明 細 書
Cdk5阻害剤を含む糖尿病治療薬
技術分野
[0001] 本発明は、低血糖障害等の副作用の少ない糖尿病治療薬に関する。詳しくは、サ イクリン依存性キナーゼ (以下、 Cdkと略す) 5阻害剤を有効成分とする電位依存性 L 型 Ca2+チャネル制御剤を含む糖尿病治療薬に関する。
背景技術
[0002] 糖尿病は脾臓インスリンの絶対的または相対的欠乏により起こる。もっとも有効な糖 尿病治療法としては、ヒトインスリンの皮下投与が知られている。特に糖尿病性昏睡、 インスリン依存性糖尿病などにおいては、ヒトインスリンの皮下投与が絶対に必要な 治療法である。
[0003] また、軽症の成人型糖尿病にお!、ては、食事療法、運動療法だけでは調節できな い場合、血糖値の正常化、尿糖消失などを目的として、経口血糖降下薬が用いられ ている。代表的な経口血糖降下薬として、トルプタミドなどのスルホ-ル尿素類が知ら れている (たとえば、非特許文献 1参照)。
[0004] スルホ-ル尿素類は、ランゲルハンス島 β細胞にある ATPで抑制される Κチャネル を抑制することにより、 j8細胞を脱分極し、電位依存性カルシウムチャネルを開き、細 胞内カルシウムを上昇することにより内因性インスリン分泌を促進して血糖を降下す る (たとえば、非特許文献 1参照)。
[0005] このような作用機構から、インスリンゃスルホニル尿素類は、過血糖、糖尿、多尿、 多飲、血管障害などの症状を呈する代謝疾患である糖尿病には有効である。このよう に高血糖を低減する現在の治療は、主に脾臓 β細胞の ATP感受性 Κ+ (K+ATP)チヤ ネルをターゲットとしてインスリン分泌を増加させる。しかしながら、現在のアプローチ は、しばしば低血糖の副作用を伴う。インスリン過剰によって引き起こされる低血糖に より意識障害、痙攣、心悸亢進などの副作用が問題となっている (たとえば、非特許 文献 2参照)。これらの副作用は、脳を障害するものであり、特に注意が必要とされる
[0006] 一方、ォロモーシンは、式(III):
[化 1]
[0007] の構造を有する化合物であり、一般にサイクリン依存性キナーゼの阻害剤として知ら れている (たとえば、非特許文献 3参照)。
[0008] 現在ォロモーシンは、前記作用にもとづき細胞の増殖の同期、インターロイキンに 刺激されたリンパ細胞の DNA合成の阻害を目的に研究で使用されている(たとえば、 非特許文献 3参照)のみであり、医薬としての使用は報告されて 、な!/、。
[0009] ォロモーシンによって阻害されるサイクリン依存性キナーゼとしては、 Cdk2Zサイク リン A (IC = 7 \1)、じ(11^7サィクリン£ ( = 7 \1) )ぉょびじ(11^5 ( = 3 Μ)
50 50 50 があり、このうち、 Cdk2Zサイクリン Αおよび Cdk2Zサイクリン Εは、通常増殖する細 胞でのみ働き、分ィ匕した脾臓 β細胞では活性をもたな ヽことが知られて ヽる (たとえ ば、非特許文献 3参照)。一方、 Cdk5は、主に分化した神経細胞や脾臓 |8細胞に豊 富に存在している力 神経細胞における Cdk5の機能がよく研究されている。 Cdk5は 、セリン/スレオニンキナーゼであって、哺乳類組織で遍在的に発現される (Tsai, LH. et al. Development 119, 1029-1040 (1993》。しかしながら、ァクチべ一ターである、 p 35および 39の-ユーロンにおける支配的な発現により、キナーゼ活性は-ユーロンで は制限される(Lew, J. et al. Nature 371, 423-426 (1994); Tsai, LH. et al. Nature 37 1, 419-423 (1994); Tang, D. et al. J. Biol. Chem. 270, 26897-26903 (1995))。 Cdk5 は、ニューロンにおいて、ニューロン遊走、皮質形成、シナプス伝達、ニューロン変性 および薬の常用などの多機能を有する(Cruz, JC. et al. Curr. Opin. Neurobiol. 14, 390-394 (2004); Bibb, JA. et at. Neurosignals 12, 191-199 (2003))。ごく最近の調査 により、 p35と p39が脾臓 j8細胞で発現されることが示された(Ubeda, M. et al. Endocri
nology 145, 3023-3031. (2004); Lilja, L. et al. J. Biol. Chem. 279, 29534-29541 (20
04))。また、 Cdk5は、 j8細胞の細胞膜および細胞質に存在し、その局在は、ダルコ ース濃度により制御を受ける。すなわち、低グルコース濃度では、細胞膜に結合し、 高グルコース濃度では、細胞質にその局在が変化するとの報告がされているが (非 特許文献 4参照)、その作用メカニズムについての詳細は明らかになっていない。 非特許文献 1:「スティミュレーシヨン ォブ インスリン リリース バイ レパグリニド アンド グリベンクラミド インボルブズ ボス コモン アンド デイスティンタト プロセ ンズ (Stimulation of Insulin Release by RePaglinide and Glibenclamide Involves Both Common and Distinct Processes)」、ダイァビース(Diabetes)ゝ 1998年、 5月、 47卷、 P. 345〜351
非特許文献 2 :「ニュー ドラッグ ターゲッッ フォー タイプ 2 ダイアビース アンド サ メタホリック シント口 ~~ム (New drug targets for type 2 diabetes and the metabon c syndrome)」、ネイチヤー(Nature)、 2001年、 12月、 414卷、 p. 821〜827 非特許文献 3 :「インヒピション ォブ サイクリン ディペンデント キナーゼズ バイ プリン アナログズ (Inhibition of cyclin— dependent kinases by purine an aiogues)」、 ユーロピアン ジャーナル ォブ ノ ィオケミストリー (European journal of biochemistr y) , 1994年、 224卷、 p. 771〜786
非特許文献 4 :「サイクリン-ディペンデント キナーゼ 5 プロモーッ インスリン ェキ ソサイト ~~ンス (Cyclin— dependent Kinase 5 Promotes Insulin Exocytosis)」、サ ンャ ーナル ォブ ノィォロジカル ケミストリー (The journal of biological chemistry), 200 1年、 276卷、 36号、 p.34199〜34205
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
糖尿病治療のターゲット分子を探求するために、インスリン分泌の生化学的メカ- ズムを広範囲に調べた。インスリンは、血中グルコース濃度の上昇に反応して脾臓 j8 細胞から分泌される。糖代謝による細胞内の ATPの増加は、 ATP感受性の K+ (K+ATP )チャネルの閉鎖を招き、次いで、細胞膜脱分極と L型電位依存性 Ca2+チャネル (L- V DCC)の開口が起こる(Inagaki, N. et al. Science 270, 1166-1170 (1995); Bratanova
-Tochkova, TK. et al. Diabetes 51, S83-90 (2002)) 0細胞内における Ca2+の増加は 、 SNARE (N—ethylmaleimide— sensitive attachment factor receptor)タンノ ク質ネ目互作 用とその後のインスリンを含む顆粒の開口分泌を誘発する (Gerber, SH. et al. Diabet es 51, S3-11 (2002))。細胞膜を直接脱分極するスルホ-ル尿素などの K+ATPチヤネ ルのブロッカーは、高血糖の低下に広く用いられている。しかしながら、ブロッカーで 治療される患者において低血糖症のメカニズムに基づく重要な副作用が、観察され る (Moller, DE. Nature 414, 821-827 (2001))。従って、生理反応に依存する新しいァ ブローチが、非常に望まれている。
[0011] 本発明はカゝかる従来の問題点を解決し、電位依存性 L型 Ca2+チャネルを制御するこ とにより、既存のインスリンあるいはインスリン分泌促進剤が有する低血糖障害などの 副作用が少なぐかつ糖尿病に有効な血糖降下治療薬を提供することを目的とする 課題を解決するための手段
[0012] 前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ォロモーシンやペプチド性 Cd k5阻害剤などの Cdk5阻害剤がインスリン分泌に関与する電位依存性 L型 Ca2+チヤネ ルを制御し得ることを見出し、上記阻害剤が糖尿病の治療薬として極めて有用であり 、低血糖を引き起こす副作用がまったくなぐインスリンの分泌を促進させ、血糖値を 正常な値にまで降下させることを見出した。
[0013] すなわち、ラット脾臓ランゲルハンス島由来の MIN6細胞および p35欠損マウスの脾 臓 β細胞において、サイクリン依存性キナーゼ 5 (Cdk5) /p35の阻害が高グルコース により刺激されるインスリン分泌を増加させるが、低グルコース状態では増カロさせな ヽ ことを見出した。
[0014] キナーゼの阻害は、グルコース刺激がなければ L型電位依存性 Ca2+チャネル (L-V DCC)力もの Ca2+流入に影響を及ぼさな力つた。一方、キナーゼの阻害は j8細胞で の高グルコース刺激があると全細胞での内向き Ca2+電流を増強させ、 VDCC力らの C a2+流入を増加させた。 Cdk5に依存するインスリン分泌の促進の分子的メカニズムは、 Cdk5が Ser783の部位で L-VDCCの Loop をリン酸ィ匕し、リン酸化が SNAREタンパク
II- III
質(SNAP25、シンタキシンなど)との結合を低下させ、その結果、 L-VDCCの活性が
低下するため、 Cdk5を阻害すれば L-VDCCの活性が増加すると!/、うメカニズムであ る。これらの結果より、本発明者らは、 Cdk5/p35が低血糖副作用のない高血糖のコン トロールのための薬剤ターゲットとして用い得ることを見出し本発明を完成させるに至 つた o
[0015] すなわち本発明は、サイクリン依存性キナーゼ (Cdk) 5阻害剤を含有してなる電位 依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤、該制御剤を含むインスリン分泌促進剤および該制 御剤を含む糖尿病治療薬に関する。
[0016] 前記電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤、該制御剤を含むインスリン分泌促進剤 および該制御剤を含む糖尿病治療薬において、 Cdk5阻害剤は、ォロモーシン、ロス コビチン(Roscovitine)、パーバラノール A (Purvalanol A)またはそれらの類似体を含 む ATP拮抗型 Cdk5阻害剤あるいはプリン誘導体 Cdk5阻害剤ならびにペプチド性の Cdk5阻害剤であることが好まし 、。
[0017] すなわち、本発明の態様は以下の通りである。
[0018] [1] サイクリン依存性キナーゼ (Cdk) 5阻害剤を有効成分として含む電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤。
[0019] [2] 脾臓ランゲルノヽンス島細胞において、低血糖時に電位依存性 L型 Ca2+チャネル を活性化せず、高血糖時に電位依存性 L型 Ca2+チャネルを介して Ca2+の細胞内への 流入を促進する [1]の電位依存性 L型 C チャネル制御剤。
[0020] [3] Cdk5阻害剤が、 ATP拮抗型 Cdk阻害剤である [1ほたは [2]の電位依存性 L型 Ca 2+チャネル制御剤。
[0021] [4] Cdk5阻害剤が、プリン誘導体 Cdk5阻害剤である [3]の電位依存性 L型 Ca2+チヤ ネル制御剤。
[0022] [5] Cdk5阻害剤力 下記式 (I)で表される化合物である [4]の電位依存性 L型 Ca2+チ ャネル制御剤。
[化 2]
[式中、 Rは NY Yであり、 Yおよび Yは各々独立に Hまたは C アルキルまたは C ヒ
1 1 2 1 2 1-4 1-4 ドロキシアルキルであり、 Rは Hまたは C アルキルであり、 Wは NHまたは 0である。 ]
2 1-4
[6] Cdk5阻害剤が、下記式 (Π)で表される化合物である [4]の電位依存性 L型 Ca2+チ ャネル制御剤。
[化 3]
[0024] [式中、 Rは NZ Zであり、 Zおよび Zは各々独立に Hまたは C アルキルまたは C ヒ
3 1 2 1 2 1-4 1-4 ドロキシアルキルであり、 Rは Hまたは C アルキルであり、 Rは、 Hまたは C アルキ
4 1-4 5 1-4 ルであり、 Rはハロゲンであり、 Xは NHまたは 0である。 ]
6
[7] Cdk5阻害剤が、ォロモーシン、ロスコビチン、パーバラノール Aおよびそれらの 類似体力もなる群力も選択される [3ほたは [4]の Ca2+チャネル制御剤。
[0025] [8] Cdk5阻害剤が、ペプチド性の Cdk5阻害剤である [1ほたは [2]の電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤。
[0026] [9] ペプチド性の Cdk5阻害剤力 サイクリン依存性キナーゼァクチベータ一である p 35または p39の断片ペプチドである [8]の電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤。
[0027] [10] ペプチド性の Cdk5阻害剤力 配列番号 1のアミノ酸配列の第 154番目の Cysか ら第 279番目の Proまでのアミノ酸配列を有するペプチドまたは配列番号 1のアミノ酸 配列において、 1個または数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列 を有するペプチドである、 [9]の電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤。
[0028] [11] [1]から [10]のいずれかの電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤を有効成分とし て含むランゲルノヽンス島細胞におけるインスリン分泌促進剤。
[0029] [12] [1]から [10]のいずれかの電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤を有効成分とし て含む糖尿病治療薬。
[0030] [13] 投与被験体に低血糖障害を起こさない [12]の糖尿病治療薬。
[0031] [14] in vitroで、ランゲルノ、ンス島細胞に候補 Cdk5阻害剤である被験物質を作用さ せ、細胞内への Ca2+の流入または細胞からのインスリン分泌の増加を指標に糖尿病 治療薬をスクリーニングする方法。
[0032] [15] ランゲルノヽンス島細胞力 脾臓 j8細胞由来の培養細胞である [14]の方法。
[0033] [16] in vivoで、非ヒト動物に候補 Cdk5阻害剤である被験物質を投与し、高血糖時 における脾臓 β細胞におけるインスリン分泌の増加または動物の血糖値の低下を指 標に糖尿病治療薬をスクリーニングする方法。
発明の効果
[0034] 本発明による、 Cdk5阻害剤を有効成分とする電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤 、インスリン分泌阻害剤および糖尿病治療剤は、その電位依存性 L型 Ca2+チャネルを 制御するメカニズムから、高血糖時にインスリン分泌を促進し、低血糖時にはインスリ ン分泌を促進しない、従って、副作用が少なぐ)8細胞が全て消失していない限りほ とんどの型の糖尿病に対して有効であり、高血糖を改善させる。
[0035] 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2004-329165号の明細書 および Zまたは図面に記載される内容を包含する。
図面の簡単な説明
[0036] [図 1]単離ランゲルノヽンス島を低糖濃度刺激する時のインスリン分泌量に対するォロ モーシンの効果を示した図である。
[図 2]単離ランゲルノヽンス島を高糖濃度刺激する時のインスリン分泌量に対するォロ
モーシンの効果を示した図である。図中の *は P〈0.05を示す。
[図 3]MIN6細胞を高糖濃度刺激する時のインスリン分泌量に対するロスコビチンおよ びォロモーシンの効果を示した図である。
[図 4]ォロモーシンとイソォロモーシンのインスリン分泌量に対する効果を示した図で ある。
[図 5]低糖濃度時においてォロモーシンとダリベンダラミドとの効果を比較した図であ る。
[図 6a]ラット組織と MIN6細胞中の Cdk5活性の比較を示す図である。
[図 6b]ラット脾臓ランゲルハンス島および MIN6細胞中の p35 mRNAの相対的発現を 示す図である。
[図 6c]MIN6細胞におけるインスリン分泌に対するォロモーシンの効果を示す図であ る。
[図 6d]インスリン分泌に対するイソォロモーシンの効果を示す図である。
[図 6e]低グルコース(2.8mM)を含む KRB中でダリベンクラミド誘発インスリン分泌に対 するォロモーシンの効果を示す図である。
[図 6f]高グルコース(17.6mM)を含む KRB中でダリベンクラミド誘発インスリン分泌に対 するォロモーシンの効果を示す図である。
[図 6g]ジァゾキシドによるォロモーシン誘発インスリン分泌の阻害を示す図である。
[図 6h]フオルスコリン刺激インスリン分泌に対するォロモーシンの効果を示す図である
[図 7a-l]グルコースで刺激した場合の MIN6細胞中の Ca2+動態に対するォロモーシン の効果を Ca2+濃度変化により示す図である。
[図 7a-2]ダルコースで刺激した場合の MIN6細胞中の Ca2+動態に対するォロモーシン の効果を最大 Ca2+流入により示す図である。
[図 7b-l]ダリベンクラミドで刺激した場合の MIN6細胞中の Ca2+動態に対するォロモー シンの効果を Ca2+濃度変化により示す図である。
[図 7b-2]ダリベンクラミドで刺激した場合の MIN6細胞中の Ca2+動態に対するォロモー シンの効果を最大 Ca2+流入により示す図である。
[図 7c]MIN6細胞における VDCCを通しての全体の細胞 Ba 電流の電流-電圧の関係 を示す図である。
[図 7d]野生型マウス (黒丸)または p35 KOマウス (白丸)から単離された 1個の β細胞 中の全体の細胞 Ba2+電流を示す図である。
[図 8a]loop ドメインの保存ドメインを下線(一重および二重)で示した図であり、二重
II-III
下線部は、 Cdk5によってリン酸ィ匕されると思われるモチーフを示す。
[図 8b]Ca 1.2 (754a.a.-900a.a.)由来 loop との GSTコンジュゲートまたはセリン 783の
V II- III
ァラニンへの変異を含む loop のリン酸化を示す図である。
II-III
[図 8c]loop のリン酸ィ匕をリン酸セリン 783に対する特異的抗体を用いてウェスタンブ
II-III
ロットで測定した結果を示す図である。
[図 8d]ォロモーシンで処理されたまたはされて!ヽな 、MIN6細胞の溶解物の免疫沈 降の結果を示す図である。
[図 8e]リン酸化した GST-loop をシナタキシン (synataxin)lAまたは SNAP-25と共に
II-III
インキュベートした後に、結合したタンパク質をウェスタンプロットにより検出した結果 を示す図である。
[図 8f]シンタキシンおよび SNAP-25との相互作用に対する loop ドメインのリン酸化の
II-III
効果を示す図である。
[図 9a]単離したランゲルノヽンス島におけるグルコースで刺激されたインスリン分泌を 示す図である。
[図 9b]野生型マウス(黒丸)および ρ35— Λマウス(白丸)の血漿中インスリンレべノレを示 す図である。
[図 9c]野生型マウス(黒丸)および ρ35 KOマウス(白丸)における腹腔内グルコースチ ャレンジに反応しての血漿グルコースの変化を示す図である。
[図 10]電位依存性 L型 Ca2+チャネルの構造を示す図である。
[図 11]インスリン分泌のメカニズムを示す図である。
[図 12]Cdk5により VDCC-SNARE相互作用が制御されてインスリン分泌が調節される メカニズムを示す図である。
[図 13]糖尿病モデルマウスにロスコビチンを投与した場合の血糖値の変化を示す図
である。
[図 14]糖尿病モデルマウスにロスコビチンを投与した場合の体重変化を示す図であ る。
発明を実施するための最良の形態
[0037] 以下、本発明を詳細に説明する。
[0038] 本発明に使用する Cdk5阻害剤としては、 ATP拮抗型 Cdk5阻害剤やプリン誘導体 C dk5阻害剤が挙げられる。また、ペプチド性の Cdk5阻害剤も好適に用いることができ る。 ATP拮抗阻害剤は、 ATPと拮抗することにより Cdk5の活性を阻害する化合物であ り、プリン誘導体はプリンおよびプリン核の種々の部分が置換された誘導体である。 A TP拮抗阻害剤およびプリン誘導体 Cdk5阻害剤として以下のォロモーシン、ロスコビ チン、パーバラノール Aが例示できる。
[0039] 例えば、プリン誘導体 Cdk5阻害剤として下記式 (I)または (Π)で示される化合物を 用!/、ることができる。
[化 4]
[式中、 Rは NY Yであり、 Yおよび Yは各々独立に Hまたは C アルキルまたは C ヒ
1 1 2 1 2 1-4 1-4 ドロキシアルキルであり、 Rは Hまたは C アルキルであり、 Wは NHまたは 0である。 ]
2 1-4
式(I)において、 Rは NHまたは NCH CH OHが好ましぐ Rは CHまたは CH(CH )C
1 2 2 2 2 2 3
Hが好ましぐ Wは NHが好ましい。
2 5
[化 5]
[0041] [式中、 Rは NZ Zであり、 Zおよび Zは各々独立に Hまたは C アルキルまたは C ヒ
3 1 2 1 2 1-4 1-4 ドロキシアルキルであり、 Rは Hまたは C アルキルであり、 Rは Hまたは C アルキル
4 1-4 5 1-4 であり、 Rはハロゲンであり、 Xは NHまたは 0である。 ]
6
式(II)において、 Rは NHまたは NCH CH CH(CH )OHが好ましぐ Rは CHが好ま
3 2 2 2 3 4 2 しぐ Rは Hまたは CH(CH )が好ましぐ Rは C1が好ましぐ Xは NH力 子ましい。
5 3 2 6
[0042] 式 (I)で示される化合物の具体例として、例えば、ォロモーシン、ロスコビチンおよ びそれらの類似体などがあげられ、(Π)で示される化合物の具体例として、例えば、 パーバラノール A、パーバラノール B、 compound52およびそれらの類似体などがあげ られる。ォロモーシン、ロスコビチンおよびパーバラノール Aの化学式をそれぞれ以 下の式(III)、 (IV)および (V)に示す。
[化 6]
[0043] ここで、「類似体」とは、 Cdk5阻害作用を有する化合物と類似した構造を有し、 Cdk5 の酵素活性を阻害し、それぞれ該化合物と同様の作用を有するものをいう。類似した 構造とは、例えば、 Cdk5阻害作用を発揮する部位の構造は変化しないが、該部位の 構造に影響を与えない基を他の基、例えば大きさが大きく異ならない基で置換した 構造をいう。
[0044] 本発明にお 、て、上記 Cdk5阻害作用を有する化合物のプロドラッグも包含する。プ ロドラッグとは、該プロドラッグを投与した生体内で加水分解等により本発明の Cdk5 阻害剤に変換し得る化合物をいう。また、上記化合物の薬学的に許容できる塩も本 発明の Cdk5阻害剤に含められる。
[0045] また、さらに本発明の Cdk5阻害剤として、ペプチド性の Cdk5阻害剤を用いることが できる。ペプチド性の Cdk5阻害剤として、 Cdk5に結合するペプチドが挙げられ、例え ば、サイクリン依存性キナーゼァクチベータ一タンパク質のペプチド断片が挙げられ る。これらのペプチド性 Cdk5阻害剤は、例えば、酵母 two-hybrid法により Cdk5に結合
するペプチドをスクリーニングすることにより得ることができる。本発明の Cdk5阻害剤と して、 p35 (CDK5Rl)由来のペプチド断片(例えば、 Ya- Li Zheng et al. Eur.J.Bioche m. 26, 4427-4434 (2002)に記載されている)または p39 (CDK5R2)由来のペプチド断 片が挙げられる。 p35の全長アミノ酸配列を配列番号 1に、 p39の全長アミノ酸配列を 配列番号 2に示す。これらの全長アミノ酸配列力 なるペプチドの Cdk5に結合するが 、 Cdk5を活性ィ匕しないペプチド断片を Cdk5阻害剤として用いることができる。 p35の 活性を有する最小ペプチドは、配列番号 1のアミノ酸配列の第 138番目の Proから第 2 91番目の Asnからなるアミノ酸配列を有するペプチド (pl6)であり、 Cdk5阻害剤として、 例えば該ペプチド (pl6)のアミノ酸配列において 1個から数十個のアミノ酸を欠失、置 換したものが挙げられる。一例として、第 138番目の Proから第 291番目の Asnからなる アミノ酸配列を有するペプチド (pl6)において、 N末端の 11アミノ酸および C末端の 4ァ ミノ酸を欠失した配列番号 1のアミノ酸配列の第 150番目の Gluから第 287番目の Serか らなるアミノ酸配列を有するペプチドが挙げられる。さらに、配列番号 1のアミノ酸配列 のうちの第 154番目の Cysから第 279番目の Proまでのアミノ酸配列を有するペプチド 等も好適に用いることができる。
[0046] さらに、 Cdk5阻害作用を有するペプチドのアミノ酸配列において、 1個または数個 のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列を有するペプチドもペプチド性 Cdk5阻害剤として用いることができる。ここで、「数個」とは、 10個以下、好ましくは 5個 以下、さらに好ましくは 3個以下、特に好ましくは 2個以下をいう。ペプチド性の Cdk阻 害剤は、生体適合性が高ぐ副作用が生じにくい。
[0047] 候補ィ匕合物または候補ペプチドが Cdk5阻害作用を有する力否か、および候補ィ匕 合物または候補ペプチドの Cdk5に対する IC は、以下の方法により決定することがで
50
きる。
[0048] 候補ィ匕合物または候補ペプチドにトレーサーとして放射性同位体であるガンマ32 P- ATPを用いて、 Cdk5およびその活性化サブユニットである p35または p25 (p35の限定 分解産物)を含有する溶液に基質となるヒストン HIを添加する。異なる濃度の Cdk5阻 害剤存在下におけるヒストン HIのガンマ32 Pの取り込みを測定することにより Cdk5の IC を決定することができる。
[0049] 本発明によれば、 Cdk5阻害剤は B細胞に存在する Cdk5に作用し、 Cdk5の酵素活 性を阻害する。インスリンは、グルコースが脾臓ランゲルノヽンス島細胞に取り込まれ、 ATPが合成され、 ATPが増加すると、該 ATPが細胞膜に作用し、 K+チャネルを閉鎖し 、脱分極が起こり、脱分極により、電位依存性 L型 Ca2+チャネルが開口し、細胞外から Ca2+が流入することにより、分泌される。この際、細胞膜の脱分極により電位依存性 L 型 Ca2+チャネルが開口すると、電位依存性 L型 Ca2+チャネルの loop 〖こ SNAREタンパ
II- III
ク質 (SNAP25、シンタキシンなど)が結合し、 Ca2+が流入し易くなりインスリンが分泌さ れる。 loop とは電位依存性 L型 Ca2+チャネルにおいて、ドメイン IIおよび IIIの間の細
II-III
胞内に形成されるループ構造部分をいう(図 10) Cdk5は、 Loop のアミノ酸配列 783
II-III
番目のセリンをリン酸ィ匕し、 SNAREタンパク質の結合を阻害することにより、 Ca2+の流 入を妨げ、インスリンの分泌を抑制する(図 11)。本発明の Cdk5阻害剤は、 Cdk5阻害 剤が上記セリンをリン酸ィ匕するのを阻害し、電位依存性 L型 Ca2+チャネルを制御し、 電位依存性 L型 Ca2+チャネルを通っての Ca2+の流入を促進することにより、インスリン の分泌を促進する(図 12)。 β細胞の脱分極は上記のようにグルコースの刺激により 起こるので、低血糖時には、細胞膜の脱分極が起こらず電位依存性 L型 Ca2+チヤネ ルは開口しないので、 Cdk5の阻害の有無に拘わらず影響はない。一方、高血糖時 には、脱分極が起こって電位依存性 L型 Ca2+チャネルが開口し、このとき Cdk5を阻害 することにより、上記のようにリン酸ィ匕を阻害することによってインスリンの分、泌、を促進 する。このように、本発明で用いる阻害剤は、高血糖時のみに電位依存性 L型 Ca2+チ ャネルを制御し、インスリンの分泌を促進する。従って、本発明で用いる Cdk5阻害剤 は、低血糖時にインスリンの分泌を促進することなぐ高血糖時のみにインスリンの分 泌を促進するので、低血糖障害を起こすことがない。ここで、低血糖とは、血糖レべ ルが正常値以下または正常値付近以下の場合をいい、血中グルコース濃度が、 100 mg/dL以下、好ましくは 90mg/dL以下、さらに好ましくは 80mg/dL以下、特に好ましく は 70mg/dL以下の場合を 、う。
[0050] 糖尿病はインスリン依存型とインスリン非依存型に分けられる。インスリン依存型は 若年に発症し、脾臓ランゲルノヽンス島 j8細胞の病変によりインスリンの絶対的欠如に よって起こる。インスリン非依存型は肥満や遺伝子の変異などにより、体細胞のインス
リンに対する応答性が悪ィ匕したり、インスリンの分泌が低下するなどして起こる。 Cdk5 阻害剤は、 j8細胞に作用してインスリンの分泌を促進することができるため、 j8細胞 がすべて消失して 、な 、かぎりすベての型の糖尿病にお 、て大きな治療効果が期 待できる。
[0051] 本発明の治療薬の投与経路としては、経皮、静脈内、筋肉内、皮下、経口があげら れる。高血糖時にすみやかに作用できるように食前の経口投与が好ましい。また、脾 臓に局所投与してもよい。脾臓局所投与は、脾臓またはその近傍へ本発明の薬剤を 直接注入すればよい。例えば、脾臓治療に使用される内視鏡に中空の針を設ける等 の修飾を加えて、脾臓組織中に薬剤を直接注入できるようにすればよい。また、経皮 針を脾臓組織への経腹注入に用いることができる。
[0052] 治療剤の剤形は、投与方法によって適宜設定することができる。具体的には、たと えば、水溶液、乳剤、懸濁液などの液剤、または錠剤などがあげられる。通常は、経 口投与が好ま 、ため、水溶液または錠剤が好ま 、。
[0053] 投与量は、投与方法、適用する患者の年齢、体重、病状などによって適宜設定す ることができるが、 Cdk5阻害剤がプリン誘導体阻害剤である場合、有効成分に換算し て一回に 0.0003〜0.03mg/kg体重が好ましぐ 0.003mg/kg体重〜 0.015mg/kg体重が より好ましい。これ以上の量を投与してもよぐ例えば l〜1000mg/kg体重、 20〜500m g/kg体重または 50〜500mg/kg体重の範囲で投与すればよ!、。 0.0003mg/kg体重より 少ないと糖尿病治療薬としての効果が得られなくなる恐れがある。また、 Cdk5阻害剤 がペプチド性阻害剤である場合、有効成分に換算して一回に 0.005〜5mg/kg体重が 好ましく、 0.005〜: Lmg/kg体重がより好まし!/、。
[0054] 本発明の治療剤としての製剤化には、その剤形に合わせて通常当業者により使用 される様々な添加物を使用することができる。たとえば、希釈剤、等張化剤、担体、 p H安定剤などがあげられる。
[0055] 投与方法の具体例としては、点滴静注する場合、一回につき有効成分 0.003〜0.01 5mg/kg体重で投与すればよぐさらにこれ以上の量を投与してもよぐ例えば 1〜100 Omg/kg体重、 20〜500mg/kg体重または 50〜500mg/kg体重の範囲で投与すればよ V、。ペプチド性 Cdk5阻害剤の場合は 0.005〜5mg/kg体重を生理食塩水等に溶解し
て 10〜50 Mとし投与することができる。筋肉注射の場合、一回につき有効成分 0.00 3〜0.015mg/kg体重、ペプチド性 Cdk5阻害剤の場合は 0.005〜5mg/kg体重を生理 食塩水等に溶解して投与することができる。投与は一日三回、食前に行われることが 好ましい。
[0056] 本発明の Cdk5阻害剤の血糖降下作用は、単離したランゲルノヽンス島、脾臓 β細胞 由来の培養細胞における糖負荷に対するインスリンの分泌量を測定することにより評 価することができる。また、非ヒト動物に投与した場合のインスリン分泌量または血糖 の低下の程度を測定することによつても評価することができる。該測定方法を用いる ことにより、本発明の電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤の有効成分として用い得る Cdk5阻害剤をスクリーニングすることができる。すなわち、 in vitroで単離したランゲル ハンス島、単離した脾臓 j8細胞またはインスリン分泌能を有するラット MIN6細胞など の脾臓 β細胞由来の培養細胞に候補 Cdk阻害剤である被験物質を作用させ、細胞 の電位依存性 L型 Ca2+チャネルが制御され、 Ca2+の細胞内への流入が促進されたこと 、または細胞力 のインスリンの分泌が促進されたことを指標に被験物質が本発明の 電位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤の有効成分として用い得るかどうかを決定するこ とができる。この際、ランゲルノヽンス島、脾臓 β細胞および脾臓 β細胞由来の培養細 胞の由来動物は限定されず、ヒト、マウス、ラット等由来のランゲルノ、ンス島細胞を用 いることができる。また、被験物質を非ヒト動物、好ましくは血糖値の高い糖尿病モデ ルマウスに投与し、該動物において脾臓 |8細胞力ものインスリン分泌量が増加したこ と、または該動物の血糖値が低下したことを指標に、被験物質が物質が本発明の電 位依存性 L型 Ca2+チャネル制御剤の有効成分として用い得るかどうかを決定すること ができる。特に高血糖時にインスリン分泌量を増加させ血糖値を低下させるが、低血 糖時にはインスリン分泌量を増カロさせず血糖値を低下させないことを指標に決定す ればよい。この際、非ヒト動物は限定されないが、マウス、ラット等を用いることができ る。
実施例
[0057] 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に よって限定されるものではない。
[0058] 実施例 1
低糖濃度時におけるォロモーシンの作用
(1)ランゲルハンス島の調製
後藤らの文献(Transplantaion、第 43卷、 725〜730頁、 1987年)に従い、 6週齢のォ スのウィスターラットよりランゲルノヽンス島を単離した。ラットをエーテル麻酔下で開胸 し、總胆管を剥離してコラゲナーゼ溶液 (320U/ml、シグマ社製)をゆっくり注入し、膨 らんだ脾臓を摘出した。コラゲナーゼを含んだ脾臓を 37°Cのウォーターバスにて 30 分間消化したのち、ピペットで分散し、 Ficoll溶液 (Amersham Pharmacia社製)の濃度 勾配を用いてランゲルノヽンス島を単離した。ランゲルハンス島を、 95 %0および 5%
2
COの混合ガスで飽和させたリンガー液(119mM塩化ナトリウム、 4.74mM塩化力リウ
2
ム、 1.19mMリン酸二水素一ナトリウム、 25mM炭酸水素ナトリウム、 10mM HEPES, 2. 54mM塩化カルシウム、 1.19mM塩化マグネシウム、 0.2% BSA)中に 37°Cに保ちな がら 30分インキュベーションした。
[0059] (2)ォロモーシンの作用
前記ランゲルノヽンス島を実体顕微鏡 (ォリンパス光学工業 (株)製)下で 15個を一組 としてピックアップし、図 1に示した各濃度のォロモーシン (シグマ社製)を含むリンガ 一液(3.3mMグルコース) 0.5mlに入れ 30分間インキュベーションしたのち、同じ糖濃 度およびォロモーシン濃度のリンガー液 0.5mlを刺激液として入れ替えた。入れ替え 力も 30分後の刺激液中に含まれるインスリンをインスリン検出キット (Abビーズインスリ ン、栄研ィ匕学 (株)製)を用いて、該キットのプロトコールにしたがって検出した。各濃 度群につき n= 6で試験を行なった。
[0060] 図 1に示したように、 3.3mMグルコース下でのインスリン濃度はォロモーシンの存在 に関わらずほぼ同程度であった。すなわち、低糖濃度時においてォロモーシンはラ ンゲルノヽンス島のインスリン分泌にまったく影響を及ぼさな力つた。これは、ォロモー シンは低血糖時に服用しても、より低血糖になり重大な副作用を引き起こすことがま つたくな 、と 、うことを示す。
[0061] 実施例 2
高糖濃度時におけるォロモーシンの作用
実施例 1の(1)と同様にして調製したランゲルノヽンス島を、実体顕微鏡 (ォリンパス 光学工業 (株)製)下で 15個を一組としてピックアップし、図 2に示した各濃度のォロモ 一シンを含むリンガー液(3.3mMグルコース) 0.5mlに入れ 30分間インキュベーションし たのち、同じ濃度のォロモーシン (シグマ社製)を含む高糖濃度リンガー液(17.3mM グルコース) 0.5mlを刺激液として入れ替えた。入れ替えから 30分後の刺激液中に含 まれるインスリンをインスリン検出キット (Abビーズインスリン、栄研化学 (株)製)を用い て、該キットのプロトコールにしたがって検出した。各濃度群につき n= 6で試験を行 なった。
[0062] 図 2に示したように、ォロモーシン存在下でのインスリン分泌量は、ォロモーシン非 存在下と比べて有意に上昇した。またインスリン分泌量はォロモーシンの濃度の高さ に依存して増加した。これは、ォロモーシンの濃度を調節することにより異なる症状の 糖尿病に対応できることを示す。
[0063] 実施例 3
ロスコビチンのインスリン分泌促進作用
( 1)インスリン分泌細胞 MIN6の培養
インスリン分泌能を有する MIN6細胞 (千葉県千葉巿稲毛区弥生町 1 33、千葉大 学大学院医学研究院先端応用医学講座細胞分子医学の清野進教授より提供)を前 らのカ法 (American Journal of Physiological Endocnnal MetaDolism、 2000年、第 274 卷、 773〜781頁)に従って培養した。 5 X 105個の細胞を DMEM培地(GIBCO社製)に 懸濁し、直径 35ミリのカルチャーディッシュ (コ一-ング社製)に撒き 5%CO濃度のィ
2 ンキュベータ一(サンヨウ社製)の中で 2日間培養した。
[0064] (2)ロスコビチンの作用
(1)で培養した MIN6細胞の培養液を、予め 20 μ Μのロスコビチン(ガルバイオケム( Calbiochem)社製)を含む低糖濃度のリンガー液(3.3mMグルコース) 0.5mlおよび 20 μ Μのォロモーシン(シグマ社製)を含む低糖濃度のリンガー液(3.3mMグルコース) 0 .5mlでそれぞれ入れ替え、 30分インキュベーションしたのち、同じ濃度のロスコビチン を含む高糖濃度のリンガー液(17.6mMグルコース) 0.5mlおよび同じ濃度のォロモー シンを含む高糖濃度のリンガー液(17.6mMグルコース) 0.5mlをそれぞれ刺激液とし
て入れ替えた(それぞれ、 n=6)。対照としてはロスコビチンおよびォロモーシンのい ずれも含有しないリンガー液を用いた (n= 6)。 2時間培養したのち、培地中に含まれ るインスリンをインスリン検出キット (Abビーズインスリン、栄研ィ匕学 (株)製)を用いて、 該キットのプロトコールに従って検出した。
[0065] 図 3に示したように、ロスコビチン存在下では MIN6細胞のインスリン分泌が促進され た。このことは、ロスコビチンは同じ Cdk5阻害剤であるォロモーシンと同様にインスリ ン分泌を促す作用を有することを意味するものである。
[0066] 試験例 1
実施例 1の(1)と同様にして調製したランゲルノヽンス島を、実体顕微鏡 (ォリンパス 光学工業 (株)製)下で 15個を一組としてピックアップし、 10 μ Μのォロモーシンまたは 10 μ Μのイソォロモーシン(ガルバイオケム社製)を含むリンガー液(3.3mMダルコ一 ス) 0.5mlに入れ 30分間インキュベーションしたのち、同じ濃度のォロモーシン(シグマ 社製)またはイソォロモーシン (ガルバイオケム社製)を含む低糖濃度リンガー液 (3.3 mMグルコース) 0.5mlを刺激液として入れ替えた (それぞれ、 n=6)。対照としては、 ォロモーシンおよびイソォロモーシンのどちらも含まな 、リンガー液を用いた(n = 6) 。入れ替えカゝら 30分後の刺激液中に含まれるインスリンをインスリン検出キット (Abビ ーズインスリン、栄研ィ匕学 (株)製)を用いて、該キットのプロトコールにしたがって検出 した。
[0067] ォロモーシンと類似した構造を持ちながらも Cdk5阻害効果のな 、異性体であるイソ ォロモーシンを用いて、インスリン分泌促進効果はォロモーシンの作用によるもので あること確認した。結果を図 4に示す。イソォロモーシンの構造は以下の式 (VI)の通り である。
[化 9]
[0068] ォロモーシン(10 μ Μ)存在下で高糖濃度のリンガー液はインスリン分泌を有意に促 進したが、ォロモーシンの異性体であるイソォロモーシン(10 μ Μ)はまったくインスリ ンの分泌を促進しなかった。これは、ォロモーシンの Cdk5阻害効果がインスリンの分 泌を促進して 、ることを意味するものである。
[0069] 試験例 2
実施例 1の(1)と同様にして調製したランゲルノヽンス島を、実体顕微鏡 (ォリンパス 光学工業 (株)製)下で 15個を一組としてピックアップし、それぞれ対照 (n= 6)、試料 A (n= 6)、試料 B (n= 6)、試料 C (n= 6)とした。対照および試料 Aは、リンガー液( 3.3mMグルコース) 0.5mlに入れ、試料 Bおよび試料 Cは、 10 Mのォロモーシンを含 むリンガー液 0.5mlに入れ 30分問インキュベーションしたのち、対照はォロモーシンも ダリベンクラミドも含まな 、低糖濃度リンガー液 (3.3mMグルコース) 0.5mlを用い、試 料 Aは 200nMのダリベンクラミドを含有する低糖濃度リンガー液 (3.3mMグルコース) 0. 5ml、試料 Bは 10 μ Μのォロモーシンを含有する低糖濃度リンガー液(3.3mMダルコ ース) 0.5ml、試料 Cは 200nMのグリベンクラミドと 10 μ Μのォロモーシンとを含有する 低糖濃度リンガー液 (3.3mMグルコース) 0.5mlを刺激剤として入れ替えた。入れ替え 力も 30分後の刺激液中に含まれるインスリンをインスリン検出キット (Abビーズインスリ ン、栄研ィ匕学 (株)製)を用いて、該キットのプロトコールに従って検出した。さらに、ラ ンゲルノヽンス島を超音波処理することにより細胞を破壊し、ランゲルノヽンス島内のィ ンスリン含有量を前記と同様にインスリン検出キット (Abビーズインスリン、栄研化学( 株)製)を用いて、該キットのプロトコールに従つて検出した。
[0070] 低糖濃度時にお!、てォ口モーシンと糖尿病治療薬として使用されて 、るスルホ-ル 尿素類であるダリベンクラミドとの効果を、ランゲルハンス島内のインスリン含有量に 対するインスリンの分泌割合により比較した。なお、インスリンの分泌割合は以下の式 により算出した。
式 1
[0071]
インスリンの分 ¾ «ϋ^·
インスリン分泌量 (mVJ \)
= X 1 0 0 (%)
ランケ'ルハンス島内のインスリン量 ( U/ml)
結果を図 5に示す。
[0072] ダリベンクラミドは、低濃度におけるランゲルノヽンス島のインスリン分泌を有意に上 昇させたが、ォロモーシンは、インスリン分泌に影響を及ぼさな力つた。これは、ォロ モーシンはスルホ-ル尿素類の治療薬と異なり、低血糖を引き起こすことがまったく なぐ高糖濃度時にのみインスリン分泌を促進することを意味するものである。
[0073] 実施例 4
サイクリン依存性キナーゼ 5阻害剤によるインスリン分泌促進の分子的機構
本実施例は、以下の方法により実施した。
[0074] 細胞培養と Ca2+イメージング
MIN6細胞は、 15%ゥシ胎児血清、 25mMグルコース、 71mM 2-メルカプトエタノール および 2mMグルタミンを含む DMEM中で培養した(Lilla, V. et al. Endocrinology 144, 1368-1379 (2003); Minami, K. et al. Am. J. Physiol. Endocrinol. Metab. 279, 773—7 81 (2000))。細胞(1 X 106細胞)を、 35mmのガラス底ディッシュ(IWAKI、東京、 日本) 上に播き、 48時間増殖させた。 Ca2+イメージングのために、細胞は 2.8mMグルコース を含むクレプス-リンゲル重炭酸塩 HEPES改変緩衝液(KRB;125mM NaCl、 4.74mM KC1、 ImM CaCl、 1.2mM KH PO、 5mM NaHCO、 25mM HEPES (pH7.4)、および 0.
2 2 4 3
1%BSA)中で 37°Cで 2時間プレインキュペートした。 50 μ Μのォロモーシン(Sigma)の 存在下で 30分間 5 μ Μの fora- 2/ァセトキシメチルエステル(Molecular Probe)を負荷 し、細胞を 2度洗浄し、 17.6mMグルコースまたは 100nMグリベンクラミドを含む KRBで 置換した。細胞内の Ca2+は、 Axiovert 200倒立顕微鏡(Carl Zeiss Microimaging)を用 V、て二重励起波長方法 (340/380)で測定した。
[0075] 電気生理学的分析
脾臓ランゲルノヽンス島は、コラゲナーゼ消化法によって単離した (Wollheim, CB. et
al. Methods Enzymol. 192, 188-223.(1990))。分散したランゲルハンス島細胞は 35m mディッシュ中の Cellocate Coverslips (Eppendorf)上で 10%のゥシ胎児血清を補足し た DMEMで培養した。細胞は、実験の前に、 24〜72時間、 37°Cでインキュベートした 。脾臓 j8細胞の 1個の細胞全体の記録は、公知の方法により行った(Beguin, P. et al . Nature 411, 701-706 (2001))。実験後、脾臓 j8細胞を、抗インスリン抗体を用いた 免疫染色によって識別した。
[0076] インスリン分泌の測定
MIN6細胞(0.4 X 106)を、使用前に 24ゥエルディッシュ(IWAKI)上に播 、て 48時間 置いた。次いで、細胞を 2.8mMグルコースを含む KRBを用いて 2時間インキュベートし 、ォロモーシンを含むかまたは含まない KRBを用いて 30分間インキュベートした。次 に、細胞を 1時間ォロモーシンの存在または非存在下で種々の分泌促進剤で刺激し た。インスリン濃度は、製造業者のプロトコルに従い、ラジオィムノアッセィ (栄研ィ匕学 )を使用して測定した。
[0077] p35欠損マウスの作製
P35ノックアウトマウスを作製し、 129/Sv X C57BL/6Jバックグラウンドで維持した(Oh shima, T. et al Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 98, 2764—2769 (2001); Ohshima, T. et al. Genomics 35, 372—375 (1996))。
[0078] 腹腔内グルコース負荷試験
終夜絶食後、腹腔内グルコース投与(2g/Kg)の 15、 30、 60および 120分後にマウス 力 血液を採取した。グルコース濃度を glucometer (NIPRO)を用いて測定し、インスリ ンレべノレをェンザィムィムノアッセィ (Pharmacia Biosciences)を用いて測定した。
[0079] Loop のリン酸ィ匕
II-III
VDCCのヒト a 1Cサブユニットの Loop をコードするリコンビナント cDNAを、 pGEX6
II-III
P (Amersham Bioscience)中にサブクローユングした。セリン 783のァラニンへの変異 は、製造業者 (Stratagene)の指示に従って実行した。精製されたリコンビナントタンパ ク質は、公知の方法により in vitroで Cdk5/p35 (Upstate)によってリン酸化した(Tomiz awa, K. et al. J. Cell. Biol. 163, 813—824 (2003))。細胞における Cdk5による loop
II-III のリン酸ィ匕を測定するために、 MIN6細胞を 30分間ォロモーシンで処理し、溶解バッ
ファー(50mMトリス— HC1、 pH 7.5、 5mM MgCl、 ImM EGTA、 ImM EDTA、 1%CHAPS
2
、 1 μ M FK506, ΙΟΟηΜオカダ酸、プロテアーゼ阻害剤カクテル)を用いてホモジナイ ズした。 α 1Cサブユニットを、抗 α 1Cサブユニット抗体(Sigma、 C1603)を用いて、細 胞可溶化物から免疫沈降した。 Ser783部位においてリン酸ィ匕された a 1Cサブュ-ッ トの発現は、 CLARTApSPEKKペプチドを注射したゥサギの血清力 得たリン酸化特 異的抗体を用いて測定した。サブユニットの総量を、抗 a 1Cサブユニット抗体 (Chem icon)を用いてウェスタンブロット分析によって検出した。
[0080] 相対的遺伝子発現
p35mRNAの定量分析は、製造業者の指示に従って ABI PRISM 7000 Sequence De tection System (Applied Biosystems)を用いて行った。簡潔に説明すると、トータル R NAを、 RNeasyキット(Qiagen)を用いて、ラット脳、脾臓ランゲルハンス島および MIN6 細胞から単離した。トータル RNAを、オリゴ dTプライマー(Invitrogen)を用いた第 1鎖 c DNA合成に供した。 p35mRNAの相対的定量は、 p35のための特異的なプライマー( センス、 GCCCTTCCTGGTAGAGAGCTGTA (配列番号 3);アンチセンス、 CTGAC CGCTCTCATTCTTCAAGT (配列番号 4) )を用いて ABI Prism 7000配列検出システ ム(Applied Biosystems)で測定した。内部標準として、 FKBPの mRNAのコピー数を、 TaqMan FKBP Control Reagents (Applied Biosystems)を用いて測定した。 p35mRNA の cDNAコピー数は、同じサンプルボリュームの FKBPの結果に対して標準化した。定 量分析は、分析ソフトウェア(7000vl . l (Applied Biosystems)を用いて行った。
[0081] 統計解析
データは、平均値(士 S.E.M.)として示される。データは、 2条件を比較する Student ' s t検定または ANOVAにより分析し、他条件の比較を計画した。 Pく 0.05は、有意であ るとした。
[0082] この結果、以下のことが判明した。
[0083] 本実施例により、脾臓 β細胞および β細胞由来細胞株である ΜΙΝ6細胞における 高レベルの Cdk5活性および ρ35発現が見出された(図 6aおよび 6b)。
[0084] 脾臓 β細胞での Cdk5の生理的役割を調査するために、 MIN6細胞を最初にォロモ 一シン(膜透過性 Cdk5インヒビター)で処理した (Vesely, J. et al. Eur. J. Biochem. 22
4, 771-786 (1994)) o 30分間、種々の濃度のォロモーシンを用いて細胞をプレインキ ュペートした後に、細胞を 16.7mMのグルコースで 1時間刺激し、培地中へのインスリ ン分泌を測定した。興味深いことに、ォロモーシンは用量依存的に高グルコース刺激 インスリン分泌を促進した。一方、低グルコース条件下では、ォロモーシンによる Cdk 5の阻害はインスリン分泌を促進しなかった(図 6c)。さらに、イソォロモーシン(ォロモ 一シンの構造異性体)は、インスリン分泌に影響を及ぼさな力つた(図 6d)。 Cdk5阻害 によるインスリン分泌の誘導は、また、ロスコビチン (別の、周知の Cdk5インヒビター) を用いても確認された (データなし)。
[0085] K+ATPチャネル遮断薬であって、糖尿病の治療に広く使われているダリベンクラミド は、膜脱分極を直接誘発し、次いで高グルコース刺激なしにインスリン分泌を誘起す ることができる(図 6e、対照、 42.5 ± 2.9;グリベンクラミド 116.3 ± 1.0 g/h)。ォロモー シンは、ダリベンクラミドによって誘発されたインスリン分泌を劇的に促進した(図 6e、 グリベンクラミド +ォロモーシン、 278.8 ±28.7 g/h)。ォロモーシンのこの相加作用は 、高グルコース状態でも観察された(図 6f、ダリベンクラミド、 412.5±35.7;ダリベンクラ ミド +ォロモーシン、 636.3 ±35.9 g/h)。高グルコースによって刺激されるインスリン 分泌のォロモーシン依存性促進は、ジァゾキシド (K+ATPチャネル開口剤)によって、 完全に抑制された(図 6g)。インスリン分泌は、 K+ATPチャネルに依存する経路とサイ クリック AMPが重要なメディエーターである K+ATPチャネル非依存的経路の二つの異 なる経路によって主に刺激される(Renstrom, E. et al. J. Physiol. 502, 105-118 (199 7)) 0 Cdk5がサイクリック AMP依存性インスリン分泌を調節するかどうかを、次に調べ た。フオルスコリンは、高グルコース刺激なしで MIN6細胞におけるインスリン分泌を誘 発し、ォロモーシンはフオルスコリンによって誘発されたインスリン分泌に影響を及ぼ さなかった(図 6h、フオルスコリン、 122.7±9.3;フオルスコリン士ォロモーシン、 136.5 ±5.3、 P > 0.05)。これらの結果は、 Cdk5がグルコースに刺激されたインスリン分泌を K+ATPチャネルの下流で調節することを示唆し、 Cdk5阻害は高グルコースで刺激さ れたインスリン分泌を促進するが、低グルコース状態では促進しな ヽ。
[0086] 図 6は、 Cdk5阻害は、 MIN6細胞においてグルコースで刺激されたインスリン分泌を 促進することを示す。
[0087] 図 6aは、各々のラット組織と MIN6細胞中の Cdk5活性の比較を示す。 Cdk5は、抗 Cdk
5抗体(SantaCruz、 C8)を用いて、示された組織と MIN6細胞から免疫沈降した。キナ ーゼ活性は、基質としてヒストン HIを用いて測定した。
[0088] 図 6bは、ラット脾臓ランゲルハンス島および MIN6細胞中の p35 mRNAの相対的発 現を示す。 p35 mRNAの発現は、 FKBPに対して標準化し、相対的定量的 PCRを用い てラット脳での発現と比較した。
[0089] 図 6cは、 MIN6細胞におけるインスリン分泌に対するォロモーシンの効果を示す。
[0090] 細胞は、示された濃度のォロモーシンで 30分間処理され、ォロモーシンの存在下 で 2.8mMグルコース(白色バー)または 17.6mMグルコース(グレーバー)を含む KRB により 1時間刺激した。インスリン濃度は、 RIAで測定した。各々 n = 6で *Pく 0.01 (**
P < 0.001)である。
[0091] 図 6dは、インスリン分泌に対するイソォロモーシンの効果を示す。
[0092] MIN6細胞を、 20 μ Μォロモーシンまたは 20 μ Μのイソォロモーシンで処理した。ィ ンスリン分泌は、図 6cで示される方法と同一の方法で比較した。各々 n=5で、 *Pく 0.0
1である。
[0093] 図 6eおよび図 6fは、低グルコース(2.8mM (図 6e) )または高グルコース(17.6mM (図
6f) )を含む KRB中でダリベンクラミド誘発インスリン分泌に対するォロモーシンの効果 を示す。各々 n=5で、 *P < 0.01 (**P < 0.001)である。
[0094] 図 6gは、ジァゾキシドによるォロモーシン誘発インスリン分泌の阻害を示す。
[0095] 細胞は、 50 μ Μォロモーシンの存在または非存在下で 30分間処理し、インスリン分 泌を 100 μ Μジァゾキシドの存在下で 17.6mMグルコースによって刺激した。各々 n = 6 である。
[0096] 図 6hは、フオルコリン刺激インスリン分泌に対するォロモーシンの効果を示す。
[0097] 細胞を 50 μ Μォロモーシンで 30分間プレインキュペートし、 2.8mMグルコースを含む
KRB中の 10 μ Μフオノレスコリンによりインスリン分泌、を刺激した。各々 η = 6である。
[0098] 脾臓 β細胞での Κ+ΑΤΡチャネルの閉鎖の後、続 、て L-VDCCを通しての Ca2+流入 が起こる(Bratanova- Tochkova, TK. et al. Diabetes 51, S83- 90 (2002)) 0 Cdk5がグ ルコース刺激の後に Ca2+流入に影響する可能性がある。グルコースおよびダリべンク
ラミドによる刺激の後の MIN6細胞の中の Ca +の動態は、 Ca +イメージングを用いて調 ベられた。ォロモーシンは、グルコースおよびダリベンクラミドの非存在下では、 Ca2+ 流入に影響を及ぼさなかった(図 7a-l、 7a-2、 7b-lおよび 7b-2)。しかしながら、ォロ モーシン存在下ではグルコース(114.4±2.1%、図 7a- 1および 7a- 2)およびグリベンク ラミド(129±4.5%、図 7b-lおよび 7b-2)によって刺激される Ca2+流入が促進された。こ れらの結果は、 Cdk5阻害によるインスリン分泌の増加がォロモーシンによって増強さ れた Ca2+流入によることを示す。ォロモーシンが直接 L-VDCC活性に影響を及ぼした 力どうかを調査するために、 MIN6細胞において細胞全体の Ca2+電流に対する阻害剤 の影響を調べた。ォロモーシンによる Cdk5の阻害は、 - 40mVから +60mVのステップ- パルスによって誘導される内向き Ca2+電流を増強した(図 7c)。ォロモーシン処理した MIN6細胞で 10mVまでの脱分極によって誘導されるピーク Ca2+電流(-20.1 ± 1.59 A/ F)は、対照細胞 (-15.1 ± 1.67 A/F)よりかなり高かった。さらに、 Cdk5による Ca2+電流 の調節を確認するために、 Cdk5キナーゼ活性が非常に低い p35ノックアウトマウスか ら単離した β細胞の Ca2+電流を調べた(図 7d)。 p35欠損マウスの β細胞で 20mVまで の脱分極によって誘導される Ca2+電流は、野生型マウスに比較して増強された (p35 欠損、 - 18.9±2.16 A/F;野生型、 - 27.4±3.48 A/F)。これらの結果は、 Cdk5が脾臓 j8細胞における VDCCの調節に重要な役割を果たすことを示唆する。
[0099] 図 7は、 MIN6細胞中の Ca2+動員に対するォロモーシンの効果を示す。
[0100] 図 7a- 1、 7a- 2、 7b- 1および 7b- 2に示す検討において、細胞を、 50 μ Μのォロモー シンの存在または非存在下で 30分間 5 M Fura-2で負荷した。洗浄後、細胞を 17.6 mMのグルコース (7a- 1および 7a- 2)、または ΙΟΟηΜグリベンクラミド(7b- 1および 7b- 2) で刺激した。 Ca2+の濃度は 340/380nmの蛍光発光の比として示した。左のグラフは Ca 2+濃度変化の代表的な跡を示し、右のグラフは最大 Ca2+流入を示す。 20〜30の個々 の細胞力 のデータを実験毎に集め、全体の平均を算出し、 3〜4の実験毎に標準化 した。 *P < 0.01である。
[0101] 図 7cに示すように、 MIN6細胞における VDCCを通しての全体の細胞 Ba2+電流の電 流-電圧の関係が 50 μ Μォロモーシンの存在(黒丸)または非存在 (白丸)下で示され た。各々 η=15 (*Ρ < 0.04)である。
[0102] 図 7dは、野生型マウス(黒丸)または p35 KOマウス(白丸)から単離された 1個の 13 細胞中の全体の細胞 Ba2+電流を示す。各々 n=18 (*P < 0.05)である。
[0103] 次に、脾臓 β細胞における VDCC力 の Cdk5に依存する Ca2+流入の調節の正確な 機構を調べた。 Ca2+チャネル電流の変化はまだ知られていないが、 Cdk5は-ユーロ ンにおいて P/Q型 Ca2+チャネルの a 1Aサブユニットをリン酸化することが報告されて いる(Tomizawa, K. et al. J. Neurosci. 22, 2590-2597 (2002)) 0プロテインキナーゼ A (PKA)およびプロテインキナーゼ C (PKC)は VDCCの a 1Cサブユニットの心臓性アイ ソフォームの COOHおよび NH末端をリン酸化する (De, Jongh, KS. et al. Biochemist
2
ry 35, 10392-10402. (1996); Gao, T. et al. Neuron 19, 185-196 (1997); McHugh D et al. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A 97, 12334-12338 (2000))。脾臓 j8細胞で、 a 1C サブユニットは主要なカルシウムチャネルであり、インスリン分泌のために必要である(
Schulla, V. et al. EMBO. J. 22, 3844-3854 (2003))。しかしながら、脾臓細胞中の L- VDCCの a 1Cサブユニットの NHおよび COOH末端ドメインに Cdk5が選好するァミノ
2
酸配列は存在しな 、。本発明者らは、サブユニット中の細胞内 Loop (L )が in vit
II-III II-III
roで Cdk5によってリン酸化されることを発見した。 GST-融合マウス L は、 in vitroに
II-III
お!/、て Cdk5の良!/、基質であった(図 8b)。 L の Ser783の部位のアミノ酸配列(SPEK
II-III
)が Cdk5が選好する配列であり、配列は哺乳類とゼブラフィッシュ間で保存されてい るので、 Cdk5が L の Ser783の部位でリン酸化したと推測された(図 8a)。 Ser783が Al
II-III
aへ変わった変異体 L は、 Cdk5に依存するリン酸化が阻止された(図 8b)。 Cdk5が
II-III
脾臓 β細胞で Ser783の部位で L-VDCCの α 1Cサブユニットをリン酸化するかどう力 を示すために、リン酸化 Ser783に対する特異的な抗体を作製し(図 8c)、該抗体を用 いて MIN6細胞におけるリン酸化を調べた。細胞において、 Cdk5インヒビター存在下 でリン酸ィ匕が減少したのに対して、 Ser783の部位はォロモーシン非存在下でリン酸ィ匕 された(図 8d)。 N型および P/Q型 VDCCは 25kDa (SNAP-25)およびシンタキシンの シナブトノームのタンパク質などの開口分泌機構に関係するいくつかのタンパク質と 会合しており、いくつかのタンパク質は-ユーロンにおいて小胞膜タンパク質のシナ プトブレビンとの SNARE複合体を含む(Yokoyama, CT. et al. J. Neurosci. 17, 6929- 6938 (1997)) oシナプスタンパク質の相互作用(synprint)部位は VDCCの細胞内の L
oopII-IlKL )に局在化しており、会合はリン酸ィ匕によって調節される。本発明にお
II-III
いて、 Ser783の部位のリン酸化が in vitroで SNAREタンパク質と SNAP-25とシンタキシ ン laなどとの相互作用に影響した力どうかを調べた。精製したシンタキシンおよび SN AP-25を Cdk5/p35の存在下または非存在下で GST- L と共にインキュベートし、相
II-III
互作用をウェスタンブロット分析によって調べた(図 8e)。 Cdk5/p35および ATPの存 在下で、シンタキシンおよび SNAP-25と L の結合が阻害された(図 8e)。 SNAREタン
II-III
パク質相互作用による L の Cdk5依存性リン酸化の阻害効果は、 MIN6細胞の抽出
II-III
液を用いてさらに確認された。 Cdk5/p35によりリン酸化された GST-L を細胞可溶
II-III
化物と共にインキュベートし、 SNAP-25およびシンタキシンとの相互作用を調べた。 C dk5による L のリン酸化は、 SNAP-25およびシンタキシンとの結合を有意に阻害した
II-III
(図 8e)。これらの結果は、 Cdk5が脾臓 β細胞で L-VDCCの L をリン酸化し、その
II-III
結果、 SNAREタンパク質との相互作用を破壊することを示唆する。
[0104] 図 8は、シンタキシンおよび SNAP-25との相互作用に対する loop ドメインのリン酸
II-III
化の効果を示す。
[0105] 図 8aは、 loop ドメインの保存ドメインを下線(一重および二重)で示した。二重下
II-III
線部は、 Cdk5によってリン酸ィ匕されると思われるモチーフを示す。
[0106] 図 8bに示す検討において、 Ca 1.2 (754a.a.- 900a.a.)由来 loop との GSTコンジュ
V II-III
ゲートまたはセリン 783のァラニンへの変異を含む loop を示された時間 32°Cで Cdk5
II-III
/p35によってリン酸化した。 32P-ATPの取込みをチェレンコフカウント( p.m.)により測 し 7こ。
[0107] 図 8cに示す検討において、野生型 loop または loop のァラニン変異体(S783A)
II-III II-III
を Cdk5/p35により 1時間リン酸ィ匕した。 loop のリン酸ィ匕をリン酸セリン 783に対する
II-III
特異的抗体を用いてウェスタンプロットで測定した。
[0108] 図 8dに示す検討にお!、て、 50 μ Μのォロモーシンで処理されたまたはされて!、な い ΜΙΝ6細胞を溶解した。 Ca 1.2は免疫沈降され、セリン 783のリン酸化はウェスタン
V
プロットで測定した。
[0109] 図 8eに示す検討において、グルタチオンビーズ上に固定化された GST-loop (10
II-III
Opmol)を Cdk5/p35によってリン酸化し、シナタキシン (synataxin)lA (50pmol)または S
NAP-25 (50pmol)と共にインキュベートした。結合したタンパク質は、ウェスタンブロッ トによって検出した。
[0110] 図 8fに示す検討において、リン酸ィ匕または非リン酸ィ匕 GST- loop を、 MIN6溶解液
II- III
力も SNAP-25およびシンタキシンを共沈させるのに用いた。
[0111] ラット脾臓ランゲルノヽンス島からのインスリン分泌に対する Cdk5阻害剤の効果を調 ベた。 MIN6細胞を用いた結果(図 6a)によれば、ォロモーシンは単離したランゲルノヽ ンス島で用量依存的にグルコース刺激インスリン分泌を促進したのに対して、低ダル コースでは、阻害剤は分泌に影響を及ぼさな力つた(図 9a)。最後に、 Cdk5阻害が in vivoでインスリン分泌を促進するかどうかを調べた。腹腔内グルコース負荷試験を、 p 35欠損マウスを用いて行った。 p35欠損マウスのグルコース注入 15分後の血中インス リンレベル(0.56±0.07ng/ml)は、野生型マウスのインスリンレベル(0.34±0.06ng/ml )より高力つた(図 9b)。さらに、 p35欠損マウスは、野生型マウスと比較して、ダルコ一 ス適用後に血糖値の顕著な減少を示した(図 9c)。
[0112] 図 9は、 Cdk5の阻害は、単離したランゲルハンス島および in vivoでインスリン分泌を 促進することを示す。
[0113] 図 9aに示す検討において、単離したランゲルノヽンス島におけるグルコースで刺激さ れたインスリン分泌を、示された濃度のォロモーシンの存在下で調べた。各々 n=6 (*P く 0.05.)である。
[0114] 図 9bは、示された時間測定された野生型マウス(黒丸)および p35_/—マウス(白丸)の 血漿中インスリンレベルを示す。各々 n=6 (*P<0.05.)である。
[0115] 図 9cに示す検討において、腹腔内グルコースチャレンジ (2g/Kg体重)に反応して の血漿グルコースの変化を野生型マウス(黒丸)および p35 KOマウス(白丸)で調べ た。各々 n=6 (*P < 0.05)である。
[0116] 本検討により、脾臓 β細胞においてグルコース刺激で調節される新規なシグナル カスケードが見出された。 Cdk5の阻害により、 in vitroおよび in vivoでグルコース濃度 の上昇に反応して、インスリン分泌が促進された。その効果は、 synprint部位における リン酸ィ匕および SNAREタンパク質との相互作用の調節を通しての L-VDCCの変化に 起因して!/、た。インスリン分泌の Cdk5依存性調節の分子的機構を示したことにカロえ
て、本検討の結果は、 Cdk5が糖尿病に対する新しい治療のターゲットであり得ること を示す。
[0117] 実施例 5
糖尿病モデル KK-Ayマウスにおける血糖降下作用
8週令の雄性 KK-Ayマウス(日本クレア) 32匹を血糖値について群間で差が出ない ように 8匹ずつ群分けし、 CDK5阻害剤であるロスコビチン(LC Laboratories)の血糖 降下作用を検討した。
[0118] ロスコビチンは lmg/kg、 10mg/kg、および 100mg/kgの用量になるように、 0.5%メチノレ セルロース/生理食塩液にて懸濁液を用いて調整し、 1日 1回、 2週間連日皮下投与 を行った。対照群には溶媒のみを投与した。血糖値は実験前日、 3日目、 7日目、 10 日目、 14日目に測定し、血糖測定器 (フリースタイル、二プロ)により測定を行った。
[0119] 図 13に、各群のマウスの経時的な血糖値の変化を、図 14に各群のマウスの経時 的な
体重変化を示す。図 13の縦軸の単位は mg/dL、図 14の縦軸の単位は gである。
[0120] その結果、ロスコビチンの lmg/kgおよび 10mg/kg投与群では明らかな血糖降下作 用は認められな力つた力 100mg/kg投与群において統計学的に有意に血糖値の低 下が起こることが示された。