明 細 書
癌細胞の転移抑制方法およびそのために使用する医薬組成物
技術分野
[0001] 本発明は、 TM7XN1という特定の細胞表面受容体に対する抗体を用いることにより 、 TM7XN1を発現している様々な癌細胞の転移を抑制する新しい方法、および当該 方法に使用するための医薬組成物に関する。
背景技術
[0002] 癌の転移について
原発性癌は例え完全に除去されたとしても、悪性腫瘍は、しばしば転移を引き起こ す。原発巣から離れた場所で、原発性腫瘍に起因する転移悪性腫瘍の形成は、癌 治療における最も重要な課題の 1つである。すなわち、原発巣が処置されている場合 においても、他の臓器へ転移した腫瘍の増殖により患者が死亡する。このため、悪性 腫瘍の転移は、癌治療が失敗に至る原因の大部分を占める(Bertinoら(1996年編), Encyclopedia of し ancer, Academic Press; Devitaら (1997年編) , し ancer: Principles & Practice of Oncology, Lippincott, Williams and Wilkins; し avalliり (1996) , Textboo k of Medical Oncology, Dunitz Martin Ltd; Peckhamら (1995年編), Oxford Textboo k of Oncology, Oxford Univ. Press; Mendelsohnら (1995) , The Molecular Basis of C ancer, Saunders, Philadelphiaを参照のこと)。
[0003] 例えば、臨床的に診断された多くの固形癌 (この腫瘍は局在的増殖である原発巣) において、外科的除去が最初の処置手段と考えられる。しかし、外科手術後にしばし ば、原発性癌細胞の転移が観察され、転移部位の癌浸潤が全身にわたって広がり、 その結果として、患者は転移癌の増殖により死ぬことになる。切除可能な腫瘍を有す る個体において、原発性腫瘍の増殖または局在的な再発が、しばしば死の原因であ ることが報告されるものの、現在では、手術可能な腫瘍を有する癌犠牲者のほぼ 40% は、外科手術に続く転移性疾患で最終的に死亡するとされる。
[0004] 現在利用可能な癌の治療方法には、外科的治療、放射線治療、化学療法、および 免疫学的方法がある。そして、外科的治療で対処できない場合には、化学療法や放
射線療法が施される。しかし、化学療法剤は、細胞増殖阻害により癌細胞の増殖を 阻止することから、化学療法は、癌の治療に幅広く使用されるものの、増殖している 癌細胞のみならず活発に増殖している正常細胞に対しても影響を与える非特異的な 処置様式であるため、重篤な副作用(例えば、免疫抑制、汎血球減少症 (貧血、血小 板減少、および白血球減少を伴う骨髄細胞増殖阻害)、下痢、吐気、および脱毛 (体 毛減少))をしばしば引き起こす。放射線治療もまた、細胞増殖阻害により癌細胞の 増殖を阻止する非特異的な処置様式であることから、化学療法の場合と同様の問題 点を抱えている。一方、免疫療法は、化学療法や放射線療法に比べて重篤な副作 用を引き起こす可能性は低いと考えられるが、強力な癌増殖阻止効果を示す免疫療 法は未だ確立されて!、な!/、。
[0005] 癌治療は、上記の治療方法を組み合わせて集学的に行われるが、再発性癌には 有効性が非常に低いことが知られている。し力も、これらの治療法は、既に存在する 転移巣には、ほとんど効果がないこともよく知られている。さらに、上記のいずれの方 法も、転移抑制効果については、限界があることも知られている。以上のことから、転 移抑制効果を発揮する薬剤は、現在の癌治療の問題点を克服する手段の 1つとなり 得ることは、明らかである。
[0006] 悪性黒色腫、乳癌、肺癌、結腸癌、および前立腺癌は、転移しやす!/ヽとされる癌種 とされ、転移する範囲は、癌種により異なる。癌の標的臓器としては、肺あるいは肝臓 力 く知られている力 脳や骨髄にも高頻度で転移する。骨転移は、他の臓器への 転移と異なり、直接生命を脅かすことは稀であるが、耐えがたい骨痛や運動制限など を合併するために、患者の QOLは著しく低下し、間接的に死期を早めることになる。
[0007] 癌細胞の転移は、原発巣から血管内に侵入した癌細胞が循環血中を流れて標的 となる臓器に到達し、その部位で血管外へ出て、その臓器に定着することにより起こ る。この過程は、肺、肝臓、脳、骨髄などへの転移で共通である。しかし、骨髄への転 移が成立するためには、骨膜上の栄養血管力 静脈洞を経て骨髄内へ侵入する過 程、および最終的に骨内膜表面に定着する過程という 2つの過程が成立する必要が ある。
[0008] 癌の転移機構に基づき、癌の血管への侵入を阻止する薬剤、ある!、は血管から標
的臓器への侵入を阻止する薬剤などの様々な転移抑制剤の開発が試みられている 力 効果的に癌細胞転移を抑制する方法は、いまだ確立されておらず、そして癌細 胞の転移を抑制する効果を有する薬は、 V、まだ市販されて 、な 、。
[0009] 以上のことから、腫瘍の転移を効率的に阻害する方法、特に、重篤な副作用を引き 起こさずに転移を阻害する方法が、希求されている。
[0010] TM7XN1と GPR56について
TM7XN1と GPR56は、それぞれヒト由来の GTP結合蛋白共役型受容体 (GPCR: G- Protein Coupled Receptor)である。 GPCRとは、 7個の疎水性ドメインを含むアミノ酸配 列、すなわち 7回膜貫通領域によって特徴付けられた膜タンパク質である。 GPCRは 広範な生物に見出される。 GPCRは、脂質アナログ、アミノ酸誘導体、低分子ペプチド 、および他の分子を含む広範で多様な範囲の物質に応答し、様々な生理的な活性 を有する (Ruffoloおよび Hollinger(1995年編), G- Protein Coupled Transmembrane Sig naling Mecnanisms, し Rし Press, Boca Raton, FL; Watsonおよび Ananstall(1994), Th e G— Protein Linked Receptor FactsBook, Academic Press, San Diego, CA; Peroutka (1994年編), G Protein-Coupled Receptors, CRC Press, Boca Raton, FL; Houslayお よび Milligan(1990), G- Proteins as Mediators of Cellular Signaling Processes, Wiley & Sons, New York, NY; Dohlmanら(1991),Ann. Rev. Biochem. 60: 653-688、などを 参照のこと)。
[0011] TM7XN1の cDNAは、 1999年にヒトの悪性黒色腫由来の cDNAライブラリーからクロ 一ユングされた (非特許文献 1参照)。また、 GPR56の cDNAは、同時期に別のグルー プによって、ヒトの心臓由来の cDNAライブラリ一力もクローユングされた (非特許文献 2参照)。 TM7XN1と GPR56は、構造的に極めて類似しており、相違点は、(1) N末 端側から 1番目の細胞内ループ領域において、 GPR56には、 TM7XN1には存在しな い 6個のアミノ酸力 なる配列が挿入されていること、 (2) それぞれ離れて存在する 3 ケ所 (3個)のアミノ酸 (うち 2ケ所は細胞外領域)が多形性を示すこと、の 2点にとどまり 、それ以外の部分は完全に一致する。したがって、 TM7XN1と GPR56はゲノム上の同 一の遺伝子(以下、 GPR56遺伝子と表記)から転写 ·翻訳されるスプライシング 'バリア ントの関係にあると考えられる。なお、 GPR56に存在する 6個のアミノ酸力 なる配列
の挿入は、細胞内領域に存在することから、細胞外領域は、多形性を示す部分以外 は、 TM7XN1と GPR56で完全に一致している。したがって、細胞表面上に発現した T M7XN1を認識する抗体は、細胞表面上に発現した GPR56も認識する可能性が極め て高い。
[0012] TM7XN1と GPR56に共通して見られる構造的な特徴は、最も N末端側に位置する細 胞外領域である。その領域は約 400ものアミノ酸力もなり、多数の糖鎖が付加しうるム チン様蛋白の特徴的な構造を有していることから、 TM7XN1と GPR56は、細胞間の接 着に関与する可能性が示唆されている。また、 TM7XN1と GPR56は、 7回膜貫通領域 付近のアミノ酸配列が Secretin受容体に相同性を有し、かつ、 N末端側の細胞外領域 が長い(約 400アミノ酸以上)ことから、 GPCR^—パーファミリーのサブグループである LNB- TM7に分類される(Stacey Mら (2000), Trends Biochem Sci. 25:284-289)。
[0013] TM7XN1の発現部位については、 Zendmanらにより、ヒトの脳.腎臓.精巣.前立腺.
甲状腺等の正常な臓器に発現している他、悪性黒色腫 (A375, Bowes) '結腸癌 (Cac 0-2, HT29) '扁平上皮癌 (A431) 'リンパ腫 (Molt- 4)など、様々なヒト癌細胞株におい ても発現していることが明らかにされた。また、彼らは、悪性黒色腫における転移能と TM7XN1の発現量とが逆相関しているという興味深い結果も報告した(非特許文献 1 参照)。また、 GPR56の発現部位については、 Liuらにより、脳 ·心臓 ·腎臓 ·精巣'脾臓 '骨格筋'甲状腺など、様々な正常な臓器に発現していることが明らかにされた (非特 許文献 2参照)。なお、上記の報告においては、 RT-PCR法、またはノーザンブロッテ イング法により発現部位が調べられている力 それらに用いられるプライマーやプロ ーブには、 TM7XN1の cDNAと GPR56の cDNAに共通の配列が含まれて!/、ることから、 TM7XN1と GPR56を区別せずに発現部位を報告している可能性が極めて高い。
[0014] さらに、 TM7XN1 (報文においては、専ら GPR56と表記)が CD9や CD81などの Tetras paninと呼ばれる分子と相互作用すること (非特許文献 3参照)、および、 GPR56遺伝 子の変異によって、ヒト前頭葉皮質の奇形が起こること (非特許文献 4参照)が、最近 相次いで報告された。ごく最近になって、 TM7XN1 (報文においては、専ら GPR56と表 記)が神経膠腫細胞にぉ 、て発現して 、ることや、神経膠腫細胞の培養系にお 、て 、 TM7XN1の N末端側細胞外領域の組換えタンパク力 培養皿への細胞の接着を抑
制することなども示された (非特許文献 5参照)。さらには、 TM7XN1 (報文においては、 専ら GPR56と表記)は、癌抑制遺伝子産物 pVHLによって誘導される標的遺伝子であ ることも示された (非特許文献 6参照)。
[0015] なお、 TM7XN1については、「転移性ヒトメラノーマ細胞において減少調節される新 遺伝子及びそのタンパク質、その生産方法、並びに使用」という名称で、特許出願が 既になされて!/ヽる (特許文献 1参照)。
[0016] また、 TM7XN1および GPR56のマウスホモログである Cyt28の cDNAは、造血幹細胞 を調節する遺伝子の一つとしてクローユングされ(Phillips RLら (1999), GenBank Acc ession Number AF166382)、特許出願もなされている(特許文献 2参照)さらに、別の グループにより、マウス骨髄全体の細胞と骨髄造血幹細胞との遺伝子の発現量を比 較した場合に、マウス骨髄造血幹細胞により多く発現している遺伝子の一つとして、 Cyt28の cDNAが同定された(非特許文献 7参照)。 Cyt28は、 TM7XN1および GPR56 と約 75%の相同性 (アミノ酸配列)を持つ GPCRで、 N末端側に位置する細胞外領域や 7回膜貫通領域付近のアミノ酸配列など、 TM7XN1および GPR56と同様の分子的特 徴を有し、 LNB-TM7に分類される。 Cyt28はマウス胎仔肝臓造血幹細胞における発 現も確認されており、さらに、マウス神経幹細胞においても発現している可能性が高 V、ことも確認されて 、る (非特許文献 7参照)。
特許文献 1:特開 2000— 217585号公報
特許文献 2 :国際公開第 WO 00/11168号パンフレット
非特許文献 l :Zendman AJら (1999), FEBS Lett. 446: 292-298
非特許文献 2 : Liu Mら(1999), Genomics 55: 296-305
非特許文献 3 : Little KDら (2004), Mol Biol Cell 15: 2375-2387
非特許文献 4: Piao Xら(2004), Science 303: 2033-2036
非特許文献 5 : Shashidhar Sら(2005), Oncogene 24: 1673-1682
非特許文献 6 :Maina ENら(2005), Oncogene 24: 4549-4558
非特許文献 7 :Terskikh AJら (2001), Proc. Natl. Acad. Sci. USA 98: 7934-7939 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0017] 本発明は、 TM7XN1という特定の GTP結合蛋白共役型の細胞表面受容体を発現 する様々な癌細胞の転移を、 TM7XN1に対する抗体、例えばアンタゴ-ストとして作 用する抗体を用いて阻害する新しい方法、および当該方法に使用するための医薬 組成の提供を目的とする。
課題を解決するための手段
[0018] 上記のように、 TM7XN1に関する様々な知見が蓄積されつつあるものの、 TM7XN1 の生理的なリガンドは未同定であることから、 TM7XN1の生理的な役割はいまだ完全 には明らかにはされていなかった。
[0019] 本発明者らは、 TM7XN1の生理的な機能を明らかにすることを目的として、まず、 T M7XN1に結合する単クローン抗体 KSA7を作製した。そして、様々な病態モデルに対 するこの抗体の作用を検討した。その 1つとして、悪性黒色腫における転移能と TM7 XN1の発現量とが逆相関しているという Zendmanらの知見に基づき、 TM7XN1を発現 して ヽるヒト急性骨髄性白血病細胞株 (KGla)を免疫不全マウスの静脈に移植して 骨髄転移を起こさせると 、う骨転移モデルを用いて、この抗体の作用の検討も行った 。その結果、コントロール群と比較して、 KSA7投与群では、骨髄への転移が有意に 抑制されるという、 Zendmanらの知見からは予期されない結果が得られた。
[0020] さらに追加的に、 TM7XN1に結合する単クローン抗体 4M2B、 7M1および 21M1を作 製した。改めて、 TM7XN1を発現しているヒト急性骨髄性白血病細胞株 (KGla)を免 疫不全マウスの静脈に移植して骨髄転移を起こさせると ヽぅ骨転移モデルを用いて、
KSA7と同時に 4M2B、 7M1および 21M1の作用の検討も行った。その結果、 KSA7以外 の 3クローンの投与群でも、骨髄への転移が有意に抑制されるという結果が得られた 。よって、特定の単クローン抗体でなくても、 TM7XN1に結合する単クローン抗体なら ば、このような活性を持ち得ることが示され、 TM7XN1分子が骨髄への転移を抑制す るための重要な標的分子であることが新たに示された。
[0021] さらに、上記骨転移モデルにおいて、 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1の各クローン の中で最も活性の高力つた 21M1を用いて、以下の検討を実施した。
[0022] まず、 TM7XN1を発現して ヽるヒト多発性骨髄腫細胞株 (RPMI8226)を免疫不全マ ウスの静脈に移植して骨髄転移を起こさせる t ヽぅ骨転移モデルを用いて、 21M 1の
作用の検討を行った。その結果、 21M1によって骨髄への転移が抑制される傾向が示 された。
[0023] また、 TM7XN1を発現しており、なおかつ GFPで標識したヒト脾臓癌細胞株(BxPC3 )の腫瘍塊を免疫不全マウスの脾臓(同所)に移植し、原発巣を生着させた後、全身 に転移を起こさせるという同所移植'転移モデルを用いて、 21M1の作用の検討を行 つた。その結果、 21M1に脾臓癌細胞の脾臓への転移が抑制される傾向が示された。
[0024] 以上から、 TM7XN1に結合する単クローン抗体は急性骨髄性白血病 ·多発性骨髄 腫'脾臓癌を含む様々な種類の腫瘍の転移を抑制する可能性が示され、 TM7XN1分 子が様々な種類の腫瘍の転移を抑制するための重要な標的分子であることが新た に示された。
[0025] TM7XN1は、ムチン様蛋白の構造を有していることから、細胞間の接着に関与する 可能性は示唆されていた力 現在まで癌細胞の転移等に関する知見は具体的には 確認されていない。そして、本発明における実施例によって、初めて、 TM7XN1が腫 瘍細胞の転移に関与するであろうこと、および TM7XN1に対する抗体力TM7XN1を発 現している癌細胞の転移の抑制に有用であろうことが示された。しかも、この抗体は、 重篤な副作用を引き起こすことなぐ明らかな転移抑制作用を示すことを見出し、本 発明を完成させるに至った。
[0026] 本発明の態様は、以下のとおりである。
[0027] [1] TM7XN1に対する抗体を有効成分として含む癌転移抑制剤。
[0028] [2] 癌が癌細胞表面に TM7XN1を発現している癌である [1]の癌転移抑制剤。
[0029] [3] 癌が骨転移し得る癌である [1ほたは [2]の癌転移抑制剤。
[0030] [4] 癌が脾臓転移し得る癌である [1]または [2]の癌転移抑制剤。
[0031] [5] 癌が乳癌、前立腺癌、肺癌、甲状腺癌、胃癌、悪性黒色腫、神経芽細胞腫、多 発性骨髄腫、急性骨髄性白血病、および脾臓癌カゝらなる群カゝら選択される [1]から [4
]の 、ずれかの癌転移抑制剤。
[0032] [6] 癌細胞の骨髄への転移を抑制し得る [1]から [5]のいずれかの癌転移抑制剤。
[0033] [7] 癌細胞の脾臓への転移を抑制し得る [1]から [5]のいずれかの癌転移抑制剤。
[0034] [8] [1]から [7]のいずれかの癌転移抑制剤を癌に罹患している非ヒト動物に投与し
て癌の転移を抑制する方法。
[0035] 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2004-330814号の明細書 および Zまたは図面に記載される内容を包含する。
発明の効果
[0036] 本発明によって、 TM7XN1という特定の GTP結合蛋白共役型の細胞表面受容体を 発現する様々な癌細胞に対して、 TM7XN1に対する抗体で処置することによって、 T M7XN1を発現する癌細胞の転移、特に、骨髄及び脾臓などの他の臓器への転移を 抑制することにより、癌治療の質の向上、および患者の QOLの向上に結びつくことが 期待される。
図面の簡単な説明
[0037] [図 1]骨転移モデルにおける抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7の転移抑制効果を骨 髄キメラ率で示す図である。
[図 2]抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7の、 TM7XN1に対する結合活性を TM7XN1発 現細胞と非発現細胞との比較で示す図である。
[図 3]抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7の、 TM7XN1に対する結合活性を KSA7とアイ ソタイプ抗体との比較で示す図である。
[図 4]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とアイソタイプ抗体の結合量との相関を 示す図である。
[図 5]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と KSA7の結合量との相関を示す図であ る。
[図 6- l]KGla細胞における TM7XN1の発現を、アイソタイプコントロール抗体と抗 TM 7XN1単クローン抗体 21M1の結合活性の比較で示す図であり、 KGla細胞に対する アイソタイプコントロール抗体の結合量を蛍光強度で示す図である。
[図 6- 2]KGla細胞における TM7XN1の発現を、アイソタイプコントロール抗体と抗 TM 7XN1単クローン抗体 21M1の結合活性の比較で示す図であり、 KGla細胞に対する 2 1M1の結合量を蛍光強度で示す図である。
[図 7]KGla細胞を用いた骨転移モデルにおける抗 TM7XN1単クローン抗体の複数の クローン (KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1)それぞれの転移抑制効果を骨髄キメラ率
で示す図である。
[図 8- 1]RPMI8226細胞における TM7XN1の発現を、アイソタイプコントロール抗体と 抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の結合活性の比較で示す図であり、 RPMI8226細胞 に対するアイソタイプコントロール抗体の結合量を蛍光強度で示す図である。
[図 8-2]RPMI8226細胞における TM7XN1の発現を、アイソタイプコントロール抗体と 抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の結合活性の比較で示す図であり、 RPMI8226細胞 に対する 21M1の結合量を蛍光強度で示す図である。
[図 9-l]RPMI8226を用いた転移モデルにおける抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の 効果を示す図であり、抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の骨転移抑制効果を骨髄キメ ラ率で示す図である。
[図 9-2]RPMI8226を用いた転移モデルにおける抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の 効果を示す図であり、抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の脾臓転移抑制効果を脾臓 キメラ率で示す図である。
[図 10- 1]脾臓癌細胞株 BxPC-3における TM7XN1の発現を、アイソタイプコントロール 抗体と抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の結合活性の比較で示す図であり、脾臓癌 細胞株 BxPC-3に対するアイソタイプコントロール抗体の結合量を蛍光強度で示す図 である。
[図 10-2]脾臓癌細胞株 BxPC-3における TM7XN1の発現を、アイソタイプコントロール 抗体と抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の結合活性の比較で示す図であり、脾臓癌 細胞株 BxPC-3に対する 21M1の結合量を蛍光強度で示す図である。
[図 11-1]固形癌細胞を同所移植した後の転移を視覚的に検出するモデルにおける
、抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の効果を示す図であり、抗 TM7XN1単クローン抗 体 21M1の原発巣の退縮に対する効果を、原発巣の重量で示す図である。
[図 11-2]固形癌細胞を同所移植した後の転移を視覚的に検出するモデルにおける
、抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の効果を示す図であり、抗 TM7XN1単クローン抗 体 21M1の脾臓転移に対する効果を、脾臓転移の発生率で示す図である。
[図 12-1]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合 量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と KSA7の結合量
との相関を示す図である。
[図 12-2]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合 量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と 4M2Bの結合量 との相関を示す図である。
[図 12-3]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合 量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と 7M1の結合量と の相関を示す図である。
[図 12-4]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合 量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と 21M1の結合量 との相関を示す図である。
[図 13-1]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とアイソタイプコントロール抗体の結 合量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とラッ HgG2b の結合量との相関を示す図である。
[図 13-2]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とアイソタイプコントロール抗体の結 合量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とマウス IgG2b の結合量との相関を示す図である。
[図 13-3]TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とアイソタイプコントロール抗体の結 合量との相関を示す図であり、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量とマウス IgGlの 結合量との相関を示す図である。
[図 14-1]EGFPの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合量との相関を示す図で あり、 EGFPの発現量と KSA7の結合量との相関を示す図である。
[図 14-2]EGFPの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合量との相関を示す図で あり、 EGFPの発現量と 4M2Bの結合量との相関を示す図である。
[図 14-3]EGFPの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合量との相関を示す図で あり、 EGFPの発現量と 7M1の結合量との相関を示す図である。
[図 14-4]EGFPの発現量と抗 TM7XN1単クローン抗体の結合量との相関を示す図で あり、 EGFPの発現量と 21M1の結合量との相関を示す図である。
[図 15- 1]抗 TM7XN1単クローン抗体である KSA7 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お
よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 KSA7 (標識抗体)単独で TM7XN1 -EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 KSA7 (標識抗体)の結合量 (蛍光強 度)を示す図である。
[図 15- 2]抗 TM7XN1単クローン抗体である KSA7 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 KSA7 (標識抗体)と KSA7 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 KSA7 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 15- 3]抗 TM7XN1単クローン抗体である KSA7 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 KSA7 (標識抗体)と 4M2B (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 KSA7 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 15- 4]抗 TM7XN1単クローン抗体である KSA7 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 KSA7 (標識抗体)と 7M1 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 KSA7 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 15- 5]抗 TM7XN1単クローン抗体である KSA7 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 KSA7 (標識抗体)と 21M1 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 KSA7 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 16- 1]抗 TM7XN1単クローン抗体である 4M2B (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 4M2B (標識抗体)単独で TM7XN1 -EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 4M2B (標識抗体)の結合量 (蛍光強 度)を示す図である。
[図 16- 2]抗 TM7XN1単クローン抗体である 4M2B (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 4M2B (標識抗体)と KSA7 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 4M2B (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 16- 3]抗 TM7XN1単クローン抗体である 4M2B (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お
よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 4M2B (標識抗体)と 4M2B (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 4M2B (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 16- 4]抗 TM7XN1単クローン抗体である 4M2B (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 4M2B (標識抗体)と 7M1 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 4M2B (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 16- 5]抗 TM7XN1単クローン抗体である 4M2B (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 4M2B (標識抗体)と 21M1 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 4M2B (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 17- 1]抗 TM7XN1単クローン抗体である 7M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1およ び 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 7M1 (標識抗体)単独で TM7XN1- E GFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 7M1 (標識抗体)の結合量 (蛍光強度) を示す図である。
[図 17- 2]抗 TM7XN1単クローン抗体である 7M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1およ び 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 7M1 (標識抗体)と KSA7 (精製抗体) で TM7XN1-EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 7M1 (標識抗体)の結合 量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 17- 3]抗 TM7XN1単クローン抗体である 7M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1およ び 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 7M1 (標識抗体)と 4M2B (精製抗体) で TM7XN1-EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 7M1 (標識抗体)の結合 量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 17- 4]抗 TM7XN1単クローン抗体である 7M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1およ び 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 7M1 (標識抗体)と 7M1 (精製抗体) で TM7XN1-EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 7M1 (標識抗体)の結合 量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 17- 5]抗 TM7XN1単クローン抗体である 7M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1およ
び 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 7M1 (標識抗体)と 21M1 (精製抗体) で TM7XN1-EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 7M1 (標識抗体)の結合 量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 18- 1]抗 TM7XN1単クローン抗体である 21M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 21M1 (標識抗体)単独で TM7XN1 -EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 21M1 (標識抗体)の結合量 (蛍光強 度)を示す図である。
[図 18- 2]抗 TM7XN1単クローン抗体である 21M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 21M1 (標識抗体)と KSA7 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 21M1 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 18- 3]抗 TM7XN1単クローン抗体である 21M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 21M1 (標識抗体)と 4M2B (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 21M1 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 18- 4]抗 TM7XN1単クローン抗体である 21M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 21M1 (標識抗体)と 7M1 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 21M1 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
[図 18- 5]抗 TM7XN1単クローン抗体である 21M1 (標識抗体)と KSA7、 4M2B、 7M1お よび 21M1 (精製抗体)との競合性を示す図であり、 21M1 (標識抗体)と 21M1 (精製抗 体)で TM7XN1- EGFP融合タンパク発現株を染色した場合の、 21M1 (標識抗体)の 結合量 (蛍光強度)を示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0038] 以下、本発明を詳細に説明する。
[0039] 本発明は、 TM7XN1に対する抗体力TM7XN1を発現している癌細胞の転移を有意 に抑制するという発見に基づく。今回、骨転移モデル ·同所移植による脾臓転移モデ ルを用いた力 癌細胞の転移に共通する機構を考え合わせると、骨髄'脾臓のみな
らず、肺、肝臓、脳などの他の臓器への転移も有効に抑制できると考えられる。 TM7 XN1と GPR56は、細胞外領域の構造がほぼ完全に一致することから、抗 TM7XN1単ク ローン抗体 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1は、細胞表面に発現している GPR56にも 結合すると考えられる。さらに、発現部位 '細胞についても、 TM7XN1と GPR56が区別 されずに報告されて!ヽる可能性が極めて高 、 (上記非特許文献 1参照、非特許文献 2参照)ことから、それらの報告における、 TM7XN1または GPR56の一方についての発 現部位'細胞などの記述は、 TM7XN1または GPR56の他方についても当てはまる可 能性が極めて高い。したがって、 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1が結合している細胞 表面の分子は、発現部位'細胞に関わらず、 TM7XN1のみならず GPR56でもあり得る こと力 、本発明において、 TM7XN1について得られた新たな知見は、 GPR56につい ても当てはまる可能性が極めて高い。よって、本発明の「TM7XN1に対する抗体」に は、抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1のような TM7XN1に対 する抗体のみならず、 GPR56に対する抗体も含まれる。また、抗体としては、 TM7XN1 に結合することによりリガンドに対して拮抗的に働く抗体が挙げられ、例えば TM7XN1 とリガンドの結合を立体的に阻止する抗体やアンタゴニスト抗体が挙げられる。本発 明で「抗体」とは、ィムノグロブリンを構成する重鎖可変領域及び重鎖定常領域並び に軽鎖の可変領域及び軽鎖の定常領域をコードする遺伝子(「抗体遺伝子」と総称 する)に由来するものである。本発明の「抗体」には抗体の機能的断片も含まれる。「 機能的断片」とは、抗体の一部分 (部分断片)であって、抗体の抗原への作用を 1つ 以上保持するものを意味し、具体的には F (ab') 、 Fab'、 Fab, Fv、ジスルフイド結合 F
2
v、一本鎖 Fv(scFv)、及びこれらの重合体等が挙げられる [D.J.King., Applications an d Engineering of Monoclonal Antibodies., 1998 T.J. International Ltd]。ある ヽ i 、「機 能的断片」は、抗体の断片であって抗原と結合しうる断片である。
「抗体の変異体」とは、ハイプリドーマにより生産される抗体の有するアミノ酸配列に 、 1アミノ酸以上の欠失、置換、挿入もしくは付加を生じたものをいう。本件発明の抗 体の変異体は、当業者に周知であるハイプリドーマからの抗体遺伝子の単離方法、 ヒト抗体定常領域の配列情報、遺伝子への部位特異的変異導入方法等を用いること により適宜作製しうる。
[0041] 本発明においては、抗体は、抗体遺伝子を発現ベクターに組み込み、ベクターを 適当な宿主細胞に導入し、細胞もしくは細胞の培養上清から回収、精製することによ り得ることがでさる。
[0042] 本発明の抗体は、例えば、下記のような方法によって製造することができる。即ち、 例えば、前記で定義したような TM7XN1若しくはその一部、又は抗原の抗原性を高め るための適当な物質(例えば、 bovine serum albumin等)との結合物、又は TM7XN1を 細胞表面に多量に発現している細胞を、必要に応じて免疫賦活剤(Freund's Adjuva nt等)とともに、マウス、ゥサギ、ャギ、ゥマ等の非ヒト哺乳動物に免疫する。あるいは、 TM7XN1を組み込んだ発現ベクターを非ヒト哺乳動物に投与することにより免疫感作 を行うことができる。モノクローナル抗体は、免疫感作動物から得た抗体産生細胞と 自己抗体産生能のな!、骨髄腫系細胞 (ミエローマ細胞)からハイプリドーマを調製し 、 ノ、イブリドーマをクローンィ匕し、免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモ ノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。また好まし くは、再配列されていないヒト抗体遺伝子を保持し、免疫感作により当該免疫原に特 異的なヒト抗体を産生する非ヒト動物を免疫に用いることにより、本発明の抗体をヒト 抗体として得ることができる。該非ヒト動物としてマウスが挙げられ、ヒト抗体を産生し 得るマウスの作成方法は、国際公開 WO02/43478に記載されている。ここで、ヒト抗体 とは、ヒト由来の抗体遺伝子の発現産物である抗体、又はその機能的な断片を意味 する。
[0043] また、ハイプリドーマ等の抗体産生細胞力 モノクローナル抗体をコードする遺伝子 をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主 (例えばチャイニーズノヽ ムスター卵巣 (CHO)細胞等の哺乳類細胞株、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物 細胞など)に導入し、遺伝子組換え技術を用いて組換型抗体を調製することができる (P.J.Delves., ANTIBODY PRODUCTION ESSENTIAL TECHNIQUES., 1997 WILE Y、 P.Shepherd and C.Dean., Monoclonal Antibodies., 2000 OXFORD UNIVERSITY PRESS, J.W.Goding., Monoclonal Antibodies : principles and practice., 1993 ACADE MIC PRESS) oさらに、トランスジエニック動物作製技術を用いて目的抗体の遺伝子が 内在性遺伝子に組み込まれたトランスジエニックなゥシ、ャギ、ヒッジ又はブタを作製
し、そのトランスジエニック動物のミルク中力もその抗体遺伝子に由来するモノクロ一 ナル抗体を大量に取得することも可能である。ハイプリドーマをインビトロで培養する 場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に 合わせて、ハイプリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル 抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地又は既知の基本培地力 誘 導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
[0044] 骨に高頻度に転移する癌としては、以下の癌が知られている。血液性悪性腫瘍で ある多発性骨髄腫は、ほぼ 100%の頻度で骨に定着(ホーミング)し、骨を破壊しながら 増殖する(Pearse RNら (2001), Proc Natl Acad Sci USA 98:11581-11586)。骨を転移 標的臓器とする癌としては、固形癌では、乳癌、前立腺癌、肺癌、甲状腺癌、胃癌、 そして悪性黒色腫などが知られている (Celeman (1997), Cancer 80:1588-1594)。また 、小児の神経芽細胞腫も高頻度に骨に転移し、予後不良の大きな原因となっている( Michigamiら (2001), Cancer Res 61: 1637-1644)。今回の実施例と癌の性質を考え合 わせれば、本発明で示す抗体は、少なくとも TM7XN1を発現している多発性骨髄腫、 乳癌、前立腺癌、肺癌、甲状腺癌、胃癌、悪性黒色腫、および神経芽細胞腫の骨転 移には有効であると考えられる。
[0045] また、転移の機構という観点からは、原発性癌が血管内に侵入し、血中を流れて標 的臓器に到達する過程は、全ての標的臓器への転移に共通であることから、本発明 で示す抗体は、肺、肝臓、脳などへの癌転移にも有効である可能性は高いと考えら れる。従って、本発明の方法は、繊維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨原 性肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、骨膜腫、 内皮腫、ユーイング腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌腫、脾臓癌腫、乳癌、卵 巣癌、前立腺癌、リンパ腫、白血病、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺肉腫、汗腺癌、脂 腺癌、乳頭状癌、嚢胞腺癌、隋様癌、気管支癌、腎細胞癌、肝癌、胆管癌、繊毛癌 、精上皮腫、胎児性癌、ウィルムス腫、頸部癌、精巣腫、肺癌、肺小細胞癌、膀胱癌 、上皮腫、神経膠癌、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭癌、上衣腫、松果体腫、血管 芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽腫、および網膜芽腫を含む 様々な癌腫において、 TM7XN1が発現している場合には、その癌種の転移の予防に
おいても有用である。
[0046] また、前述したとおり、 TM7XN1と GPR56は、細胞外領域の構造がほぼ完全に一致 することから、抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1は、細胞表 面に発現している GPR56にも結合する可能性が極めて高い。さらに、発現部位'細胞 についても、 TM7XN1と GPR56が区別されずに報告されている可能性がきわめて高 い(上記の非特許文献 1および 2参照)ことから、それらの報告における、 TM7XN1ま たは GPR56の一方についての発現部位'細胞などの記述は、 TM7XN1または GPR56 の他方についても当てはまる可能性が極めて高い。従って、 KSA7、 4M2B、 7M1およ び 21M1が結合している細胞表面の分子は、発現部位.細胞に関わらず、 TM7XN1の みならず GPR56でもあり得ることから、本発明において、 TM7XN1について得られた 新たな知見は、 GPR56についても当てはまる可能性が極めて高い。よって、本発明の 「癌細胞表面に TM7XN1を発現している癌」には、癌細胞表面に TM7XN1を発現して いる癌のみならず、 GPR56を発現している癌も含まれる。
[0047] 投与法など
本発明は、癌に関連する医学的状態または疾患の処置において有用である。本発 明の抗体は、本明細書中に記載される医学的状態の他の処置 (例えば、化学療法、 照射療法、免疫療法または外科的方法)と組み合わせられ得、アルキル化剤、代謝 拮抗剤、抗ホルモン、種々の症状のための治療薬 (例えば、鎮痛剤、利尿薬、抗利 尿薬、抗ウィルス剤、抗生物質、栄養補給剤、貧血治療薬、血液凝固治療薬、骨治 療薬、ならびに精神医学的および心理学的治療薬)を含む。
[0048] 例えば、本発明の抗体を含む薬学的または無菌の組成物を調製するために、材料 は、好ましくは不活性な薬学的に受容可能なキャリアまたは賦形剤と混合される。こ のような薬学的組成物の調製は、当該分野において公知である。代表的に、治療的 組成物は、無菌である。
[0049] 本発明の抗体組成物は、通常、非経口で、好ましくは、静脈内に投与される。この ような抗体組成物は、免疫原性であり得るので、これらは、好ましくは、従来の IV投与 セットによってか、または皮下の貯蔵所からのいずれかで、 10 /ζ §〜100π^/1¾/(1&γの 投与量になるよう、ゆっくりと投与される。
[0050] 非経口で投与される場合、治療薬は、代表的に、薬学的に受容可能な非経口のビ ヒクルと組み合わせて、単位用量の注射可能な形態 (溶液、懸濁液、乳濁液)に処方 される。このようなビヒクルは、本来、無毒で、そして非治療的である。抗体は、水、生 理的食塩水のような水溶性ビヒクル、または種々の添加剤および Zまたは賦形剤を 伴うか、またはこれらを伴わない緩衝ィ匕ビヒクルの形態で投与され得る。あるいは、亜 鉛懸濁液のような懸濁液は、抗体を含むように調製され得る。このような懸濁液は、皮 下(SC)、皮内(ID)または筋肉内(IM)注射に有用であり得る。治療薬実体および添 加剤の割合は、両方が有効量で存在しさえすれば、幅広い範囲にわたって変化し得 る。治療薬は、好ましくは、実質的に凝集物、他のタンパク質、内毒素などを含まない 精製された形態で、約 5〜30mgZml、好ましくは 10〜20mgZmlの濃度で処方さ れる。好ましくは、内毒素レベルは、 2. 5EUZml未満である。
[0051] 治療用抗体のための投与レジメンの選択は、いくつかの因子 (治療薬の血清または 組織交代速度、治療薬の免疫抗原性、標的細胞の接近性、および治療ストレスに対 する患者の通常の寛容性を含む)に依存する。好ましくは、投与レジメンは、受容可 能なレベルの副作用に合わせて患者に到達される治療薬の量を最大にする。従って 、送達される治療薬の量は、処置される状態の重篤度に部分的に依存する。
[0052] 適切な用量の決定は、臨床医によって、例えば、処置に影響をおよぼす力 処置 に影響を及ぼすと推測される当該分野において公知のパラメーターまたは因子を用 いてなされる。通常、この用量は、最適な用量よりいくぶん少ない量で始まり、そして その後、任意の関連する副作用に関して所望または最適な効果が達成されるまで、 少しの増大で増加させる。規定されたサンプル中のレセプター保有細胞の数は、有 効用量が到達される場合の重要な指標であり得る。好ましくは、使用される抗体また はそれらの結合ィ匕合物は、処置のために標的化された動物と同じ種に由来し、それ によって、試薬に対する体液性応答を最小限にする。
[0053] 抗体やその結合フラグメントに対する週間用量範囲は、体重 lkg当たり約 10 g、 好ましくは、少なくとも g、そしてより好ましくは少なくとも約 100 gからの範囲で ある。通常、この範囲は、体重 lkg当たり約 1000 g未満、好ましくは約 500 /z g未 満、そしてより好ましくは、約 100 /z g未満である。用量は、所望の処置をもたらす計
画に基づき、そしてより短いかより長い期間にわたって周期的であり得る。通常、範囲 は、体重 lkg当たり少なくとも約 10 g〜約 50 g、好ましくは約 100 g〜約 lOmg である。
[0054] 「有効量」とは、所望の応答をもたらすために、もしくは、例えば、転移または原発性 腫瘍進行の症状または徴候、サイズあるいは増殖を緩和するために十分な量を意味 する。本発明の抗体を含む組成物により治療され得る代表的な哺乳動物としては、 マウス、ラット、ネコ、ィヌおよび霊長類 (ヒトを含む)が挙げられる。特定の患者に対す る有効量は、処置される状態、患者の全体的な健康、投与の方法、経路および用量 、ならびに副作用の重篤度のような因子に依存して変化し得る。効果としては、少なく とも約 10%、好ましくは少なくとも約 20%、 30%、 50%、 70%または 90%以上の定 量化できる変化が期待される。組み合わせる場合、有効量は、成分の組合せに対す る割合であり、そして効果は、個々の成分単独に限定されない。
[0055] 有効量の治療薬は、代表的に、少なくとも約 10%;通常、少なくとも約 20%;好まし くは少なくとも約 30%;またはより好ましくは少なくとも約 50%だけ症状を調節する。 あるいは、移動の調節は、種々の細胞型の移動または情報交換に影響を与えること を意味する。これは、影響を受ける細胞の数に、例えば、統計学的に有意で、そして 定量ィ匕できる変化を引き起こす。これは、ある時間内または標的領域内に誘引される 標的細胞の数における減少であり得る。原発性腫瘍進行の速度、サイズ、または増 殖はまた、モニターされ得る。
[0056] さらに、本発明が適用される治療薬として、抗体に代わって、アンチセンス核酸が使 用され得る。例えば、 TM7XN1に対するアンチセンスポリヌクレオチドは、細胞内に導 入することによって TM7XN1の遺伝子の発現を特異的に抑制でき、レセプターアンタ ゴニストのように機能し得る。これによつて、目的の治療効果を発揮させることができる
[0057] さらに、本発明が適用される治療薬として、抗体に代わって、 RNAi (RNA interferen ce)法が使用されうる。 RNAiは、 siRNA (short interfering RNA)と呼ばれる 21〜23塩 基の二本鎖 RNAにより、配列特異的に遺伝子発現が抑制される現象である (Fire Aら (1998), Nature 391: 806-811, Elbashir SMら (2001), Nature 411: 494-498)。 RNAi法
において、細胞内に siRNAを導入する方法には、合成 siRNAを細胞内に導入する方 法と、 siRNA発現ベクターを細胞内に導入して二本鎖 RNAを発現させる方法に分類 することができる。そこで、例えば、 TM7XN1の遺伝子配列に一致する合成 siRNAま たは siRNA発現ベクターは、細胞内に導入することによって、 TM7XN1の遺伝子レセ プターアンタゴ-ストのように機能し得る。これによつて、目的の治療効果を発揮させ ることがでさる。
実施例
[0058] 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に よって限定されるものではない。
[0059] 実施例 1:骨転移モデルにおける抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7の転移抑制効果 実験材料 ヒト急性骨髄性白血病細胞株 (KGla)は、大日本製薬から購入し、 IMDM + 10%FBS, 37°C, 5% COの条件下で培養した。免疫不全マウス(NOD/SCID/ γ n
2 c ullマウス:通称 NOGマウス)は、財団法人 実験動物中央研究所から 5週齢のォス個 体を購入し、 14週齢において移植実験に使用した。 KSA7は、キリンビール医薬探索 研究所において、 TM7XN1強制発現 3Y1ラット細胞株をラットに免疫して取得した単ク ローン抗体 (ラッ HgG2b)であり、 5mg/mLの PBS溶液の状態に調製して保存'使用し た。
[0060] 実験方法
KGla細胞を 1.0xl05〜5.0xl05個/ mLの細胞密度で培養した。コントロール群と KSA 7投与群として、それぞれ 3匹の NOGマウスを用いた。コントロール群に移植するため に、 IMDM + 0.1% BSAを用いて、 KGla細胞 3.6xl06個/ 600 Lの細胞懸濁液を調製 した。抗体投与群に移植するために、 IMDM + 0.1% BSAと、 5mg/mLの KSA7の PBS 溶液を用いて、 KGla細胞 3.6xl06個 +KSA7 45 /600 Lの細胞懸濁液を調製した 。それぞれの細胞懸濁液を 4°Cで 60分静置した。移植前に 200cGyの X線を照射した NOGマウスに対し、 1匹当たり 200 Lのコントロール用あるいは抗体投与群用に調製 した細胞懸濁液を、尾静脈から移植した。移植 2週間後に、各群のマウスの大腿骨の 骨髄細胞を採取し、抗マウス CD45 PE標識抗体と抗ヒト CD45 APC標識抗体で二重 染色を行い、一定の個数の生細胞中に含まれるマウス CD45陽性細胞とヒト CD45陽
性細胞の個数をフローサイトメトリー法により測定した。そして、ヒト CD45陽性細胞数 ÷ (マウス CD45陽性細胞数 +ヒト CD45陽性細胞数 ) x 100(%)をキメラ率として算出した 。キメラ率が高いことは、 KGla細胞 (ヒト CD45陽性細胞)の骨髄での生着率が高い、 すなわち骨髄転移した細胞が多 ヽことを示す。
[0061] 結果
コントロール群の平均キメラ率(士標準偏差)は、 10.42%(± 6.49)、 KSA7投与群の 平均キメラ率は 2.69%(± 1.22)となった (図 1)。そこで、有意水準 0.05で Z検定を行つ たところ、 p=0.02となった。この結果は、 KSA7処置により、コントロール群と比較して、 KGla細胞の骨髄転移が有意に抑制されたことを示す。また、この結果より、抗 TM7X N1単クローン抗体 KSA7は、 TM7XN1を発現している癌細胞の骨髄転移を抑制するこ とができることが示唆された。
[0062] 実施例 2 :抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7の、 TM7XN1に対する結合活性
実験材料
HEK293株(ヒト胚性腎臓細胞由来)は、 DMEM + 10%FBS, 37°C, 5% COの条件
2 下で培養した。 TM7XN1-EGFP融合蛋白強制発現 HEK293株は、キリンビール医薬 探索研究所において榭立し、 DMEM + 10%FBS + 5 μ g/mL Blasticidin, 37°C, 5% COの条件下で培養した。 KSA7は、キリンビール医薬探索研究所において、 TM7XN
2
1強制発現 3Y1ラット細胞株をラットに免疫して取得した単クローン抗体 (ラッ HgG2b) であり、 500 g/mLの PBS溶液の状態に調製して使用した。アイソタイプ抗体 (ラッ H gG2b、 500 g/mL)は、 日本べタトンディッキンソン社の BD- 553986を使用した。 2次 抗体(PE標識抗ラット IgG抗体 F(a ) 2断片)は、コスモバイオ社の OBMSTAR73を使 用した。フローサイトメーターは、 FACSCalibur4A (日本べタトンディッキンソン社)を使 用した。 Staining Mediumは、 PBSに 2%(v/v)FBS、 5mM EDTA— 2Naゝ 0.05%(w/v) Na N (いずれも終濃度)を添カ卩して調製した。 PI+Staining Mediumは、 Staining Medium
3
に Propidium Iodideを 1 μ g/mL (終濃度)添カ卩して調製した。
[0063] 実験方法
HEK293株(以後、対照株と表記) ' TM7XN1- EGFP融合タンパク強制発現 HEK293 株(以後、発現株と表記)を培養皿からはがして、 Staining Mediumに、 l .OxlO7個/ mL
の細胞濃度に調製し、 1.5mLチューブに 50 Lずつ分注した。そこへ、 KSA7またはァ イソタイプ抗体力 終濃度 50 g/mLになるように添加した。 4°C、 30分で静置した後、 ImL Staining Mediumを添カ卩して 400Gで 3分間遠心し、上清を除去して細胞を洗浄し た。そこへ、 2次抗体の原液を Staining Mediumで 1/50に希釈した液を 50 L添カロし た。 4°C、 30分で静置した後、 ImL Staining Mediumを添カ卩して、 400Gで 3分間遠心し 、上清を除去して細胞を洗浄した。そこへ、 PI+Staining Mediumを 400 μ L添加して細 胞を懸濁し、フローサイトメーターにて、細胞に対する抗体の結合や、 TM7XN1-EGF P融合タンパクの発現量などを蛍光強度によって測定した。
[0064] 結果
対照株と発現株に、それぞれ KSA7を結合させた場合の蛍光強度を比較すると、図 2のようになり、 KSA7は発現株に対してのみ結合することが判明した。
[0065] また、発現株に対して、それぞれアイソタイプ抗体と KSA7を結合させた場合を比較 すると、図 3のようになり、 KSA7のみが発現株に対して結合することが判明した。また 、発現株に対して、それぞれアイソタイプ抗体と KSA7を結合させた場合に、抗原とな る TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と、 KSA7の結合量との相関を見ると、図 4 ( アイソタイプ抗体の場合)、図 5 (KSA7の場合)のようになり、抗原の発現量に応じて、 KSA7が結合していることが判明した。以上の結果から、 KSA7は、 TM7XN1に特異的 に結合していることが判明した。
[0066] 実施例 3 :ヒト急性骨髄性白血病細胞株の骨転移モデルにおける 4種類の抗 TM7X N1単クローン抗体 KSA7、 4M2B、 7M1、 21M1それぞれの転移抑制効果
実験材料
ヒト急性骨髄性白血病細胞株 (KGla)は、大日本製薬から購入し、 IMDM + 10%FB S, 37°C, 5% COの条件下で培養した。免疫不全マウスである NOD/Shi- scid,IL- 2R y
2
nuUマウス (NOGマウス)は、財団法人 実験動物中央研究所から 6週齢のォス個体を 購入し、 11週齢において移植実験に使用した。 KSA7は、キリンビール医薬探索研究 所において、 TM7XN1強制発現 3Y1ラット細胞株をラットに免疫して取得した抗 TM7 XN1単クローン抗体 (ラット IgG2b)であり、 5mg/mLの PBS溶液の状態に調製して保存 •使用した。また、 4M2B、 7M1および 21M1は、それぞれ、免疫生物研究所に委託し
て、 TM7XN1強制発現 Balb3T3マウス細胞株をマウスに免疫して取得した抗 TM7XN 1単クローン抗体(4M2B:マウス IgG2b, 7M1, 21M1:マウス IgGl)であり、 2mg/mLの P BS溶液の状態に調製して保存'使用した。アイソタイプコントロール抗体については、 日本べタトンディッキンソン社の製品の、ラッ HgG2b (BD-553986、クローン A95-l)、 マウス IgG2b (BD- 559530、クローン MPC- 11)、マウス IgGl (BD- 557273、クローン MO PC-31C)を購入し、 NAP- 25カラム(アマシャムバイオサイエンス)を用いてアジ化ナト リウムを除去した後、限外ろ過により濃縮して 2mg/mLの PBS溶液の状態に調製して 保存 '使用した。
[0067] さらに、 21M1は Alexa Fluor 647 Protein Labeling Kit (Molecular Probes社)を用い て Alexa Fluor 647で標識した後、 0.5mg/mLの PBS溶液(0.05%(w/v) NaN3を添加)の 状態に調製して使用した。標識 21M1に対応する標識アイソタイプコントロール抗体は 、 日本べタトンディッキンソン社のマウス IgGl-Alexa647標識(BD-557732、クローン M OPC- 21)を購入して使用した。抗ヒト CD45 APC標識抗体はベックマンコールター社 の IM2473、抗マウス CD45 PE標識抗体は日本べタトンディッキンソン社の BD-553081 を使用した。 Staining Mediumは、 PBSに 2%(v/v)FBS、 5mM EDTA— 2Na、 0.05%(w/v) N aN3 (いずれも終濃度)を添カ卩して調製した。 PI+Staining Mediumは、 Staining Medium に Propidium Iodideを 1 μ g/mL (終濃度)添カ卩して調製した。フローサイトメーターは、 FACSCalibur4A(日本べタトンディッキンソン社)を使用した。
[0068] 実験方法
KGla細胞は、 1.0xl05〜5.0xl05個/ mLの細胞密度で培養した。
[0069] (KGla細胞における TM7XN1の発現の確認)
移植のために KGla細胞を培養状態から回収するときに、 KGla細胞の一部を分取 した。 Staining Mediumを用いて、その細胞を l.OxlO7個/ mLの細胞濃度に調製し、 1.5 mLチューブに 50 Lずつ分注した。そこへ標識 21M1、または標識アイソタイプ抗体 を 1/10量(5.0 L)添カ卩した。 4°C、 30分で静置した後、 lmL Staining Mediumを添カロ して 400Gで 3分間遠心し、上清を除去して細胞を洗浄した。そこへ、 PI+Staining Medi umを 350 L添カ卩して細胞を懸濁し、フローサイトメーターにて、生細胞における表面 抗原に対する抗体の結合量、すなわち、 TM7XN1の発現量を蛍光強度によって測定
した。
[0070] (KGla細胞の移植)
PBS投与群、ラッ HgG2b投与群、マウス IgGl投与群、マウス IgG2b投与群、 KSA7投 与群、 4M2B投与群、 7M1投与群および 21M1投与群のそれぞれについて、 1群 6匹( 計 48匹)の NOGマウスを用いた。まず、 IMDM + 0.1% BSAを用いて、 KGla細胞 l.Ox 107個/ mLの必要量の細胞懸濁液を調製した。次に、 PBS投与群に移植するために、 当該細胞懸濁液 1400 Lに PBS 175 Lを添カ卩したもの、ラッ HgG2b投与群'マウス Ig G1投与群 ·マウス IgG2b投与群にそれぞれ移植するために、当該細胞懸濁液 1400 Lに各アイソタイプコントロール抗体溶液 175 Lを添カ卩したもの、 KSA7投与群に移植 するために、当該細胞懸濁液 1400 しに1¾ 7溶液70 しと1¾3 105 Lを添カ卩したも の、 4M2B投与群 · 7Μ1投与群 ·21Μ1投与群にそれぞれ移植するために、当該細胞 懸濁液 1400 Lに各抗 TM7XN1単クローン抗体溶液 175 Lを添カ卩したもの、をそれ ぞれ調製した。
[0071] それぞれの細胞懸濁液を移植の時点まで 4°Cで 60分静置した。移植前に 200cGyの X線を照射した NOGマウスに対し、 1匹当たり 225 Lの各投与群用に調製した細胞 懸濁液 (KGla細胞: 2.0x10s個、抗体: 50 g (抗体投与群の場合)を含有)を尾静脈 力 移植した。移植 2週間後に、各群のマウスの大腿骨の骨髄細胞を採取し、抗マウ ス CD45 PE標識抗体と抗ヒト CD45 APC標識抗体で二重染色を行い、一定の個数の 生細胞中に含まれるマウス CD45陽性細胞とヒト CD45陽性細胞の個数をフローサイト メトリー法により測定した。そして、ヒト CD45陽性細胞数 ÷ (マウス CD45陽性細胞数 + ヒト CD45陽性細胞数 )x 100 (%)をキメラ率として算出した。キメラ率が高いことは、 KG1 a細胞 (ヒト CD45陽性細胞)の骨髄での生着率が高!、、すなわち骨髄転移した細胞が 多いことを示す。
[0072] 結果
移植に用いた KGla細胞に対して、アイソタイプコントロール抗体と 21M1をそれぞれ 結合させた場合の、抗体の結合量 (蛍光強度)をみると、図 6のようになった。アイソタ イブコントロール抗体を結合させた場合(図 6— 1)に比べて、 21M1を結合させた場合 (図 6— 2)の方が、明らかに抗体の結合量 (蛍光強度)が増大していることから、移植
に用いた KGla細胞には TM7XN1が発現していることが確認できた。
[0073] 一方、移植 2週間後の各投与群の骨髄の平均キメラ率(士標準偏差)を順に示すと 、?83投与群は2.69% (±0.71)、ラット18〇21)投与群は2.89 % (±0.93)、マウス IgGl投 与群は 1.58 % (±0.39)、マウス IgG2b投与群は 2.86 % (± 1.55)、 KSA7投与群は 0.26% (±0.15)、 4M2B投与群は 0.09% (±0.09)、 7M1投与群は 0.37% (±0.14)、 21M1投与群 は 0.05% (±0.03)となった(図 7)。これらのうち、抗 TM7XN1単クローン抗体投与群と、 それに対応するアイソタイプコントロール抗体投与群について、有意水準 pく 0.01で t 検定 (片側検定)を行ったところ、 KSA7投与群とラッ HgG2b投与群で p=0.0002、 4M2 B投与群とマウス IgG2b投与群で p=0.0007、 7M1投与群とマウス IgGl投与群で p=0.00 1、 21M1投与群とマウス IgGl投与群で p=0.0002となり、いずれも有意な差が付いた。 この結果は、抗 TM7XN1単クローン抗体投与により、 KGla細胞の骨髄転移が有意に 抑制されたことを示す。また、この結果より、 TM7XN1分子に対する単クローン抗体は 、特殊な単一のクローンでなくても、 TM7XN1を発現している癌細胞の骨髄転移を抑 制しうることが示された。したがって、 TM7XN1分子は癌細胞の転移抑制を目指す上 での重要な標的分子であることが示された。
[0074] 実施例 4 :ヒト多発性骨髄腫細胞株の骨髄'脾臓転移モデルにおける抗 TM7XN1単 クローン抗体 21M1の転移抑制効果
実験材料
ヒト多発性骨髄腫細胞株 (RPMI8226)は、 JCRB (Japanese Collection of Research B ioresources)力ら購入し、 RPMI 1640 + 10%FBS, 37°C, 5% COの条件下で培養した
2
。免疫不全マウスである NOD/Shi- scid,IL- 2R y nuUマウス(NOGマウス)は、財団法人 実験動物中央研究所から 6週齢のォス個体を購入し、 19週齢において移植実験に 使用した。 21M1は、免疫生物研究所に委託して、 TM7XN1強制発現 Balb3T3マウス 細胞株をマウスに免疫して取得した抗 TM7XN1単クローン抗体(マウス IgGl)であり、 2mg/mLの PBS溶液の状態に調製して保存'使用した。さらに、 21M1は Alexa Fluor 6 47 Protein Labeling Kit (Molecular Probes社)を用いて Alexa Fluor 647で標識した後 、 0.5mg/mLの PBS溶液(0.05%(w/v) NaN3を添加)の状態に調製して使用した。標識 2 1M1に対応する標識アイソタイプコントロール抗体は、日本べタトンディッキンソン社
のマウス IgGl- Alexa647標識(BD- 557732、クローン MOPC- 21)を購入して使用した。 ヒト HLA-ABC FITC標識抗体は日本べタトンディッキンソン社の BD-555552、抗マウ ス CD45 PE標識抗体は日本べタトンディッキンソン社の BD- 553081を使用した。 Stain ing Mediumは、 PBSに 2%(v/v)FBS、 5mM EDTA— 2Naゝ 0.05%(w/v) NaN (いずれも終
3
濃度)を添力卩して調製した。 PI+Staining Mediumは、 Staining Mediumに Propidium Iodi deを 1 μ g/mL (終濃度)添カ卩して調製した。フローサイトメーターは、 FACSCalibur4A( 日本べタトンディッキンソン社)を使用した。
[0075] 実験方法
RPMI8226細胞は 1.0xl05〜5.0xl05個/ mLの細胞密度で培養した。
[0076] (RPMI8226細胞における TM7XN1の発現の確認)
移植のために RPMI8226細胞を培養状態から回収するときに、 RPMI8226細胞の一 部を分取した。 Staining Mediumを用いて、その細胞を l.OxlO7個/ mLの細胞濃度に調 製し、 1.5mLチューブに 50 Lずつ分注した。そこへ標識 21M1、または標識アイソタイ プ抗体を 1/10量(5.0 L)添カ卩した。 4°C、 30分で静置した後、 lmL Staining Medium を添カ卩して 400Gで 3分間遠心し、上清を除去して細胞を洗浄した。そこへ、 PI+Stainin g Mediumを 350 L添カ卩して細胞を懸濁し、フローサイトメーターにて、生細胞におけ る表面抗原に対する抗体の結合量、すなわち、 TM7XN1の発現量を蛍光強度によつ て測定した。
[0077] (RPMI8226細胞の移植)
PBS投与群 (計 1群)、 21M1投与群 (計 1群)について、それぞれ 1群 6匹 (計 12匹)の NOGマウスを用いた。まず、 IMDM + 0.1% BSAを用いて、 RPMI8226細胞 2.0xl07個/ mLの必要量の細胞懸濁液を調製した。次に、 PBS投与群に移植するために、当該細 胞懸濁液 1300 μ Lに PBS 162.5 μ Lを添カ卩したもの、 21M1投与群に移植するために、 当該細胞懸濁液 1300 μ Lに抗体溶液 162.5 μ Lを添加したものをそれぞれ調製した。
[0078] それぞれの細胞懸濁液を移植の時点まで 4°Cで 60分静置した。移植前に 200cGyの X線を照射した NOGマウスに対し、 1匹当たり 225 Lの各群用に調製した細胞懸濁 液 (RPMI8226細胞: 4.0xl06個、 21M1: 50 g (21M1投与群の場合)を含有)を尾静脈 力 移植した。移植 4週間後に、各群のマウスの大腿骨の骨髄細胞と脾臓細胞を採
取し、抗マウス CD45 PE標識抗体と抗ヒト HLA-ABC FITC標識抗体で二重染色を行 い、一定の個数の生細胞中に含まれるマウス CD45陽性細胞とヒト HLA-ABC陽性細 胞の個数をフローサイトメトリー法により測定した。そして、ヒト HLA-ABC陽性細胞 ÷ ( マウス CD45陽性細胞数 +ヒト HLA-ABC陽性細胞 )x 100 (%)をキメラ率として算出した 。キメラ率が高いことは、 RPMI8226細胞(ヒト HLA-ABC陽性細胞)の骨髄または脾臓 での生着率が高 、、すなわち骨髄または脾臓に転移した細胞が多 、ことを示す。
[0079] 結果
移植に用 、た RPMI8226細胞に対して、アイソタイプコントロール抗体と 21M 1をそれ ぞれ結合させた場合の、抗体の結合量 (蛍光強度)をみると、図 8— 1および図 8— 2 のようになった。アイソタイプコントロール抗体を結合させた場合(図 8— 1)に比べて、 21M1を結合させた場合(図 8— 2)の方が、明らかに抗体の結合量 (蛍光強度)が増 大して 、ること力ら、移植に用いた RPMI8226細胞には TM7XN1が発現して!/、ることが 確認できた。
[0080] 一方、移植 4週間後の骨髄における各投与群の平均キメラ率(士標準偏差)を順に 示すと、 PBS投与群は 0.11% (±0.07)、 21M1投与群は 0.08 % (±0.07)となった(図 9 D oまた、脾臓における各投与群の平均キメラ率(士標準偏差)を順に示すと、 PBS 投与群は 4.55% (± 1.72)、 21M1投与群は 3.36 % (±2.49)となった(図 9 2)。この結 果から、抗 TM7XN1単クローン抗体によって、 RPMI8226細胞の骨髄転移と脾臓転移 が抑制される傾向があることが判明した。さらに、この結果より、 TM7XN1分子に対す る単クローン抗体は、 TM7XN1を発現している癌細胞の骨髄転移'脾臓転移を抑制 しうることが示された。したがって、 TM7XN1分子は癌細胞の転移抑制を目指す上で の重要な標的分子であることが示された。
[0081] 実施例 5:固形癌細胞を同所移植した後の転移を視覚的に検出するモデルにおける 、抗 TM7XN1単クローン抗体 21M1の転移抑制効果
実験材料
TM7XN1を発現し、なおかつ GFPを強制発現させたヒト脾臓癌細胞株 BxPC3 (以後 、癌細胞株と表記)は、アンチキャンサー社 (米国カリフォルニア州サンディエゴ巿)に おいて榭立'培養'移植された。癌細胞株を移植する動物として、ヌードマウス (NCr n
u/nu)の 5〜6週齢のォスを使用した。 21M1は、免疫生物研究所に委託して、 TM7XN 1強制発現 Balb3T3マウス細胞株をマウスに免疫して取得した抗 TM7XN1単クローン 抗体 (マウス IgGl)であり、 2mg/mLの PBS溶液の状態に調製して保存'使用した。ァ イソタイプコントロール抗体については、 日本べタトンディッキンソン社のマウス IgGl ( BD- 557273、クローン MOPC- 31C)を購入し、 NAP- 25カラム(アマシャムバイオサイエ ンス)を用いてアジィ匕ナトリウムを除去した後、限外ろ過により濃縮して 2mg/mLの PBS 溶液の状態に調製して保存'使用した。さらに、 21M1は Alexa Fluor 647 Protein Lab eling Kit (Molecular Probes社)を用いて Alexa Fluor 647で標識した後、 0.5mg/mLの PBS溶液 (0.05%(w/v) NaNを添加)の状態に調製して使用した。標識 21M1に対応す
3
る標識アイソタイプコントロール抗体は、 日本べタトンディッキンソン社のマウス IgGl-A lexa647標識(BD- 557732、クローン MOPC- 21)を購入して使用した。 Staining Mediu mは、 PBSに 2%(v/v)FBS、 5mM EDTA— 2Naゝ 0.05%(w/v) NaN (いずれも終濃度)を添
3
カロして 製した。 PI+Staining Mediumは、 Staining Mediumに Propidium Iodideを 1 μ g/ mL (終濃度)添加して調製した。 GFPイメージングには、水銀ランプを装備した LZ12 実体蛍光顕微鏡(Leica社)を使用した。 GFPの励起には D425/60 band-pass filterと 4 70 DCXR dichroic mirror (Chroma Technology社)を使用した。また、放射された GFP の 光は <JG475 long-pass filter (し hroma Technologyネエリと Hamamatsuし 5810 3— chi p cooled color CCDカメラ(浜松ホトニタス社)を使用して画像イメージとして取り込ん だ。取り込んだ画像イメージは Image Pro Plus 3.1ソフトウェア(Media Cybernetics社) を用いることにより処理 '解析した。
実験方法
(癌細胞株における TM7XN1の発現の確認)
培養皿に付着状態で培養されて!ヽる癌細胞株を、 0.05%トリプシン溶液で数分処 理することにより、培養皿力も剥離させて回収した。そして、トリプシンを不活化させる ために Staining Mediumを等量添カ卩し、 400Gで 3分間遠心して細胞を洗浄した。そこ へ Staining Mediumを添カ卩して細胞を懸濁し、約 2.5x10ソ mLの細胞濃度になるように 調製し、 1.5mLチューブに 20 Lずつ分注した。そこへ標識 21M1、または標識アイソ タイプ抗体を 1/10量(2.0 L)添カ卩した。 4°C、 30分で静置した後、 4% Paraformaldeh
yde I PBS溶液を添加して細胞を固定した後、 400Gで 3分間遠心し、上清を除去した 。そこへ、 Staining Mediumを 350 L添カ卩して細胞を懸濁し、フローサイトメーターにて 、癌細胞株の表面抗原に対する抗体の結合量、すなわち、 TM7XN1の発現量を蛍 光強度によって測定した。
[0083] (癌細胞株の移植)
癌細胞株ストック用のヌードマウスにおいて維持'継代されている癌細胞株の塊を 1 mm3大に刻み、麻酔'開腹した移植用のヌードマウスの脾臓に 3〜4個の lmm3大の癌 細胞株を移植して縫合した。移植してから約 4週間後、触診によって癌細胞株の生着 が確認されたヌードマウスを選抜し、 PBS (媒体)投与群、 21M1 3mg/kg投与群、マウ ス IgGl (アイソタイプコントロール抗体) 3mg/kg投与群に振り分けた (計 3群、 1群あたり 10匹、計 30匹)。生着の確認'群の振り分けの直後に、各群に対して当該投与量の各 抗体 (または PBS)を尾静脈力も投与し、その後 1週間ごとに、各抗体 (または PBS)を 投与した。投与を開始してから 5週間後、各個体を開腹して GFPの蛍光を画像ィメー ジとして取り込み、転移巣の有無を判定した。また、脾臓に生着させた原発巣の重量 も測定した。
[0084] 結果
癌細胞株に対して、アイソタイプコントロール抗体と 21M1をそれぞれ結合させた場 合の、抗体の結合量 (蛍光強度)をみると、(図 10)のようになった。アイソタイプコント ロール抗体を結合させた場合(図 10—1)に比べて、 21M1を結合させた場合(図 10 2)の方が、明らかに抗体の結合量 (蛍光強度)が増大していることから、癌細胞株 には TM7XN1が発現していることが確認できた。
[0085] 一方、移植したヌードマウスの解析について、開腹して解析を実施するまでに、 PBS 投与群のうちの 1匹が死亡した。したがって、 PBS投与群: 9匹、 21M1 3mg/kg投与群: 10匹、マウス IgGl 3mg/kg投与群: 10匹について、開腹して解析を実施した。開腹時 に、脾臓における転移巣の有無を判定した上で、脾臓への転移発生率を比較すると 、卩83投与群は66.7% (9匹中6匹)、21\11 3mg/kg投与群は30.0% (10匹中3匹)、マゥ ス IgGl 3mg/kg投与群は80.0% (10匹中8匹)となった(図l l 2)。よって、 21M1投与 によって脾臓転移の発生率が減少する傾向があるといえる。
[0086] 以上の結果より、 TM7XN1分子に対する単クローン抗体は、 TM7XN1を発現してい る脾臓癌細胞 (BxPC3-3)の脾臓転移を抑制しうることが示された。
[0087] 実施例 6 :抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1の TM7XN1に 対する結合の特異性
実験材料
HEK293株(ヒト胚性腎臓細胞由来)は、 DMEM + 10%FBS, 37°C, 5% C02の条件 下で培養した。 EGFP蛋白強制発現 HEK293株と TM7XN1-EGFP融合蛋白強制発現 HEK293株は、キリンビール医薬探索研究所において榭立し、 DMEM + 10%FBS + 5 μ g/mL Blasticidin, 37°C, 5% COの条件下で培養した。 KSA7は、キリンビール医薬
2
探索研究所において、 TM7XN1強制発現 3Y1ラット細胞株をラットに免疫して取得し た抗 TM7XN1単クローン抗体(ラット IgG2b)である。この KSA7は、 Alexa Fluor 647 Pr otein Labeling Kit (Molecular Probes社)を用いて Alexa Fluor 647で標識した後、 0.5 mg/mLの PBS溶液(0.05%(w/v) NaNを添加)の状態に調製して使用した。 4M2B、 7M
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1および 21M1は、それぞれ、免疫生物研究所に委託して、 TM7XN1強制発現 Balb3T 3マウス細胞株をマウスに免疫して取得した抗 TM7XN1単クローン抗体(4M2B:マウ ス IgG2b, 7M1, 21M1:マウス IgGl)である。これら 4M2B, 7M1および 21M1は、それぞ れ Alexa Fluor 647 Protein Labeling Kit (Molecular Probes社)を用いて Alexa Fluor 6 47で標識した後、 0.5mg/mLの PBS溶液(0.05%(w/v) NaNを添加)の状態に調製して
3
使用した。アイソタイプコントロール抗体については、 日本べタトンディッキンソン社の ラッ HgG2b (BD- 553986、クローン A95-1)、マウス IgG2b-Alexa647標識(BD- 557903 、クローン 27- 35)、マウス IgGl- Alexa647標識(BD- 557732、クローン MOPC- 21)を購 入して使用した。なお、ラット IgG2bは Alexa Fluor 647 Protein Labeling Kit (Molecular Probes社)を用いて Alexa Fluor 647で標識した後、 0.5mg/mLの PBS溶液(0.05%(w/v ) NaN3を添加)の状態に調製して力も使用した。フローサイトメーターは、 FACSCalib ur4A (日本べタトンディッキンソン社)を使用した。 Staining Mediumは、 PBSに 2%(v/v)F BS、 5mM EDTA- 2Na、 0.05%(w/v) NaN (いずれも終濃度)を添カ卩して調製した。 PI+S
3
taming Mediumは、 Staining Mediumに Propidium Iodide 1 μ g/mL (終濃度)添ノ J卩して 調製した。
[0088] 実験方法
EGFP強制発現 HEK293株(以後、 EGFP発現対照株と表記) 'TM7XN1-EGFP融合 タンパク強制発現 HEK293株(以後、 TM7XN1発現株と表記)を培養皿からはがして、 Staining Mediumを用いて l.OxlO7個/ mLの細胞濃度に調製し、 1.5mLチューブに 25 Lずつ分注した。そこへ KSA7、 4M2B、 7M1、 21M1またはアイソタイプ抗体を 1/10量(2 .5 μ L)添加した。 4°C、 30分で静置した後、 lmL Staining Mediumを添カ卩して 400Gで 3 分間遠心し、上清を除去して細胞を洗浄した。そこへ、 PI+Staining Mediumを 350 μ L 添加して細胞を懸濁し、フローサイトメーターにて、生細胞における表面抗原に対す る抗体の結合量 · EGFPの発現量 · TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量などを蛍光 強度によって測定した。
[0089] 結果
TM7XN1発現株に対して、それぞれ KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1を結合させた 場合の、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と抗体の結合量との関係をみると、 図 12のようになり、 KSA7 (図 12— 1)、 4M2B (図 12— 2)、 7M1 (図 12— 3)、 21M1 (図 12-4)はそれぞれ TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量依存的に結合することが 判明した。
[0090] また、 TM7XN1発現株に対して、それぞれ KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1に対応す るアイソタイプ抗体 (ラッ HgG2b、マウス IgG2bおよびマウス IgGl)を結合させた場合の 、 TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量と抗体の結合量との関係をみると、図 13の ようになり、ラット IgG2b (図 13— 1)、マウス IgG2b (図 13— 2)、マウス IgGl (図 13— 3) はそれぞれ TM7XN1-EGFP融合タンパクの発現量に関係なぐほとんど結合しないこ とが判明した。
[0091] さらに、 EGFP発現対照株に対して、それぞれ KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1を結 合させた場合の、 EGFPの発現量と抗体の結合量との関係をみると、(図 14)のように なり、 1¾ 7 (図14 1)、4\128 (図14 2)、7\11 (図14 3)、21\11 (図14 4)はそ れぞれ EGFPの発現量に関係なぐほとんど結合しないことが判明した。
[0092] 以上から、それぞれ KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1は、 TM7XN1に特異的に結合 していることが確認できた。
[0093] 実施例 7 :抗 TM7XN1単クローン抗体 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1の TM7XN1に 対する結合の競合性
実験材料
TM7XN1-EGFP融合蛋白強制発現 HEK293株は、キリンビール医薬探索研究所に おいて榭立し、 DMEM + 10%FBS + 5 μ g/mL Blasticidin, 37°C, 5% COの条件下で
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培養した。 KSA7は、キリンビール医薬探索研究所において、 TM7XN1強制発現 3Y1 ラット細胞株をラットに免疫して取得した抗 TM7XN1単クローン抗体 (ラッ HgG2b)で ある。 KSA7は、 5mg/mLの PBS溶液の状態に調製して、精製抗体として保存'使用す るとともに、 Alexa Fluor 647 Protein Labeling Kit (Molecular Probes社)を用いて Alex a Fluor 647で標識した後、 0.5mg/mLの PBS溶液(0.05%(w/v) NaNを添加)の状態に
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調製して、標識抗体として使用した。 4M2B、 7M1および 21M1は、それぞれ、免疫生 物研究所に委託して、 TM7XN1強制発現 Balb3T3マウス細胞株をマウスに免疫して 取得した抗 TM7XN1単クローン抗体(4M2B:マウス IgG2b、 7M1および 21M1 :マウス Ig Gl)である。これら 4M2B、 7M1および 21M1は、それぞれ、 2mg/mLの PBS溶液の状態 に調製して、精製抗体として保存'使用するとともに、 Alexa Fluor 647 Protein Labelin g Kit (Molecular Probes社)を用いて Alexa Fluor 647で標識した後、 0.5mg/mLの PBS 溶液 (0.05%(w/v) NaNを添加)の状態に調製して、標識抗体として使用した。フロー
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サイトメーターは、 FACSCalibur4A (日本べタトンディッキンソン社)を使用した。 Staini ng Mediumは、 PBSに 2%(v/v)FBS、 5mM EDTA— 2Naゝ 0.05%(w/v) NaN (いずれも終濃
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度)を添カロして調製した。 PI+Staining Mediumiま、 Staining Mediumに Propidium Iodide を 1 μ g/mL (終濃度)添加して調製した。
[0094] 実験方法
TM7XN1- EGFP融合タンパク強制発現 HEK293株(以後、 TM7XN1発現株と表記) を培養皿からはがして、 Staining Mediumを用いて l .OxlO7個/ mLの細胞濃度に調製し 、 1.5mLチューブに Lずつ、必要な本数を分注した。そこへ、まず精製抗体(KSA 7、 4M2B, 7M1および 21M1)をチューブに 20 g/mL (終濃度)添カ卩した。その 5分後、 さらにそのチューブに標識抗体(KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1)を 0.2 μ g/mL (終濃 度)ずつ添加した。以上のサンプル調製を、標識抗体単独の場合と、精製抗体と標
識抗体の全ての組み合わせについて実施した。 4°C、 30分で静置した後、 ImL Staini ng Mediumを添カ卩して 400Gで 3分間遠心し、上清を除去して細胞を洗浄した。そこへ 、 PI+Staining Mediumを 350 L添カ卩して細胞を懸濁し、フローサイトメーターにて、生 細胞の表面に発現している TM7XN1分子に対する標識抗体の結合量を蛍光強度の 幾何平均値 (Geo Mean)によって測定した。
[0095] 結果
標識抗体と精製抗体のすべての組み合わせにつ!ヽて、各標識抗体を基準にして 順に結果を並べると以下のようになった。
[0096] (1) KSA7標識抗体に対して、各精製抗体を組み合わせたものを並べると、図 15に 示す結果となった。標識抗体単独の場合の Geo Mean値が 155.43 (図 15— 1)である のに対して、 KSA7添カ卩の場合(陽性対象)の Geo Mean値は 6.40 (図 15— 2)、 4M2B 添カ卩の場合の Geo Mean値は 156.18 (図 15— 3)、 7M1添カ卩の場合の Geo Mean値は 5 1.23 (図 15— 4)、 21M1添カ卩の場合の Geo Mean値は 51.05 (図 15— 5)となった。よつ て、 KSA7は 7M1, 21M1とは明確に競合するといえる。
[0097] (2) 4M2B標識抗体に対して、各精製抗体を組み合わせたものを並べると、(図 16) に示す結果となった。標識抗体単独の場合の Geo Mean値が 156.25 (図 16— 1)であ るのに対して、 KSA7添カ卩の場合の Geo Mean値は 94.32 (図 16— 2)、 4M2B添力卩の場 合(陽性対象)の Geo Mean値は 6.44 (図 16— 3)、 7M1添カ卩の場合の Geo Mean値は 1 34.96 (図 16—4)、 21M1添カ卩の場合の Geo Mean値は 131.15 (図 16— 5)となった。よ つて、 4M2Bは KSA7、 7M1および 21M1のすべてと競合するとはいえ、その程度は低 かった。
[0098] (3) 7M1標識抗体に対して、各精製抗体を組み合わせたものを並べると、(図 17) に示す結果となった。標識抗体単独の場合の Geo Mean値が 204.85 (図 17—1)であ るのに対して、 KSA7添カ卩の場合の Geo Mean値は 31.47 (図 17— 2)、 4M2B添力卩の場 合の Geo Mean値は 216.75 (図 17— 3)、 7M1添カ卩の場合(陽性対象)の Geo Mean値 は 8.78 (図 17— 4)、 21M1添カ卩の場合の Geo Mean値は 8.61 (図 17— 5)となった。よ つて、 7M1は KSA7および 21M1とは明確に競合するといえる。
[0099] (4) 21M1標識抗体に対して、各精製抗体を組み合わせたものを並べると、(図 18)
に示す結果となった。標識抗体単独の場合の Geo Mean値が 239.69 (図 18— 1)であ るのに対して、 KSA7添カ卩の場合の Geo Mean値は 33.43 (図 18— 2)、 4M2B添力卩の場 合の Geo Mean値は 247.94 (図 18— 3)、 7M1添カ卩の場合(陽性対象)の Geo Mean値 は 8.50 (図 18— 4)、 21M1添カ卩の場合の Geo Mean値は 8.87 (図 18— 5)となった。よ つて、 21M1は KSA7および 7M1とは明確に競合するといえる。
[0100] 以上、(1)〜(4)の結果から、すべてのクローンの組み合わせ (括弧内)について、 競合の程度を、◎:高い程度で競合する、〇:中程度で競合する、△:低い程度で競 合する、で大別すると、 (AKSA7, 4M2B)ゝ (OKSA7, 7M1)、 (OKSA7, 21Μ1)、 (Δ4 M2B, 7Μ1)、 (Δ4Μ2Β, 21M1)、 (®7M1, 21M1)となった。このように、検討した 4クロ ーン全てについて競合が見られたが、その程度は大きく異なった。高い程度で競合 するクローンにつ 、てはその認識部位が共通であるカゝ、極めて近接して!/ヽる可能性 が高いと考えられた。中程度または低い程度で競合するクローンについては、認識 部位が近接するもの、異なる可能性が高いと考えられた。よって、 KSA7と 4M2Bはそ れ自身以外のクローンすべてと認識部位が異なる可能性が高ぐ 7M1と 21M1は、 KS A7と 4M2Bとは認識部位が異なる可能性が高いと考えらた。一方、実施例 3の結果か ら、 KSA7、 4M2B、 7M1および 21M1すべてのクローンにおいて有意な骨髄転移阻害 活性が見られている。したがって、 TM7XN1分子の異なった部位を認識する単クロー ン抗体でも、それぞれ骨髄転移阻害活性を持ちうることから、 TM7XN1分子は癌細胞 の転移抑制を目指す上で重要な標的分子であることが示された。
[0101] 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本 明細書にとり入れるものとする。