなどのリン酸ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸カリウムなど)、有機酸塩(酢酸ナトリウム、フマル酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸水素カリウムなど)]、アルカリ土類金属化合物[例えば、ハロゲン化物(塩化マグネシウム、塩化カルシウムなどの塩化物);無機酸塩(硫酸カルシウム、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩;リン酸水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸マグネシウムなどのリン酸塩;ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩など)、有機酸塩(酢酸カルシウム、乳酸カルシウムなど)]、多価金属塩[例えば、ハロゲン化物(塩化アルミニウム、塩化亜鉛などの塩化物);無機酸塩(硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸亜鉛などの硫酸塩;リン酸アルミニウムなどのリン酸塩;ケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩)、有機酸塩(酢酸アルミニウム、酢酸亜鉛、乳酸アルミニウムなど)]などが例示できる。これらの電解質は水和物や複塩などであってもよい。
これらの電解質は単独で又は二種以上組合せて使用できる。これらの電解質のうち、アルカリ金属化合物(特にナトリウム化合物及びカリウム化合物)及びアルカリ土類金属化合物(特にカルシウム化合物及びマグネシウム化合物)、例えば、塩化物(塩化ナトリウム、塩化カリウムなどのアルカリ金属塩化物、塩化カルシウム、塩化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩化物)、リン酸塩(リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二カリウムなどのリン酸アルカリ金属塩、リン酸水素カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウムなどのリン酸アルカリ土類金属塩)、有機酸塩[カルボン酸アルカリ金属塩、例えば、酢酸アルカリ金属塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウムなど);ヒドロキシカルボン酸アルカリ金属塩、例えば、乳酸アルカリ金属塩(乳酸ナトリウムなど)、クエン酸アルカリ金属塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウムなど)、酒石酸アルカリ金属塩(酒石酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸水素カリウムなど)、酢酸アルカリ土類金属塩(酢酸カルシウムなど)、ヒドロキシカルボン酸アルカリ土類金属塩、例えば、乳酸アルカリ土類金属塩(乳酸カルシウムなど)、クエン酸アルカリ土類金属塩(クエン酸カルシウムなど)など]など、特に、塩化物やリン酸塩(特にリン酸塩)などを用いる場合が多い。これらの電解質は非水溶性であってもよいが、水溶性であるのが有利である。なお、カチオン性薬物の溶出を向上させるためには、一価のカチオン(例えば、アルカリ金属化合物)よりも多価カチオン(例えば、アルカリ土類金属化合物)を用いるのが有利である。
電解質の分子量は、易水溶性の観点から、1000g/mol以下、好ましくは50~500g/molである。
電解質の使用量は、特に限定されず、例えば、薬物がカチオン性薬物の場合には、アニオン性高分子に対するカチオン性薬物の吸着を抑制できる範囲で選択できる。電解質の使用量は、例えば、薬物(例えば、カチオン性薬物)100質量部に対して、1~5000質量部(例えば、10~3000質量部)、好ましくは25~2500質量部(例えば、50~2000質量部)、さらに好ましくは75~1700質量部(例えば、100~1500質量部)程度であってもよい。また、電解質の割合は、モル換算で、薬物(例えば、カチオン性薬物)1モルに対して、0.1~150モル(例えば、0.5~125モル)、好ましくは1~100モル(例えば、2~100モル)、さらに好ましくは3~75モル(例えば、5~50モル)程度であってもよい。
なお、薬物含有部及び中間層の双方に電解質を含有させるとき、電解質の種類は、薬物含有部と中間層とで異なっていてもよく、同一であってもよい。薬物含有部における電解質の含有率(質量比)と、中間層における電解質の含有率(質量比)との割合は、薬物の安定性などに応じて適宜選択でき、例えば、前者/後者=1/99~99/1、好ましくは5/95~95/5、さらに好ましくは10/90~90/10程度であってもよい。
[発泡剤と電解質との割合]
本発明では、薬物の溶出性を改善する点から、発泡剤と電解質とを組み合わせて使用でき、発泡剤を含有しない層に電解質を含有させてもよく、発泡剤を含有する層に電解質を共存させてもよい。発泡剤と電解質との割合(質量比)は、例えば、100/0~1/99程度の範囲から選択でき、70/30~20/80(例えば、70/30~30/70)、好ましくは65/35~25/75(例えば、65/35~35/65)、さらに好ましくは60/40~30/70(例えば、60/40~40/60)程度であってもよい。なお、上記割合は、薬物含有部に共存する発泡剤と電解質との割合、中間層に共存する発泡剤と電解質との割合、固形製剤全体における発泡剤と電解質との割合などであってもよい。
[固形製剤の形態]
固形製剤は、少なくとも前記薬物含有部とゲル形成層とを備えていればよく、接着層は必ずしも必要ではない。また、固形製剤は必ずしも付着防止層を備えている必要はない。固形製剤は、前記薬物含有部の薬物と発泡剤や電解質との接触を抑制するため、薬物含有部が被覆層、例えば、胃溶性コーティング層又は腸溶性コーティング層で被覆されていてもよい。さらに、必要により、中間層、ゲル形成層及び付着防止層のうち適当な層間に、腸溶性コーティング層、胃溶性コーティング層又はその他の層を形成してもよい。腸溶性成分としては、例えば、前記薬物含有部に記載の腸溶性基剤が例示でき、胃溶性成分としては、例えば、前記薬物含有部に記載の胃溶性基剤が例示できる。
本発明の固形製剤(又は経口投与固形製剤)は、前記薬物含有部に対応した形態を有していてもよく、前記薬物含有部の周縁部からゲル形成層及び付着防止層が延出した形態を有していてもよい。また、本発明の固形製剤は、平坦な形状又は円盤状などの形態のフィルム状製剤、例えば、薬物含有部をフィルム又はシート状被覆層で内包した形態の平坦又は円盤状の製剤であってもよい。フィルム状製剤の平面形状は、例えば、四角形などの多角形、円形、楕円形などであってもよい。本発明の固形製剤はゲル形成層及び付着防止層により水分が少なくても口腔内での滑り性を改善できるため、フィルム状製剤の平坦面の面積が大きくても、容易に嚥下できる。フィルム状製剤の平坦面の面積は、特に制限されず、0.01~10cm2程度(例えば、0.05~9cm2、好ましくは0.1~8cm2、さらに好ましくは0.5~7cm2程度)であってもよい。
なお、固形製剤の表面には、必要であれば、エンボス加工を施してもよい。
[固形製剤の製造方法]
本発明の固形製剤は、薬物含有部を、必要により中間層を介して、ゲル形成層で被覆することにより調製でき、このゲル形成層は、付着防止層で被覆してもよい。薬物含有部は、前記のように、活性成分と発泡剤と添加剤とを用いて慣用の方法(造粒、打錠などの方法)により形成できる。また、固形製剤の各層は、薬物含有部に、各層に対応する被覆組成物を適用し順次被覆することにより製造できる。各層に対応する被覆組成物は、水(例えば、精製水など)又は低級アルコール(例えば、エタノールなど)、必要であれば有機溶媒などの液性媒体に各層(例えば、付着防止層)の構成成分を、分散又は溶解することにより調製できる。なお、必要により得られた被覆組成物(塗工液又はコーティング剤)は脱泡してもよい。
前記被覆組成物で薬物含有部をコーティングする方法としては、剤形に応じて、例えば、パンコーティング、流動層コーティング、転動コーティング、転動流動コーティングなどが挙げられる。前記被覆組成物のコーティングにおいて、例えば、塗布、噴霧、含浸・浸漬などを利用してもよい。なお、前記各被覆組成物は、乾燥させた後又は乾燥させることなく、後続する被覆組成物をコーティングしてもよい。
本発明の固形製剤の調製には、流延、塗布などを利用し、薬物含有部に各層を積層する方法も利用できる。例えば、本発明の固形製剤は、必要により付着防止組成物(コーティング剤)を剥離性基材に適用して付着防止層を形成する工程(付着防止層形成工程)と、付着防止層にゲル形成層を積層する工程(ゲル形成層積層工程)と、ゲル形成層に中間層を積層する工程(中間層積層工程)と、これらの工程を経て調製された2つの積層体の間に薬物含有部を介在させて、2つの積層体を接着する工程(接着工程)とを含む方法で調製してもよい。
剥離性基材としては、特に制限されないが、例えば、ガラス板、プラスチックフィルム、剥離シートなどを使用できる。これらの剥離性基材には、必要に応じて、慣用の方法によりエンボス加工が施されていてもよい。
付着防止層、ゲル形成層及び中間層は、慣用の製膜方法(例えば、流延法などの塗布や噴霧による方法など)を利用して、各塗工液を剥離性基材上にコーティングすることにより形成できる。なお、中間層は、ゲル形成層の一部(例えば固形製剤としたときの薬物含有部の周囲部にあたる部分)を被覆して形成してもよい。また、付着防止層は、ゲル形成層の全面に形成する必要はないが、水性液状膜とゲル層とを均一に形成して嚥下性を向上させるため、ゲル形成層の全面を被覆する場合が多い。
接着工程では、ゲル形成層(又は中間層)を互いに対向させた一対の積層体の間に薬物含有部を介在させた状態で、前記一対の積層体を接着させることができる。薬物含有部は、薬物を含む固形剤(粉剤、錠剤等)を所定位置(本発明の固形製剤の中心となる位置)に載置する方法、塗布、噴霧、滴下、インクジェット、スクリーン印刷などの方法を利用して所定位置に配置できる。なお、ゲル形成層(又は中間層)を有し、エンボス加工を施した剥離性基材では、ゲル形成層(又は中間層)に形成された凹部に薬物含有部を位置させてもよい。
中間層に熱接着性の接着剤を用いた場合、積層体の接着方法として熱融着などが利用できる。熱融着の温度は、例えば、70~150℃程度(例えば、75~140℃、好ましくは、80~130℃、さらに好ましくは85~120℃程度)であってもよい。
薬物含有部の周縁部を接着して各層の積層体を調製した後、薬物含有部の形状に応じて、薬物含有部の周縁部を円形、楕円形、多角形などの所定形状に打ち抜くことにより、固形製剤を調製できる。
また、本発明の固形製剤は、先発医薬品の錠剤(又は同等の組成の錠剤)と生理学的に許容される発泡剤とを含有する薬物含有部を、水を吸収してゲルを形成するゲル形成層で被覆することでも得ることができる。このようにすることで、本発明の固形製剤をジェネリック医薬品として適用する場合における開発期間を短縮することができる。また、あらゆる医薬品に対しても本発明の固形製剤は適用することができる。
通常、先発医薬品の錠剤に被覆層を新たに設けると薬物の溶出性が大きく変わってしまい、先発医薬品の錠剤との薬物の溶出性について同等性が担保されず、後発医薬品(いわゆるジェネリック医薬品)としての厚生労働省の承認が得られないという問題が生ずるが、本発明の固形製剤では、先発医薬品の錠剤との同等性を容易に得ることができる。
先発医薬品(又は同等の組成の錠剤)を薬物含有部とする固形製剤において、下記式で表される後発医薬品の生物学的同等性ガイドラインに記載のf2関数の値は、例えば、46以上(100以下)であることが好ましい。
(式中、Tiは各時点における対照製剤(本発明の固形製剤)の薬物の平均溶出率、Riは各時点における標準製剤(先発医薬品)の薬物の平均溶出率を示し、nは薬物の平均溶出率を比較する時点の数である。)
さらに本発明は、前記のように、薬物含有部(例えば、カチオン性又は塩基性薬物を含有する薬物含有部)と、水を吸収してゲルを形成するゲル形成層(例えば、アニオン性又は酸性高分子を含むゲル形成層)と、必要により薬物含有部とゲル形成層との間に介在する中間層とを備えた固形製剤において、前記薬物含有部及び/又は前記中間層に、生理学的に許容される発泡剤を含有させることにより、薬物の溶出性を改善する方法も包含する。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
(a)付着防止層作製工程
付着防止層の構成成分を含む塗工液Aを次のようにして調製した。
精製水:380質量部に、減粘剤として塩化カルシウム(塩化カルシウムH、富田製薬社製):0.27質量部を添加し、5分間攪拌して溶解させた。この溶液に、ポリアクリル酸(カーボポール974P、ノベオン社製、0.2質量%水溶液粘度(20℃):12100mPa・s):10.0質量部を攪拌しながらゆっくりと添加し、添加後、1時間攪拌し、各成分を含む混合液を80℃に加熱した。この混合液に、付着防止剤としてのヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC-5E、信越化学工業社製、2質量%水溶液粘度(20℃):3mPa・s):81.63質量部を攪拌しながらゆっくりと添加し、添加後、15分間攪拌し、液温を30℃に降温させ、降温後、1時間攪拌した。得られた混合液に、吸水促進剤としてのグリセリン(日本薬局方 濃グリセリン、旭電化工業社製):8.1質量部を添加し、添加後、15分間攪拌し、塗工液Aを得た。
塗工液Aを十分に脱泡し、ギャップを調整したアプリケーターを用いて、剥離性基材としての剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(SP-PET381031、リンテック社製)の剥離処理面の反対面上に展延塗布(乾燥後の塗布量:30g/m2)し、80℃で10分間乾燥することにより、乾燥後の厚さ28μmの付着防止層を形成し、積層中間体a(付着防止層/剥離性基材)を得た。
(b)ゲル形成層作製工程
ゲル形成層の構成成分を含む塗工液Bを次のようにして調製した。
精製水:700質量部に、架橋剤として塩化カルシウム(塩化カルシウムH、富田製薬社製):0.6質量部を添加し、5分間攪拌して溶解させた。この溶液に、ポリアクリル酸(カーボポール974P、ノベオン社製、0.2質量%水溶液粘度(20℃):12100mPa・s):22.7質量部を攪拌しながらゆっくりと添加し、添加後、1時間攪拌した。この混合液に、ポリビニルアルコール(ゴーセノールEG05T、日本合成化学工業社製):68.6質量部を攪拌しながらゆっくりと添加し、添加後、15分間攪拌し、各成分を含む混合液を80℃に加熱して、1時間攪拌した後、各成分を含む混合液を30℃に冷却した。この混合液に、吸水促進剤としてのグリセリン(日本薬局方 濃グリセリン、旭電化工業社製):8.1質量部を添加して15分間攪拌し、塗工液Bを得た。
塗工液Bを十分に脱泡し、ギャップを調整したアプリケーターを用いて、前記工程(a)で形成した付着防止層上に展延塗布(乾燥後の塗布量:10g/m2)し、80℃で6分間乾燥することにより、乾燥後の厚さ9μmのゲル形成層を形成し、積層中間体b(ゲル形成層/付着防止層/剥離性基材の積層体)を得た。
(c)中間層作製工程
中間層の構成成分を含む塗工液C-1を次のようにして調製した。
水:190質量部に、電解質としての無水リン酸水素カルシウム:14.2質量部と、可塑剤としてのグリセリン(日本薬局方 濃グリセリン、旭電化工業社製):22.3質量部とを攪拌しながらゆっくりと添加して溶解させた。この溶液に、基剤としてのポリビニルピロリドン(PVP K-90、アイエスピージャパン社製):63.5質量部を攪拌しながらゆっくりと添加し、添加後、60分間攪拌し、塗工液C-1を得た。
塗工液C-1を十分に脱泡し、ギャップを調整したアプリケーターを用いて、前記工程(b)で形成したゲル形成層上に展延塗布(乾燥後の塗布量:100g/m2)し、80℃で20分間乾燥することにより、乾燥後の厚さ80μmの中間層を形成し、積層中間体c(中間層/ゲル形成層/付着防止層/剥離性基材の積層体)を得た。
(d)薬物含有部形成工程
発泡剤としての炭酸水素ナトリウム:22.5質量部と、電解質としての無水リン酸水素カルシウム:25質量部と、塩基性薬物としてのアムロジピンベシル酸塩:2.9質量部と、崩壊剤としてのカルボキシメチルセルロース(日本薬局方 カルメロース NS-300、五徳薬品株式会社製):10質量部と、基剤としての結晶セルロース:39.6質量部とを乳鉢を用いて十分に混合分散させ、得られた粉末を、打錠器にて打錠した。一方、中間体cの中間層側から型押し加工により型押しし、錠剤が収容可能なサイズの凹部を形成し、上記錠剤(質量:120mg、薬物含有量:3.47mg(アムロジピンとして2.5mg含有)、錠剤サイズ:8mm径×2mm厚)を上記凹部に収容した後、別の中間体cでカバーし、前記中間体cの中間層の周縁部と別の中間体cの中間層の周縁部とを、100℃、1kgf/cm2、3秒間の条件にて熱融着させた。このようにして、剥離性基材/付着防止層/ゲル形成層/中間層/錠剤(薬物含有層)/中間層/ゲル形成層/付着防止層/剥離性基材が順次積層され、内部に錠剤が封入された積層体を製造し、両側の剥離性基材を除去した後、前記積層体を、直径15mmの円形に打ち抜いて積層構造を有する固形製剤(経口投与剤)を製造した。積層体の打ち抜きにおいて、中間層同士の熱融着部分を打ち抜き、錠剤が露出しないようにした。
(実施例2)
薬物含有部として、市販のアムロジピン錠剤(ファイザー社製、商品名「ノルバスク」、アムロジピンベシル酸塩を含有(アムロジピンとして2.5mg含有)、錠剤サイズ:6mm径×3mm厚)と発泡剤としての炭酸水素ナトリウム10mgとを用い、これらを上記凹部に収容した以外は、前記実施例1と同様にして、固形製剤(経口投与剤)を製造した。
(比較例1)
薬物含有部として、電解質としての無水リン酸水素カルシウム:25質量部と、塩基性薬物としてのアムロジピンベシル酸塩:2.9質量部と、崩壊剤としてのカルボキシメチルセルロース(日本薬局方 カルメロース NS-300、五徳薬品株式会社製):10質量部と、基剤としての結晶セルロース:62.1質量部とを乳鉢を用いて十分に混合分散させ、得られた粉末を、打錠器にて打錠した錠剤(質量:120mg、薬物含有量:3.47mg(アムロジピンとして2.5mg含有)、錠剤サイズ:8mm径×2mm厚)を用いた以外は、前記実施例1と同様にして固形製剤(経口投与剤)を製造した。
(実施例3)
中間層として下記塗工液C-2を用い、薬物含有部として、電解質としての無水リン酸水素カルシウム:25質量部と、塩基性薬物としてのアムロジピンベシル酸塩:2.9質量部と、基剤としての結晶セルロース:72.1質量部とを乳鉢を用いて十分に混合分散させ、得られた粉末を、打錠器にて打錠した錠剤(質量:120mg、薬物含有量:3.47mg(アムロジピンとして2.5mg含有)、錠剤サイズ:8mm径×2mm厚)を用いた以外は、実施例1と同様にして固形製剤(経口投与剤)を製造した。
なお、塗工液C-2は次のようにして調製した。水:160質量部に、発泡剤としての重曹:10.0質量部と、電解質としての無水リン酸水素カルシウム:14.2質量部と、可塑剤としてのグリセリン(日本薬局方 濃グリセリン、旭電化工業社製):21.2質量部とを攪拌しながらゆっくりと添加して溶解させた。この溶液に、基剤としてのポリビニルピロリドン(PVP K-90、アイエスピージャパン社製):54.6質量部を攪拌しながらゆっくりと添加し、添加後、60分間攪拌し、塗工液C-2を得た。
(実施例4)
薬物含有部として、市販のアムロジピン錠剤(ファイザー社製、商品名「ノルバスク」、アムロジピンベシル酸塩を含有(アムロジピンとして2.5mg含有)、錠剤サイズ:6mm径×3mm厚)を用いた以外は、前記実施例3と同様にして、固形製剤(経口投与剤)を製造した。
(比較例2)
中間層として前記塗工液C-1を用いた以外は、前記実施例3と同様にして、固形製剤(経口投与剤)を製造した。
[試験方法]
[薬物の平均溶出率]
実施例1~4および比較例1~2の固形製剤(経口投与剤)について、第15改正日本薬局方に規定される溶出試験第二法(パドル法)に準じた方法によって薬物の溶出率を測定した。なお、試験液としては、水を用いて試験を行い、回転数:50rpmにて、15分、30分、45分、60分の各時間攪拌後に、それぞれ試験液をサンプリングして高速液体クロマトグラフにより定量し、固形製剤(経口投与剤)製造時の仕込み量を基にして薬物の平均溶出率を測定した。結果を表1に示す。
[標準製剤との比較における薬物の溶出性の同等性]
実施例1~4および比較例1~2の固形製剤(経口投与剤)について、標準製剤との比較における薬物の溶出性の同等性を判定した。本試験の合否の判定基準としては、後発医薬品の生物学的同等性ガイドラインに記載のf2関数により行った。すなわち、市販のアムロジピン錠剤(ファイザー社製、商品名「ノルバスク」、アムロジピンベシル酸塩を含有(アムロジピンとして2.5mg含有)、錠剤サイズ:6mm径×3mm厚)を標準製剤としたとき、下記式で表されるf2の値が46以上である場合、同等(合格)と判定した。
なお、式中、Tiは各サンプリング時点における実施例1~4および比較例1~2の固形製剤の薬物の平均溶出率、Riは各サンプリング時点における標準製剤の薬物の平均溶出率、nは薬物の平均溶出率を比較する時点の数である。本試験では、n=4とし、薬物の平均溶出率の比較時点は、15分、30分、45分、60分とし、f2関数の値を算出した。結果を表1に示す。
表1から明らかなように、薬物含有部に発泡剤を含有する実施例1、2の固形製剤は、発泡剤を含有しない比較例1の固形製剤に比べて、薬物の溶出性が改善されている。また、中間層に発泡剤を含有する実施例3、4の固形製剤は、発泡剤を含有しない比較例2の固形製剤に比べて、薬物の溶出性が改善されている。これらの例では、特に、初期の薬物の溶出率が著しく改善されている。
また、実施例1~4の固形製剤は、f2値がいずれも46以上であり、標準製剤との比較における薬物の溶出性の同等性の判定で合格となっており、本発明の固形製剤をジェネリック医薬品として適用することができることが明らかとなった。