WO2010026656A1

WO2010026656A1 - 再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム

Info

Publication number: WO2010026656A1
Application number: PCT/JP2008/066119
Authority: WO
Inventors: 上田　実; 亨梶村; 正幸池野; 宏一大友; 恒憲大鐘
Original assignee: 株式会社乳歯幹細胞バンク
Priority date: 2008-09-05
Filing date: 2008-09-05
Publication date: 2010-03-11

Abstract

　再生医療に活用する上で良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システムを提供すること。　乳歯の抜歯前の段階から、乳歯又は乳歯幹細胞の運搬・保存の段階に至るまで、一定の衛生レベルと低温状態が達成された状態とし、将来の再生医療に利用される上で良好な状態を維持した状態で、乳歯幹細胞を保存することが可能な再生医療に活用する上で良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

Description

再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム

　本発明は、再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し、長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システムに関する。

　再生医療は、薬物療法及び外科療法に替わる「第三の医療技術」であり、病変となっている組織を再生医療により再生された生体組織と置換することによって、あらゆる疾病を治癒することが可能となる。再生医療のこのような特徴は、従来、治療することが困難であった疾病を治療可能とするものであり、再生医療に関わる産業の発展の可能性については、産業界からも大きな関心が寄せられている。

　従来知られている再生医療技術としては、例えば、新生児の臍帯から採取される臍帯血を採取・保存し、これに含まれる造血幹細胞を再生不良性貧血や白血病等の難治性血液疾患の治療に利用する技術が知られている（例えば、非特許文献１参照）。しかしながら、臍帯血を利用した再生医療技術においては、臍帯血を採取できる医療機関が限られていること、臍帯血を利用した造血幹細胞移植が、臍帯血中に含まれる造血幹細胞の数に依存し、採取した全ての臍帯血を造血幹細胞移植に利用できないこと、等といった問題点が存在している。

　また、再生医療に利用可能な技術として、胚性幹細胞（ＥＳ細胞）を利用した技術や、人工多能性幹細胞（ｉＰＳ細胞）を利用した技術等が検討されている（例えば、非特許文献２及び３参照）。しかしながら、胚性幹細胞を樹立するためには、初期胚から細胞を分離する操作が必要であるため、倫理上の問題があり、一部の先進国ではヒト胚性幹細胞の樹立自体が禁止されている。また、人工多能性幹細胞を利用した技術を用いて再生医療を行った場合、人工多能性幹細胞に導入される山中因子が生体に悪影響を与える可能性を否定できず、安全面での不安が残るものとなっている。

　ところで、近年、歯関連細胞に、多種の細胞に分化可能な未分化多能性細胞が含まれることが見出され（特許文献１参照）、そのような未分化多能性細胞の中でも、特に増殖力に富む乳歯幹細胞が有用であるとされている。乳歯幹細胞は、骨、軟骨、皮膚等に分化可能であるとされており、将来的には血管や神経等再生医療技術にも利用されることが期待されている。

　ここで、乳歯は必然的に抜歯されるものであり、その入手も非常に容易である。また、乳歯を利用することによる倫理的な問題は少なく、遺伝子導入等による危険性も無い。したがって、乳歯幹細胞を利用した技術は、将来の再生医療技術の一翼を担うものとして大いに期待されている。
Ａｌｅｊａｎｄｒｏ　Ｅｒｉｃｅｓ，ｅｔ　ａｌ．，Ｂｒｉｔｉｓｈ　Ｊｏｕｒｎａｌ　ｏｆ　Ｈａｅｍａｔｏｌｏｇｙ（２０００）ｖｏｌ．１０９，ｐｐ．２３５－２４２．アン　Ａ．キースリング、スコット　Ｃ．アンダーソン、須田年生著、「ヒトＥＳ細胞」、メディカル・サイエンス・インターナショナル、２００８年山中伸弥、畑中正一著、「ｉＰＳ細胞ができた！－ひろがる人類の夢」、集英社、２００８年特開２００４－２０１６１２号公報

　しかしながら、乳歯幹細胞を利用した技術は、未だ研究段階にあり、具体的にこれを再生医療に適用した症例は知られておらず、当然のことながら、乳歯幹細胞の採取・保管・運搬等に関する技術については、十分な研究・開発が行われていない。このため、乳歯幹細胞を利用した再生医療技術が実用化されるためには、このような乳歯幹細胞の採取・保管・運搬等に関する技術を研究・開発していく必要がある。

　特に、乳歯幹細胞は、長期間保存された後に利用されることを予定したものであることから、このような乳歯幹細胞の採取・保管・運搬等に関する技術については、乳歯幹細胞を長期間安定して冷凍保存することが可能であることが求められていた。

　本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、再生医療に活用する上で良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システムを提供することを目的とする。

　本発明の発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った。その結果、抜歯前に所定の殺菌処理を行った上で抜歯を行い、抜歯した乳歯を低温状態で所定の時間内に運搬して、その後、必要に応じて歯髄幹細胞を含む組織又は歯髄を分離・抽出し、これを冷凍保存することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。

　具体的には、本発明は、以下のものを提供する。

　（１）　処置１は、抜歯前の口腔内殺菌処理であり、乳歯採取直前時に、公知手段又は高濃度次亜塩素酸水を用いた通水や含漱等の手段か、エアータービンで口腔内無菌化処置を行った上で、乳歯採取準備を行い、処置２は、抜歯処置であり、良好な乳歯の抜歯処置を行うことができるように殺菌処置を施した装置を使い、一定の衛生レベルを確保した専用スペースを用意した上で乳歯の抜歯処置を行い、その後、処置３で、乳歯を専用運搬キッズに収納し、処置４は、低温状態での運搬であり、抜歯した乳歯の乳歯幹細胞が保存に適した状態を維持できるところの少なくとも４８時間以内に正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために特有な下処理をした上で専用冷凍保存施設に低温状態で運搬し、処置５は必要に応じて行う分離処理であり、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を含む組織もしくは歯髄を分離・抽出する処理を行い、処置６は、冷凍処理保存であり、得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理保存を行うことを特徴とした再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　ここで、「口腔内殺菌処理」とは、抜歯の対象とされる乳歯が存在している部位を含む口腔の一部又は全部の領域に存在する雑菌を、完全に又は略完全に死滅させることを指す。

　「乳歯採取直前時」とは、乳歯を採取するに先立って行われる一連の操作が全て終了した時を指す。このような時としては、特に限定されるものではないが、乳歯採取操作開始時５分前が好ましく、３分前が更に好ましく、１分前が特に好ましい。

　「公知手段」とは、口腔内の殺菌、その他生体組織の殺菌に用いられる従来公知の手段を指す。

　「専用スペース」とは、専ら乳歯を抜歯するために用いられるスペースを指し、歯科用座席及び抜歯用器具を備えたスペースを指す。

　「良好な乳歯」又は「良好な乳歯幹細胞」とは、冷凍保存を経た将来の再生医療に活用する上で必要な能力を十分に備えた乳歯又は乳歯幹細胞を指し、所定期間の冷凍保存の後にも、十分な増殖力を備えた細胞を提供可能な乳歯又は乳歯幹細胞を指す。当該所定期間としては、特に限定されるものではないが、少なくとも１０年、好ましくは２０年、より好ましくは５０年を指す。

　「一定の衛生レベル」とは、乳歯又は乳歯幹細胞の採取・運搬・保存を行う上で、乳歯又は乳歯幹細胞の劣化を生じさせないために必要とされる衛生レベルを指す。

　「専用運搬キッズ」とは、専ら、採取した乳歯を運搬するためのキッズを指し、上記一定の衛生レベルと後述する低温状態が保たれているものをいう。「専用運搬キッズ」の、形状・構造等については、乳歯を一定の衛生レベルの下、低温状態で運搬することができるものであれば、特に限定されない。

　「低温状態」とは、乳歯又は乳歯幹細胞を上記一定の衛生レベルで運搬するために必要とされる温度状態を指し、細菌の増殖を抑制しつつ、乳歯幹細胞又はその他の組織の生存に影響を与えない温度状態を指す。そのような温度状態としては、特に限定されるものではないが、例えば４℃以下の温度状態、好ましくは０℃以下の温度状態を指す。

　「乳歯幹細胞が保存に適した状態」とは、細菌の増殖を抑制しつつ、乳歯幹細胞の生存に影響を与えない状態を指す。

　「正規の長期間冷凍保存施設」又は「専用冷凍保存施設」とは、乳歯幹細胞を将来の再生医療における利用に備え、長期間保存するための施設を指す。また、「正規の長期間冷凍保存」とは、乳歯幹細胞の保存方法であって、乳歯幹細胞の将来の再生医療における利用に備えて、長期間保存することを指す。ここで特に、「長期間」とは、少なくとも１０年、好ましくは２０年、より好ましくは５０年を指す。

　「特有な下処理」とは、物理的な処理として、処置１から処置４までの処理を行ったうえに、抜歯状況等についての状況を適正にコンピューターシステム上に適切に記録する処理を指す。

　「歯髄」又は「歯髄幹細胞」とは、歯の中核に見られる血管と神経に富んだ結合組織の細胞群、又はこの細胞群中に存在する幹細胞を指す。

　「再生医療に活用するという目的」とは、特に限定されるものではないが、例えば、再生医療において、十分な衛生レベルと増殖能力を備えた生体組織を提供するという目的を指す。

　（２）　処置１は、抜歯前の口腔内殺菌処理であり、乳歯採取直前時に、公知手段又は高濃度次亜塩素酸水を用いた通水や含漱等の手段か、エアータービンで口腔内無菌化処置を行った上で、乳歯採取準備を行い、処置２は、抜歯処置であり、良好な乳歯の抜歯処置を行うことができるように殺菌処置を施した装置を使い、一定の衛生レベルを確保した専用スペースを用意した上で乳歯の抜歯処置を行い、その後、処置３で、乳歯を専用運搬キッズに収納し、処置４は、低温状態での運搬であり、抜歯した乳歯の乳歯幹細胞が保存に適した状態を維持できるところの少なくとも４８時間以内に正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために特有な下処理をした上で専用冷凍保存施設に低温状態で運搬し、処置５は必要に応じて行う分離処理であり、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を含む組織もしくは歯髄を分離・抽出する処理を行い、オプションとして培養・増殖を行い、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間培養・冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を培養・保存し、処置６は冷凍処理保存であり、得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理保存を行うことを特徴とした再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　「正規の長期間培養・冷凍保存」とは、正式な施設（冷凍保存バンク）で、正規な状況で適切に（乳歯幹細胞にダメージを与えないように）、長期間（少なくとも十数年以上）冷凍・保存することを指す。

　（１）又は（２）に記載の発明によれば、乳歯の採取から乳歯幹細胞の保存に至るまで、所定の衛生レベルと低温状態を維持するので、乳歯幹細胞に悪影響を与える細菌の増殖を抑制しつつ、乳歯幹細胞の増殖能を高く維持することができ、将来の再生医療において、良好な生体組織を提供することが可能となる。

　（３）　乳歯の抜歯処置を行い、５００ｐｐｍのアスコルビン酸溶液にて乳歯を中和・洗浄し、乳歯を密封された運搬キッズに収納することを特徴とした請求項１又は２記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　（３）に記載の発明は、高濃度次亜塩素酸水により殺菌され、抜歯された乳歯の中和方法と、具体的運搬方法を規定したものである。乳歯の中和方法として、５００ｐｐｍのアスコルビン酸溶液を用いるので、高濃度次亜塩素酸水により殺菌され、抜歯された乳歯を安全に中和することができる。また、アスコルビン酸は入手が容易であるため、高濃度次亜塩素酸水により殺菌され、抜歯された乳歯の中和を低コストで行うことができる。

　更に、乳歯を密封された運搬キッズに収納するので、乳歯の運搬中においても、上記一定の衛生レベルと、低温状態とを確実に維持することができる。

　（４）　衛生レベルを達成・維持するための殺菌方法として、酸性殺菌水による殺菌処理とその後の抗酸化物水溶液の添加による中和反応を利用した殺菌作用無効化を採用することを特徴とした請求項１～３の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　ここで、「殺菌作用無効化」とは、本発明の総合的管理システムにおいて、殺菌処理に用いる酸性殺菌水が有する殺菌成分を、中和等の化学反応等を利用して無力化することを指す。

　（４）に記載の発明は、本発明の総合的管理システムにおける殺菌方法の詳細について規定したものである。当該発明において、酸性殺菌水（例えば、高濃度次亜塩素酸水）を用いて殺菌処理を行い、抗酸化物水溶液（例えば、５００ｐｐｍのアスコルビン酸溶液）を用いて中和処理を行うので、専用スペースの安全で効率的な殺菌を行うことができる。

　（５）　正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために専用の冷蔵・冷凍コンテナの採用することを特徴とした請求項１～４の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　（５）に記載の発明は、本発明の総合的管理システムにおける乳歯の運搬方法について規定したものである。乳歯を長期間冷凍保存施設に運搬するにあたって、専用の冷蔵・冷凍コンテナを利用するので、乳歯の衛生レベルと低温状態とを良好に保つことができる。

　（６）　採取した乳歯及び歯髄組織の殺菌処理として、酸性殺菌水による殺菌処理とその後の抗酸化物水溶液の添加による中和反応を利用した殺菌作用無効化を採用することを特徴とした請求項１～５の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　（６）に記載の発明は、採取した乳歯及び歯髄細胞の殺菌処理方法を規定したものである。採取した乳歯及び歯髄組織を殺菌処理するので、乳歯幹細胞の保存に有害な細菌を殺菌することができる。また、殺菌処理方法として、酸性殺菌水による殺菌処理を採用し、その後の中和処理として、抗酸化物水溶液による中和処理を採用したので、採取した乳歯及び歯髄組織を安全に殺菌・中和することができる。

　（７）　得られた乳歯幹細胞の良好な能力状態をランク付けする指標の１つとするために、抜歯処置後の経過時間をタイマーにより抜歯日・日数・時間をコンピューター端末に記録し、同時にデータをインターネットシステムを通して保存バンクにデータ転送して、各抜歯拠点から上がってくる乳歯幹細胞を安全に保存バンクまで運搬するようにネットワークを使って遠隔管理することを特徴とした請求項１～６の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　（７）に記載の発明によれば、採取された乳歯幹細胞の良好な能力状態をランク付けする指標がコンピューター端末に記録され、そのデータがインターネットシステムを通して保存バンクに転送される。これにより、採取された乳歯幹細胞の良好な能力状態をランク付けする指標を、保存バンク側において、集中管理することができる。

　また、各拠点から上がってくる乳歯幹細胞を安全に保存バンクまで運搬するようにネットワークを使って遠隔管理するので、乳歯幹細胞の運搬状況を、一括して、且つ一定の基準で管理することができる。

　（８）　乳歯上歯１０本のうち、前歯６本、乳歯下歯１０本のうち、前歯６本、に相当する再生医療に適した抜歯された乳歯を状況・場所に応じて、段階的にコンピューター管理することを特徴とした請求項１～７の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　（８）に記載の発明によれば、乳歯上歯１０本のうち、前歯６本、乳歯下歯１０本のうち、前歯６本を用いる。これらの乳歯は、再生医療に特に適したものであるため、将来行われる再生医療において、好適な状態の生体組織を再生することができる。また、乳歯の状況に応じて、乳歯をコンピューター管理するので、乳歯幹細胞の品質の維持を容易に行うことができる。

　（９）　正規の長期間冷凍保存を行うための分離・培養処理を抜歯処置後の経過時間等により区別される良好性能力状態の一定量の良好な歯髄細胞が残っている段階的ランク付けを行うことによる冷凍保存とそのコンピューター管理を特徴とした請求項１～８の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　ここで、「良好性能力状態」とは、特定の基準時における、「良好な乳歯」又は「良好な乳歯幹細胞」が備える能力の度合いを指し、一定量の良好な歯髄細胞が残っている度合いを指す。この良好性能力状態が高い乳歯幹細胞は、将来の再生医療において有効に活用することができ、結果として、十分な増殖能力を備えた細胞を提供することが可能となる。

　（９）に記載の発明は、乳歯幹細胞の冷凍保存とそのコンピューター管理の具体的方法を規定したものである。（９）に記載の発明においては、乳歯幹細胞の良好性能力状態のランク付けを行い、これに基づいて乳歯幹細胞の冷凍保存とそのコンピューター管理を行うので、乳歯幹細胞の状態に応じた保存・管理方法を実現することができ、将来の再生医療に好適な乳歯幹細胞を提供することができる。

　（１０）　得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理を抜歯処置後の経過時間等により区別される良好性能力状態のランクに応じて行うことを特徴とした請求項１～９の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。

　（１０）に記載の発明は、乳歯幹細胞の冷凍保存条件の選定方法について規定したものである。乳歯幹細胞の冷凍保存条件を、抜歯処置後の経過時間等により区別される良好性能力状態のランクに応じて行うので、抜歯後の乳歯幹細胞の状態に合わせた冷凍保存条件とすることができ、様々な状態にある乳歯幹細胞の保存を、良好な乳歯幹細胞の状態を損なうことなく行うことができる。

　本発明の総合的管理システムによれば、乳歯の採取から乳歯幹細胞の保存に至るまで、所定の衛生レベルと低温状態を維持するので、乳歯幹細胞に悪影響を与える細菌の増殖を抑制しつつ、乳歯幹細胞の増殖能を高く維持することができ、将来の再生医療において、良好な生体組織を提供することが可能となる。

本発明の総合的管理システムの作業工程フローチャートを示す図面である。本発明の総合的管理システムの具体的作業工程を示す図面である。本発明の総合的管理システムにおいて、乳歯幹細胞の良好な状態に関するデータを保存・管理するためのコンピューターシステムに関する図面である。

発明を実施するための形態

　＜再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム＞
　第１図にしたがって、本発明の総合的管理システムの具体的な実施形態を以下説明する。

　本発明の総合的管理システムは大きくは３つの段階に分かれる。即ち、歯科医院での段階（処置１～３）と、歯科医院から冷凍保存バンクに運搬される段階（処置４）と、専用施設である冷凍保存バンクでの段階（処置５～６）である。

　［歯科医院での段階（処置１～３）］
　歯科医院での段階では、以下の処置を行う。

　（処置１）
　本発明の総合的管理システムにおいて、処置１は、抜歯前の口腔内殺菌処理であり、乳歯採取直前時に、公知手段又は高濃度次亜塩素酸水を用いた通水や含漱等の手段か、エアータービンで口腔内無菌化処置を行った上で、乳歯採取準備を行う。

　即ち、まず処置１において、被採取者の乳歯採取の準備を行う。本発明システムでは、抜歯前の口腔内殺菌処理を必ず行わなければならない。従来の乳歯抜歯処置では、特に口腔内の殺菌処理が行われていなかった。しかし本発明の総合的管理システムでは、抜歯の直前に、必要十分な殺菌処理を行い、良好な乳歯幹細胞を入手できるように、配慮するものである。これにより、採取する乳歯や乳歯幹細胞の衛生レベルを一定以上に保つことができ、得られる乳歯幹細胞の良好な状態を保つことができる。

　処置１を行うための具体的な手段としては、例えば、高濃度次亜塩素酸水を用いた通水や含漱等の手段か、エアータービンでの口腔内無菌化処置が有効であることが実験的に見出されている。これらの手段を用いることに、安全に、且つ容易に口腔内を殺菌できるので、得られる乳歯幹細胞を、容易に、良好な状態で維持することができる。

　しかしながら、本発明の総合的管理システムにおいては、処置１を行うための具体的手段は、上述した手段に限定されるものではなく、本発明の目的を損なわない範囲内において、必要な殺菌状態を実現するために、選択可能な公知手段を用いることもできる。即ち、このような公知手段を用いた総合的管理システムについても、本発明の範囲内に属するものある。

　（処置２）
　処置２は、抜歯処置であり、良好な乳歯の抜歯処置を行うことができるように殺菌処置を施した装置を使い、一定の衛生レベルを確保した専用スペースを用意した上で乳歯の抜歯処置を行う。

　ここで、処置１により、口腔内の無菌化状態は達成されているが、更に、本発明では、抜歯処置に用いる器具や装置を含めた専用スペース全体を、一定レベル以上の衛生レベルとして確保することを必須条件とする。即ち、従来の歯科医院では、処置に際して、使用する道具や装置を高レベルに無菌化するというところまでの配慮はされていなかったが、本発明では、抜歯処置専用のスペースを用意して厳密な管理を行うことで、高レベルな無菌化状態を実現するものである。このような高レベルな無菌化状態を実現することにより、採取された乳歯幹細胞の良好な状態を、より一層容易に維持することが可能となる。

　処置２において、専用スペース全体に施す殺菌処理の具体的手法としては、特に限定されるものではないが、例えば、処置１で採用した手法と同様の手法を採用することができる。即ち、酸性殺菌水（高濃度次亜塩素酸水）による殺菌処理と、その後の抗酸化物水溶液（アスコルビン酸溶液）の添加による中和反応を利用した殺菌作用無効化を採用することが、安全性の観点や専用スペースに備えられる器具の防錆の観点から好ましいが、これに限定されるものではなく、本発明の目的を損なわない範囲で、他の公知手段等を用いてもよい。

　（処置３）
　処置３では、乳歯を専用運搬キッズに収納する。

　即ち、処置３は、抜歯採取した乳歯の運搬準備である。この処置３においても、高レベルな無菌化状態を維持しながら、作業を進める必要があり、そのために、ここでも所定の洗浄等を行い、例えば、密封可能な専用容器に収容し、好ましくは、冷蔵処理も行う。

　専用容器は、冷凍保存を行い、専用施設での作業に相応しいよう特別に設計したものを採用すべきである。

　また、採取される乳歯幹細胞を含む組織もしくは歯髄を良好な状態で管理するために、処置２又は処置３段階で、コンピュータネットワークを使った時間管理の対象とすることが好ましい。

　即ち、各歯科医院においては、抜歯処置後の経過時間（タイマーにより計測・記録された抜歯日・日数・時間）をコンピューター端末に入力し、同時にデータをインターネットシステムを通して保存バンクにデータ転送する。そして、乳歯幹細胞をこのデータに基づいてランク付けして、当該ランクに応じて、各抜歯拠点から上がってくる乳歯幹細胞を安全に保存バンクまで運搬するようにネットワークを使って遠隔管理する。

　なお、ランク付けの手法としては、乳歯幹細胞の状態に関する複数のパラメーターを、各々の重要度に応じて分類・点数化し、所定の計算式に従って合算する方法などを挙げることができるが、特にこのような手法に限定されるものではない。

　このような管理を行うことにより、乳歯や乳歯幹細胞の管理を、一括して、且つ効率的に行うことができ、品質の均質化をも図ることができると考えられる。

　［歯科医院から保存バンクに運搬される段階（処置４）］
　（処置４）
　処置４は、低温状態での運搬であり、抜歯した乳歯の乳歯幹細胞が保存に適した状態を維持できるところの４８時間以内に正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために特有な下処理をした上で専用冷凍保存施設に低温状態で運搬する。

　即ち、処置４は、処置３の専用容器を用いて行う運搬工程である。ここでは、乳歯幹細胞を含む組織もしくは歯髄を良好な状態で維持するために、抜歯から４８時間以内に、正規の冷凍保存が確実に行われるように、厳密な時間管理を行う。抜歯後４８時間以内というのは、再生医療目的で乳歯幹細胞を培養する際に確実な培養実績を実現するために、必要と考えられる条件であり、発明者らの研究に基づいて見出されたものである。

　冷凍・冷蔵の仕方は乳歯幹細胞を含む組織もしくは歯髄に与えるダメージを最小限度に抑えるために、少なくとも２段階もしくはそれ以上の段階を経て所定の冷凍保存温度に至るようにする。所定の長時間冷凍保存温度としては、液体窒素を用いた－１９５℃が好ましいものとされている。

　［冷凍保存バンクでの段階（処置５～６）］
　（処置５）
　処置５は必要に応じて行う分離処理であり、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を含む組織もしくは歯髄を分離・抽出する処理を行うものである。

　処置５において、将来の再生医療に役立てる乳歯幹細胞を含んだ部分のみを予め分離・抽出しておくことで、より安全性の高い長期冷凍保存を実現することができる。即ち、長期間冷凍保存された後に解凍して、幹細胞を分離・抽出する場合には、乳歯幹細胞が、冷凍及び解凍によりそれなりのダメージを受けた状態で、更に分離・抽出のダメージを受けることになり、良好な幹細胞培養の可能性が低くなってしまう。

　このため、処置５において、乳歯幹細胞を予め分離・抽出しておくことにより、長期間冷凍保存され、その後解凍された場合においても、良好な状態にある乳歯幹細胞を得ることができる。

　幹細胞を分離・抽出するための手法については、特に限定されるものではなく、従来公知の分離・抽出方法を採用することができる。

　なお、本発明の総合的管理システムにおいては、処置５の分離・抽出処理に続くオプションとして、乳歯幹細胞の培養を行い、将来の種々の再生医療に必要十分な乳歯幹細胞数を確保しておいてもよい。乳歯幹細胞の培養を行う際の条件については、特に限定されるものではなく、従来公知の細胞培養条件の中から適宜選択すればよい。

　（処置６）
　処置６は、長期間保存するための冷凍処理保存であり、得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理保存を行う。

　即ち、処置６において所定の長期間冷凍保存温度にまで下げて、少なくとも１０年以上、通常は数十年単位での安定した冷凍保存の実現させるものである。冷凍保存の期間については、例えば、上記－１９５℃での冷凍保存を継続させれば、理論的には半永久的な保存が可能である。

　ここでの冷凍は、保存すべき乳歯幹細胞を含む組織もしくは歯髄にダメージを与えないように、十分な時間をかけて、ごくゆっくりと冷凍を行う。例えば、本発明の発明者らによれば、まず－８０℃で冷凍し、その後少なくとも一昼夜（２４時間）を置きながら、液体窒素で－１９５℃まで温度を下げ、この状態で保存することが好ましいことが確認されている。

　また、逆に解凍処置を行う場合には、３２℃前後のお湯に入れて比較的瞬時に解凍することが細胞へのダメージが少ないことが見出されている。

　なお、再生医療に活用するという本発明の目的を達成するために、良好な乳歯幹細胞を確実に入手するためには、抜歯・採取した乳歯や歯髄組織の状態を予め適切にランク付けし、第３図で見られるようにコンピューターシステム等に記録して管理することが望ましい。ランク付けの手法としては抜歯処置後、正規の冷凍保存に至るまでに経過した時間や、乳歯の上歯１０本のうち、前歯６本、乳歯下歯１０本のうち、前歯６本の状況や場所に応じてランク付けすることが考えられる。

　本発明の総合的管理システムにおいては、このようにランク付けされた各々の乳歯幹細胞について、そのランクに応じて適宜、冷凍保存の条件を選択する。これにより、各々の乳歯幹細胞に特に適した条件で冷凍保存を行うことができ、乳歯幹細胞の保存を好適に行うことができる。

　＜本発明の効果＞
上記の各処置を行い、冷凍保存される乳歯幹細胞は、その衛生レベルや将来の解凍後の培養能力において従来のものよりもはるかに高い信頼性が期待されるものになっている。

Claims

　処置１は、抜歯前の口腔内殺菌処理であり、乳歯採取直前時に、公知手段又は高濃度次亜塩素酸水を用いた通水や含漱等の手段か、エアータービンで口腔内無菌化処置を行った上で、乳歯採取準備を行い、
　処置２は、抜歯処置であり、良好な乳歯の抜歯処置を行うことができるように殺菌処置を施した装置を使い、一定の衛生レベルを確保した専用スペースを用意した上で乳歯の抜歯処置を行い、
　その後、処置３で、乳歯を専用運搬キッズに収納し、
　処置４は、低温状態での運搬であり、抜歯した乳歯の乳歯幹細胞が保存に適した状態を維持できるところの少なくとも４８時間以内に正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために特有な下処理をした上で専用冷凍保存施設に低温状態で運搬し、
　処置５は必要に応じて行う分離処理であり、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を含む組織もしくは歯髄を分離・抽出する処理を行い、
　処置６は、冷凍処理保存であり、得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理保存を行うことを特徴とした再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　処置１は、抜歯前の口腔内殺菌処理であり、乳歯採取直前時に、公知手段又は高濃度次亜塩素酸水を用いた通水や含漱等の手段か、エアータービンで口腔内無菌化処置を行った上で、乳歯採取準備を行い、
　処置２は、抜歯処置であり、良好な乳歯の抜歯処置を行うことができるように殺菌処置を施した装置を使い、一定の衛生レベルを確保した専用スペースを用意した上で乳歯の抜歯処置を行い、
　その後、処置３で、乳歯を専用運搬キッズに収納し、
　処置４は、低温状態での運搬であり、抜歯した乳歯の乳歯幹細胞が保存に適した状態を維持できるところの少なくとも４８時間以内に正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために特有な下処理をした上で専用冷凍保存施設に低温状態で運搬し、
　処置５は必要に応じて行う分離処理であり、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を含む組織もしくは歯髄を分離・抽出する処理を行い、
　オプションとして培養・増殖を行い、採取し運搬された乳歯幹細胞個々の良好な状態を維持しながら、正規の長期間培養・冷凍保存を行うために再生医療に活用するという目的に即した良好な歯髄幹細胞を培養・保存し、
　処置６は冷凍処理保存であり、得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理保存を行うことを特徴とした再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　乳歯の抜歯処置を行い、５００ｐｐｍのアスコルビン酸溶液にて乳歯を中和・洗浄し、乳歯を密封された運搬キッズに収納することを特徴とした請求項１又は２記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　衛生レベルを達成・維持するための殺菌方法として、酸性殺菌水による殺菌処理とその後の抗酸化物水溶液の添加による中和反応を利用した殺菌作用無効化を採用することを特徴とした請求項１～３の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　正規の長期間冷凍保存施設に運搬するために専用の冷蔵・冷凍コンテナの採用することを特徴とした請求項１～４の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　採取した乳歯及び歯髄組織の殺菌処理として、酸性殺菌水による殺菌処理とその後の抗酸化物水溶液の添加による中和反応を利用した殺菌作用無効化を採用することを特徴とした請求項１～５の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　得られた乳歯幹細胞の良好な能力状態をランク付けする指標の１つとするために、抜歯処置後の経過時間をタイマーにより抜歯日・日数・時間をコンピューター端末に記録し、同時にデータをインターネットシステムを通して保存バンクにデータ転送して、各抜歯拠点から上がってくる乳歯幹細胞を安全に保存バンクまで運搬するようにネットワークを使って遠隔管理することを特徴とした請求項１～６の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　乳歯上歯１０本のうち、前歯６本、乳歯下歯１０本のうち、前歯６本、に相当する再生医療に適した抜歯された乳歯を状況・場所に応じて、段階的にコンピューター管理することを特徴とした請求項１～７の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　正規の長期間冷凍保存を行うための分離・培養処理を抜歯処置後の経過時間等により区別される良好性能力状態の一定量の良好な歯髄細胞が残っている段階的ランク付けを行うことによる冷凍保存とそのコンピューター管理を特徴とした請求項１～８の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。
　得られた良好な乳歯幹細胞の状態を確実に維持するに適した冷凍処理を抜歯処置後の経過時間等により区別される良好性能力状態のランクに応じて行うことを特徴とした請求項１～９の何れか１つに記載の再生医療に活用する良好な乳歯幹細胞を採取し長期間安定して冷凍保存するための総合的管理システム。