刃先交換型切削チップ
技術分野
[0001] 本発明は、刃先交換型切削チップ (スローアウエィチップと呼ぶこともある)に関する 背景技術
[0002] 従来より、着脱自在に工具に取り付けて被削材を切削加工する刃先交換型切削チ ップが知られている。このような刃先交換型切削チップは、耐摩耗性や靭性を向上さ せることを目的として、超硬合金やサーメットからなる基材上にセラミックス等の硬質 被膜を形成する構成のものが多数提案されて 、る。
[0003] そして、このような構成の刃先交換型切削チップにぉ 、ては、硬質被膜の組成を変 更したり、硬質被膜の厚みを逃げ面上とすくい面上とで変更させたりすることにより諸 特性を向上させる試みが種々なされて!/ヽる(特開 2001— 347403号公報 (特許文献 1)、特開 2004— 122263号公報(特許文献 2)、特開 2004— 122264号公報(特 許文献 3)、特開 2004— 216488号公報 (特許文献 4) )。
[0004] これに対して、昨今上記のような硬質被膜の最外層として下層とは異なった色を有 する層を形成し、この最外層の変色状態により刃先交換型切削チップの使用状態を 判別しょうとする試みがなされている(特開 2002— 144108号公報 (特許文献 5) )。 しかしながら、このような試みにおいては、使用状態を判別する最外層と被削材とが 切削加工時に溶着し、被削材の表面状態を悪化させるなどの問題が発生していた。 それにもかかわらず、この問題を解決しょうとする試みはほとんどなされていない。 特許文献 1:特開 2001— 347403号公報
特許文献 2:特開 2004— 122263号公報
特許文献 3:特開 2004— 122264号公報
特許文献 4:特開 2004— 216488号公報
特許文献 5 :特開 2002— 144108号公報
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0005] 本発明は、上述のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは 、基材上に形成される被覆層と被削材との溶着現象を可能な限り低減し、以つて被 削材の表面状態を悪化させることがない刃先交換型切削チップを提供することにあ る。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者は、上記課題を解決するために、切削加工時における刃先交換型切削 チップと被削材との接触状態を鋭意研究したところ、図 1に示したように刃先交換型 切削チップ 1の刃先稜線 4の周辺部が被削材 5に接し、逃げ面 3が被削材 5と対面す るのに対してそのすくい面 2が切り屑 6側に位置することから、被削材に接する刃先 稜線周辺部において被覆層(特にその最外層)に対して対策を講じることが上述のよ うな溶着現象の解決に最も有効であるとの知見を得、この知見に基づきさらに研究を 重ねることによりついに本発明を完成させるに至ったものである。
[0007] すなわち、本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換 型切削チップであって、該基材は、少なくとも 1つの逃げ面と少なくとも 1つのすくい面 とを有し、該逃げ面と該すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、上記被覆層は、 1以 上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、この内層は、外層と接 する最上層としてアルミナ層またはアルミナを含む層を有し、この外層は、元素周期 律表の IVa族元素、 Va族元素、 Via族元素、 A1および S もなる群力も選ばれる少 なくとも 1種の金属によって構成される力、または少なくとも 1種の上記金属と炭素、窒 素、酸素およびホウ素力もなる群力 選ばれる少なくとも 1種の元素とにより形成され る化合物によって構成され、かっこの外層は、切削に関与する部位において、上記 逃げ面側における平均厚みを A m、上記すくい面側における平均厚みを B mと した場合に、 B/A≤0. 9となることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
[0008] また、本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切 削チップであって、該基材は、少なくとも 2つの逃げ面と、少なくとも 1つのすくい面と 、少なくとも 1つのコーナーとを有し、該逃げ面と該すくい面とは、刃先稜線を挟んで 繋がり、上記コーナーは、 2つの上記逃げ面と 1つの上記すくい面とが交差する交点
であり、上記被覆層は、 1以上の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを 含み、この内層は、外層と接する最上層としてアルミナ層またはアルミナを含む層を 有し、この外層は、元素周期律表の IVa族元素、 Va族元素、 Via族元素、 A1および S もなる群力 選ばれる少なくとも 1種の金属によって構成される力、または少なくと も 1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素力 なる群力 選ばれる少なくとも 1種の元素とにより形成される化合物によって構成され、かつ切削に関与する上記コ 一ナーを通り、そのコーナーを構成する 2つの上記逃げ面がなす角度を上記すくい 面上にお!、て 2等分し、かつ上記すく 、面から上記 2つの逃げ面が交差する稜へと 繋がる直線上において、この外層は、上記コーナーから上記逃げ面側に 0.5mm以 上 lmm以下となる線分区域における平均厚みを A m、上記コーナーから上記すく い面側に 0.5mm以上 lmm以下となる線分区域における平均厚みを B μ mとした場 合に、 B/A≤0. 9となることを特徴とする刃先交換型切削チップに係る。
また、本発明は、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有する刃先交換型切 削チップであって、該基材は、少なくとも 1つの逃げ面と少なくとも 1つのすくい面とを 有し、該逃げ面と該すくい面とは、刃先稜線を挟んで繋がり、上記被覆層は、 1以上 の層からなる内層とその内層上に形成された外層とを含み、この内層は、外層と接す る最上層としてアルミナ層またはアルミナを含む層を有し、この外層は、元素周期律 表の IVa族元素、 Va族元素、 Via族元素、 A1および S もなる群力も選ばれる少なく とも 1種の金属によって構成される力、または少なくとも 1種の上記金属と炭素、窒素 、酸素およびホウ素力もなる群力 選ばれる少なくとも 1種の元素とにより形成される 化合物によって構成され、上記内層は、上記刃先稜線力 上記逃げ面側に 0. 4mm 未満の距離を有して広がった領域と、上記刃先稜線から上記すく!、面側に 2mm未 満の距離を有して広がった領域とにおいて露出しており、その露出部における内層 の表面がアルミナ層またはアルミナを含む層で構成され、上記外層は、上記内層の 露出部から上記逃げ面の中心方向に 0. 4mm離れた地点よりさらに 0. 2mmの幅を 有して広がった領域における平均厚みを A mとし、上記内層の露出部から上記す くい面の中心方向に 0. 4mm離れた地点よりさらに 0. 2mmの幅を有して広がった領 域における平均厚みを B mとした場合に、 B/A≤0. 9となることを特徴とする刃先
交換型切削チップに係る。
[0010] また、上記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶型窒化硼 素焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体のいずれかにより構成される ことができる。
[0011] また、上記刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミル加工用、フライスカロ ェ用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リーマ加工用、タップカロェ 用、またはクランクシャフトのピンミーリングカ卩ェ用のいずれかのものとすることができ る。
発明の効果
[0012] 本発明の刃先交換型切削チップは、上述の通りの構成を有することから、基材上に 形成される被覆層と被削材との溶着現象を可能な限り低減し、以つて被削材の表面 状態を悪ィ匕させることを防止することに成功したものである。
図面の簡単な説明
[0013] [図 1]切削加工時における刃先交換型切削チップと被削材との接触状態を模式的に 示した概略図である。
[図 2]本発明の刃先交換型切削チップの一例を示す概略斜視図である。
[図 3]チップブレーカを有さないネガティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断 面図である。
[図 4]チップブレーカを有するネガティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面 図である。
[図 5]チップブレーカを有さないポジティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断 面図である。
[図 6]チップブレーカを有するポジティブタイプの刃先交換型切削チップの概略断面 図である。
[図 7]刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有さないネガティブ タイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。
[図 8]刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有するネガティブタ イブの刃先交換型切削チップの概略断面図である。
[図 9]刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有さないポジティブ タイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。
[図 10]刃先稜線近傍部において内層が露出したチップブレーカを有するポジティブ タイプの刃先交換型切削チップの概略断面図である。
[図 11]2つの逃げ面がなす角度を 2等分する直線 Lを表した刃先交換型切削チップ の平面図である。
[図 12]図 11の直線 Lにおける概略断面図である。
[図 13]基材の刃先処理部の概略断面図である。
[図 14]刃先稜線近傍部において内層が露出した場合の平均厚みの規定領域を示し た刃先交換型切削チップの概略断面図である。
[図 15]刃先交換型切削チップの鋭角コーナー部の 1つを示す概略平面図である。
[図 16]図 15の XVI— XVI線の概略断面図である。
[図 17]刃先交換型切削チップのコーナー部の 1つを示す概略平面図である。
[図 18]刃先交換型切削チップの異なるコーナー部の 1つを示す概略平面図である。
[図 19]図 18の XIX— XIX線の概略断面図である。
符号の説明
[0014] 1 刃先交換型切削チップ、 2 すくい面、 3 逃げ面、 4 刃先稜線、 5 被削材、 6 切り屑、 7 貫通孔、 8 基材、 9 コーナー、 11 被覆層、 12 内層、 13 外層。 発明を実施するための最良の形態
[0015] 以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明で は、図面を用いて説明している力 本願の図面において同一の参照符号を付したも のは、同一部分または相当部分を示している。また、各図面はあくまでも説明用の模 式的なものであって、被覆層の膜厚と基材とのサイズ比やコーナーのアール (R)の サイズ比は実際のものとは異なっている。
[0016] <刃先交換型切削チップ >
本発明の刃先交換型切削チップは、基材と、該基材上に形成された被覆層とを有 するものである。そして、本発明の刃先交換型切削チップは、ドリル加工用、エンドミ ル加工用、フライス加工用、旋削加工用、メタルソー加工用、歯切工具加工用、リー
マ加工用、タップカ卩ェ用およびクランクシャフトのピンミーリングカ卩ェ用のものとして特 に有用である。
[0017] なお、本発明は、ネガティブタイプまたはポジティブタイプの ヽずれの刃先交換型 切削チップに対しても有効であり、またチップブレーカが形成されて!、るものおよびそ れが形成されて 、な 、ものの両者 、ずれに対しても有効である。
[0018] <基材>
本発明の基材を構成する材料としては、このような刃先交換型切削チップの基材と して知られる従来公知のものを特に限定なく使用することができ、たとえば超硬合金 ( たとえば WC基超硬合金、 WCの他、 Coを含み、あるいはさらに Ti、 Ta、 Nb等の炭 化物、窒化物、炭窒化物等を添加したものも含む)、サーメット (TiC、 TiN、 TiCN等 を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス (炭化チタン、炭化硅素、窒化硅素、窒 化アルミニウム、酸ィ匕アルミニウム、およびこれらの混合体など)、立方晶型窒化硼素 焼結体、ダイヤモンド焼結体、または窒化硅素焼結体等を挙げることができる。
[0019] また、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えな 、。たとえ ば、超硬合金の場合はその表面に脱 j8層が形成されていたり、サーメットの場合に は表面硬化層が形成されて ヽても良ぐこのように表面が改質されて ヽても本発明の 効果は示される。
[0020] また、基材の形状は、このような刃先交換型切削チップの基材の形状として知られ る従来公知のものを特に限定なく採用することができる。たとえば、基材表面に平行 な断面形状で表せば、菱形、正方形、三角形、円形、楕円形等の形状のものが含ま れる。
[0021] そして、このような基材 8は、たとえば図 2に示すように少なくとも 1つの逃げ面 3と少 なくとも 1つのすくい面 2とを有する構造を備えたものであり、この逃げ面 3とすくい面 2 とは刃先稜線 4を挟んで繋がり、この刃先稜線 4が被削材に対する切削作用の中心 的作用点となる。より好ましくは、このような基材 8は、少なくとも 2つの逃げ面 3と、少 なくとも 1つのすくい面 2と、少なくとも 1つのコーナー 9とを有する構造を備えたもので あり、このコーナー 9は 2つの逃げ面 3と 1つのすくい面 2とが交差する交点であり、切 削作用の最も中心的作用点となる場合が多い。
[0022] なお、本願で用いる逃げ面、すくい面、刃先稜線およびコーナー等という表現は、 基材の表面部だけではなく刃先交換型切削チップ 1の最表面部に位置する部分や 面とともに、後述する内層や外層等の各層の表面部や内部等に位置する相当部分 をも含む概念である。
[0023] また、上記刃先稜線 4は図 2では直線状に形成されているがこれのみに限られるも のではなぐたとえば円周状のもの、波打ち状のもの、湾曲状のもの、または屈折状 のものも含まれる。また、このような刃先稜線やコーナーに対しては、面取り加工およ び Zまたはコーナーのアール (R)付与カ卩ェ等の刃先処理力卩ェを施すことができるが 、このような刃先処理加工等により刃先稜線が明瞭な稜を構成しなくなったり、コーナ 一が明瞭な交点を形成しなくなった場合には、そのような刃先処理加工等がされた すくい面および逃げ面に対して刃先処理加工等がされな ヽ状態を想定してそれぞれ の面を幾何学的に延長させることにより双方の面が交差する稜ゃ交点を仮定的な稜 や交点と定め、その仮定的に定められた稜を刃先稜線とし、仮定的に定められた交 点をコーナーとするものとする。なお、すくい面と逃げ面とが刃先稜線を挟んで繋がる と 、う表現および刃先稜線を有すると 、う表現は、 V、ずれも刃先稜線に対して上記の ような刃先処理加工が施された場合も含むものとする。また、 2つの逃げ面と 1つのす くい面とが交差する交点と!/、う表現およびその交点がコーナーとなると!/、う表現は、 V、 ずれもそのコーナーに対して上記のような刃先処理加工が施された場合も含むもの とする。
[0024] また図 2においては、すくい面 2は平坦な面として示されている力 必要に応じてす くい面は他の構造、たとえばチップブレーカ等を有していてもよい。同じことが逃げ面 3にも当てはまる。また、逃げ面 3は図 2において平坦な面として示されているが、必 要に応じて (複数の面区域に区分する)面取りをしまたは別の仕方で平坦な面と異な る形状や曲面にしたり、チップブレーカを設けた形状にすることもできる。
[0025] なお、本発明の基材には、刃先交換型切削チップ 1を工具に取り付ける固定孔とし て使用される貫通孔 7が、上面と底面を貫通するように形成されていても良い。必要 に応じ、この固定孔の他にまたはその代わりに、別の固定手段を設けることもできる。
[0026] く被覆層〉
本発明の被覆層 11は、たとえば図 3〜図 10に示したように上記基材 8上に形成さ れるものであって、 1以上の層力もなる内層 12 (図面では便宜的に 1の層として表さ れている)とその内層 12上に形成された外層 13とを含むものである。以下、内層 12と 外層 13とに分けて説明する。
[0027] なお、図 3および図 4は、ネガティブタイプ(すくい面 2と逃げ面 3とが 90° 以上の角 度をなして交差するもの)の刃先交換型切削チップ 1の断面を模式的に表した概略 断面図であり、図 3はチップブレーカを有さず、図 4はチップブレーカを有するもので ある。図 5および図 6は、ポジティブタイプ (すくい面 2と逃げ面 3とが鋭角をなして交差 するもの)の刃先交換型切削チップ 1の断面を模式的に表した概略断面図であり、図 5はチップブレーカを有さず、図 6はチップブレーカを有するものである。また、このよ うな図 3〜図 6に対して、図 7〜図 10は、後述のように刃先稜線近傍部において内層 12が表面に露出している状態を模式的に表した概略断面図である。
[0028] <内層 >
本発明の内層は、上記基材と後述の外層との間に 1以上の層として形成されるもの であり、刃先交換型切削チップの耐摩耗性ゃ靭性等の諸特性を向上させる作用を有 するものである。通常、この内層は、後述の外層とは異なった色を有していることが好 ましく、基材の全面を覆うようにして形成されて ヽることが好ま ヽ。
[0029] そしてこの内層は、後述の外層と接する最上層としてアルミナ層またはアルミナを含 む層を有して 、ることを特徴として 、る。このようにアルミナ層またはアルミナを含む層 を最上層として有することにより、マイクロチッビングに起因する膜損傷を低減させるこ とができ被覆層全体の耐摩耗性の向上に資するばカゝりではなぐ後述のように外層 の厚みを規定したことと相乗的に作用することにより被削材との溶着現象を飛躍的に 低減させる作用を奏するものである。外層に接する内層の最外層としてこのようにァ ルミナ層またはアルミナを含む層を形成するとなぜ被削材の溶着現象を低減すること ができるのかその詳細なメカニズムは解明されていないものの、恐らく厚みを規定さ れた外層が切削工程中に任意のタイミングで摩耗消滅した後にこのアルミナと被削 材とが接することとなり、この場合、アルミナと被削材を構成する成分との間でィ匕学反 応が生じにくぐかつアルミナと被削材との摩擦抵抗が低くなるためではないかと考え
られる。
[0030] またさらにこのようなアルミナ層またはアルミナを含む層は、上述のような優れた作 用を有するだけではなく黒ずんだ色 (正確にはそれ自身が黒色を呈するものではなく 下地の色の影響を受けやすいものである力 本願では単に黒色と表現することもある )を呈するため、その上に形成される後述の外層との間で特に顕著なコントラストを形 成することができるというメリツ卜ち有すること〖こなる。
[0031] なお、ここでいうアルミナ(酸ィ匕アルミニウム、 Al O )は、その結晶構造は特に限定
2 3
されず、 a -Al O、 κ -Al Ο、 y— Al Oまたはアモルファス状態の Al Oが含ま
2 3 2 3 2 3 2 3 れるとともに、これらが混在した状態も含まれる。またアルミナを含むとは、その層の一 部として少なくともアルミナを含んで 、ること(50質量%以上含まれて ヽればアルミナ を含むものとみなす)を意味し、残部は後述するような化合物や、 ZrO、 Y O (アルミ
2 2 3 ナに Zrや Yが添加されたとみることもできる)等によって構成することができ、また塩素 、炭素、ホウ素、窒素等を含んでいても良い。
[0032] また、このような内層は、少なくとも 1以上の層が圧縮応力を有していることが好まし ぐさらに切削に関与する部位において上記のアルミナ層またはアルミナを含む層が 圧縮応力を有していることが特に好ましい。これにより、靭性を効果的に向上させるこ とができる。この場合、すくい面の圧縮応力を逃げ面の圧縮応力よりも大きくすること により、靭性をさらに向上させることができるため好ましい。
[0033] ここで、切削に関与する部位とは、後述の通り、被削材が接触する(最接近する)刃 先稜線から逃げ面側およびすく!、面側にそれぞれ 3mmの幅を有して広がった領域 ( 後述の図 12における線分区域 cおよび dを包含する領域)を意味するものとする。な お、この圧縮応力の規定に関しては、この領域において内層が表面に露出している 態様をも含むものとし、そのように露出する表面を構成するアルミナ層またはアルミナ を含む層が圧縮応力を有している態様が含まれる。
[0034] また、圧縮応力とは、このような被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であ つて、「―」(マイナス)の数値 (単位:本発明では「GPa」を使う)で表される応力をいう 。このため、圧縮応力が大きいという概念は、上記数値の絶対値が大きくなることを示 し、また、圧縮応力が小さいという概念は、上記数値の絶対値が小さくなることを示す
。因みに、引張応力とは、被覆層に存する内部応力(固有ひずみ)の一種であって、 「+」(プラス)の数値で表される応力をいう。なお、単に残留応力という場合は、圧縮 応力と引張応力との両者を含むものとする。
[0035] そして、このような圧縮応力は、その絶対値が 0. lGPa以上の応力であることが好 ましぐより好ましくは 0. 2GPa以上、さらに好ましくは 0. 5GPa以上の応力である。そ の絶対値が 0. lGPa未満では、十分な靭性を得ることができない場合があり、一方、 その絶対値は大きくなればなる程靭性の付与という観点からは好ましいが、その絶対 値が 8GPaを越えると被覆層自体が剥離することがあり好ましくない。
[0036] なお、上記残留応力は、 X線応力測定装置を用いた sin2 φ法により測定することが できる。そしてこのような残留応力は内層中の圧縮応力が付与される領域に含まれる 任意の点 10点(これらの各点は当該層の該領域の応力を代表できるように互いに 0. lmm以上の距離を離して選択することが好ましい)の応力を該 sin2 φ法により測定し 、その平均値を求めることにより測定することができる。
[0037] このような X線を用いた sin2 φ法は、多結晶材料の残留応力の測定方法として広く 用いられているものであり、たとえば「X線応力測定法」(日本材料学会、 1981年株 式会社養賢堂発行)の 54〜67頁に詳細に説明されている方法を用いれば良い。
[0038] また、上記残留応力は、ラマン分光法を用いた方法を利用することにより測定する ことも可能である。このようなラマン分光法は、狭い範囲、たとえばスポット径 1 μ mと V、つた局所的な測定ができると!、うメリットを有して 、る。このようなラマン分光法を用 いた残留応力の測定は、一般的なものであるがたとえば「薄膜の力学的特性評価技 術」(サイペック(現在リアライズ理工センターに社名変更)、 1992年発行)の 264〜2 71頁に記載の方法を採用することができる。
[0039] さらに、上記残留応力は、放射光を用いて測定することもできる。この場合、被覆層 の厚み方向で残留応力の分布を求めることができるというメリットがある。
[0040] このような内層は、公知の化学的蒸着法 (CVD法)、物理的蒸着法 (PVD法、スパ ッタリング法等を含む)により形成することができ、その形成方法は何等限定されるも のではない。たとえば、刃先交換型切削チップがドリル力卩ェ用やエンドミルカ卩ェ用と して用いられる場合、内層は抗折カを低下させることなく形成できる PVD法により形
成することが好ましい。また、内層の膜厚の制御は、成膜時間により調整を行なうと良 い。
[0041] また、公知の CVD法を用いて内層を形成する場合には、 MT—CVD (medium t emperature CVD)法により形成された層を含むことが好ましい。特にその方法に より形成した耐摩耗性に優れる炭窒化チタン (TiCN)層を備えることが最適である。 従来の CVD法は、約 1020〜1030°Cで成膜を行なうのに対して、 MT—CVD法は 約 850〜950°Cという比較的低温で行なうことができるため、成膜の際加熱による基 材のダメージを低減することができる。したがって、 MT—CVD法により形成した層は 、基材に近接させて備えることがより好ましい。また、成膜の際に使用するガスは、二 トリル系のガス、特にァセトニトリル (CH CN)を用いると量産性に優れて好ましい。な
3
お、上記のような MT— CVD法により形成される層と、 HT— CVD (high temperat ure CVD,上記でいう従来の CVD)法により形成される層とを積層させた複層構造 のものとすることにより、これらの被覆層の層間の密着力が向上する場合があり、好ま しい場合がある。
[0042] 一方、このような内層は、 1以上の層を積層して構成されるものであり、各層は元素 周期律表の IVa族元素 (Ti、 Zr、 Hf等)、 Va族元素 (V、 Nb、 Ta等)、 Via族元素(C r、 Mo、 W等)、 Alおよび Siからなる群力も選ばれる少なくとも 1種の金属と、炭素、窒 素、酸素およびホウ素力もなる群力 選ばれる少なくとも 1種の元素とにより形成され る化合物により構成することができる。なお、内層を構成するこれらの化合物の組成 比 (原子比)は後述の外層を構成する化合物の組成比と同様の規定とすることができ るため、その詳細は後述する。
[0043] ここで、たとえばこのような内層は上記の化合物としてアルミナ (Al O )を含むことが
2 3
でき、少なくとも外層と接する最上層はアルミナ層またはアルミナを含む層となる。こ のような内層のより具体的な積層構成の一例を挙げると、まず基材上に TiN層を形成 し、その上に TiCN層を形成し、さらにその上に最上層として Al O層を形成する態
2 3
様を挙げることができる。これらの層は 3層全体として内層を構成し、耐摩耗層として の作用を示す。
[0044] また、このような内層は、図 7〜図 10に表したように上記刃先稜線 4力も上記逃げ面
3側に 0. 4mm未満 (好ましくは 30 /z m以上)の距離を有して広がった領域 aと、上記 刃先稜線 4から上記すくい面 2側に 2mm未満 (好ましくは 100 m以上)の距離を有 して広がった領域 bとにおいて露出したものとすることができ、その露出部における内 層の表面がアルミナ層またはアルミナを含む層で構成されていることが特に好ましい 。このような領域 a、 bにおいて被削材の溶着が顕著に発生すると考えられ、前述のよ うにアルミナは被削材を構成する成分との間でィ匕学反応が生じにくぐかつ被削材と の摩擦抵抗が低くなるためである。上記距離が上記の規定値を超えると内層上に形 成される外層の後述のような色彩の変化が十分に示されなくなるため好ましくない。
[0045] 上記距離は逃げ面側では、好ましくは 0. 35mm未満、より好ましくは 0. 3mm未満 であり、すくい面側では好ましくは 1. 8mm未満、より好ましくは 1. 5mm未満、さらに 好ましくは 0. 5mm未満である。また、該距離の下限は、逃げ面 3側では 30 m以上 、すくい面 2側では 100 m以上である。この下限未満となる場合には、内層を露出 させる効果が十分に示されな 、場合があるため好ましくな 、。
[0046] なお、このように内層を表面に露出させる方法は、従来公知の種々の方法を採用 することができ、その方法は何等限定されるものではない。たとえば、内層上に後述 の外層を形成した後に、内層を露出させる所定部位の該外層に対してブラスト処理、 ブラシ処理またはバレル処理等を施すことによって該外層を除去することにより該所 定部位の内層を表面に露出させることができる。
[0047] このように被削材を切削する中心的部位であり、被削材と接触する可能性が高!、刃 先稜線近傍部において、後述のような外層ではなく内層であるアルミナ層またはアル ミナを含む層を表面最上層として露出させることにより、基材上に形成される被覆層と 被削材との溶着現象を効果的に抑制することができ、以つて被削材の表面状態の悪 化を効果的に防止することができる。さらに、マイクロチッビングに起因する膜損傷を 低減させることもでき、これらが相乗的に作用することにより被覆層の耐摩耗性が向 上する。
[0048] また、このような内層を構成する化合物としては、上記のアルミナ (Al O )以外に(
2 3 あるいは Al Oとともに)使用できるものとして、たとえば TiC、 TiN、 TiCN、 TiCNO、
2 3
TiB、 TiBN、 TiBNO、 TiCBN、 ZrC、 ZrO、 HfC、 HfN、 TiAINゝ AlCrNゝ CrN、
VN、 TiSiN、 TiSiCNゝ AlTiCrN、 TiAlCN、 ZrCNゝ ZrCNO、 A1N、 A1CNゝ ZrN 、 TiAlC等を挙げることができる。
[0049] そして、アルミナ層またはアルミナを含む層の下層として TiBNまたは TiBNOから なる層を形成させることが特に好ましい。下層としてこのような化合物力もなる層を形 成することによりアルミナとの密着性が極めて向上するとともに、アルミナが表面に露 出した部分においてはこのような下層の色彩をアルミナ層を透して認識することがで き、その部分にぉ 、てアルミナが有する色彩 (黒色)とは異なった色彩を提供すること ができるためである。
[0050] このような内層の厚み(2以上の層として形成される場合は全体の厚み)は、 0. 05 μ m以上 30 μ m以下であることが好ましい。厚みが 0. 05 μ m未満では耐摩耗性等 の諸特性の向上作用が十分に示されず、逆に 30 mを超えてもそれ以上の諸特性 の向上が認められないことから経済的に有利ではない。しかし、経済性を無視する限 りその厚みは 30 m以上としても何等差し支えなぐ本発明の効果は示される。この ような厚みの測定方法としては、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、その断面 を SEM (走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができる。
[0051] なお、上記のように内層が表面に露出する場合、内層と外層との境界は当該境界 の近傍部を電子顕微鏡および Zまたは金属顕微鏡で観察することにより、単位面積
(lOO ^ mX lOO ^ m)に占める表面に露出する内層の面積が 80%以上となる場合 に内層が表面に露出しているものとみなすものとする。
[0052] く外層〉
本発明の外層は、上記の内層上に 1以上の層として形成されるものであって、元素 周期律表の IVa族元素 (Ti、 Zr、 Hf等)、 Va族元素 (V、 Nb、 Ta等)、 Via族元素(C r、 Mo、 W等)、 Alおよび Siからなる群力も選ばれる少なくとも 1種の金属によって構 成されるか(2以上の金属により構成される場合は合金となる場合を含む)、または少 なくとも 1種の上記金属と炭素、窒素、酸素およびホウ素からなる群力 選ばれる少な くとも 1種の元素とにより形成される化合物によって構成される。そして、該外層の厚 みは、切削に関与する部位において、上記逃げ面側における平均厚みを A m、上 記すくい面側における平均厚みを B mとした場合に、 B/A≤0. 9となることを特徴
とするちのである。
[0053] このように切削に関与する部位において、上記の如く外層の厚みを逃げ面側に比 しすくい面側において薄く制御することにより、基材上に形成される被覆層と被削材 との溶着現象を効果的に抑制することができ、以つて被削材の表面状態の悪化を効 果的に防止するという効果が示される。すなわち、切削に関与する部位において、外 層の厚みを逃げ面側に比しすくい面側において一定値を下回るように薄く形成させ ると被削材の溶着現象を効果的に低減させることが可能となるが、これは本発明者の 研究により被削材がすくい面側に顕著に溶着することが明らかとなり、このため被削 材が溶着する可能性の高い部分の外層の厚みを予め可能な限り薄く設計することに より該層の摩滅による消滅を促進させ、以つて該層と被削材の溶着が顕著に発生す る前に該層を消滅除去してしまおうという技術的思想に基づくものである。そして、前 述の通り、このような外層の厚みの制御によりもたらされる効果は、内層の最上層とし てアルミナ層またはアルミナを含む層を形成させることにより一層促進されたものとな る。
[0054] ここで、切削に関与する部位とは、刃先交換型切削チップの形状、被削材の種類 や大きさ、切削加工の態様等により異なるものであるが、通常被削材が接触する(最 接近する)刃先稜線から逃げ面側およびすく 、面側にそれぞれ 3mmの幅を有して 広がった領域を意味するものとする。なお、この領域においては内層が表面に露出し て!、な 、ことを条件とする(内層が表面に露出して 、る場合の外層の厚みに対する 規定は後述する)。
[0055] また、上記逃げ面側における平均厚み A/z mおよび上記すくい面側における平均 厚み B /z mとは、それぞれ上記領域内において互いに異なる 10点の測定ポイントに おける厚みの平均値を意味するものとする。なお、厚みの測定方法としては、上記と 同様の測定方法を採用することができ、たとえば刃先交換型切削チップを切断し、そ の断面を SEM (走査型電子顕微鏡)を用いて観察することにより測定することができ る。
[0056] 上記 BZA値は、より好ましくは BZA≤0. 7、さらに好ましくは BZA≤0. 5である。
BZA値が 0. 9を超えると、被削材の溶着現象を効果的に低減させることができなく
なる。この点、 BZA値力 Si以下となっても 0. 9を超えると被削材の溶着現象を低減さ せることができなくなるものである力 これは当該外層の摩耗による消滅までの時間が 長くなるためではないかと考えられる。また、 BZA値の下限は 0. 01以上とすること が好ましい。これは 0. 01未満になるとすくい面側の外層の厚みが薄くなりすぎ、後述 のような色彩の変化が十分に示されなくなるためである。
[0057] なお、外層に対する上記のような厚みの制御は、内層上にー且外層を均一な厚み で形成した後に、ブラスト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を外層に対して施す ことによりその厚みを調整することが好ましい。このように外層の厚みを制御する方法 としては、他の方法としてたとえば外層を形成する場合に直接的に厚みを制御して形 成する方法も採用し得るが、厚みの薄い外層を均一な色彩を示すように直接的に形 成することは困難なため、上述のようにー且外層を均一な厚みで形成した後にブラス ト処理、ブラシ処理またはバレル処理等を施す方法を採用することが特に有効である 。なお、ブラスト処理を行なう場合は、すくい面に対してほぼ垂直方向力 スラリーを 噴射することにより、効果的にすくい面上の外層の厚みを薄くすることができるため好 ましい。しかし、すくい面に対して所定の角度を有する方向からスラリーを照射するこ とにより複数の面を同時に処理することもできる。
[0058] カ卩えて、上記のような処理を施すことにより、被覆層の少なくとも 1層に対して圧縮応 力を付与することができ、以つて刃先強度を向上させることができるというメリットが享 受される。
[0059] そして、このような外層は、特に図 11および図 12に示したように切削に関与するコ ーナー 9 (図面のように刃先処理されて!、る場合は仮定的なコーナー)を通り、そのコ ーナー 9を構成する 2つの逃げ面がなす角度をすくい面上において 2等分し、かつす くい面 2から上記 2つの逃げ面 3が交差する稜へと繋がる直線 L (図 11ではこの直線 Lはすく 、面 2上のみに表されて 、るが 2つの逃げ面が交差する稜(図面のように刃 先処理されて 、る場合はアールの中間に位置する部分を仮定的な稜とする)〖こも繋 がる)上において、そのコーナー 9から逃げ面 3側に 0.5mm以上 lmm以下となる線 分区域 cにおける平均厚みを A m、コーナー 9からすくい面 2側に 0.5mm以上 lm m以下となる線分区域 dにおける平均厚みを B /z mとした場合に、 B/A≤0. 9となる
ことが特に好ましい。このように規定することにより、内層の最上層としてアルミナ層ま たはアルミナを含む層を採用したことと相俟って被削材の溶着現象をさらに効果的に 低減させることが可能となる。
[0060] ここで、切削に関与するコーナーとは、実際に被削材が接触する (最接近する)コー ナーを含むとともに、コーナー近傍の刃先稜線に被削材が接触し (最接近し)、該コ 一ナーもその切削に関与するような場合 (たとえば温度が上昇するような場合)を含 むものである。しかし、単に切削加工時の被削材の切り屑が飛散して接触するような コーナーは含まれない。なお、上記線分区域 cおよび dにおいては、内層が表面に露 出して 、な 、ことを条件とする(内層が表面に露出して 、る場合の外層の厚みに対 する規定は後述する)。
[0061] また、コーナーおよび稜が刃先処理されている場合は、 2つの逃げ面が交差する稜 とは、 2つの逃げ面を繋げるアール部の中間を通る直線を仮定的な稜とし、この仮定 的な稜と仮定的なコーナーとを結ぶ直線をいうものとする(図 11および図 12参照)。
[0062] また、上記線分区域 cおよび dを、上記のように各々 0. 5mm以上 lmm以下の範囲 と規定したのは、この規定範囲の外層と被削材との溶着現象が被削材の表面状態に 最も大きな影響を及ぼすことが本発明者の研究により明らかとなったためである。そ の詳細なメカニズムは未だ解明されて ヽな ヽが、恐らくコーナー付近で切削され極め て高温となった被削材の切り屑がこの規定範囲内の領域に接触する確率が高くなる ためではな!/、かと推測される。
[0063] また、上記 BZA値は、より好ましくは BZA≤0. 7、さらに好ましくは BZA≤0. 5 である。 BZA値が 0. 9を超えると、上記同様被削材の溶着現象を効果的に低減さ せることができなくなる。この点、 BZA値が 1以下となっても 0. 9を超えると被削材の 溶着現象を低減させることができなくなるものである力 これは前記と同様の理由によ るものと考えられる。また、 BZA値の下限は 0. 01以上とすることが好ましい。これは 0. 01未満になるとすくい面側の外層の厚みが薄くなりすぎ、後述のような色彩の変 化が十分に示されなくなるためである。
[0064] なお、ここで!/、う平均厚み A μ mおよび Β μ mとは、それぞれ上記線分区域 c、 dに おいて互いに異なる 10点の測定ポイントにおける厚みの平均値を意味するものとし、
厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。また、刃 先交換型切削チップに複数のコーナーが存在する場合は、切削に関与する可能性 のある全てのコーナーについて上記の BZA値の関係が成立する必要がある。
[0065] またさらに、このような外層は、図 14に示したように刃先稜線 4近傍部において内層 12が表面に露出している場合 (すなわち、刃先稜線 4力も逃げ面 3側に 0. 4mm未 満の距離を有して広がった領域 aと、刃先稜線 4からすくい面 2側に 2mm未満の距離 を有して広がった領域 bとにおいて内層 12が表面に露出しており、その露出部にお ける内層 12の表面がアルミナ層またはアルミナを含む層で構成されている場合)、こ のような内層 12の露出部力も逃げ面 3の中心方向に 0. 4mm離れた地点よりさらに 0 . 2mmの幅を有して広がった領域 eにおける平均厚みを A/z mとし、内層 12の露出 部からすくい面 2の中心方向に 0. 4mm離れた地点よりさらに 0. 2mmの幅を有して 広がった領域 fにおける平均厚みを B mとした場合に、 B/A≤0. 9となることを特 徴とするものである。このように規定することにより、刃先稜線近傍部において内層が 表面に露出した場合において被削材との溶着現象を極めて有効に低減することが可 能となる。
[0066] ここで、内層 12の露出部力も逃げ面 3の中心方向に 0. 4mm離れた地点とは、内 層と外層の境界部 (該境界は上述の方法により決定するものとする)から刃先稜線側 とは反対の方向(すなわち刃先稜線力 遠ざ力る方向)に 0. 4mm離れた地点を意 味する。また同様に、内層 12の露出部力もすくい面 2の中心方向に 0. 4mm離れた 地点とは、内層と外層の境界部から刃先稜線側とは反対の方向(すなわち刃先稜線 力 遠ざ力る方向)に 0. 4mm離れた地点を意味する。
[0067] また、上記領域 eおよび fを、上記のように内層露出部力 0. 4mm離れた地点より さらに 0.2mmの幅を有して広がった領域と規定したのは、刃先稜線近傍部において 上述のように内層が表面に露出して 、る場合にぉ 、て、この規定範囲の外層と被削 材との溶着現象が被削材の表面状態に影響を及ぼすことが本発明者の研究により 明ら力となったためである。その詳細なメカニズムは未だ解明されていないが、恐らく 内層の露出部において切削され極めて高温となった被削材の切り屑がこの規定範囲 内の領域に接触する確率が高くなるためではないかと推測される。
[0068] また、上記 BZA値は、より好ましくは BZA≤0. 7、さらに好ましくは BZA≤0. 5 である。 BZA値が 0. 9を超えると、上記同様被削材の溶着現象を効果的に低減さ せることができなくなる。この点、 BZA値が 1以下となっても 0. 9を超えると被削材の 溶着現象を低減させることができなくなるものである力 これは前記と同様の理由によ るものと考えられる。また、 BZA値の下限は 0. 01以上とすることが好ましい。これは 0. 01未満になるとすくい面側の外層の厚みが薄くなりすぎ、後述のような色彩の変 化が十分に示されなくなるためである。
[0069] なお、ここで!/ヽぅ平均厚み A μ mおよび Β μ mとは、それぞれ上記領域 e、 fにお!/、て 互いに異なる 10点の測定ポイントにおける厚みの平均値を意味するものとし、厚み の測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
[0070] このような外層は、公知の化学的蒸着法、または物理的蒸着法 (スパッタリング法を 含む)により形成することができ、その形成方法は何等限定されるものではない。
[0071] 本発明の外層は、前述のように内層が表面に露出する場合を除き刃先交換型切削 チップの最外層となるものであって、好ましくは上記内層(の最上層)とは異なった色 を呈する (すなわち内層(の最上層)とは当然組成も異なる)ことにより、刃先交換型 切削チップ (特に刃先稜線)の使用状態を判別する使用状態表示層としての機能を 示すものである。すなわち、この外層を上記の内層に比しより摩耗し易い層とすること により、刃先稜線が被削材の切削加工に使用された場合にその刃先稜線に隣接す る部分に形成された外層が摩耗しその部分の内層が表面に露出したり、ある!/ヽはそ の部分の外層自体が変色することによって、その色彩の変化を観察することにより使 用された刃先稜線を識別することが可能となる。
[0072] このような外層を構成する金属または化合物は、より具体的にはたとえば金属として は Cr、 A1等を挙げることができ、また化合物としては TiC、 TiN、 TiCN、 TiCNO、 Ti B、 TiBN、 TiBNO、 TiCBN、 ZrC、 ZrO、 HfC、 HfN、 TiAlN、 AlCrN、 CrN、 V
2 2
N、 TiSiN、 TiSiCN、 AlTiCrN、 TiAlCN、 ZrCN、 ZrCNO、 A1N、 A1CN、 ZrN、 TiAlC等を挙げることができる。ただし、このような外層として、 Al Oは含まれない。
2 3
アルミナ (Al O )は上述のように内層の最上層としてこれ単独またはこれを含む層と
2 3
して形成されるものであり、また色彩自体も黒色を呈することから使用状態表示層とし
ての使用に適さな 、ためである。
[0073] なお、このような外層を構成する化合物において、少なくとも 1種の上記金属と炭素 、窒素、酸素およびホウ素からなる群力 選ばれる少なくとも 1種の元素との組成比( 原子比)は、従来公知のように必ずしも 1: 1に限定されるわけではなぐ前者の金属 1 に対して、後者の元素を 0. 5〜1程度とすることができる(たとえば Ti Nとした場合で
a b
あって a +b = 100原子%とする場合、 bは 35〜50原子%程度となる)。また、後者の 元素が複数の元素で構成される場合は、各元素の原子比は必ずしも等比に限定さ れるわけではなぐ従来公知の原子比を任意に選択することができる。したがって、以 下の実施例等において当該化合物を表す場合において特に断りのない場合は、そ の化合物を構成する原子比は従来公知の原子比を任意に選択することができるもの とする。
[0074] また、上記外層が複数の金属 (合金を含む)で構成される場合、それらの金属の原 子比は従来公知の原子比を任意に選択することができるものとする。
[0075] このような外層は、強力な耐摩耗性の改善の機能を持つものでなく(すなわち摩耗 し易い層であることが好ましぐ耐摩耗性は内層より劣る)、かつ比較的薄い厚みを有 することが好ましい。好ましい厚み (外層が 2層以上積層されて形成される場合は全 体の厚み)は 0. 05 m以上 2 m以下であり、さらに好ましくは 0. 1 m以上 0. 5 μ m以下である。 0. 05 m未満では、所定部位に均一に被覆することが工業的に困 難となり、このためその外観に色ムラが発生し外観を害することがある。また、 を 超えても使用状態表示層としての機能に大差なぐ却って経済的に不利となる。この 厚みの測定方法としては、上記と同様の測定方法を採用することができる。
[0076] <実施例 >
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定され るものではない。
[0077] <実施例 1 >
2. 0質量%の1じ、 1. 2質量%の TaC、 1. 5質量%の?^じ、 8. 0質量%の Coお よび残部 WCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で 140 0°C、 1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対して SiCブラシによる
刃先処理(すくい面側から見て 0. 05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、 切削チップ CNMG120408N— UX (住友電工ハードメタル (株)製)の形状と同形状 の超硬合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、表面に脱 j8層が 17 m形成されており、 2つの面がすくい面となり、 4つの面が逃げ面となるとともに、そ のすく 、面と逃げ面とは刃先稜線 (上記の通り刃先処理がされて 、るので仮定的な 稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計 8つ存在した。また、 2 つの逃げ面と 1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通り刃先処理がさ れているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナーは計 8つ存在し た (ただし、ここで用いたチップは、その形状から、上面または下面力 観察した場合 に 80° の頂角をなすコーナーを切削用途に用いることが多ぐこの場合コーナー数 は 4と考えることができる)。
[0078] この基材の全面に対して、下層力 順に下記の層を被覆層として公知の熱 CVD法 により形成した。すなわち、基材の表面側から順に、 0. 4 μ mの TiN、 4. 6 μ mの Ti CN (MT—CVD法により形成)、および 2. 2 μ ηι(Ό αアルミナ( α— Al Ο )をそれぞ
2 3 れ内層として形成し、これらの内層の最上層である αアルミナ上にこれと接するように 外層として 1. 0 mの TiNを形成した (以上の被覆層を被覆層 No. 1とする)。
[0079] 以下同様にして、この被覆層 No. 1に代えて下記の表 1に記載した被覆層 No. 2 〜7をそれぞれ基材の全面に対して被覆した。
[0080] [表 1]
s (眯坻お ¾snl。
上記表 1において、内層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。また 各層は、被覆層 No. 7の CrN層を除き、全て公知の熱 CVD法により形成した (MT — CVDの表示のあるものは MT—CVD法(成膜温度 900°C)により形成し、 HT—C VDの表示のあるものは HT—CVD法 (成膜温度 1000°C)により形成した)。該 CrN
層はイオンプレーティング法により形成した。また、外層である TiNは金色であり、 Zr Nは白金色であり、 TiCNはピンク色であり、 CrNは銀色である。
[0082] そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、公知のブラスト法 (研磨材粒子:ァ ルミナサンド 120番(平均粒径 100 m)、圧力: 0. 3MPa)および Zまたはブラシ法 (ダイヤモンドブラシ使用)を用いて次の 5種類の処理方法 A〜Eを各々実施した。
[0083] (処理方法 A)
被覆層に対してブラスト法およびブラシ法による処理を全く行なわな力つた。
[0084] (処理方法 B)
被覆層に対して外層の厚みが表 2〜表 3記載の平均厚みとなるようにブラシ法によ る処理を行なった。
[0085] (処理方法 C)
被覆層に対して外層の厚みが表 2〜表 3記載の平均厚みとなるようにブラスト法に よる処理を行なった。
[0086] (処理方法 D)
被覆層に対して外層の厚みが表 2〜表 3記載の平均厚みとなるようにブラシ法によ る処理を行なった後、さらにブラスト法による処理を行なった。
[0087] (処理方法 E)
被覆層に対して外層の厚みが表 2〜表 3記載の平均厚みとなるようにブラスト法に よる処理を行なった後、さらにブラシ法による処理を行なった。
[0088] なお、表 2〜表 3における外層の厚みは、前述の図 12に示したように切削に関与す るコーナー (すなわち以下の旋削切削試験を実施したコーナー)を通り、そのコーナ 一を構成する 2つの逃げ面がなす角度をすく 、面上にお 1、て 2等分し、かつすく 、面 力 2つの逃げ面が交差する稜へと繋がる直線上にぉ 、て、そのコーナーから逃げ 面側に 0.5mm以上 lmm以下となる線分区域 cにおける平均厚みを A/z m、そのコ ーナ一力 すくい面側に 0.5mm以上 lmm以下となる線分区域 dにおける平均厚み を B μ mとし、 BZA値を求めた。
[0089] ただし、表 2〜表 3中、以下の表 4に記載した刃先交換型切削チップについての外 層の厚みは、前述の図 14に示したように内層の露出部(表 4記載の内層露出距離を
基準とする内層と外層の境界部)力 逃げ面の中心方向に 0. 4mm離れた地点よりさ らに 0. 2mmの幅を有して広がった領域 eにおける平均厚みを A mとし、同内層の 露出部からすくい面の中心方向に 0. 4mm離れた地点よりさらに 0. 2mmの幅を有し て広がった領域 fにおける平均厚みを B mとし、 BZ A値を求めた。
[0090] このようにして、以下の表 2〜表 3に記載した 32種類の刃先交換型切削チップ No. l〜No. 32を製造した。表中に「*」の記号を付したものが本発明の実施例であり、 それ以外のものは比較例である。
[0091] なお、以下の表 4に記載した刃先交換型切削チップについては、各々の刃先稜線 に沿って、該刃先稜線力も逃げ面側に表 4に記載した距離を有して広がった領域 aと 、刃先稜線力 すくい面側に表 4に記載した距離を有して広がった領域 bとにおいて 内層が露出するものであった。なお、それぞれの距離は内層と外層との境界を上述 のように電子顕微鏡および Zまたは金属顕微鏡により特定し、上記コーナーを構成 する 2つの逃げ面がなす角度をすく 、面上にお 、て 2等分する直線であって、すく 、 面から 2つの逃げ面が交差する稜へと繋がる直線上のすくい面側の距離と逃げ面側 の距離をそれぞれ測定した。
[0092] そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 1〜32について、下記条件で旋削切 削試験を行な 、、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量とを測 定した。また、 40分切削後の刃先への被削材の溶着状態および被削材加工面の状 態をそれぞれ観察した。その結果を以下の表 2〜表 3に示す。なお、被削材の面粗 度 (Rz ;JIS B0601 : 2001)は、小さい数値のもの程、平滑性が良好であることを示 し、逃げ面摩耗量は、小さい数値のもの程、耐摩耗性に優れていることを示している 。また、刃先への被削材の溶着量が多い程、被削材の面粗度が悪ィ匕することを示し 、被削材加工面の状態は鏡面に近い程、良好であることを示している。
[0093] (旋削切削試験の条件)
被削材: SCM415
切削速度: lOOmZmin
送り: 0. 14mmZrev.
切込み: 1. Omm
切削油:無し 切削時間: 40分 [表 2]
[表 3]
被削材 刃先へ 切削 被覆層 処理 外 IS B/A 逃げ面 粗度 の被削 被削材 チップ N o. 方法 A B 値 庳耗量 R ζ 材の溶 加工面
N o. U m m (mm) (jUm) 蓊状態 の伏態
* 1 7 3 B 0.4 0.2 0.50 0.089 3.5 極僅か ほ(ま [£
* 1 8 3 C 0,4 0,2 0.50 0.092 3.6 極僅か ほぼ
* 1 9 4 B 0.4 0.3 0.75 0.081 3.9 極僅か ほぼ綾面
* 20 4 C 0.4 0.3 0.75 0.080 3.8 極僅か ほぼ鏡面
* 21 5 B 0.6 0.2 0.33 0.073 3.4 無し 錢面
* 22 5 C 0.6 0.4 0.67 0.079 3.6 極僅か ほぽ鎊面
* 23 6 B 0.6 0.4 0.67 0.072 3.5 極《か ほぽ餽面
* 24 6 C 0.6 0.2 0.33 0.071 3.6 極僅か ほぽ钹面
* 25 7 B 0.5 0.4 0.80 0.089 3.7 極僅か ほぼ鏟面
* 26 フ C 0.5 0.3 0.60 0.088 3.5 極僅か ほぼ鏡面
* 27 2 E 0.4 0.2 0.50 0.058 2.9 無し 鏡面
* 28 2 D 0.4 0.2 0,50 0.049 2.6 無し 餓面
* 29 2 E 0.4 0.2 0,50 0.079 3.1 極僅か ほぼ綾面
* 30 6 E 0.6 0.2 0.33 0.063 3.0 無し ια
* 31 6 D 0.6 0.2 0.33 0, 055 2.7 無し 錢面
* 32 6 E 0.6 0.2 0.33 0,069 2.9 極僅か ほぼ鏟面
[0096] [表 4]
[0097] 表 2〜表 3より明らかなように、上記の外層の平均厚み A m、 B/zm力ら求められ る BZA値が 0.9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の 刃先交換型切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量を示すとともに刃先に被削材が
溶着することもなぐ切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度 にも優れるものであった。なお、参考として、刃先交換型切削チップ No. 28と No. 3 2について、ブラスト法により表面全面の外層を除去した後、上記と同じ切削試験を 行なったところ、逃げ面摩耗量や被削材の加工面の状態は本発明の実施例の刃先 交換型切削チップの結果と同様の結果が得られたが、切削試験に使用したコーナー の識別が困難であった。さらに、これとはまた別に参考として刃先交換型切削チップ No.28について、被覆層 No.2の κ— AI O (2.6 m)に代えて TiC (2. 6 /z m)を形
2 3
成する以外は全て同様にして刃先交換型切削チップを製造し、また刃先交換型切削 チップ No.32について、被覆層 No.6の α—ΑΙ Ο (3. 7 m)を形成しないことを除
2 3
き他は全て同様にして刃先交換型切削チップを製造した (被覆層形成後の処理は N 0.28および 32とそれぞれ同じ処理を行なった)ものについて、上記と同じ切削試験 を行なったところ、いずれも切削時間 20分で逃げ面摩耗量が 0.2mm以上となり、耐 摩耗性に劣るものであった。
[0098] 一方さらに、上記の刃先交換型切削チップ No. 5、 No. 6、 No. 22、 No. 24、 No . 31および No. 32の内層の最上層であるアルミナ(α— AI O )層について残留応
2 3
力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先交換型切削チップのすくい面 側の切削に関与するコーナーの近傍である図 15のスポット S (スポットサイズ:直径 0. 5mm)で示される領域(当該領域は、図 15の XVI—XVI断面である図 16に示されて V、るようにチップブレーカを構成する傾斜角 16° の傾斜平坦面の一部である)に対 して図 16の矢印で示した垂直方向 (傾斜平坦面に対する)力 測定した (具体的測 定方法は、上述の X線応力測定装置を用いた sin2 φ法を採用した)。なお、この測定 領域は、すくい面の切削に関与する部位を代表する領域である。
[0099] そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであつ た。
刃先交換型切削チップ No. 5 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 6 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 22 :— 1. lGPa
刃先交換型切削チップ No. 24 :— 0. 8GPa
刃先交換型切削チップ No. 31 :— 1. 6GPa
刃先交換型切削チップ No. 32 :— 0. 9GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 5、 No. 6、 No. 22、 No. 24、 No. 3 1および No. 32について、以下の条件による断続切削試験を行ない刃先の欠損率 を測定した (この欠損率は、 20切れ刃について試験を実施し、刃先欠損が生じてい るコーナー数を 20切れ刃に対する百分率で示したものである)。
[0100] (断続切削試験の条件)
被削材: SCM435 (4本溝入り丸棒)
切削速度: lOOmZmin
切込み: 2mm
送り: 0. 4mmZrev.
切削油:無し
切削時間: 1分
それらの結果を以下に示す。この欠損率が低いもの程、靭性 (耐欠損性)に優れて 、ることを示して 、る。
刃先交換型切削チップ No. 5 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 6 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 22: 50%
刃先交換型切削チップ No. 24 :40%
刃先交換型切削チップ No. 31 : 20%
刃先交換型切削チップ No. 32 : 30%
上記の結果より明らかなように、切削に関与する部位において、内層の最上層であ るアルミナ層が圧縮応力を有すると優れた靭性が示されることが分力る。
[0101] 以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型 切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、基材上に形成される 被覆層と被削材との溶着現象を可能な限り低減し、以つて被削材の表面状態を悪化 させることを極めて有効に防止することができるものであった。さらに、本発明の実施 例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が極めて容易にで
きるものであった。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型 切削チップの場合につ!、て示したが、以下の実施例で述べる通りチップブレーカが 形成されて ヽな 、刃先交換型切削チップに対しても有効である。
[0102] <実施例 2>
0. 5質量0 /0の TiC、 0. 4質量0 /0の TaC、 0. 2質量0 /0の NbC、 5. 0質量0 /0の Coお よび残部 WCからなる組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で 145 0°C、 1時間焼結し、その後平坦研磨処理および刃先稜線に対して SiCブラシによる 刃先処理(すくい面側から見て 0. 05mm幅のホーニングを施す)を行なうことにより、 JIS B4120 ( 1998改)規定の切削チップ CNMA120408の形状と同形状の超硬 合金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、チップブレーカを有さないと ともに表面に脱 j8層が形成されておらず、 2つの面がすくい面となり、 4つの面が逃げ 面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線 (上記の通り刃先処理がされて いるので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計 8つ 存在した。また、 2つの逃げ面と 1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の 通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナ 一は計 8つ存在した (ただし、ここで用いたチップは、その形状から、上面または下面 から観察した場合に 80° の頂角をなすコーナーを切削用途に用いることが多ぐこ の場合コーナー数は 4と考えることができる)。
[0103] 続いて以下の表 5に記載したように、この基材の全面に対して実施例 1と同様の被 覆層を各々形成した (すなわち、表 5における被覆層 No.は実施例 1の被覆層 No. を示す)。
[0104] そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、実施例 1と同じ 5種類の処理方法 A〜Eを各々実施した。なお、表 5における外層の厚みおよび BZA値は実施例 1と 同様にして求めたものである。
[0105] このようにして、表 5に記載した 20種類の刃先交換型切削チップ No. 33〜No. 52 を製造した。表中に「*」の記号を付したものが本発明の実施例であり、それ以外の ものは比較例である。なお、以下の表 6に記載した刃先交換型切削チップについて は、上記表 4のものと同様に内層が露出するものであった。
[0106] そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 33〜52について、下記条件で旋削 切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、 10分 切削後の刃先への被削材の溶着状態および被削材加工面の状態をそれぞれ観察 した。その結果を以下の表 5に示す。
[0107] (旋削切削試験の条件)
被削材: FCD450
切削速度: 200mZmin
り: 0. 35mmz rev.
切込み: 1. 5mm
切削油:有り
切削時間:10分
[0108] [表 5]
刃先へ
切削 被 層 処理 外 E B/A 逃げ面 の被削 被削材 チップ N o. 方法 A B 値 摩耗量 材の溶 加工面
N o. μ m μ m (mm) 着状態 の状態
33 1 A 1.0 1.0 1.00 0.213 多い 白馮
34 2 A 1.5 1.5 1.00 0.228 多い 白濁
35 4 A 0.5 0.5 1.00 0.221 多い 白濁
36 5 A 0.7 0.7 1.00 0.195 多い 白濁
37 6 A 0.6 0.6 1.00 0.187 多い 白濁
38 1 C 0.9 0.9 1.00 0.200 多い 白濁 本 3 9 1 B 0.9 0.7 0.78 0.154 極僅か 光沢有リ
* 40 1 C 0.8 0.4 0.50 0.148 極僅か 光沢有リ
4 1 2 B 1.0 0.8 0. BO 0.161 極僅か 光沢有リ
* 42 2 C 1.1 0.6 0.66 0.158 極僅か 光沢有リ
* 43 4 B 0.4 0.2 0.50 0.164 極僅か 光沢有リ
* 44 4 C 0.4 0.1 0.25 0.163 無し 光沢大
45 5 B 0.4 0.2 0.50 0.143 極懂か 光沢有リ
* 46 5 C 0.4 0.3 0.75 0.145 極僅か 光沢有リ
47 5 D 0.4 0.2 0.50 0.132 極僅か 光沢有り
* 48 5 E 0.5 0.2 0.40 0.130 無し 光沢大
* 49 6 B 0.5 0.3 0.60 0.140 極僅か 光沢有リ
* 50 6 C 0.5 0.2 0.40 0.137 極僅か 光沢有リ
* 5 1 6 D 0.5 0.2 0.40 0.132 無し 光沢大
* 5 2 6 E 0.5 0.3 0.60 0.138 極僅か 光沢有リ 6]
表 5より明らかなように、外層の平均厚み Α/ζπι、 B/zmから求められる BZA値が 0 9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交換型
切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量を示すとともに刃先に被削材が溶着すること もなぐ切削後の被削材の状態も良好な光沢を有するもの(表中「光沢大」との表記 は「光沢有り」との表記よりもさらに良好な光沢状態を示す)であった。なお、参考とし て、刃先交換型切削チップ No. 48と No. 51について、ブラスト法により表面全面の 外層を除去した後、上記と同じ切削試験を行なったところ、逃げ面摩耗量や被削材 の加工面の状態は本発明の実施例の刃先交換型切削チップの結果と同様の結果が 得られた力 切削試験に使用したコーナーの識別が困難であった。さらに、これとは また別に参考として刃先交換型切削チップ No.48と No.51について、各々被覆層 N o.5の α—ΑΙ Ο (4. 9 m)および被覆層 Νο.6の α—Al Ο (3. 7 /z m)を形成しな
2 3 2 3 いことを除き他は全て同様にして刃先交換型切削チップを製造した (被覆層形成後 の処理は No.48および 51とそれぞれ同じ処理を行なった)ものについて、上記と同じ 切削試験を行なったところ、 V、ずれも切削時間 5分で逃げ面摩耗量が 0.3mm以上と なり、耐摩耗性に劣るものであった。
[0111] 一方さらに、上記の刃先交換型切削チップ No. 33、 No. 34、 No. 40および No.
42の内層の最上層であるアルミナ -A1 O A1 O
2 3または κ - 2 3 )層について残留応 力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先交換型切削チップのすくい面 側の切削に関与するコーナーの近傍である図 17のスポット T (スポットサイズ:直径 0. 5mm)で示される領域を測定した (具体的測定方法は、上述の X線応力測定装置を 用いた sin2 φ法を採用した)。なお、この測定領域は、すくい面の切削に関与する部 位を代表する領域である。
[0112] そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであつ た。
刃先交換型切削チップ No. 33 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 34 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 40 :— 1. 3GPa
刃先交換型切削チップ No. 42 :— 2. OGPa
そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 33、 No. 34、 No. 40および No. 42 について、以下の条件による断続切削試験を行ない刃先の欠損率を測定した (この
欠損率は、 20切れ刃について試験を実施し、刃先欠損が生じているコーナー数を 2 0切れ刃に対する百分率で示したものである)。
[0113] (断続切削試験の条件)
被削材: S50C角材
切削速度: 120mZmin
切込み: 2mm
送り: 0. 4mmZrev.
切削油:無し
切削時間:30秒
それらの結果を以下に示す。この欠損率が低いもの程、靭性 (耐欠損性)に優れて 、ることを示して 、る。
刃先交換型切削チップ No. 33 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 34 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 40 :45%
刃先交換型切削チップ No. 42 : 20%
上記の結果より明らかなように、切削に関与する部位において、内層の最上層であ るアルミナ層が圧縮応力を有すると優れた靭性が示されることが分力る。
[0114] 以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型 切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、基材上に形成される 被覆層と被削材との溶着現象を可能な限り低減し、以つて被削材の表面状態を悪化 させることを極めて有効に防止することができるものであった。さらに、本発明の実施 例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が極めて容易にで きるものであった。
[0115] く実施例 3 >
1. 5質量%の TaC、 10. 0質量%の Coおよび残部 WCからなる組成の超硬合金粉 末をプレスし、続けて真空雰囲気中で 1400°C、 1時間焼結し、その後平坦研磨処理 および刃先稜線に対して SiCブラシによる刃先処理 (すくい面側から見て 0. 05mm 幅のホー-ングを施す)を行なうことにより、切削チップ SEMT13T3AGSN— G (住
友電工ハードメタル (株)製)の形状と同形状の超硬合金製チップを作製し、これを基 材とした。この基材は、表面に脱 j8層を有さず、 1つの面がすくい面となり、 4つの面 が逃げ面となるとともに、そのすくい面と逃げ面とは刃先稜線 (上記の通り刃先処理 がされて 、るので仮定的な稜となって!/、る)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線 は、計 4つ存在した。また、 2つの逃げ面と 1つのすくい面とが交差する交点がコーナ 一(上記の通り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このよ うなコーナ一は計 4つ存在した。
[0116] この基材の全面に対して、下層力 順に下記の層を被覆層として公知の熱 CVD法 により形成した。すなわち、基材の表面側から順に、 0. 4 mの TiN、 2. 0 mの Ti CN (MT—CVD法により形成)、および 2. 1 mの αアルミナ( α— Al Ο )をそれぞ
2 3 れ内層として形成し、これらの内層の最上層である αアルミナ上にこれと接するように 外層として 0. 6 mの TiNを形成した (以上の被覆層を被覆層 No. 8とする)。
[0117] 以下同様にして、この被覆層 No. 8に代えて下記の表 7に記載した被覆層 No. 9 〜 13をそれぞれ基材の全面に対して被覆した。
[0118] [表 7]
[0119] 上記表 7において、内層は左側のものから順に基材の表面上に積層させた。また 被覆層 No. 8〜10は、被覆層 No. 7と同様全て公知の熱 CVD法により形成した。被 覆層 No. 11〜13は公知の PVD法により形成した。
[0120] そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、実施例 1と同じ 5種類の処理方法 A〜Eを各々実施した。
[0121] このようにして、以下の表 8〜表 9に記載した 25種類の刃先交換型切削チップ No.
53〜No. 77を製造した。表中に「*」の記号を付したものが本発明の実施例であり、 それ以外のものは比較例である。なお、表 8〜表 9における外層の厚みおよび BZA 値は実施例 1と同様にして求めたものである。また、以下の表 10に記載した刃先交 換型切削チップについては、実施例 1の表 4のものと同様に内層が露出するものであ つた o
[0122] そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 53〜77について、下記条件でフライ ス切削試験を行な!/、、被削材の面粗度と刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量と を測定した。また、フライス切削後の刃先への被削材の溶着状態および被削材加工 面の状態をそれぞれ観察した。その結果を以下の表 8〜表 9に示す。
[0123] (フライス切削試験の条件)
被削材: SCM435
切削速度: 235mZmin
送り: 0. 25mmZ刃
切込み: 2. Omm
切削油:有り
切削距離: 10m
カッター: WGC4100R (住友電工ハードメタル (株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は 1枚とした。
[0124] [表 8]
被削材 刃先へ
切削 被覆 If 処理 外 m B/A 逃げ面 面粗度 の被削 被削材 チップ N o. 方法 A B 値 摩耗量 R z 材の溶 加工面
N o. U m U m (mm) (jLi m) *状態 の状態
53 8 A 0.6 0.6 1.00 0.198 7.2 多い 白濁
54 g A 0.7 0.7 1.00 0.212 6.8 多い 白濁
55 1 0 A 0.7 0.7 1.00 0.189 6.5 多い 白濁
56 1 1 A 1.3 1.3 1.00 0.224 6,4 多い 白通
57 1 2 A 0.6 0.6 1.00 0.219 6, 6 多い 白濁
58 1 3 A 0.6 0.6 1, 00 0.248 6.8 多い 白濁
* 59 a C 0.5 0.3 0.60 0.132 4.2 極懂か ほほ錶面
* 60 8 B 0.5 0.4 0.80 0.129 4.3 極僅か ほぼ銕面
61 9 C 0.2 0.6 3.00 0.189 6.7 やや多い ほぼ親面
* 62 9 C 0.5 0.1 0.20 0.135 4.0 極使か ほぼ銪面
* 63 1 0 c 0.9 0.5 0.56 0.144 4, 1 極僅か ほぽ錶面
* 64 1 0 B 0.8 0.2 0.25 0.140 3.8 無し 鏡面
65 1 1 c 1.2 1.1 0.92 0, 161 6.4 やや多い ほほ銷面
[0125] [表 9]
[0126] [表 10]
刃先交換 内層露出距離
型切削チ 領域 a 領域 b
ップ No. ( ί m ) ( jt/ m )
6 4 38 133
6 9 64 454
7 2 68 225
7 3 75 188
7 4 21 68
7 5 84 304
7 6 24 48
[0127] 表 8〜表 9より明らかなように、外層の平均厚み Α /ζ πι、 B /z mから求められる BZA 値が 0. 9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交 換型切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量を示すとともに刃先に被削材が溶着する こともなぐ切削後の被削材の状態も鏡面に近いものであり被削材の面粗度にも優れ るものであった。なお、参考として、刃先交換型切削チップ No. 53と No. 54につい て、ブラスト法により表面全面の外層を除去した後、上記と同じ切削試験を行なったと ころ、逃げ面摩耗量や被削材の加工面の状態は本発明の実施例の刃先交換型切 削チップの結果と同様の結果が得られたが、切削試験に使用したコーナーの識別が 困難であった。さらに、これとはまた別に参考として刃先交換型切削チップ No.53と
κ -A1 0 ( 1. 2 /z m)を形成しないことを除き他は全て同様にして刃先交換型切削
2 3
チップを製造した (被覆層形成後の処理は No.53および 54とそれぞれ同じ処理を行 なった)ものについて、上記と同じ切削試験を行なったところ、いずれも切削距離 5m で逃げ面摩耗量が 0.4mm以上となり、耐摩耗性に劣るものであった。
[0128] 一方さらに、上記の刃先交換型切削チップ No. 53、 No. 54、 No. 59、 No. 62、 No. 72、 No. 73および No. 74の内層の最上層であるアルミナ( α—Al Oまたは
2 3 κ -Al O )層について残留応力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先
2 3
交換型切削チップのすくい面側の切削に関与するコーナーの近傍である図 18のス ポット U (スポットサイズ:直径 0.5mm)で示される領域(当該領域は、図 18の XIX— X
IX断面である図 19に示されて 、るようにチップブレーカを構成する傾斜角 20° の傾 斜平坦面の一部である)に対して図 19の矢印で示した垂直方向(傾斜平坦面に対す る)から測定した (具体的測定方法は、上述の X線応力測定装置を用いた sin2 φ法を 採用した)。なお、この測定領域は、すくい面の切削に関与する部位を代表する領域 である。
[0129] そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであつ た。
刃先交換型切削チップ No. 53 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 54 : 0. lGPa
刃先交換型切削チップ No. 59 :— 0. 5GPa
刃先交換型切削チップ No. 62 :— 0. 9GPa
刃先交換型切削チップ No. 72 :— 1. 4GPa
刃先交換型切削チップ No. 73 :— 0. 7GPa
刃先交換型切削チップ No. 74 : -0. 8GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 53、 No. 54、 No. 59、 No. 62、 No . 72、 No. 73および No. 74について、以下の条件による断続切削試験を行ない刃 先の欠損率を測定した (この欠損率は、 20切れ刃について試験を実施し、刃先欠損 が生じて 、るコーナー数を 20切れ刃に対する百分率で示したものである)。
[0130] (断続切削試験の条件)
被削材: SCM435 (ブロック材 3枚重ね)
切削速度: 174mZmin
切込み: 2mm
送り: 0. 4mm /刃
切削油:無し
切削長さ: lm
それらの結果を以下に示す。この欠損率が低いもの程、靭性 (耐欠損性)に優れて 、ることを示して 、る。
刃先交換型切削チップ No. 53 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 54 100%
刃先交換型切削チップ No. 59 45%
刃先交換型切削チップ No. 62 50%
刃先交換型切削チップ No. 72 20%
刃先交換型切削チップ No. 73 30%
刃先交換型切削チップ No. 74 35%
上記の結果より明らかなように、切削に関与する部位において、内層の最上層であ るアルミナ層が圧縮応力を有すると優れた靭性が示されることが分力る。
[0131] 以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型 切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、基材上に形成される 被覆層と被削材との溶着現象を可能な限り低減し、以つて被削材の表面状態を悪化 させることを極めて有効に防止することができるものであった。さらに、本発明の実施 例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が極めて容易にで きるものであった。なお、本実施例は、チップブレーカが形成されている刃先交換型 切削チップの場合につ!、て示したが、以下の実施例で述べる通りチップブレーカが 形成されて ヽな 、刃先交換型切削チップに対しても有効である。
[0132] <実施例 4>
0. 3質量%の TaC、 0. 3質量%の Cr C、 7. 0質量%の Coおよび残部 WCからな
3 2
る組成の超硬合金粉末をプレスし、続けて真空雰囲気中で 1450°C、 1時間焼結し、 その後平坦研磨処理および刃先稜線に対して SiCブラシによる刃先処理 (すく 、面 側から見て 0. 05mm幅 25° のホー-ングを施す、図 13参照)を行なうことにより、 JIS B4120 ( 1998改)規定の切削チップ SPGN 120408の形状と同形状の超硬合 金製チップを作製し、これを基材とした。この基材は、チップブレーカを有さないととも に表面に脱 j8層が形成されておらず、 1つの面がすくい面となり、 4つの面が逃げ面 となるとともに、そのすく!、面と逃げ面とは刃先稜線 (上記の通り刃先処理がされて 、 るので仮定的な稜となっている)を挟んで繋がるものであった。刃先稜線は、計 4っ存 在した。また、 2つの逃げ面と 1つのすくい面とが交差する交点がコーナー(上記の通 り刃先処理がされているので仮定的な交点となっている)であり、このようなコーナー
は計 4つ存在した。
[0133] 続いて以下の表 11に記載したように、この基材の全面に対して実施例 3と同様の被 覆層を各々形成した (すなわち、表 11における被覆層 No.は実施例 3の被覆層 No .を示す)。
[0134] そしてこれらの被覆層を形成した基材に対して、実施例 1と同じ 5種類の処理方法 A〜Eを各々実施した。なお、表 11における外層の厚みおよび BZA値は実施例 1と 同様にして求めたものである。
[0135] このようにして、表 11に記載した 22種類の刃先交換型切削チップ No. 78〜No. 9 9を製造した。表中に「*」の記号を付したものが本発明の実施例であり、それ以外の ものは比較例である。なお、以下の表 12に記載した刃先交換型切削チップについて は、実施例 1の表 4のものと同様に内層が露出するものであった。
[0136] そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 78〜99について、下記条件でフライ ス切削試験を行ない、刃先交換型切削チップの逃げ面摩耗量を測定した。また、フ ライス切削後の刃先への被削材の溶着状態および被削材加工面の状態をそれぞれ 観察した。その結果を以下の表 11に示す。
[0137] (フライス切削試験の条件)
被削材: FC250
切削速度: 200mZmin
送り: 0. 30mmZ刃
切込み: 2. Omm
切削油:無し
切削距離: 10m
カッター: DPG4100R (住友電工ハードメタル (株)製)
上記カッターへの刃先交換型切削チップの取り付け数は 1枚とした。
[0138] [表 11]
刃先へ
切削 被覆屑 処理 外層 B/A 逃げ面 の被削 被削材 チップ N o . 方法 A B 値 摩耗量 材の溶 加工面
N o. U m μ m (mm) 着状態 の状態
7 8 8 A 0.6 0.6 1.00 0.246 多い 白 ¾
79 9 A 0.7 0.7 1.00 0.240 多い 白 ¾
80 1 0 A 0.7 0.7 1.00 0.225 多い 白濁
8 1 1 1 A 1.3 1.3 1.00 0.253 多い 白 ¾
82 1 2 A 0.6 0.6 1.00 0.238 多い 白濁
83 1 3 A 0.6 0.6 1.00 0.264 多い 白濁
* 84 8 B 0.5 0.2 0.40 0.165 極僅か 光沢有 y
* 85 8 C 0.5 0.3 0.60 0.161 極僅か 光沢有リ
* 86 9 B 0.5 0.2 0.40 0.141 無し 光沢大
* 87 9 C 0.4 0.2 0.50 0.165 極僅か 光沢有リ
8 8 9 B 0.4 0.3 0.75 0.168 極僅か 光沢有リ
8 9 1 0 C 0.5 0.2 0.40 0.135 無し 光沢大
* 90 1 0 B 0.6 0.3 0.50 0.158 極僅か 光沢有リ
* 91 1 0 C 0.5 0.2 0.40 0.187 極僅か 光沢有リ
92 1 0 D 0, 4 0.2 0.50 0.159 極僅か 光沢有リ
93 1 1 E 1.0 0.6 0.60 0.160 無し 光沢大
94 1 1 B 0.9 0.3 0.33 0.172 極僅か 光尺有 y
95 1 1 C 0.8 0.4 0.50 0.177 極僅か 光沢有リ
* 96 1 2 B 0.5 0.2 0.40 0.162 無し 光沢大
97 1 2 C 0.5 0.3 0.60 0.179 極僅か 光沢有リ
98 1 3 B 0.4 0.2 0.50 0.188 極僅か 光沢有リ
* 99 1 3 C 0.5 0.3 0.60 0.186 極僅か 光沢有リ 12] 刃先交換 内層露出距離
型切削チ 領域 a 領域 b
ップ No. ( m) (jii m)
86 390 1950
89 62 211
93 77 240
96 88 159
[0140] 表 11より明らかなように、外層の平均厚み Α/ζ πι、 B /z mから求められる BZA値が 0. 9以下である本発明の実施例の刃先交換型切削チップは、比較例の刃先交換型 切削チップに比し良好な逃げ面摩耗量を示すとともに刃先に被削材が溶着すること もなぐ切削後の被削材の状態も光沢に優れるものであった。なお、参考として、刃先 交換型切削チップ No. 89と No. 93について、ブラスト法により表面全面の外層を除 去した後、上記と同じ切削試験を行なったところ、逃げ面摩耗量や被削材の加工面 の状態は本発明の実施例の刃先交換型切削チップの結果と同様の結果が得られた 1S 切削試験に使用したコーナーの識別が困難であった。さらに、これとはまた別に 参考として刃先交換型切削チップ No.89と No.93について、各々被覆層 No.10の κ -A1 0 (1. (^!^ぉょび被覆層?^ :!のひ一八丄。 (1. 8 m)を形成しないこ
2 3 2 3
とを除き他は全て同様にして刃先交換型切削チップを製造した (被覆層形成後の処 理は No.89および 93とそれぞれ同じ処理を行なった)ものについて、上記と同じ切削 試験を行なったところ、いずれも切削距離 3mで逃げ面摩耗量が 0.3mm以上となり、 耐摩耗性に劣るものであった。
[0141] 一方さらに、上記の刃先交換型切削チップ No. 78、 No. 80、 No. 85および No.
87の内層の最上層であるアルミナ -A1 O -A1 O
2 3または κ 2 3 )層について残留応 力を測定した。この残留応力の測定は、これらの刃先交換型切削チップのすくい面 側の切削に関与するコーナーの近傍である図 17のスポット T (スポットサイズ:直径 0. 5mm)で示される領域を測定した (具体的測定方法は、上述の X線応力測定装置を 用いた sin2 φ法を採用した)。なお、この測定領域は、すくい面の切削に関与する部 位を代表する領域である。
[0142] そして、該測定の結果、各刃先交換型切削チップの残留応力は以下の通りであつ た。
刃先交換型切削チップ No. 78 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 80 : 0. 2GPa
刃先交換型切削チップ No. 85 :— 1. 6GPa
刃先交換型切削チップ No. 87 :— 2. 4GPa
そして、これらの刃先交換型切削チップ No. 78、 No. 80、 No. 85および No. 87
について、以下の条件による断続切削試験を行ない刃先の欠損率を測定した (この 欠損率は、 20切れ刃について試験を実施し、刃先欠損が生じているコーナー数を 2 0切れ刃に対する百分率で示したものである)。
[0143] (断続切削試験の条件)
被削材: FC250 (ブロック材 3枚重ね)
切削速度: 180mZmin
切込み: 2mm
送り: 0. 45mm/刃
切削油:無し
切削長さ: lm
それらの結果を以下に示す。この欠損率が低いもの程、靭性 (耐欠損性)に優れて 、ることを示して 、る。
刃先交換型切削チップ No. 78 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 80 : 100%
刃先交換型切削チップ No. 85 : 25%
刃先交換型切削チップ No. 87 : 15%
上記の結果より明らかなように、切削に関与する部位において、内層の最上層であ るアルミナ層が圧縮応力を有すると優れた靭性が示されることが分力る。
[0144] 以上、本発明の実施例である刃先交換型切削チップは、各比較例の刃先交換型 切削チップに比し優れた効果を有していることは明らかであり、基材上に形成される 被覆層と被削材との溶着現象を可能な限り低減し、以つて被削材の表面状態を悪化 させることを極めて有効に防止することができるものであった。さらに、本発明の実施 例の刃先交換型切削チップは、切削に使用したコーナーの識別が極めて容易にで きるものであった。
[0145] 以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なった力 上述 の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初カゝら予定してい る。
[0146] 今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的な
ものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求 の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が 含まれることが意図される。