明 細 書
抗菌性ペプチドおよび該ペプチドを産生する乳酸菌
技術分野
[0001] 本発明は、新規な乳酸菌株と該菌株によって生産される新規な抗菌性ペプチドに 関する。
背景技術
[0002] 乳酸菌が生産する抗菌物質としては、乳酸などの有機酸、過酸化水素、ジァセチ ル等の低分子がすでに知られている。その他、ペプチドからなる抗菌物質 (パクテリ ォシン)の存在も知られており、例えば、ラクトコッカス'ラクテイス(Lactococcus lactis) が生産するナイシン Α ϋ· Am. Chem. So 1971 Sep 8; 93(18): 4634-5)、ナイシン Z ( Eur. J.
Biochem. 1991 Nov 1; 201(3): 581 - 4)などが挙げられている。ナイシンは乳酸菌由来 で、ヒトの消化酵素により分解される、安全性の高い抗菌物質として、欧米を中心に 広く食品保存剤として使用されている。しかし、ナイシンは酸性域では安定である力 中性、アルカリ性域では不安定であるため、食品保存剤として利用できる食品が酸性 、弱酸性のものに限られる。
また医療分野では、抗生物質の多用による多剤耐性菌の出現により、 MRSAや VRE などの弱毒微生物による院内感染症が問題となってレ、る。現在は主にエタノール製 剤での殺菌'消毒が主であるが、高濃度のエタノールは手荒れの原因となり、その部 分からの感染や、付着細菌の伝播が懸念されるため、高濃度のエタノール製剤に代 わる殺菌 ·消毒薬が求められてレ、る。
非特許文献 1 :J. Am. Chem. Soc. 1971 Sep 8; 93(18): 4634-5
非特許文献 2 : Eur. J. Biochem. 1991 Nov 1; 201(3): 581-4
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0003] 本発明の目的は、従来から知られていない抗菌物質を生産し得る新規な乳酸菌を 見出し、中性やアルカリ性領域においても有効な、食品の保存や、殺菌'消毒等に
差替え i¾纖(規則 26)
有用な技術を提供することにある。
[0004] 本発明者は乳酸菌が生産する抗菌物質に着目し研究を重ねた結果、バチルス (Ba cillus)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、リステリア(Listeria)属、ぺディォコッカス( Pediococcus)属、ェンァロコッカス (Enterococcus)属、ラ外コッカス (Lactococcus)属 、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属に属する、食品 劣化の原因微生物に対して抗菌性を有する(すなわち、感受性グラム陽性細菌に対 する阻害活性を有する)物質を生産する新規な乳酸菌株ラタトコッカス'ラクテイス (La ctococcus lactis)を見出し、該抗菌性物質(ペプチド)の精製'同定、一次構造の解 明、および諸性質の解明を行うことにより、本発明を導き出した。
力べして、本発明は、下記のアミノ酸配列(配列番号 1)からなる一次構造を有する 抗菌性ペプチドを提供するものである。なお、 N末端のメチォニンはホルミル化され ている。
[0005] [化 1] 配列番号 1
N末端より n番目のアミノ酸名
[0006] さらに、本発明に従えば、上記の抗菌性ペプチドを生産するラタトコッカス 'ラタティ ス(Lactococcus lactis)新規菌株、すなわち QU 1005菌株(受託番号: MTE BP-23) が提供される。
発明の効果
[0007] 本発明に従えば、食品保存や抗菌'消毒などの目的に有用な抗菌剤の素材として 好適な抗菌性ペプチドが提供される。
図面の簡単な説明
[0008] [図 1]本発明の抗菌性ペプチド (ラタティシン Q)をナイシン Zと比較した pH安定性試 験の結果を示す。
[図 2]本発明の抗菌性ペプチド (ラタティシン Q)をナイシン Zと比較した熱安定性試験 の結果を示す。
[図 3]本発明の抗菌性ペプチド (ラタティシン Q)をナイシン Zと比較したエタノール安 定性試験の結果を示す。
発明を実施するための最良の形態
[0009] 本発明によって得られる抗菌性物質は、熊本県阿蘇巿産のトウモロコシから分離さ れたラタトコッカス 'ラタティス菌株によって生産される新規なペプチド (バタテリオシン )であり、従来知られているナイシンやラタトコッシンなどとは異なるアミノ酸配列から構 成される新しレ、タイプのバクテリオシン類と考えられる。
以下、新規菌株の単離やその特性分析、該菌株からの抗菌性ペプチドの生産や 精製、コードする DNAの配列の決定、および該ペプチドの諸性質の解明などに沿つ て本発明の実施の形態を詳細に説明する。
[0010] (1)乳酸菌の単離方法
乳酸菌の天然野生株を取得するために、様々な食材を分離源として、乳酸菌選択 性の高い MRS培地(OXOID社製)や M17 (MERCK社製)培地、または滅菌蒸留水を 用いて集積培養を行った。集積培養液から分離した菌を用いて抗菌活性を指標とし たスクリーニングを行った。すなわち、 MRS寒天培地にコロニーを増殖させた後、指標 菌となる各種グラム陽性細菌(上記の食品劣化の原因微生物)の培養液を混釈した 軟寒天培地を重層し、至適温度にて培養後、コロニー周辺に形成される指標菌の増 殖阻止円が観察された菌株を単離した。
[0011] (2)分離菌株の性晳分析
スクリーニングの結果、優れた抗菌性を有する菌株を発見した。本菌株は、熊本県 阿蘇巿にて収穫されたトウモロコシから分離されたものである。グラム染色、カタラー ゼ活性試験、運動性試験、細胞の形態観察、糖類発酵性試験、生産乳酸量、生産 乳酸旋光性、グルコースからのガス発生テストについて調査した。菌株の特性は、通 性嫌気性、グラム陽性、カタラーゼ陰性、運動性なし、細胞の形態は楕円双球菌、ホ
モ型発酵性菌であった。また、 49種類の糖類発酵性テスト (APIシステム)を行った結 果、本菌株は表 1に示される糖類発酵性を示した。この結果より、本菌株をラタトコッ カス'ラクテイス(Lactococcus lactis)であると同定し、これを Lactococcus lactis QU 10 05菌株と命名した。本 QU
1005菌株は特許微生物寄託センターに寄託しており、受託番号は NITE BP-23 (原 寄託曰 2004年 9月 15曰)である。
[表 1]
QU 1005菌株の糖類発酵性
16S rDNAシーケンス解析による菌株の同定
現在、微生物の系統分類の指標として最も広く用いられている方法が 16S rRNAを コードする遺伝子の塩基配列(16S rDNA)である。 QU 1005の系統分類学的位置を 明確にするために 16S rRNAをコードする遺伝子の塩基配列(16S rDNA)を決定し、 データベースによる相同性検索を行った。すなわち、 i6S rDNAの約 1.5 kbpのうち上 流部分の約 500bpにつレ、て検討を行った。
QU 1005菌株の培養液より MagExtractor Kit -Genome- (TOYOBO社製)を用いて
全ゲノム DNAを抽出した。これを铸型として配列番号 Aに示すプライマーを用いて、 ポリメラーゼ連鎖反応により単一な増幅断片を得た。その後、増幅断片を pGEM-T cl oning vector (プロメガ社製)にライゲーシヨンし、このライゲーシヨン産物を用いて、ヒ ートショック法により E. coli JM109を形質転換した。形質転換体を LB培地で 8時間培 養後、 MagExtractor- Plasmid (TOYOBO社製)を用レ、、プラスミドを抽出した。このプ ラスミドをシーケンス反応の铸型とした。シーケンス反応には Thermo Sequence fluore scent labeled primer cycle
sequencing kit (フアルマシア社製)を使用した。
結果として、配列番号 Bの塩基配列(ヌクレオチド配歹 IJ)が得られた。配列番号 Bの 塩基配列のデータベースによる相同性検索を行った結果、 Lactococcus lactisと 100% の相同†生を示した。
[0014] [化 2] 配列番号 Λ
8A 5'-AGA-GTT-TGA-TCC-TGG-CTC-AG-3' (20 mer) Tm = 5S.3°C
1510R 5' -ATT ACC GC(C/G) GCT GCT G-3' (16 mer) Tm = 55,2°C
[0015] [化 3]
配列番号 B
Query : QU 1005. Subject : Lactococcus I act is subsp. lactis
I dent i t i es = 540/540 (100%) , Gaps = 0/540 (0%)
Query I GAGCGCTGAAGGTTGGTACTTGTACCAACTGGATGAGCAQCQAACGQGTaAGTAACGCGT 60
Sbjct 35 GAGCGCTGAAG6TT66TACTTQTACCAACTGGATGAGCAGCGAACGGGTGA6TAACGCGT 94
Query 61 GGGGAATCTGCCTTTGAGCGGGGGACAACATTTGGAAACGAATGCTAATACCGCATAAAA 120
Sbjct 95 GGGGAATCTGCCTTTGAGCGGGGGACAACATTTGGAAACGAATGCTAATACCGCATAAAA 154
Query 121 ACTTTAAACACAAGTTTTAAGTTTQAAAGAT6CAATTGCATCACTCAAAGATGATCCCGC 180
Sbjct 155 ACTTTAAACACAAGTTTTAAGTTTGAAAGATGCAATTGCATCACTCAAAGAT6ATCCCQC 214
Quer 181 GTTGTA丌 AGCTAGTTGGTGAGGTAAAGGCTCAGCAAGGGGATGATACATAGCCGACGTG 240
Sbjct 215 GTTGTATTAGCTAGTTGGTGAQGTAAAGGCTCACCAAGGCGATGATACATAGCCGACCTG 274
Query 241 AGAGG6TGATCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGCCCAAACTCCTACQ6GA66CA6CAG 300
Sbjct 275 AGAGGGTGATCGGCCACATTGGGACTGAGACACGGCCCAAACTCCTACGGGAaGCAGCAG 334
Query 301 TAQ6GAATCTTCGGCAATGGACGAAAGTCTGACCGAGCAACGCCGCGTGAGTGAAGAAGG 360
Sbjct 335 TAGGGAATCTTCGGCAAT6GACGAAAGTCTGACCGAGCAACGCCGCGTGAGTGAAGAAGG 394
Query 361 TTTTCGGATCGTAAAACTCTQTTGGTAQAGAA6AACGTTGGTGAGAGTGGAAAQCTCATC 420
Sbjct 395 TTTTC6GATCGTAAAACTCTGTTGGTAGAGAAGAACGTTGQTGAGAGTGGAAAGCTCATC 454
Query 421 AAGTGACGGTAACTACCCAGAAAGGGACGGCTAACTACGTGCCAGCAGCCGCGGTAATAC 480
Sbjct 455 AAGTGACGGTAACTACCCAGAAAGGGACGGCTAACTAC6TQCCAGCA6CC6CG6TAATAC 514
Query 481 GTAGGTCCCGAGCGTTGTGCGGATTTATTGGGCGTAAAGCGAGCGCAGGTGGTTTATTAA 540
Sbjct 515 GTAGGTCCCGAGCQTTGTCCGGATTTATT66GCGTAAAGCGAGCGCAGGT6GTTTATTAA 574
QU 1005とム lactisの 16S rDNA配列比較 (3)抗菌活件試験
QU 1005菌株により抗菌物質が液体培地中に生産されているか検討するため、 MR S液体培地にて 18時間培養後、遠心分離を行って得た培養液上清を回収した。 1M NaOHを用いて pHを 6に調整した後、濾過滅菌したものを試験サンプノレとした。試験 サンプルを 2倍段階希釈し、抗菌活性試験に用いた。指標菌を混釈した軟寒天培地 上に試験サンプルの段階希釈液を 10 μ 1滴下した。抗菌活性は輪郭の明瞭な増殖阻 止円が観察された最大希釈倍率を Xとし、 X X 1000/10 (A.U./ml)として算出した。こ の結果、 QU 1005菌株の培養液上清は表 2に示される抗菌スペクトルを示した。 QU 1005菌株によって生産される抗菌物質 (抗菌性ペプチド)をここではラタティシン Qと
称する。
[0017] [表 2] U 1005菌株培養液上清の抗菌スぺク トル
[0018] (4)抗菌物質の生産および精製方法
分離株 QU 1005菌株を MRS培地にて前培養し、前培養液 8mlを 250mlの MRS培地 に植菌した。 30°Cで 12時間静置培養を行い、 6000rpmで遠心分離後、上清を回収し た。培養液上清(200ml)の指標菌 Bacillus coagulans JCM 2257τに対する活性は、 2. 56 X 106 (A.U./ml)であった。培養液上清に対して 3倍量(600ml)の冷却アセトンを添 加し、 1時間 30°Cで冷却した後、 6000rpmで遠心分離し、抗菌物質を沈殿回収した 。回収した沈殿物を 20mMのリン酸ナトリウムバッファー(pH 5.7) 100mlに再溶解した。
SP-セファロース陽イオン交換樹脂(フアルマシア社製)を 16mlをカラムに充填し、再 溶解したサンプル 100mlを添カ卩し、リン酸ナトリウムバッファーでカラムを平衡化した。 流速 2ml/分で 0.25、 0.5、 0.75, l .OM NaCl含有リン酸ナトリウムバッファー(各 40ml)を 用レ、て段階的に分画溶出した。
それぞれの溶出画分の抗菌活性を測定した結果、最も活性の強かった 0.25M NaC 1溶出画分の活性は 2.05 X 106 (A.U./ml)であった。 0.25M NaCl溶出液(40ml)を逆相 HPLC (カラム:フアルマシア社製 RESOURCE RPC 3ml)に供した。移動相には、 0.1% トリフルォロ酢酸含有 MilliQ水を用レ、、ァセトニトリルの直線的濃度勾配(グラジェント 20〜80%)、流速 lml/分、 1画分あたり lmlで 30分画した。検出器には紫外可視分光 光度計 (波長 220、 280nm)を使用した。 30の分画サンプルの抗菌活性を測定し、活
性の強かった画分を取得した。
このようにして得られた精製後の抗菌物質は表 3に示される抗菌スペクトルを示した 。既知のバクテリオシンであるナイシン Aと比較すると、ラタティシン Qは Enteroocccus 属に対して高レ、抗菌活性 (小さレ、MIC (最小生育阻止濃度)値)が認められた。
[表 3] ラクティシン Qとナイシン Aの抗菌スぺク トルの比較
[0020] (5) ESI-TOF MS分析
上記のようにして精製した抗菌物質について、エレクトロスプレー飛行時間型質量 分析計 (ESI-TOF MS、 日本電子社製)を用いて質量分析を行った。その結果、ラタ ティシン Qは質量 5926の物質であることが明ら力となった。
[0021] (6) N末端アミノ酸配列解析
上記のようにして精製した抗菌物質について、エドマン分解法を利用したアミノ酸シ 一ケンサ一を用い、 N末端のアミノ酸分析を行った。結果として、エドマン分解は進行 せず、アミノ酸の配列を得ることは出来なかった。
[0022] (7)抗菌性ペプチドの臭化シアン処理
上記(6)にてエドマン分解が進行しなかったため、抗菌性ペプチドの N末端のメチ ォニン残基を切断する目的で、臭化シアン処理を行レ、、逆相 HPLCにより再度精製を 行った。精製したペプチドの質量分析を行った結果、 5767の実測値が得られた。臭 化シアン処理前後での質量の差である 159はホルミルメチォニンの質量と一致してい た。この結果より抗菌性ペプチドの N末端はホルミルメチォニンによりブロックされて おり、そのためエドマン分解が進行しなかったことが示された。
また、臭化シアン処理で得られたペプチドの N末端アミノ酸分析を上記と同様の方 法で行った。結果として配列番号 2に示す、ペプチドの N末端より 50のアミノ酸残基が 明らかとなった。得られたアミノ酸配歹 IJから推定される抗菌性ペプチドの質量を算出 した結果、上記(5)の質量と一致しなかったことから、得られたアミノ酸配列が不十分 であることが示唆された。
[化 4]
配列番号 2
[0024] (8)抗菌性ペプチドの構造遺伝子の決定
上記のようにして得られた抗菌性ペプチドのアミノ酸配列の一部より、ディジヱネレ ートプライマーを構築し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により抗菌ペプチドの構造遺 伝子の取得を行った。 QU 1005菌株力 全ゲノム DNAを CTAB法により抽出し、これ を铸型として PCRに用いた。ネステイツド PCR法により単一な増幅断片を得た。
その後、増幅断片を pGEM- T cloning vector (プロメガ社製)にライゲーシヨンし、こ のライゲーシヨン産物を用いて、ヒートショック法により E. coli JM109を形質転換した。 形質転換体を LB培地で 8時間培養後、 MagExtractor-Plasmid (TOYOBO社製)を用 レ、、プラスミドを抽出した。このプラスミドをシーケンス反応の铸型とした。シーケンス 反 i¾、に ίま Thermo Sequence fluorescent labeled primer cycle
sequencing kit (フアルマシア社製)を使用した。
結果として、配列番号 3の塩基配列 (ヌクレオチド配歹 が得られた。得られた塩基 配列を転換して得られるアミノ酸配列は、配列番号 2の 10〜39残基目の配列と一致し ていた。
[0025] [化 5]
配列番号 3
[0026] さらに、ここで得られた塩基配列をもとに新たなプライマーを構築し、抗菌性べプチ ドの C末端部分をコードする塩基配列の取得をアンカー PCR法により行った。すなわ ち、 QU 1005菌株の全ゲノム DNAを制限酵素で消化し、同様に MCS (マルチクロー二 ングサイト)を制限酵素処理した PUC18 cloning vectorにランダムにライゲーシヨンし た。このようにして得られたライゲーシヨン産物を用いてネステイツド PCR法により単一 の増幅断片を得た。得られた PCR増幅断片を上記と同様の方法で、 E. coli JM109に 形質転換し、シーケンス解析を行った。
結果として、配列番号 4の塩基配列が得られた。得られた塩基配列を転換して得ら れるアミノ酸配列は、配列番号 2の 36〜50残基目の配列と一致していた。また、配列 番号 2の 50番目のグリシン残基の後にイソロイシンとリジン残基の存在が確認され、そ の後にストップコドンが確認された。
[0027] [化 6]
[0028] このようにして得られたアミノ酸塩基配列から推定される抗菌物質の分子量の理論 値を算出(配列番号 1の 1残基目のメチォニンをホルミルメチォニンとして算出)したと ころ、 5926となり、この理論値が(5)で得られた実測値と一致したことから、この抗菌 物質が配列番号 1で示される 53アミノ酸残基からなるペプチドであることが明らかとな つた。
[0029] (9)抗菌性ペプチドの諸性質の解明
(抗菌物質の生産および試験用サンプノレの調製方法)
分離株 QU 1005菌株および、ナイシン Z生産菌株をグルコース、酵母エキス、炭酸 カルシウムを含む基本培地にて培養した。培養液を遠心分離後、得られた培養液上 清より、合成吸着剤を用いて、ラタティシン Qおよびナイシン Zを粗精製した。得られた 粗精製サンプルを用いて以下の試験を行った。なお、 HPLC分析において、ナイシン 1ユニット(精製ナイシン 25ng)と同じピークエリアを示す量を各バクテリオシンの 1ュニ ットとした。
[0030] ϋΗ安定性試験
粗精製したラタティシン Qとナイシン Ζを、それぞれ 4200ユニット/ mlとなるように滅菌 蒸留水を用いて調製した。 N/5の塩酸、 N/10の水酸化ナトリウムを用いて pHを 3〜9 に調整したサンプノレを 45°Cで保存し、経時的に残存するラタティシン Qおよびナイシ ン Zの量を HPLCにて分析した。
結果を図 1に示す。図 1中、残存率は、残存率(%) = (n日経過後のバクテリオシン 量/実験開始日(0日目)のバクテリオシン量) X 100として求めたものである。結果と して、 pH7、 pH9において、ナイシン Zは実験開始後 5日目までにほぼ全てが分解され ていたのに対し、ラタティシン Qは、そのような中性およびアルカリ性領域において 47 日経過後でも 5〜8割程度が分解されずに残存していた。
[0031] 熱安定性試験
粗精製したラタティシン Qとナイシン Zを、それぞれ 4200ユニット/ mlとなるように滅菌 蒸留水を用いて調製し、 N/5の塩酸、 N/10の水酸化ナトリウムを用いて pHを 3〜9に 調整した。サンプルを 90°C 30分間、あるいは 110°C 10分間で加熱処理し、加熱処理 後に残存するラタティシン Qおよびナイシン Zの量を HPLCにて分析した。
結果を図 2に示す。図 2中、残存率は、残存率(%) = (加熱処理後のバクテリオシン 量 Z加熱処理前のバクテリオシン量) X 100として求めたものである。結果として、 pH7 、 pH9の中性〜アルカリ性域においてナイシン Zよりも高い熱安定性を示した。
[0032] エタノール安定性試験
ラタティシン Qおよびナイシン Zの粗精製物を 40%、 50%、 60%のエタノール溶液にそ れぞれ 4200ユニット/ mlとなるように添加した。 N/10の水酸化ナトリウムを用いて pH5 に調整した各サンプノレを 45°Cで保存し、経時的に残存するラタティシン Qおよびナイ
シン Zの量を HPLCにて分析した。
結果を図 3に示す。図 3中、残存率は、残存率(%) = (n日経過後のバクテリオシン 量 Z実験開始日(0日目)のバクテリオシン量) X 100として求めたものである。結果と して、ナイシン Zは保存開始 30日後に、すべてのサンプルで残存するナイシン Z量が 10%程度となっているのに対して、ラタティシン Qは 50、 60%エタノール中で 50%程度、 40%のエタノール中では 70%が残存していた。この結果より、ラタティシン Qはナイシン Zに比べ、エタノール中での安定性に優れていることが示された。
[0033] 海外で実際に食品保存料として使用されているナイシンは、酸性では安定であるが 、中性、アルカリ性域では不安定で、分解されやすいという性質を持つ。本発明の抗 菌性ペプチド (ラタティシン Q)は中性、アルカリ性域の安定性に優れているため、そ のような食材の静菌効果が期待できる。また、ラタティシン Qはエタノールでの安定性 にも優れているため、エタノールベースの抗菌剤の素材としても利用が可能である。 そこで、以下に実施例を上げてさらに詳細に説明する力 S、本発明はこれらの実施例 によって限定されるものではない。
実施例 1
[0034] 食品保存件試験 (卵焼きの保存件試験)
弱アルカリ性食材である卵焼きに対するラタティシン Qの静菌効果にっレ、て、ナイシ ン Zとの比較検討を行った。
ラタティシン Qとナイシン Zの粗精製物 (4200ユニット/ mlとなるように滅菌蒸留水で 調製)を使用し、表 4の割合で材料を混合し、卵焼きを作成した。卵焼きを作成後、 25 °Cで 24時間保存し、保存後の一般生菌数を調べた。 (バタテリオシン溶液の添加量 は対卵 1.5%とした。 )
[0035] [表 4] 配合割合 (重量%)
無添カロ ラクティシン Q添加 ナイシン Z添加
卵 100 100 100
水 12.fi 11.1 11.1
1 1 1
でん粉 0.6 0.6 0.S
ラクティシン Q - 1.5
ナイシン Z 一 ― 1.5
結果を表 5に示す。結果としてラタティシン Qを弱アルカリ性食材である卵焼きに添 加した場合、ナイシン Zを添加した場合よりも一般生菌数を 1オーダー程度低く抑える ことができた。
[表 5] 食品保存性試験結果 (一般生菌数:個/ g)
実施例 2
[0037] エタノールベースラタティシン Qの抗菌活性試験
ラタティシン Qの粗精製サンプノレを、終濃度が 200 μ g/mlとなるように 30%のエタノー ルに添加した。 N/5の塩酸を用いて pHを 3.5に調整した。 30%のエタノール溶液、 200 μ g/mlラタティシン Q水溶液をコントロールとして、バイオアツセィにて抗菌活性を評 価した。調製したサンプル 200 μ 1に指標菌の培養液(107CFU/ml)を 20 μ 1添加し、 1 分間接触させた。その後、指標菌と混合したサンプル 100 1を SCDLP培地 (栄研器 材株式会社製) 100 μ ΐと混合し、各指標菌の至適温度にて培養を行った。 24、 48、 72 時間後に指標菌の増殖の有無を目視で確認した。指標菌には大腸菌(Escherichia c oilリ、 色フドウ球 (Staphylococcus epidermidis)、リスアリア (Listeria
innocua) 用レヽた。
結果を表 6に示す。結果として、ラタティシン Qのみを含む水溶液では、指標菌に対 して静菌効果を示さなかったが、ラタティシン Qを 30%エタノールと組み合わせることに より、ブドウ球菌やリステリア菌、さらにはグラム陰性細菌である大腸菌に対しても、 72 時間以上の静菌効果を示した。また、この効果は 30%エタノール単独使用よりも優れ ていた。
ラタティシン Qは Enterococcus属細菌に対する抗菌効果に優れてレ、るため、 VREや MRSAといった院内感染の原因菌に対しても、抗菌効果を示すと考えられ、優れた抗 菌剤の素材として期待できる。
[0038] [表 6]
30%エタノールベースラクティシン Qの抗菌活' 14試験
培養時間 (時間)
大腸菌 ブドウ球菌 リ :スァァ ¾
24 48 72 24 48 72 24 48 72
30% エタノ-ル - - - + + + + + - - + +
ラクティシン Q + + 十 + + + + + + + + + 十 + + + + +
30% エタ ル ラタティシン Q
+;菌の増殖あり、 ·;菌の堉殖無し 産業上の利用可能性
本発明の新菌株およびそれにより生産される抗菌性ペプチドは、食品の保存や殺 菌 '消毒等の目的の抗菌剤の素材として多くの分野において利用することができ、特 に、中性やアルカリ性領域において使用されても有効である。